エイベックスが新社屋で起こすイノベーション【加藤信介氏インタビュー#2】

アメリカ西海岸のCEO達に学ぶ4つのワークスタイル

企業文化を保つためにAirbnbが取り組んだオフィス拡張計画とは?

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スタートアップがひしめく街、サンフランシスコにはユニークなオフィスが多く存在する。 その中でもここ1年で特に大きな注目を浴びているのが、民泊サービスを中心に提供するAirbnbである。今回は彼らが2017年7月にオープンした、14,000ft²(約1,300m²)に及ぶ新社屋の中身をご紹介する。 注目するのは999 Brannanという場所にあるオフィス。その住所からわかる通り、1ブロック離れた888 Brannanに建つ本社ビルの拡張プロジェクトとしてデザインが施された。 これは同社のオフィスを担当する環境チームが取り掛かる最大のプロジェクトで、サンフランシスコのオフィスデザイン事務所、WRNS Studioと行った。

新たなオフィスが必要となったAirbnbの急激な成長スピード

2008年8月の創業以降、Airbnbは10年足らずで192カ国65,000の都市にサービスを展開。昨年の投資ラウンドでも資金調達に成功し、その時の企業価値は310億ドル以上と多くのメディアで取り上げられた。 企業価値の予測を行うTrefisは今年5月に同社価値を最低380億ドル以上としており、今も右肩上がりの様子だ。 そんなAirbnbは社員の約半数に当たる1,500人をサンフランシスコ本社に置いている。今回の新社屋である999 Brannanオフィスは800人から最大1,000人を収容できるスペースとなっており、同社は今後サンフランシスコの社員数を現在の2倍の3,000人にまで増やしていくとのこと。 この新社屋がオープンした翌月8月には、これまでソーシャルゲーム最大手のZynga本社だったオフィスビルを新たにリース契約した。99 Rhode Islandにあるオフィスも含めると、Airbnbは現時点で4つのオフィス、総面積で650,000ft²(約60,390m²、約18,270坪)ものスペースをサンフランシスコ市内で持つことになる。 Airbnbオフィスは今まさに「都市型コーポレートキャンパス」形成の真っ只中にあり、今後も成長が窺える。 関連記事: airbnb-map-fr

すでに立派なAirbnb本社オフィス:888 Brannan

『ブランド戦略 × オフィスデザイン ー 成功事例に見る企業ブランド構築手法』でも紹介したように、888 BrannanにあるAirbnb本社は企業理念である「暮らすように旅しよう」を表現した特徴のあるオフィスデザインが有名である。 下の写真のように、世界中にある掲載物件をイメージした空間づくりを徹底して行っている。このように実際にAirbnbのサービスを利用するユーザーと同じ環境を作ることで、社員に向けて常にユーザー視点に立ったサービス設計を行う姿勢作りを促しているのである。 airbnb-lobby-fr airbnb1-fr airbnb2-fr888 BrannanにあるAirbnb本社(写真はMark Mahaney)

本社拡張でAirbnbが見据えた3つのポイント

先に挙げたようにAirbnbの「都市キャンパス」化を進める上で通過点の1つとなる今回の999 Brannanオフィスだが、オフィスを拡大させていく上で同社が特に注意を払っていたポイントは次の3つだと見ている。

1. 立地は本社の近く

都市型コーポレートキャンパスを形成する上でオフィス間の距離を近くすることは尤もであるが、その背景に「社員の協業をより促すことができる」というポイントがあることは常に覚えておきたいところ。 近年リモートワークを可能にするテクノロジーが増えていく中で、企業がオフィスに求める役割のうち、「社員同士の協業・コラボレーション」が以前にも増して大きくなりつつある。 実際に今回の新社屋は本社から1ブロック離れた立地に存在し、新たに契約したZynga本社ビルもさらに1ブロック離れた地域に存在。オフィスが市内の1箇所に集中する様子は記事冒頭で紹介した地図にある通りだ。 今回の新社屋デザインに際し、Airbnbの環境チームは社員の提案や意見に積極的に耳を傾け、ブートキャンプスペースやヨガスペース、日本の禅をテーマとしたフィットネスセンター等、新たに必要とされたスペースをこの新社屋に導入した。 キャンパス内にいる社員全員にこれらのサービスを提供し、全オフィスを通してワークスペースの機能を高めることができるのも、すべての社屋が徒歩圏に立地しているからならではである。

2. 1人あたりのデスクスペースは縮小

今回の新社屋では、1人あたりのデスクスペースが通常のオフィスよりも小さく、社員1人あたり220ft²(約20.4m²)から150ft²(約14m²)となっている。これは近年成長を見せるテクノロジー企業に共通して見られる特徴である。 つい最近までは社員1人ひとりに幅広いスペースを提供するというのがオフィストレンドの主流であったが、サンフランシスコを中心に高騰を続ける賃貸料は、オフィス拡張を行いたい企業の1番の悩みのタネとなっている。Airbnb広報のMattie Zazueta氏は「オフィススペースの効率利用に最善を尽くしている」と語る。 ともなると、オフィススペースの密度が課題となりそうだが、この新社屋では建物の特徴であるガラスのフレームワークを上手に活用し、開放感のある空間作りに注力している。建物の特徴を活かしたデザインを施すのが西海岸デザインの特徴であるが、この新社屋はその好例の1つでもある。 airbnb-new1 airbnb-new2 airbnb-new3 オフィススペースはビル全体で16の空間に分かれており、それぞれ50人ほど収容できるようになっている。 各空間にはオーダーメイドのテーブルやスタンディングデスク、3つの通話ブース、そしてオープン/クローズ両方に対応可能なガレージ型ドアを備えた最大30人収容可能なミーティングルームを入れている。様々な働き方に対応できるスペースを用意しているのだ。 airbnb-amsterdam-fr airbnb-floormap-fr airbnb-sketch-fr

3. 全オフィス一貫した空間づくり

888 Brannanの本社オフィスの拡張計画として始まったこの999 Brannanオフィスだが、本社同様、各スペースは世界中にある建物空間の特徴を捉えた様相になっている。そのような統一感を複数のオフィスで持たせることが同社環境チームの仕事の1つだ。 日本の京都やアルゼンチンのブエノスアイレス、インドのジャイプルにオランダ・アムステルダムは実際にこの新社屋で取り入れられたテーマだ。その文化や色彩パターンが各フロアにあるカフェに反映されている。 また世界にある空間の再現を行うだけでなく、「社員のためのオフィス作り」や「企業ブランドの統一」を図るための取り組みも同チームは行っている。 Employee Design Experience (EDX) というプログラムを通じて、実際に社員を最後のデザインタッチ作業に巻き込む。そうして、Airbnbという同社ブランドの一貫性を全オフィスで保つように、社員のアイデンテティが刷り込まれた空間作りを行っている。 airbnb-office1-fr airbnb-office2-fr airbnb-office3-fr写真はMariko Reed 実際に同社は2016年に宿泊場所だけでなく、旅行ツアーや体験を提供するサービスも始めていることから、社員がオフィス体験を向上させる取り組みに加わることはユーザー体験を大事にする同社にとって大きな意味を持つのだ。 このような空間で、Airbnb社員は今日も顧客をイメージしたサービス設計に携わっている。

オフィス拡張?コーポレートキャンパス?それとも第2本社?

