自然の恵みが凝縮されたハーブの癒し。[和光アネックス/東京都中央区]

ハーブの優しい香りは、アロマテラピーのような効果をもたらし、心も穏やかに。大切な人や自身を労り、癒しの時間をお楽しみいただきたい。

WAKO ANNEXほっとひと息、心身をリラックス。ハーブティー3種セット。

独自の焙煎技術によって、品質や味にこだわった3種のハーブティー。

まずひとつ目は、有機グリーンルイボスティー。素材は、その名の通り、農薬や化学肥料は一切使用していない有機原料。自然の恵みを生かして栽培されているグリーンルイボスです。グリーンルイボスは、一般的な赤いルイボスとは異なり、非発酵の茶葉を100%使用しており、緑茶に近い香りとスッキリと清涼感のある味わいが特徴です。

ふたつ目は、桑の葉茶。原料となる桑の葉は、鳥取県産のものを使用。まろやかな口当たりになるよう焙煎しているため、ほのかな甘味を感じます。

3つ目は、エキナセアティー。桑の葉同様、原料となるエキナセアは、鳥取県産。

癖のない草木の自然の香りが漂い、穏やかな味わいを満喫できます。

全てノンカフェインのため、体に優しいのも嬉しい点。加えて、便利なタグ付ティーバッグは、気分に合わせ、お手軽にティーバッグをお楽しみいただけます。

日々の気分や体調に合わせ、心身をリフレッシュしてみてはいかがでしょうか。

左より、有機グリーンルイボスティー、桑の葉茶、エキナセアティーの原料を栽培する畑の風景。自然の恵みを生かし、安心・安全にこだわる。

有機グリーンルイボスティー、桑の葉茶、エキナセアティーの3種のハーブティー。単品(個包装のティーバッグ10袋入り)はもちろん、3種セットも用意。ティーバッグの素材は、環境に優しいものを使用。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

意志ある未来は、人間力が切り開く。第二回「新潟ガストロノミーアワード特別版」開催。

若手シェフに焦点を当てた第二回「新潟ガストロノミーアワード特別版」。302店中、30店を厳選。熟考した審査の結果、大賞、審査員特別賞、特別優秀賞、女性Chef賞に輝いた面々(前列)。そして、審査員たちと総合プロデューサーの岩佐氏(後列)。

新潟ガストロノミーアワード生みの苦しみの次なる必須は、継続の力。それを叶えたアワード。

「新潟ガストロノミーアワード」は、2023年2月に発足。主な取り組みは、地域の風土、歴史や文化を料理に表現するローカルガストロノミーの理念を体現している県内の飲食店や宿泊施設、特産品などを発掘することにあります。

記念すべき第一回は、発足直後の2023年3月に開催。「ONESTORY」の記事では、最後にこう締めくくらせていただきました。

「生みの苦しみの次なる必須は、継続の力」。

当時、本アワードの総合プロデューサーである岩佐十良氏は、SNSで記事をシェア。この言葉に対してコメント添え、投稿を締めくくっていました。

「まだ未確定でありますが、新潟ガストロノミーアワードは2年に一度の開催ベースで、そして隙間の1年は情報発信をベースに、新人シェフ&新店の支援、さらにサブアワード的なことをしていきたいと考えています」。

それから約1年後、2024年3月。第二回となる「新潟ガストロノミーアワード特別版」が開催。これからの新潟の食文化を担う40歳以下にスポットを当て、テイスト、プレゼンテーション、ローカリゼーション、サステナビリティなど、様々な項目を審査。302店中、30店がノミネートされ、大賞、審査員特別賞、特別優秀賞、女性Chef賞が発表されました。

特筆すべきは、もちろん大賞なのですが、受賞したのは異例の2店。35歳以上(Over 35)で完成度を評価するものと、35歳未満(Under 35)で将来性を期待するものと、基準を分け、ダブル受賞に。その理由について、特別審査委員長の中村孝則氏は、こう話します。

「大賞を選定するにあたり、審査を進める中、一番議論になったのが、完成度の高さを求めるのか、それとも将来性を求めるのかの2点でした。そのどちらも評価できるよう熟考した結果、30歳から40歳は、料理人人生の中で一番伸びる時期ということもあり、35歳未満と35歳以上に分け、O-35とU-35、ふたつの大賞を設定することにしました」。

O-35を受賞したのは、燕市「日本料理 魚幸」渡邉雄太シェフ。U-35を受賞したのは、新潟市「SAISON」ミドルミス怜シェフです。渡邉シェフは、京都の老舗料亭「菊乃井本店」や新潟市の「日本料理 蘭」などで研鑽を積んだ人物。ミドルミスシェフは、パリ「クラウンバー」で渥美創太シェフのもとやニューヨーク「ブランカ」で経験してきた人物。前述の通り、年代の違いはあれど、それ以上に、これだけスタイルの異なるシェフを比較し、甲乙を付けるのは困難を極めます。ゆえに、ふたつの受賞形態を設けたのも頷けます。しかし、人間として共通する点は多く、「ふたりは変化を恐れない」とは、副審査員である青田泰明氏の言葉。

変化とは恐怖にも置き換えられるのかもしれません。恐怖とは、何かを得た後に起こる心情とも言えます。その何かとは、今回で言えば、大賞です。より世界が広がれば、星、トック、ランキング……。得る喜びに伴う、失う怖さに恐れず、と言いたいところですが、少なくとも現状は心配ご無用。物怖じせず、大舞台に登壇した、ふたりの堂々たる様を見れば、まだまだ大いに暴れてくれるでしょう。
 

会場となったのは、新潟市内に位置する「りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館」内「能楽堂」。桧床の舞台、檜皮葺き屋根など、伝統的な形式を持つ。

左より、O-35を受賞した燕市「日本料理 魚幸」渡邉シェフ。U-35を受賞した新潟市「SAISON」ミドルミスシェフ。

繁華街でも大通りでもない場所に店を構える「日本料理 魚幸」。元々、「魚行」だったそこは、祖父は商売を、父が仕出しを、そして、3代目として渡邉シェフが「魚幸」として日本料理を営む。現在、店舗向かいに「UOYUKI SOUP CURRY」を父が営む。

新潟市、西堀通添いにある「SAISON」は、2023年6月に開業したばかり。ミドルミスシェフとサービスマネージャーの斎藤陽介氏のふたりで営み、彼らは幼馴染でもある。

「これだけ多くの優秀な若手シェフが新潟にいることにまず驚きました。日本はもちろん、世界中から注目されるガストロノミーツーリズムとして、新潟が発展していくアワードに育てていきたいと思います」と、特別審査員長の中村氏。

新潟ガストロノミーアワード前回と今回の違いに見る、私的「新潟ガストロノミーアワード」。

テーマや部門、審査員など、第一回と第二回の違いは多数ありますが、ふたつの視点から考察したいと思います。

まずひとつは審査員。メンバーの変更はあれど、大きな違いは、第一回にはシェフが参画していたという点です。その名に連ねていたのは、和歌山「Villa AiDA」小林寛司シェフ、大阪「La Cime」高田裕介シェフ、福岡「GohGan」(当時「Goh」)福山剛シェフ。トークセッションでは、「もっともっと食材に向き合うべき。今が限界なのか、もう一度考えてほしい(一部抜粋)」と、小林シェフは熱弁。もし今回の若手シェフがそんな声を聞くことができたら、大きな刺激になったのではと考えます。

加えて、授賞式翌日に訪問した特別優秀賞を受賞した新発田市「鮨 登喜和」でいただいた握り、柑橘の果汁で〆たメダイに極限まで薄くスライスした古漬けの白菜も印象的でした。そのアプローチについて、三代目・小林宏輔氏に聞くと、「小林シェフのアドバイスから生まれた一品」だと話してくれました。これは、料理人同士だからこそ生まれたケミストリー。もし高田シェフが渡邉シェフの料理を食べたらどんな言葉を発したのか。はたまた、もし小林シェフや福山シェフとミドルミスシェフが邂逅した先には新たな料理が生まれたのか。そんな「もし」の世界を想像してしまうのは、自分だけでしょうか。

逆に、第一回になく、第二回にあったもの。それは、生産者のフォーカス。実は、この生産者に主意を見ます。ローカルガストロノミーでは、地産地消が当然の条件。しかし、新潟の食材を県外で食べられないかといえば、そうではありません。神経〆、血抜き、冷凍、真空、乾燥、保存、そしてインフラなど、様々な技術とテクノロジーの発展によって、品質を保ったまま、県外でいただける条件は向上し続けています。このような状況の中、どう差別化させるのか。それは、生産者とシェフが一体になった意志あるガストロノミー、「Gastronomy “Will”」のアクションなのではないでしょうか。もう少し解説すると、大切な食材は県外に出さないという意志を生産者とシェフが連携し、新潟に行かなければ食べられない食材があるという環境を作ることに、次なる地産地消の形があると思うのです。

それを構築するには、当然、需要と供給がなければ成立しないため、シェフは新潟の食材を学ぶ必要があり、それを使いこなす技術も必要とされます。生産者においては、新潟の土地を最大限活かした食材を作り、引く手数多になるかもしれない食材を地元シェフだけに提供する覚悟も必要とされます。

現状における各地においても、その土地に訪れなければ食べられない食材は存在しますが、それは、食材の鮮度や消費量など、物理的に無理というものがほとんどでしょう。かく言う本件は、そうではなく、人の意志によって、外に出さないものを作るということです。しかし、トップシェフや一流レストランでは、情報戦にも長けているため、どこよりも早くコンタクトし、高価格帯においても仕入れるという構図があるのも事実。一例として、豊洲に集まることも理解できます。これは、生産者だけでは解決できなければ、シェフだけでも解決できません。地域一体となった意志ある有志たちの総力戦で向き合わなければいけない問題だと考えます。

今回のトークセッションでは、地元野菜や寄居蕪などの在来種の作付けにも取り組んでいる「宮路農場」宮路俊幸氏も参加。奇しくも、宮路氏は、渡邉シェフと同級生。

「宮路は、こだわりのある生産者。例えば、アスパラガスを30本欲しいと注文した際、そのアスパラガスは一回で30本使うのかと聞かれました。自分は、少ない本数を都度配達してもらうのが申し訳ないと思い、まとめて納品してもらおうと思ったのですが、都度、納品した方が質が良いと言い、数本単位で、毎回届けてくれるんです」と渡邉シェフは、話します。

そんな関係の連鎖が拡張すれば、新潟は各県のケーススタディになる、一歩先をゆく地産地消の形を構築できるのでは、と感じたのでした。

受賞式後に開催されたトークセッション。左より、特別審査員長の中村氏、大賞を受賞した「SAISON」ミドルミスシェフ(U-35)、「日本料理 魚幸」渡邉シェフ(O-35)、そして、生産者を代表して「宮路農場」宮路氏、副審査員長の青田氏が登壇。

