鳴門市 レンタカー利用者宿泊割引キャンペーン


鳴門市では、レンタカーを利用して市内参画宿泊施設にご宿泊する観光客の皆様に対し、市内観光の回遊性の向上と、一年を通じてのさらなる誘客促進を図るため、割引制度を実施します。

割引実施期間

令和7年4月1日(火)宿泊分~令和8年3月31日(日)宿泊分
※先着400台に達した時点で終了。

助成額

1台あたり3,000円

割引の流れ

①レンタカーを借りる
②鳴門市内の参画宿泊施設に宿泊する(鳴門市公式サイトにて順次更新)
③チェックイン時にレンタカー貸渡契約書等を提示、アンケート記載
④チェックアウト時に割引後の宿泊料金を支払う
※宿泊施設により、現金で割引分をお渡しする場合がございます。

ご注意

①レンタカーを借りた方で、かつ、参画宿泊施設に宿泊した方が対象となります。
②現地決済のみが対象となります。
③キャンペーンが終了した場合は、鳴門市公式サイトにてお知らせします。

お問い合わせ

鳴門市役所観光振興課 TEL:088-684-1157

鳴門市公式サイト

令和7年度 鳴門市レンタカー利用者宿泊助成制度について

木曽伝統の発酵食「すんき」、木曽漆器、塩尻ワイン。宿場町・奈良井宿がつなぐ地域の新たな「食」体験

江戸時代の宿場町の面影を残す奈良井宿から、地域に根ざす文化財と食を掛け合わせた新プロジェクトが始まる。

このプロジェクトは、令和5年度観光庁が実施する「地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業」の実証事業の一環として、「ONESTORY」が事務局となり地域の方と協同して行う取組です。「文化財」をテーマとする実証先として、奈良井宿を起点とする長野県塩尻市の奈良井地域が選定されました。

奈良井宿は、江戸時代に整備された五街道のひとつである中山道(東京・日本橋と京都・三条大橋を結ぶ500kmを超える街道)のちょうど中間、34番目に位置します

かつて多くの旅人を迎えた町の賑わいは「奈良井千軒」と謳われるほど。奈良井川に沿っておよそ1kmにわたり続く日本最長の宿場町として木曽路で一番賑わっていたといいます(※1)。街道沿いに旅籠屋形式の町屋が連なり、江戸時代の面影を色濃く残す町並みは、1978年に文化庁の「重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。

長い歴史の中で守られてきた景観や町並み、地域に伝承される漆器・曲物の伝統工芸なども含めた奈良井宿の「文化財」と、山々に囲まれた気候風土が育んできた発酵食などの地域の「食」を掛け合わせて、奈良井地域の「食」の価値向上に向けたプロジェクトが始動しました。

地域が守り伝承してきた発酵食文化「すんき」に光を当てる。

奈良井宿がある長野県塩尻市は、明治時代からぶどう栽培が盛んな桔梗ヶ原を中心に15ものワイナリーが集まる日本ワインの生産地(※2)。奈良井宿への玄関口ともいえる塩尻駅にも、塩尻ワインのワイナリー巡りを楽しむ観光客が多く訪れます。一方で、駅周辺や中心部に飲食店が少なく、ワイナリーを目指す人や奈良井宿を目指す人の通過点となってしまっていることが地域全体の問題となっていました。

また、奈良井宿においても、国内外から多くの観光客が訪れる一方、その大半が街歩きメインでの滞在。宿泊施設や飲食店の数が限られていることもあり、「食」という点から奈良井宿の魅力をなかなか提案できていないことが地域の問題でもありました。

そこで今回のプロジェクトが目指したのは、奈良井宿を起点とし、木曽漆器・奈良井の曲物といった工芸と、山深い木曽地域に伝承される発酵食と、塩尻のワインを活用して、奈良井宿の豊かな食文化を一連となった食体験として提供することです。

