3分30秒の奇跡。老舗が届ける本格にゅうめん。[和光アネックス/東京都中央区]

江戸時代中期に創業して以来、三輪の手延べそうめんの伝統技法を受け継ぐ奈良県桜井市の老舗『三輪山本』が作る数量限定の即席にゅうめんの「雲丹・帆立 にゅうめん」(左)と「牛肉にゅうめん」(右)。コンロで沸騰させた湯に麺とスープを入れ、3分30秒で完成する。電子レンジ(500W)においても同分秒にて調理可能。

WAKO ANNEX自身でいただくのはもちろん、ギフトにも最適。通で粋な逸品を。

創業300年。1200年余りにも及ぶ手延べの伝統技法。

そう聞くだけで、高い壁と威厳に満ちた印象を持ちますが、その惜しみない努力と歴史の味を『三輪山本』では幅広く提案しています。

その味とは、そうめん。

こだわりのそれは、皇室にも献上されるほど。小麦粉、塩、水、少量の綿実油を使用し、気温や湿度に合わせて配合。熟練のそうめん師の絶妙な加減で寒期に約36時間かけ、細いそうめんに仕上げていきます。

今回、お勧めしたい品は、数量限定の「雲丹・帆立 にゅうめん」と「牛肉にゅうめん」。両者とも味は本格的ながら、即席というのが特徴です。

「雲丹・帆立 にゅうめん」は、雲丹と帆立の身がごろっと入った豪華な海鮮スープがにゅうめんの美味しさを引き立てます。エキスたっぷりの海の旨味は、コシのある麺とも相性が良く、最後の一口まで美味しくいただけます。

「牛肉にゅうめん」の牛肉は、実は自社のお食事処で人気の国産牛肉を使用したもの。ほんのりと生姜が香るコクのあるスープでいただくにゅうめんは、旨味が凝縮され、高級感さえ漂う。

いずれにしても、一度体験すれば、これが即席ということに驚きを隠せないでしょう。

お湯を沸かして、麺とスープを注ぐだけ。最後に付属のネギと七味を添えればでき上がり。3分30秒の奇跡。

長い年月をかけたからこそ創造できた味を限られた人にではなく、より多くの人に、より簡単に届けるのは、老舗たるゆえんと懐の大きさ。

ぜひ、この感動を体験していただきたい。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

即席には似つかないしっかりとした具材の入った「雲丹・帆立 にゅうめん」。にゅうめんのコシと味わいだけでなく、豪華なスープも魅力的な品。

国産牛肉をたっぷりと使用した「牛肉にゅうめん」。牛肉の甘さと生姜のコクと香りがスープにも溶け込み、食べる毎に深みを帯びた味わいを楽しめる。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
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住所:東京都中央区銀座4丁目4-8  MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp

Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
(Supprtted by WAKO)

健やかな朝。体が喜ぶ、豊かなひと塗り。[和光アネックス/東京都中央区]

愛媛県内子町にて、ピクルス、ジャム、オイル漬けを手づくりする『GOOD MORNING FARM』の「ブラッドオレンジシロップ煮」。主になる原料は、地元愛媛産を使用。旬野菜であること、新鮮であること、もちろん美味しいことを大切に、野菜の栽培方法は農家に任せているのも特徴。ゆえに、慣行栽培、有機農法、自然農など、取り扱う野菜の栽培方法は様々。

「農業をもっとお洒落にカッコよく!」をモットーに、地元農家様の栽培する農作物の販路開拓・営業支援・地元農作物のブランド推進などを行う『楽農研究所』の「SOIL TABLE レインボージャム3層」(左)、「SOIL TABLE 神の島レモンシロップ漬け」(右)。

WAKO ANNEX目覚めの一杯もとい、目覚めの一口。

朝起きて食事をする前、コップ一杯の水を飲むと良いと言われています。

理由は、体内の余分なものを排出するデトックス効果と睡眠の間に失われた水分を補うという効果です。

1日の始まりに何を取り入れるか。それは体を目覚めさせる大事な行為なのかもしれません。

そう考えれば、水に限らず、朝食にも気を配りたいところ。そこでお勧めしたいのがジャム。忙しない時間にもちょっとひと塗りするだけで済むのはもちろん、それが国産の果物にこだわったものであれば、より体が喜ぶはず。

まず、貴重な国産ブラッドオレンジのスライスが入ったひと瓶、『GOOD MORNING FARM』の「ブラッドオレンジシロップ煮」。

素材のオレンジは、「タロッコ」という品種。中身は、真っ赤というより、赤とオレンジが、まだらに混ざり合っているのが特徴です。ひかえめな酸味と、コクのある甘みは、パンにひと塗りすれば、極上の朝食になるでしょう。

そのほか、お菓子の材料や紅茶、チーズと合わせても楽しめます。

ちょっと変わった合わせでは、ビールに入れるのも好相性。皮ごと漬けているため、果物の苦味とビールの苦味、そしてシロップの甘みが「別物」として杯が止まらない!?かもしれません。

『楽農研究所』の「SOIL TABLE レインボージャム3層」、「SOIL TABLE 神の島レモンシロップ漬け」もぜひ。

「SOIL TABLE レインボージャム3層」は、その名の通り、いちご、伊予柑、キウイフルーツそれぞれの果肉感をのこしたゴロゴロジャムを敷き詰め3層のジャムに仕上げられています。上から食べていくのも良し、全部をかき混ぜて食べるも良し、愛媛県の果実をギュッと詰めた一瓶になります。

「SOIL TABLE 神の島レモンシロップ漬け」のレモンの産地は、愛媛県今治市の大三島。「日本総鎮守」と称される『大山祇神社』があることから、古くから「御島」と呼ばれ、漁業を忌みし、農耕で生きてきた「神の島」です。聖なる島で大切に育てられた神の島レモンを使用し、『伊勢神宮』に奉納された蜂蜜に漬け込んだシロップ漬けになります。

朝の始まりは、ひと塗りから。ぜひ、3品とともに口福な目覚めを堪能していただければと思います。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
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希少な国産ブラッドオレンジのスライスが入った『GOOD MORNING FARM』の「ブラッドオレンジシロップ煮」。オレンジは、宇和島の柑橘農家「ニノファーム」産を使用。

『楽農研究所』の「SOIL TABLE レインボージャム3層」(手前)、「SOIL TABLE 神の島レモンシロップ漬け」(奥)。「レインボージャム3層」は、各層によって味を楽しめるだけでなく、3層を混ぜることによって抜群の調和を堪能できる。「神の島レモンシロップ漬け」は、皮ごと漬けているため、甘みと苦味のコクと旨味を楽しめる。品の良いシロップの甘さも特徴。

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Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
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果物と野菜の可能性を引き立てる。ノンアルコールだからこそ出せる味。[和光アネックス/東京都中央区]

佐賀県佐賀市『川原食品』(MIFUKAN)の「Yuzu Awa 10% ゆず果汁入り飲料(炭酸ガス入り)」。佐賀県産の柚子と天山の天然水を使用した贅沢なノンアルコールスパークリング。1969年に柚子の自社栽培を開始し、農薬は一切使用せず、水や肥料も与えない自然農法にこだわる。

北海道虻田郡『デリシャスふろむ北海道』の「HAKKO GINGER STANDARD」。有機素材と情熱で造る発酵ヘルシードリンク。名前の由来はもちろん「発酵」だが、「発光」と「8個」(本文参照)という意味も含む。いつまでも若々しく輝き続ける「発光」、7つの有機原材料と作り手の情熱を加えて「8個」の原材料で完成する。

WAKO ANNEX美味しいを超えた共感とは何か? その応えがこの2本にはある。

まるでワインを選ぶように、ジュースなどのノンアルコールも選びたい。いや、こだわりたい。

ひとつは、佐賀に根付いて創業100年の『川原食品』(MIFUKAN)。伝統を守るだけでなく、新たな食の楽しみを創造し、佐賀の美味しいもの作りに努めています。中でも名産の柚子こしょうは、半世紀以上に渡って生産しており、著名なシェフたちからの信頼も厚い。

今回、お勧めしたい「Yuzu Awa 10% ゆず果汁入り飲料(炭酸ガス入り)」においても、都内のラグジュアリーホテルやレストランにも採用され、人気を博している逸品。

