コロナ禍に開催された「DINING OUT KISO-NARAI」。我々は、何を失い、何を得たのか。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

ダイニングアウト木曽奈良井

周知の通り、『DINING OUT KISO-NARAI』は、コロナ禍に迎えました。それゆえ、各方面にご心配をおかけしたかもしれませんが、地元の方々の心強いご支援をいただきながら、無事に開催することができました。

同時に、『ONESTORY』一同、この町の素晴らしさ、受け継がれてきた文化、伝統工芸の匠、住民の想いなどを学ぶ機会にもなりました。そして、何より、人の暖かさに触れられたことが一番の喜びにつながりました。

キッチンで奮闘する地元シェフ、心を込めたサービス、木曽漆器を造る職人や組合、学校の指導に情熱を注ぐ先生やそこに学ぶ児童生徒、商工会や農家組合の皆様、その全ての姿が目に焼き付いています。長谷川在佑シェフやホストの中村孝則氏においても、新たな視点からこの町の魅力を表現していただきました。

語弊を恐れずに言えば、『DINING OUT KISO-NARAI』は、『DINING OUT』史上、最も素朴かつ小さな地域だったと思います。しかし、間違いなく最も大切な回になりました。

本当の価値とは何か、本当に大切なものは何か。今回は、その答えを導き出す場であり、伝える場でありたいと思い、実施に踏み切りました。

DINING OUT KISO-NARAI』をきっかけに、何かが好転したと願いたい。誰かの背中を押すきっかけになったと願いたい。前を向くきっかけになったと願いたい。一歩を踏み出すきっかけになったと願いたい。今なお、そう思っています。

2020年2月、日本における新型コロナウイルス発覚から約2年半。世界中は難局に陥りました。

改めて問いたいと思います。我々は、何を失い、何を得たのか。

もしかしたら、失ったものは何もなく、不必要なものがそぎ落とされただけなのかもしれません。それによって大切なものは際立ち、残った欠片を人は豊かさと呼ぶのでしょうか……。

答えを言い当てるには、もう少しだけ時間がかかりそうです。

しかし、いつの日か、考え続けた先にあるその答え合わせをしたいと思っています。場所は、もちろん木曽平沢・奈良井宿で。変わらず美しい、あの景観を眺めながら。

最後に。『DINING OUT KISO-NARAI』に関わった全ての方々、ゲストの皆様に、深く御礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

ぜひ、お写真とともに、振り返る時間をお楽しみください。

また、日本のどこかでお会いしましょう。

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Text:YUICHI KURAMOCHI
 

「DINING OUT」の成功を影に支えたプロのサービス。「JALふるさと応援隊」3名の活躍。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

『DINING OUT KISO-NARAI』のサービスを担当した『JALふるさと応援隊』の3名。左から横山侑己さん、伊藤昌代さん、鈴木麻里さん。

DINING OUT KISO-NARAI地域活性化を目指し創設された『JALふるさと応援隊』。

2022年7月23日、24日に開催された『DINING OUT KISO-NARAI』。地元の婦人会や小中学生の協力のもと、その後も続くような地域との繋がりを生むことが今回の『DINING OUT』の目的のひとつでもありました。

そんな会場には、洗練された立ち居振る舞いとマスク越しでもわかるにこやかな笑顔でゲストをもてなす3名の人物の姿がありました。

彼女たちは、日本航空の現役客室乗務員。全国各地の活性化を応援するために社内公募により選ばれた『JALふるさと応援隊』のメンバーたちです。

『JALふるさと応援隊』とは、客室乗務員の資質をさらに広い場で発揮すべく生まれたプログラム。地域の活性化をさまざまな活動を通して応援し、そして、そこでの学びを日頃の乗務にフィードバックする。そんな思いの元、各都道府県約20名、合計約1,000名のメンバーが日々活動をしています。

地域と交流を生み、地域に貢献することを目指した今回の『DINING OUT KISO-NARAI』。その現場に同じ志を持つ『JALふるさと応援隊』が応援に駆けつけてくれたのです。今回はそんな3名の現場で思いや、イベントを終えてみての感想を伺ってみます。

さまざまな立場のスタッフが、それぞれのスキルと長所を活かして活躍。誰もが『DINING OUT KISO-NARAI』の成功を支えた立役者。

DINING OUT KISO-NARAI漆器の魅力と、人との交流の大切さに気づいた2日間。

ゲストのお出迎えからレセプション、本番のドリンクやフードのサービスまで。さまざまな場面で、自然体のようで行き届いた目配りで活躍した横山侑己さん。今回の体験の中、「とりわけ漆器の魅力を強く感じました」と言います。

「漆器というと大切に箱にしまって特別な日に使う食器というイメージでした。しかし木曽の漆器は日常的に使い、使い込む事でさらに透明感が増していくもの。給食食器に使うことで子供の頃から本物に触れる教育も含め、漆器との関わり方も魅力的に映りました」と振り返る横山さん。

地元で愛され、親しまれているからこそ、外に向けてのPRにも力が入る木曽漆器を通し、これからの地場産業の在り方にも思いを寄せた様子でした。さらに、さまざまな立場の方と一緒に働くことで多くの気づきも得たといいます。

「サービスのプロフェッショナル、地域のお母さんたち、奈良井で宿やお店を経営されている方々。いろいろな方が一緒に働き、互いの良いところを吸収していく。それが地域活性化の原動力になると思います。今回のイベントで生まれた関係性を今後も続けながら魅力を発信していきたいです」。

