食べ終わった瞬間、また来たくなる店。北の大地で人気を集めるうどん店。[名水うどん野々傘/北海道虻田郡]

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グリルチキンうどん。「とり天や唐揚げよりも、なるべくヘルシーに」との思いから生まれた人気メニュー。

名水うどん 野々傘シーズンオフでも行列ができる人気店。

雄大な大地に、見渡す限り広がる麦畑。
北海道はシェア60%以上で独走する日本一の小麦の生産地にも関わらず、蕎麦やラーメンのイメージに押され、うどんの印象は強くないかもしれません。そんな北海道・羊蹄山の麓に知る人ぞ知る人気うどん店があることをご存知でしょうか。名は「名水うどん 野々傘」。周辺のシーズンオフである夏の間でも行列ができる人気店です。

店内でまず目を引くのは、そのメニュー。
「ぶっかけうどん」などの定番に加え、「グリルチキンうどん」や「山わさび香る肉ぶっかけ」といった個性派メニューも並んでいます。そしてどのメニューにも添えられている丁寧な説明。きっと店主が気配りの行き届いた人物なのでしょう。

さらに店内を見渡してみると、民芸調の店内に古道具が配置されているのに気づきます。格子窓の向こうには蝦夷富士・羊蹄山を一望。どれだけ待っても苦にならないような、ゆったりとした穏やかさに満ちた空間です。

うどんはやや細めですががモチモチとしたコシがあり、小麦の風味が豊か。出汁のほのかな甘み、手のこんだ具材のバランスも絶妙で、たっぷりのボリュームもうれしいところ。決して市街地からのアクセスが良好な場所ではないにも関わらず、連日の盛況ぶりも納得の味です。

メニューを見るだけで内容が想像できるような親切な説明書きが添えられている。

室内は民芸調の風情ある空間。窓の外には羊蹄山の雄姿を一望。

人気のちく玉天ぶっかけ。玉子天の半熟の黄身をうどんに絡めて味わうのもおすすめ。

名水うどん 野々傘「お客さんの笑顔のため」。店主の人柄も店の魅力。

おいしさの秘密を、店主の野々田耕一郎氏に伺ってみました。
穏やかな笑顔とやさしい語り口が印象的な人物です。

「お客さんを喜ばせることだけが、ここをやっている目的。だからお客さんの笑顔が一番うれしい」

それだけで人柄が伝わるような、素敵な言葉です。

聞けば野々田氏は、岐阜生まれの大阪育ち。北海道の大学で酪農を学んだ後、大学事務員として務めていた。そして30代の後半で脱サラを思い立ちました。
「脱サラのセオリーといえばラーメン屋ですが、研究のために食べ歩いている間に、うどんも良いなと思い始めたんです」

それから独学で製麺を学び、地方から来た学生に試食してもらっては感想を聞いて腕を磨く日々。そしてついに、学生から「まあまあおいしい」の声。
しかし野々田氏の修業は、まだ終わりではありません。

39歳で退職し、今度は大阪にあるうどんの名店で本格的なうどん作りと経営を学ぶ。そして2005年、満を持して羊蹄山の麓に、この店を開いたのです。

店主の野々田氏。「職人気質ではない」と笑うが、ゲストを思い味を追求する真摯な姿は職人的。

山わさび香る肉とろたまぶっかけ。山わさび、醤油漬け卵黄、とろろ、肉の贅沢なハーモニー。

名水うどん 野々傘食べる人を気遣う小さな工夫がいろいろ。

「僕は職人気質ではないので、自分が打ちたいうどんよりも、お客さんが喜ぶうどんを作っていきたい」

そう話す通り、野々田氏のうどんには、食べる側のことを考えた気遣いが満ちています。

たとえばうどんは圧力鍋で茹でることで、独特のもっちりした食感を出しつつ、提供時間を短縮。待たせすぎないようにとの配慮が、良い形で味にも作用しています。肉うどんの肉は、最後に炙って香ばしさをプラス。グリルチキンを乗せるのは、「少しでもヘルシーなものを」との想いから。

食べ終わった瞬間に、また来たくなるようなうどん。
それはおいしさだけでなく、店主の人を幸せな気分にさせる優しさがメニューに反映されているからでしょう。
まだ見ぬ誰かのことを想像し、その幸せを願えること。それはひとつの才能であり、そしてものづくりの原点でもあります。

ちなみに店名の「野々傘」は大学事務員時代に学生たちから「野々さん」と呼ばれていたことに由来するとか。その親しみを込めた呼び方からも、当時から変わらぬ野々田氏の人柄が垣間見えます。

ゲストを待たせないため、という思いからスタートした圧力釜による湯で上げは、うれしいおいしさへの効果も。

細めだがしっかりとコシがあり食べごたえがある。具材や出汁との絡みも絶妙。

炙る、焼く、冷やすなど細かな作業のひとつひとつが丁寧。その積み重ねがおいしさにつながっている。

住所:北海道虻田郡京極町更進466-5 MAP
電話:0136-42-2381
https://www.facebook.com/nonodasan/

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ニセコの一棟貸しコテージ。夫婦の青春が詰まった、カタツムリの家。[Tree Shell Niseko/北海道虻田郡]

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蓄熱するモルタルと呼吸する丸太の効果で室内を快適に保つというコードウッドメイソンリー工法。

Tree Shell Niseko丸太とモルタルを積み上げた独特な工法。

整備されたゲレンデ周辺に高級ホテルが並び、外国人観光客向けの英語の看板が連なる−−まるで外国の避暑地のような、おしゃれな町・北海道ニセコ。
そんなリゾートの印象が強いニセコですが、大半は大自然に囲まれる閑静な場所。
それはいわば “何もない方のニセコ”。そんなエリアの一角に、一棟貸しのコテージ『Tree Shell Niseko』はあります。壁に無数の丸太の断面が見える不思議な建物。“Tree Shell(カタツムリ)”の名の通り、曲線が描く渦巻きが不思議な穏やかさを醸し出します。

宿泊施設としてのオープンは昨年とのことですがが、建物はもっと古いもの。それは傷んでいるのではなく、大切に使いこまれてむしろ魅力を増している印象があります。この建物に潜む物語を、オーナーに伺ってみました。

「丸太をモルタルとともに積み上げるコードウッドメイソンリーという工法です。木はこの地に生えていたカラマツを使っているんですよ」

そう教えてくれたのはオーナー・工藤三智子氏。

夫婦二人のセルフビルドだといい「たいへんだったけど、愉しかったな」と明るく笑いました。

ニセコのシンボル・羊蹄山を見渡す絶景もこのコテージの魅力のひとつ。

Tree Shell Niseko部屋の中心に据えられた重厚なヒーター。

「開拓ごっこがしたい」そんな動機のもと、本州出身の工藤氏がご主人とともにこの地に移ってきたのは、20年ほど前。胸まで伸びた草と木々があるだけの1300坪の土地に、小さな小屋を建てたのが始まりです。

「冬には10m以上の雪が降る地。週末だけ来て作業するのでは、なかなか進みません。それで退路を断つ意味でアパートを引き払い、ここに建てた小屋に住み始めたのです」

ログハウスビルダーだったご主人はさらに電気工事を学び、工藤氏は職業訓練校で左官を身に着けた。さあいよいよ建物の着工、かと思うとそうではありません。

「セルフビルドの本を読んでいて、とあるヒーターが気になって。それでアメリカにそのヒーターの勉強をしに行きました」

そういって工藤氏が指差したのは、建物の中心にある重厚なレンガのストーブ。メイソンリーヒーターという蓄熱型のストーブで、重量は3tもあるといいます。

「戻ってきて、まずこのヒーターを作りました。だから建物よりも先に、ヒーターができていたんです」

一度火を入れると本体に熱を蓄え、薪が燃え尽きたあとも、じんわりと穏やかな暖かさが続く。この穏やかな空間を象徴するようなヒーターです。

写真左が蓄熱式薪ストーブ、メイソンリーヒーター。レンガ造りで重量は3トンにも及ぶ。

オーナーの工藤氏。職業訓練校で左官を学び、セルフビルドに役立てた。

Tree Shell Niseko駆け抜けた青春が詰まった、思い出の建物。

そしてようやく建物の建築がスタート。デザインのイメージは、カタツムリ。

「幼稚園の頃かな。私が画用紙にカタツムリの絵を描いたら、母がそれをカバンにキレイに刺繍してくれたんです。きっとそれが心に残っていたんでしょうね」

5歳の頃に撒いた種が、20年の時を越えて実を結ぶ。若き夫婦は小さな小屋に住みながら、カタツムリの家を作りはじめました。モルタルとともに丸太を積む工法は二人がかりで一日作業をしても数十cmしか進まない、まるでカタツムリの歩み。草を払い、木を切り、家を建てる。それはまさに開拓と呼べるような日々だったのでしょう。