豊かな地域資源がありながらも、それらがバラバラに点在している現状に対して、地域の魅力を一体として感じられる、地域資源をフル活用したペアリングメニューを開発し、地域全体で「食」の価値を発信していけることを目指します。

メニュー開発の強力なアドバイザーとしてお迎えしたのは、「食の外交官」ともいわれる公廷料理人として、日本食の伝統や地域文化と向き合い、地域の資源を「和食」としてアウトプットするプロフェッショナルである出張料理人の工藤英良シェフです。過去にパリ、カナダ、中国において公廷料理人としてグローバルに和食を提供し日本文化を踏まえた「おもてなし」に尽力されてきた経験や、岐阜県飛騨市の「食の大使」として地域独自の食の魅力向上やブランディングに取り組まれた経験があり、文化を踏まえ地域の工芸や歴史的建造物の雰囲気を用いた食の提供を行うことへの知見が豊富であることから、今回のプロジェクトのアドバイザーを依頼することとなりました。工藤シェフと地域の料理人が伴走しながら、「文化財」を切り口とした地域の食のアップデートに向けて検討を進めました。

奈良井を訪れた工藤シェフが様々な地域食材の中から注目したのが、木曽地方に古くから伝わる保存食「すんき」。すんきは、木曽地域の在来品種である赤カブの葉を、塩を一切使わずに植物性乳酸菌で発酵させた漬物で「すんき漬け」とも呼ばれて、地元では刻んで味噌汁に入れたり、鰹節と合わせたり、そばに乗せたりして食べられています。

深い山間にある木曽地域で塩がとても希少だった時代、塩を使わずに、厳しい冬の間も野菜を保存するための知恵として生まれた保存食でした。生きるための知恵として受け継がれ、どの家庭でも作られてきましたが、独特な酸味もあり、最近では地元の若い人にとってはあまりなじみのない食材ともなっていました。

その独特な癖のある味わいに引き込まれたという工藤シェフは「乳酸発酵させたすんきと、乳酸発酵させた樽熟シャルドネとのペアリングは、すんきの可能性を感じさせる素晴らしい組合せでした。木曽の食文化と塩尻のお酒が組み合わさることによって、新たな価値を見い出せると確信しました」と振り返ります。「すんきと白ワインが合う」という工藤シェフのアイデアをきっかけに、地域の料理人と一緒に、すんきを軸にしたワインに合うおつまみの開発が進みました。

工藤シェフとともにメニュー開発を行ったメンバーの一人、奈良井宿の宿「BYAKU -Narai-」のレストラン「嵓 kura」の料理長・友森隆司シェフは、こう話します。

「メニューを考える上で、なぜこの土地ですんきが生まれたのか、そしてなぜ今若い人にはあまりなじみがなくなってしまったのかとか、そういう背景を大事にしました。すんきは、冬の貧しい時期を過ごしていくために生まれた食材。すんきそばがあるのも、他に食材がなかったから。そういったバックグラウンドを考えると、すんきが主役だからといって、華やかに盛大に『かき揚げ』とか作るのは、そもそものすんきの在り方とかけ離れていてバランスが崩れてしまうなと。外の方が驚くメニューよりも、地域の方が『こんな使い方もできるのか。今度家でも漬けてみよう』ってすんきの良さに気づいてくれることが大事かなと思いました。だからこそ、誰でも作れる親しみやすいメニューになるように意識しました。」

「酸っぱくてちょっと苦手なもの」という先入観が無くなり、「食べやすいもの」という気づきが生まれることで、地域の人にとってもすんきがより身近なものになる。そのことが、地域の「食」の価値を向上させ、その魅力を外へと発信する原動力にもつながっていきます。この土地ならではの工夫から生まれた守るべき食文化を、特別なメニュー開発で盛り上げるのではなく、継続して地域に根ざして発展していけるメニューとして再構築する。