そんな心強い言葉は、奈良井の未来のための大きな力になりそうです。

お客さまとのファーストコンタクトは、塩尻駅前。送迎バスにてお迎えをする横山さん。ゲストの中には、「JALの制服の方にお出迎えしていただき、びっくりしました」との声も。

「チーム一丸となって奈良井の魅力をお客様に伝えられたことをうれしく感じています」と手応えを伝えてくれた横山さん。

DINING OUT KISO-NARAI自らが一番のファンになった奈良井での体験。

にこやかな笑顔が会場でも目を引いた伊藤昌代さん。準備の際には、さまざまな地元の方と積極的に話をする姿が印象的でした。

「いろいろな方と話をするのが大好きで、地元の方ともたくさんお話させて頂きました。そこで気づいたことは、皆さん本当に奈良井が大好きで、奈良井をもっと元気にしたいと思っていること」。

ある時、地元の方が「もっと奈良井を良くするにはどうしたらいい?」と伊藤さんに尋ねたといいます。

「この街のすべてが魅力です。この街を通るだけで、きっと皆さん感動しますって伝えました」と、伊藤さん自身も奈良井に惹かれた様子。100年続く街の中に実際に身を置いたことでその素晴らしさを体感し、そこに暮らすことの豊かさを改めて感じたのでしょう。

奈良井のために自分ができることとして、「これからJALの飛行機に乗ってくださった方々に、奈良井の魅力を伝えていきたい」とも語ってくれました。

「私自身が奈良井のファンになりました。いつか家族と一緒にまた訪れたい」と率直な感想を伝えてくれた伊藤さん。

DINING OUT KISO-NARAI日頃のフライトに活きる、『DINING OUT』のチーム力。

冷静沈着な姿と広い視野で裏方のサービスを支えた鈴木麻里さん。しかし、イベントを終え、少しだけ上気した顔からは、やりきったという満足感が伝わってきました。

「日本航空にはJALフィロソフィという指針があり、そのひとつにスタッフの“ベクトルを合わせる”という項目がございます。今回、2日間の『DINING OUT』を終えて、それぞれ立場が異なる方がひとつの目標に向かったことは、まさにベクトルが合っていたと感じています。今回の経験を乗務に活かすのと同時に、この地域の良さを伝えていくことも応援隊の役目」と鈴木さん。

ベクトルを合わせるための対話の重要性、チームを率いた長谷川在佑氏のリーダーシップなど、今回学んだ多くのことが、今後に役立つといいます。

「今回の経験を乗務に活かすのと同時に、この地域の良さを伝えていくことも応援隊の役目」と、日本各地、そして世界の人々に向けて奈良井の魅力を発信することを約束してくれました。

現在、『日本航空』では様々な地域活性プロジェクトに取り組んでいます。今回の『DINING OUT』の様子は、JALの機内映像プログラムでも放映が予定されており、地域に暮らす人々とのおもてなしを経ての気づきや発見、『JALふるさと応援隊』の今後の展望について話を伺っています。

そして、彼女たちを機上で見かけた際には、是非、木曽・奈良井の町の魅力を直に聞いてみていただければと思います。

鈴木さんは「今回のイベントで初めて奈良井を訪れ、日本にこんなに素晴らしい場所があるのだと驚きました」と、奈良井の第一印象を伝えてくれた。



Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

「NewsPicks Re:gion」呉琢磨氏が読み解く「DINING OUT」の成果と、これからの地方経済。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

会場で料理を楽しむ呉氏。何度もこの地に通い、地域との交流の中で作り上げた『傅』長谷川在佑氏の料理にも感銘を受けたという。

DINING OUT KISO-NARAI経済的視点で『DINING OUT』を見つめた呉琢磨氏。

2022年7月末に開催された『DINING OUT KISO-NARAI』。

中山道の中間地点として古くから賑わう宿場町・奈良井宿を舞台に、約2年半の時を越えて、新たな一歩を踏み出した『DINING OUT』は、地元とのつながり、これからも続く関係の構築を目指し、これまでにない試みも数多く取り入れられました。

そんな『DINING OUT KISO-NARAI』の会場には、地域経済の新たな動向にフォーカスするプロジェクト『NewsPicks Re:gion』編集長・呉琢磨氏の姿もありました。

『NewsPicks Re:gion』は、日本の地域開拓の最前線にいるイノベーターたちに光を当て、大都市圏ビジネスパーソンとの交流を生み出すWEBメディア。そこで生まれた新たな繋がりが、次なる共創のきっかけとなることを目指しています。

取材を通しさまざまな地域の現状を見つめ続けている呉氏ははたして、今回の『DINING OUT』から何を感じ、これからの地方経済をどう読み解くのでしょうか?

