世界でも類を見ない奇跡の夜。トップシェフたちが集い、互いに料理を作るThe Chefs Gathering。[The Chefs Gathering/東京都渋谷区]

この日集まったシェフは40名以上。いずれも本田直之氏が直接スカウトしたトップシェフたち。

シェフズギャザリングコロナ禍を経て4年越しに開催されたシェフたちの宴。

クラブミュージックが流れるキッチンに名だたるシェフたちが集まり、それぞれの料理を作り、それぞれに振る舞う。そこかしこでにぎやかな会話が交わされ、突発的に共同作業が行われることも。それはシェフがホストであり、ゲストでもある不思議な場所。だからこそ、各店のキッチンからは生まれ得ないここだけの味が生まれることもある。そんな夢のようなイベントがこの「Chefs Gathering」です。

もしこの会のチケットが一般販売されるなら、間違いなくプラチナチケットになることでしょう。しかしこれは、シェフの、シェフによる、シェフのためのイベント。誰もが簡単に訪れられるものではありません。

それでもこの場で紹介するのは、この自由な場が、日本の食の未来に繋がるから。この場で出会い、交流を深め、新たなコラボレーションをするシェフ。この場で得たインスピレーションを糧に、新たなステージに挑むシェフ。賑やかで楽しいこのイベントは、さまざまな可能性に満ちています。

2016年から開催され、コロナの中断を経て2019年以来4回目となった「Chefs Gathering」。そこではどんな光景が広がっていたのでしょうか。

会場となったのは渋谷『TRUNK(HOTEL)』のキッチン。イベントの協賛はドン・ペリニヨンとエビアンスパークリング。

シェフズギャザリング混沌の中で進化するトップシェフのクリエーション。

「ひとつどうだい?」

自ら作った料理を持って会場内を回るのは、2023年の「アジアのベストレストラン50」で第一位に輝いた『ル・ドゥー』のトン・ティティット氏。この日のためだけに来日し、翌日にはもう帰国するといいます。

遅れてやってきた『傅』の長谷川在佑氏は、顔見知りのシェフたちとの挨拶が忙しく、なかなか料理に取りかかれません。

フランス・パリでミシュラン一つ星を獲得した『RESTAURANT PAGES』の手島竜司氏は、せっせと海老の殻を剥いています。その作業を手伝っているのは、『ALTER EGO』の平山秀仁氏。福岡からやってきた『Goh』の福山剛氏は、『鮨 唐島』の唐島裕氏とともにシャリカレーを作るといいます。大阪『La Cime』の高田裕介氏氏は注文していた食材が届かず、急遽パスタを作り始めました。銀座『はっこく』の佐藤博之氏は、巨大な鮪を捌きつつ、さまざまなシェフとコラボして料理を仕上げています。

一言でいうなら、それはカオス。

楽しげな会話と調理の音と音楽。さまざまな料理の香り。それらが入り混じりながら、独特の活気を生み出しています。しかしその状況の中でも、手際よく料理が仕上がっていくのは、ここにいる全員が一流の料理人だから。

「料理人同士、言葉を交わさずとも伝わることがあるんでしょうね」。

先の手島竜司氏はそう言いました。

混沌の中に生まれる秩序と創造。この場所が、これからの料理界にとっていかに大切な場所であるかが垣間見えました。

メインのドリンクは「ドン・ペリニヨン」。最高峰のシャンパンが料理を引き立てた。

シェフたちはオリジナルTシャツを着用。揃いのシャツに連帯感が高まる。

音楽プロデューサーFPMこと田中知之氏がDJ。アップテンポな曲で会場を盛り上げた。

キッチンは広いが40名のシェフが一斉に料理をするとたちまち熱気に包まれた。

トップシェフたちの共演だけに、揃う食材も最高峰。

シェフズギャザリング最高の料理を、フリースタイルで味わい尽くす奇跡のような夜。

料理は次々と完成します。テーブルはありません。料理が並ぶのは調理台の端やコンロの脇。皿が足りなければ、金属のバット。シェフたちは会場を歩きまわりながら、気になった料理を気軽に口に運びます。

しかし何度も言いますが、参加者たちはいずれもトップシェフ。無造作に並べられた料理は、どれも一級品です。なんと贅沢で、なんと楽しいイベントでしょう。

ドリンクを担当するのは日本を代表するバーテンダー・後閑信吾氏と、トップソムリエでありワインディレクターの大越基裕氏。最高のワインとカクテルが、料理のおいしさと場の楽しさをいっそう盛り上げます。

「世界のどこでも、聞いたことがない」。

世界の美食を食べ歩くフーディ浜田岳文氏はそう話します。

「アジアのベストレストラン50」のチェアマンであり、世界のレストラン事情に造詣が深い中村孝則氏もそれに同意します。そしてこう付け加えました。

「この夜は、奇跡に近い」。

焼き肉界の雄『よろにく』からは桑原秀幸氏、早川剛氏の両氏が参加。

『ALTER EGO』平山秀仁氏による一皿。ミラノ仕込みの美しい料理が目を引いた。

銀座の鮨『はっこく』佐藤博之氏による鮪料理。

『鮨 唐島』の唐島裕氏が特別に炊いたシャリに『Goh』福山剛氏がカレーを合わせた鯛シャリカレー。

『FARO』能田耕太郎氏の料理は、スペシャリテであるヴィーガンパスタ。

シェフズギャザリングシェフ同士を繋ぎ、新たな食の未来を描く、美食家の夢。

シェフの、シェフによる、シェフのためのイベント。

その仕掛け人は、ひとりの美食家でした。

その名は本田直之氏。この晩、集まった40数名のシェフは、本田氏が直接出向き、話し、招待した方々。東京も、地方も、海外も、すべて本田氏の直接スカウトです。その情報網と行動力、そして熱量こそが、シェフたちを動かしたのでしょう。

「同じジャンル内では親交があっても、カテゴリーを越えたシェフ同士の交流はなかなか生まれません。しかしジャンルを越えた交流からこそ発見や進化があるはず。ひとりのファンとして、そんな進化が生まれる場を作りたかったんです」
と本田氏。その思いに共感したのが、会場となった「TRUNK(ホテル)」代表取締役社長の野尻佳孝氏。

「どうせなら、何か突き抜けたことをやろう」。

そんな二人の思いが結実して、2016年に第一回の「The Chefs Gathering」が開かれたのです。第4回となった今回は、過去最高の盛り上がりを見せました。そしてもちろん、これからも「The Chefs Gathering」は続きます。

「シェフ同士を繋いだら、どんな化学変化が生まれるか。僕はそんな未来を夢見るシェフの応援団」。

世界でも類を見ないイベントを手掛け、大成功に導いた本田氏は、そう言って楽しそうに笑いました。

仕掛け人の本田直之氏。「オリジナリティとフィロソフィを持つ料理人」を自らスカウトしてこのイベントに繋げた。


Text:NATSUKI SHIGIHARA


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