USEUM SAGA名シェフの料理と佐賀県自慢の陶磁器が互いを引き立てる。
道具は、使われてこそ真価を発揮する。
たとえそれが世界にふたつとない貴重な器であろうと、美術館に展示するのではなく、実際に料理を盛り付け、味わってみてこそ発揮される美しさがあるもの。そんな思いのもと、素晴らしい器で素晴らしい料理を味わう数日間限定のプレミアムレストランがこの『USEUM SAGA』です。
もちろん、器に負けぬ存在感を持つ料理も大切な要素。2021年の初開催から毎回、佐賀県出身の気鋭の料理人と、全国各地で名を馳せるトップシェフがタッグを組み、この日のための特別な料理を仕立ててきました。
第6回目となる今回は、地元シェフは佐賀県で『shokudo欅』を営む寺田功氏、久枝氏の夫妻、ゲストシェフには宮城県仙台市で中国料理『松石』を営む松石翼氏・晶子氏の夫妻が厨房に立ちました。佐賀と仙台、およそ1500kmも離れた土地で生きる二組は、果たしてどのように思いを連ね、どのような料理を完成させたのでしょうか。
USEUM SAGA二人のシェフが織りなす、佐賀と東北食材の宴。
コースは松石氏によるスープで幕を開けました。
器は今右衛門窯、柿右衛門窯という磁器の歴史を築いてきた名門の逸品。佐賀の黒鮑と仙台のフカヒレという両県の食材を取り入れた、松石氏の心意気が伝わるようなオープニングです。
さらに象徴的だったのは2品目の前菜6種盛り合わせ。寺田氏と松石氏が3種ずつを仕上げ、盛り合わせました。食材のチョイスは、佐賀の寺田氏が東北の食材、宮城の松石氏が佐賀の食材。事前にこうしよう、と打ち合わせたのではなく、偶然この食材になったという二人の料理。それぞれが自身の拠点に誇りを持ちつつ、相手の地元に敬意を払う。そんな思いが交錯した結果の一皿だったのでしょう。2品目にしてすでに、その高い物語性にゲストは引き込まれていきました。
佐賀県産の牡蠣を両シェフそれぞれの手法で仕上げた料理、互いのスペシャリテをぶつけ合うような一幕、個性の異なる両者の料理で交互に盛り上げるような展開、両女将が眼の前で握る山形県産米と佐賀県産海苔のおにぎり。二組がタッグを組んだ意味、異なるバックグラウンドを持つ二人のシェフが織りなす奥深く、新しい料理のアプローチ、ともに夫婦で店を営む二組が醸す温かく穏やかな雰囲気、そして料理と互いに引き立て合う人間国宝の作、新進気鋭の作家による器、佐賀の名だたる人気窯元の名品。『USEUM SAGA』の舞台で生まれたコラボレーションは、後に語り継がれるような美味となってゲストを驚かせました。
USEUM SAGA二人のシェフの心と、地元佐賀に残したもの。
「仙台空港に降り立ったとき、佐賀と似ていると思ったんです。もちろん気候は違いますが、そこに海があり、山があり、平野があり、多様な食材がある。まず感じたのは、そんな地形と食材の親和性でした」
寺田氏は、そう振り返ります。
そして寺田氏の仙台訪問から準備期間の数ヶ月。両シェフがまず行ったのは、互いの宝物を自慢しあうような、佐賀と東北の食材の紹介でした。
ライブ感ある調理を持ち味とする松石氏と、低温調理をはじめとした丁寧な下拵えで料理を組み上げる寺田氏。それぞれ得意は異なりますが、あえて細かい取り決めをするのではなく、食材の理解を深めた後は、持てる技術を出し尽くすような構成に決めました。
それは「自分の全力を相手が打ち返してくれる」という信頼の証。結果、全10品のコースは、土地の個性、シェフの持ち味が活かされながら、コースとしての統一感も失われないバランスの良い内容となりました。
「はじめて訪れた佐賀ですが、第二の故郷のような思い。表面だけを見て終わるのではなく、実際に深く関わり、現地の人や器、食材に触れることで初めて違いに気づき、学びが得られると感じました」
そう話す松石氏。日頃から古伊万里や有田の器も使用していますが、「料理を盛り付けた瞬間に輝くような不思議な体験。レベルが違うと感じました」と改めて器の持つ力にも心を動かされた様子でした。
地元で迎えた寺田氏も「今回の縁をきっかけに、今後も佐賀や宮城の食材・人とのつながりが広がる可能性を感じています」と手応えを語ります。
1500kmの距離を食材と器で繋いだ『USEUM SAGA』。遠く離れた二人の交流は、佐賀と宮城の食の未来の大きな一歩となるかもしれません。
1976年長崎県長崎市生まれ。高校卒業後、上京し武蔵野調理師専門学校に入学しフランス料理を学ぶ。卒業後、東京ステーションホテルに5年勤務。その後、渡仏しフランス各地をまわりながら研鑽を積む。帰国後、27歳で佐賀県唐津市に『欅』をオープン。2019年、佐賀県佐賀市に移転し『shokudo欅』を開く。
1982年山形県生まれ。高校卒業後、上京し武蔵野調理師専門学校に通う。卒業後は仙台のホテルにて17年間、中華料理の研鑽を積む。2020年から仙台市内の中華料理店の名店で修業し、2022年、仙台に自身の名を冠した『松石』をオープン。
Photograph:HIDEKI MIZUTA