香りを起点に引き立てる野菜の魅力。モダンインド料理のシェフが向き合う、宮崎県産有機野菜。[MIYAZAKI DINING/宮崎県・東京都港区]

有機野菜の産地・宮崎県が新たな一歩を踏み出す。

宮崎県が日本屈指の有機農業産地であることをご存知でしょうか。

1988年に全国初の「自然生態系農業推進条例」を制定した宮崎県綾町をはじめ、県や市町村が有機農業を促進し、生産者がそれに応える。それは宮崎県が豊かな自然に囲まれ、温暖な気候に恵まれ、そしてその自然を愛する人々が暮らしているからこその結果でしょう。そんな宮崎県で2023年、「みやざき有機農業拡大加速化事業」が始まりました。それは有機農業の草分けとして歩んできた宮崎県の新たなスタート。いわば今年は宮崎県の「有機元年」となるのです。

その記念すべきスタートを後押しすべく、ひとりのシェフが立ち上がりました。

六本木のモダンインド料理店『ニルヴァーナ ニューヨーク』を率いる若きシェフ・引地翔悟氏です。日頃から食を通して健康になることを意識し、素材にこだわる引地シェフが、宮崎県の有機野菜をさらに輝かせることでしょう。

現地の生産者を訪ね、交流し、さまざまな有機野菜を試食し、新たなメニューを考案した引地シェフ。その旅の様子をお伝えします。

宮崎県綾町の風景。いち早く自然保護と自然栽培への取り組みがはじまった地。

有機栽培の根幹を支えるのは土。生産者は試行錯誤しながら栄養に満ちた土作りに挑んでいる。

ポリフィルムで覆い、夏場の太陽熱で雑草の種を除く太陽熱消毒という手法。農薬を使わない有機栽培にも、さまざまなアイデアが潜む。

形は不揃いでも味は抜群。有機野菜の正しい価値に多くの人が気づき始めている。

宮崎県を訪れて出合った、大地の香りがする野菜。

安心安全、栄養価が高い、味が濃い。一般的に有機野菜に対して、こんなポジティブなイメージがあることでしょう。それらに加えて宮崎の有機野菜が引地シェフを惹きつけた要素は、香り。ナチュラルでクリアで力強い香りが、シェフの心を捉えました。

実は引地シェフは学生時代に認知心理学を専攻し、香りが人にどのような影響を及ぼすかを学んでいた人物。料理人となった現在も、その香りに対する知見はシェフの武器として、独自のインド料理の土台を支えています。もちろん今回訪れた宮崎県でも、興味は香りに向かいます。

たとえば宮崎市田野にある『AKASAKA farm』では、この地区の冬の風物詩である大根やぐらを見学。

「干して凝縮された大根の力強い香り。食べる前からおいしいことがわかります」

と話した引地シェフ。さらに次々と県内の生産者のもとをめぐり、畑を見学。糖度が10を越えるというニンジン、抜いたばかりのネギ、瑞々しいケールやほうれん草。そこでさまざまな野菜に出合うたびに、引地シェフは鼻を寄せて香りを確かめ、その場で味を確かめます。

「どの野菜もナチュラルで透明感ある土の匂いがします。これが野菜の本来の香りなんでしょうね」

次々と生産者のもとを訪れるごとに、引地シェフの宮崎県への興味は強くなっていくようでした。

宮崎県の田野、清武地域に多く見られる巨大な大根やぐら。この大根やぐらをシンボルとした地域の農業システムは「日本農業遺産」に認定されている。

「産地を訪れるたびに発見があり、学びがある」と語る引地翔悟シェフ。今回の旅にも、今後に繋がる出会いがあったという。

訪問先で振る舞われた料理。地元に伝わる漬物や郷土料理にも、食材を活かすヒントが隠されている。

綾町の『シードカルチャー』のにんじんジュース。ただ絞っただけのジュースがフルーツ以上に甘いことで、有機野菜のポテンシャルを感じさせる。

有機栽培という難題に果敢に挑む生産者たち。

味だけでなく香りも起点にして料理を構築する引地シェフ。しかしそればかりではありません。数日間、ともに旅をしてみると、引地シェフの興味が生産者、つまり人に向いていることがわかります。

