結果は12位。はるかに高い世界の壁。だが、次は勝つ。

全てを出し切った日本代表・石井友之シェフ(手前)とコミの林 大聖氏(奥)が競技を終え、たたえ合う。©White_mirror

Bocuse d’Or 20235時間30分の長い激闘。みんなの力がなかったら、ここまでたどり着けなかった。

1月22日、23日の2日間。第19回『ボキューズ・ドール 2023』国際料理コンクール フランス本選がリヨンにて開催されました。2022年1月、石井友之シェフが日本代表に選出されてから約1年。この日のために準備してきた全てを注ぎ込みます。長い激闘は5時間30分にも及び、会場は常に熱烈峻厳。まさに「美食のワールドカップ」と呼ぶに相応しい壮大なグルーヴが創造され、大会の凄みを感じます。

大会を終え、日本代表・石井友之シェフは、「『ボキューズ・ドールJAPAN』アカデミーメンバーのサポートやご協賛・ご後援いただいている皆様の支援、会社からの理解と協力がなければここまで来ることができませんでした。本当に感謝しています」と語ります。

そんな石井シェフ率いるTeam JAPANは、コミ(アシスタントシェフ)に『サンス・エ・サヴール』の林 大聖氏、帯同メンバーに同じく『サンス・エ・サヴール』の鴨田猛シェフ、『オテル グレージュ』の兵頭賢馬シェフ、『HIGHLINE』の東園勇樹シェフ、そして、テクニカルディレクターに『KOTARO Hasegawa DOWNTOWN CUISINE』の長谷川幸太郎シェフ、コーチに『星のや東京』の浜田統之シェフを迎えた陣。それに加え、試食審査員に『HAJIME』の米田肇シェフ、長谷川シェフは大会当日のキッチン審査員も兼務。世界基準の舞台にて、それぞれの責務を担います。

今回、プラッターのテーマ食材は、スコットランド産アンコウ。そして、もうひとつのテーマがシェフたちや関係者を驚かせます。それは、「Feed the Kids」。子供のための料理です。世界中が難局に陥った時代を経て、食と社会の関わりやその役割など、レストランとして、シェフとして、更にはひとりの人間として、どう向き合うべきなのかを文化的に示唆するようでもありました。

左より、コーチの浜田統之シェフ、日本代表・石井友之シェフ、テクニカルディレクター兼本部キッチン審査員の長谷川幸太郎シェフ、試食審査員の米田肇シェフ、コミの林 大聖氏。©Bocuse d’Or 2023/GL events

選手がしのぎを削り、料理を競い合う光景は、壮大なパフォーマンス。会場には、常に熱気が漂う。©White_mirror

大会前の準備風景。スタッフには、未来のレストラン界を担う学生たちも参加。寸分狂わず、審査を迎えるテーブルの美しさを追求する。©White_mirror

法被姿に太鼓などを揃え、石井シェフにエールを送る日本の応援団。応援するスタイルにもそれぞれの国の文化が伺え、それもまた楽しい。©White_mirror

Bocuse d’Or 2023優勝国はミシュランの三つ星同等のクオリティ。やるなら勝ちたい。優勝以外はない。

石井シェフが表現したメインのアンコウは、日本が誇る絵師・葛飾北斎の図案を3Dプリンターで型に起こしたもの。周囲を囲む可憐な真珠の水しぶきは海からの祝福を表現します。鮮やかなガルニチュール(付け合わせ)を乗せ、船出を飾り、その全てを包み込むのは、現在の日本の礎となった大江戸の水路を彷彿とさせる螺旋の意匠。波の渦は、イノベーションを感じ、歴史を重んじながらも進歩し続けるフランス料理のオマージュとして完成させます。芸術性の高いプラッターデザインは、日本を代表するプロダクトデザイナー・鈴木啓太氏の創作。

見た目にも華やかな作品に仕上げるも、日本は24カ国出場の中、12位。アジア勢最高位ではあるも、世界の壁を見上げる結果に。

優勝はデンマーク。続く2位にノルウェー、3位にハンガリー。近年のヨーロッパ勢の強さは健在でした。中でも突出しているのは、北欧勢。料理界だけでなく、国や地域などが一体となり、戦略性と計画性を持った「勝つためのチーム」が形成されているように見えます。

今回、初めて試食審査員として参加した米田シェフは、「優勝国は、ミシュランの三つ星同等のクオリティ」と評しました。それは、もしかしたら審査員の多くが三つ星シェフだったことも、少なからず基準に影響しているのかもしれません。大会後、米田シェフはその足でデンマークへ。その目的地は、優勝したシェフのレストラン。ここで興味深い感想を述べます。「レストランの料理は、優勝作品のクオリティに達していなかったと思います」。

つまり、レストランのクオリティと『ボキューズ・ドール』で表現するクオリティは同等ではなく、全く別物。国の威信をかけ、勝つために戦う大会こそ、『ボキューズ・ドール』なのかもしれません。そう考えると、シェフを選手と呼ぶことも頷けます。