「本当に愉しかった」工藤氏は再びそう言いました。それは、毎日が風のように過ぎていく、夫婦ふたりの青春だったのかもしれません。

工藤氏の話の後で、改めて室内を見回してみます。
中心に堂々と佇むストーブ、その横には金属製のストーブがもうひとつ。上から見るとカタツムリの殻に見えるという建物は曲線が中心で、穏やかな開放感に満ちています。柱や梁やハンドメイドだという木製の家具は、丁寧に、大切に使いこまれて輝いています。

ふと窓の外をキタキツネが横切りました。それは特別なことではなく、このコテージの日常なのでしょう。

インテリアもセルフビルド。自然木の優しさを活かした穏やかな空間。

寝室は2箇所あり、4名まで宿泊可能。写真はシングルベッド2台を備えたロフト。

ウッドデッキには本格的なピザ窯も。キッチンには食器や調理器具も完備されている。

住所:北海道虻田郡ニセコ町ニセコ310-44 MAP
電話:090-9085-2766
https://treeshellniseko.com/

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ヘビーピラミッドバングル

newバングルが登場!

  • 三角のピラミッドが連なっているバングル
  • 大阪市にある【cmw-unknown】で制作して頂きました
  • 側面にはIRON HEARTの刻印入り!
  • 刻印は一文字づつ手作業で打刻していますので、一本一本表情が異なります。
  • 素材はシルバー925を使用、曲げる広げるなどの調整を行わないバングルです。
  • ※幅に対しての厚みと構造上、大きな力や無理な力を加えると金属疲労による破損のリスクが高まります
  • シンプルでほど良い幅感の為、△バングル【 IHSI-10 】やチェーンブレス【 IHSI-02 】との重ね付けもオススメです。

生産国

  • 日本

20th Anniversary 634S Jeans

アイアンハート20周年を記念したスペシャルモデル予約受付中

アイアンハートのさまざまなアイテムでご協力いただいている職人さんたちの力を借り、アイアンハート20周年を記念する特別なジーンズを作りました

  • wedge Leathers: Mr Hirao
    アイアンハートレザーアイテム担当する皮職人
    1.3mmの黒の馬皮を使い、専用デザインを型押し仕上げたスペシャルレザーパッチ
  • Doodlle 50: Mr Hayakawa
    ハンドルミシン使い一目づつ針を落として作り出す独特の世界観ワッペン刺繍持ち味デザイナー
    一目づつ、ハンドルミシン作り出されたアイアンハートステッチ。全てが手作業なので一本づつ違いあります
  • Hopping Shower:Mr Tetsu
    アイアンハートのプリントデザインから店舗の看板、バイクのピンストライプまでこなすマルチSign Painter
    20周年記念オリジナルデザインジーンズのポケット袋にプリント。このアイテムのみの限定デザインです

634S : サイズスペック

  ウエスト 前ぐり 後ぐり ワタリ ヒザ巾 裾巾 股下
W28 70.5 21.0 31.5 29.1 21.0 19.5 89.5
W29 73.0 21.5 32.0 29.9 21.5 20.0 89.5
W30 75.5 22.0 32.5 30.7 22.0 20.5 89.5
W31 78.0 22.5 33.0 31.5 22.5 21.0 89.5
W32 80.5 23.0 33.5 32.3 23.0 21.5 89.5
W33 83.0 23.5 34.0 33.1 23.5 22.0 89.5
W34 85.5 24.0 34.5 33.9 24.0 22.5 89.5
W36 90.5 25.0 35.5 35.2 25.0 23.5 89.5
W38 95.5 26.0 36.5 36.8 26.0 24.5 94.5
W40 101.5 27.0 37.5 38.4 27.0 25.5 94.5
  • 商品により若干の誤差が出る場合がございます。
  • 前ぐり、後ぐりはベルト巾を含みません。
  • 製品はすでにワンウォッシュしてありますので ジャストの寸法でお選び下さい。

素材

  • 綿:100%

IH-634S-A : 20th Anniversary Jeans

丈夫さと粋さのギリギリ接点を狙って作った634S

  • IRONHEARTオリジナルの21ozセルビッチデニムを使い、2003年の発売開始以来、日本で世界でヘビーオンスジーンズのブームを生んだアイアンハートを代表するジーンズ。
  • 経糸に4番のムラ糸を、緯糸にはそれまでのデニムの常識を破る5番の太さの糸を2本束ね、シャトル織機でゆっくりと織り上げたアイアンハートならではのデニム。
  • シルエットは、セルビッチデニム使いのジーンズにありがちな体の線に合わない脇の膨らみや、必要以上のお尻の余りを極力取り去りスッキリしたラインに仕立てたストレートカット。
  • 縫製は昔ながらのミシンを使い、糸の太さを3種類そして色を2色と使い分けながら、強度と耐久性を追求したヴィンテージ仕様で、5年10年と穿ける作り込みをしてます。
  • 前開きはオリジナルタックボタンを使ったボタンフライ、ポケットの強度を上げるリベットはオリジナルの刻印入り、などのヴィンテージ感溢れるデティールに、ヒップポケットのオリジナルステッチにアイアンハートのアイコンでもある赤の「W」のステッチ、ベルトを下に通せるように上下だけをジーンズに縫い止めした4mm厚の革ラベル、などのアイアンハート独自のデティールがプラスされた634Sがアイアンハートスタイルの代表です。

同素材[セルビッチデニム]の商品はこちら

同シルエット[ストレート]のジーンズはこちら

634S : サイズスペック

  ウエスト 前ぐり 後ぐり ワタリ ヒザ巾 裾巾 股下
W28 70.5 21.0 31.5 29.1 21.0 19.5 89.5
W29 73.0 21.5 32.0 29.9 21.5 20.0 89.5
W30 75.5 22.0 32.5 30.7 22.0 20.5 89.5
W31 78.0 22.5 33.0 31.5 22.5 21.0 89.5
W32 80.5 23.0 33.5 32.3 23.0 21.5 89.5
W33 83.0 23.5 34.0 33.1 23.5 22.0 89.5
W34 85.5 24.0 34.5 33.9 24.0 22.5 89.5
W36 90.5 25.0 35.5 35.2 25.0 23.5 89.5
W38 95.5 26.0 36.5 36.8 26.0 24.5 94.5
W40 101.5 27.0 37.5 38.4 27.0 25.5 94.5
  • 商品により若干の誤差が出る場合がございます。
  • 前ぐり、後ぐりはベルト巾を含みません。
  • 製品はすでにワンウォッシュしてありますので ジャストの寸法でお選び下さい。

素材

  • 綿:100%

アジア・パシフィック予選突破。いよいよ本選へ向けてエンジン全開。

左から浜田統之シェフ、コミ(当日のアシスタント)の候補生、石井友之シェフ、長谷川幸太郎シェフ。見事『アジア・パシフィック大会』を突破し、これから本大会へ向けて本格始動する。

ボキューズ・ドール 2023急遽のアジア大会開催。異例の審査方法。いかなる環境においても、国として戦い抜く。

『ボキューズ・ドール』のフランス本選に出場するためには、各エリアの大会を勝ちぬかなければならないことは、前回も記した通りですが、今年のアジア・パシフィック大会は、異例での開催となりました。

4月の初旬までは、コロナ禍のためアジア大会は中止。直近の大会の順位を踏襲するというものでした。つまり、前々回一位だった日本は、自動的に世界大会の本選に進める予定だったのです。

それが突如、4月の半ばに、アジア大会が行われる通知がありました。しかも、これまでは、開催国へ出向き、世界大会と同じように実技が行われ、出場国の審査シェフが評価を決めるという、本選同様のスタイルをとっていたのですが、今回は、コロナ禍の影響も大きく、作品となる料理写真とレシピ、さらに2分間のイメージ動画(上記)をフランス本国に送り、ジェローム・ボキューズ氏、レジス・マルコン氏などの重鎮審査員が採点を行うという方式に決まったのです。

