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瀬戸内ヴィラ ダイアリー大芝島目的地は全周約7kmの小さな島。
広島で宿泊場所を探そうとすると、魅力的な施設が多いことに気付きます。
百万都市である広島市街には名だたる名門ホテルが並び、瀬戸内の島々にはオーベルジュからペンションまで、そして山間部には老舗の温泉宿も。選択肢が多すぎるのは、うれしい悩みでもあります。
絞り込みのために希望条件を追加してみましょう。瀬戸内の海を望むオーシャンビュー。波音が部屋まで届くような静かなロケーション。その雰囲気に浸れるような貸し切りの宿。条件を追加する度に候補は減り、最後に一軒のヴィラが残りました。それが『瀬戸内ヴィラ ダイアリー大芝島』です。
所在地は周囲7km、島民はわずか100名。みかん栽培が盛んで、島内にはレストランも商店もないという小さな島、大芝島。それはきっと瀬戸内の凪いだ海のように静かな島なのでしょう。朝日で目覚め、日没で仕事を終えるような、昔ながらの生活が残っているのでしょう。そしてきっと、心震えるような美しい景色と出合えるのでしょう。少ない情報をつなぎ合わせて想像しながら、大芝島への道をたどります。
予想に反し、本土と大芝島を結ぶ橋は立派な造り。橋上の道幅は狭いものの、島民100名ほどの小さな島の入口としては橋自体の構造は重厚で、そして美しい姿をしていました。大芝島に寄せる期待も高まります。橋は大芝島の西端にあり、ヴィラは島内の東端。島の外周を走る道路を進むと、想像していた通りの景色が広がります。犬の散歩をしている人、海に釣り糸を垂らす人、軒先の椅子にただ座っている人。小さな港沿いにはガードレールもない細道。山の斜面の段々畑はみかん畑でしょうか。波音が生活のリズムを刻むような、浮世離れした離島です。
浅瀬の先に見える岩山の案内には『大芝島のモンサンミッシェル』とあります。言われてみれば、あの修道院とよく似た姿です。小さな発見のひとつひとつが、心を日常から非日常へと誘うような体験になります。
瀬戸内ヴィラ ダイアリー大芝島遊び尽くしたオーナーが、自身の夢を詰め込んだ場所。
小さな島を半周分、ゆっくり走って30分もかからぬ道中ですが、それは見どころが多く濃密なドライブとなりました。そしていよいよ目的地に到着です。
『戸内ヴィラ ダイアリー大芝島』は、海を望む道路に建っていました。地中海のような雰囲気の建築はこの長閑な島にあって異質ではありますが、不思議と景色と馴染んでいます。
海側は全面ガラス張り、館内全てがオーシャンビュー。寝室からも、バスルームからも、リビングからも、ダイニングからも、どこにいても海が見えます。白を基調にした室内に瀬戸内の光が差し込みます。それは眩しいほどの光量です。
その圧倒的な開放感は、一般的な宿泊施設とは一線を画します。すべての部屋が横一線に配置され、部屋を移動するためには別の部屋を通り抜ける必要があります。しかし、どこにいても海が見えるのです。つまり利便性や動線など商業施設ならば当然重視される部分よりも、瞬間的な景観を重視しているような施設なのです。便利であることよりも、楽しい場であること。それは言うなれば、振り切った遊び心のようなもの。
では果たしてどんな想いでこの宿をつくったのでしょうか。そこで出迎えてくれたオーナーの山田悟市氏に尋ねてみました。
聞けば山田氏はこの島でもう一軒同じようなヴィラを営んでいるといいます。しかし生まれはこの島ではありません。ただこの島、この海に惚れ込み、通い続けたのです。
「この大芝島に島外から移ってきた最初のひとりが私です」。そう山田氏は言いました。それはこのヴィラを開くためではなく、ただ「自分が遊ぶためですよ」と笑いました。
若き日の山田氏は、とにかく本気で遊び尽くしたといいます。冬は雪山、夏は海。大好きなハワイにも足繁く通いました。とくにウェイクボードはプロを目指すほど熱中。ただ好きなことに熱中する生き方に憧れていたのです。そうして自分でも「遊び尽くした」と思えたとか。やがて年齢を重ね、海遊びにはドクターストップがかかったとき、山田氏は考えました。
「自分が大好きなこの海を、もっと知ってほしい」。
自分の海遊びの拠点だった家を改築してヴィラにしました。そこだけでは足りなくなると、自分の理想を詰め込んだヴィラをもう一軒、ゼロから作り上げました。1日1組限定の、隠れ家のような貸し切りヴィラ。海を間近で見つめ、感じ、マリンスポーツをするにも、ただゆったりと過ごすにもぴったりの場所。それがこの『瀬戸内ヴィラ ダイアリー大芝島』なのです。
瀬戸内ヴィラ ダイアリー大芝島体全体で海の存在を感じる、特別な時間。
テラスのデッキチェアに座ると、静かで、規則正しい波音が聞こえます。太陽の角度により、海の色は刻々と変化します。ダイニングで食事をするときも、リビングのソファに腰を下ろしても、海は見え続けます。やがて完全に日が落ちて、窓の外の景色は真っ黒になっても、波音は変わらずに届きます。
それはきっと、海育ちではない人が、もっとも海に近づける時間。常に海が見え、聞こえる。だんだんと海の存在に慣れ、その存在が当たり前になる。時折、目の前の海をフェリーが横切り、ふと高い波音が聞こえると、再び海に意識が向く。そんなことの繰り返しが、海を身近に感じさせてくれるのです。
旅という短い時間の中で、土地の人の生活や想いの一端に触れること。それは狙ってできることではありませんが、こうして実現できたとき、その旅はきっと誰しもにとって忘れがたい記憶となることでしょう。
住所:広島県東広島市安芸津町風早2612-8 MAP
電話:0846-45-6251
http://y51.jp/
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