大きさ、重さともに群を抜く幻の枝豆を、無添加の塩麹でシンプルにいただく。[和光アネックス/東京都中央区]

一粒一粒に凝縮したあけぼの大豆そのものの甘みと、塩麹の優しい甘みが重なり深い味わいに。

WAKO ANNEX限られた地域で大切に育てられる「あけぼの大豆の枝豆」。

国内で400を超える品種の枝豆が栽培されている中、栽培地域の限られる在来種、かつ出荷量も少ない幻の逸品として知られるあけぼの大豆の枝豆。山梨県身延町の標高300~700mの高地で栽培された種子を使用し、身延町内で栽培されたものだけが、その名を冠することができるといいます。

大きさ、重量ともに群をぬくボリュームと、じっくり時間をかけて栽培される極晩成品種ならではの、強い甘みと深みのある味わい。唯一無二の品質は、地域の多角的な要因の中で育まれる、品質、社会的に評価されるべき産品の名称を、地域の知的財産として保護する制度「農水省GI」に、山梨県で唯一認定されるほどです。

そんなブランド大豆の栽培に注力する『あけぼの農園』より、その魅力を余すことなく味わい尽くせる『極上枝豆塩麹漬け』をご紹介。あけぼの大豆の枝豆を材料に、甘めにブレンドした無添加の特製塩麹で漬け込んだシンプルなひと品は、優しい甘みとフレッシュな風味に、塩麹のうま味が重なる、バランスのとれた味わいです。

そのままちみちみとつまんでもよし、炊きあがったご飯に混ぜれば、簡単に絶品の豆ごはんができあがります。お好みでゴマやワサビを添えるなど、好みの食べ方を探求してみるのもよさそうです。

ポテトサラダと混ぜれば、簡単に満足感の高い副菜が完成。艶やかで鮮やかな見た目も食欲をそそります。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

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自然資源の保護と利用の好循環を目指すネイチャーポジティブ経済とは。国立公園の未知なるポテンシャルを紐解き、自然と人の未来を語る。

左から、「NewsPicks Re:gion」編集長・呉 琢磨氏、環境省職員の山﨑 大輔氏、森川 政人氏、服部 優樹氏、岡野 隆宏氏。

環境省 国立公園満喫プロジェクト官民の枠組みを超え、国立公園は変わろうとしている。

環境省が中心となり、日本の国立公園を世界水準のナショナルパークとしてブランド化することを目指す『国立公園満喫プロジェクト』。自然資源の「保護」に加え、官民の垣根を超えた「利用」、そのふたつの好循環がもたらす「ネイチャーポジティブ経済」の実現に向け、様々な取り組みが行われています。

国立公園の名を冠することが許されるのは、圧倒的な自然と景観を有すること。それらの保護に徹するのがこれまでの環境省の立場であった中で、今、どんな変化を遂げようとしているのでしょうか。去る2023年6月、「NewsPicks Re:gion」編集長の呉 琢磨氏が聞き役となり、環境省職員を招いたトークセッションが行われました。

トークセッションは、2023年6月24日(金)、25日(金)の二日間にわたり開催された一般向けの展示イベント「北アルプス×尾瀬National Park Mountain Fes」に先駆けて行われた。

環境省 国立公園満喫プロジェクトネイチャーポジティブ経済の確立、それは前人未到のアクション。

「美しい自然や生物多様性を守る“保護”、最高の自然体験フィールドやコンテンツによる“利用”、このふたつの好循環により、訪問者には上質なツーリズム体験を、周辺地域は経済活性できるよう、広く繋がり、ぜひ一緒に新しい未来を作っていきたい」そう語るのは、環境省 自然環境局国立公園課 国立公園利用推進室 室長の岡野 隆宏氏です。

ネイチャーポジティブ(Nature Positive)とは、生物多様性の損失を止め、反転させるという考え。国際的な合意のもと、2030年までの気候変動対策や循環経済移行を、社会経済活動総動員のミッションとして掲げています。国内においては、125兆円の経済効果、43兆円のビジネス機会の創出、930万人の雇用効果を目標に、全国に34箇所ある国立公園がそれぞれに創意工夫を凝らしながら、官民の垣根を超えて大きなうねりを起こしていくという、前人未到のアクションです。

「日本の国立公園の特徴は、自然の中に地域の人の暮らしが息づいていること。自然とともに歩んできたからこそ形成された、地域独自の歴史・文化がそこにはあります。多様な自然風景と生活・文化・歴史が凝縮された物語を知ることで、唯一無二の感動体験ができる、私たちのブランドメッセージである“その自然には、物語がある。”にも通じる、日本にしかない魅力です」。

上質なツーリズム体験とは、自然にもう一歩踏み込み、自身の目で見て学ぶこと。アドベンチャートラベルやロングトレイルなど、各国立公園ごとの個性豊かな自然を余すことなく楽しみ尽くすコンテンツの提供を目指す。

「自然自体が守りづらくなる中で、地域と協力しながら新しい考えを取り込んでいきたい」と岡野氏。国立公園のメリットは、ハイクオリティな自然環境に加え、職員が現場におり人的リソースがあることで、地域の声が届きやすく、コーディネーションもしやすくなることだという。ハードとソフトの掛け合わせがあるからこそ、トップレベルの自然体験提供の可能性が高まる。

環境省 国立公園満喫プロジェクト世界中の旅人に選ばれる存在になるために。

全世界が競合となるインバウンドに選ばれるためには、日本独自の優位性が必須。しかしその実現方法として、保存と利用、ともすれば相反するようにも思えるふたつの要素を掛け合わせるのはなぜなのでしょうか。「生物多様性のダウントレンドを上向きにするときに、人が入ることでその機会が減ってしまうのではないか?」という呉氏による指摘は、もっとものように思えます。

「利用の数ではなく、質を変えること。例えば人数を限定し、長期滞在で楽しんでもらいながら地域の価値を伝えていく。さまざまな体験を通して地域のファンになっていただくような利用のあり方、経済効果も生みながら保全につながる仕組みを考えていければ」。
国立公園という開かれたフィールドでマネタイズに踏み込んでいくことが、結果的に全体としてよい環境、地域活性に繋がる。そんな考えのもと、すでに11の国立公園では、宿泊、土産、飲食、交通、そして観光と、地域に根差した企業と連携し、協議会やコンテンツ醸成、ツアーの企画といった取り組みが始まっています。

「地域の資産を遠方の会社が運営しても、地域に経済循環は起きない。国立公園が地域と連携してマネタイズに取り組むことで、経済地域の資産として新しい地域経済圏の循環を作っていくためのひとつの拠点になっていく、そんな変化が起こせるんじゃないか」と呉氏。

環境省 国立公園満喫プロジェクト「松本高山Big Bridge構想」の事例から見る、国立公園のポテンシャル。

セッション後半では、呉氏、岡野氏に加え、国立公園事務所所属の自然保護官3名を交え「ネイチャーポジティブ経済の実現に向けてのハードルは何か」をテーマにトークが繰り広げられました。

「国立公園はネイチャーポジティブ経済が実践できる最適のフィールド」と語るのは、環境省 中部山岳国立公園管理事務所 所長の森川 政人氏です。

生物多様性の損失や過疎化による文化消滅の危機といった、国立公園の価値が問い直されるような状況、かつコロナ禍という逆境の中、約80kmのロングルートを自由に楽しめる「松本高山Big Bridge構想」のキーマンとして、岐阜・長野の2県を跨いだ地域連携による、新たな観光圏の確立に力を注いでいます。

「中部山岳国立公園が位置する上高地は、元々は点の魅力でも成り立っていた場所。しかしコロナ禍で来訪者数がガタンと落ち、未来を考えると県境関係なく連携すべきという意識がありました」と森川氏は続けます。

歴史的な街並みに3000m級の山岳、温泉、里山……。北アルプスと松本高山という2つの中都市が集結したエリアという地の利を最大限に生かしながら、アドベンチャートラベルやゼロカーボンパークの設立など、総合的に循環する観光源の実現を目指しています。

2020年、コロナ禍の只中で中部山岳国立公園に着任した森川氏。「やるからには一番を取りたい」と高いモチベーションを抱きながら、プロジェクトを推進している。

環境省 国立公園満喫プロジェクト「新・尾瀬ビジョン」のファンベース戦略に見る、現代のニーズに寄り添った価値創造。

一方、過疎や設備の老朽化、シカによる植物の食害といった深刻な課題と向き合い、これからアクションを起こそうとしているのが「尾瀬国立公園」です。「歴史の長い尾瀬は、過去のオーバーツーリズムや開発行為において、地元が一丸となり自然を守り続けてきたという自負があります」とは、環境省 関東地方環境事務所 桧枝岐自然保護管事務所の山﨑 大輔氏。

ネイチャーポジティブ経済のためのアクションプラン『新・尾瀬ビジョン〜「あなた」と創る「みんな」の尾瀬〜』でもファンベース戦略を基盤としており、そこには深い絆で地域や人と関わりたいという強い意志が垣間見えます。

「かつては教科書にも載っていた尾瀬ですが、来訪者数は1996年をピークに3分の1程度に減少し、今の若い世代に知ってもらう機会がありません。楽しくないと来てもらえないですし、経済効果を考えるとロングツーリズムの視点も必要。多くの人に尾瀬の魅力に気づいてもらうこと、確実に楽しいと感じてもらうこと。そのためには尾瀬の価値を伝えるプラットフォームを整備し、現状は4県にわたり分散している情報を集めたり、人や企業をつないだりできる仕組みを作っていきたいですね」と、環境省 関東地方環境事務所 片品自然保護管事務所の服部 優樹氏も語ります。

世界中の来訪者から選ばれる存在になるために。収入源だけの話でいえば、入山料を徴収するという方法もあるでしょう。しかし他に大切にしていくべきことがあると服部氏は続けます。
「老朽化が深刻な尾瀬の木道の保全でいえば、まずは管理者側で最適化を図り、コストを削減することを考えます。その上でどうしても皆さんの支援が必要となったときに、入園料や協力金の議論をさせていただくのかなと」。

自然の恩恵を全力で体感し、楽しみ、消費したお金を使ってまた自然を守り育てていく。「日本の過疎地の基幹産業になりうるポテンシャルを感じた」という呉氏の言葉の通り、保護と利用の循環がもたらす明るい未来の姿を想像できる時間となりました。
理想のまま終わらせてはいけない。国立公園の今後に注目が集まります。

尾瀬は生物多様性の課題が山積し、維持も難しくなっている現状だが、長い歴史の中で蓄積された知恵やルールは確固たる指標として受け継がれている。楽しい体験コンテンツだけでなく、保全活動にも気軽に参加できる受け皿、体制作りが急務となる。

レンジャーとも呼ばれる自然保護官の3名。自然と人に丁寧に向き合いながらプロジェクトを推進する姿が印象的だ。「職員はビジネスの経験はないが、自然が好きで、その楽しみ方や感動は知っている。民間事業者の方達と一丸となり、お互いの得意・不得意を組み合わせ、パートナーシップを大切にしていけたら」とは岡野氏の弁。

野菜と果物の恵みを一滴残らず体に取り入れる、話題のコールドプレスジュース。[和光アネックス/東京都中央区]

鮮やかなビタミンカラーの『ピーターオレンジ』は、やさしい甘みとすっきりとした後味で初心者でも取り入れやすい。

WAKO ANNEX健やかな毎日の第一歩に。ジュースで始める健康習慣。

兵庫県宝塚市にある人気店「LA SANTE(ラサンテ)」の味をそのまま冷凍し閉じ込めた『健康マルシェ』のコールドプレスジュース。スロージューサーという専用の機械で野菜や果物の水分だけを絞り出したジュースは、低温低圧圧縮という方式で摩擦や熱を極力加えずに作るため、酵素やビタミンなどの栄養を極力失わず、体内に取り入れることができるといわれています。その味わいは、野菜や果物そのもの。数あるお味の中でもクセが少なくバランスのとれた『ピーターオレンジ』は、コールドプレスジュースが初めての方にもおすすめです。

鮮やかなオレンジ色は、ベースとなる人参とオレンジ由来。まる絞りした人参のほのかな甘みとコクに、キウイとレモンの酸味がすっきりとした後味に仕上げています。

人参に含まれるβカロテンは、粘膜や皮膚を維持し、免疫力を向上させるといわれています。またオレンジ、キウイ、レモンにはビタミンCも豊富に含まれるため、毎日の健康づくりや、美肌を保ちたい方にも。1本に含まれる野菜と果物は、約1〜1.5kg。美味しく、体の中からきれいになる一石二鳥の健康習慣、あなたも始めてみては。

果物や野菜は旬のものを国内からセレクト。自然の力を楽しみながら、健康で豊かに過ごしてほしいという思いが込められている。

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鮮烈な記憶を焼きつけて終わった夢の時間。食の祭典『DREAM DUSK』の堂々たるフィナーレ。[DREAM DUSK ENCORE/福岡県福岡市]

当初は100席から始まったが翌年に150席に増席、3年目からは2日開催と拡大。今回の最終日は180席が即完売となった。

ドリームダスク アンコールやがて伝説として語り継がれる晩餐の幕開け。

「DREAM DUSK」、それは美食家たちの夢を叶える食の祭典。

国内最高峰の料理人たちが集まり、今宵のためだけの、たったひとつのコースを作り上げる。それはまるで、時間や距離の制約を越えて名店をハシゴするような、この上なく贅沢なコースとなる−−。

2016年、博多のリゾートホテル『ザ・ルイガンズ』を舞台にプロデューサーである本田直之氏の夢とともに始まった『DREAM DUSK』は、コロナ禍での延期を経ながら2022年の第5回『DREAM DUSK FINAL』をもって幕を下ろしました。

「回を重ねるごとに期待値が高まる中、常に前年を上回る内容を目指してきました。そして“これ以上はない”という場所まで到達した。すべてやり切った、と言える内容です」
本田氏は、惜しまれながらの閉幕をそう説明します。

しかしカーテンコールの拍手は、いつまでも鳴り止みませんでした。

その願いはただひとつ「アンコール!」。忘れ得ぬ美食の記憶を胸に、口々に再演を願うゲストたち。そしてついにその熱い期待に応え、『DREAM DUSK』が本当に最後の一度だけ、『DREAM DUSK Encore』として帰ってきたのです。

最高潮に達したゲストのボルテージ。開演はまもなくです。

『DREAM DUSK ENCORE』は、まさにファンたちのアンコールに応えて開催にこぎつけた。

ドリームダスク アンコール食べる前から期待が膨らむ、錚々たるシェフの顔ぶれ。

『ザ・ルイガンズ』のリゾートムード漂うエントランスを抜け、ウェルカムドリンクで乾杯。開場の合図とともに開かれた扉を抜けてダイニングに移り、席に着き、卓上に置かれたメニューに目を通す。

正確には“目を通す”ことは叶いませんでした。メニューリストのシェフの欄、その最上段に記された名に、目を奪われてしまったから。

天寿し 天野 功

それは“日本一”との呼び声も高い小倉の寿司店と、稀代の寿司職人の名。限られた席を多くの食通が奪い合う人気店であり、その親方がこのようなイベントに登場するとは、耳にしたことがありません。

驚きも冷めやらぬままメニューの続きを見ると、続く名にも驚きの連続。焼き鳥界のレジェンドである目黒『鳥しき』池川義輝氏、京都の気鋭店『肉料理かなえ』の北口亮佑氏、圭奈笑氏の兄妹、パリで日本人シェフ初となるミシュラン二つ星を獲得した『Blanc』の佐藤伸一氏、薪を使った前衛的イタリアンで食通を唸らせる『TACUBO』の田窪大祐氏。ドリンクディレクターには日本を代表するソムリエ・大越基裕氏。

これぞまさにドリームチーム。

一度ファイナルを迎え、アンコールとして再び相まみえることで最高潮まで高まっていた客の期待を、軽々と上回るような顔ぶれです。

乾杯のドリンクは、磨き抜かれたグラスに注がれるドン・ペリニヨン。シェフの顔ぶれもあって緊張が高まるなか、会場にシェフたちが登場しました。しかもあの名だたるシェフたちが、にこやかに手を繋いで会場に入ってきたのです。

会場は一気に和やかなムードに変わります。食は楽しむためのもの。コロナ禍を経て改めて確認された、人生を豊かに彩るための食の価値。その素晴らしさが伝わる演出です。

ウェルカムドリンクはシャンパン、グレンモーレンジィのハイボール、そしてエビアンスパークリング。

ペアリングの数に合わせ、用意されたグラスも7脚。ゴージャスなテーブルセットに胸が踊る。

会場の緊張感をほぐすように、手をつなぎ、笑顔で登場したシェフたち。

左からプロデューサー本田直之氏、『天寿し』天野功氏、『鳥しき』池川義輝氏、『肉料理かなえ』北口圭奈笑氏、『TACUBO』の田窪大祐氏、『Blanc』の佐藤伸一氏、『肉料理かなえ』北口亮佑氏、ドリンクディレクター大越基裕氏。

「九州中のドンペリニョンを集めた」という言葉通り、乾杯のシャンパンはおかわりができるほどふんだんに用意された。

ドリームダスク アンコールすべての料理が記憶に残る、奇跡のようなコース。

ひとり2〜3品の料理を作るコース。

寿司と焼き鳥と肉料理とフランス料理とイタリア料理。しかもそれぞれが強い個性で美食界を牽引してきた名店ですから、果たしてコースとして成立するのか、という疑問も浮かびます。

しかし心配は杞憂でした。シェフ同士が事前に何度も打ち合わせし、コースを綿密に練り上げる。それぞれが自身のベストを尽くしつつ、コースとしてのバランスも崩さないのは、全員が一流だからこそなし得たチームワークなのでしょう。

佐藤氏による前菜は、牡蠣のアイスクリーム仕立てにソローニュ産キャビアを贅沢に添えた逸品。続いては天寿しを代表するネタであるイカを小丼仕立てで。

「ホテル内で炭火が使えないことで、かえって鶏の新たな魅力を伝えられる」と気合を見せた池川氏は、2種類のタコスを考案しました。田窪氏渾身のボロネーゼは、本田氏が夏トリュフたっぷりとすりおろす演出も。北口氏のタン煮込みは、大振りなタンを目の前で捌くことで会場を湧かせました。

後に本田氏は振り返りました。

「ラグジュアリーが正装である時代は終わりました。いまのラグジュアリーとは、記憶に残る体験を心から楽しむこと」

ゲストもシェフたちも心から楽しみ、おいしければ“おいしい!”と大きなリアクションとともに伝える。それは型にはまり、決まったルールに則るこれまでのラグジュアリーとは一線を画す体験です。

さて続いてのメニューは握り寿司。

本田氏の合図で両開きの扉が開くと、そこには特設の板場が設けられ天野氏をはじめとした寿司職人の姿が並んでいます。そこに居た職人たちは『鮨よし田』『寿司つばさ』『鮨 唐島』、いずれも福岡でトップクラスに君臨する名店ばかり。これほどの猛者たちが一同に集まる、奇跡のような光景です。

しかし、ゲストたちは、またしても我が目を疑いました。

天野氏の隣に立つ、染の作務衣の人物。それは『四谷すし匠』で江戸前鮨に革命を起こし、ハワイ、そしてNYへと鮨の文化を伝える巨匠・中澤圭二氏その人でした。

天野氏と中澤氏。鮨の2大レジェンドが並び立つ光景にゲストはカメラを手に板場を囲みます。たしかに今日を逃せば二度と見ることができないかもしれない、まさに歴史的な瞬間。2日目のディナーには福岡の『 鮨近松』、東京の『鮨しゅんじ』も参加し、連日盛り上がりを見せました。

サプライズで湧いた会場の熱は、その後も冷めることはありません。田窪氏が得意の薪火でサーロインを焼き、池川氏は鶏の天むすで盛り上げ、北口氏の黒毛和牛の辣油和えそばで満足感も十分。

大越氏がセレクトしたドリンクも秀逸でした。それは一貫したベースラインを奏で続ける通奏低音のように、幅広い料理にそっと寄り添い、ひとつのコースという範囲に繋ぎ止める役割。目立ちすぎず、控えすぎずのセレクトは、料理を引き立てるペアリングの力を改めて感じさせました。

佐藤氏のアカシアの蜂蜜のアイスクリーム、そして田窪氏のフィナンシェで心地よい余韻とともに終わったこの日のコース。その味と演出は、ゲストの心に忘れ得ぬ記憶として刻まれたことでしょう。

『DREAM DUSK』、夢のような夕暮れ。その夢の時間は、いま幕をおろしました。

佐藤氏の一品目は牡蠣の旨みを凝縮した「Glace aux huîtres,Caviar imperial de Sologne.」

フランス仕込みの繊細かつエスプリのきいた料理が佐藤氏の真骨頂。得意の牡蠣料理を今日のためにアレンジした。

『天寿し』の「イカの小丼」。歯切れ良く、甘み豊かなイカをシンプルに味わう天野氏の真骨頂。

厨房ではその神業から学ぼうとする若き職人たちに囲まれる天野氏。このような交流が生まれるのも、食イベントの魅力。

『鳥しき』の「2 Tori Tacos」。炭火が使えない中で鳥の旨みを引き出す池川氏の技とアイデアが光る。

威勢のよい兄貴肌。池川氏の存在感が会場も厨房も賑やかに盛り上げた。

『TACUBO』の「ハタヤリン ボロネーゼ 夏トリュフ」。芳醇なトリュフがコクのあるボロネーゼと響き合う。

100人前以上のパスタを見事な手際で仕上げる田窪氏。味はもちろん、仕上げるタイミングにもシェフの技量が垣間見える。

『肉料理かなえ』の北口兄妹。にこやかな二人だが、心には肉にかける真摯な思いが潜む。

『肉料理かなえ』の「タン煮込み 季節のソース」。

天野氏と中澤氏の共演に、カメラを構えるゲスト。誰もが、この瞬間がいかに奇跡的なのかを理解していた。

生ける二人の伝説を前に、ひるむことのない次世代の寿司職人たちの姿も心強い。

大越氏のドリンクセレクトやサービスもこの日の大切な柱。ペアリングの持つ力を、改めて知らしめた。

ドリームダスク ファイナル惜しまれながらの閉幕と、見事なまでの有終の美。

一夜明けた翌日、『ザ・ルイガンズ』の野外スペースでスペシャルランチが開催されました。昨夜の晩餐が、和やかな中にも特別な体験を楽しむラグジュアリーな時間であったのに対し、このランチはまさにお祭り。晴れ渡る空の下、紙コップのドリンクと紙皿の料理を手に、思い思いのスタイルで食事を楽しみます。

ただひとつ、普通のお祭りと異なるのは、紙皿の上の料理が、名だたる名店、人気店の特別メニューだったこと。

ひときわ長い行列ができていたのは、東京『鳥しき』『鍈輝』、大阪『市松』『えんや』、福岡『ひょご鳥』六三四』の6名店が揃った『焼鳥達人の会』。ラーメン、餃子、ハンバーガー、ワイン、日本酒、クラフトビール。素晴らしいロケーションのもと、気軽に、楽しく美食をハシゴする最高の時間が続きました。

「福岡は、サン・セバスティアン以上の美食の町だと思っています。九州の最高の食材と腕の良い料理人が揃い、屋台の伝統からハシゴの文化もある。コンパクトシティに美食の要素が凝縮されているのです」

とプロデューサー本田直之氏は話します。

「当初“ありえない食のイベント”のテーマで立ち上がったDREAM DUSK。テーマは予約の取れない店ばかりを、ひとつのコースにすること。続けるうちに開場の一体感も高まり、想像以上のイベントになりました。僕はあらすじを作っただけ。この素晴らしい時間は、ゲストが作りあげたものだと思います」

それでも、これほど惜しまれながらも終わりを迎えるのは、日本の食文化に新たな可能性を提示するという責務を果たしたから。そして「記憶に残るうちに、夢のように終わるのが良い」という本田氏の願いから。

たしかに『DREAM DUSK』という夢の時間は、参加したゲストにも、そしておそらくシェフたちにも、忘れ得ぬ記憶となって刻まれたことでしょう。

翌日の福岡は、気持ちの良い晴天。ラフな姿のゲストやシェフたちが思い思いに楽しんだ。

ようやく炭火の前に戻った池川氏も、このリラックスムード。食の楽しさをゲストに伝えた。

入場制限のないランチはあっという間に大混雑。各料理の窓口の前には長蛇の列が伸びていた。
アウトドアランチは『HASHIGO: Restaurant Crawl  -人気店を一日で食べ歩く-』という名で拡大継続を予定。今後の展開にも期待したい。

アンコール、そして終幕。伝説的イベントのトリを飾るにふさわしい今回のシェフたち。

Text:NATSUKI SHIGIHARA

今、食すべき地方の才能。人生の岐路は、料理人を強くする。

2023年、「Destination Restaurant of the year」を受賞した福島県いわき市の「HAGI」。オープンキッチンの店内では、料理の温度や香りも楽しめる。「強く見えるけれど、優しい火」と萩氏。(公式HPより一部抜粋)

ディスティネーションレストラン日本人が選ぶ、世界の人々のための、日本のレストランリスト。

まず始めに、これを読んでいただいている方にお伺いしたいことがあります。

世界中に多くのレストランアワードがありますが、何を参考にしていますか?

老舗のものから流行のもの、料理ジャンルに特化したもの、昨今ではサスティナブルな視点のものまで様々です。ワインや日本酒、焼酎など、ドリンク専門のものも少なくありません。

「ONESTORY」においては、2016年の創業より「DINING OUT」という表現を通し、そういったものに左右されない独自の思想を大切にし、地域と向き合い続けています。それは、2017年から展開したメディアにおいても同様です。

そんな中、共感を持つアワードに出合いました。「Destination Restaurants」です。「The Japan Times」が運営するそれは、日本発信のレストランセレクション。もう少し噛み砕くと、「日本人が選ぶ、世界の人々のための、日本のレストランリスト」です。選考者は3名。学校法人辻料理学館理事長兼辻調グループ代表の辻 芳樹氏、レバレッジコンサルティング代表CEOの本田直之氏、アクセス・オール・エリア代表の浜田岳文氏です。本田氏と浜田氏は、この肩書きよりも、国内外を巡るフーディーと伝える方が納得かもしれません。本田氏は、毎日のように屋台、B級からレストランまでの食を極め、自らシェフイベント「Dream Dusk」なども主催。浜田氏は、約120カ国・地域を踏破し、「OAD Top Restaurants」レビュアーランキング5年連続世界一。本業ではないその活動は、「好き」が昂じたものだったのかもしれませんが、今となっては「使命」すら感じるのは自分だけでしょうか。

そんな「Destination Restaurants」は、今年で3回目を迎えます。2021年に発足するも、世界中がコロナ禍に。2022年に2021年度と合同の受賞式が初開催でき、本当の意味で産声を上げました。2023年の模様をお伝えする前に、まず、2021年、2022年を少し振り返りたいと思います。

2023年「Destination Restaurants」の受賞者(後列)と、(前列左より)主催者の「The Japan Times」代表取締役会長兼社長の末松弥奈子さん、選考者のアクセス・オール・エリア代表の浜田岳文氏、学校法人辻 料理学館理事長兼辻 調グループ代表の辻 芳樹氏、レバレッジコンサルティング代表CEOの本田直之氏。

ディスティネーションレストラン選考基準の先にある尊さ。それは、美味やホスピタリティを凌駕する、人生の物語。

「Destination Restaurants」の選考基準もご紹介したいと思います。まず、その対象は東京23区と政令指定都市を覗く日本にあるあらゆるレストランだということ。それをもとに、「日本の風土の実像は都市よりも地方にある」、「地方で埋もれがちな才能の発掘を目指す」、「既存のレストランセレクションとの差別化を図る」という3つの点を重視し、毎年10店のレストランが選出されます。

2021年には、富山県南砺市の「L’evo」。2022年には、和歌山県岩出市の「villa aida」が各年の「Destination Restaurants of the year」を受賞しました。

「ONESTORY」においても両レストランとの親交は深く、「villa aida」のシェフ・小林寛司氏においては「DINING OUT HIEIZAN」の記憶も新しいです。そのほかも親和性の高いレストランが多く受賞されています。

2021年「Destination Restaurants」の詳細はこちら
2022年「Destination Restaurants」の詳細はこちら
2023年「Destination Restaurants」の詳細はこちら


「L’evo」と「villa aida」は、地方を極めた好例と言って良いでしょう。スタイルも風土も異なる独自の2店に共通することは、レストランだけではないこと。

「L’evo」は、ホテルも併設。これを両輪できるレストランは日本全国を探しても稀有。本田氏も「どんなに良いレストランがあっても、宿やホテルがない地域が多い」とコメントを残しています。容易ではありませんが、両立を成せれば、辺境の地ですら旅先として成立できることを証明しました。

このアワードの通り、レストランを目的地にする旅は近年では珍しくはありません。ただ、旅はレストランだけで完結しません。レストランで過ごす前後の時間も含め、旅の質は決まります。

一方「villa aida」は、自身で畑も耕し、一次産業も担う農から始まるレストラン。

2店を価値化しているのは、レストランの「中」の時間だけではなく、レストランの「外」の時間。つまり、営業時間外。受賞式では、辻氏、本田氏、浜田氏のトークイベントも開催され、この話題の中心となるのも、外の時間のように感じます。

生産者との関係構築、地元の食材を活かしているだけに留まらない風土の理解度、IターンやUターン、家業ゆえの苦悩……。受賞店のほとんどが、5年、10年、20年かけて、今のスタイルにたどり着いています。

例えば、2023年受賞の沖縄本島から離れた古宇利島の「レストラン6(シス)」のシェフ・小杉浩之氏は、流通や食材の難しさを語ります。
「沖縄といえば、一年を通してすごい夏かちょっと夏(苦笑)。塩害も多く、食材が限られています」。

小杉氏は、名古屋の名店「イレテテュヌフ」から移転。全く異なる環境で再スタートを切る形となりました。「以前の環境は、市場に行けば食材が豊富で、それを見てメニューを決めていました。ある意味、食材に逃げていた。ですが、今の環境は食材が極めて限られています。食材から逃げることができない」。

選択肢の少ない環境は、技術向上はもちろん、強い精神力も備わったのではないでしょうか。

また、同年に受賞した新潟県新発田市の「登喜和鮨」の職人・小林宏輔氏は、東京で修行を積んだ後、家業を継いだ3代目。

「戻って来た当初、漁師さんから直接魚を仕入れようと思い、色々な漁港を回ったのですが、口も聞いてもらえませんでした。それからは、気になる船を見つけては会いに行っての繰り返し。少しずつ信頼を積み重ね、今では良好な関係を築けています」。本人は笑い話のように振り返るも、その苦労は計り知れない。帰郷後16年目の言葉は重く深い。

視点を変え、2021年に受賞した東京都調布市の「ドン・ブラボー」もまた、このアワードらしさが出ていると思います。調布という絶妙!?な地域は、地方に行くよりも足が遠のく微妙!?な距離感も孕み、「地方で埋もれがちな才能の発掘を目指す」指針の着眼そのものではないでしょうか。

美味しい料理やホスピタリティ、気の利いたサービスも重要ですが、「Destination Restaurants」は、それよりも、人間としての深さを感じるレストランが受賞されているのではないでしょうか。

その一番を物語っているのが、2023年「Destination Restaurant of the year」を受賞した福島県いわき市の「HAGI」です。

2021年「Destination Restaurant of the year」を受賞した富山県南砺市の「L’evo」。「ONESTORY」においても2017年に取材。当時、「奇抜なテクニックを駆使しているわけでも、世界の高級食材を使用しているわけでもありません。ただ富山に寄り添い、食材のあるべき姿の料理に仕立てる。そこでしか食べられない料理とはつまり、土地の恵みを最大限に生かした料理のことなのです」とシェフの谷口英司氏は語る。

2022年「Destination Restaurant of the year」を受賞した和歌山県岩出市の「villa aida」。「ONESTORY」においても2017年に取材。2022年には「DINING OUT HIEIZAN」のシェフも務める。

今回、普段では聞くことのできない苦悩の一部を話してくれた2023年受賞店「登喜和鮨」と「レストラン 6(シス)」。2021年受賞店の「ドン・ブラボー」の立地は、シェフの平 雅一氏が生まれ育った町であり、料理人だった父親の店の跡。全てに理由はあるのだ。

「ONESTORY」では、2021年の受賞10店中、「L’evo」、「Restaurant UOZEN」、「レストラン エタデスプリ」、「とうの屋 要」、「ペシコ」、「すし処 めくみ」、「日本料理 高村」、「片折」の8店を過去に取材。親和性の高さが伺える。

2022年の受賞店「ラトリエ ドゥ ノト」は「ONESTORY」でも過去に取材。シェフの池端隼也氏は、「DINING OUT WAJIMA」の協力者でもある。また、「里山十帖」を率いる岩佐十良氏は、2023年に「新潟ガストロノミーアワード」も発足。両店は、先ごろコラボイベントも開催し、県を超えたつながりも強固に。

2023年受賞店「カーサ デル チーボ」は「ONESTORY」でも過去に取材。青森県八戸市の住宅街に潜むそこは、知る人ぞ知る名店。料理の実力もさることながら、シェフの池見良平氏は、「地元の食材への信頼、地元への誇り」を持ち続ける。

ディスティネーションレストランだから白衣にこだわる。この喜びは、一緒に泣き続けた生産者に届けたい。

「HAGI」のある福島県は、言わずもがなコロナ禍以前より、難局の連続でした。

2011年3月11日には未曾有の大地震、津波、その後、2012年には原発事故による放射能問題。その後、数年をかけて除染されたとはいえ、世間のイメージを払拭するのは難しかったでしょう。

シェフの萩 春朋氏の受賞スピーチはこんな言葉から始まりました。

「福島県は、海も山もある箱庭のような美しい町です。ですが、3.11以降、全てが変わってしまいました。限界都市や消滅都市と呼ばれる地域のように、私たちの目の前にあったものは、一瞬にして蒸発してしまいました。そこで料理を続けて良いのか、悪いのか、本当に悩みました。ですが、ここで私たち料理人や生産者が歩みを止めてしまっては、福島の食文化がなくなってしまう、残さなければいけない、そう思いました。だから、継いできました」。

あれから、12年。萩氏は生産者たちと「50年分を10年でやった」と話すそうです。

「今は目の前に美味しい食材がある。それを料理できる喜びを感じています」と言葉を続け、ここで初めて萩氏は笑みを浮かべたのが印象的でした。

2011年の震災時、復興に参加したシェフは全員東京の方だったそうです。それはなぜか。

「福島にシェフがいなかったからです」。

以降、萩氏は、「福島にシェフがいる」ことを伝えるかのように、表舞台に出る際は必ず白衣を着ると言います。今回においても、他のシェフはスーツの中、白衣で参加していたのは萩氏ひとり。

「地元にもシェフがいる。地方にもシェフがいる。田舎にもシェフがいる。それをひとりでも多くの人に認知してもらえたら嬉しいです。今、料理を目指している人たちは、世界や東京で修行を積むシェフが多いと思います。ですが、最後には地元に戻ってレストランを営む。そんな文化が根付いてくれたら、日本のレストランはもっと良くなると思います」。

計り知れない逆境を乗り越え、己を鼓舞し、諦めなかった12年の時間が込められたスピーチは約4分。この短い時間の中に凝縮されたメッセージは、胸に熱く突き刺さった。

最後に、この喜びを誰と分かち合いたいかという問いに対し、萩氏は「生産者の方です」と答えました。長く苦しい、先の見えない暗いトンネル。途方にくれ、一緒に涙を流し続けた同志です。

「ある日、生産者の方が赤い服を着て、畑仕事を再開したんです。俺は畑の太陽になるんだ! そう言いながら、毎日、毎日、汗を流している姿に胸が熱くなりました」。前出、萩氏にとっての白衣のごとく、この赤い作業着もまた、生産者の強い想いが込められているのだと思います。

「生産者の方々には、感謝してもしきれない」と話す萩氏の料理は、食材を育てる肥料などの成分も理解した上で、その味を壊さず、引き出すもの。お客様はもちろん、生産者も幸せにしたい」と言葉を噛み締めます。

「福島には本当に良い食材が集まっている。今の福島は元気です。自分も料理の力でこの町に貢献したいと思っています」。

鮮度にこだわる「HAGI」の料理。鮮度とは命の時間を表す。「鮮度と命は巻き戻しが効かないため、だからこそそれに出会っていただきたい」。(公式HPより一部抜粋)

「HAGI」の料理たち。「時間をおくことによって生まれる旨味は土によって補います。 何か月も土の中の旨味であるミネラルを吸って育った野菜たち。 それでも不足する旨味があり、そこは薪によって補います。 薪は素材の水分を奪わない性質があります。また、焦げることもありません」。(公式HPより一部抜粋)

「自然と生きる生産者の食材は、いつも一定とは限りません。いい時もそうでない時も生産者とともに、日々の食材と向き合い、寄り添う中で料理をしていきたい」と「HAGI」の萩氏。(公式HPより一部抜粋)

ディスティネーションレストラン日本のレストランが向かう、次なるステージ。しかし、何があろうとも、かけた「時間」は裏切らない。

「先日、海外のフーディーたちとの集いがスペインのマドリードであったのですが、世界中を食べ歩いている人が一番行きたい国はどこか、それは日本です。そして、世界で活躍しているシェフが一番行きたい国はどこか、それも日本です。これは間違いありません」。世界と目線を合わせた際、浜田氏は、こう話します。実体験ゆえ、説得力も絶大。さらには日本に対するレストランの印象も変わってきていると言葉を続けます。

「例えば、以前であれば、日本に来たら、和食、鮨という印象がありましたが、今は違います。日本の食材で日本人が作る料理に注目が集まっています。つまり、日本食だけではない日本のレストラン。例えば、京都「ノーマ」のポップアップ(2023年3月15日〜5月20日)のために世界中のフーディーが旅をするわけですが、その後どこに行くかと聞けば、和歌山の「villa aida」という答えが返ってくるわけです。日本のレストランは次のステージに向かっている」。

一方、本田氏は、地方でレストランを営むシェフ像について持論を話します。

「料理がライフスタイルになり、それが憧れになるような存在になると、もっと地方でレストランをやりたいというシェフも増えるのではないでしょうか。純粋に格好良いなって思えるヒーローみたいな。ただ、日々営業もしていますし、中々、外の世界を知ることも難しい。そんな苦労もあると思います。ですので、今回のような場を通して、シェフ同士につながっていただき、共有の場にもなってもらえればと思っています」。冒頭、本田氏は、経営者でもあり、フーディーでもありますが、あえてもうひとつ加えるならば、人と人をつなぐ専門家でもあるのではないでしょうか。

共有というワードにおいては、浜田氏も追います。「その昔、サンセバスチャンでは、町として楽しめるようにレストランが集い、協力し、レシピなども開示し、共有し、シェフたちが切磋琢磨ていたそうです。レストラン1店だけでは、一般的な人たちの旅として成立させるには難しい。同じ地域に数店を回遊できたりすると、ゲストの満足度はもちろん、経済としても好転するのではないでしょうか。日帰りが1泊になり、さらに2泊になる。そういう意味では、やはり宿泊施設も大切。レストランだけでなく、地域全体で観光促進のビジョンを共有し、協力し合うことで盛り上がっていくことを願いたいです」。

「Destination Restaurants」に選ばれたレストランは、そのきかっけや起点になる可能性を秘めているのかもしれません。

辻氏においては、社会や雇用についての課題とこれからについて話します。

「一番思うことは、女性の雇用を増やしたいと考えています。また、今後、規制を緩和させ、海外の誘致者の雇用も視野に共創させたい。そうすれば、もっと才能を増やせ、もっと日本の食文化は上がる。そのための努力もしていきたいです」。

星をつけるわけでもない、ランキングするわけでもない、投票するわけではない。それが「Destination Restaurants」。選考者が、たった3名ということも、アワードの志を明確にさせ、それを個性としているのかもしれません。

また、東京や都市を経由せず、地方からダイレクトで海外へ発信できることもこのアワードの大きな魅力。「The Japan Times」主催の意義は、そこにあると考えます。

とはいえ、全てにおいて時間がかかることは、地方と向き合う絶対条件。しかし、「この時間こそが武器となる」と、2023年の受賞式にも参列していた「L’evo」のシェフ・谷口氏は言います。

「やっぱり、地方でレストランをやることは、大変なことだらけ。でも、それを一つひとつ解決していけば、きっと武器になる。かけた時間は裏切らない。きっとそれは価値になる。だから、例えどんなレストランやシェフが進出してきても怖くないです」。

どんなにテクノジーが発達しようとも、かけた時間を一足飛びに追い抜くことはできない。それが地方で生きるレストランなのです。人生の岐路を繰り返してきた料理人たちは、常に自身と向き合い、挑戦し、時に恐怖に怯え、不安や苦悩に押しつぶされそうになっても、強い意志を持って選択を繰り返し、戦ってきたのです。

味は技術にあり、感動は人にあり。

現在、「Destination Restaurants」は30店。「日本の食文化の地形を作っていく」辻氏、本田氏、浜田氏の旅は終わらない。

「東京と比べ、地方のレストランの方が生き生きしている」と浜田氏。「日本の地方には良いレストランが本当に増えました。まだまだ行かなければいけないお店がたくさんある」と本田氏。「6次産業化したガストロノミーの時代」と辻氏。「まだ始まったばかり、100店まで続けたい」と3名。

Text:YUICHI KURAMOCHI

健康食材としても注目される、北海の幸「がごめ昆布」をふんだんに。[和光アネックス/東京都中央区]

これ1本で味が決まる、簡単便利な調味料の代表格である白だしを、こだわりの食材で作り上げました。

WAKO ANNEX素材を活かした料理に幅広く活躍。希少な昆布の魅力にフォーカス。

北海道の函館近海から室蘭市沿岸でのみ生育し、生産量が非常に少ない貴重な「がごめ昆布」。籠の目ような凹凸模様のルックスや、高級な真昆布に混じって採れることからやっかい者扱いされた歴史を経て、強い粘り、とろみの中に栄養成分が豊富に含まれていることが分かった近年は、健康、美容によい食材として世界的に注目されるようになりました。

そんながごめ昆布の健康食材としてのポテンシャルに着目した『医食同源』が手がける『がごめ昆布の白だしつゆ』は、がごめ昆布やかつおから丁寧に出汁をひきつくられた万能調味料。白だしならではの上品な色と、まろやかな味わいが素材本来の味わいを引き立てます。

煮物、鍋物のつゆとしてはもちろん、食材本来の色を活かしたいふろふき大根やおでん、茶碗蒸しなどにもお勧めです。薄めて麺のつけつゆやめんつゆにしたり、浅漬けに利用したり、もちろんそのまま冷奴などにかけてもおいしくいただけます。

毎日の料理のお供に香り高い白だしを選んでみてはいかがでしょうか。

つゆのうま味をダイレクトに味わうなら直がけで。和食だけでなく洋食などにも合う、守備範囲の広さも魅力です。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

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宮城の特産品「ミヤギシロメ」を主役に、滋味に富んだプレミアムなスープ。[和光アネックス/東京都中央区]

たくさんの食材を効率よく手軽に摂取できるのはスープだからこそ。

WAKO ANNEX大粒大豆と30種以上の野菜が織りなす、奥行きのある1杯。

できるだけ多くの野菜を手軽に、効率よく。そんな思いから誕生した『Maazel Maazel』オリジナルの食べるスープスムージー。

全ての商品のベースとなるのは、国産野菜34種類と米こうじをブレンドしたオリジナルのMM.ペースト。100種類以上含まれる米こうじの酵素は熱に強く、スープで手軽に摂ることができます。

今回ご紹介する『ふっくらミヤギシロメ大豆と黒ごま豆乳スープ』は、宮城県の特産品を贅沢に使用したプレミアムなひと品。大粒の中にうま味の凝縮した食べ応えある大豆に、香ばしい黒ごまとなめらかな豆乳が調和した、奥行きのある味わいです。

主役は、宮城県のみの優良品種である大豆「ミヤギシロメ」。胚芽が白い白目大豆で、豆が非常に甘いのが特徴で、国産大豆の中でもワンランク上と称されています。

調味料(アミノ酸)・増粘剤不使用。普段の食卓に彩りや特別感を与えてくれる贅沢なスープを、自身や大切な人の健康を願い、食卓やギフトに選んでみませんか?

ふっくらとした大豆の満足感に加え、黒ごまのセサミンや豆乳のサポニンといった健康効果も魅力。

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栽培、製法に妥協なし。老舗農園によるあんず尽くしのワイン。[和光アネックス/東京都中央区]

歴史ある農園がじっくりと手がけるあんずワイン。酵母にまであんずを使用し、まさにあんずの魅力を凝縮した1本です。

WAKO ANNEXあんずの魅力を再発見。フルーティーな香りと酸味が広がる。

安心安全への理念を礎に創業50余年、自社農園での徹底した低農薬栽培にこだわる『横島あんず農園』のあんずを100%使い、丹精込めて作られたワイン。ふっくら引き締まった色艶のよい実を厳選し、さらに自家製の「あんず酵母」で醸した珍しい逸品です。

あんずは美と健康のフルーツと称され、年間生産量1位の長野県では古くから盛んに栽培されてきました。特に『横島あんず農園』のある森地区は年間降水量が少ない地域として知られ、千曲川東岸の山塊のひとつ、五里ヶ峯より流れる沢山川から運ばれた砂や礫などが堆積した土壌です。この気候風土が、乾燥した気候を好むあんずを育みます。

丁寧に醸されたワインをグラスに注げばゴールド色の輝きが美しく、口に含めばあんずの程よい酸味と爽やかな香りの調和をお楽しみいただけます。冷やすことでスッキリとキレ良く、常温では滑らかな口当たりと、さまざまな味わいが楽しめる奥深さもまた、このワインの魅力。氷や炭酸で割ってアレンジするのもおすすめです。

華やかな印象のためお祝いの乾杯の席や食前酒にもぴったり、内祝の記念のお品にも喜ばれる珠玉の1本、ぜひご賞味ください。

あんず本来の果実味はしっかり、それでいて爽やかな味わい。アルコール度数10度以上11度未満で、さらりと飲みやすい。

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豊かな地下水で育む「清流長良川の鮎」、その長所を余すことなく閉じ込めたしぐれ煮。[和光アネックス/東京都中央区]

知る人ぞ知る本格鮎会席の専門店。その料理からヒントを得て生まれたオリジナル商品もまた、絶妙に鮎の長所を引き立てています。

WAKO ANNEX香り高い落ち鮎を、できたてのようなおいしさで。

鮎料理の専門店として旬の時期のみ開店する『鮎料理専門店 十六兆』が、水都・岐阜県大垣の地下水で育て上げる、世界農業遺産「清流長良川の鮎」。

歴史ある生簀では川の流れに逆らって泳ぐ鮎の性質を再現するための環境、設備にこだわり、自然環境に近い水の流れを再現。十分に運動し、生簀に自生する藻などを食べて育った鮎は、引き締まった身となり、香魚の名にふさわしい豊かな香りを楽しめます。

こうして育った鮎は『十六兆』での料理にのみ使われ、市場に出回ることのない幻の品ですが、例外として広くその味を世に知らしめることを許されたのが、今回ご紹介する『子持ち鮎しぐれ』です。

加工は全て手作業で行い、できたてのような味わいを追求。厳選した落ち鮎を炭火で素焼きし、骨や尻尾を外し身と卵だけを丁寧に取り出します。その後じっくりと炊き上げることで、鮎の風味を損なわず自然な味わいに仕上げます。口に含めば、卵とエゴマのぷちぷちとした食感、食べ終わりは柚子の爽やかな香りが鼻に抜けていきます。

少し贅沢な朝食やお弁当のおかずとしてはもちろん、豆腐にのせたり、山葵と和えて大葉に包んだり、リッチな酒のアテとしても。和食、洋食とアレンジ自在の万能調味料として、新たな鮎のおいしさを発見してみては。

産卵前のいわゆる「落ち鮎」を使用。鮎本来の風味に加えプチプチとした食感も楽しい。季節のおいしさを贅沢に。

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生きた土づくりの賜物、さくらんぼ。貴重で希少な三大品種を贅沢に。[和光アネックス/東京都中央区]

3種の希少品種を一度に楽しめるのは、さくらんぼを専門とする農園が手がけるからこそ。佇まいも愛らしく、ギフトにも好適です。

WAKO ANNEX個性の異なるさくらんぼを、ジャムで気軽に味くらべ。

豊かな山々、森林が広がる道北・芦別市にて、化学肥料を使わず、堆肥と有機肥料のみを使用した栽培法を40年以上続ける『大橋さくらんぼ園』。全国果樹コンクールにおいて北海道初の農林水産大臣賞を受賞した実力派農園では、安心安全を追求し、生きた土づくりから栽培される珠玉のさくらんぼは、約60品種にものぼります。

中でも、高級さくらんぼとして知られる佐藤錦よりさらに貴重で希少な三大品種をジャムにした『さくらんぼジャム3個セット』は、さくらんぼ好きにはもちろん、ギフトにもぴったりなお品。王様と称されるピンク色の大玉「南陽」、艶やかなゴールド色の女王「月山錦」、日本一の大玉であり独特な酸味を持つ「サミット」。これらのさくらんぼを、収穫してすぐに果肉まるごとじっくり時間をかけて煮詰めました。

食品添加物は一切使わず、品種による味わいの違いを決定づける風味を損なわないよう、ゴロっとした食感もまた贅沢です。「南陽」のジャムは2014年国際線ファーストクラスのラウンジ、機内食でも提供されるなど、国内のみならず世界も認めた味わいです。

トーストはもちろん、無糖ヨーグルトに入れたり、紅茶に浮かべたりとアレンジ多彩。さまざまな楽しみ方で、さくらんぼの味くらべをご堪能ください。

繊細なさくらんぼの風味を損なわないよう食感を残して加工。まずはシンプルにパンと組み合わせ、贅沢な味わいを存分に楽しんで。

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先進技術と独自のノウハウで、獲れたての鮮度とおいしさを閉じ込めた炊き込みご飯。[和光アネックス/東京都中央区]

肉厚、大粒のホタテは抜群の存在感。世界に誇れる自然環境の南三陸町で育まれた自然の恵みを、存分に味わえます。

WAKO ANNEX豊かな漁場が育んだ旬の味をシンプルな味付けで。

最高の素材、鮮度、おいしさをそのままに、調味料、添加物不使用で作る『炊き込み御飯の素 帆立』は、地元の素材を活かした製品づくりを一貫して行い、先進的な研究開発でも注目される宮城県南三陸町の企業『丸荒』によるものです。

何といっても、主役は大粒のホタテ!プランクトンの豊富な三陸の漁場で、天然稚貝から垂下養殖にて3年もの間育成されたホタテは、大きく肉厚な身と強い甘味が特徴です。

おいしさがピークに達する旬の時期に水揚げし、次世代の凍結技術と称される「プロトン急速凍結」により-38℃で急速凍結することで、細胞を壊さずに無添加で閉じ込めます。そうしてうま味を凝縮した良質なホタテを、独自の高温・高圧スチーム技術によってふっくら、やわらかく仕上げました。ごぼうや人参、こんにゃくといった素材とともに、絶妙に火を入れることで、炊き込んでも形が美しく残るところも魅力です。

ご家庭で、お米に加えて炊き込むだけ。素材の味を生かしたシンプルな味付けは、子どもからお年寄りまで安心して食べられます。まるごとおいしくお召し上がりください。

先進技術を果敢に取り入れ、進化を続ける『丸荒』だからこそ実現可能な味わいがここに。

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お茶のように飲む“だし”。新発売「Dashi-Cha」を監修した料理人・長谷川在佑氏の思い。[Dashi-Cha]

「Dashi-Cha」を味わう外苑前『傳』の長谷川在佑シェフ。

オンとオフ、それぞれの時間に寄り添う「Dashi-Cha」。

このほど、新たに発売された「Dashi-Cha」をご存知でしょうか?

日本人にとってなじみの深いだしの文化を再解釈し、ドリップして楽しむ新しいジャンルの飲み物として誕生した「Dashi-Cha」。それは文字通り“お茶のように楽しむだし”です。

この「Dashi-Cha」の監修をつとめたのが、『DINING OUT』でもおなじみの長谷川在佑シェフです。長谷川氏の店、外苑前『傅』は、数々の栄誉に輝く日本を代表するレストラン。そんな名店を率い、日々だしと向き合う長谷川氏が2年以上にわたり何度も試作を繰り返しては調整し、ようやく完成した逸品です

長谷川氏は、どのような思いで「Dashi-Cha」を監修し、そして完成した「Dashi-Cha」をどのように見つめるのでしょうか?

その心の内を知るため、仕事と向き合うオンタイム、プライベートなオフタイムそれぞれの長谷川氏に話を伺いました。

想いはいつも「お客様のこと」。料理、サービス、雰囲気づくり、すべてに心を配るオンタイムの長谷川氏。

忙しい日々のなかでも「釣りで疲れることはない。むしろ来ないと疲れちゃう」と笑う長谷川氏。

ほっと染みる味わいが、一日の始まりという起点をつくり出す。

「“おいしさ”って不思議な感覚で、リラックスしていたり、愉しんでいたりすると、より感じやすいもの」

仕事場に立つ長谷川さんは、そう話しました。

そしてそのために店の雰囲気づくりを何よりも大切にしているのです。しかしそれは言葉でいうほど簡単ではなく、もしかすると料理の味以上に確たる正解のないものかもしれません。

「どういう方と、どういうシーンで、どういう気持ちでいらっしゃるか想像して、そこに一番ふさわしいサービスを心がけるのです」

と長谷川氏。つまり店づくりの基本は、相手を思う気持ち。だから厨房に立つとき以外も長谷川氏の頭の中には、お客様に関することであふれています。24時間365日、常に料理のこと、お客様のこと。カレンダーの“1日”という区切りが意味をなさぬほど、エンドレスに時間が連続するのです。

そんな長谷川氏にとって「Dashi-Cha」の魅力は、「自分で引いたものではないだしを味わうことで、自分の時間を取り戻せる」という点にありました。

まだ街も目覚めきらないある朝。

『傳』の店舗前にあるテラスで「Dashi-Cha」を味わう長谷川氏。

「クリアな味で、香り豊か。でもどこか優しく、ほっと心に染みる。このDashi-Chaを味わうことで連続する時間に区切りをつけ、1日の始まりという起点を自分でつくれる気がします」。

それは、誰かが心を込めてつくった「Dashi-Cha」の味が、常に「誰かのため」を考え続ける長谷川さんの想いと重なり、ふと自分自身を見つめる機会となるからなのでしょう。

日本各地の産地を訪ね歩くなど、食材へのこだわりも強い長谷川氏。今回監修した「Dashi-Cha」もとことん素材にこだわり抜いた。

早朝のテラス席で「Dashi-Cha」を味わう長谷川氏。一日のスタートに心が整う感覚だという。

心をほぐすおいしさが、仲間との心の距離をいっそう縮める。

子供の頃から続けている長谷川氏の趣味は、釣り。休みの日や、店のオープン前の早朝、長谷川氏はしばしば釣りに出かけます。

日々、料理のこと、お客様のことばかりを考えている長谷川氏にとって、釣りは日常を離れる時間なのでしょうか?

実はそればかりではありません。

長谷川さんは言います。

「変な言い方ですが、魚とお客様って似ているところがあるんです。バス釣りはラッキーで釣れることはまずありません。気温や季節や天気を見て、今日はバスがどのへんにいて、何を食べたいかを予想する。そしてその場所に的確なルアーを投げる。相手が求めるものを予測して、自身の技術でそこに合わせる。レストランのお客様と共通点がある気がしませんか?」。

つまり長谷川氏にとって、釣りはリラックスする時間であるのと同時に、まだ見ぬお客様の心を読み、的確に応えるための練習でもあるのです。

ある冬の日。

まだ夜明け前の千葉県のとある河川敷に、カヌーを準備する長谷川氏の姿がありました。今日は気の合う釣り仲間たちとともにバス釣りです。

カヌーの出航準備を整え、ロッドとルアーを揃えたら、仲間とともに作戦会議。

「夜明け前は冷えていたけど、日が上がって気温が上がってきた。このまま水温が上がるなら狙う場所は……」。

真剣な会話ですが、長谷川氏と仲間たちの顔はにこやか。

「軸は仕事にありますが、やっぱり愉しいからリラックスはできます。そうしてふっと抜けた状態だからこその閃きがあったりもするんですよ」。

皆で囲むテーブルの上に並ぶのは「Dashi-Cha」。

「体を温めるというのはもちろん、Dashi-Chaの香りが気持ちまで温める気がします。場をほぐしてなごやかな会話を生み出してくれる」
そう言ってお気に入りのマグカップを傾ける長谷川氏。気心知れた仲間たちとの距離をいっそう近づけるような効能を、「Dashi-Cha」に見出したようでした。

「釣りは、本当の自分を取り戻し、ふっと気持ちを落ち着かせる時間。Dashi-Chaも僕にとって同じような効果を感じています。だから釣りのときに愉しむDashi-Chaは、いっそう染みるのでしょうね」

出航前のリラックスタイム。自身が監修した「Dashi-Cha」を仲間たちに振る舞う長谷川氏。

穏やかなおいしさの「Dashi-Cha」が、自然の中でも存在感を発揮した。

冷え込む朝の時間、「Dashi-Cha」の温かさがいっそう染み渡る。

優しく深いおいしさは、大切な人への贈り物にも。

自身が監修した「Dashi-Cha」をオン、オフ、それぞれのシーンで楽しんだ長谷川氏。そしてこの「Dashi-Cha」こそ「いまの時代に必要なもの」と言いました。

「面倒なもの、難しいもの、高尚なもの。そんなイメージで、だしへのハードルが高くなり過ぎた現代。しかしやはりだしは日本人にとって縁深いもの。だしの味や香りを感じると、ほっと心安らぐ気分を感じますよね? だから毎日の中でそんな安らぎの時間をつくるため、そして日常の中にだしを取り戻すためにDashi-Chaの存在はとても役立つと思います。ストレスの多い時代だからこそ、この優しさが染みるんですね」

と長谷川氏。シーンを選ばずに利用できるのも大きな魅力だと語りました。さらに大切な人への贈り物にも最適だとも。

「贈り物を選ぶときって、自分自身が大好きなものを選んで、相手が喜ぶ姿を想像する楽しさがありますよね。この日本人にとって親しみ深いだしを通して日本のことを伝え、さらにリラックスできる時間を贈るという意味で、外国の友人への贈り物にぴったりだと思います。あとは、産前産後の方へ。飲めるものが限られている時期ですし、疲れもたまりやすい時期でもあります。そんな方に、心を込めて贈ってみたらきっと喜ばれるんじゃないかな」

という長谷川氏。

日常の中に取り入れ、大切な人へと贈る。この「Dashi-Cha」がやがて、老若男女が楽しむスタンダードな飲料となる日も近いのかもしれません。

「スタイリッシュなパッケージも贈り物にぴったりですね」と長谷川氏。

意見を交換しながら何度も試作を繰り返した「Dashi-Cha」開発チームとともに。


Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SIGIHARA
(Supported by 味の素株式会社)

古きを温ねて、新しきを知る。江戸から東京への進化を辿る美食の会。

左から、江戸蕎麦御三家『砂場 赤坂店』にて、江戸前蕎麦の技術を体得し、西麻布の地にて蕎麦の発展を目指す『おそばの甲賀』、甲賀 宏氏。2011年から13年連続でミシュランの星を獲得し続ける『天ぷら元吉』の元吉和仁氏。2022年「アジアのベストレストラン50」で1位を獲得した『傳』の長谷川在佑氏。29歳の若さで『鮨 銀座おのでら』のハワイ店の責任者を務め、独立後も瞬く間にミシュランの星を獲得した『鮨まつうら』の松浦 修氏。鰻の美味しさだけでなく、資源問題に向き合った鰻料理の未来を模索する『はし本』の橋本正平氏。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner 日本料理界を代表する5人。「江戸前」の最前線。

今から400年前の江戸時代。活気のある城下町には、暖簾を掲げた大勢の屋台が並び、気軽につまめる庶民の料理が大流行。日本が世界に誇る食文化「江戸前」が誕生しました。

そして、移り変わる時代の中、数多の料理人が研鑽を重ねて幾星霜ーー。師から弟子へ伝統が受け継がれ、刷新と革新が繰り返され、かつて庶民の食として愛された江戸前料理は、世界が注目する食文化として進化を遂げました。江戸前において四天王と呼ばれた、寿司、天ぷら、蕎麦、鰻は、さらなる美味しさと料理人の想いが込められ、令和の時代でも多くの人々を魅了しています。

2023年、都内某所で開催された「江戸前進化論」は、そんな江戸前料理の最前線を5人のシェフが披露します。脈々と続く伝統を受け継いだ江戸前の担い手たちが、400年前の食文化に想いを馳せながら、自身が考える至高の江戸前料理を表現。まさに古きを温ねて、新しきを知る。江戸から東京への進化を辿る美食の会が始まります。

まず料理を振る舞ったのは、日本料理店『傳』の長谷川在佑氏。店の名物でもある「傳最中」がテーブルに供されます。

「香ばしく焼いた最中種に、干し柿、フォワグラの味噌漬け、いぶりがっこを挟みこみました。干し柿は、砂糖が簡単には手に入らなかった時代の貴重な糖分。自然の食材だけで感じる贅沢な甘味と、当時の日本にはなかったフォワグラの味噌漬けのコンビネーションを楽しんでください」。

手の平にちょこんと乗るサイズの「傳最中」を口にしてみると、思わず仰け反るほどの濃厚な甘い風味が、口内を満たし鼻腔へと駆け抜けます。

イベント開始早々、長谷川氏の「傳最中」で会場は一気に熱を帯び、4人のシェフが次々に料理を振る舞い始めました。今を生きる日本料理界の旗手たちが考えた「粋」な江戸前料理とはーー。

『傳』の長谷川氏が、まず披露した「傳最中」。

「傳タッキー」は、手羽の中に紫蘇を混ぜ込んだおこわと青梅が詰めて揚げてある。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner魚の上質さを生かして、江戸前の仕事を施す。

白金で鮨屋を営む『鮨まつうら』の松浦 修氏が、江戸前料理として披露したのは4種の鮨とどんぶりです。そして、江戸時代に城下町を賑わせた屋台スタイルで鮨を供します。客は肩を並べながら、目の前で大将が握る鮨に目を奪われます。

「僕が考える江戸前鮨は、現代だから手に入る新鮮で上質な魚に、少しだけ手を加えてネタにします。魚本来の風味をのこしつつ、先人が考え出した知恵をそっと添えてあげる。進化した江戸前の美味を感じてください」。

松浦氏が付け台に差し出した、艶やかに光る小肌を口に入れます。なるほど、小肌の上質な脂感を感じつつ、口内の余韻をしめるのは酢の柔らかな酸味です。一つ一つの鮨が目をみはるほどの充実感で、現代の食材と江戸前の仕事が見事に融合した味わいでした。

『鮨まつうら』で一品目に必ず出すという「まぐろの脳天」。

江戸時代によく使われた調味料、煎り酒なども取り入れた松浦氏。

左から「のどぐろのどんぶり」「大トロ」「小肌」「まぐろの脳天」「あん肝」。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner食材の真価を見極める。調理法としての天ぷら。

パチパチと金色の油が跳ねる鍋を前に、人の良さそうな笑顔で客を迎えるのは『天ぷら元吉』の元吉和仁氏。

元吉氏が天ぷらを揚げる中でゲストを驚かせたのは、多彩な調理法でした。食材に衣をつけて油で揚げる。そんな定型通りの揚げ物とは別次元。まるで異国の調理法を見ているような新鮮な光景が広がります。

揚げたての新玉ねぎは、冷めるまで風にさらし、片面だけ衣がついて揚がった大葉の上には生のウニが堂々と鎮座します。なんと、太刀魚の天ぷらは揚げる時に油へ水を加えます。固定概念から大胆に脱却した元吉氏の天ぷらは、軽やかでありながら不思議と馴染み深い味わいを感じます。

「ただ珍しいことをするのではなく、裏側にはきちんと基礎と理由があります。太刀魚の天ぷらは、水を加えて揚げることでふっくらと。衣をすこし焦がす事で焼き魚のような香ばしさもまとわせます。この調理法のために、蓋をしめられる専用の揚げ台まで作りました。伝統的な教えを理解した上で、新しい調理法を考え、今までになかった味を創ろうと心がけています」。

独自の天ぷらを作るために、調理器具も開発したという。

左上から時計回りに「太刀魚」「新玉ねぎ」「ウニ」。

「食材の美味しさを引き出すための手法として、天ぷらを作っています。江戸前の精神と、これまでになかった調理法から、天ぷらの未来を感じてもらえたら嬉しいです」と話す元吉氏。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner庶民の味とお殿様の味。多様な江戸前蕎麦の世界。

江戸蕎麦御三家の一つ『砂場』で修行を積んだ『おそばの甲賀』甲賀 宏氏は、2種類の蕎麦を披露しました。

「江戸時代は庶民からお殿様まで、蕎麦が大好きでした。今日は現代風にアレンジをした気軽に腹を満たせる”庶民の蕎麦”と、更科粉を用いた上等な”お殿様の蕎麦”を用意しました。江戸から続く多様な蕎麦の美味しさを愉しんでください」。

一つ目は、『おそばの甲賀』でも出しているという「すだちそば」。濃いめのつゆをカツオ出汁でわったものを、豪快に蕎麦へぶっかけて食します。清涼感のある蕎麦の美味しさは、夏の定番として、江戸時代から庶民に親しまれていたのです。

二つ目は「キャビアそば」。江戸時代にお殿様に献上されていたという「御前蕎麦」の上に、キャビアが溢れんばかりに盛ってあります。江戸時代のお殿様よりも贅を尽くしているであろう蕎麦を手繰り、会場には至福と愉悦の雰囲気が漂いました。

大葉を練り込んだ更科蕎麦にキャビアをのせた「キャビアそば」。

「すだちそば」は、半分食べたらもずくを投入。キュッとした酸味が加わる。

修行先で江戸前蕎麦への理解を深めたという甲賀氏。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner野趣と洗練の間。進化した鰻の食事情。

鰻屋として江戸前を表現するのは『はし本』の橋本翔平氏。現代ならではの上質な養殖鰻を使い、江戸時代の野趣を感じる調理法を披露します。

「江戸時代の鰻は、すべて天然もので美味しさにも個体差があったはずです。今は醸成された養殖技術と優れた生産者がいるので、いつでも美味しい鰻が手に入るようになりました。今日使う鰻は、鹿児島で横山さんという方が育てています。臭みがなくて綺麗な味わいです」。

酸味を効かせた「鰻ざく」は、穀物の荒々しさがのこっていた江戸の酢をオマージュして、どぶろくの醸造過程で抽出したお酢を使用。まるできりたんぽのような佇まいの「蒲穂焼」は、筒切りにした鰻を骨ごと串刺しにして、山椒味噌を塗って焼き上げています。豪快な江戸の調理法を用いながらも、洗礼された盛り付けといった現代的なアプローチで、鰻の澄んだ味わいと力強い存在感を表現していました。

どぶろくから抽出した酢を使った「鰻ざく」と、筒切りの鰻を串刺しにした「蒲穂焼」。

鹿児島産「横山さんの鰻」。クセがなく澄んだ鰻の旨味が愉しめる。

鰻を丁寧に焼き上げる橋本氏。

Evolution of Edomae, Ten-Hands Dinner江戸前料理のこれまでと、これから。

屋台スタイルで暖簾を掲げるシェフたちの料理を味わった「江戸前進化論」。短い時間でしたが、肩を並べて大将の話を聞き、舌鼓を打った面々の間には、美食談義の華が咲いていました。400年前の江戸っ子たちも屋台からの帰り道、同じように美味しいものへの熱い想いを語り合ったに違いありません。

最後は、イベントをプロデュースした本田直之氏のこんな言葉で締めくくられました。

「江戸前を代表する鮨、天ぷら、蕎麦、鰻を一つのコースで食べる特別な会でした。シェフたち! 素晴らしい料理をありがとう! 今宵が江戸前料理の未来を考えるキッカケになったらと思います」。

互いの料理を賞賛しアイデアを出し合うシェフたち。食べた料理に合わせる酒を議論する醸造家たち。次に食べてみたい料理への飽くなき好奇心を胸に宿す美食家たちーー。

まだイベントの熱から冷めやらぬ会場には、世界基準へと成長を遂げた江戸前料理が、さらに先へと歩みを進める気配に満ち溢れていました。

日本料理を代表する5人のシェフが揃い踏みした特別な一夜だった。

エネルギッシュな会場には、フーディーやクリエイターなど、国内外を問わず、多くの人々が集った。

「江戸前進化論」のプロデュースを務めた本田直之氏。料理人や各界からの信頼も厚く、そんな人間関係によって成された今回は、ただ美味いだけでなく、日本文化も表現。


Text:DAIJIRO KAWANO

コク深いたまり醤油と爽快な山椒の邂逅。後味まで美味しい新定番。[和光アネックス/東京都中央区]

昔ながらのスタイルで醤油を醸す『山川醸造』のたまり醤油は、岐阜県内の料理店などでも広く使われる地元で馴染みの味。同じく地元伝統の山椒と組み合わせ、新たな可能性の扉を開いた。

WAKO ANNEX醤油の旨味、山椒の辛味としびれ。すべてが一体となり素材を引き立てる。

岐阜県奥飛騨温泉郷で栽培されてきた「高原(たかはら)山椒」。香り、辛さ、しびれのバランスが優れており、柑橘系の上品で豊かな香りが口から鼻へと爽快に抜けていきます。そして追うように表れる、程よい辛さと心地よいしびれ。

そんな高原山椒を昔ながらの製法でつくり続ける『飛騨山椒』が、地元の蔵元『山椒醤油』とタッグを組み誕生した『山椒醤油』は、まさに奥飛騨伝統の味。長良川の伏流水を使い杉の木桶で、2年もの間寝かせてつくるコク深いたまり醤油に、こだわりの山椒の実を漬け込みました。

香り豊かに料理の味を引き立たせる醤油の旨味と、山椒のすばらしい香り、ピリリとした刺激が食欲をかきたてます。

刺身や卵焼き、冷奴といったおなじみの料理はもちろん、白米に軽く回しかけていただくのも、素材の味を存分に楽しめてお勧めです。

また、忘れてはいけないのが、瓶の底で眠る山椒の実です。たまり醤油がしっとりと染みた粒山椒を舌の上でやさしく潰せば、豊かな風味とコク、山椒の刺激と香り、すべてが一気に広がり、後味はすっきり。

いつもの料理に新たな味わいと発見をもたらす新定番を、ぜひお試しください。

もちろん、魚や寿司との相性は抜群。『山椒醤油』の深い味わいとコクに負けない、脂の乗ったブリやサーモン、さんまなどもお勧め。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
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Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

多彩な旨味を凝縮。アレンジ自在の和製タプナード。[和光アネックス/東京都中央区]