山深い木曽路に、これからの地域創生のどんなヒントが隠されているのか。呉氏の鋭い視点が見抜く。

DINING OUT KISO-NARAI地域経済の活発化が、今後の日本経済の軸に。

「日本の地域にこそ、成長の余白がある」。

『NewsPicks Re:gion』が地域に注目する理由を、呉氏はそう話します。

「たとえば経済成長率を都道府県別に比較したデータでは、東京都の成長率は全国でも下位グループにあり、むしろ九州エリアや中部エリアの方が成長率が高くなっています。近年は感度の高い人たちが地域に関わりだす動きも目立ち、また行政サイドでも、民間と積極的に連携して自立的な動きを始めている自治体が増えています。大都市圏だけで働き・暮らす人には見えない地域の新しい動きのなかにこそ、新しい希望が見出せると思います」。

客観的なデータも含め、地域の活動は、今後日本の経済活動の大きな柱になっていくという分析です。そしてもちろんそれは、今回の舞台である奈良井宿にも当てはまります。

「まず単純に場所がすごい。奈良井に来たのははじめてでしたが、江戸時代から残る町並みの保存性には驚きました。この奈良井宿のように、日本各地には価値ある文化資産が無数に眠っており、事業化されないまま“保全”されています。それらを民間が中心となって開拓し、“稼げる形”に変えて新しいマーケットを掘り起こしていくことが、地域の将来性につながっていくと思います」。

江戸時代のままの風景が残る奈良井宿の町並みは、これからの地域創生の大きな原動力になる。

DINING OUT KISO-NARAIスタッフの経験として今後に続く『DINING OUT』のレガシィ。

町並みという地域の財産を、どう活かすのか。『DINING OUT』は、その開催を通して何を伝え、何を残せたのか。続いては呉氏の目に映った『DINING OUT』について伺ってみました。

「まずレセプション会場として、地域の義務教育学校に行けたことが面白かったです。一般的に商業的な部分ですと大人との接点しか持てませんが、子供との関わり方を通してみると、地域社会の課題感をリアルに垣間見ることができます」と呉氏は振り返ります。

そして、実際にゲストとして着席し、食事を楽しんでみて「演出、料理、若い現地スタッフたちのサービスなど、さまざまなことが印象に残っている」といいます。そんな『DINING OUT KISO-NARAI』の成果を、次のように分析します。

「『DINING OUT』は新たな視点で地域の価値を訴求するブランディング施策だと理解しています。直接的には関連コンテンツの波及による奈良井エリアの認知拡大が主な成果になっていくのでしょう。そしてもうひとつの大きな成果が、参加したスタッフたちの気持ち。これまで出会うことのなかった人と人とが出会い、チームを組んで“大きなプロジェクトをやりきった”という体験が地域に残ることが、一番大きな効果なのではないかと考えます」。

~地域を超えて人材が越境し、地域のなかに多様性を生み出す。それがやがて新しい価値を生み出していく~。

呉氏はこれからの地域における活動の要点は、そんな人材交流にあると見ます。その意味で、「今回の『DINING OUT』が奈良井宿に残したものは大きい」といいました。

「今回の『DINING OUT』による経験が地域の記憶に残り、次の挑戦につながっていくと期待します」。

子どもたちとの交流と、そこから見えてきたリアルな課題も、今後を考える糸口になる。

参加した大勢の地元スタッフたちが、この経験を次に繋げる。それこそが『DINING OUT』の最大の成果であると呉氏。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

切ってびっくり、食べて美味しい。天皇も愛した甘味。[和光アネックス/東京都中央区銀座]

切り絵のようなパッケージデザインが哀愁漂う、『みなとや商店』の「栗羊羹」。10月に美味しい旬の栗を堪能したい。

WAKO ANNEX湯上りにいただくも一興。温泉街が生んだ名品・栗羊羹。

浴衣姿で街を巡る。『みなとや商店』の拠点は、そんな風景が似合う地域です。

兵庫県北部、日本海に面した関西有数の温泉街のひとつ、「城崎温泉」は、開湯1300年以上の歴史があり、奈良時代から親しまれてきた街です。そこで多くのゲストを虜にしてきたのが、『みなとや商店』の「栗羊羹」です。

江戸時代に旅館業として創業し、明治時代以降は菓子製造販売並びに土産物販売店として営業。昭和天皇、上皇陛下を始め、城崎を巡った多くの人が訪れている。「良い品物をお客様に」をモットーに、こだわりの和菓子と麦わら細工を製造・販売している中でも「栗羊羹」においては別格。

上質な小豆を用いた羊羹に丹波地方で採れた栗をふんだんに入れた「栗羊羹」は、小豆と栗の調和が絶妙な風味を生みます。

「城崎温泉」は、七つの外湯を楽しむのが主流な温泉街であり、『みなとや商店』はそのうちのひとつ、「一の湯」の隣。

自宅で召し上がる際も、湯上りに一杯、もとい、湯上りに栗羊羹ということも、乙ないただき方かもしれません。

上質な小豆を採用した品の良い甘みが特徴の羊羹の中には、丹波地方で採れた大きな栗が。切ってびっくり、食べて美味しいひと品。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

最高級ポルチーニの香り漂う、贅沢な万能おつまみ。[和光アネックス/東京都中央区銀座]

瓶から見える透き通ったオイルに純白のツナが美しい『JIN』の「おつな」。人気のシリーズより、ポルチーニ味が登場。

WAKO ANNEX食べ方は自由自在。乙なツナ。乙なおつまみ。

ツナ缶発祥の地、静岡県焼津で作る至極の自家製「おつな」にこだわる『JIN』。柔らかい身から溢れる自然の旨味は、一度食べれば虜になり、リピーターが続出。多くのバリエーションを展開していることもまた魅力のひとつであり、食べ手を飽きさせません。

「おつな ポルチーニ」も「おつな」人気を支えるひとつです。

イタリア産のポルチーニをふんだんに使った豪華な「おつな」は、シンプルなツナに上品な深みとコクがプラス。ローストした松の実も加え、香りと食感にアクセントも生み、五感で楽しめるひと品です。

