宇和島名物・太刀魚巻。時代を越えて愛される唯一無二の味。[河合太刀魚巻店/愛媛県宇和島市]

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秘伝のタレに潜らせながらじっくりと焼くことで、香ばしく、味わい深いおいしさになる太刀魚巻。

河合太刀魚巻店海産資源の宝庫・愛媛県で異彩を放つ名店。

北の瀬戸内海、南の太平洋、伊予灘、宇和海、豊後水道と豊富な漁場を抱える愛媛県。実際に訪れてみると、魚それぞれの鮮度や脂の乗りに加え、魚種の多彩さに驚かされます。街の食堂にも、魚屋にも、見たこともないようなさまざまな魚が並んでいます。

そんな愛媛県の宇和島に、少し変わった店があります。
店名は『河合太刀魚巻店』。その名の通り、太刀魚巻の店です。これほど魚種が豊富な愛媛で、太刀魚一本勝負。そこにはどんな物語が隠されているのでしょう。

「河合太刀魚巻店」の外観。かつては魚屋で賑わったエリアだが、いま賑わうのはこの店のみ。

河合太刀魚巻店名物はなくても訪れたくなる看板娘の人柄。

「ごめん!今日は太刀魚ないんだよ」

それが取材班を出迎えた『河合太刀魚巻店』の看板娘・河合京子さんの第一声でした。相手は自然。無いものは、無い。

「あるときは週に4〜5日はあるんだけど、無いときはめっきり。5回来て外れて、6回目でようやく、って人もいたよ」

快活で聞くだけで元気がもらえるような京子さんの声に惹かれ、店先でもう少し話を伺ってみました。

聞けば名物・太刀魚巻を考案したのは、京子さんの祖父。まだ冷蔵庫も普及していない時代、大量に揚がる太刀魚を活かすために青竹に巻いてチクワの焼台で焼いたのが始まりでした。

「このあたりは魚棚という地名で、この通りはみんな魚屋だったんだよ」

というが、現在、この店のほかに開いている店はありません。時代の流れを感じると同時に、その次代を越えて愛される太刀魚巻にいっそう興味が湧きます。

「コロッケはあるよ。これもおいしいよ」

それはこの店のもうひとつの名物、アジのすり身のコロッケ。ぎっしりと凝縮されたアジの旨みと、弾力、ピリッと効いたスパイス。素材が良いからか、魚の臭みとは一切無縁。味わい深く、ジューシーで、後を引く絶品です。

さらに京子さんの話は続きます。祖父と父のこと、近年の太刀魚の水揚げのこと、宇和島のこと、テレビの取材で大好きな俳優と中継で話し夢が叶ったこと。まるで昔からの友達と話すような時間。さすがは看板娘。名物の太刀魚巻がなくとも、訪れる価値がある愉しい時間を過ごせるはずです。

「河合太刀魚巻店」の看板娘・河合京子さん。その明るい人柄にファンも多い。

店のもうひとつの名物アジのすりみコロッケ。アジ100%で魚の旨みを凝縮。

プリッとした弾力と旨みに加え、スパイスの刺激もあり、酒の肴にもぴったり。

店の内観。客席などはないが、ここで名物を肴に一杯飲んでいく常連客も多い。

河合太刀魚巻店2日目にして出合えた名物・太刀魚巻。

翌日、取材班はもう一度店を訪れてみました。迎えてくれたのは昨日と同じ京子さんの笑顔。

「今日はあるよ!」

あたりに漂うタレが焦げる香ばしい匂い。焼台では見事な照りを放つ太刀魚巻が焼かれています。これが名物・太刀魚巻です。

淡白な太刀魚の身に絡む濃厚な甘辛のタレ。外側はパリッと香ばしく、中はふっくら柔らかで、ボリュームもたっぷりだ。一本あたり一尾半から二尾の太刀魚を使っているのだといいます。いまや高級魚となった太刀魚の、なんと贅沢な食べ方でしょう。

時代を越えて愛される名物・太刀魚巻。確かにこれはここにしかない、世界でひとつの味でしょう。

遠方から訪れる客も多いというこの店。それはもちろん太刀魚巻とアジのコロッケのおいしさのためでしょう。しかし話すだけで元気がもらえるような京子さんの存在もまた、『河合太刀魚巻店』の価値のひとつであることは間違いありません。

焼台から漂う、タレの焦げる香ばしい匂いは、角を曲がって表通りまで漂う。

外はカリッと香ばしく、中はふんわり。太刀魚の淡白な味わいが、タレとベストマッチ。

住所:愛媛県宇和島市吉田町魚棚28 MAP
TEL:0895-52-0122
http://www.tachiuomaki.com/

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