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カレーのアキンボ住宅街の古民家で味わう、郷土カレーの世界。
玄界灘の魚介、有明海の海苔や牡蠣、佐賀牛や豊富な野菜。豊かな食材に恵まれた佐賀県では、古くから滋味深く、味わい豊かな郷土料理が育まれてきました。そんな佐賀県の魅力を楽しみたいときに、おすすめのレストランがあります。その名は『カレーのアキンボ』です。
それは文字通りカレーとスパイスの店。もちろんカレーと郷土の味が結びつかない方もいることでしょう。スパイスとは、“たとえ新鮮でない素材でもおいしく味わうため”に発展してきたもの。かつて一粒の胡椒が黄金の価値を持ったのも、内陸部で香辛料の料理が生まれたのも、この実用的な利用価値のためでしょう。つまりスパイス料理の王道であるカレーとは、料理人の技術にのみ依存し、土地柄には関わりがないものだと思われがちです。
そんな先入観を『カレーのアキンボ』は覆します。店は佐賀市の市街地からは15分ほど離れた佐賀大和ICにほど近い、町外れの落ち着いたエリア。
看板も出ていない古民家が舞台です。ここで腕を振るう店主・川岸真人氏に見覚えがある方もいることでしょう。そう、川岸氏はかつて、東京で行列のできるカレー屋を営んでいました。人気絶頂の最中、突如閉店してしまった伝説の店。名は同じく『カレーのアキンボ』でした。
そんな川岸氏が東京を離れ故郷である佐賀に開いたのがこの店。
「東京でやっていた頃から、いつかは故郷で店を開きたいと思っていました」。
その言葉通り、この店こそが川岸氏が目指した夢の結実なのです。
カレーのアキンボ素材を吟味し、スパイスの力でその魅力を極限まで引き出す技。
完全予約制で、全8品のコースのみ。客席は最大でも4名まで。
ある日の料理は、ヤーコンと唐津のローゼルを鰹節と梅肉で和えた前菜からスタートしました。続く温菜は、芽キャベツと原木しいたけとカブのお椀。パクチーの風味がなければ、割烹で登場しそうな穏やかな味です。さらに葉物の食感と適度な苦味に、焼いたミカンの酸味とスパイスを聞かせた菊芋をあわせたサラダ、スパイスに漬け込んで焼いた鶏もも肉に地元のチーズを合わせた肉料理。どれも素材を活かした優しい味わいです。
コースを味わううちに、きっとスパイス料理への先入観を見直すことでしょう。川岸氏のスパイスは、食材の欠点を隠すためではなく、魅力を引き出すためのもの。そしてその期待に応える、力強い食材の味。とくに野菜は苦味、甘み、香り、食感などどこをとっても上質です。
「野菜はほぼすべては地場産です。野菜は多久の畑に毎週通って採ってくるんですよ」。
地元の素材を厳選し、その魅力を引き出すために少しのスパイスを借りる。それはインド料理の手段で表現された郷土料理です。
「畑に行ったり、港に行ったり、考えてみるといつも佐賀の食材を探しています。それはこの地の食材が、わざわざ予約してカレーを食べに来てくれるお客様を喜ばせてくれるから。それは私の中で揺るがない、佐賀の食材への信頼です」。
川岸氏はそんな考えのもと、素材を活かす引き算のカレーを作ります。
カレーのアキンボ小さな古民家に流れる穏やかな時間と、再臨する伝説のカレー。
そして次なる料理は、ひと皿のカレー。
「これだけは東京の頃のままのレシピです」。
それは東京で、あの行列のできる店で出されていたカレーです。そして、メインディッシュは野菜のカレーが続きます。ピュアな野菜のおいしさを、カレーという形を通して表現する優しく、まろやかで、滋味深い一皿。その後の締めのデザートまで、コースすべてが佐賀県への愛を感じさせる内容です。
テーブルは川岸氏が立つキッチンのすぐ脇。料理を味わいながら、川岸氏との会話も無理なく楽しめます。もしかするとこれも、川岸氏がここでやりたかったことなのかもしれません。
「美大で油絵を学び、寿司屋に就職し、そこで3年修業を積んだ後、カレー屋として独立しました」。
そんな波乱万丈な川岸氏のストーリーも、この店のスパイス。
8品のコースが終わる頃には、きっと誰もがこの店の料理と、佐賀県の食材の魅力に惚れ込んでいることでしょう。
住所:佐賀県佐賀市大和町川上475 MAP
電話:080-6426-4170
https://www.facebook.com/カレーのアキンボ-要予約-581742741900758/
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