どこで誰と会っても、しっかりと目を見つめ、真剣に話を聞く引地シェフ。その真摯な姿を見て、生産者も自身が手塩にかけた食材を託そうと思えるのかもしれません。とくに有機農業という、自然と向き合いながら生産者の思いがそのまま作物となるような農法ならば、なおさら。

2011年の東日本大震災を契機に、植物本来の力に任せる自然栽培に取り組みはじめた『AKASAKA farm』。親子で農業に向き合いながら、次世代に繋ぐ有機栽培を拡大する『宮崎アグリアート』、有機栽培先進地である綾町の個性豊かな生産者たち、科学的な論拠をもとに自然栽培有機農業に向き合う『本坊農園』。引地シェフは、それぞれの生産者のストーリーをしっかりと胸に刻みます。

「素晴らしい食材の魅力を、料理を通してお客さまに伝える。それは料理人の責任です」

大根やぐらで語らうシェフと『AKASAKA farm』の野﨑氏。野﨑氏は自然栽培にかける夢を語ってくれた。

『宮崎アグリアート』の松本慎一郎氏。懇親会でもさまざまな話題でシェフと語り合っていた。

ひょうきんなトークでシェフを笑わせた『シードカルチャー』の奥誠司氏は元教師。有機農業をするために綾町に移住してきたという。

『グリーンファーム綾』の園田雄一氏。その美しい畑を見るだけで、いかに愛情を込めて丁寧に手入れしている様子がわかる。

『本坊農園』の本坊照夫氏。千代子氏夫妻。ふたりの溌剌とした姿が、有機農業がいかに体に良いかを物語る。

有機野菜の魅力を落とし込んだ圧巻のインド料理。

後日『ニルヴァーナ ニューヨーク』の引地シェフのもとに、宮崎県から野菜が届きました。野菜を見ただけで生産者の顔が浮かぶような、思いのこもった有機野菜たち。

「退色したり萎れたり、香りが弱まることもなく、現地で見たままの姿で届きました。これも有機栽培の力かもしれません」

そう話す引地シェフ。

「口に含んだときに弾けるような野菜本来の香り、土の香り、自然の香り。皿の上でこの野菜の存在が薄れてしまわないように意識します」

そうして生産者の熱意や覚悟と正面から向き合い、有機野菜の本質をしっかりと理解してから考案された引地シェフの料理。

ネパールの山椒を効かせたサラダ、ほうれん草と合わせたインド風炒り卵エッグブルジ、干し大根からアプローチした酸味が決め手のリッチテイストなカレー、ケールを加え食べるだけで元気になるような一皿を目指したほうれん草のカレー。

どの料理にも明確な指針と哲学と生産者への敬意が満ちた引地シェフらしい有機野菜料理です。

「味わいも香りも力強く、スパイスでその魅力が消えてしまうこともありません。さらに食べて健康を目指すのはアーユルベーダ由来のインド料理の基本。その点でも有機野菜とインド料理との相性は間違いないと思います」

引地シェフ渾身の料理と宮崎県の有機野菜の魅力を満喫できる「MIYAZAKI DINING」は2024年2月22日〜3月10日まで、『ニルヴァーナ ニューヨーク』にて開催されます。

厨房の引地シェフ。多彩なスパイスを使いこなし、食材本来の味わいを引き出す技がシェフの真骨頂。

綾町から届くお任せBOXのサラダ。白菜は必須だがその他野菜はランダム。シェフは切り方や下処理で味を均一に整える。

野菜の香りをまとったエッグブルジ。卵にしっかりと火を通すのがインド流。

シェフ自身が一番好きなカレーというチキンチェティナードラッサムをアレンジ。鶏油がコクを加えつつ、全体をまとめあげる。

ほうれん草のカレーはスタンダードだが、味わい豊かな本坊農園のほうれん草にケールも加え、より力強いおいしさに。

住所:東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリアガーデンテラス1F
TEL:03-5647-8305
https://nirvana-newyork.jp/
https://www.instagram.com/nirvana_newyork/

(supported by 宮崎県)