熱帯植物園を回遊しながら、バーをホッピングする。沖縄の魅力を深く体感するミクソロジーイベント。

熱帯植物園を食前酒を楽しむバーに見立てたユニークベニュー。

ユニークベニューとは、「ユニーク(特別な)」「ベニュー(会場)」を意味する言葉で、史跡、公園、美術館などを本来の目的とは異なるニーズに沿った会場とすることを指します。

今回、沖縄の魅力を伝える3つの試みのひとつが、このユニークベニュー。会場は、約6万平方メートルの敷地に多種多様な植物が展示される『熱帯ドリームセンター』。園内をガイドとともに巡りながら、各所に用意されたアペリティフと食前酒を味わうという趣向です。

ドリンクの監修は那覇のミクソロジーバー『アルケミスト』を手がける中村智明氏。クラシックのコンペティションやフレアバーテンディングのカクテルコンペティションで18もの賞を受賞する実力派です。料理監修は大阪の名店『AUBE』『Chi-Fu』『Az/ビーフン東』のシェフ東浩司氏。そして実際の調理やドリンクのサーブは、『ハレクラニ沖縄』『沖縄かりゆしビーチリゾート オーシャンスパ』『ホテルモントレ沖縄スパ&リゾート』『オリエンタルホテル沖縄リゾート&スパ』『ヒルトン沖縄 瀬底リゾート』といった沖縄を代表するホテルの精鋭たちが担当します。

植物園を舞台にした、かつてないミクソロジーイベントは、どのようなものとなったのでしょうか?

沖縄海洋博公園内に位置し、『美ら海水族館』に隣接する熱帯ドリームセンター。熱帯、亜熱帯の花々が咲き乱れる楽園。

世界に約3万種が存在するといわれるラン。同じランでも見た目も香りも特徴も大きく異なる。

ドリンク監修の中村智明氏(左)と料理監修の東浩司氏(右)。もともと面識があったというふたりの連携が、かつてないペアリングを生み出した。

植物をテーマにした5種のカクテルとフィンガーフード。

それは原始の森の中を回遊しながらバーをはしごするような、不思議な体験でした。

「散歩をしながらカクテルを飲まれる前提。だから最初のインパクトと、少し時間が経ってからくる風味が変化するように、“香りの層”があるドリンクを目指しました」とドリンク監修の中村氏が話す通り、歩きながら、体験しながらだからこそ楽しめる特別な時間。

『熱帯ドリームセンター』は、多種多様な2000株以上のランを中心に、さまざまな植物が展示される施設。その中の5箇所にカウンターが設けられ、ゲストは園内を進みながら、要所でカクテルとフィンガーフードを楽しみます。

ウェルカムドリンクは白ワインをベースに、花草果実のエッセンスを加えたカクテル。草花に囲まれたこの会場にぴったりの一杯です。

展示されるランの不思議な生態の話を聞きながら歩みを進めると、先の温室に準備されていたのは、花束に見立てたマグロスモークとハーブ、そして試験管に入ったハイビスカスティーベースのカクテル。続く果樹温室では野菜で仕立てたヴィーガンタコスと、月桃の香りを添えたテキーラベースのドリンク。

人の気配がなく、ミステリアスな夜の植物園。進むごとに現れる想像を越えたカクテルとフード。ただバーに座ってグラスを傾けるよりもずっと能動的な時間が、しっかりと胸に刻まれます。

続いては蓮の浮いた池を眺めながら、ヤギ肉の唐揚げとヤギのヨーグルトを合わせた泡盛。最後のデザートにはアップルバナナのジーマーミ豆腐と、アップルバナナを使った泡盛カクテル。

ここまで、およそ1時間の行程。この体験を胸に、ゲストは各々のホテルやレストランでのディナーに向かうという想定です。「花」「草」「根」「果実」をテーマにしたフードとカクテルの組み合わせは、会場の環境とも見事なペアリングとなり、またとない体験になりました。そして何より、ただ観光するだけではなく、食事を通して深く体験することで、より身近に沖縄という地を感じることができたことでしょう。

「草」「花」「根」「果実」のテーマで考えた今回のフードとドリンク。白ワインにランのフレーバーを加えたウェルカムドリンクは、それらの要素すべてが感じられつつ、炭酸ですっきりと仕上げられた。

