今年1月に開催された『DINING OUT URUMA with LEXUS』でも活躍した福岡『ラ・メゾン・ドゥ・ナチュール・ゴウ』の福山剛シェフは、今の状況について「レストラン業界は一度、立ち止まって考える時が来ている」と、話します。
「諸外国を見ていると、まだ毎日店を開けられることが、とてもありがたく思えます。一方で、ここ数年のフードバブル的な空気に、自分も含め業界全体が少し浮かれていた感が否めない。今は原点に立ち返って、料理人は改めてゲストのことを考え、ゲストの方々には自分にとってレストランがどういうものかを今一度考えて頂く時期なのかな、と。その先に、作り手と食べ手の、新しい絆が生まれると信じています」。
2020年3月22日、京都・清水の地に、新たな歴史を紡ぐホテル「The Hotel Seiryu Kyoto Kiyomizu」が誕生しました。その名は、この土地で古来より東山の護り神として信じられてきた「青龍」に由来。客室数48室、レストラン、プライベートバス、フィットネスジムなどを有するラグジュアリーな空間。築80年以上の元清水小学校をコンバージョン(用途変換)しました。
和×洋・モダン×アンティークなど違った要素を掛け合わせたデザインにより、この地の特徴を活かした、ここにしかない建物に。かつて講堂だった建物は、天井の高さを活かした開放的な44席のレストラン「restaurant library the hotel seiryu(レストラン ライブラリー ザ・ホテル青龍)」に生まれ変わりました。多くの書籍に囲まれたインテリアはかつての学校であった頃を彷彿とさせます。“養生ブレックファスト”がテーマの「京の朝食」は、選べるメインディッシュに本日のスープ、サラダ、お粥など日替わりのブッフェが味わえる贅沢な朝御飯。宿泊者以外も入店できるほか、多目的スペースとしてさまざまな用途に利用することも可能です。
また、屋上には京都を代表する「K6」のバーテンダー西田稔氏がプロデュースに参画したバー「K36」も。オーセンティックな空間のメインバー「K36 The Bar」(屋内)と、京都の街並みを一望できるルーフトップバー&レストラン「K36 Rooftop」(屋上)の2つのエリアで、希少なウイスキーやワインを用意。さらに、本格的なフードメニューも提供しているので、幅広い使い方ができそうです。
七尾市のイタリア料理店『Villa della Pace』のオーナーシェフ・平田明珠氏は、5名の中で唯一のIターン者です。東京出身で、大学卒業後は営業マンとして就職したものの、「扱う商品が本当にいいものだとは思えず、売ることが嘘をついているようで嫌だった」ことから、ほどなく退職。学生時代にアルバイトをしていた飲食業に足を踏み入れました。当初は賃金が低くキツいといったネガティブなイメージがあったものの、次第におもしろさを見出すようになり、歴史や文化も盛り込めるイタリア料理で本格的な修業をスタートしました。
「初めの店はシェフがすべて自分で作業し、自家菜園で野菜を育て、ハムなども自家製という自分の仕事を徹底している店でした。そこに3年いて食材の背景まで深く関わる料理の魅力を学んだことが、自分の料理人としてのスタンスを決定付けました」と平田氏は話します。重視しているのは、日本の食材を大切にすること。全国の生産者を訪ねる中で能登に魅了され、移住開業を決意しました。食材がすぐそばにあることは、料理をする上での何よりも大きな魅力だったからです。しかし、平田氏は優れた食材が手に入るというだけでは満足しません。
「本当に美味しい料理は、シェフの世界観が皿の上に表現されているもの。世界観をつくり上げるためには、一つひとつの食材について、その歴史や生産の背景まで掘り下げていき、理解する必要があります。とても根気の要る作業です。食材のそばに来てわかってきたのは、新鮮だからすべてが良いというわけではないこと。旬ではないのに無理して栽培されるものも多く、そのような食材では本質的な価値を提供できないと思っています。今は保存食や野草なども多用するようになり、より能登の風土に合った料理が表現できるようになってきたと感じています」
ひとりは食材を追求し日本各地を歩き回る真摯な寿司職人・江戸川橋『酢飯屋』の岡田大介氏。ひとりは「World’s Best 50 Restaurants」で4度の1位に輝いたデンマーク『NOMA』でスーシェフ兼メニューを開発者として活躍する高橋惇一氏。ふたりは長年の友人同士。活躍の場は違えども、食材を見つめる目や、料理哲学には共通点もいろいろ。そんなふたりは能登島の食材をどう見つめ、そこから何を得たのでしょうか?