ノンアルコールの柚子スパークリングの味わいは、スパークリングワイン風味に仕上げています。和のテイストである佐賀県産自社農園の「柚子」と天山の「天然水」を贅沢に使用。柚子の香りの癒しと白ワイン風の酸味が口の中に広がり、微炭酸の喉越しと上品な甘さがすっきりとした味わいを醸します。

もうひとつは、日本初国産ジンジャービア醸造所「HOKKAIDO GINGER Lab.」を設立した『デリシャスふろむ北海道』の「HAKKO GINGER STANDARD」。

場所は北海道虻田郡、ニセコにて醸造されるそれは、生姜、レモン、唐辛子など、国産原材料(栽培期間中農薬不使用)にこだわり、北海道に自生するエゾヤマザクラの酵母にて発酵。天然の華やかな香り、しっかりとした辛さ、やさしい甘みが特徴のヘルシードリンクです。

「HAKKO」とは「発酵」が由来ですが、実は、「発光」と「8個」の意味も持ちます。若々しく輝く「発光」、ジンジャー、レッドペッパー、レモン、レモンピール、水、野生酵母、糖蜜、そして作り手の情熱の「8個」から成るものこそ、「HAKKO GINGER STANDARD」。

「Yuzu Awa 10% ゆず果汁入り飲料(炭酸ガス入り)」や「HAKKO GINGER STANDARD」の味はもちろん美味しいですが、本当に大切なことはそれ以外に多く含まれているのかもしれません。食材へのこだわり、丁寧な製造、地域への貢献、作り手の哲学……。舌の上では感じることのできない深き背景が共感を呼ぶのかもしれません。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

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ホースハイドレザーウエストバッグ

ホースハイドレザーウエストバッグ

  • 馬革を使った贅沢なレザーバッグ
  • 大きすぎず小さすぎずのちょうど良いサイズ感
  • ウェストバックとしても良し 肩にかけショルダーバッグにしても良し の大きさです
  • 背面側ポケットはファスナー仕様で、チケットなど ちょとした物を入れるのに便利です
  • 各ファスナーには グローブをしたままでも開閉しやすいよう 長めの革タブ付きに
  • ベルト調整部分はダブルリング仕様でかんたんに長さ調節が可能です
  • 開口部が大きいので 使い勝手がとてもよいです

前モデルから若干 仕様変更しました

  • 内側ポケットは ファスナーつきになりました
  • 背面側のダイヤステッチが復活
  • ショルダーストラップ付け根部分の真鍮パーツが復活

1400年前から引き継がれる、もてなしの心。 九州の先端・シブシで料理人が出会う、とっておきの人と美味。[鹿児島県志布志]

志布志市の『東八重製茶』代表・東八重隼氏と一緒に茶畑を見学する、シェフとバイヤーたち。

志布志市食材ツアー海と山の幸に恵まれた豊穣なる場所・志布志

前面には紺碧の水面をたたえる志布志湾、また背後にはなだらかな丘陵が広がって、一年を通して燦々と陽光が降り注ぐ。鹿児島県の東部、大隈半島の付け根に位置する志布志市は、温暖な気候と豊かな自然に恵まれ、さまざまな海と山の幸を抱えた場所です。

「志布志」という少し変わった地名は、およそ1400年前に天智天皇がこの地を訪れた際に、地元の民から贈られた手布を称賛したことに由来します。そう、この街には来訪する者を虜にする自然や美味、人々の笑顔が溢れているのです。今回東京から春の訪れを待つ3月の志布志を訪れた、シェフとバイヤーたち。海風と緑の芽吹きを感じながら、地元の美味や人々との出会いに大いなる感銘を受けたのでした。

志布志湾にて、『加治木水産』のしらす漁の様子。漁船2隻が平行に大きな網を引きながら魚群を追います。

志布志市食材ツアー志布志からはじまった、白イチゴのブーム。

まず志布志の恵みの「華」ともいうべき存在が、イチゴです。志布志は一年を通して晴天が多く日照時間が長いために、フルーツ作りが盛んな土地柄。なかでもイチゴの生産量は、鹿児島県内では志布志がトップなのです。多くの農家で全国に流通する品種「さがほのか」や新品種の「恋みのり」などが栽培されています。そして近年とくに注目を集めているのが、志布志が発祥の希少種「淡雪」。“幻のイチゴ”とも呼ばれる白イチゴで、こちら『農Life いちごの村』の看板商品です。代表の丸野恵美子さん曰く、淡雪は「さがほのか」が突然変異して生まれたそう。完熟しても外見は赤くならず、ピンク色のままといいます。

「これ、すごいですね。見た目は未完熟なのに甘く、熟したイチゴの香りもあります」。東京・六本木のモダン・インディアン・キュイジーヌレストラン『ニルヴァーナ ニューヨーク』シェフの引地翔悟氏は、そう唸ります。桃色のルックスが桜の花を想起させるため、春先のパフェの主役にしたいと、すでにメニューの構想が閃いた様子。

「淡雪のフリーズドライや、それを練り込んだチーズなど加工品もあるので、東京のシェフからの引き合いもありそうです」。青果バイヤーとしてレストランへの卸を担う栗山功氏の脳裏にも、淡雪のさらなる展開がよぎったようです。

実際に『農Life いちごの村』の淡雪は毎年シーズンになると、銀座『和光』でタルトの具材の主役に。「淡雪のタルト」の名前で販売されています。ここ志布志からすでに全国に誇るイチゴブランドが生まれていました。

『農Life いちごの村』の代表の丸野恵美子さん。

手入れの行き届いた『農Life いちごの村』のビニールハウス内を見学するシェフたち。

こちらは『農Life いちごの村』の「さがほのか」。この品種が突然変異したのが、淡雪。

『農Life いちごの村』のビニールハウス内の淡雪。5月までが収穫の盛りです。

淡雪の甘さと香りに感心する青果バイヤーの栗山功氏。

志布志市食材ツアー青空の下ですくすく育つ、目が覚めるような橙のニンジン

次に訪れたのが、『川崎農産』のニンジン畑。工場長・川崎隆央氏から、環境配慮型の減農薬農業について、お話を伺います。

自然を労りつつ、太陽の光を浴びて育てられたニンジンは、色鮮やかな橙(だいだい)に。シェフたちは自分で抜いたニンジンを用水路のせせらぎで洗ったら、そのまま齧り付いています。食の安全のために、ここ『川崎農産』では米の「なつほのか」も含めて自社で責任をもって加工、保管も担っています。

『川崎農産』工場長の川崎隆央氏。

「なるべくおいしそうなものを!」と畝を見ながら、ニンジンを抜くシェフとバイヤー。

愛紅にんじんという品種。「漬物にしても味が濃くておいしい」と川崎氏。

志布志市食材ツアー栽培量では全国第2位。知られざる茶どころ、志布志

昼食は、製茶メーカー『和香園』が営むレストラン『茶音の蔵』へ。ここでは、地元のお茶を使った創作料理のコースと、ティーペアリングを体験します。志布志市の位置する鹿児島県大隅地域は土壌の水はけがよく、また朝晩の寒暖差が大きいために、お茶の栽培に適した場所。なんと、荒茶(茶畑から獲れたままのお茶)の栽培量では静岡県に次ぐ全国第2位です(2020年度調査)。ここ『和香園』は70年以上も製茶業を営み、2021年にはSDGsのためにレインフォレストアライアンス認証も取得しています。

食前酒に提供されたのが、ウーロンブラックティーの炭酸割り。深い苦味とかすかな甘味が、身体に染み渡ります。他にも刺身に旨味を添える、粗挽き緑茶などもあって、新宿のイタリアンレストラン『クラウディア』でマネージャー兼ソムリエを務める浦田直人氏は、このティーペアリングの展開に興味津々です。前菜にほうじ茶、メインの魚に釜炒り茶、デザートに水出し緑茶など。志布志のお茶の奥深さを知れる昼餉となりました。