椎茸、塩麹、しょっつるの旨味が重なり合う豊かな味わい。サクサク、とろっとした食感も料理のアクセントに。

WAKO ANNEX秋田産の椎茸をふんだんに。和洋に合う万能ペースト。

フランス・プロヴァンス地方を発祥とするペースト、タプナードをヒントに、秋田県産の椎茸と塩麹、秋田伝統の魚醤「しょっつる」で仕立てた『とろっとうまみ 椎茸タプナード』。

手がけるのは、世界遺産・白神山地と日本海の町、秋田県八峰町に店を構える『ノルテカルタ』。オイル漬け専門店として個性的なメニューを展開するなかでも、ひときわ秋田を感じられる一品が、このタプナードです。

椎茸の程よい食感と風味に加え、塩麹のやさしい塩味、しょっつるの後引くコク…さまざまな旨味が重なり合い生まれる豊かな味わいは、癖になる美味しさ。

肉、魚問わず素材の味を引き立てる万能調味料ですが、楽しみ方はさまざま。バゲットに乗せてカナッペにしたり、牛乳や生クリームでのばして、パスタやオムレツのソースにしたり。アレンジ次第で多彩なメニューに変身する、懐の深さも魅力です。

また、和食においても本領を発揮するのは、和製タプナードだからこそ。出汁やしらすとさっと和えるだけでも、至福のごはんのお供に。卵かけごはんにもよく合います。

2020年、2021年には、国内航空会社国際線ビジネスクラスの機内食にも採用されるなど、秋田発の美食はグローバルに存在感を示し始めています。

お好みの具材と合わせ、カナッペに。しっかりとした旨味があるため、お酒のお供としても大活躍します。

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“梅に選ばれた”石神という場所で、梅の可能性はさらに広がり続ける。[和光アネックス/東京都中央区]

梅酒も作る『濱田農園』だが、『梅搾り』はノンアルコール。梅ジュースとしてはもちろん、シロップや料理の調味料など、多彩な使い道でその可能性を広げている。

WAKO ANNEX完熟南高梅の味わいをそのままに。まろやかな甘みと酸味で魅了する梅シロップ。

和歌山県第二の都市、田辺市の山あいに広がる石神地区は、江戸時代から続く梅の郷として知られています。黒潮の海から吹き付けるミネラルを含んだ風、温暖な気候と陽光、水はけのよい土壌など、“梅に選ばれた”としか思えないようなこの場所では、今もなお梅の栽培が盛んに行われています。

豊穣な石神の地で育まれ完熟した梅の実を、人の手で丁寧に拾い集め、塩漬け、天日干しを行い、調味を施す。手間暇かけた昔ながらの製法で梅干しづくりをおこなっているのが『濱田農園』です。

バラエティ豊かな栽培方法、味付けの梅干しはもちろん、先鋭的な加工品の開発も行う同社がつくる梅シロップ『梅搾り』は、完熟南高梅に砂糖のみを加え、濃厚な味をそのまま閉じ込めた一品。梅のエキスを凝縮したまろやかな甘みの中には、ノンアルコールとは思えないほどの深みが感じられます。

水やソーダ、お湯、焼酎などで薄めて梅ジュースや梅酒として楽しむのはもちろん、かき氷のシロップや料理の隠し味、製菓材料などにも活用できます。

酸味料・着色料不使用で、子どもでも安心して食せるのも嬉しい限り。栄養たっぷりの完熟南高梅は、滋養に好適。家族の健康食として冷蔵庫に常備しておきたいものです。

ジュースやお酒で割る場合は4倍希釈で。爽やかな酸味と完熟南高梅のフルーティーな香りが広がります。

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もっちり、つるり。伝統と進化が融合した手延べうどん。[和光アネックス/東京都中央区]

深みのある鰹出汁のつゆに浸る、艶やかな手延べ麺。細麺、太麺と異なる食感、喉越しが楽しめるのも魅力。

WAKO ANNEXうどんの聖地・宮城で無二の存在感を放つ、手延べうどんの新境地。

くるくるとまるめた麺は花のように愛らしく、茹で上げればその名のとおり“つるりん”とした食感で魅了する。

宮城県北部、登米地方のカラリとした気候のもと、絹糸のように白く美しく風に舞う手延べうどん。それが、明治18年創業の『二階堂製麺所』が手がける『花つるりん』です。

コシ、喉越し、麦の香りなど、手延べ麺にしか出せない食感や味わいは、職人の技術と勘があってこそ。塩水の仕込みから仕上げまで約3日を有し、「より」「のばし」「ねかし」といった20以上の工程を経て熟成を重ねた麺は、“本当に美味しいものとは何か?もっと美味しいものをつくりたい”という4代目の情熱が実を結んだものでもあります。

『花つるりん』は伝統を今に復活させただけではありません。製麺所の長い歴史の中でも“進化系”と位置付けられている理由が、麺に練り込まれた低分子の天然コラーゲンです。このプラスワンこそが、もちもちの歯ごたえとつるっとしたのど越しを実現しています。身体にやさしい麺というのも現代の価値観にフィットし、発売以来不動の人気商品です。

こだわりの麺を引き立てるのは、無添加、化学調味料不使用のうどんつゆ。口に含めば、鰹出汁の豊かな風味と深くまろやかなうまみがやさしく広がります。

老舗製麺所の初代が心血を注いだ手延べ道は、4代続いた今もまだ進化の途中。うどんの聖地で無二の存在感を放つ『花つるりん』、温でも、冷やでも、お好みでお召し上がりください。

もちもち、つるつる食感に仕上げるコツは、沸騰したたっぷりのお湯で茹で、冷たい流水でもみ洗いした後、氷水で締めること。

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瀬戸内産 天然魚のうまいもんをご飯と一緒に炊き上げる。

「愛媛海産」の人気シリーズ「瀬戸内 炊き込みごはんの素」。数ある中から今回は、旬の鰆をご紹介。

WAKO ANNEX季節をいただく歓び。約44年、瀬戸内と向き合い続けた味。

瀬戸内海、来島海峡に面する愛媛県今治市に1979年の創業以来、魚介類を主に製造し続けている「愛媛海産」。地域の食材の鮮度と旨味を大切に、原料、製法にもこだわり、「瀬戸内産 天然魚のうまいもん」をお届けしています。

中でも人気の商品は、「瀬戸内 炊き込みごはんの素」シリーズです。

お米2合と炊飯器(土鍋で炊けばより美味しい!)で炊くだけ!のそれは、簡単ですが、味は本格的。その理由は、瀬戸内の新鮮な魚介の力です。鯛、蛸、鱧、牡蠣……。その種類は様々あれど、旬の時期に登場する魚は、ぜひおすすめしたい逸品。今の旬は、鰆です。

鰆は文字通り春を代表する魚のひとつで「春告魚(はるつげうお)」とも呼ばれています。身は柔らかくしっとりとして、ほろりとした甘みが特徴。醤油やみりんで甘めに味付けした鰆をお米と炊き込むことで春を感じる味わいは、お好みで、すだちや柚子胡椒を添えるとより旨味が広がります。

食を通して、瀬戸内を感じ、季節を感じる。そんな美味しい体験をお楽しみください。

簡単に炊飯器で炊き上げるだけでも美味しいが、少し一手間、土鍋で炊き上げればより美味しい炊き込みご飯。三つ葉とかぼすを添え、彩りと香りも豊かに。

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世界でも類を見ない奇跡の夜。トップシェフたちが集い、互いに料理を作るThe Chefs Gathering。[The Chefs Gathering/東京都渋谷区]

この日集まったシェフは40名以上。いずれも本田直之氏が直接スカウトしたトップシェフたち。

シェフズギャザリングコロナ禍を経て4年越しに開催されたシェフたちの宴。

クラブミュージックが流れるキッチンに名だたるシェフたちが集まり、それぞれの料理を作り、それぞれに振る舞う。そこかしこでにぎやかな会話が交わされ、突発的に共同作業が行われることも。それはシェフがホストであり、ゲストでもある不思議な場所。だからこそ、各店のキッチンからは生まれ得ないここだけの味が生まれることもある。そんな夢のようなイベントがこの「Chefs Gathering」です。

もしこの会のチケットが一般販売されるなら、間違いなくプラチナチケットになることでしょう。しかしこれは、シェフの、シェフによる、シェフのためのイベント。誰もが簡単に訪れられるものではありません。

それでもこの場で紹介するのは、この自由な場が、日本の食の未来に繋がるから。この場で出会い、交流を深め、新たなコラボレーションをするシェフ。この場で得たインスピレーションを糧に、新たなステージに挑むシェフ。賑やかで楽しいこのイベントは、さまざまな可能性に満ちています。

2016年から開催され、コロナの中断を経て2019年以来4回目となった「Chefs Gathering」。そこではどんな光景が広がっていたのでしょうか。

会場となったのは渋谷『TRUNK(HOTEL)』のキッチン。イベントの協賛はドン・ペリニヨンとエビアンスパークリング。

シェフズギャザリング混沌の中で進化するトップシェフのクリエーション。

「ひとつどうだい?」

自ら作った料理を持って会場内を回るのは、2023年の「アジアのベストレストラン50」で第一位に輝いた『ル・ドゥー』のトン・ティティット氏。この日のためだけに来日し、翌日にはもう帰国するといいます。

遅れてやってきた『傅』の長谷川在佑氏は、顔見知りのシェフたちとの挨拶が忙しく、なかなか料理に取りかかれません。

フランス・パリでミシュラン一つ星を獲得した『RESTAURANT PAGES』の手島竜司氏は、せっせと海老の殻を剥いています。その作業を手伝っているのは、『ALTER EGO』の平山秀仁氏。福岡からやってきた『Goh』の福山剛氏は、『鮨 唐島』の唐島裕氏とともにシャリカレーを作るといいます。大阪『La Cime』の高田裕介氏氏は注文していた食材が届かず、急遽パスタを作り始めました。銀座『はっこく』の佐藤博之氏は、巨大な鮪を捌きつつ、さまざまなシェフとコラボして料理を仕上げています。

一言でいうなら、それはカオス。

楽しげな会話と調理の音と音楽。さまざまな料理の香り。それらが入り混じりながら、独特の活気を生み出しています。しかしその状況の中でも、手際よく料理が仕上がっていくのは、ここにいる全員が一流の料理人だから。

「料理人同士、言葉を交わさずとも伝わることがあるんでしょうね」。

先の手島竜司氏はそう言いました。

混沌の中に生まれる秩序と創造。この場所が、これからの料理界にとっていかに大切な場所であるかが垣間見えました。

メインのドリンクは「ドン・ペリニヨン」。最高峰のシャンパンが料理を引き立てた。

シェフたちはオリジナルTシャツを着用。揃いのシャツに連帯感が高まる。

音楽プロデューサーFPMこと田中知之氏がDJ。アップテンポな曲で会場を盛り上げた。

キッチンは広いが40名のシェフが一斉に料理をするとたちまち熱気に包まれた。

トップシェフたちの共演だけに、揃う食材も最高峰。

シェフズギャザリング最高の料理を、フリースタイルで味わい尽くす奇跡のような夜。

料理は次々と完成します。テーブルはありません。料理が並ぶのは調理台の端やコンロの脇。皿が足りなければ、金属のバット。シェフたちは会場を歩きまわりながら、気になった料理を気軽に口に運びます。

しかし何度も言いますが、参加者たちはいずれもトップシェフ。無造作に並べられた料理は、どれも一級品です。なんと贅沢で、なんと楽しいイベントでしょう。

ドリンクを担当するのは日本を代表するバーテンダー・後閑信吾氏と、トップソムリエでありワインディレクターの大越基裕氏。最高のワインとカクテルが、料理のおいしさと場の楽しさをいっそう盛り上げます。

「世界のどこでも、聞いたことがない」。

世界の美食を食べ歩くフーディ浜田岳文氏はそう話します。

「アジアのベストレストラン50」のチェアマンであり、世界のレストラン事情に造詣が深い中村孝則氏もそれに同意します。そしてこう付け加えました。

「この夜は、奇跡に近い」。

焼き肉界の雄『よろにく』からは桑原秀幸氏、早川剛氏の両氏が参加。

『ALTER EGO』平山秀仁氏による一皿。ミラノ仕込みの美しい料理が目を引いた。

銀座の鮨『はっこく』佐藤博之氏による鮪料理。

『鮨 唐島』の唐島裕氏が特別に炊いたシャリに『Goh』福山剛氏がカレーを合わせた鯛シャリカレー。

『FARO』能田耕太郎氏の料理は、スペシャリテであるヴィーガンパスタ。

シェフズギャザリングシェフ同士を繋ぎ、新たな食の未来を描く、美食家の夢。

シェフの、シェフによる、シェフのためのイベント。

その仕掛け人は、ひとりの美食家でした。

その名は本田直之氏。この晩、集まった40数名のシェフは、本田氏が直接出向き、話し、招待した方々。東京も、地方も、海外も、すべて本田氏の直接スカウトです。その情報網と行動力、そして熱量こそが、シェフたちを動かしたのでしょう。

「同じジャンル内では親交があっても、カテゴリーを越えたシェフ同士の交流はなかなか生まれません。しかしジャンルを越えた交流からこそ発見や進化があるはず。ひとりのファンとして、そんな進化が生まれる場を作りたかったんです」
と本田氏。その思いに共感したのが、会場となった「TRUNK(ホテル)」代表取締役社長の野尻佳孝氏。

「どうせなら、何か突き抜けたことをやろう」。

そんな二人の思いが結実して、2016年に第一回の「The Chefs Gathering」が開かれたのです。第4回となった今回は、過去最高の盛り上がりを見せました。そしてもちろん、これからも「The Chefs Gathering」は続きます。

「シェフ同士を繋いだら、どんな化学変化が生まれるか。僕はそんな未来を夢見るシェフの応援団」。

世界でも類を見ないイベントを手掛け、大成功に導いた本田氏は、そう言って楽しそうに笑いました。

仕掛け人の本田直之氏。「オリジナリティとフィロソフィを持つ料理人」を自らスカウトしてこのイベントに繋げた。


Text:NATSUKI SHIGIHARA


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美味しく、健やかに。発酵酢は、人の健康を創る。

りんご酢、りんご黒酢に使用している長野県白井農園の信州りんごは、農薬不使用、化学肥料不使用で栽培。

WAKO ANNEX農薬化学肥料不使用のアップルビネガー。

創業1805年の歴史を誇る鹿児島県霧島市福山町「重久盛一酢醸造場」。約200年、かめつぼ露天醸造法という世界的にも珍しい製法にこだわります。露天に並べられた甕(かめ)の中から生まれたものが「りんご甕酢」です

長野県佐久市にある「白井農園」で栽培されている信州りんごを丸ごと粉砕した後、米麹、地下水と一緒に入れて発酵させたりんご酢を使用。そのりんご酢に、さらに無農薬栽培のりんごを米黒酢に漬け込んで二次熟成させたりんご黒酢をプラス。その後、オリゴ糖や黒糖などを加えて飲みやすくておいしいフルーツ酢に仕上げています。

りんご酢、りんご黒酢に使用している長野県白井農園の信州りんごは、農薬不使用、化学肥料不使用で栽培しています。

おすすめは、まず炭酸水で2~5倍程度に希釈してぜひ。そのほか、アイスやヨーグルトに入れていただくとより美味に。お酒好きな方は、焼酎やビールなどに適量入れていただくも良し。

余談ですが、重久雅志氏曰く「お酢が苦手な私でも、お水で薄めてごくごく飲めます。そんな私のおすすめは、ヨーグルトに混ぜて食べる食べ方です。発酵食品同士のため相性が良く、お互いの爽やかな酸味とりんご甕酢の甘味が相まってぺろりと食べられます」。

おすすめのいただき方のひとつ、「りんご甕酢」を炭酸水で2~5倍程度に希釈してぜひ。酢が苦手な人もお試しあれ。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
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銀座コリドー街の賑わいの中、心静かに自分と向き合う点茶体験。[ザ ロイヤルパーク キャンバス 銀座コリドー/東京都中央区]

点茶セットはオリジナルの酒粕チーズケーキとともに販売され、茶菓子は季節によって変わっていく。

ザ ロイヤルパーク キャンバス 銀座コリドーコリドー街の玄関口に誕生したナイトライフを楽しむホテル。

数々の飲食店が軒を連ね、いまや銀座の賑わいの中心地とさえいえるコリドー街。その玄関口に2022年11月、名門ロイヤルパークホテルズの新たなホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス 銀座コリドー」が誕生しました。

ホテル館内でバーホッピングが楽しめる3つのバーや、お酒の要素を取り入れた客室など、コリドー街らしいエッセンスに満ちたこのホテル。“酔いしれる”をコンセプトに、お酒、音楽、光、食、エンターテインメントをテーマにしたコンテツも多数揃う注目のホテルです。

しかし今回ご紹介するのは、「ナイトライフ」や「活気」というイメージからは少し離れた、一風変わった体験。

それは、抹茶を点てて味わう点茶です。

喧騒から離れて心静かに茶と向き合い、茶の中に自分の心を映す。そのマインドフルな体験は、ホテルの滞在をいっそう豊かな時間に変えてくれることでしょう。

裏千家の岩本氏が監修する抹茶はたっぷりと泡立てるスタイル。泡により飲み口がまろやかになる。

館内に3つのタイプのバーを備えた「ザ ロイヤルパーク キャンバス 銀座コリドー」。

ザ ロイヤルパーク キャンバス 銀座コリドー若き茶道家が監修する、文化に触れるための点茶。

ただ道具を貸し出すだけの体験ではありません。やるからには本格的に。そんな思いのもと、今回の点茶体験は茶道家の岩本涼氏が監修を手掛けました。26歳の若き茶道家・岩本氏は、一般社団法人お茶協会が主催するティーアンバサダーコンテスト日本代表に選出される、世界に日本茶を広める中心人物。そんな岩本氏が、銀座のホテルで点茶を体験する意味を改めて見つめ、そこにふさわしいスタイルを考案しました。

舞台となるのは「ザ ロイヤルパーク キャンバス 銀座コリドー」2階の「CANVAS LOUNGE」、そして同じく2階の奥にあるバー「OMIKI BAR」。テーブルとチェアのあるバーで行うため正式な茶道の作法とは異なりますが、

「作法よりも大切なことは、“どう向き合うか”ということ。自身と向き合う内省、他者と向き合う対話。日常生活の中で減りつつあるこの“向き合う”という精神性を心に留めれば、正式な作法は後回しで構いません」

と岩本氏は話します。

上質な陶磁器の抹茶碗に触れることで、自分自身や眼の前の相手としっかりと向き合う。それこそが点茶の一番の目的。文化大国といわれながら、文化に直接触れ、体験する機会が少ない日本。海外からのゲストだけでなく、日本人にとっても点茶の体験は素晴らしい時間となるはずです。

さらに岩本氏は、こう続けます。

「余裕がないときや疲れているときには、お茶を点てようという気持ちにはなりにくいもの。つまり、お茶を点てるという行為は、それだけで心が豊かである証明になります」。

コリドー街という繁華街の真ん中で、静謐に浸り、己と向き合う豊かな時間。銀座で点茶という貴重な体験は、体験者の心に確かな何かを残すことでしょう。

監修を務めた株式会社TeaRoom代表の岩本涼氏。「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2022」にも選ばれる次世代を担う茶道家。

「OMIKI BAR」は厳選した酒とアナログレコードの上質な音楽が楽しめる大人のための和酒専門バー。

点茶体験はスイーツ付き。この日のスイーツ、酒粕チーズケーキを味わった岩本氏は「濃厚で苦味のあるお茶と合います」と太鼓判。

ザ ロイヤルパーク キャンバス 銀座コリドー点茶を通して心と体も整えて、夜の銀座へ。

作法は後回し、とは言っても、一連の流れは理解しておいて損はありません。ここで、岩本氏の指南による、「OMIKI BAR」での点茶体験の流れを見てみましょう。

まずは抹茶碗選び。6種類準備された抹茶碗は、萩、織部、伊羅保など、いずれも風格のある名品ばかり。

「道具は鑑賞するよりも、使ってみてその先に何があるかに思いを馳せるもの。いわば生活の中に美を見出すこと」

と岩本氏。上質な椀でも直接触れて、土の感触や陶芸家の指の動きに思いを巡らせることで、新たな気づきがあるはずです。

茶碗を選んだら、いよいよ点茶。

湯で温めて提供された椀に茶杓で2杯の抹茶を入れ、湯を流し入れたら茶筅で静かに混ぜます。このとき、“混ぜる”より“こする”ようなイメージで茶筅を回すのが茶の成分と旨味を引き出すポイント。十分に混ざったら最後に「の」の字を書くように茶筅を引き上げます。

抹茶ができあがったら両手で抹茶碗を持ち、感謝の思いを込めて一度黙礼。そこから手の上で茶碗を2度まわします。これは「椀の正面に口をつけないために位置をずらす」という敬意の表現です。

飲み口をずらしたら、あとはどう楽しむのも自由。一息で飲み干すのも、少しずつ味わうのも、一緒に供されるスイーツと交互に味わうのもお好み次第です。ただしお茶の最後のひと口は「最後まで飲み干した」ことを伝えるため、ズズッと音を立ててすすります。

バーで体験するための特別バージョンではありますが、このように点茶は静かに向き合いつつ自由に楽しむもので、なんら堅苦しいことはありません。

直接触れられる文化体験であり、禅に通ずるマインドフルネスの時間でもある点茶。さらにもうひとつの意味があると岩本氏は言います。

「旅館に行くとお茶とお菓子が置いてありますよね。あれには“疲れた体の血糖値を上げ、水分補給をしてください”という意味が込められています。このコリドー街のホテルでの点茶体験は、遠方から到着した方、これから街へ出かける方への体のメンテナンスの意味でもとても素晴らしいと思います」。

都会の夜を楽しむホテルで、点茶で静かな時間を過ごし、心と体を整える。ぜひ体験し、銀座の新たな楽しみ方を見つけてみてください。

素晴らしい器に触れて愛でるのも点茶体験の醍醐味。

茶杓に掬う抹茶は1杯半ほどで。湯量は60ml〜70mlが目安。

器に手を添えて抹茶をこするようにしっかりと混ぜる。

手の上で回して正面を避けたらあとは好みに応じてお茶を楽しむ。

住所:東京都中央区銀座6-2-11
電話:03-3573-1121
https://www.royalparkhotels.co.jp/canvas/ginzacorridor/

【販売情報】
点茶セット+酒粕チーズケーキ 1,800円(税込)
 ※宿泊者には1,500円(税込)で販売
 ※
点茶セットは貸出制となります
 抹茶碗はお選びいただけない場合もあります

OMIKI BAR
 月~土 17:00~28:00(飲物L.O. 27:00)
 日・祝 17:00~22:00(飲物L.O. 21:00)
 

CANVAS LOUNGE
 月~土 11:00~28:00(飲物L.O. 27:00)
 日・祝 11:00~22:00(飲物L.O. 21:00)
 


Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(Supported by ROYAL PARK HOTELS)

幻の花山椒。丁寧な手仕事で最高の山椒を。

5月初旬に1週間ほどだけ咲く、実のならない雄花を新芽と一緒に炊き上げた花山椒。化学調味料、防腐剤、着色料不使用な自然に寄り添った味。

WAKO ANNEX1週間ほどだけ咲く、実のならない雄花を新芽と一緒に炊き上げた花山椒。

岐阜県奥飛騨温泉郷でしか育たない「高原山椒」。その特徴は「香り・辛さ・しびれ」の優れたバランスにあります。特に柑橘系の上品で豊かな香りは他の品種よりも強く、口から鼻へと爽快に抜けていきます。追うように程よい辛さと心地よいしびれが現れ、料理の味を際立たせ、後味をすっきりと引き締めます。

そんな山椒にこだわり続けているのが「飛騨山椒」です。

「飛騨山椒」は、その美味しさを最大限の状態で製品化するために、山椒の出荷を始めて半世紀以上「ひと手間かけた昔ながらの製法」にこだわり続けています。

飛騨の山椒は、古来より山と土と水に恵まれたこの地域で自生していた香りの強い品種。代々、地元の人々によって守られてきました。高度800m程度、上下100m、半径5m範囲の土地で栽培された山椒のみが、高い香りを生み出し、他の土地に移植しても同じようには育ちません。土地、水、気温、霧(湿度)など、様々な偶然が積み重なった自然の恵みなのです。

そんな山椒を使った品は、丁寧な手仕事から生まれています。7月末から8月末にかけて、実をひと房ずつ収穫。陰干し、日干しした後、皮を取り出し、注文がある分だけ、杵でついて山椒を作ります。

今回ご紹介する花山椒は、さらに特別な逸品。5月初旬に1週間ほどだけ咲く、実のならない雄花を新芽と一緒に炊き上げた希少なもの。
なかなか手に入れることができない花山椒の味わいを、ぜひご賞味あれ。

飛騨の山椒は、江戸時代、天領だった飛騨の郡代が徳川将軍にも献上した記録が残っているほど、歴史ある品。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

ホストが観た「ダイニングアウト比叡山」。[DINING OUT HIEIZAN/滋賀県大津市]

「ダイニングアウト」最多のホストを担った中村孝則氏は、今回、ゲストとして参加。

DINING OUT HIEIZANなぜ「比叡山」が舞台となったのか?

2023年2月末。20回目という節目を迎えるダイニングアウトが、「比叡山延暦寺」で開催されました。私は今回、ホストではなくゲストとしてこの「ダイニングアウト」に立ち会うことになりました。ですので、お客さまと同じ目線から、今回の「ダイニングアウト比叡山」の全体像を振り返り、その魅力のツボお伝えできればと思います。

さて読者の多くは、なぜ美食イベントの象徴ともいえる「ダイニングアウト」が「比叡山」で開催されることになったのか? 素朴な疑問を抱かれることでしょう。ご存知の通り「比叡山延暦寺」は、平安時代の僧侶の伝教大師最澄が開山し、以来1200年の歴史を持つ天台宗の総本山であり、のちに六大宗派の開祖を生んだ日本仏教界の中心であり、今も神聖な修行の場でもあります。そもそも、そこで食される食事は美食の対極にある精進料理ではないかと。そのご指摘を想定しているかのように、今回の料理のテーマはずばり“精進料理”であること、挑むのは和歌山の「Villa Aida」の小林寛司シェフであることが、事前に公表されていました。その小林シェフが、どんな狙いと想いを持って、どんな精進料理を作りあげたのかについては後に述べるとして、まずは今回の舞台が「比叡山」であった理由とその本質について、私なりに分析してみたいと思います。

過去に「ダイニングアウト」に参加された方や、このメディアの読者の方々なら既にご存知のことと思いますが、「ダイニングアウト」は、単なるポップアップのレストランではありません。ちょっと私なりに硬い表現を使わせて頂くと「地域表現をガストロノミーで紐解く知的エンターテイメント」なのです。いわば、地域表現としてダイニング・エクスペリエンスということになります。

地域に眠る豊かさを再発見し、それを体験型の美食エンターテイメントに仕立てることが、「ダイニングアウト」のそもそもの命題です。では、ガストロノミーに集約される地域に眠る豊さとは何かといえば、気候風土が生みだす海の幸・山の幸といった食材や、歴史や習俗や祭りや歳時記に根ざした伝統的な食文化、あるいは器などの伝統工芸もまた欠かせない要素になります。そして、地元が育んだ神や神話や宗教もまた、地域を表現するうえで避けて通れない、というか重要な要素になっています。あえて“宗教観”という言葉を使わせてもらえば、それは食文化の精神性に根ざしているだけでなく、“おいしい”と感じる感覚的なところにも影響しているからです。それは広義に“文化的なおいしさ”とは何か?という議論にも通じますが、それはこのコラムの本論ではないので別の機会に譲るとして、少なくとも祈りや救いの宗教的な感性は、「ダイニングアウト」の豊かさの表現の一端を担ってきたのは事実です。

「ダイニングアウト宮崎」では、日本神話の舞台にもなった「青島神社」の敷地内で開催されました。「ダイニングアウト琉球・南城」は、琉球神話の神の島である久高島や、祈りの場である「御嶽(うたき)」を舞台にしました。そのときに担当した樋口宏江シェフは、伊勢神宮にお供えする“御食国”である伊勢志摩のローカルガストロノミーをフランス料理で表現しています。また、「ダイニングアウト国東」では、日本の神仏習合の原点である六郷満山の代表的な寺である文殊仙寺の境内を舞台にしました。私は、これらのホストを担当しましたが、いずれの回も地域に根ざした独自の宗教観を紐解くことからはじめました。というのも、その神聖な“場”のルーツを探り、雰囲気と共にゲストと一体になることこそ、それぞれのダイニングアウトの醍醐味だったからです。それは、今回の「ダイングアウト比叡山」で、ゲストの立場になって参加して確信にかわりました。

今回の「ダイニングアウト」は、比叡山「金台院」住職の礒村良定氏がホストを務めました。礒村氏は「延暦寺」で得度し、長年にわたり延暦寺に従事し、比叡山を最も熟知する僧侶のひとりです。そして、「ダイニングアウト国東」の舞台となった、「文殊仙寺」のご住職の秋吉文暢氏と「延暦寺」での修行の同期でもある。今回は、そのお二人のご縁も開催の理由のひとつになったそうです。延暦寺には国宝の根本中堂という施設があり、現在は大規模な修復中ですが、礒村氏はその「比叡山」の文化財保護の担当者でもあります。礒村氏は「歴史的な文化財の保全だけでなく、地域の文化としての寺の魅力を、いかに未来に繋げるか」がご自身の使命であると開催後に語ってくださいました。「信仰心だけでなく、もっと広視野で人々に比叡山にかかわってほしい」という考えのもと、今回のダイニングアウトを計画したといいます。そして、ホストとして小林シェフのサポートをするだけでなく、実際にご自身が修行をした寺の施設を、二日間にわたりゲストにご案内くださりました。

宮崎、琉球・南城、国東と、過去にホストを務めた「ダイニングアウト」を振り返りながら、今回を分析する中村氏。

今回ホストを務めた比叡山「金台院」住職の礒村良定氏。ホストが見るホストの視点は、中村氏ならでは。

DINING OUT HIEIZAN「比叡山」の修行とはどういうものか。

「比叡山延暦寺」の修行がたいへん厳しいことはよく知られています。中でも、7年をかけて峰々を歩きまわる千日回峰行は有名です。私が強く興味を惹かれたのは、それ以外にも、様々な厳しい荒行があること。たとえば四種三昧という修行。これは最澄が定めた4種の修行で、常座・常行・半行半座・非行非座からなるものです。常坐三昧は、90日間を一期としてひらすら堂のなかで常坐をする修行です。眠気を覚ます経行(きょうぎょう)という歩行と食事とトイレ以外は他の行為は許されない。逆に常行三昧は、常行堂の中の阿弥陀仏の周囲を90日間昼夜問わず、合掌して阿弥陀仏を唱えなら歩き続けるというもの。実際に、その常行三昧の修行も経験したホストの礒村氏に、特別に常行堂の中をご自身の経験談を交えてご案内頂いたのは貴重な体験でした。というか、私の想像力ではまったく及ばない世界に、純粋に驚きました。礒村氏はその修行中に、仏が目の前に現れる不思議な体験や、歩行しながら幾度も落ちたエピソードなど、好奇心をもって聞き入ってしまいまた。もともと四種三昧は、天台大師が「摩訶止観」のなかで説いた修行法で、悟りを目的にしていますが、それを制定した最澄もさることながら、今でも脈々と続いていることに、不謹慎ながらその修行のユニークさやバリエーションの多彩さに驚愕し、畏敬の念を抱くのでした。

極め付けは、十二年籠山行です。この修行は最澄の霊廟となっている「浄土院」で行われますが、山からでることが許されないどころか「浄土院」に籠り、12年間1日も欠かさず定められた日課に従い修行するというもの。その修行に挑む僧は待真と呼ばれ、待真になるのも厳しい修行が必須といいます。島田裕巳著「比叡山延暦寺はなぜ6大宗派の開祖を生んだのか」(ベスト新書2014年)によると、この制度が確立されて満行できたのはわずか79名にすぎず、修行途中で亡くなった僧侶は26名にものぼるという。2021年に渡部光臣(こうしん)住職が戦後7人目の満行を終えたので数は増えたものの、極めて厳しい修行です。実は、今回の「ダイニングアウト」でゲストは「浄土院」もご案内いただいたのですが、私たちは期せずしてお堂の中から経典を唱える声を聞いたのでした。礒村氏によると、現在この修行に挑んでいる真っ最中の待真の声だと知らされ、背筋を正す思いを覚えました。

「浄土院のお堂の中から経典を唱える声が聞くことができたのは貴重な機会でした」と中村氏。

DINING OUT HIEIZAN小林シェフがイメージした「比叡山」の食事。

ちなみに、待真が朝5時に召し上がる食事は「献膳」とよばれ、最澄の真影に献ずるもので、そのお下がりを召し上がるそうです。もちろん精進料理ですが、それを作る僧侶たちにとっても、命がけで修行をする待真にとっても重要なものに違いありません。これは、下衆な勘ぐりで恐縮なのですが、待真にかぎらず厳しい修行を行う僧侶にとって、食事は修行への体力維持だけでなく、僅かな貴重な楽しみではなかったでしょうか。作る側も精一杯の工夫を凝らす気持ちは、容易に理解できます。実は、今回の「ダイニングアウト」で小林寛司シェフが挑んだ精進料理のイメージの根幹は、この「献膳」だったといいます。もちろん、あくまで想像の源であって実際は私たちゲストをもてなすための料理なのですが、「もしも最澄に献じるのであれば」という設定は、今回の「ダイニングアウト」の最大のスリリングな味わいどころなのでした。しかも、小林シェフは基本的な精進の規則を守りつつ、今までにない新たな味わいの精進料理への挑戦だったといいます。さすがに百戦錬磨の小林シェフであっても、前日は緊張で眠れなかったと後に語ってくれましたが、「延暦寺」の境内の大書院で味わうと、どの料理も滋味が深いというだけでなく、新たな味覚の創造があり、そして隅々まで緊張感に漲った食体験でした。

「ダイニングアウト比叡山」の会場は、「延暦寺」の境内の大書院。

DINING OUT HIEIZAN小林シェフが作った現代の精進料理の味わい。

「呼吸」と題された12皿からなる精進料理は、どれも「これが精進料理なのか?」と思うほど、縦横無尽に味覚の想像力がひろがることに、まず感服しました。特に感銘をうけたのは、一皿目の「白椀」です。具のない薄い味噌汁のような温かな汁だったのですが、詳細な情報なく食した印象は、「なんと滋味深いことか。これは複雑な野菜の出汁なのか」と思いました。しかし、聞けば味噌と水だけで作るというではないですか。わたしはひっくり返りそうなくらい驚きました。原料の水は滋賀の「七本鎗」の仕込み水だといいます。偶然にも、私はかつて「七本鎗」の「冨田酒造」を訪れ、地下から湧くこの水を味わったことがあり、その旨さは経験していましたが、どうやったらあの「白椀」の詩的ともいえる深い旨味になるのか、未だに理解できませんが、この一椀で今回の精進料理が成功したと私は確信を持ちました。もうひとつ私が特に印象を持ったのは「導き」という料理です。比叡湯葉を主体に構成されたこの料理は、見た目は「ぽーぽー」という沖縄のお菓子のようであり、みかんを使った甘辛の餡風のソースはお菓子のような味付けがなされ、蕗の薹やハーブの苦味や辛味もある。どれも素朴な素材ながら、五感がパッと目覚めるような風味の刺激もいい。小林シェフによると、この料理まさに彼に考える新たしい「献膳」のイメージだったといいます。

そして、もうひとつゲストたちを驚かせたのは、「異文化」と呼ばれるデザートの料理でした。この料理のメインの材料はカカオです。カカオは植物の果実の種子を原料にしているので、原則的には精進料理の規定内です。ただ、最澄の時代には無かった食材ですので、さすがに最澄が生きていたらさぞ驚いたでしょう。しかし、カカオは栄養価が高い食材であり滋養という面でも、未来の精進料理の提案という意味でも、面白い果敢な挑戦だったのではないでしょうか。

「冨田酒造」の仕込み水と味噌と技術だけで仕上げた白椀。角のないまろやかな味わいと、深いコクが滋味深い。

フォークとスプーンでいただくチョコレートのデザート。挑戦的な精進料理こそ、「比叡山」の柔軟な姿勢の象徴。

これまで何ども小林シェフの料理を食べてきた中村氏も、「今回は驚愕の連続だった」と話す。

滋賀「冨田酒造」の冨田泰伸氏。今回は、「七本鎗」の純米にごり酒と熱燗を提供。

DINING OUT HIEIZAN小林シェフの料理の精進的なるもの。

一般的に精進料理は煮物中心と思われがちですが、今回の小林シェフの料理は、その調理法や表現はそのイメージを覆すバリエーションを提示してくれました。しかしながら、その根本原理は精進料理の本質を突いているもだと私は感じました。小林シェフご本人も「自分の料理は精進料理にちかい」といいます。普段の彼の料理の食材の大部分——野菜や穀物や果実やハーブのほとんどは、自分の畑で自ら育てたものです。その種類は年間有に100種を超えるそうです。野菜や穀物を中心にするという物理的なことだけでなく、素材に感謝して命をいただくという思想的なことも含めて、彼の料理は“精進的”なのです。

小林シェフは、自分の料理の理想を追求するために自分で畑をおこし素材を育てる、という型破りのスタイルを確立しました。それは、自然の息吹と向き合い、その命の刹那を切り取ることで、生命をいただくこと尊さや食べることの本質を呼び覚ます料理を作り上げてきました。なので、凡百な農家レストランとも、ファーム・トゥ・テーブルとも違うのではないかと私は思います。むしろ、彼にとって畑はガストロノミーの表現のための手段であり、テーブル・トゥ・ファームとでも表現したほうがいいのではないか。私は勝手に彼のスタイルを「アグリ・ガストロノミー」と呼んでいますが、それは今回のダイニングアウトを通じても感じることができました。ホストの礒村氏も小林シェフの料理を通じて「道は違えども、同じ求めるものを感じた」といいます。「ゲストが喜んでいる姿を見て、今回の「ダイニングアウト」が成功したと確信を持ちました」という礒村氏の言葉どおり、今回の小林シェフの起用は、「ダインングアウト」の本質の道筋に光を当てただけでなく、小林シェフの未来の姿の片鱗も指し示したのではないかと感じています。

「今回の小林シェフの料理は、精進料理の調理法や表現のイメージを覆すバリエーションを提示してくれた」と中村氏。

DINING OUT HIEIZAN「比叡山」が生み出した日本の食文化。

「比叡山延暦寺」は、最澄が中国の天台宗の影響をうけて確立した総本山です。その後、鎌倉時代に排出した各宗派の宗祖たちは、比叡山で修行をして仏道研鑽の日々を送った経験を持っています。浄土宗の法然、浄土真宗の親鸞、日蓮宗の日蓮、臨済宗の栄西、曹洞宗の道元。彼らはみな、一度は比叡山で修行しています。日本の仏教や信仰だけなく、日本固有の文化を考えるとき、比叡山を抜きには語れないのです。ちなみに、仏教のなかの食事や作法に関する著書は、道元の「典座教訓」や栄西の「喫茶養生記」がありますが、これらの内容は、いまも精進料理に限らず、日本料理や懐石や茶道に深い影響を及ぼしています。それも、道元や栄西が比叡山延暦寺で修行しなければ、生まれていなかったかもしれません。その意味で、今回の「ダイニングアウト比叡山」は、日本の食の原点を紐解くという意味においても、きわめて意味深い試みだったと思います。そして、今後比叡山だけでなく、日本の仏教寺院の魅力を拓くというための提案としても、価値があったと思うのでありました。

2日間の「ダイニングアウト比叡山」を終えた礒村氏と。ホスト同士だからこそ、共鳴するふたり。


Photographs:JIRO OHTANI
Text:TAKANORI NAKAMURA

1200年の歴史に一石を投じた晩餐。「比叡山延暦寺」での「DINING OUT」に奔走した住職が描く未来。[DINING OUT HIEIZAN/滋賀県大津市]

礒村良定氏。今回の『DINING OUT』を通して、「私自身にも数々の発見がありました」と振り返る。

DINING OUT HIEIZAN幾多の困難を乗り越え、歴史的な「DINING OUT」を実現。

外部からシェフを招き、信者ではないゲストを迎えてもてなす。「比叡山延暦寺」1200年の歴史の中で初の試みとなった「DINING OUT HIEIZAN」。それは、ひとりの僧侶の熱意によって実現に至りました。

「比叡山金台院」住職・礒村良定氏。

「比叡山」の未来を思い東奔西走、保守派を粘り強く説得し、さまざまな準備を担い、当日はホストまで務めた礒村氏が、その熱意の源を語ります。

礒村良定氏。今回の『DINING OUT』を通して、「私自身にも数々の発見がありました」と振り返る。

DINING OUT HIEIZAN親友とともに開拓する、寺と仏教のこれから。

話は5年前に遡ります。

2018年初夏。大分県国東半島で開催された「DINING OUT」の舞台は、「天台宗」の寺院である「文殊仙寺」でした。神仏習合の地として、古くから宗教とともにあった国東半島。その地の寺で「DINING OUT」という横文字のイベントを開催するには、さまざまなハードルがあったであろうことは想像に難くありません。その実現には、「文殊仙寺」副住職(当時)である秋吉文暢氏の尽力がありました。

そして、実はこの礒村氏と秋吉氏は大学時代の同期であり、親友。関西と九州という距離はありますが、ともに仏教の未来を思い、意見を交わしながら、さまざまな取り組みをしてきました。

「人々の宗教離れとは言うが、寺の立場からできることはないのか」。「伝統を守るだけではなく、時代に合わせた対応が必要なのではないか」。

若きふたりの思いは周囲を少しずつ巻き込み、やがて大きな変革の一歩目を踏み出します。

「DINING OUT KUNISAKI」の「文殊仙寺」秋吉文暢氏(左)。友人である礒村氏とともに、いまの時代に求められる宗教の在り方を模索する。右は、当時ホストを務めたコラムニスト・中村孝則氏。

写真の「常行堂」をはじめ、「比叡山」は文化財の宝庫。この貴重な文化財を未来に残すためにさまざまな取り組みが行われている。

本堂である根本中堂で行われた朝のお務め。なかなか見ることができない貴重な体験だった。

DINING OUT HIEIZAN比叡山を訪れ、体験し、好きになってもらうために。

「信仰心を持っていただくことが難しくなってきたこの時代に、お寺そのものだけでなく、文化、観光や文化財など、色々な角度からの興味を入口としていただくために、様々な仕掛けが必要だと思っています」。

礒村氏はそう話します。

それは「せっかく来ていただいた方が、『比叡山』を楽しみ、好きになってもらうような取り組み」です。もちろん、「比叡山」という大きな組織の中には格式を重んじ、その取り組みそのものに異を唱える方々もいます。その方々に粘り強く思いを伝え、力を借りる。礒村氏の進む道はまだまだ多難な茨の道でしょう。

それでも礒村氏は確かな手応えを感じています。

そして、その手応えが確信にかわったのが、今回の「DINING OUT」の成功だといいます。

「来られたゲストの方々はもちろん、スタッフのみなさんが本当に良い顔で“やってよかった”と言っていました。その姿を見て、自信をもって今回の『DINING OUT』が大成功だと確信できました」。そう振り返る礒村氏。

「villa aida」の小林寛司シェフが手掛けたバリエーション豊かな精進料理や笑いを交えながら巡った境内。ゲストやスタッフひとり一人とじっくり話せた宴。そのすべてが「楽しい」という感想に収束しました。

「訪れる側も迎える側も、楽しめること。楽しい経験は心に残り、また来てみたい、に繋がります。私もご案内した立場として今後に対して大きなインスピレーションをもらえました」。

そう笑顔を見せた礒村氏。

そんな未来志向の礒村氏によって「比叡山延暦寺」は、今後ますます身近で魅力的な寺に変わっていくのかもしれません。

食事の前の挨拶をする礒村氏。「ただ一方的に伝えるのではなく、愉しんでもらうことが大切」という。

「DINING OUT」後、宴の場では、積極的にゲストと交流する姿も見られた。

全ての工程を終え、ゲストに手書きの文字を記した扇子をプレゼントした礒村氏。


Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

小林寛司シェフが振り返る「DINING OUT HIEIZAN」と精進料理のまだ見ぬ可能性。[DINING OUT HIEIZAN/滋賀県大津市]

今回のシェフを担った『villa aida』小林寛司シェフ。「直前まで何度も試作を繰り返し、味の調整をしました」。

DINING OUT HIEIZANおおいに湧いた晩餐から、一夜明けて。

1200年の歴史を持つ『比叡山延暦寺』を舞台に、これからの寺の在り方を見つめる試みとして開催された『DINING OUT HIEIZAN』。それは静謐な境内に響く盛大な拍手とともに、大成功で幕を下ろしました。

夢のような晩餐から一夜明けた朝。宿坊には料理を担当した『villa aida』小林寛司シェフの姿が。雪降る『比叡山』の景色を静かに眺めていました。その顔に浮かぶのは疲れ果てた中に、やりきった満足感が漂うような表情。そんな小林シェフが思いの丈を語ります。

晩餐の最中には、経文や真言に旋律抑揚をつけて唱える仏教声楽曲・声明が披露された。

ご僧職による朗々たる声明は荘厳そのもの。ゲストたちは食事の手を止めて聞き入った。

花びらを模った紙を撒く「散華(さんげ)」は、仏様が説法する際に天から花が舞うという伝説に由来。

ひと足はやく「延暦寺」に入った小林シェフが参拝し、料理と向き合う様子が会場のモニターに映し出された。

ゲストの手元に配られた声明の経文。ともに口ずさむことで、会場全体に一体感が生まれた。

DINING OUT HIEIZAN張り詰めた緊張が溶けた小林シェフがもらした本心。

「ホッとしました。ホッとしたということは、それだけ張り詰めていたんでしょうね」。

今の率直な心境をそう語る小林シェフ。

これまでもさまざまなイベントに出てきましたが、「これほど大勢の人が関わった規模は、はじめてだった」といいます。

「どんなイベントでも手を抜くことはありませんが、特に今回は本当に全力で出し切りました。道具もスタッフもまるごと、厨房ごと移動してきたような感覚です」。

そんな規模感もさることながら、舞台が格式高い寺院、そしてテーマが精進料理であったことなど、さまざまな「初」に挑んだことも大きいのでしょう。

「日頃から野菜を軸にした料理をしていますから、最初に精進料理と聞いても難しく思わなかったんです。乳製品は使えると聞いて安心もしていました。しかし、いざやってみると、そうはいきませんでした」。

特に苦労したのは出汁。

卵やニンニクはもちろん、タマネギもネギも使用禁止。少ないものの中でなかなか味が決まらず、宿坊の味噌汁を参考にぎりぎりまで試作を繰り返したといいます。

「日頃は結局、肉に頼っていたのだと気づきました。野菜メインの料理ではあるけど、旨みの部分では肉や魚にこれほど頼っていたのか、と。それは自分自身の中で大きな発見であり、成長にも繋がったと思います」。

乾杯の一幕。食事を前にした挨拶では、小林シェフらしい真摯な言葉で思いを語った。

メニューに添えられたのは椿の蕾。聖徳太子の愛用の椿の杖から育ったという大木があるなど、椿は比叡山延暦寺にとって特別な木。

DINING OUT HIEIZAN自身が振り返るとくに印象深い料理。

前夜、小林シェフが繰り出したコースは全12品。少量多皿で精進料理の可能性を伝えてくれましたが、実はこの皿数はたまたま。

「サンプルで届けていただいた食材は、どれも生産者の思いがこもった素晴らしいもの。だから届いた食材をすべて使いたかった。そうしたら結果的にこの品数になりました」。

全体のバランスや緩急、ボリューム感など、品数が増えれば考えることも増えるもの。それでも生産者への敬意としてすべてを無駄なく使用するのは、自身も畑を手掛ける小林シェフらしさでしょう。

無論、品数の分だけ厨房は大忙し。調理にかかる小林シェフに代わり、客席をまわり料理の説明を伝えたのはマダムの有巳さんでした。さらにその柔らかい存在感で会場の緊張を解きほぐしたのも有巳さん。有巳さんなくしては、あの会場の世界を形成することはできなかったといっても過言ではありません。名店『villa aida』のチームが一丸となり、格式高い名刹の中に、穏やかで優雅な一夜限りのダイニングを作り上げたのです。

そんな晩餐を終えた小林シェフに、特に印象深い料理をいくつか紐解いてもらいました。

「まず最初の白椀。寒いので、最初はあたたかい椀と決めていたのですが、出汁が使えない中で、どうやって旨みを出していくか。そこで知人の和食料理人から伺った手法を取り入れました。使うのは、水と味噌だけ。じっくりと時間をかけて炊くことで、味わいがまろやかになり、深い旨みが感じられるようになります」。

滋賀県の銘酒『七本鎗』で知られる冨田酒造の仕込み水と、地元の白味噌。そのふたつの素材だけで生まれる奥深く、柔らかい味わい。

雪の舞う『比叡山』で冷えた体に染みる優しい温かさ。味噌だけであることが信じられぬほど奥深い一品目は、これから供される料理への期待感を一気に高めました。

次いで小林シェフが挙げたのは、3品目に登場した「誕生」と題した料理。からしを入れたフロマージュブランに比叡湯葉、クルミなどを合わせた一品です。

「すっと創造できた料理で、そのまま店でも出せるような仕上がりになりました。パーツ的には日頃やっている料理と同様ですが、精進料理としての味のバランスを繰り返し調整しました」と小林シェフ。

口にしてみると、辛子の辛さが際立ち、味の輪郭がはっきり。そこにとろける湯葉と香ばしいクルミという複層的な食感が重なり、“食べる楽しさ”を演出します。「精進料理は素朴な、淡い味」という従来のイメージを覆す、見事な完成度の一品です。

当日のメニュー。料理名が抽象的であるのは、「直前まで追求したかったため、あえて具体を示さず」という狙いもあった。

料理を引き立てたのは、琵琶湖の畔で460余年続く「冨田酒造」の銘酒「七本鎗」。当日は15代目蔵元・冨田泰伸氏が自ら燗付け。

12品の料理を20名分という大仕事でも、厨房での小林シェフは冷静に料理と向き合った。

「白椀」。水と味噌と技術だけで仕上げた白椀。角のないまろやかな味わいと、深いコクが感じられた。

「三部作」と題した3品の前菜。左からみりんジャムを添えた小蕪のピクルス、フェンネルの風味を加えた黒豆、にんじんのタルトレット。

「誕生」。辛子入りのフロマージュブランと比叡湯葉の一皿。塩味や酸味、辛味がしっかりと主張した。

「凛々」。ゆずのクリームを和えて味わうサラダは、野菜の旨みを引き出す「villa aida」らしさがもっとも表れた一品。合わせるのは「七本鎗」の純米にごり酒。

「雪暦」。酒粕に漬けた絹ごし豆腐を、チコリコーヒーのソース、ふきのとうのグラニテとともに。凝縮された豆腐の旨みで、食べごたえがあった。

「導き」。湯葉ににんじん、干し芋などを包んで揚げ、みかんのソースを合わせた一品。精進料理という制限のなか、小林シェフの技術と発想が光る。

「森土壌」。オリーブオイルでソテーしたしいたけに、焼きトマトのソースと焦がしバターのソースを絡めた一皿。

「風土」。裏ごしした胡麻豆腐に、辛子酢味噌を添えて。味のバリエーションが多彩で、品数は多くとも、毎皿新鮮な驚きがあった。合わせるのは『七本鑓』の○○。

「独創」。メインディッシュの扱いだった生麩のソテー。力強い赤ワインとのペアリングで、その味わいがいっそう際立った。

「留」。食事は玄米を使ったちらし寿司。レンコンや菜の花で複雑な味わいを生んだ。

感動を隠せないゲストたち。中には、過去00回ホストを担ったコラムニスト・中村孝則氏の姿も。「ゲストはもちろん、『比叡山』の方々も驚かせたい」という小林シェフの願いは見事に叶った。

DINING OUT HIEIZANご僧職の柔軟な姿勢が、精進料理の新たな扉を開く。

そして最後に小林シェフが言及したのは、アマゾンカカオを使ったデザート。

「実は『比叡山』の精進料理のしきたりに、“カカオを使ってはいけない”という言及がありませんでした。それは想定していないだけかもしれませんが、協議を重ねた結果、“駄目と書いてないから使ってみましょう”ということで」。

当時を振り返り、やや苦笑いしながら話す小林シェフですが、これは冗談ではなく、今とこれからの『比叡山』の在り方を象徴するメニューでもあります。

「このカカオの例に代表されるように、今回お会いした『比叡山』の方々は、非常に柔軟。歴史を大切にしていながら柔軟で前向きで、この『DINING OUT』というイベントを非常に大切にしている印象でした」。

そして、その思いを受け止めるべく、斬新で、バラエティに富んだ、攻める精進料理に挑んだのです。

小林シェフの狙い通り、全12品の料理はどれも、強く五感に訴えるような、鮮烈な味わいが印象的でした。そして、常識を飛び越える “攻める料理”でありながら、随所に『比叡山』の伝統を取り入れるような“守る味”にも敬意を払う。そのバランスの見事さに胸を打たれます。

「今の日本を伝えられるような料理になったと思います。例えば、外国からいらした方が食べた時に、サムライ、ニンジャではなく、“現代の日本はこうなっています”と伝わるような料理。それを『比叡山延暦寺』という格式ある寺から発信できることにも意味があります」。

稀代の名シェフが手掛けた、新たな精進料理。それは『比叡山延暦寺』の、そして日本の新たな文化として受け継がれていくのかもしれません。

「異文化」。アマゾンカカオのチョコレートにイチゴ、黒米、ふきのとうのシロップを合わせたデザート。

フォークとスプーンでいただくチョコレートのデザート。この挑戦的な精進料理こそ、比叡山の柔軟な姿勢の象徴。

「拝謝」。締めのプティフルールは、『延暦寺』のお茶とともに。

『DINING OUT』後の宴では、参加者たちとテーブルを囲みリラックスする姿も。

ドリンクを担当したマダムの有巳氏、ホストを務めた比叡山金台院住職・礒村良定氏とともに。


Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

飛騨地方の山の恵み。ふきのとうを万能な惣菜でいただく。[和光アネックス/東京都中央区]

瓶から覗く美しい緑が鮮度の良さを感じる。地採れのふきのとうを塩漬けにし、ほろ苦さをそのままに、さっぱりとした薄味しょうゆに炊き上げる。

WAKO ANNEX美味しい季節の到来。春の代名詞、ふきのとうのほろ苦い口福。

創業60年の老舗、岐阜県飛騨地方で活動する「飛騨かわい やまさち工房」は、地元で採れた山菜などの山の幸を加工し、美味を創造しています。

季節限定の雪中酒や健康に配慮したグラノーラなど、多くの人気商品を販売していますが、定番商品も多数用意。えのき、山ぶき、なめこ、しめじ、ぜんまい……。前述の通り、多彩な山の幸を活かした商品化をしていますが、これからの季節にお勧めしたいのは、ふきのとう。

春一番を知らせる山菜の代名詞、地採れのふきのとうを塩漬けにし、地下水で洗浄。素材の香りをそのままに、さっぱりとした薄味しょうゆに炊き上げています。独特のほろ苦さ、風味を活かした控えめな塩分は、実に優しい味わい。

そのままいただくも良し。酒の肴としても良し。アレンジするのであれば、味噌と混ぜておでん、田楽、焼きおにぎりなどもお楽しみいただけます。

ぜひ、自分だけの味わい方を探してみてはいかがでしょうか。

そのままでも十分美味しいが、細かく刻んだクリームチーズに合わせると、また違った「惣菜 ふきのとう」の味わいを楽しめる。酒の肴にも最適。

塩むすびに「惣菜 ふきのとう」をただ乗せるだけ。シンプルな食べ方だが、抜群に美味しく、驚くほど食が進む。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

世の中の価値とは一線を画す、独自の価値から生まれたマーマレード。[和光アネックス/東京都中央区]

「福岡正信自然農園」のこだわりのひとつは、商品ラベル。商品名、原材料、アレルギーなど、消費者にとって重要な情報を美しく1書体のみ、手仕事による活版印刷で仕上げる。

WAKO ANNEX柑橘も人間や動物と同じように命を宿した存在だと信じている。

奈良県磯城郡の「福岡正信自然農園」の柑橘栽培は、一般的に言われる「美味しい」を追求していません。自然との循環を軸とした農法ゆえ、植物が持ち合わせる野性味溢れる躍動感や季節の表情を大切にしているからです。そして、その先にあるものが「健康への安心感」への保証。自然農法=引き算の法則にそって作られたマーマレードは、シンプルの先にあるシンプル。できるだけ余分なものを取り除き、素材本来の良さを際立たせます。

中でも、「甘夏マーマレード・フレッシュ」は、瑞々しい美味しさが特徴。柑橘そのものの味わいを出すため、北海道産のてん菜100%の砂糖を使用し、糖度を低めにおさえて酸味のあるフレッシュな香りを引き出しています。

丁寧に手剥きした甘夏の苦みを抑え、かつ食感は残るように、絶妙な厚みでスライス。甘夏のほのかな苦みと精製されていないてん菜糖のコク・レモンの爽やかな酸味を感じる一品です。果肉を多めに入れることで、食べごたえを感じることのできるマーマレードに仕上げています。

「福岡正信自然農園」のマーマレードは、果実を丸ごと使い切る「一物全体」の精神から生まれています。自然界との呼応から育まれた柑橘は、人間や動物と同じように命を宿した存在。口に含んだ瞬間、「自然の産物の味」、「命の味」を感じるでしょう。

「福岡正信自然農園」は、本場イギリス・ダルメインで開催された「世界マーマレードアワード」金賞を受賞。自ら世の中の価値と異なるかもしれないと言いつつも、世界が認めた味なのです。

柑橘そのものの味わいを出すため、北海道産のてん菜100%の砂糖を使用。糖度を低めにおさえて酸味のあるフレッシュな香りが特徴。果肉を多めに入れることで、食べごたえを感じることのできるマーマレードに仕上げる。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

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雪舞う「比叡山延暦寺」にて解き放された「DINING OUT」の真実。[DINING OUT HIEIZAN/滋賀県大津市]

会場となった「延暦寺大書院」旭光の間。この荘厳な場で食事を楽しみ、酒を傾けることができる機会は極めて稀少。

DINING OUT HIEIZANあの名刹で開催された20回目の「DINING OUT」。

2023年2月。20回目となる「DINING OUT」が開催されました。舞台は、「比叡山延暦寺」。歴史の教科書で、大河ドラマで、さまざまなメディアで、その名を目にしたことがない人はいないでしょう。

1200年という悠久の歴史を持つこの名刹を舞台に、幻想的で高い精神性があり、そしてある種のエンターテイメント性をも併せ持つ1夜限りの晩餐が繰り広げられたのです。

晩餐だけではありません。ご住職の案内で境内を巡り、一般非公開のお堂を特別に拝観し、そこに息づく歴史を肌で感じる。「延暦寺」の全面協力のもと、この日だけの特別な体験が数多く準備されていたのです。

そして舞台の情報を十分にインプットした上で味わうのは、名シェフが手掛ける精進料理。ただ舌で味わうのではなく、脳で、体で、理解した上で味わう料理。それは、ゲストたちの胸に、確かな足跡を残しました。

そんな「DINING OUT HIEIZAN」の模様をお伝えします。

修行の場である「延暦寺」史上で極めて異例の食イベントとなった今回。写真は「浄土院最澄廟」。

「比叡山」の広大な山中が「延暦寺」の境内。歴史の中で刻まれた美しさが随所に残されている。

DINING OUT HIEIZAN袈裟姿の語り部。ホストを務めるのは、ご僧職・礒村良定。

京都駅から迎えのハイヤーに乗って一路、滋賀県へ。市街を抜けて1時間ほど、やがて車は山道に入りました。木々の間に琵琶湖と大津市街を見下ろします。実は、ここはすでに「比叡山」の境内。「延暦寺」はひとつの建物ではなく、「比叡山」の山内1700ヘクタールの境内に点在する約1000の堂宇の総称。新宿区の面積と同等の広大な境内と聞けば、そのスケールが想像できることでしょう。

「比叡山延暦寺」は、平安時代に最澄により開かれた天台宗の総本山。その1200年の歴史の中で、日本における仏教史に多大なる影響を及ぼしてきました。浄土宗の開祖・法然、浄土真宗の親鸞、日蓮宗の日蓮など著名な僧がこの「比叡山」で修行をしたことからも、その重要度が伺えます。最初の目的地は、その境内にある「ガーデンミュージアム比叡」。展望台で待っていた袈裟を着た人物こそ、今回の「DINING OUT」のホストである礒村良定氏でした。

これまでの「DINING OUT」でホストを務めたのは、土地や風土、食に造詣の深い文化人たち。しかしここ「延暦寺」でゲストを迎えるにあたり、この地を誰よりも深く知るご住職がホストとして立ち上がったのです。

礒村氏は「比叡山金台院」の現役のご住職。これほど歴史ある寺のご僧職と聞き緊張を隠せぬゲストたちに、礒村氏はにこやかに語りかけました。

「今日の日を待ちわびていました。難しく考えず、どうか延暦寺を楽しんでください」。

それから「延暦寺」の概要を伝える礒村氏。しかしそれは難しい説法ではなく、大学の学部やゼミに例えたわかりやすい話。砕けた口調、ユーモアあふれる話術、礒村氏の親しみやすい人柄に、ゲストたちはたちまち引き込まれました。

「延暦寺」へと向かう道中。車窓からは雄大な琵琶湖を一望した。

冬期閉鎖中の「ガーデンミュージアム比叡」を特別に開放。雪に覆われた庭園を見学する貴重な体験。

展望台にてホストの礒村氏が登場。ユーモアあふれる話術で、はやくもゲストの心を掴んだ。

DINING OUT HIEIZAN少しずつ、確実に、「比叡山延暦寺」の世界へと誘う境内巡り。

夕食までの時間、礒村氏に誘われ、「比叡山延暦寺」の見学に向かいました。最初に訪れたのは「浄土院」。伝教大師最澄廟がある、境内でもっとも神聖な場所です。

この廟のなかでは最澄がいまなお生きているかのように、毎日食事が捧げられ、落ち葉ひとつないほど掃き清められているとか。

「今でもここに来ると気持ちが引き締まります」。そう話す礒村氏の言葉通り、周囲には厳かな空気が漂います。

次いで訪れたのは、2棟のまったく同じ造りの建物が渡り廊下で結ばれる常行堂と法華堂。渡り廊下を天秤棒にして武蔵坊弁慶が担いだという伝説があり、「にない堂」と呼ばれています。

通常は入ることができない常行堂内部に招かれ、その空気を肌で感じるゲストたち。「比叡山」の堂宇の多くは本来、修行の場であり、この常行堂では90日間念仏を唱えながら時計回りに堂内を歩き続けるという修行が行われています。休憩できるのは食事、厠、沐浴の時間のみ。睡眠時間の設定さえなく、ひたすら暗い堂内を歩くという想像を絶する修行です。

ちなみに、先の「浄土院」では14年にわたり山籠りを続ける修行僧がいるといいます。外界に触れず、ただ自身の心と信仰心と向き合う。礒村氏の穏やかな語り口で和らいではいますが、その修行の凄まじさに改めてこの地の神聖さがよぎります。

親しみやすい口調で語られるも、歴史や寺の在り方など、その内容の重厚さは言うまでもありません。礒村氏のホストによって、ゲストたちは「比叡山延暦寺」を知り、親しみ、そして、この地で開かれる晩餐への期待を高めていきました。

「浄土院」では、十二年籠山の僧が伝教大師最澄が生きているかのように奉仕をしている。

最澄廟にて。「ここに来ると叱られている気持ちになる」と冗談めかすも、礒村氏の敬愛の念が伝わる。

同じ造りの2棟がつながる「にない堂」。通常は、一般非公開。

自身もこの堂での修行を終えた礒村氏の言葉が、現実感を持ってゲストの胸に染みる。

堂内はろうそくの灯りのみ。ここで90日もの間、ただ経文を唱えながらあるき続ける修行がある。

DINING OUT HIEIZAN境内の名建築で、読経を背景にワイングラスを傾ける。

ディナー会場となったのは、境内でもひときわ重厚な存在感を放つ和風建築の「大書院」。稀代の建築家・武田五一により設計され東京赤坂に建築された邸宅を、1928年の開創1150年記念事業として移築したもの。

この建物の中で食事をし、あまつさえ酒を楽しめる人が、どれだけいることでしょう。「比叡山延暦寺」の全面協力があり、実現したこの貴重な機会。

「1200年の歴史の中、外部からシェフを招聘してイベントをするのは初めてです」。そんな礒村氏の挨拶の後、いよいよ食事がはじまります。

今回の料理を手掛けるのは、和歌山「villa aida」小林寛司シェフ。自身の畑で育てた野菜を軸にした料理で、「ミシュランガイド」二つ星とグリーンスター、「ゴ・エ・ミヨ」3トック、「アジアのベストレストラン50」14位など躍進を続ける注目の料理人です。

そして、寺院内での食事であるため、その内容は精進料理。いかに野菜料理のエキスパートである小林シェフをもっても、精進料理は未知の領域。どのような解釈で、どのような料理を披露してくれるのでしょうか。

大書院は宿泊場所の宿坊から歩いて向かえる距離。日没後の境内は昼とは異なる幽玄な雰囲気が漂っていた。

晩餐の会場となった大書院。移築後100年近くが経ってもなお色褪せぬ威風堂々たる姿。

礒村氏、小林シェフの署名が入った品書き。内容が想像できないような料理名が並ぶ。

サービスを担ったのは「JALふるさと応援隊」のメンバー。機上で培ったプロのサービスを披露しつつ「この素晴らしい体験を今後に活かしたい」と口を揃えた。

小林寛司シェフの手にかかり、精進料理は進化する。

礒村氏と小林シェフの挨拶から、ディナーがスタート。一品目は、白椀が登場しました。出汁を使わず、滋賀県「富田酒造」の仕込み水と白味噌だけを低温でじっくり炊いたという椀。その奥深くまろやかな味わいに、続く料理への期待値も上がります。

続いて3種の前菜、辛子を加えたフロマージュブラン、ゆずクリームで味わうサラダ、豆腐とふきのとうのグラニテ、春巻き状に揚げた湯葉、と次々と登場する料理。食感豊かで、味の輪郭がくっきりとした料理は、「精進料理」の語感が持つ、質素で素朴というイメージとは離れたおいしさです。

メインディッシュの生麩のソテー、玄米を使ったちらし寿司、そしてデザートにはチョコレートが登場。プティフルールまで、全12皿のバラエティ豊かな味わいが緩急をつけながら供され、ゲストたちを魅了しました。

食事の途中には、礒村氏の話のほか、旋律をつけて経文を唱える声楽曲・声明の披露も。重厚な建築の内部に満ちる荘厳な空気。その中でワイングラスを傾け、美食を堪能するまたとない時間は、単なる希少価値ではなく、食とは何か、豊かさとは何か、をゲストに問いかけました。

コロナ禍によって、さまざまな心境の変化を経ての「DINING OUT」は、「延暦寺」という舞台と相まって、感慨深い時間となった。

挨拶に登場した小林シェフ。精進料理の難しさと手応えを語ってくれた。右は、マダム有巳さん。

礒村氏の挨拶と乾杯の発声がディナー開始の合図。

三部作と題した前菜。みりんジャムとこかぶのピクルス、バターソースを合わせた黒豆、にんじんのタルトレット。

酒粕に漬けた絹ごし豆腐にチコリコーヒーのソース、ふきのとうのグラニテ。

玄米の酢飯に蓮根、菜の花などを合わせたちらし寿司。

重厚な場でありながら、晩餐はいたって和やかに進んだ。

DINING OUT HIEIZAN語り合い、理解し合う。寺という舞台がもたらした連鎖。

心地良い余韻を残して終わった晩餐。しかし、この後にも楽しみが待っていました。

これまでの「DINING OUT」では、食事が終わると解散となるのが常でしたが、今回は誰でも参加できる宴を準備。

袈裟から作務衣に着替えた礒村氏、片付けを終えた小林シェフも合流。じっくり話す機会も少なかったホストやシェフと語り、また参加者同士で交流を深めるかつてない場となりました。

明けて翌朝。まだ薄暗い境内を歩き、ゲストたちが向かったのは「延暦寺」の総本堂である「根本中堂」。ここで毎朝行われている朝のお務めを見学します。

薄暗いお堂に響く読経の声。昨日からじっくりと「延暦寺」を見て回ったゲストたちは、極寒のお堂で行われる毎朝のお務めを見学し、さらに深く延暦寺を知ることができました。

礒村氏からの最後の話は、「法華総持院東塔」で伝えられました。通常は非公開のこのお堂を特別に拝観しながら、この2日間ですっかり聞き慣れた礒村氏の言葉に耳を傾けます。

「『延暦寺』を好きになっていただき、またいつか遊びにきてください」。

シンプルな言葉で、まっすぐに伝えられる言葉。それは1200年の歴史と、日本を代表する寺院としての重責を担いながら、それでも飛び出した礒村氏の本心なのでしょう。

こうして20回目となる「DINING OUT HIEIZAN」は幕を下ろしました。

歴史ある名刹の建物内で、ご住職によるホストで、精進料理をいただく。シェフやホストや参加者同士の交流が生まれ、また会場となった延暦寺への理解と愛着も育む。それはこれまでの開催からさらに一歩進んだ、新たな「DINING OUT」。この貴重な体験はきっと、参加したゲストすべての心に刻まれ、人生の道標となることでしょう。

「DINING OUT」終了後の宴。ゲスト、シェフ、ホストたちが皆でその感動を語らう。

早朝の境内。凍結した階段を慎重に歩く。

朝のお務めを見学。静謐な堂内に朗々たる声が響く。

締めの挨拶をする礒村氏を囲んで。名残惜しさから多くのゲストが終了後も残り、礒村氏との写真を求めた。

「まずは『延暦寺』を楽しんでほしい」という礒村氏の願いが形となった2日間だった。


Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

松本高山Big Bridge構想。それは、世界中の旅人が目指す目的地の創造。

「中部山岳国立公園」の飛驒山脈にある「穂高岳」は、標高3,190mの山を主峰とする山々の総称。日本百名山、新日本百名山及び花の百名山に選定される。

松本高山Big Bridge構想つながることによって再発見する、風土の力。

「松本高山Big Bridge構想」とは、「中部山岳国立公園」をはさみ、信州松本と飛騨高山をつなぐ横断ルートを「大きな架け橋」=Big Bridgeに例え、より美しい日本を体験できる旅を世界に向けて発信していくプロジェクトです。

「環境省」が中心となり、日本の国立公園を世界水準の「ナショナルパーク」としてブランド化することを目指します。

今回の起終点は、「信州松本」と「飛騨高山」。その間を「槍穂高」、「新穂高」、「上高地」、「沢渡」、「平湯」、「白骨」、「乗鞍高原」、「乗鞍岳」などの「中部山岳国立公園」がつなぎます。