万能おつまみゆえ、食べ方は無限に広がります。そのままはもちろん、パンに乗せて食べるも良し。ワインのお供、ご飯のおかずなど、お好みに合わせてぜひ。上級者ともなれば、チーズと一緒にクロスティーニ風やスープストック(肉や野菜から取った出汁)にごはんと「おつな」を混ぜ、リゾットにしても美味。

あなただけの乙なツナ、乙なおつまみをお楽しみいただきたい。

自家製の「おつな」は、マグロや塩はもちろん、数種のオイルも厳選してブレンド。全て手作りにこだわる。パンの上に乗せてはもちろん、パスタの具材やごはんのお供、そのままでもおつまみとして絶品な味わい。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

「何もないけど、大切なことがある」。コラムニスト・中村孝則が見た木曽の豊かさ。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

レセプション会場となった『楢川小中学校』にて、ゲストにこの地の歴史を伝える今回のホスト・中村氏。

DINING OUT KISO-NARAI多くの地元住民とともに築いた19回目の『DINING OUT』。

去る2022年7月23日、24日に開催された『DINING OUT KISO-NARAI』。約2年半ぶりの開催となった『DINING OUT』は、地元の食材生産者や伝統工芸職人、郷土料理を知るお母さんたち、そして地元の小中学生までをも巻き込み、かつてない地元との繋がりを生みました。

それはコロナ禍を経て変わりゆく人々の価値観のなかで到達した、新たなステージの『DINING OUT』でした。

ホストを務めたコラムニスト・中村孝則氏も、今回の開催のために奔走し、そしてその成功を喜んだ人物のひとり。そこでそんな中村氏とともに、『DINING OUT KISO-NARAI』を振り返ってみましょう。

乾杯の一場面。中村氏によって語られる料理やドリンク、会場の薀蓄が、味わいに奥行きを加える。

DINING OUT KISO-NARAI人と会い、土地に触れる『DINING OUT』の原点。

過去9回の『DINING OUT』でホストを務めた中村孝則氏。終演後その頭にまず浮かんだのは、久しぶりに開催できたことへの感慨でした。

「リモート会議やリモート飲み会は、いまや社会に不可欠なものになっています。しかし、やはり直接人と会って伝えられる熱量というものは、特別です。人と会って、一緒に何かを分かち合うことは、やはり人間の原点なのでしょう。そしてそれは同時に『DINING OUT』の原点でもあります。リアルに旅をして、その土地の人や文化に触れる。そういう体験の素晴らしさを、改めて思い出しました」。

そして、自身が感じた木曽・奈良井宿に思いを馳せます。中村氏の胸に響いたのは、奈良井の自然と人の豊かさでした。

「今回のテーマが“山中に学ぶ”ということで、自然の豊かさは想像していました。訪れてみてさらに感じたのは、地元の方々の豊かな生き方でした。ここは中山道のちょうど中間地点。いわば“江戸の粋”と“京の雅”が交錯する場所です。そういう場所で400年間も旅人をお迎えしてきた歴史からでしょうか。地元文化の豊かさ、地元の方々の豊かな生き方が、とくに印象的でした」。

もちろん、そんな豊かさを見事に表現した『傅』長谷川在佑氏による6品の料理も、中村氏の心に刻み込まれました。

「海のない地で、淡水魚を使ってこれほど豊穣な味の表現ができることに驚きました」と振り返る。その中でもとくに印象深かったのは、「鯉の羽淵キュウリあんかけ」と「シナノユキマスのおつくり」だといいます。

「鯉のあんかけは“小骨が多い”、“臭みがある”という鯉のネガティブなイメージを、丁寧な仕込みで払拭していました。創意工夫と緻密な計算、地元へのリスペクトがある料理で、常に食べ手のことを一番に思って料理をする長谷川さんらしさが強く表れていました。一方でシナノユキマスは、シンプルに“淡水魚がこれほどおいしくなるのか”という驚きがありました。地元の伝統食“すんき”を使って生み出す、エキゾチックな味わい。その表現力に脱帽です」。

レセプションで乾杯用にサーブされたこの地の銘酒『亀齢(きれい)を解説する。

ディナー終盤、オリジナルの器制作の中心人物でもある『木曽漆器工業組合』の石本則男理事長とともに。使用される漆器の知識も、食を彩る大切な要素。

伝統野菜の羽淵キュウリをすり流しにして、骨切りした鯉と合わせた一品。「さまざまな工夫が込められた料理」と中村氏。

中村氏が「オリエンタルな味わい」と驚いたシナノユキマス。伝統的な漬物、すんきの扱いには「食べ慣れた地元の人もきっと驚くでしょうね」という。

DINING OUT KISO-NARAI現代社会の中で改めて見つめる本当の豊かさ。

中村氏が『DIINNG OUT KISO-NARAI』を振り返りながら、何度も口にした「豊かさ」という言葉。その前提には、中村氏が肌で感じる、近年の社会状況における価値観の変化がありました。

「今は、皆が豊かさに迷っている時代。そのヒントが、この奈良井宿にはあると思います。スーパーやコンビニなどの利便性はなくても、少し歩けば花がたくさん咲いていて、地元の伝統野菜もいろいろあり、あちこちから水が湧いている。そして、地元の方々がこの地を愛し、誇りを持ち、次世代に受け継ごうと努力をしている。ここにこそ、これからの豊かさのヒントが詰まっているような気がするんです。何もないけど、たくさんある。そんな豊かさです」。