『和香園』が営むレストラン『茶音の蔵』のまわりにも、茶畑が広がっています。

蔵をリノベーションした店内。話しているのは、『和香園』副社長の堀口崇氏。

牛ももステーキは、ほうじ茶ソースで仕上げています。

ウーロンブラックティーの炭酸割りを楽しむ、『ニルヴァーナ ニューヨーク』のシェフ・引地翔悟氏。

志布志市食材ツアー郷土の英雄から受け継いだ釜炒り紅茶

昼食のあとに訪れたのが、紅茶づくりで強みを発揮する『東八重製茶』。害虫駆除などに難儀しながら、完全無農薬で「べにふうき」を栽培し、緑茶と紅茶を製造します。その看板商品が「武士の紅茶」。香りがいい春摘みの「べにふうき」を、郷土の英雄・五代友厚が残した製法で紅茶にしています。

「この紅茶、独特のうまみと香りがありますよね。細かく粉砕して、バニラアイスの塩分の代わりに使えば、面白いかもしれません」。東京・四ツ谷のフレンチビストロ『MARUGO YOTSUYA』の統括シェフ・竹田志郎氏はいいます。他に、東京・秋葉原『NOHGA HOTEL AKIHABARA TOKYO』の山下晋太エグゼクティブシェフも、同じく調味料としての紅茶の可能性を感じた様子。

次に「志布志市観光特産品協会」へ移動して、市のさまざまな特産品に触れます。そのあとは、志布志湾の絶景を望む『志布志湾大黒リゾートホテル』にて懇親会がとりおこなわれました。そのなかでは、地元食材を使ってシェフが料理を振る舞う場面も。こうして1日目の夜は更けていきます。

『東八重製茶』代表・東八重隼氏。

「武士の紅茶」はホットで入れると、鼻に抜ける甘い香りが際立ちます。

こちらはべにふうきの緑茶。シェフたちは、茶葉をそのまま試食します。

「武士の紅茶」の虜になり、顔を近づけて香りをかぐ『MARUGO YOTSUYA』の統括シェフ・竹田志郎氏。

「志布志市観光特産品協会」での試食会の様子。艶やかな緑色の志布志産スナップエンドウ。

「志布志市観光特産品協会」の施設内にて、市の特産品をたっぷりを味わいました。

こちらは志布志湾に沈む夕日。「絶景!」の一言です。

『志布志湾大黒リゾートホテル』ではホテルの夕食をいただきながら、シェフも志布志の肉や魚介を使って即興で料理を振る舞います。

志布志の特産品の数々。「調味料として使えるから」と、甘酒やイチゴ酢がシェフの注目を集めました。

志布志市食材ツアー光り輝く志布志湾と、海の宝石・シラス

翌朝は早起きして、6時から“志布志湾クルーズ”。毎年3月から解禁になる『加治木水産』のしらす漁を見学します。漁船2隻が平行に大きな網を引きながら、しらすの魚群を追う伝統の猟法は、“ばちあみ漁”と呼ばれるもの。3時間ほど待って網が引き揚げられると、身の透き通ったキラキラのしらすがいました。急いで港へ戻ったら、今度は『加治木水産』の加工場に運んで釜揚げにします。

志布志湾のシラス漁は、4月がピーク。「大きなトラック2台で毎日3回、合計でバケツ40杯ほどのシラスを釜揚げするんですよ」と、副社長の加治木レイ子氏。茹であがったあとに天日干しを経たちりめんは、背が白くて苦味が少なく、旨味が強いのが特徴です。こうして志布志湾の真珠ともいうべきシラスは、全国の食卓に届けられていくのです。

朝の志布志湾。前方の船は“ばちあみ漁”の漁船。

漁船2隻で同時に、引っ張ってきた大きな網を揚げていきます。

海から揚がったばかりのシラス。背が白いために、キラキラの見た目です。

塩のみを加えた釜の湯でふっくらと茹であげていきます。

煙の向こうで、『ニルヴァーナ ニューヨーク』の引地シェフが試食中。

茹で上げたシラスは、すぐに天日干しにします。

できあがったチリメンは選別してパッキングします。

志布志市食材ツアー鹿児島伝統の芋焼酎の可能性を広げる蒸溜所

鹿児島といえば、焼酎は外せません。昨晩の懇親会でも、志布志の人たちは最初から最後まで焼酎を飲んでいました。ここ『若潮酒造』で蒸留される、芋焼酎「志燦蔵」は志布志、いや大隅地域の日常酒です。一方、新たなフラッグシップ「千刻蔵」は画期的な木樽蒸留を採用した芋焼酎で、杉の香りが特徴的。他にも新作として、焼酎の手法を生かしたジンやイチゴスピリッツを発売するなど、『若潮酒造』は薩摩隼人ゆずりのスピード経営。その独創性に、シェフもバイヤーも感心しきりでした。

正面に見えるのは、『若潮酒造』の販売所。

木樽の蒸留施設の前で、『若潮酒造』の吉井健一氏を挟んで記念撮影。

芋焼酎「千亀女」も、『若潮酒造』のフラッグシップです。

志布志市食材ツアー捨てられるものにこそ、価値がある

今回の旅もいよいよ終盤、春を感じさせる温かな日差しを浴びながら、身体にやさしい野菜、果物づくりに努める農家を訪問します。

『Farmers Villa Ume』は、12年前に群馬県から志布志にIターンした梅沢健太氏が営む農家。6月半ばまでは、ピーマンの出荷に大忙しの日々が続きます。減農薬に努めて栽培するピーマンは、肉厚で歯応え抜群。そしてシェフとバイヤーが興味を示したのが、成長しすぎて完熟した赤ピーマン。青いピーマンに比べて需要が薄いために廃棄されることも多いそうですが、独特の酸味に惹かれて、「ペーストやマリネにしたい」との声が続々と上がっていました。

『Farmers Villa Ume』代表の梅沢健太氏。

ピーマンの出荷は、10月〜6月頭が繁忙期。

収穫どきのピーマンを選別しようとする、『NOHGA HOTEL AKIHABARA TOKYO』山下晋太エグゼクティブシェフ。

熟したピーマンは甘味と酸味がアップ。「インドのチャツネにするとおいしいはず」と『ニルヴァーナ ニューヨーク』の引地シェフ。

志布志市食材ツアー初春の陽光を燦々と浴びて、育つ果実

最後に訪れたのが、『ファームランド牧』。こちらでは、土壌の熱水消毒、また微生物を使って発酵させた堆肥を用いることで、化学肥料を使わずにメロンを育てています。苦労しても、なるべく自然農法にこだわるのは、「残留農薬の問題を解決しないといけないから」と代表の牧信一郎氏は言います。

また外観、食味、糖度などに独自の規格を設け、その基準を満たすのは上位5%しかないというのが、オリジナルブランドのメロン「秘蔵っ娘」。そのまるんとしたメロンがビニールハウスで気持ちよさそうに頭を垂れているのを眺めていると、旅の最後にシェフもバイヤーも、それだけで幸せな気分になってしまうのでした。

『ファームランド牧』代表の牧信一郎氏。

日光浴しながら、ハウス内を歩く『クラウディア』マネージャーの浦田直人氏。

『ファームランド牧』のメロン「秘蔵っ娘」。まるっとしたフォルムが愛らしく、見ていると、なんだか朗らかな気分に。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:KOJI OKANO

(supported by 志布志市)

スパイスを使って、地元食材を引き立てる。“カレー”という名の佐賀県郷土料理。[カレーのアキンボ/佐賀県佐賀市]

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古民家を店主自らの手で改装したという『カレーのアキンボ』。表には看板もなく、静かな佇まいでゲストを迎える。

カレーのアキンボ住宅街の古民家で味わう、郷土カレーの世界。

玄界灘の魚介、有明海の海苔や牡蠣、佐賀牛や豊富な野菜。豊かな食材に恵まれた佐賀県では、古くから滋味深く、味わい豊かな郷土料理が育まれてきました。そんな佐賀県の魅力を楽しみたいときに、おすすめのレストランがあります。その名は『カレーのアキンボ』です。

それは文字通りカレーとスパイスの店。もちろんカレーと郷土の味が結びつかない方もいることでしょう。スパイスとは、“たとえ新鮮でない素材でもおいしく味わうため”に発展してきたもの。かつて一粒の胡椒が黄金の価値を持ったのも、内陸部で香辛料の料理が生まれたのも、この実用的な利用価値のためでしょう。つまりスパイス料理の王道であるカレーとは、料理人の技術にのみ依存し、土地柄には関わりがないものだと思われがちです。