本部キッチン審査員を務めた長谷川シェフにおいても、その厳しさを語ります。

「完成された作品だけでなく、調理の華麗さや各工程においてバランス良く人員配置できているかなどが評価基準の対象。調理道具の並びや整理整頓、効率の良さ、ゴミひとつも減点に」。

つまり、5時間30分の全てが美しくないと勝てないのです。「デンマークのコミに至っては、代表選手と同等のレベルの仕事ができていました」と、改めて、チームひとり一人の実力が備わっていないと勝てないと振り返ります。

また、本選前もしかり、現地入りした際の設備環境や機材調達、国内での練習場所となるテストキッチン、渡航費に到るまで、予算の面においても世界との格差があると米田シェフと長谷川シェフは指摘します。

前大会においては、エマニュエル・マクロン大統領が自ら来場し、予算を投じたという話やコロナ禍においても、いち早くレストランへの支援を行ったことも記憶に新しいです。

「やるなら勝ちたい。やるからには優勝以外はない。ゴールを設定し、そのために何をすべきかの問題を解決し、達成する。この大会の意義を自分たちも日本もどう捉えるか、今一度考えるべきだと思います」と米田シェフ。

『ボキューズ・ドール』は、世界中に熱狂的なファンが多い大会ゆえ、優勝すれば、そのレストランを求め、各国から訪れることも多く、観光産業としての可能性も秘めています。

『ボキューズ・ドール』の場合、三つ星やトックのように、数店選ばれることはありません。優勝できるのは一カ国。一番高い表彰台に上がれるのは一カ国のみ。勝つための戦い。それが『ボキューズ・ドール』なのです。

時をほぼ同じくして2022年11月。日本人初の快挙、『ジョエル・ロブション』の関谷健一朗エグゼクティブシェフがフランス料理界最高峰の称号・フランス国家最優秀職人章「M.O.F.(Meilleur Ouvrier de France)」を受章した朗報がフランスより舞います。

日本はやれる。日本のシェフは世界トップレベルだと証明した結果と言えるでしょう。

長谷川シェフが最後に残した言葉に悔しさが込み上げてきます。

「自分たちは、また一から出直します」。

テーマ食材のアンコウを手にする、日本代表の石井シェフ(中央)。それを見守る浜田シェフ(左)。日本と海外では同じ食材でも育った環境によって身や味が異なるため、現場で見て触って、料理にアジャストしていく。©Taisuke YOSHIDA/一般社団法人ボキューズ・ドールJAPAN

『ボキューズ・ドール』には、世界中から多くのメディアが訪れ、配信・発信される。日本のメディアは、今後どうこの大会と向き合うのかも課題のひとつ。©White Mirror

石井シェフの料理。日本が誇る絵師・葛飾北斎の図案を3Dプリンターで型に起こし、周囲を囲む可憐な真珠の水しぶきは海からの祝福を表現。鮮やかなガルニチュールを乗せて船出を飾り、その全てを包み込むのは、現在の日本の礎となった大江戸の水路を彷彿とさせる螺旋の意匠。波の渦は、歴史を重んじながらも進歩し続けるフランス料理のオマージュ。©Julien Bouvier studio

700年以上も前から食されてきた日本の冬に欠かせないアンコウ。日本の郷土料理では、山の食材と組み合わせて食され、その山と海を循環し融合するテロワールを表現。©White Mirror

料理の味や表現力はもちろん、それが完成するまでの調理工程の美しさも審査の基準になる。©White Mirror

優勝したデンマークの作品。©Julien Bouvier Studio

2位のノルウェーの作品。©Julien Bouvier Studio

3位のハンガリーの作品。©Julien Bouvier Studio

「ボキューズ・ドール 2023」の表彰台を飾ったのは、優勝はデンマーク、2位にノルウェー、3位にハンガリーという結果に。©White Mirror

長い激闘を終えれば、シェフたちは皆仲間。互いを賞賛し、感動のフィナーレを迎える。©White Mirror

Bocuse d’Or 2023日本は「子供審査員からの特別賞」を受賞。そして、新たな新たなTeam JAPANが結成。

大会では12位という結果だった日本ですが、「子供審査員からの特別賞」を受賞。冒頭、テーマでもあった「Feed the Kids」には、子供の審査員も参加していました。

どの国の料理が一番美味しかったか?という質問に、子供たちは、「JAPON!」「JAPON!」という口々に答えていました。

レストランを離れれば、石井シェフは3人の子供を持つ父親でもあります。以前行った『ボキューズ・ドールJAPAN』を支援する『ネスプレッソ』代表取締役社長のピエール・デュバイル氏との事前対談の際、ピエール氏は石井シェフにこんな質問をしました。