特筆すべきは、2県にわたり、その「橋」が架けられていること。これまでのローカル発信は、街から、地域から、県からというスタイルは数多くあれど、異なる県同士による発信は極めて稀有。これからのケーススタディになりうる新しいモデルとも言えます。

つながることのなかった「点」が結ばれることによって「面」になり、総合循環型の観光という新たな世界が誕生。3,000m級の山岳と80km県内にあるふたつの都市圏の訪問は、文化、自然、歴史など、異なる特別を体験することができ、より風土の魅力を感じることができるでしょう。

北アルプル登山はもちろん、山岳ガイドや山小屋宿泊から得る共生の学び、里山の美しい自然を巡るトレッキング、多彩な泉質の温泉、木工や民芸などの伝統文化……。心と体、双方のアプローチから得るアクティビティは、きっと、日本人ですら日本の感動を再発見できるはずです。

安川通りを登りつめた先にある風情漂う「東山寺町」、国の重要文化財にも指定されている「日下部民藝館」、飛騨国の一宮として古くより飛騨人の心の拠り所として親しまれている「飛騨一宮水無神社」、江戸幕府が飛騨国を直轄領として管理するために設置した代官所・飛騨郡代役所「高山陣屋」など、飛騨高山には、様々な歴史と邂逅できる建物や町がある。

飛騨高山では、城下町の中心、商人町として発達した上町、下町の三筋の町並みを合わせ、「古い町並」と呼ぶ。出格子の連なる軒下には用水が流れ、造り酒屋には看板ともいわれる杉の葉を玉にした「酒ばやし」が下がり町家の大戸や、老舗ののれんも連なる。

上高地の玄関口、沢渡にある温泉地「さわんど温泉」。周囲には「乗鞍高原」や「白骨温泉」、「北アルプス槍穂高連峰」などの名所も控える。

長野県松本市安曇(旧国信濃国)にある「白骨温泉」。北アルプス・乗鞍岳の山麓(標高1,400mほど)の「中部山岳国立公園」区域内に位置し、国民保養温泉地にも指定される。

松本高山Big Bridge構想垣根を超えた横断。そのルートの名は、「Kita Alps Traverse Route」。

前述、「松本高山Big Bridge構想」によって生まれたコースは、「Kita Alps Traverse Route」という名称で世界に発信されていきます。

「北アルプス=Kita Alpsという固有名詞が世界に広がってほしい。そして、山岳を横断=Traverseする体験をしていただきたい。そんな思いを名称に込めました」。

そう語るのは、本プロジェクトの中心人物である「環境省」中部山岳国立公園管理事務所 国立公園利用企画官の笠井大介氏です。

「信州松本と飛騨高山をひとつの一体的な観光圏としてつなぐために、『松本高山Big Bridge構想』を立ち上げました。そんな両都市の中心にあるものが『中部山岳国立公園』です。このプロジェクトをきっかけに、国立公園の自然、歴史、伝統、そして、町や食の文化など、すべての土地の恵みを活かした素材をアピールしていきたい。信州松本と飛騨高山移動の優位性もあり、国内はもちろん、海外の方々にも、体験いただきたい。『Kita Alps Traverse Route』を通して日本を知っていただきたいと思っています」と言葉を続けます。

昨今、海外の渡航も緩和され、この地域においてもアメリカ、デンマーク、台湾、香港、シンガポール、タイなどのゲストも増えてきており、中には、2週間かけてロングトレイルをする本格派からも支持を得ています。

「世界中に山や自然ありますが、この地域の特徴は、稜線上を長距離トレイルできるところにあります。これは世界から見ても珍しい地形。ゆえに、2週間かけてトレイルできるのです」と笠井氏。

しかし、「Kita Alps Traverse Route」の魅力は山岳だけではありません。例えば、「乗鞍高原」では、ガイドサービスに長けており、トレイルはもちろん、スノーシューやロードも整備。実は、公式で国立公園内をマウンテンバイクで走ることができるのは、国内において唯一ここだけ。上級、中級など、スタイルに合わせた対応も可能なため、安心して自然を満喫することができます。そのほか、普段では踏み入れることができない敷地にも訪れることができる貴重な体験もガイドサービスの利点の好例です。バイリンガル対応にも積極的なため、世界への発信の意欲も伺えます。

視点を変えれば、飛騨高山は古い町並みが景観を形成し、長きにわたり歩んできた文化があります。歴史を紐解くことによって深まる理解は、自然と一心同体の暮らしの背景。建物は北アルプスの木で作られ、その木が育った水によって育まれた食材は、今度は料理に活かされ、郷土料理や食文化が生まれます。これもまた、前述、総合循環型の観光の考え方のひとつ。ストーリーを知ることで生まれた連鎖もブリッジしていくことが、「松本高山Big Bridge構想」なのです。

このプロジェクトには、Key Peopleと呼ばれる地域のメンバーも参画。山小屋「横尾山荘」、アウトドアガイド&コンドミニアム「ノーススター」、里山サイクリングのツアーガイド「美ら地球」、5軒の山小屋を運営する「槍ヶ岳山荘」、岐阜県と長野県の県境に建つ山小屋「穂高岳山荘」、上高地氷壁の宿「徳澤園」、平湯の温泉宿「ゆらゆの森」、飛騨の家具「飛騨産業」、信州松本の宿「美ヶ原温泉 翔峰」など、住民の士気も高い。

県、地域、街、ジャンルを超え、人、もの、こと、自然、文化がつながる。多角的にブリッジできたことは、国立公園の存在が大きかったのかもしれません。

これから橋は、もっと大きくなる。

飛騨山脈南部の長野県松本市と岐阜県高山市にまたがる「剣ヶ峰」(標高3,026 m)を主峰とする山々を総称すり「乗鞍岳」。

飛騨山脈南部東側、北アルプスの南端に位置する「乗鞍高原」。標高3,026mの裾野(標高1,200~1,800m付近)に広がる山岳地にありながら、古くから人々の生活が営まれ、「住む」アルプスと呼ばれる。

松本にある標高約1500メートルの山岳景勝地「上高地」。国の文化財(特別名勝・特別天然記念物)にも指定される。

西に北アルプス、東に美ヶ原高原が望める松本は、長野県のほぼ真ん中に位置。信州の旨い食は松本に集まるとも言われ、蕎麦をはじめ、漬物、山賊焼き、馬刺し、松本一本ねぎなど、料理・食材ともに美味が豊富。


Text:YUICHI KURAMOCHI

SDGsにも配慮。東北の旨味が詰まったホタテとしいたけのアヒージョ。[和光アネックス/東京都中央区]

未来の笑顔をシェアするをコンセプトとした食とデザインの会社「LUNNY’S VEGGIE(ラニーズ べジー)」が展開するアヒージョ。食べ終わっても嬉しくなるようなキュートなデザインは、キャラクターアーティスト・タロアウト氏によるもの。

WAKO ANNEX地元の食材をたっぷり使用。みんなで食べたい「EVERY 1缶」。

ポップなデザインが目を引く缶詰は、環境省が循環型社会の実現のために進めている「つなげよう支えよう森里川海」プロジェクトのアンバサダーであり、野菜が大好きな料理家・藤田承紀(よしき)氏とデザインに命を吹き込むキャラクターアーティスト・タロアウト氏が始めた「LUNNY’S VEGGIE(ラニーズ べジー)」。その中身は、東北の食材をたっぷりと使ったアヒージョです。

青森県陸奧湾のホタテ、宮城県栗原市のしいたけ、宮城県「秋保ワイナリー」の白ワインを使用したアヒージョは、東北の旨味が溢れています。ホタテはひもごと、しいたけは軸まで使用することによって食材を使い切り、SDGsにも配慮。また、オリーブオイルに米油をブレンドし、白ワインの酸味を効かせた濃厚な味わいは、食欲もそそり、どんどんお箸が進む味わいに仕上げています。

サラダと絡める、バケットに乗せる、粗く切ってパスタとからめるなど、様々なアレンジもぜひ。

青森県産のベビーホタテ、宮城県産のふぞろい椎茸と「秋保ワイナリー」の白ワインを使ったアヒージョ。油を少なめにし、ワインをしっかりきかせることにより、コクと軽やかさを併せ持つ味わいに。地元の食材、地元の企業とも協業し、本来捨てている椎茸の軸も使用など、サスティナビリティの観点も踏まえた逸品。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
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Photographs:JIRO OHTANI
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節目をいただく喜び。宴や祝いの席は、竹ちまきで。[和光アネックス/東京都中央区]

見た目にもインパクトのある竹ちまき。器となる竹も、1本1本、職人による手作り。これからの季節は、お花見にもお勧め。

WAKO ANNEX桜を愛でながら、桜おこわを食す粋。

節目を持ちながら枝分かれすることなく、強くしなやかに、天に向かって真っすぐ伸びる竹。それと同じように、何度かの節目を迎える人生においても、慶び事や祝い事を行く中にも重ねていただきたい。そんな願いを込めて誕生したのが福岡県「アルファー」が生んだ「竹千寿」の竹ちまきです。

「竹千寿」に使用される素材のほとんどは九州産。竹ちまきは、もち米を100%使用し、食材を竹に詰めてから蒸し上げていきます。器となる竹においても自ら竹山より採取し、1本1本職人の手によって作られています。

鶏ごぼう、穴子、鯛バジル、かちえびなど、数種ある竹ちまきの中から、今回はこれからの季節にぴったりの桜おこわをご紹介。見た目、香り、味など、五感を通して楽しめる一品は、場を華やかに彩ります。

桜を愛でながら、桜おこわを食す粋。そんな乙な宴もまた一興です。

竹は半分に割られており、食べやすい仕様に。少し温めれば、より味わ深く、香りが広がり、美味。温めた直後は竹が熱くなるため、注意してお召し上がりを。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。
※本品は、店頭販売のみとなります。オンラインでは購入できませんので、あらかじめご了承ください。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
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Photographs:JIRO OHTANI
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これが新潟の出した答え。「新潟ガストロノミーアワード」発足。

飲食部門において特別賞を受賞した面々。四季が豊かで食材も多彩。自然の恵みが素晴らしい新潟だが、それ以上に人の恵みが素晴らしいと思うほど、会場では心温まるスピーチが多かった。

新潟ガストロノミーアワードアワードを通して、作り手、食べ手、生産者の輪が広がる。目指すは世界へ。

地域の風土、歴史や文化を料理に表現するローカル・ガストロノミー。2023年2月に発表された『新潟ガストロノミーアワード』は、この理念を体現し、地域社会との関わりに積極的な新潟県内の飲食店や宿泊施設、特産品などを発掘する取り組みです。

総合プロデューサーは、雑誌『自遊人』、体験型複合施設『里山十帖』などを運営する岩佐十良氏。2004年、東京から新潟県魚沼に拠点を移した当時は、現在のように地域が注目されるような風潮はなく、早過ぎる先見の行動。19年の歳月を経た集大成こそ、このアワードと言っても過言ではありません。

今回の受賞者は、飲食部門100、旅館・ホテル部門30、特産品部門30、計160。その審査を担うのは、各界で活躍する食通たち。県外9名、県内5名、計14名の審査員を束ねる特別審査員長には、『世界のベストレストラン50』、『アジアのベストレストラン50』の日本評議委員長も務める中村孝則氏です。

県外の審査員は各部門に分かれており、シェフ部門からは、和歌山『Villa AiDA』小林寛司氏、大阪『La Cime』高田裕介氏、福岡『Goh』福山 剛氏。メディア部門からは、温泉ビューティ研究家・旅行作家の石井宏子さん、食の編集に携わる山口繭子さん、柴田書店の淀野晃一氏。フーディ部門からは、『青綾中学校』、『青綾高等学校』校長でありながら、『世界のベストレストラン50』日本支部事務局にも携わる青田泰明氏、『An Di』、『AnCom』オーナーであり、ワインテイスター・ソムリエの大越基裕氏、音楽プロデューサー・選曲家の田中知之氏。県内からは、食と料理の研究家・木村正晃氏、『新潟Komachi』編集長の佐藤亜弥子さん、料理研究家・佐藤智香子さん、『月間にいがた』編集長・霜鳥彩さん、『月間キャレル』編集長の間仁田 眞澄さんです。

各人、それぞれの想いはあれど、特別審査員長と14名の審査員全員が同じことを口にした言葉があります。

「難しかった」。

会場には、新潟で活躍する人々が一堂に集結。アワードの受賞が主ではあるが、交流の場にもなり、県内の絆もより強固に。

「審査委員の方々は、喧々諤々の意見を述べながら、リストをまとめました。ほかのガイドと比べて違うことは、私たちは美味しさだけを評価するわけではありません。食材との結び付き、(燕三条のような)産業との結びつき、作り手の想い、それらを一番強く信念に起き、選出しました。全ての新潟の人たちと手を取り合って、新潟を盛り上げていきたいと思います」と総合プロデューサーの岩佐氏。

「審査には、本当に苦労しました。今回ご紹介できなかった素晴らしいレストランや人、生産者が新潟にはまだたくさんいます。ぜひ、今後も発信し続けたいと思います」と特別審査員長の中村氏。

新潟ガストロノミーアワード第一回、受賞者を発表。まだ知らなかった感動がここに。

まず、飲食部門100の中から大賞に選ばれたのは、新潟市の『my farm table おにや』。オーナーシェフである鬼嶋大之氏は、鶏をメインの食材とし、自ら養鶏場と養豚場も持ちます。驚くべきは、鶏肉の宝石と呼ばれるシャポン(去勢した雄鶏)を飼育していること。

「実は誰かに師事して料理を勉強したことがないんです……。ですから、どこかで負い目をずっと感じていました。お店を始めてからも、外的要因で売り上げが半分以下に落ち込んでしまった時期もあり、このままでは潰れてしまうという危機に面したこともありました。その時、もっと強力な武器を作らなければいけないと思ったんです。そこでたどり着いたのが鶏でした。様々な養鶏場を巡る中、お金をお支払いするので美味しい鶏を飼育して欲しいとお願いしても、コストと手間が掛かりすぎるからと誰も受け入れてくれませんでした。養鶏業者の話から飼育方法はわかった。しかし誰も作ってくれない。では自分でやろう。そんな流れから、今のスタイルになっていきました」と話す鬼嶋氏は、このようなプロセスを経て、シャポンと結実します。

「名物の鶏の刺身は、その徹底した管理と鮮度、調理技術で、あらゆる部位を生で食すことができます。鶏の生食は世界中でも珍しいですが、内臓を含めたバリエーションにおいても特筆に値します」と審査員一同。(そのほかの受賞リストは、こちらをご参照ください)

そして、旅館・ホテル30の中から大賞に選ばれたのは、三条市の『Snow Peak FIELD SPA HEADQUARTERS』。「人生に、野あそびを。」を理念に掲げ、大自然の圧倒的なラグジュアリーな施設を擁しながら、独自の世界観を構築。設計は、日本を代表する隈 研吾氏です。

「10年前から構想にあったものが、ようやく具現化できた施設です。『Snow Peak FIELD SPA HEADQUARTERS』は、まず、土地ありきで創造されました。ゆえに、あの土地でできることの最大を表現しました」と『スノーピーク』代表取締役社長の山井 太氏。

また、料理に関しては、洋のスタイルでありながらも、和の根幹が宿ります。それもそのはず。腕を振るうのは、『神楽坂 石かわ』でも修行した土門一滋氏です。「料理の源や味の輪郭として、和を大切にしたいと思っていました」と山井氏。

「宿泊はもちろん、『新潟ガストロノミーアワード』の名にも相応しく、内包する『レストラン 雪峰』の料理もまた、素晴らしい。食材の生まれた場所や人を丁寧に解説していただけるため、地域への愛情も感じ、創意を感じます。今回は、旅館・ホテルでの受賞ですが、今後は、飲食部門の受賞の可能性も大いにある」と審査員一同。(そのほかの受賞リストは、こちらをご参照ください)

最後に、特産品30の中から大賞に選ばれたのは、妙高市の『かんずり』。豪雪地帯、妙高市に伝統の調味料「かんずり」あり。完成までに数年かかる唐辛子の発酵香辛調味料は、「西の柚子胡椒、東のかんずり」とも言われるほど。冷え込みの厳しい時期に自家製の唐辛子を雪上で「寒ざらし(雪さらし)」にすることで甘みを引き出す独自の製法で作られています。

「人生の中で様々な節目があると思いますが、今回の受賞はそのひとつになると思います。かんずりは、特別な香辛料ではなく、一般の家庭の香辛料です。これからも皆様に愛されるように精進します」と代表取締役社長の東條昭人氏。

「実は、食材である唐辛子の原産地は、南国。それにも関わらず、雪国で独自の発展を遂げた面白さと製法は、この土地を代表する唯一無二の存在だと思います」と審査員一同。(そのほかの受賞リストは、こちらをご参照ください)

しかし、大賞や特別賞、受賞者リストにおいて、審査員のひとり、青田氏が何気なく口にした「満場一致ではないと思いますけれども……」という前段に、真摯な審査を感じます。それは、「比べられないものを比べる苦しみ」だと推測します。

ゆえに、『新潟ガストロノミーアワード』には、順位はありません。なぜなら、受賞者には、それぞれ独自の価値があるから。

飲食部門100の中から大賞に選ばれや新潟市の『my farm table おにや』。「自分がこんな名誉ある賞をいただけるなんて、信じられません。みなさん申し訳ございません……。こういう場に慣れてないので早く(壇上から)下りたいです……」とはにかむ鬼嶋氏の言葉が会場を微笑ましい空気に包み込む。

旅館・ホテル30の中から大賞に選ばれた『Snow Peak FIELD SPA HEADQUARTERS』。「後発の施設が受賞し、恐縮です。これから新潟に新しい風を吹かせるようにしたいと思います」と話す山井氏。

華やかな会場には、県内・県外から多くの人々が集い、『新潟ガストロノミーアワード』の注目度が伺える。各部門の特別賞受賞者にはトロフィーが授与される。

新潟ガストロノミーアワード熱いトークセッション、大会後の新潟巡り。一夜を明け、振り返る。

大会中には、ふたつのトークセションも開催。ひとつは「県外トップシェフから見た新潟の食」、もうひとつは、「世界の潮流と新潟ガストノロミーの可能性」です。前者のパネリストは、和歌山『Villa AiDA』小林寛司氏、大阪『La Cime』高田裕介氏、福岡『Goh』福山 剛氏。後者のパネリストは、『青綾中学校』、『青綾高等学校』校長兼『世界のベストレストラン50』日本支部事務局の青田泰明氏、温泉ビューティ研究家・旅行作家の石井宏子さんです。

3人のシェフのトークセションでは、飲食部門における「Chef’s Choice賞」に話題の注目が集まります。

福山シェフがチョイスしたのは、『兄弟寿し』。「九州にはない食材にも感動しましたが、価格にもびっくりしました。実は、価格は地方にとってすごく難しい問題。自分もずっと悩んでいることです。県外のお客様ばかりではいけない。やはり地元に愛される設定が大事。高額では地元の人に来てもらえることは難しく、そういったバランスも含めて素晴らしかったです」と福山シェフ。

小林シェフがチョイスしたのは、蕎麦を中心に、山菜やニジマスなどの一品料理を供する『八海山 宮野屋』。「八海山の麓にあり、そのプロセスも然りなのですが、真冬でも山菜の惣菜が供され、驚きました。環境の理にかなった調理法は、勉強になることが多かったです。蕎麦はもちろんおいしかったのですが、それよりも食材の向き合い方や人が自然に適応した取り組み方に感動しました」。

高田シェフがチョイスしたのは、四季の田舎料理を供する『欅苑』。「奄美大島出身なので、まずあの茅葺き屋根に感動しました。自分は、地方で料理を食べる時、極力シンプルな郷土料理に魅かれます。洋にしても和にしても、そこまで手を加える必要がないのでは、と思うことが多いです。もちろん、必要に応じて手数が増えるのは良いですが、新潟は食材が豊富なので、その必要性は再考してもよいのではと思うこともありました」。

新潟にはイタリア料理やフランス料理など、評価の高いレストランが多数ありますが、『新潟ガストロノミーアワード』には、あまりランクインされていません。料理も美味しい、技術もある。なぜ? もしかしたら、それはどこか既視感のあるアプローチだったのかもしれません。

印象的だったのは、厳しくも愛ある小林シェフの言葉です。

「イタリア料理やフランス料理に関しては、向かうところに再検討の必要があってもよいのではないでしょうか? もっともっと食材に向き合うべき。今が限界なのか、もう一度考えてほしい。『八海山 宮野屋』や『欅苑』は、他店と比べ、圧倒的に食材と向き合っている時間が長いと感じました」。

自身が畑からレストランを体現しているため、小林シェフにとっては、暮らしの中に食材があり、常に自然と生きる時間が流れています。ゆえに、お店が営業していない時間に何をしているのか、キッチンの外でどう料理や食材と向き合っているのかなども審査基準の対象としているのかもしれません。食材に向き合うという意味では、「『ファミリーダイニング小玉屋』も素晴らしかった」と言葉を続けます。

その審査基準に関しては、青田氏がもう少し噛み砕いて語ります。

「3つの視点を大事にしました。ひとつは、新潟のローカリズム、地産地消や風土。ふたつ目は、シェフ自身の物語性、信念や哲学。そして、3つ目は、お店の強み。唯一無二性です。今回のアワードでは、この3つの総合値が高いお店が受賞されています。中でも『my farm table おにや』は、それがずば抜けていた。とんでもないお店が新潟にある、そう思いました。実は、シャポンの名地が台湾にもあり、先日、食べ比べに行ってきたんです。油の旨味は確かに素晴らしかったですが、食べ続けるには難しく、鬼嶋シェフのシャポンの方が圧倒的に美味しかったです」。

ある種、「変態」が「日常」に行われているのが、『my farm table おにや』なのかもしれません。

旅館・ホテル部門においては、石井さんを中心にトークセッション。「新潟ならではのONE&ONLYの感動があるかないか。それを重点に考えました。新潟には哲学を持っている宿が多いので、本当に選ぶのに苦労しました。『Snow Peak FIELD SPA HEADQUARTERS』は、海外のナチュラルリゾートにも肩を並べるような宿が遂に誕生した!と感じました。例えば、オーストラリアのエアーズロックで得た体験に匹敵するものでした」と話します。

審査員それぞれが自身の体験談をもとに発する言葉には、どれも重厚感があり、日本から、世界から見た時、今の新潟はどの位置にあるのかなど、そんな目線合わせができたのではないでしょうか。同時に、受賞者たちが正しいと思ってやってきたことが確信に変わった瞬間でもあるのではないでしょうか。これは、県外の審査員を採用した利点とも言えます。

大会後には、受賞者にも選ばれた『鍋茶屋』へ。食事はもちろん、木造三階建ての料亭は、文化庁の「保存文化財」にも登録され、館内を回遊するだけでも時代を超えた邂逅体験を堪能できます。古町花街のそこは、多くの文人墨客にも愛されてきました。また、古町花柳界は湊町として栄え、今も「古町芸妓」として訪れた人をおもてなしする文化が色濃く残っています。

翌日も新潟を巡ります。『ONESTORY』は、村上市の『きっかわ』と新発田市の『鮨 登喜和』へ。『きっかわ』では、寛永3年(1626年)の創業から一貫して行われている発酵の世界を体験させていただき、天井の梁に鮭を千尾以上吊る光景は圧巻です。

『鮨 登喜和』では、新潟で獲れた食材にこだわり、三代目の小林宏輔氏のおまかせをいただきます。中でも印象的だった握りは、柑橘の果汁で〆たメダイに極限まで薄くスライスしいた古漬けの白菜を乗せた品。聞けば、「『Villa AiDA』小林シェフに野菜を使ってみてはいかがでしょうかとアドバイスをいただき、作ったものです」と三代目。

ただ、評するだけでなく、料理人同士の関係が構築されているアワードなのだと感じる出来事でした。

生みの苦しみの次なる必須は、継続の力。

兎にも角にも、まずは新潟へ。『新潟ガストロノミーアワード』の答えわせの旅をぜひ。

かくいう自分もまた、その計画を練るひとりです。

「県外トップシェフから見た新潟の食」をテーマにしたトークセッション。なぜあのお店が? なぜあの人が? どこの何に魅かれたのか?など、忌憚なき意見が飛び交う。

「世界の潮流と新潟ガストノロミーの可能性」をテーマにしたトークセッション。「『Snow Peak FIELD SPA HEADQUARTERS』は、旅館・ホテル部門での受賞でしたが、飲食部門の受賞でも良いくらい素晴らしい」という中村氏と石井さんの言葉に、新潟の宿泊施設の明るい未来を感じる。


Text:YUICHI KURAMOCHI


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肉厚、繊細、たっぷり水分。鳥取県が誇る原木しいたけが、料理人を魅了する。[鳥取県]

肉厚で旨みが豊富な「115号」という品種。鳥取県にある国内唯一のきのこの専門研究機関「日本きのこセンター」で生まれた。

生産量は少なくとも、記憶に刻まれる特産品。鳥取県産の原木しいたけ。

地域の特産品というと、まずは生産量や収穫量の多いものが思い浮かぶことでしょう。鳥取県でいえば、生産量日本一のらっきょうや二十世紀梨、境港で水揚げされる松葉がになど。確かにそれらは鳥取県を代表する特産品です。

しかし量こそ少なくても、真摯にしいたけと向き合う生産者がこだわりをもって育てる生産物もあります。有名ではなくとも口にした人を魅了し、人から人へと伝えられて広まるもの。今回の主役である鳥取のしいたけは、そんな知る人ぞ知る名産品でした。

そして、その鳥取産しいたけの魅力を伝えるべく、ひとりの料理人が立ち上がりました。鳥取を代表する名店『梅乃井』店主・宮﨑博士氏。70年続く伝統のうなぎ料理を受け継ぎつつ、新たに“郷恩料理”として地元産食材の魅力発掘を追求する料理人です。

そんな宮﨑氏が県内のしいたけ産地に生産者を訪ね、生産の現場を視察し、そしてその魅力を引き出すしいたけ料理を披露します。果たして宮﨑氏は地元のしいたけに何を思い、どんな料理に仕立てるのでしょうか?

「最初に出合うしいたけがこれだったら、きっとこの世にしいたけ嫌いの子どもはいなくなります」。

宮﨑氏の口から飛び出したそんな言葉の真意はどこにあるのでしょうか?

『梅乃井』店主・宮﨑博士氏。鳥取県で生まれ、若くして料理の世界へ。ホテルや大阪・新地の料亭で腕を磨いた実力派。

しいたけ専門家の案内で、鳥取県の山間を目指す。

宮﨑氏はまず鳥取市街にある『菌興椎茸協同組合』を訪れました。常務理事の岸本隆吉氏が、この日のナビゲーター。岸本氏の車に乗って、山中にあるしいたけの栽培場所まで案内してもらいます。

車中ではハンドルを握る岸本氏に、さっそく宮﨑氏からの質問が飛びます。

生と乾燥の成分、産地の特性、良いしいたけの見分け方、時期やサイズによる味の違い……。

おいしさを追い求める料理人の興味は尽きず、質問は多岐にわたります。しかし対する岸本氏はしいたけのプロフェッショナル。どの質問にも明快に応え、互いの理解を深めます。車は鳥取市街から山深い南方面へ向かいます。

鳥取市内から1時間ほど。智頭町の名勝・芦津渓谷にほど近い山中に、目指すしいたけの栽培場所がありました。管理スタッフ・寺谷謙二氏の案内でさっそくハウス内に招かれる宮﨑氏。そこにはしいたけが生えるほだ木がずらりと並ぶ光景が広がっていました。

そう、『菌興椎茸協同組合』が手掛けるしいたけの最大のポイントが、このずらりと並んだほだ木。国内のしいたけの90%以上が人工的な培地で育てる菌床栽培であるのに対し、ここで行われるのは原木に種菌を植え込んで育てる原木栽培。手間もコストもかかり、自然条件に左右されるため生産量も増えませんが、時間をかけて凝縮された旨みを持つのが原木栽培しいたけの特長です。

コナラやミズナラのほだ木が並ぶハウスで、さらに目を引くのが、まるで高級フルーツのようにひとつひとつ袋を被せたしいたけ。拳ほどもある大ぶりサイズで、どっしりと肉厚。しいたけのイメージを覆すような存在感です。

「鳥取県で開発された“115号”という品種です。袋をかけることで乾燥や傷を防ぎ、より大きく育ちます」。そう教えてくれた寺谷氏。

「傘にヒビが入っているでしょう? これは適度に水分が抜けた収穫時のサイン。お吸い物などにするとしっかりと旨みが出てきます。ただ天ぷらなんかにするには油の中で浮いてしまって不便なので、ヒビのないものを選びます。用途や希望に応じて出荷するしいたけを選ぶんです」と岸本氏。

しっかりと目配りを行き渡らせながら、愛情を持って育てられるしいたけ。

宮﨑氏は「30年料理人をやってきて、これほど立派なしいたけは見たことがない」と驚いた様子でした。

訪れた八頭郡智頭町芦津。標高400mほどの冷涼な地域で、初春のこの日も雪が残っていた

穴を開けた原木に種菌を直接植え付ける原木栽培。

岸本氏(右)、寺谷氏(中央)からレクチャーを受ける宮﨑氏(左)。

ひとつひとつにビニールの袋をかぶせて保湿。たいへんな手間だが、おいしさのために妥協できない。

しいたけを介して交流を深めた三氏。「生産者と話すことは料理人の財産」と宮﨑氏。

奇をてらうことのないシンプルな調理で、しいたけの持ち味を引き出す。

収穫したばかりのしいたけを手に、『梅乃井』に戻った宮﨑氏は、さっそく厨房に入り、料理に取り掛かります。着席したお客は、岸本氏ただひとり。生産者である岸本氏に、料理人謹製のしいたけ料理を振る舞うのが、今日の狙いです。

「自分の育てたしいたけは毎日食べるけど、一流の料理人の手にかかるとどうなるのか。楽しみです」と期待を込めて料理の完成を待ちます。

まず運ばれてきたのは、焼きしいたけ。『梅乃井』の看板であるうなぎの白焼きの上に、まるごと焼いたしいたけが乗せられています。
「しいたけは塩を少しだけ振って弱火で焼いただけ。この水分はすべてしいたけから溢れ出したもの。自分でも驚いています」。

そう宮﨑氏が言う通り、逆さにしたしいたけの傘の中には黄金色のスープがなみなみと満ちています。口にするとそのスープは、奥深い旨みをたたえた芳醇な味。熱々の身とともに頬張ると、濃厚な味わいが口いっぱいに広がります。

そして、宮﨑氏から発せられたのが、記事冒頭の言葉。

「クセがなく、味わいは豊か。最初に出合うしいたけがこれだったら、きっとこの世にしいたけ嫌いの子どもはいなくなりますね」。

続く料理は、吟醸酒を加えた出汁をたっぷり含んだ煮物、まるごとの天ぷら、鳥取の名産・モサエビと合わせた椀物。三大旨味成分のひとつであり、しいたけだけに含まれるグアニル酸の味わいが、奥深く、コクのあるおいしさを醸します。

さらに特筆すべきは、その食感。きめ細やかで艷やかな肉質のしいたけが出汁を吸うことで、まるでアワビのような弾力と歯ごたえとなるのです。

最後のメニューは、しいたけの軸をきんぴらにし、羽釜で炊いたごはんに混ぜた一品。食感を残すために縦に細切りにした軸は、力強い弾力があり、甘辛の味付けで食欲をそそります。

「原木しいたけは以前から使っていますが、採れたてはここまで違うのか、という驚きでいっぱい。水分量、味わい、繊細な食感、どれも桁違いです」。そう話す宮﨑氏。

「このしいたけを活かすことを考えて、調理はシンプルになりました。どれも家庭でもできるような料理です」と、5品のしいたけ料理を振り返りました。

工程はシンプルでも、食材への理解と、その魅力を引き出す細やかな技は、さすが料理人。試食した岸本氏も「5品それぞれがまったく違う味。改めてしいたけの奥深さを教えてくれる料理の数々でした。大切に育てた我が子のようなしいたけを、これほどおいしくしてもらえてありがたいです」と感動を伝えてくれました。

『菌興椎茸協同組合』の原木しいたけは、この日使用した生のほか、低温でじっくり乾燥することで、わずか15分で戻せる干し椎茸、生と干しの良いとこ取りの味と食感を持つ冷凍しいたけも展開。一流料理人をも驚かせた原木しいたけが、日本中の料理界に広まっていく日も遠くないのかもしれません。

試食の会場となった『梅乃井』。創業70年の風格が漂う名店。

着席した岸本氏。しいたけを知り尽くす生産者が相手だけに、宮﨑氏も気合が入る。

焼しいたけとうなぎ白焼。しいたけは弱火で8分焼くだけでこれほどの水分が溢れ出した。

しいたけ吟醸煮。吟醸酒を使用した吟醸出汁の煮物。通常はじっくり煮含めるが、これは3分炊いただけで旨みがしっかり。

貝やイカのような艷やかな弾力を持つ天ぷら。塩のほか、しいたけを刻んで混ぜたしいたけ味噌とともに。

軸付きしいたけとモサエビの清汁。蓋を開くとしいたけの優しい香りが立ち上る。

軸金平混ぜご飯。細切りの軸を甘辛く炒め、炊きたてご飯と合わせた。

菌興椎茸協同組合が手掛ける冷凍しいたけ。冷凍して細胞膜を壊すことで芳醇な香りが際立つ。保存もきき使い勝手が良いことから人気上昇中。

梅乃井
住所:鳥取県鳥取市元魚町1-215
電話:0857-22-5383
https://umenoi-tottori.com/

菌興椎茸協同組合
住所:鳥取県鳥取市富安1-84
電話:0857-36-8115
https://www.k-siitake.com/

Photographs:YUICHI KAYANO
Text:NATSUKI SHIGIHARA

結果は12位。はるかに高い世界の壁。だが、次は勝つ。

全てを出し切った日本代表・石井友之シェフ(手前)とコミの林 大聖氏(奥)が競技を終え、たたえ合う。©White_mirror

Bocuse d’Or 20235時間30分の長い激闘。みんなの力がなかったら、ここまでたどり着けなかった。

1月22日、23日の2日間。第19回『ボキューズ・ドール 2023』国際料理コンクール フランス本選がリヨンにて開催されました。2022年1月、石井友之シェフが日本代表に選出されてから約1年。この日のために準備してきた全てを注ぎ込みます。長い激闘は5時間30分にも及び、会場は常に熱烈峻厳。まさに「美食のワールドカップ」と呼ぶに相応しい壮大なグルーヴが創造され、大会の凄みを感じます。

大会を終え、日本代表・石井友之シェフは、「『ボキューズ・ドールJAPAN』アカデミーメンバーのサポートやご協賛・ご後援いただいている皆様の支援、会社からの理解と協力がなければここまで来ることができませんでした。本当に感謝しています」と語ります。

そんな石井シェフ率いるTeam JAPANは、コミ(アシスタントシェフ)に『サンス・エ・サヴール』の林 大聖氏、帯同メンバーに同じく『サンス・エ・サヴール』の鴨田猛シェフ、『オテル グレージュ』の兵頭賢馬シェフ、『HIGHLINE』の東園勇樹シェフ、そして、テクニカルディレクターに『KOTARO Hasegawa DOWNTOWN CUISINE』の長谷川幸太郎シェフ、コーチに『星のや東京』の浜田統之シェフを迎えた陣。それに加え、試食審査員に『HAJIME』の米田肇シェフ、長谷川シェフは大会当日のキッチン審査員も兼務。世界基準の舞台にて、それぞれの責務を担います。

今回、プラッターのテーマ食材は、スコットランド産アンコウ。そして、もうひとつのテーマがシェフたちや関係者を驚かせます。それは、「Feed the Kids」。子供のための料理です。世界中が難局に陥った時代を経て、食と社会の関わりやその役割など、レストランとして、シェフとして、更にはひとりの人間として、どう向き合うべきなのかを文化的に示唆するようでもありました。

左より、コーチの浜田統之シェフ、日本代表・石井友之シェフ、テクニカルディレクター兼本部キッチン審査員の長谷川幸太郎シェフ、試食審査員の米田肇シェフ、コミの林 大聖氏。©Bocuse d’Or 2023/GL events

選手がしのぎを削り、料理を競い合う光景は、壮大なパフォーマンス。会場には、常に熱気が漂う。©White_mirror

大会前の準備風景。スタッフには、未来のレストラン界を担う学生たちも参加。寸分狂わず、審査を迎えるテーブルの美しさを追求する。©White_mirror

法被姿に太鼓などを揃え、石井シェフにエールを送る日本の応援団。応援するスタイルにもそれぞれの国の文化が伺え、それもまた楽しい。©White_mirror

Bocuse d’Or 2023優勝国はミシュランの三つ星同等のクオリティ。やるなら勝ちたい。優勝以外はない。

石井シェフが表現したメインのアンコウは、日本が誇る絵師・葛飾北斎の図案を3Dプリンターで型に起こしたもの。周囲を囲む可憐な真珠の水しぶきは海からの祝福を表現します。鮮やかなガルニチュール(付け合わせ)を乗せ、船出を飾り、その全てを包み込むのは、現在の日本の礎となった大江戸の水路を彷彿とさせる螺旋の意匠。波の渦は、イノベーションを感じ、歴史を重んじながらも進歩し続けるフランス料理のオマージュとして完成させます。芸術性の高いプラッターデザインは、日本を代表するプロダクトデザイナー・鈴木啓太氏の創作。

見た目にも華やかな作品に仕上げるも、日本は24カ国出場の中、12位。アジア勢最高位ではあるも、世界の壁を見上げる結果に。

優勝はデンマーク。続く2位にノルウェー、3位にハンガリー。近年のヨーロッパ勢の強さは健在でした。中でも突出しているのは、北欧勢。料理界だけでなく、国や地域などが一体となり、戦略性と計画性を持った「勝つためのチーム」が形成されているように見えます。

今回、初めて試食審査員として参加した米田シェフは、「優勝国は、ミシュランの三つ星同等のクオリティ」と評しました。それは、もしかしたら審査員の多くが三つ星シェフだったことも、少なからず基準に影響しているのかもしれません。大会後、米田シェフはその足でデンマークへ。その目的地は、優勝したシェフのレストラン。ここで興味深い感想を述べます。「レストランの料理は、優勝作品のクオリティに達していなかったと思います」。

つまり、レストランのクオリティと『ボキューズ・ドール』で表現するクオリティは同等ではなく、全く別物。国の威信をかけ、勝つために戦う大会こそ、『ボキューズ・ドール』なのかもしれません。そう考えると、シェフを選手と呼ぶことも頷けます。

本部キッチン審査員を務めた長谷川シェフにおいても、その厳しさを語ります。

「完成された作品だけでなく、調理の華麗さや各工程においてバランス良く人員配置できているかなどが評価基準の対象。調理道具の並びや整理整頓、効率の良さ、ゴミひとつも減点に」。

つまり、5時間30分の全てが美しくないと勝てないのです。「デンマークのコミに至っては、代表選手と同等のレベルの仕事ができていました」と、改めて、チームひとり一人の実力が備わっていないと勝てないと振り返ります。

また、本選前もしかり、現地入りした際の設備環境や機材調達、国内での練習場所となるテストキッチン、渡航費に到るまで、予算の面においても世界との格差があると米田シェフと長谷川シェフは指摘します。

前大会においては、エマニュエル・マクロン大統領が自ら来場し、予算を投じたという話やコロナ禍においても、いち早くレストランへの支援を行ったことも記憶に新しいです。

「やるなら勝ちたい。やるからには優勝以外はない。ゴールを設定し、そのために何をすべきかの問題を解決し、達成する。この大会の意義を自分たちも日本もどう捉えるか、今一度考えるべきだと思います」と米田シェフ。

『ボキューズ・ドール』は、世界中に熱狂的なファンが多い大会ゆえ、優勝すれば、そのレストランを求め、各国から訪れることも多く、観光産業としての可能性も秘めています。

『ボキューズ・ドール』の場合、三つ星やトックのように、数店選ばれることはありません。優勝できるのは一カ国。一番高い表彰台に上がれるのは一カ国のみ。勝つための戦い。それが『ボキューズ・ドール』なのです。

時をほぼ同じくして2022年11月。日本人初の快挙、『ジョエル・ロブション』の関谷健一朗エグゼクティブシェフがフランス料理界最高峰の称号・フランス国家最優秀職人章「M.O.F.(Meilleur Ouvrier de France)」を受章した朗報がフランスより舞います。

日本はやれる。日本のシェフは世界トップレベルだと証明した結果と言えるでしょう。

長谷川シェフが最後に残した言葉に悔しさが込み上げてきます。

「自分たちは、また一から出直します」。

テーマ食材のアンコウを手にする、日本代表の石井シェフ(中央)。それを見守る浜田シェフ(左)。日本と海外では同じ食材でも育った環境によって身や味が異なるため、現場で見て触って、料理にアジャストしていく。©Taisuke YOSHIDA/一般社団法人ボキューズ・ドールJAPAN

『ボキューズ・ドール』には、世界中から多くのメディアが訪れ、配信・発信される。日本のメディアは、今後どうこの大会と向き合うのかも課題のひとつ。©White Mirror

石井シェフの料理。日本が誇る絵師・葛飾北斎の図案を3Dプリンターで型に起こし、周囲を囲む可憐な真珠の水しぶきは海からの祝福を表現。鮮やかなガルニチュールを乗せて船出を飾り、その全てを包み込むのは、現在の日本の礎となった大江戸の水路を彷彿とさせる螺旋の意匠。波の渦は、歴史を重んじながらも進歩し続けるフランス料理のオマージュ。©Julien Bouvier studio

700年以上も前から食されてきた日本の冬に欠かせないアンコウ。日本の郷土料理では、山の食材と組み合わせて食され、その山と海を循環し融合するテロワールを表現。©White Mirror

料理の味や表現力はもちろん、それが完成するまでの調理工程の美しさも審査の基準になる。©White Mirror

優勝したデンマークの作品。©Julien Bouvier Studio

2位のノルウェーの作品。©Julien Bouvier Studio

3位のハンガリーの作品。©Julien Bouvier Studio

「ボキューズ・ドール 2023」の表彰台を飾ったのは、優勝はデンマーク、2位にノルウェー、3位にハンガリーという結果に。©White Mirror

長い激闘を終えれば、シェフたちは皆仲間。互いを賞賛し、感動のフィナーレを迎える。©White Mirror

Bocuse d’Or 2023日本は「子供審査員からの特別賞」を受賞。そして、新たな新たなTeam JAPANが結成。

大会では12位という結果だった日本ですが、「子供審査員からの特別賞」を受賞。冒頭、テーマでもあった「Feed the Kids」には、子供の審査員も参加していました。

どの国の料理が一番美味しかったか?という質問に、子供たちは、「JAPON!」「JAPON!」という口々に答えていました。

レストランを離れれば、石井シェフは3人の子供を持つ父親でもあります。以前行った『ボキューズ・ドールJAPAN』を支援する『ネスプレッソ』代表取締役社長のピエール・デュバイル氏との事前対談の際、ピエール氏は石井シェフにこんな質問をしました。

「コロナ禍では、料理に対するインスピレーションは沸きましたか?」。

ナーバスな内容ゆえ、ピエール氏は神妙な面持ちで伺いましたが、石井シェフは穏やかな表情でこう答えています。

「料理のインスピレーションに対して前向きになるのが難しい時期でした。ですが、娘たちと遊ぶなど、家族と過ごすことができ、とてもいいリフレッシュになりました。そして、再び厨房に立った時には、すごく新鮮な気持ちで料理に取り組むことができました」。

石井シェフにとって、「子供審査員からの特別賞」は、この上ない喜びにも繋がったに違いありません。

「今回、自分が歩んできたプロセスと結果に真摯に向き合い、次回のTeam JAPANに活かしたいと思います」と石井シェフ。

その次回は、さまざまな変化をもたらすでしょう。なぜなら、まずひとつ、体制の変更が発表されました。

『日本ボキューズ・ドールアカデミー』の名誉会長・平松博利氏は、『一般社団法人ボキューズ・ドールJAPAN』の代表理事から退任。新体制の会長には『星のや東京』の浜田統之シェフ、統括委員長には『KOTARO Hasegawa DOWNTOWN CUISINE』の長谷川幸太郎シェフが就任。新たな理事として『HAJIME』の米田肇シェフ、株式会社ひらまつ 代表取締役社長の遠藤久氏が加わります。

目指すは優勝のみ。次なる戦いは、もう始まっています。

「子供審査員からの特別賞」を受賞した石井シェフの料理。栄養バランスに加え、五感で楽しむ料理をテーマに置き、心躍る鮮やかな色彩と造形(視覚)、食欲を刺激する香り(嗅覚)、噛むたびに様々な楽しい音を感じ(聴覚)、UMAMIを知る学び(味覚)、心地よく整えられた温度(触覚)を表現。「コロナ禍の影響で、海外旅行に行けない子供たちに日本を感じてもらいたく、伝統の遊戯・ORIGAMIを添えました」と石井シェフ。身体だけでなく、子供の心を満たすことが真の栄養で食育(Dietary Education)と考える石井シェフらしい作品。©Julien Bouvier Studio

「日本の料理が一番だったよ!」と笑顔で石井シェフに声をかけるシーンが印象的だった子供審査の風景。テーブルを楽しそうに囲む子供たちの表情には終始笑顔が溢れ、料理を心から楽しんでいた。©White Mirror

『ボキューズ・ドール2023』を終え、シェフたちも安堵した表情に。今後の動向にも注目していきたい。©White Mirror

Photographs:White Mirror/Julien Bouvier/Taisuke YOSHIDA/一般社団法人ボキューズ・ドールJAPAN

「美吉野醸造」自慢の甘酒。日本が誇るノンアルコール発酵飲料。[和光アネックス/東京都中央区]

甘酒は、江戸時代より好んで飲まれていた発酵飲料。味わい深い酒を造るには、欠かせない湿度の高い吉野杉で覆われた麹室の環境だからこそ生み出せる「総破精こうじ」の栗や焼き芋の様な香りが特徴。

WAKO ANNEX味の決め手は総破精手づくり麹。江戸時代より人々の喉を潤してきた、夏バテ予防の飲む点滴。

奈良県吉野郡にて1912年より酒を醸し続ける「美吉野醸造」。酒造りの特徴は、今までの酒造りでは語ることのできない「酸と旨みが響きあう酒造り」です。中でも名作は「花巴」。速醸、山廃、水酛、火入れ、生酒、にごり……。製法の違う酸のニュアンスを纏うことで、酒の見え方は、より複雑で多様になります。

「吉野の山紫水明を見るように、味わうそれぞれが、感じるままに花巴を愉しんでいただけましたら幸いです」とは蔵元の言葉。

そんなこだわりと哲学を持った「美吉野醸造」には、もうひとつの味があります。甘酒です。酒蔵自慢の「酒蔵古流こうじ甘酒」の味の決め手は、酒造りで培った手づくりの麹。その決め手は、栗香と呼ばれる、甘栗や焼き芋を思わせる甘く香ばしい香りです。保存料・添加物を加えないシンプルな原材料だからこそ、麹米には奈良県産のお米、仕込み水には大峰山系伏流水の甘く柔らかい湧き水を使用。素材の良さを存分に味わえます。麹の力による糖化で、糖類無添加ながら上品な甘みで昔懐かしい素朴な味わいが楽しめます。

日本酒の蔵元ならではの麹菌におる香味バランスの良い麹造りから生まれた甘酒は、まさに日本が誇るノンアルコール発酵飲料。

食欲が落ちる暑い夏には冷たく冷やして甘さすっきりと。冬は温めて、柚子や生姜を加えて、ホット甘酒でほっこりと。ぜひ、季節や好みに合わせてお楽しみください。

酒蔵ならではの上品な香味とキレの良い甘みが特徴。麹や米が沈殿しているため、よく振ってからお召し上がりを。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
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Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

より美味しく、より健康に。ブラッドオレンジ&カカオニブのマーマレード。[和光アネックス/東京都中央区]

材料は、農薬・化学肥料を使わずに愛媛の地で大切に育てたブラッドオレンジと北海道産のてん菜100%使用の砂糖、レモン果汁、そして、カカオニブのみ。添加物も一切使用せず、全て手作り。

WAKO ANNEXブラッドオレンジの濃厚な味わいにカカオニブの苦味と香りをプラス。

鮮やかな果肉の色が美しい国産ブラッドオレンジをふんだんに使用し、スーパーフードとして注目されているカカオニブを合わせた「ブラッドオレンジマーマレード(カカオニブ入り)」。ブラッドオレンジの濃厚な味わいにカカオニブの苦みと香りがプラスされ、まるでオランジェットを食べているかのような芳醇な味が自慢のマーマレードです。

使用するブラッドオレンジは、国産「タロッコ種」。日本では生産者が少なく、一般のスーパーなどで見かけることがない、希少なオレンジです。ブラッドオレンジは、ビタミンCが豊富に含まれ、ビタミンB1、葉酸、食物繊維も豊富。アントシアニンも同時に摂取できます。それに合わせるスーパーフード・カカオニブは、同じスーパーフードのチアシードやキヌアなどと比べても、群を抜いて栄養価が高いと注目されています。

ココアやチョコレートの原料であるカカオ豆を発酵、ローストし、胚芽と皮を取り除いて砕いたもので、チョコレート本来の良い部分だけを取り入れることができます。ポリフェノールやアナンダミド、食物繊維、マグネシウムなどの栄養素が豊富で、美容効果やリラックス効果の期待大。食感はナッツのようで少し硬く、チョコレートの香ばしさと苦みが特徴です。

ブラッドオレンジの濃厚な風味にカカオニブの食感と香りが良いアクセントになり、美味。食べ応えもたっぷりなマーマレードを、より美味しく、より健康に、お楽しみください。

イギリスの湖水地方で開催される世界的なマーマレードの祭典「ダルメイン・マーマレードアワード&フェスティバル2021」金賞受賞。世界中から3,000個以上集まる中、見事頂点に。シンプルにパンに付けていただくのがおすすめだが、少し塩気のあるものと一緒に食べると、甘味、酸味、塩味のバランスが絶妙な、つい手が伸びるおしゃれなおつまみにも。

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石垣牛の極み。地元の人気焼肉店がこだわったプレミアムビーフシチュー。[和光アネックス/東京都中央区]

生産するのは、沖縄に焼肉店やお肉料理を中心にしたグリル&バーを4店舗展開している「北谷金城」。自社牧場も運営し、生産者の顔が見えるお肉にこだわる。

WAKO ANNEX2021年「沖縄県離島フェア」優秀賞受賞。直営牧場から直送のお肉だから美味しい絶品シチュー。

「大粒石垣牛プレミアムシチュー」のお肉は、石垣島の自社直営牧場「ゆいまーる牧場」で繁殖・肥育された長期熟成肥育メス牛「石垣牛 KINJOBEEF」を使用しています。自分たちの手でイチから石垣牛やアグー豚を育てることにこだわり、お客様に提供するまでの全ての過程を把握しているため、味だけでなく、安心安全。

製造元である「北谷金城」は、沖縄に焼肉店やお肉料理を中心にしたグリル&バーを4店舗運営している肉のスペシャリスト。その展開は店舗にとどまらず、「きんじょうこども食堂」も開設。お肉を通して社会貢献にも真摯に取り組んでいます。そんな彼らが自信を持ってお勧めしている逸品が、この「大粒石垣牛プレミアムシチュー」なのです。

注目すべきは、贅沢な容量。250gに対し、100gのお肉をダイナミックに入れ、大満足な食べ応え。大粒の石垣牛はじっくりと煮込まれ、デミグラスソースとよく絡み、食欲をそそります。ただ温めるだけで、贅沢な料理を自宅でいただける体験は、まさに感動。ぜひ、ご賞味あれ。

そのままはもちろん、パンにディップして食べるのもおすすめ。口に含んだ瞬間、大粒のお肉がほろほろと溶け、旨味が広がる。

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専門店だから美味しい。牡蠣の旨味が凝縮された不動の人気メニュー。[和光アネックス/東京都中央区]

広島県東広島市、塩分濃度の高い安芸津の海で育った牡蠣は、小ぶりながら味が濃いのが特徴。

WAKO ANNEX瀬戸内が育んだ海の恵み。安芸津の牡蠣のオリーブオイル漬け。

広島県安芸津町にて1897年(明治30年)に魚問屋として創業した「マルイチ商店」。現在は牡蠣専門店として、地元広島産牡蠣の品質にこだわり、生牡蠣をはじめ、牡蠣せんべいや牡蠣加工品などの製造・販売しています。

中でも人気を集めているのは、「牡蠣のオリーブオイル漬け」です。広島産の生牡蠣を丁寧に選別。白ワイン、オイスターソースなどを絡めながら焼き上げ、オリーブオイルにじっくり漬け込んでいるため、全てが牡蠣にしみ込み、旨味が凝縮された美味しさです。

そのままはもちろん、料理にも最適。アヒージョやリゾットなど、万能にご利用いただけますが、特に簡単&おすすめはパスタ。サッと絡めていただくだけで、ご馳走に。身がしまって味が濃いと定評のある広島牡蠣の良さを存分に堪能できます。

牡蠣や瀬戸内の素材を知り尽くした「マルイチ商店」だからこそ作れる「牡蠣のオリーブオイル漬け」。パスタと絡めれば、リッチなひと品に。

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琵琶湖の魚のインド料理。まだ見ぬ境地に向かう若きシェフの挑戦。[滋賀県食材視察ツアー/滋賀県]

近江鱸のフィレ、ホンモロコ、ニゴロブナ。どれも丁寧に下処理した状態で届く。

卓越したスパイス使いで素材の持ち味を引き出す『ニルヴァーナ ニューヨーク』の引地翔悟シェフ。

 透明感ある琵琶湖の魚を引き立てるインド料理の手法。

本場のインド料理に対抗するのではなく、スパイスを使って日本の上質な食材を引き立てるような料理――。

六本木にあるモダンインド料理『ニルヴァーナ ニューヨーク』は、そんな言葉で自身の目指す料理を伝えてくれました。
そんな引地シェフは滋賀県の魚介のアンバサダーを務める今回、「キレイでシャープな味」という琵琶湖の魚を、どのような料理に昇華してくれるのでしょうか。さっそくその詳細を見ていきましょう。

「昔は料理がただ楽しかった。いまはプロモーションから逆算して考えることが必要」と料理長としての重責も感じる引地シェフ。

 琵琶湖の王様・ホンモロコを骨まで柔らかく。

最初の料理は、琵琶湖に浮かぶ沖島の漁業組合長が「琵琶湖の王様」と言っていたホンモロコ。味の良い魚ですが、骨がやや鋭い食材でもあります。

「現地で食べたのは、じっくり炊いて骨まで柔らかくした料理。インド料理のタンドリーに似た手法でした。ここを起点に内臓の苦味と身のほのかな甘みを活かす料理を考えました」

現地の食べ方からヒントを得て、そこにインド料理の手法を当てはめる。引地シェフならではのアプローチで生み出したのは、ホンモロコと菜の花のケララフィッシュフライ。

インド北部で採れるアッサムペッパーと、スモークしたレモングラスのような香りがあるアフリカ産のセリムペッパー、ネパール産の稀少なティムールペッパー。複雑な香りと辛味を組み合わせるのは、スパイスのプロフェッショナルたる引地シェフの真骨頂。さらに内臓の苦味に、あえて菜の花の苦味をあわせて奥行きを加えます。

それは“インド料理”の先入観を覆すような、華やかで香り豊かで、そして繊細な一品。辛さが立つのではなく、スパイスによって苦味や甘みの輪郭が浮き出してきます。小骨も柔らかく、頭から尻尾まで味わえるのも、丁寧な火入れの賜物でしょう。

レフォール、ブラックレモン、スマックといった多彩なスパイスを使用して身の旨みを引き出す。

じっくりと揚げ焼きにすることで鋭い骨も柔らかくなり、頭から食べられるように。

ビターな内臓の香りがスパイスと響き合う、ホンモロコと菜の花のケララフィッシュフライ。

 現地でしか食べられない魚を、東京で食べる意味。

続いての食材は、琵琶湖の固有種ニゴロブナ。
実は沖島では普段、フナを商品として出荷することはありません。しかし現地で頂いた弁当に入っていたフナのお刺身を味わった引地シェフが興味を惹かれ、取り寄せたのです。

「現地の主流は酢味噌や醤油と合わせるジョキという料理。それをインド料理の手法に置き換えてみました。イメージは“インドのなめろう”です」

砂糖を振ってフナの食感を引き立て、アップルビネガーの酸味でフナの甘みをいっそう引き出す。マスタードシードの香りを移したオイルに、生姜のような香りと辛味のインド産ガランガルパウダー。フナの特有の匂いをおさえ、その魅力だけを際立たせる絶妙なスパイス使いです。

「生魚を食べない文化だからこそ、生魚のアチャールは武器になります。今回フナでやれたことは、大きな自信にも繋がりました」

そんな真摯なコメントを伝えてくれた引地シェフ。実は『ニルヴァーナ ニューヨーク』で働くインド人スタッフは皆、魚をあまり食べない北インドの出身。そんなスタッフたちにとっても、今回の魚料理は良い経験になったといいます。

酸味と辛味を加えることで、フナ本来のほのかな甘みを引き立てる。

酸味と油脂がフナの甘みを引き出す、沖島フナのガランガルアチャール。

 ベンガルの手法を使い、湖の厄介者を、上品な一皿に。

最後の一品は、琵琶湖から届いた近江鱸(オウミスズキ)。聞き慣れぬ名前の魚ですが、実は正体は外来種のブラックバス。沖島漁業協同組合では琵琶湖の生態系を破壊した厄介者ブラックバスを、丁寧に下処理してフィレの状態で出荷しているのです。

「ネガティブなイメージがある魚ですが、食べてみるとまったく臭みがない。湖魚の魅力周知の入り口になり得る魚です。そしてその認知を上げるのに、インド料理は適任だと思います」

そんな自信をみせて仕上げた料理は、近江鱸のベンガルカレー。ベンガルはインドの中で例外的に魚を日常的に食べるエリア。高温多湿な東インド料理の特徴として、マスタードオイルの香りと、酸味を上手に取り入れることで知られています。

まず引地シェフは、淡白な身に油脂の旨みをまとわせるために、ターメリックとビネガーでマリネした近江鱸に粉をはたいて揚げ焼きに。そして米と魚を多用することから日本人に馴染みやすいというベンガルカレーに濃度をつけ、ソースとして使用します。

カレーという名前ですが、その味わいはいわばスパイスソースを添えた白身魚のムニエル。透明感ある身の味わいが、スパイスによって補強された旨みと香りで力強く口中に広がります。上品で、上質で、繊細。日本人の多くがイメージする“カレー”の印象をがらりと覆す一品でした。

粉を振って焼くことで、淡白な近江鱸の油脂の身に旨みをまとわせる。

近江鱸のベンガルカレー。複雑な香りと風味の要素が「素材を引き立てる」という一点に集約する。

 真摯で誠実な人柄が、生産者の心を掴む。

写真からわかる通り、若く、ハンサムな引地シェフは生産者の元を訪れても、「本当にこの人が名店の料理長なのか?」という目を向けられてしまいそうなものです。しかしどこに行っても気がつけば、生産者と友人のように打ち解け、熱心に語り合う引地シェフの姿がありました。

それはきっと、引地シェフがいつも真摯な姿勢だから。そしてシェフの心の底にある生産者への敬意が伝わるから。

「一度お会いして、握手をしたおじいちゃんが、いまも頑張っている。だから俺も頑張ろう、という気持ちになります」

そんな言葉からも伝わる人柄こそが、引地シェフの元に素晴らしい食材が集まる理由なのかもしれません。

「琵琶湖の魚を東京で食べる意味。プロモーションの一端を担わせてもらう責任。そういったことを考えながら今回の料理が生まれました」

それはインド料理という括りさえも飛び越える、料理人・引地翔悟のスパイス料理。若き才能が切り開く世界は今後、私たちにまだ見ぬスパイスの魅力を伝えてくれるのかもしれません。

「自分自身やスタッフの成長のための良い経験になりました」と今回の挑戦を振り返る引地シェフ。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by 滋賀県)

海のない滋賀県の多彩な魚たち。雄大な琵琶湖が育むクリアでシャープな味わい。[滋賀県食材視察ツアー/滋賀県]

今回の視察も数名のシェフとバイヤーが参加し、互いに意見を交換した。

 海がなくとも魚は豊富。琵琶湖が誇る多彩な魚たち。

豊かな自然が育むおいしさで多くの料理人を魅了する滋賀県の食材。本企画ではそんな滋賀産食材の魅力を発信すべく、3名の料理人がアンバサダーとして県内各所の産地を巡り、そこで出合った食材をオリジナル料理に仕立てます。

第1回の野菜・果物、第2回の肉に続く今回のテーマは魚介。しかし滋賀県は、日本に8県しかない“海なし県”のひとつ。果たして料理に適した魚介が見つかるのでしょうか?

心配はいりません。実は滋賀県は県内に大小20以上の漁港を持つ地。そう、滋賀県が誇る日本最大の湖・琵琶湖の豊かな水は、海に負けぬほどの恵みをもたらしてくれるのです。
つまり今回のテーマである魚介は、正確にいえば琵琶湖で揚がる淡水魚。関西圏以外では馴染みが薄い琵琶湖の漁業と湖魚の秘密を探ります。

そしてその魅力に迫るのは、モダンインド料理『ニルヴァーナ ニューヨーク』の引地翔悟氏。洗練されたスパイス使いで、湖魚の持ち味を引き出す若き料理長です。

「インドでは淡水魚はあまり食べられることはありません。その意味でも今回の大役はプレッシャーもありますが、自身の成長のチャンスだと思ってがんばりたい」

そんな真っ直ぐな言葉で、意気込みを語ってくれました。
ではさっそく、引地シェフと巡る滋賀県の旅に出かけてみましょう。

琵琶湖に浮かぶ最大の島・沖島へ渡る連絡船。沖島には現在でも300人以上の島民が暮らす。

 野菜や果物を通して、滋賀の食材の魅力が見つかる。

これまでにも2度、滋賀県に食材視察に訪れたことがあるという引地シェフ。料理長としての忙しい仕事の合間を縫って繰り返し産地を訪れるのは、食材そのものを見るのに加え、生産者と顔を見ながら話したいから。

「どういう方が、どういう想いで作っているのか。それを知らなければ、お客様に伝えることができませんから」

そんな気持ちを胸に、時間が許す限り滋賀県中を飛び回ります。今回の旅でも魚に加え、熟練生産者が手掛ける伝統野菜から、若い世代が挑戦するトマトやイチゴなど、さまざまな食材を見て回りました。

「水がキレイだから、すべての食材がキレイ。クリーンで雑味がなく、シャープな味というのが滋賀県の食材の印象です」

通算3度目の訪問となる今回で、さらにそんな想いを強くしたという引地シェフ。ではそんなクリアな食材と、インド料理の相性はどうなのでしょうか?