つまり、調理の様子や味の評価ができないのです。見た目の美しさや斬新さ、いかに細かに仕事をしているかの印象、そして説得力のあるレシピが必要となります。動画は、各国の伝統や独自性を加味しつつ、ボキューズ・ドールをいかに世界に普及させるかを見せるためのプロモーションだそうです。締め切りは6月15日。つまり2か月弱でそれらをクリアしなければいけないということになったのです。

テーマ素材は「豆腐」。

アジア大会ならではともいえる食材であると同時に、ビーガンやマクロビなどのニーズの高まり、環境問題への影響などが配慮されてのことでしょう。同時に、動物性の食品(乳製品は除く)の使用も不可というのがルールです。生まれたときから豆腐を口にしてきた日本人にとって、そうした素材を正面切ってフランス料理に仕立てるのはある意味、難題とも言えます。

無事、期日前に、すべての素材を提出し終えましたが、本部から連絡がきたのは、1か月をすぎた、7月21日の夜。結果は見事突破。順位は発表されていませんが、入賞国は日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの5か国。まずは、石井シェフに大きな拍手をおくりたいものです。

テーマ素材が決まり、過去のさまざまな資料を読み込みながら、アイディアを膨らませる石井シェフ。

彩な素材と豆腐を組み合わせながら、相性や完成度を予想して一皿の組み立てを考える石井シェフ。右はコーチの長谷川幸太郎シェフ。

ボキューズ・ドール 2023豆腐というテーマの難題と挑戦。たどり着いた豆腐は、ゼロから作ること。

さて、どのようにして、厳しいアジア・パシフィック予選をくぐり抜けたのか、その様子を振り返りましょう。

お題が豆腐と決まった時点で、石井シェフは、まず、県のアンテナショップを巡り、各地の豆腐を購入し、キッチンにさまざまな野菜を並べ、スタッフ全員で豆腐との組み合わせを試し、どんな野菜に相方として適性があるかを試していきました。結果、選ばれたのは茸類でした。鍋の具材を考えれば、豆腐との相性の良さは、自明かもしれません。

しかし、そこには難題が。市販の豆腐では、どうしても茸の旨味に負けてしまうのだそうです。そこで、自家製の豆腐を作ることを考えたのですが、市販の豆乳では濃度が足りません。そこで、知人の紹介で、逗子で豆腐店を営んで90年の老舗「とちぎや」を訪れました。

「市販の豆乳は大豆の固形分が14%くらいまでしかないのですが、とちぎやさんのものは、20%以上。早速、その豆乳を送ってもらい、自家製の豆腐を作ることに決めました。豆腐の作り方に関しても改めて勉強させてもらいました」と石井シェフは言います。

実は、石井シェフの考えは、豆腐そのものに茸の香りをつけることが狙いだったのです。豆乳にセップ茸とにがりを加え、真空にして、40℃で20分間加熱。その後1~2時間おき、さらによく水気をきって、かための豆腐に仕上げます。これだと、加工がしやすいうえに、きのこの香りを重ねていくなどの、メインディッシュとしての完成度が高くなるというのが、その理由です。

老舗豆腐店『とちぎや』の出き立ての木綿豆腐は、味はもちろん、目にも美しい。まだほの温かいおぼろ豆腐を試食する石井シェフは、濃厚な豆乳を試食用に分けてもらう。

ボキューズ・ドール 2023

食べられないからこそ、伝えるための戦略。

こうして土台となる豆腐ができたものの、完成までには、紆余曲折があったといいます。写真による審査だけに、見た目のインパクトや美しさ、いかに緻密に構成された一皿であるかが重要であるかということは、先述の通りです。真っ白な豆腐にスプーンを入れると中が複雑に構成されているというサプライズは写真では伝わらないのです。

実は、石井シェフが最初に仕上げた料理は、アジア大会に表現した料理とは別物でした。これには、メンターである浜田氏、長谷川氏から、「アジア予選を通らないぞ」という厳しい評価がくだったそうです。

試行錯誤の末に出来上がった一皿は、豆腐と茸の美しい層がアーチをなして重なり、4種のガルニチュール(付け合わせ)が華やかさを盛り上げています。

「実は、写真撮影(6月10日)の前日に、今のままではだめだと思い立ち、合羽橋へ行って樋型を買い、試してみて、ようやく納得のいくものができ上がったんです」という石井シェフ。最終形は、その樋型を使用してかためたものです。

「樋型の中に薄くスライスした自家製の豆腐を敷き、トリュフのシートをのせ、また豆腐を重ね、次にジロール茸のペーストを塗り、また豆腐をのせるというように、豆腐と茸を層にし、表面だけを凍らせてカットしたものが、メインとなるアーチ型の豆腐です。周囲には数種のガルニチュールを配しました。燻製をかけたサントモール(山羊のチーズ)の上に絹ごし豆腐のピューレを絞り、キヌアを散らしたものや、青りんごのジュースを流したタルトにパースニップのピューレを絞り、グリーンピースをあしらったもの、黒にんにくを詰めたモリーユ茸を煮詰めた酒でからめたものなどです」と料理の説明をしてくれました。ひとつ一つのガルニチュールにも、高度に緻密な考えがめぐらされ、心がこめられていることがよくわかります。

 石井シェフは、「浜田さんのひと言があってよかった」と言います。実は、今回、常勝国である、タイ、シンガポールが落選しているのです。そして、インスタに上がった、タイの出品写真を見てみると、石井シェフの初期段階の作品のように、白いムース状なのです。やはり、料理の構想が伝わらなかったということなのでしょう。今の段階では、順位が出ていないのでわかりませんが、アジアパシフィック予選がいかに厳しい戦いであったかということは、想像に難くありません。

本選は、プレート料理(一皿料理)とプラッター(大皿盛り)の2種で競われます。

プレートのテーマが9月末、プラッターのテーマが11月末に決まるというのがおおまかな予定だそうです。ついこの間までは、本選まであと10か月という気持ちだったのが、あっという間に半年を切ってしまいました。心がはやります。テーマ食材が出るまでに、やるべきことは何なのでしょうか?

「アジア大会は見た目の勝負でしたが、逆に本選は、見た目の美しさや斬新さはもちろんですが、とにかく美味しくて、熱々でないとダメなのです。にんじん、じゃがいも、玉ねぎなど、必ず使う野菜を、ガルニチュールとして使う場合、またはある程度のメイン素材として使う場合などをシュミレーションして、加工方法、味の決め方、温度の調整などの実験を繰り返します。なにしろ、テーマ素材が決まったら、その一か月後にレシピを提出することになると思いますので、それからでは全く時間がなくなってしまいますから」と石井シェフ。

まだまだ課題は山積み。それらを乗り越え、本戦に備え、日本を勝利へ導く。

試作段階のひと皿。何度も何度も制作を繰り返し、料理をクリエイションしていく。

過去の各国の作品や、今回作ろうとしている作品をCG化したものなど、大量の資料を読み込みながら、作品を考案。

緊張感のあるキッチンにて「勝つ」ためのディスカッションを続けるチームジャパン。左から浜田シェフ、石井シェフ、コミの候補生、長谷川シェフ。

『アジア・パシフィック大会』に出品したひと皿。この料理で見事、通過を果たした。

上記の料理のデッサン。緻密に料理を構築し、イメージを固めてから表現する。

ボキューズ・ドール 2023

米田 肇、浜田統之、長谷川幸太郎。勝つために揃った最強の布陣、チーム日本。

いよいよ日本チームの布陣が決まりました。

三ッ星レストラン「HAJIME」米田 肇氏が、試食審査シェフに選ばれました。そして浜田統之氏が日本チームのコーチに。コーチの役目は、日本チームをまとめ上げることはもちろんですが、『ボキューズ・ドール』内でいわゆる「顔がきく」といいうことが大切であり、その点、2013年の3位入賞以来、『ボキューズ・ドール』に関わり続けている浜田氏は最適です。そして、長谷川幸太郎氏は、キッチン審査シェフに任命されました。これは大会当日、舞台上の各キッチンを回り、キッチンを清潔に保っているか、素材の無駄を出していないか、などをチェックする役目です。同時に、出場選手そのものも、試食審査員に顔を知られたほうがいいとも言われています。

