DINING OUT KISO-NARAI極端に言えば、味は二の次でいいんです。僕は体験価値を作りたい。それが記憶に深く刻まれるから。
これは、『DINING OUT KISO-NARAI』のシェフを務める『傳』の長谷川在佑氏の言葉です。
「料理はもちろん大事ですが、お客様には総合的な体験を堪能していただければと思っています。なぜなら、味の記憶は薄れていくからです。例えば、食べた料理の味よりも誰と行ったかやどんな環境で食べたかなどの方が記憶に残っていることが多いと思います。今回は、いかに街に触れ、土地に触れ、人に触れる体験をご提供できるかどうかが重要なポイントだと思っています。だから、地元の方々なくしては成立しない『DINING OUT』。僕も地元の人とつながりたい。人と人、ものともの、こととこと。様々を繋ぐ『DINING OUT』にしたいと思っています」。
今回、長谷川氏の考える『DINING OUT』は、あくまで通過点。終着点は、その後の「再訪」にあるのです。
味は一時、体験は一生。後者の感動を得るからこそ、長谷川氏は再訪のきっかけになると考えているのです。かくいう長谷川氏もまた、街に触れ、土地に触れ、人に触れている体験の最中。木曽・奈良井に幾度足を運んでいますが、その蓄積が町を特別な存在にしていることを肌で感じている当事者でもあります。
「『DINING OUT』は、2日間だけのイベントですが、お客様にはそれで終わってほしくありません。今回をきっかけに、その後も足を運んでもらえる体験をご提供できればと思っています。そのきっかけを作れるのは、やっぱり人と人との触れ合いだと思うんです」。そんな想いゆえの「味は二の次でいいんです」。
その背景には、「幸せのカタチ」の変化も手伝っているのかもしれません。
「様々な出来事を経て、身近な存在を大事にするようになったと思うんです。それは、環境、もの、自然、料理、そして人。日常やその延長にある幸せを再確認したんじゃないですかね。それは、僕も含め」。
DINING OUT KISO-NARAI「ダイニング」ではなく「食卓」。今だからこそ大事にしたい家庭料理。
「料理を考える上で僕が一番学びになったのは、お母さんたちの作るものでした。お漬物とか本当においしくて。一見、質素に思うかもしれませんが、お母さんたちが作るごはんは僕にとって最高のご馳走。もっと言えば、お母さんたちとの出会いや笑顔もご馳走。この体験こそ、旅の醍醐味であり、今回の『DINING OUT』が大事にすべきことなんじゃないかなと考えています。お母さんたちの料理は、ちゃんと文化を継ぎ、自然と寄り添い、素材を無駄にせず、食卓を彩り、家族を喜ばせています。僕の責務は、僕が体験したこの感動を伝えることだと思っています」。
「DINING OUT」というネーミングではあるものの、今回は、「DINING」ではなく「食卓」という表現のほうがしっくりくるかもしれません。ひとりで食べるごはんよりもみんなで食べるごはんの方がおいしい食卓。それを分かち合う食卓。ただいま、おかえり、いただきます、ごちそうさま、いってらっしゃい。そんな言葉が似合う食卓。
木曽・奈良井の環境は山の中。食卓に並ぶ山菜やきのこなどの食材は、長谷川氏の得意とする分野でもあります。加えて、『傳』よろしく、家庭料理は長谷川氏が最も大事にしている表現です。そして、家庭料理は、世界に通用することを2022年版「アジアのベストレストラン50」においてNo.1に輝いたことで証明しました。
『傳』のコンセプトでもある「お客さまにまた来てもらえるようなお店になること」同様、「お客さまにまた来てもらえるような地域になること」のきかっけこそ、長谷川氏が目指す『DINING OUT』なのです。
前回の開催から約2年半の空白には、様々な出来事がありました。世界中の難局によって、一時、人間はコミュニケーションを遮断されてしまいました。メールやSNSはコミュニケーションの主になってしまい、その習慣に歯止めは効かず、加速する一方です。
「おいしい料理や美しい風景を携帯のカメラで写真を撮ることはもちろん良いですが、肉眼に勝るものはないと思うんです。画面越しになった瞬間、仮想空間になってしまう。僕はやっぱりお客様とお話しすることが大好きだし、感じた想いは自分の言葉で伝えたい。良いことも悪いことも身体で感じたい。今までの『DINING OUT』は完璧を求められましたが、今回の『DINING OUT』は違う。完璧とはマニュアル通り。それでは誰がやっても同じになってしまう。突発的に起きる出来事も不完全な美しさも個性として受け入れたい。今回の『DINING OUT』では、そんな人間の根幹に訴えられるような時間にできたらなと思っています。僕自身、それをちゃんと再確認する意味も含め。そして、改めて、僕は人間に感動したい。だから、今回の『DINING OUT』は、その世界を皆で創造したいと思っています」。
昨今の事情や町の特性を踏まえ、どこまでできるかは明言できませんが、人に触れ、会話を楽しみ、土地を知る。食卓には笑い声が絶えず、みんなで喜びを分かち合い、感動をともにする。冒頭、それが今回作りたい「体験価値」なのです。
「もう一度、この町に旅したくなる『DINING OUT』にしたい」。
今までとは全く違った『DINING OUT』にぜひご期待ください。
開催日程:2022年7月23日(土)、24日(日)
開催地:長野県塩尻市
出演:シェフ 長谷川在佑『傳』
ホスト 中村孝則(コラムニスト)
協賛: 一般社団法人塩尻市観光協会
協力: 一般社団法人木曽おんたけ観光局、木曽漆器工業協同組合、塩尻市、塩尻市立楢川小中学校、奈良井区、奈良井宿観光協会(五十音順)
Text:YUICHI KURAMOCHI