今回の999 Brannan新社屋はAirbnb本社の拡張案件として完成したが、同社が周辺物件の契約を結んでいることから、都市型コーポレートキャンパスを形成しつつあるのは記事冒頭で触れた通り。 近年大企業になるほどオフィスに求める機能というのは個別化し、オプションは多岐にわたる。コーポレートキャンパスを都市部に作るか、それとも郊外に作るか、はたまた第2本社オフィスを建設するか。オフィスは今まで以上に企業の成長戦略と密接した存在になりつつある。 今後会社が成長するにつれて自分のところではどのようなオフィスを持つべきなのか?本ブログでは、今後も海外事例を取り上げていきたい。 *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。

意外と知られていない会社での飲酒のメリット・デメリット

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夕方に入り、ある程度の疲れを感じてきたところで飲むビール。サンフランシスコ・ベイエリアを中心とした多くのスタートアップでは、以前より社内でのアルコール無料提供が社員に支持されている。大企業とは違った自由な働き方を象徴する要素の1つだ。 日本にも昔から「飲みニケーション」という言葉があるように、お酒は人の交流や会話を促してくれるもの。社員同士や社内外のコラボレーション促進に特に取り組む近年の企業トレンドを考慮すると、ひょっとしたらこれからのオフィスの必需品になるのかもしれない。 しかし「飲まないとコミュニケーションできないのか」という議論もまた挙がるように、ここは賛否分かれるポイントでもある。結局のところ、オフィスでのアルコール提供はアリなのだろうか?近年のスタートアップの動きも入れながら考察すべき点を見ていきたい。

海外で広く飲まれる社内でのアルコール

仕事後の一杯はどこの国でも大昔から行われてきただろうが、「オフィス × アルコール」のイメージを強くしたのは、近年話題のWeWorkではないだろうか。コワーキング業界を牽引する同社の世界各地域のスペースにもビールサーバーが設置されており、これがWeWorkのトレードマークの1つとなっている。 コラボレーションを促進する次世代のワークスペースにビールサーバーが平然と置かれている光景は、多くの人にとって衝撃的なものだっただろう。 wework-beer1 実はこのビールサーバー、カリフォルニア州にあるオフィススペースには現在設置されていない。 スタートアップや企業がオフィス内で社員に対しアルコールを提供する分には問題ないが、WeWorkの場合は入居者に対して形式上「大家、不動産賃貸会社」という立場になり、カリフォルニア州でのアルコール提供には酒類販売のためのライセンスが必要になるのである。 今年2月にサンフランシスコのダウンタウンにあるスペースへの入居を決めたTable Public Relationsの創業者、Anna Roubosも「あのビールサーバーはどこにあるの?」と驚きを隠せない様子だった。彼女のように入居理由にビールサーバーを挙げる人もいるほど、ワークスペースでのアルコールは現在人気なのである。 weworkboston-beer ボストンにあるWeWorkでは、フロアごとにどの生ビールが飲めるかウェブサイトで確認できるようになっている。 実は法的にグレーゾーンだったコワーキングスペースでのアルコール提供だが、ここに挙げたWeWork以外にもサンフランシスコにある様々なコワーキングスペースでは、州からの指摘があるまで必ずと言っていいほどビールやワインの提供が行われていた。 そしてその中でも、以前からライセンスを取得した上でお酒の販売を行っているCovoはそれを武器にして、現在もアメリカ各地への展開を進めている。アルコール提供のカウンターをしっかりと設け、夕方からビールやワインのラインナップを充実させたサービスを提供。 「数々のミートアップやビジネスイベントを開催する上でもアルコール販売は貴重な収入源となっている」と創業者の1人であるJason Panは語ってくれた。 covo-counter サンフランシスコにあるCovoのバーカウンター 関連記事:【2017年最新版】コワーキングスペース 世界の8トレンド 同様にスタートアップにおいても、社内でのアルコール提供は社員にとって人気の福利厚生の一部になっている。TwitterやGlassdoorといった企業を筆頭に多くの企業が豊富な種類のビールやアルコール飲料を提供。 コミュニケーションツールの開発を行うAsanaでは、スコッチとチョコレートという少し洒落た方法で提供している。GithubやYelpでは仕事後に限られたスペースでのみ飲酒が許可され、FacebookやGoogleでもマナーに沿った上での飲酒が認められている。 airbnb-beer1 airbnb-beer3 筆者が訪れたAirbnbのオフィスでも豊富な種類のビールが用意されており、午後4時以降に飲むことができる。 関連記事:Google、Facebook、Airbnbはどのようにしてチームビルディングを行っているのか? またこのような「軽く飲む」企業文化に乗じて、企業向けにアルコールの提供・配達を行うサービスも生まれている。スタートアップのHopsyは、新鮮なローカルビールを企業オフィスに販売・提供。 ビールサーバーの無料提供も行い、社員の通常のハッピーアワー用にサブスクリプションモデルで一定量の供給を行い、またオフィスで開催されるイベント用にも必要なだけデリバリーを行うサービスを提供している。 hopsy1 hopsy2 btraxオフィスにもあるHopsyのビールサーバー。どこにでも設置しやすいように軽量化されており、中身はHopsyから送られてくるビールの入ったペットボトル”Torps”を入れ替えるだけ。

なぜわざわざオフィスでアルコール提供を行うのか

このようにコワーキングスペースやスタートアップ企業がワークスペースでアルコールの提供を行うのには、主に次の2つの理由がある。

1. オフィススペースで社員やユーザーのコラボレーションを促したい

すべての人ではないにしろ、やはり多くの人にとって、お酒は他人との会話や交流時の潤滑油的役割を果たしている。そしてそれは国境を超えた共通認識であり、多種多様なバックグラウンドを持つベイエリアの社員同士の交流にも非常に便利なものである。 また、社員同士のコラボレーションの成果は、他のどこでもなく、オフィスで表れてほしいという企業の願いもここに込もっている。在宅勤務も増える現代の働き方の中で、社員を意識的に集めた「オフィス」という場所のコラボレーション機能を向上させるために、アルコールは利用されている。

2. 優秀な人材獲得に向けて自由な企業文化をアピールしたい

アメリカのミレニアル世代の社員は大企業的な組織よりも自分の活躍の機会を得やすく、自由な企業文化を持つスタートアップのような企業で働くことを好む傾向が強い。 企業や人材にもよるが、ワーク・ライフ・インテグレーションといった言葉もある中で、仕事とプライベートを分けずに自由に飲酒できるような環境を通じて自由な社風を表現する企業が増えている。 このように企業のアルコール提供の背景には、人事的な理由が存在している。しかし、そんな文化が強いスタートアップ業界でもアルコールを明確に禁止する企業が現れ始めている。

一方、SalesforceやUber、Jet.com買収のWalmartで進む禁酒政策

サンフランシスコを代表するテック企業の1つであるSalesforceは、社内でのアルコールを取り締まろうとしている。昨年10月に社内の冷蔵庫にあったビールや生ビール用の小さい樽を見た同社CEOのMarc Benioffは、25,000人いる社員全員に対し、社内での飲酒を認めない旨を伝えるメールを一斉送信。 ”Ohana”(ハワイで「家族」を意味する)という言葉を用いて社員のつながりを大事にしているSalesforceだが、アルコールにその価値を求めていないようだ。同氏はアルコール提供が進むテック業界のパイオニア的CEOの1人として、多くの意味で注目を集めている。 同様に、Eコマース系スタートアップのJet.comでも飲酒が禁止に。その背景には、2016年8月に同社の買収を行った大手小売のWalmartがある。WalmartはJet.comの社内飲酒のみならず、週に1度行っていたハッピーアワーイベントも廃止したとのこと。社内からは不満の声が上がる中で、スタートアップカルチャーの”調整”が行われた。 人事管理ソフトウェア開発を行うZenefitsでも、2017年に新CEOのDavid Sacks体制の下で社内飲酒が禁止された。同社は、創業者兼前CEOのParker Conrad氏が関与した不正を始めに様々な問題が2016年に発覚。 正式な州政府のライセンスを持たない保険外交員を雇用していた問題や、その認可を受けるために必要なオンライントレーニングにおいて不正行為を可能にするソフトウェアの使用、また社内での性行為等、映画『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』並みのカルチャーを一掃する動きにでた。 また、様々な社内問題で騒がれることの多いUberも、前アメリカ司法長官のEric Holder氏の法律事務所推薦の下、会社が定めるコア・ワーキング・アワー内での飲酒を昨年7月に禁止。さらにアフターアワーイベントでのアルコール予算も減らす等の施策が取られている。