「モダンインド料理の次のフェーズは、シャープな食材の邪魔をせず、スパイスの力を借りていかにおいしくできるか。スパイスは食材の欠点を隠すのではなく、長所を伸ばすために使います」

と自信をのぞかせました。産地を巡り、多くの生産者と話しながら、頭の中には食材×スパイスの図式がいくつも浮かんでいる様子でした。

株式会社ROPPOにて。若き6名の生産者たちが先進技術でトマト作りに挑む。

蓮の名勝地であった草津市で有志により栽培が始まった琵琶湖からすま蓮根。

伊吹山の麓で古くから栽培されてきた伊吹大根は、蕎麦の薬味としても人気の辛味大根。

果物も滋賀県の魅力を端的に表す品質。写真はあいとうイチゴ。

朝から日没まで生産者の元を駆け回った初日。この日の最後は収穫を控えた多賀にんじんの畑へ。

 荒天で漁は中止。それでも漁師の話を聞きに沖島へ。

一夜明けた翌日。この日の予定は、琵琶湖に浮かぶ4つの島のうちで最大であり、約300人の島民が暮らす沖島の訪問。漁業が盛んな沖島で、琵琶湖の漁と湖魚について視察するのが目的です。

しかし前日からの荒天で、この日の漁船はすべて休業。沖島を訪れても、揚がっている魚はない、との連絡が入りました。漁業という自然相手の仕事、やむを得ない事態です。

それでも引地シェフは、沖島に渡る連絡船に乗り込みました。「どんな方が、どんな想いで作った食材なのか」――。それを知るために、とにかく顔を見て話すことを選んだのです。

沖島では、沖島漁業協同組合の組合長・奥村繁氏が出迎えてくれました。御年75歳。漁師になって60年以上、琵琶湖とともに生きてきた人物です。

そして奥村氏の口から語られる、琵琶湖の漁業の昔と今。
1960年代には琵琶湖全体で1万トンほどはあった漁獲高も、今では1000トン以下にまで減ってしまったこと。高度経済成長、人口増加による水質の悪化、漁師の後継者不足、そして外来魚の猛威。さまざまな苦境に立ち向かいながら、それでも琵琶湖の未来のために頑張り続けていること。

「泣きごと言ってもしょうがないからね」

そう話す奥村氏。引地シェフもその話に引き込まれた様子でした。

それから奥村氏が準備してくれた弁当は、琵琶湖の魚介づくし。

「スジエビは、島だと佃煮やかき揚げにします。火を入れると鮮やかなオレンジになって、味もしっかりしています。ワカサギは昔は3月が産卵期でしたが、今は2月に早まってきていますね。卵が入って大きくなる11月から2月が旬。ホンモロコは琵琶湖の固有種で、コイ科で一番おいしい琵琶湖の王様。地元では素焼きなどにしてよく食べますが、首都圏ではまだまだ知られていない魚でもあります」

淀みなく伝えられる奥村氏の話しぶり。

「地元でどう食べられているかは、重要なヒントです」

と、引地シェフは料理人の顔で真剣に聞き入っていました。

沖島までは沖島通船で片道10分ほど。通学や買い物に利用される島民の足でもある。

現地で見ることができたのは、出荷用に急速冷凍された魚のみ。それでも引地シェフは熱心に見入っていた。

生け簀にいたのは漁で獲れた巨大な鯉。

沖島漁業協同組合の奥村繁氏。自身の経験を交えた興味深い話で参加者を惹きつけた。

沖島でいただいた弁当。ホンモロコ、ニゴロブナ、ワカサギなど、琵琶湖の魚づくし。

 インド料理の手法で、食材を輝かせる。それが生産者のためにできること。

昼食の後も、停泊中の漁船の上でさらに奥村氏と話し込んでいた引地シェフ。帰りの連絡船のなかでは、

「漁船の上で奥村さんから“若いのにいろいろ考えてるね”と言ってもらえたんです。すごく若々しく、話に引き込まれる素敵な人。こうして良い生産者と知り合うと、自分の中で最大のパフォーマンスで素材を引き立てる責任をいっそう感じます」

と伝えてくれました。

「湖魚はもっと臭みがあるものだと思っていましたが、まったく臭みなく、澄んだ味でした。ただ揚げて塩をかければおいしい魚を、さらにおいしくするにはどうするかを考えていきたい」

ビリヤニ、アチャール、フリット。インド料理の手法の中からいくつかの候補は浮かんでいますが、いまはまだ未定。これからキッチンに戻り、じっくりと考えて料理を仕上げます。

「本場のインド料理を越えることが目的ではありません。日本の食材の質の高さを、インド料理に当てはめれば絶対においしいものができる。その証明をしたいだけ」

そう話す引地シェフが、琵琶湖の魚を使ってはたしてどんな料理を作るのか。その詳細は次回の記事でお届けします。

漁船の上で話し込む引地シェフと奥村氏。祖父と孫ほどの年齢差だが、互いに信頼を寄せ合う姿が見えた。

琵琶湖を前に引地シェフの頭によぎるのはこの地で出合った食材と、生産者のこと。どのような料理になるのか期待が膨らむ。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by 滋賀県)

愛媛県が誇る高級品種「紅まどんな」100%ジュース。[和光アネックス/東京都中央区]

「柑橘ソムリエ」生産者メンバーが育てた柑橘のうち、味の良い果実だけを選りすぐって搾ったストレート100%ジュース。

WAKO ANNEX「柑橘ソムリエ愛媛」農家メンバーが栽培から製造。厳選した果実のみをそのまま搾る。

愛媛県宇和島市を拠点に、本当においしい柑橘の味と多様な柑橘の魅力を伝え広め、柑橘をよりおもしろくする取り組みを繰り広げている「柑橘ソムリエ愛媛」。

そんな「柑橘ソムリエ」農家メンバーは、個性豊かな柑橘やジュースをさまざま展開していますが、中でも人気は「紅まどんなジュース」です。

愛媛県限定栽培の高級品種、「紅まどんな」を搾ったストレート100%ジュースは、品種最大の特徴である食感の要素がないジュースだからこそ、淡麗な甘みや後味に香るミント感が鮮やかに感じられます。

瓶に入っているのは果汁とフレッシュな香りだけ。添加物無添加のジュースは、お子さまはもちろん、老若男女、安心してお飲みいただけます。自然の恵みそのままだからこそ、体にすっと馴染みます。ゆえに、きっと毎日飲みたいと思うはずです。

愛媛県が誇る高級品種「紅まどんな」の名で知られる「愛媛果試第28号」。老若男女に愛される温州みかんのコクのある味わいが特徴。

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Photographs:JIRO OHTANI
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日本一に輝いた鹿児島黒牛。そのおいしさを伝えるフェアが東京都内10店舗にて開催。[鹿児島黒牛日本一レストランフェア/東京都]

畜産のみならず豆類、柑橘、さつまいもなど、鹿児島県が誇る農産物は多彩。今回のフェアでも、さまざまな鹿児島産食材が使用される

鹿児島黒牛日本一レストランフェア農業王国・鹿児島県を支える日本屈指の畜産。

農業産出額が全国第2位の鹿児島県。
豊かな自然の中で育てられる野菜、お茶、米、さつまいもなどが各地に届けられの全国の食卓を支えています。さらに畜産の規模も全国有数。おなじみの黒豚だけでなく、実は和牛の生産量も全国一を誇っています。

そしてその和牛がこのほど、量だけでなく質においても日本一となりました。
舞台は5年に一度開催される和牛の祭典「全国和牛能力共進会」。“和牛のオリンピック”とも呼ばれるこの権威ある大会において昨年、鹿児島黒牛が全9部門中6部門で1位を獲得。さらに「種牛の部」では内閣総理大臣賞を獲得、「肉牛の部」でも最優秀枝肉賞を獲得し、文字通り日本一の和牛に輝いたのです。

それほどまでに圧倒的な実力を誇る鹿児島黒牛。現地に行かなければ食べられない?  そんな心配は無用です。このほど、日本一獲得を記念し「鹿児島黒牛日本一レストランフェア」が開催されることとなりました。

『鹿児島華蓮 銀座店』のフェアメニュー。鹿児島黒牛のステーキ、せいろ蒸しのほか、前菜や小鉢も鹿児島県産の食材。

鹿児島黒牛日本一レストランフェア腕利きシェフたちが現地を訪れてメニューを考案。

鹿児島県は明治時代、全国でいち早く畜産試験場を設置し、牛肉の研究が行われてきた県。長い歴史の中で改良が重ねられ、現在の鹿児島黒牛となりました。先人たちの努力と飽くなき探究心、そして肥育に適した雄大な自然が日本一の和牛の源です。

その肉質はきめ細やか。しっとりとした霜降りが織りなすとろける食感がありながら、肉自体の旨み、脂の甘みもしっかりと感じられるバランス。すき焼きやしゃぶしゃぶから厚切りのステーキまで、さまざまな料理でその実力を発揮します。

そんな魅力を活かすため、今回の「鹿児島黒牛日本一レストランフェア」は、東京都内の10店のレストランにて、シェフが考案した鹿児島黒牛のオリジナルメニューを提供するフェアとなりました。
参加店は焼き肉や鉄板焼きから和食、フレンチ、イタリアン、インド料理までバラエティ豊か。各店のシェフたちは鹿児島県を訪問し、生産者と直接話した上でメニュー開発に臨みました。使用されるのは鹿児島黒牛のみならず、シェフたちが現地で出合った多彩な旬の食材。生産の現場を見つめ、生産者の熱意を直接受け止めたからこそ、その食材の魅力を活かす個性豊かな料理が誕生しました。

霜降りでもさっぱりと味わえるのも、脂の質が良い鹿児島黒牛の特長。

鹿児島黒牛日本一レストランフェアイベントで伝えられた鹿児島黒牛への情熱と誇り。

2月初旬、フェアの開催に先立ち、キックオフイベントが開催されました。
会場となったのは、フェア参加店の一店である『鹿児島華蓮 銀座店』。
バイヤーやインフルエンサー、業界紙の記者たちがフェアのメニューを試食し、鹿児島黒牛の魅力に触れる試みです。

イベントは鹿児島県副知事の須藤明裕氏の挨拶で幕を開け、鹿児島黒牛の紹介、生産者の紹介と続きます。とくに生産者本人の口から鹿児島黒牛への自信と誇りが伝えられたことは、参加者の心をとらえました。

そしていよいよ試食タイムです。
まずはほっこりと甘い安納芋の天ぷらで料理がスタート。次いでお待ちかねの鹿児島黒牛がステーキで登場します。
さっぱりとした中に濃厚な旨みが詰まったヒレ、口の中でとろけるようなサーロイン。どちらも鹿児島黒牛のおいしさをダイレクトに伝える極上の味わいです。
さらに続いては、薄切りのロースを野菜とともに蒸し上げるせいろ蒸し。ポン酢と胡麻ダレが提供されますが、そのまま食べても脂の甘みと和牛本来の旨みが際立ちます。

鹿児島料理専門店だけに、鹿児島の食材を知り尽くすシェフ。その味わいをもっとも活かすシンプルな料理で、参加者の鹿児島黒牛のおいしさを刻み込みました。この日のメニューはフェアの期間、『鹿児島華蓮 銀座店』で誰でも注文可能です。

デザートまで堪能した後、鹿児島県農政部長の松薗英昭氏の挨拶で幕を下ろしたキックオフイベント。参加者たちは口々に鹿児島黒牛の余韻を語りながら、会場を後にしました。
この日の感動は記者による記事やインフルエンサーの口コミによって、広く知らされることでしょう。「このおいしさを、一人でも多くの人に知ってほしい」それがこの日の参加者たちに共通した思いだったのですから。

多くのゲストが参加したキックオフイベント。司会者の解説を聞きながら、鹿児島黒牛の料理を堪能した。

鹿児島黒牛の生産者のひとりである江籠範厚氏。肥育にかける思いと誇りを語ってくれた。

さまざまな旬の情報を発信するインフルエンサーのTomomiさんも参加。

『鹿児島華蓮 銀座店』フェアメニューのひとつである鹿児島黒牛のステーキ。絶妙な火入れで部位の個性を際立てた。

せいろ蒸しは、肉の旨みが染みた野菜もごちそうに。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

2023年2月10日(金)〜3月5日(日)
https://kagoshimakuroushi2023.com/

【参加店舗】
鹿児島華蓮 銀座店[しゃぶしゃぶ・せいろ蒸し・鉄板]
しんせん割烹 佐乃家[和食]
薪焼 銀座おのでら[薪焼フレンチ]
南青山Essence[中華]
ahill azabu[フレンチ鉄板焼き]
Bistro Avanti[フレンチビストロ]
GRILL POT HOUSE[焼肉+薬膳鍋]
NIRVANA New York[モダンインド]
sel sal sale[イタリアン]
347cafe&lounge[フレンチビストロ]

(supported by 鹿児島県)

職人の技を実際に目で見て、手で触れ、ものづくりを盛り上げる。静岡県西部の工場をめぐる旅。

静岡県郷土工芸品「浜松注染そめ」などを生産する「武藤染工」へ

静岡県は直線距離にして東西に155km、南北に118kmと広がる、全国13番目に大きな県です。面積が大きいぶん、県内では地域ごとに異なる技術や文化を持っているのが特徴で、そのバラエティの豊かさは圧倒的。ところが、ものづくりにおける静岡のこうした実力は全国にそこまで知られていません。そこで、東と西の2つのコースに分け、静岡のクラフトマンシップに触れる宿泊型オープンファクトリーツアーが開催されました。

主催した共生実行委員会は、県内在住の有志で成り立つ組織です。静岡のものづくりを静岡の人間が盛り上げることを理念に、これまでに駿府城公園でクラフトマーケットを複数回実施してきました。マーケットでは県内の人同士をつなぐことを大きな目的としてきましたが、今回のツアーは、県内だけでなく全国から参加者を募ったそう。その結果、茨城や東京など県外に住む人も集まるツアーとなりました。一体、どんな場所を巡ったのでしょうか。西部をめぐるコースに同行しました。

静岡県西部は浜松市を中心に自動車や楽器などの大型産業や繊維産業などが盛んです。最初に向かったのは「武藤染工」。地場の伝統的な遠州染物・遠州織物技術を受け継ぎ、職人が染料を注いで染める昔ながらの染め技術「注染(ちゅうせん)」と、機械を使って行うスクリーンまたはハンドスクリーンによる「捺染(なっせん)の2つの染技術によって、繊維製品の染色加工を行う工場です。この地域で行われている注染は静岡県郷土工芸品の「浜松注染そめ」としても有名。また、武藤染工では、アパレルをはじめ全国のさまざまな企業の特注品や祭用品などの生産も行なっています。

なんと言っても美しいのは、その色と柄。鮮やかな色から渋みのある色まで30色以上の染料を使い、混ぜ合わせたり、グラデーションにしたりしながらあらゆる色彩を表現しています。「組み合わせ次第でいかようにも色を作り出せるので、染められる色の種類は無限にあると言っても過言ではありません」とは、工場の武藤泰地さんの言葉。職人が染料を注ぎ込む作業をしているところ見させてもらうと、あっという間に布が染まっていく様子に参加者からは「わっ」と歓声が。さらに、染めた布を干している様子も見学させてもらいました。

武藤染工は1961年創業。写真は本社工場。

注染とスクリーンの違いを解説する武藤さん。

注染は、職人が染料を注いで布を染める。

数十枚の布を重ねてその上から染料を注ぎ、一気に染め上げる。

染めたての布を干して乾かす。色や柄がバラエティ豊か。

創業145年の老舗うなぎ専門店「中川屋」で浜松のうなぎを食す。

浜松の食といえばうなぎが有名です。せっかくなら目で見て、手で触れるだけでなく、お腹の中まで静岡を満喫しようということで、昼食は老舗うなぎ専門店「中川屋」でうな重をいただきました。

中川屋の創業はなんと1877年。タレは、明治時代から戦争中でさえも火を絶やさずに守り抜かれてきた秘伝のタレです。うなぎのエキスが詰まっていて、醤油の味は控えめでまろやか、粘り気のある甘みが特徴です。

また、天竜川の伏流水で磨いたうなぎは絶品と言われていますが、中川屋では現在でも天竜川の水を汲み上げる井戸を使って、浜名湖から仕入れたうなぎの臭みを抜いてからさばいています。タレだけではなく、うなぎの処理に至るまで、伝統を守り抜く老舗ならではの味わいに一行も大満足です。

中川屋は手前にテーブル席、奥には老舗の風格を感じる昔ながらの座敷席がある。

うなぎは一度蒸してからじっくりと時間をかけて焼いている。

うな重のほか、中川屋オリジナルの「うなぎとろろ茶漬け」も有名。

間伐材を有効利用して体を温める機能性セラミック炭を生産する「アスカム」

次に向かったのは、榛原郡吉田町を拠点とする「アスカム」です。駿河湾へと続く一級河川の大井川では、昔から木材を川に流して運搬する「川狩り」が盛んでしたが、吉田町はその大井川の最下流に位置する地域。アスカムは、1937年に創業した木工製材機械の製造・販売メーカーがセラミック炭事業部を分社化したことにより設立した会社です。2000年頃からは大井川流域に散見される間伐材の有効な活用方法を模索して、機能性セラミック炭の開発・生産を始めました。

「日本の森の状況に危機感を感じ、国産間伐材の有効利用と森林保護に役立つ製品を作りたい、と考えたことが、セラミック炭製品の開発のきっかけでした」と、専務取締役の松浦弘直さん。炭は、自然素材でありながら、遠赤外線効果や脱臭、調湿作用など生活に役立つ機能を兼ね備えています。アスカムでは炭のこうした機能に着目し、消臭グッズや、蓄熱・保温機能のある衣類などを生産しています。

今回のツアーで特に注目したのは、アスカムが日本の森林と人間の生活に役立つライフスタイルを提案する自社オリジナルプロダクトに精力的であるということ。建築や建物には使えない、と判断されてしまった間伐材に熱処理を加えることで付加価値をつけ、人の生活に役立つ商品を生み出した発想力には目を見張るものがあります。

アスカムの関連会社の工場の風景。

スギやヒノキの間伐材を破砕処理した細かいチップからは木のいい香りが広がる。

自社で製造したセラミック炭製造装置の前で解説する松浦さん。

セラミック炭製造装置の内部では炎が850度前後まで燃え上がり、木材をセラミック炭にする。

セラミック炭を使った、アスカムオリジナルの靴下や肌着など。保温効果が高い。

しなやかで頑丈、気付かぬところで人々の日常を支えるベルトを作る「本橋テープ」。

最後に向かった工場は、榛原郡吉田町「本橋テープ」。文房具屋で見かける粘着テープや、あるいは録音・録画機能のあるテープなど「テープ」と呼ばれる製品にもさまざまな種類がありますが、本橋テープで生産しているのは「細幅織物」と呼ばれる種類のベルト状の製品です。頑丈で壊れにくいことが特徴で、リュックサックやショルダーバックのストラップやシートベルトなど、生活シーンをはじめ防災・医療・航空・宇宙分野などあらゆるシーンで活用されています。

本橋テープではもともとB to Bの取引をメインとしていましたが、2000年頃から試行錯誤を重ね、テープを使った完成品の販売をスタート。「テープがもつ耐久性に優れ、丈夫であるという強みを活かし、現在では、キャンプなどで役立つアウトドアグッズや、ボトルホルダーなどを生産し、自社ブランドとして展開、販売しています」と、代表の本橋真也さんは話します。

本橋テープの創業は1986年。

スイスから輸入した機械を前に、本橋さんが解説。

何百もの糸を縦と横に折り合わせ、1本の頑丈なテープを作る。

本橋テープの製品は耐久性に優れていてちぎれにくいので、アウトドアにもぴったり。

吉田町から島田市へ向かう車窓の風景。

小学校跡地をリノベーションし新たに誕生したグランピング施設「結」。

一行は吉田町を後にして、静岡県中部・島田市へと向かいました。目指したのは、グランピング施設「結」。旧島田市立湯日小学校跡地で建物をリノベーションし、小学校のノスタルジックな風景を残したまま、校庭部分に全21棟の大型テントを配置したり、家庭科室などを調理施設に改装するなどした施設です。ツアーの参加者たちはここに宿泊するとともに、夕食を兼ねた地域の人々との交流会に参加しました。

大切なことは、ただ見て触れるだけではなく、作り手と交流を続けていくこと。この交流会には日中に巡った工場の人々も集まり、ツアーの参加者とざっくばらんな会話を楽しみました。「静岡のものづくりは非常に優れているが、当社の手拭いをはじめ、他社の製品の一部になっていたりして自社の名前が表に出る機会がない場合が多い。だから静岡の実力が影に隠れがちなので、こういう機会に地域の伝統と技術の力を人々に知っていただきたい」とは、武藤染工の武藤さんの言葉。静岡のものづくりによって、私たちの生活が支えられていることを知った旅となりました。

グランピング施設「結」は牧之原の茶畑を吹き抜けてきた風が届く位置にある。そんなことを想起させる緑の看板。

工場巡りを終えて「結」にたどり着いた一向。

日中に見学した工場の人々をはじめ、地域の人と参加者が食事を楽しみながら交流。

主催者の共生実行委員会のメンバー。

皿の上で語られるストーリー。滋賀県の食材で仕立てる3皿の肉料理。[滋賀県食材視察ツアー/滋賀県]

近江鴨、藏尾ポーク、近江牛のほか、さまざまな野菜やハーブも滋賀県から届いた。

素材の持ち味を活かす料理で、滋賀県の肉の魅力を伝えた濱口氏。開店前の『セルサルサーレ』にて。

 食材の背景を伝えながら、旅するように味わう料理。

「旅をしているような気分になれる料理」

濱口氏は滋賀県を巡りながら、そんな理想を語っていました。そして旅の物語を料理に詰め込めるよう、産地を巡り、土に触れ、草に触れ、生き物に触れていました。
鴨、豚、牛。3つの滋賀県の食材を使い、濱口氏はどんなストーリーを描き出し、どんな旅を伝えてくれるのでしょうか。

濱口氏の料理構想は直感型。食材から得たインスピレーションを、即興的に料理に昇華する。

 水のような近江鴨を、土の匂いの食材とともに。

「施設も肉質も本当にキレイ。だからあえて対照的なものを合わせてみようと思いました」

というロースト。

「生でもいけそうなほどきれい」という近江鴨にオーブンでゆっくりと火を入れ、芯温46度のレアに。仕上げに表面を藁で炙り、香りを移します。
合わせるのは滋賀県の『みなくちファーム』の干し椎茸を濃縮したソース。さらに加えるのは、焼いたゴボウと味噌のパウダー。さらに表面を焼くときに出た鴨の脂は捨てるのが一般的ですが、近江鴨特有の澄んだ脂はソースに加え深みをプラス。

「近江鴨のクリアな味わいを活かしつつ、エネルギッシュな部分はほかの要素で補うイメージです」

というこの料理。
琵琶湖の豊かな水と滋賀県の自然に育まれ、そして真摯な職人により徹底した管理体制で生産された近江鴨。その対比のイメージを、まるで一編の物語のように料理で表現しました。

藁の香りをまとわせて、クリアな近江鴨にパンチを加える。

30lの水に一晩漬けた干し椎茸を、小鍋一杯分程度まで煮詰めて旨みを凝縮する。

椎茸、ゴボウ、味噌。力強い大地の風味が近江鴨のおいしさを引き立てる。

 繊細な豚のおいしさを、イタリア郷土料理で表現。

続いて、しゃぶしゃぶの試食を経て生産者と意気投合した藏尾ポークは、イタリアの伝統的なローストポーク・ポルケッタに。

「バームクーヘンを食べさせているという話だったので、とりあえず巻いてみました(笑)」

と冗談めかして笑いますが、実は細部まで計算されたレシピ。
ロール状の豚肉の中には通常のポルケッタに使用されるハーブとニンニクではなく、春菊とグリーンオリーブ、柚子の果汁。ソースには焼いてコクを出してからピューレにした大根。仕上げにグラナパダーノチーズを少々。

「力強さではなく、繊細さを感じる豚。軽やかで、野菜との相性が良い」

という藏尾ポークの魅力を、余すところなく表現しました。

複雑な構成要素を絶妙なバランスで成り立たせる濱口氏のセンス。

藏尾ポークのポルケッタ。コクのある大根のソースとともに。

 近江牛のステーキ。シンプルな料理に潜む、複雑な計算。

最後の一品は、近江牛。
『大吉商店』で試食し、その脂の旨みを噛み締めた極上の和牛です。

「今回はあえて脂の強い部分をオーダーしました。近江牛の魅力は、そこですから」

と、今回は近江牛の長所をさらに引き出していく作戦。ただしその脂がくどくならないよう、酸味と野菜を取り入れてバランスを取ります。
ソースは、プルーンのような酸味があるという黒ニンニク、そしてベリーのような爽やかさのビーツ。
肉は超低温でゆっくりと火入れしてから、最後は高温で香ばしさを加えます。仕上げにリコッタのハードチーズを加えて完成。

近江牛の甘みある脂が際立ちつつ、爽やかな酸味で後味をまとめる絶妙な味わい。ともすると重くなりがちな霜降りの和牛を、ライトなおいしさに仕上げました。

滋賀県産の澄んだ味わいの肉を、繊細な火入れと野菜のソースで軽やかに仕上げた3品。

「たとえば浜辺で日焼けするとき。海だと太陽が強すぎるけど、湖畔だと爽やかで気持ち良いでしょう? ふんわりとイメージです(笑)」

そんな言葉で構想の過程を説明してくれた濱口氏。
生産者と話していても、キッチンで調理していても、いつも冗談で人を笑わせ、場を和ませる濱口氏。

人を笑わせることと、料理をすること。もしかするとそれは、人を和ませ、幸せにするという意味で、似ているのかもしれません。だから濱口氏の料理には、食べると笑顔になるような幸せなおいしさが詰まっているのでしょう。

『セルサルサーレ』の店名は、各国語で「塩」。卓越した塩の使い方が食材を活かす決め手。

繊細な酸味が、近江牛の脂の旨みを引き立てる。リコッタチーズのほのかな酸味もアクセント。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by 滋賀県)

触れて、食べて、感じるために。濱口昌大が行く、滋賀県の食材巡り。[滋賀県食材視察ツアー/滋賀県]

今回の視察に訪れたシェフとバイヤー。『みなくちファーム』の農場にて

 イタリアンの名シェフが、滋賀県が誇る肉を巡る。

変化に富んだ気候風土と、琵琶湖の豊かな水が育む滋賀県の食材。
そのクリアなおいしさは多くの料理人を魅了し、日々さまざまな料理関係者が滋賀県の食材を探しに訪れます。
そんな滋賀県産食材の魅力を発信すべく、3名の料理人が野菜と果物、肉、魚の3ジャンルのアンバサダーとして立ち上がりました。

第2弾となる今回のテーマは肉。アンバサダーは、代官山にある予約が取れないイタリアン『セルサルサーレ』の濱口昌大シェフです。

「食べながら旅をしている気分になれるような料理が好き」

濱口氏が料理をする上で大切にするのは、そんなストーリー性。
東京で店を開いているだけでは、ストーリーは生まれない。だから濱口氏は食材に物語の源泉を求めるのです。そしてそのために、自らがあちこちへ旅をして、生産者と話し、生産の現場を見つめ、その背景を紐解きます。

そんな濱口氏の今回の旅の目的は、肉。
実は濱口氏の手掛けるコースは、大半が魚と野菜の料理。しかし

「日本人にとって、やはり肉は特別」

と、ここ一番で登場する肉料理には、格別の思い入れがあるのだといいます。濱口氏が肉に求めるのは、少量でも存在感があり、物語性があり、そして何よりおいしいこと。果たして濱口氏は滋賀県で、そんな肉に出合うことができるのでしょうか。

近江牛を前に思案にふける濱口氏。直接見て、触れた感覚を元に、料理を考案する。

 環境と飼料が育む脂の旨み。滋賀県が誇る名産・近江牛

まず訪れたのは、400年の歴史を誇る滋賀県を代表する名産品・近江牛の生産現場。近江牛専門店として創業百余年の老舗『大吉商店』の永谷武久社長の案内で、牛舎を見学します。

「牛が元気ですね」

まずそんな感想を持った濱口氏。非常にシンプルな第一印象に思えますが、実は料理人にとって、食肉がどのような環境で、どれほど愛情を持って育てられているかは大切な尺度。この『大吉商店』では月齢8ヶ月ほどの但馬血統の仔牛を仕入れ、発酵した藁を中心とした飼料で育てます。仔牛の頃にたんぱく質豊富な緑の草を食べて、その後発酵食で体力をつけることで、健康で上質な肉質の近江牛となるのです。

「出荷は月齢30ヶ月〜33ヶ月。長期肥育は飼料代などのリスクはありますが、脂と赤身のバランスのためにはこれくらい必要なんです」

そんな永谷社長の言葉に、真剣に耳を傾ける濱口氏。
真剣に牛を見つめ、牛の体に触れ、自らの手で牛に餌を与え、牛の体を見極めているような姿が印象的でした。

続いては『大吉商店』の店舗に移動し、食肉を成形する様子を見学。さらにさまざまな部位をシンプルな焼き肉で食べ比べ、肉質や脂の乗りを比較します。

「肉自体がすでに料理として完成されている印象。薄切りをサッと炙って柔らかさを際立たせたり、野菜と合わせて脂の旨みを表現するのもおもしろそうですね」

とすでにいくつかのアイデアが浮かんでいる様子でした。
さらに夜には京都にある『大吉商店』直営の近江牛料理専門店『祇園だいきち』で、専門家がつくる近江牛づくしの料理を試食。

「ランプやイチボは使用していますが、希少部位も個性的でおいしい。いろいろ試して料理を考えてみたい」

と創作意欲に火がついたようでした。

『大吉商店』の近江牛は但馬血統の雌牛が中心。毛艶の良さが品質の証。

ときには生産者の作業を手伝わせてもらう濱口氏。自ら手を動かすことで、食材をより深く理解する。

この見事なサシが近江牛の特長。融点が低く室温で脂が溶け出す。

スジや脂身を除去するトリミング作業。職人の見事な手際が光る。

京都祇園に店を構える『大吉商店』の直営店『祇園だいきち』での一場面。

 豊かな水に育まれる澄んだ味わいの近江鴨。

翌日は、琵琶湖西岸の高島市にある近江鴨の生産者『グッドワン』を訪問した濱口氏。実はこの近江鴨は、濱口氏が多用するお気に入りの食材。出迎えてくれた同社の坂上良一社長とも旧知の仲で、再会を喜び合いました。

近江鴨は滋賀県初のブランド鴨で、国内でも珍しい親鳥からの一貫生産。イギリス原産のチェリバレー種の鴨を卵から羽化させ、ヒナを育成し、54〜56日で出荷します。

「鴨を育てるのに大切なのは、環境、餌、そして水。高島市の豊富な水をナノバブル化して使用することで鴨の腸内環境が整い、臭みのない肉になるのです」

と坂上社長。
さらに1㎡5羽以下の平飼いや、米をたっぷり含む飼料、徹底した管理体制の加工場などが、近江鴨のクオリティを守っています。

濱口氏はそんな『グッドワン』の加工場を改めて見学。
1羽につき1分以下で捌く職人の技、氷で冷やして芯温を一定以下に保ちながらの作業など、こだわりの数々を改めて目の当たりにしました。

「坂上社長とは冗談を言い合う仲ですが、一切手を抜かない誠実な生産者。届く鴨は本当にキレイで、クリアな味がするんです」
と濱口氏も厚い信頼を寄せていました。

内部の温度を上げないため、氷水に当てて冷やしながら解体する。

解体後に内臓を外す外剥ぎ法という解体方法。解体後は急速冷凍して出荷される。

きめ細かく、繊細な近江鴨の肉質。脂もクリアで臭みがない。

 しゃぶしゃぶの試食を通して知る藏尾ポークの底力。

日が暮れても、視察は終わりではありません。
この日の夕食は、近江のブランド豚である藏尾ポークのしゃぶしゃぶ。その場には、『藏尾ポーク』の社長である藏尾忠氏と、常務取締役の藏尾翼氏の姿もありました。
生産者自らの説明を聞きながら、自慢の豚肉を味わいます。

食卓を囲む濱口氏と藏尾社長は、ともに大阪の出身であることなどから、すぐに意気投合。生育や飼料に関することから、肉質、調理法までさまざまな質問を投げかけながら、藏尾ポークの情報を収集します。

「臭みなく、濃厚。脂身のおいしさもありますが、何よりも赤身の力強さがおいしい」

と藏尾ポークを称賛。さらに「もっと印象的だったのは、藏尾社長の真っ直ぐな人柄。僕ああいう人、好きなんです」と笑う濱口氏。

「料理人が産地を訪れる意味は、味や環境を確かめるだけではなく、生産者とコミュニケーションをとるため。そこで関係を築くことで、無茶を言ったり、言われたりしながら、長く続く付き合いが生まれます」

と、今回の藏尾氏との出会いも、大きな収穫だったようです。

牛、鴨、豚という滋賀県が誇る3種の肉を巡った濱口氏。

「滋賀県の食材は淡水のような透明感があるイメージがありましたが、冬に向かうにつれてさまざまな食材が強い味わいに変わっています。今回の3種類の肉も、クリアでいながら個性のある味。その魅力を引き立てる料理を考えてみたい」

と、すでに構想を膨らませているようでした。はたして濱口氏は3種の肉の魅力を、どのような料理で表現するのでしょうか。次回の記事をお楽しみに。

見事なサシが入り、和牛のような霜降りになるのが藏尾ポークの特長。

「シンプルなしゃぶしゃぶで端正な肉が映える」と濱口氏。

藏尾 忠氏(右奥)、翼氏(右手前)から説明を受けるシェフたち。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by 滋賀県)

山梨県産7種のいちごを厳選し、ドライに。凝縮した香りと味は、「毎日を少しだけ華やかに」彩る。[和光アネックス/東京都中央区]

苺は電解水等を使って水洗いを行い、一粒ずつヘタを取り、クリーンルームにてトレイに粒ごと並べてから電気温風乾燥。約3日間かけ適度に水分がなくなる程度に仕上げる。その後、苺を一度保存し、しっかり味を落ち着かせ、完成。手間暇かけた逸品。

WAKO ANNEX果樹畑が広がる土地から、たわわに実った果物を美味しくお届け。

「山梨からのピュアなフルーツで毎日を少しだけ華やかに」。これは、山梨県笛吹市の『アミナチュール』が掲げているメッセージです。この言葉通り、ジュースや果物、フルーツティーなど、「毎日を少しだけ華やかに」してくれる品々を揃えます。

今回、ご紹介するのは、旬のいちごを使用した「ピュアドライフルーツ いちご」。酸味と甘みのバランスが揃った山梨県産の約7種類の苺を厳選し、低温でじっくり乾燥させました。袋を開けるとすぐに感じられる苺の甘い香りと、口の中で甘さと酸味が兼ね備わった濃いベリー感が広がります。ヨーグルトやアイスに乗せたり、パウンドケーキなどの焼き菓子に混ぜたり様々な使い方が出来ます

アミナチュールのこだわりは、常に素材に妥協しないことにあります。桃・ぶどうを始め、ドライフルーツとなる果実には仕入れから加工前の独自の下ごしらえまで、徹底した品質管理を行っています。果実そのものの良さの追求だけでなく、安心の食をお楽しみください。

『アミナチュール』の「Ami」は友達、「Nature」は自然の意味。自然との友好な関係が美味しさを生むのかもしれません。

お勧めの食べ方は、ヨーグルトに乗せてぜひ。徐々にいちごの香りがヨーグルト全体に馴染み、香りと味わいが豊かに。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

やるなら徹底的に。“好き”を突き詰める信濃大町の男たち。

教員と養蜂家の二足のわらじを履く奥原圭永氏。

 すべては「子どもたちに安全で栄養満点の蜂蜜を食べさせたい」という思いから。

長野県は北海道に次いで蜂蜜生産量全国2位。信濃大町でも古くから養蜂が行われています。理科や物理の教員として学校に勤務するかたわら、趣味として養蜂を続けてきた奥原圭永氏は、ミツバチへの愛情いっぱいにつくる蜂蜜が玄人はだしの品質と評判です。銀座『BAR GOYA』の山﨑剛氏は、高瀬川の河川敷に広がる奥原氏の養蜂園を訪ねました。

信州には蜂の子を食べる文化があります。奥原氏は幼少期から自然のクロスズメバチの巣を探し当てる蜂の子捕りに夢中になりました。そんなに蜂が好きなら養蜂をやったらいいと周りに勧められた奥原氏でしたが、「アブのような姿のミツバチには興味が持てなかった」時期が長く続きました。それが、子どもたちの成長に伴い、安全で美味しい蜂蜜を我が子に食べさせたいとミツバチを飼い始めました。シドニー五輪のマラソンで金メダルに輝いた高橋尚子選手の活躍がきっかけだったと振り返ります。

「蜂蜜を入れたスペシャルドリンクが高橋尚子さんのパワーの源だと聞き、うちの子どもたちにも蜂蜜を食べさせて、小柄な体格や体力のなさを克服できないかと考えたのです。それが、ミツバチを飼い始めたらもう可愛くって、ミツバチがいない暮らしをもはや想像できないほどになりました。ところで山﨑さんはミツバチを飼っていないんですか? なぜ飼わないんです?」と、本気とも冗談ともつかない質問を投げかけます。

奥原氏はバドミントンの指導者としても実績豊富。次女の希望さんは日本選手で初めて世界選手権を制し、リオ五輪のバドミントンで銅メダルに輝いた、あの奥原希望選手です。自家生産した蜂蜜はいつでもさっと補給できる一口サイズに梱包され、厳しい試合や練習を支える欠かせないアイテムとなりました。奥原家では砂糖を使うことはほとんどなく、料理の甘みにも蜂蜜を活用しているそうです。

「ははは。残念ながらまだミツバチは飼えていませんけど、銀座のビルの屋上で養蜂を行う『銀座ミツバチプロジェクト』のメンバーになっています。蜂蜜はカクテルにもよく使いますし、個人的にも大好きで、いつもおやつとしてペロペロ舐めているんですよ。蜂蜜はそもそも国産品は貴重ですよね。いろいろ食べてきましたが、同じ国産でも品質や美味しさにかなり差があると感じています」という山﨑氏。奥原氏特製のアカシア蜂蜜を味わい、その美味しさに唸ります。

「サラッとしているのに甘みも香りも強いですね。そのまま味わっても抜群に美味しいし、カクテルにもとても合っている蜂蜜です。一般的な養蜂と違いがあるんですか?」という山﨑氏の質問に、奥原氏は「最も大きな違いはミツバチに砂糖水ではなく蜂蜜をあげていること」と答えます。

ミツバチは花から蜜を集め、巣箱の中に蜂蜜を作ります。蜜を集められない冬場は、巣箱の中で冬眠することなく蓄えた蜂蜜を食べながら春の訪れを待ちます。春になると巣箱の蜂蜜は空になり、また蜜を集めて蜂蜜を作るというサイクルが繰り返されるわけですが、養蜂では冬を前に蜂蜜をすべて搾ってしまい、代わりに越冬用の食糧として砂糖水をあげます。奥原氏は、この時に砂糖水ではなく搾った蜂蜜の一部を戻してあげているそうです。

「養蜂家が売り物となる蜂蜜をミツバチにあげているようでは商売にならないよと言われます。だけど私はミツバチにも美味しい蜂蜜を食べさせたくて。それに春に砂糖水が少しでも残っていたら、その後にできるのは砂糖水混じりの蜂蜜になってしまいますよね。それがとても許せなくてね」と奥原氏は話します。美味しい蜂蜜を作りたいというプロ意識、そしてミツバチへの愛情がいっぱいにあふれています。

奥原氏が2年かけて原野を切り拓き、整備してきた養蜂園。雪の季節は自宅に作った小屋の中に移動させ、雪解けまで大切に管理する。

「ミツバチと一緒に暮らしたい」と老後の夢を熱く語る奥原氏。

 自然豊かな信濃大町で、理想の養蜂を実現する。

長野県での養蜂はツキノワグマとの闘いです。甘く品種改良されたフルーツでも、その糖度は20度程度。糖度80度以上にもなる蜂蜜は、自然界に生きるクマにとってはとんでもなく美味しいごちそうです。初めて巣箱がクマに襲撃された時、奥原氏は我を忘れるほど怒り狂ったと話します。

「巣箱が全部めちゃくちゃに荒らされて、ハチたちがパニックになっている惨状を見て頭にかっと血が上りましてね。クマを返り討ちに遭わせてやろうと、釘をたくさん刺したバットを持って木の上で待ち伏せしたんです。結局クマは現れなかったのですが、もしまた来ていたら私の命はなかったでしょうね。今考えてもバカだったと恐ろしくなるのですが。それくらい、ハチたちを愛しているということなんですよ」と、奥原氏はその温厚な人柄からは想像もつかない仰天エピソードを披露します。

学校やバドミントンの仕事で多忙を極める奥原氏が、自分で管理できるミツバチは10群(1群は女王蜂1匹と働き蜂数千匹が暮らす巣箱1箱)が限界だと言います。長年、理想的な養蜂を実現しようと模索してきた奥原氏は、2年前から河川敷の原野を借り、DIYで少しずつ整備してきました。道路や民家、畑から離れていて、近くに蜜源となる林がある好適地です。木を伐採して下草を刈り、沼地にダンプ100台分の砂を入れて整地しました。巣箱を置くエリアにクマが穴を掘って入って来ないように、伐採した木材をぐるりと地中に埋めています。さらに、ブルーシートで目隠しをし、電柵での防御も施しています。

「当初運び入れる砂はダンプ50台分の見積りでしたけど、倍の100台になったのには参りましたね。バックホー(ショベルが付いた重機)も3台買ってしまいましたし、重い巣箱を上げ下ろしできるパワーゲート付きトラックも必要で……退職金の半分をつぎ込んでしまいました。定年退職後も学校に頼み込まれて教員を続けているのですが、投資を回収していかないと妻に申し訳が立たないので、早く養蜂に専念したいです。ミツバチと暮らしていきたい。それが私の唯一の願いです」と奥原氏は話します。

「これからはミツバチのことだけやりましょ。奥原さんは学校の先生も、バドミントンも十分やりました。ミツバチと楽しく暮らして、この自然の中で育まれた美味しい蜂蜜を僕らに届けてください」と山﨑氏は答えました。
奥原氏は「そうですか? そうですよね。今度妻も定年退職を迎えるので、妻も退職金を私に投資してくれないかなと期待しているんですけどね、半分くらいね」と屈託のない笑顔を見せました。

巣箱のメンテナンスは、燻煙器で煙を吹きかけてミツバチたちを落ち着かせてから行う。山火事だと勘違いしたハチは巣箱内に避難して息を潜めるという説が有力だとか。

天敵であるスズメバチは常に巣箱を襲ってくる。奥原氏は巣箱の入り口に罠を仕掛けてスズメバチを捕獲する。

寒い時は蜂蜜を食べて筋肉を動かし、発熱して巣箱内の温度を上げる。密集するミツバチたちにやさしく触れると、ほんのり温かかった。

 自由奔放な発想と科学の力で生み出す次世代のハードサイダー。

今回の旅では、山﨑氏は信濃大町で生産者として活躍する熱い男たちに会いました。その締めくくりは、信州名産のリンゴを使った酒造りに取り組む孤高の醸造家です。

リンゴを原料にした発泡酒といえば「シードル」が有名です。イギリスなどの英語圏では同様のものを「サイダー」と呼ぶことが多いですが、日本ではアルコールの入っていない炭酸飲料を「サイダー」、アルコールが入っているリンゴの発泡酒を「ハードサイダー」と使い分けるのが一般的となっています。シードルは甘みが強いものが多いのに対し、ハードサイダーは辛口のビールのようなドライなテイストが特徴です。
日本の国産ハードサイダーを牽引する存在として近年頭角を表した醸造所が信濃大町にあります。2017年にプロジェクトを開始し、2019年に法人化された「サノバスミス」です。Son of the Smith(スミスの息子)という名前は、ハードサイダーの原料となる代表的なリンゴ品種であるグラニースミス(スミスおばあちゃん)に由来します。

サノバスミスは大町市の小澤果樹園と小諸市の宮嶋林檎園の両園主が共同設立者となり、醸造研究家である池内琢郎氏を醸造責任者に迎えて産声をあげました。アメリカ・ポートランドを旅した際に、街なかで親しまれているハードサイダーカルチャーの洗礼を受けた彼らは、食用リンゴの規格外品をお酒にするのではなく、サイダー専用品種を育て、栽培から醸造まで一貫した本格的なサイダー造りに乗り出したのです。

サノバスミスは2017年の初出荷以来、新商品を少量多品種で次々とリリースし続けていますが、どれも即完売の人気。その創造性の豊かさと開発スピードの速さは業界内外から注目の的となっています。
池内氏に現在の取り組みについて解説していただきました。同氏は信州大学大学院で有機化学を研究していた根っからの研究者。“ハカセ”の通称で親しまれています。

「日本酒酵母を使ったリンゴのハードサイダーも、自家栽培のホップを加えたハードサイダーもオリジナルです。ワイン同様にハードサイダーの味わいでは苦味成分であるタンニンがひとつのポイントになります。タンニンが出にくいリンゴ品種をホップの苦味で補ってはどうかという仮説から生まれたのが、ホップ入りハードサイダーです。海外のジャーナルや大手ビールメーカーの論文を読み、時間のかかる熟成ホップを短期間で作り上げることに成功し、その奥深い苦味と香りを加えました。僕は世界の論文を読みあさり、有用な技術を見つけ出しては組み合わせています。ちょうどいいレゴブロックをたくさん集めて組み立てる。そんなイメージでお酒を造っているんです」と池内氏は話します。

最新作のひとつである、プルーンを加えたハードサイダー「サノバスミス プラムヘイズ」を試飲しました。東信地方名産のプルーンは非常に上質ですが、生食で美味しく食べるには1週間程度しか日持ちしないことが難点となっています。その課題解決を目指して考案されたのがこの一杯です。

池内氏はタンクから直接注ぎ、「この泡、ビールみたいじゃないですか?」とグラスを見せます。なるほど白く美しい泡は、シードルやシャンパンのようにパチパチ弾けて消えるタイプではなく、ビールのそれのようにクリーミーでずっとこんもりと液の上にのっています。

一口飲んだ山﨑氏は、驚きと歓喜の表情に一変します。
「いやあ、まいった、これは旨い。ハードサイダーだけど、ビールのような泡の美味しさもある。ワインのような余韻も心地いい……僕は“うす長い”と表現するんですが、うっすらとしているけど確かな美味しさがずっと続く感覚。一流料亭のお出汁ってやさしいけれど、しっかりした旨さが持続して、また一口飲みたくなる。あんな感じです。複雑な造りですが、味はとても素直にすぅっと身体に沁み込んでいいきます。これはまったく新しいジャンルの飲み物ですね」

「このビールのような泡も、表面張力を弱めるなど科学的にコントロールしてつくることができます。野生酵母と市販酵母を共生発酵させていますが、科学的ロジックに基づけばそれほどむずかしいことではありません。僕はハードサイダーの醸造だけでなく、ワインも造るし、ランビック系乳酸菌(ベルギービールの代表的な野生酵母)も蒸留の技術も使います。言わば総合格闘技なんですよ。こちらのフルーツサイダーは、ハードサイダーとビール、白ワイン、日本酒の連立方程式のようなもの。いろんな技術は駆使しますが、美味しさが直線的にまとまるように設計しています。お酒のコンセプトが決まったら、これまでの知見をもとに基本的なレシピは頭の中で1分から10分くらいで完成します。10コくらいのレシピのパターンを直感的に挙げて、絞り込んでいくイメージですね。新商品を出すたびに斬新だと驚かれますが、自分にとってはどれも経験の延長上にある必然的な商品なんですよ」と池内氏はさらりと答えます。

「池内さんの知識が先を行き過ぎて、市場がついてこれてないでしょ(笑)。いやそれがサノバスミスの魅力になっているんでしょうね」と山﨑氏も感嘆の声を漏らします。

ウイスキー樽で寝かせたサノバスミスのハードサイダー。ウイスキーとサイダーの2種の相乗効果が楽しめる。

サノバスミスではグラニースミスやゴールデンラセットなどの醸造用品種のリンゴを原料に、シャープな味わいのモダンスタイルのハードサイダーを軸に造っている。

うどん工場をリフォームした醸造所は、すみずみまで清潔で、スタイリッシュ。

醸造に関連する研究を縦横無尽に行う池内氏は、必要な道具も自作する。こちらはお手製の減圧蒸留器。

サノバスミスのタップルームでお酒談義にふける山﨑氏と池内氏。

プルーンを加えたハードサイダー「サノバスミス プラムヘイズ」を味わう。文句なしに旨い。

 ワインの搾りかすで造るピケットで、新ジャンルのドリンクを。

実はここではほとんど割愛していますが、池内氏の説明には未知の単語や難解な数式などが怒濤の如く登場し、終始圧倒されました。理解が追いつかない部分も多いですが、醸造のプランや施されている技術が極めてロジカルであり、しっかりしたエビデンスに基づいていることに納得できます。「お酒もそうですが、池内さんが気になる。一体、何者なんですか(笑)?」と山﨑氏は疑問を投げかけます。

「もともとはお酒を造るつもりはなかったんですよ。」と池内氏。現在につながる「お酒×研究」の世界に入り込んだのは、日本学術振興会の二国間交流事業で南アフリカの大学へ留学した研究時代だったと話します。

「南アフリカ産の優秀なワインをごっそり買いこんで、研究者仲間でテイスティングしていました。例えば、同一地域のピノタージュのワインを10年分買って、毎年タンニン濃度が同じだと仮定して熟成による変質を測定します…分析に必要なのは上澄みだけですから、みんなで楽しく飲みながらディスカッションしたりして、これって最高の遊びじゃないですか? 日本に帰国してからも、同好の士が集まって日本酒やコーヒーでいろんな分析をして楽しんでいたんです。その時にサノバスミスを設立するふたりと出会い、ハードサイダーについて相談を受けたのが、現在の仕事をするきっかけです。アメリカに行ってハードサイダーについて勉強して、試験を受けて資格(2018年にOregon State University's Fermentation Science expertsのCider and Perry Production - A Foundationを取得)を取りました。自分が日本の「サイダー」の第一人者になれると考えてサノバスミスに本格的に参画し、その後、2021年にはイギリスで開催された「The International Cider Awards 2021」の審査員を務めたことで、その考えが実現しました」と池内氏は一気に経緯を話します。

「結局、ここでも好きな研究ができて、お酒を飲めて、最高じゃないですか」と山﨑氏が笑うと、「ですね」と池内氏。天職にたどり着いたようです。

ワインの近作も試飲させていただきました。出色は山梨の新品種・モンドブリエで造った白ワインの後に出る搾りかすを活用した「ピケットのパイメント」。池内氏は少なくとも日本での醸造例はないだろうと推測しています。通常は堆肥などに使われるか廃棄される搾りかすを原料に水を加え、再醗酵させて造る低アルコールのスパークリングワインが「ピケット」。「パイメント」とはブドウと蜂蜜を原料にした醸造酒のことで、ブドウの代わりにピケットを使っていることから「ピケットのパイメント」となるわけです。

「これ、いいですね、旨いですよ! 僕は好きですね」と山﨑氏は激賞します。「ナチュールのオレンジワインのようなビターな雰囲気があって、でも低アルコールで飲みやすい。ミントの香りが合いそう。葉っぱをポンッと叩いて浮かべたら、立派なカクテルですよ」と山﨑氏の言葉に、「そうなんですよ、実は菩提樹の蜂蜜を使っているから、ミントのような香りがごくわずかに入っているんです。これ、僕は低アルコールが見直されている今の時代に合っていて、いけると思っているんですけどね」と池内氏もうれしそうです。

さて、そんな気鋭の醸造家である池内氏にとって、信濃大町の水はどのように映っているのでしょう?

「水道水が20年、30年と地中で磨かれた水というのは、とても恵まれた環境です。僕の醸造では、天然水の美味しさを生かしてそのまま使っています。水質調整したらどんな水でもいいのではという人がいるかもしれませんが、元の水の品質は極めて重要です。信濃大町の水はクセがなく清冽そのもの。とてもいい水なんです」と池内氏は話します。

山﨑氏は静かに耳を傾けながら、信濃大町の天然水を使って醸されたピケットのパイメントをごくり。もうすぐ初雪が降りそうな信濃大町の夜は、静かに更けていきました。

上質な国産品は極めて珍しいとされるホップだが、サノバスミスでは自家栽培したものを使っている。奥深い苦味が得られる一級品だという。

ハードサイダーとは思えないクリーミーな泡に驚く。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 大町市)

市場にもほぼ出回らない、奈良県産・古都華の奇跡。[和光アネックス/東京都中央区]

気品あふれるボトルは、贈答用としても人気。アペリティフやデザートワインとしてもお楽しみいただきたい。

WAKO ANNEX約60年の歴史と奈良に寄り添い続けた信用。そこから生まれた名酒。

奈良県奈良市の『泉屋』は、「御用聞きのプロフェッショナル」として、小回り、気配り、スピード感を最大の強みとして、地元のお客様をサポート。卸売・小売事業を通して信頼を築いてきました。その信頼を活かし、地域の酒ブランドも開発。奈良の酒の魅力を世界へ発信する取り組みも行なっています。そのひとつが「丹波ワイン 古都のあわ」。市場にもあまり出回らない名酒です。

奈良県産いちご「古都華」をふんだんに使用したいちごのスパークリングワインは、古都華の芳香な香りと甘みを十分に感じられ、まるで果実そのものを食べているかのような感覚。

大切な人と、はたまたパーティやハレの日に、お楽しみいただきたい。

常温でも保存できるため、管理も安心。飲む際は、ぜひ良く冷やしてからお召し上がりを。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

ワインの新たな銘醸地としてのポテンシャルを秘めた「大町テロワール」。

「Ferme36」のペティアンと白をいただく。石は畑から掘り起こされたもの。オーナーの矢野夫妻はこの石を眺めながら飲むのが好きなのだとか。

 大きな寒暖差が生み出す奥深い味わい。

信濃大町の平新郷地区から遠望する蓮華岳や爺ヶ岳の山並み。その雄大な景色に向かって「Ferme36(フェルムサンロク)」のブドウ畑は広がります。銀座『BAR GOYA』の店主・山﨑剛氏は、年間出荷量約4,000本と少量ながら年々評判を高めているヴィニュロン(ブドウ栽培とワイン醸造を共に手掛ける人)を訪ねました。

「Ferme36」は矢野喜雄氏・久江氏夫妻による家族経営のワイナリーです。商品を紹介するカタログには、ヴィニロンとして夫妻の名前、その隣にはプチ・ヴィニロンとして、夫妻をよく手伝ってくれる息子の相達くんの名前が記載されています。“Ferme”はフランス語で農園を意味し、36は喜雄氏のお気に入りの数字。“山麓”とかけた造語であり、「親子3人で6人分働こう」という思いも込めているそうです。

夫妻は長年、栃木県足利市の「ココ・ファーム・ワイナリー」に勤め、ブドウ栽培とワイン醸造の両方の経験を積んできました。2014年に独立して大町市に移住し、理想のワイナリー「Ferme36」を少しずつ形にしてきました。現在、2ヘクタールの土地で約15種類のブドウを有機栽培し、5種のワインを造っています。ブドウ栽培から醸造、瓶詰めまでを行う、いわゆるドメーヌのワインはすべてナチュールワインに準じるブドウ栽培と醸造法を守り、病害予防の薬剤もEUで認証されたボルドー液を使うのみ。房を絞った果汁には酸化防止剤として一般的な亜硫酸は無添加もしくはごく微量の使用に限定。野生酵母の力で発酵させています。

ブドウを試食させてもらいます。シャルドネやメルロー、ピノ・ノワール、ピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブラン……。口にするたびに山﨑氏は感嘆の声を漏らします。
「これも旨い! ピノなんかめちゃくちゃ甘くて酸もしっかりある。僕はワインの仲間のシェリーというお酒の大会で日本一となりまして、本国スペインも何度も取材しているんですが、あちらではみんな『醸造用のブドウは美味しくない』と言っていましたけどね。矢野さんのブドウは食用ブドウとしてものすごく美味しい。これ、フレッシュカクテルに使ったら最高ですよ」

ブドウの美味しさの理由を矢野氏は分析します。
「このあたりは、夏でも冷涼な気候がブドウ栽培に向いていると言われています。それに加えて大きな寒暖差が影響しているでしょう。10月になると夜温がぐっと下がります。日中の最高気温は25℃くらいででも、夜間は10℃にまで下がることもざら。この15℃もの寒暖差は北海道よりも大きいと言われるほどで、この独特の気候のおかげで酸度をキープしながら糖度を高く追い込んでいけると考えています」

よく手入れされた「Ferme36」の畑。使用する薬剤はボルドー液のみであるため、そこここでさまざまな生き物が蠢く。

シャルドネは収穫の時を間近に控えていた。50年後も元気な樹であることを念頭に有機栽培に徹するが、病害虫の前にはいつも不安の連続。「有機には勇気が必要」と矢野夫妻は話す。

皮ごと発酵させるピノ・ノワールは、粒の選別を入念に行う。

「Ferme36」のワイン「Remerciements」。エチケットには、畑を見守るようにそびえる蓮華岳のシルエットがデザインされている。

「Ferme36」のオーナー、矢野夫妻と共に。「私たちが誰よりも自分たちのワインを飲んでいます(笑)。自分たちが飲みたいワインを造ろうと、ふたりで決めているんです」と久江氏。

 ミネラル豊富な土壌と、澄んだ味わいを生む天然水。

「このストイックな土壌もブドウによい影響をもたらしているでしょうね」と喜雄氏は続けます。
「うちの圃場は糸魚川-静岡構造線の西側に位置します。鹿島川が長い時間をかけて山から石を運び、広大な扇状地を作ってきた場所です。地面を15cmも掘ると、石がゴロゴロとある砂礫層になっているのがわかります。近くで行われた掘削調査によると、花崗岩が3割、火山岩が7割ミックスされた特徴的な土壌とのこと。そのような層が地下350mまで堆積しているそうです。ですから、ブドウ栽培に必要な水はけの良さは抜群で、かつミネラル成分も豊富。ブドウの樹が地中深くに根を伸ばしていくことで、ミネラル成分をより吸い上げ、奥深い味わいをもたらしてくれるものと思っています」

「Ferme36」のワインには「Remerciements(ルメルシマン)」と名付けられています。フランス語で“感謝”という意味で、作業を手伝ってくれる障がい福祉サービス事業所の人たちへの感謝の気持ち、偉大な自然への感謝の気持ちが、そこには込められています。
薄く雪を被った北アルプスの稜線が青空にくっきりと浮かび上がっています。BGMは発酵タンクに聴かせているモーツァルトの弦楽四重奏。この最高の環境で試飲させていただきます。
抜栓したのはロゼのペティアン(弱発泡性ワイン)。こちらは大町ぶどう生産組合から購入したブドウを使った、いわゆるネゴシアンのスタイルで造ったもの。ナチュールワインの方法で醸造しており、瓶内で二次発酵させ、おりもそのまま残しています。

「美味しいです、本当に。しっかりした果実味がありながら、すっきりドライ。微発泡のなめらかな舌触りも心地いいです。力強い発泡がずっと続いています。それにしてもキレイな色ですね」と山﨑氏が話すと、喜雄氏は「おりも混じっているので濁っていますよね」と返します。晴わたる空に透かしてみると……。
「これ、マイクロバブルのせいで少し濁ったように見えるんじゃないですか、ほら? 僕の師匠はサイドカーというカクテルで世界的に有名なんですが、彼はシェイクによってこんな感じのマイクロバブルを液体に溶け込ませることができるんです。その濁り方と似てます。シェリーにしてもワインにしても僕はおりにこそ旨味があると思っているんで、こんなふうにマイクロバブルとおりが混じっているのは最高。これはもう自然のカクテルですよ」と山﨑氏は笑います。

続けて試飲したのは、シャルドネの他8種類の自家栽培のブドウを使った白。印象的な香りがふわりと立ち上がります。
「ナッツ、ローステッドマロンのような香り。アタックはスッと穏やかに入ってきますが、ミッドパレットからフィニッシュにかけていろんな風味が口の中で踊ってくるようなイメージです。旨いです。とても深くて立体的な美味しさ。このモーツァルトのように、9種類のブドウの個性が調和していると言いますか……」と山﨑氏。

「それぞれのブドウで造ったワインを調合するのではなく、各ブドウの発酵段階でミックスしていきます。科学的根拠はないのですが、その方がブドウが助け合って調和するような気がするもので」と喜雄氏がプロセスについて話すと、山﨑氏はなるほどと頷きます。そして再び味わいながら、「とても複雑で奥行きがあるんですが、どちらも澄んだ味わいですよね。飲み飽きしない美味しさです」と、2本のワインの共通点を指摘します。

「みなさん“澄んでいる”とおっしゃいますね。それは大町の水のおかげだと思います。醸造工程で水を加えることはありませんが、ブドウ一粒一粒が蓄えた水が澄んでいるから、かと。他の地域でもワインを造ってきましたが、澄んだ印象になるのは水の違いが大きいと感じています」と喜雄氏は話します。

特有の土と水、気候が織りなす「大町テロワール」を体感する1杯と出合えました。

「それにしてもキレイな色ですね。ほらマイクロバブルが見えるでしょ」と山﨑氏。

白の複雑な香りと味わいを堪能する。

美しい山容がいつもそばに。夕刻、夕陽を受けた山肌が赤く染まる現象、アーベンロートを見ると、疲れも吹き飛ぶのだとか。

 農家を受け継ぎ、ブドウ栽培から一手に担う醸造家に。

信濃大町で、もうひとりのヴィニロンを訪ねました。黒部立山アルペンルートの起点である扇沢へ向かう幹線道路沿いにある「ノーザンアルプスヴィンヤード」の若林政起氏です。信濃大町で稲作やリンゴ栽培の農家に生まれた若林氏は、20代前半にいつしか自分の手でワインを造ってみたいという気持ちが強くなったと言います。当時、フランス料理店「タイユヴァン・ロブション」のソムリエとして活躍し、現在は「エスキス」の総支配人を務める従兄弟の若林英司氏にブルゴーニュのワインを飲ませてもらったのがきっかけでした。

「ワインの美味しさ、カルチャーの奥深さに衝撃を受けて、家業を引き継いでワインブドウ栽培にチャレンジしようと決心しました。ところが、ワイン醸造までやるには当時の見積もりで設備投資に数億円の試算になってしまい、あえなく断念することに。挫折して東京でプログラマーとして働いていましたが、醸造免許の規制緩和が進み次第に風向きが変わってきました。ブドウ農家の叔父に相談しながら再検討すると、なんとか自分でもできそうな道筋が見えてきました。2007年に母が亡くなったの契機に、2008年に父から畑を借りてシャルドネやメルローを植え始めたのです」と若林氏は話します。ブドウ栽培と同時に近くのワイナリーに勤務して醸造経験を積み、2011年に初めてブドウを収穫。そして、2013年には農業生産法人「ノーザンアルプスヴィンヤード」を設立します。クラウドファンディングでの資金調達に加えて国の6次産業化認定を受けるなど醸造環境を整備し、2016年に自家醸造ワインの初出荷に漕ぎ着けました。

以降、ワインは堅調に評価を高めていましたが、ピノ・ノワールのワインについての賛否両論が激しくなり、若林氏は苦悩します。

「うちはヨーロッパの伝統的な栽培法にはこだわっていないので、かなり個性的なブドウに育つんです。とりわけピノ・ノワールはかなり特徴的な仕上がりなので、そこがいいという派とダメという派に極端に分かれます。当初は気にせずにやっていたのですが、著名な評論家に叩かれたり、販売会のお客さんに面と向かって『まずい』と言われたりして、さすがにこたえて精神的に病んでしまいましてね。そんなところにコロナがやってきて、売り上げは3分の1に。人も雇えずとてもひとりでは手が回らないので、一部の畑は返し、ピノ・ノワールの樹はほったらかし状態です。もういろいろ嫌になっちゃって」と、内容は深刻ですが、若林氏はカラカラと笑って話します。

2022年からは、目が届く範囲でブドウ栽培を行い、一部の畑は樹のオーナー制度を採り入れてお客さんに管理や収穫を任せるなど、少しずつ立て直しを図っているそうです。

そんな若林氏に山﨑氏はいたく共感します。
「うちのお店もコロナの影響をモロに受けました。ピンチをチャンスに変えたいと思って、新たなビジネスとして築地でジュース屋を始めたし、マーケティングの勉強にも打ち込みました。助成金なども含めて自己投資に500万円はつかったでしょうね。でも、僕は根っからの職人で人に店を任せられる性格でもないのでうまくいきませんでした。カクテルの日本一を決める競技会のあとで燃え尽きて、2ヶ月間仕事を休みました。そこから原点に立ち返って削ぎ落としていき、今はコロナ以前よりもいい状態になれました。若林さんも、一度下がって上がる、これから上がるフェーズに入っているんだと思います。若林さんのワイン、飲ませてください!」

職業は違えど、「コロナはきつかったけど、自分を見つめ直す機会になりましたね」と共感するふたり。

シャルドネはブルゴーニュで生育された樹のクローンを丹念に育ててきた。

もともと樹が持っている個性が強く出ているというシャルドネは、信濃大町の冷涼な気候から来るシャブリのようなイメージとは真逆で、パイナップルのような南国を思わせる果実味が強い。

 禅を採り入れた日本だからこそのワイン造りを。

シャルドネをオークの古樽で熟成させた「オルター シャルドネ オーク」をいただきます。
「旨いですねえ。確かに意外性のあるトロピカルなフルーツの香り、白桃のような香りが印象的です。果実味とほどよい酸がとてもいいバランスですね」とひと口含んだ山﨑氏の顔はパッと明るくなりました。

そして、件のピノ・ノワールの最後の造りのワインもテイスティングすると……
「おお、これはすごい! 一般的にピノ・ノワールは飲みやすくて安心感がある味わいだと思うんですが、若林さんのピノはそのイメージを根底から覆しています。ものすごくスパイシーで、カシスの香りも強い。ブランデーのようなニュアンスもある。あと、なんだろう? 不思議と日本的な雰囲気も感じます。この土地の微生物の影響ですかね。めちゃくちゃ複雑でめちゃくちゃ個性的。これは唯一無二の美味しさです。僕は好きだなあ」と山﨑氏は絶賛します。

こちらは潰したブドウを無傷のブドウでふたをし、炭酸ガスの中に漬け込むセミ・マセラシン・カルボニック方式を独自にアレンジした方法で醸造されているそうです。
「天然酵母で造るにはどうすればよいかを考えて自分なりに編み出した方法です。醸造は弓矢をイメージしています。一般的な醸造法が照準器がたくさん付いた西洋のアーチェリーなら、自分がやりたい醸造法は日本の弓道。照準器もないごくシンプルな道具だけど、狙ったところにちゃんと当たる。道具の力で自然をコントロールするのではなく、自然の力をうまく利用して無理なくいい仕事をする。そんな醸造家になりたいと思っているんです」と若林氏は話します。

そして、話題は「ブドウ」から「武道」へ。

「弓道や合気道などの武道、茶道も華道も日本の“道”がつく伝統文化はどれも禅の思想と結び付いていますよね。私は日本でワイン造りをするなら、この禅を採り入れたいと考えるようになってきました。禅は削ぎ落とす引き算の世界観。筋力ではなく、むしろ脱力した無駄のない動きで信じられないほど大きな力を発揮します。達人ほど動きはゆっくり見えるけど作業は早く、仕事の精度も高い。今までは力に任せてガンガン働くのがいいと思い込んでいたけれど、禅の思想で、静かに立ち止まって、理にかなった動きでブドウ栽培も、醸造も自然体でやっていきたいと思っているんです」と若林氏は続けます。

「僕もバーテンダーの技能を高めようと、ジムでものすごくトレーニングして筋肉をつけたことがあるんです。だけど、その結果、カクテルのシェイクはなぜか遅くなってしまったし、フルーツカービングにも変な力が入って完成度は落ちてしまいました。それで、筋トレをやめて、逆にヨガで脱力する訓練を始めたら、自分でも驚くほどよく動けるようになったんです。若林さんの話、ものすごくよくわかりますね。僕もまさにそのプロセスを経てようやく納得できるカクテルが作れるようになってきたところですから」と山﨑氏は話します。

若林氏は、「なるようになる、なるようにしかならない」という境地に入り、2023年はトラウマとなったピノ・ノワールのワインも再開しようと思い始めているそうです。

またここにも、独自の道を追求する醸造家の姿がありました。

「ピノ・ノワール 2020」(左)と「オルター シャルドネ オーク」(右)。どちらも若林氏の人柄が感じられる個性豊かな味わい。

期せずして「禅」の話で盛り上がる。共に挫折を経験し、引き算と脱力という禅に通じる考え方で逆境を克服してきたふたりは、すぐさま意気投合した。

産み捨てられていた仔猫・タマちゃんがいつしか居ついた。人懐っこく、誰であっても膝に乗ってくる。孤軍奮闘する若林氏のよき理解者だ。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 大町市)

ワインの新たな銘醸地としてのポテンシャルを秘めた「大町テロワール」。

「Ferme36」のペティアンと白をいただく。石は畑から掘り起こされたもの。オーナーの矢野夫妻はこの石を眺めながら飲むのが好きなのだとか。

 大きな寒暖差が生み出す奥深い味わい。

信濃大町の平新郷地区から遠望する蓮華岳や爺ヶ岳の山並み。その雄大な景色に向かって「Ferme36(フェルムサンロク)」のブドウ畑は広がります。銀座『BAR GOYA』の店主・山﨑剛氏は、年間出荷量約4,000本と少量ながら年々評判を高めているヴィニュロン(ブドウ栽培とワイン醸造を共に手掛ける人)を訪ねました。

「Ferme36」は矢野喜雄氏・久江氏夫妻による家族経営のワイナリーです。商品を紹介するカタログには、ヴィニロンとして夫妻の名前、その隣にはプチ・ヴィニロンとして、夫妻をよく手伝ってくれる息子の相達くんの名前が記載されています。“Ferme”はフランス語で農園を意味し、36は喜雄氏のお気に入りの数字。“山麓”とかけた造語であり、「親子3人で6人分働こう」という思いも込めているそうです。

夫妻は長年、栃木県足利市の「ココ・ファーム・ワイナリー」に勤め、ブドウ栽培とワイン醸造の両方の経験を積んできました。2014年に独立して大町市に移住し、理想のワイナリー「Ferme36」を少しずつ形にしてきました。現在、2ヘクタールの土地で約15種類のブドウを有機栽培し、5種のワインを造っています。ブドウ栽培から醸造、瓶詰めまでを行う、いわゆるドメーヌのワインはすべてナチュールワインに準じるブドウ栽培と醸造法を守り、病害予防の薬剤もEUで認証されたボルドー液を使うのみ。房を絞った果汁には酸化防止剤として一般的な亜硫酸は無添加もしくはごく微量の使用に限定。野生酵母の力で発酵させています。

ブドウを試食させてもらいます。シャルドネやメルロー、ピノ・ノワール、ピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブラン……。口にするたびに山﨑氏は感嘆の声を漏らします。
「これも旨い! ピノなんかめちゃくちゃ甘くて酸もしっかりある。僕はワインの仲間のシェリーというお酒の大会で日本一となりまして、本国スペインも何度も取材しているんですが、あちらではみんな『醸造用のブドウは美味しくない』と言っていましたけどね。矢野さんのブドウは食用ブドウとしてものすごく美味しい。これ、フレッシュカクテルに使ったら最高ですよ」

ブドウの美味しさの理由を矢野氏は分析します。
「このあたりは、夏でも冷涼な気候がブドウ栽培に向いていると言われています。それに加えて大きな寒暖差が影響しているでしょう。10月になると夜温がぐっと下がります。日中の最高気温は25℃くらいででも、夜間は10℃にまで下がることもざら。この15℃もの寒暖差は北海道よりも大きいと言われるほどで、この独特の気候のおかげで酸度をキープしながら糖度を高く追い込んでいけると考えています」

よく手入れされた「Ferme36」の畑。使用する薬剤はボルドー液のみであるため、そこここでさまざまな生き物が蠢く。

シャルドネは収穫の時を間近に控えていた。50年後も元気な樹であることを念頭に有機栽培に徹するが、病害虫の前にはいつも不安の連続。「有機には勇気が必要」と矢野夫妻は話す。

皮ごと発酵させるピノ・ノワールは、粒の選別を入念に行う。

「Ferme36」のワイン「Remerciements」。エチケットには、畑を見守るようにそびえる蓮華岳のシルエットがデザインされている。

「Ferme36」のオーナー、矢野夫妻と共に。「私たちが誰よりも自分たちのワインを飲んでいます(笑)。自分たちが飲みたいワインを造ろうと、ふたりで決めているんです」と久江氏。

 ミネラル豊富な土壌と、澄んだ味わいを生む天然水。

「このストイックな土壌もブドウによい影響をもたらしているでしょうね」と喜雄氏は続けます。
「うちの圃場は糸魚川-静岡構造線の西側に位置します。鹿島川が長い時間をかけて山から石を運び、広大な扇状地を作ってきた場所です。地面を15cmも掘ると、石がゴロゴロとある砂礫層になっているのがわかります。近くで行われた掘削調査によると、花崗岩が3割、火山岩が7割ミックスされた特徴的な土壌とのこと。そのような層が地下350mまで堆積しているそうです。ですから、ブドウ栽培に必要な水はけの良さは抜群で、かつミネラル成分も豊富。ブドウの樹が地中深くに根を伸ばしていくことで、ミネラル成分をより吸い上げ、奥深い味わいをもたらしてくれるものと思っています」

「Ferme36」のワインには「Remerciements(ルメルシマン)」と名付けられています。フランス語で“感謝”という意味で、作業を手伝ってくれる障がい福祉サービス事業所の人たちへの感謝の気持ち、偉大な自然への感謝の気持ちが、そこには込められています。
薄く雪を被った北アルプスの稜線が青空にくっきりと浮かび上がっています。BGMは発酵タンクに聴かせているモーツァルトの弦楽四重奏。この最高の環境で試飲させていただきます。
抜栓したのはロゼのペティアン(弱発泡性ワイン)。こちらは大町ぶどう生産組合から購入したブドウを使った、いわゆるネゴシアンのスタイルで造ったもの。ナチュールワインの方法で醸造しており、瓶内で二次発酵させ、おりもそのまま残しています。

「美味しいです、本当に。しっかりした果実味がありながら、すっきりドライ。微発泡のなめらかな舌触りも心地いいです。力強い発泡がずっと続いています。それにしてもキレイな色ですね」と山﨑氏が話すと、喜雄氏は「おりも混じっているので濁っていますよね」と返します。晴わたる空に透かしてみると……。
「これ、マイクロバブルのせいで少し濁ったように見えるんじゃないですか、ほら? 僕の師匠はサイドカーというカクテルで世界的に有名なんですが、彼はシェイクによってこんな感じのマイクロバブルを液体に溶け込ませることができるんです。その濁り方と似てます。シェリーにしてもワインにしても僕はおりにこそ旨味があると思っているんで、こんなふうにマイクロバブルとおりが混じっているのは最高。これはもう自然のカクテルですよ」と山﨑氏は笑います。

続けて試飲したのは、シャルドネの他8種類の自家栽培のブドウを使った白。印象的な香りがふわりと立ち上がります。
「ナッツ、ローステッドマロンのような香り。アタックはスッと穏やかに入ってきますが、ミッドパレットからフィニッシュにかけていろんな風味が口の中で踊ってくるようなイメージです。旨いです。とても深くて立体的な美味しさ。このモーツァルトのように、9種類のブドウの個性が調和していると言いますか……」と山﨑氏。

「それぞれのブドウで造ったワインを調合するのではなく、各ブドウの発酵段階でミックスしていきます。科学的根拠はないのですが、その方がブドウが助け合って調和するような気がするもので」と喜雄氏がプロセスについて話すと、山﨑氏はなるほどと頷きます。そして再び味わいながら、「とても複雑で奥行きがあるんですが、どちらも澄んだ味わいですよね。飲み飽きしない美味しさです」と、2本のワインの共通点を指摘します。

「みなさん“澄んでいる”とおっしゃいますね。それは大町の水のおかげだと思います。醸造工程で水を加えることはありませんが、ブドウ一粒一粒が蓄えた水が澄んでいるから、かと。他の地域でもワインを造ってきましたが、澄んだ印象になるのは水の違いが大きいと感じています」と喜雄氏は話します。

特有の土と水、気候が織りなす「大町テロワール」を体感する1杯と出合えました。

「それにしてもキレイな色ですね。ほらマイクロバブルが見えるでしょ」と山﨑氏。

白の複雑な香りと味わいを堪能する。

美しい山容がいつもそばに。夕刻、夕陽を受けた山肌が赤く染まる現象、アーベンロートを見ると、疲れも吹き飛ぶのだとか。

 農家を受け継ぎ、ブドウ栽培から一手に担う醸造家に。

信濃大町で、もうひとりのヴィニロンを訪ねました。黒部立山アルペンルートの起点である扇沢へ向かう幹線道路沿いにある「ノーザンアルプスヴィンヤード」の若林政起氏です。信濃大町で稲作やリンゴ栽培の農家に生まれた若林氏は、20代前半にいつしか自分の手でワインを造ってみたいという気持ちが強くなったと言います。当時、フランス料理店「タイユヴァン・ロブション」のソムリエとして活躍し、現在は「エスキス」の総支配人を務める従兄弟の若林英司氏にブルゴーニュのワインを飲ませてもらったのがきっかけでした。

「ワインの美味しさ、カルチャーの奥深さに衝撃を受けて、家業を引き継いでワインブドウ栽培にチャレンジしようと決心しました。ところが、ワイン醸造までやるには当時の見積もりで設備投資に数億円の試算になってしまい、あえなく断念することに。挫折して東京でプログラマーとして働いていましたが、醸造免許の規制緩和が進み次第に風向きが変わってきました。ブドウ農家の叔父に相談しながら再検討すると、なんとか自分でもできそうな道筋が見えてきました。2007年に母が亡くなったの契機に、2008年に父から畑を借りてシャルドネやメルローを植え始めたのです」と若林氏は話します。ブドウ栽培と同時に近くのワイナリーに勤務して醸造経験を積み、2011年に初めてブドウを収穫。そして、2013年には農業生産法人「ノーザンアルプスヴィンヤード」を設立します。クラウドファンディングでの資金調達に加えて国の6次産業化認定を受けるなど醸造環境を整備し、2016年に自家醸造ワインの初出荷に漕ぎ着けました。

