DINING OUT RYUKYU-SHURIDINING OUTを終えて、川田智也シェフが思うこと。
『DINING OUT RYUKYU-SHURI』の終演直後。
まだ晩餐の熱気も冷めやらぬ会場で、川田シェフは今回のイベントを振り返りました。沖縄の食材を使った中国料理。自身の哲学である“和魂漢才”の具現化。いつもの論理的な話の節々に、少しだけやり遂げた達成感と興奮をにじませて、川田シェフは話します。
2018年、「神仏習合」をテーマに国東半島の文化と食材と向き合った『DINING OUT KUNISAKI』に続き、2度目のDINING OUTとなった今回。川田シェフはどんな思いを込め、どんなロジックで料理を組み立てたのでしょうか。
DINING OUT RYUKYU-SHURI沖縄のイメージに重なったカラキという食材。
沖縄の歴史や食材への見聞を広めると同時に、自身の哲学、精神性を深く掘り下げる。川田智也シェフの、そんな2軸の思考を象徴するのが、カラキという食材なのかもしれません。
「首里城」でゲストを出迎えたレセプション。
最初に手渡されたウェルカムドリンクは、沖縄に自生するクスノキ科の常緑樹・カラキのスパークリングティーでした。そしてその後、ディナー会場に移動し、全15品に及ぶコースを締めくくったのは、カラキの団子。カラキに始まり、カラキに終わる。その真意を問うと、川田シェフは言いました。
「シナモンのようでいて、より洗練された香りもある。さらに記憶を辿っていくと、子どもの頃に駄菓子屋にあったニッキ飴のようでもありました。そのフレッシュ感とどこか懐かしい感じが、自分自身が持っていた沖縄のイメージとぴたりと重なったんです。そしてさらに調べてみると、カラキは防風林として沖縄を守ってきた木でもあった。その歴史も含め、沖縄を表現するのに最適だと感じました」。
歴史、風土、そこに暮らす人の想いまで汲み取って料理に落とし込む川田シェフらしい発想です。
DINING OUT RYUKYU-SHURI料理構築の根本は、食材、人、土地への敬意。
先のカラキのように、沖縄の伝統食材や伝統料理に向き合い、その背景やそこに至った必然性を深く考え、自らの料理に落とし込む。そんな難題に対し、川田シェフはいくつかの視点からアプローチしているようでした。
ひとつは料理そのものを解析、分解し、再構築する方法。
「沖縄で、豚肉に黒ゴマをまぶして蒸し上げる“ミヌダル”という琉球料理に出合いました。非常にシンプルな料理ですが、沖縄の豚と黒ゴマの相性が非常に良く、たっぷりゴマをまとわせているのにくどさがない。これを自分の料理に取り入れるならどうなるだろう、と考えました」。
そうしてさまざまな料理を試作した末に到達したのは、『茶禅華』のスペシャリテである雲白肉に黒ゴマを振りかけた一品。
「雲白肉はそれ自体で完成しているようでいて、いろいろな要素を許容する余白があるんですね。それで黒ゴマならどうだろう、と試してみたらミネラル感、ゴマの少し炒った香り、そして雲白肉に足りない苦み、これらが非常に共鳴したんです」。
こうして料理は完成しましたが、川田シェフの思案はここで終わりません。食材同士の相性が良いとき、それが「なぜ合うのか」を突き詰める。今回の黒ゴマと豚肉について熟考を重ねていくと、ゴマを絡めて食べる四川の水餃子に行き当たりました。
「自分の記憶のどこかに、その味があったのかもしれません。“なるほど”と腑に落ちる感覚ですね。そういう意味では、いままで経験してきたことが、ひとつの点に集約されたような料理になりました」。
もうひとつのアプローチは、食材を軸にした発想。それはメインディッシュに登場したヤギに顕著でした。
「ヤギは古くから地元で大切にされている食材。生産者の方を訪ねても、非常に愛情を持って、丁寧に育てていることが伝わりました。一方で沖縄料理はさまざまな要素を取り入れながら、現在も変わりつつあります。そんな伝統、現在、未来がうまく整うような料理を目指しました」