なぜ禁酒に戻そうとしているのか

スタートアップ業界を中心に社員から根強い支持のある社内アルコール。提供を続ける企業も多い中で、ここに挙げた企業のトップ達が感じていた懸念点は以下の4つである。
  • アルコール提供分の出費がかさむ
  • 社内でのセクハラ等、悪酔いする人の悪行が増える
  • お酒が苦手な社員にとって、ほろ酔い社員は迷惑な存在
  • 酔った社員がオフィス外で問題を起こした場合、企業の責任が問われる可能性がある
ここに上がったポイントは、社内でのアルコール提供を検討する際に企業が知っておくべき、また気をつけるべき点である。企業はこれらのリスクを踏まえた上で計画的な導入が必要になるだろう。

これらを踏まえた上で

社内でのアルコール提供のポイントや事例を見てみて、読者の方はどのような感想を持っただろうか。これだけのリスクを背負いながら、アルコール提供を進める企業が多くあることに驚きを感じた方もいるだろう。 しかし、このようなスタートアップ的で大胆なワークカルチャーを参考に導入を進める企業は実際に今も増加傾向にある。 自由な働き方を提供するためにアルコール提供を検討する企業は、会社やオフィスの規模にかかわらず今後も増えてくるだろう。そのような時には、本記事で触れたポイントを考慮した上で、自社のワークカルチャーに沿った判断が必要になる。 この記事が読者の働き方変革の一部分に役立てられれば幸いである。 *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。

世界4大IT企業“GAFA”に学ぶ次世代の働き方 (前編) -コーポレートキャンパスの実態を探る

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仕事の作業スペースに留まらず、生活に必要なほぼすべての機能を広大な敷地に内包するコーポレートキャンパス。 スポーツ設備や娯楽施設、カフェテリア、ヘルスケア施設に移動手段となる通勤バス等をすべて無料で社員に提供し、カジュアルな格好に自由な就労時間という環境を整えたこの「キャンパス型オフィス」は、今日のワークスペースの中でも最高レベルの施設だろう。 今回はそんなコーポレートキャンパスについて、前後編の2部作にわたってお送りする。世界の大企業が社員の働き方改善のために取り入れたワークプレイスとはどのようなものだろうか。本記事では、コーポレートキャンパスの紹介とその歴史について触れていく。 関連記事:これからの企業に不可欠な三種の神器とは

コーポレートキャンパスとは

googleplex 「コーポレートキャンパス」と聞いた時に一番に思い浮かぶのが、カリフォルニア州マウンテンビューにあるGoogle本社のGoogleplexだろう。「キャンパス」という言葉が入っているように、コーポレートキャンパスには大きく次の3つの特徴がある。

1. 広大な敷地と仕事用作業スペース

「キャンパス」と呼ばれる所以は、ある程度の人数がそこで共同作業を行えるというところにあり、実際にここで紹介する企業も1つのキャンパスに数万人単位の作業スペースを充実させている。比較的に大きなワークスペースになるので最低でも数百人単位になる。 郊外にあるキャンパスならばそれを実現しやすいし、都市部にあるものでも高層ビルや近い建物とのツギハギでキャンパス化を行うことができる。この広いスペースはもちろん仕事の作業以外のスペースにも充てられる。

2. 娯楽・生活スペース

次にキャンパス要素として挙げられるのは、生活スペースや、それを通じて人とのつながりを作る社交的な環境だ。大きな企業になればなるほど社員同士のコラボレーションや共働というのは大きな課題となる。 カフェテリアやジム、運動場等が学校キャンパスにあるように、社員が集まってミーティングをする場所だけではなく、予期せぬ場所での社員同士の偶然の出会いが起こるような動線設計も必要だ。またクリニックのように、社員の健康維持をサポートする施設もコーポレートキャンパスに見られる特徴の1つである。

3. 自然豊かな公園施設

他の単なる巨大オフィスには無くてコーポレートオフィスにある特徴は、庭があること。室内や室外にかかわらず、自然豊かな公園スペースを確保し、社員のインスピレーションの源となるような環境があることもコーポレートキャンパスと呼ばれる条件の1つだ。 google-newcampus BIG & Heatherwick StudioによるGoogleの新キャンパスのデザイン こうして他に類を見ない充実した施設とそこでの社員の自由な働き方はこの種のオフィスの最大の特徴だ。そして、先述のGoogleを含めた世界の4大テクノロジー企業と言われているGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の本社はすべてこのコーポレートキャンパスの形態を取っている。 そんなコーポレートキャンパスはどのように成り立ってきたのだろうか?

コーポレートキャンパスの歴史

BL-TransitorTeam Bell Labsのトランジスタチーム(写真はComputer History Museumより) もともとコーポレートキャンパスは、アメリカ国内においてリサーチサイエンティストやエンジニアのための研究開発施設として誕生した。最初に作られたのは、アメリカ最大手の電話会社、AT&Tがニュージャージー州に1942年に建てたとされるBell Labs。 初期のコーポレートキャンパスはアイビーリーグの大学キャンパスのように、草木が生える自然豊かな中庭が存在し、穏やかで安全な場所で研究開発に集中できるように設計されたワークプレイスだった。 当時のコーポレートオフィスは、インダストリアルパーク、リサーチパーク、もしくはテクノロジーパークと呼ばれ、その名が表す通り産業と科学の融合を実現させる先進的な設備であると同時に、自然を享受する場所であった。 このBall Labsに続き、1950年代にはGeneral Motors、General Electric、IBMそしてGeneral Life Insuranceといった企業が、広い敷地が確保できる郊外に同様のコーポレートキャンパスを建設した。 bell-labs Bell Labs(写真はTypology: Corporate campusより) radcllife-quad アイビー・リーグを代表するハーバード大学の中庭、ラドクリフクアッド それまで都市部にオフィスを持っていた大企業が少し離れた郊外にコーポレートキャンパスを建てたことは、当時の人口移動問題に繋がった。1950年代、戦後のアメリカにおいて都市部の人口は溢れ、さらに市民は人種ごとに分かれて暮らし、不安定な治安状態であった。その中で中流・上流階級の白人が、非白人の多い都市部から郊外へ移る、いわゆる「ホワイトフライト」が発生。 コーポレートキャンパスには高学歴の白人研究員が多く集められたこともこのホワイトフライトを起こした要因の1つとなった。

キャンパスで育まれる企業文化

その後、コーポレートキャンパスは物理的に設備の整ったワークプレイスであるという点以外にも、「文化的、そして社交的な場所」、つまり社員同士が仕事以外にもつながりを構築できる場所だという認識が形成されていった。 アメリカの大学キャンパスが単に勉学を行うだけの場所ではなく、時には課外活動や、スポーツ、社交的活動を通じて学生生活そのものを豊かにする場所であるように、コーポレートキャンパスもただ仕事をするためだけの場所ではなかった。社員の共同体意識や地域社会的意識を育むには最適で、彼らの生活全般を良くするものだったのである。 関連記事:オフィスデザインの軸となる“企業文化への理解”とは 実はコーポレートキャンパスが持つ文化的な側面は、今日テクノロジー企業が多く集まるサンフランシスコ・ベイエリアの文化と密接な関係があると言われている。それはコーポレートキャンパスの誕生の背景が、1960年代にサンフランシスコで発祥したヒッピー文化の考え方に非常に近いということ。 当時ヒッピー達はすでに文化が出来上がっている先進地域から離れて、自然のある場所で近しいマインドセットをもつ人々と独自の集落を作り、自らのルームを決め、自分を解放した。その姿が、テクノロジー企業が郊外に自らの企業文化で固めたキャンパスを作る姿と重なるというのである。 機能的な部分で評価されることが多いコーポレートキャンパスだが、実は企業のマインドセットを社員に反映させる上でも重要な役割を担うことが時代とともに認識されるようになった。このように社員の包括的なオフィス体験を高め社員の成長を実現させるにつれて、コーポレートキャンパスは進化を遂げながら、研究職以外の一般社員用のオフィスにも適用されていった。 オフィスはそれまであった従来のワークプレイスの常識から抜け出し、レクリエーション施設やカフェテリア、ソーシャルスペース、簡単な買い物やサービス施設を含むところまで拡大。社員がコーヒーを飲んだりテニスをしたりすることはあくまで企業が提供するワークスタイルをこなしているに過ぎない、という考え方が一般的になっていった。