以降、ワインは堅調に評価を高めていましたが、ピノ・ノワールのワインについての賛否両論が激しくなり、若林氏は苦悩します。

「うちはヨーロッパの伝統的な栽培法にはこだわっていないので、かなり個性的なブドウに育つんです。とりわけピノ・ノワールはかなり特徴的な仕上がりなので、そこがいいという派とダメという派に極端に分かれます。当初は気にせずにやっていたのですが、著名な評論家に叩かれたり、販売会のお客さんに面と向かって『まずい』と言われたりして、さすがにこたえて精神的に病んでしまいましてね。そんなところにコロナがやってきて、売り上げは3分の1に。人も雇えずとてもひとりでは手が回らないので、一部の畑は返し、ピノ・ノワールの樹はほったらかし状態です。もういろいろ嫌になっちゃって」と、内容は深刻ですが、若林氏はカラカラと笑って話します。

2022年からは、目が届く範囲でブドウ栽培を行い、一部の畑は樹のオーナー制度を採り入れてお客さんに管理や収穫を任せるなど、少しずつ立て直しを図っているそうです。

そんな若林氏に山﨑氏はいたく共感します。
「うちのお店もコロナの影響をモロに受けました。ピンチをチャンスに変えたいと思って、新たなビジネスとして築地でジュース屋を始めたし、マーケティングの勉強にも打ち込みました。助成金なども含めて自己投資に500万円はつかったでしょうね。でも、僕は根っからの職人で人に店を任せられる性格でもないのでうまくいきませんでした。カクテルの日本一を決める競技会のあとで燃え尽きて、2ヶ月間仕事を休みました。そこから原点に立ち返って削ぎ落としていき、今はコロナ以前よりもいい状態になれました。若林さんも、一度下がって上がる、これから上がるフェーズに入っているんだと思います。若林さんのワイン、飲ませてください!」

職業は違えど、「コロナはきつかったけど、自分を見つめ直す機会になりましたね」と共感するふたり。

シャルドネはブルゴーニュで生育された樹のクローンを丹念に育ててきた。

もともと樹が持っている個性が強く出ているというシャルドネは、信濃大町の冷涼な気候から来るシャブリのようなイメージとは真逆で、パイナップルのような南国を思わせる果実味が強い。

 禅を採り入れた日本だからこそのワイン造りを。

シャルドネをオークの古樽で熟成させた「オルター シャルドネ オーク」をいただきます。
「旨いですねえ。確かに意外性のあるトロピカルなフルーツの香り、白桃のような香りが印象的です。果実味とほどよい酸がとてもいいバランスですね」とひと口含んだ山﨑氏の顔はパッと明るくなりました。

そして、件のピノ・ノワールの最後の造りのワインもテイスティングすると……
「おお、これはすごい! 一般的にピノ・ノワールは飲みやすくて安心感がある味わいだと思うんですが、若林さんのピノはそのイメージを根底から覆しています。ものすごくスパイシーで、カシスの香りも強い。ブランデーのようなニュアンスもある。あと、なんだろう? 不思議と日本的な雰囲気も感じます。この土地の微生物の影響ですかね。めちゃくちゃ複雑でめちゃくちゃ個性的。これは唯一無二の美味しさです。僕は好きだなあ」と山﨑氏は絶賛します。

こちらは潰したブドウを無傷のブドウでふたをし、炭酸ガスの中に漬け込むセミ・マセラシン・カルボニック方式を独自にアレンジした方法で醸造されているそうです。
「天然酵母で造るにはどうすればよいかを考えて自分なりに編み出した方法です。醸造は弓矢をイメージしています。一般的な醸造法が照準器がたくさん付いた西洋のアーチェリーなら、自分がやりたい醸造法は日本の弓道。照準器もないごくシンプルな道具だけど、狙ったところにちゃんと当たる。道具の力で自然をコントロールするのではなく、自然の力をうまく利用して無理なくいい仕事をする。そんな醸造家になりたいと思っているんです」と若林氏は話します。

そして、話題は「ブドウ」から「武道」へ。

「弓道や合気道などの武道、茶道も華道も日本の“道”がつく伝統文化はどれも禅の思想と結び付いていますよね。私は日本でワイン造りをするなら、この禅を採り入れたいと考えるようになってきました。禅は削ぎ落とす引き算の世界観。筋力ではなく、むしろ脱力した無駄のない動きで信じられないほど大きな力を発揮します。達人ほど動きはゆっくり見えるけど作業は早く、仕事の精度も高い。今までは力に任せてガンガン働くのがいいと思い込んでいたけれど、禅の思想で、静かに立ち止まって、理にかなった動きでブドウ栽培も、醸造も自然体でやっていきたいと思っているんです」と若林氏は続けます。

「僕もバーテンダーの技能を高めようと、ジムでものすごくトレーニングして筋肉をつけたことがあるんです。だけど、その結果、カクテルのシェイクはなぜか遅くなってしまったし、フルーツカービングにも変な力が入って完成度は落ちてしまいました。それで、筋トレをやめて、逆にヨガで脱力する訓練を始めたら、自分でも驚くほどよく動けるようになったんです。若林さんの話、ものすごくよくわかりますね。僕もまさにそのプロセスを経てようやく納得できるカクテルが作れるようになってきたところですから」と山﨑氏は話します。

若林氏は、「なるようになる、なるようにしかならない」という境地に入り、2023年はトラウマとなったピノ・ノワールのワインも再開しようと思い始めているそうです。

またここにも、独自の道を追求する醸造家の姿がありました。

「ピノ・ノワール 2020」(左)と「オルター シャルドネ オーク」(右)。どちらも若林氏の人柄が感じられる個性豊かな味わい。

期せずして「禅」の話で盛り上がる。共に挫折を経験し、引き算と脱力という禅に通じる考え方で逆境を克服してきたふたりは、すぐさま意気投合した。

産み捨てられていた仔猫・タマちゃんがいつしか居ついた。人懐っこく、誰であっても膝に乗ってくる。孤軍奮闘する若林氏のよき理解者だ。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 大町市)

プロフェッショナルの審査員を唸らせる料理。夢を抱かせる料理が勝利を導く。

約3年ぶりに来日を果たしたフィリップ・ミル氏。自身も『ボキューズ・ドール』出場経験を持つ。「24ヵ国の審査員を驚かせ、納得させ、夢を抱かせるような料理でなければ勝てない」と大会を分析する。

Bocuse d’Or 2023口の中を躍らせるような味を見つけることが大切。それは、軽やかで、生きた味。

仏・シャンパーニュ地方に位置するドメーヌ・クレイエールの三ツ星レストラン『レ・クレイエール』のシェフを務めるフィリップ・ミル氏。38歳にして『M.O.F』(フランス国家最優秀職人章)を獲得し、フランス料理界を牽引する存在として知られます。2017年3月、株式会社ひらまつと提携し、世界で唯一自身の名を冠するレストランを『東京ミッドタウン』にオープンしました。そんなフィリップ氏は、コロナ禍を経て、約3年ぶりに来日。

実は、自身もフランス代表として2008年『ボキューズ・ドール』へ出場経験を持つ。そんなフィリップ氏が、大会の意義や日本のフランス料理界への想い、そして2023年出場シェフである石井友之氏へのエールまでを語ります。

「『ボキューズ・ドール』の意義は、ガストロノミーを進化させていくためのものだと思います。一人ひとりの料理の技術を競う、いわば料理のワールドカップのようなものですが、各国がそれぞれ持つ、異なるフィロソフィーや技術、ノウハウを磨き上げていく場でもあります」とフィリップ氏は言います。

前述、自身が出場した時の結果は3位でした。コンクールが進むにつれ、困難が待ち受け、「楽しむことは難しかったです」と言いながら、「山を登るようなスリリングな感覚は忘れられません」と振り返ります。そして、「いつか再び挑戦できるのならぜひチャレンジしたい」とも続けます。なぜなら「常にチャレンジ精神を持ち続けることが自分を駆り立てているものだから」。柔和な表情とは裏腹に見せるアグレッシブな側面は、トップシェフであり続ける資質でもあるのでしょう。

まだ優勝できていない日本が勝つためには何が必要であるのか。単刀直入に問います。

「コンクールは自分自身との戦いではありますが、当然相手がいるわけで、その相手に勝つためには、味が一番重要だと思います」と、予想以上にストレートな答えが返ってきました。

「口の中を躍らせるような味を見つけることが大切です。同時に、軽やかで生きている味でなければなりません」というフィリップ氏の答えは、美味しいとは何かという深遠な問いに対する答えのようです。

「単純に腕のいいシェフというだけではダメなのです。それはもう皆そうですから。その先を行かなければなりません。この大会は後ろを見てはダメなのです。前だけを見て進化し、プロフェッショナルである審査員を驚かせ、夢を抱かせるようなものでなければならないのです。24か国の審査員を納得させるには、どういった料理をなぜ選んだのかという明快なコンセプトが不可欠。そしてそれを引き立たせる技術も必要です」とも。それを体現するためにはどれだけの努力と閃きが必要なのであろうかと考えると気が遠くなります。

残念ながら日本にはまだ『ボキューズ・ドール』が充分に普及しているとは言えませんが、普及している国としていない国との違いをフィリップ氏はどう考えるか。まず、「普及のためには、国を含めた組織の力も大変に大きい」と言います。『ボキューズ・ドール』が普及している国では、相対的に予算も潤沢にあり、『ボキューズ・ドール』のためのチーム、組織が出来上がっているそうです。

「今は、北欧勢が上位を占めていますが、20年ほど前までは、強豪国ではありませんでした。それが、元候補者代表シェフがコーチとなって、チームを指導していくというシステムががっちりできてからは俄然強くなりました。日本にいまひとつ普及していないのは、メディアや広報の役割だけでなく、毎回毎回新しいチームで挑んできたというのもひとつの要因。代々知恵や技術を受け継いでいくことが必要だと思います。日本が上位にくるようになれば、おのずと知名度も普及していくと思います」と説きます。

今回のチームジャパンでは、初めて、これまでの候補者たちの経験をひとつに結集したチームが作られています。そうした意味からも、2023年大会の結果は本当に楽しみです。

「石井シェフには、コンクールの料理を自分自身のものにしてほしい。素材、調理法、全てにおいて、自分にウソをつかないことが何より大切」とエールを贈る。

Bocuse d’Or 2023自分は他の23人とは違う。それくらいの気概と自信を持って臨んでほしい。

フランスでは、『ボキューズ・ドール』の入賞者には、多くの扉が開かれています。多くの入賞者の中にはエリゼ宮のシェフになっているものも、また、多くの3つ星シェフも輩出しています。また、フランスには『M.O.F.』のように、職人に対する社会保障制度もあります。これは、料理人にとって、とてもやりがいのあることです。

「日本でもぜひ、国を挙げて、コンクールを立ち上げるなり、『M.O.F.』の制度のようなものができるといいですね。料理技術は国家の財産ですから」。とは言え、「日本のフランス料理業界全体としては、すごく進化していると思う」というのが、フィリップ氏の見解。

「20代の頃に日本から修業にきていた人たちとは、その後、連絡はとれなくなってしまいましたが、おそらく彼らは模倣のようなものを作っていたと思います。しかし、その弟子、そのまた弟子と、次第に自らのクリエイテビティを確立して、今や、世界の中でも日本は大きな存在感を示しています。先日の『パテ・アンクルート』(フランスの伝統的なシャルキュトリ、パテ・クルートのファルス・詰め物の構成、パテ全体の見た目、カットした断面の美しさ、味・le goûtを競う大会)でも日本人が優勝しましたし、今年初めて日本人で『ガストロノミー “ジョエル・ロブション”』の関谷健一郎シェフが『M.O.F.』(国家最優秀職人 Meilleur ouvrier de France)を獲得しました。日本のフランス料理はそこまできているのですから、『ボキューズ・ドール』での入賞もあと一歩だと思います」。

実は、この取材前日にフィリップ氏は、石井友之シェフの作品を試食。それを振り返り、率直に見解を述べます。

「コンクールの料理を自分自身のものにしてほしい。素材にしても調理法にしても自分にウソをつかないことが何より大切。自分の持てるものすべてを出すことです。自分は他の23人とは違う、それくらいの気概と自信を持って臨んでほしい。まだ、現段階では、味がどことなく遠慮しているように感じました。食べた時に正直驚きがなかったのです。怖がらずに自分を解放し、ぜひ殻を破って突き抜けた味を見つけてほしいです」。

フィリップ氏からのエールで石井氏がさらに発奮することを祈ります。

取材中、自身の拳をぎゅっと握るシーンが多く見られたフィリップ氏。当時を回想してか、大会の重みと緊張感が伝わる。


Text:HIROKO KOMATSU
Photographs:KOH AKAZAWA

よりパンを美味しく。北の大地から生まれたハンドメイドジャム。[和光アネックス/東京都中央区]

デザインも可愛らしい「北海道いちごバタージャム」。濃厚な味わいは、虜になるひと多数。ギフトにもお勧め。

WAKO ANNEX北海道産いちご100%使用のジャム。味の決め手は、酪農王国北海道のバター。

食材の宝庫・北海道の岩見沢にある『白亜ダイシン』は、1964年創業の食品メーカー。2003年より「NORTH FARM STOCK」を運営し、様々なオリジナルブランドを展開しています。

旬の食材を活かした品々は、食を通して四季を楽しめ、この時期のお勧めは「北海道いちごバタージャム」。

いちごは、年間を通した作業から生まれます。オフシーズンには古い株の除去や土壌整備を行い、オンシーズンに入るとハウスの温度調整・管理から肥料濃度の管理、害虫駆除、摘果まで栽培が続きます。一年間、丹精を込めて手間と時間をかけて育てたいちごだからこそ、ジャムになっても美味。果物が持つ爽やかな香りと酸味が失われることなく、贅沢にいただけます。

そして、そのジャムの旨味に奥ゆかしさをプラスしてくれるのがバター。広大な北海道はバターの名産地でもあり、自然の中でストレスなく育つ牛は、良質なミルクを提供してくれます。

そんな北海道産いちごと北海道産バターを100%使用したハンドメイドジャムは、食べるたび、食欲をそそります。濃厚でコクのあるバターとフレッシュで爽やかな酸味のいちごは、パンはもちろん、クラッカーやクッキー、アイスクリームと一緒にぜひ。たっぷり塗って、かけて、お楽しみください。

いちごの風味がしっかりと香るハンドメイドジャム。滑らかで良質な北海道バターをたっぷり使うことでコクが生まれ、パンとの相性は抜群。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

知る人ぞ知る屈指のフルーツ王国・大町市に実る、珠玉の果物たち。

本格稼働1年目のイチゴ農園「すえひろファーム」を視察する山﨑剛氏。

 夏秋イチゴのイメージを覆す、濃くて力強い信濃大町のイチゴ。

バーテンダーの仕事にお酒と水は欠かせませんが、それに並ぶ重要な素材にフルーツがあります。銀座『BAR GOYA』の店主・山﨑剛氏がめぐる信濃大町の旅は、この日、フルーツがテーマとなりました。信濃大町は夏でも冷涼で、昼夜の寒暖差が大きい気候であることから、さまざまな果物が実るフルーツ王国となっています。

まず向かったのは、2022年7月に開業したばかりの「すえひろファーム」。夏から秋にかけて収穫する夏秋(かしゅう)イチゴの栽培に取り組んでいます。

育てているのはサマーリリカルという品種5800株。収穫は6月に始まり、霜が降りる11月いっぱいくらいまで続けられます。訪れた11月終わりにも、たくさんの真っ赤な実がなっていました。ひとつを頬張ってみると……。
「濃いですね。おお、これは美味しい! フレッシュな野菜っぽいニュアンスもあって、濃いけどいくらでも食べられる。この野菜っぽいニュアンスは時間が経つと土っぽさになってくるんですが、さすがに採れたてのいい野菜感があって、イチゴらしい美味しさですね。正直、夏秋イチゴは味が薄いイメージがありましたが、冬のイチゴにもまったく引けととらない旨さです」と山﨑氏は驚きます。

試験栽培を含めてまだ2期目の収穫ですが、長野の他地域も含めた夏秋イチゴの中でも評判は上々だと飯森明社長は話します。
「いまだ試行錯誤中ですが、うちで工夫しているのは、まずは土。独自に椰子殻をブレンドして柔らかな土に仕上げています。そして、小まめな管理。毎日株の様子を見ながら、水やりの量を調節し、液肥の配合を変え、機械による自動投入以外にも必要に応じて手作業で液肥をかけています。あとは、やはり水の違いは大きいと思います。冷たく澄んだ天然水が、力強い美味しさのベースになっているんでしょうね」

「うちのバーでは、イチゴをシャンパンと合わせたり、ラムでカクテルを作ったりすることが多いですね。カクテルで使うには、イチゴは味の濃さが必須。これだけしっかりした風味のイチゴなら抜群のカクテルになりますよ、間違いなく」と山﨑氏は太鼓判を押します。

「すえひろファーム」の母体は地元の建設会社。信濃大町の休耕地の有効活用を模索し、農業に特化した子会社が設立されたそうです。
「この地域には、スノボにはまって移住してくる若者が大勢いますが、その多くが季節雇用のアルバイトでなんとか生計を立てている状態。休耕地を減らして、自然豊かなこの大町らしい産物をつくり出しながら、若者が活躍できる雇用も創出したい。そんな思いからこの農園はつくられました。若い子たちが愛情を込めて育ててくれている、自慢のイチゴなんです。自分で言うのも何ですが、どこよりも旨いですよ」と飯森社長に笑顔がこぼれました。

美しく色づいたサマーリリカル。

採れたての風味をチェックする山﨑氏。「濃い。それでいて後味あすっきりしているから、また食べたくなる味ですね」

「信濃大町の自然環境を生かして、若者たちと付加価値の高い次世代の農業に取り組んでいきたい」と「すえひろファーム」の飯森明社長。

果実が同士が触れ合わないように工夫されたパッケージで大切に出荷される。

イチゴの果実と特製のイチゴソースをたっぷり使った「すえひろファーム」のアイスクリームデザート。「こんなんズルいわ!」と思わずツッコミを入れる旨さ。

 独自に追求した垣根方式の栽培が生み出す絶品のブドウ。

山﨑氏のお気に入りのフルーツにブドウがあります。シャインマスカットなど風味に優れたブドウはカクテルの格好の素材。皮ごとすりつぶして皮と実との間の旨味もお酒の中に閉じ込めるそうです。

近年、独自の栽培方法で県内外から注目を集めている信濃大町のブドウ農家「福嶋葡萄研究所」を訪ねました。代表の福嶋博幸氏が案内してくれます。

冷たい天然水が勢いよく流れる水路の左右に、福嶋さんの約120アールの圃場が広がります。もともとは家業として水稲栽培を行なっていましたが、福島氏が脱サラして家業に入るのを機にブドウ栽培へと転換しました。福嶋氏はほぼ独学で土作りからすべてを変えていきました。水はけが良くなるように土を入れ替え、5mおきに水抜き用の孔を設けました。生食用のブドウ栽培は天井に枝を這わせる棚方式が一般的ですが、福嶋氏は通常は醸造用ブドウ栽培で採られる垣根方式を採用。上向きの作業よりも、座りながらの作業も可能な垣根方式の方が省力化を図ることができため、持続性を重視したこれからの農業にふさわしいと考えたからだそうです。

「ブドウ栽培の先輩たちみんなに『そんなやり方じゃうまくいかない』と散々言われたましたが、私は失敗する可能性は1%たりとも考えませんでしたね。今考えると恐ろしいことですが(笑)。なぜかこっちの方がいいと確信して突き進んでしまいました。結果的に、この垣根方式は木を密集させてたくさん育てつつ、日光を効率良く当てることができ、ブドウは色良く、糖度も高く仕上がりました。そうなると、みなさん手のひらを返して視察に来てくれるようになりましたね」と福嶋氏と笑います。

現在、福嶋氏は、クイーンニーナ、シャインマスカット、ピオーネ、ナガノパープツ、そして長野県が開発した新品種のクイーンルージュの5種の葡萄を栽培しています。味は完成し、あとは色が付くのを数日待つだけとなったクイーンニーナをいただきました。2011年に品種登録された比較的新しい品種で、栽培が難しいことから、あまり市場にも出回っていません。
「クイーンニーナは僕も大好きなブドウです。あ、旨いですね。こちらのものは果肉のハリが良くて、みずみずしい。こういう繊細な美味しさのフルーツは個性のあるお酒と合わせるとせっかくの本来の風味が壊れてしまうので、僕ならクセのないプレミアムウォッカを使います。上質なウォッカは果物の風味をグッと持ち上げてくれるんです」と山﨑氏は、早くも創作意欲を刺激されているようです。

「全国でも大町が最も収穫時期が遅いのではないでしょうか」と福嶋氏が話すシャインマスカットも、もぎたてを試食します。
「ハハハ、これは旨い! ピカイチのシャインマスカットです」と山﨑氏は絶賛します。
「マスカット香も際立っていて、甘みだけでなく、全体的な力強さがある。福島さんのパワフルな人柄がそのまま現れています。それでいてジンの中にあるボタニカルな微妙なニュアンスも感じられます。これでカクテルを作ったら間違いない。自分で言うのもなんですが、めちゃくちゃ旨くてびっくりしますよ。ブドウをそのまま食べるより、美味しさを別次元にまで引き上げられるのがカクテルのいいところ。素材が良ければ僕らはすごくいい仕事ができるんですが、逆に言えば、いくら技術があっても素材には敵わない。この素晴らしいブドウを作っている本人、福嶋さんにぜひ飲んでほしいなあ」と山﨑氏。

やはりお酒には目がないという福嶋氏も、どんなふうにカクテルにするのかと質問に声を弾ませていました。

クイーンニーナは皮が薄く、中にはジューシーかつハリのある果肉が詰まっている。

垣根方式のブドウ畑は、果実が目線の高さになるため作業の負荷が低く、効率も良い。日光もまんべんなく当てることができる。

あとは赤く着色を待つのみとなったクイーンニーナ。今食べても味は抜群にいい。

2018年に木の新植を開始して本格就農した「福嶋葡萄研究所」代表の福嶋博幸氏。「このブドウもまた旨いんですよ」と作物への愛情いっぱいに案内してくれる。

ブドウ好きの中でもファンが多いピオーネ。あえて皮ごと食べると、ブドウらしい奥深い味わいを楽しめる。

信濃大町のふるさと納税の返礼品で人気ナンバー1となっているシャインマスカット。鮮烈な美味しさ。

 しっかりと硬くて、酸味と甘みのバランスが絶妙な信濃大町のリンゴ。

信濃大町のフルーツと言って欠かせないのがリンゴ。例年、大町市の桜が満開になるのは、やはりリンゴの名産地として知られる青森県弘前市と同じ時期だそうで、この地がリンゴ栽培に適した気候であることがわかります。

峯村農園は稲作と並んで果樹栽培に力を入れる農園で、リンゴをはじめ、西洋梨、プラム、カシスなどを栽培しています。訪れた日は、秋映(あきばえ)などのリンゴの収穫作業の真っ只中。たわわに実る樹を前に、「どれでも好きなの、もいで食べていいよ」という園主の峯村忠志氏の言葉に甘えて、よく色づいたリンゴを選んでいただきます。

山﨑氏がもいだのは、手のひらに収まるくらいに小ぶりなシナノピッコロ。バリっと小気味良い音を立ててかじった山﨑氏は「味が濃い」と目を丸くします。
「小さいから酸っぱいのかと想像しましたけど、しっかり甘い。酸と甘みのバランスがいいですね」

続けて、秋映、シナノゴールド、シナノスイートの3種を試食します。これらの長野県オリジナルの品種は“シナノ三兄弟”と呼ばれています。
「甘さの印象ではシナノスイートが突出していますね。めちゃくちゃ甘くて美味しい。シナノゴールドはシナノスイートに比べると甘みが少し穏やかで、代わりに酸が加わって、より濃厚なリンゴというイメージです。僕は秋映が好きですね。酸がしっかりあって、ほのかな渋みもある。バランスが絶妙。それにしても、どれも食感が抜群にいい! 実が締まっていて硬い果実ですね。パリッと心地いい」

「しっかりした硬さと酸味のある濃い味が大町のリンゴの特徴だと思います」と峯村氏は話します。
「リンゴが古くなって柔らかくなることをこのあたりでは“ボケる”と言うんですが、大町のリンゴはボケにくいとも言われますね。この畑は標高760mで、リンゴを栽培するには高め。寒暖差も大きいので色づきもよく、かなり早く収穫できます。害虫が少ないのも栽培には好都合です。冷たくてきれいな水、そして、北アルプスから吹きおろす冷たい風が、リンゴを硬くて酸味と甘みのバランスがほどよい状態に仕上げくれるんだと思います」

さらに、試験栽培を始めたばかりの新品種・ハニールージュもいただきました。このリンゴはなんと、皮だけでなく中の果肉も真っ赤。まるで赤カブのようです。山﨑氏はこのハニールージュがいたく気に入った様子。
「お、これは旨い! かなり酸が強く、甘みよりも酸っぱさが際立つ味。これ、おつまみにいいですよ。少し胡椒を振ってもいいですし、乳製品と合わせても、味的にも紅白の色的にも良さそうですね。調理向きのリンゴだと思います。カクテルの世界ではリンゴはすぐに酸化して変色してしまうので、実はあまり使われないフルーツ。でも、この赤色と酸味を生かしてカクテルにするのもおもしろい。バーテンダーとして創造力を刺激される素材です」

バーテンダーの競技会では、リンゴのフルーツカービングが必須科目であるケースも少なくないそうです。山﨑氏は日々のトレーニングで日本全国のリンゴを数えきれないほど刻み、そして味わってきたと言います。
「正直、リンゴは一級品を人一倍食べてきたつもり。……でも、今日いただいたリンゴが一番ですね。お世辞抜きに」と山﨑氏はしみじみ話しました。

「どれでも食べて」と「峯村農園」の峯村忠志氏。このあと、どれも美味しすぎて、食べまくる。

新品種ハニールージュに感動する山﨑氏。「バーのおつまみにしたい!」

中まで真っ赤なハニールージュ。味はちゃんとリンゴ。

原材料はハニールージュとグラニュー糖のみ。リンゴが持つペクチンの作用で凝固する峯村農園特製の「アップルハニー」は、爽やかな香りのハチミツといった印象。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 大町市)

知る人ぞ知る屈指のフルーツ王国・大町市に実る、珠玉の果物たち。

本格稼働1年目のイチゴ農園「すえひろファーム」を視察する山﨑剛氏。

 夏秋イチゴのイメージを覆す、濃くて力強い信濃大町のイチゴ。

バーテンダーの仕事にお酒と水は欠かせませんが、それに並ぶ重要な素材にフルーツがあります。銀座『BAR GOYA』の店主・山﨑剛氏がめぐる信濃大町の旅は、この日、フルーツがテーマとなりました。信濃大町は夏でも冷涼で、昼夜の寒暖差が大きい気候であることから、さまざまな果物が実るフルーツ王国となっています。

まず向かったのは、2022年7月に開業したばかりの「すえひろファーム」。夏から秋にかけて収穫する夏秋(かしゅう)イチゴの栽培に取り組んでいます。

育てているのはサマーリリカルという品種5800株。収穫は6月に始まり、霜が降りる11月いっぱいくらいまで続けられます。訪れた11月終わりにも、たくさんの真っ赤な実がなっていました。ひとつを頬張ってみると……。
「濃いですね。おお、これは美味しい! フレッシュな野菜っぽいニュアンスもあって、濃いけどいくらでも食べられる。この野菜っぽいニュアンスは時間が経つと土っぽさになってくるんですが、さすがに採れたてのいい野菜感があって、イチゴらしい美味しさですね。正直、夏秋イチゴは味が薄いイメージがありましたが、冬のイチゴにもまったく引けととらない旨さです」と山﨑氏は驚きます。

試験栽培を含めてまだ2期目の収穫ですが、長野の他地域も含めた夏秋イチゴの中でも評判は上々だと飯森明社長は話します。
「いまだ試行錯誤中ですが、うちで工夫しているのは、まずは土。独自に椰子殻をブレンドして柔らかな土に仕上げています。そして、小まめな管理。毎日株の様子を見ながら、水やりの量を調節し、液肥の配合を変え、機械による自動投入以外にも必要に応じて手作業で液肥をかけています。あとは、やはり水の違いは大きいと思います。冷たく澄んだ天然水が、力強い美味しさのベースになっているんでしょうね」

「うちのバーでは、イチゴをシャンパンと合わせたり、ラムでカクテルを作ったりすることが多いですね。カクテルで使うには、イチゴは味の濃さが必須。これだけしっかりした風味のイチゴなら抜群のカクテルになりますよ、間違いなく」と山﨑氏は太鼓判を押します。

「すえひろファーム」の母体は地元の建設会社。信濃大町の休耕地の有効活用を模索し、農業に特化した子会社が設立されたそうです。
「この地域には、スノボにはまって移住してくる若者が大勢いますが、その多くが季節雇用のアルバイトでなんとか生計を立てている状態。休耕地を減らして、自然豊かなこの大町らしい産物をつくり出しながら、若者が活躍できる雇用も創出したい。そんな思いからこの農園はつくられました。若い子たちが愛情を込めて育ててくれている、自慢のイチゴなんです。自分で言うのも何ですが、どこよりも旨いですよ」と飯森社長に笑顔がこぼれました。

美しく色づいたサマーリリカル。

採れたての風味をチェックする山﨑氏。「濃い。それでいて後味あすっきりしているから、また食べたくなる味ですね」

「信濃大町の自然環境を生かして、若者たちと付加価値の高い次世代の農業に取り組んでいきたい」と「すえひろファーム」の飯森明社長。

果実が同士が触れ合わないように工夫されたパッケージで大切に出荷される。

イチゴの果実と特製のイチゴソースをたっぷり使った「すえひろファーム」のアイスクリームデザート。「こんなんズルいわ!」と思わずツッコミを入れる旨さ。

 独自に追求した垣根方式の栽培が生み出す絶品のブドウ。

山﨑氏のお気に入りのフルーツにブドウがあります。シャインマスカットなど風味に優れたブドウはカクテルの格好の素材。皮ごとすりつぶして皮と実との間の旨味もお酒の中に閉じ込めるそうです。

近年、独自の栽培方法で県内外から注目を集めている信濃大町のブドウ農家「福嶋葡萄研究所」を訪ねました。代表の福嶋博幸氏が案内してくれます。

冷たい天然水が勢いよく流れる水路の左右に、福嶋さんの約120アールの圃場が広がります。もともとは家業として水稲栽培を行なっていましたが、福島氏が脱サラして家業に入るのを機にブドウ栽培へと転換しました。福嶋氏はほぼ独学で土作りからすべてを変えていきました。水はけが良くなるように土を入れ替え、5mおきに水抜き用の孔を設けました。生食用のブドウ栽培は天井に枝を這わせる棚方式が一般的ですが、福嶋氏は通常は醸造用ブドウ栽培で採られる垣根方式を採用。上向きの作業よりも、座りながらの作業も可能な垣根方式の方が省力化を図ることができため、持続性を重視したこれからの農業にふさわしいと考えたからだそうです。

「ブドウ栽培の先輩たちみんなに『そんなやり方じゃうまくいかない』と散々言われたましたが、私は失敗する可能性は1%たりとも考えませんでしたね。今考えると恐ろしいことですが(笑)。なぜかこっちの方がいいと確信して突き進んでしまいました。結果的に、この垣根方式は木を密集させてたくさん育てつつ、日光を効率良く当てることができ、ブドウは色良く、糖度も高く仕上がりました。そうなると、みなさん手のひらを返して視察に来てくれるようになりましたね」と福嶋氏と笑います。

現在、福嶋氏は、クイーンニーナ、シャインマスカット、ピオーネ、ナガノパープツ、そして長野県が開発した新品種のクイーンルージュの5種の葡萄を栽培しています。味は完成し、あとは色が付くのを数日待つだけとなったクイーンニーナをいただきました。2011年に品種登録された比較的新しい品種で、栽培が難しいことから、あまり市場にも出回っていません。
「クイーンニーナは僕も大好きなブドウです。あ、旨いですね。こちらのものは果肉のハリが良くて、みずみずしい。こういう繊細な美味しさのフルーツは個性のあるお酒と合わせるとせっかくの本来の風味が壊れてしまうので、僕ならクセのないプレミアムウォッカを使います。上質なウォッカは果物の風味をグッと持ち上げてくれるんです」と山﨑氏は、早くも創作意欲を刺激されているようです。

「全国でも大町が最も収穫時期が遅いのではないでしょうか」と福嶋氏が話すシャインマスカットも、もぎたてを試食します。
「ハハハ、これは旨い! ピカイチのシャインマスカットです」と山﨑氏は絶賛します。
「マスカット香も際立っていて、甘みだけでなく、全体的な力強さがある。福島さんのパワフルな人柄がそのまま現れています。それでいてジンの中にあるボタニカルな微妙なニュアンスも感じられます。これでカクテルを作ったら間違いない。自分で言うのもなんですが、めちゃくちゃ旨くてびっくりしますよ。ブドウをそのまま食べるより、美味しさを別次元にまで引き上げられるのがカクテルのいいところ。素材が良ければ僕らはすごくいい仕事ができるんですが、逆に言えば、いくら技術があっても素材には敵わない。この素晴らしいブドウを作っている本人、福嶋さんにぜひ飲んでほしいなあ」と山﨑氏。

やはりお酒には目がないという福嶋氏も、どんなふうにカクテルにするのかと質問に声を弾ませていました。

クイーンニーナは皮が薄く、中にはジューシーかつハリのある果肉が詰まっている。

垣根方式のブドウ畑は、果実が目線の高さになるため作業の負荷が低く、効率も良い。日光もまんべんなく当てることができる。

あとは赤く着色を待つのみとなったクイーンニーナ。今食べても味は抜群にいい。

2018年に木の新植を開始して本格就農した「福嶋葡萄研究所」代表の福嶋博幸氏。「このブドウもまた旨いんですよ」と作物への愛情いっぱいに案内してくれる。

ブドウ好きの中でもファンが多いピオーネ。あえて皮ごと食べると、ブドウらしい奥深い味わいを楽しめる。

信濃大町のふるさと納税の返礼品で人気ナンバー1となっているシャインマスカット。鮮烈な美味しさ。

 しっかりと硬くて、酸味と甘みのバランスが絶妙な信濃大町のリンゴ。

信濃大町のフルーツと言って欠かせないのがリンゴ。例年、大町市の桜が満開になるのは、やはりリンゴの名産地として知られる青森県弘前市と同じ時期だそうで、この地がリンゴ栽培に適した気候であることがわかります。

峯村農園は稲作と並んで果樹栽培に力を入れる農園で、リンゴをはじめ、西洋梨、プラム、カシスなどを栽培しています。訪れた日は、秋映(あきばえ)などのリンゴの収穫作業の真っ只中。たわわに実る樹を前に、「どれでも好きなの、もいで食べていいよ」という園主の峯村忠志氏の言葉に甘えて、よく色づいたリンゴを選んでいただきます。

山﨑氏がもいだのは、手のひらに収まるくらいに小ぶりなシナノピッコロ。バリっと小気味良い音を立ててかじった山﨑氏は「味が濃い」と目を丸くします。
「小さいから酸っぱいのかと想像しましたけど、しっかり甘い。酸と甘みのバランスがいいですね」

続けて、秋映、シナノゴールド、シナノスイートの3種を試食します。これらの長野県オリジナルの品種は“シナノ三兄弟”と呼ばれています。
「甘さの印象ではシナノスイートが突出していますね。めちゃくちゃ甘くて美味しい。シナノゴールドはシナノスイートに比べると甘みが少し穏やかで、代わりに酸が加わって、より濃厚なリンゴというイメージです。僕は秋映が好きですね。酸がしっかりあって、ほのかな渋みもある。バランスが絶妙。それにしても、どれも食感が抜群にいい! 実が締まっていて硬い果実ですね。パリッと心地いい」

「しっかりした硬さと酸味のある濃い味が大町のリンゴの特徴だと思います」と峯村氏は話します。
「リンゴが古くなって柔らかくなることをこのあたりでは“ボケる”と言うんですが、大町のリンゴはボケにくいとも言われますね。この畑は標高760mで、リンゴを栽培するには高め。寒暖差も大きいので色づきもよく、かなり早く収穫できます。害虫が少ないのも栽培には好都合です。冷たくてきれいな水、そして、北アルプスから吹きおろす冷たい風が、リンゴを硬くて酸味と甘みのバランスがほどよい状態に仕上げくれるんだと思います」

さらに、試験栽培を始めたばかりの新品種・ハニールージュもいただきました。このリンゴはなんと、皮だけでなく中の果肉も真っ赤。まるで赤カブのようです。山﨑氏はこのハニールージュがいたく気に入った様子。
「お、これは旨い! かなり酸が強く、甘みよりも酸っぱさが際立つ味。これ、おつまみにいいですよ。少し胡椒を振ってもいいですし、乳製品と合わせても、味的にも紅白の色的にも良さそうですね。調理向きのリンゴだと思います。カクテルの世界ではリンゴはすぐに酸化して変色してしまうので、実はあまり使われないフルーツ。でも、この赤色と酸味を生かしてカクテルにするのもおもしろい。バーテンダーとして創造力を刺激される素材です」

バーテンダーの競技会では、リンゴのフルーツカービングが必須科目であるケースも少なくないそうです。山﨑氏は日々のトレーニングで日本全国のリンゴを数えきれないほど刻み、そして味わってきたと言います。
「正直、リンゴは一級品を人一倍食べてきたつもり。……でも、今日いただいたリンゴが一番ですね。お世辞抜きに」と山﨑氏はしみじみ話しました。

「どれでも食べて」と「峯村農園」の峯村忠志氏。このあと、どれも美味しすぎて、食べまくる。

新品種ハニールージュに感動する山﨑氏。「バーのおつまみにしたい!」

中まで真っ赤なハニールージュ。味はちゃんとリンゴ。

原材料はハニールージュとグラニュー糖のみ。リンゴが持つペクチンの作用で凝固する峯村農園特製の「アップルハニー」は、爽やかな香りのハチミツといった印象。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 大町市)

いちご王国栃木が誇る、スカイベリー100%ジュース。[和光アネックス/東京都中央区]

「大きさ、美しさ、美味しさ」の全てが大空に届くような素晴らしいいちごになるようにとの願いが込められ、名付けられたスカイベリー。栃木県にある百名山のひとつ、「皇海山(すかいさん)」にもちなんでいる。

WAKO ANNEX味・見た目・大きさ。三拍子揃った奇跡のいちご。

自社加工所を建設し、全ての生産から加工、販売まで行っている、栃木県小山市の『新日本農業』。その名の通り、先祖代々より地域の農業と農地を守る活動をし続けています。

今回ご紹介する品は、自社栽培しているスッキリ甘いジューシーないちご、スカイベリーを使用した100%無添加のジュース「Sky Berry Drops」。

原材料のスカイベリーは、1本(360ml)あたり、約800gも含まれ、余計なものを一切使用していないため、いちご本来の美味しさを感じることができます。加えて、一般的に100%のジュースと言えば、ドロっと濁ったものが多いですが、「Sky Berry Drops」は、製造過程に工夫をし、ロゼワインのように透き通った美しい見た目を実現。

また、収穫期間中の農薬使用量を大幅に削減し、衛生管理にも徹底して生産していることも特筆すべき点です。その中から、極めて大きく、美しい円すい果形、明るく色鮮やかな果色と光沢を備えた果実のみを厳選。甘味と酸味のバランスが良く、まろやかでジューシーな食感と独特の芳香は、ジュースにおいても感じることができます。

ストレートはもちろん、牛乳や甘酒、炭酸水、お酒の割物としても美味。離乳食のお子様や高齢者様にも安心して楽しめます。

お好みに合わせ、ぜひご賞味あれ。

栃木県は、いちご王国と呼ばれるほど、いちごの名産地。そこで17年もの歳月をかけて誕生したスカイベリーを使用した100%のジュースは、透き通った色味とサラリとしたテクスチャーが特徴。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

日本は勝てる、石井シェフは勝てる、そう信じている。私たちは、そのためのサポーター。

ネスレネスプレッソ株式会社 代表取締役社長ピエール・デュバイル氏()とボキューズ・ドール2023 日本代表 石井友之氏()。初対面のふたりだが、感性が共鳴し、一気に距離が縮まる。

Bocuse d’Or 2023本質に向き合う『ボキューズ・ドールJAPAN』を支援することは、私たちにとって自然のことだった。

常に最高の品質を追求すると同時に、サステナビリティへの配慮に注力する世界的コーヒーブランド『ネスプレッソ』。実は、ガストロノミーの最高峰を目指す『ボキューズ・ドールJAPAN』の支援もしています。ボキューズ・ドール フランス本部を長きにわたり支援してきたネスプレッソは、日本においても2015年より支援を開始。今回は、在日3年目に入る代表取締役社長ピエール・デュバイル氏と2023年1月にフランス・リヨンで開催する『第19回 ボキューズ・ドール国際料理コンクール』に日本代表として出場する石井友之氏が初対面を果たします。

「フランスは以前よりネスプレッソにとって重要なマーケットです。そして、高品質のコーヒーの提供にこだわってきた私たちにとって、ガストロノミーは常にビジネスの成長を導くカギとなるもので、ネスプレッソとガストロノミーは密接に関係しています。ですから、当然敬意を持ってボキューズ・ドール フランス本部の支援を続けてきましたし、私たちはグローバルな組織ですので、その後、各国でローカルチームをサポートさせて頂くようにもなりました。日本は特に多くの優秀なシェフが存在して、そのシェフ達のフランスとの繋がりも深い。日本が重要な存在であることは説明するまでもなく、私たちネスプレッソがボキューズ・ドール JAPANを支援させて頂くようになったのは自然な事でした。『ネスプレッソ』は、1986年の発売以来、カプセル式コーヒー市場のパイオニアとして、常に革新的かつ創造的な活動と卓越した技術の追求を大切にしてきました。それは、まさに『ボキューズ・ドール』の目指すところと一致すると思うのです。また同時に、サステナビリティに配慮しながら、質の高い食や飲料を創造する情熱にも共鳴しています」とピエール氏は言います。

「『ボキューズ・ドール』においても、SDGsを軸に取り組みが進んでいます。事例を挙げると、まず一つは、女性シェフや女性のコミ(アシスタント) の活躍する場を増やそうと、取り組みが各国に広まり、特にこの2~3年は女性の代表選手の積極的な参加が増えてきました。また、フードロスに対しては厳格な審査があり、
厳しい評価を受けるので、私たちのレストランでも普段から意識的に取り組んでいます」と石井シェフも返します。

「料理の審査は科学的に正確に判定できるものではないので、審査員にどう評価を受けるか難しい部分もありますね。ですが、日本選手は才能や技術などに溢れ、優勝に必要な全ての資質を備えているので、必ず勝てると思います」とピエール氏は石井シェフに言葉を寄せます。

審査という点においては、出題に合わせて評価の基準が異なるということも大会の特徴。昨今では前述の通り、SDGsやジェンダーレスという言語も、重要視されています。

「今、ジェンダーのダイバーシティ(多様性)の取り組みについてお話を聞かせて頂きましたが、コーヒーにとっても、植物のダイバーシティに富んだ環境を作ることは、高品質のコーヒーを育む上で重要なことです。ネスプレッソは、生産者と共に自然の生態系を崩さず環境を保護しながらコーヒー豆を栽培する森林農法にも取り組んでいます。また、コーヒーを大切に育てて下さる生産者やそのコミュニティーのサポートを行うことも大切に考えています。コーヒーが栽培される農園の環境を守ることは私たちにとって、とても重要なのです。
大事に生産されたコーヒー豆がスイスの工場へ運ばれると、エネルギー使用の最大効率性を図りながらカプセルコーヒーを製造します。それが半永久的にリサイクル可能なアルミニウムを包材に選んでいる理由にも繋がりますし、グリーンエネルギーを活用する理由でもあります。コーヒーが消費されるマーケットでは、コーヒーカプセルのリサイクルを行っています。使用済みコーヒーカプセルは、回収してリサイクル工場へ送られ、アルミ包材とコーヒーかすに分離され、アルミ包材は再生アルミニウム素材に、コーヒーかすは堆肥・培養土に再生されます。これが私達の作るバリューチェーンであり、資源を大切に使用するための活動です。しかし、これらは私たちにとっては、始まりに過ぎません。『ネスプレッソ』は、環境や社会に対する透明性や説明責任などにおいて高い基準を満たした企業に与えられる国際認証『Bコープ』を取得しました。Bコープのメンバーに加わったことで、更に今後、より良いビジネスで、より良い世界へ貢献することをコミットし、高みを目指していきます」とピエール氏は補足します。

そんな世界的企業が作り出す『ネスプレッソ』
は、石井シェフにとってどんな存在なのでしょうか?

「『ひらまつ』に入社して13年になりますが、入社と同時にネスプレッソに出合い、それから『ネスプレッソ』は身近な存在です。朝はまず、一日のスタートに強めの一杯を飲んで、昼の休憩時にはマイルドなものを。さらに夕方から夜へ向け、デカフェで一日を終えるということもあり、緊迫した日々の中でリラックスできる大切な時間を与えてくれる、自分の日常には欠かせないものといっても過言ではありません」と石井シェフ。

「ありがとうございます。大変嬉しいです。ガストロノミーとコーヒーは、とても近い関係にあると思っています。レストランにとってはどのような存在ですか?」とピエール氏は尋ねます。

「食後のコーヒーまで楽しんでいただくのがレストラン時間。お食事の最後をしめくくる大切な存在です。その日の食事を振り返り、何が美味しかったか、今日は楽しかったね、など、余韻に浸りながら語り合う大切な時間です。上質なネスプレッソのコーヒーはまさにレストランにとって欠かせない存在です」と石井シェフは答えます。

実は、この対談前、石井氏が副料理長を務めるレストラン『アルジェント』での食事を体験したピエール氏。その感動と興奮の余韻も手伝い「インスピレーションはどのように得られているのでしょうか?技術を磨くこととは別の難しさがあると思うのですが」と続けて尋ねます。

「料理をクリエイションする時というのは非常にストレスがかかり、大きなプレッシャーを感じています。ほかのことが何も考えられないほどの緊張状態にあります。そんな風に煮詰まってしまったら、コーヒーを飲んで、ほっとひと息つくというのが、自分のやり方です。するとまた、頭が活性化されて新しいアイディアが浮かんできます。そして猛然と試作をし、そしてまた行き詰まったらコーヒーでひと息入れながらリラックス。例えるなら、走っては休み、走っては休みというトレーニングを繰り返すような感じでしょうか。『ネスプレッソ』のコーヒーにはそのような面においても支えられています」と
石井シェフ

コーヒーのごとく、話はどんどん深く、奥ゆかしく深化していきます。

アルミニウムでできたカプセルは、回収サービスを通して回収され、リサイクルされる。コーヒーの美味しさだけでなく、社会への貢献度も高い企業であることが伺える。

プロフェッショナル向け小型タイプのネスプレッソマシンと全17種の専用コーヒーを詰め合わせた、カプセルボックス。インテリアとしても美しく、ブランドのセンスを感じる。

『ネスプレッソ』を飲みながらの対談に自然と話しが弾む。コーヒーはコミュニケーションを生むツールのひとつ。

Bocuse d’Or 2023コロナ禍を経たことによって、シェフとして、人として、石井シェフは大きく成長した。

今回、石井シェフが日本代表となった後、『ボキューズ・ドール』のアジア・パシフィック大会を勝ち抜いてきた時期は、ちょうどコロナ禍の真っ只中。必要な提出物をオンラインで審査するというこれまでにない形式を強いられました。そこにピエール氏は着目します。

「コロナ禍の間は、インスピレーションというものは沸きましたか?」とピエール氏は、神妙な面持ちで尋ねますが、石井シェフは、少し遠くを見ながら、ゆっくりと口を開き、「いえ、その間は、料理のインスピレーションに対してなかなか前向きになるのが難しい時期でしたね」と応えます。

その後、穏やかな表情に変わり、「その代わり、娘たちと遊ぶなど、家族と過ごすことができ、とてもいいリフレッシュになりました。そして、再び厨房に立った時には、すごく新鮮な気持ちで料理に取り組むことができました」と石井シェフは言葉を続けます。

「外食産業にとって非常に深刻な問題で、危機的状況をもたらした大変な時期でしたが、反面、家族や大切な人、そして自分自身に向き合う時間をもたらすよい機会になったとポジティブに捉えられる面もあるのですね。『ボキューズ・ドール』で世界の頂点を目指す日本代表に、このように直接お目にかかって人柄を知り、信頼を寄せ、応援できることは本当に嬉しいです」と、ピエール氏から熱いエールが送られました。

料理のインスピレーションがどこからおりてくるのか、興味津々のピエール氏。

緊張状態の中、創造力をフル回転させるには、『ネスプレッソ』で一息入れリラックスする時間が欠かせないという石井シェフ。

Bocuse d’Or 2023フランス人だからこそ感じる世界と日本の差。しかし、「日本は決して劣っていない」。

フランスと日本における『ボキューズ・ドール』の認知度の違い。これは大きな課題のひとつでもあります。フランス人であるピエール氏は、それをどのように捉えているのでしょうか。

「『ボキューズ・ドール』は、フランスの中でもリヨンの人は皆知っていると思います。盛り上がりもすごいです。ですが、全土的、さらには世界的に見れば、一般にはまだ知られていない大会です。日本人シェフの入賞が続けば日本においても『ボキューズ・ドール』の知名度が上がってくるのではないでしょうか。(日本人最高位は2013年開催に3位入賞の浜田統之氏シェフ)もしかすると、毎回リヨンで開催するのではなく、今後、日本で開催するようなことがあって良いのかもしれません。そして、一般の人たちに向けて積極的なコミュニケーションを図ることも認知度を上げることに繋がると思います」と、ピエール氏は独自の意見を述べます。

日本としてどう在るべき大会なのかなど、広義に持論を語るピエール氏の言葉は、石井シェフにとって全てが新鮮な見解。それらが成せば、日本の観光業としても、大きく貢献できる可能性を秘めた大会なのかもしれません。とはいえ、「何といっても、まずは成績を残すこと」と、石井シェフも改めて気持ちを引き締めて、固い決意をしっかりと言葉に表します。

「日本が継続的にステップアップし、さらなる成長を遂げるためには、若手シェフや情熱のあるシェフをサポートして、未来の代表選手を育成することが大切だと思います。ガストロノミー分野のプレミアムなブランドパートナーを増やすこともその手助けとなるでしょう。料理人という職業の中で、このような大会のために準備の時間を捻出するのは難しいことですので、『ネスプレッソ』もできる形でさらに応援していきたいと思っています」とピエール氏。そして、改めて、世界基準で見ても、日本は特別な国だと語ります。

「日本は多くの国際コンクールにおいて、ほとんど全ての面で優れている。創造性、卓越した実行力、細部への情熱、そして常に限界を超えようとする姿勢。日本は、『ボキューズ・ドール』においても、そのように価値のある代表選手を送ってくれる特別な国。世界やフランスと比べても日本は劣っていません。優勝するのに必要な全ての資質を備えているので、必ず勝てると思います」。

「日本は『ボキューズ・ドール』において、卓越した実行力や細部への情熱など、勝つための資質をすでに備えている」と高い評価を送るピエール氏。

「料理人として一番大切にしていることは、人との関わり」だと答えた石井シェフに対し、シェフとしてだけでなく、一人の人間としても感心し、改めてエールを送るピエール氏。

Bocuse d’Or 2023ひとりでは負けていた。人との関わり、周囲への感謝が勝利を導く。味方はいる。きっと勝てる。

「5年前までは、料理は、調理技術、美味しさ、造形美だと信じていて、ひたすらその追求に明け暮れていましたが、それだけでは国内のコンクールで勝つことができませんでした。独りの考えだけでは勝てないことを思い知らされ、そこからが自分自身の転機となりました。周囲からのアドバイスを乞うようになり、多くの意見に耳を傾けるようになり、その結果、『ボキューズ・ドール』の国内予選『ひらまつ杯』で優勝を果たし、日本代表となることができました。こうした経験を経て、料理は人との関わりの中で創造されていくものなのだということを学びました。一番大切にしていることは、間違いなく、『人との関わり』と胸を張って言えます。自分自身の信条ですね。だから、『ネスプレッソ』やピエールさんも、自分にとって唯一無二の大切な存在です」。

これは、「料理人として一番大切にしていることはなんですか?」というピエール氏からの問いに対する石井シェフの答えでした。

「そうした境地に至れたというのは素晴らしいことですね。そして今のお話をお聞きできて、サポーターの一人としても大変嬉しいですし、ますます応援に力が入ります」とピエール氏。

人との関わり。それは、先輩シェフはじめ、周囲の仲間たち、協賛という形で応援をしてくださる各企業、食材の生産者など、関わりのあるすべての人たち。味方はいる。もちろん、ピエール氏もそのひとり。

「石井シェフには、自分の直観と創造性を信じて、大会中は後悔のないよう果敢に挑戦してほしいと思います。そして、何よりも自身の才能と実力に自信を持ち、最大限にコンクールを楽しんでください」。

今の石井シェフに迷いはない。突き進めば、自ずと結果はついてくるだろう。

「対談の機会を持てたことに改めて感謝したい」という石井シェフ。ピエール氏と固い握手をしながら、本選から帰国後、『アルジェント』にて再会の約束をした。


Text:HIROKO KOMATSU
Photographs:KOH AKAZAWA

成心の脱却。「DINING OUT」の真実は、ここにある。

DINING OUT HIEIZAN起用シェフは、「Villa Aida」小林寛司。「比叡山」の「光」を「観」る。

「比叡山」は、開山以来、約1200年の歴史を誇ります。その間、幾度の危機を乗り越え、守られてきた場所があります。この土地の象徴、「比叡山延暦寺」です。

今回の「DINING OUT」は、過去にない稀有な回になります。その理由のひとつ、事前に会場を明かします。それは、前述「比叡山延暦寺」の「大書院」です。

「大書院」は、もともと東京赤坂山王台にあった村井吉兵衛氏の邸宅。1928年(昭和3年)の秋、昭和天皇のご大典記念と「比叡山」開創1150年の記念事業として、移築されました。棟梁は小林富蔵、唐破風の車寄を持つ玄関棟、旭光の間と呼ぶ大客室棟、観月台を持つ2階建の居間棟から成り、設計を手がけたのは武田五一氏です。武田氏は、関西建築の父とも呼ばれる稀代の建築家。「京都市役所」や「国会議事堂」の建設にも携わり、「法隆寺」、「平等院」などの古建築修復にも造詣が深い人物です。技術的にも優れた質の高い和風建築の中で食事ができる体験は、それだけでも価値があります。

次ぐ、ふたつ目の理由は、会場同様、料理のテーマを事前に明かします。「精進料理」です。手がけるのは、和歌山の「Villa Aida」小林寛司シェフです。「ミシュランガイド京都・大阪・和歌山」二つ星とグリーンスター、「ゴ・エ・ミヨ」3トック、「アジアのベストレストラン50」14位とハイエスト・ニュー・エントリーアワード、「世界ベストベジタブル レストラン」14位……。昨今、国内外を通して、著しい活躍をしている小林シェフのレストラン隣には畑が広がり、野菜とともに生きる暮らしがあります。そんな小林シェフが精進料理と向き合います。

また、稀有という意味では、行を積む僧、礒村良定氏がホストを担うことにもあります。1994年、「比叡山延暦寺」得度に始まり、「叡山学院」専修科、「比叡山」無量院住職、「比叡山延暦寺」行院など、長年にわたり、この地に従事し、現在は「比叡山」金台院住職。「比叡山延暦寺」を最も知る人のひとりです。

常に山に囲まれ、自然とともに生きることを宿命とされた背景は、様々な形で先人が足跡を残してきました。その好例こそ、建物であり、習慣であり、食事です。

神や仏を崇めてきた暮らしは、今尚、脈々と流れる日本の精神性にも通じ、贅沢はなかったかもしれませんが、命を全うした豊かな人生だったのではと推測します。

観光とは、「光」を「観」ること。一説によると、観光という言葉が生まれたのは、中国の古典・易経にある「国の光を観る、もって王に賓たるに利し」という一文からだと言われています。これは、地域の自然や文化、産物、風俗、政治、暮らしなどの「光」を「観」て、その「光」が優れている国の王に賓客となって重用されるのが良いという意味です。

現代においては、表層のみ触れる旅がそう呼ばれ、本来の概念が失われてしまったようにも思えます。

「比叡山」の「光」とは何か。優しい光、眩い光、強い光、はたまた暗い光。それを「観」ることによってどんな体験が待っているのか。冒頭にある歴史のごとく、もしかしたら辛く険しいことがあるかもしれません。しかし、だからこそ、喜びや刹那の感動が心に響き、時空を超えた歴史との邂逅ができるのです。

但し、一度の体験で全てを得られるわけはなく、そう易々と本質を享受できるほど甘くはありません。まるで沼のごとく、知れば知るほど深くなり、底という名の解を求め、人は再訪を誓うのではないでしょうか。

これまで、19回にわたり、「DINING OUT」は、「日本のどこかで数日だけ開店する、プレミアムな野外レストラン」として活動してきましたが、「野外」とは、必ずしも外で食べることを指しているわけではありません。食事をする空間は、レストランだけではないという概念を超えた場の創造こそ「DINING OUT」なのです。

今回は、そんな成心を脱却し、改めて、「DINING OUT」の真実を表現します。

同じ時間をともに過ごし、体験し、あなたも証言者のひとりになっていただければと思います。



Text:YUICHI KURAMOCHI

第20回「DINING OUT HIEIZAN」のシェフを担うのは、和歌山「Villa Aida」の小林寛司シェフ。野菜は小林シェフが向き合い続けた食材だが、「精進料理」はまた別の世界。どんな料理を表現するのか期待が高まる。

開催日程:2023年2月25日(土) 
開催地:比叡山延暦寺
出演 :シェフ Villa Aida小林寛司・ホスト 礒村良定(延暦寺)
人数:20名
企画・プロデュース:ONESTORY
協力:宇佐国東半島を巡る会・文殊仙寺
特別協力:天台宗総本山 比叡山延暦寺
旅行企画実施:株式会社日本旅行

<スケジュール>
旅行日程:2023年2月25日(土)~2月26日(日)
旅行代金:150,000円(税抜)
宿泊施設:【宿坊】延暦寺会館
食事条件:夜1回・朝1回
集合時間:2023年2月25日(土)13:00頃
解散時間:2023年2月26日(日)12:00頃
その他:集合・解散場所は京都市内主要駅又は京都市内主要ホテルとなります。

<お申込手順>
本ツアーは、多数のご応募が見込まれるため、抽選予約販売とさせて頂きます。
抽選受付期間:2022年12月28日(水)~2023年1月9日(月・祝)
抽選結果発表:2023年1月12日(木)
※ご応募いただいた皆様に、メールにて抽選結果を通知させて頂きます。
抽選申込フォーム:https://forms.gle/WidZdhXP2ZcH5vXSA

<ご留意点>
撮影・使用の許諾:本イベント開催期間中、メディアによる取材や、株式会社ONESTORYの記録、 広報、広告等の目的で、撮影・収録が入り、ご自身とその同伴者を含む参加者が被写体となることがあります。

<問い合わせ先>
hieizan0225@gmail.com
※ご回答・ご返信は1月6日(金)以降となることをご了承ください。

ものを創り出す者同士、幾度となく話し合いを重ね、固い絆で結ばれたふたり。

ものを創り出す者同士、何度も何度も話し合いを重ねてきた中、固い絆で結ばれているふたり。プロダクトデザイナー・鈴木啓太氏(右)と2023年の『ボキューズ・ドール』日本代表・石井友之シェフ。

Bocuse d’Or 2023大会には料理の技術だけでなく、表現力も重要。

『ボキューズ・ドール』の本選は、プレートという大皿盛りと皿盛り料理の2種を作り、合計得点で順位が決まります。プラッターもプレートも各国、趣向を凝らしたものを製作し、当日それらに盛りつけます。料理の見映えもさることながら、プラッターのデザインもとても重要で、精巧にデザインされたプラッターに盛りつけることで、初めてひとつの作品となるのです。

今回チームジャパンは、プロダクトデザイナーの鈴木啓太氏にそのデザインと製作を依頼。鈴木氏は日用品のデザインから鉄道車両などの公共プロジェクト、また伝統工芸など幅広い分野で活躍する気鋭のデザイナーです。国内外の賞も多数受賞。今回はプラッター製作の過程を経て、『ボキューズ・ドール』との向き合い方を出場シェフである石井友之氏と語ります。まずは、どのような経緯を経て、鈴木氏へ依頼することになったのでしょうか。

「ボキューズ・ドールへ参画するのは今回が2回目です。2017年の長谷川幸太郎シェフの時が初めてでした。『ひらまつ』で働く知人から、声をかけてもらったのがきっかけです。実は、生まれ変わってセカンドキャリアを目指すならと聞かれると、必ずシェフと答えるほど、食べることと作ることが好きなのです。私が育ってきた環境の中で見た美術品の中でも器が多かったので、料理と美術にとても憧れがあり、迷うことなくお受けしました」と鈴木氏は言います。

「チームジャパンとして、今回鈴木さんにお願いした経緯は、『ボキューズ・ドール』とは何かを熟知する人でないとなかなかニュアンスが伝わらない、ゼロから伝えるには時間的にも厳しいとコーチ陣からの助言もあり、今回のお声がけにいたりました。初めてお会いした時、緊初対面で緊張しながらも、なぜか強い確信を感じていました」という石井シェフの言葉には信頼と期待が感じられます。

「私がデザインの仕事をしている背景には、古美術収集家だった祖父の影響がありまして、『ボキューズ・ドール』の“伝統を受け継ぎながら、新しいものを創り出す”というコンセプトに共鳴できる部分が多くあり、今回もお受けしたわけです」と鈴木氏。

「初回の打ち合わせで手応えを感じました」と言葉を続ける鈴木氏ですが、石井シェフのことをどのように感じていたのでしょうか。

「とても共感を覚える料理人です。何が石井シェフの魅力かと考えると、まず、必ず十分なリサーチを行うこと。話せば話すほど、ものすごく研究している人だとわかりました。私自身デザインをする時には、過去1000年まで振り返って、次に何を持ってくるべきかを考えます。石井シェフは、何度も何度も実験して、最初に見せていただいた料理から現在までがすごく変化している。色々な人にレビューしてもらって、様々な可能性を試作するという柔軟性もすごく魅力です。そしてゴールへ向けてそれがどんどん詰まっている。その感覚が自分のデザインのプロセスとすごく近い。ひらめきだけではなく、そこにきちんとした理論的な裏付けがあり、完成に向かっていくという石井シェフの姿勢がすごく好きですね」と鈴木氏は言います。

「全く違う職種ですが、細部まで確かめ合いながら議論ができたことがしっかりと礎になっている。急に、今、行っていいですか?というようなこちら側の急なアポイントの申し出も快く受け入れて、“なるほど、それで?”と真剣に耳を傾けてくださると、もう思いの丈を全て話すしかないですよね。それが心底ありがたかったのです」と石井シェフ。

ひとつのデザインを創り出すのに、1000年昔まで振り返り、次に持ってくるものを考えるという鈴木啓太氏。

歴代の作品を全て見返し、資料にあたり、科学的裏付けまで考えて作品作りに取り組む石井友之シェフ。

鈴木氏がデザインしたカトラリー。シャープな見た目と切れ味を備えた、用の美を追求した作品。

キッチン用品から相鉄20000系まで、様々な作品が飾られた鈴木氏のデザイン事務所の空間。「自分の料理をインスパイアしてくれる宝の山」と石井シェフ。

受賞したトロフィーの一部。「ELLE DECO International Design Awards -Young Japanese Design Talent」(左)と「東京ミッドタウンアワード」(右)が並ぶ。

Bocuse d’Or 2023自分も優勝するために戦う。なぜなら、石井シェフがどれほど勝ちたいかわかっているから。

「ジャパンとしても石井さんとしても、本当に1位が獲りたいということがわかってきまして、私もどんどん真剣になっていきました。クリエイティブ的な視点で過去の優勝国の作品を振り返ると、重要なことはシェフそのものがプレゼンテーションされているかどうかということ。国とか地域ということではなく、シェフのクリエイティビティがしっかり形になって表れているか、ということです。そのためには石井シェフそのものをきちんと理解したいと思いました。どのような生まれ、育ち、キャリア、そしてここに至っているのか。そしてもうひとつ、『ボキューズ・ドール』をもう一度しっかり研究するということも必要です。審査員の特性、大会の特性、プラッターやプレートがどのように得点に関係するのかなど……」と鈴木氏。

こうして詳しいリサーチを進めながら、デザインのテーマを決めていくという作業に入っていきました。

「最初に考えたのが“レイヤー”。つまり階層というテーマです。石井シェフの生まれは自然豊かな長野県で、風や空気、匂いなどの五感的なインスピレーションはその時代に培われたものなのではと感じました。そして、今や銀座から都会的な魅力を発信している。江戸時代は銀座は海で、埋め立ててできた土地。だからそこにもたくさんの階層があるのです。石井さんが試作した料理やアジア予選で披露した料理も、多くのレイヤーが重なり生み出すハーモニーを感じさせてくれましたから」と鈴木氏は言います。

日本らしいもので勝負したいわけではないということが石井シェフからのリクエストでした。鈴木氏はそれをどのようにデザインの中へ織り込んでいくのでしょうか。

「本選を見ると、ベタなローカリティは出てこないんですね。あくまで中心はフランス、ヨーロッパ的な価値観。その世界観の中でわずかににじみ出てくるローカリティが一番素敵に見える。古典的な日本ではないけれど、よく見ていけば自分たちにしか作れないものがいいのでは?と思ったわけです。そこをデザイン的に深掘っていくと、葛飾北斎の新型小紋調に行き着きました。『ボキューズ・ドール』はシンプリシティだけでは勝てないんです。フランス的なラグジュアリーな装飾性が求められています。でも下手に我々が真似すると、フェイクになってしまう。デザインのリフレインは自分たちにしかないものを探していくべきです。北斎の柄をインスピレーションにして、西洋的な考えも入っているのだけれど、日本のチームにしか生み出せない、そういうものが作れたら面白いと。」と、鈴木氏はデザインのプロセスを話します。

「リクエストはしますが、100%それを作ってきたらそれは違うなと感じます。違った意見が出てきて、それで初めて何倍にもなりますから。ひとりでやっていたら一倍ですが、ふたりなら二倍にも二乗にもなる。鈴木さんと話し、デザインの案が上がってくるたびに、そんな心強さがありました。最初から段階を踏んで、徹底的に話し合って、自分は言いたいことをどんどんと言って、それを全部受け止めてくださった。そして消化したものを、角度や線の太さといったディテールに反映していってくれました。ここまでのプロセスは自分の中でも大切にしたいと思っています」と石井シェフは頷きます。

ところで、デザインから料理にインスパイアーされることはあるのでしょうか? 非常に興味深い、その点を尋ねてみました。

「すごくあります。実は壁際にある漆の作品の模様を、ガルニ(付け合わせ)のデコレーションに取り入れました。ボンボンショコラのような技法で模様をつけていくのです。この空間や置かれいている調度品全てに多くのインスピレーションをもらっています。料理人がデザイナーの事務所に入れる機会もあまりないですし、僕にとっては宝の山なのです(笑)。そうしてデザイン案が出てきて、自分の中での考えと強く結びついてきました」と石井シェフ。

「料理とデザインはそもそも似ています。見た目に美しく印象に残るように考えることは当然ですが、料理には味、香り、温度があります。だから冷めないようにするなど、一緒に試行錯誤してきました。石井さんでなかったらまったく違ったデザインになっていたでしょうし、両者で共鳴し合った結果です。料理そのものの形をシェフが起案して、3Dプリンターで形におこすというようなやりとりもしています。伝統を繋ぎながらハイテク技術を融合させていく、まさに『ボキューズ・ドール』の真髄です」と、鈴木氏も断言します。

古い蒔絵の技法を使ったアート。この柄に触発された石井シェフは、料理にも応用することを試みている。

伝統工芸に敬意を払い、常に自分のデザインに通底するものとして捉えている鈴木氏のコレクション。

Bocuse d’Or 2023大会後、僕らの中で反省はあるかもしれない。しかし、後悔はないと確信している。

日本は未だ『ボキューズ・ドール』という、料理のワールドカップに勝利していません。2013年の浜田統之氏の3位入賞が最高位です。その理由をふたりはこう分析します。

「知れば知るほど勝つことが難しい大会だと思います。シェフの力量だけでなく、国の力も重要です。ヨーロッパ各国が強い理由も、国からのバックアップによってもっと予算をかけていたり、発信する力を持っていたり。彼らは国をあげて参加しているので、挑戦がしやすい環境にいます。プレゼンテーションが非常に重要な大会ですから、シェフだけでなく国をあげて盛り上げていく必要性を感じます。私も『ボキューズ・ドール』の仕事に関わらせてもらうまで、恥ずかしながら、知りませんでした。それくらい一般には知られていないのです。が、2017年に初めて参加した時ちょうど弊社にフランス人のスタッフがいて、“えっ!『ボキューズ・ドール』のデザインを担当するのですか! すごい!”というリアクションで、海外ではこんなに高い知名度なのだということを実感しましたね。先のサッカーワールドカップのように日本を応援したいという人が増え、日本人のシェフが挑戦していくというムードを作っていけたら、きっと追い風になります」と鈴木氏は確信します。

「プラッターは料理の構築、技術、形 デザイン性がないと勝てません。この仕組みはどうなっているんだ? 日本チームに聞いてみよう、みたいなワクワク感を与えることがまず第一歩。鈴木さんの事務所を見渡すとすごく曲線が多い。料理で曲線を表現するのは難しいけれど、実践できたら確実に注目されると、今、挑戦しています。なんだこの形? というようなものを表現する。『ボキューズ・ドール』は新しいものを生み出すための大会ですから」と、石井シェフは胸をはります。

「日々忙しくしていると、なかなか自分のクリエイティビティを伸ばすために、それにしっかりと向き合ったり、挑戦していく時間がとれない。自分を内省して、新しいものは何かということを常に必死に考えるのは、素晴らしいことだと思います」と鈴木氏。

プラッター作りには、鈴木氏にとってもそういう側面があるのかもしれませんが、その答えは「正解がわからない」とひと言。そして、「非常にチャレンジングな仕事です。わからないからこそシェフと色々話し合い、作っては淘汰という作業を繰り返し、なんとか洗練されたものに近づいていると思います。もう軽く50案は作っています。50回の提案というのは、いろいろなプロジェクトがあるなかでも断トツに多いです(笑)。そういう意味でも、自分の中でも内省的な活動と言えるかもしれません」と鈴木氏は言葉を続けます。

「プラッターもまったくシフトチェンジしているので、どれくらいそれが上位にいくのか、やってないのでわからないのですが、やってみないとにはエビデンスがとれません。デザインはこれまでデータをとってこなかったので、どれがいいのかということがはっきりわかっていないのです。だから今回は自分の勝ち負け以上に、今後どうやったら勝てるのかというところの礎にならないといけないと思っています」と石井シェフも決意表明します。