私情をはさむとまではいいませんが、人間ですから、やはり、顔を知っているかどうかに左右される部分がないとはいえないのだそうです。そのため、石井シェフは、ヨーロッパ大会に視察に行き、日本チームのTシャツを配るなど、ロビー活動に励みました。

こうして組まれた、最強の布陣、日本チーム。あとは、本番へ向けて努力を積み重ねるのみです。次号からは大会へ向けての進捗に加え、関係者と石井シェフの対談をお届けいたします。

Text:HIROKO KOMATSU

北の大地のチーズ工房が目指すのは、旅の土産ではなく、旅の目的になるチーズ。[ニセコチーズ工房/北海道虻田郡]

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『ニセコチーズ工房』オーナー近藤裕志氏。発酵室で状態をチェックするのは、1日たりとも欠かせない毎日の日課。

ニセコチーズ工房観光地ニセコで異彩を放つチーズ工房の黒い建物。

北海道・ニセコにある、世界的な評価も高いチーズ工房の噂をご存知でしょうか。
場所はニセコ町の一角、羊蹄山のふもと。北海道らしい雄大な自然の中に佇む黒い建物が、その『ニセコチーズ工房』です。

工房とショップが併設された建物でショップ部分のガラスのショーケースの中には、チーズが20種ほど並ひ、奥にはイートイン用のカウンターも併設されています。

そんな店内をひとまわりしてみて、まず目を引くのは、店内のあちこちに置かれたメダルや賞状。手近なひとつを見てみると「WORLD CHEESE AWARDS」という世界最大級のチーズコンテストの名。その下には最高賞である「SUPER GOLD」。つまりそれは世界が認めたチーズを意味します。

賞状は他にも多数。額に入れずにそのままであったり、数枚が重なっていたり、いわば無造作とも思える様子で置かれています。きっとすべてを額装して飾るには、スペースが足りないのでしょう。それほど、ここのチーズは認められているのです。

ショーケースとイートインスペースがあるショップ。広大な北海道にあって意外に思えるほどコンパクトな店内。

ショーケースには常時20種ほどのチーズが並ぶ。一部、この店舗でしか購入できない限定品も。

無造作に置かれた賞状やメダル、盾。決して栄誉ある賞に無頓着なわけではなく、「ただスペースの問題」という。

ニセコチーズ工房先代との衝突を越え、やがて誕生したここだけのチーズ。

工房のオーナーの近藤裕志氏に話を伺ってみましょう。

聞けばここは裕志氏の父である先代が脱サラしてはじめた工房。北見で酪農を営む家に生まれたが大企業に務めていた先代が、思い立ってチーズ作りに挑戦。倶知安とニセコの生乳を使い、この地ならではのチーズを作る工房を2005年に開いた。その5年ほど後に、やはり別企業で働いていた裕志氏もチーズの世界へ。レシピ開発で先代と衝突しながらも、少しずつ独自の味を築き上げてきた。そんなストーリーを聞かせてくれた裕志氏。そしてこんなことを言いました。

「最初は観光地のチーズをやっていたんです」

観光地のチーズとは、つまりニセコに観光に来た人が買って帰るチーズのこと。観光地でやっているのですから、それで良いような気もします。しかし裕志氏は続けます。

「私が作りたいのは来た人が買っていくチーズではなく、それを買うためにニセコに来るようなチーズなんです」

その言葉には、決意と自信が満ちていました。

自然体で穏やかな話し方が印象的な近藤裕志氏。しかしその内には、熱いチーズへの情熱を秘めている。

基本は丁寧な手作業。量産はできないが、ひとつひとつの状態を見極めることで質を高める。

原料は北海道産ミルク。近隣の新鮮なミルクが、コクがあるのにクセのない上質なチーズになる。

ニセコチーズ工房それぞれのチーズの個性が際立つ、多彩なラインナップ。

仕事に戻る裕志氏を見送り、イートイン用のチーズプレートをオーダーしてみました。この日の内容は、ブルーチーズ、さけるチーズ、フルーツをあわせたクリームチーズ、12ヶ月熟成のミモレットチーズの4種。ブルーチーズは穏やかな風味でクセが強すぎず、食べやすいおいしさ。さけるチーズはフレッシュなミルクの味わい。クリームチーズは爽やかでコクがあり、それだけでスイーツとして味わえるほど。そしてミモレットは、濃厚で凝縮された旨味が圧巻だ。どれもチーズの個性が際立ちながら、主張が強すぎないやさしい味。穏やかでありながら記憶に残る、ここだけの味です。

次いで裕志氏が「自信作」と言っていたカマンベールチーズのソフトクリーム。これも驚きの完成度でした。しっかりと熟成をかけたカマンベールチーズをたっぷりと混ぜ込んだ濃厚な味わいで、チーズ屋の本気が垣間見える出来栄え。

「それを買うためにニセコに来るようなチーズ」

先程の裕志氏の言葉が思い出されます。
ニセコはチーズのために訪れるには、あまりに遠い場所です。しかし裕志氏の想いは、形になりつつありました。ニセコにしかない、ニセコらしいチーズ。ここは札幌から200kmの距離を越え、訪れる価値のある場所です。

チーズプレート。左から、12ヶ月熟成のミモレットチーズ、さけるチーズ、フルーツをあわせたクリームチーズ、ブルーチーズ。

濃厚な味わいとカマンベールチーズの香りが特徴のオリジナルソフトクリーム。

住所:北海道虻田郡ニセコ町近藤425-6 MAP
電話:0136-44-2188
https://www.niseko-cheese.co.jp/

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手軽に一流の味を。ふっくら、とろける、あなごの缶詰。[和光アネックス/東京都中央区]

「木の屋石巻水産」の缶詰「三陸産あなご醤油煮」。中には、ふっくらしたあなごの醤油煮がぎっしりと詰まっている。使用目安は、ひと缶約2食分。

WAKO ANNEXファン待望のあなご醤油煮。震災を乗り越え、2020年に復活。

東北・三陸産で獲れたあなご(イラコアナゴ)をじっくりと煮込んだ「木の屋石巻水産」の缶詰「三陸産あなご醤油煮」。

丁寧な仕込みのため、あなご特有の臭みはなく、小骨まで柔らか。少し甘めの上品な味が染みた醤油煮です。地元宮城県のメーカーの醤油や喜界島の粗糖、隠し味に国産山椒を使用しており、脂がのったあなごはふっくらでとろけるような食感が食欲をそそります。

「木の屋石巻水産」は、三陸沖の海の幸を原料に仕込む水産加工メーカーです。特筆すべきは、そのスピード感。朝に水揚げされた魚は、昼には缶詰になっていることも。創業から約60年、常に海と向き合い、魚と向き合い、「うまい魚を、うまいうちに」をずっと守り続けています。

しかし、2011年3月11日の東日本大震災によって、工場や倉庫を失う事態に。生産などはストップされてしまいましたが、2013年に再スタート。人気を博していた沖穴子醤油味付」も名前を「三陸産あなご醤油煮」に改め、2020年に9年ぶりの復活を果たしました。

様々な想いが込められた缶詰は、ファン待望の逸品。ご飯のお供としてはもちろん、お寿司やたまご焼きなどにして美味しくお召し上がり頂けます。

やはり定番の食べ方は、ご飯に乗せてぜひ。湯煎で温めることによって、より美味しく、ふっくらした食感に。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp

Photographs:KOH AKAZAWA
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
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山に触れ、山を知り、山に学ぶ。中山道34番目の宿場・奈良井宿を舞台にした19回目の「DINING OUT」速報。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

DINING OUT KISO-NARAI2年半の時を越え、帰ってきた「DINING OUT」。

去る2022年7月23日、24日。約2年半ぶりに『DINING OUT』が開催されました。

舞台となったのは、古の宿場町の面影が色濃く残る奈良井宿。中山道34番目の宿場であり、深い山々に囲まれる木曽路の街に、二晩限りのレストランが現れました。

料理を担当するのは、「ミシュランガイド東京」2つ星、「ゴ・エ・ミヨ東京」3トック、「アジアのベストレストラン50」1位、「世界のベストレストラン50」20位など、数々の賞に輝いた『傳』の長谷川在佑氏。常に産地や食材へ深い敬意を示す長谷川氏が、この地の食文化を紐解き、自身の感性に重ね合わせます。