そんな先入観を『カレーのアキンボ』は覆します。店は佐賀市の市街地からは15分ほど離れた佐賀大和ICにほど近い、町外れの落ち着いたエリア。

看板も出ていない古民家が舞台です。ここで腕を振るう店主・川岸真人氏に見覚えがある方もいることでしょう。そう、川岸氏はかつて、東京で行列のできるカレー屋を営んでいました。人気絶頂の最中、突如閉店してしまった伝説の店。名は同じく『カレーのアキンボ』でした。

そんな川岸氏が東京を離れ故郷である佐賀に開いたのがこの店。

「東京でやっていた頃から、いつかは故郷で店を開きたいと思っていました」。

その言葉通り、この店こそが川岸氏が目指した夢の結実なのです。

佐賀県出身の店主・川岸真人氏。料理の合間ににこやかに声をかけてくれる、彼の作る料理と同様に穏やかな人柄。

コースのメインディッシュは野菜のカレー。野菜の持ち味が際立つピュアな味わい。柔らかく煮たレンズ豆やピクルスが添えられている。

カレーのアキンボ素材を吟味し、スパイスの力でその魅力を極限まで引き出す技。

完全予約制で、全8品のコースのみ。客席は最大でも4名まで。

ある日の料理は、ヤーコンと唐津のローゼルを鰹節と梅肉で和えた前菜からスタートしました。続く温菜は、芽キャベツと原木しいたけとカブのお椀。パクチーの風味がなければ、割烹で登場しそうな穏やかな味です。さらに葉物の食感と適度な苦味に、焼いたミカンの酸味とスパイスを聞かせた菊芋をあわせたサラダ、スパイスに漬け込んで焼いた鶏もも肉に地元のチーズを合わせた肉料理。どれも素材を活かした優しい味わいです。

コースを味わううちに、きっとスパイス料理への先入観を見直すことでしょう。川岸氏のスパイスは、食材の欠点を隠すためではなく、魅力を引き出すためのもの。そしてその期待に応える、力強い食材の味。とくに野菜は苦味、甘み、香り、食感などどこをとっても上質です。

「野菜はほぼすべては地場産です。野菜は多久の畑に毎週通って採ってくるんですよ」。

地元の素材を厳選し、その魅力を引き出すために少しのスパイスを借りる。それはインド料理の手段で表現された郷土料理です。

「畑に行ったり、港に行ったり、考えてみるといつも佐賀の食材を探しています。それはこの地の食材が、わざわざ予約してカレーを食べに来てくれるお客様を喜ばせてくれるから。それは私の中で揺るがない、佐賀の食材への信頼です」。

川岸氏はそんな考えのもと、素材を活かす引き算のカレーを作ります。

ヤーコンとローゼルを鰹節と梅肉で和えた一皿。爽やかな酸味が、口内をリセットする役割を果たす。

サラダは、スパイスをまぶして焼いた菊芋と焼きミカン。葉物の軽快な食感と苦味がほのかなスパイスの風味やミカンの酸味と響き合う。

ヨーグルトとスパイスに漬けてから香ばしく焼き上げる鶏もも肉。たっぷりとかけられたチーズも、地元佐賀県で作られているもの。

コース終盤の羊のカレーは、基本は東京時代から変わらぬレシピ。しかし「こっちに来てイメージに味が追いついた」という通り、味は進化を続けている。

カレーのアキンボ小さな古民家に流れる穏やかな時間と、再臨する伝説のカレー。

そして次なる料理は、ひと皿のカレー。

「これだけは東京の頃のままのレシピです」。

それは東京で、あの行列のできる店で出されていたカレーです。そして、メインディッシュは野菜のカレーが続きます。ピュアな野菜のおいしさを、カレーという形を通して表現する優しく、まろやかで、滋味深い一皿。その後の締めのデザートまで、コースすべてが佐賀県への愛を感じさせる内容です。

テーブルは川岸氏が立つキッチンのすぐ脇。料理を味わいながら、川岸氏との会話も無理なく楽しめます。もしかするとこれも、川岸氏がここでやりたかったことなのかもしれません。

「美大で油絵を学び、寿司屋に就職し、そこで3年修業を積んだ後、カレー屋として独立しました」。

そんな波乱万丈な川岸氏のストーリーも、この店のスパイス。

8品のコースが終わる頃には、きっと誰もがこの店の料理と、佐賀県の食材の魅力に惚れ込んでいることでしょう。

店主が県内を探し回り集める野菜が料理の根幹。とくに多久の『こがベリー園』は「ここがなければ僕の料理は成り立たない」というほど信頼する生産者。

この日のデザートはリンゴと干し柿をスパイスをきかせたみりんで煮込み、ブラウンチーズを振りかけた一品。最後の一皿まで、店主の熱意が宿る。

住所:佐賀県佐賀市大和町川上475 MAP
電話:080-6426-4170
https://www.facebook.com/カレーのアキンボ-要予約-581742741900758/

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(supported by SUBARU)

スパイスを使って、地元食材を引き立てる。“カレー”という名の佐賀県郷土料理。[カレーのアキンボ/佐賀県佐賀市]

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古民家を店主自らの手で改装したという『カレーのアキンボ』。表には看板もなく、静かな佇まいでゲストを迎える。

カレーのアキンボ住宅街の古民家で味わう、郷土カレーの世界。

玄界灘の魚介、有明海の海苔や牡蠣、佐賀牛や豊富な野菜。豊かな食材に恵まれた佐賀県では、古くから滋味深く、味わい豊かな郷土料理が育まれてきました。そんな佐賀県の魅力を楽しみたいときに、おすすめのレストランがあります。その名は『カレーのアキンボ』です。

それは文字通りカレーとスパイスの店。もちろんカレーと郷土の味が結びつかない方もいることでしょう。スパイスとは、“たとえ新鮮でない素材でもおいしく味わうため”に発展してきたもの。かつて一粒の胡椒が黄金の価値を持ったのも、内陸部で香辛料の料理が生まれたのも、この実用的な利用価値のためでしょう。つまりスパイス料理の王道であるカレーとは、料理人の技術にのみ依存し、土地柄には関わりがないものだと思われがちです。

そんな先入観を『カレーのアキンボ』は覆します。店は佐賀市の市街地からは15分ほど離れた佐賀大和ICにほど近い、町外れの落ち着いたエリア。

看板も出ていない古民家が舞台です。ここで腕を振るう店主・川岸真人氏に見覚えがある方もいることでしょう。そう、川岸氏はかつて、東京で行列のできるカレー屋を営んでいました。人気絶頂の最中、突如閉店してしまった伝説の店。名は同じく『カレーのアキンボ』でした。

そんな川岸氏が東京を離れ故郷である佐賀に開いたのがこの店。

「東京でやっていた頃から、いつかは故郷で店を開きたいと思っていました」。

その言葉通り、この店こそが川岸氏が目指した夢の結実なのです。

佐賀県出身の店主・川岸真人氏。料理の合間ににこやかに声をかけてくれる、彼の作る料理と同様に穏やかな人柄。

コースのメインディッシュは野菜のカレー。野菜の持ち味が際立つピュアな味わい。柔らかく煮たレンズ豆やピクルスが添えられている。

カレーのアキンボ素材を吟味し、スパイスの力でその魅力を極限まで引き出す技。

完全予約制で、全8品のコースのみ。客席は最大でも4名まで。

ある日の料理は、ヤーコンと唐津のローゼルを鰹節と梅肉で和えた前菜からスタートしました。続く温菜は、芽キャベツと原木しいたけとカブのお椀。パクチーの風味がなければ、割烹で登場しそうな穏やかな味です。さらに葉物の食感と適度な苦味に、焼いたミカンの酸味とスパイスを聞かせた菊芋をあわせたサラダ、スパイスに漬け込んで焼いた鶏もも肉に地元のチーズを合わせた肉料理。どれも素材を活かした優しい味わいです。