新潟ガストロノミーアワード「点ではなく面」、そして「ガストロノミーツーリズム」。幾度となく登場したふたつの言葉。

「新潟がストロノミーアワード特別版」において、頻繁に登場した言葉があります。それは、「点ではなく面」。その意図について、副審査員長の青田氏は、サンセバスチャンを例に伝えていました。

「サンセバスチャンのシェフたちは、レシピを自分たちのレストランだけのものにするのではなく、料理をオープンソース化することによって世界一の美食の街と呼ばれるまでに成熟しました」。まさに、点ではなく面の好例です。

授賞式後の懇親会では、はじめましての方も多く、皆、積極的にコミュニケーションを図り、情報交換。様々を吸収できる柔軟な若手シェフに、このような機会を提供していることもまた、このアワードの特筆すべき点。

しかし、広大な新潟は、サンセバスチャンのように軒を連ねているところばかりではなく、街並みや風景も含め、視覚的にトリップできる地域が全てはありません。ゆえに、点と面の概念こそ取り入れるにせよ、新潟流の手法も模索しなければいけません。前述「Gastronomy “Will”」は、その手法のひとつとして脳裡によぎったものであり、地域一体となった意志ある有志たち(点)の総力戦(面)においても同様です。

一方、強烈な点に魅かれる事実も。前回、飲食部門の特別賞・特別優秀賞を受賞した三条市「Restaurant UOZEN」です。井上和洋シェフは、自らの手で狩猟を行い、漁に出て、畑で野菜を育てています。「これには敵わない」とは、東京の某有名シェフの言葉。井上シェフの料理は、キッチンの外から始まっているのです。

そして、もうひとつ頻繁に登場した言葉が「ガストロノミーツーリズム」。これは、世界中が取り組んでいる観光戦略ですが、特に日本は注目されているのではないでしょうか。しかし、ローカルガストロノミーの成熟がガストロノミーツーリズムの成熟に比例するかといえば、似て非なるもの。それは、宿泊の問題です。

これだけ多くの実力派レストランがあるのであれば、素泊まり需要さえあるのかもしれません。ほんの少し気の利いた客室、デザイン、湯、サウナ、サービス……。ホスピタリティにおいても、至れり尽くせりは不要。ハイクラスのホテルでなくとも、シームレスな快適性もまた、趣向の異なるラグジュアリーなのではないでしょうか。

もちろん、岩佐氏が運営する「里山十帖」などや第一回に旅館・ホテル部門で大賞を受賞した三条市「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」は、それとはまた別の概念。いずれにしても、ローカルガストロノミーとガストロノミーツーリズムは運命共同体。ここにおいても、点ではなく面の概念が必要とされるのかもしれません。

「Where there is a will, there is a way」。

「意志あるところに道は開ける」とは、第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンの言葉。

ガストロノミーの概念はシェフ力によって補えるものですが、ガストロノミーの意志は、人間力が必要とされると考えます。

シェフの意志はどこにあるのか。生産者の意志はどこにあるのか。そして、新潟の意志はどこにあるのか。自然豊かな食の宝庫・新潟だからこそ、その未来は、人の意志に託されているのではないでしょうか。


Text:YUICHI KURAMOCHI


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伝統、文化、食材、精神。沖縄の今をシェフに伝えた二人のキーマンが振り返るDINING OUT。[DINING OUT RYUKYU-SHURI/沖縄県那覇市]

ミクソロジストの中村智明氏(左)と琉球料理人の屋比久保氏(右)。ともに沖縄の食材や食文化に深い知見を持つ人物。

DINING OUT RYUKYU-SHURI地元の知識をシェフにインプットする重要な役割。

首里城を舞台に開催された『DINING OUT RYUKYU-SHURI』は、川田シェフが率いる『茶禅華』のオールスタッフが参加し、チームワークを発揮しました。しかしもちろん沖縄で開催するからには、地元の文化や伝統、食材をシェフに伝え得る人物は必要。今回その役割を果たしたのは、沖縄で店を営む2名の人物でした。

ひとりは沖縄伝統料理の店『月桃庵』のシェフ・屋比久保氏。もうひとりはバー『アルケミスト』のミクソロジスト・中村智明氏。沖縄を知り、沖縄を愛する二人は川田シェフに何を伝え、また何を学び取ったのでしょうか?

当日はゲストとして着席し、コースを堪能した屋比久氏。自身が関わってきた料理だけに、その感慨もひとしおだった様子。

中村氏は今回のチームで唯一の現地スタッフとしてドリンクサーブを担当。鮮やかな手際でドリンクを仕上げた。

DINING OUT RYUKYU-SHURI伝承人としての責務と、今を生きる沖縄人としての責任。

古式に則った琉球料理『月桃庵』で腕を振るい、また伝統的な食文化を伝える「琉球料理伝承人」としても活動する屋比久保氏。しかし意外にもそのキャリアの大半は西洋料理でした。

ホテルのレストランで、総料理長まで務めた屋比久氏。そんな氏のもとに、あるとき、アメリカで開催される日本食フェアで沖縄の郷土料理を振る舞う依頼が入りました。日本各地から料理人が参加したそのフェア。そこでの体験が転機となりました。

「京都の料理人は、京都の伝統を知り、京都に誇りを持っていました。対して自分は沖縄で生まれ育っていながら、伝統もほとんど知らず、良いところもぜんぜん話せない。それで帰国してすぐに、琉球料理を学び直すことにしました」。

とはいえ歴史的資料の多くは戦争で失われ、伝統料理を研究する先達もご高齢の方が数名だけ。それでも屋比久氏は少ない資料や先達を頼りながら、琉球料理の見識を深めていきます。琉球料理の起源は宮廷料理。必然的に歴史や地理や文化の知識も深まります。

やがて琉球料理を自身の道と定めた屋比久氏はホテルを退職し『月桃庵』の料理長に就任。
2019年に開催された『DINIG OUT RYUKYU-NANJO』では調理スタッフとしてキッチンに入り、野外レストランの現場を知り、また現地シェフならではの知見を共有してくれました。

そして今回の『DINING OUT RYUKYU-SHURI』では、『DINING OUT』の本質と沖縄の過去から現在まで、両方を知る料理人としての知見を活かし、川田シェフに琉球伝統料理や琉球漆器等をインプットする役割を担いました。当日はゲストとして着席した屋比久氏は話します。


「沖縄料理というのはイラブーなら汁、ヤギなら刺し身というように食材に対する調理法が固定されている傾向があります。しかし川田シェフはそこを飛び越え、食材自体に問いかけるように新たな料理に挑んでくれました。地元の料理人たちも旅に来た方々に、地元食材の新たな魅力を提案していかなければいけない、と強く感じました」

そう話す屋比久氏は、そして未来へと向けた決意も語ります。

「実はいまの若い子たちは方言もあまり話さない。このままでは方言のような身近な伝統さえも、失われてしまう危険があるのです。私は伝承人でもありますので、伝統的な文化をそのまま伝えることも必要。しかしやはりそれだけではなく、時代や環境に合わせ、需要を捉えた文化も発信していきたい」。

琉球漆器のコレクターでもある屋比久氏は、貴重な漆器も保有。東道盆(ツンダーボン)と呼ばれる宮廷料理の器(右)は数が揃わず実現しなかったものの、川田シェフから今回の晩餐に使用したいとの希望があったという。

琉球王国時代の14〜15世紀から続く琉球漆器の伝統。屋比久氏の紹介によって用意された琉球漆器の器が、おもてなしの心を伝えた。

泡盛を飲むための沖縄伝統の酒器・カラカラと、伝統料理の豆腐よう。こちらも屋比久氏の活躍でコースに並び、ゲストを喜ばせた。

東道盆はかつては旧家などでも保有されていたが、現在は失われつつある。状態の良いものは市場にほとんど出回らない。

DINING OUT RYUKYU-SHURI料理の背中をそっと押す繊細なカクテル。

沖縄の素材を使い、香りや味のレイヤーを意識した五感で楽しむカクテル。
バー『アルケミスト』の中村氏が目指すのはそんな一杯。

2020年『DINING OUT RYUKYU-URUMA』にドリンクメーカーとして参加した中村氏。その縁もあり、今回の食材視察に沖縄を訪れた川田シェフが中村氏の店『アルケミスト』に立ち寄ったのがことの始まりでした。
その日、中村氏が川田シェフのために作ったのは、県産の旬の素材をふんだんに使用し、沖縄を表現したこだわりのカクテル。
その味を川田シェフが気に入り、コースに合わせるペアリングカクテルを担うことが決まりました。『DINING OUT RYUKYU-SHURI』ではただひとりの現地スタッフとして参加した中村氏。中華料理とのペアリングということもあり、合わせるカクテルの考案は困難を極めたことでしょう。

中村氏が作り上げた5種類のカクテルは、川田シェフをして「料理に寄り添うのではなく、後ろからそっと背中を押してくれるような素晴らしいカクテル」と言わしめる完成度でした。


では中村氏はどのようなステップで、このカクテルの完成に至ったのでしょう。

「まず使う食材や料理の構成を伺ってから試作に入りました。川田シェフの料理は淡い、繊細という話を聞いていましたが、そうは言っても中華料理ですから、それなりの濃厚さがあると思っていました。一般的な中華が10だとするなら、6とか7くらいの繊細さ。そんなイメージの元で試作を作っていたんです」。

そう振り返る中村氏。しかし実際に味わう川田シェフの料理は事前に想像していた以上でした。

「その後、『茶禅華』を訪れて実際にコースを試食させて頂きましたが、その繊細さは想像以上。6や7どころか1だったんです。繊細で薄味なのに、ゆっくり噛みしめると奥行きがあり、旨味と香りに繊細さがある料理。それで急いで沖縄に戻ってすぐさますべて作り直しました」。

中村氏がとくに気をつけたのは濃度。

「淡い味の中に風味を探しながら楽しむ料理だと感じたので、その風味を壊さないよう料理よりも少し下の濃度になるように調整しました」。

中村氏のカクテル作りは、わずかな香りや風味の変化にも妥協しない細やかな作業。たとえば泡盛にレモングラスのジンを合わせたカクテルには、ボトムのトーンを加えるためにオールスパイスで香りをつけた芳香蒸留水を少々。それもスポイトで0.5mlと1.0mlの2パターンを加えて飲み比べてみる、といった具合。ほんの数滴の差にこだわる仕事ぶりに、『DINING OUT』のドリンクを担う責任感が垣間見えます。