新型コロナウイルス感染拡大によって世界中が翻弄され、繰り返された緊急事態宣言、自粛。飲食店においては、時短営業、酒類提供禁止……。コミュニケーションは遮断され、日常や当たり前は一変。様々な時代の節目を経て、人々の価値観が大きく変わる今、19回目となる『DINING OUT』もまた、新たなステージに進みます。それは、ただ土地の魅力を伝えるだけでなく、食を通してより深く地域に踏み込み、地元と深く繋がること。それではさっそく『DINING OUT KISO-NARAI』の様子をお届けします。

2015年に静岡で開催された『DINING OUT NIHONDAIRA』、2017年にパリで開催された『JAPAN PRESENTATION』のシェフを担ってきた長谷川氏。「『DINING OUT KISO-NARAI』は、それらとは全く別物。自分自身も本当に大事なことを知る機会となりました」と長谷川氏。

『DINING OUT』のホストを今回で通算10回務めるコラムニストの中村孝則氏。披露される土地への深い知識が、料理に彩りを添える。

DINING OUT KISO-NARAIテーマは「山中に学ぶ」。山深い木曽の地に受け継がれる伝統を紐解く。

「木曽路はすべて山の中」。

島崎藤村の代表作『夜明け前』は、そんな言葉で始まります。木曽を訪れてみると、その言葉が腑に落ちることでしょう。山々に囲まれ、冬は雪に閉ざされるこの地。ここには、保存食を中心とした独特な食文化が育まれました。今回の『DINING OUT』では地域に触れ、人に触れながら、そんな食文化を体験します。

ゲストが乗り込んだバスがまず向かったのは、レセプション会場である『塩尻市立楢川小中学校』(以下、楢川小中学校)。「小中学校」とは、小中一貫で9年間学ぶ義務教育学校で、この重厚な木造校舎では約100名の児童生徒が学んでいます。

入り口でホストのコラムニスト・中村孝則氏と地元の「お母さん」たちが出迎えます。下駄箱を通り、廊下を歩いてまず向かったのは教室。ゲストが席に着くと、中村氏の挨拶と、『楢川小中学校』の山本秀樹校長による学校紹介がありました。山に学び、山とともに生きる暮らし。校長先生の興味深くウィットに富んだ話に、ゲストたちは笑いとともに聞き入っていました。

次いで中村氏にうながされ、向かった先はランチルーム。この学校には全生徒が一度に昼食をとるための食堂が完備されているのです。ランチルームの入り口頭上には大きな書が飾られていました。

「山中に学ぶ」。

芸術家・池田満寿夫氏によるこの言葉こそ、今回の『DINING OUT KISO-NARAI』のテーマ。山に囲まれ、山とともに生きるこの地の知恵を、食を通して学ぶこと。それはゲストにとっても開催地の人々にとっても、一夜限りの晩餐では終わらない総合的な体験となることでしょう。

このランチルームで生徒たちは、学年の垣根を越えて交流します。さらに毎日の食事に使用されるのは、地域の方々から提供された漆器の食器。

「地域の方がくださった大切な器で食事する。食の大切さを学ぶ教育です」。そんな校長先生の言葉が印象的でした。

いよいよレセプションの幕開けです。アペリティフには、信州の地酒『亀齢』と郷土料理。この料理を担うのが、前述の「お母さん」たち、「楢川地域おこし農家組合」です。

信州の伝統野菜・羽淵キウリの漬物、地元ではおやつの定番という餅菓子・お釈迦のおみみ、家庭ごとに味つけが違うという夕顔汁。この土地で古くから親しまれている味を入り口に、この地の食を巡る一夜の体験が始まりました。

『楢川小中学校』の校舎は築31年。2022年度から、新たに小中学校として再出発を果たした。

木曽楢川小学校と楢川中学校を統合して生まれた楢川小中学校。1991年に新築された木造校舎には、地元のヒノキがふんだんに使用されている。

出迎えたのは、エプロン姿の「楢川地域おこし農家組合」の方々。地域とのふれあいを通して、ゲストをこの地の食の世界へと誘う。

レセプションは、3年1組の教室にて開催。『楢川小中学校』の山本秀樹校長先生による学校の説明から。まるで学校説明会のようなスタイルと興味深い話に、これからの晩餐に期待が高まる。

『楢川小中学校』のランチルームの掲げられた「山中に学ぶ」の力強い毛筆は、池田満寿夫氏の揮毫。

「楢川地域おこし農家組合」のお母さんたちが手がけた郷土料理は、地元で親しまれ、素朴で滋味深いおいしさ。器や盆などは、もちろん漆器。

「このへんは交通の便が悪いからね、おやつも何もみんな手作り」とお母さんたち。地元で親しまれる伝統の味を、心をこめてサーブしてくれた。

「楢川地域おこし農家組合」の皆様。古くから旅人が行き交う宿場町だけに、おもてなしの心が脈々と受け継がれている。

乾杯のドリンクは、長野が誇る幻の銘酒・亀齡が選ばれた。

DINING OUT KISO-NARAI中山道の上に現れた前代未聞のディナー会場。

『楢川小中学校』を後にし、いよいよ会場である奈良井宿へ。到着したゲストが目にしたのは、街道の上に並べられたテーブルでした。そう、今回の会場は、奈良井宿の街道上。中山道の路上で食事をとるという前代未聞の晩餐です。

中村氏と長谷川氏からの挨拶の後、いよいよディナーがスタート。

一品目は信州名物のおやき、二品目は海のないこの地でタンパク源として親しまれた鯉、三品目にはシナノユキマスを木曽地域独特の漬物すんきとともに。次いで木曽地域で食されてきた雑穀を柔らかく煮込んだ信州牛と合わせた一皿。どれもこの地に伝わる伝統を、長谷川氏流にアレンジした料理ばかりです。

その料理とともにゲストの目を捉えたのは器。艶のある木曽漆器の器は、実はレセプションで訪れた楢川小中学校の給食食器。生徒たちが毎日使用する器を通し、この地の食文化をさらに深く体験します。

三品目の料理サーブは、そんな『楢川小中学校』の生徒たちが担当しました。やや緊張の面持ちで慎重に料理を運ぶ生徒たち。

「どうぞごゆっくりお楽しみください」。

そう話す言葉には、宿場町に伝わるおもてなしの心がこもっていました。

奈良井宿の路上を貸し切ってディナー会場に。古の風情漂う街に、上質なレストランが出現した。

中村氏と長谷川氏による乾杯の挨拶。キッチン含め、拠点になったのは、奈良井宿の『徳利屋(とくりや)』。普段は、手打ちそばや独自の三食五平餅も人気の名店。

一品目の鰻と茄子。信州名物のおやきを、脂の乗った鰻を使ってアレンジ。

長野県に伝わる鯉食文化。長谷川氏は鱧のように骨切りして羽淵キウリの餡と合わせた。楢川小中学校で日常的に使用される漆の給食食器が、長谷川氏の料理としっくりと馴染む。

楢川小中学校の生徒たちによるサーブ。「プロのサービスを間近で学ぶことができた」と、生徒たちにとっても良い経験となった。

やや緊張の面持ちの『楢川小中学校』の生徒たち。配膳とご挨拶の役割をしっかりと果たした。

DINING OUT KISO-NARAIただの食事で終わらない、一連の体験としての「DINING OUT」。

料理は続きます。

きのこや山菜を煮込んだ鍋の中で蕎麦を温めて味わう投汁蕎麦は、厳しい寒さの中で体を温める知恵。素朴な郷土料理にこめられたアイデアと技術が、木曽の食文化を伝えながら、新鮮な驚きと感動も伝えます。

投汁蕎麦に使われていたのは、ほかの食器とは少し趣の違う木曽漆器でした。木曽漆器工業組合の石本理事長が登壇し、木曽漆器の伝統と魅力について語ります。

「漆は使うほどに透明度が上がり、艶が増していくもの。どうぞ末永くお使いいただき、そして使う度に、この地を思い出して頂けたら」と石本理事長。そう、この器は今日の思い出として、ゲストへのサプライズプレゼントだったのです。