そう話す川田シェフは、揚げたヤギ肉に沖縄の島コショウ・ピパーチを合わせました。ヤギとピパーチという伝統的な沖縄食材を使いつつ、四川料理の技法を取り入れ、“川田智也の料理”に昇華したメニュー。島の食材への敬意、伝統への理解を踏まえた上で、未知なる境地へと挑むような一品でした。
DINING OUT RYUKYU-SHURI琉球王国のおもてなしの伝統から学んだこと。
琉球王国が他国の使者を迎えたおもてなしの伝統。とくに琉球王国にとってもっとも大切な隣国であった中国の特使“冊封使”を迎える際には、地元の食材で中国料理を仕立てる最上級のもてなしの席が設けられたといいます。そんな“琉球王国の宮廷料理とおもてなしの心”という今回のテーマを聞いたとき「本当にワクワクしました」と川田シェフは語ります。
「前回の国東半島でのDINING OUTは“神仏習合”というテーマのもと、その文化を深く料理に取り入れました。今回は、前回以上に私の哲学と合致するテーマで、ただ伝統を再現するのではなく、伝統、現在、未来という時系列が整った料理を目指しました。実は“もしいま皇帝からの使者が来たら、自分はどんな料理を出すのだろう?”というのは日頃から考えていることでもあります。中国から伝来した料理を日本でやる意味、日本でしかできないこと。それが私が信念とする“和魂漢才”の本質です」
それは伝統を踏まえた上で、現在でしかできない表現を料理に落とし込み、未来へと繋ぐという壮大かつ精密な狙い。国東半島での「DINING OUT」から5年半。料理人としての実力を着実に蓄えている川田シェフの現在を出し切ったような料理です。
そして5年半という時間は、川田シェフの料理人としてのステージも変えました。自身がオーナーシェフとなり、若い料理人を教え、導くことに前回以上の熱量を持っていたのです。
今回の『DINING OUT』には、そんな川田シェフたっての希望で総勢20名の『茶禅華』スタッフ全員が参加しました。そこで改めて伝えたかったこともあったのでしょう。
「沖縄に入って1日目はバタバタしていましたが、2日目、3日目とどんどん良くなっていった。とくに若手が伸びたな、という感覚はありますね。管理されたお店の中でおいしい料理を作るのはもちろんですが、こういう放り出されたような環境の中の危機感が人を大きく育てるのですね。非常に良い機会を与えてもらえたと思います」。
そう今回の収穫を語った川田シェフ。
さらに今回のテーマを通して、得たものも多かった様子。というのも実は現在の『茶禅華』の厨房で働くスタッフは、中華料理人が半分、もう半分は西洋料理人。外国の料理を日本でやる意味が、琉球王国のおもてなしの心から見えてきたのだといいます。
「中華料理に限らず、西洋料理であっても、日本人が日本でやっていくことにデメリットはあります。しかしそれでも日本人の精神、すなわち食材を尊重し、自然を尊重し、料理を精密に作っていくという部分は非常に優れていると思うんです。そんな日本の精神に海外の料理をどう調和させていくか。海外の文化を受け入れて、それをどう昇華させていくかが重要です。地元の食材、文化、精神性を取り入れた上で他国の特使をもてなす料理を仕立てるという琉球王国のおもてなしについて深く考えることで、スタッフたちにも私自身にも大きな学びがありました」。
沖縄の食材、沖縄の生産者、おもてなしの伝統。多くの発見があり、そこから多くを学びとったという川田シェフ。『DINING OUT RYUKYU-SHURI』を終えた直後にはもう「明日からの営業が楽しみです」と心底楽しそうに笑いました。
主催:沖縄県文化観光スポーツ部 観光振興課
企画・プロデュース:ONESTORY協力:沖縄美ら島財団
販売:ハレクラニ沖縄
協賛:オリオンビール、CHAMPAGNE TAITTINGER、瑞泉酒造、T GALLERIA、ホシザキ沖縄 *五十音順
Photographs:RYO ITO
Text:NATSUKI SHIGIHARA