コースを味わううちに、きっとスパイス料理への先入観を見直すことでしょう。川岸氏のスパイスは、食材の欠点を隠すためではなく、魅力を引き出すためのもの。そしてその期待に応える、力強い食材の味。とくに野菜は苦味、甘み、香り、食感などどこをとっても上質です。

「野菜はほぼすべては地場産です。野菜は多久の畑に毎週通って採ってくるんですよ」。

地元の素材を厳選し、その魅力を引き出すために少しのスパイスを借りる。それはインド料理の手段で表現された郷土料理です。

「畑に行ったり、港に行ったり、考えてみるといつも佐賀の食材を探しています。それはこの地の食材が、わざわざ予約してカレーを食べに来てくれるお客様を喜ばせてくれるから。それは私の中で揺るがない、佐賀の食材への信頼です」。

川岸氏はそんな考えのもと、素材を活かす引き算のカレーを作ります。

ヤーコンとローゼルを鰹節と梅肉で和えた一皿。爽やかな酸味が、口内をリセットする役割を果たす。

サラダは、スパイスをまぶして焼いた菊芋と焼きミカン。葉物の軽快な食感と苦味がほのかなスパイスの風味やミカンの酸味と響き合う。

ヨーグルトとスパイスに漬けてから香ばしく焼き上げる鶏もも肉。たっぷりとかけられたチーズも、地元佐賀県で作られているもの。

コース終盤の羊のカレーは、基本は東京時代から変わらぬレシピ。しかし「こっちに来てイメージに味が追いついた」という通り、味は進化を続けている。

カレーのアキンボ小さな古民家に流れる穏やかな時間と、再臨する伝説のカレー。

そして次なる料理は、ひと皿のカレー。

「これだけは東京の頃のままのレシピです」。

それは東京で、あの行列のできる店で出されていたカレーです。そして、メインディッシュは野菜のカレーが続きます。ピュアな野菜のおいしさを、カレーという形を通して表現する優しく、まろやかで、滋味深い一皿。その後の締めのデザートまで、コースすべてが佐賀県への愛を感じさせる内容です。

テーブルは川岸氏が立つキッチンのすぐ脇。料理を味わいながら、川岸氏との会話も無理なく楽しめます。もしかするとこれも、川岸氏がここでやりたかったことなのかもしれません。

「美大で油絵を学び、寿司屋に就職し、そこで3年修業を積んだ後、カレー屋として独立しました」。

そんな波乱万丈な川岸氏のストーリーも、この店のスパイス。

8品のコースが終わる頃には、きっと誰もがこの店の料理と、佐賀県の食材の魅力に惚れ込んでいることでしょう。

店主が県内を探し回り集める野菜が料理の根幹。とくに多久の『こがベリー園』は「ここがなければ僕の料理は成り立たない」というほど信頼する生産者。

この日のデザートはリンゴと干し柿をスパイスをきかせたみりんで煮込み、ブラウンチーズを振りかけた一品。最後の一皿まで、店主の熱意が宿る。

住所:佐賀県佐賀市大和町川上475 MAP
電話:080-6426-4170
https://www.facebook.com/カレーのアキンボ-要予約-581742741900758/

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贅を尽くした空間が、穏やかな時間を生み出す。日本を代表する銘酒・鍋島の世界観を伝える宿。[御宿 富久千代/佐賀県鹿島市]

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『御宿 富久千代』の舞台は200年以上の歴史を刻んできた伝統的建造物。その重厚な屋根の下で眠ること自体が希少で贅沢な体験だ。

御宿 富久千代歴史的建造物をリノベーションしたラグジュアリーな酒蔵オーベルジュ。

旅における宿は、ただ体を休める場所ではありません。荷物を下ろし、服を着替え、リラックスした時間を過ごす。それは旅人が、もっともその地域に近づける時間です。

そんな時間を楽しむための宿が、2021年にオープンしました。その一日一組限定の宿の名は『御宿 富久千代』。かの銘酒「鍋島」で知られる富久千代酒造が手掛け、宿泊を通して銘酒の世界観に触れられる酒蔵オーベルジュです。

佐賀県鹿島市浜町、通称“酒蔵通り”。重厚な古民家が立ち並ぶ、歴史ある街の中に『御宿 富久千代』はあります。こんな素晴らしい街の中に宿泊できるという事実に、まず非日常感が湧き上がることでしょう。

その外観は、茅葺きの重厚な歴史的建造物。扉を開くと、予想以上にラグジュアリーな空間が広がります。リビング、2箇所の寝室、オーディオルーム、茶室などを備えた広々とした造りで、少人数で使用するのが惜しいほど。イタリア製のソファやチェアが10以上もあり、どこに腰を落ち着けるか悩んでしまうかもしれません。そして最奥にあるダイニング。木目の美しい一枚板のカウンター。棚の中のバカラやガレやラリックの酒器は、飾るためではなく、実際に使用するものです。

一言で言えば、豪華絢爛、贅を尽くしたきらびやかな内装。しかし、この時代を経た建物と豪華な内装は不思議に調和しています。ただ高級なものを詰め込んだようなちぐはぐさがなく、在るべきところに在るような落ち着きが感じられるのです。

注意して室内を見回してみると、その理由が見つかります。レセプションのカウンターは、酒を搾るために使われた木製の槽(ふね)。天井は茅葺き屋根が裏側から見えるように、わざわざスケルトンに。柱や梁は長い時間を積み重ねた傷が残されています。

「江戸時代の建築当初は酒蔵、それから味噌や醤油の蔵に、それから民家として使われていました。でも最後は、本当に荒れ放題の廃墟」。

代表の飯盛理絵氏にはそう言って、スマートフォンで撮影したリノベーション前の状態を見せてくれました。それは本当に廃墟としか言いようがない荒れた建物でした。

「鍋島は地元に支えられて続いてきたお酒。だから恩返しとして、この宿を通して再びこの街が発展してほしい」と理絵氏。

豪華な内装は、ただ見た目良く取り繕ったのではないのです。きっとこの建物の設計者は、この建物の歴史や重厚感に似合う家具や建具こそこれらだと確信した上で、選択したのでしょう。つまり根底にあるのは、この街、この古い建物への敬意。それに気づくと、さらにこの宿の居心地が良くなることでしょう。

佐賀県鹿島市肥前浜宿にある通称・酒蔵通りは江戸時代から酒や醤油などの醸造業で発展した街。重厚で美しい白壁の建築が立ち並ぶ。

酒蔵通りの中でもひときわ目を引く重厚な建築が『御宿 富久千代』。茅葺きの屋根をはじめとした外観は、ほぼ元の姿のままリノベーションされた。

たっぷりと空間を使った上がり框と奥のリビング。柱や梁などは元の意匠を残しつつ、快適に滞在できる姿に生まれ変わっている。

センスよく集められた画集や古書、重厚感あるイタリア製の家具などが、室内各所にごく自然に配されている。

リビング上部の天井はスケルトン仕様。防寒や清潔さを確保しながら茅葺屋根の裏側を仰ぎ見ることができる細やかな配慮。

バング&オルフセンのスピーカーが四方に配されたオーディオルーム。酒とともに極上の音楽に浸れるおすすめの空間だ。

窓の外には枯山水の庭。窓から臨むと陰影により美しさが際立つのは、日差しまで計算し尽くした設計の賜物なのだろう。

御宿 富久千代貴重な蔵見学を通して感じる銘酒・鍋島のおいしさの理由。

「ここは“鍋島”というお酒の世界観を体験してもらうための宿なんです」。

理絵氏はそうも言いました。それは古いものを大切にしながら、新たな上質を積み重ねること。そして、そんな価値観が守られるこの地で、自然体に過ごすこと。

富久千代酒造は普段は酒蔵を公開していませんが、ここの宿泊者限定で蔵見学も実施していると言います。案内人は鍋島人気の仕掛け人たる飯盛直喜氏。

そこでは直喜氏の酒米や酒づくり、鍋島の歴史の話を聞きながら、試飲が可能。酒蔵直営の宿だけの特権です。少年のような真っ直ぐな想いと、頑なな杜氏の実直さを併せ持つような直喜氏は自ら手掛ける酒を雄弁に語ります。「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」の日本酒部門最優秀賞、文字通り世界一の酒に選ばれた鍋島の、人気の秘密が見えてきます。