木に吊り下げられた試験管のなかに、ドリンクとフードが入る。自然の果実を摘んで口に運ぶような原始的な行為が、本能を刺激する。

ガイドの案内とともに園内を進む。閉園時間の後の『熱帯ドリームセンター』は今回のゲストのためだけの貸し切り。

演出や盛り付けに驚きを隠せないゲストたち。こうした工夫、アイデアにより沖縄の食のPRに新たな可能性を見出す。

ミステリアスな夜の植物園とカクテルとフード。その特別な時間は、進むごとにさらなる期待を高まらせる。

各ホテルのスタッフによるサービスと連携もイベント成功の要因。厳しい条件のなかで、各スタッフがプロフェッショナリズムを発揮した。

4時間じっくり煮込んでから、現場で揚げたヤギ肉と、ヤギのヨーグルトを加えた泡盛のカクテル。同じ素材にすることで風味を合わせ、一体感を生む。

順路に沿って進むごとに、このようなバーエリアが出現する。歩きながらホッピングするという新たな感覚が新鮮。

アイデア次第でさらなる進化を遂げるこれからの沖縄のカクテル。

「伝統的な沖縄料理を少しだけ違う角度から見てみる。地元の人にも驚きや発見がある料理を考えました」と東氏。

「たとえば沖縄の定番であるタコライスも、季節の野菜を取り入れるなど少しのアレンジを加えることでまだまだ大きな可能性があります」と言います。

那覇を拠点に活躍する中村氏も同様の意見です。

「国内外の観光客が増えている中で、沖縄のカクテルはまだまだスタンダードなものが中心。県産の素材に焦点をあて、その魅力を伝えていくことがこれからは必要になってくると思います」

その思惑通り、県産の素材、沖縄の伝統を踏まえた上で、別の角度から魅力を引き出した両氏。花束に見立てた盛り付けやフードとドリンクを逆転させた演出、ペアリングでも寄り添うもの、隙間を埋めるもの、味を補完しあうものなど、さまざまなアイデアで、ゲストを驚かせました。

しかし二人にはもうひとつ、大切にしていたことがありました。

それは、今日という日が「特別な一夜」ではなく、これからも続けられること。特別な機材や素材、中村氏や東氏がいなくとも地元スタッフが一丸となって再現できること。

そのためのレシピやオペレーションを考案し、そして沖縄の未来を描く思いをホテルのスタッフたちと共有してきたのです。

「身近で、当たり前だと思っていたものが、宝物だったという感覚。勉強になりましたし、大きな自信も生まれました」

名門ホテルから参加した若手スタッフはそう振り返りました。

沖縄のホテルでは、ディナーの前に回遊するバーが楽しめる。そんなシーンが当たり前になる日も、遠くないのかもしれません。

初の試みに少々戸惑いながらも、手際よく料理を仕上げるスタッフたち。所属ホテルの垣根を越えた交流が生まれたのも、今回の収穫のひとつ。

火の使用不可、限られたスペースなどの条件は、最適化されたホテルの厨房とは別世界。参加したホテルの料理人たちにも、さまざまな学びがあったという。

花束に見立てた沖縄県産マグロのスモークとハーブ。下部のハイビスカスとローゼルのカクテルは、ドレッシングのように料理に重ねるイメージで考案された。

沖縄名物のタコライスをモチーフに、クレープにフーチバーやドラゴンフルーツをあわせた一品。メキシコをルーツとするタコスに合わせ、カクテルはテキーラベースに月桃の香りや生胡椒をあわせた。

最後の一品、アップルバナナのジーマーミ豆腐と、固体にしたアップルバナナのカクテルは、「飲むフードと食べるカクテル」。役割を逆転させる意外性と、味わいと香りの調和が見事。

令和6年度高付加価値なインバウンド観光地づくり事業
主催:沖縄・奄美共同検討委員会
場所:沖縄県本部町
企画:ONESTORY
協力:沖縄県ホテル協会、沖縄美ら島財団、前田産業ホテルズ
運営:沖縄かりゆしビーチリゾートオーシャンスパ、オリエンタルホテル 沖縄リゾート&スパ、
   ハレクラニ沖縄、ヒルトン沖縄瀬底リゾート、ホテルモントレ沖縄スパ&リゾート