泡盛をはじめ、金木犀やアップルバナナ、月桃や地元のクラフトジン。沖縄の食材の魅力も、カクテルを通して伝えた中村氏。終演後の感想を伺うと

「甘さではなく香りの層で風味を感じていただく今回のカクテルで、自分自身が大きく成長できたと感じています。また『茶禅華』チームと共にサービスに当たれたことで、本当にハイレベルな連携なども多く学ばせてもらいました」。

そう自分自身の収穫を語る中村氏。しかしそれだけではなく、ひとりの沖縄県民として、今回の『DINING OUT RYUKYU-SHURI』自体が大きな収穫だったといいます。

「3年前の火災で、改めて首里城が沖縄のアイデンティティの中心だったと気づきました。いま、復興に向いた段階の中で、こういうイベントができるというアプローチができたことが非常に大きなことだと思っています」。

元保育士という異色の経歴を持つ中村氏。本格的にバーテンダーとして始動してから、4年間で18個ものコンペティションで受賞や優勝を果たした実力派。

甘酢醤油の風味が繊細に広がる長命草クラゲに合わせたのは、変化系の泡盛水割り。減圧蒸留の泡盛に月桃のジン、レモングラスのジンでトップのトーンを合わせ、ボトムの風味にはオールスパイスの香りをつけた水を微量加えた。

独特なスパイスと唐辛子の香りが鮮烈なハリセンボンの料理には、アニスの香るカクテル。白ワインに8種類の香りをつけた自家製ベルモットにソーダ、華が開き種になる寸前のイーチョーバーというハーブをプラス。

金木犀とアップルバナナのデザートは、中村氏が「今回もっとも感動した料理」。そのさまざまな香りが弾ける料理に合わせ、ライチの香りをつけた水出し紅茶とクラフトジンのカクテル。柑橘感とライチの香りを紅茶で広げ、金木犀アップルバナナに合わせたイメージ。

主催:沖縄県文化観光スポーツ部 観光振興課
企画・プロデュース:ONESTORY
協力:沖縄美ら島財団
販売:ハレクラニ沖縄
協賛:オリオンビール、CHAMPAGNE TAITTINGER、瑞泉酒造、T GALLERIA、ホシザキ沖縄  *五十音順

Photographs:RYO ITO
Text:NATSUKI SHIGIHARA

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琉球王国の伝統を、和魂漢才の哲学に昇華する『茶禅華』川田智也シェフの挑戦。[DINING OUT RYUKYU-SHURI/沖縄県那覇市]

『茶禅華』川田智也シェフ。全15品におよぶコースで、現代的解釈による琉球王国のおもてなしを表現した。

DINING OUT RYUKYU-SHURIDINING OUTを終えて、川田智也シェフが思うこと。

『DINING OUT RYUKYU-SHURI』の終演直後。

まだ晩餐の熱気も冷めやらぬ会場で、川田シェフは今回のイベントを振り返りました。沖縄の食材を使った中国料理。自身の哲学である“和魂漢才”の具現化。いつもの論理的な話の節々に、少しだけやり遂げた達成感と興奮をにじませて、川田シェフは話します。

2018年、「神仏習合」をテーマに国東半島の文化と食材と向き合った『DINING OUT KUNISAKI』に続き、2度目のDINING OUTとなった今回。川田シェフはどんな思いを込め、どんなロジックで料理を組み立てたのでしょうか。

『茶禅華』の全スタッフによるチームは、野外レストランならではの不測の事態にもすぐさま順応。

直筆のサインを入れた沖縄産和紙・芭蕉紙のメニュー表など、気持ちを込めたおもてなしが随所に見られた。

DINING OUT RYUKYU-SHURI沖縄のイメージに重なったカラキという食材。

沖縄の歴史や食材への見聞を広めると同時に、自身の哲学、精神性を深く掘り下げる。川田智也シェフの、そんな2軸の思考を象徴するのが、カラキという食材なのかもしれません。

「首里城」でゲストを出迎えたレセプション。

最初に手渡されたウェルカムドリンクは、沖縄に自生するクスノキ科の常緑樹・カラキのスパークリングティーでした。そしてその後、ディナー会場に移動し、全15品に及ぶコースを締めくくったのは、カラキの団子。カラキに始まり、カラキに終わる。その真意を問うと、川田シェフは言いました。

「シナモンのようでいて、より洗練された香りもある。さらに記憶を辿っていくと、子どもの頃に駄菓子屋にあったニッキ飴のようでもありました。そのフレッシュ感とどこか懐かしい感じが、自分自身が持っていた沖縄のイメージとぴたりと重なったんです。そしてさらに調べてみると、カラキは防風林として沖縄を守ってきた木でもあった。その歴史も含め、沖縄を表現するのに最適だと感じました」。

歴史、風土、そこに暮らす人の想いまで汲み取って料理に落とし込む川田シェフらしい発想です。

レセプションにて、到着したゲストが最初に口にしたのがウェルカムドリンクのカラキのスパークリングティー。シナモンのような独特な香りが広がる。

写真の大根餅を包んだ月桃の葉のほか、葉付きのパッションフルーツやヤギ肉に添えた蓮の葉などさまざまな植物が料理に彩りを添えた。

食材、香辛料、酒、調理法。本土では馴染みの薄い味が揃う沖縄は、シェフにとって宝の山。

まぶしたココナツにもカラキの香りをまとわせたカラキ団子。15品のコースの最後を締めくくった。

DINING OUT RYUKYU-SHURI料理構築の根本は、食材、人、土地への敬意。

先のカラキのように、沖縄の伝統食材や伝統料理に向き合い、その背景やそこに至った必然性を深く考え、自らの料理に落とし込む。そんな難題に対し、川田シェフはいくつかの視点からアプローチしているようでした。

ひとつは料理そのものを解析、分解し、再構築する方法。

「沖縄で、豚肉に黒ゴマをまぶして蒸し上げる“ミヌダル”という琉球料理に出合いました。非常にシンプルな料理ですが、沖縄の豚と黒ゴマの相性が非常に良く、たっぷりゴマをまとわせているのにくどさがない。これを自分の料理に取り入れるならどうなるだろう、と考えました」。

そうしてさまざまな料理を試作した末に到達したのは、『茶禅華』のスペシャリテである雲白肉に黒ゴマを振りかけた一品。

「雲白肉はそれ自体で完成しているようでいて、いろいろな要素を許容する余白があるんですね。それで黒ゴマならどうだろう、と試してみたらミネラル感、ゴマの少し炒った香り、そして雲白肉に足りない苦み、これらが非常に共鳴したんです」。

こうして料理は完成しましたが、川田シェフの思案はここで終わりません。食材同士の相性が良いとき、それが「なぜ合うのか」を突き詰める。今回の黒ゴマと豚肉について熟考を重ねていくと、ゴマを絡めて食べる四川の水餃子に行き当たりました。

「自分の記憶のどこかに、その味があったのかもしれません。“なるほど”と腑に落ちる感覚ですね。そういう意味では、いままで経験してきたことが、ひとつの点に集約されたような料理になりました」。

もうひとつのアプローチは、食材を軸にした発想。それはメインディッシュに登場したヤギに顕著でした。

「ヤギは古くから地元で大切にされている食材。生産者の方を訪ねても、非常に愛情を持って、丁寧に育てていることが伝わりました。一方で沖縄料理はさまざまな要素を取り入れながら、現在も変わりつつあります。そんな伝統、現在、未来がうまく整うような料理を目指しました」

そう話す川田シェフは、揚げたヤギ肉に沖縄の島コショウ・ピパーチを合わせました。ヤギとピパーチという伝統的な沖縄食材を使いつつ、四川料理の技法を取り入れ、“川田智也の料理”に昇華したメニュー。島の食材への敬意、伝統への理解を踏まえた上で、未知なる境地へと挑むような一品でした。

黒ゴマをまぶすことでミネラル感と香りに広がりが生まれた『茶禅華』名物の雲白肉。

ピパーチをあわせたヤギ。添えてあるソースは、柔らかい酸味が効いた四川伝統の「魚香」と呼ばれるもの。

揚げ上がり温度を1℃単位まで厳格に見極め、ヤギの優しい味わいを表現。

夜光貝も川田シェフが沖縄で出合い、感銘を受けた食材のひとつ。紹興酒漬け、スープ、リゾットで部位による味と食感の違いを伝えた。

沖縄が誇る食材たち。川田シェフをして「これからも学びがあるであろう沖縄には今後も通い続け、もっともっと勉強したい」と言わしめた。

DINING OUT RYUKYU-SHURI琉球王国のおもてなしの伝統から学んだこと。

琉球王国が他国の使者を迎えたおもてなしの伝統。とくに琉球王国にとってもっとも大切な隣国であった中国の特使“冊封使”を迎える際には、地元の食材で中国料理を仕立てる最上級のもてなしの席が設けられたといいます。そんな“琉球王国の宮廷料理とおもてなしの心”という今回のテーマを聞いたとき「本当にワクワクしました」と川田シェフは語ります。

「前回の国東半島でのDINING OUTは“神仏習合”というテーマのもと、その文化を深く料理に取り入れました。今回は、前回以上に私の哲学と合致するテーマで、ただ伝統を再現するのではなく、伝統、現在、未来という時系列が整った料理を目指しました。実は“もしいま皇帝からの使者が来たら、自分はどんな料理を出すのだろう?”というのは日頃から考えていることでもあります。中国から伝来した料理を日本でやる意味、日本でしかできないこと。それが私が信念とする“和魂漢才”の本質です」

それは伝統を踏まえた上で、現在でしかできない表現を料理に落とし込み、未来へと繋ぐという壮大かつ精密な狙い。国東半島での「DINING OUT」から5年半。料理人としての実力を着実に蓄えている川田シェフの現在を出し切ったような料理です。
そして5年半という時間は、川田シェフの料理人としてのステージも変えました。自身がオーナーシェフとなり、若い料理人を教え、導くことに前回以上の熱量を持っていたのです。

今回の『DINING OUT』には、そんな川田シェフたっての希望で総勢20名の『茶禅華』スタッフ全員が参加しました。そこで改めて伝えたかったこともあったのでしょう。

「沖縄に入って1日目はバタバタしていましたが、2日目、3日目とどんどん良くなっていった。とくに若手が伸びたな、という感覚はありますね。管理されたお店の中でおいしい料理を作るのはもちろんですが、こういう放り出されたような環境の中の危機感が人を大きく育てるのですね。非常に良い機会を与えてもらえたと思います」。

そう今回の収穫を語った川田シェフ。
さらに今回のテーマを通して、得たものも多かった様子。というのも実は現在の『茶禅華』の厨房で働くスタッフは、中華料理人が半分、もう半分は西洋料理人。外国の料理を日本でやる意味が、琉球王国のおもてなしの心から見えてきたのだといいます。