今回の『DIINNG OUT KISO-NARAI』も、さまざまな世代の住民が参加し、世代を越えて地元を盛り上げようとする思いにこそ大きな意義があったといいます。

そして、最後に、地元の方々に向けて、こう付け加えました。

「内側にある豊かさを、これからはもっと外に伝えていくことが必要です。外に伝えて、より多くの人を巻き込んで、さらに地元を盛り上げていく。そういう外向きの動きもこれからは必要になると思います。僕も必ずまたここに戻ってくるので、一緒にこの地の魅力を伝えていきましょう」。

世代を越えた人との繋がりを通して紡がれるこの地の豊かさ。中村氏はそれこそが、これからの時代に求められるものだと見る。

DINING OUT KISO-NARAI計10回のホストを担った中村孝則。そこから導き出した4つの意義。

中村孝則氏が『DINING OUT』を務めたのは、今回でちょうど10回目。その節目が奇しくも、コロナ禍で人々の価値観が変わる時代、アフターコロナに向けて動き出す時代に重なりました。

中村氏はそんな今回の開催を経て、改めて『DINING OUT』の4つの意義が明確になったといいます。

「ひとつ目は、リベンジ・ガストロノミーとしての意義。これは私の造語ですが、つまりコロナ禍で不当に飲食の自由を奪われた経験から、今後より飲食、外食への欲望が強まることが予想されます。『DINING OUT』はガストロノミーの豊かさの象徴として、その受け皿としての役割を意識していく必要があります。

ふたつ目は、お祭りとしての意義。言ってみれば『DINING OUT』はお祭りです。お祭りは交流を生みます。人の交流、情報の交流、そしてジェネレーションの交流。今回も、子どもたちからお母さんたち、生産者や職人まで幅広い世代の交流が生まれました。こういう横軸、縦軸の交流を生む『DINING OUT』のお祭り的要素が、今後、次世代への伝達、引き継ぎ、そして地域活性化のために重要になってくると思います。

3つめの意義は、言うまでもなく地域表現としての『DINING OUT』です。今回は“山中に学ぶ”というテーマのもと、自然、文化、工芸、食というさまざまな要素を表現しました。多彩な要素を束ねて渾然一体で表現するというのは、『DINING OUT』にしかできないこと。これは揺るぐことのない『DINING OUT』の原点であり、意義だと思います。

そして、4つ目。今回とくに強く思ったのが“免疫力としての食”の重要性です。これほど未曾有の感染が広がるということは、やはり人の免疫力で乗り越えねばならないということでしょう。免疫力を上げるのは最終的には食だと信じています。発酵食に代表されるように日本の地域に眠る食材、食文化は免疫力を高めるものが多い。『DINING OUT』で食の大切さ、地域の食文化を紐解いていくことで、改めて食と健康について意識を向けてもらうことができれば良いですね」。

中村氏が見る4つの意義が、改めて地方創生における『DINING OUT』の役割を明確にした。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

「何もないけど、大切なことがある」。コラムニスト・中村孝則が見た木曽の豊かさ。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

レセプション会場となった『楢川小中学校』にて、ゲストにこの地の歴史を伝える今回のホスト・中村氏。

DINING OUT KISO-NARAI多くの地元住民とともに築いた19回目の『DINING OUT』。

去る2022年7月23日、24日に開催された『DINING OUT KISO-NARAI』。約2年半ぶりの開催となった『DINING OUT』は、地元の食材生産者や伝統工芸職人、郷土料理を知るお母さんたち、そして地元の小中学生までをも巻き込み、かつてない地元との繋がりを生みました。

それはコロナ禍を経て変わりゆく人々の価値観のなかで到達した、新たなステージの『DINING OUT』でした。

ホストを務めたコラムニスト・中村孝則氏も、今回の開催のために奔走し、そしてその成功を喜んだ人物のひとり。そこでそんな中村氏とともに、『DINING OUT KISO-NARAI』を振り返ってみましょう。

乾杯の一場面。中村氏によって語られる料理やドリンク、会場の薀蓄が、味わいに奥行きを加える。

DINING OUT KISO-NARAI人と会い、土地に触れる『DINING OUT』の原点。

過去9回の『DINING OUT』でホストを務めた中村孝則氏。終演後その頭にまず浮かんだのは、久しぶりに開催できたことへの感慨でした。

「リモート会議やリモート飲み会は、いまや社会に不可欠なものになっています。しかし、やはり直接人と会って伝えられる熱量というものは、特別です。人と会って、一緒に何かを分かち合うことは、やはり人間の原点なのでしょう。そしてそれは同時に『DINING OUT』の原点でもあります。リアルに旅をして、その土地の人や文化に触れる。そういう体験の素晴らしさを、改めて思い出しました」。

そして、自身が感じた木曽・奈良井宿に思いを馳せます。中村氏の胸に響いたのは、奈良井の自然と人の豊かさでした。

「今回のテーマが“山中に学ぶ”ということで、自然の豊かさは想像していました。訪れてみてさらに感じたのは、地元の方々の豊かな生き方でした。ここは中山道のちょうど中間地点。いわば“江戸の粋”と“京の雅”が交錯する場所です。そういう場所で400年間も旅人をお迎えしてきた歴史からでしょうか。地元文化の豊かさ、地元の方々の豊かな生き方が、とくに印象的でした」。