テーブルには信州特産のルバーブととうもろこしのデザートが届きました。ディナーコースは、これにて終了。しかし木曽の食体験はまだ終わりではありませんでした。

登場した「地元婦人会・桜香会」の皆さんから手渡されたのは、わっぱの折り詰めに入ったおにぎりと漬物。ホテルに戻ってから小腹を満たすお夜食です。地元の方が心をこめて握ったおにぎりは、きっと旅の余韻とともに深くゲストの心に刻まれることでしょう。

打ち立ての香りと素材の風味が生きた蕎麦。この日のために作られた漆器の椀はゲストへのプレゼント。

「木曽漆器工業組合」の石本則夫理事長が、木曽漆器の歴史と魅力を語った。

格子越しにしっとりと会場を彩る花は、奈良井宿の宿『花と休息 Wakamatsu』店主であり花道家の山本文弥氏の作。

心をこめておにぎりを握ってくれた「地元婦人会・桜香会」の皆様。

ひとつは辛味噌の焼きおにぎり、ひとつは大葉を添えた酢飯。どちらもこの地で親しまれるおにぎり。

DINING OUT KISO-NARAI食を通して伝える、人との繋がりの大切さ。

長谷川在佑氏による地元の食文化への敬意に満ちたディナーコースは、心地良い余韻を残して幕を閉じました。

「待ちに待った『DINING OUT』。この日を迎えられたことが何よりもうれしい。この2年半の間にいろいろなことが変わりましたが、人との繋がりは変わることはありません。多くの人に支えられたこの『DNING OUT』を通して、人と繋がっていくこと、会うことの大切さを再認識できました」。

そんな挨拶で結んだ長谷川氏。

趣向を凝らした料理はもちろん、レセプションでの郷土料理、子どもたちによる配膳、木曽漆器のサプライズプレゼント、地元の方の心づくしのお夜食と、地元の方々の協力に支えられた今回の『DINING OUT』。それはこの2日の特別な夜だけではなく、今後も長く続くような深い繋がりを生みました。

日本のどこかにある日突然現れ、数日で消えてしまう幻のレストラン。しかし山中の豊かな食文化と地元の方々との繋がりを感じた一夜の晩餐は、生涯忘れない記憶となってゲストの心に刻まれたことでしょう。

過去最大人数の地元の方々が携わった『DINING OUT』。開催を支えた大勢のスタッフたち。厨房では地元飲食店のシェフたちも活躍した。

開催日程:2022年7月23日(土)、24日(日)
開催地:長野県塩尻市
出演:シェフ 長谷川在佑『傳』
    ホスト 中村孝則(コラムニスト)
協賛: 一般社団法人塩尻市観光協会、サントリー株式会社、日本航空株式会社
協力: 一般社団法人木曽おんたけ観光局、木曽漆器工業協同組合、塩尻市、塩尻市立楢川小中学校、奈良井区、奈良井宿観光協会

Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

14ozブロークンセルビッチワークジャケット〈ブラックオーバーダイ〉

    14ozブロークンデニムを使ったワークジャケット!

  • 【IHJ-122】を製品の状態でブラックでオーバーダイした一着
  • ブロークンデニムとは

  • 右綾と左綾デニムに比べて経糸と緯糸の接点が広く取られていて、綾織りと平織りの良い所をミックスした織り方のため、破れに非常に強いとされています
  • 左右交互に織られているため、ねじれが出ないのが特徴
  • ヴィンテージジーンズに見られる脚のラインのよじれは、デニムのよじれによるもの。ブロークンデニムは、そのよじれ防止を生地段階から実現したデニム。綾目を一定の幅で、反対方向に並べて織られ、デニム表面には綾目が出ない。この織り組織から、壊れないデニム=ブロークンデニムと命名されたデニムです
  • 商品により多少の誤差が生じる場合がございます。予めご了承ください

素材

  • 綿:100%

生産国

  • 日本

納期

  • 3月頃
  • 生産状況によっては大幅に遅れる場合もございます。

フルーツ王国岡山の名品、清水白桃のコンポート。[和光アネックス/東京都中央区]

「角南製造所」の「フルーツコンポート 清水白桃」。桃の生産者と栽培を契約し、その年の清水白桃の生育状況を把握。一番美味しい時期に収穫し、一番美味しいものを厳選して加工する。

WAKO ANNEX目、鼻、手。手作業でなければ生むことができない美味しさ。

昭和10年創業。フルーツ王国岡山の老舗加工メーカー「角南製造所」が作る「フルーツコンポート 清水白桃」は、手作業にこだわった逸品です。

人の感性とも言うべき目、鼻、手で完熟度合いを判断し、最も美味しく加工できるタイミングを見極めます。中でも、特にこだわっているのが、湯剥き。その理由は、桃の果肉と皮の間の一番美味しいところを残すことができるからです。これは機械ではできず、「角南製造所」では、約60年続けているのです。

そんな岡山産の清水白桃を丁寧にシロップ漬けにしたものが「フルーツコンポート 清水白桃」なのです。そのままいただけば、素材そのものの甘さや食感を楽しめますが、ヨーグルトやケーキのトッピングとしてもお勧め。ぜひ、シーンに応じて様々な清水白桃の味をお楽しみいただきたい。

ひとつ一つ丁寧に手剥きし、シロップ漬けに。まろやかな風味をそのままに、とろけるような食感が特徴。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

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Photographs:KOH AKAZAWA
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
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アイアンハートキャンプ7th チケット

はじめに

2014年より始めました、アイアンハートキャンプ。ご参加いただいた皆様に大変ご好評いただだいておりましたが、2019年10月に、西日本開催された『アイアンハートキャンプウェスト1st』最後に、2020年以降、新型コロナウイルス感染症影響により、開催見合わせておりました。

その後、関係各所との打ち合わせ重ね、今年2022年11月、ようやく、再開できる運びなりましたので、 アイアンハート好き皆様集まっていただき、BBQゲームなど楽しみながら、交流深めて頂きたい考えております。

ただ、新型コロナ感染症リスク考慮し、今回は例年より大幅規模縮小しての開催なってしまいます。受付人数は、ごく少人数なりますので、キャンプチケット販売際には、多くご希望沿いかねる状況予想されますが、何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。

アイアンハートキャンプ7th 概要

イベント名 IRON HEART CAMP 7th
場 所 〒369-1304 埼玉県秩父郡長瀞町大字本野上 363 フォレストサンズ長瀞
主催 株式会社アイアンハート
日程 2022年11月12日(土)〜13日(日)  雨天決行
料金 大人 ¥15,000(税込¥16,500)
小学生以下のお子様0円(税込0円)

参加方法

  • キャンプチケットをお一人様一枚ご購入ください。複数名でご参加の場合は代表者の1名様がまとめて人数分をご購入いただきますようお願い致します。
  • チケットは、数量に限りがあります。なくなり次第、終了となります。
  • ※チケットをご購入いただいた方には、イベント保険の関係上、後日、ご参加の方全員のお名前と生年月日をお知らせいただきます。

チケット購入の仕方について

複数名でご参加の場合は代表の1名様がまとめて人数分お申し込みいただきますようお願い致します。

【例:大人2人 小学生以下のお子様3人でご参加の場合】

  1. 大人にチェックを入れて数量を2でカートに入れるボタンを押す
  2. カート画面になったら、大人2になっていることを確認し、“ショッピングを続ける”から元の商品ページに戻る
  3. 小学生以下のお子様にチェックを入れ、数量を3にして“カートに入れる”ボタンを押す
  4. カート画面で大人2、小学生以下のお子様3、になっていることを確認し、画面左に代表者の方の情報を入力いただき、手続きを進めてください。
  5. 事前に会員登録をしている場合は、左上のボタンからログインして頂くと、登録情報が自動的に入力されますので、お買い物がスムーズです。

スーパーフードとしても注目される、はだか麦の麦茶。[和光アネックス/東京都中央区]

「福岡正信自然農園」の「はだか麦茶」。はだか麦には豊富な栄養素が含まれ、スーパーフードとしても注目されている素材。

WAKO ANNEX自然を尊重したはだか麦の栽培。環境を配慮したはだか麦茶の品。

「はだか麦茶」を製造する「福岡正信自然農園」では、他の作物同様、自然の循環を尊重しながら植物の力を最大限に引き出す手法で、はだか麦を栽培しています。

はだか麦とは、世界最古の栽培植物のひとつとして知られ、愛媛県では古くから栽培されている麦の一種。プチっとした食感が特徴的であり、脱穀すると簡単に殻が取れることからその名が付いたと言われています。