試行錯誤を経て完成したのは、4つのおつまみ。「すんきポテトサラダ」「漬物テリーヌ」「市田柿とクリームチーズとすんきの生ハムロール」「鯖缶タルタル」です。メニューの詳細は塩尻市観光ガイド時めぐり「伝統食の新しい提案ー木曽のすんきを活用したレシピー」をご覧ください

実証実験の第一弾として11月26日(日)・27日(月)の二日間、塩尻駅の駅前広場で、開発した4つのおつまみにそれぞれ塩尻ワインをペアリングし、木曽漆器に盛り付けて提供するイベントが開催されました。

毎年秋に、塩尻駅前に特設される芝生の上で塩尻ワインを味わえる屋外イベント「ワインテラス」とのコラボイベントとして開催された実証実験。「ワインテラス」を主宰する、塩尻駅構内のワインバー「アイマニ」のご協力をいただき、グラスワインを注文された方に、それぞれのワインに合わせたおつまみを、木曽漆器に盛り付けて提供しました。ワインはもちろん全て塩尻ワインです。

おつまみを盛り付けた木曽漆器は、「木曽漆器青年部が行う漆器の貸し出しサービス「かしだしっき」のワッパ皿。奈良井発祥の曲物の技術を使い、曲げわっぱのお弁当の蓋の部分を裏返したような形で日常に使いやすく、木の肌を残した木地にすり漆で仕上げた表面もナチュラルで暮らしになじみやすい印象です。

塩尻のワイナリー「ドメーヌ・スリエ」のすっきり清涼感のあるシャルドネ白ワインと合わせたのは「漬物テリーヌ」。すんき、赤カブの浅漬け、ワサビの葉、白瓜の粕漬けを白菜漬けで巻いて美しいテリーヌに仕上げた一品。様々な味わい、食感、香りの漬物が合わさった複雑な美味しさで、すんきがナチュラルになじみます。

つづいては塩尻で一番古い(※3)ワイナリー「五一わいん」のソーヴィニヨン・ブランの白ワインと合わせたのは「鯖缶タルタル」。すんきのつけ汁と卵と油で作った「すんきマヨネーズ」に、刻んだすんきと鰹節を加えてタルタルソースを作り、市販の鯖缶と合わせた一品。こっくり濃厚な鯖の味噌煮の旨さに、すんきの酸味が効いた爽やかでありながらコクのある仕上がりの「すんきタルタル」がぴったりはまります。

通常、すんきを絞った時に出る汁は切って捨てていたもの。その、すんきの旨みをたっぷり含んだ汁を「酢」の代わりに活用するというアイデアがメニュー開発の肝となりました。乳酸を含んだすんき汁特有のコクが、酢とは違うやわらかくまろやかな味わいを生み出すとともに、塩みも抑えられる。すんきが料理をマイルドな味わいに整えるとともに、乳酸の味わいとワインの相性が非常に良いということが、シェフたちにとっても大きな発見となりました。

3品目は、塩尻「井筒ワイン」の軽めの辛口赤ワイン、マスカット・ベリーAに合わせた「すんきポテトサラダ」。すんきマヨネーズで作ったポテトサラダの上に、さらにすんきで作ったドレッシングをかけたすんき尽くしの一品。ザクザクとした食感が楽しいすんきの酸味と、鰹節の旨み、すんきマヨネーズのコクが癖になる味わいです。

4品目は塩尻「サンサンワイナリー」の重めの赤ワイン、メルローと合わせた「市田柿とクリームチーズとすんきの生ハムロール」。生ハムとクリームチーズの塩味と、長野県の名産品である市田柿の優しい甘みと香りを、すんきの酸味がつなぎ、複雑な味わいのハーモニーが美味しい一品です。