もちろん、そんな豊かさを見事に表現した『傅』長谷川在佑氏による6品の料理も、中村氏の心に刻み込まれました。

「海のない地で、淡水魚を使ってこれほど豊穣な味の表現ができることに驚きました」と振り返る。その中でもとくに印象深かったのは、「鯉の羽淵キュウリあんかけ」と「シナノユキマスのおつくり」だといいます。

「鯉のあんかけは“小骨が多い”、“臭みがある”という鯉のネガティブなイメージを、丁寧な仕込みで払拭していました。創意工夫と緻密な計算、地元へのリスペクトがある料理で、常に食べ手のことを一番に思って料理をする長谷川さんらしさが強く表れていました。一方でシナノユキマスは、シンプルに“淡水魚がこれほどおいしくなるのか”という驚きがありました。地元の伝統食“すんき”を使って生み出す、エキゾチックな味わい。その表現力に脱帽です」。

レセプションで乾杯用にサーブされたこの地の銘酒『亀齢(きれい)を解説する。

ディナー終盤、オリジナルの器制作の中心人物でもある『木曽漆器工業組合』の石本則男理事長とともに。使用される漆器の知識も、食を彩る大切な要素。

伝統野菜の羽淵キュウリをすり流しにして、骨切りした鯉と合わせた一品。「さまざまな工夫が込められた料理」と中村氏。

中村氏が「オリエンタルな味わい」と驚いたシナノユキマス。伝統的な漬物、すんきの扱いには「食べ慣れた地元の人もきっと驚くでしょうね」という。

DINING OUT KISO-NARAI現代社会の中で改めて見つめる本当の豊かさ。

中村氏が『DIINNG OUT KISO-NARAI』を振り返りながら、何度も口にした「豊かさ」という言葉。その前提には、中村氏が肌で感じる、近年の社会状況における価値観の変化がありました。

「今は、皆が豊かさに迷っている時代。そのヒントが、この奈良井宿にはあると思います。スーパーやコンビニなどの利便性はなくても、少し歩けば花がたくさん咲いていて、地元の伝統野菜もいろいろあり、あちこちから水が湧いている。そして、地元の方々がこの地を愛し、誇りを持ち、次世代に受け継ごうと努力をしている。ここにこそ、これからの豊かさのヒントが詰まっているような気がするんです。何もないけど、たくさんある。そんな豊かさです」。

今回の『DIINNG OUT KISO-NARAI』も、さまざまな世代の住民が参加し、世代を越えて地元を盛り上げようとする思いにこそ大きな意義があったといいます。

そして、最後に、地元の方々に向けて、こう付け加えました。

「内側にある豊かさを、これからはもっと外に伝えていくことが必要です。外に伝えて、より多くの人を巻き込んで、さらに地元を盛り上げていく。そういう外向きの動きもこれからは必要になると思います。僕も必ずまたここに戻ってくるので、一緒にこの地の魅力を伝えていきましょう」。

世代を越えた人との繋がりを通して紡がれるこの地の豊かさ。中村氏はそれこそが、これからの時代に求められるものだと見る。

DINING OUT KISO-NARAI計10回のホストを担った中村孝則。そこから導き出した4つの意義。

中村孝則氏が『DINING OUT』を務めたのは、今回でちょうど10回目。その節目が奇しくも、コロナ禍で人々の価値観が変わる時代、アフターコロナに向けて動き出す時代に重なりました。

中村氏はそんな今回の開催を経て、改めて『DINING OUT』の4つの意義が明確になったといいます。

「ひとつ目は、リベンジ・ガストロノミーとしての意義。これは私の造語ですが、つまりコロナ禍で不当に飲食の自由を奪われた経験から、今後より飲食、外食への欲望が強まることが予想されます。『DINING OUT』はガストロノミーの豊かさの象徴として、その受け皿としての役割を意識していく必要があります。

ふたつ目は、お祭りとしての意義。言ってみれば『DINING OUT』はお祭りです。お祭りは交流を生みます。人の交流、情報の交流、そしてジェネレーションの交流。今回も、子どもたちからお母さんたち、生産者や職人まで幅広い世代の交流が生まれました。こういう横軸、縦軸の交流を生む『DINING OUT』のお祭り的要素が、今後、次世代への伝達、引き継ぎ、そして地域活性化のために重要になってくると思います。

3つめの意義は、言うまでもなく地域表現としての『DINING OUT』です。今回は“山中に学ぶ”というテーマのもと、自然、文化、工芸、食というさまざまな要素を表現しました。多彩な要素を束ねて渾然一体で表現するというのは、『DINING OUT』にしかできないこと。これは揺るぐことのない『DINING OUT』の原点であり、意義だと思います。

そして、4つ目。今回とくに強く思ったのが“免疫力としての食”の重要性です。これほど未曾有の感染が広がるということは、やはり人の免疫力で乗り越えねばならないということでしょう。免疫力を上げるのは最終的には食だと信じています。発酵食に代表されるように日本の地域に眠る食材、食文化は免疫力を高めるものが多い。『DINING OUT』で食の大切さ、地域の食文化を紐解いていくことで、改めて食と健康について意識を向けてもらうことができれば良いですね」。

中村氏が見る4つの意義が、改めて地方創生における『DINING OUT』の役割を明確にした。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

作家・司馬遼太郎に「もっとも豊かな隠れ里」と言わしめた、恵みの味。[和光アネックス/東京都中央区銀座]