「中華料理に限らず、西洋料理であっても、日本人が日本でやっていくことにデメリットはあります。しかしそれでも日本人の精神、すなわち食材を尊重し、自然を尊重し、料理を精密に作っていくという部分は非常に優れていると思うんです。そんな日本の精神に海外の料理をどう調和させていくか。海外の文化を受け入れて、それをどう昇華させていくかが重要です。地元の食材、文化、精神性を取り入れた上で他国の特使をもてなす料理を仕立てるという琉球王国のおもてなしについて深く考えることで、スタッフたちにも私自身にも大きな学びがありました」。


沖縄の食材、沖縄の生産者、おもてなしの伝統。多くの発見があり、そこから多くを学びとったという川田シェフ。『DINING OUT RYUKYU-SHURI』を終えた直後にはもう「明日からの営業が楽しみです」と心底楽しそうに笑いました。

サービススタッフも『茶禅華』のメンバー。厨房との意思疎通も良好で、食材や料理の説明も淀みない。

気心の知れた厨房スタッフ。全15品のコースを遅延なくスムーズに作り上げた。

前回川田シェフが参加した『DINING OUT KUNISAKI』の伝説を耳にしていた若手スタッフたち。実際に現場に入ったことで多くの学びと成長があったという。

主催:沖縄県文化観光スポーツ部 観光振興課

企画・プロデュース:ONESTORY
協力:沖縄美ら島財団
販売:ハレクラニ沖縄
協賛:オリオンビール、CHAMPAGNE TAITTINGER、瑞泉酒造、T GALLERIA、ホシザキ沖縄  *五十音順

Photographs:RYO ITO
Text:NATSUKI SHIGIHARA

「水がきれい。だから食材の味もきれい」。滋賀県産食材を主役にしたフェア開催。[SHIGA FINEFOOD DINING/東京都港区]

滋賀を味わい尽くす1日限りのビュッフェイベント。

日本最大の湖・琵琶湖を擁する滋賀県は、素晴らしい食材に恵まれた食材王国。琵琶湖の豊かな水資源が育む農産物、その澄んだ水に棲む湖魚、京都の台所としての歴史が育てた畜産物や加工品。そんな素晴らしい食材の数々がいま、注目を集めています。

このほど、そんな滋賀県産食材を思う存分満喫できる限定ビュッフェイベント「響×滋賀県 in SHINAGAWA」が開催されました。舞台は、食材にこだわったワンランク上の居酒屋料理で人気の『ダイナミックキッチン&バー 響 品川店』。当日はどんな食材が、どんな料理として提供されたのでしょうか? 当日の模様を覗いてみましょう。

会場となった『ダイナミックキッチン&バー 響 品川店』。

イベントは滋賀県農政水産部長の岡田英基氏の挨拶でスタート。熱量を持った滋賀県愛のトークが会場を温めた。

ビュッフェ台にずらりと並んだ滋賀県が誇る食材たち。

ビュッフェ台に並んだのは、目にも鮮やかな15種類ほどの料理。その中心には、尾頭付きの刺し身が鎮座しました。その中でもひときわ目を引くのが、鮮やかなオレンジ色のビワマスです。

ビワマスはその名の通り、琵琶湖にだけ棲息する淡水魚。クセがなく上品な脂が乗ったとろける味わいは、海の魚にまったく引けを取りません。これまでは鮮度や流通の問題で滋賀県外に出回ることが少なかったこのビワマスが、近年の保存技術や流通の発達でようやく各地でも食べられるようになったのです。一度食べれば、清冽な水のような澄んだ味わいの虜になることでしょう。

滋賀県を代表する食材といえば近江牛。400年以上続く日本最古のブランド牛で、日本三大和牛のひとつにも数えられています。しかし滋賀県が誇る牛肉はい近江牛ばかりではありません。

この日メニューに並んだ「げんさん牛」は、近江牛を扱う老舗・元三フードが、「いくらでも食べられるおいしい牛肉を」との思いでつくる、黒毛和牛と国産牛をかけあわせた牛。きめ細かい赤身と黒毛和牛の旨味を併せ持ち、適度な脂でさっぱりと味わえるのが特徴です。ビュッフェではそんな「げんさん牛」の内モモを使ったローストビーフが登場。その上質なおいしさでゲストを魅了しました。

雪の下で甘みをたくわえたニンジンやカブ、豊かな水に育てられたほっくりとしたレンコン、辛味が特徴の伊吹大根を添えた伊吹そば、旨味と歯ごたえが自慢の近江黒鶏など、バラエティ豊かな料理が並びます。

さらにこの日は、ドリンクに滋賀県が誇る日本酒「七本槍」もラインナップ。水と歴史が育んだ銘酒と地元食材のテロワールに、料理のおいしさもいっそう際立ちました。

揚げ物、煮物、刺し身、焼き物。さまざまな調理法で食材の魅力を伝える。

きめ細かく、旨味にあふれた近江げんさん牛のローストビーフは、目の前でカットして提供。

キリッとした辛味がある伊吹大根は、伊吹山の麓で古くから栽培されてきた伝統野菜。そばのほか、刺し身に添える薬味としても使用された。

琵琶湖産子持ちワカサギの天ぷら、『古株牧場』のチーズ入りオムレツ、『比叡ゆば本舗ゆば八』の比叡ゆば入りコロッケなどバラエティに富んだ料理。

近江八幡の特産である赤こんにゃくと牛すじの味噌煮込み。

滋賀県長浜市で450年以上続く老舗『冨田酒造』の七本槍。この日は「しぼりたて生原酒」も振る舞い酒として提供された。

滋賀県の魅力を味わう多彩なフェア、首都圏各地で開催予定。

「水がきれいだから、食材も味がきれいなんですね」

そう滋賀県の食材の印象を語るのは今回の料理を考案した小野寺清彦シェフ。このイベントに先立ち、現地を訪れ、生産の現場を巡りました。滋賀県の環境や生産現場を目にしたからこそ、今回の食材を活かす料理の数々が生まれたのでしょう。

「おいしい野菜をつくるために荒れ地を畑に開墾した方、市の職員を辞めて伝統野菜をつくる人、手間暇を惜しまずおいしさを追求する畜産のプロ。滋賀県で出会った生産者のこだわりや熱意を伝えるのが私の仕事。今回の料理も素材そのものの魅力を楽しんでもらえるように心がけました」

そんな言葉通り、主役となる食材が明確で、その味わいが際立つ料理の数々は、滋賀県食材の魅力を余す所なくゲストに伝えました。

さあここまでお読みいただいて、滋賀県産食材の魅力は伝わったでしょうか?

食材の話だけに、ご自身で味わってみたいと思われる方も多いかもしれません。

どうぞご心配なく。滋賀県産食材は数多くの料理人を魅了し、首都圏のさまざまなレストランで続々と滋賀県産食材のフェアが実施される予定です。

『SHIGA FINEFOOD DINING』のWEBサイトで実施中のフェアを探し、ぜひご自身で滋賀県産食材の実力を確かめてください。

小野寺シェフ(左)とともに滋賀県を訪れ、生産の現場を視察した『ダイナミックキッチン&バー 響』営業本部の寺沢英一氏(右)。

滋賀県の自然や環境とともに「生産者の人柄や物語が印象に残った」と語る小野寺シェフ。

「生産者の思いに付加価値を付けて提供するのが当店の役目。滋賀県の熱意ある生産者たちの思いを伝えたい」と寺沢氏。

会場の一角には滋賀県の特産品や加工品を販売するブースも設えられ盛況をみせた。

https://shigafinefooddining.com/

住所:東京都港区高輪4-10-18 京急第1ビル1F
電話:050-3199-1675
URL:https://www.dynacjapan.com/brands/hibiki/shops/shinagawa/

食べる愉しさ、歓び、そして幸福。愛情を包む。

「WaiWai 水餃子」の特徴は、モチモチとした食感をの皮。具は、サイズの異なる豚肉とタマネギ、ショウガなど、シンプルに仕上げる。

WaiWai水餃子「傳」長谷川在祐が初めて臨む、冷凍食品への挑戦。

本当の価値とは何か、本当に大切なものは何か。

2022年、感染症対策を踏まえ、コロナ禍において開催した「DINING OUT KISO-NARAI」のシェフを務めた「傳」の長谷川在佑氏。約2年半の空白の時を経た「DINING OUT」は、その「何か」と向き合う時間となりました。

そして、2024年。長谷川氏は、奇しくも木曽奈良井と同じ長野県塩尻市に拠点を構える「美勢商事」とともに新たな食品開発に望んでいました。それが、この「WaiWai水餃子」です。

「美勢商事」とは、餃子、饅頭、焼売など、中華点心類を中心に、多くの冷凍食品を展開している企業。「家庭の食卓にあるもの」を基本姿勢に、機械化してもお母さんの手作りの味を守りたい。そして、自信を持ってお客様に届けられる本物の商品を作る理念を大切にしています。

それは、長谷川氏が料理人を目指すきっかけにもなった母親の存在とも重なり、今なお大切にしている料理の基本、作り手が食べ手を思いやる家庭料理にも似ます。

そんな「WaiWai水餃子」のおいしさの秘密を「美勢商事」営業企画部商品開発課・共同開発担当マクロビオティック料理講師・雑穀マイスターの平林葉子さんが語ります。

「まず、ひとつ目は、もちもち食感の皮。金トビ志賀の愛知県産小麦・きぬあかりを使用し、丁寧に練り上げた生地が具の旨味を引き立てます。ふたつ目は、肉汁がジュワッと溢れるジューシーな味わいです。豚肉は刻み肉とサイズの異なるひき肉を組み合わせ、食感もお楽しみいただけます。野菜はシンプルに玉ねぎと生姜のみ。お肉のジューシーな味わいを存分に感じることができます。3つ目は、こだわりの製法です。お肉はひと晩寝かせ、しっかりと下味を馴染ませています。また、具材の存在感を楽しめるように、それぞれの具材を合わせるタイミング、練り時間、温度にこだわりました」。

「自分が一番こだわったのは、皮。いくつか試食した中で、この金トビ志賀の愛知県産小麦・きぬあかりが理想的でした」と長谷川氏も続けます。

長谷川氏の言う理想的は、味や食感はもちろん、冷めてもおいしいことにありました。しかし、できたてが美味しい料理の世界で、なぜ冷めても美味しいにもこだわるのか。それは、「こどもにも食べてほしかったから」。

「昔、自分の甥っ子や姪っ子と水餃子を食べた時、できたては熱くてこどもが食べられなかったんです。できたてはもちろん、冷めてもおいしい水餃子にするには、冷めてももちもちした皮が重要だったんです」と長谷川氏。