会場には、今回提供されたメニューの紹介とともにレシピを紹介するウェブサイトへのQRコードが記載されたポップが用意され、その場でおつまみのレシピも知ることができる仕組み。実際に食べて美味しいと興味を持った人に「自分でも作ってみよう」と思ってもらうこと、地域の店舗の方が自由にアレンジして展開してもらえることを狙っています。土日の2日間で地元の方や観光客の方など50人以上がおつまみを試食し、評判は上々。「食べやすかった」「すんきはどこで買えるんですか?」とさっそくすんきに興味を持つ方もいました。

「今まですんきは地元の人でも若い世代にはなじみのない食材。扱うのも難しいイメージがあって、アレンジしてみようという発想もありませんでした。でも今回のおつまみはお客さんの評判も良くて美味しかったですし、レシピをアレンジしながらぜひお店でも使っていきたいなと思いました。奈良井宿と塩尻、それぞれの場所で活動している地域のプレイヤー同士が同じプロジェクトに取り組むこともこれまでなかなかできなかったこと。僕らが奈良井に行ったり、奈良井でやっている企画を塩尻に持ってきたり、一緒にプロジェクトをやれると、いろいろな可能性が広がるなと感じました」と、イベントに協力してくださった「アイマニ」のオーナー田中 暁氏。

新しいものをゼロから生み出すのではなく、もともとあった地域の資源を掘り起こし、地域に根ざし継続的に発展させていく今回のプロジェクト。今年は奈良井宿の宿「BYAKU -Narai-」でのおつまみのテスト提供ほか、塩尻のワイナリーでの提供も検討中です。誰もが知っているすんきという伝統食材が絶妙なバランスで他の食材と調和しマイルドなまとまりを作り出してくれるように、すんきを軸に、町並みも工芸もワインも、地域の持つ豊かな文化財が一連の体験としてまとまり、プロジェクトの具体的な取組について検討するための素地が整いました。長い冬のシーズンを迎える深い山間の木曽地域、今後の新たな取組についてじっくりコミュニケーションが始まるのはこれからです。

※1 「奈良井宿観光協会」
※2 「塩尻市観光ガイド時めぐり - 塩尻市のワイナリー」
※3 「五一わいん - ワイン醸造100年を越えて」


■開催概要
観光庁では、令和5年度「地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業」において、 地域資源と地域食材の積極活用等により食の価値を高め、宿泊業の付加価値向上を進めると同時に、地域経済への裨益効果を増大させる取組のあり方について検証を実施いたしました。 
これにともない、本事業の取組内容を発表する事業成果報告会を開催することとなりました。 
観光産業関係者の皆様(宿泊事業者、自治体の観光部門担当者、DMO、観光協会、観光事業者)をはじめ、ご関心のあるすべての方のご参加をお待ちしております。
 
■日程
令和6年2月20日(火)15:00-17:00
■参加費
無料
■開催方式
オンライン(Zoom)

あたりまえの風景の中に見つけた地域の宝。4つのホテルから広げていく北海道・層雲峡温泉、上川そばの可能性

神々の遊ぶ庭、原始の雄大な自然に囲まれた層雲峡温泉ならではの「食」を求めて。

このプロジェクトは、令和5年度観光庁が実施する「地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業」の実証事業の一環として、「ONESTORY」が事務局となり地域の方と協同して行う取組です。「温泉その他の地域観光資源」をテーマとする実証先として、北海道上川町の層雲峡温泉が選定されました。

層雲峡温泉は、北海道のほぼ中央、先住民であるアイヌの人々が「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」と呼んでいた原始の雄大な自然が広がる「大雪山国立公園」の中にあります。

日本最大級で約23万ヘクタールの広大な国立公園内には、今もなお活動を続ける活火山を含んだ2,000メートル級の山々が連なり、壮観な景色を作っています。その中の一つ、黒岳の麓にある層雲峡温泉では、大自然が織りなす四季折々の圧倒的な景観を間近に楽しむことができ、夏は登山、秋は美しい紅葉、冬はライトアップされた幻想的な氷のオブジェが立ち並ぶ「氷瀑祭り」を目指して多くの観光客が訪れます。

