通信制で日本の食文化を知る、新たな学びの場。
2024年春。
日本の食文化の、新たな扉が開きます。
京都と東京にキャンパスを構える芸術大学『京都芸術大学』の通信教育部に「食文化デザインコース」が開設されるのです。
これまでにも日本の大学において「食」を軸にした講義はありました。
しかし芸術大学において、完全オンラインで文化・芸術として食を学ぶ学士課程は日本唯一(※)の試みとなります。
このコースで履修した学生が卒業後に得られるのは芸術学士。それは料理人以外にも食に関わる人たちが、体系的にそのあり方を学ぶことができる場。文化・芸術という視点から食を考え、企画し、伝え、実践することができるよう、多角的に学ぶための場。この新たな試みは、日本の食文化の発展、継承、発信のための大きな一歩となることでしょう。
そうはいっても、「食文化デザイン」がイメージしにくい方もいるかもしれません。もう少し踏みこんで、このコースについて紐解いてみましょう。
※出典:令和4年度全国大学一覧(文部科学省)
食文化デザインという名前に込められた食への思い。
2023年秋。
東京・外苑前にある京都芸術大学のキャンパスにて、この「食文化デザインコース」開設の記者発表が行われました。
舞台に上がったのは、同大学学長の吉川左紀子氏、副学長の小山薫堂氏、そして講義を受け持つ講師陣。講師は研究者だけに留まらず、ツーリズム、メディア、ビジネス、フードテックなど幅広い分野のスペシャリストが集結しました。これは“デザイン”という軸を通し、食文化を多角的な視点から学ぶため。
食は生きるために必要な日々の営みであると同時に、文化・芸術でもあります。単なる“おいしさ”や“料理人の技術”だけではなく、科学、美学、地域デザインなどさまざまな切り口から学ぶことで、その文化・芸術を深く理解する食文化の担い手を育成するのがこのコース。
登壇した小山薫堂氏は言います。
「変化する時代の中で、食というものは人を変えていけるくらいの根源的な力を持ちます。だからその食を支えている方のリテラシーをさらに上げていくために、教育的視点で食を考えていきたい」
おいしく作る人、おいしくたべる人、おいしく伝える人。
作り手や食べ手はもちろん、食材生産やその流通、販売の担い手も含め、食に関わるすべての人が食文化を体系的、多角的に学ぶことで、日本の食文化をさらに発展させることが目標です。
小山薫堂 ✕ 大類知樹対談〜日本の食文化の今と未来。
各分野のスペシャリストが集まるバラエティ豊かな講師陣の中には、株式会社ONESTORY代表・大類知樹の名もあります。担当する講義は「食の地域価値共創」。DINING OUTをはじめとした事業で蓄積した、食を通じて地域の価値を高めるための知見を伝えます。
そんな講義に先立ち、京都芸術大学副学長の小山薫堂氏と大類知樹が、食の現在と未来、そしてこの食文化デザインコースの意義について語り合いました。メディアを通して食を見つめてきた二人のプロフェッショナルの会話から、日本の食の未来が見えてきます。
小山:「食は日本に残された最後の資源ではないかと思っています。食によって人が動き、人と人が繋がる。料理に携わる方々が非常に積極的に環境に目を向けたりしている。つまり食によって、社会が動いたり、社会の波が起こるような時代。かつては、“おいしさ”というものがすごく大切だった時代もあったと思うんですよね。 皆さんがおいしいを求めていた。けれども、今はそのおいしさを越えて、そこから食から広がっていく価値に人々が注目している、そういう時代かなと思ってます」
大類:「そうですね。“食べる”という本来日常的なはずのことが、 地球環境や人類の未来にまでに繋がっている。その中で、おいしさだけではなく、さまざまな別の要素を帯びてきているというのが、今の食を取り巻く環境だと思います。そして誰しもが毎日食べるものだからこそ、未来を考える一番のきっかけ、入り口になりやすいのかもしれませんね」
小山:「そこが食文化デザインコースの意義です。人はいろいろな学問を学びますよね。けれども法学部に行った人が全員法律家になるわけではない。そう考えると、食文化を学ぶことは、ものすごく毎日にフィードバックされると思うんです」
大類:「そもそも芸術大学の中に食のコースを作ろうと思った意図はどんなものだったんですか?」
小山:「10年ほど前に文化庁の文化芸術基本法に食文化が明記されたときから、食は学問になるべきという思いはあったんです。さまざまな厨房を見てきた中で、料理人の方というのはやはり“おいしいものを作る”が第一義なんです。そのおいしさを追求するために、技術だけで食材と向き合う人が多い。そういう料理人の方がもっと幅広い見識を持つために学び直せるような、それで学位が取れるような場があるといいな、というのがスタートです」
大類:「それが通信教育ということでターゲットがさらに広がりましたね。より幅広い層が、より手軽に食を学ぶことができる。食をビジネスにするためだけではなく、食べることの意味を考えるかもしれないし、新しい趣味ができるかもしれないし、新しい人との出会いがあるかもしれない。地域を元気にするとか、新たな企画を考えるとか」
小山:「そうですね、人生を豊かにするためのコースだと思います」
大類:「それと“食文化デザイン”という名前ですね。今の時代、食を文化として考えるとき、デザインという言葉と掛け合わさないことには全体像が捉えられない。その現状をすごく言い当てた薫堂さんならではのコース名だなと思いました」
小山:「ありがとうございます。本当にいろいろな案があったんですよ。でも本当に食は健康にも直結しているし、もっとも実益ある学問ですよね。食を学ぶことで、もっとお米食べようという子どもが増えるかもしれないし、ちゃんとしたお店で買おうという意識で経済も変わるかもしれない。季節や地理の意識も。だから食というのはすべてが集約されている領域なんですね」
大類:「芸術的なこととも噛み合ってきますね。文学や日本の精神性とも親和性が高い。皿やカトラリーなど食を取り巻くものも重要になってくる。それこそ数えたらきりがないほどさまざまな要素を帯びているのが食なんです。そしてそれを最終的に体内に入れるというダイナミズムがあります」
小山:「大切なことは、細分化された学問を順番に修めていくことではなく、ある領域は角度を変えたらどう見えるか、という視点の獲得だと思うんです。食文化というものは付帯する要素が多い分、違う視点を見つけやすい」
大類:「講師もバリエーションに富んでいますね。全然分野の違う方々がいて、すごく面白い」
小山:「面白いですよね。僕だって学びたいくらい。大類さんだって他の講師の方の授業見たいんじゃないですか?」
大類:「本当、見たいですよ。それにこのコースは学生同士のコミュニティもおもしろくなりそうな気がしますね。修学旅行じゃないけれど、みんなでテーマを決めて食べ歩くとか。僕も『食の地域価値共創』にちなんだゼミを開催してみたいと考えています」
小山:「どんな形になっていくのか、いまから楽しみですね」
2024年4月入学生 出願受付中
https://www.kyoto-art.ac.jp/t/
食文化デザインコース特設サイト
https://tenohira.kyoto-art.ac.jp/foodculturedesign/