21世紀のキャンパス

そのように少しずつ改善を続けてきたコーポレートキャンパスだったが、1990年代から在宅勤務の考え方や一部作業のオフショアリングが少しずつ広まるようになり、「社員が常にオフィスにいる」こと自体が少なくなった。それに合わせ、コーポレートキャンパスの機能にも変化が見られるようになった。 企業は社員にオフィスに来たいと思わせるような工夫として、上に挙げた施設以外に実際に食事を作れるスペースやリビングルームのような生活空間を漂わせるような空間づくりを行った。 さらに自身で運転する代わりにインターネットに接続可能な企業専用通勤バスも提供し、自宅にいてもオフィスにいても時間を有効に使いながら仕事と生活行動のほぼ全てを行うことが可能になった。そして今日のコーポレートキャンパスは私たちがGoogleplex等で知る仕様になっている。 企業が現代のコーポレートキャンパスに求めるものは、最終的には社員同士の出会いと共働である。今キャンパスに置かれている公園や娯楽施設、生活スペースは自宅にいても同機能を利用することができる。しかし、同僚に会えるのはこのコーポレートキャンパスなのだ。 これこそ今日のコーポレートキャンパスがワークライフインテグレーションを支える理由であり、そのキャンパスがオフィスの仕様を超える目的である。仕事と生活の一体化こそ、コーポレートキャンパスが実現する新たなワーク/ライフスタイルだ。 lego-campus デンマーク・ビルンに2019年完成予定のLEGO Campus ここに現時点で企業のコーポレートキャンパスが提供する施設・スペースを並べてみた。このリストを見てみると、現代のコーポレートキャンパスがもはや単純に「オフィス」とは呼べないほどの施設になっているのがわかる。
  • カフェテリア
  • バー
  • 保育施設
  • 美容室・ヘアスタイリングルーム
  • ランドリールーム・クリーニングサービス
  • 温泉・スパ・サウナ
  • 病院
  • ゲームルーム
  • 仮眠ルーム
  • マッサージルーム
  • ジム
  • スイミングプール
  • バスケットボールコート
  • ハイキング・ジョギングコース
  • 自転車修理
  • 公園
  • 映画館
  • 植物用温室
このような巨大キャンパスを持てるのは世界でも一握りの企業ではあるが、世界的に著名なテクノロジー企業GAFAを中心とした資金力のある企業は次々と建設を進めている。彼らが持つコーポレートキャンパスから見えてくるものは何か?後編で触れていくことにする。 参考: "The New Corporate Campus" "Modernism, Postmodernism, and corporate power: historicizing the architectural typology of the corporate campus" "The rise of the corporate campus" "Upbeat Site Furnishing – A LOOK INSIDE WHAT’S SHAPING THE NEW CORPORATE CAMPUS" *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。

ブランド戦略 × オフィスデザイン ー 成功事例に見る企業ブランド構築手法

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企業・組織の成長に欠かせないとされるブランディング。特にビジネスにおいては企業と顧客の接点を作る上で非常に重要になるものだが、そのブランディングをオフィスでも行う企業は増えている。なぜオフィスがブランディングの舞台となりうるのか。5つのアメリカ企業の例を紹介する。 関連記事:UNIQLOも導入!日本の働き方を変えるアメリカ西海岸のオフィスデザイン

なぜブランディングをオフィスで行うのか?

まず念頭に置いていただきたいのが、本記事で取り上げるブランドとは数あるブランドの中でも「企業ブランド」であること。企業ブランディングとは自社企業に対して顧客に持ってもらいたい感情やイメージを設計することであり、その結果生まれる「企業ブランド」が企業と顧客との感情的な接点となる。 特にオフィスは企業・顧客間の物理的な接点になる場所の1つであるのはもちろんだが、また社員と企業の重要な交流の場でもある。このように様々な接点を生むオフィスは企業のブランドやそのストーリーを伝えるのに最適な場所の1つなのである。 オフィスでブランドを表現する際、それは「ロゴや色だけで完結するもの」だと思いがちだ。しかしこれは大きな間違いで、企業の芯となるオフィスだからこそ、むしろ企業のカルチャーや社員の働き方を的確に表現する必要がある。ときには企業の経営戦略やビジネスにおける包括的なゴールを見据えながら、なりたいと思う将来の像を具現化することで、顧客や社員に魅力を与え続けるブランドを確立することが可能になる。 brand-expression ↑Steelcaseによるレポート”Brand, culture and the workplace”より引用。やはりロゴを散りばめる等でブランドを表現している企業は70%と多くいるが、それで十分なブランディングができているとは言えない オフィスにおいて企業のカルチャーとブランドは混同してしまいがちだが、カルチャーが社員のアイデンティティだとするならば、ブランドは企業のアイデンティティだと捉えられる。オフィスはこの両方をバランスよく表現するべきで、ブランドを通して企業がなりたいと思う理想と近しいカルチャーを構築できる人材を獲得し、そこでできたカルチャーでブランドをさらに強化していくという相互間の関係性が大切になる。 それではそのブランドを上手にオフィスに落とし込んでいる企業5つを紹介しよう。

ブランドを巧みに表現したオフィスを持つ企業5選

1. Airbnb: 暮らすように旅しよう

airbnb-lobby 話題の「民泊」サービスで世界を牽引するスタートアップ、Airbnb。サンフランシスコでも特に名の知れた企業であるが、その本社オフィスは彼らが提供するサービスとそれを実現する企業のビジョンを明確に表現している。 倉庫跡を利用した広々としたスペースのオフィス建物には大小いくつものミーティングスペースが用意されているが、その中で1つとして同じデザインのものはない。それぞれのミーティングルームは実際にAirbnbで掲載されているスペースを再現しているのである。 フロアやエリアごとに「ブエノスアイレス」「京都」「アムステルダム」といった世界の都市をテーマに掲げ、色のパターン、材質等でローカルの雰囲気を表現。社員はオフィスにいながら世界中に登録されている物件を味わうことができる。 airbnb2 このようにAirbnbの本社オフィスは彼らが提供するグローバルスケールなサービスをデザインで表現している一方で、それを利用する社員の「ローカルとしての意見」にも気を配った。同社は今回デザインを決定する前段階で、社員に”Employee Design Exeperience”と呼ばれるプログラムを提供。世界にある実際のスペースを再現しながら、同時に本社にいる社員にデザインの最終的なタッチを手伝ってもらい、彼らのアイデンティティを落とし込んでいった。 「暮らすように旅しよう」という同社のステートメントにあるように、「現地の住民のような生活で得られるリアルな体験」と「ユーザーが持つ独特な視点」の調和で限りない体験価値を提供していくという彼らの姿勢が、オフィス全体で強く伝えたいメッセージとなっている。 airbnb1 今回画像を用意することはできなかったが、社内には人を撮った写真がいくつも飾られており、その被写体は実際にスペースを貸し出しているユーザーだ。Airbnbは彼らあってのサービスであるため、「そのユーザーのためにサービス開発を行っていく」という思いを常に持ち続けるようにしているという。 誰のためにより良いサービスを求めていくのか、社員全員が常にその意識を持って仕事に取り組めるよう、オフィス環境からその風土を整えている。ユーザーとの接点を常に意識する姿勢を表現しているAirbnbオフィス。この場所は訪れる人すべてに、彼らがいかによりよいサービスを追求しているのかを強く伝えている。