名前にかかげる球磨川は、最上川と富士川にならぶ日本三大急流のひとつ、熊本県内最大の一級河川。シンボルマークは「球磨川くだり」の和舟をモチーフにし、この歴史ある和舟のよう、球磨川流域で育まれた恵みが多くの人々に届いてほしいという願いが込められている。

WAKO ANNEX熊本県人吉球磨が持つ自然の美しさと豊かさを届ける。

『球磨川アーティザンズ』のふるさと、九州熊本県南部に位置する人吉球磨地方は、急流が静脈のように走る盆地にあります。作家・司馬遼太郎はこの地を「もっとも豊かな隠れ里」と呼びました。山と水とが育んだ肥沃な大地は、とてつもなく豊潤な農産資源を生みだしています。

そんな人吉球磨地方は、西日本有数の栗の産地。「Chestnut Butter with Honey<はちみつ入り栗バター>」の栗においてもそれを使用し、ひとつ一つ手作業で皮を剥き、丁寧に製造。雑味のない味わいを実現しました。

また、栗のほっこりした美味しさをより生かすため、人吉球磨産のレンゲはちみつと九州産生乳のみを原料にした高千穂バターをブレンドしていることがこの品が逸品たるゆえん。

バタ―の濃厚な味わいが栗ならではの香りと食感を包み込み、はちみつの優しい甘さが心地良い後味を残します。

トーストやクロワッサンに塗ると、より洗練された味わいに。また、あんことの相性も抜群のため、どら焼きや最中に添えて新たな美味しい発見もお楽しみいただきたい。

本文に明記したよう、トーストやクロワッサンもお勧めだが、カジュアルにクラッカーといただくのも美味。パーティにもぜひ。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
(Supported by WAKO)

地元に伝えたこと、学んだこと。長谷川在佑氏が振り返る「DINING OUT」。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

厨房に建つ長谷川氏。調理スタッフとして参加した地元料理人たちは「学ぶことばかり」と口を揃えた。

DINING OUT KISO-NARAI山深い木曽路で開催された19回目の「DINING OUT」。

去る2022年7月23日、24日に開催された『DINING OUT KISO-NARAI』。
舞台となった奈良井宿は、中山道34番目の宿場町として400年もの間、旅人たちを迎え続けるおもてなしの町でした。同時に山深い木曽路にある奈良井宿は、保存食をはじめとした独特の食文化が育まれた地でもあります。

そんな今回の『DINING OUT』で料理を担当したのは、『傳』の長谷川在佑氏。『ミシュランガイド東京』2つ星、『ゴ・エ・ミヨ東京』3トック、『アジアのベストレストラン50』1位、『世界のベストレストラン50』20位など、数々の賞に輝く長谷川氏は、この地の食材や食文化をどう紐解き、どんな思い出、どのような料理をつくり、そしてこの地に何を残し、伝えたかったのでしょうか。

長谷川氏の言葉とともに、『DIINNG OUT KISO-NARAI』を振り返り、長谷川氏の心の裡を探ってみましょう。

奈良井宿、中山道の上に出現したダイニング。土地に触れ、文化を体感する『DINING OUT』の原点。

DINING OUT KISO-NARAI地元の食文化を再構築した、新しい郷土料理。

「今回の『DINING OUT』でもっとも大切にしたのは、地元の方々との絆。いかにこの地の方々と馴染み、いろいろなことを教えてもらうかということでした」。長谷川氏の振り返りは、こんな言葉から始まりました。

食材生産者、地元のお母さんたち、子どもたち。多くの地元の方々が参加した今回の『DINING OUT』。その大勢のスタッフたちを長谷川氏は「チーム」という言葉で表現します。

「地元でどんなものが食べられているか、大切にされているか。そういう思いは、やはり直接話さなくてはわかりません。そういう食文化に加え、この地の歴史や気候のこと、人のことなど、本当にたくさんのことを教わりました」。

そして、地元の方々との交流を通して知った知識は、『DINING OUT』の料理として形をなしました。『傅』の女将である長谷川えみさんを中心としたチームで考案されたペアリングドリンクとともに、供された料理は、計6品。

最初の一皿は、「地元で親しまれているものを、地元の人にとって新しい形で」という思いを、おなじみの信州名物「おやき」で表現しました。見た目こそスタンダードなおやきですが、中に潜む鰻の旨みが従来のイメージを覆します。

2品目の主食材は鯉。海のないこの地で古くから滋養強壮のためのご馳走として親しまれてきた鯉食文化も、近年はやや下火。「骨が多く食べにくい、淡白でおいしくない、という声も。だからこそ鯉のおいしさを改めて伝えたい」と鱧のように丁寧に骨切りしてから揚げ、夏野菜の餡をかけた一品に仕立てました。

続く3品目は、長野県特産のシナノユキマス。分水嶺で育てられる清涼な味わいの淡水魚に、塩を使わずに発行させる木曽地域の伝統的な漬物すんきを合わせました。シナノユキマスもすんきも、この地ではよく知られた食材。しかしそのふたつを組み合わせることで、知られざるおいしさを演出したのです。

4品目は木曽で米とともに重用されてきた雑穀を、信州牛とともに。「牛肉ではなく、雑穀が主役の料理です」という長谷川氏の言葉通り、7種ほどの雑穀の味わいと食感が、複雑で奥深いおいしさを生み出しました。