「わざわざ訪ねてきてくれた方に、鍋島のファンになってもらいたい」。

直喜氏はそう笑いました。

銘酒・鍋島が生まれて23年。その仕掛け人として走り続ける飯盛直樹氏の話は、ただの酒造り以上の示唆に富み、興味を惹く。

磨き、製法、原料、季節。さまざまな種類がある銘酒・鍋島だが、そのすべてにフレッシュで奥深いおいしさという“鍋島らしさ”は共通している。

卓上に用意されている小グラスや巾着には鍋島のロゴ入り。ほかでは手に入れることのできない、貴重な旅の記念品。

御宿 富久千代貴重な蔵見学を通して感じる銘酒・鍋島のおいしさの理由。

試飲の後は、夕食の時間。そう、ここはオーベルジュ。食事は滞在中の一大イベントです。カウンターには若き料理長・西村卓馬氏が立ちます。

「どこに行っても気に入られて、可愛がられちゃうの」。

理絵氏に料理長について尋ねると、まるで自分の息子を自慢するように笑って言いました。「東京の三ツ星店で腕を磨いた人物、若いけど腕は本物」とも。

そんな言葉通り、西村氏はどんなことにも全力でぶつかっていくような、知らないことは何でも貪欲に学んでいくような、真っすぐで気持ちの良い人物。好奇心にあふれる目がいつも少し微笑んでいて、見ている方もつられて笑顔になります。

「チェックインでお客様とお会いしてから夕食の時間まで、お客様についてイメージを膨らませる時間がたっぷりあります。そこでひとりひとりに合わせた作戦を練るんです」。

西村氏は言います。それはレストランではなく、オーベルジュであることの最大の利点。だから当然、満足度は高くなります。この日の料理は、有明海のワタリガニ・竹崎ガニの飯蒸し、蒸し鮑の茶碗蒸し、唐津の鯛と雲丹のお造り、対馬の穴子とふきのとうの揚げ物……。毎日3時間以上かけて集めて回った地元食材を使った全力投球の料理です。

「全部おいしいものを出したいんです」。

西村氏はそう笑います。ときに老練な料理人は、緩急をつけて主役を際立たせる構成にすることもありますが、西村氏の料理はすべてが全力。そしてその料理が、フレッシュ感が持ち味の鍋島と見事に噛み合うのです。
 
心地よい満腹感に満たされて部屋に戻れば、室内のワインセラーには希少な鍋島が並んでいます。もう少し飲むのも、オーディオルームでくつろぐのも、風呂に入って休むのも自由。どの選択をしようとも、きっと他に替えがたいくつろぎの時間が待っていることでしょう。

ダイニングの特等席はどっしりとしたカウンター。正統派日本料理と鍋島とのペアリングは、夢心地のひとときを演出してくれる。

若き料理長・西村卓馬氏は神楽坂『石かわ』で6年に渡り腕を磨いた人物。爽やかで快活な若者だが、その実力は折り紙つき。

ある日のコースの一例、有明海のワタリガニ・竹崎ガニと宮崎のキャビアを合わせた飯蒸し。無論、鍋島との相性は抜群だ。

トラフグの白子のすり流しを合わせた蒸し鮑の茶碗蒸し。最高の食材を吟味し、全力投球で直感的なおいしさを生み出すのが西村氏の流儀。

トラフグの白子のすり流しを合わせた蒸し鮑の茶碗蒸し。最高の食材を吟味し、全力投球で直感的なおいしさを生み出すのが西村氏の流儀。

料理長が惚れ込んだ対馬の穴子とふきのとうの揚げ物。全11〜12品のコースは、どれもが主役級の存在感を放っている。

住所:佐賀県鹿島市浜町乙2420-1 MAP
電話:0954-60-4668
https://fukuchiyo.com/

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一杯のお茶のために旅をする。嬉野で見つけた、茶の奥深さを伝える野外茶事体験。[Tea tourism/佐賀県嬉野市]

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『Tea tourism』の舞台は、嬉野市の茶畑の中に作られたオープンエアの茶室。ここで生産者自らが淹れるお茶を味わうのが体験の骨子。

Tea tourism茶畑の中の屋外茶室で、生産者自らが、自身のお茶を伝え、淹れる希少な体験。

茶葉は独特の丸みを帯びた形状で、味は旨味と香りが強い嬉野茶。その名の通り佐賀県嬉野市を中心に栽培される茶の呼称。そんな嬉野茶を楽しみ方として「Tea tourism」なる体験があるといいます。

それは『嬉野茶時』という団体が主催するそのセレモニーは、お茶の生産者が白い衣装に身を包み、自らお茶を淹れて客をもてなす体験。その舞台は茶畑のなかに作られたオープンエアの茶室。今回はそんな体験の魅力を紐解いてみましょう。

「Tea tourism」の舞台のひとつである「茶塔」という場所は、嬉野市街から20分ほど離れた山中。一面見渡す限り茶畑が広がるエリアの一角。一面緑の茶畑のなかに建てられた木製の高台は、茶畑の中で異質な存在のようで、まるで最初からそこにあったかのように馴染んでもいます。きっとさまざまなことを考えた上で、この場所、この形が選ばれたのでしょう。

この日の茶空間体験を担当した生産者は『永尾豊裕園』の永尾裕也氏。茶塔には白い傘の下、座布団とお膳が準備されています。オープンエアで生産者が淹れるお茶を愉しむ。その言葉から想起されるよりも、ずっと上質な設えがゲストを出迎えます。

セレモニーの構成は三茶二菓、つまり3杯のお茶と2つの菓子。この日の一杯目は和紅茶。永尾氏が丹精込めて育てた茶葉を発酵させ、金木犀の香りを加えた紅茶は、渋み、苦味がないまろやかな味わいと、ふわりと広がる香りが印象的。合わせるお菓子も地元のパティスリーで作られたもので、粉末状にした抹茶には永尾氏の茶葉が使われているとか。同じ土地から採れた茶葉同士、相性は抜群です。

さらに永尾氏のよどみない話も興味を惹きつけます。この地の茶の歴史や生産者の想いを交えながら、押し付けではない知識を伝えるのは、生産者だから可能なことでしょう。

次なる緑茶は、永尾氏の前に5つ並んだ磁器で湯を適温まで冷まして、じっくりと抽出された。出汁のような旨味とやさしい甘みが広がります。お茶とはこれほどにも深い味だったのか。そんな思いが湧き上がります。

もちろんこのおいしさには、この環境も重要な役割を果たしているのでしょう。一面の茶畑を眺めながら、その地で採れたお茶を味わう。それはたとえば米農家が畑で握り飯を食べるような、漁師が船上で穫れたての魚を食べるような、限られた人にだけ許された贅沢。それはお茶を飲む、という一元的な行為ではなく、体全体で享受する豊かな体験です。

湯の温度、水質、茶葉の量、タイミング。すべてを計算することで、お茶の旨味と香りが引き出される。それは従来のイメージを覆す極上のおいしさだ。

会場となる茶塔があるのは、嬉野市の山中、一面に広がる茶畑の中。見渡す限りの茶畑が、一杯のお茶にさらなる付加価値を加えてくれる。

茶塔は2mほどの木製の高台。壁も天井もない茶室は、景色、空気、香り、音など、茶畑の雰囲気ををそのまま伝えてくれる。

白い衣装に身を包み、お茶をサーブする生産者。お茶を知り尽くしたプロの技が、その実感の籠もった言葉とともに伝えられる。

嬉野市内のパティスリーで作られる茶菓子も楽しみのひとつ。お茶との相性を研究し、互いに引き立て合う味わいに仕上げられている。写真は抹茶のティラミス。

『永尾豊裕園』の永尾裕也氏がお茶の世界をナビゲート。お茶の生産者ではあるが、その語り口や所作からは確かなプロフェッショナリズムを感じる。

Tea tourism身近なお茶を通して感じる非日常と、お茶が伝える旅の新たな価値。

Tea tourismはこの茶塔のほか、別の2箇所でも体験できるのだとか。そのひとつ「天茶台」ではまた違った趣の時間が楽しめます。『きたの茶園』の北野秀一氏の案内でその魅力を探ってみましょう。

