拠点も名刺も持たず、ただ旬の食材だけを持って最高の料理を届ける。さすらいの料理人・カルロス。[出張料理人カルロス/広島県広島市]

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出張料理人・カルロス氏の料理の数々。「旬という時間軸が失われつつある現代で、その季節を楽しみに待つような料理をつくり続けたい」。

出張料理人カルロスカルロス×カルソッツで、目指す新たな広島名物。

広島には、地元を拠点に活躍する、一風変わった出張料理人がいます。

その名は、カルロス。

店もホームページも名刺さえも持たず、ただ縁のあった人の元へ赴き、そして最高の料理を作り上げる料理人。その風貌から屋号としてカルロスと名乗っていますが、広島育ちの日本人。ファッションも、料理も、生き方も、すべてが自己流である、魅力的な人物です。

そんなカルロス氏の話でとくに興味深いのは「カルソッツ」なる言葉。これはスペイン・カタルーニャ州の名物で、長ネギのように細長いタマネギのこと。これを直火で真っ黒になるまで焼いて、皮を剥いてディップにつけて味わう料理がカタルーニャ名物としてあるのだそう。家庭料理ではなく、BBQや祭りで味わうのが本場流。カルロス氏は、このカルソッツを、日本に広めたいのだといいます。しかし日本にはカルソッツという品種はありません。だから広島の生産者に依頼し、日本流のカルソッツを生産してもらっているのだといいます。

調理中のカルロス氏。幼い頃から外国人と間違われることが多く、現在はその経験を逆手に自らカルロスの屋号を名乗っている。

カルロス氏がカルソッツの生産を依頼する『夜明けのジョニー農園』の農園主・ジョニー氏。広島の里山の畑でジョニーとカルロスがネギについて語り合う、という不思議な光景だ。

出張料理人カルロス地元の、旬の食材で仕立てる、その日、その場所だけの料理。

とある春の一日、カルロス氏に出張料理を依頼してみました。

到着したカルロス氏が持っていたのは時期も終わりに近かったカルソッツと、いくつかの野菜、それに採れたての卵や米、地元の魚。

到着するやいなや、すぐに料理に取り掛かるカルロス氏。それは見惚れるような手際です。持参した器具と、現地の器具を無駄なく使い、初見の厨房でも、まるで戸惑う様子はありません。そして、目の前で調理をしているからこそ、話を聞く時間もいくらでもあります。

まず気になるのは、なぜ出張料理人なのか、ということ。その手際を見ていると、レストランを構えて人気を集めることだって簡単そうに思えます。

「自由な身でいることで、いろいろな人、いろいろな食材に出会いたいんです」。

カルロス氏の答えはシンプルでした。

「旬という時間軸が失われつつある現代で、その季節を楽しみに待つような料理をつくり続けたい。そのために何ができるか考えてみると、料理の過程やストーリーを伝え、体験として愉しんでもらうことが一番だと思いました」。

それは個性的なファッションに身を包み、フランクな物腰のカルロス氏の、揺るぎない哲学。

その後も調理は続き、やがて本日のディナーが完成しました。

ニンジンとミカンのマスタードソース和え、オリーブのソースを合わせた広島の鯛、蒸し鶏にはカルソッツの青い部分とジョニー農園の芽ニンニク。どれも直感的に「旨い!」と思える完成度。いわば子供が食べても、笑顔になって、おかわりを欲しがるような味です。もちろん大人が食べても、心から満足の吐息が漏れます。

肉料理は柑橘系のタレに漬け込んでからオーブンでじっくりと焼き上げた豚塊肉。里芋と牡蠣と芽キャベツとジャコのアヒージョは、汁まで飲み干したくなるようなおいしさ。炊きたての米は、新鮮な卵と塩で卵かけご飯に。

イベントでの調理経験も豊富なカルロス氏は炭火やBBQコンロを使った料理もお手の物。難しい炭火の火加減も見事にコントロールする。

ニンジンとミカンのマスタードソース和え。ニンジンの甘みとみかんの酸味の調和が絶妙。あえて食感を残すようなニンジンのサイズ感も見事。

近海産の新鮮な鯛の刺し身を、オリーブのソースで。淡白でクセのない鯛に、あえて存在感のあるソースを合わせることで、鯛そのものの魅力も引き出す。

しっとりと蒸しあげた鶏に、広島産タマネギ(カルソッツ)の青い部分と芽ニンニクのソースを合わせた一品。

里芋と牡蠣と芽キャベツとジャコをアヒージョ仕立てに。里芋のとろみと牡蠣の旨味が溶け出したスープは、それだけでツマミになるような濃厚なおいしさ。

出張料理人カルロスカタルーニャの伝統を、広島で再現。

仕上げは、やはりカルソッツ。網の上で真っ黒になるまで焼いた国産カルソッツを新聞紙に包んでしばし蒸らす。それから黒い部分を手で掴んで引っ張ると、つるりと皮が剥けます。ロメスコソースやアリオリソースにつけたら顔の上まで持ち上げて、下からかぶりつくのが正しい食べ方。

かぶりつくと熱い汁が口を満たし、それから甘み、そしてネギの風味と柔らかい甘みがソースと見事に絡み合います。そして何より、このお祭りのような愉しさ。大きな口を開けてカルソッツにかぶりつく行為は、まさにカルロス氏がいう「体験としての食」に違いありません。

その他の料理も同様に、ただ料理を食べるだけの食事ではなく、食材や調理法の背後にある物語まで追うような体験。知らなかった広島の食材に出合い、知らなかった異国の文化を知り、そしてそんな素敵な時間を届ける出張料理人の存在を知る。そんな出合いと発見が、食の感動を倍増させてくれるのです。
そして出張料理人として、希望の場所にこんな感動を届けてくれることこそ、カルロス氏が出張料理人としてさすらいの存在で居続ける理由なのでしょう。

カルロス氏の作り上げたディナー。「お腹いっぱいになってほしい」との思いから、食べきれないほどボリューム満点にするのがカルロス流。

外側の皮が真っ黒に焦げ、隙間から小さな泡が溢れ出したら焼き上がり。「できれば地元紙で」という新聞紙に包んで数分蒸らしてから味わう。

右手で黒い部分、左手で青い部分を掴んで上下に引くと、つるりと皮が剥ける。お好みのディップにつけてかぶりついて味わう。

https://www.instagram.com/sundayscarlos/


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