締めとなる5品目には、山中で採れたキノコや山菜を煮込んだ鍋で蕎麦を温めて味わう投汁蕎麦が登場。冷え込みがきついこの地で愛される伝統料理で、シンプルに素材の旨みを引き出しました。

デザートには信州特産のルバーブと旬のトウモロコシを使ったプリン。野菜を使ったデザートは、料理の余韻を包み込みながら、ゲストを終演へと誘います。

「目指したのは地元の人にとって新しい郷土料理。僕の料理を通して、この地の豊かさを改めて思い出してもらえたら」。

そんな長谷川氏の思いが凝縮されたコースでした。

ゲストを前に挨拶する長谷川氏。その言葉には、ゲスト、地元スタッフ、そしてこの地の人々への感謝が込められていた。

脂の乗った鰻を使ったおやき。囲炉裏の煙でサッと燻して仕上げた。ペアリングには地元『信濃ワイン』の「信濃スパークリング ナイアガラ」。

擦ったキュウリの餡の爽やかな香りが鯉の味わいを引き立てる。「シンプルながら新しさも追求した料理」と長谷川氏。合わせるのは奈良井宿の『suginomori brewery』の「narai」。

独特の味わいと食感がある「すんき」は、塩を使わずに乳酸発酵させた赤カブの葉。シナノユキマスと合わせ、その新たな魅力を表現。信州『井筒ワイン』の辛口「シャルドネ[樽熟]2020」とともに。

甘辛く炊いた信州牛が引き立てる雑穀の味わい。ペルーにいる長谷川氏の知人から届いたキヌアもアクセント。塩尻市のブドウ100%でつくる『五一ワイン』の「エステートゴイチ メルロ」の芳醇な風味が味を引き立てる。

たっぷりのキノコと鴨の出汁で、シンプルに味わう投汁蕎麦から着想を得た一品。会場の気温も下がってきたタイミングで、その温かさが染みる。ペアリングは引き続き「エステートゴイチ メルロ」。豊かな果実味が滋味深い出汁と調和する。

トウモロコシ、ルバーブ、プリンの3層になったデザート。ふりかけたスパイスがエキゾチックな味わいを演出。

DINING OUT KISO-NARAIかつてない表現を可能にしたチームの力。

いつもの『傅』の料理構成から離れ、この地、この時、このチームでしかできない料理を繰り広げた長谷川氏。「これこそが『DINING OUT』の意義であり、魅力」と振り返りました。そしてもう一度、大勢が力を合わせた“チーム”の力に言及しました。

「今回、改めて強く感じたのは、料理はひとりではできない、ということ。チームで力を合わせることでもっと大勢のお客様を喜ばせることも、感動させることもできるし、これからさらに繋がっていくこともできる。もちろん料理だけでなく、サービスや空間づくりも同様。そういう意味で、料理人として本当に大切なものを学ばせてもらった気がします」。

そう振り返る長谷川氏。そして改めて、この奈良井宿への思いを語ります。

「コロナを経て久しぶりの『DINING OUT』ということで、やはり今までとは違う気持ちでのぞみました。その気持ちをどのように表現しようか、とかなり長い時間悩んだ回でもあったのですが、奈良井という土地とこの地の人々に支えられて、無事に終えることができました。食材、食文化、土地、人、そういうものを含めて、これからも僕にとって奈良井は特別な場所になると思います」。

配膳に参加した地元・楢川小中学校の児童生徒たちとともに。

お土産としてゲストに手渡されたおにぎりは、「地元婦人会・桜香会」の皆様によるもの。

厨房、サービスを含め、過去最大人数の地元の方々が携わった『DINING OUT KISO-NARAI』。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

まるで浄化されるような味わい。新月の夜に収穫を行うぶどうジュース。[和光アネックス/東京都中央区銀座]

素材そのものの風味や糖度の高さをできるだけそのまま生かせるよう、通常濾過のみ行い抽出。ぶどうの力強さを感じる味わいに感動を覚えるだろう。

WAKO ANNEX地球、月、太陽。自然の営みに合わせ、作る、大地の恵み。

「山梨からピュアなフルーツで毎日を少しだけ華やかに」をコンセプトに生産を続けている山梨県笛吹市の『アミナチュール』。

栽培方法や製造など、様々にこだわりがありますが、中でも注目すべき品が「新月の黒ぶどうジュース」です。

使用する山梨産の黒ぶどうは、巨峰、ピオーネ、藤稔、マスカットベリーAの4種類。もちろん素材は一級品ですが、品名の通り、特筆すべきは「新月の」という言葉にあります。

新月とは、地球から見て月が見えていない状況を指します。月の姿が見えないということは、太陽の光の反射が見えないということであり、「浄化日」とも呼ばれています。

前述、原料となる4種のぶどうは新月の夜に収穫が行われ、えぐみを出さないよう圧力をかけ過ぎずに丁寧に贅沢に搾り上げます。

濃厚な味わいは、新月のごとく、まるで心身が浄化されるよう。製造年ごとに違う味わいが楽しめるため、飲み比べも通な味わい方。

アミとは友達、ナチュールとは自然を意味する。友達だからこそ共鳴する自然の味をお楽しみいただきたい。

原料の糖度が高く、かつ風味を残す製造法のため、瓶の中にオリ(酒石酸)が結晶化することもあるが、人体に影響はない。瓶底に沈めたまま、ゆっくりとグラスに注いでお召し上がりを。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
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