「ものを作ったり生み出したりする作業は本当に苦しいものです。当事者にしかわからないけれど、辛いことが99.9%で、0.1%にわずかに楽しい光がある。プレッシャーをどれだけ感じて、どれだけ大変かということは想像できますが、石井さんを見ていて良いなと思うことは、全く妥協しないことです。あとで見返したら僕らの中で反省点はあるかもしれないけれど、後悔はないと思います。料理の方は最後は石井さんにお任せすることになりますが、どうか最後まで後悔なきよう、妥協なきように挑戦してほしい。それをデザインの面で支えたいです」と、鈴木さんから石井シェフへエールが送られました。

「鈴木さんには感謝しかありません」と話す石井シェフに対し、「最後の最後まで後悔なきよう、全ての力を振り絞って本選に望んでほしい。そして自分のデザインがその一助になりたい」と鈴木氏。


Text:HIROKO KOMATSU
Photographs:KOH AKAZAWA

関東有数の酒どころ。茨城県が誇る4蔵の酒に、4人の料理人がペアリングメニューを考案。

『来福酒造』✕『野菜と日本酒 ちりん』の試飲会の一場面。ペアリングの狙いについて、料理人の関剛大氏が解説する。

 茨城の酒の魅力を伝えた全4回の試飲会。

都心への通勤圏として、近年発展著しい茨城県。首都圏の印象が強い県ですが、実は日本を代表する農業王国であることをご存知でしょうか。霞ヶ浦や5つの水系の河川に育まれ、メロン、ピーマン、栗、れんこんなど、茨城県が日本一の収穫量を誇る野菜はいろいろ。米も多く育てられ、水稲の収穫量は関東一を誇ります。

さて、そんな茨城県を語るとき、もうひとつ忘れてはならないものがあります。豊かな水とおいしい米から生まれるもの。そう、茨城県は関東有数の酒蔵数を擁する日本酒の名産地でもあるのです。酒蔵の数は38蔵。それぞれが歴史と哲学を持ち、個性豊かな酒を醸す蔵ばかりです。

2022年冬。
そんな茨城県の日本酒の魅力を“発見”してもらうプロジェクトとして、『SAKE DISCOVERY From Ibaraki』が立ち上がり、味わいを伝えるために試飲会が開催されました。それもただの試飲会ではありません。茨城県の4つの酒蔵の日本酒に合わせ、4人の料理人がメニューを考案する全4回のペアリング試飲会。それぞれどんな日本酒が登場し、どんなメニューが合わせられたのでしょうか? その詳細をお伝えします。
 

『浦里酒造店』の浦里知可良氏。酒を解説する場面では、参加者たちがその様子を写真に収めた。
 

 花の酵母で醸す酒に、滋味深い野菜料理が寄り添う。

最初の酒蔵は、県の中央部、筑波山の西側の筑西市にある『来福酒造』。1716年から続く老舗で、近年は自然界の花からつくる清酒酵母・花酵母による酒づくりで話題を集めています。なでしこ、ひまわり、ベゴニアなどから分離される酵母は、花の香りや華やかな味わいを実現。会場に立つ藤村俊文氏から、そんな解説が伝えられます。

華やかな日本酒を活かすペアリングを手掛けたのは、『野菜と日本酒 ちりん』の関剛大氏。青果卸業に就いていた関氏が掲げる「野菜✕日本酒」のテーマのもと、滋味深い野菜料理で酒の華やかさを際立てます。関氏の料理は、素材の味を活かすシンプルかつ透明感のある味わい。そのクリアなおいしさが、日本酒と見事にマッチしました。

『来福酒造』の日本酒。左から純米酒 来福「八反錦」、純米吟醸生原酒 来福 「愛山」、真向勝負 純米吟醸。

純米酒 来福「八反錦」に合わせたのは、炊いたかぼちゃ、蓮根甘辛炒め、里芋梅鰹煮などの酒菜5点盛り。

純米吟醸のふくよかな味わいに、コクのある大根と豚の煮物が寄り添う。

芳醇な香りの真向勝負には、柿、梨、いちじくの果物。アクセントのスパイスが酒の旨みを引き立てた。

藤村俊文氏(左)と関剛大氏(右)。花と野菜という共通項が、見事なペアリングを実現。

【概要:来福酒造×野菜と日本酒 ちりん】
・開催日:2022年11月10日
・開催場所:ハリスタ
・参加インフルエンサー:@yukaka_6.13@instageiram@haruka_hakka@i_am_ayakomatsu@mikikayoko_official@omosalondecuisine
・参加酒販店:高原商店三ツ矢酒店三益酒店

 日本酒✕和菓子。ペアリングの新時代を築く女性ふたりの共演。

第二回の試飲会は、古河市の『青木酒造』が登場。1831年に創業し、主要銘柄の「御慶事」は大正天皇ご成婚の際につくられたという歴史ある蔵。しかし自身を「先代が7代目、弟が継いだら8代目、だから私は7.5代目です」という青木知佐氏のもと、歴史や地域に敬意を払いつつ新たなことにも次々と挑戦しています。

そんな酒に合わせるのは、なんと和菓子。厨房に立つつくださちこ氏が営む『和菓子 薫風』は、四季折々の食材を用いた和菓子と厳選した日本酒のペアリングを提唱する店。茨城県の食材を用い、味わい豊かに仕上げた和菓子は、『青木酒造』のフルーティな酒と見事に響き合いました。

『青木酒造』の酒。左から御慶事 大吟醸、御慶事 純米吟醸 ひたち錦、御慶事 純米吟醸 ふくまる。

御慶事 純米吟醸 ふくまるには、柿の葛饅頭。茨城特産のれんこんを霙餡にして合わせた。

御慶事 純米吟醸 ひたち錦に合わせたみつめのぼた餅は、茨城県に伝わる伝統料理。その地の素材だけでなく食文化まで紐解くのがつくだ氏流。

御慶事 大吟醸には、香ばしく炙ったたがね餅。こちらも茨城県の伝統的なお菓子がヒントになっている。

つくださちこ氏(左)と青木知佐氏(右)。和菓子と日本酒という新たなペアリングの魅力を参加者たちに伝えた。

【概要:青木酒造×和菓子 薫風】
・開催日:2022年11月17日
・開催場所:ハリスタ
・参加インフルエンサー:@1010koki0218@ciara0814@ichii_j@nicomaya2525@ema_ariizumi@maiko_1225
・参加酒販店:あまてら酒店伊勢五本店三益酒店

 直球には直球で勝負。日本酒と和食の正統派ペアリング。

続いては茨城県日立市、「海まで70歩」という海辺に建つ酒蔵『森島酒造』。1869年に創業し、太平洋戦争による蔵の焼失や東日本大震災の被災を乗り越えて続く名門です。6代目である森嶋正一郎氏は、茨城県が認定する酒づくりのスペシャリスト・常陸杜氏の第一期生として県産日本酒の発展にも尽力する人物。森嶋氏が「歴史を語り継ぐ酒」と位置づける代表銘柄「富士大観」に加え、「新たな歴史を築く酒」とした新たなブランド「森嶋」も、人気を集めています。

「直球の日本酒に、直球の和食を合わせます」そんな想いでペアリングに挑んだのは、奥深き和食と日本酒の世界を伝える名店『京橋もと』の佐久間佑吾氏。正統派の純米大吟醸に和食の基本たる出汁、フレッシュな生酒に刺し身など、奇をてらうことのないペアリングで、酒と料理の魅力を際立てました。

『森島酒造』の3種は左から富士大観 純米大吟醸、森嶋 山田錦 純米吟醸、森嶋 美山錦 しぼりたて 生 純米吟醸。

富士大観に、霞ヶ浦の白魚のお澄まし。「ど真ん中の直球の酒に、和食の基本である出汁をあわせた王道」と佐久間氏。

森嶋 美山錦 しぼりたて 生 純米吟醸には鰆のお造り。生酒のフレッシュ感に、魚のジューシーさを合わせた。

旨み、香り、味わいのバランスが良い森嶋 山田錦 純米吟醸と合わせたのは、しっかりと旨みを湛えたれんこん饅頭。

佐久間佑吾氏(左)と森嶋正一郎氏(右)。割烹仕込みの日本料理と酒という正統派の組み合わせが、改めてペアリングの魅力を伝える。

【概要:森島酒造×京橋もと】
・開催日:2022年11月19日
・開催場所:京橋もと
・参加インフルエンサー:@1010koki0218@9088161yh@airi__belle@akari_3131@asuka_makuuchi@itomiyu76_sake
・参加酒販店:IMADEYA

 酒と洋食のペアリングで、世界を、未来を見つめる。

最後の酒蔵は、つくばの銘酒「霧筑波」で知られる『浦里酒造店』。1877年の創業以来守り続ける伝統の結晶である「霧筑波」のほか、茨城生まれの小川酵母を使った個性豊かなラインナップを展開。6代目である浦里知可良氏は新たなブランド「浦里」を立ち上げたほか、欧文表記の「URAZATO」で洋食にも合う日本酒を模索する人物です。

そんな酒に合わせる料理を考案したのは『CROSS TOKYO』の総料理長・増山明弘氏。長年突き詰めたフランス料理の技法で、日本の食材、さらには医食同源の哲学を融合させた「和漢魂洋才」を掲げる料理人です。日本各地の食材にも造詣が深い増山氏は、茨城の食材にも精通。茨城が誇る食材の数々を、日本酒に合う美しき料理に仕立てました。

『浦里酒造店』の3種は左から大吟醸 氷温3年熟成 知可良、純米大吟醸 浦里、URAZATO PROTOTYPE2。

大吟醸 氷温3年熟成 知可良の上品な吟醸香に寄せた常陸牛のカルネサラータ 柿 胡桃のヴィネグレットソース。

茨城が誇る小川酵母の、繊細な味わいが光る純米大吟醸 浦里。増山氏は旬の鰆カブ、からすみに酒のソースを合わせて味わいを寄せた。

洋食に合う芳醇な低アルコール酒URAZATO PROTOTYPE2には、奥久慈しゃもの胸肉のポワレ。

増山明弘氏(左)と浦里知可良氏(右)。洋食と酒という新たな境地に日本酒の未来を思い描く。

【概要:浦里酒造×CROSS TOKYO】
・開催日:2022年11月24日
・開催場所:BONUS TRACK KITCHEN
・参加インフルエンサー:@bisuhada@pomta07@mikahogram@yukiaoi@kimiyo.f
・参加酒販店:伊勢五本店IMADEYA横浜君嶋屋

 和やかに、場を楽しむ。酒本来の役割も果たした試飲会。

全4回の試飲会に訪れたのは、独自の視点でさまざまな情報を発信するインフルエンサーの方々。日頃から日本酒を嗜む方も、あまり飲み慣れていない方も、それぞれのペースで、日本酒と料理のペアリングを楽しみました。

蔵人自らが酒の解説をする試飲会ということで、落ち着いたムードになるかと思われましたが、蓋を開けてみれば会場は和やかムード。参加者たちは互いに感想を述べ合い、写真を撮り合いながら酒と料理を楽しんでいました。蔵人や料理人への質問も次々と飛び出し、またユーザーの生の声が届いたことで、造り手にも大きな収穫があったよう。再会を約束し、名残惜しさに包まれながら、4回の試飲会は幕をおろしました。

今回の4蔵に共通していたのは、長い歴史がありながら、現代の価値観に合う酒づくりにも挑んでいたこと。伝統に敬意を払いつつ、革新も厭わない。その想いこそが、茨城県の蔵人たちに共通する姿勢でした。
今回ご紹介した蔵以外にもバリエーション豊かな酒蔵、日本酒を有する茨城県。そこにはだまだ数多くの “発見”があることでしょう。

SAKE DISCOVERY From Ibaraki 公式サイトはこちら

酒と料理が互いの魅力が引き立て合うペアリングの魅力を改めて感じたという参加者たち。

『来福酒造』の会に訪れたインフルエンサーの方々。独自の視点でペアリングの魅力を発信してくれた。

各会場には酒販店の関係者も訪れ、酒の味わいを真剣に吟味。

『森島酒造』の森嶋氏の背中には常陸杜氏の文字。茨城の酒づくりの未来を支える若き杜氏たちにも期待が集まる。


(supported by 茨城県)

秋冬に旬を迎える柑橘界のエース、みかんを飲む。[和光アネックス/東京都中央区]

「温州みかんジュース」の果実は、他のみかんと比べ、甘味と旨味が強いのが特徴。保存料、添加物無添加。

WAKO ANNEX果実そのもの。毎日飲みたい温州みかんジュース。

愛媛県宇和島市を拠点に活動する『柑橘ソムリエ愛媛』。柑橘ソムリエとは、2020年にスタートしたライセンス制度。目利き、味覚、表現など、試験を突破したもののみ与えられる称号であり、柑橘を楽しむことのプロフェッショナルです。本当に美味しい柑橘の味と多様な柑橘の魅力を伝え広め、柑橘をよりおもしろくする取り組みを繰り広げています。

今回ご紹介する品は、その代表作でもある「温州(うんしゅう)みかんジュース」です。

柑橘ソムリエ生産者メンバーが育てた柑橘のうち、味の良い果実だけを選りすぐって搾ったストレート100%ジュースのそれは、甘く飲みやすい味わいが特徴。毎シーズン収穫したての果実から味の良いものだけを選りすぐり、搾汁しております。シンプルだからこそ誤魔化しがきかず、フレッシュさやピュアな飲み口が際立つ味わいです。

日本一の柑橘どころ、宇和島の旬の香りと味わいをお楽しみください。

瓶にはいっているのは、果実とフレッシュな香りのみ。老若男女、安心して楽しめるジュース。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

世界に誇る千年続く草原。人とあか牛が共生しながら実現する、サステナブルな社会。

 OVERVIEW

熊本県阿蘇市は、カルデラとその周辺に広がる美しい草原で有名な地域です。千年以上の歴史を持つこの景色を未来へと継承するため、地域の人々は野焼きなどを行いながら草原の保全に尽力してきました。

阿蘇の草原の風景のなかでもう一つ欠かせないのが、放牧されているあか牛の姿です。実はこのあか牛の存在が、草原を維持するサイクルのなかで重要な役割を果たしているといいます。

阿蘇では、自然と人とあか牛がどのように共生し、サステナブルな関係をつくっているのでしょうか。その内容を全国の人に、そして海外の人にも知ってもらうべく、「阿蘇あか牛テロワール旅」が企画されました。東京からこの旅に参加したのは、美食家として有名な本田直之氏、「よろにく恵比寿」をはじめ東京都内で複数の焼肉店を経営するVanne Kuwahara氏、牛肉専門のインスタグラマーとして「TOKYO WAGYU REPORT」のアカウント名で活動する旦 弘希氏の3名。そして、熊本市内で囲炉裏を使ったイノベーティブフュージョンレストラン「.know」を営む鍬本 峻氏が同行しました。

あか牛を100g食べると、畳4畳半分の広さの草原を守れるとも言われています。昨今の環境配慮のトレンドから考えると、牛を食べることが草原の保護につながる、という意見はにわかには信じ難いかもしれません。しかし、東京から現地を訪ねたこの3名は、地域で熱心に活動している人々の話に耳を傾けるうちに、人と牛と草原が共存する循環型の社会が存在することを確信したのです。その詳細を前・後編でお届けします。

Powered by:阿蘇カルデラツーリズム推進協議会
Supported by:阿蘇市
Produced by:think garbage Inc.

Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA

甘露にてキレ鋭く。名水でじっくり醸される信濃大町の3銘酒。

『薄井商店』の醸造室にて。造りが始まって1カ月ほど。リンゴやメロンなどを思わせるような心地よい香りが漂っていた。

 原料米全量を半径7km以内の契約栽培米に。

信濃大町には3軒の日本酒の蔵があります。おもしろいことに、そのすべてが標高750mほどの市街中心部にあり、互いに徒歩5分ほどの範囲内に集積しています。銀座『BAR GOYA』の店主・山﨑剛氏は、3蔵を一気に巡ることにしました。

はじめに訪ねたのが、「塩の道」として知られる千国街道沿いに佇む『薄井商店』。1906年創業、「白馬錦」を醸す蔵です。昭和40年代に建て替えられた蔵は、日本酒蔵としては非常にユニークな立体構造となっています。天井高のある大きな地下室を備えた3階建てで、3階から中2階、1階、地下室と、原料処理から醸造、貯蔵の工程を上層階から地下室へと移動させながら効率よく行えるようになっています。

醸造タンクが並ぶ1階に足を踏み入れると、凛とした冷たい空気に肌が引き締まり、爽やかな吟醸香に包まれます。
「甘すぎず、辛すぎず、飲み飽きしない食中酒を目指しています」と蔵を案内してくれるのは、杜氏の松浦宏行氏。『薄井商店』では代々、長野県北部の豪雪地帯、小谷村の杜氏と蔵人が酒造りを担ってきましたが、2007年に石川県出身の松浦氏がその伝統を受け継ぎ、試行錯誤しながら進化させています。使用する酒造好適米、美山錦や山恵錦、金紋錦などの米は、全量が蔵から半径7kmの範囲内にある農家との契約栽培米とのこと。しかも、生産農家全員が化学肥料や化学合成農薬を低減した土づくりをするなど、持続性の高い農業生産方式が県から認められる「エコファーマー」認定を受けているのも特徴的です。

「現蔵元が30年以上前にヘリコプターで上空から大町を見渡した際、田んぼの美しさに感動し、この風景は後世に残していかねばならないと、原料米の仕入れを地元を中心とした契約栽培にシフトしていきました。そして15年ほど前に大町市内の100%契約栽培米を達成。近年は田んぼに深く水を入れる深水(ふかみず)栽培を基本とすることで、苗の分けつ(株の枝分かれ)を防ぎ、雑草のはびこりを抑え、粒の実入りを大きくする取り組みにも力を入れています。生産者の顔が見える確かな米を使わせていただけることは杜氏としてもありがたいですね」と松浦氏は話します。

炬燵のある蔵人の休憩室で唎き酒の準備を整えて待っていてくれたのは、かつてヘリコプターで米作りへの強い関わりを決心した蔵元の薄井朋介氏。数あるラインナップから、同じ美山錦を使いながらタイプの異なる3本「白馬錦 純米大吟醸」「白馬錦純米 吟醸」「白馬錦 アルプス湖洞貯蔵 瓶囲い秋熟」を厳選していただきました。

「白馬錦 純米大吟醸」と「白馬錦 純米吟醸」をワイングラスで唎いた山﨑氏は、しみじみ「旨いですね」と唸ります。
「純米大吟醸は華やかな香りが立ってタテに広がる印象。純米大吟醸はフルーツにも合いそうです。一方、純米吟醸はミネラル感とヨコに広がってとてもバランスがいい。魚はもちろん、肉にも合いそうですし、ずっと飲んでいられそうな程よい旨口。それにしても、どちらもよくキレますね」。

3つ目の「白馬錦 アルプス湖洞貯蔵 瓶囲い秋熟」は、標高900mほどのところにあるトンネルで夏を越させたもの。一口飲んで山﨑氏の表情はさらに明るくなりました。
「これ、好みです。ふくよかな“熟れ感”があって味わい深い。うちのバーは日本酒は扱っていませんが、もし置くならこれくらい厚みがあってキレもいい酒がいいですね」と山﨑氏は、二口、三口と味わいます。

「トンネルの中は一年中10℃前後と、安定した温度で熟成させられる環境です。冷涼さもさることながら、真っ暗闇で保管できるため紫外線による劣化がないこともプラスに作用していると思います。こちらがお好みでしたら、こんなのもありますよ……」と薄井氏はさらに特別な1本を出してくれます。1月に搾った酒をすぐに雪の下に埋蔵し、4月まで寝かした「白馬錦 純米吟醸 雪中埋蔵」です。
「あ、これが1番だな。よりまろやかで、旨味がスーッと伸びていく感じ。旨いですねえ。それにしても、同じ米と同じ水で、これだけ表情が異なる酒になるとは」と山﨑氏が驚きを隠せない様子。

松浦氏は穏やかに話します。
「やはり根本的に水がいいんだと思います。居谷里水系の“女清水”で仕込んだ酒は、米の旨味がじっくり溶け込んで、やさしい印象の酒になります。また飲みたくなる酒に仕上がるのは、良質な天然水で仕込めるこの環境のおかげですね」

中2階、醸造タンクの上のスペースで松浦宏行杜氏の説明を聞く。もろみを混ぜる櫂入れを体験させてもらうと、爽やかな香りがぱっと立ち上がった。

もろみタンクに入れる前に冷却する「枯らし」工程を経た酒母。試食させてもらうと、栗のような上品な風味に驚く。

シュワシュワと微細な泡を出しながら元気に発酵する酒母。「あらためて酒は生き物なんだと実感します」と山﨑氏。

年季の入った孵卵器で酵母を培養する松浦杜氏。石川県・山中温泉にある『松浦酒造』の次男で、一時は法曹界を目指していたが、酒の販売会で直接聞いた「美味しいお酒でした」という消費者の声が忘れられず、結局酒造りの道を選んだという。

左から「白馬錦 純米大吟醸」「白馬錦 アルプス湖洞貯蔵 瓶囲い秋熟」「白馬錦 純米吟醸」。どれもきれいな印象でありながら、骨格のある味わい。

純米大吟醸を味わい、「口に含んだ時の風味の広がり方が鮮烈。でもスピーディにキレるので、心地よく飲み進められる」と山﨑氏。

トンネルや雪中での熟成にも熱心に取り組む蔵元の薄井朋介氏。様々な温度帯で楽しめる日本酒の魅力を伝えたいと、イベントなどではお燗番を買って出るという。

 酒質を一気に向上させ、再生を果たした老舗蔵。

次に訪ねたのは、明治時代に建てられた町家が昔ながらの風情を残す『市野屋』。創業1865年と3つの中で最も歴史の古い蔵ですが、2020年に経営母体が変わったのを機に酒質が一気に向上したと注目の的です。

加瀬博斗氏は、その2年前にアルバイトで蔵に入り、酒造りに魅せられたひとり。長年住んだオランダから帰国し、奥さんの実家があるこの地で農業をしようかと漠然と考えていた折に、『市野屋』の大リニューアルに関わることになりました。酒質を上げるにはまず蔵の常在菌を一掃しなければならないと、すべての壁を剥がして高圧洗浄をかけ、むき出しの部材1本1本に柿渋を塗ったそうです。大規模な改築はできないため、建物内に様々な小屋を建てる方法で、設備を更新していきました。初搾りの酒を味わった時、加瀬氏は「自分の仕事は日本酒だ」と心が決まったそうです。
「酒を口に含んだ瞬間に“ヤバいな”と。自然と向き合う米作りもおもしろそうだと思っていましたが、その米が人間の知恵を駆使することで1カ月後にこんなにすごい飲み物になるのかと。とても神秘的なものを感じましたね」と加瀬氏は振り返ります。

リニューアルと同時に杜氏に就任した伊藤正和氏は、乳酸菌の働きを利用した伝統的な山廃造りにこだわっています。2022年度の全国新酒鑑評会では、3回目の造りながら見事に入賞を果たしました。山廃造りで、しかも流行りの香り系酵母に頼らず伝統型酵母での受賞は極めてめずらしいことから、一躍脚光を浴びることになりました。

早速、試飲させていただきます。主力銘柄「ほしいち」の山廃仕込み純米大吟醸原酒を雄町、愛山、山恵錦と米の違いで飲み比べてみると……
「香りがいいですね。伝統的な山廃造りのイメージをいい意味で裏切るフルーティな香り。味は山廃らしくボディがしっかりしています。それでいて、どれもキレッキレ。すっとキレて、また飲みたくなります」と山﨑氏は顔を綻ばせています。

出色は鑑評会で受賞した山田錦35%精米の「市野屋 純米大吟醸」。
「これはすごいですね! 舌の上で溶けるような感覚。強い甘みがパッと広がって一瞬で消えていく。でも、ほどよい旨味がすうっといつまでも持続するような。ありそうでない日本酒」と興奮気味です。

目指す酒造りについて伊藤杜氏は説明します。
「米の個性は様々ですし、同じ米でも出来はその年や農家によって異なります。私の仕事で最も重要なのは、酒母造りや醸造工程において米の様子を観察し、どんな米であっても持っている旨さを引き出して仕上げること。米の特性によって様々な方向性の酒が出来上がりますが、共通させたいのはキレのよい食中酒にすることです。そのためには米本来の繊細な甘みをいかに出すかがポイントとなりますが、大町の軟水はとてもいい働きをしてくれます。水を飲んだ時に感じるほのかな甘みがそのまま酒に反映されているとでも言うのでしょうか。私は三重、静岡、山梨で酒造りをしてきたけれど、どこよりも大町の水は優れていますね。全国でもトップクラスのクオリティの水です」

「伊藤さんのお酒を飲んだ時、イタリア語の“Aquavita”という言葉がふと浮かびました。“命の水”といった意味ですが、伊藤さんのお酒はまるで水のように飲みやすいけれど、旨味やアルコール感などの飲みごたえもしっかりあって、米を原料に人の手間ひまで作り上げられた神秘的な水という印象です。加瀬さんが感じた“ヤバい”という感覚がわかるような気がしました」

老朽化した蔵をできる限りDIYでリフォームし、新しい酒造りにチャレンジしている『市野屋』。

蔵の中に冷蔵板を使って部屋を新設するなど、酒の仕込みと未来に向けた環境整備が同時に行われていた。

「大町の水は全国でもトップクラスのクオリティ。米の個性を引き出し、酒をやさしい印象に仕上げてくれます」と『市野屋』の伊藤正和杜氏。

同い年とわかって一気に距離が縮まった山﨑氏と『市野屋』の加瀬博斗氏。酒の魅力を追求する者同士、話は尽きない。

全国新酒鑑評会で受賞した「市野屋 純米大吟醸 山田錦」。山廃造りとは思えない華やかさと、山廃らしい豊かなコク、キレのよさが絶妙なバランスで実現されている。

 次世代に向けた、新しい甘口の酒を。

最後に訪れたのは、2023年に創業100周年を迎える『北安醸造』。甘口の酒として知られる「北安大国」を醸しています。杜氏を務めるのは、愛知県出身の山崎義幸氏。山登りやスキーが好きな山崎氏は白馬村に移住し土木関係の仕事をしていましたが、やがてより積雪が少なく暮らしやすい大町市にやってきたそうです。『北安醸造』に職を得て、もともと興味があった「日本の伝統的な仕事」である酒造りに次第にのめり込んでいき、2007年に杜氏に就任しました。
「祖父が味噌や麹造りをしていたので、なんとなく日本の発酵文化には親しみを感じていました。後で知ったことですが、曽祖父は半田市で杜氏をしていたそうで、選ぶべくしてたどり着いた道なのかもしれませんね」と山崎杜氏は微笑みます。

すでに甘口のイメージが地域に根付いている酒を受け継ぐにあたり、山崎杜氏が腐心したのは「甘さを自分はどう表現するか?」でした。それまで普通酒が中心だったのを、ほぼすべて純米酒に変更。米の甘みを生かす方法を追求します。原料米は基本的に地元大町産のものを使いますが、全体の20%ほどは隣の松川村で自ら栽培した米を使い、米作りから醸造、出荷までを一貫して手掛けています。
「米の乾燥や精米、洗米などの原料米の処理工程はかなり微妙な加減が求められます。米の生育から関わっていると、小さな課題や注意点も見えるので、よりきめ細かな処理ができるのが利点です。米のポテンシャルを最大限に引き出して、なめらかな甘さを追求しています」と山崎杜氏は話します。

長年研究を続ける“なめらかな甘さ”が最もわかりやすく表現されているという「北安大国 もち米純米」をいただきました。その名のとおり、原料米にもち米を使ったユニークな1本です。
「甘さがものすごく上品ですね」と山﨑氏は目を丸くしています。
「もち米の旨味が水の中に溶けきっているという印象で、“もち米のお酒”と実感できます。食べ物も飲み物も主原料の味がしっかり感じられるのが本当の美味しさ。僕が専門とするカクテルも味が良ければいいというわけではなく、いろんな材料を混ぜ合わせていてもベースのお酒のニュアンスがきちんと感じられるものが素直に美味しいと思えるもの。これだけパンチのある甘さなのに、全然もったりしたクドさはなく、ちゃんとキレてくれますね。煮物なんかによく合うでしょうし、僕は疲れている夜に飲んだら元気が出そうな味だと思います。好きだなあ」

他に山廃造りのシリーズ「居谷里」と、長野で生まれた酒米であるひとごこち、そして、しらかば錦を70%精米で使う「北安大國 純米酒 七十%精米」も唎きいた山﨑氏は、「トロッとした甘み」が通底していると指摘します。
「仕込み水は水道から出る居谷里水系の女清水。この美味しい超軟水が、心地よい甘みに作用している部分は大きいでしょうね。うちの蔵には地下80mの井戸があり、とてもきれいな水が汲めるのですが、不思議とこの水で仕込んだ酒は荒々しくていまひとつ。水道水の方がずっとまろやかないい酒になるんです。仕込み水は水道水で、雑用に使うのは井戸水。普通の感覚と逆ですよね。それだけ、水道水の質がいいということなんです」と山崎杜氏は話します。

各蔵で試飲を重ね、三者三様の美味しさを体感した山﨑氏は、大町の酒のクオリティに驚くと共に、蛇口をひねれば澄んだ天然水が出ることの贅沢な環境を羨みます。
「天然水と共に生きることは、なんと豊かなことか」と。

大正時代に建てられた蔵で、連綿と日本酒造りを行う『北安醸造』。鬼瓦には「酒」の文字が。

蔵内部は歴史を感じさせる端正な造り。

杜氏の山崎義幸氏と語らう。「辛口偏重の時代に、甘口に特化した酒造りをブレずに行う姿勢が興味深い」と山﨑氏は真剣に耳を傾ける。

どの蔵にも、都会の喧騒とは無縁の静謐な時が流れていた。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 大町市)

まるで化学の実験。その一滴が味を変える、関金わさびの香り。[和光アネックス/東京都中央区]

柚子の華やかな香りにわさび本来の香りと辛みを添えた「柚子わさびオイル」。どこか懐かしいレトロなタイポグラフィーも美しい。

WAKO ANNEXいつか産地に旅したい。そう思わせるモノづくり。

鳥取県倉吉市、中国山地の名峰・大山の恵み溢れる関金は、澄み切った清流が美しい自然に囲まれた地域です。

そんな豊かな風土を活かし、『西河商店』では、「関金わさび」を使用したわさびの卸し、生産加工をしています。

「関金わさび」は、収穫までに2年もの歳月がかかると言われています。その味わいと香りをこめ油に凝縮させた「わさびオイル」が今回ご紹介する逸品。

中でも、そこに柚子の華やかな香りを加えた「柚子わさびオイル」は、『西河商店』の名品のひとつ。

容器においては数種あり、まるで化学実験のようなスポイド瓶を選べば、一滴から料理に風味を与えることも可能。サラダや鮮魚、お鍋やスープにも好相性です。

過去にはユーザーの投票によって選ばれる「カラーミーショップ大賞」にもノミネート。「いつか産地に旅したい」を感じるモノづくりを目指す『西河商店』の味をぜひご堪能いただきたい。

わさびの優しい辛みと柚子の芳醇な香りが特徴の「柚子わさびオイル」。スポイト瓶は、一滴から添えられるため、香りや風味を加えたい時に最適。酢と1:1で割ったドレッシングもおすすめ。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

ようやく世界に並ぶ環境を手に入れた。最新設備の厨房が勝敗を分ける。

『フジマック』取締役 常務執行役員 熊谷勇人氏(右)、2023年『ボキューズ・ドール』日本代表ひらまつグループ『アルジェント』所属、石井友之氏(左)。実は、大会について真っ向から議論するのは今回が初。互いの意見を交わすことによって、より絆が強固に。

Bocuse d’Or 2023長年、『ボキューズ・ドールJAPAN』を支援し続けているメーカーからのメッセージ。

13年にわたり、『ボキューズ・ドールJAPAN』のサポートを続けている厨房機器メーカーの『フジマック』。その意義を、取締役 常務執行役員の熊谷勇人氏と、2023年の出場者である石井友之シェフが語ります。『ボキューズ・ドールJAPAN』のサポートを始めたきっかけは、こんな理由からでした。

「『ひらまつ』さんには長年厨房機器をおさめていますが、その経緯で『ボキューズ・ドール』のご紹介を受け、サポートを始めることになりました。2009年の長谷川幸太郎シェフ出場の時が初回になります。長年にわたって支援していく中で、一ファンとしても、企業としても、大会をもっと盛り上げていきたいと思っています。そもそもフードビジネスのトータルサポートというのが我々の目指すところです。機能性の高い厨房機器を作るというのはもちろんですが、何かお困りがあれば、ご相談いただければと思っておりますし、シェフの心のよりどころでありたいと言う風に考えています。大会のサポートはその延長上にあります」と熊谷氏は言います。

「『ひらまつ』に入社した時からずっとお世話になっていますが、新人のころはそういう感覚にまでは及びませんでした。厨房に機器があって、動いているのは当たり前。ですが、立場が上になるに連れ、壊れた時にどうするか、連絡した時の『フジマック』さんの迅速な対応など、ありがたさが身に沁みてわかってくるんですね」と石井シェフ。

13年にわたる支援の中、今年は、より進化したサポートを『フジマック』は提供します。それは、初のキッチンラボです。本選と同じサイズ、同じ機器の配置に作ったキッチンを用意し、その環境で鍛錬を積むことにより、本選での動きを身体に叩き込むことができます。日本チームにとってはまさに悲願でした。

「『フジマック』さんには感謝しかないです。世界の主流は、皆このやり方でやっています。本番同様のキッチンがないと、どうしても、本選で動きにロスが出てしまう。今回はそのハンデがなくなったわけですから、言い訳できません。頑張ります」と石井シェフ。

「本選では、いかに効率よく動けるかまでが、全て評価されますから。場慣れするという意味でも、また、普段通りの力を発揮するためにも、そうした環境が絶対に必要だと思いました。特に、2015年と2019年に日本代表として出場した高山英紀シェフと話して、その必要性を強く説かれ、我々も理解のもと、今回キッチンラボ設置の協力を、ということになりました」と熊谷氏。

「日本も一歩世界基準に近づくことができました。世界ではさらに、キッチンラボで毎日行っていることをSNSでアップするというのが主流になってきていますね。日本はそこはまだできていないので、それも追いついていかなければと思っています」と石井シェフ。

『フジマック』は、手厚い支援を長年続けている貴重な企業。しかし、それにはどのようなメリットがあるでしょうか。

「もともとレストランやホテルに育ててもらった企業なので、シェフに対してなんらかの恩返しをしたいと常に考えています。また、大会という目標を持つことは料理人にとってとても重要だと思います。日本のフランス料理業界がさらに発展するためにも、ボキューズ・ドールJAPANには、ぜひご協力したいと思っています。若手のシェフの中からひとりでも多く、目指す人が出てくれば、我々にとってもメリットがありますから」と熊谷氏。

「入社してすぐのころは、美味しい料理を作ることが全てで、それ以外は考えていませんでした。料理は技術であり、味であり、香りであり、見た目。それを究めようと、やっきになっていました。そんな中で、『テタンジェコンクール』(若手の登龍門と言われる、世界的な料理コンクール)に出場し、国内3位になりました。あれだけ技術を詰め込んできたのに、なぜ勝てなかったのかということが悔しくて、『ボキューズ・ドール』を目指しました。その後、こうして機材をご提供いただいたり、食材を支援してもらったり、たくさんのご協力のもと必死に試作を続けた結果、気づいたら日本代表になっていたわけです。ひとりでは頂点を獲ることができなかったのに、背中を押してもらったおかげで日本代表の座を手に入れることができました。それで初めて、皆さまのご支援、ご協力があったからこそということがわかり、すっかり考えが変わりました。感謝の気持を込めてやっていくことが必要なんだと」と石井シェフ。

料理人とは、ある種、アスリートと同じなのかもしれません。アスリートの方々も大きな大会で活躍したあとには、必ず、多くの人の支えに対する感謝を述べています。その姿は、石井シェフの言葉と重なって聞こえます。

​​​常に革新を追求し続ける『フジマック』。「厨房は、レストランとシェフがあってこそ活かされます。フランス料理においては、特に厨房機器の性能が左右します。私たちは、最先端の厨房を通して、恩返ししたいと思っています」と語る、熊谷氏。

今や、フランス料理店の厨房には欠かせないスチームコンベクションオーブンについて、「欧米の一流店は、常に最新機器を導入しています。現代においては、機器の性能が料理の質を大きく左右します」と、世界と日本の差は、料理の技術云々以外にもあることを指摘する石井シェフ。「『フジマック』さんのテクノロジーは、厨房機器業界を大きく進化させていると思います」と言葉を続ける。

ドアハンドルのない冷蔵庫やタッチパネルで操作できる高い精度。手作業を減らすことで誤差もない。手入れもしやすいため、その分、料理に注ぐ時間も増える。

Bocuse d’Or 2023勝つための大会。『フジマック』の視点から、『ボキューズ・ドール』を解析。

日本のこれまでの最高位は、2013年の浜田氏の3位入賞。これまで勝てなかった理由は何か。ふたりは、こう分析します。

「料理を作る人間ではないのに、大変僭越ですが、そもそもフランス料理の大会ですから、欧州勢が圧倒的なアドバンテージを持っていると思います。伝統、文化、育った環境すべてが異なる。その中で日本勢がどこまでやれるのかというのは、なかなか難しいことです。とはいえ、いよいよ世界が獲れるんじゃないかというくらいの期待感が高まっているのも事実です。これだけ、海外で活躍するシェフも増え、また、海外から日本のフレンチを食べに来る方も増加している今、時間の問題なのではないかと思います」と熊谷氏。

「私はこれまでの敗因を、日本の文化を全面に押し出しすぎたことにあるのではないかと思っています。過去の写真、資料、レシピの全てに目を通しましたが、これまでの作品は、日本好きなヨーロッパ人にはわかってもらえるかもしれないけれど、アフリカや南北アメリカからも審査員は来るわけで、その人たちには、“日本ってこうなんだ”で終わってしまうのではないかと。フランスの食材や文化を大きく捉え、その中で表現していかないといけないと思うのです。今は北欧のスタイルが主流になっていますが、それならまずそれを理解し、その上で一歩先を目指すことが必要なのだと考えています」と石井シェフ。

「日本の良いところは、チームワークがすごくいいことだと思います。シェフとコミ(アシスタント)ふたりでの、限られた時間内での作業になるわけですから、阿吽の呼吸でものごとが進まないといけない。また、コーチの方々や我々のようなパートナーが皆、力を発揮すれば、大会で良い結果が出せると思います。もちろん石井シェフのこだわりや、日本人ならではの利点も当然あると思いますし、日本を出しすぎたことが減点になったと言われたけれど、日本独自のセンスも残してほしいですね」と熊谷氏。

今回はプラッター(大皿盛り)のテーマのメイン素材があんこうと決まりました。日本ではよく食べる魚であることや扱いにも慣れているなど、一見有利のように思えますが、本選ではスコットランド産のあんこうを使うという難点が。日本のあんこうは、世界と比べてレベルが高く、日本産で試作したものと現地で作ったものにギャップは必ず生じるでしょう。「それが一番こわいです。なんとかスコットランド産あんこうを取り寄せられないかと、八方手は尽くしているのですが……」と石井シェフは、今の心情を語ります。

日本の強みである、魚の扱いのレベルの高さが発揮できるとよいのですが、本選で使用する食材が手に入らないというのは、欧州勢に比べると大きなディスアドバンテージ。しかし、どうすれば乗り切れるか。どう戦えば勝てるのか。

「日頃の力を発揮できることが一番だと思います。私どものキッチンを使い倒して、動きを体に刻み込んでもらいたいですね。そうすれば本番で120%の力が出せ、おのずと良い結果がついてくると信じでいます」と熊谷氏。

「コンクール当日は、“始めます”とアナウンスされた時には頭が真っ白。何をすべきかという手順がうっすらうっすら戻ってくるのですが、その間はわけのわからないことをしています(苦笑)。ビデオを見たら、一回まな板を回してまた戻していました。手が震えて、ボウルを動かしたり、手を洗ったり。ようやく手の震えが収まって、そこからスタートダッシュをかけたみたいな感じです」と石井シェフ。

本選の持ち時間は5時間半。その中で、大皿盛りのプラッターと、プレート盛りを仕上げなければなりません。常人には5時間半集中し続けるのは至難の技だ。

「始まってしまえば、あっと言う間です。ゾーンに入っているというか、集中しているとしていないの狭間にいるような感覚です。そして、仕上げの時にギアをさらに上げていく。その時に酸欠になるので、肺活量を増やそうと、毎日走って体も鍛えています」と石井シェフ。

本番の精神状態は極限状態。テクニックはもちろん、強靭なメンタルも必要とされるため、シェフは、前述のごとく、アスリートと化す。

「コンクールにチャレンジすること自体が将来キャリアを積む上で、重要なひとつの挑戦だと思います。個人店のシェフにはハードルが高いなどの問題がありますから、どうにかして門戸を広げられるように、我々の会社も微力ではあっても支援していきたいと思っています」と熊谷氏。

フランスでは入賞したシェフの地位が確約されていると聞きます。日本でも、勝つことによる知名度、シェフとしてのステップアップなど、具体的な夢が見えると、もっと目指す人が
増えてくるのかもしれません。

『ボキューズ・ドール』にかける熱い思いを語る石井シェフ。「『フジマック』さんは、チームジャパンに欠かせない存在です」。

石井シェフにエールを贈る熊谷氏。同時に「フランス料理業界の発展を願いたいです」と話す。

Bocuse d’Or 2023もし日本が開催地になったら!? 認知度、話題性、そして、大会の本質をどう伝えるか。

「シラの会場(世界一の食の見本市)や、クープ・ド・モンド(パティシエのコンクールで前々日、前日に開かれる)や『ボキューズ・ドール』の会場の熱狂を見れば、そのすごさ、特殊さが、伝わるはずです。まさにフランス料理におけるワールドカップです。テレビなどのわかりやすいメディアで発信することで、Z世代や若い世代が興味を持つようになると良いと思います。若年層からの押し上げも大切ですから」。石井シェフは、世界が見る『ボキューズ・ドール』の現象と対日本について、こう話します。

日本大会は辻調理師専門学校で行われ、一般には見学できませんが、フランスや北欧では国の大会も一般参加できます。この環境の違いも大きいかもしれません。

「日本大会を観戦できるようにすることも、認知度を上げるひとつの方法かもしれません。北欧やフランスは表彰式も大きなところで開催し、最後に花火まで上げて。日本においてもそのような取組みが必要かもしれません」と石井シェフ。

「『フジマック』の機材を紹介していく場にもなりますね。実際に機材を使っていただくことで理解が深まると思うので、弊社としてもそのような取り組みは嬉しいです」と熊谷氏。

「去年から『コミットメントアワード』という賞が設けられました。食文化として何を発信してきたいか、SDGsにはどのように取り組んでいるかなどを評価するアワードです。応募しているのは、北欧勢、フランス。アジアだと、タイ、韓国、中国。日本は参加していないのですが、実にもったいない。自国の食に対する考えをアピールできる絶好の機会なのに。前回はコスタリカがアワードをとっていました。“労働環境やジェンダーの問題を私達は変えていきます”という内容のプレゼンテーションで。『ボキューズ・ドール』は、料理コンクールという枠を超え、食を通じて世界をより豊かにしていくための発表の場でもあるのです」と石井シェフ。

そうした未来を見据えた料理コンクール、『ボキューズ・ドール』は、厨房機器の総合メーカーであるフジマックにとって、どんな存在なのでしょうか。そして石井シェフに期待することは何か。

「スポンサーの立場でいうと、シェフたちへの恩返しの場です。シェフが世界で活躍するその一助になれれば、という思いでのスポンサードです。石井シェフには、今までの経験と周囲のサポートを改めて感じていただき、力を出し切っていただきたいですね」と熊谷氏。

「最後の最後まで諦めずに頑張りたいと思います」。石井シェフは、熊谷氏にそう約束し、今日もまた、『フジマック』のキッチンで料理に励む。

日本チームの健闘を願う熊谷氏と、それに応えたいと誓う石井シェフ。それぞれ異なる視点から読み解いた『ボキューズ・ドール』談義は、互いに大きな刺激を生んだ。


Text:HIROKO KOMATSU
Photographs:KOH AKAZAWA

ようやく世界に並ぶ環境を手に入れた。最新設備の厨房が勝敗を分ける。

『フジマック』取締役 常務執行役員 熊谷勇人氏(右)、2023年『ボキューズ・ドール』日本代表ひらまつグループ『アルジェント』所属、石井友之氏(左)。実は、大会について真っ向から議論するのは今回が初。互いの意見を交わすことによって、より絆が強固に。

Bocuse d’Or 2023長年、『ボキューズ・ドールJAPAN』を支援し続けているメーカーからのメッセージ。

13年にわたり、『ボキューズ・ドールJAPAN』のサポートを続けている厨房機器メーカーの『フジマック』。その意義を、取締役 常務執行役員の熊谷勇人氏と、2023年の出場者である石井友之シェフが語ります。『ボキューズ・ドールJAPAN』のサポートを始めたきっかけは、こんな理由からでした。

「『ひらまつ』さんには長年厨房機器をおさめていますが、その経緯で『ボキューズ・ドール』のご紹介を受け、サポートを始めることになりました。2009年の長谷川幸太郎シェフ出場の時が初回になります。長年にわたって支援していく中で、一ファンとしても、企業としても、大会をもっと盛り上げていきたいと思っています。そもそもフードビジネスのトータルサポートというのが我々の目指すところです。機能性の高い厨房機器を作るというのはもちろんですが、何かお困りがあれば、ご相談いただければと思っておりますし、シェフの心のよりどころでありたいと言う風に考えています。大会のサポートはその延長上にあります」と熊谷氏は言います。

「『ひらまつ』に入社した時からずっとお世話になっていますが、新人のころはそういう感覚にまでは及びませんでした。厨房に機器があって、動いているのは当たり前。ですが、立場が上になるに連れ、壊れた時にどうするか、連絡した時の『フジマック』さんの迅速な対応など、ありがたさが身に沁みてわかってくるんですね」と石井シェフ。

13年にわたる支援の中、今年は、より進化したサポートを『フジマック』は提供します。それは、初のキッチンラボです。本選と同じサイズ、同じ機器の配置に作ったキッチンを用意し、その環境で鍛錬を積むことにより、本選での動きを身体に叩き込むことができます。日本チームにとってはまさに悲願でした。

「『フジマック』さんには感謝しかないです。世界の主流は、皆このやり方でやっています。本番同様のキッチンがないと、どうしても、本選で動きにロスが出てしまう。今回はそのハンデがなくなったわけですから、言い訳できません。頑張ります」と石井シェフ。

「本選では、いかに効率よく動けるかまでが、全て評価されますから。場慣れするという意味でも、また、普段通りの力を発揮するためにも、そうした環境が絶対に必要だと思いました。特に、2015年と2019年に日本代表として出場した高山英紀シェフと話して、その必要性を強く説かれ、我々も理解のもと、今回キッチンラボ設置の協力を、ということになりました」と熊谷氏。

「日本も一歩世界基準に近づくことができました。世界ではさらに、キッチンラボで毎日行っていることをSNSでアップするというのが主流になってきていますね。日本はそこはまだできていないので、それも追いついていかなければと思っています」と石井シェフ。

『フジマック』は、手厚い支援を長年続けている貴重な企業。しかし、それにはどのようなメリットがあるでしょうか。

「もともとレストランやホテルに育ててもらった企業なので、シェフに対してなんらかの恩返しをしたいと常に考えています。また、大会という目標を持つことは料理人にとってとても重要だと思います。日本のフランス料理業界がさらに発展するためにも、ボキューズ・ドールJAPANには、ぜひご協力したいと思っています。若手のシェフの中からひとりでも多く、目指す人が出てくれば、我々にとってもメリットがありますから」と熊谷氏。

「入社してすぐのころは、美味しい料理を作ることが全てで、それ以外は考えていませんでした。料理は技術であり、味であり、香りであり、見た目。それを究めようと、やっきになっていました。そんな中で、『テタンジェコンクール』(若手の登龍門と言われる、世界的な料理コンクール)に出場し、国内3位になりました。あれだけ技術を詰め込んできたのに、なぜ勝てなかったのかということが悔しくて、『ボキューズ・ドール』を目指しました。その後、こうして機材をご提供いただいたり、食材を支援してもらったり、たくさんのご協力のもと必死に試作を続けた結果、気づいたら日本代表になっていたわけです。ひとりでは頂点を獲ることができなかったのに、背中を押してもらったおかげで日本代表の座を手に入れることができました。それで初めて、皆さまのご支援、ご協力があったからこそということがわかり、すっかり考えが変わりました。感謝の気持を込めてやっていくことが必要なんだと」と石井シェフ。

料理人とは、ある種、アスリートと同じなのかもしれません。アスリートの方々も大きな大会で活躍したあとには、必ず、多くの人の支えに対する感謝を述べています。その姿は、石井シェフの言葉と重なって聞こえます。

​​​常に革新を追求し続ける『フジマック』。「厨房は、レストランとシェフがあってこそ活かされます。フランス料理においては、特に厨房機器の性能が左右します。私たちは、最先端の厨房を通して、恩返ししたいと思っています」と語る、熊谷氏。

今や、フランス料理店の厨房には欠かせないスチームコンベクションオーブンについて、「欧米の一流店は、常に最新機器を導入しています。現代においては、機器の性能が料理の質を大きく左右します」と、世界と日本の差は、料理の技術云々以外にもあることを指摘する石井シェフ。「『フジマック』さんのテクノロジーは、厨房機器業界を大きく進化させていると思います」と言葉を続ける。

ドアハンドルのない冷蔵庫やタッチパネルで操作できる高い精度。手作業を減らすことで誤差もない。手入れもしやすいため、その分、料理に注ぐ時間も増える。

Bocuse d’Or 2023勝つための大会。『フジマック』の視点から、『ボキューズ・ドール』を解析。

日本のこれまでの最高位は、2013年の浜田氏の3位入賞。これまで勝てなかった理由は何か。ふたりは、こう分析します。

「料理を作る人間ではないのに、大変僭越ですが、そもそもフランス料理の大会ですから、欧州勢が圧倒的なアドバンテージを持っていると思います。伝統、文化、育った環境すべてが異なる。その中で日本勢がどこまでやれるのかというのは、なかなか難しいことです。とはいえ、いよいよ世界が獲れるんじゃないかというくらいの期待感が高まっているのも事実です。これだけ、海外で活躍するシェフも増え、また、海外から日本のフレンチを食べに来る方も増加している今、時間の問題なのではないかと思います」と熊谷氏。

「私はこれまでの敗因を、日本の文化を全面に押し出しすぎたことにあるのではないかと思っています。過去の写真、資料、レシピの全てに目を通しましたが、これまでの作品は、日本好きなヨーロッパ人にはわかってもらえるかもしれないけれど、アフリカや南北アメリカからも審査員は来るわけで、その人たちには、“日本ってこうなんだ”で終わってしまうのではないかと。フランスの食材や文化を大きく捉え、その中で表現していかないといけないと思うのです。今は北欧のスタイルが主流になっていますが、それならまずそれを理解し、その上で一歩先を目指すことが必要なのだと考えています」と石井シェフ。

「日本の良いところは、チームワークがすごくいいことだと思います。シェフとコミ(アシスタント)ふたりでの、限られた時間内での作業になるわけですから、阿吽の呼吸でものごとが進まないといけない。また、コーチの方々や我々のようなパートナーが皆、力を発揮すれば、大会で良い結果が出せると思います。もちろん石井シェフのこだわりや、日本人ならではの利点も当然あると思いますし、日本を出しすぎたことが減点になったと言われたけれど、日本独自のセンスも残してほしいですね」と熊谷氏。

今回はプラッター(大皿盛り)のテーマのメイン素材があんこうと決まりました。日本ではよく食べる魚であることや扱いにも慣れているなど、一見有利のように思えますが、本選ではスコットランド産のあんこうを使うという難点が。日本のあんこうは、世界と比べてレベルが高く、日本産で試作したものと現地で作ったものにギャップは必ず生じるでしょう。「それが一番こわいです。なんとかスコットランド産あんこうを取り寄せられないかと、八方手は尽くしているのですが……」と石井シェフは、今の心情を語ります。

日本の強みである、魚の扱いのレベルの高さが発揮できるとよいのですが、本選で使用する食材が手に入らないというのは、欧州勢に比べると大きなディスアドバンテージ。しかし、どうすれば乗り切れるか。どう戦えば勝てるのか。

「日頃の力を発揮できることが一番だと思います。私どものキッチンを使い倒して、動きを体に刻み込んでもらいたいですね。そうすれば本番で120%の力が出せ、おのずと良い結果がついてくると信じでいます」と熊谷氏。

「コンクール当日は、“始めます”とアナウンスされた時には頭が真っ白。何をすべきかという手順がうっすらうっすら戻ってくるのですが、その間はわけのわからないことをしています(苦笑)。ビデオを見たら、一回まな板を回してまた戻していました。手が震えて、ボウルを動かしたり、手を洗ったり。ようやく手の震えが収まって、そこからスタートダッシュをかけたみたいな感じです」と石井シェフ。

本選の持ち時間は5時間半。その中で、大皿盛りのプラッターと、プレート盛りを仕上げなければなりません。常人には5時間半集中し続けるのは至難の技だ。

「始まってしまえば、あっと言う間です。ゾーンに入っているというか、集中しているとしていないの狭間にいるような感覚です。そして、仕上げの時にギアをさらに上げていく。その時に酸欠になるので、肺活量を増やそうと、毎日走って体も鍛えています」と石井シェフ。

本番の精神状態は極限状態。テクニックはもちろん、強靭なメンタルも必要とされるため、シェフは、前述のごとく、アスリートと化す。

「コンクールにチャレンジすること自体が将来キャリアを積む上で、重要なひとつの挑戦だと思います。個人店のシェフにはハードルが高いなどの問題がありますから、どうにかして門戸を広げられるように、我々の会社も微力ではあっても支援していきたいと思っています」と熊谷氏。

フランスでは入賞したシェフの地位が確約されていると聞きます。日本でも、勝つことによる知名度、シェフとしてのステップアップなど、具体的な夢が見えると、もっと目指す人が
増えてくるのかもしれません。

『ボキューズ・ドール』にかける熱い思いを語る石井シェフ。「『フジマック』さんは、チームジャパンに欠かせない存在です」。

石井シェフにエールを贈る熊谷氏。同時に「フランス料理業界の発展を願いたいです」と話す。

Bocuse d’Or 2023もし日本が開催地になったら!? 認知度、話題性、そして、大会の本質をどう伝えるか。

「シラの会場(世界一の食の見本市)や、クープ・ド・モンド(パティシエのコンクールで前々日、前日に開かれる)や『ボキューズ・ドール』の会場の熱狂を見れば、そのすごさ、特殊さが、伝わるはずです。まさにフランス料理におけるワールドカップです。テレビなどのわかりやすいメディアで発信することで、Z世代や若い世代が興味を持つようになると良いと思います。若年層からの押し上げも大切ですから」。石井シェフは、世界が見る『ボキューズ・ドール』の現象と対日本について、こう話します。

日本大会は辻調理師専門学校で行われ、一般には見学できませんが、フランスや北欧では国の大会も一般参加できます。この環境の違いも大きいかもしれません。

「日本大会を観戦できるようにすることも、認知度を上げるひとつの方法かもしれません。北欧やフランスは表彰式も大きなところで開催し、最後に花火まで上げて。日本においてもそのような取組みが必要かもしれません」と石井シェフ。

「『フジマック』の機材を紹介していく場にもなりますね。実際に機材を使っていただくことで理解が深まると思うので、弊社としてもそのような取り組みは嬉しいです」と熊谷氏。

「去年から『コミットメントアワード』という賞が設けられました。食文化として何を発信してきたいか、SDGsにはどのように取り組んでいるかなどを評価するアワードです。応募しているのは、北欧勢、フランス。アジアだと、タイ、韓国、中国。日本は参加していないのですが、実にもったいない。自国の食に対する考えをアピールできる絶好の機会なのに。前回はコスタリカがアワードをとっていました。“労働環境やジェンダーの問題を私達は変えていきます”という内容のプレゼンテーションで。『ボキューズ・ドール』は、料理コンクールという枠を超え、食を通じて世界をより豊かにしていくための発表の場でもあるのです」と石井シェフ。

そうした未来を見据えた料理コンクール、『ボキューズ・ドール』は、厨房機器の総合メーカーであるフジマックにとって、どんな存在なのでしょうか。そして石井シェフに期待することは何か。

「スポンサーの立場でいうと、シェフたちへの恩返しの場です。シェフが世界で活躍するその一助になれれば、という思いでのスポンサードです。石井シェフには、今までの経験と周囲のサポートを改めて感じていただき、力を出し切っていただきたいですね」と熊谷氏。

「最後の最後まで諦めずに頑張りたいと思います」。石井シェフは、熊谷氏にそう約束し、今日もまた、『フジマック』のキッチンで料理に励む。

日本チームの健闘を願う熊谷氏と、それに応えたいと誓う石井シェフ。それぞれ異なる視点から読み解いた『ボキューズ・ドール』談義は、互いに大きな刺激を生んだ。


Text:HIROKO KOMATSU
Photographs:KOH AKAZAWA

自然農×自然派ワイン。「ノーマ」も認めた大岡弘武が醸す、柑橘果実酒。[和光アネックス/東京都中央区]

世界的に著名な自然派ワイン醸造の第一人者である大岡弘武氏が手がける「然ながらみかん(タンク) 果実酒」。タンク醸造と樽醸造の2種あるが、今回はタンク醸造を用意。

WAKO ANNEXワイン業界に一石を投じた、みかんの果実酒。

福岡正信氏が著した「わら一本の革命」。世界に一石を投じたそれは、多くの共感者を呼び、愛媛県伊予市にある『福岡正信自然農園』を目指し、各国から多くの人が訪れました。

今回は、そんな『福岡正信自然農園』の自然農と自然派ワイン醸造の第一人者である大岡弘武氏との共演が叶った果実酒を紹介。それは、奈良県磯城郡の『日本総合園芸』より展開されている「然ながらみかん(タンク) 果実酒」です。

大岡氏は、世界的に高い評価を受ける自然派ワインの第一人者であり、知る人ぞ知る醸造家。フランス・ローヌの帝王と称されるギガル社でエルミタージュ地区(ローヌで最上の葡萄が収穫されるといわれている100年以上の樹がある圃場)の栽培長を経て独立し、自然農法の祖と言われる福岡氏の哲学を取り入れた栽培・醸造方法で自然派ワインへ傾倒したことが今回のご縁につながりました。その活動は世界に知れ渡り、『ニューヨークタイムズ』(アメリカ版)でも特集され、世界最高峰のレストランと言われるコペンハーゲン『ノマ』にも自身のワインが取り扱われています。

そんな大岡氏が手がける果実酒は、世界的に希少な自然発酵を採用しています。通常、品質保持のために添加される亜硫酸を一切使用せず、非加熱・無濾過で仕上げた柑橘から醸造しています。

「然ながらみかん(タンク) 果実酒」は、和歌山県産の有機温州みかんの果汁と外皮に付着する酵母のみを使用しており、その原料となる柑橘を提供しているのは『梶本農園』です。ここは、和歌山県で最初に有機JAS認定を取得した農園でもあります。初代から手塩にかけて栽培する柑橘には、とても定評があり、有機温州みかんの自然の甘みと瑞々しさ、そしてすっきりとした味わいが特徴です。

「世界で類をみない私たちの自然派果実酒は、自然の循環から誕生したサスティナブルな次世代のお酒であると信じています」と大岡氏。今回、『日本総合園芸』が柑橘を選んだ理由のひとつに、葡萄と柑橘では果実酒の仕込み作業の繁忙期が異なるといった部分があったから。柑橘をお酒造りに活用することによって、柑橘農家はもちろん、ブドウを用いるワイン醸造家は新たな収入源を得ることが可能となります。ブドウではなくみかんを原料にした果実酒は、新たなスタイルの開拓と言ってよいでしょう。

「然ながらみかん(タンク) 果実酒」の果実味と爽やかな酸味は、まさに「さながらみかん」。奇跡的な出会いから生まれた両者の果実酒をぜひお楽しみいただきたい。

プチプチとした細かなガス感も楽しめる果実酒。自然発酵ならではの旨味が一体となった味わいが広がる。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
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Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

北アルプスの天然水の美味しさを、真っ直ぐに伝えるクラフトビール。

『北アルプスブルワリー』のタップルームにて、出来立てのクラフトビールを味わう。

 ビールを通じて信濃大町の水を体感してほしい。

信濃大町駅から北へ伸びる商店街の中ほどに、2019年、大町市初のマイクロブルワリー『北アルプスブルワリー』が誕生しました。全国的に、地域に根差した少量高品質なクラフトビールが生まれ、ビールの新たな楽しみを広がっていますが、中でも『北アルプスブルワリー』はユニークなスタンスで独自の個性を発揮しています。その個性とは、ずばり“水”。

そもそも信濃大町の水の美味しさを伝えるために作られたブルワリーであると、醸造責任者の松浦周平氏は設立の背景をひもときます。
「信濃大町の水道水にもなっている北アルプスの上白沢水系の天然水は、世界に誇る美味しい軟水だと思っています。北アルプスに浸み込んだ水が15年から20年かけて地中で磨かれ、一度も地表に出ることなく水道水となって供給されています。この水の美味しさを多くの方に知っていただきたい。そのきっかけとして、美味しい水で造ったクラフトビールを飲んでもらえたら、と考えたのです」

兵庫県出身の松浦氏は、スノーボードに熱中して白馬に通うようになり、やがて信濃大町に移住し、コーヒーショップを開業しました。開業地に信濃大町を選んだのは、やはりコーヒーに欠かせない水の存在が決め手になったと話します。

「コーヒー豆と軟水はものすごく相性がいい。コーヒーの98%以上が水。豆の品質と焙煎の方法もとても重要ですが、結局、淹れるための水のクオリティで美味しさに格段の差が出るものなんです。僕は上白沢の水はコーヒーを淹れるのに最高の水だと思っています。圧倒的な水の良さをコーヒーを通じて体感してほしい、そう思って店を営んできました。そして、その発想をビールにも広げました。コーヒーは緑茶や紅茶と違って堅苦しいお作法がない、世界中でカジュアルに楽しまれている飲み物。同様にビールも庶民のお酒の代表です。身近な飲み物であるコーヒーとビールで信濃大町の水の美味しさを伝えていきたいというのが狙いです」(松浦氏)

「カクテルってどこか拡張高いお酒と思われがちですが、本来はビールのようにカジュアルなものなんですよ。禁酒法の時代に、粗悪なお酒をいかに美味しく飲むか。その工夫として大きく発展したのがカクテルなので、本来はごく大衆的な飲み物。僕のバーも“アットホームバー”を謳っていて、肩肘張らずにお酒の美味しさ、新たな魅力に気づいてほしいと思っています。だから、カジュアルな入り口から多くの人に入ってきてもらって、水の美味しさを知ってほしいという松浦さんの想いに共感しますね」と山﨑氏はうなずきます。

工場内で醸造の特徴について解説する松浦氏。酒のプロであるバーテンダーならではの鋭い質問によどみなく答えていく。

「掃除だけはどこにも負けていないと断言できます」と松浦氏が話すとおり、ブルワリー内はどこもピカピカに磨き上げられている。

 水質調整を一切行わず、そのままの天然水でビールを仕込む。

信濃大町の水の美味しさをクラフトビールを通じて伝える。そのミッションを掲げる『北アルプスブルワリー』は、常識にとらわれない大胆なクラフトビール醸造に取り組みます。その最たる部分が、使用する水に一切手を加えないこと。一般的には、ビールに使う水は醸造の前段階で薬剤を使った水質調整が施されます。クラフトビールがいち早く発展してきたイギリスやアメリカの水が硬水であることから、日本の軟水はミネラル成分などを添加し、イギリスやアメリカでビール醸造に適しているとされる硬水につくり変えるのです。

しかし、それでは『北アルプスブルワリー』はそもそもの目標からそれてしまいます。セオリーから外れて軟水で仕込むと、うまく味が乗らないかもしれない。ホップの苦味がきちんと出ないかもしれない。キレが弱いかもしれない。心配は尽きませんが、そのままの水を使うことを大前提に初めての醸造に向かって突き進みます。

当初、思わぬハプニングが発生しました。オープンに向けて準備を進めていたものの、なかなか醸造免許がおりません。免許がおりず仕込むことができないため、予定していた醸造をやめ、他県のブルワリーに原材料とレシピを渡して造ってもらうことにしました。外注によってビールが出来上がった後、ようやく免許がおりて初めての自家醸造にチャレンジしました。しかし、段取りが悪く、機材の扱いでもトラブルが続き、本来は6時間で行える工程に倍以上の14時間もかかってしまったのです。そうして完成したビールは悲惨な出来かと恐れましたが、いざ飲んでみると、スタッフの誰もが驚くほど美味しいと感じたそうです。しかも、その美味しさは、同じでレシピで外注しして出来上がったビールよりもはるかに上。外注と自家醸造の違いは、仕込み水のみ。つまり、信濃大町の水がビールの美味しさをさらに引き上げたという証左になったのです。

「信濃大町の水を使って初めて自分たちで造ったビールを飲んだ時、みなさんの反応はどうだったのですか?」との山﨑氏の問いに、松浦氏は当時を振り返ります。
「飲みやすい! 口当たりの良さにみんな驚きましたね。外注したものと比べて単にライトな飲み口になったというわけではなく、風味は負けず劣らずしっかりありながら、“カド”がなくなって心地よく飲むことができる。そんな声が多く聞かれました。実は、僕自身は元々ビールを好んで飲む方ではありませんでしたが、このビールは素直に美味しいと思いましたね、お世辞抜きに」

『北アルプスブルワリー』では常時6種類ほどのクラフトビールを味わうことができる。

タップルームで人気は少量ずつ味わえる3種飲み比べ。すべてを味わってみたいという客が多い。

ラガーを一口味わい、軽やかな飲み口と豊かな風味に驚く山﨑氏。創業3年目とは思えないハイレベルな出来。

 カドがない、まあるい印象のビールに。

現在、『北アルプスブルワリー』では主力のペールエールやラガーをはじめ、様々な種類のビールを醸造しており、併設のタップルームでは常時6種類ほどのビールを試飲することができます。山﨑氏もこの日いただけるすべてのビールを味わってみます。
まず主力のラガーをグビリとやった山﨑氏は、「ああ、これは美味しい!」と表情がパッと明るくなりました。
「カドがない。全体がまあるい印象で、とても飲みやすい。でもシャープなキレもあるし、これはいいバランスですね」と驚きます。続けて、ペールエール、そしてIPAを味わうと、「エール系もいいなあ」と唸ります。
「IPAに信濃大町の水を使っている特長がよく現れていますね。IPAの苦くて濃いという重たさが程よく緩和されていて、IPAの強い味わいを軽やかに楽しむことができます。やっぱり水がいい働きをしているんでしょうね。カクテルも同じ。たとえば上質なウォッカであっても、そのままだとどうしても刺々しさがあるのですが、それを水や氷を上手に使ってカドを取るのがバーテンダーの腕の見せどころ。工夫や技術によって、高いアルコール度数の飲み応えを保ったまま、口当たりを良くすることもできるんです。こちらのビールには、そんなカクテルの本質に共通するものを感じます」

500kgの仕込みタンクに対し、80kgものリンゴを投入するアップルエールも出色の仕上がり。リンゴの名産地ならではの贅沢な風味を堪能することができます。いわゆる黒ビールの一種であるスタウトも評判の出来。黒ビールらしいコクがありながら、飲み口はいたって軽やか。スルスルといくらでも飲めそうだと山﨑氏に笑みがこぼれます。

そして、とりわけ山﨑氏が感動したのが、副原料に自家焙煎のコーヒー豆を使ったコーヒーパンチ。コーヒーフレーバーのビールはコーヒー豆と相性が間違いないスタウト系でつくるのが一般的ですが、こちらではコーヒー本来の味わいも大切にすべく、エール系でつくり上げています。
「旨い! これは文句なく旨いですね。コーヒーの風味がビールの炭酸と苦味に乗って、フワッとやってくる。余韻も心地いいし、これはもはやカクテルです。やはり信濃大町の水の良さがなせる技なんでしょうね」

このコーヒーパンチは、「ジャパン・グレートビア・アワーズ2020」と「インターナショナル・ビアカップ2020 カテゴリーチャンピオン 金賞」と、権威あるアワードに次々と輝きました。
「ブルワリーの近くにあるコーヒーショップで焙煎したばかりの熱々の豆を急いでブルワーに持ってきて投入しています。スタウトではなく、エール系でコーヒーの味がしっかりするギャップと、コーヒーのフレッシュな風味を感じて欲しかったんです。いずれは、さらにクリアな味わいのラガーでコーヒーパンチをつくってみたい。それから、ホップの自家栽培にもチャレンジしたいと思っているところです」と松浦氏は次なる野望を語ります。

「ははは。松浦さんの、なんというか、変態的な情熱が一杯に濃縮されたビール。これからも本当に楽しみです。僕も銀座を代表する変態的なバーテンダーになれるように頑張ります」と山﨑氏は笑いました。

「いいコーヒーを飲んだ後は、このあたりに心地いい風味がずっと持続しますよね。それをコーヒーパンチでも実現したくて」と話す松浦氏。

醸造家とバーテンダー。立場は違えど、同じお酒のプロとして話が尽きることはない。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 大町市)

清らか、そして、まろやかなる水道水。暮らしの根源にある、この上ない贅沢。[湧水とアートがうるおす町/長野県大町市]

鷹狩山の山頂、展望台より信濃大町市街を望む。街の奥には蓮華岳や爺ヶ岳がそびえ、さらにその奥には後立山連峰の雄姿が見える。

 北アルプスの天然水に恵まれた名水の郷。

爽快な秋晴れの朝、地元の方のおすすめに従って、町の東側にそびえる鷹狩山へと向かいました。クルマで到達できる頂上には展望台があり、そこから信濃大町の街を見下ろし、さらにその奥には3000m級の山々が連なる後立山連峰を遠望することができます。なるほど、ここからの眺めは、信濃大町がいかに地形的に水に恵まれた地であるかが、とてもよくわかります。

信濃大町は屹立する山脈の間に広がる扇状地にあります。山々に落ちた雫は、山を下りながら少しずつ大きな流れになり、多くが高瀬川と鹿島川、農具川にまとまって、市内をダイナミックに流れていきます。

「あ、ダムが見えますね」
備え付けの望遠鏡をのぞいた山﨑剛氏は、蓮華岳の麓に、市内に3つある大規模ダムの一つ「大町ダム」を見つけたようです。巨大な壁の向こう側にあるダム湖には、雪解け水をたっぷりと湛えていることでしょう。その迫力が、遠く離れたここからも感じられます。