2. Ancestry: 科学とテクノロジーで自己発見を

ancestry Ancestryは戸籍制度のないアメリカにおいて、ユーザーに自分の先祖やルーツを調べることができるサービスを提供している。入国記録や移民記録、婚姻記録に兵役記録に至るまで様々なデータを活用し、家系を辿っていく。そうすることで「人のつながり」を見ていくことを可能にしている。 だからこそAncestryがこのオフィスを作る上で重視したのが、彼らが持つテクノロジーを通じていかに人間味を表現できるか、というところだった。その背景から、オフィスの壁には自社サービスを通じて社員自身が見つけた、まだ見ぬはるか遠い親戚の写真と社員自身の写真が2つ並んで掲示されている。 こうして写真を2枚並べることで、扱うものはテクノロジーだが、それを使って提供したいことは「人のつながり」を見つけ出しユーザーの感情に訴えかけるもの、という企業の想いが強く伝わるようになっている。 ancestry2 またオフィス建物の入り口には複数の色、層で作られたグラフィック作品が展示してあり、異なる色が様々な人々のそれぞれの先祖を表現。色を重複して使うことで、世界の歴史は私たちが気づかぬところでも強いつながりを持って構築させていったものであることを表し、企業としてこのように大きなビジョンを持ってサービスを提供してきたことを伝えている。 ancestry3 オフィスの機能面でも「人間のつながり」を意識しているため、休憩用の部屋やファミリールームといった場所は人が集まる場所としてオフィスの中心に存在し、そこで生まれる社員の交流をAncestryは何よりも大切にしている。 このように企業が人間のつながりというものに対しどのような視点で取り組んでいるのかが見えてくると、彼らが提供する価値の重みも自然と感じられるようになる。

3. Instacart: ユーザーの日々の生活改善を行う、人々にとって身近な企業に

instacart1 買い物代行プラットフォームのInstacartはサンフランシスコで急成長を遂げてきたスタートアップの1つ。スーパーやドラッグストアなど複数の小売店と提携し、ユーザーが買いたいものをオンラインで指定すると、ショッパーと呼ばれる個人がユーザーの代わりにそれらを買って即日配達するサービスを実現している。そのオフィスデザインは先日インタビューを行ったSeth Hanley氏によるものだ。 関連記事:オフィスデザインの軸となる“企業文化への理解”とは Instacartの本社は居心地の良いアットホームなデザインが特徴的。これは起業時のスタートが決して派手なものではなかったことと、「人々の生活を改善したい」という想いのもと顧客に寄り添うことを重点に置いた企業ミッションを反映している。 オフィスにあるカフェは同社創業者が起業当時に住んでいたアパート近くのお気に入りのお店から影響を受け、その小売店での体験をオフィス訪問者に与えたいという意志が表現されている。特に6階にあるカフェは受付の隣にあり、オフィスに訪れたその瞬間から創業者が一番伝えたいと考える温かいイメージを来る人すべてに与えるような設計が施されている。 instacart2 instacart4 また、食料品配送ボックスで作られたオーダーメイドのスタンディングデスクや、野菜が一面に広がる壁で買い物の体験シーンを表現。企業が常にユーザーの一般的な生活と隣り合わせでサービスを提供していることを表している。実際に社内ではショッパー向けに食料品のレプリカを並べ、良い野菜や果物の見分け方をレクチャーする空間も用意されている。 ユーザーに寄り添うブランドをもつ企業にこそ参考にしてほしいオフィスだ。

4. adidas: スポーツを通じて人々の生活を変えていく

adidas1 誰もが知るスポーツブランドのadidasだが、ロシア・モスクワにあるこのオフィスは特徴的だ。全6階の建物のうちの3フロアはオフィス、2フロアはフィットネスセンターで、残る1フロアはプロトレーナーが最新トレーニングプログラムを提供する「adidas Academy」用の施設となっている。このように異なる機能と目的を同時にもつ複雑な作りになっており、だからこそここを訪れる人には分かりやすく、伝わりやすいメッセージが必要だった。 このオフィスでadidasは企業としてアクティブなライフスタイルに注目する姿勢とスポーツそのものへの愛情を表現。すべての階でキックボードでの移動を可能にするため専用のトラックと保管場所を用意している。 また天井の照明部分にはサッカーボールを彷彿とさせるデザインを施し、オフィスにあるほとんどの仕切りは透明で広がりを見せることでスポーツ競技場のような広々とした空間を演出。白一面の壁にはアスリートの写真とモチベーションを上げる言葉が書かれている。 adidas2 adidas3 建物中央にある受付ホールは本物のスポーツスタジアムの見た目に近づけている。例えば、大きなメディアスクリーンにテキストが流れる電子掲示板やビデオ映像を流すスクリーンに2つの大きな照明塔がそうだ。受付デスクはこのホールの奥にあり、一般的なオフィスのように一目でわかる場所には置かれていない。 圧倒的な世界観を表現したadidasのモスクワオフィスは、人々がもつ同社へのイメージを一層強化するような仕組みが施されている。スポーツで人々の生活を変え、アスリートの不可能を可能にするという企業理念の実現は環境づくりから徹底して行われている。

5. Zynga: 皆がプレーできるゲームを通じて人をつなぎ、多くの人に愛される企業に

zynga1 ソーシャルゲームの最大手企業として有名なZyngaは、これまで農場管理を他のユーザーと一緒に行うFarmVilleやFacebook上で他のプレーヤーとポーカーが遊べるZynga Pokerといった、誰でも簡単に遊べて人と交流できるゲームの開発を行ってきたスタートアップ。そのゲームを通じて人をつなげることを企業理念に掲げている。創業者のMark Pincus氏はこれを元に創業間もない頃からブランディング戦略を重視していた。 彼が抱くブランドイメージを最も明確に体現したのが、企業名やそのロゴの由来ともなった彼の愛犬、Zingaである。遊ぶのが大好きでありながら忠誠心は強く、皆に愛され、何かをするときには常に中心的存在になりたがった性格が、企業が提供するゲームだけでなく、社員の行動規範としても大事な見本となった。オフィスには今も社員のペットが多く集まり、その光景は「誰にでも愛されながら人の交流を手助けする」環境づくりの大事な要素と一つとなっている。 zynga2 また彼はビジネス分野がソーシャルゲームということもあって社員の社交性を重要視しており、今では無料カフェテリアを置くところが多いスタートアップ業界内でも、特に早いうちから従業員に無料の食事プランの提供を始めた。現在でも昼だけでなく、朝食や夕食まで提供しているところはZynga以外になかなか見られない。また創業時のジムのメンバーシップ制度から始まり、後に社内でフィットネス設備を自前で設置するなど、社員には積極的に手厚いサポートを行ってきた。 「世界をゲームでつなげる」というミッションステートメントを掲げる以上は、まずは社員がつながっていなければいけない。ゲームの世界を表現したオフィスで社員が固まって活気あるミーティングを行う姿はユーザーにも他の社員にもポジティブな印象を与える。 ゲーム業界により多くの人を巻き込んで盛り上げていくZyngaの姿勢の裏には、こういった社内の環境作りがある。「人をつなげる」という理念をどこでも実現させていこうするその努力はブランドに説得力を持たせるのだ。 zynga3 本記事で掲載した写真はOffice snapshot、Office lovinよりダウンロード *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。

【2018年】btraxが注目する10のスタートアップ

2018-theme
2017年は前年同様、人工知能(AI)やドローン、ヘルスケア分野での最新テクノロジーへの注目が高く、また日本では新たにスマートスピーカーをはじめとしたバーチャルアシスタントも大きな話題を呼んだ。いずれのサービスも私たちの生活を変える実用的なものが増えてきたのではないだろうか。 関連記事:2017年に終わりを告げたスタートアップ5社に学ぶ教訓 btraxでは今年も注目のスタートアップを選出。私たちの生活に変化をもたらすと期待される10のスタートアップを紹介する。