セレモニーの内容は茶塔と同じで、1時間ほど時間をかけて3種のお茶と2種の菓子を楽しむもの。しかしそのロケーションが大きく異なります。一面がフラットな茶畑だった茶塔に対し、この天茶台は段になった茶畑の向こうに市街地を遠望。遠くに望む町並みは興ざめになるどころか、かえってこの地の緑の濃さを際立てます。

無論、ここでも出されるのは、北野氏自身が育てたお茶。30年以上前、先代の頃から取り組んでいるという無農薬有機栽培のお茶は、浅炒りの焙じ茶でも、旨味の濃い緑茶でも、その澄んだおいしさが際立ちます。

茶畑を前に、地元生産者の話を聞きながら、そのお茶を味わう。その臨場感や希少性と、身近なお茶を通すことでかえって浮き彫りになる非日常感。それはお茶文化の奥深さとともに、旅の愉しさも再確認させてくれる時間です。

特産を味わい、名所を訪れるだけが旅ではない。

一杯のお茶のために旅をする。そんな贅沢こそが、日本各地の魅力をいっそう深く伝えてくれるのでしょう。そして日本にはきっと、まだ見ぬ旅の楽しみが無数に眠っているのでしょう。
 

天茶台でのもうひとつの体験。この日は『きたの茶園』の北野秀一氏が担当し、お茶の魅力を伝えてくれた。

抹茶のモンブランは、お茶と一緒にいただくことでいっそう風味が引き立つ。この菓子のセレクトも、お茶のエキスパートならでは。

精密に茶葉の量を計るために上皿天秤を使用。この細やかな配慮が、嬉野茶本来のまろやかで甘みあるおいしさを引き出す。

丁寧に、かつ迅速に。繰り返しお茶を淹れてきた生産者だからこその技術と、自身のお茶に対する愛情がおいしさの決め手。

天茶台から遠くに見渡すのは嬉野の市街地。温泉地として賑わう嬉野も、遠目で見るとコンパクトに見える。

手入れの行き届いた茶畑は、生産者の情熱の証。収穫の時期ではなくとも、その匂い立つような美しい眺めは、日本のお茶文化の大切さを教えてくれる。

https://www.tea-tourism.com/

https://nagaohoyuen.com/

https://kitanochaen.com/

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「傳」長谷川在祐、アジアNo.1に輝く。2022年「アジアのベストレストラン50」の歓喜。[ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS 2022/東京]

大活躍を見せた日本のシェフの面々。左より、『ヴィラ・アイーダ』小林シェフ、『ラ・メゾン・ドゥ・ナチュール・ゴウ』福山シェフ、『フロリレージュ』川手シェフ、『傳』長谷川シェフ、『チェンチ』坂本シェフ、『ラ・シーム』高田シェフ、『エテ』庄司シェフ、『セザン』ダニエルシェフ、『オード』生井シェフ。

アジアのベストレストラン50 202211店舗がランクイン。地方のレストランも快挙。

2022年3月、『アジアのベストレストラン50』のランキングが発表されました。

その形態は、今なお続くコロナ禍を配慮し、バンコク、マカオ、東京の3都市にて同時生中継。会場を熱狂させた最大のトピックは、日本にアジアNo.1 の座をもたらした『傳』。

今回、日本は11店舗がランクイン。中でも、「Hight Climber Award」や「Highest New Entry Award」、「New Entry」、「Asia’s Best Female Chef Award」など、ダブル受賞したレストランの活躍も注目すべき点です。

No.1 東京『』長谷川在有
No.3 東京『フロリレージュ』川手寛康
No.6 大阪『ラ・シーム』高田裕介
No.11 東京『茶禅華』川田智也
No.13 東京『オード』生井祐介(Hight Climber Award)
No.14 和歌山『ヴィラ・アイーダ』小林寛司(Highest New Entry Award)
No.15 東京『ナリサワ』成澤由浩
No.17 東京『セザン』ダニエル・カルバート(New Entry)
No.36 福岡『ラ・メゾン・ドゥ・ナチュール・ゴウ』福山 剛
No.42 東京『エテ』庄司夏子(Asia’s Best Female Chef Award)
No.43 京都『チェンチ』坂本 健(New Entry)
※全てのランキングは、公式ホームページよりご覧ください。

上記に加え、No.71には東京『レフェルベソンス』、No.78には東京『鮨さいとう』の2店舗が並びます。

今大会では、多くの「涙」が印象的でした。その涙は、自分の喜びではなく、仲間への賞賛。シェフからの支持が厚い『ヴィラ・アイーダ』のランキングがコールされた瞬間がそれを物語っています。

和歌山という地域で国内外から評価されるための苦労は計り知れません。

長く続くコロナ禍による緊急事態宣言、まん延防止処置、不要不急の外出、時短営業……。

「何度も辞めようと思う時もありましたが、その都度、シェフたちの励ましによって救われました」と小林シェフは話します。

No.14という順位に加え、「Highest New Entry Award」も受賞。ベテランと呼ぶに値する小林シェフへの「New」に当人は照れ笑いしますが、これまで歩んできたものが間違っていなかったことへの立証にもつながったのではないでしょうか。

シェフたちは、「見たかアジア! これが日本の小林寛司だ!」と言わんばかりの拍手喝采。皆、涙が止まりませんでした。

また、『ラ・シーム』、『ラ・メゾン・ドゥ・ナチュール・ゴウ』、『チェンチ』の貢献も特筆すべきランキング。『ヴィラ・アイーダ』同様、「レストランは旅の目的地になる」ことの定義付けにもなりました。

そして、見事1位に輝いた『傳』。天を仰ぐ長谷川シェフに駆け寄ったのは、『フロリレージュ』の川手シェフでした。ふたりは、共同経営する『デンクシフロリ』を2020年に開業。互いを「相方」と呼ぶ運命共同体の仲でもあります。

そんな両人が抱き合う姿もまた、感慨深いシーンとなりました。

「長谷川シェフにしか獲れなかった。長谷川シェフだから獲れた」と、相方を讃える川手シェフの目にも涙。

「1位は、純粋に嬉しい。ですが、複雑な気持ちもたくさんあります。本当に苦しかった。レストランは、生産者やスタッフ、お客様によって支えられています。改めて、感謝の気持ちを忘れずに、皆様に恩返ししていきたいです」と話す長谷川シェフの目にも涙。言葉に発したものは実にシンプルながら、込み上げてくる想いを行間に押し殺します。

それぞれ内容は違えど、長谷川シェフの言う「複雑な想い」は、今回、受賞したシェフ全員が抱いていると推測します。しかし、仲間を賞賛する歓喜がそれを凌駕したのかもしれません。

こらえていた涙がこぼれ落ちる『傳』長谷川シェフ。あらゆるタイトルを総なめにしてきたが、初めてアジアNo.1を手にした。

『ヴィラ・アイーダ』のコールの瞬間。小林シェフ(中央)よりも前に『傳』長谷川シェフ(手前)が我先にと立ち上がり、「おぉ!寛司さん、おめでとうございます!」と興奮。会場は大いに湧いた。

アジアのベストレストラン50 2022私的分析。別の角度から見た「アジアのベストレストラン50」論。

まず、このアワードは、アジア全域の20を超える国と地域のシェフ、ジャーナリスト、フーディの投票者によってランキングされます。その名は、明かされていません。

各人、持ち票は10票。一年半以内に訪れたレストランであれば自由に投票できるも、今回はコロナ禍によって渡航が困難だったため、居住国からは6票、他国からは4票だった数を2票に改定し、計8票に。

国内に特化されているため、インバウンドのゲストが多いレストランは、票を落とす可能性があり、逆に母国や地元に愛されているレストランは票を上げる可能性があります。加えて、この難局においても「予約が取れない」レストランは、物理的に投票者が伺えないため、実力=結果とはなりません。

日本における例では、2021年No.91から2022年No.43に初ランクインした『チェンチ』は、地元や国内、業界からのファンも多く、母国主体の投票スタイルは追い風になったのかもしれません。

