日本を巡るツーリングエッセイ『Grand Touring NIPPON』はこちらから
MATCHA MORE/MATCHA ORGANIC JAPAN茶畑の中に開かれたオーガニック抹茶のカフェ。
夏も近づく八十八夜。
茶摘みの情景を歌った“八十八夜”とは、5月初旬のこと。その新茶の時期から夏頃まで、お茶の収穫は続きます。つまりお茶王国・静岡がもっとも忙しくなる季節です。
静岡を旅していると、あちこちでお茶を振舞われることがあります。レストランや宿ではもちろん、ちょっと立ち寄った雑貨屋などでも「ゆっくり見ていってね」とお茶を一杯。昔は身近だった“お茶を淹れる”という文化の豊かさが、静岡には今も息づいているのです。
そんな静岡県の島田市に、オーガニックの抹茶だけを手掛け、カフェもプロデュースする若手グループがいます。そのカフェの名は『MATCHA MORE』。山の隙間に茶畑が広がり、視界の大半が緑色になるような、お茶の産地を訪ねます。
『MATCHA MORE』は、ラボのような雰囲気のカフェ。倉庫や工場のような大きな建物を、スタイリッシュにリノベーションしています。メニューを眺めると、一番目立つのは「本気の抹茶ラテ」なる一品。まずはその一杯を頂いてみましょう。
ひと口、味わってみると、素晴らしい抹茶の香りが鼻に抜けていきます。通常ならこの香りの後に苦味が来るはず。しかし「さあ、苦味が来るぞ」という予想に反し、口の中の抹茶は、豊かな余韻を残して消えていきます。
MATCHA MORE/MATCHA ORGANIC JAPANいつしか芽生えた家業への誇りを胸に、若者は新たな一歩を踏み出す。
このカフェを手掛ける『MATCHA ORGANIC JAPAN』の社長である田村善之氏に話を伺ってみましょう。
田村氏はもともと、隣町の川根で13代続く茶農家の生まれ。しかし若い頃は家業を継ぐ気はなく「12代で終わるのだろうな」と思っていたといいます。東京の大学を出て、そのままアパレルメーカーに就職。その後、サービス業に興味がわき、介護などの仕事に携わっていました。
「東京にいるとまわりの人から“茶畑ってきれいだよね”とか“静岡のお茶はおいしい”とかいわれる。それまで当たり前だと思っていたことが、徐々に違う見え方になってきました」
と田村氏。そしてお茶に興味が湧き、調べていくうちに、問題も見えてきます。とくに茶農家の高齢化と、煎茶の価格下落は大きな課題。そこで田村氏は、海外でも需要が高い抹茶、それも完全オーガニック栽培に挑みます。最初はひとりきりで、そこから仲間が集まり、いまでは同年代の茶農家の後継ぎ5人とともに。
さらに隣に建つ加工場を特別に見せてもらえることに。加工場では機械がフル稼働中で、時折、摘みたてのお茶を満載した軽トラがやってきて、どさりと葉を落としていきます。
「煎茶が揉んで水分を押し出してから熱風で乾燥させるのに対して、抹茶は炙るように熱だけで乾かします。こうすることで香りと旨みが出てくるんです」
加工場の中に満ちるのは、熱気とお茶の香り。機械の音のなか、工程のひとつひとつを丁寧に説明してくれる田村氏は、お茶に対する誇りで満ちているようにみえます。
MATCHA MORE/MATCHA ORGANIC JAPAN7年後を見据えて、耕作放棄地に新たな種を蒔く。
茶畑を眺めながら、再びカフェに。茶畑や抹茶の加工工程を見ていたら、シンプルな抹茶が飲みたくなり、オーダーすると田村氏が丁寧に点ててくれました。
「跡継ぎのいない茶農家の耕作放棄地だった土地での栽培もはじめています。茶の木の植え替えもしているんですよ」
淹れたての抹茶を出しながら田村氏が話します。
「収穫は7年後ですが」
そう笑う田村氏。7年後のために、今日、苗を植えること。農業という、自然とともに歩む仕事のなかでも、それはとりわけ忍耐のいることでしょう。
「100年後も続く農業でありたい。お茶は静岡の誇りですから」
田村氏はそうも言いました。かつて「12代で終わる」と思っていたという茶農家の後継ぎは、誰よりも立派な13代目の顔でした。
住所:静岡県島田市身成1476-2 MAP
info@matchaorganicjapan.com
https://matchaorganicjapan.com/
日本を巡るツーリングエッセイ『Grand Touring NIPPON』はこちらから
(supported by SUBARU)