金トビ志賀は、もともと皮作りでなく、うどん粉を中心に麺作りをしている企業。ゆえに、コシ、艶、香りなどが非常に豊か。長谷川氏の理想的に好相性だったのかもしれません。
冒頭、「DINING OUT KISO-NARAI」で向き合った、本当の価値とは何か、本当に大切なものは何かを「WaiWai水餃子」に置き換えると何か。

それは、長谷川氏と平林さんの会話の中に何度も登場した言語なのかもしれません。

お客様への「愛情」、生産者への「愛情」、地域への「愛情」、家族への「愛情」、そして、こどもへの「愛情」……。

「WaiWai水餃子」に包まれているのは、単にこだわった美味だけではありません。たっぷりと大きなサイズのそれは、溢れんばかりの「愛情」が包まれているのです。

「コロナ禍では、人と会えなくなり、会話することも難しくなっていました。商品名の通り、家族や大切な人、そして、こどもたちと、ワイワイ食卓を囲んで水餃子のお鍋を楽しんでいただきたいと思って作りました」と長谷川氏。「商品開発に1年を費やし、ようやく完成しました。これまでの冷凍餃子の概念を覆す水餃子の味わいをご堪能いただければ幸いです」と平林さん。

ポップなパッケージの中には、冷凍水餃子12個入りが3袋。長谷川氏にとって初の冷凍食品であり、EC商品の「WaiWai水餃子」。「もともと冷凍は保存食として、昔から日本の文化としてあるもの。それが技術とかけ合わさることによって、安心安全にもつながり、同時にここまで進化していることに驚き、自分自身の学びにもなりました」と長谷川氏。


Text:YUICHI KURAMOCHI

古都京都・伝説の寿司職人が愛娘に伝えた究極の鮓酢。[和光アネックス/東京都中央区]

伝説の寿司職人と呼ばれた辻與兵衛(よへえ)氏の鮓酢を受け継ぐ、愛娘の佐和子さん。「日本のみならず、海外にも鮓酢を通して日本の食文化を拡げていきたいと考えています」。

WAKO ANNEX辻與兵衛の言葉、「寿司のうまさはシャリがすべて」から生まれた鮓酢。

「與兵衛の鮓酢」は伝説の寿司職人、辻與兵衛(よへえ)氏が50年の歳月をかけて辿りついた究極の鮓酢(すしず)です。

2017年、73歳で他界した與兵衛氏から鮓酢を引き継いだのは、愛娘の上田佐和子さんです。

「“辻與兵衛の寿司はシャリがうまい”。その昔、辻與兵衛が京都で営む寿司屋に通う、味に厳しい常連のお客様のこの言葉から生まれたのがこの與兵衛の鮓酢です。日本の伝統的な食文化を支える寿司、その寿司の“あの味”を支えるのは鮓酢であり、鮓酢が日本の伝統的な食文化を支えてきたとも言えます。寿司は今や世界中で食することができる日本を象徴する食べ物です。日本だけではなく世界中の飲食店、世界中の食卓で、多くの皆さまに究極の鮓酢である與兵衛の鮓酢を味わっていただき、そのおいしさとこだわりのみならず、日本の食文化を感じていただければと思います」。

「寿司のうまさはシャリがすべて」とは、辻與兵衛の言葉。

「與兵衛の鮓酢」は、日本の生産者の方々がこだわりをもって作り上げた素材と味醂を使用しているのが特長です。

例えば、香り豊かで上品な甘みは、竹糖(細きび)から抽出されたサトウキビから作られる香川県産の和三盆糖を使用。ほどよい塩加減は、清らかな海水を100%使用し天日と平釜による日本の伝統製法で作られた伝統海塩。米のみを主原料として醸造した国産の米酢に加え、米一粒一粒に味がしみ込みやすく、深いコク、旨みと艶をだす味醂を使い、水や添加物は一切使っていません。

今回は、そんな鮓酢をよりお楽しみいただけるよう、鮓酢を最大限に引き立たせる米と海苔をセットにした「京都よへゑの手巻きセット」をご案内。

鮓酢に加え、お米と海苔をセットにして用意(詳細は下記参照)。原材料はすべて生産者の顔が見える国産にこだわる。「香り豊かで上品な甘みと、ほどよい塩加減が織りなす風味で、皆さまの食卓にこれまで味わったことのない幸せをもたらすことができればと思います」と佐和子さん。

WAKO ANNEX鮓酢に寄り添う、米と海苔。食卓に本格的な手巻きの味を。

「父・辻與兵衛が営んでいた京都の寿司屋では、新潟、佐渡、山形、滋賀産のお米を使用していました。今回は、試食に試食を重ね、與兵衛の鮓酢を合わせた日の翌日まで美味しく味わえるお米を選びました。海苔は、與兵衛の鮓酢に合わせたシャリと相性がよく、甘めに仕上がるシャリと海苔の両方のおいしさが際立つ風味の豊かな有明産の極上の海苔を焼き上げてご用意しています」。

前述のように、「寿司はシャリが命だ」を口癖のように言っていた辻與兵衛氏が、生前に鮓酢のレシピと作り方を佐和子さんに託したのは、0000年。「多くの方々に「鮓酢」を通した食のよろこびを広げ、「美味しい!」のひと言のために、この味を後世に残したいと考えました」と言います。以降、2016年、京都に「扇酒屋堂株式会社」を設立。「すべては美味しい!のひと言のために」、「すしの旨さは『しゃり』にあり」をモットーに日夜走り続けています。

「四季のある日本には多様で豊かな自然があり、日本人は深くその自然と関わってきました。日本の伝統的な食文化もまたその自然に寄り添うように育まれ、そして時代の変化に合わせ多様な姿をみせてきました。およそ200年の歴史がある鮓酢は、その日本の伝統的な食文化を支える万能な調味料として寿司職人たちが長いあいだ受け継いできた技法をもとに作られてきました。父辻與兵衛から引き継いだ與兵衛の鮓酢が、100年、200年先の飲食店や食卓でも愛していただける鮓酢となるよう育ててまいります」。

日本の生産者がこだわりをもって作り上げた原材料のみで作り上げた鮓酢。米一粒一粒に味がしみ込みやすく、深いコク、旨みと艶を出す味醂、水や添加物を一切使用していないのも特長。

お米は、「佐渡相田ライスファーミング」の「相田家佐渡スーパーコシヒカリ」を使用。與兵衛の鮓酢を合わせた日の翌日まで美味しく味わえるお米を厳選。

有明産の極上の海苔を焼き上げた、風味の豊かな「東京蒲田守半海苔」を使用。與兵衛の鮓酢に合わせたシャリとの相性も抜群。食卓での手巻きに最適な大きさにカットしてあるのも嬉しい。

「是非、與兵衛の鮓酢を使った酢飯をお好みの具材で手巻にしてご堪能いただけましたら幸いです」と佐和子さん。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

現代の文脈で蘇る、滅亡した王国のおもてなしの心。[DINING OUT RYUKYU-SHURI/沖縄県那覇市]

1879年に滅亡するまで、約450年にわたり存在した琉球王国。首里城はその政治、経済、文化の中心地。

DINING OUT RYUKYU-SHURI再建の途にある「首里城」を舞台にした晩餐。

不思議なほどに、静かな夜でした。

それは音がないのではなく、心に波が立つような不協和音のない時間。2月の沖縄の風は優しく、暗闇に浮かび上がる首里城・瑞泉門は厳かに佇む。厨房から漂うスパイスの香りさえも、まるで自然の一部のようにすんなりと受け入れられます。あらゆる要素が、腑に落ちる感覚。これこそが最上級のおもてなしである、と誰もが確信できるような素晴らしい晩餐でした。

2024年2月、沖縄、「首里城」。

正殿が焼け落ちた数年前の火災の記憶も新しいこの場所で、なぜいま「DINING OUT」が開かれたのか。そしてこの日の晩餐は何を伝え、何を残したのか。

「DINING OUT RYUKYU-SHURI」の意味と意義を、その模様とともにお伝えします。

首里城・瑞泉門の前に設えられた野外レストラン。那覇の2月の平均気温は約17.5℃。

DINING OUT RYUKYU-SHURI郷土史研究家の案内でたどる、琉球王国のおもてなしの意味。

2019年10月31日、炎に包まれて焼け落ちた「首里城」。

その衝撃的な映像が記憶に残っている人も多いことでしょう。

沖縄の人々の多くは、失ってはじめて首里城がいかに心の支えとなっていたのかに気付かされたといいます。それゆえに首里城はすぐさま、再建の準備が進められました。現在の首里城は2026年の再建に向けた工事の最中にあります。

今回の「DINING OUT」の舞台は、そんな首里城でした。

レセプション会場でウェルカムドリンクを傾けるゲストの前に琉球史研究家の上里隆史氏が登場し、静かにこの王宮の歴史を語り始めました。

首里城の一帯を巡りながら上里氏が語るのは、琉球王国の歴史、文化、信仰、そして精神性。点在する御嶽(うたき)と呼ばれる聖地を前に、琉球王国の信仰の一端を垣間見ます。城壁の内部を巡り、最後にゲストが到着したのは「歓会門」の前。ここはかつての琉球王国が他国からの特使を王宮に迎えた門。その木の扉が厳かに開かれます。夕暮れに浮かぶ城壁、閉園時間を過ぎ静まり返ったこの場所が、本日の晩餐の会場です。

「軍事力を持たぬ琉球王国にとって、他国の特使をもてなし、良い条件を引き出すことは必要なことでした。つまりおもてなしは琉球王国の文化そのものなんです」。

上里氏はそう語ります。そして琉球王国にとってとりわけ大切な存在であった中国の特使を迎えるとき、最上級のおもてなしとして地元の食材を中国料理の技法で調理する膳が供されたのだといいます。

いま、その伝統を再現するのに、彼ほどふさわしい人物が他にいるでしょうか。「和魂漢才」、すなわち「日本人ならではの心と技術で表現する中国料理」を哲学とする稀代の料理人、「茶禅華」川田智也氏その人です。

木曳門前のレセプション会場。ウェルカムドリンクとアペリティフでゲストを迎えた。

分解した皮蛋に海ぶどうを重ねて手渡すアペリティフ、ウェルカムドリンクは川田シェフが「沖縄でもっとも印象深い食材のひとつ」というカラキのお茶。

上里氏の案内で巡る「首里城」。ここは海の向こうにあるニライカナイから神々が訪れるといわれる聖域・御嶽が点在する京の内。

京の内の展望台。那覇の街を一望のもとに見渡すことができる。

正殿前に鎮座する首里森御嶽は、七大御嶽のひとつに数えられる聖域。この御嶽があるからこそ、この場所に首里城が建立されたという。

DINING OUT RYUKYU-SHURI琉球王国の伝統と響き合う「和魂漢才」の哲学。

日本で唯一、中国料理でのミシュラン三つ星獲得。

そんな栄誉に輝いてもなお、川田シェフの物静かな佇まいは変わりません。南麻布『茶禅華』は、中国料理と日本料理の修業を重ねた川田智也シェフが、日本人らしい精神性、美意識、世界観のなかで中国料理を組み立てる店。シェフが哲学とする「和魂漢才」とは、和の心で仕立てる中国料理を意味しています。つまり、地元の食材と歓迎の心で賓客を迎えた琉球王国のおもてなしの伝統と、この上ない親和性を持っているのです。

