ニセコの一棟貸しコテージ。夫婦の青春が詰まった、カタツムリの家。[Tree Shell Niseko/北海道虻田郡]

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蓄熱するモルタルと呼吸する丸太の効果で室内を快適に保つというコードウッドメイソンリー工法。

Tree Shell Niseko丸太とモルタルを積み上げた独特な工法。

整備されたゲレンデ周辺に高級ホテルが並び、外国人観光客向けの英語の看板が連なる−−まるで外国の避暑地のような、おしゃれな町・北海道ニセコ。
そんなリゾートの印象が強いニセコですが、大半は大自然に囲まれる閑静な場所。
それはいわば “何もない方のニセコ”。そんなエリアの一角に、一棟貸しのコテージ『Tree Shell Niseko』はあります。壁に無数の丸太の断面が見える不思議な建物。“Tree Shell(カタツムリ)”の名の通り、曲線が描く渦巻きが不思議な穏やかさを醸し出します。

宿泊施設としてのオープンは昨年とのことですがが、建物はもっと古いもの。それは傷んでいるのではなく、大切に使いこまれてむしろ魅力を増している印象があります。この建物に潜む物語を、オーナーに伺ってみました。

「丸太をモルタルとともに積み上げるコードウッドメイソンリーという工法です。木はこの地に生えていたカラマツを使っているんですよ」

そう教えてくれたのはオーナー・工藤三智子氏。

夫婦二人のセルフビルドだといい「たいへんだったけど、愉しかったな」と明るく笑いました。

ニセコのシンボル・羊蹄山を見渡す絶景もこのコテージの魅力のひとつ。

Tree Shell Niseko部屋の中心に据えられた重厚なヒーター。

「開拓ごっこがしたい」そんな動機のもと、本州出身の工藤氏がご主人とともにこの地に移ってきたのは、20年ほど前。胸まで伸びた草と木々があるだけの1300坪の土地に、小さな小屋を建てたのが始まりです。

「冬には10m以上の雪が降る地。週末だけ来て作業するのでは、なかなか進みません。それで退路を断つ意味でアパートを引き払い、ここに建てた小屋に住み始めたのです」

ログハウスビルダーだったご主人はさらに電気工事を学び、工藤氏は職業訓練校で左官を身に着けた。さあいよいよ建物の着工、かと思うとそうではありません。

「セルフビルドの本を読んでいて、とあるヒーターが気になって。それでアメリカにそのヒーターの勉強をしに行きました」

そういって工藤氏が指差したのは、建物の中心にある重厚なレンガのストーブ。メイソンリーヒーターという蓄熱型のストーブで、重量は3tもあるといいます。

「戻ってきて、まずこのヒーターを作りました。だから建物よりも先に、ヒーターができていたんです」

一度火を入れると本体に熱を蓄え、薪が燃え尽きたあとも、じんわりと穏やかな暖かさが続く。この穏やかな空間を象徴するようなヒーターです。

写真左が蓄熱式薪ストーブ、メイソンリーヒーター。レンガ造りで重量は3トンにも及ぶ。

オーナーの工藤氏。職業訓練校で左官を学び、セルフビルドに役立てた。

Tree Shell Niseko駆け抜けた青春が詰まった、思い出の建物。

そしてようやく建物の建築がスタート。デザインのイメージは、カタツムリ。

「幼稚園の頃かな。私が画用紙にカタツムリの絵を描いたら、母がそれをカバンにキレイに刺繍してくれたんです。きっとそれが心に残っていたんでしょうね」

5歳の頃に撒いた種が、20年の時を越えて実を結ぶ。若き夫婦は小さな小屋に住みながら、カタツムリの家を作りはじめました。モルタルとともに丸太を積む工法は二人がかりで一日作業をしても数十cmしか進まない、まるでカタツムリの歩み。草を払い、木を切り、家を建てる。それはまさに開拓と呼べるような日々だったのでしょう。

「本当に愉しかった」工藤氏は再びそう言いました。それは、毎日が風のように過ぎていく、夫婦ふたりの青春だったのかもしれません。

工藤氏の話の後で、改めて室内を見回してみます。
中心に堂々と佇むストーブ、その横には金属製のストーブがもうひとつ。上から見るとカタツムリの殻に見えるという建物は曲線が中心で、穏やかな開放感に満ちています。柱や梁やハンドメイドだという木製の家具は、丁寧に、大切に使いこまれて輝いています。

ふと窓の外をキタキツネが横切りました。それは特別なことではなく、このコテージの日常なのでしょう。

インテリアもセルフビルド。自然木の優しさを活かした穏やかな空間。

寝室は2箇所あり、4名まで宿泊可能。写真はシングルベッド2台を備えたロフト。

ウッドデッキには本格的なピザ窯も。キッチンには食器や調理器具も完備されている。

住所:北海道虻田郡ニセコ町ニセコ310-44 MAP
電話:090-9085-2766
https://treeshellniseko.com/

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