そんなはだか麦を、もっと身近に楽しんでいただきたいという想いから生まれたお茶が「はだか麦茶」なのです。麦ならではの香ばしさが口いっぱいに広がり、ノンカフェインのため、お子さまや妊婦の方にも安心して楽しむことができます。

また、常に自然に敬意を示す「福岡正信自然農園」の想いは、パッケージや仕様にも反映され、包装は再生可能なとうもろこし由来の不織布を使用し、使い切りのテトラ型のティーパックを採用。

はだか麦を焦がさないよう、最初は低温でゆっくりと焙煎し、その後一気に火力を上げ、しっかり焙煎。この火加減とタイミングが誰でも美味しく淹れられるティーパックたる所以であり、熟練された職人技と感覚が成すもの。

日々の生活にはだか麦を取り入れることによって、健康にも健やかな美味しい日々をぜひ。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

急須やティーポットにティーパックを入れ、約90℃のお湯を150~200ml注ぎ、3~5分蒸らしてからぜひ。夏場や暑い日は、氷を入れ、冷やした「はだか麦茶」がお勧め。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

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金沢から新たな文化を。レストランという表現の地平を拓くシェフ・トリオ。[respiración/石川県金沢市]

レスピラシオンOVERVIEW

ローカルガストロノミーのディスティネーションとして注目を集める石川県金沢市。全国的にも指折りの名店ひしめくこの美食の地で、近年一気に輝きを増したレストランがあります。

『respiración(レスピラシオン)』。
スペイン語で「呼吸」を意味する言葉を冠するこのレストランは、2017年に金沢市の中心部である近江町市場近くに開業したモダンスパニッシュの店です。

開業からわずか4年で、ミシュランガイド北陸2021特別版にて二ツ星を獲得。環境への配慮や生産者支援などサステナブルな取り組みを評価するミシュラングリーンスターもダブル受賞し、その名は全国に知られることになりました。

『レスピラシオン』は3人のシェフにより設立されました。
梅 達郎氏。
北川悠介氏。
八木恵介氏。
彼らは揃って金沢市の隣の内灘町出身。そして同い年。梅氏と八木氏は幼稚園から一緒。小学校からは北川氏も加わり3人共にミニバスケ、バスケットボールに打ち込みながら中学時代までを一緒に過ごしました。家は梅氏と北川氏が歩いて1分の距離。八木氏の家もそこからわずか5分です。高校は北川氏だけが離れたものの、引き続きそれぞれの高校でバスケに取り組みながら、親密な付き合いは続きました。洋服の趣味も、音楽の趣味も同じ。興味のあるもの、好きなことを共有し、いつしか3人は一緒にいることが当たり前になっていました。

そんな3人は、高校卒業後、それぞれの道に進みます。
けれど、時を経て3人ともが自分の愛すべき家庭を持った30代後半、再び結集し、つくり上げたのが『レスピラシオン』です。

鉄の結束で同じ夢に向かって歩く3人。そこには、一体どんな物語があるのでしょう?

『レスピラシオン』の軌跡、そして今を見つめます。

住所:石川県金沢市博労町67
電話:076-225-8681
営業時間
   昼:12時一斉スタート
   夜:18時一斉スタート
 定休日:月曜日を中心に月6回
https://respiracion.jp/

日本初、50位以内に4店舗ランクインの大躍進を見せた「ワールドベスト50」。

アワード後に、全シェフが檀上に集まり、喜び合い、また来年への頑張りを誓う満たされたひと時。

世界のベストレストラン50世界一に輝いたのは、デンマーク・コペンハーゲン「ゲラニウム」。日本勢は、「傳」、「フロリレージュ」、「ラシーム」、「ナリサワ」が健闘。

世界27の国と地域の食の識者40人ずつの投票によって、文字通りベスト50位のレストランが決まる『The World’s 50 Best Restaurants awards 2022』(以下、ワールドベスト50)。このランキングシステムが創設されたのは2002年。栄えある1回目のベスト1に輝いたのは、かの伝説のレストラン『エルブリ』です。それから今年でちょうど20年、去る7月18日にロンドンで行われたアワードは、まさに20年の集大成となる、華やかなものとなりました。というのも、コロナ禍をはさんで、これだけ多くのシェフやメディアが集まれたのは3年ぶり(2020年中止、2021年小規模開催)だったからです。世界を代表するトップシェフたちが、また一同に顔を揃えられたということに、皆、喜びを爆発させていました。会場となった『オールドビリングスゲート』は、1980年代初頭まで魚市場だったビクトリア朝の歴史的建造物。ブラックタイにカクテルドレスの男女、赤いマフラーを巻いたノミネートシェフたちが、グラスを手に行きかい、あちらこちらでハグを交わす姿はなんとも艶やかでした。

今回のアワードの一番の注目は、1位の行方。2021年は、2位の『ノーマ』がスライドして1位になるだろうというのが大方の予想でしたが、今回に関しては2位のデンマーク『ゲラニウム』がくるのか、はたまたこの10年近く、5位前後を死守しているペルー『セントラル』(昨年は4位)が念願の1位に輝くか、予想が分かれるところだったからです。話が前後しますが、『ワールドベスト50』では2018年以降、一度1位にランクインしたら、ベスト オブ ザ ベストとして殿堂入りし、ランク外となるルールができたため、こうした予想が成り立つわけです。

果たして、1位の座を射止めたのは、ラスムス・コフォードシェフ率いるデンマーク『ゲラニウム』、2位にビルジリオ・マルチネスシェフ率いる『セントラル』がつけました。コフォード氏は、料理界のオリンピックとも言われる技能大会『ボキューズ・ドール』でも、金・銀・銅賞を受賞した実力者で、ミシュランの三ツ星も獲得しており、まさに、今回の1位で、料理界の真の帝王となったといっても過言ではありません。昨年からメニューのミートフリー宣言をするなど、時代に先駆けている点も注目です。また、ビルジリオ氏は、クスコの伝統文化を繋ぐ支店『ミル』の開店や、アマゾンの生態系の研究に力を入れるなどの社会貢献のほか、7月には日本に支店『マス』をオープンしたばかり。一層の高評価は、日本人である我々にとっても喜ばしい限りです。

『ゲラニウム』チーム。真中のベスト姿がシェフのラスムス・コフォード氏。その右隣りは、マネージャーのソレン・レデット氏

世界のベストレストラン50

日本勢も過去最高の4店舗のランクインと大健闘を見せました。その筆頭が20位の『傳』
で『The Best Restaurant in Asia』を獲得しました。昨年11位、悲願のベスト10入りはかないませんでしたが、コロナ禍でインバウンドが激減したなかではむしろ賞賛に値すると言えるでしょう。何より、これまで、タイ、シンガポール、香港に阻まれて、獲得できなかった、アジアNo1を手にしたわけですから、まさに傳の真価が発揮されたともいえます。長谷川在佑氏に喜びの声を聞くと、「順位はそれほど気にしていません。それより、何より嬉しかったのは、こうして世界のシェフたちとまた集まれたこと。久しぶりに彼らの顔を見て、おおいに刺激を受けましたし、また頑張ろうと思えました。僕にとっては、ワールドベスト50はカンフル剤みたいなものです」と話します。

『傳』の受賞が、表彰台の大スクリーンに映し出された瞬間。日本勢の中はトップにランクイン。

世界のベストレストラン50

次点が、39位から30位にジャンプアップした『フロリレージュ』。川手寛康氏は「インバウンドがほぼなかった中で、多くの評議員が訪れ、評価してくださったことは、本当に嬉しいです。けれど、コロナ渦中のこの結果は仮のものだと思い、これには甘えないようにします。本当の勝負は来年だなと。今年後半からは海外でのコラボレーションも増えていますし、自分らしく頑張りたいですね」と。そして、日本にとっての吉報は、大阪の『ラシーム』が41位にランクインしたことです。高田裕介氏の感想は「大阪というハンデがある中、正直、そんなに評議員がきてくださっていたのかと驚いていますが、こうして会場へ来て、海外のシェフたちに会うと、自分自身もっと変化を受け入れ、進化しなければいけないと、強く感じますね」と決意を新たにしていました。そして45位に『ナリサワ』がランクインしています。19位からランクを落としたのは残念ですが、もとより海外票の多い『ナリサワ』にとっては、この状況はいたしかたのないものでしょう。それより、2009年に、初めて『ワールドベスト50』にランクインして以来、一年も欠かさずランクインし続けている店は、2022年の50店舗のうちでもごく少数であり、その貢献には心から賞賛を送りたいものです。