『DINING OUT RYUKYU-URUMA with LEXUS』に関わった5人の対談が行われた。左から、『料理通信』編集主幹・君島佐和子氏、コラムニスト・中村孝則氏、ハレクラニ沖縄セールス&マーケティング部部長・市川明宏氏、レクサスグローバルブランディングマネージャー・関根美香氏、『DINING OUT』総合プロデューサー・大類知樹氏。
ダイニングアウト琉球うるま沖縄に残る「精神風土」をストーリーとして描く。
2020年1月中旬、通算18回目の開催となった『DINING OUT RYUKYU-URUMA with LEXUS』。『DINING OUT』としては初めての世界遺産・勝連城跡での開催、その舞台で腕を奮った世界から注目されるシェフユニット「GohGan」の圧巻のパフォーマンスなど、見どころも多かった今回。大いに盛り上がったプレミアムな二夜の模様を、5人の関係者で振り返りました。
大類:一昨年の11月に南城市で開催した『DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS』のときから、琉球神話になぞらえて、1回目はアマミキヨが降り立った「南城」で、今回はその後、アマミキヨとシネリキヨというふたりの神様が住んだと言われる「うるま」、と繋げていこうと。さらに今回は、中世の時代にうるまを統治していた「阿麻和利」という人に注目しました。かつては首里に反逆した悪党とされていましたが「おもろさうし」という沖縄の万葉集のような書物のなかで「肝高」(気高い、という意味)と表現されていることを後々発見されてヒーローになっていく。小国の中でポジションを得るのは大変だったはずですが、独自の文化圏をつくり、経済的に繁栄させた彼は相当レベルの高いプロデューサーだった。この人にスポットを当てることでこのエリアの精神性を表現できるんじゃないかと。
君島:以前孝則さんと、なぜ「傳」の料理長・長谷川さん(『DINNG OUT NIHONDAIRA with LEXUS』を担当)があんなに外国人に支持されるのか話したことがあります。日本料理が積み上げてしまった格式が日本料理を分かりにくくしていますが、それよりも長谷川さんのストレートな、ほら楽しんでよ、っていう方がよほど世界の人々にフィットしたんだと。ガガンもそれと同じことが言えると思います。固有の文化によって、共有している人同士じゃないと分からないものではなく、固有の文化を取り払って感覚で面白いと思うかどうか、というところで支持をされている。
もうひとつ、ガガンの料理をいただいたのは昨日が初めてだったのですが、情報量が多く、五味がぜんぶ詰まっていて削ぎ落すところがなくて、食べていて収容しきれなくなる。それはわたしにとってはあまり快感ではないのですが、一方昨年ずっと考えていたのが、新しい味覚領域の開拓が必要だということ。アートで言えば美しさとはなにか、と絶えず問いかけていくのが役割だと思うんですね。おいしさとはなにかを問いかける役割を担うのがガストロノミー。ガガンがやっているのは、おいしさってなに?と投げかけている行為であることに間違いはなくて、彼が果たしている役割はありますよね。
大類:2013年に徳島県祖谷で開催した『DINING OUT IYA with LEXUS』を担当してくれた米田肇シェフが「レストランの役割というのは味覚を変えること。それが未来の人間を変えることに繋がっている」とまじめに言っていて。口の中に入るものが人を作るから、人間の進化に関わっているんだ、という意識なんです。シェフって料理を提供するだけじゃなくて、もっと大きな存在として成立するんだなと思いました。