古きを温ねて、新しきを知る。江戸から東京への進化を辿る美食の会。

左から、江戸蕎麦御三家『砂場 赤坂店』にて、江戸前蕎麦の技術を体得し、西麻布の地にて蕎麦の発展を目指す『おそばの甲賀』、甲賀 宏氏。2011年から13年連続でミシュランの星を獲得し続ける『天ぷら元吉』の元吉和仁氏。2022年「アジアのベストレストラン50」で1位を獲得した『傳』の長谷川在佑氏。29歳の若さで『鮨 銀座おのでら』のハワイ店の責任者を務め、独立後も瞬く間にミシュランの星を獲得した『鮨まつうら』の松浦 修氏。鰻の美味しさだけでなく、資源問題に向き合った鰻料理の未来を模索する『はし本』の橋本正平氏。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner 日本料理界を代表する5人。「江戸前」の最前線。

今から400年前の江戸時代。活気のある城下町には、暖簾を掲げた大勢の屋台が並び、気軽につまめる庶民の料理が大流行。日本が世界に誇る食文化「江戸前」が誕生しました。

そして、移り変わる時代の中、数多の料理人が研鑽を重ねて幾星霜ーー。師から弟子へ伝統が受け継がれ、刷新と革新が繰り返され、かつて庶民の食として愛された江戸前料理は、世界が注目する食文化として進化を遂げました。江戸前において四天王と呼ばれた、寿司、天ぷら、蕎麦、鰻は、さらなる美味しさと料理人の想いが込められ、令和の時代でも多くの人々を魅了しています。

2023年、都内某所で開催された「江戸前進化論」は、そんな江戸前料理の最前線を5人のシェフが披露します。脈々と続く伝統を受け継いだ江戸前の担い手たちが、400年前の食文化に想いを馳せながら、自身が考える至高の江戸前料理を表現。まさに古きを温ねて、新しきを知る。江戸から東京への進化を辿る美食の会が始まります。

まず料理を振る舞ったのは、日本料理店『傳』の長谷川在佑氏。店の名物でもある「傳最中」がテーブルに供されます。

「香ばしく焼いた最中種に、干し柿、フォワグラの味噌漬け、いぶりがっこを挟みこみました。干し柿は、砂糖が簡単には手に入らなかった時代の貴重な糖分。自然の食材だけで感じる贅沢な甘味と、当時の日本にはなかったフォワグラの味噌漬けのコンビネーションを楽しんでください」。

手の平にちょこんと乗るサイズの「傳最中」を口にしてみると、思わず仰け反るほどの濃厚な甘い風味が、口内を満たし鼻腔へと駆け抜けます。

イベント開始早々、長谷川氏の「傳最中」で会場は一気に熱を帯び、4人のシェフが次々に料理を振る舞い始めました。今を生きる日本料理界の旗手たちが考えた「粋」な江戸前料理とはーー。

『傳』の長谷川氏が、まず披露した「傳最中」。

「傳タッキー」は、手羽の中に紫蘇を混ぜ込んだおこわと青梅が詰めて揚げてある。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner魚の上質さを生かして、江戸前の仕事を施す。

白金で鮨屋を営む『鮨まつうら』の松浦 修氏が、江戸前料理として披露したのは4種の鮨とどんぶりです。そして、江戸時代に城下町を賑わせた屋台スタイルで鮨を供します。客は肩を並べながら、目の前で大将が握る鮨に目を奪われます。

「僕が考える江戸前鮨は、現代だから手に入る新鮮で上質な魚に、少しだけ手を加えてネタにします。魚本来の風味をのこしつつ、先人が考え出した知恵をそっと添えてあげる。進化した江戸前の美味を感じてください」。

松浦氏が付け台に差し出した、艶やかに光る小肌を口に入れます。なるほど、小肌の上質な脂感を感じつつ、口内の余韻をしめるのは酢の柔らかな酸味です。一つ一つの鮨が目をみはるほどの充実感で、現代の食材と江戸前の仕事が見事に融合した味わいでした。

『鮨まつうら』で一品目に必ず出すという「まぐろの脳天」。

江戸時代によく使われた調味料、煎り酒なども取り入れた松浦氏。

左から「のどぐろのどんぶり」「大トロ」「小肌」「まぐろの脳天」「あん肝」。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner食材の真価を見極める。調理法としての天ぷら。

パチパチと金色の油が跳ねる鍋を前に、人の良さそうな笑顔で客を迎えるのは『天ぷら元吉』の元吉和仁氏。

元吉氏が天ぷらを揚げる中でゲストを驚かせたのは、多彩な調理法でした。食材に衣をつけて油で揚げる。そんな定型通りの揚げ物とは別次元。まるで異国の調理法を見ているような新鮮な光景が広がります。

揚げたての新玉ねぎは、冷めるまで風にさらし、片面だけ衣がついて揚がった大葉の上には生のウニが堂々と鎮座します。なんと、太刀魚の天ぷらは揚げる時に油へ水を加えます。固定概念から大胆に脱却した元吉氏の天ぷらは、軽やかでありながら不思議と馴染み深い味わいを感じます。

「ただ珍しいことをするのではなく、裏側にはきちんと基礎と理由があります。太刀魚の天ぷらは、水を加えて揚げることでふっくらと。衣をすこし焦がす事で焼き魚のような香ばしさもまとわせます。この調理法のために、蓋をしめられる専用の揚げ台まで作りました。伝統的な教えを理解した上で、新しい調理法を考え、今までになかった味を創ろうと心がけています」。

独自の天ぷらを作るために、調理器具も開発したという。

左上から時計回りに「太刀魚」「新玉ねぎ」「ウニ」。

「食材の美味しさを引き出すための手法として、天ぷらを作っています。江戸前の精神と、これまでになかった調理法から、天ぷらの未来を感じてもらえたら嬉しいです」と話す元吉氏。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner庶民の味とお殿様の味。多様な江戸前蕎麦の世界。

江戸蕎麦御三家の一つ『砂場』で修行を積んだ『おそばの甲賀』甲賀 宏氏は、2種類の蕎麦を披露しました。

「江戸時代は庶民からお殿様まで、蕎麦が大好きでした。今日は現代風にアレンジをした気軽に腹を満たせる”庶民の蕎麦”と、更科粉を用いた上等な”お殿様の蕎麦”を用意しました。江戸から続く多様な蕎麦の美味しさを愉しんでください」。

一つ目は、『おそばの甲賀』でも出しているという「すだちそば」。濃いめのつゆをカツオ出汁でわったものを、豪快に蕎麦へぶっかけて食します。清涼感のある蕎麦の美味しさは、夏の定番として、江戸時代から庶民に親しまれていたのです。

二つ目は「キャビアそば」。江戸時代にお殿様に献上されていたという「御前蕎麦」の上に、キャビアが溢れんばかりに盛ってあります。江戸時代のお殿様よりも贅を尽くしているであろう蕎麦を手繰り、会場には至福と愉悦の雰囲気が漂いました。

大葉を練り込んだ更科蕎麦にキャビアをのせた「キャビアそば」。

「すだちそば」は、半分食べたらもずくを投入。キュッとした酸味が加わる。

修行先で江戸前蕎麦への理解を深めたという甲賀氏。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner野趣と洗練の間。進化した鰻の食事情。

鰻屋として江戸前を表現するのは『はし本』の橋本翔平氏。現代ならではの上質な養殖鰻を使い、江戸時代の野趣を感じる調理法を披露します。

「江戸時代の鰻は、すべて天然もので美味しさにも個体差があったはずです。今は醸成された養殖技術と優れた生産者がいるので、いつでも美味しい鰻が手に入るようになりました。今日使う鰻は、鹿児島で横山さんという方が育てています。臭みがなくて綺麗な味わいです」。

酸味を効かせた「鰻ざく」は、穀物の荒々しさがのこっていた江戸の酢をオマージュして、どぶろくの醸造過程で抽出したお酢を使用。まるできりたんぽのような佇まいの「蒲穂焼」は、筒切りにした鰻を骨ごと串刺しにして、山椒味噌を塗って焼き上げています。豪快な江戸の調理法を用いながらも、洗礼された盛り付けといった現代的なアプローチで、鰻の澄んだ味わいと力強い存在感を表現していました。

どぶろくから抽出した酢を使った「鰻ざく」と、筒切りの鰻を串刺しにした「蒲穂焼」。

鹿児島産「横山さんの鰻」。クセがなく澄んだ鰻の旨味が愉しめる。

鰻を丁寧に焼き上げる橋本氏。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner江戸前料理のこれまでと、これから。

屋台スタイルで暖簾を掲げるシェフたちの料理を味わった「江戸前進化論」。短い時間でしたが、肩を並べて大将の話を聞き、舌鼓を打った面々の間には、美食談義の華が咲いていました。400年前の江戸っ子たちも屋台からの帰り道、同じように美味しいものへの熱い想いを語り合ったに違いありません。

最後は、イベントをプロデュースした本田直之氏のこんな言葉で締めくくられました。

「江戸前を代表する鮨、天ぷら、蕎麦、鰻を一つのコースで食べる特別な会でした。シェフたち! 素晴らしい料理をありがとう! 今宵が江戸前料理の未来を考えるキッカケになったらと思います」。

互いの料理を賞賛しアイデアを出し合うシェフたち。食べた料理に合わせる酒を議論する醸造家たち。次に食べてみたい料理への飽くなき好奇心を胸に宿す美食家たちーー。

まだイベントの熱から冷めやらぬ会場には、世界基準へと成長を遂げた江戸前料理が、さらに先へと歩みを進める気配に満ち溢れていました。

日本料理を代表する5人のシェフが揃い踏みした特別な一夜だった。

エネルギッシュな会場には、フーディーやクリエイターなど、国内外を問わず、多くの人々が集った。

「江戸前進化論」のプロデュースを務めた本田直之氏。料理人や各界からの信頼も厚く、そんな人間関係によって成された今回は、ただ美味いだけでなく、日本文化も表現。


Text:DAIJIRO KAWANO

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