1. Lisnr: 超音波技術を駆使したチケット認証、デバイス間接続、メッセージ

lisnr1 主要投資家: Synchrony Financial, Intel Capital, Progress, Ventures 調達額: $14.35M

サービス概要:

超音波技術を駆使した音声データ通信システムを提供。「音声のインターネット Internet of Sound」とも呼ばれる自社開発の”Smart Tone”技術を使い、スマートフォンを通じて人間には聞こえない超音波を発することで、インターネット接続なしに近距離でのデータ通信を行えるようにする。これをチケットの認証やデバイス間接続、メッセージの送受を含む様々な用途で利用する。 このSmart Tone技術はスマートフォンで利用されるため個人との紐付けが可能。最近アーティストのコンサートやスポーツの試合でのチケットの高額転売やダフ行為が問題視されているが、そういった偽ユーザーの識別から不正なチケットの複製・転売行為まで防ぐと期待されている。またこの認証プロセス自体もシンプルなもので、イベント会場に入るまでの長い行列の解消にも繋がると言われている。

注目の理由:

先述したように、近年チケットの転売行為があまりに多いことからそれに対する対策が各業界、個人で行われている。アメリカのスポーツ観戦チケットでは転売容認の方向に向かい、2次、3次の流通マーケットが拡大している一方で、音楽業界では転売防止対策が積極的に行われている。 特にアーティストが自身のコンサートであらゆる工夫を行っており、例えばビリー・ジョエルのコンサートで最前列の席を通常券購入者にランダムで提供する取り組みや、テイラー・スウィフトの新チケット購入プログラムであるTaylor Swift Tixの導入等が行われている。 これらの取り組みを受けてアーティスト以外にもその動きは広がり、昨年アメリカ大手チケット販売会社のTicketmasterがSmart Tone技術を導入し、それまで使っていたQRコードによる認証を置き換え始めている。今後あらゆるイベントで利用されていきそうだ。 またSmart Toneはイベントのみならず他のセキュリティ認証にも次々と導入されている。Lisnrは昨年、自動車会社のJaguar Land Roverとパートナーシップを締結。同社の自動車のアンロックシステム等に導入される見通しだ。この超音波を使った音声データ通信技術がさらにどのような形で私たちの生活に影響するのか注目だ。

2. Nurx: ピル配送サービス

nurx1 主要投資家: Lowercase Capital, Y Combinator, Union Square Ventures 調達額: $5.42M

サービス概要:

「ピル用ウーバー」。アプリで医師の診察を受けることでクリニックに行かずともピルを受け取れるサービス。ピルは望まない妊娠を予防する以外に生理不順や生理痛を緩和するものとしてアメリカでは一般的に利用されている。 ユーザーはアプリをダウンロードし、複数の質問に答える。あとは州のライセンスを持つ医師がその回答のレビューを行い、ユーザーに合ったピルと使用方法を提供。ピルは自宅もしくは指定する場所に配達され、その費用はかからない。Nurxはピル適用の保険有無にかかわらず対応し、女性がピルを受け取るまでのプロセスの改善を徹底して行う。 またNurxはピル以外にHIV感染予防、PrEPに効果のある医療薬も同様に簡単なプロセスで提供している。

注目の理由:

スタートアップ養成スクールで有名なベンチャーキャピタル、Y Combinatorを卒業し、2015年に設立したばかりのスタートアップだが、カリフォルニア州から着々と活動の幅を広げ今ではアメリカ国内の16の州に展開。この展開スピードから、これまでのピルの受け取りプロセスがユーザーにとっていかに不便だったかがわかる。 またこのサービスに対する高い注目の背景には政治的な理由もある。トランプ政権がオバマケアを変えることで、今まで保険が適用されていたピルがそうでなくなることが懸念されており、ピルを服用する女性へのサポートが縮小されかねない風潮にある。 このように国として女性のピル使用を支持しない方向にあるなかで、Nurxのように女性のピル受け取りを支援するサービスが注目を浴びているのだ。いずれにせよNurxは先に挙げたように保険の有無にかかわらず対応が可能なのでその使いやすさが注目を集めている。 昨年12月の連邦裁判所の判断でトランプ政権の動きにストップがかかったが、依然としてピルを利用する女性の生活が変わりかねない緊張状態が続いている。もしかしたら今後ピルの継続が難しくなる女性も出てきかねない状況のなか、今年このサービスがどこまで女性の生活改善に貢献するか注目だ。

3. Payjoy: スマートフォン用ローンサービス

payjoy 主要投資家: Santander InnoVentures, Union Square Ventures, ITOCHU Corporation 調達額: $29.15M

サービス概要:

「すべての人がスマートフォンを入手可能に」をモットーに掲げる2015年誕生のスタートアップ。通常の通信会社が提供するローンを組めない低所得者層向けにフェイスブックアカウント、国の発行する身分証明書、電話番号の3つだけでスマートフォンを提供する。支払い方法には柔軟に対応しており、支払いが滞った際はPayjoy Lockと呼ばれる専用アプリを通じてスマートフォンを使用できないようにする。 市場には低価格のスマートフォンがあるが、アメリカの低所得者層にはあまり利用されていない。その理由として「故障の多さや動きの遅さでほとんど役に立たず、安いスマホを買うぐらいなら高い方を持つ」という声が多かったことから生まれたサービスである。

注目の理由:

昨年9月に新たに$6Mの資金調達に成功。これまでアメリカとメキシコで展開し、2017年にはアジア諸国、2018年にはラテンアメリカとアフリカに展開、とグローバル進出に勢いを見せている。これまでスマホを持ってこなかった層にどれだけ浸透するかが見所。 このサービス利用者数の増加がスマホの全体利用者数にどう影響するのかも注目ポイントの1つ。シリコンバレーのベンチャーキャピタルであるKPCBでパートナーを務めるメアリー・ミーカー発表の2017年のインターネット・トレンドレポートにおいても、ユーザーのデジタルメディアの利用はデスクトップでは変化がないものの、モバイルでは2011年から2016年の5年間でおよそ4倍増だった。 今ではデスクトップよりもスマホを利用する時間が長く、その利用時間は今後も伸びると予想される。同レポート内ではスマホユーザーの伸び率は急減速しているとも書かれていたが、Payjoyがこの状況にどのような変化をもたらすのか見ていきたい。

4. Citizen: リアルタイム犯罪通知アプリ

citizen 主要投資家: Sequoia Capital, Peter Thiel’s Founders Fund, Slow Ventures, RRE Ventures, Kapor Capital 調達額: $13M

サービス概要:

リアルタイムで近辺の犯罪や事故をユーザー同士で報告・通知するアプリ。もともと”Vigilante(自警団員)”と別名でサービスを展開していたが、その名の通り一般人が犯罪等の問題を警察に伝える前に「自警」し結果的に犠牲者が増加すると議論を呼びアップルストアから削除された。 今回は警察への通報機能を加え、ユーザーには危険を知らせるだけでなく彼らの安全を守るという目的で新たに再スタートを切った。現在ニューヨークとサンフランシスコで展開。

注目の理由:

アメリカでは無差別の銃乱射事件、日本でも通り魔的な犯罪は今日もよく取り上げられ、世界的に見てもテロ行為が後を絶たず私たちの安全は脅かされている。世界テロリズム指数の2017年レポートによると、世界的にテロによる死亡数は2006年から2016年までの10年間で67%上昇した。 こういった犯罪行為の撲滅は必須であるが、同時にそのような事件に巻き込まれないようできるだけ市民の安全を守る取り組みも必要である。Citizenはそれに貢献できると期待されている。

5. Nauto: AI搭載の車載器

nauto 主要投資家: General Motors, Greylock Partners, Softbank, Toyota AI Ventures 調達額: $173.85M