川田シェフは今回の場所とテーマを聞いたとき「ぜひともやらせて頂きたい」と即答したといいます。そして多忙の合間を縫って沖縄を訪れ、地元の食材、そして琉球王国の歴史と文化をインプットしていったのです。

そのインプットの集大成として完成したこの日の料理。コースの皿数は15品にも及びました。地元の伝統料理や郷土料理を丁寧に紐解き、「その料理になった必然性」を考察し、要素を抽出し、自身の技とともに中国料理に昇華する。そんな地道な作業を繰り返した末の、この皿数なのでしょう。

地元では刺し身で食べられることが多い夜光貝は、紹興酒漬けやスープ、肝のリゾットで部位による味や食感の違いを表現、汁にするのが一般的なヤギは揚げて、四川料理の伝統的なソースとともに、海ぶどうは台湾の高山茶を使った出汁でお茶漬けに。

どれも意表を突くようなプレゼンテーションでありながら、口に運ぶと納得させられる味わい。それはこの地の自然や、この地で大切にされてきた食材への敬意が貫かれているからでしょう。

「外からのお客様を出迎えるにあたり、やはり自然というものは一番大切な要素。それらの自然を尊重し、最低限のそっと背中を押すような料理を目指しました」。

それこそが、川田シェフが「琉球王国式のおもてなし」として出した答えでした。

それは、王国に伝わるものをそのままの姿で見せることではありません。現代の気候、環境、社会、文化。それらに合わせて再構築された、現在のおもてなし。もし現在も琉球王朝が続いていたら、このような晩餐で賓客をもてなしたのだろう。そんな確信めいた想像が湧き上がる料理です。

メニュー表には、沖縄独特の芭蕉(バナナ)を使った手漉き和紙・芭蕉紙を使用。海外からのゲストもいた今回の「DINING OUT」。メニューは英語併記、レセプションやディナー中にも通訳が帯同した。

乾杯のグラスはシャンパーニュの貴婦人ことコント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン。「クラシカルな哲学を守り続けるシャンパン」と「茶禅華」ソムリエの上野和寛氏。

「共通するミネラル感、そして貝の食感と泡のリズムが調和する」とソムリエ上野氏が太鼓判を押す夜光貝とコント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランのペアリング。

沖縄のビールといえば、やはりオリオンビール。オリオンザ・プレミアムの澄んだ旨味は、このスパイスをまぶしたマッドクラブの春巻きのような機微に富んだ料理とも響き合う。

鮮烈な苦みを中華の白湯でまろやかにまとめあげた夜光貝の肝のリゾット。

ゲストの視線の先には、ライトアップされた城門。普段は見ることのできない貴重な眺めが食事に彩りを加えた。

使用する食材を見せるためにテーブルをまわるのも、食材や地元文化への敬意の表れ。

沖縄の食材を知り尽くした地元のミクソロジスト・中村智明氏のカクテルが料理に寄り添う。写真は唐辛子風味のハリセンボンの唐揚げに合わせた自家製ベルモットのカクテル。

客席横に設えられたオープンキッチンで腕を振るう川田シェフ。約20名の「茶禅華」チームのチームワークも見事。

ディナー中盤に披露された琉球舞踊と歌三線。これも琉球王国が賓客をもてなすときの伝統。

琉球王朝時代に中国から伝わった発酵食・豆腐よう。伝統的な酒器であるカラカラで味わうのは、首里城瑞泉門から命名された酒蔵・瑞泉酒造の泡盛「おもろ18年」。豊かに醸成した古酒の香りが深みある豆腐ようと好相性。

沖縄県産ミルキークイーンと海ぶどう、台湾茶をあわせたお茶漬け。

DINING OUT RYUKYU-SHURI時代に合わせて進化する伝統。

「伝承というものは元の姿のまま一言一句変えることなく伝えていくこと。対して伝統というものは時代に合わせ、その瞬間で最高のものを統一して次に伝えていくことだと考えています。自分が目指しているのは、この伝統の部分。常に変化している人々にアジャストし、楽しませ、喜ばせることです」。

終演後、川田シェフはそんな言葉で、今回の「DINING OUT」を振り返りました。滅んでしまった王国、焼失してしまった王宮。いま再び建て直している首里城だからこそ、未来へ向けて伝える言葉が力強い現実感を帯びています。

2026年に再建される「首里城」正殿は、以前とまったく同じ姿で復元されるわけではありません。新たに見つかった資料、新たに発見された塗料、新たに使用される木材、作業を手掛ける沖縄の若き職人たち。そうして少しずつ変わりながら、「首里城」は沖縄とともに在り続けるのです。

そして同時に沖縄の人々は、やんばるの森にイヌマキの木を植樹しました。この木の成長に、未来への願いを託して。その木が育つのは100年後か200年後か。きっといま生きている人々は、その生育を見届けることはできません。それでも植えるのです。これから生まれてくる子どもたちに、沖縄の歴史を、文化を、想いを伝えるために。

正殿再建の様子は見学が可能。今しか見ることができない貴重な場面でもある。

キッチンとサービスは、東京からやってきた総勢約20名の「茶禅華」チーム。その仲間たちへと伝えたかったことも、言葉にせずとも伝わった。

終演後の疲労感と達成感のなかで想いを語る川田シェフ。穏やかな言葉の中に、揺るがぬ哲学が潜む。

主催:沖縄県文化観光スポーツ部 観光振興課
企画・プロデュース:ONESTORY
協力:沖縄美ら島財団
販売:ハレクラニ沖縄
協賛:オリオンビール、CHAMPAGNE TAITTINGER、瑞泉酒造、T GALLERIA、ホシザキ沖縄  *五十音順

Photographs:RYO ITO
Text:NATSUKI SHIGIHARA

徳島「新グルメ」キャンペーンの開催について


徳島県では、“新たな人の流れ”を生み出すことを目指して、徳島県で生まれ育ったおいしい食材を使った「新グルメ」キャンペーンを開催いたします。
徳島県内の協力飲食店にて「新グルメ」メニュー【とくしま串刺しグルメ】【YUSANBAKOグルメ】【なると金時スイーツ】が期間限定で登場します!
対象メニューを食べてキャンペーンに参加いただくと、抽選で県産食材の詰め合わせをプレゼント♪
ぜひ「新グルメ」への皆様のご意見をお聞かせください。

徳島「新グルメ」キャンペーン参加方法

(1)対象メニューを食べてアンケートに回答(チラシQRコードより参照
(2)対象メニューの写真をハッシュタグをつけてInstagramにポスト
※ハッシュタグは「#徳島新グルメ」「#グルメ名 ※とくしま串刺しグルメ/YUSANBAKOグルメ/
なると金時スイーツ」

上記の(1)(2)いずれかを実施いただいた方の中から、抽選で5名様に、県産食材の詰め合わせ
(阿波牛・阿波尾鶏・さくらももいちご1万円相当)をプレゼントします。

キャンペーン期間

令和6年3月5日(火)から令和6年3月19日(火)まで

新グルメ候補

とくしま串刺しグルメ

県産の阿波尾鶏や香酸かんきつ、野菜など徳島の「美味しい」を串刺しにしたグルメです。
【メニュー紹介(一部店舗)】

YUSANBAKOグルメ

県産食材をふんだんに使用したグルメを徳島の伝統文化「遊山箱」で提供します。
【メニュー紹介(一部店舗)】

なると金時スイーツ

県産の美味しい「なると金時」を使用したスイーツグルメです。
【メニュー紹介(一部店舗)】

徳島「新グルメ」キャンペーンHP

協力飲食店や提供メニューの詳細は、こちらからチェックしてください!
https://tokushima-new-gourmet-campaign2024.com/

お問合せ

徳島県農林水産部 もうかるブランド推進課 ブランド企画担当
TEL 088-621-2405

現代美術家・舘鼻則孝が表現する、Rethinkを起点とした伝統産業。

江戸東京リシンク展 -旧岩崎邸庭園でみる匠の技と現代アートの融合-」のディレクターを務める現代美術家の舘鼻則孝氏。

EDO TOKYO KIRARIコロナ禍を経てのリベンジ。旧岩崎邸庭園」の開催。

江戸東京の伝統に根差した技術や産品などを新しい視点から磨き上げ、世界へと発信していく「江戸東京きらりプロジェクト」。その活動の一環として、展覧会「江戸東京リシンク展 -旧岩崎邸庭園でみる匠の技と現代アートの融合-」を開催。

ディレクターを務めるのは、国内外を通して活躍する現代美術家の舘鼻則孝氏です。

本展覧会は 2021 年より毎年継続して開催されており、東京都の伝統産業事業者のコラボレーターとしても舘鼻氏を迎え、「日本文化の過去を見直し現代に表現する」という舘鼻氏の創出プロセスである「Rethink(リシンク)」を起点とし、歴史ある伝統産業の価値や魅力を新たなかたちで提案しています。

参画する伝統産業事業者は、計7者。江戸うちわ/江戸扇子「伊場仙」、江戸刷子/東京手植ブラシ「宇野刷子ブラシ製作所」、江戸組子「建松」、新江戸染「丸久商店」、和太鼓「宮本卯之助商店」、東京くみひも「龍工房」、金唐革紙「金唐紙研究所」(特別協力)の出展事業者とともに、江戸東京の伝統ある技や老舗の産品といった「東京の宝物」の新たな価値を伝えます。

会場は、展覧会名にもある「旧岩崎邸庭園」。1896年(明治29年)に岩崎彌太郎の長男で三菱第3代社長の久彌の本邸として造てられ、往時は約1万5,000坪の敷地に20棟もの建物が並んでいました。現在は3分の1の敷地となり、現存するのは 洋館・撞球室・和館の3棟。木造2階建・地下室付きの洋館は、鹿鳴館の建築家として有名な英国人ジョサイア・コンドルの設計によるものであり、近代日本住宅を代表する西洋木造建築です。館内の随所に見事なジャコビアン様式の装飾が施され、同時期に多く建てられた西洋建築にはない繊細なデザインが往事のままの雰囲気を漂わせ、それが今回の作品とも共鳴し、美しい空間を形成しています。

振り返ること2022年。実は、旧岩崎邸庭園」でこの展覧会の開催を予定していましたが、コロナ禍により、オンライン上での展示演出に。今回は、そのリベンジも果たします。