一方、海外に目を向けた場合、『アジアのベストレストラン50』らしい!?発見も。No.46のバンコク・タイの『ラーン・ジェイ・ファイ』は、「超」が付くほどのローカル店かつ屋台スタイル。御年70を超えるジェイ・ファイシェフの熱気溢れる料理とライブな空間は、常に賑わいを見せています。

ランキングに目を戻せば、No.45に台中・台湾の『ジェーエル・スタジオ』、No.47にマカオ・中国の『ウィンレイ・パレス』が並びます。つまり、レストラン、屋台、ホテルという混沌の並びが成立してしまうのがこのアワードの特徴。

これは、星やトックの数で区分するガイドでは可視化できず、賛否はあるも、ランキング形式だからこそ生まれる『アジアのベストレストラン50』らしさ。並んだ順位は「隣の顔」を可視化し、その発見が大会の個性にもつながっています。

しかし、ランキングだからこそ素朴な疑問も浮かびます。もし同票だったら? それは、「投票の仕方」が影響するのかもしれません。

各人の投票は、順位を付けて行われているそうです。任意ではありますが、なぜ推奨するのかなどの理由も明記できると聞きます。投票者にとって1位の1票なのか、2位の1票なのか。同票の場合、優先順位の高い票数を集めたレストランが上位になるのかもしれません。ゆえに、順位においても僅差が生じているとも推測します。(「かも」や「推測」と明記している理由は、絶対ではないためです)

また、ランキング発表前に行われるトークセッションにおいては、ショービジネス色の強い『アジアのベストレストラン50』とは一変。社会性を追求します。

今回のテーマは、「サスティナビリティ」と「クリエイティビティ」。

「サスティナビリティ」テーマに登壇した『フロリレージュ』の川手寛康シェフは、「レストランやシェフにとって、どうSDGsや循環型の社会に関われるかは、利己主義ではなく利他主義になることが必要だと思います。自分以外の誰かにとって、どう向き合えるか。それが自分にとっては、生産者であり、食材であり、もちろんお客様。自分のレストランは、『ヴィラ・アイーダ』のような地方にはありませんし、目の前に畑がある環境でもない。自然と共存しているようなアピールはなく、当然、小林シェフのようにはなれない。しかし、東京だからこそやれること、発信できることはあると思っています」と話します。

この「サスティナビリティ」は、コロナ禍以前の2019年のトークセッションテーマにもなっており、「ヴァイタル・イングリーディエント(必要不可欠な食材)」においてもディスカッション。当時より環境問題についての関心の高さが伺えるも、本大会におけるそれを知る人は少ない。

「特別な食材、特別な体験をレストランとして求められますが、身近な食材、身近な体験を伝えることも大事だと思っています。また、日本の場合、サスティナビリティやオーガニックといった類のものは、安全であり健康的という印象ですが、ヨーロッパはそうではありません。違法な労働はなかったか、環境に負荷がない育て方をしているか、不正な取引がなかったかなど、健全にものを生み出すことをそう呼びます。世界と比べての認識や理解も必要だと思います」と話す『フロリレージュ』川手シェフ。

アジアのベストレストラン50 2022

「クリエイティビティ」テーマには、『里山十帖』の桑木野恵子シェフが登壇。

「暮らすことによって土地を理解することが私にとってのクリエイティビティの源。買った食材ではなく獲った食材で料理することが、表現につながっています」。

桑木野シェフの料理は、キッチンの外から始まっているのです。見た目の演出ではなく、食材が生きた環境から表現のヒントを得て、大事なものを見つけていくプロセスこそ、桑木野シェフのクリエイティビティなのかもしれません。

「私の今の暮らしには、里があって山がある。苦味、辛味、土臭さなど、この環境で生まれた食材の“良さ”を消さずに美味しいを生み出したい。命の源を生む土と水が私にとってのクリエイティビティの源です」と『里山十帖』の桑木野シェフ。

アジアのベストレストラン50 2022

「Asia’s Best Female Chef Award」を受賞した『エテ』庄司夏子シェフの言葉も深みを帯びていました。それは、「まず支えてくださった皆様に感謝申し上げます」と述べた後に続きます。

「正直、女性シェフということに注目を浴びていることに違和感を感じています。加えて、日本は、素晴らしい食材と素晴らしい職人魂があるはずなのに、料理人という職業は後継者不足の問題に直面しています。女性シェフに限っては、もっといないのが現状です。私のような小さなレストランでもやれる。これから料理人を目指す女性にも、それを伝えたかった。実証したかった。新しい扉が開くことを願っています」。

今回、ランキングされた50店舗のうち、女性シェフ(料理長及びオーナーシェフ)は1/10にも満たない。こういった問題は、他国も抱えているのかもしれません。

「料理やケーキは、アーティストやデザイナーたちが生み出す作品と同じ価値があると思っています。それを証明するために、どうしても『Asia’s Best Female Chef Award』が獲りたかった。女性シェフでも活躍できることを若い世代にも伝え、何か希望になってくれれば嬉しく思います」と『エテ』庄司シェフ。

アジアのベストレストラン50 2022

以前、本大会の日本評議委員長を務める中村孝則氏は、『アジアのベストレストラン50』にランキングされる要因を、このように紐解いています。

「『アジアのベストレストラン50』では、“ジョイフル”と“シェア”が大切なのかもしれません。各国の委員からも、この言葉をよく耳にします。美味しいだけでなく、楽しい。それを誰かと分かち合いたい。そんな気持ちにさせてくれるレストランに魅力を感じるのではないでしょうか。今回は、それに加えて“チャレンジ”が大きなポイントになったと感じています。この時代においても、いかに挑戦しているか。ランキングされた日本のレストランは、どこも常に進化しています。しかし、奇をてらい過ぎることや一時的な流行にばかり目を向けてしまうと、料理そのものの本質を見失ってしまうため、そこは危惧しながら、皆様とともに今後も大会を育てていければと思います」と総評します。

コロナ禍、世界が最も注目するコペンハーゲンのレストラン『ノーマ』が予約不要の店としてワインバー&バーガーとして再開したのは記憶に新しく、これもまた、オーナーシェフであるレネ・レゼピの挑戦。更に、この決断が新型コロナウイルス感染拡大の初期段階だったということも、シェフ力だけでない経営者としての手腕も感じざるを得ません。ちなみに、その店名は『POPL(ポプル)』。これはラテン語の「POPULUS(ポプルス)」に由来するもので、「人々の集い」や「共同体」を意味しており、当時のレネシェフの想いが凝縮されているようにも感じます。

2022年、『アジアのベストレストラン50』にランキングされた多くのレストランにおいてもオーナーシェフです。長く続く難局は、人気店ですら脅威に追い込んでいます。そういった時代背景を見ると、投票者はもちろん、ゲストにおいても「潰したくない」、「応援したい」、「支援したい」という気持ちの芽生えがあったのではないでしょうか。

前述、中村氏が話した「ジョイフル」、「シェア」、「チャレンジ」に加え、「サポート」もまた、票につながったのかもしれません。

2013年に1位に輝いた『ナリサワ』以降、見事、奪還を果たした2022年。長きにわたり、業界を牽引した中村氏にも敬意を評したいと思います。そして、今なおランクインし続けている『ナリサワ』においても、継続は1位を獲るよりも至難の技。常にトップランナーである成澤シェフは、常に挑戦者でもあるのかもしれません。

最後に。数々のレストランアワードがある中、『アジアのベストレストラン50』は、文化になるか!? それは、レストランやシェフだけでなく、その環境や周囲によるものなのかもしれません。

言うは易し行うは難し。かく言う『ONESTORY』(私)もまた、真摯に向き合っていきたいと考えます。

 「まず、1位を獲得した『傳』長谷川シェフをはじめ、日本のシェフの方々、本当におめでとうございます。今年の『アジアのベストレストラン50』は、色々な意味で歴史に残る回だったと思います。個人的に思うのは、エリアの広いワールドよりもエリアの狭いアジアの方が濃い内容だと感じています。加えて、コロナ禍による投票システムの変更などは、のちに振り返った時、時代背景も強く感じるのではないでしょうか。社会と親和性の高い大会こそ、『アジアのベストレストラン50』なのだと思います」と話す日本評議委員長の中村氏。

Photographs:THE WORLD'S 50 BEST RESTAURANTS
Text:YUICHI KURAMOCHI