石狩川を挟み約24kmにわたり断崖絶壁が続く渓谷に大型のホテルが集まり、北海道有数の温泉地として昔から団体のツアー客をはじめ多くの観光客を迎え入れてきた層雲峡温泉。いまも北海道内、道外からの観光客のほか、海外からも多くの人が訪れています。

季節ごと、ここでしか出会うことのできない景観を求め多くの観光客が訪れる一方、紅葉が終わる11月ごろから、「氷瀑祭り」が始まる1月末までの間は閑散期で、年間を通しての集客に大きく波があり閑散期の来訪目的となるようなコンテンツ開発が求められていました。

そのような地域の課題に対して、「層雲峡観光協会」を中心に層雲峡温泉の複数の宿泊施設が連携をとり、「温泉×食」という切り口で、紅葉や氷瀑祭りなどのイベント時に限らずに「食」においても旅の目的地となることを目指し、新たな取組をスタートしました。

外からの視点で再発見する、埋もれていた地域食材。

昔から団体客を多く迎え入れてきた層雲峡温泉では、部屋数が200以上という大型のホテルも多く、食事スタイルはビュッフェが中心です。100種類以上のメニューが並んだり、オープンスタイルのキッチンで出来立ての料理を提供したり、それぞれのホテルが独自に趣向を凝らしたビュッフェメニューを展開。北海道産の食材を使うメニューは各ホテルが特に力を入れており、宿泊客からの満足度が高い部分でもあります。

しかし、層雲峡温泉ならではのキーとなるメニューがなく、道内の他地域と「食」における差別化ができていないこと、「食」を目的とした集客が行えていないことが地域全体としての問題になっていました。

温泉地らしいビュッフェスタイルを生かしたキーディッシュを開発し、温泉街一体で提供することで、イベントのないシーズンにも年間を通じて“層雲峡ならではの食”を目的にこの場所を訪れる人々が継続的に増えること、そして、それによって地域全体の経済効果も高めることが本プロジェクトの目標です。

メニュー開発の心強いアドバイザーとしてお迎えしたのは、管理栄養士、食生活アドバイザー、アンチエイジング料理スペシャリスト、東京・赤坂のレストラン「ルリール」オーナーシェフ、「ちさこ食堂」での商品開発など多岐にわたり活躍する食のプロフェッショナル・知佐子氏。これまでに、アイヌの食文化にも通ずる「発酵と熟成」をテーマとしたレストラン「GINZA 豉 KUKI」のプロデュースや、徳島県の新祖谷温泉にて郷土料理をアレンジした会席料理コースのプロデュースを行うなど、食材や料理についての幅広い知見を持ち、素材を生かした調理アレンジやメニュー開発の経験が豊富であることから、今回のプロジェクトのアドバイザーを依頼することとなりました。堀氏と地域のメンバーが集まり、地域食材の洗い出しを行うところからプロジェクトは始まりました。

堀氏とのディスカッションを通じてメンバーが注目した地域食材は「そば」です。

北海道は実は、日本全国の作付面積の4割弱を占める国内最大のそば生産地(※1)。中でも道北エリアでの生産が盛んで、上川町もその一つ。旭川空港から層雲峡温泉へと向かう道中にはそば畑が広がり、地域メンバーにとってもそば畑のある風景は、幼少期から見慣れた景色でもありました。しかし、それゆえにそばを特別なものとして見たことがなかったと「層雲峡観光協会」の岩本昌樹氏は振り返ります。主に出荷用に生産されていたということもあり、地元産のそばの存在は皆が知っているものの、これまであまり意識されてこなかった食材でした。