展望台からは見えないものの、街の北側には仁科三湖と呼ばれる3つの湖があります。SUPやカヌーなどさまざまなアクティビティが楽しめる「木崎湖」、ヘラブナ釣りが人気の「中綱湖」、豊かな森に囲まれた「青木湖」は、市民の憩いの場と四季折々の美しい風景を見せています。

「こうして見ると、山に降り注いだ天然水が信濃大町の街に集まり、暮らしを潤していることがわかります。山に囲まれて寒暖差が生まれる平地は、リンゴやブドウの名産地と聞いています。それもこの恵まれた地形の賜物なんでしょうね」と、山﨑氏は眼下の絶景に魅了されていました。

鷹狩山の展望台付近には、古民家を生かしたアート作品、現代アートチーム『目』による『信濃大町実景舎』がある。2020年から2021年にかけて開催された『北アルプス国際芸術祭』の展示作品の一つ。※不定期公開

ストイックな長距離走のトレーニングを愛し、自然の中でのアクティブな活動を好むスポーツマンの山﨑剛氏。「山のエネルギーを全身に感じる」と話す。

『女清水』をひとすくい、味わってみる。秋のうららかな陽気の中、水道水とは思えない冷たさに驚く。

 二つの異なる水系からもたらされる、源流からの水道水。

信濃大町の水道水は、街の西側と東側で水系が異なっています。西側の水は北アルプスの上白沢、黒部ダムの入り口にあたる源流の湧水で、「男清水(おとこみず)」と呼ばれています。一方、東側の水は標高900mの里山、居谷里の湧水で、こちらは「女清水(おんなみず)」と呼ばれています。大町商店街には、メインストリートを挟んで、この男清水と女清水それぞれの水飲み場があります。それらを飲み比べてみると……

「お、女清水の方が冷たい。どちらも口当たりのやさしい軟水ですが、ミネラル感もしっかりありますね。味の感じ方では女清水が微妙に強く、飲みやすさでは男清水に分があるかな。通りを挟んで、2種類の水道水を味わえるのは不思議ですね。なにより、こんなに美味しい水が水道水としていつでも使えるのは東京では考えられません。暮らしの根源である生活水がこれほどまで上質であることは、この上なく贅沢な暮らしと言えるのではないでしょうか」

仁科三湖の一つ、木崎湖へ足を伸ばしました。沖へ一直線に伸びる桟橋に立った山﨑氏は、感嘆の声を漏らします。
「湖とは思えないくらい、水が澄んでいますね。ほら、カラス貝が移動した跡ですかね、湖底についた模様もはっきり見えます。大町の子はここで泳ぐんですか? 僕の故郷の高知では泳ぎといったらもっぱら川で、きれいな川で遊べることが自慢なんですけど、この木崎湖も気持ちいいでしょうね。街のすぐそばにこんなに美しい湖があるのは羨ましいです」

SUPやカヌーなどのアクティビティが楽しめる『木崎湖』。この日は、何組かの釣り人が静かにボートフィッシングを楽しんでいた。

 天然水の美味しさをそのままに家庭へ届ける。

次に訪ねたのは、信濃大町駅からほど近い場所にある『AW・ウォーター』の工場。こちらでは、ウォーターサーバーに載せる宅配用飲料水を12Lボトル換算で月30万本の生産が可能です。稼働開始は2013年。この信濃大町に新工場が造られました。代表取締役社長の永井毅之氏は、信濃大町に立地した決め手は「水の美味しさ」にあると話します。

「男清水の水系で地下200mの井戸から汲み上げた水を使っています。取水の時点で極めて清冽であり、安全性の観点からとてもポテンシャルの高い水です。そして、なんと言っても美味しさが非常に大きな魅力です。キレや後味、旨みといった味覚を数値化した調査でも高評価を得ており、飲まれる方からは『尖った部分がない』という感想を多くいただいています。まろやかでありながら、飲み応えと旨みのバランスがいいとの評価をいただいています」と永井社長。山﨑氏も早速、試飲します。

「……うん、美味しいですね。確かに尖ったところがなく、非常に飲みやすいです。これはいい意味でですが、ごくわずかにミネラル感が舌に残るニュアンスがある。このフック、いわば引っ掛かりがとてもいい働きをしています。お酒にしてもジュースにしても、上質な飲み物はサラッとしていながら、心地いい余韻があって、また飲みたくなる。もう一口もう一口と味わい、いつの間にか飲み干してしまう。それがいいお酒なんです。この水は、また飲みたくなる水です」と、山﨑氏はグラスの水を干しました。

AW・ウォーターの優れた味わいは、世界でも認められています。「モンドセレクション2022 優秀品質最高金賞」に加え、世界的に権威ある味覚認証であるITIでも「ITI2022 優秀味覚賞 三ツ星」を受賞。業界初の2度目のダブル同時受賞の快挙を成し遂げています。

AW・ウォーター信濃大町工場では、北アルプスの上白沢に端を発する水系を地下200mから汲み上げて使用している。

高速でボトリングされる様子にしばし見入る山﨑氏。信濃大町の豊富な水資源が、ここから全国の家庭へと届けられる。

「モンドセレクション2022 優秀品質最高金賞」や「ITI2022 優秀味覚賞 三ツ星」を獲得した証書やメダル。中央のパネルは、信濃大町出身の芸人で漫画家・鉄拳による描き下ろしイラスト。

非加熱処理で除菌され、美味しさを閉じ込めた信濃大町の水は、全国へ配送されていく。

 美味しさを大事にするからこそ、非加熱処理にこだわる。

地下深くから汲み上げた水を除菌し、ボトルに詰めて出荷するという極めてシンプルな製品作りを行なっているというAW・ウォーター信濃大町工場ですが、水本来の美味しさを大切にした処理工程にこだわっています。除菌は4段階のフィルター濾過を実施。最終的には、孔の大きさが最も細かいとされる0.1μmのフィルターを使い、不純物を徹底的に除去。フィルターでの除菌を厳格に行うのも、水除菌の方法として一般的である熱処理を不要にするためだと、永井社長は説明します。

「この地で地下200mから汲み上げられる水は、30年から40年前に北アルプスに降り注いだ雨や雪がゆっくりと地面に浸み込み、地下を通ってきたと考えられています。時間をかけて花崗岩や変成岩などの砂礫層を通ることで豊富なミネラル成分が水に溶け込み、それが美味しさの秘密になっているのです。熱処理を行うと、水中に溶け込んでいるミネラル成分が変質してしまい、本来の味にも何らかの影響を生じてしまう。それを避けるために、私たちは非加熱処理にこだわっているのです。大町に赴任して4年が経過しましたが、暮らしてみてあらためて水の美味しさに気付かされました。水に恵まれている暮らしがいかに豊かであるかを実感しています」

北海道出身、AW・ウォーター代表取締役社長の永井毅之氏。「工場立地の大きな推進力になったのは、何よりも信濃大町の水の美味しさでした」と振り返る。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 大町市)

水と暮らす郷、信濃大町を訪ねて。山嶺に磨かれた名水と、大地の恵みを巡る旅。[湧水とアートがうるおす街/長野県大町市]

    OVERVIEW

「バーテンダーにとって、水は命。水割りの水、チェイサー用の水、氷は不可欠なものだし、お酒とお酒、お酒と果汁をつないでくれるのも水。バーテンダーの仕事は水と共にあります」

銀座『BAR GOYA』の店主・山﨑剛氏は、長野県大町市を縫うように流れる高瀬川の水面を見つめてそう話します。バーテンダー日本チャンピオンの栄冠に度々輝いてきた山﨑氏の言葉には、一つのカクテルを何百、何千杯と試作し研究を尽くしてきた経験に基づく重みがあります。

多忙な日々に時間をつくっては、国内外の銘醸地やカクテルにふさわしいフルーツやハーブの産地を訪ねている山﨑氏。この秋からは、北アルプスの麓に広がる大町市、通称信濃大町の探訪を続けています。山﨑氏を惹きつける最大の磁力は、清冽な天然水。蓮華岳や爺ヶ岳などが連なる山嶺に降り注ぐ豊富な雨水は、市内に3つある「大町ダム」「七倉ダム」「高瀬ダム」の大規模ダムを湛え、また、地下深くへとゆっくりと浸み込み、そして、幾筋もの川となって市内を潤しています。清らかな水はさまざまな季節の果物を育み、個性豊かなワインや日本酒、クラフトビールを醸しています。

豊かな水に彩られ、連綿と水と暮らす郷、信濃大町を巡りながら、そこに生きる生産者との出会い、魅力あふれる逸品との出合いをつづっていきます。

Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 長野県大町市)

構想3年を経てたどりついた味。フグの美味と感動を商品に込める。[和光アネックス/東京都中央区]

マフグにニンニクや唐辛子などを加えた「コンフィグ」。商品名は、「コンフィ」と「フグ」を掛け合わせた造語。

WAKO ANNEX目指したのは、親しみやすい高級感。

「フグ」の名産として知られる山口県下関市。海産に恵まれたこの地で、『山賀』は2008年に創業しました。以降、2014年に自社ブランド「宝関」を誕生させ、フグをはじめとした魚介の加工品を展開。「海からいただいた“宝”石」、「下“関”」にちなんだ高いクオリティと品質を持つ自信の表れでもあります。

『山賀』が真剣にフグを見続け、30年以上。培われた目利きと天然トラフグへのこだわりは、増すばかり。その情熱は、美味に宿ります。

「コンフィグ」はその好例。フランス発祥の保存食、コンフィに学び、ニンニク、鷹の爪などを加えたオイルにフグの身を漬け、じっくりと低温で炊き上げた国産天然マフグのオイル炊きです。オイルで長時間加熱することによって身質をやわらかくし、表面を覆って旨味を凝縮。保存性も高めました。

コンフィにしたのは、フグをどこでも気軽に楽しんでいただきたいから。「トラフグの持ち味を活かす」、「また食べたい味に仕上げる」、このふたつを追求した結果、塩を焼くことでマイルドな味わいにたどり着き、前述の「宝関」は生まれたのです。「宝関」は、第48回 山口県水産加工展 水産庁長官大賞を受賞。さらには、全国の加工品を集めた農林資産祭天皇杯にも山口県代表として出品された経歴も持ちます。

ワインや冷酒のお供として、サラダやパスタ、サンドウィッチなど、様々なお料理に好相性。ぜひ、お試しあれ。

「コンフィグ」は、トマトとの相性が抜群。カナッペをはじめ、パスタやサンドウィッチ、サラダ、カプレーゼに合わせるのもおすすめ。

瓶の側面を見れば一目瞭然。ぎっしり詰まったふぐのオイル漬けは、90gの容量。食べ応えも十分。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

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森を越え、湖を渡り、土に触れる。3名の料理人が滋賀県の食材と出合い、感じたこと。[森と湖の美味なる恵み/滋賀県]

OVERVIEW

滋賀県の県面積の6分の1を占める琵琶湖。
この日本一の湖を擁することで、湖の東西南北に異なる気候や風土が生まれ、多様な食材や食文化が育まれました。
さらに滋賀県は県面積の2分の1は森林。
豊かな水が森を育て、森もまた水を守る。そんな美しいサイクルが、滋賀県が誇る素晴らしい食材を生み出すのです。
野菜、果物、肉、湖魚。滋賀県が豊富な食材に恵まれる理由は、この湖と森なしに語ることはできません。

そんな豊かな食材を探して、都心で働く料理人たちも度々滋賀県を訪れます。
今回はそんな多くの料理人の中から、3名の料理人が滋賀県の食材の魅力を伝えるアンバサダーに選ばれました。

種類豊富で味わい深い野菜や果物のアンバサダーには、日本各地の食材を正統派フランス料理で提供する『CROSS TOKYO』の総料理長である増山明弘氏。
近江牛をはじめとした名品揃いの肉には、予約でいっぱいのイタリアンレストラン『sel sal sale』の濱口昌大氏。琵琶湖で揚がる湖魚の知られざる魅力を伝えるのは、食材を活かした現代的な解釈のインド料理『Nirvana New York』の若き料理長・引地翔悟氏。 それぞれ得意分野の知識と経験を活かして滋賀県の食材を探し、料理でその魅力を伝えます。

名シェフたちの目に滋賀県の食材はどう映り、そしてどのような料理になるのでしょうか。その詳細をシリーズでお伝えします。


Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by 滋賀県)

おいしいものは、美しい。料理人・増山明弘が滋賀県の食材で作る2品。[滋賀県食材視察ツアー/滋賀県]

今回の試作のために届いた滋賀県産の食材。鮮やかな色合いが美しい。

試作は増山氏が総料理長を務める「CROSS TOKYO」のラボにて行われた。

ローカルファインフードフェア滋賀現地を見たからこそ湧いたインスピレーション。

琵琶湖の豊かな水と広大な大地が育てる滋賀県の農産物。
日本各地の食材を探し歩き、それをフランス仕込みの技で調理する増山明弘シェフは、滋賀の食材を「宝の山」と呼びます。

2022年初秋。
2日間かけて野菜と果物を視察した増山氏は、旅をしながらすでにいくつもの料理のイメージが浮かんでいた様子。今回はそんな増山氏が東京に戻り、ラボで滋賀県の食材を調理します。現地を視察したからこそ生まれた2品。その詳細をお届けします。

産地では生産者とフレンドリーに話す増山氏だが、ラボに立つとギアが変わり真剣な雰囲気に。

ローカルファインフードフェア滋賀鮮やかな緑を活かために考えた、杉谷とうがらしの発酵ソース。

「料理を考えるとき、まず頭の中のイメージをデッサンしてみるんです」

滋賀県の食材を探る旅の途上、増山明弘氏はそう話してくれました。いわば増山氏の食材探しは、色を探す旅。そして滋賀県各地の数々の畑を巡り、生産者と話し、出合った食材を使い、今回、2つのメニューが誕生しました。
ひとつめの料理の主役は、一度は廃れ、しかし地元生産者の熱意で再び蘇った滋賀県甲賀市の伝統野菜、杉谷とうがらし。

「鮮やかな緑が印象的だったので、その色を活かすソースがまず浮かびました。イタリア料理のサルサ・ヴェルデのイメージです」

緑を活かす、という出発点から、調理の道筋を考えます。
せっかく辛味がないとうがらしなのだから、子どもでも食べられるものにしよう。より深みある味わいにするために発酵の力を借りよう。自身が大好きな中華料理のエッセンスも加えてみよう。

こうして少しずつ形ができあがった杉谷とうがらしのソース。
杉谷とうがらしに、キュウリ、ニラ、リンゴ、バナナ、ショウガなどを加えてミキサーに。滑らかになったら保存瓶に移し、常温で一ヶ月ほど発酵させます。

「杉谷とうがらしの爽やかな風味を残しつつ、まろやかな酸味と深みがある発酵ソース。レバーなどの濃厚な肉も、さっぱりと味わうことができます」

と自信を見せました。

厳しい出荷基準を設ける杉谷とうがらし。届いたものは、畑で見た以上に大ぶりで色鮮やか。

香味野菜や果物とともにミキサーに。味のバランスは、試食を繰り返して微調整。

杉谷とうがらしのソース。ここから発酵を経て、色合いも味わいもより深くなる。

ローカルファインフードフェア滋賀素材の魅力をシンプルに伝えるカボチャのジェラート。

続いての食材は、「みなくちファーム」のカボチャ。

「『みなくちファーム』のカボチャのしっかりした味を出したい」

とさまざまなアイデアを考え出しました。
香辛料と相性が良いカボチャは、さまざまなスパイスで複雑味を出すのがフランス料理の考え方。しかしそれではこのカボチャの魅力も半減してしまう。そこで考え出したのが、オレンジとバニラを合わせたジェラートでした。

「柑橘の存在感が出すぎないように、瞬間冷凍したオレンジにしました。カボチャに青臭さがないので、デザートでも表現しやすいと思いました。きっと野菜嫌いの子どもでもおいしく食べられますよ」

と増山氏。試作では「普通のカボチャより火の通りが早いですね。糖度が高いからでしょう」と改めて「みなくちファーム」の品質に驚いていました。

「僕は天才じゃないから。ひとつひとつ積み重ねるしかない」

届いた食材を慈しむように丁寧に下拵えし、1g単位まで慎重に重さを計って調理する。増山氏の料理の姿勢は、実直な職人の姿。食材の組み合わせも、何度も試してはボツにしての繰り返しです。
しかし増山氏が、自ら視察した滋賀県の食材で作り出した料理の美しさとおいしさは、情熱を傾ける生産者の思いをストレートに伝えてくれました。
「生産者と消費者の架け橋」
そんな料理人のあるべき姿を、最も真摯に、誠実に体現する素晴らしい料理人であることは間違いありません。

「みなくちファーム」のカボチャを蒸し上げる。水分を残しつつ、甘みを引き出す。

牛乳、ハチミツ、バニラなどと合わせて食べやすく、かつ奥深いジェラートに。

「カボチャ本来の味わいが、加熱しても損なわれない」という「みなくちファーム」のえびすカボチャのジェラート。

20歳の頃から描き続けているという料理のデッサン画。増山氏の料理はここからはじまる。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by 滋賀県)

キャンバスを彩る色を探して。料理人・増山明弘が滋賀県の食材を探る旅。[滋賀県食材視察ツアー/滋賀県]

今回の視察に参加した、ジャンルも年代も異なる5名の料理人。右から2番目が増山明弘氏。

豊かな水と大地が育む滋賀県の野菜と果物。

多彩な食材に恵まれる滋賀県。
面積は全国47都道府県のうち38位と決して広い県ではありません。しかし琵琶湖を擁することで東西南北で地域性ががらりと変わり、まるで大海を隔てた国々のような多様性を生んでいるのです。とくに気候や土壌に左右される野菜や果物は、実に多種多様。上質な食材は一流料理人たちをも魅了し、全国にそのおいしさが広まっています。

そんな滋賀県に、また食材を求める料理人たちがやってきました。料理のジャンルも年代も異なる6名の料理人。そのなかに、増山明弘氏の姿もありました。
日本各地の食材をフランス料理の技法で表現する旧『CROSS TOKYO』の総料理長として、全国津々浦々の食材に造詣が深い人物です。はたして増山氏は滋賀県の食材をどう見つめ、どんな料理に昇華するのでしょうか。

「食材はすべての料理の大前提」という増山氏が、滋賀県の農産物を見つめる。

増山氏が絶大な信頼を寄せる無農薬野菜。

料理人・増山氏のキャリアは、フランス料理一筋。本場ブルゴーニュやシャンパーニュでも腕を磨き、帰国後にはビストロやオーベルジュで腕を振るいました。しかし増山氏の料理は、ただフランスの伝統を再現するだけではありません。

「日本には、まだまだ知られていない素晴らしい食材がある」

と、時間を見つけては国内の産地を巡って食材を探し、その食材を起点に、自らの経験と知識を使いながら料理を考えるのです。それはいわば、日本にローカライズされた、日本のフランス料理。ゆえに増山氏の食材探しの旅は、終わることはありません。

滋賀県食材巡りの初日。
最初に増山氏の目が光ったのは、琵琶湖の畔、滋賀県高島市にある「みなくちファーム」。農薬、化学肥料不使用で、雑草とともに育つ「みなくちファーム」の野菜。

「もちろん虫はつきます。虫が食べ切れないだけ作れば良いだけ」

畑を案内してくれた瀬口結以氏はそう笑いました。

実は過去にもここを訪れ、すでにこちらの野菜を使用しているという増山氏。しかし、今回もまた改めて鋭い目で畑を見学します。

「いろいろな農園と取引がありますが、この『みなくちファーム』の野菜は僕の料理に絶対必要。ただ“おいしい”というのとは次元が違います。どの野菜も本当に綺麗で、力強い味がするんです」

と絶大な信頼を寄せています。
畑を眺め、土に触れ、野菜を齧る。さらに増山氏は、袋詰の作業も真剣に見つめます。

「ここから届く野菜は、本当に丁寧にパッキングされているんです。届いたらすぐに開封してしまう袋ですが、こういう部分にも人柄や野菜への思いが現れています」

唐辛子であろうと、その場で齧って味見をするのが増山氏の信条。

夏の太陽をたっぷり浴びて育ったトマト。この発色の良さは品質の証。

糖度が高いカボチャは「さまざまなアイデアが浮かびます」と増山氏。

有機JASを取得する「みなくちファーム」の野菜は、雑草と競いながら力強く育つ。

「みなくちファーム」の瀬口結以氏。言葉の節々に取り組みへの自信と誇りが垣間見える。

社長の水口淳氏(左)とともに。「同い年で親近感がある」と増山氏。

パティシエの視点で見つめる滋賀県の果物たち。

パティシエの経験もある増山氏は、デザートづくりも得意分野。果物への興味も強いといいます。滋賀県には、そんな増山氏を惹きつける果物も多くありました。

たとえば梨。
「アグリパーク竜王」で見学した梨畑で、採れたての梨を齧りながら増山氏は言います。

「みずみずしくて癖のない透明感のある味。身の白さが綺麗なので、落花生やパンナコッタなど同じ白い食材を合わせた白いデザートにしてみたいですね」

ただ試食しているようで、すでに頭の中では何パターンもの組み合わせを考えていたのです。そんな増山氏のデザートづくりは、いわば引き算の考え方。

「果物はそのままでもおいしい。だから果物のデザートを考えるときは、いかに少ない調味料で、素材を活かすかが大切になります。その分、素材のクオリティも重要になってくるんです」

ブランド葡萄である黒蜜葡萄を育てる「aito budo labo」でも、増山氏の頭脳はフル回転していました。

「すごくおいしいです。風味に力強さがあるので、デザートだけではなく、前菜やソースにしてみるのもおもしろいかもしれません」

ここで育てるのは、ワインでも有名なマスカットベリーAという品種。じっくりと糖度を上げた葡萄は、まさに“黒蜜”という濃厚で芳醇な甘みを湛えます。

1000㎡の美しく整備された畑が印象的な「浅野ファーム」のイチジクも、すでに増山氏が愛用する食材。

「ここのイチジクを食べたら、他のが食べられなくなるくらい」
と増山氏は言います。
過去に自ら作った料理で印象に残っているのは、こちらのイチジクをハーブを混ぜた米粉で揚げて、鴨のコンソメをかけた揚出し。

「イチジクは揚げると甘みが出るのですが、この『浅野ファーム』のイチジクは、揚げても風味が損なわれない」

と称賛の声を寄せていました。

さまざまな梨を育てる「アグリパーク竜王」では、豊水が収穫時期を迎えていた。

その場で皮を剥いて豊水を試食。美しい白さとジューシーさが印象的だった。

「aito budo labo」を訪れたのは夕刻。色の濃い黒蜜葡萄がひときわ深みある色合いに。

24アールの敷地に1万房ほどの葡萄が実る。糖度やサイズの基準を満たしてはじめて黒蜜葡萄として出荷される。

「浅野ファーム」のイチジクは10月頃まで。実が割れる直前まで熟したものが食べごろ。

しっかりと甘みがありつつ、爽やかな風味も併せ持つのが「浅野ファーム」のイチジクの特徴。

一度は失われた伝統野菜を、再び蘇らせた情熱。

最後に訪れたのは、甲賀市にある畑。ここでは「JAこうか」杉谷伝統野菜栽培部会の上杉広盛氏が、杉谷とうがらしを育てています。

杉谷とうがらしは、江戸時代から続くこの地の伝統野菜ですが、15年ほど前に一度廃れてしまいました。その現状を憂い、種を探し、再び世に送り出したのが、この杉谷伝統野菜栽培部会です。

「遺伝子的に、辛味がある“ハズレ”は100%ありません。肉厚で甘みがあり、生でも食べられるとうがらしです」

そう胸を張る上杉氏。増山氏は熱心に話を聞きながら、やはり頭の中では調理について考えていました。

「辛くないのに香りが強い。そしてこの緑色の美しさ。肉のソースにしてみたら、映えるんじゃないかな」

畑に居ながら、すでに味わい方や盛り付けにまでイメージを膨らませる増山氏。そんな増山氏ならではの視点として、どの畑、どの食材に対しても、色の感想が多く出ていました。実はこの色こそ、増山氏流の料理の考え方。

「僕は料理を考えるとき、まず頭の中のイメージをデッサンしてみるんです」

そう話す増山氏。「家でひとり、お酒を片手に料理の絵を描いているときが、一番好きな時間」というほど、大切にしている日課です。そしてもちろん、その絵の中では、色が重要な意味を持っています。

「良い野菜、果物の条件は、みずみずしさ、張りの良さ、香り、食感、切ったときの水分量。いろいろな条件がありますが、その多くは色の出方を見て判断できるんです」

滋賀県を巡り、さまざまな色に出合った増山氏。その色からインスピレーションを得て、すでにイメージも出来上がっていた様子でした。果たして増山氏は滋賀県の“色”から、どんな料理を作り出すのでしょうか?

甲賀市杉谷地区の伝統野菜、杉谷とうがらし。鮮やかな緑が目を引く。

肉厚で辛味はなく、噛んでいるとほのかな甘みが湧き出すのが杉谷とうがらしの魅力。

同じく杉谷地区の伝統野菜である杉谷なすび。丸々としたなすで、皮が薄く柔らかい。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by 滋賀県)

運命共同体になる覚悟。国内の自治体として唯一「ボキューズ・ドール」を支援し続ける鳥取県の情熱。

左より、2013年『ボキューズ・ドール』日本代表・浜田統之シェフ、鳥取県の平井伸治知事、2023年日本代表・石井友之シェフ、2019年日本代表・髙山英紀シェフ。

Bocuse d’Or 2023食材、生産者、風土。日本の力がシェフをもっと強くする。

去る10月、銀座の『アルジェント』にて、「食のみやこ 鳥取県」と謳う同県が誇る「鳥取和牛オレイン55」を味わう美食の饗宴及び、『ボキューズ・ドール』応援も兼ねたガラ・ランチ、ガラ・ディナーが開催。その内容は、過去『ボキューズ・ドール』に出場した浜田統之シェフ、髙山英紀シェフ、そして、2023年1月に開催される『ボキューズ・ドール2023』に出場する石井友之シェフの3人が、それぞれ渾身の一皿に仕上げ、順にコース仕立てで供するという趣向です。

実は、鳥取県は47都道府県の中、唯一、『ボキューズ・ドール』を支援し続けている県。2017年の国内予選の決勝で食材を提供したことをきっかけに、『ボキューズ・ドールJAPAN』のスポンサーとして、食材の提供やイベント協力など、様々な活動を通じて日本代表シェフを応援しています。

ガラ・ランチには、鳥取県から平井伸治知事が駆け付け、食材の魅力、中でも鳥取県が誇るブランド「鳥取和牛オレイン55」(オレイン酸の含有量が55%あり、融点が16℃と低く、口溶けが良い)の素晴らしさを、歴史を交えてアピール。『ボキューズ・ドール』の支援を続ける意義や効果についても熱く語りました。

「実力派のシェフが鳥取県に来て、食材の研究をしてくれることがまずひとつ。地元の生産者では、なかなか気付けない調理法や魅力など、新しい発見をもたらしてくれるのは、大きな効果を生みます。実は、鳥取県産の食材を東京近郊で展開することができるようになったのもそんなに古いことではありません。実際、食材を使っていただき、これは美味しい、こうしたら良いというようなアイディアをいただいたことも、進出できたことの大きな理由だと思います。シェフと出会ってコミュニケーションすることで、産地もより良いものを作ろうと努力し、提供できるようになります。付加価値の高い農業生産につなげることができると思ったのです。そんな中で、『ボキューズ・ドール』への食材提供を通じて、鳥取県としても県を上げて応援しようということになりました。今回、このような応援イベントを開催できたことは、大変ありがたい機会だったと感謝しています」。

ガラのメニューは、デザートを除く全ての料理に「鳥取和牛オレイン55」を使用。石井シェフの前菜、髙山シェフの「牛ロース×長ネギ」、浜田シェフの牛コンソメを使った「和牛カニフラン」と進み、メインディッシュには再び石井シェフが手がけた「鳥取和牛フィレ×ボキューズ・ドール」が登場。演出にも『ボキューズ・ドール』の大会形式を取り入れ、「牛フィレ肉のモザイク仕立てとガルニチュール(付け合わせ)」を華やかに盛りつけた銀の大皿を、石井シェフたちが捧げ持って会場を一周。『ボキューズ・ドール』本選さながらの盛り上がりを見せました。

中でも注目すべきは、「鳥取和牛フィレ×ボキューズ・ドール」。料理に起用した食材のひとつ、肉厚で大型な椎茸として知られる「とっとり115」は、石井シェフが勝ち抜いた国内予選会のテーマ食材でもありました。国内予選は、その「とっとり115」をペースト状、みじん切り、コンカッセ(やや大きなみじん切り)にして、肉のファルス(詰め物)に入れて使ったと言います。今回のガラで披露された大皿盛りにおいても、同様の手法でフィレ肉にはさみ、とろけるように柔らかな食感のフィレ肉の中から椎茸の旨みがあふれる見事な一品でした。

このような状況から伺えるように、『ボキューズ・ドール』出場シェフたちにとって鳥取県は日本の中でも特別な県なのです。

「なんといっても、鳥取は私の地元ですから、自分が『日本ボキューズ・ドール アカデミー』の会長になって、鳥取県からサポートをいただけるのは何より嬉しいです。他国は色々な地域が積極的に食材アピールをしてくるので、日本ももっとそうすべきだと思います。地元の人は、たかがこんなものと思っている中に宝が埋もれていることもあります。それを見つけられるのは我々シェフです。地域の発展のためにも、もっとシェフを使っていいのでは、と、思います」と浜田シェフ。

「『ボキューズ・ドール』では、国として独自性を表現しなくては勝てません。しかし、素晴らしい食材を見つけるのは時間のかかる作業です。そこを、鳥取県のようにご紹介をいただけるととても助かります。フランス本選にも良い素材を持って行くことができ、大変にプラスになりました(髙山シェフが本選に出場した2019年は、日本の食材を持ち込むことが可能だった)。作ることに専念できますから。また、知事が言われたように、プロの意見を取り入れて食材のレベルアップをしていくことが何より大切だと思います。これからもそのお手伝いができたらと思います」と髙山シェフは、自身が出場した当時を振り返りながら語ります。

そして、石井シェフ。「鳥取県のサポートについては本当にありがたく、大変に助かっております。産地視察の時には、生産者の方々に会い、色々なお話を聞き、本当に勉強になりました。今まで知らなかった食材の提案や地域での調理法に触れられたことも大変ためになりました。鳥取県の食材をフランスに持ち込むのは難しいですが、フランスでの『ボキューズ・ドール2023』を終え、日本に帰国したら本選の料理を鳥取県の食材で作り食べていただきたいです」。

鳥取県のような取り組みが増えることで、北から南まで、日本の食材のクオリティがさらに上がり、料理業界の発展にもつながるのであろうことは想像に難くありません。ぜひ、鳥取県に続く県が出てくることを願ってやみません。

鳥取県の食材の魅力を熱く語るとともに、「『ボキューズ・ドール』を通して、生産者がさらなる成長を遂げることを願います」と平井知事。

香りから受けるイメージは、料理を大きく左右する。入念に「とっとり115」の香りをチェックする石井シェフ。

鳥取県が誇る、肉厚で大型な椎茸「とっとり115」は香りも強く、味も濃厚。

「牛フィレ肉のモザイク仕立て」。表面の模様がモザイクのように見えることからの名前。中には「とっとり115」のファルスがたっぷり。ガルニは、さつまいものフランとビーツのタルト。

フィレ肉の周囲にファルス状にした椎茸「とっとり115」を塗り、さらに牛肉で巻いている。

『ボキューズ・ドール』では、メイン料理とガルニを大きなプレートに盛り付ける決まりに。今回の演出は、まさにそのスタイルを採用。

国内予選の決勝のテーマ食材は「シャポン」(高級鶏肉)と「とっとり115」(椎茸)。シャポンを型に入れて加熱しているため、シャポンの表面に美しい凹凸模様が見られる。それも評価された要因のひとつ。ガルニはさつまいものフランなど。

高みを目指し、意見を戦わせるシェフたち。本番まで残り数ヶ月、より精度を上げ、優勝を目指す。


Text:HIROKO KOMATSU
Photographs:KOH AKAZAWA

食べるうしろめたさはもう解消!? 身体も喜ぶ完全無添加マヨネーズ。[和光アネックス/東京都中央区]

土作りからこだわった安心・安全なえごまを飼料に食べて育った鶏のたまごから生まれたマヨネーズ。原料にα-リノレン酸を豊富に含むえごまたまごを使用することで、オメガ3が手軽に摂取できる。

WAKO ANNEX九州発のナチュラルブランド『えこびと農園』の美味しくヘルシーなマヨネーズ。

どこにもないフレッシュで上質なえごまの味を求めて。

『えこびと農園』が、ここ九州・佐賀の地でえごまの栽培を始めたきっかけは、そんな理由からでした。

「国産で安心して食してもらえるえごまを作りたい!」という想いが詰まった畑から生まれたえごまは、地元の意欲ある農家さんや福祉事業所と連携し、九州産のえごまを全国に発信。郷土の地域活性にも繋がっています。

そんな『えこびと農園』の人気商品が、『えごまたまごの無添加マヨネーズ プレーン』。

品名にある聞きなれない「えごたまご」とは、『えこびと農園』のえごまの実の搾りかすと茎葉を食べて元気に育った鶏が産んだ新鮮たまごのこと。えごまの飼料を食べて育ったにわとりのたまごには、必須脂肪酸の「α-リノレン酸」が多く含まれています。ゆえに、血中中性脂肪を下げる作用、認知症や成人病に予防効果にも期待できます。

また、黄身を見栄え良くするための着色添加物や飼育環境によるストレスで病気になるのを防ぐための抗生物質等の薬剤は一切使用していないため、たまご本来の美味しさを堪能できます。つまり、健康にも配慮された新感覚のマヨネーズなのです。

たくさん食べるにはうしろめたさを感じていたマヨネーズですが、『えごまたまごの無添加マヨネーズ プレーン』であれば、そんな心情からも解放されるかもしれません。

九州には美味しいものがたくさんありますが、美味しくヘルシーなものは、まだ少ない。九州発のナチュラルブランドをぜひお楽しみいただきたい。

温野菜やサラダ、ゆで卵などに添えると、手間暇かけた料理のように味わいが増す。そのほか、白身魚のフライもおすすめ。万能のため、様々なシーンにてご利用いただきたい。

『えこびと農園』で栽培したえごまの実の搾りかすと茎葉を飼料に混ぜて育てられた鶏の卵をたっぷりと使用。乳化剤、保存料、砂糖不使用の無添加のマヨネーズ。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

食べるうしろめたさはもう解消!? 身体も喜ぶ完全無添加マヨネーズ。[和光アネックス/東京都中央区]

土作りからこだわった安心・安全なえごまを飼料に食べて育った鶏のたまごから生まれたマヨネーズ。原料にα-リノレン酸を豊富に含むえごまたまごを使用することで、オメガ3が手軽に摂取できる。

WAKO ANNEX九州発のナチュラルブランド『えこびと農園』の美味しくヘルシーなマヨネーズ。

どこにもないフレッシュで上質なえごまの味を求めて。

『えこびと農園』が、ここ九州・佐賀の地でえごまの栽培を始めたきっかけは、そんな理由からでした。

「国産で安心して食してもらえるえごまを作りたい!」という想いが詰まった畑から生まれたえごまは、地元の意欲ある農家さんや福祉事業所と連携し、九州産のえごまを全国に発信。郷土の地域活性にも繋がっています。

そんな『えこびと農園』の人気商品が、『えごまたまごの無添加マヨネーズ プレーン』。

品名にある聞きなれない「えごたまご」とは、『えこびと農園』のえごまの実の搾りかすと茎葉を食べて元気に育った鶏が産んだ新鮮たまごのこと。えごまの飼料を食べて育ったにわとりのたまごには、必須脂肪酸の「α-リノレン酸」が多く含まれています。ゆえに、血中中性脂肪を下げる作用、認知症や成人病に予防効果にも期待できます。

また、黄身を見栄え良くするための着色添加物や飼育環境によるストレスで病気になるのを防ぐための抗生物質等の薬剤は一切使用していないため、たまご本来の美味しさを堪能できます。つまり、健康にも配慮された新感覚のマヨネーズなのです。

たくさん食べるにはうしろめたさを感じていたマヨネーズですが、『えごまたまごの無添加マヨネーズ プレーン』であれば、そんな心情からも解放されるかもしれません。

九州には美味しいものがたくさんありますが、美味しくヘルシーなものは、まだ少ない。九州発のナチュラルブランドをぜひお楽しみいただきたい。

温野菜やサラダ、ゆで卵などに添えると、手間暇かけた料理のように味わいが増す。そのほか、白身魚のフライもおすすめ。万能のため、様々なシーンにてご利用いただきたい。

『えこびと農園』で栽培したえごまの実の搾りかすと茎葉を飼料に混ぜて育てられた鶏の卵をたっぷりと使用。乳化剤、保存料、砂糖不使用の無添加のマヨネーズ。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
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Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

鹿児島焼酎で全国に新たなムーブメントを起こす。造り手の熱き思いを体感する「蔵旅」。

鹿児島焼酎 蔵旅OVERVIEW

焼酎の名産地、鹿児島。現在、鹿児島県内では112の蔵元が焼酎造りをしています。「近年、鹿児島焼酎がますます洗練されてきて、フルーティーな香りで、きれいな味わいのものが増えています」と話すのは、実業家であり、食通としても知られる本田直之氏。日本全国、そして世界中を旅した経験を持ち、各地の食や酒にも精通している美食家です。そんな本田氏が「鹿児島焼酎の文化を変えたい」という強い想いから始めたのが、「蔵旅」でした。

「蔵旅」では、本田氏のアテンドのもと東京の料理シーンを牽引する料理人が鹿児島県内の蔵元を巡ります。その意図について本田氏は「造り手がどんなに思いを込めて素晴らしい鹿児島焼酎を生み出したとしても、売り手・注ぎ手が語れなければそのストーリーは広まらない。だからこそ、焼酎造りの現場に触れて体感することが重要なのです」と解説します。

今年、本田氏とともに「蔵旅」に参加したのは岡田右京氏、大橋直誉氏、松永大輝氏、末富信氏の4名。いずれも、東京で人気店を営むスペシャリストです。まずはこの5人で、鹿児島県酒造組合から東京に送られてきた約30本の本格焼酎のテイスティングを行い、「蔵旅」で蔵元を訪ねる5銘柄を選びました。「第一回目となる昨年は、若い造り手の活躍が目覚ましい5蔵を巡りました。今年は個性の強い5蔵というコンセプトでセレクトしました。」(本田氏)。造り方や貯蔵方法が個性的な蔵もあれば、個性的なフレーバーの焼酎を造る蔵など、個性の表し方はさまざま。私たちが何気なく飲んでいる鹿児島焼酎は、一体どのようにして造られているのでしょうか。造り手の熱量に触れる2日間が始まります。

Supported by 鹿児島県酒造組合
Produce by think garbage Inc.

Photograph:KAYOKO UEDA
Text:AYANO YOSHIDA

「鹿児島焼酎の文化を変える」。蔵元を訪ね、造り手の情熱に触れる「蔵旅」。後編

鹿児島焼酎 蔵旅 後編木の香りが特徴。古式かぶと釜蒸留器を使った焼酎造りに挑む「大石酒造」。

「全国に鹿児島焼酎の魅力を広め、文化を変えたい」。
実業家であり、食通として知られる本田直之氏の強い思いから始まった「蔵旅」。麻布十番『十番右京』オーナーの岡田右京氏、虎ノ門『つかんと』のオーナー兼ソムリエ・大橋直誉氏、渋谷『(惚)オ向イ上ル』オーナーの松永大輝氏、港区『膳処末富』オーナーの末富信氏の4名とともに、鹿児島県内の5軒の焼酎蔵を巡りました。

2日目に向かったのは、海沿いの街に拠点をもつ「大石酒造」です。「蔵旅」は、本田氏を含む参加者の5名が事前に約30本の鹿児島焼酎のテイスティングを行い、その中から最も興味を持った5銘柄の蔵元を巡ります。訪問先に「大石酒造」を選んだ理由について、ソムリエの大橋氏はこう語ります。「東京でテイスティングした『かぶと鶴見』のウッド系の香りが個性的で、何に由来してこうしたフレーバーが生まれているのかを知りたいなと思ったのです」。

大橋氏も興味を持っていた木の香りの秘密は、古式かぶと釜蒸留器を使った古典的な製法にありました。古式かぶと釜蒸留器とは、木樽と「かぶと」とよばれる冷却用水受け等で構成された蒸留器。周りから温めながらじっくりと時間をかけて少しずつ蒸留することにより、一気に加熱して蒸留した焼酎に比べて繊細で口当たりのいい味わいに仕上がるのが特徴です。しかし、手間と時間がかかるうえ、少量しか生産できないため、現代ではあまり使われなくなってしまった蒸留器でもあります。「『かぶと鶴見』を最初にリリースしたのは1996年。焦げ臭のすくない、やわらかな口当たりの焼酎を造りたいと思ったことが開発のきっかけでした」と、5代目の大石啓元さんはこだわりを見せます。

末富氏は「ヒノキの樽に由来する木の香りが心地いいので、肴がなくても焼酎だけで十分楽しめる。また、鹿児島焼酎のフレーバーが多様になっていることが自分にとっては大きな発見です。焼酎の味わいの幅が広がれば広がるほど、僕たち売り手もお客様に提供するのが楽しくなる」と、興味津々です。岡田氏も「トレンドを掴んだ焼酎を造っている割に、『大石酒造』は東京ではまだ知られていない印象。もっと広めたい」と、意欲を見せます。

中央は社長で大石酒造の5代目・大石啓元さん、両脇には娘の晶子さんとその夫の恭介さん。

「大石酒造」では丁寧な手仕事を大切にしている。

代表銘柄の「鶴見」の名前は、「大石酒造」がある阿久根市が1960年頃までは鶴がズラーっと集まる場所だったことにちなんでいる。

鹿児島焼酎 蔵旅 後編クラシックを流し、焼酎に音を響かせながら仕込む「田苑酒造」。

鹿児島といえば芋焼酎のイメージが強いですが、麦焼酎に力を入れる蔵も少なくありません。そのひとつが、創業1890年の「田苑酒造」。ここでは、1982年に日本で初めて樽貯蔵の麦焼酎を開発しました。

貯蔵用の樽はウイスキーに使われるオーク材を中心に、桜材やシェリー酒に使った古樽も使うそう。これにより、焼酎にカラメルやバニラのような甘い香りや、まろやかな味わいに仕上がりになるのが特徴です。また、液体が美しい琥珀色になるのも樽ならでは。

一方で、樽ごとに個体差があり香りのつき方がかわるため、ステンレスタンクで貯蔵する場合に比べて焼酎の味わいにブレがでるのも事実。そこで、ブレンダーと呼ばれる人が、樽ごとに味わいをチェックし、ブレンドして味と色を調整しながら一定した「田苑酒造」のクオリティを保っています。

また、「田苑酒造」のもう一つの特徴が、1990年からはクラシック音楽で発酵や熟成を促す「音楽仕込み」を軸に焼酎造りをしていること。音楽を「トランスデューサ」という特殊なスピーカーによって振動に変換し、一次仕込みタンクや貯蔵タンクに直接響かせているのです。現在、「田苑酒造」ではトランスデューサ1,112個を稼働させ、もろみの一次仕込みで5〜6日、製品の瓶詰め前の貯蔵で2週間、音楽仕込みを行っているといいます。

「最初は工場見学に来た方に向けてBGMとしてクラシックを流していたのです。あるとき、蔵人が『スピーカーに近いタンクだけ発酵が早い』と言い出し、スピーカーの位置を変えるなど試行錯誤の末、音楽を聴かせることで酵母が活性化することがわかったのです」と、松下英俊杜氏。また、クラシック音楽のセレクトについては「モーツァルトの『ジュピター』をはじめ交響曲をメインに30曲以上流しています。さまざまな楽器が使われる交響曲は音域が広く、ゆるやかな振動で発酵を促す。これにより、我々が求めるやわらかな口当たりに近づく」と言います。

敷地が広大なため焼酎を寝かせられるスペースも広く、10年、20年と貯蔵している原酒もある。

音楽を振動に変換する「トランスデューサ」を装着した木樽。

左から松下英俊杜氏、中永田 浩工場長。

樽に由来する琥珀色の液体が美しい。

鹿児島焼酎 蔵旅 後編金山の地下で焼酎を長期貯蔵。トロッコで巡る「濵田酒造 薩摩金山蔵」。

一行が最後に目指したのは、「濵田酒造 薩摩金山蔵」。ここは、かつての薩摩藩を支えた串木野金山です。350年以上にわたって掘り続けられた坑洞の総延長は120km。坑洞内は年間を通して気温が一定で焼酎の貯蔵・熟成に適していることから、「薩摩金山蔵」ではここに甕仕込みと甕貯蔵の蔵を構えたのです。鹿児島に112蔵あれども、坑洞内に蔵をもつのは「薩摩金山蔵」だけ。代表銘柄「薩摩焼酎 金山蔵」では、金山蔵にちなんで幻と呼ばれた「黄金麹(おうごんこうじ)」を使用しています。

「金山で長期貯蔵しようという発想がユニークですよね。トロッコで焼酎を運び出すのは大変なことなのに、その労力を惜しまない。焼酎作りに対するこだわりと情熱が伝わってきます」と、大橋氏。岡田氏も「実際に自分が足を踏み入れることで、ひんやりとした空気を感じたり、坑洞内特有のしんとした静かな雰囲気がわかったりする。自分のお店で焼酎を提供するときに『黄金麹(おうごんこうじ)で仕込み、金山坑洞内で貯蔵を行う』という言葉を添えるだけで、お客さまも楽しんでくれそう」と言います。

トロッコに乗って坑洞へ。このトロッコで焼酎の甕を運ぶことも。

坑洞は総延長120km。外が暑い時期でも、坑洞内の空気はひんやりとしていて涼しい。

金山として栄えた時代の名残がある趣深い場所で焼酎を貯蔵する。

代表銘柄「薩摩焼酎 金山蔵」。熟成したまろやかさと苦味、キレのバランスが絶妙。

鹿児島県内の5蔵を巡った「蔵旅」。松永氏は、その感想をこう語りました。「代々受け継がれる代表銘柄を大切にしながらも、熟練の職人たちが今でも新しいことに挑戦し続けている。その情熱に感動しました。同時に、だからこそ、鹿児島焼酎のフレーバーや味わいの幅がどんどん広がっているのだなと納得。鹿児島焼酎の面白さや美味しさを自分の言葉で語りながら、全国に、そして世界へと広めていきたいです」。この言葉を受けて、本田氏はこう締めくくります。「シャンパーニュには、『シュヴァリエ』といってシャンパーニュの伝導、発展に寄与する人々に称号を与える伝統があります。今回の『蔵旅』に参加した東京の料理人・ソムリエが鹿児島焼酎のシュヴァリエ的存在になって、その魅力を全国に広めてくれることを期待しています」。


Photographs:KAYOKO UEDA
Text:AYANO YOSHIDA

「鹿児島焼酎の文化を変える」。蔵元を訪ね、造り手の情熱に触れる「蔵旅」。前編

鹿児島焼酎 蔵旅 前編東京で飲んでいるだけでは知り得ない、造り手のストーリーを知る「蔵旅」。

「芋の香りがきつい」、「クセが強い」。鹿児島の芋焼酎に対するそんなイメージをアップデートすべく、2021年から始動したのが「蔵旅」です。発起人は、実業家であり食通でもある本田直之氏。「僕が一番強く思っているのは、鹿児島焼酎の文化を変えたいということ。フルーティーであったり、味わいがすっきりと洗練されていたり、とてもいい造りの本格焼酎が増えています。日本酒にブームが起きたように、焼酎も全国でもっとフィーチャーされるべき」と、鹿児島焼酎に対する思い入れを語ります。

「蔵旅」では、東京の料理シーンを代表するスペシャリストたちが鹿児島に足を運び、焼酎造りの現場を見て学び、そして造り手と言葉を交わしていきます。「東京でただテイスティングするだけではなく、造り手の思いに直に触れることで、より深く鹿児島焼酎に惚れ込むことができる。そして東京に戻ってから、自分で体感したストーリーをお客さまに熱く語りたくなる。そんなふうにパワフルに焼酎の魅力を広めていき、ムーブメントを起こしたい」と、本田氏は「蔵旅」のねらいを解説します。

参加したのは、麻布十番『十番右京』オーナーの岡田右京氏、虎ノ門『つかんと』オーナー兼ソムリエの大橋直誉氏、渋谷『(惚)オ向イ上ル』オーナーの松永大輝氏、港区『膳処末富』オーナーの末富信氏の4名。まずはメンバー全員で約30本の鹿児島焼酎のテイスティングを行い、「蔵旅」で巡る5蔵を選ぶところからこの旅はスタートしました。

鹿児島焼酎のなかには香りがフルーティーな銘柄も増えたことから、ソーダ割にしてスッキリと爽やかに飲む楽しみ方も一般的になってきた。

鹿児島焼酎 蔵旅 前編仕込みに温泉水を使った芋焼酎「海」でその名を広めた「大海酒造」。

一行がまず向かったのは、大隅半島の鹿屋市に拠点を持つ「大海酒造」。地域の9つの蔵が結集したこの蔵では、鹿児島焼酎の伝統的な造り方を受け継ぎつつ、地域の人との関わりを大切にしながら焼酎造りを続けています。「長年、地域の人に日常に呑んでもらう地元酒を造り続けてきました」と話すのは、代表取締役の河野直正氏。「世間的には物価高に伴う価格改定が進んでいますが、地元酒は100円値上げしただけでもお客さんが離れてしまう。地域限定販売の焼酎をラインナップの一つとして取り揃えることで、地域の人々の食卓に寄り添っています」。

その一方で、全国に流通させる焼酎を造る際には新しいことにも挑戦しています。たとえば、東京の飲食店でも見かけることの多い「海」は、仕込み水に垂水温泉水「寿鶴」を使った個性的な芋焼酎。温泉水を使うことによって、やわらかな口あたりに仕上げています。「開発当時、地元では『こんなの焼酎じゃない』と言われてしまいました。しかし、東京で売れるようになったら急に地元でも注目を集め始め、今では地域を代表する銘柄のひとつとなりました」と、河野氏はその歴史を語ります。

そして、「蔵旅」のメンバーを魅了したのは有機栽培の茶葉を使用した「茶房大海庵」でした。まろやかな飲み心地のなかにお茶の香りとほどよい渋味があり、岩のりや牡蠣といった和食にピッタリの焼酎です。

斬新な手法に挑戦しつつも、着実に飲み手の心を掴む新商品をリリースし続けている大海酒造。これを支えているのが、実力派の杜氏の技術力です。この蔵で1999年より杜氏を務めている大牟禮良行氏は、昨年、厚生労働省が卓越した技術を持つ職人を表彰する「現代の名工」を受賞した人物。焼酎の杜氏としては、これまでで大牟禮氏を含めて5人しか受賞していない名誉ある賞です。

ソムリエの大橋氏もまた、「地元の人のために伝統的な地元酒を作り続けるという強い信念と、新しいことに挑戦することの両輪をバランス良くまわしているのがこの蔵の魅力」と、語ります。

「現代の名工」受賞を記念して作ったオリジナル焼酎「平々凡々」をかかげる大牟禮良行氏。

契約農家から仕入れた良質のさつま芋「コガネセンガン」。見た目が白いのが特徴。

収穫したばかりのさつま芋を選別。

左から温泉水を使った「くじら」、茶葉の香りを含ませた「茶房大海庵」、大海酒造の代表銘柄「海」。

鹿児島焼酎 蔵旅 前編国分酒造

2軒目に訪れたのは、霧島市の国分酒造です。ここは、なんといっても鹿児島焼酎界レジェンドとも言われる安田宣久氏が杜氏を務める焼酎蔵。御年71歳の安田氏の功績は数知れず、たとえば業界で初めて、米麹を使わずに芋麹を使ったさつまいも100%の芋焼酎「いも麹芋」を開発したり、大正時代の芋「蔓無源氏」の復活に取り組み、当時の手法で仕込んだ「蔓無源氏(つるなしげんぢ)」を開発したりと、鹿児島焼酎の歴史に名を刻んできました。

近年のヒット作は、柑橘の香りが広がる「フラミンゴオレンジ」や、ミントのようなすーっとした風味が印象的な芋焼酎「クールミントグリーン」です。それにしてもなぜ、芋焼酎からオレンジやミントのような香りが? その秘密は、減圧蒸留という手法と香り酵母にあるそう。「一般的に芋焼酎は常圧蒸溜でどっしりとした味わいを出しますが、減圧蒸留にすると味わいがライトになり香りが立つのが特徴。この醸造法に合う麹を探すなど、試行錯誤の末にこの2銘柄が誕生しました」と、安田氏は振り返ります。

また、国分酒造の代表銘柄の一つであり、安田氏の名字を冠した芋焼酎「安田」はマスカットやライチなど果物系の風味があり、華やかな香りで人気を博した銘柄です。岡田氏も「『安田』は都内でも人気で、自分のお店でも大量に仕入れています。お客さまの評判も抜群にいいです」と、その魅力を語ります。

実はこの独特の味わいは、偶然の産物だそう。「2012年の仕込みの際、たまたま傷んだ芋が混じってしまっていたんです。はじめは焦げ臭が気になりましたが、半年ほど貯蔵するうちに果実香が強くなってきたので、出荷することにした。呑んだ人はどんな反応をするだろうと不安でしたが、予想に反して評判がよかったんです」と、安田氏。翌年は焦げ臭がでないように作ったところ、前年の味を知る人から「物足りない」と指摘されて、元の作り方に戻したというのです。

実際に蔵に足を運んでこそ聞ける裏話に、一同は興奮気味。大橋氏も「偶然の繰り返しが今の東京のトレンドを作った、っていうのが面白い」と、話します。残り3軒の蔵ではどんな発見があるのでしょうか。「蔵旅」は2日目へと続きます。

内田式と名付けられた特殊蒸留機だが、安田杜氏は独自に改造を続けて自分の理想の味が出せる蒸留機にした。機械に刻まれた「内田式」の「内」の文字を、ユーモアをこめて「安」に変えた。

「安」田式蒸留機と、安田杜氏。「かなり改造しましたのでね。これくらい変えれば、自分の名前の蒸留機にしちゃってもいいかな、と思って」

安田杜氏、笹山護社長とともにテイスティング。蔵の周囲には畑が広がっている。


伝統的で無骨なデザインのラベルの「芋」(左から二番目)や、「フラミンゴオレンジ」(中央)をはじめとするポップなイラストが印象的な焼酎がバランス良く揃う。


Photographs:KAYOKO UEDA
Text:AYANO YOSHIDA

大山こむぎが身体を整える、無添加のパン。[和光アネックス/東京都中央区]

『麦ノ屋』の大山こむぎのパン。単体でも美味しいが、シチューなどに付けて食べるのもお勧め。『六穀BREAD』(手前)、『全粒粉ブロイツェン』(中)、『パン・オ・フリュイ ハーフ』(右)、『ミルヒBREAD〜牛乳パン〜』(奥)。

WAKO ANNEX地元の素材・大山こむぎにこだわったパンだからこそ伝わる、土地の豊かさ。

鳥取県米子市、大山こむぎにこだわる地元の名店『麦ノ屋』は、ふるさと納税のパン部門1位にも輝いたことのある名店。その特徴は、県産の大山こむぎにあります。今回、ご紹介するパンは、全4種。どれも人気の品です。

まずは、『全粒粉ブロイツェン』。全粒粉と相性の良い黒蜜を配合したパンは、ほんのり香る胡麻の風味もお楽しみいただけます。テーブルロールパンとして食事を華やかに彩り、ドイツパン製法であるブロイツェン成形をしています。

『パン・オ・フリュイ ハーフ』は、パイン、イチジク、カレンズ、オレンジなどのドライフルーツとラム・さくらんぼのリキュールを利かせたパン。アニス、シナモンなどのスパイスに漬け込んだ素材も含み、サラミのように薄くスライスして食べるのがお勧めです。

そして、『六穀BREAD』は、少々のライ麦サワー種を取り入れたヘルシーさが特徴。食物繊維なども含まれた栄養価が高いパンです。焙煎した種子(シード)や穀物が香ばさも感じられます。

『ミルヒBREAD〜牛乳パン〜』は、ヨーグルトやバターなどのミルキーさと柔らかさが感じられるパン。卵サンドなどの惣菜パンとしてお召し上がりいただくことがお勧めです。

4種とも、大地の豊かさ、小麦の香りを存分に味わえるため、身も心も、もちろんお腹も満たしてくれることは間違いなし。原料や製法にもこだわっているため、体も喜ぶ美味しさです。

ドイツパン製法であるブロイツェン成形が特徴の『全粒粉ブロイツェン』。袋のまま常温解凍後、トースターなどで温めてお召し上がりを。

ワインや紅茶のお供にお勧めな『パン・オ・フリュイ ハーフ』。袋のまま常温解凍後、スライスしてそのままお召し上がりを。

食物繊維も含み、栄養価の高い『六穀BREAD』。袋のまま常温解凍後、トースターなどで温めてお召し上がりを。

ミルキーでふんわりした食感が特徴の『ミルヒBREAD〜牛乳パン〜』。袋のまま常温解凍後、トースターなどで温めてお召し上がりを。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
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Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

名旅館✕スターシェフ。美食家・本田直之が仕掛ける、二度と体験できない特別な旅。[Inspire by Relux/群馬県みなかみ町]

舞台となった群馬県・谷川温泉『別邸 仙寿庵』。開放感あふれる曲面廊下がシンボル。

インスパイアー バイ リラックス谷川岳を望む名旅館で、最高峰のフランス料理を味わう。

世界の美食を極めた美食家・本田直之氏がプロデュースし、宿泊予約サービスのReluxで販売された「Inspire by Relux」。それは、日本各地の名宿に、名だたるシェフを招聘して繰り広げられる新たな旅の体験です。

今回の舞台は、谷川岳を望む『別邸 仙寿庵』。世界的な権威ある宿・レストランにのみ許された、ルレ・エ・シャトーに加盟するこの旅館に、パリで名を馳せる『Restaurant PAGES』の手島竜司シェフを迎えます。

「コンセプトは特別な宿泊体験。僕が世界中を旅してきた中で改めて感じた日本の旅館のおもてなしの素晴らしさに、少しの遊びを加えた特別な体験をお伝えしたい」

本田氏はそう語ります。
果たして名宿と名シェフのコラボレーションは、どのような化学反応を生むのでしょうか。ONESTORY編集部が体験したその詳細をお届けします。

プロデューサーの本田直之氏。世界中の美食を味わい尽くした経験を、惜しみなく注ぎ込む。

『Resutaurant PAGES』手島竜司シェフ。熊本県親善大使、JAL国際線ファーストクラス、ビジネスクラスの料理監修など多方面で活躍。

インスパイアー バイ リラックス土地の食材をフランス料理で表現する“手島イズム”。

2014年、ひとりの日本人シェフがパリに開いたレストランが、わずか1年半でフランス版ミシュランの一つ星を獲得。店の名は『Restaurant PAGES』。その快挙とともに、店を率いるシェフ・手島竜司の名は、瞬く間に世界に広がりました。

手島シェフの料理の根幹は「日本人としてのアイデンティティを、土地の食材で表現する」こと。その土地ならではの食材を見極め、それを高い技術とアイデアで上質な料理に昇華する。それこそが、世界が認めた“手島イズム”。つまり手島シェフの料理は、土地が変わり、舞台が変わるごとに、がらりとその姿を変えるのです。

この日のディナーも、そんな手島シェフらしさにあふれていました。
3種類のオイルを浮かべたしじみと鶏のスープにはじまり、発酵の力を借りて食材を引き立てるイカの前菜、ハタやウナギをフランス料理として再構築した料理。

さらに会場が盛り上がったのは、続く魚料理。「オマールエビのすべて 檜の香り」と題したその一皿は、木串に刺したオマールエビが豪快な姿で登場しました。パリのレストランでも「ギリギリまで茹でたてを出したい」とこだわるオマールエビ。この日はさらに檜の香りをまとわせることにより、素材そのものの味わいがいっそう引き立ちました。

続く「地元野菜サラダ」は、この土地らしさを如実に表した一品。主役は当日、シェフがこの地に到着してから走り回って集めてきたという新鮮な野菜たち。それをシェフがフランスから持参した塩とビネガーとオリーブオイルでシンプルに味付けることで野菜の持つ濃厚で力強いおいしさを表現しました。

メインは特別肥育の子豚を豪快に丸焼きにしたロティ、そして締めにはトリュフが香る卵かけご飯。デセールのソルベが爽やかな余韻を残しながら、コースは幕をおろしました。

どの料理も主役級の存在感を誇りながら、流れるように、緩急をつけて展開された9品のコース。その素晴らしい食後感に、改めてスターシェフの力量を感じます。

「しじみと鶏のスープ」。スープの上にはハーブ、パプリカ、マー油の3種の香りオイル。

「オマールエビのすべて 檜の香り」。まるごとのオマールエビにバーナーで燃やした木で香りをまとわせる。

「地元野菜サラダ」。採れたての野菜のおいしさをシンプルな味付けで引き立てた。

「特別肥育の子豚のロティ」を調理する手島シェフ。豪快な手法で繊細な火入れをする熟練の技。

インスパイアー バイ リラックス料理、ドリンク、環境。揃った三拍子が、またとない“特別”を生む。

限定36組のプラチナチケットを手にしたこの日のゲストたちの顔には、一様に満足の顔が浮かんでいました。その満足の理由は、手島氏の素晴らしい料理だけではありません。

ひとつは、料理を引き立てたペアリングドリンクの存在。プロデューサー本田直之氏が自らセレクトしたドリンクは、名ドメーヌの希少なワインから貴醸酒、日本酒まで幅広い展開。もともと手島シェフと交流のあった本田氏だけに、シェフの料理の意向を踏まえ、その味をいっそう輝かせる見事なセレクトでした。

そしてもうひとつの満足の要素は、言うまでもなく『別邸 千寿庵』の環境。自然の中に違和感なく溶け込みながら、エレガントな存在感も持つこの宿。アペリティフ会場となった庭園も、自然を間近に感じながらゲストの感性を揺さぶり、食への探究心をいっそう高めてくれました。

「すべて出し切りました。いまは達成感でいっぱい」

この日の晩餐をそう振り返る手島シェフ。そして地元スタッフたちへの感謝を繰り返し口にしました。未知の食材、慣れない厨房、はじめての場所のなか、これほどのクオリティの料理に仕上げた手島シェフに、プロデューサーの本田氏も惜しみない賞賛を寄せました。

「鰻とブリオッシュのコンテチーズソース」には仙禽オーガニック ナチュール2022の貴醸酒を合わせた。

肉料理に合わせるワインは、名門ドメーヌ「アンベール・フレール」から。子豚のピュアな味わいに、繊細な果実感が寄り添う。

『別邸 仙寿庵』の客室。全室に客室露天風呂を備えるエレガントな温泉宿。

『別邸 仙寿庵』にあるプライベートサウナは、サウナ好きで知られる本田直之氏も魅了した。

大浴場や露天風呂には、江戸時代から愛される肌にやさしい低張性弱アルカリ性温泉があふれる。

住所:群馬県利根郡みなかみ町谷川614 MAP
TEL:0278-20-4141
https://www.senjyuan.jp/

Text:TAKETOSHI ONISHI
 

旨い理由。それは、100年以上もの間、リンゴを実らせている古木の力。[和光アネックス/東京都中央区]

100年以上の古木から実ったリンゴの中でも、濃厚な蜜が詰まったものだけで搾ってできた『百年林檎ジュース CENTURY』。

WAKO ANNEX自然の力と人の力。両者の共存共生が生んだ、唯一無二のリンゴ。

青森県南津軽郡。その南端に位置する大鰐町は、800年の歴史を誇る温泉地。奥座敷とも呼ばれるこの町で、1900年より4世代にわたってリンゴの栽培し続けているのが『山田果樹園』です。

「リンゴ本来の美味しさを引き出すことが私たちの使命。養分を果実にたっぷりと取り込むために、木々の声に耳を澄ましながら、通常の倍ほどの枝葉を生かすように剪定しています。自然にも人間にもやさしい栽培を心がけています」とは、同園の言葉。

その特徴は、津軽の四季や土地の豊かさはもちろん、園の開業当時から100年以上もの間、リンゴを実らせている古木の存在です。古木は、枝葉と根からたくさんの養分が果実へと運び、華やかで奥深い味わいのりんごを生みます。

『百年林檎ジュース CENTURY』は、まさにその好例。コクがある特徴の「スタンダードふじ」のみを使用したリンゴジュースは、濃厚な蜜の旨みも感じる味わい。

飲み方においては、まずはそのまま。ストレートの味を堪能した後は、フレンチウォッカなどのリキュールを割る飲料として使用しても美味しくいただけます。

ぜひ、百年が生んだ味をお楽しみいただきたい。

リンゴの蜜を彷彿させるような透き通るゴールドが美しい。味わいはもちろん、グラスに注いだ瞬間から広がる香りは、果実そのもの。

まるでワインのようなボトルデザイン。直射日光や高温多湿を避け、常温にて保存可能。保存料を使用していないため、開封後はお早めにお召し上がりを。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

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Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

2022年「アジアのトップピザ50」7位。名店「ピッツァ・ストラーダ」の味が自宅に。[和光アネックス/東京都中央区]

『水牛モッツァレラのマルゲリータ』(手前)と『クアトロフォルマッジ』(奥)。店名は、人々が交錯する道(ストラーダ)の休息所から。ワインと一緒に味わい、ゆったりとした時間を満喫したい。

WAKO ANNEX世界も唸る名店ピッツァの味を、手軽に堪能できる贅沢と喜び。

東京、麻布十番にて店を構える『ピッツァ・ストラーダ』。2022年「アジアのトップピザ50」7位を受賞したことは記憶に新しく、名実ともに世界が認めるピッツァであることは言うまでもありません。

美味しい理由は、さまざまあります。30時間かけて長時間発酵させた生地の旨み、高温で焼き上げ、焦げる寸前の香ばしさを生み出すクリスピーさ、生地と相性の良い食材選び……。これらはまだ一例に過ぎませんが、鍛え抜かれた職人技や日々の努力から生まれたピッツァこそ、『ピッツァ・ストラーダ』のピッツァ。

今回は、そんな名店のピッツァをオリジナルサイズにアレンジ。通常30cmのサイズを食べやすいように20cmにし、人気の『水牛モッツァレラのマルゲリータ』と『クアトロフォルマッジ』を冷凍商品化。

イタリア産の水牛モッツァレラを使用した『水牛モッツァレラのマルゲリータ』は、トロっとした口触りとまろやかさが特徴。トマトの味わいと酸味にも好相性です。

ゴルゴンゾーラ、タレッジオ、グラナパダーノ、スモークモッツァレラの4種のチーズを使用した『クアトロフォルマッジ』は、癖のあるゴルゴンゾーラやタレッジオをスモークモッツァレラやペコリーノが絶妙に包み、それぞれの深い味わいを楽しめます。付属の蜂蜜をかければ、また別の美味しさも堪能できるでしょう。

ピッツァは、一枚一枚手伸ばしし、成形。袋を開けた瞬間から生地の香りがふわっと広がります。

解凍後、フライパンで焼くことによって、より美味しくいただけるため、ぜひ、そのひと手間をお試しあれ。

ご自宅はもちろん、パーティーや手土産にも喜ばれる通な品です。

トマトソース、水牛のモッツァレラ、バジルを使用したピッツァの代名詞、『水牛モッツァレラのマルゲリータ』。シンプルゆえ、職人の極みが凝縮された逸品。

コクのある味わいが食欲をそそる、『クアトロフォルマッジ』。ゴルゴンゾーラ、タレッジオ、グラナパダーノ、スモークモッツァレラの4種のチーズを使用。仕上げに付属の蜂蜜をかければ、より深い味わいに。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

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Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

2022年「アジアのトップピザ50」7位。名店「ピッツァ・ストラーダ」の味が自宅に。[和光アネックス/東京都中央区]

『水牛モッツァレラのマルゲリータ』(手前)と『クアトロフォルマッジ』(奥)。店名は、人々が交錯する道(ストラーダ)の休息所から。ワインと一緒に味わい、ゆったりとした時間を満喫したい。

WAKO ANNEX世界も唸る名店ピッツァの味を、手軽に堪能できる贅沢と喜び。

東京、麻布十番にて店を構える『ピッツァ・ストラーダ』。2022年「アジアのトップピザ50」7位を受賞したことは記憶に新しく、名実ともに世界が認めるピッツァであることは言うまでもありません。

美味しい理由は、さまざまあります。30時間かけて長時間発酵させた生地の旨み、高温で焼き上げ、焦げる寸前の香ばしさを生み出すクリスピーさ、生地と相性の良い食材選び……。これらはまだ一例に過ぎませんが、鍛え抜かれた職人技や日々の努力から生まれたピッツァこそ、『ピッツァ・ストラーダ』のピッツァ。

今回は、そんな名店のピッツァをオリジナルサイズにアレンジ。通常30cmのサイズを食べやすいように20cmにし、人気の『水牛モッツァレラのマルゲリータ』と『クアトロフォルマッジ』を冷凍商品化。

イタリア産の水牛モッツァレラを使用した『水牛モッツァレラのマルゲリータ』は、トロっとした口触りとまろやかさが特徴。トマトの味わいと酸味にも好相性です。

ゴルゴンゾーラ、タレッジオ、グラナパダーノ、スモークモッツァレラの4種のチーズを使用した『クアトロフォルマッジ』は、癖のあるゴルゴンゾーラやタレッジオをスモークモッツァレラやペコリーノが絶妙に包み、それぞれの深い味わいを楽しめます。付属の蜂蜜をかければ、また別の美味しさも堪能できるでしょう。

ピッツァは、一枚一枚手伸ばしし、成形。袋を開けた瞬間から生地の香りがふわっと広がります。

解凍後、フライパンで焼くことによって、より美味しくいただけるため、ぜひ、そのひと手間をお試しあれ。

ご自宅はもちろん、パーティーや手土産にも喜ばれる通な品です。

トマトソース、水牛のモッツァレラ、バジルを使用したピッツァの代名詞、『水牛モッツァレラのマルゲリータ』。シンプルゆえ、職人の極みが凝縮された逸品。

コクのある味わいが食欲をそそる、『クアトロフォルマッジ』。ゴルゴンゾーラ、タレッジオ、グラナパダーノ、スモークモッツァレラの4種のチーズを使用。仕上げに付属の蜂蜜をかければ、より深い味わいに。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
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コロナ禍に開催された「DINING OUT KISO-NARAI」。我々は、何を失い、何を得たのか。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

ダイニングアウト木曽奈良井

周知の通り、『DINING OUT KISO-NARAI』は、コロナ禍に迎えました。それゆえ、各方面にご心配をおかけしたかもしれませんが、地元の方々の心強いご支援をいただきながら、無事に開催することができました。

同時に、『ONESTORY』一同、この町の素晴らしさ、受け継がれてきた文化、伝統工芸の匠、住民の想いなどを学ぶ機会にもなりました。そして、何より、人の暖かさに触れられたことが一番の喜びにつながりました。

キッチンで奮闘する地元シェフ、心を込めたサービス、木曽漆器を造る職人や組合、学校の指導に情熱を注ぐ先生やそこに学ぶ児童生徒、商工会や農家組合の皆様、その全ての姿が目に焼き付いています。長谷川在佑シェフやホストの中村孝則氏においても、新たな視点からこの町の魅力を表現していただきました。

語弊を恐れずに言えば、『DINING OUT KISO-NARAI』は、『DINING OUT』史上、最も素朴かつ小さな地域だったと思います。しかし、間違いなく最も大切な回になりました。

本当の価値とは何か、本当に大切なものは何か。今回は、その答えを導き出す場であり、伝える場でありたいと思い、実施に踏み切りました。

DINING OUT KISO-NARAI』をきっかけに、何かが好転したと願いたい。誰かの背中を押すきっかけになったと願いたい。前を向くきっかけになったと願いたい。一歩を踏み出すきっかけになったと願いたい。今なお、そう思っています。

2020年2月、日本における新型コロナウイルス発覚から約2年半。世界中は難局に陥りました。

改めて問いたいと思います。我々は、何を失い、何を得たのか。

もしかしたら、失ったものは何もなく、不必要なものがそぎ落とされただけなのかもしれません。それによって大切なものは際立ち、残った欠片を人は豊かさと呼ぶのでしょうか……。

答えを言い当てるには、もう少しだけ時間がかかりそうです。

しかし、いつの日か、考え続けた先にあるその答え合わせをしたいと思っています。場所は、もちろん木曽平沢・奈良井宿で。変わらず美しい、あの景観を眺めながら。

最後に。『DINING OUT KISO-NARAI』に関わった全ての方々、ゲストの皆様に、深く御礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

ぜひ、お写真とともに、振り返る時間をお楽しみください。

また、日本のどこかでお会いしましょう。

【関連記事】DINING OUT KISO-NARAI



Text:YUICHI KURAMOCHI
 

「DINING OUT」の成功を影に支えたプロのサービス。「JALふるさと応援隊」3名の活躍。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

『DINING OUT KISO-NARAI』のサービスを担当した『JALふるさと応援隊』の3名。左から横山侑己さん、伊藤昌代さん、鈴木麻里さん。

DINING OUT KISO-NARAI地域活性化を目指し創設された『JALふるさと応援隊』。

2022年7月23日、24日に開催された『DINING OUT KISO-NARAI』。地元の婦人会や小中学生の協力のもと、その後も続くような地域との繋がりを生むことが今回の『DINING OUT』の目的のひとつでもありました。

そんな会場には、洗練された立ち居振る舞いとマスク越しでもわかるにこやかな笑顔でゲストをもてなす3名の人物の姿がありました。

彼女たちは、日本航空の現役客室乗務員。全国各地の活性化を応援するために社内公募により選ばれた『JALふるさと応援隊』のメンバーたちです。

『JALふるさと応援隊』とは、客室乗務員の資質をさらに広い場で発揮すべく生まれたプログラム。地域の活性化をさまざまな活動を通して応援し、そして、そこでの学びを日頃の乗務にフィードバックする。そんな思いの元、各都道府県約20名、合計約1,000名のメンバーが日々活動をしています。

地域と交流を生み、地域に貢献することを目指した今回の『DINING OUT KISO-NARAI』。その現場に同じ志を持つ『JALふるさと応援隊』が応援に駆けつけてくれたのです。今回はそんな3名の現場で思いや、イベントを終えてみての感想を伺ってみます。

さまざまな立場のスタッフが、それぞれのスキルと長所を活かして活躍。誰もが『DINING OUT KISO-NARAI』の成功を支えた立役者。

DINING OUT KISO-NARAI漆器の魅力と、人との交流の大切さに気づいた2日間。

ゲストのお出迎えからレセプション、本番のドリンクやフードのサービスまで。さまざまな場面で、自然体のようで行き届いた目配りで活躍した横山侑己さん。今回の体験の中、「とりわけ漆器の魅力を強く感じました」と言います。

「漆器というと大切に箱にしまって特別な日に使う食器というイメージでした。しかし木曽の漆器は日常的に使い、使い込む事でさらに透明感が増していくもの。給食食器に使うことで子供の頃から本物に触れる教育も含め、漆器との関わり方も魅力的に映りました」と振り返る横山さん。

地元で愛され、親しまれているからこそ、外に向けてのPRにも力が入る木曽漆器を通し、これからの地場産業の在り方にも思いを寄せた様子でした。さらに、さまざまな立場の方と一緒に働くことで多くの気づきも得たといいます。

「サービスのプロフェッショナル、地域のお母さんたち、奈良井で宿やお店を経営されている方々。いろいろな方が一緒に働き、互いの良いところを吸収していく。それが地域活性化の原動力になると思います。今回のイベントで生まれた関係性を今後も続けながら魅力を発信していきたいです」。

そんな心強い言葉は、奈良井の未来のための大きな力になりそうです。

お客さまとのファーストコンタクトは、塩尻駅前。送迎バスにてお迎えをする横山さん。ゲストの中には、「JALの制服の方にお出迎えしていただき、びっくりしました」との声も。

「チーム一丸となって奈良井の魅力をお客様に伝えられたことをうれしく感じています」と手応えを伝えてくれた横山さん。

DINING OUT KISO-NARAI自らが一番のファンになった奈良井での体験。

にこやかな笑顔が会場でも目を引いた伊藤昌代さん。準備の際には、さまざまな地元の方と積極的に話をする姿が印象的でした。

「いろいろな方と話をするのが大好きで、地元の方ともたくさんお話させて頂きました。そこで気づいたことは、皆さん本当に奈良井が大好きで、奈良井をもっと元気にしたいと思っていること」。

ある時、地元の方が「もっと奈良井を良くするにはどうしたらいい?」と伊藤さんに尋ねたといいます。

「この街のすべてが魅力です。この街を通るだけで、きっと皆さん感動しますって伝えました」と、伊藤さん自身も奈良井に惹かれた様子。100年続く街の中に実際に身を置いたことでその素晴らしさを体感し、そこに暮らすことの豊かさを改めて感じたのでしょう。

奈良井のために自分ができることとして、「これからJALの飛行機に乗ってくださった方々に、奈良井の魅力を伝えていきたい」とも語ってくれました。

「私自身が奈良井のファンになりました。いつか家族と一緒にまた訪れたい」と率直な感想を伝えてくれた伊藤さん。

DINING OUT KISO-NARAI日頃のフライトに活きる、『DINING OUT』のチーム力。

冷静沈着な姿と広い視野で裏方のサービスを支えた鈴木麻里さん。しかし、イベントを終え、少しだけ上気した顔からは、やりきったという満足感が伝わってきました。

「日本航空にはJALフィロソフィという指針があり、そのひとつにスタッフの“ベクトルを合わせる”という項目がございます。今回、2日間の『DINING OUT』を終えて、それぞれ立場が異なる方がひとつの目標に向かったことは、まさにベクトルが合っていたと感じています。今回の経験を乗務に活かすのと同時に、この地域の良さを伝えていくことも応援隊の役目」と鈴木さん。

ベクトルを合わせるための対話の重要性、チームを率いた長谷川在佑氏のリーダーシップなど、今回学んだ多くのことが、今後に役立つといいます。

「今回の経験を乗務に活かすのと同時に、この地域の良さを伝えていくことも応援隊の役目」と、日本各地、そして世界の人々に向けて奈良井の魅力を発信することを約束してくれました。

現在、『日本航空』では様々な地域活性プロジェクトに取り組んでいます。今回の『DINING OUT』の様子は、JALの機内映像プログラムでも放映が予定されており、地域に暮らす人々とのおもてなしを経ての気づきや発見、『JALふるさと応援隊』の今後の展望について話を伺っています。

そして、彼女たちを機上で見かけた際には、是非、木曽・奈良井の町の魅力を直に聞いてみていただければと思います。

鈴木さんは「今回のイベントで初めて奈良井を訪れ、日本にこんなに素晴らしい場所があるのだと驚きました」と、奈良井の第一印象を伝えてくれた。



Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

「NewsPicks Re:gion」呉琢磨氏が読み解く「DINING OUT」の成果と、これからの地方経済。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

会場で料理を楽しむ呉氏。何度もこの地に通い、地域との交流の中で作り上げた『傅』長谷川在佑氏の料理にも感銘を受けたという。

DINING OUT KISO-NARAI経済的視点で『DINING OUT』を見つめた呉琢磨氏。

2022年7月末に開催された『DINING OUT KISO-NARAI』。

中山道の中間地点として古くから賑わう宿場町・奈良井宿を舞台に、約2年半の時を越えて、新たな一歩を踏み出した『DINING OUT』は、地元とのつながり、これからも続く関係の構築を目指し、これまでにない試みも数多く取り入れられました。

そんな『DINING OUT KISO-NARAI』の会場には、地域経済の新たな動向にフォーカスするプロジェクト『NewsPicks Re:gion』編集長・呉琢磨氏の姿もありました。

『NewsPicks Re:gion』は、日本の地域開拓の最前線にいるイノベーターたちに光を当て、大都市圏ビジネスパーソンとの交流を生み出すWEBメディア。そこで生まれた新たな繋がりが、次なる共創のきっかけとなることを目指しています。

取材を通しさまざまな地域の現状を見つめ続けている呉氏ははたして、今回の『DINING OUT』から何を感じ、これからの地方経済をどう読み解くのでしょうか?