『フロリレージュ』の受賞が映し出された瞬間(左)と『ラシーム』の受賞の瞬間(右)は、大いに湧いた。

『ナリサワ』の受賞が映し出された様子。右前方で立ち上がっているのが、成澤由浩氏。

世界のベストレストラン50

最終的に日本は、最多入賞6店舗のスペインとイタリアに次ぐ、多勢入賞国となったわけで、真の美食大国であることを、世界に知らしめるにいたりました。

アワードの前日に「シェフズトーク」という、メディア向けのセッションがあり、その年のテーマとなることをシェフが語るのですが、そのひとつが「ホスピタリティ」でした。世界が政治的に厳しい局面を迎え、殺伐とした世の中だからこそ、一層、おもてなしの心が大切になるということを考えてのことでしょう。ホスピタリティに定評のある『傳』(かつて、アジア、ワールド共に、アート オブ ホスピタリティ賞を受賞)の女将のビデオインタビューが流れ、個々のゲストが求めているものを汲み取る力の重要性を語り、賞賛を得ていました。長谷川氏も、「じきに海外のお客様が戻ってきてくれると思いますが、いつでも迎えられるように、日々、自分やスタッフをブラッシュアップしています。もちろんうちだけでなく、成澤さんはじめ、『フロリレージュ』、また、ニューエントリーした『ラシーム』も含め、チームジャパンで一丸となって、海外のお客様を迎えていきたいですね」と心意気をのぞかせてくれました。そして、ロンドンの街の賑わいにふれ、日本も一日も早く経済活動が活発になるようにと、切実に思ったとも。

最終的に日本は、最多入賞6店舗のスペインとイタリアに次ぐ、多勢入賞国となったわけで、真の美食大国であることを、世界に知らしめるにいたりました。

アワードの前日に「シェフズトーク」という、メディア向けのセッションがあり、その年のテーマとなることをシェフが語るのですが、そのひとつが「ホスピタリティ」でした。世界が政治的に厳しい局面を迎え、殺伐とした世の中だからこそ、一層、おもてなしの心が大切になるということを考えてのことでしょう。ホスピタリティに定評のある『傳』(かつて、アジア、ワールド共に、アート オブ ホスピタリティ賞を受賞)の女将のビデオインタビューが流れ、個々のゲストが求めているものを汲み取る力の重要性を語り、賞賛を得ていました。長谷川氏も、「じきに海外のお客様が戻ってきてくれると思いますが、いつでも迎えられるように、日々、自分やスタッフをブラッシュアップしています。もちろんうちだけでなく、成澤さんはじめ、『フロリレージュ』、また、ニューエントリーした『ラシーム』も含め、チームジャパンで一丸となって、海外のお客様を迎えていきたいですね」と心意気をのぞかせてくれました。そして、ロンドンの街の賑わいにふれ、日本も一日も早く経済活動が活発になるようにと、切実に思ったとも。

もう1点、日本にとって喜ばしいニュースは、旭酒造『獺祭』が国際スポンサーに参入したことです。これまで、日本が参加し始めた2007年から一社もスポンサーに手を上げる企業がなかったのです。世界的なレストランの大会で、各国の飲料・食品メーカーが華やかにブースを出し、いたるところでロゴマークを目にし、パーティでは、皆それらの美味を飲み、食べ、集う中、美食大国を自負する日本から、スポンサーが出ていないことは、大変に寂しいことでした。それが今年は、『獺祭』の墨文字も眩しい、真っ白なブースが入口の至近に出され、世界中のシェフやメディアが「SAKE please!」と、『獺祭』の「ニ割三分」を楽しんでいる姿は、誇らしいものでした。これでようやく、日本が国際市場に参入できた、そんな気になったほどです。桜井社長も「日本のシェフが世界で勝負する姿は、日本人として心が震えました。獺祭がその力添えになれればこんなに嬉しいことはありません」と感激を言葉にしてくれました。

凛とした『獺祭』のブースと、ゲストをお迎えする桜井一宏社長。

大変な盛り上がりを見せる、アフターパーティの様子。

世界のベストレストラン50

10年間日本のチェアマンを務める中村孝則氏に、今回のアワードで印象的な事象をあげてもらうと「新規のランクインが12軒、カムバックが2軒と、計14軒のリストが刷新されたことでしょう」と言います。「この入れ替わりの激しさは、例年にないもの。つまり、コロナ禍で海外へ出かけることができなかった地域(主にアジア、南米)の評議員には、通常は自国に6票、他国に4票投票するところ、全票を自国に投じてもよいという救済措置が施され、多くの人が、これまで入れなかった自国のレストランに投票したためだと思われます。これまで、自国では名店でも、世界的なリストには上がってこなかったような、ローカルガストロノミーが、土俵に上がってきた。こう考えるのが順当ではないかと思います」と話します。

実際、これまで美食の国ではありながら、それほど多くの票を獲得してこなかったイタリアが、6店舗のランクインと、スペインと並ぶ、トップの入店国になったことも、ひとつにはこの理由が上げられるでしょう。6店舗中の新店は2軒。中でも初ランクインの12位セニガリアの『ウリアッシ』は、アドリア海沿岸の伝統にインスピレーションを受けたモダンな料理で、ハイエストニューエントリー賞を受賞。もう1軒は29位のサンカッシアーノ『セント ヒューベルト』です。また、8店舗の入店と、今回強さが目立った南米も同じくで、32位のリマ『マイタ』、47位リオデジャネイロ『オテーク』2店舗の新店がランクインしています。

相対的にコロナ禍で海外旅行がままならないなか、地方のレストランを掘り起こすという作業が進んだということが言えますが、完全にコロナ前の世界に戻った時、この現象がもとへ戻るのかは定かではありません。しかし、一度動き始めた波は止まらないのではないだろうか、というのが私の考えです。ひと昔前の、地球の裏側から季節外の野菜を取り寄せることが最高の贅沢だった時代から、その地へ足を運ばなければ食べられないものを、体験しに訪れることこそ贅沢という考え方が進む限り、ローカルガストロノミーへの探求は止まらないはずです。世界一位のレストランを決める大会であるワールドベスト50のランキングを、デスティネーションレストランマップとおきかえて読み込めば、なんとも楽しい、世界の新しい地図が見えてくるはずです。

喜びを分かち合う日本チーム。左は、チェアマンの中村孝則氏。

Text:HIROKO KOMATSU

桃を丸かじりしているようなジュース。その名の通り、ご褒美な逸品。[和光アネックス/東京都中央区]

新潟県南魚沼の大地で農業に勤しむ「エル・グリーンファーム」の「gohoubiまるごと桃ジュース」。素材そのものの味がダイレクトに瓶詰めされ、味わいに力強さを感じる。

WAKO ANNEXとろりとした食感は、ジュースを超えたデザートのような味わい。

新潟県新潟市で栽培された桃だけを搾った「エル・グリーンファーム」の「gohoubiまるごと桃ジュース」。

ジュースの原料となる桃は、新潟県産の日の出(白鳳系統)。芳醇な香りと適度な甘さはもちろん、特筆すべきはそのテクスチャー。とろりとした食感は、まるでペーストやピューレのよう。グラスに氷を入れて飲むも良しですが、デザートや前菜感覚でカップに注ぎ、スプーンでいただくのも乙。リッチな味わいを堪能できるでしょう。

そのとろみの理由は、桃のフレッシュ感を損なわないよう丁寧に加工技術にあります。極限まで濃厚に仕上げることで桃を食べているような食感を再現。また、ジュースの味は、桃の品質に由来するため、生産年の違いによって味や濃厚さの変化が楽しめます。

自身はもちろん、誰かのgohoubi=ご褒美に、ギフトとしても喜ばれる逸品です。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

とろりとした食感は、飲むというよりも食べる感覚。よく冷やしてからいただけば、まるでデザートのような感覚も堪能できる。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp

Photographs:KOH AKAZAWA
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
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