堀氏が地域に入り外からの視点によって再発見された、埋もれていた上川の名産品。上川産のそばをキーにしたメニュー開発へと一気にプロジェクトは動き出しました。

上川産そば粉と層雲峡の清らかな水で作る十割そば。

これまでも各ホテルのビュッフェでは、数あるメニューの一つとして北海道産そばはおなじみでしたが、宿泊客からの評判は賛否両論。茹でたてのタイミングで食べた方からは高評価があったものの、時間が経つと乾燥して味が落ちてしまい低評価になることもあったといいます。そこで堀氏が提案したのが、緻密な製粉技術でそば粉100%使用した「そば玉」を作るというアイデア。

地元で採れた上川産のそばを高度な製粉技術で微細分化してそば粉に加工、層雲峡の大雪山系伏流水と合わせてそば玉を作り、そのそば玉を手動式の製麺機に入れて十割そばに仕上げます。そば玉にすることにより鮮度が維持しやすくなるとともに、製麺したての状態で茹でるので出来立てを提供しやすく、また手動で製麺を行うのもエンターテイメント性が高くビュッフェに向きます。

手動式の製麺器として使うのは、お菓子のモンブランを作る際に使ういわゆる「モンブランマシン」。10cmほどの大きさのそば玉を製麺機に通すと、お椀に約一杯分のそばがすぐに製麺されます。つなぎを使わずそば粉と水だけで作る分、ぼそぼそしたり切れてしまうこともある十割そばですが、高度な製粉技術によって加工した上川産そば粉100%のそば玉で作る十割そばは、切れることなく滑らかな仕上がり。

「上川産の十割そばをビュッフェで提供できるのはすごく可能性を感じます。モンブランマシンを使うことで、そばの麺の太さを変えられるのも特徴が出せてメニューの幅が広がります」と各ホテルの料理長も手応えを感じている様子。

単にそばをメニュー化するのではなく、温泉地ならではのビュッフェスタイルの食体験として印象付けるということは、メンバーが特に意識したことでもありました。

さらに今回こだわったのが「つけ汁」です。「層雲峡観光協会」の呼びかけによりプロジェクトに参加することとなったホテル大雪」層雲閣」朝陽亭」朝陽リゾートホテル」の各料理長が主体となり、ホテルオリジナルのつけ汁を開発。

層雲峡温泉にあるホテルはそれぞれに個性があり、訪れる観光客の層も少しずつ異なります。インバウンドのツアー客を多く迎え入れるホテルや、ファミリー層が多いホテル、50-60代のご夫婦が多いホテルなどさまざま。それぞれのホテルが、個性を生かしたオリジナルのつけ汁を考案し、上川産そばの可能性を広げていきます。

地元の人が自信を持って美味しいと思う、地域に愛される「食」を目指す。

12月1日(金)、プロジェクトの第一弾となる実証実験として、地域内の関係者などが集まり、今回開発したそばの実演と各ホテルのつけ汁をお披露目する試食会が開催されました。

モンブランマシンを使って目の前で製麺される上川そばに、参加者のみなさんも興味津々。40秒という短い時間であっという間に茹で上がるのも魅力です。茹でたてのそばとともに、各ホテルのつけ汁を試食します。

ホテル大雪からは温かい「酸辛湯スープ」と、冷たい「肉蕎麦(豚肉トッピング)」の2種類のつけ汁。酢と醤油と塩をベースに鶏ガラで出汁をとったとろみのある「酸辛湯スープ」がそばとよく絡み、そば×中華のハーモニーが面白い一品。ニラと豚肉をトッピングしたピリ辛の冷たい「肉蕎麦」スープは細麺との相性が良く食欲をそそります。

層雲閣からは温かい「かも南蛮」。旨みたっぷりの出汁にゴロリと鴨肉をトッピングさせた温かいつけ汁と、しっかりコシのある十割そばがよく合います。

「朝陽亭」のつけ汁は温かな「エゾシカ肉入り紅葉けんちん蕎麦」。地場産の野菜と北海道産のエゾシカのバラ肉を甘めに炊いた、具沢山のけんちん汁。北海道産メニューに力を入れている朝陽亭ならではの提案です。