アートピースだけでなく、江戸・東京に受け継がれる伝統産業品や工芸品の展示、また、貴重な資料の展示から伝統産業の歴史にも触れることができるのも見どころのひとつ。それら全てを作品としてお楽しみいただきたい。

現代美術家 舘鼻則孝×東京くみひも 龍工房

現代美術家 舘鼻則孝×江戸うちわ・江戸扇子 伊場仙

現代美術家 舘鼻則孝×和太鼓 宮本卯之助商店

現代美術家 舘鼻則孝×新江戸染 丸久商店

上段左より、江戸うちわ・江戸扇子「伊場仙」、江戸刷子・東京手植ブラシ「宇野刷子ブラシ製作所」。中段左より、江戸組子「建松」、新江戸染「丸久商店」。下段左より、和太鼓「宮本卯之助商店」、東京くみひも「龍工房」。

会場となる「旧岩崎邸庭園」洋館の内装には、金唐革紙(きんからかわし)の装飾が施された空間もあり、工芸的な内装も展示作品(下記)と共鳴する。

現代美術家 舘鼻則孝×金唐革紙 金唐紙研究所

ジョサイア・コンドルの設計の洋館は、17世紀の英国ジャコビアン様式の見事な装飾が随所に見られ、イギリス・ルネサンス様式やイスラーム風のモティーフなどが採用される。

EDO TOKYO KIRARI道具から作品へと昇華した、ふたつの伝統産業の声。

今回、現代美術家・舘鼻則孝氏とコラボレーションした伝統産業の中から、「道具が作品へと昇華した」と喜びをあらわにしたのは、「宇野刷毛ブラシ製作所」と「江戸組子 建松」です。

隅田川のほとりに小さな工房を構える「宇野刷毛ブラシ製作所」は、創業1917年(大正6年)より刷毛作りで培われた技術をもとに、刷毛・ブラシの製造販売を行っています。現在は、三代目・宇野千栄子さん、四代目・三千代さんの母娘が伝統の手業を守り、従来の刷毛やブラシはもとより、時代のニーズに応じてデザイン性に富んだブラシを生み出しています。

「絵画作品を作るために使うブラシを製作していただきました。これまでは、それぞれの伝統産業と直接的に作品としてコラボレーションしてきましたが、今回は、道具のコラボレーション。使用している絵の具が粘り気の強いペースト状のため、あえて左官ブラシをお願いしました」と舘鼻氏。

製作した左官ブラシは、弾力性のある馬の毛を使用した長さ60cmの特別仕様。左官ブラシを絵画作品の仕上げに転用し、新たな作品を誕生させました。画面上で左官ブラシを引くことによって生じる、縞状の痕跡を意匠として活かすことを意図した技法研究が成され、絵画の世界では筆致と呼ばれる筆遣いとして画面に刻まれています。

また、ブラシの柄に装飾を施した舘鼻氏の創作に、四代目・三千代さんは「左官ブラシを作品作りの道具に起用する斬新な発想に驚きましたが、本来、見えることのない道具も作品として仕上げていただき、感動しました」と話します。

次いで、組子細工による伝統的な幾何学文様と舘鼻氏がアクリル絵の具で雷雲を描いた作品のコラボレーションは、「江戸組子 建松」によるもの。

組子工芸とは、平安末期に生まれた襖や障子などのいわゆる日本建築の建具のことであり、釘を一切使用せず、小さな木片を手作業で組み合わせ、様々な模様を編み出していく伝統的な木工技術です。

「普段は、障子や欄間を作っています。本来、木に着色することはないので、今回のように着色した組子は、私たちにはない発想です。実用品とは違った世界を見せていただきました」と、2代目田中孝弘は話します。

昨今、伝統産業は、後継者不足や暮らしの変化などから、危機的状況が囁かれることがあるも、「宇野刷毛ブラシ製作所」は東京手植ブラシとして海外からも人気を博し、「江戸組子 建松」においても、2024年の注文は受け入れできないほど、求める声が後をたたない。この違いは何か。

「伝統工芸は変わっていないという見方をされる方もいらっしゃいますが、変わっています。変わる勇気とその変わり方次第で、未来は大きく変わるのはないでしょうか」と田中氏。

しかし、ひとつ問題があるとしたら、「宇野刷毛ブラシ製作所」「江戸組子 建松」ともに「雇用」だと言います。給料、保険料など、支出と収入のバランスが崩れては、産業も崩壊してしまいます。人の増が技術の増に直結するわけではなく、時間、労力、資金の投資が伴います。

「これに関しては、まだ糸口が見つからず、解決していません」とふたり。

絶やさず、日本の文化をどう残していけるのか。その環境は、当事者だけでなく、国民全体で向き合うべき問題なのかもしれません。

現代美術家 舘鼻則孝×宇野刷毛ブラシ製作所。古くから職人に愛用されてきた「左官ブラシ」を絵画作品の仕上げに転用することによって、新たな作品が誕生。

現代美術家 舘鼻則孝×江戸組子 建松。雷雲のモチーフがレイヤーとなり、上から順に、桜亀甲、二重麻の葉、桔梗亀甲、雪型亀甲と並ぶ文様は、春夏秋冬を表現。

EDO TOKYO KIRARI東京だけでなく、日本の伝統産業のために。

今回に限らず、現代美術家・舘鼻則孝氏は作品を製作するにあたり、必ず職人に会い、工房に足を運び、作品作りに必要な表現アプローチが実現可能かを確認する手法を取っています。

「今回、自分が担う役割は、アーティストとして表現することはもちろんですが、それを通して伝統産業をより多くの人々に知ってもらうメッセンジャーになること。伝統産業を過去のものではなく、未来として魅せること。芸術という文化的な側面から伝統産業を価値化させることだと思っています」。

その価値化とは、舘鼻氏が創出プロセスの起点として大事にする「Rethink」でもあり、本展を主催する「江戸東京きらりプロジェクト」のコンセプトでもある「Old meets New」ともリンクします。

東京に限らず、日本全国の伝統産業と造形の深い舘鼻氏は、今の状況をどう見ているのでしょうか。

「東京と地方の伝統産業を同じフィールドで語ることは難しいと思っています。例えば、東京は、マーケットがあり、伝統工芸が産業工芸として成立できる環境にあります。地方の場合は、そうはいきません。どんなに高い技術を持っていても、外的要因に左右されることがあります」。

東京の場合、工房、店舗、さらには観光まで、一連につながる環境も少なくありません。その好例が浅草と言ってよいでしょう。しかし、それが高いクオリティとつながるかは別物。「伊勢神宮の式年遷宮ではありませんが、難度の高いテーマに挑戦し、それ乗り越えることによって今の技術を超えられるのではないでしょうか」。

今回になぞれば、そのテーマが、舘鼻氏が出展事業者に求めたものだったのかもしれません。だからこそ、伝統産業が輝くアートピースへと昇華したのでしょう。

海外に目を向ければ、現代彫刻家のアニッシュ・カプーアが漆を起用し、照明デザイナーのインゴ・マウラーが団扇を起用したように、日本の伝統産業は、世界レベルの芸術とも高い関係性を持っているのです。

また、地方といえば、元旦に襲った能登半島地震は、今なお、被害を受けています。漆や木地など、輪島をはじめとした伝統産業も焼失、全壊、半壊、倒壊など、日本の宝物が危機的状況に直面しています。

舘鼻氏もまた、石川の漆や蝋色での作品制作をした親交のある地域です。

「被害状況も地域によって様々。自分に何ができるかを言葉にするのは難しい。しかし、サポートしなければ、再起できない帰路に立たされていることは言うまでもありません。東京だけでなく、日本の伝統産業のために何ができるのか。常にRethinkしながら、向き合っていきたいと思います」。

失ってからでは手遅れ。我々もまた、Rethinkしなければいけない。

角度を変えて表現することによって、伝統産業が道具から作品に創出されたように、物事の見方も角度によって様々な想像力を掻き立てます。

Rethinkの思考を持って、改めて本展覧会と対峙すれば、そこには美化された作品群の展示だけでなく、様々なメッセージを訴えかけてくるようだ。


Photographs:©Edo Tokyo Kirari Project, Photo by GION
Text:YUICHI KURAMOCHI

江戸東京リシンク展
期間:2024年3月1日(金)〜3月10日(日)
時間:9:00〜17:00
料金:一般400円ほか(旧岩崎庭園への入園料)
主催:東京都・江戸東京きらりプロジェクト
共催:公益財団法人 東京都公園協会
会場:重要文化財 旧岩崎邸庭園
展覧会ディレクター:現代美術家 舘鼻則孝
出展事業者:江戸うちわ/江戸扇子「伊場仙」、江戸刷子/東京手植ブラシ「宇野刷子ブラシ製作所」、江戸組子「建松」、新江戸染「丸久商店」、和太鼓「宮本卯之助商店」、東京くみひも「龍工房」、金唐革紙「金唐紙研究所」(特別協力)
公式HP https://edotokyokirari.jp/news/life/edotokyorethink2024/

舘鼻則孝 NORITAKA TATEHANA
1985年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻卒。卒業制作として発表したヒールレスシューズは、花魁の高下駄から着想を得た作品として、レディー・ガガが愛用していることでも知られている。現在は現代美術家として、国内外の展覧会へ参加する他、伝統工芸士との創作活動にも精力的に取り組んでいる。作品は、ニューヨークの「メトロポリタン美術館」やロンドンの「ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館」などに永久収蔵されている。
公式HP https://www.noritakatatehana.com/ja/

現代美術家・舘鼻則孝が表現する、Rethinkを起点とした伝統産業。

江戸東京リシンク展 -旧岩崎邸庭園でみる匠の技と現代アートの融合-」のディレクターを務める現代美術家の舘鼻則孝氏。

EDO TOKYO KIRARIコロナ禍を経てのリベンジ。旧岩崎邸庭園」の開催。

江戸東京の伝統に根差した技術や産品などを新しい視点から磨き上げ、世界へと発信していく「江戸東京きらりプロジェクト」。その活動の一環として、展覧会「江戸東京リシンク展 -旧岩崎邸庭園でみる匠の技と現代アートの融合-」を開催。

ディレクターを務めるのは、国内外を通して活躍する現代美術家の舘鼻則孝氏です。

本展覧会は 2021 年より毎年継続して開催されており、東京都の伝統産業事業者のコラボレーターとしても舘鼻氏を迎え、「日本文化の過去を見直し現代に表現する」という舘鼻氏の創出プロセスである「Rethink(リシンク)」を起点とし、歴史ある伝統産業の価値や魅力を新たなかたちで提案しています。

