DINING OUT RYUKYU-SHURIゲストの心を一瞬で捕らえた、現代に蘇った宮廷音楽の響き。
「琉球王国のおもてなし」をテーマに、『茶禅華』川田智也シェフが腕をふるった『DINING OUT RYUKYU-SHURI』。コースも半ばを過ぎた頃、琉球王朝式のおもてなしとして、歌三線と琉球舞踊のパフォーマンスが披露されました。
それは不思議な瞬間でした。
酒も入り、思い思いに会話を楽しんでいたゲストたちが、まるで申し合わせたように一斉に手を止め、話を止め、息までも止めるように、その演奏と舞に見入ったのです。それは芸能の持つ力を改めて垣間見る瞬間でした。
三線の音は儚く、音数も少なく、ごくごくスローなテンポ。合わせる舞も、注視していなければ静止しているものと間違えるほど、ゆったりとした動き。派手さはありません。賑やかさもありません。しかしその幽玄な響きと舞は、確実にゲストの心に届いたのです。
それは、一般的に想像されるような賑やかに歌い踊る沖縄民謡とはかけ離れていました。演者は、山内昌也氏。琉球古典音楽の師範であり、沖縄県立芸術大学音楽学部長でもある山内氏がその理由を教えてくれました。
「琉球古典音楽という、約450年続いた琉球王国が明治12年に滅亡するまで首里城の中だけで上演されていたものが、今日ご覧頂いた音楽です。その明治12年以降、首里城で演奏していた方々が自分が食べるために各村を回って庶民に宮廷音楽を見せていく。それを聞いた方々が生活のリズムと調和するような、自分たちで歌ったり、踊ったりできるように変えていったものが、現在の沖縄民謡の基礎になっています」。
レとラのない独特の音階の由縁、三線という楽器の起源、ロックやジャズを取り入れて変わりつつある沖縄音楽の今。教職者でもある山内氏の言葉はわかりやすく、琉球音楽の歴史を伝えてくれます。
しかし、自身が古典音楽の担い手である山内氏は、その変化を否定するわけではありません。
「武力ではなく、文化芸術を通して外交をしていたのが琉球王国。さまざまな要素を取り入れながら発展させてきたことこそ、先人たちの強い力ではないでしょうか」。
そう穏やかに山内氏。そして、ひとつの例を話します。
「今日ご覧頂いた歌三線の演者ひとり、女踊りひとりというパフォーマンスを開発したのが私なんです。それまでは大人数でやるスタイルが主流でしたが、これを10年ほど前に開発して、他の演者の方も取り入れはじめ、今では“次世代にこの形を伝えていっても良いのではないか”ということになっています」。
この1対1という革新的な取り組みは、それ自体がグッドデザイン賞を受賞するなど、高い評価を得て、現在では定着しつつあるといいます。
「私は復元と再現は別なのではないかと思っています。復元とは昔のものを昔のまま、それこそお客さんも着物を着て見るようなこととして伝えていくこと。対して再現は昔のものの理念をうまく活かしながら新しくデザインしていくこと。この時代に合わせた感覚が大事なのではないかと、個人的には考えています」。
奇しくも今回の「ダイニングアウト」を終えた川田智也シェフが「伝承と伝統」という言葉で語った思いと、とても良く似た理想を持つ山内氏。そして最後にこう話しました。
「そういう意味でも、今回のダイニングアウトで、それも今、再興の途にある首里城で、皆様方に琉球古典音楽を感じてもらえたことには大きな意味があると思います」。
DINING OUT RYUKYU-SHURI目に見えぬ琉球王国の精神を伝えるホストとしての役割。
今回の『DINING OUT RYUKYU-SHURI』では、“琉球王国のおもてなし”という精神性が大きな意味を持ちました。そしてその目に見えぬものを深く、わかりやすく伝えてくださったのが、琉球史研究家の上里隆史氏でした。
首里城に到着したゲストを迎え、案内に立った上里氏。その上里氏が最初にゲストを導いたのは、首里城の観光順路から外れた「京の内」という場所でした。
「京の内は知らなければ何もない場所なんです。その何もないところに琉球の精神文化が秘められているということを知って頂いてそこから食事に入るということが意味を持っていたと思います。当然ながら食事は舌で味わうものですが、歴史であったり、この座っている場所がどういう場所かというのも踏まえた上であれば、いっそうおいしく、興味深く味わえるものなんですね」。
当時は城跡だった首里城を見つめて育ち、琉球文化を研究し続ける上里氏にとって、この場所で開かれるダイニングアウトには、ひときわの意味を持っていたのでしょう。そしてそんな上里氏にとっても、今回の晩餐は大きな意味を持っていたといいます。
沖縄文化や観光振興の有識者会議の委員もつとめた上里氏の願いは、時代に合わせた歴史、文化を今の人々が紡いでいくこと。
「歴史をただ歴史として学ぶのではなく、それを現代にアレンジして今を生きる人たちが当たり前に触れられる存在にすること。このダイニングアウトは、ただおいしいごはんを食べる、ただ世界遺産できれいだから使用する、ということではなく、土地の文化、風土、歴史を踏まえて現代の解釈で琉球王国の伝統を伝えた。そのことに価値があると思います」。
ここにもまた、川田シェフや山内氏と同じ思いが垣間見えます。
さまざまな文化を取り入れながら発展してきた琉球文化だからこそ、ただ守るのではなく、時代に合わせた“現在の文化”を伝えたい。
3名が異なる言葉で語ったひとつの思いこそ、琉球文化の本質なのかもしれません。
そして上里氏の思いは、現在、再建に向けて作業が進む首里城に向かいます。修復の作業を誰でも見学できるようにし公開し、ボランティアなども広く募りながら“見せる復興”として進む今回の再建。
「前回の復元はブラックボックスの中で、気付いたら首里城が完成していた。ところが今回は、こうして“見せる復興”が進んでいる中で、沖縄の人たちが参加していくという動きがあります。それをきっかけにかつて琉球文化があったこと、現在の復興に多くの人達が一生懸命努力しているということが広がっていく。皮肉なことですが、燃えてしまったことで、そこに目が向き始めた。沖縄の文化や伝統に目を向ける機会は、実は今なんです」。
Photographs:RYO ITO
Text:NATSUKI SHIGIHARA
主催:沖縄県文化観光スポーツ部 観光振興課
企画・プロデュース:ONESTORY
協力:沖縄美ら島財団
販売:ハレクラニ沖縄
協賛:オリオンビール、CHAMPAGNE TAITTINGER、瑞泉酒造、T GALLERIA、ホシザキ沖縄 *五十音順