「コロナ禍では、料理に対するインスピレーションは沸きましたか?」。

ナーバスな内容ゆえ、ピエール氏は神妙な面持ちで伺いましたが、石井シェフは穏やかな表情でこう答えています。

「料理のインスピレーションに対して前向きになるのが難しい時期でした。ですが、娘たちと遊ぶなど、家族と過ごすことができ、とてもいいリフレッシュになりました。そして、再び厨房に立った時には、すごく新鮮な気持ちで料理に取り組むことができました」。

石井シェフにとって、「子供審査員からの特別賞」は、この上ない喜びにも繋がったに違いありません。

「今回、自分が歩んできたプロセスと結果に真摯に向き合い、次回のTeam JAPANに活かしたいと思います」と石井シェフ。

その次回は、さまざまな変化をもたらすでしょう。なぜなら、まずひとつ、体制の変更が発表されました。

『日本ボキューズ・ドールアカデミー』の名誉会長・平松博利氏は、『一般社団法人ボキューズ・ドールJAPAN』の代表理事から退任。新体制の会長には『星のや東京』の浜田統之シェフ、統括委員長には『KOTARO Hasegawa DOWNTOWN CUISINE』の長谷川幸太郎シェフが就任。新たな理事として『HAJIME』の米田肇シェフ、株式会社ひらまつ 代表取締役社長の遠藤久氏が加わります。

目指すは優勝のみ。次なる戦いは、もう始まっています。

「子供審査員からの特別賞」を受賞した石井シェフの料理。栄養バランスに加え、五感で楽しむ料理をテーマに置き、心躍る鮮やかな色彩と造形(視覚)、食欲を刺激する香り(嗅覚)、噛むたびに様々な楽しい音を感じ(聴覚)、UMAMIを知る学び(味覚)、心地よく整えられた温度(触覚)を表現。「コロナ禍の影響で、海外旅行に行けない子供たちに日本を感じてもらいたく、伝統の遊戯・ORIGAMIを添えました」と石井シェフ。身体だけでなく、子供の心を満たすことが真の栄養で食育(Dietary Education)と考える石井シェフらしい作品。©Julien Bouvier Studio

「日本の料理が一番だったよ!」と笑顔で石井シェフに声をかけるシーンが印象的だった子供審査の風景。テーブルを楽しそうに囲む子供たちの表情には終始笑顔が溢れ、料理を心から楽しんでいた。©White Mirror

『ボキューズ・ドール2023』を終え、シェフたちも安堵した表情に。今後の動向にも注目していきたい。©White Mirror

Photographs:White Mirror/Julien Bouvier/Taisuke YOSHIDA/一般社団法人ボキューズ・ドールJAPAN

「美吉野醸造」自慢の甘酒。日本が誇るノンアルコール発酵飲料。[和光アネックス/東京都中央区]

甘酒は、江戸時代より好んで飲まれていた発酵飲料。味わい深い酒を造るには、欠かせない湿度の高い吉野杉で覆われた麹室の環境だからこそ生み出せる「総破精こうじ」の栗や焼き芋の様な香りが特徴。

WAKO ANNEX味の決め手は総破精手づくり麹。江戸時代より人々の喉を潤してきた、夏バテ予防の飲む点滴。

奈良県吉野郡にて1912年より酒を醸し続ける「美吉野醸造」。酒造りの特徴は、今までの酒造りでは語ることのできない「酸と旨みが響きあう酒造り」です。中でも名作は「花巴」。速醸、山廃、水酛、火入れ、生酒、にごり……。製法の違う酸のニュアンスを纏うことで、酒の見え方は、より複雑で多様になります。

「吉野の山紫水明を見るように、味わうそれぞれが、感じるままに花巴を愉しんでいただけましたら幸いです」とは蔵元の言葉。

そんなこだわりと哲学を持った「美吉野醸造」には、もうひとつの味があります。甘酒です。酒蔵自慢の「酒蔵古流こうじ甘酒」の味の決め手は、酒造りで培った手づくりの麹。その決め手は、栗香と呼ばれる、甘栗や焼き芋を思わせる甘く香ばしい香りです。保存料・添加物を加えないシンプルな原材料だからこそ、麹米には奈良県産のお米、仕込み水には大峰山系伏流水の甘く柔らかい湧き水を使用。素材の良さを存分に味わえます。麹の力による糖化で、糖類無添加ながら上品な甘みで昔懐かしい素朴な味わいが楽しめます。

日本酒の蔵元ならではの麹菌におる香味バランスの良い麹造りから生まれた甘酒は、まさに日本が誇るノンアルコール発酵飲料。

食欲が落ちる暑い夏には冷たく冷やして甘さすっきりと。冬は温めて、柚子や生姜を加えて、ホット甘酒でほっこりと。ぜひ、季節や好みに合わせてお楽しみください。

酒蔵ならではの上品な香味とキレの良い甘みが特徴。麹や米が沈殿しているため、よく振ってからお召し上がりを。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)