参画する伝統産業事業者は、計7者。江戸うちわ/江戸扇子「伊場仙」、江戸刷子/東京手植ブラシ「宇野刷子ブラシ製作所」、江戸組子「建松」、新江戸染「丸久商店」、和太鼓「宮本卯之助商店」、東京くみひも「龍工房」、金唐革紙「金唐紙研究所」(特別協力)の出展事業者とともに、江戸東京の伝統ある技や老舗の産品といった「東京の宝物」の新たな価値を伝えます。

会場は、展覧会名にもある「旧岩崎邸庭園」。1896年(明治29年)に岩崎彌太郎の長男で三菱第3代社長の久彌の本邸として造てられ、往時は約1万5,000坪の敷地に20棟もの建物が並んでいました。現在は3分の1の敷地となり、現存するのは 洋館・撞球室・和館の3棟。木造2階建・地下室付きの洋館は、鹿鳴館の建築家として有名な英国人ジョサイア・コンドルの設計によるものであり、近代日本住宅を代表する西洋木造建築です。館内の随所に見事なジャコビアン様式の装飾が施され、同時期に多く建てられた西洋建築にはない繊細なデザインが往事のままの雰囲気を漂わせ、それが今回の作品とも共鳴し、美しい空間を形成しています。

振り返ること2022年。実は、旧岩崎邸庭園」でこの展覧会の開催を予定していましたが、コロナ禍により、オンライン上での展示演出に。今回は、そのリベンジも果たします。

アートピースだけでなく、江戸・東京に受け継がれる伝統産業品や工芸品の展示、また、貴重な資料の展示から伝統産業の歴史にも触れることができるのも見どころのひとつ。それら全てを作品としてお楽しみいただきたい。

現代美術家 舘鼻則孝×東京くみひも 龍工房

現代美術家 舘鼻則孝×江戸うちわ・江戸扇子 伊場仙

現代美術家 舘鼻則孝×和太鼓 宮本卯之助商店

現代美術家 舘鼻則孝×新江戸染 丸久商店

上段左より、江戸うちわ・江戸扇子「伊場仙」、江戸刷子・東京手植ブラシ「宇野刷子ブラシ製作所」。中段左より、江戸組子「建松」、新江戸染「丸久商店」。下段左より、和太鼓「宮本卯之助商店」、東京くみひも「龍工房」。

会場となる「旧岩崎邸庭園」洋館の内装には、金唐革紙(きんからかわし)の装飾が施された空間もあり、工芸的な内装も展示作品(下記)と共鳴する。

現代美術家 舘鼻則孝×金唐革紙 金唐紙研究所

ジョサイア・コンドルの設計の洋館は、17世紀の英国ジャコビアン様式の見事な装飾が随所に見られ、イギリス・ルネサンス様式やイスラーム風のモティーフなどが採用される。

EDO TOKYO KIRARI道具から作品へと昇華した、ふたつの伝統産業の声。

今回、現代美術家・舘鼻則孝氏とコラボレーションした伝統産業の中から、「道具が作品へと昇華した」と喜びをあらわにしたのは、「宇野刷毛ブラシ製作所」と「江戸組子 建松」です。

隅田川のほとりに小さな工房を構える「宇野刷毛ブラシ製作所」は、創業1917年(大正6年)より刷毛作りで培われた技術をもとに、刷毛・ブラシの製造販売を行っています。現在は、三代目・宇野千栄子さん、四代目・三千代さんの母娘が伝統の手業を守り、従来の刷毛やブラシはもとより、時代のニーズに応じてデザイン性に富んだブラシを生み出しています。

「絵画作品を作るために使うブラシを製作していただきました。これまでは、それぞれの伝統産業と直接的に作品としてコラボレーションしてきましたが、今回は、道具のコラボレーション。使用している絵の具が粘り気の強いペースト状のため、あえて左官ブラシをお願いしました」と舘鼻氏。

製作した左官ブラシは、弾力性のある馬の毛を使用した長さ60cmの特別仕様。左官ブラシを絵画作品の仕上げに転用し、新たな作品を誕生させました。画面上で左官ブラシを引くことによって生じる、縞状の痕跡を意匠として活かすことを意図した技法研究が成され、絵画の世界では筆致と呼ばれる筆遣いとして画面に刻まれています。

また、ブラシの柄に装飾を施した舘鼻氏の創作に、四代目・三千代さんは「左官ブラシを作品作りの道具に起用する斬新な発想に驚きましたが、本来、見えることのない道具も作品として仕上げていただき、感動しました」と話します。

次いで、組子細工による伝統的な幾何学文様と舘鼻氏がアクリル絵の具で雷雲を描いた作品のコラボレーションは、「江戸組子 建松」によるもの。

組子工芸とは、平安末期に生まれた襖や障子などのいわゆる日本建築の建具のことであり、釘を一切使用せず、小さな木片を手作業で組み合わせ、様々な模様を編み出していく伝統的な木工技術です。

「普段は、障子や欄間を作っています。本来、木に着色することはないので、今回のように着色した組子は、私たちにはない発想です。実用品とは違った世界を見せていただきました」と、2代目田中孝弘は話します。

昨今、伝統産業は、後継者不足や暮らしの変化などから、危機的状況が囁かれることがあるも、「宇野刷毛ブラシ製作所」は東京手植ブラシとして海外からも人気を博し、「江戸組子 建松」においても、2024年の注文は受け入れできないほど、求める声が後をたたない。この違いは何か。

「伝統工芸は変わっていないという見方をされる方もいらっしゃいますが、変わっています。変わる勇気とその変わり方次第で、未来は大きく変わるのはないでしょうか」と田中氏。

しかし、ひとつ問題があるとしたら、「宇野刷毛ブラシ製作所」「江戸組子 建松」ともに「雇用」だと言います。給料、保険料など、支出と収入のバランスが崩れては、産業も崩壊してしまいます。人の増が技術の増に直結するわけではなく、時間、労力、資金の投資が伴います。

「これに関しては、まだ糸口が見つからず、解決していません」とふたり。

絶やさず、日本の文化をどう残していけるのか。その環境は、当事者だけでなく、国民全体で向き合うべき問題なのかもしれません。

現代美術家 舘鼻則孝×宇野刷毛ブラシ製作所。古くから職人に愛用されてきた「左官ブラシ」を絵画作品の仕上げに転用することによって、新たな作品が誕生。

現代美術家 舘鼻則孝×江戸組子 建松。雷雲のモチーフがレイヤーとなり、上から順に、桜亀甲、二重麻の葉、桔梗亀甲、雪型亀甲と並ぶ文様は、春夏秋冬を表現。

EDO TOKYO KIRARI東京だけでなく、日本の伝統産業のために。

今回に限らず、現代美術家・舘鼻則孝氏は作品を製作するにあたり、必ず職人に会い、工房に足を運び、作品作りに必要な表現アプローチが実現可能かを確認する手法を取っています。

「今回、自分が担う役割は、アーティストとして表現することはもちろんですが、それを通して伝統産業をより多くの人々に知ってもらうメッセンジャーになること。伝統産業を過去のものではなく、未来として魅せること。芸術という文化的な側面から伝統産業を価値化させることだと思っています」。

その価値化とは、舘鼻氏が創出プロセスの起点として大事にする「Rethink」でもあり、本展を主催する「江戸東京きらりプロジェクト」のコンセプトでもある「Old meets New」ともリンクします。

東京に限らず、日本全国の伝統産業と造形の深い舘鼻氏は、今の状況をどう見ているのでしょうか。

「東京と地方の伝統産業を同じフィールドで語ることは難しいと思っています。例えば、東京は、マーケットがあり、伝統工芸が産業工芸として成立できる環境にあります。地方の場合は、そうはいきません。どんなに高い技術を持っていても、外的要因に左右されることがあります」。

東京の場合、工房、店舗、さらには観光まで、一連につながる環境も少なくありません。その好例が浅草と言ってよいでしょう。しかし、それが高いクオリティとつながるかは別物。「伊勢神宮の式年遷宮ではありませんが、難度の高いテーマに挑戦し、それ乗り越えることによって今の技術を超えられるのではないでしょうか」。

今回になぞれば、そのテーマが、舘鼻氏が出展事業者に求めたものだったのかもしれません。だからこそ、伝統産業が輝くアートピースへと昇華したのでしょう。

海外に目を向ければ、現代彫刻家のアニッシュ・カプーアが漆を起用し、照明デザイナーのインゴ・マウラーが団扇を起用したように、日本の伝統産業は、世界レベルの芸術とも高い関係性を持っているのです。

また、地方といえば、元旦に襲った能登半島地震は、今なお、被害を受けています。漆や木地など、輪島をはじめとした伝統産業も焼失、全壊、半壊、倒壊など、日本の宝物が危機的状況に直面しています。

舘鼻氏もまた、石川の漆や蝋色での作品制作をした親交のある地域です。

「被害状況も地域によって様々。自分に何ができるかを言葉にするのは難しい。しかし、サポートしなければ、再起できない帰路に立たされていることは言うまでもありません。東京だけでなく、日本の伝統産業のために何ができるのか。常にRethinkしながら、向き合っていきたいと思います」。

失ってからでは手遅れ。我々もまた、Rethinkしなければいけない。

角度を変えて表現することによって、伝統産業が道具から作品に創出されたように、物事の見方も角度によって様々な想像力を掻き立てます。

Rethinkの思考を持って、改めて本展覧会と対峙すれば、そこには美化された作品群の展示だけでなく、様々なメッセージを訴えかけてくるようだ。


Photographs:©Edo Tokyo Kirari Project, Photo by GION
Text:YUICHI KURAMOCHI

江戸東京リシンク展
期間:2024年3月1日(金)〜3月10日(日)
時間:9:00〜17:00
料金:一般400円ほか(旧岩崎庭園への入園料)
主催:東京都・江戸東京きらりプロジェクト
共催:公益財団法人 東京都公園協会
会場:重要文化財 旧岩崎邸庭園
展覧会ディレクター:現代美術家 舘鼻則孝
出展事業者:江戸うちわ/江戸扇子「伊場仙」、江戸刷子/東京手植ブラシ「宇野刷子ブラシ製作所」、江戸組子「建松」、新江戸染「丸久商店」、和太鼓「宮本卯之助商店」、東京くみひも「龍工房」、金唐革紙「金唐紙研究所」(特別協力)
公式HP https://edotokyokirari.jp/news/life/edotokyorethink2024/

舘鼻則孝 NORITAKA TATEHANA
1985年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻卒。卒業制作として発表したヒールレスシューズは、花魁の高下駄から着想を得た作品として、レディー・ガガが愛用していることでも知られている。現在は現代美術家として、国内外の展覧会へ参加する他、伝統工芸士との創作活動にも精力的に取り組んでいる。作品は、ニューヨークの「メトロポリタン美術館」やロンドンの「ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館」などに永久収蔵されている。
公式HP https://www.noritakatatehana.com/ja/