山深い木曽路に、これからの地域創生のどんなヒントが隠されているのか。呉氏の鋭い視点が見抜く。

DINING OUT KISO-NARAI地域経済の活発化が、今後の日本経済の軸に。

「日本の地域にこそ、成長の余白がある」。

『NewsPicks Re:gion』が地域に注目する理由を、呉氏はそう話します。

「たとえば経済成長率を都道府県別に比較したデータでは、東京都の成長率は全国でも下位グループにあり、むしろ九州エリアや中部エリアの方が成長率が高くなっています。近年は感度の高い人たちが地域に関わりだす動きも目立ち、また行政サイドでも、民間と積極的に連携して自立的な動きを始めている自治体が増えています。大都市圏だけで働き・暮らす人には見えない地域の新しい動きのなかにこそ、新しい希望が見出せると思います」。

客観的なデータも含め、地域の活動は、今後日本の経済活動の大きな柱になっていくという分析です。そしてもちろんそれは、今回の舞台である奈良井宿にも当てはまります。

「まず単純に場所がすごい。奈良井に来たのははじめてでしたが、江戸時代から残る町並みの保存性には驚きました。この奈良井宿のように、日本各地には価値ある文化資産が無数に眠っており、事業化されないまま“保全”されています。それらを民間が中心となって開拓し、“稼げる形”に変えて新しいマーケットを掘り起こしていくことが、地域の将来性につながっていくと思います」。

江戸時代のままの風景が残る奈良井宿の町並みは、これからの地域創生の大きな原動力になる。

DINING OUT KISO-NARAIスタッフの経験として今後に続く『DINING OUT』のレガシィ。

町並みという地域の財産を、どう活かすのか。『DINING OUT』は、その開催を通して何を伝え、何を残せたのか。続いては呉氏の目に映った『DINING OUT』について伺ってみました。

「まずレセプション会場として、地域の義務教育学校に行けたことが面白かったです。一般的に商業的な部分ですと大人との接点しか持てませんが、子供との関わり方を通してみると、地域社会の課題感をリアルに垣間見ることができます」と呉氏は振り返ります。

そして、実際にゲストとして着席し、食事を楽しんでみて「演出、料理、若い現地スタッフたちのサービスなど、さまざまなことが印象に残っている」といいます。そんな『DINING OUT KISO-NARAI』の成果を、次のように分析します。

「『DINING OUT』は新たな視点で地域の価値を訴求するブランディング施策だと理解しています。直接的には関連コンテンツの波及による奈良井エリアの認知拡大が主な成果になっていくのでしょう。そしてもうひとつの大きな成果が、参加したスタッフたちの気持ち。これまで出会うことのなかった人と人とが出会い、チームを組んで“大きなプロジェクトをやりきった”という体験が地域に残ることが、一番大きな効果なのではないかと考えます」。

~地域を超えて人材が越境し、地域のなかに多様性を生み出す。それがやがて新しい価値を生み出していく~。

呉氏はこれからの地域における活動の要点は、そんな人材交流にあると見ます。その意味で、「今回の『DINING OUT』が奈良井宿に残したものは大きい」といいました。

「今回の『DINING OUT』による経験が地域の記憶に残り、次の挑戦につながっていくと期待します」。

子どもたちとの交流と、そこから見えてきたリアルな課題も、今後を考える糸口になる。

参加した大勢の地元スタッフたちが、この経験を次に繋げる。それこそが『DINING OUT』の最大の成果であると呉氏。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

切ってびっくり、食べて美味しい。天皇も愛した甘味。[和光アネックス/東京都中央区銀座]

切り絵のようなパッケージデザインが哀愁漂う、『みなとや商店』の「栗羊羹」。10月に美味しい旬の栗を堪能したい。

WAKO ANNEX湯上りにいただくも一興。温泉街が生んだ名品・栗羊羹。

浴衣姿で街を巡る。『みなとや商店』の拠点は、そんな風景が似合う地域です。

兵庫県北部、日本海に面した関西有数の温泉街のひとつ、「城崎温泉」は、開湯1300年以上の歴史があり、奈良時代から親しまれてきた街です。そこで多くのゲストを虜にしてきたのが、『みなとや商店』の「栗羊羹」です。

江戸時代に旅館業として創業し、明治時代以降は菓子製造販売並びに土産物販売店として営業。昭和天皇、上皇陛下を始め、城崎を巡った多くの人が訪れている。「良い品物をお客様に」をモットーに、こだわりの和菓子と麦わら細工を製造・販売している中でも「栗羊羹」においては別格。

上質な小豆を用いた羊羹に丹波地方で採れた栗をふんだんに入れた「栗羊羹」は、小豆と栗の調和が絶妙な風味を生みます。

「城崎温泉」は、七つの外湯を楽しむのが主流な温泉街であり、『みなとや商店』はそのうちのひとつ、「一の湯」の隣。

自宅で召し上がる際も、湯上りに一杯、もとい、湯上りに栗羊羹ということも、乙ないただき方かもしれません。

上質な小豆を採用した品の良い甘みが特徴の羊羹の中には、丹波地方で採れた大きな栗が。切ってびっくり、食べて美味しいひと品。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

最高級ポルチーニの香り漂う、贅沢な万能おつまみ。[和光アネックス/東京都中央区銀座]

瓶から見える透き通ったオイルに純白のツナが美しい『JIN』の「おつな」。人気のシリーズより、ポルチーニ味が登場。

WAKO ANNEX食べ方は自由自在。乙なツナ。乙なおつまみ。

ツナ缶発祥の地、静岡県焼津で作る至極の自家製「おつな」にこだわる『JIN』。柔らかい身から溢れる自然の旨味は、一度食べれば虜になり、リピーターが続出。多くのバリエーションを展開していることもまた魅力のひとつであり、食べ手を飽きさせません。

「おつな ポルチーニ」も「おつな」人気を支えるひとつです。

イタリア産のポルチーニをふんだんに使った豪華な「おつな」は、シンプルなツナに上品な深みとコクがプラス。ローストした松の実も加え、香りと食感にアクセントも生み、五感で楽しめるひと品です。

万能おつまみゆえ、食べ方は無限に広がります。そのままはもちろん、パンに乗せて食べるも良し。ワインのお供、ご飯のおかずなど、お好みに合わせてぜひ。上級者ともなれば、チーズと一緒にクロスティーニ風やスープストック(肉や野菜から取った出汁)にごはんと「おつな」を混ぜ、リゾットにしても美味。

あなただけの乙なツナ、乙なおつまみをお楽しみいただきたい。

自家製の「おつな」は、マグロや塩はもちろん、数種のオイルも厳選してブレンド。全て手作りにこだわる。パンの上に乗せてはもちろん、パスタの具材やごはんのお供、そのままでもおつまみとして絶品な味わい。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

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(Supported by WAKO)

「何もないけど、大切なことがある」。コラムニスト・中村孝則が見た木曽の豊かさ。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

レセプション会場となった『楢川小中学校』にて、ゲストにこの地の歴史を伝える今回のホスト・中村氏。

DINING OUT KISO-NARAI多くの地元住民とともに築いた19回目の『DINING OUT』。

去る2022年7月23日、24日に開催された『DINING OUT KISO-NARAI』。約2年半ぶりの開催となった『DINING OUT』は、地元の食材生産者や伝統工芸職人、郷土料理を知るお母さんたち、そして地元の小中学生までをも巻き込み、かつてない地元との繋がりを生みました。

それはコロナ禍を経て変わりゆく人々の価値観のなかで到達した、新たなステージの『DINING OUT』でした。

ホストを務めたコラムニスト・中村孝則氏も、今回の開催のために奔走し、そしてその成功を喜んだ人物のひとり。そこでそんな中村氏とともに、『DINING OUT KISO-NARAI』を振り返ってみましょう。

乾杯の一場面。中村氏によって語られる料理やドリンク、会場の薀蓄が、味わいに奥行きを加える。

DINING OUT KISO-NARAI人と会い、土地に触れる『DINING OUT』の原点。

過去9回の『DINING OUT』でホストを務めた中村孝則氏。終演後その頭にまず浮かんだのは、久しぶりに開催できたことへの感慨でした。

「リモート会議やリモート飲み会は、いまや社会に不可欠なものになっています。しかし、やはり直接人と会って伝えられる熱量というものは、特別です。人と会って、一緒に何かを分かち合うことは、やはり人間の原点なのでしょう。そしてそれは同時に『DINING OUT』の原点でもあります。リアルに旅をして、その土地の人や文化に触れる。そういう体験の素晴らしさを、改めて思い出しました」。

そして、自身が感じた木曽・奈良井宿に思いを馳せます。中村氏の胸に響いたのは、奈良井の自然と人の豊かさでした。

「今回のテーマが“山中に学ぶ”ということで、自然の豊かさは想像していました。訪れてみてさらに感じたのは、地元の方々の豊かな生き方でした。ここは中山道のちょうど中間地点。いわば“江戸の粋”と“京の雅”が交錯する場所です。そういう場所で400年間も旅人をお迎えしてきた歴史からでしょうか。地元文化の豊かさ、地元の方々の豊かな生き方が、とくに印象的でした」。

もちろん、そんな豊かさを見事に表現した『傅』長谷川在佑氏による6品の料理も、中村氏の心に刻み込まれました。

「海のない地で、淡水魚を使ってこれほど豊穣な味の表現ができることに驚きました」と振り返る。その中でもとくに印象深かったのは、「鯉の羽淵キュウリあんかけ」と「シナノユキマスのおつくり」だといいます。

「鯉のあんかけは“小骨が多い”、“臭みがある”という鯉のネガティブなイメージを、丁寧な仕込みで払拭していました。創意工夫と緻密な計算、地元へのリスペクトがある料理で、常に食べ手のことを一番に思って料理をする長谷川さんらしさが強く表れていました。一方でシナノユキマスは、シンプルに“淡水魚がこれほどおいしくなるのか”という驚きがありました。地元の伝統食“すんき”を使って生み出す、エキゾチックな味わい。その表現力に脱帽です」。

レセプションで乾杯用にサーブされたこの地の銘酒『亀齢(きれい)を解説する。

ディナー終盤、オリジナルの器制作の中心人物でもある『木曽漆器工業組合』の石本則男理事長とともに。使用される漆器の知識も、食を彩る大切な要素。

伝統野菜の羽淵キュウリをすり流しにして、骨切りした鯉と合わせた一品。「さまざまな工夫が込められた料理」と中村氏。

中村氏が「オリエンタルな味わい」と驚いたシナノユキマス。伝統的な漬物、すんきの扱いには「食べ慣れた地元の人もきっと驚くでしょうね」という。

DINING OUT KISO-NARAI現代社会の中で改めて見つめる本当の豊かさ。

中村氏が『DIINNG OUT KISO-NARAI』を振り返りながら、何度も口にした「豊かさ」という言葉。その前提には、中村氏が肌で感じる、近年の社会状況における価値観の変化がありました。

「今は、皆が豊かさに迷っている時代。そのヒントが、この奈良井宿にはあると思います。スーパーやコンビニなどの利便性はなくても、少し歩けば花がたくさん咲いていて、地元の伝統野菜もいろいろあり、あちこちから水が湧いている。そして、地元の方々がこの地を愛し、誇りを持ち、次世代に受け継ごうと努力をしている。ここにこそ、これからの豊かさのヒントが詰まっているような気がするんです。何もないけど、たくさんある。そんな豊かさです」。

今回の『DIINNG OUT KISO-NARAI』も、さまざまな世代の住民が参加し、世代を越えて地元を盛り上げようとする思いにこそ大きな意義があったといいます。

そして、最後に、地元の方々に向けて、こう付け加えました。

「内側にある豊かさを、これからはもっと外に伝えていくことが必要です。外に伝えて、より多くの人を巻き込んで、さらに地元を盛り上げていく。そういう外向きの動きもこれからは必要になると思います。僕も必ずまたここに戻ってくるので、一緒にこの地の魅力を伝えていきましょう」。

世代を越えた人との繋がりを通して紡がれるこの地の豊かさ。中村氏はそれこそが、これからの時代に求められるものだと見る。

DINING OUT KISO-NARAI計10回のホストを担った中村孝則。そこから導き出した4つの意義。

中村孝則氏が『DINING OUT』を務めたのは、今回でちょうど10回目。その節目が奇しくも、コロナ禍で人々の価値観が変わる時代、アフターコロナに向けて動き出す時代に重なりました。

中村氏はそんな今回の開催を経て、改めて『DINING OUT』の4つの意義が明確になったといいます。

「ひとつ目は、リベンジ・ガストロノミーとしての意義。これは私の造語ですが、つまりコロナ禍で不当に飲食の自由を奪われた経験から、今後より飲食、外食への欲望が強まることが予想されます。『DINING OUT』はガストロノミーの豊かさの象徴として、その受け皿としての役割を意識していく必要があります。

ふたつ目は、お祭りとしての意義。言ってみれば『DINING OUT』はお祭りです。お祭りは交流を生みます。人の交流、情報の交流、そしてジェネレーションの交流。今回も、子どもたちからお母さんたち、生産者や職人まで幅広い世代の交流が生まれました。こういう横軸、縦軸の交流を生む『DINING OUT』のお祭り的要素が、今後、次世代への伝達、引き継ぎ、そして地域活性化のために重要になってくると思います。

3つめの意義は、言うまでもなく地域表現としての『DINING OUT』です。今回は“山中に学ぶ”というテーマのもと、自然、文化、工芸、食というさまざまな要素を表現しました。多彩な要素を束ねて渾然一体で表現するというのは、『DINING OUT』にしかできないこと。これは揺るぐことのない『DINING OUT』の原点であり、意義だと思います。

そして、4つ目。今回とくに強く思ったのが“免疫力としての食”の重要性です。これほど未曾有の感染が広がるということは、やはり人の免疫力で乗り越えねばならないということでしょう。免疫力を上げるのは最終的には食だと信じています。発酵食に代表されるように日本の地域に眠る食材、食文化は免疫力を高めるものが多い。『DINING OUT』で食の大切さ、地域の食文化を紐解いていくことで、改めて食と健康について意識を向けてもらうことができれば良いですね」。

中村氏が見る4つの意義が、改めて地方創生における『DINING OUT』の役割を明確にした。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

「何もないけど、大切なことがある」。コラムニスト・中村孝則が見た木曽の豊かさ。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

レセプション会場となった『楢川小中学校』にて、ゲストにこの地の歴史を伝える今回のホスト・中村氏。

DINING OUT KISO-NARAI多くの地元住民とともに築いた19回目の『DINING OUT』。

去る2022年7月23日、24日に開催された『DINING OUT KISO-NARAI』。約2年半ぶりの開催となった『DINING OUT』は、地元の食材生産者や伝統工芸職人、郷土料理を知るお母さんたち、そして地元の小中学生までをも巻き込み、かつてない地元との繋がりを生みました。

それはコロナ禍を経て変わりゆく人々の価値観のなかで到達した、新たなステージの『DINING OUT』でした。

ホストを務めたコラムニスト・中村孝則氏も、今回の開催のために奔走し、そしてその成功を喜んだ人物のひとり。そこでそんな中村氏とともに、『DINING OUT KISO-NARAI』を振り返ってみましょう。

乾杯の一場面。中村氏によって語られる料理やドリンク、会場の薀蓄が、味わいに奥行きを加える。

DINING OUT KISO-NARAI人と会い、土地に触れる『DINING OUT』の原点。

過去9回の『DINING OUT』でホストを務めた中村孝則氏。終演後その頭にまず浮かんだのは、久しぶりに開催できたことへの感慨でした。

「リモート会議やリモート飲み会は、いまや社会に不可欠なものになっています。しかし、やはり直接人と会って伝えられる熱量というものは、特別です。人と会って、一緒に何かを分かち合うことは、やはり人間の原点なのでしょう。そしてそれは同時に『DINING OUT』の原点でもあります。リアルに旅をして、その土地の人や文化に触れる。そういう体験の素晴らしさを、改めて思い出しました」。

そして、自身が感じた木曽・奈良井宿に思いを馳せます。中村氏の胸に響いたのは、奈良井の自然と人の豊かさでした。

「今回のテーマが“山中に学ぶ”ということで、自然の豊かさは想像していました。訪れてみてさらに感じたのは、地元の方々の豊かな生き方でした。ここは中山道のちょうど中間地点。いわば“江戸の粋”と“京の雅”が交錯する場所です。そういう場所で400年間も旅人をお迎えしてきた歴史からでしょうか。地元文化の豊かさ、地元の方々の豊かな生き方が、とくに印象的でした」。

もちろん、そんな豊かさを見事に表現した『傅』長谷川在佑氏による6品の料理も、中村氏の心に刻み込まれました。

「海のない地で、淡水魚を使ってこれほど豊穣な味の表現ができることに驚きました」と振り返る。その中でもとくに印象深かったのは、「鯉の羽淵キュウリあんかけ」と「シナノユキマスのおつくり」だといいます。

「鯉のあんかけは“小骨が多い”、“臭みがある”という鯉のネガティブなイメージを、丁寧な仕込みで払拭していました。創意工夫と緻密な計算、地元へのリスペクトがある料理で、常に食べ手のことを一番に思って料理をする長谷川さんらしさが強く表れていました。一方でシナノユキマスは、シンプルに“淡水魚がこれほどおいしくなるのか”という驚きがありました。地元の伝統食“すんき”を使って生み出す、エキゾチックな味わい。その表現力に脱帽です」。

レセプションで乾杯用にサーブされたこの地の銘酒『亀齢(きれい)を解説する。

ディナー終盤、オリジナルの器制作の中心人物でもある『木曽漆器工業組合』の石本則男理事長とともに。使用される漆器の知識も、食を彩る大切な要素。

伝統野菜の羽淵キュウリをすり流しにして、骨切りした鯉と合わせた一品。「さまざまな工夫が込められた料理」と中村氏。

中村氏が「オリエンタルな味わい」と驚いたシナノユキマス。伝統的な漬物、すんきの扱いには「食べ慣れた地元の人もきっと驚くでしょうね」という。

DINING OUT KISO-NARAI現代社会の中で改めて見つめる本当の豊かさ。

中村氏が『DIINNG OUT KISO-NARAI』を振り返りながら、何度も口にした「豊かさ」という言葉。その前提には、中村氏が肌で感じる、近年の社会状況における価値観の変化がありました。

「今は、皆が豊かさに迷っている時代。そのヒントが、この奈良井宿にはあると思います。スーパーやコンビニなどの利便性はなくても、少し歩けば花がたくさん咲いていて、地元の伝統野菜もいろいろあり、あちこちから水が湧いている。そして、地元の方々がこの地を愛し、誇りを持ち、次世代に受け継ごうと努力をしている。ここにこそ、これからの豊かさのヒントが詰まっているような気がするんです。何もないけど、たくさんある。そんな豊かさです」。

今回の『DIINNG OUT KISO-NARAI』も、さまざまな世代の住民が参加し、世代を越えて地元を盛り上げようとする思いにこそ大きな意義があったといいます。

そして、最後に、地元の方々に向けて、こう付け加えました。

「内側にある豊かさを、これからはもっと外に伝えていくことが必要です。外に伝えて、より多くの人を巻き込んで、さらに地元を盛り上げていく。そういう外向きの動きもこれからは必要になると思います。僕も必ずまたここに戻ってくるので、一緒にこの地の魅力を伝えていきましょう」。

世代を越えた人との繋がりを通して紡がれるこの地の豊かさ。中村氏はそれこそが、これからの時代に求められるものだと見る。

DINING OUT KISO-NARAI計10回のホストを担った中村孝則。そこから導き出した4つの意義。

中村孝則氏が『DINING OUT』を務めたのは、今回でちょうど10回目。その節目が奇しくも、コロナ禍で人々の価値観が変わる時代、アフターコロナに向けて動き出す時代に重なりました。

中村氏はそんな今回の開催を経て、改めて『DINING OUT』の4つの意義が明確になったといいます。

「ひとつ目は、リベンジ・ガストロノミーとしての意義。これは私の造語ですが、つまりコロナ禍で不当に飲食の自由を奪われた経験から、今後より飲食、外食への欲望が強まることが予想されます。『DINING OUT』はガストロノミーの豊かさの象徴として、その受け皿としての役割を意識していく必要があります。

ふたつ目は、お祭りとしての意義。言ってみれば『DINING OUT』はお祭りです。お祭りは交流を生みます。人の交流、情報の交流、そしてジェネレーションの交流。今回も、子どもたちからお母さんたち、生産者や職人まで幅広い世代の交流が生まれました。こういう横軸、縦軸の交流を生む『DINING OUT』のお祭り的要素が、今後、次世代への伝達、引き継ぎ、そして地域活性化のために重要になってくると思います。

3つめの意義は、言うまでもなく地域表現としての『DINING OUT』です。今回は“山中に学ぶ”というテーマのもと、自然、文化、工芸、食というさまざまな要素を表現しました。多彩な要素を束ねて渾然一体で表現するというのは、『DINING OUT』にしかできないこと。これは揺るぐことのない『DINING OUT』の原点であり、意義だと思います。

そして、4つ目。今回とくに強く思ったのが“免疫力としての食”の重要性です。これほど未曾有の感染が広がるということは、やはり人の免疫力で乗り越えねばならないということでしょう。免疫力を上げるのは最終的には食だと信じています。発酵食に代表されるように日本の地域に眠る食材、食文化は免疫力を高めるものが多い。『DINING OUT』で食の大切さ、地域の食文化を紐解いていくことで、改めて食と健康について意識を向けてもらうことができれば良いですね」。

中村氏が見る4つの意義が、改めて地方創生における『DINING OUT』の役割を明確にした。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

作家・司馬遼太郎に「もっとも豊かな隠れ里」と言わしめた、恵みの味。[和光アネックス/東京都中央区銀座]

名前にかかげる球磨川は、最上川と富士川にならぶ日本三大急流のひとつ、熊本県内最大の一級河川。シンボルマークは「球磨川くだり」の和舟をモチーフにし、この歴史ある和舟のよう、球磨川流域で育まれた恵みが多くの人々に届いてほしいという願いが込められている。

WAKO ANNEX熊本県人吉球磨が持つ自然の美しさと豊かさを届ける。

『球磨川アーティザンズ』のふるさと、九州熊本県南部に位置する人吉球磨地方は、急流が静脈のように走る盆地にあります。作家・司馬遼太郎はこの地を「もっとも豊かな隠れ里」と呼びました。山と水とが育んだ肥沃な大地は、とてつもなく豊潤な農産資源を生みだしています。

そんな人吉球磨地方は、西日本有数の栗の産地。「Chestnut Butter with Honey<はちみつ入り栗バター>」の栗においてもそれを使用し、ひとつ一つ手作業で皮を剥き、丁寧に製造。雑味のない味わいを実現しました。

また、栗のほっこりした美味しさをより生かすため、人吉球磨産のレンゲはちみつと九州産生乳のみを原料にした高千穂バターをブレンドしていることがこの品が逸品たるゆえん。

バタ―の濃厚な味わいが栗ならではの香りと食感を包み込み、はちみつの優しい甘さが心地良い後味を残します。

トーストやクロワッサンに塗ると、より洗練された味わいに。また、あんことの相性も抜群のため、どら焼きや最中に添えて新たな美味しい発見もお楽しみいただきたい。

本文に明記したよう、トーストやクロワッサンもお勧めだが、カジュアルにクラッカーといただくのも美味。パーティにもぜひ。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
(Supported by WAKO)

地元に伝えたこと、学んだこと。長谷川在佑氏が振り返る「DINING OUT」。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

厨房に建つ長谷川氏。調理スタッフとして参加した地元料理人たちは「学ぶことばかり」と口を揃えた。

DINING OUT KISO-NARAI山深い木曽路で開催された19回目の「DINING OUT」。

去る2022年7月23日、24日に開催された『DINING OUT KISO-NARAI』。
舞台となった奈良井宿は、中山道34番目の宿場町として400年もの間、旅人たちを迎え続けるおもてなしの町でした。同時に山深い木曽路にある奈良井宿は、保存食をはじめとした独特の食文化が育まれた地でもあります。

そんな今回の『DINING OUT』で料理を担当したのは、『傳』の長谷川在佑氏。『ミシュランガイド東京』2つ星、『ゴ・エ・ミヨ東京』3トック、『アジアのベストレストラン50』1位、『世界のベストレストラン50』20位など、数々の賞に輝く長谷川氏は、この地の食材や食文化をどう紐解き、どんな思い出、どのような料理をつくり、そしてこの地に何を残し、伝えたかったのでしょうか。

長谷川氏の言葉とともに、『DIINNG OUT KISO-NARAI』を振り返り、長谷川氏の心の裡を探ってみましょう。

奈良井宿、中山道の上に出現したダイニング。土地に触れ、文化を体感する『DINING OUT』の原点。

DINING OUT KISO-NARAI地元の食文化を再構築した、新しい郷土料理。

「今回の『DINING OUT』でもっとも大切にしたのは、地元の方々との絆。いかにこの地の方々と馴染み、いろいろなことを教えてもらうかということでした」。長谷川氏の振り返りは、こんな言葉から始まりました。

食材生産者、地元のお母さんたち、子どもたち。多くの地元の方々が参加した今回の『DINING OUT』。その大勢のスタッフたちを長谷川氏は「チーム」という言葉で表現します。

「地元でどんなものが食べられているか、大切にされているか。そういう思いは、やはり直接話さなくてはわかりません。そういう食文化に加え、この地の歴史や気候のこと、人のことなど、本当にたくさんのことを教わりました」。

そして、地元の方々との交流を通して知った知識は、『DINING OUT』の料理として形をなしました。『傅』の女将である長谷川えみさんを中心としたチームで考案されたペアリングドリンクとともに、供された料理は、計6品。

最初の一皿は、「地元で親しまれているものを、地元の人にとって新しい形で」という思いを、おなじみの信州名物「おやき」で表現しました。見た目こそスタンダードなおやきですが、中に潜む鰻の旨みが従来のイメージを覆します。

2品目の主食材は鯉。海のないこの地で古くから滋養強壮のためのご馳走として親しまれてきた鯉食文化も、近年はやや下火。「骨が多く食べにくい、淡白でおいしくない、という声も。だからこそ鯉のおいしさを改めて伝えたい」と鱧のように丁寧に骨切りしてから揚げ、夏野菜の餡をかけた一品に仕立てました。

続く3品目は、長野県特産のシナノユキマス。分水嶺で育てられる清涼な味わいの淡水魚に、塩を使わずに発行させる木曽地域の伝統的な漬物すんきを合わせました。シナノユキマスもすんきも、この地ではよく知られた食材。しかしそのふたつを組み合わせることで、知られざるおいしさを演出したのです。

4品目は木曽で米とともに重用されてきた雑穀を、信州牛とともに。「牛肉ではなく、雑穀が主役の料理です」という長谷川氏の言葉通り、7種ほどの雑穀の味わいと食感が、複雑で奥深いおいしさを生み出しました。

締めとなる5品目には、山中で採れたキノコや山菜を煮込んだ鍋で蕎麦を温めて味わう投汁蕎麦が登場。冷え込みがきついこの地で愛される伝統料理で、シンプルに素材の旨みを引き出しました。

デザートには信州特産のルバーブと旬のトウモロコシを使ったプリン。野菜を使ったデザートは、料理の余韻を包み込みながら、ゲストを終演へと誘います。

「目指したのは地元の人にとって新しい郷土料理。僕の料理を通して、この地の豊かさを改めて思い出してもらえたら」。

そんな長谷川氏の思いが凝縮されたコースでした。

ゲストを前に挨拶する長谷川氏。その言葉には、ゲスト、地元スタッフ、そしてこの地の人々への感謝が込められていた。

脂の乗った鰻を使ったおやき。囲炉裏の煙でサッと燻して仕上げた。ペアリングには地元『信濃ワイン』の「信濃スパークリング ナイアガラ」。

擦ったキュウリの餡の爽やかな香りが鯉の味わいを引き立てる。「シンプルながら新しさも追求した料理」と長谷川氏。合わせるのは奈良井宿の『suginomori brewery』の「narai」。

独特の味わいと食感がある「すんき」は、塩を使わずに乳酸発酵させた赤カブの葉。シナノユキマスと合わせ、その新たな魅力を表現。信州『井筒ワイン』の辛口「シャルドネ[樽熟]2020」とともに。

甘辛く炊いた信州牛が引き立てる雑穀の味わい。ペルーにいる長谷川氏の知人から届いたキヌアもアクセント。塩尻市のブドウ100%でつくる『五一ワイン』の「エステートゴイチ メルロ」の芳醇な風味が味を引き立てる。

たっぷりのキノコと鴨の出汁で、シンプルに味わう投汁蕎麦から着想を得た一品。会場の気温も下がってきたタイミングで、その温かさが染みる。ペアリングは引き続き「エステートゴイチ メルロ」。豊かな果実味が滋味深い出汁と調和する。

トウモロコシ、ルバーブ、プリンの3層になったデザート。ふりかけたスパイスがエキゾチックな味わいを演出。

DINING OUT KISO-NARAIかつてない表現を可能にしたチームの力。

いつもの『傅』の料理構成から離れ、この地、この時、このチームでしかできない料理を繰り広げた長谷川氏。「これこそが『DINING OUT』の意義であり、魅力」と振り返りました。そしてもう一度、大勢が力を合わせた“チーム”の力に言及しました。

「今回、改めて強く感じたのは、料理はひとりではできない、ということ。チームで力を合わせることでもっと大勢のお客様を喜ばせることも、感動させることもできるし、これからさらに繋がっていくこともできる。もちろん料理だけでなく、サービスや空間づくりも同様。そういう意味で、料理人として本当に大切なものを学ばせてもらった気がします」。

そう振り返る長谷川氏。そして改めて、この奈良井宿への思いを語ります。

「コロナを経て久しぶりの『DINING OUT』ということで、やはり今までとは違う気持ちでのぞみました。その気持ちをどのように表現しようか、とかなり長い時間悩んだ回でもあったのですが、奈良井という土地とこの地の人々に支えられて、無事に終えることができました。食材、食文化、土地、人、そういうものを含めて、これからも僕にとって奈良井は特別な場所になると思います」。

配膳に参加した地元・楢川小中学校の児童生徒たちとともに。

お土産としてゲストに手渡されたおにぎりは、「地元婦人会・桜香会」の皆様によるもの。

厨房、サービスを含め、過去最大人数の地元の方々が携わった『DINING OUT KISO-NARAI』。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

まるで浄化されるような味わい。新月の夜に収穫を行うぶどうジュース。[和光アネックス/東京都中央区銀座]

素材そのものの風味や糖度の高さをできるだけそのまま生かせるよう、通常濾過のみ行い抽出。ぶどうの力強さを感じる味わいに感動を覚えるだろう。

WAKO ANNEX地球、月、太陽。自然の営みに合わせ、作る、大地の恵み。

「山梨からピュアなフルーツで毎日を少しだけ華やかに」をコンセプトに生産を続けている山梨県笛吹市の『アミナチュール』。

栽培方法や製造など、様々にこだわりがありますが、中でも注目すべき品が「新月の黒ぶどうジュース」です。

使用する山梨産の黒ぶどうは、巨峰、ピオーネ、藤稔、マスカットベリーAの4種類。もちろん素材は一級品ですが、品名の通り、特筆すべきは「新月の」という言葉にあります。

新月とは、地球から見て月が見えていない状況を指します。月の姿が見えないということは、太陽の光の反射が見えないということであり、「浄化日」とも呼ばれています。

前述、原料となる4種のぶどうは新月の夜に収穫が行われ、えぐみを出さないよう圧力をかけ過ぎずに丁寧に贅沢に搾り上げます。

濃厚な味わいは、新月のごとく、まるで心身が浄化されるよう。製造年ごとに違う味わいが楽しめるため、飲み比べも通な味わい方。

アミとは友達、ナチュールとは自然を意味する。友達だからこそ共鳴する自然の味をお楽しみいただきたい。

原料の糖度が高く、かつ風味を残す製造法のため、瓶の中にオリ(酒石酸)が結晶化することもあるが、人体に影響はない。瓶底に沈めたまま、ゆっくりとグラスに注いでお召し上がりを。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
(Supported by WAKO)

瀬戸内海の離島で、廃校になった小学校で眠る。懐かしくも新しい不思議な宿泊体験。[大三島 憩の家/愛媛県今治市]

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旧宗方小学校の建物をリノベーションした「大三島 憩の家」。別棟の個室のほか、和室タイプもあり。

大三島 憩の家離島の木造校舎に泊まるという非日常の体験

瀬戸内海に浮かぶ大三島は、愛媛県側の今治からしまなみ海道に入って3番目の島。日本総鎮守とされる大山祇神社があることから、神の島として大切にされてきました。聖地ゆえに周辺の魚も守られ、漁業よりも農業が盛ん。柑橘王国・愛媛にあって有数の柑橘の産地です。

そんな大三島に、廃校になった小学校の木造校舎をリノベーションした宿泊施設「大三島 憩の家」ができたのは2018年のこと。瀬戸内海の離島にある小学校に泊まる。そんな非日常を体験できる宿です。

大三島ICから20分ほど島景色のドライブを愉しむと、目的地に到着。案内看板には宿の名前もありますが、敷地内には「宗方小学校」の名もそのまま残されています。廊下は広い中庭に向けて開いていて、いかにも島の学校という開放感が感じられます。

きっと多くの人が、この建物を見て懐かしさを感じることでしょう。それは自身が通った学校に似ているからではなく、もっと根源的な“学校”の持つイメージに近いからかもしれません。

ほぼ小学校の頃のままの建物に入り、受付へ。客室名は「1の1」といったクラス名のまま。しかし引き戸を開くとそこには、想像と違う空間が広がります。

ゆったりしたソファと大きなベッドが置かれた室内を、間接照明が柔らかく照らす。洗面所やバス、トイレも清潔で広々。しかし窓枠や床やドアを見ると、明らかに小学校の面影が残っています。その不思議なギャップが、ほかにはない特別感を醸し出しているのです。

長い廊下の先には娯楽室がある。中には卓球台があり、壁の書架には小学校時代から残ったと思われる蔵書。食堂はシックですが、やはり往時の面影が残ります。中庭には朝礼台の跡。その向こうにある建物が、新たに作られた海を望む展望風呂です。

すべてが懐かしく、そして新鮮。この建物のリニューアルは、伊東豊雄氏が率いる伊東建築塾が監修したといいます。この島に縁の深い巨匠には、何を残し、何を変えるべきかが、はっきりと見えていたのでしょう。

小学校時代の面影を色濃く残す内観。板張りの廊下や引き戸など、懐かしい雰囲気が漂う。

客室はラグジュアリー。ゆったりとした空間にソファやベッドが配置されている。

ウェルカムドリンクやアメニティなども上質。物珍しいだけでなく、宿泊施設としてのクオリティも高い。

長い廊下、右手は校庭。開放的な造りは、ここで子どもたちが学んでいた往時のまま。

娯楽室には卓球台や本のほか、学校時代の配布物なども展示されている。

海を臨む展望風呂は、宿のオープンに合わせて新設されたもの。

大三島 憩の家近海の海の幸をふんだんに使う料理も見事

夕食までに時間があれば、近くを散策してみるのも良いでしょう。砂浜までは校舎を出て1分とかからない距離。瀬戸内海の穏やかな海を見渡す、静かでのんびりした浜が広がります。砂浜の横にある堤防では、釣りを楽しむ人の姿も。すべてがのんびりとした島時間に彩られた光景です。

夕食も圧巻です。

ハモ、セトダイ、イサキ、サザエ、タイ、オコゼ。このコースのために一体何尾の魚を使っているのでしょう。どれも新鮮で脂が乗り、何より素材を活かす調理が見事です。

料理を担当するこの宿の主人は、大三島にある料理旅館に生まれた和食一筋の人物だそう。和食の粋を知り、この地の魚を知り尽くす。魚づくしでありながら、変化に富んだおいしさにも納得です。

食事を終えて部屋に戻り、満たされた気分のまま眠りに。学校で眠るという体験は、心が沸き立つような非日常のひとときを演出してくれることでしょう。

プライベートビーチまで徒歩10秒。静かな海を独占することができる。

夕食の一品、お造り盛り合わせ。鮮度や質はもちろん、包丁の入れ方も抜群。

この日の小鉢は鱧。その他、煮魚、揚げ魚など、食べきれないほどの魚が登場する。

食事は鯛の釜飯。上品な出汁の風味が、鯛の旨みを引き立てる。

夜はミステリアスな雰囲気に包まれる。花火や夜の散歩に出かけるのも良い。

住所:愛媛県今治市大三島町宗方5208-1 MAP
TEL:0897-83-1111
https://www.ikoinoie.co.jp/

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(supported by SUBARU)

木曽平沢の漆器巡り。歴史と伝統、そして美しさに触れる旅。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

『石本玉水』の石本則男氏、愛子さん夫妻。ともに漆器職人として木曽漆器を支え続ける。

DINING OUT KISO-NARAI伝統の木曽漆器を見て、触れて、体験するツアー。

2022年7月末に開催され、大盛況で幕を下ろした『DINING OUT KISO-NARAI』。約2年半の時を越えて開催された『DINING OUT』は、ただ地元を伝えるのではなく、地元の人や文化に触れ、深く地元と繋がることを目指しました。

興奮覚めやらぬその翌日。より深く地元文化を体験してもらうべく、木曽を代表するふたつの文化体験ツアーが企画されました。

ひとつは木曽の霊峰・御嶽を神聖視する御嶽信仰の修行である滝行の体験。そしてもうひとつは、木曽を代表する工芸品・木曽漆器を学ぶツアーです。

【関連記事】山に触れ、山を知り、山に学ぶ。中山道34番目の宿場・奈良井宿を舞台にした19回目の「DINING OUT」速報。
【関連記事】御嶽信仰の聖地で滝に打たれ、やがて心は自然と一体になる。

各地の旅館やホテルで見られる座卓や脇息にも、木曽漆器が多く使用されている。

DINING OUT KISO-NARAI木曽の漆器を支える漆掻きという仕事。

木曽は、良質な木材の産地。木曽漆器のルーツは、そんな木曽の木材を使って作る木製品をさらに丈夫にするために漆を塗ったことが起源です。木製品に漆を重ね塗りする漆器は、庶民の生活用品としても親しまれていました。

そこに変化が訪れたのは明治時代。奈良井の川で漆と混ざりやすい粘土質の良質な土が見つかり、より堅牢で美しい漆器が作れるようになったこと。そこから庶民の道具だけではなく、高級調度品も生産され、木曽は漆器の産地として発展していきます。

『DINING OUT KISO-NARAI』の舞台となった奈良井宿の隣町、木曽平沢。ここは木曽漆器の伝統を色濃く受け継ぐ、漆器の街です。街道が町中を貫く小さな集落に、漆器関連の事業所が100軒以上、漆器店だけでも50〜60軒。そう聞けば、この街と漆器の密接な関係がわかることでしょう。

そんな木曽平沢で行われた漆器体験ツアー。その最初の目的地は漆器ではなく、その元となる漆作りの現場です。

一行を出迎えてくれた竹内義浩氏は、長野県内で唯一、全国でも40〜50人しか居ないという漆掻き(うるしかき)。漆掻きとは、苗木から育てた漆の木に切れ目を入れて漆を採取する職人のことで、竹内氏はそこから精製、調合も手掛けます。その仕事は、漆器職人に渡る前の漆をゼロから生産する仕事。漆の全消費量の1割未満という国産漆を支える、大切な生産者なのです。

竹内氏の仕事場は、木の香りと見たこともない仕事道具の数々に囲まれる不思議な場所。しかし竹内氏の仕事と、漆に対する真摯な想いを伺うにつれ、木曽漆器がより深く、美しく見えてくるのです。

苗木を植え、育て、漆を抽出、精製、調合するのが竹内義浩氏の仕事。漆産業の根本を支える職人だ。

樹皮をひっかくように傷をつけると、その場所を守るように漆が染み出す。木一本から採れる漆は、1回わずか15g。年間でも1本あたり200gほどしか採れない。

木曾漆器工業協同組合の精漆工場。かつては手作業で天日にさらしながら精製していたが、現在は機械で撹拌して水分量を調整する。

漆の苗が成木になるまでは15年。「木も職人も育つまで時間がかかる。それが漆の難しいところ」と竹内氏。

DINING OUT KISO-NARAIそれぞれ個性豊かな3軒の工房を訪れる。

続いては木曽平沢にある、3軒の漆工房へ。

最初に訪れた『うるし工房 石本玉水』は、漆器職人・石本則男氏が奥様の愛子さんとともに営む工房。石本氏は木曽漆器工業協同組合の理事長を務める人物であり、今回の『DIINNG OUT KISO-NARAI』でゲストにプレゼントされた漆器制作においても中心的な役割を担った人物。

得意とするのは、蛋白を混ぜた漆で刷毛目を残して、やや艶を消す松明塗です。刀の鞘に塗られた技法が起源で「カジュアルに普段遣いしてもらいたい」と言います。一方で愛子さんの得意分野は、漆を接着剤として金やプラチナ、顔料などを沈め、そこからノミで削り出すことで図柄を浮かび上がらせる沈金という技法。こちらは絵画のような色彩で、芸術品としての美しさを秘めています。日用品と芸術品。漆の奥深さを改めて感じる工房です。

次に訪れたのは、漆器職人・巣山定一氏の工房『漆芸 巣山定一』。ここでは巣山氏の作品に加え、漆器作りの準備段階の話も聞かせてもらいました。

「漆は特殊な世界で、専用の道具がほぼありません。だから漆器作りのスタートは、まず道具を作るところから」。

そう言って鉋(かんな)を取り出す巣山氏。見事な手さばきで木を削り、作るのは漆に使うヘラや刷毛など。つまりスタート地点に向かうための作業です。しかしこれも、漆器職人の大切な仕事。そんな道具を使って仕上げる巣山氏の作品は繊細でいながら頑強で、末永く愛用できる品ばかりです。

最後の一軒は『伊藤寛司商店』。4代目店主・伊藤寛茂氏の案内で漆器を見学します。ここで目を引くのは、古代あかね塗というオリジナルの漆器。

「塗ったばかりの漆は暗い色。それが使い込むごとに、艶が出て明るくなります。この変化のために、7〜8回重ね塗りする最後の一回に、貴重な国産漆を使用しています」と伊藤氏。

展示されていた経年変化を経た古代あかね塗の器は、鮮やかな朱と見事な艶を放っていました。さらに伊藤氏は工房である築110年の土蔵も案内してくれました。荘厳ささえ感じるような静謐な蔵で繰り返される漆器づくり。改めて、この地の漆器に込められた思いの強さを感じる光景です。

石本則男氏と松明塗。使い込むほどに艶が増す木曽漆器の特性が如実に表れる。

愛子さんと沈金の作品。背後にある額装された作品も、すべて顔料を混ぜた漆を削り出すことで描かれている。

『DINING OUT KISO-NARAI』では、オリジナルの漆器を『木曽漆器工業組合』と制作。とうじそばを入れたそれを、ゲストにサプライズでプレゼント。

『漆芸 巣山定一』の巣山氏。実用性と芸術性を兼ね備えた作品に定評がある。

巣山氏の代表作である姫枡重市松三段は、現在7年待ちの人気ぶり。

「軽さ、持ちやすさ、口当たりの良さ、洗いやすさ、重ねやすさ、という5つの“さ”を重視しています」と巣山氏。道具も自ら製作する。

日用品から高級品まで幅広い品ぞろえに定評がある『伊藤寛司商店』の4代目店主・伊藤寛茂氏。

工房である蔵は築110年で、現役の塗蔵として木曽で最古のもの。作業道具を上げ下げできるように窓が大きく取られているのが特徴。

古代あかね塗の椀。仕上げに希少な国産漆を使用することで、使うほどに艷やかに、丈夫になる。

DINING OUT KISO-NARAI漆とともに木曽の地に受け継がれる、おもてなしの心。

ツアーで巡った漆器の街・木曽平沢には、いくつか特徴的な風習もあります。ひとつは、店にスタッフが居ないこと。

間口の広さで税率が決められていた木曽平沢の建物は、入り口が狭く、奥に細長いうなぎの寝床。通りに面した側に店舗やギャラリーがあり、中庭を挟んで奥に工房がある造りが一般的です。

そして、職人たちは基本的に工房で作業をしているため、店舗部分は無人なのです。客は街道からふらりと店に入り漆器を見学、用があれば呼び鈴を押して工房にいる人を呼び出すというスタイル。不用心なようにも思えますが、これが工房と店舗を併設する木曽平沢らしさなのです。

もうひとつの特徴は、どの工房にもおもてなしの心が溢れていること。職人の方々に漆について尋ねれば、丁寧に教えてくれるのはもちろん、お茶やお茶菓子を出して、座って話し込んでしまうこともしばしば。古くから旅人を迎えた街道の文化なのでしょうか。

「せっかく遠くから来ていらしたからね。ただ“来てくれてありがとう”という気持ちです」。『石本玉水』の石本愛子さんはそう笑いました。

ツアーの締めくくりは、昭和6年(1931年)築の『日々別荘』にてランチ。ここは地域おこし協力隊の近藤沙紀氏が家主を務める施設で、週末に近藤氏主催のカフェがオープンするなど、さまざまな企画で地域活性化の拠点となる場所。

そんな『日々別荘』でこの日は、地元の郷土料理である朴葉寿司と、手打ち蕎麦が供されました。もちろん、器や箸は木曽漆器。器と料理を担ってくれたのは、『漆工房 野口』の野口義明氏と野口早苗さん。さらにこの蕎麦を打ったのは、先にご紹介した漆器職人・巣山定一氏。最後までおもてなしの心にあふれていました。

漆工房で漆の成り立ちを知り、石本夫妻の工房でその奥深さを知り、巣山氏に道具としての漆器のこだわりを伺い、伊藤氏のもとで伝統的な作業を見学し、そして最後に実際に漆器で食事をする。わずか半日の間に、木曽漆器に親しみ、漆器を深く学ぶことができるツアーでした。

漆器は職人の手で塗り直され、丁寧に修復されながら、長く愛用するもの。木曽平沢では毎年、多くの人で賑わう漆器市も開催されますので、何度でもこの街を訪れ、愛用の漆器を塗り直しながら、このおもてなしの文化と、木曽漆器の伝統を体感してみてはいかがでしょうか。

『日々別荘』は、ゲストハウスとしても利用可能なため、1日を通して町を楽しむこともおすすめです。また、より木曽漆器の伝統に触れたければ、ぜひ『木曽くらしの工芸館』へ。奈良井、平沢の職人の作品にも出合うことができます。

人、もの、こと。さまざまな体験をすることによって、この町の魅力は初めて享受できるのです。ですが、一度では、まだ足りないかもしれません。なぜなら、その全てが深く、奥ゆかしいからです。だから、皆、再訪を誓うのかもしれません。

おもてなしは特別なことではなく、ただ感謝の気持ち。それが木曽平沢に共通する人々の思い。

漆器ツアー最後には、『日々別荘』にて食事を。『漆芸 巣山定一』の巣山氏は、蕎麦打ちも行う。左より、『一般社団法人 塩尻・木曽地域地場産業振興センター』太田洋志氏、巣山氏。そして、『日々別荘』にて器と料理を担った『漆工房 野口』の野口義明氏と野口早苗さん、巣山とし子さん。ここにはいないが、今回のツアーは、近藤沙紀さんが構成。多くの地元の方々が参画したからこそ内容の濃い体験につながった。

住所:長野県塩尻市木曽平沢1692 MAP
電話:0264-34-2106

住所:長野県塩尻市木曽平沢1634-35 MAP
電話:0264-34-2254

住所:長野県塩尻市木曽平沢1607 MAP
電話:0264-34-2034

住所:長野県塩尻市木曽平沢1587 MAP
電話:0263-88-8530

住所:長野県塩尻市木曽平沢2272-7(道の駅 木曽ならかわ内) MAP
電話:0264-34-3888

Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

宇和島名物・太刀魚巻。時代を越えて愛される唯一無二の味。[河合太刀魚巻店/愛媛県宇和島市]

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秘伝のタレに潜らせながらじっくりと焼くことで、香ばしく、味わい深いおいしさになる太刀魚巻。

河合太刀魚巻店海産資源の宝庫・愛媛県で異彩を放つ名店。

北の瀬戸内海、南の太平洋、伊予灘、宇和海、豊後水道と豊富な漁場を抱える愛媛県。実際に訪れてみると、魚それぞれの鮮度や脂の乗りに加え、魚種の多彩さに驚かされます。街の食堂にも、魚屋にも、見たこともないようなさまざまな魚が並んでいます。

そんな愛媛県の宇和島に、少し変わった店があります。
店名は『河合太刀魚巻店』。その名の通り、太刀魚巻の店です。これほど魚種が豊富な愛媛で、太刀魚一本勝負。そこにはどんな物語が隠されているのでしょう。

「河合太刀魚巻店」の外観。かつては魚屋で賑わったエリアだが、いま賑わうのはこの店のみ。

河合太刀魚巻店名物はなくても訪れたくなる看板娘の人柄。

「ごめん!今日は太刀魚ないんだよ」

それが取材班を出迎えた『河合太刀魚巻店』の看板娘・河合京子さんの第一声でした。相手は自然。無いものは、無い。

「あるときは週に4〜5日はあるんだけど、無いときはめっきり。5回来て外れて、6回目でようやく、って人もいたよ」

快活で聞くだけで元気がもらえるような京子さんの声に惹かれ、店先でもう少し話を伺ってみました。

聞けば名物・太刀魚巻を考案したのは、京子さんの祖父。まだ冷蔵庫も普及していない時代、大量に揚がる太刀魚を活かすために青竹に巻いてチクワの焼台で焼いたのが始まりでした。

「このあたりは魚棚という地名で、この通りはみんな魚屋だったんだよ」

というが、現在、この店のほかに開いている店はありません。時代の流れを感じると同時に、その次代を越えて愛される太刀魚巻にいっそう興味が湧きます。

「コロッケはあるよ。これもおいしいよ」

それはこの店のもうひとつの名物、アジのすり身のコロッケ。ぎっしりと凝縮されたアジの旨みと、弾力、ピリッと効いたスパイス。素材が良いからか、魚の臭みとは一切無縁。味わい深く、ジューシーで、後を引く絶品です。

さらに京子さんの話は続きます。祖父と父のこと、近年の太刀魚の水揚げのこと、宇和島のこと、テレビの取材で大好きな俳優と中継で話し夢が叶ったこと。まるで昔からの友達と話すような時間。さすがは看板娘。名物の太刀魚巻がなくとも、訪れる価値がある愉しい時間を過ごせるはずです。

「河合太刀魚巻店」の看板娘・河合京子さん。その明るい人柄にファンも多い。

店のもうひとつの名物アジのすりみコロッケ。アジ100%で魚の旨みを凝縮。

プリッとした弾力と旨みに加え、スパイスの刺激もあり、酒の肴にもぴったり。

店の内観。客席などはないが、ここで名物を肴に一杯飲んでいく常連客も多い。

河合太刀魚巻店2日目にして出合えた名物・太刀魚巻。

翌日、取材班はもう一度店を訪れてみました。迎えてくれたのは昨日と同じ京子さんの笑顔。

「今日はあるよ!」

あたりに漂うタレが焦げる香ばしい匂い。焼台では見事な照りを放つ太刀魚巻が焼かれています。これが名物・太刀魚巻です。

淡白な太刀魚の身に絡む濃厚な甘辛のタレ。外側はパリッと香ばしく、中はふっくら柔らかで、ボリュームもたっぷりだ。一本あたり一尾半から二尾の太刀魚を使っているのだといいます。いまや高級魚となった太刀魚の、なんと贅沢な食べ方でしょう。

時代を越えて愛される名物・太刀魚巻。確かにこれはここにしかない、世界でひとつの味でしょう。

遠方から訪れる客も多いというこの店。それはもちろん太刀魚巻とアジのコロッケのおいしさのためでしょう。しかし話すだけで元気がもらえるような京子さんの存在もまた、『河合太刀魚巻店』の価値のひとつであることは間違いありません。

焼台から漂う、タレの焦げる香ばしい匂いは、角を曲がって表通りまで漂う。

外はカリッと香ばしく、中はふんわり。太刀魚の淡白な味わいが、タレとベストマッチ。

住所:愛媛県宇和島市吉田町魚棚28 MAP
TEL:0895-52-0122
http://www.tachiuomaki.com/

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山形・庄内の一流料理人や農家とともに開発したコーラシロップ。[和光アネックス/東京都中央区]

タイポグラフィの美しいデザインボトル。1本で約10杯のクラフトコーラを楽しめる。

WAKO ANNEX出羽三山の麓から生まれた、山形発のクラフトコーラ。

コリアンダー、シナモン、カルダモン、クローブなど、10種のスパイスが織り成す芳醇な香り、ブドウ糖、果糖、黒糖の3種の糖類のキレの良い甘味、レモン、ライム果汁の2種の柑橘のスッキリ爽快感。

それぞれのバランスが絶妙に良い飲み口のクラフトコーラが『YATA COLA』の特徴。製造しているのは、山形県鶴岡市の『ティーズファクトリー』です。

「山形・庄内に住むわたしたちが作る山形を楽しみ味わう、山形発のクラフトコーラ」は、山形・庄内の一流フレンチシェフや農家が集まり、独自のレシピを開発。たっぷりのミネラルと豊富な栄養価も含み、健康にも配慮。老若男女問わず支持を得ています。

前述、スパイスをしっかりと感じることができる一方、クセもなくレシピ派生もしやすく、炭酸割りをはじめ、お湯割り、牛乳割り、いずれも1(『YATA COLA』):3がおすすめ。加えて、料理の調味料としても利用できるため、ぜひお試しを。

様々な飲み方を楽しめるのがコーラシロップの利点。本文中に記したよう、氷で冷やしたグラスに『YATA COLA』とソーダを割るスタンダードをはじめ、『YATA COLA』と冷たい牛乳を注いだアイスチャイや『YATA COLA』と水を鍋で温めたホットコーラもおすすめ。お好みに合わせてぜひ。(全て1:3の割合が目安)

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
(Supported by WAKO)

約300年の成果。土作りから食材に向き合う、絶品ジャム。[和光アネックス/東京都中央区]

一本一本、丁寧に育てられた植木からできた『夏みかんマーマレード』。味わいは甘さ控えめ。皮も残しているため、食感も楽しい。

WAKO ANNEXみんなに味わっていただきたいことは、植木の美味しいところ。

東京都三鷹市の植木農家『天神山須藤園』は、戦国時代の城跡が残る天神山にて14代300年以上にわたり土を耕してきました。

そんな歴史ある農園が「植木をもっと身近に」と展開しているのが畑に実った果物を活かしたジャム類。中でも『夏みかんマーマレード』は、人気の品です。

皮をしっかり残し、甘さは控えめに。苦味と甘味のバランスが絶妙な食べ応えのあるマーマレードは、畑仕事同様、手間ひまをかけ、ひとつひとつ丁寧に作られています。

冬に採った夏みかんは、そのままでは酸味が強いため、収穫後に貯蔵。酸を抜き、春まで待って加工しています。もちろん、化学調味料や合成保存料は一切使用せず、無添加。素材の味を大事にしています。

おすすめは、やはりトーストとご一緒に。塗れば、たちまち夏みかんの香りが立ち、凝縮された味を楽しむことができます。また、ソーダや紅茶ともお試しあれ。上質さが増し、ワンランク上のひと時を満喫できるでしょう。

都市農家として、植木生産農家として、農地の魅力や役割を伝えながら、まちなかに根付き、生きている『天神山須藤園』の姿は、実に清々しく、『夏みかんマーマレード』にも似ます。

名は体を表すごとく、生き方は味を表すのかもしれません。

そんな想いを馳せながら『夏みかんマーマレード』とトーストの朝を迎えれば、爽快な一日が約束されるでしょう。

たっぷりと『夏みかんマーマレード』をパンに載せてぜひ。味だけでなく、フレッシュな香りも魅力。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
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御嶽信仰の聖地で滝に打たれ、やがて心は自然と一体になる。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県王滝村]

『御嶽神社』新滝での滝行。一般体験は『一般社団法人・木曽おんたけ観光局』に問い合わせを。

DINING OUT KISO-NARAI「DINING OUT」翌日。地元の文化を肌で感じるふたつのツアー。

2022年7月末に長野県奈良井宿で開催された『DINING OUT KISO-NARAI』。

約2年半ぶりの開催となった19回目の『DINING OUT』は、地元婦人会や伝統工芸品組合、地元小中学校の生徒たちに支えられ、ゲストにただ地元の魅力を伝えるだけでなく、この先も長く地元との繋がりを生みました。

【関連記事】山に触れ、山を知り、山に学ぶ。中山道34番目の宿場・奈良井宿を舞台にした19回目の「DINING OUT」速報。[DINING OUT KISO-NARAI/長野県塩尻市]

さらに地域と繋がり、理解を深めるために、晩餐の翌日には、地元文化に触れるふたつのツアーが組まれました。ひとつは、『御嶽山信仰』の一貫である滝行、もうひとつは、この地に伝わる木曽漆器の工房巡り。

この記事ではそんなツアーのひとつ、滝行の様子をお伝えします。

滝行の場へと向かう山道。夏日だが登るにつれて空気はひんやりと変わっていった。

DINING OUT KISO-NARAI「御嶽山」を敬い、信仰する「御嶽信仰」の歴史。

土地や歴史、伝統や由縁を知り、その上で見て、感じ、経験する。それが本当の意味の体験となって、心に刻まれるもの。今回のツアーではそんな知識を学びつつ、バスに乗って滝へと向かいます。

ガイドは、木曽の文化や歴史を紹介する輿幸信氏。バスの中では、この地に育ち、『御嶽信仰』を身近に感じてきた輿氏による解説が繰り広げられました。

『御嶽山』は標高3,067m。独立峰としては富士山に次いで日本で二番目の高さを誇り、その悠然とした姿から古くから山岳信仰の対象とされてきました。ただしその信仰は、厳しい修行により悟りを開こうとする修験道。一般の人には、遠い世界の話でした。

それが変わったのが江戸時代末期。「講」と呼ばれる、地域のコミュニティ単位で信仰するグループが誕生します。講の中で集めた資金で代表者が参拝するこの講で御嶽信仰は身近になり、一説によると、一時期にはその数60万人近くまで信者を増やしたと言われています。

滝行のスタイルも、そのときに変化。修験道では1日4回の滝行を100日間続けてようやく山に入ることができた、という滝行。それが徐々に緩和され現在では、日帰りなどもできる比較的体験しやすいものになっています。

しかし、先人たちが命を賭して挑んできた滝行と、その背景は同じ。山に触れ、自然と一体化し、雑念を払い、体に自然のエネルギーを取り込む。それがこの地の滝行の目的です。

窓の外の景色や自らの実体験を交えながら、おもしろく、わかりやすい解説を続ける輿氏。

「私も滝行は何度も経験しています。人生観が変わるような体験です」。

そんな言葉でツアー参加者たちの気持ちを盛り上げます。

ガイドの輿氏(左)と参加者たち。輿氏の話により、ただの山景色が霊山としての意味を持ち始めた。

『御嶽神社』第22代宮司である滝 和人氏のお祓いを受け、正式参拝する希少な体験。

里宮内に飾られる信者に奉納された天狗の面。島崎藤村の『夜明け前』内にも、この面の精密な描写がある。

山の中に無数にある石は墓ではなく霊神碑という信仰の証。『御嶽信仰』では人は亡くなると『御嶽山』に引き寄せられ神の眷属になると信じられている。

DINING OUT KISO-NARAI滝に打たれ、自然に溶け込む。滝行の本質を見たゲストたち。

まず『御嶽神社』で宮司による正式参拝を終えた一行が、いよいよ滝へと向かいます。

普通、一般向けの滝行では「清滝」という滝で行われるところを、今回のツアーでは修験道の修行の場であり、より荘厳な「新滝」へ。水量が多く、流れも強いこの神聖な場所で滝に打たれるのです。

白装束に着替え、次いで準備運動を兼ねた禊。舟を漕ぐような動作と独特の祈りの言葉で山の神を呼び込みます。

禊を終え、水の落ちる轟音に圧倒されつつ、滝の中へ。斜めから日が差し、水しぶきが虹を作る荘厳な風景です。

それぞれ滝に打たれたツアー参加者たち。その顔は一様に、体験前よりすっきりとしているように見えました。
「やる前は不安でしたが、いまは清々しい気持ち」。
「水は冷たかったけれど、だんだんそれを感じなくなり、自分が自然と一体化したような気分になりました」。
「大自然のなかで、自分が、人間が自然の一部なのだと感じられました」。

参加者たちからはそんな感想が飛び出し、輿氏はうれしそうにそれを聞いていました。

「自分が生まれ育った木曽の、他にはない部分を伝えることが私の役目。今日という日の体験で、そんな何かを感じ取ってもらえたら。峠の古道歩きのツアーもやっているので、ぜひまた木曽に来てください」。

輿氏はにこやかにそう話し、参加者たちを見送りました。

轟音とともに水が流れ落ちる新滝。修験者たちが修行の場とした聖地。

準備運動を兼ねた禊の儀。大声を出し、体を動かすことで体の中の悪いものを出し、滝に打たれて新たに良いものを取り入れる。

滝に向かう参加者。大迫力の新滝だが、清浄な空気と水しぶきが心を洗う。

「行けるところまで行き、自然と一体になったと思ったら戻る」との指示。どの参加者も体験後は、その言葉を深く理解していた。

住所:長野県木曽郡王滝村3315 MAP
TEL:0264-48-2637
https://www.ontakejinja.jp/

住所:長野県木曽郡木曽町福島2012-5 MAP
TEL:0264-25-6000
営業:8:30~17:30(年末年始休業)
http://www.kankou-kiso.com/

Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA