北限の蒸溜所で200年以上続く、伝統のスコッチウイスキー。
スコットランドの北端、北海と大西洋が交わる境界。
ここに浮かぶ大小70の島々からなるオークニー諸島。かつてヴァイキングの拠点であり、今なおその誇り高き魂が受け継がれる島。常に強風が吹き荒れ、木々すらも生き残れないという過酷な島。
そんなオークニー島の蒸溜所で作られるウイスキーが『HIGHLAND PARK』です。厳しい環境が生み出す、最果てのシングルモルト・スコッチウイスキー。200年以上も変わらぬ製法が守られ続ける、ロマンあふれる酒。
ならば変わらぬことこそが『HIGHLAND PARK』の誇りなのかといえば、そうではありません。製法とともに受け継がれる“ヴァイキングの魂”が目指すのは、常に戦い挑戦し続けること。新たな道を切り開き、未知なる栄光を掴むこと。
そんな『HIGHLAND PARK』の可能性を探るイベントが、都内で開催されました。第2回目の開催となる『HIGHLAND PARK presents WILD HARMONY SESSION』。舞台となるのは、モダンベトナム料理の名店・外苑前『An Di』です。コースを通してウイスキーとのペアリングを楽しむ今宵の挑戦。スパイスが香るアジアンフードと、ウイスキーの相性はいかに。
まずはテイスティングで味わう『HIGHLAND PARK』の力強いフレーバー。
ベトナム料理とスコッチウイスキーのペアリング。想像もつかない取り合わせですが、心配は無用。何しろこの『An Di』には素材感を活かす巧みなスパイス使いに定評のある内藤千博シェフ、そして日本を代表するドリンクディレクター・大越基裕氏がいるのです。
ソムリエとして知られる大越氏ですが、キャリアのスタートはバーテンダーから。ウイスキーの知見も深く、『HIGHLAND PARK』も古くから親しんでいた酒。そんな大越氏と内藤シェフは、はたしてどんなペアリングを見せてくれるのでしょうか。
さてディナーは、『HIGHLAND PARK』のブランドマネージャーである藤井氏の挨拶で幕を開けました。まず語られる『HIGHLAND PARK』の歴史や誇り。その物語を証明するかのように次に登場したのは、『HIGHLAND PARK』のシニア・ブランドアンバサダーを務めるマーティン・マークバードセン氏です。
「ウイスキーテイスティングのルールは2つだけ。1つは今までに見聞きしたルールをすべて忘れること。もう1つは、ただ楽しむこと」
参加者にそう語りかけるマーティン氏。その穏やかでユーモアに富んだ語り口、そして誇り高き『HIGHLAND PARK』を擬人化したかのような風格ある風貌に、ゲストたちはたちまち惹きつけられます。
そんなマーティン氏が熱く語る物語を聞きながら、最初の料理が登場します。『HIGHLAND PARK』の12年、15年、18年のそれぞれのヴィンテージに合わせる3種類のフィンガーフードから。3種のなかでもっともエレガントで軽やかな12年には柑橘と海苔の香りを添えた牡蠣、香りに深みがありフルーティな15年には発酵茶葉とコリアンダーのクッキー、味わいにコクがある18年には本枯節のジャーキー。
大越氏のロジカルな解説により、味わうべきポイントが明確になった『HIGHLAND PARK』は、漫然と味わうよりもいっそうその個性的なフレーバーと深みを主張します。
さまざまな角度からウイスキーを楽しむ多彩なペアリング。
料理に合わせ、考え抜かれたペアリング。圧巻のメニューが次々と登場します。
炙り秋刀魚を使った揚げ春巻きと、ソーダを加えた12年。アジア料理に多用されるタマリンドの香りが、ウイスキーとの接点となり調和を促します。ソーダとウイスキーを一対一で割ることで、爽快感ではなく香りの広がりを演出。
鯖の味噌煮を巻いた生春巻きには、1年間蜂蜜に漬け込んだ金木犀を加えた18年。これはなんとウイスキーをペアリングのドリンクではなく、料理のソースとして味わうという発想。熟成感ある金木犀とウイスキーが、味噌の風味にいっそうの奥行きを加えます。
魚料理はヒラメ。卵黄を使ったムース状のソース・サバイヨンを添えたヒラメに、バジルティーで割った15年を合わせ、テクスチャをつけたソースとウイスキーの調和を狙います。
次々に繰り出されるアイデアたっぷりのペアリングで、これまでにないウイスキーの側面に光を当てる大越氏。それは悠久の歴史が作り上げた『HIGHLAND PARK』の伝統の先に、まだ新たな可能性が秘められていることを証明するかのようでした。
ベトナム料理とスコッチウイスキーの驚くべき調和。
メインディッシュの肉料理は、子羊。焦がしパイナップルを添えたこの料理に、大越氏はストレートの15年を合わせました。
「ウイスキーのようにアルコール度数の高いドリンクを料理と合わせる方法は3つ。ひとつは先程の生牡蠣のように味わいをミックスすること、2つ目は魚料理のときのようにテクスチャをつけること、そして3つめが油分と合わせること。その油分の部分がこの子羊です」
と明快に解説する大越氏。
食べ方はしっかりと料理の油分を口に入れた上で、舐めるようにウイスキーを味わうこと。アルコール度数40度のウイスキーでも、こうすることで十分にペアリングを楽しむことができるのです。
「3種類のヴィンテージの中でもっともフルーツ感のある15年と、パイナップルのソースがクロスオーバーするイメージ。味だけでなく、香りも力強い『HIGHLAND PARK』ですので、香りのハーモニーを意識しました」
最後の料理は、おなじみのベトナム料理であるフォー。大越氏が「最初からウイスキーとの相性を感じていた」という鰹節の出汁に、落花生やバニラを加えたクリーミーでコクのあるスープに合わせるのは、『HIGHLAND PARK』18年のお湯割り。18年の深みある味わいをコクのあるスープで受け止めつつ、温度感を合わせて一体感を出す狙いです。
フルコースで大満足の内容でしたが、最後のデザートにもまだ見ぬペアリングが待っていました。ココナッツミルクプリンの中には『HIGHLAND PARK』18年を混ぜ込み、そこに15年を合わせて味わうのです。異なるヴィンテージのウイスキーを同時に味わうという革新的なペアリング。しかしプリンに添えられた甘夏のフルーティな緩衝材となり、それぞれの個性を持つ18年と15年が、見事に絡み合いました。
ベトナム料理とウイスキーのペアリングという未知への挑戦は、こうして大きな拍手とともに幕を下ろしました。
「今回の挑戦のなかで感じたのは『HIGHLAND PARK』の個性、とりわけフレーバーの力強さ。今回のベトナム料理だけでなく、本当に世界のいろいろな料理と合わせられる可能性を秘めていると感じました」
大越氏は、内藤シェフとともに作り上げたコースを振り返りそう語ります。さまざまなペアリングを伝えてきた二人にとっても、今回のウイスキーのみでのペアリングコースは大きな挑戦であり、新たな発見があったのでしょう。
挨拶に立ったマーティン氏も
「35年間ウイスキーに関わってきた中で最高の夜でした」
と、興奮気味に語りました。
こうしてアジア料理との相性も見事に証明した『HIGHLAND PARK presents WILD HARMONY SESSION 』。200年以上におよぶ『HIGHLAND PARK』の歴史は、常に未知への挑戦の歴史。その物語に新たな1ページが加えられた特別な夜でした。
住所:東京都渋谷区神宮前3-42-12
電話:03-6447-5447
営業:12:00〜13:30(土曜、日曜のみ)、18:00〜23:00
休日:月曜
URL:http://andivietnamese.com/
Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA
(supported by 三陽物産)