「朝陽リゾートホテル」のつけ汁は「煎りおからトッピング塩だれで食べる雪見蕎麦」。利尻昆布でとった出汁のきいたつゆでさっぱりといただけるつけ汁は朝ごはんを意識したメニュー。数種類のトッピングをお好みで加えていただきます。

地域のみなさんや各ホテルの料理長がざっくばらんに話しながら、つけ汁と茹でたての上川そばを試食。「おいしい!」「これが一番好き」「温かいつけ汁には太麺が合うね」など意見が飛び交う賑やかな試食会となりました。

12月6日(水)から各ホテルでの提供が始まることに先駆けて、集まったホテルの皆さんがモンブランマシンでの製麺をどのようなオペレーションで行うかなどを話し合うシーンも。30分に1回、お客様の席にワゴンサービスでモンブランマシンを使った製麺を実演するアイデアなど、具体的なアイデアが交わされていました。

これまでホテルのオーナー同士の交流はあったものの、料理人の方まで含めて一同に集まるという機会はなかなか実現してこなかったとのこと。このプロジェクトをきっかけに、初めて実現した「食」におけるホテル同士の連携。以前よりもスムーズにディスカッションが行われるようになったことで、同じ目的に向かって地域一体での取組も、より動きやすくなっていきます。

会場となったホテル大雪西野目晃正常務は「今回のプロジェクトをきっかけに埋もれていたそばの価値を再発見し、地域が一体となって取組を始めることができた。そば以外にも上川・層雲峡温泉ならではの素材がまだまだあるはず。これからも地域の魅力を広げていきたい」と今回の試食会を締めくくりました。

麺の太さとつけ汁の相性、上川産の素材を活用したつけ汁のバリエーションやトッピング、ホテル同士を行き来してつけ汁を味わえる仕組みや、お土産の物販など、今後も地域一体での様々な展開の可能性が広がりそうな上川そば。なぜこの町にそばがあるのか。そもそもの地域食材の歴史を紐解きながら、その魅力をさらに深掘りし、上川そばブランドをじっくりと醸成していくのはこれから。

「大切なのは私たち自身が自信を持って美味しいと思うこと。インナーマーケティングが大事であると思っています。層雲峡温泉で働く私たちが、上川の町のひとが、みんなが好きになるものだからこそ外に向かって発信をしていけるし、地域の食の価値としても高まっていきます。まずは時間がかかっても、その思いを醸成していき、地域に愛される食を作っていきたい」と、「層雲峡観光協会」の西野目智弘理事はシビックプライドの大切さを強調します。
外からの視点をきっかけに再発見された、地域の方自身が気づいていなかったその土地の魅力。その魅力を一層輝かせ、広げていくのは地域の中からの力です。

層雲峡温泉という大きな地域資源をベースに、地域が一体となり「温泉地×食」を切り口とした「食」の価値向上を検討していくプロジェクトはまだ始まったばかり。それぞれに個性的な地域のホテルが連携を深めていくことで、層雲峡温泉ならではの「食」はより深掘りされるとともに、地域全体としての食体験の豊かさや経済効果も向上し、ますます多様に彩られていくのではないでしょうか。

※1 「農林水産省 - 令和元年度産 耕地面積・主要農作物市町村ランキング」


■開催概要
観光庁では、令和5年度「地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業」において、 地域資源と地域食材の積極活用等により食の価値を高め、宿泊業の付加価値向上を進めると同時に、地域経済への裨益効果を増大させる取組のあり方について検証を実施いたしました。 
これにともない、本事業の取組内容を発表する事業成果報告会を開催することとなりました。 
観光産業関係者の皆様(宿泊事業者、自治体の観光部門担当者、DMO、観光協会、観光事業者)をはじめ、ご関心のあるすべての方のご参加をお待ちしております。
 
■日程
令和6年2月20日(火)15:00-17:00
■参加費
無料
■開催方式
オンライン(Zoom)