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キウイフルーツカントリーJAPANスプーン一杯の種から、やがて日本一の農園に。
日本最大のキウイ農園が静岡県にあることをご存知でしょうか。
その名は『キウイフルーツカントリーJapan』。キウイ収穫体験やBBQもできる体験型の農園です。キウイは収穫後に熟成が必要なため、もぎ取ったものが食べられるわけではありませんが、入園すれば園内で熟成されたキウイが食べ放題。さらに10ヘクタールに及ぶ園内は、ピクニック感覚で散策できます。
農園の二代目である平野耕志氏に案内を頼み、さっそく中を巡ってみましょう。
まずは受付やショップのある建物があり、続くのが巨大なハウス。そこは天井までぎっしりとキウイの枝が広がっていました。
「ここで全体の1割くらいです」
と平野氏。このハウスの一角にあるクーラーボックスにある熟成済みのキウイが食べ放題で楽しめます。
平野氏によればこの農園の起源は1976年。アメリカに農業研修に行った先代が友人からスプーン一杯のキウイの種をもらって帰ってきたことがはじまり。しかし当時はキウイ栽培のノウハウもない時代。きっとさまざまな苦労や試行錯誤があったことでしょう。そこから少しずつ木を増やし、現在ここにあるのは80種1000本以上のキウイの木。
「ここから生まれた新品種も10種類以上あるんですよ」
平野氏の言葉も誇りに満ちています。
キウイフルーツカントリーJAPAN動物、植物、人、魚、雨。すべてが美しく循環するシステム。
「あれは花に花粉を付ける作業です」
農園で働くスタッフの姿を見て、平野氏が教えてくれました。
「ええ。形の良いキウイにするには、手作業でキレイに花粉を付ける必要があるんですよ」
受粉に適した時間は、朝露で雌しべが湿った朝方。しかし花は咲いたら3日で散ってしまう。毎朝スタッフ総出で、何十万とある花に花粉を付けるのです。
「種を植えてから実がなるまで最短でも7〜8年。根気のいる仕事だと思います」
平野氏はそう言います。
ハウスを出ると、さらに何倍も広いキウイ畑が広がります。平野氏に案内してもらった高台から、畑を見渡すと、まるで人が忘れかけていた豊かさが、この景色の中にあるような気がしてくることでしょう。
羊が草を喰んでいる。ニワトリやウサギも放し飼いされている。奥にある山からは、澄んだ湧水が流れ出ている。動物たちは雑草やキウイの皮を食べ、その糞尿は肥料になる。降った雨は湧水となり、地中のパイプを通って貯水池へ流れる。その貯水池では、魚が水を浄化する……。
先程のハウスでできるBBQ体験も実は意味があります。ハウスには害虫が出やすいため、そこでBBQや焚火をして煙を出すことで、燻煙処理の役割を果たすのです。BBQ用の薪は剪定して行き場のないキウイの枝。燃やした炭や灰は、今度は土をアルカリ性に保つための肥料になります。
この農園の中に組み込まれた、見事なサイクル。
きっとこの農園が美しく見えるのは、ただ整備が行き届いているからではなく、ここに命のサイクルが出来上がり、無駄なく、正しく循環しているから。きっと人間の本能として、そのあるべき姿を美しく感じるのでしょう。
キウイフルーツカントリーJAPANキウイという作物を通して、次世代に強い生き方を伝える。
平野氏はアフリカ・ザンビアに渡り、保健指導や農業指導に携わった後、日本に戻り大学院で農業経営を学んだ人物。そこで身を持って学んだこと。
「もしも世界全体で災害が起きたとしたら、生き延びるのは都市化された日本よりも、循環型のアフリカだと思いました」
そこで平野氏は考えました。子どもたちに楽しみながら生きる強さを伝えたい。キウイを通して、次世代にこれからの生き方を伝えたい、と。
「現在は太陽光でのエネルギー自給を考えています。世界中に100%エネルギーを自給している農園はひとつとしてありませんが、その最初の農園になることが今の目標です」
平野氏はキラキラとした目でそう話しました。
「年に一度実るキウイを、あと30何回か収穫したら引退の時期ですから、できることはどんどんやっていかないと」
そう言って平野氏は、爽やかな笑顔で笑いました。
住所:静岡県掛川市上内田2040 MAP
電話:0537-22-6543(9:00〜17:00)
https://kiwicountry.jp/
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