サービス概要:

AIを使った双方向カメラの車載器。前方を見る車外カメラと車内の様子を撮影する車内カメラでドライバーの煽り運転や脇見運転、居眠り運転、その他危険運転を察知し、運転後にフィードバックを行うだけでなく、商業用車両の場合には車両管理側がその様子を確認できるようになっている。また事故時の保険対応も双方向のビデオ映像を使うことでスムーズかつ正確なものになると期待されている。 このようにドライバーの運転データをビッグデータとして蓄積していくことで、将来AIによる事故の分析・予知が可能になる。最終的なゴールとしてNautoは安全な完全自動運転の実現を目指している。

注目の理由:

自動車メーカーによる自動運転技術の開発は今も積極的に進められているが、その技術はまだ限定的であり、今はより多くの実際の運転データ収集が必要な段階である。Nautoの車載器は現在すでに危険運転抑止と事故防止というメリットをユーザーに届けながら、リアルな運転データを集められるサービスとして非常に貴重な存在になっている。未来の自動走行に向けて大きな前進が期待できる。 日本でも昨年煽り運転が特に問題視されドライブレコーダーが売れたが、AIを駆使した車載器はこれまで出ていなかった。運転手にとってより安全な交通社会が作られていく上でNautoは特に大きな貢献が期待されるサービスである。

6. Holberton School: 授業料の用意なしで入学できるコーディングスクール

holbertonschool 主要投資家: Ne-Yo, Jerry Yang, Jerry Murdock, Reach Capital, Daphni 調達額: $4.3M

サービス概要:

今日ではコーディングを勉強できるスクールは身近に存在し、特にサンフランシスコでは気軽に通えるものが多い。その中でもこのHolberton Schoolは独特で、学費を事前に納めることなく授業を受けることができる。「生徒が給料を得られるまで授業料を取らないスタイル」なのだ。 スクールでは2年に及ぶプログラムを提供。9ヶ月のサンフランシスコでのトレーニング、6ヶ月のインターンシップ、さらに最後の9ヶ月でサンフランシスコ、もしくはリモートでの学習、という内容になっている。フォーマルな教授たちが授業を行う形式ではなく、講師側はGoogle、Uber、Facebook、Linkedin、Salesforce等サンフランシスコ・ベイエリアを代表するテクノロジー企業で働くエンジニアたちだ。 コースで扱う内容も生徒側が実際に取り組んでいるプロジェクトや講師が過去に行ってきた案件をベースに学び、実際に現場で使えるスキルや経験を積んでいく。 生徒は卒業後3年間の仕事もしくはインターンシップの給料の17%を授業料として支払うことに同意した上で入学となる。そのため生徒向けに均一な授業料というのは存在しない。

注目の理由:

卒業生たちはすでにGoogleやNASAと行った企業で実際にエンジニアとして働き始めており、成果は着々と表れている。エンジニアは世界的に人材不足、サンフランシスコでも優秀なエンジニアは次々と特定の大企業に引き抜かれ、その他企業が太刀打ちできない実態もあるが、このHolberton Schoolはその問題を解消してくれそうだ。 生徒からしても、今からでも始められるコーディング専門スクールが存在するのは大きなメリットである。実施にHolberton Schoolはテック業界に多様性をもたらすことを1つの目標に掲げており、それを実現しようとする姿勢はすでに高い評価を得ている。 生徒の中には今までエンジニアとは縁のなかった人もいるが、スクールはそんな彼らでもエンジニアの道を選ぶことができるという勇気を与えている。2015年設立とまだまだ若いスクールだが、これからテック業界に大きな変革をもたらすと期待できる。

7. Qadium: IoT向けセキュリティプラットフォーム

qadium-expander 主要投資家: Founders Fund, New Enterprise Association, Susa Ventures, Institutional Venture Partners 調達額: $65.97M

サービス概要:

元CIAエージェントが政府関連のサーバーの脆弱性を発見した経験から立ち上げたスタートアップ。ネットワークに接続されたデバイスをすべて調べ、ハッキングされる恐れのある問題やその他あらゆる脆弱性を検知しユーザーに警告するプラットフォームサービスを提供。 この防御システムを支えるのは”Expander”と呼ばれるソフトウェアプログラムで、IoTシステムのインターネット接続をマッピングした上で調べ上げることから「IoTのグーグルストリートビュー」とも呼ばれる。 顧客にはアメリカサイバー軍やアメリカ海軍といった政府機関や銀行のCapital One、その他金融系の企業が並ぶ。価格が非常に高額な分、導入できる企業や組織は限られてくるが、その信頼性は高く評価されている。

注目の理由:

毎年10月に業界最大手のIT調査機関、Gartnerによって発表されるITトレンドの2017年版でも触れられていたが、IoT製品の急速な普及により、サイバーセキュリティの脆弱性は早急な対策が必要になるほど重要な問題になる。Qadiumはこの深刻な問題に対処できる役割を担っている。

8. Gladly: 一括管理のカスタマーサービスプラットフォーム

gladly 主要投資家: Jerry Chen, GGV Capitals, Greylock Partners 調達額: $63M

サービス概要:

音声通話、メール、チャット、ソーシャルメディア等の複数チャネルでコンタクトのあった同一の顧客を認識するカスタマーサービスシステムを提供。これまでクレーム電話や問い合わせメールはそれぞれ1つの案件として処理されていたが、同社のソフトウェアでは同一人物によるものか認識する。それによって企業側は顧客が過去にどのような内容で連絡を取ってきたか確認でき、それに合わせた顧客対応が可能になる。

注目の理由:

顧客第一を謳う企業はますます増え、顧客の声は改善の何よりの材料として貴重なものになっている。昨年8月にGladlyとのパートナーシップを発表した航空会社のJetblueでも早速導入されたが、飛行機の遅れや荷物紛失等に関するクレームが一定数起きるこの業界において、同社は複数チャネルからの顧客のコンタクトをこのGladlyシステムで全て管理。 それぞれの顧客との会話を全て記録し、また過去の全てのサービス利用履歴も管理して紐付けることで、遅延等によって利用客に迷惑がかかった場合にはその記録から保証内容を決める等、個別のカスタマーサービスを充実させている。 昨年の顧客満足度指数において、Southwest AirlinesやAlaska Airlinesを超え、業界内で一番となったJetblueが行う取り組みの1つという立ち位置から、Gladlyへの今後も注目はさらに高まるだろう。丁寧な個別の顧客対応を追い求める企業こそ必見なサービスになっていくと予想される。

9. Knotel: 中小企業向け本社型コワーキングスペース

knotel 主要投資家: Invest AG, 500 Startups, Bloomberg Beta 調達額: $25M

サービス概要:

ビルオーナーとプロフィットシェアを行う形でコワーキングスペースサービスを提供するスタートアップ。WeWorkの競合として紹介されることも多い。今日のコワーキングサービス市場の成長を支えるスタートアップの1つとして世界中に展開している。 本来オフィスビルの賃貸には長期的な契約期間が必要とされていたが、Knotelはその期間を柔軟に対応。従来のコワーキングスペースは今まで通りフリーランサーやスタートアップ社員向けに、現在コワーキング市場を牽引するWeWorkは大企業社員向けにサービスを展開しているのに対し、Knotelは50−200人程度の中小企業向けに「本社として利用できるコワーキングサービス」を提供。 企業側はオフィスにかける費用を抑えながら、カスタマイズ可能な中規模スペースを利用できるので、クリエイティブな職場と自由な働き方を社員に手軽に提供することが可能だ。

注目の理由:

今では企業の大きさにかかわらずスタートアップ企業の職場環境を参考にするところは多く、手軽に利用できるコワーキングスペースと契約し様々な交流を図れるフリーアドレス制度を社員に提供する企業が増えている。実際に昨年IBMはWeWorkが持つニューヨーク・88 Universityのコワーキングスペースのビル全てのデスク契約を決めた。 今後コワーキングサービスはこれまで利用してこなかった層を取り囲んで利用者数を増やしていくが、その中でもKnotelはまだ穴場とされている中小企業向けのサービスをカバーし成長を遂げていくと予想される。 今や働き方改革においてコワーキングスペースの存在は大きなものになりつつある。東京でもついにコワーキングサービスを開始するWeWorkが世界的に大企業の社員に自由な働き方を提供していく裏で、Knotelも中小企業の社員の働き方を少しずつ変えていきそうだ。

10. Hudl: スポーツ用パフォーマンス分析プラットフォーム

hudl 主要投資家: Accel Partners, Jeff Raikes, Nelnet 調達額: $108.9M

サービス概要:

練習や試合の動画をアップロードし、コーチングポイントを動画上にマークし、コメントを残すことで、オンラインで選手・コーチ間で改善ポイントの共有ができるプラットフォーム。通常の動画編集プラットフォームとは異なり、1つのプレーを様々な角度から見られるようにしたり、プレー毎に動画を区切り瞬時に確認したりできるようにして、あらゆるスポーツにおけるミーティングの効率化を図ってくれる。 さらにこのプラットフォームは選手のリクルーティングの機会の場としても利用されている。選手は自身を売り込む新たなツールとしてパフォーマンス動画を掲載し、高校、大学、そしてプロチームはそれを閲覧して選手獲得に動く。アメリカは国土が広く、リクルーティングチームは選手を直接見に行くことに限界がある。そんな背景から、今まで埋もれていた優秀な選手の発掘するツールとしても利用されている。

注目の理由:

テクノロジーがスポーツ業界全般に導入された良い例の1つとして以前から注目を浴びており、これまで30のスポーツ、キッズからプロまで15万以上のチームに導入されている。最初はアメリカンフットボールから始まったこのサービスだが、2017年末にはバレーボール用のコーチング・分析プラットフォームを提供するスタートアップ、VolleyMetricsを買収。 今後ますますあらゆるスポーツを支えるテクノロジーとして活用されていくと期待。スポーツの世界でもこのようなテクノロジーが活用されていると理解しておくと面白い。何かしらのスポーツをやっているのであれば使ってみると良いだろう。スポーツにおける体験もきっと変わるはずだ。

企業の「性格」を表すブランドパーソナリティとは?

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ユーザーや顧客との接点を大切にするためにブランディングを強化する企業はますます増えている。顧客が商品1つを選ぶにしても機能面だけを見て決めることは今ではほとんどなく、商品そのものやそれを売り出している企業が持つイメージも顧客の購買意欲に大きく影響している。 関連記事:ブランドをビジネス価値に変換させる5つの構成要素【ブランディングの教科書 Pt.1】 そのブランド力を支える上で、顧客に与えるブランドイメージの根幹となる「ブランドパーソナリティ」はブランディングの中でも重要項目の1つとなっている。実際に多くの企業のブランドガイドラインではそれが明確に記載されている。今回はそのブランドパーソナリティの意味を確認し、筆者が実際にインタビューを行ったアメリカの大手地銀であるCapital Oneと日本に進出したばかりのQuoraという対照的な2社の事例を紹介する。

ブランドパーソナリティとは

ブランドパーソナリティは、パーソナリティ(性格)が含まれているように、企業の人格的な「個性」を表す。優れたブランドを持つ企業こそ印象に強く残る、統一されたブランドイメージを顧客に常に発信している。またその顧客もその商品を買うことでブランドイメージを自分のイメージに繋げ、自分としての個性を表現するものになる。 実際に、エッジの効いたブランドとして名が挙がるオートバイメーカーのHarley-Davidsonのパーソナリティは「荒削りで無骨な男らしさ」。そのバイクに跨がることで「ライダーの男らしさに磨きをかける」というイメージを浸透させた。そのブランドはアメリカ中西部から始まり、次第に世界中で大人気となった。今でもブランドロゴのタトゥーをいれるライダーもいるほど一定層の強い支持者がいる。 harley 「ハーレー好き」のライダーがコミュニティを形成し、お揃いの決まった格好をしてツーリングをする姿は、企業がブランドパーソナリティを巧みに顧客の感情に浸透させていった良い例だ。 そのほかにもユニリーバが持つ製品ブランドの1つであるDoveは「健全さ」「道義的」「純真さ、清潔さ」を商品パッケージから広告、SNS上でのメッセージまで巧みに表現。同社の男性用化粧品ブランドのAXEでは逆に「誘惑」「男らしさ」「常識にとらわれない自由さ」を表し、タバコブランドのMalboroも「男らしさ」に「自由さ」さらに「冒険的」といったパーソナリティが付随している。ここに挙げたブランドは読者の多くが目にしたことあるブランドだと思うが、このような特定のイメージはみなさんの多くが持つ共通イメージとしてあるはずだ。 dove-ad axe-ad malboro-adCMには多くのクレームが入るというAXEだが、ユーザーの「モテたい」というシンプルなニーズにマッチしたブランド・パーソナリティを上手く表現している このようにブランドがパーソナリティを持ち自己表現を行うことで、ユーザーとの関係性に強い影響を与え、顧客に対するブランドの立ち位置を明確に表現するのである。人で考えてみると、どんな振る舞いをするかでその人の性格が分かるように、ブランドとしての活動指針の軸となる性格を表現することがブランドパーソナリティの一番の役目である。 各企業は顧客との様々なタッチポイントにおいて、このようなパーソナリティを基に伝えるメッセージングにも統一性を見せていく。今回はその企業の数あるタッチポイントの1つに焦点を当てて、そこから考えるブランドパーソナリティを見ていく。

従来の銀行のイメージを改革するCapital Oneと日本進出で話題のスタートアップQuoraの事例を紹介

ブランドパーソナリティの実例を紹介するべく、今回Capital OneとQuoraの2社にインタビューを実施。彼らは先述したように堅い業界イメージのある銀行と人気スタートアップという、一見対照的な企業だが、どちらもユニークな形で自社のブランドパーソナリティの表現を巧みに行っている。そんな彼らが掲げるパーソナリティとその表現方法について話を聞いた。

1. Capital One

バージニア州に本社を置く大手地銀のCapital Oneは、堅いイメージが強い傾向にある金融界でも、クリエイティブな環境と新テクノロジーを積極的に駆使したイノベーションが特徴的な銀行である。実際にサンフランシスコには彼らのアクセラレーター・インキュベーター施設として最新テクノロジー開発を行うCapital One Labsが存在。彼らの取り組みは他の歴史ある銀行とは一味違う。 関連記事:【HBRが予測】既存の銀行の92%は10年以内に消滅する そんな彼らがブランドガイドラインで掲げているパーソナリティは以下の4つである。
  • Bold Challenger:勇敢なチャレンジャー
 イノベーティブリーダーとして良い変化をもたらすために業界に挑戦する
  • Straightforward:率直
 真正で、信用・信頼できる存在に
  • Advocate:顧客の代弁者
 自社だけでなく、常に顧客の興味を探し出す。未来に楽観的になり、顧客の成功をサポートする
  • Engaging:魅力的
 示唆に富むユーモア、ウインク、そして笑顔を持った親しみやすさを 1988年創業のCapital Oneは、創業者が未だに現CEOとして活躍しており、業界内でも非常に若い銀行である。その若さを生かし、率直さや親しみやすさといった従来金融界のキーワード以外にも、Bold Challengerといったイノベーション要素を取り入れ、業界の積極的な改革者という立場を貫いている。そんな彼らの独特なパーソナリティを体現した施策を2つ紹介しよう。

Capital One Cafe

capitalone-cafe1 Capital One CafeはCapital One銀行の支店兼カフェとなる施設で、口座を持っていない一般の人向けにもオープンされている。普通にカフェとして利用する客や、外でのミーティングを行う場所として、またコワーキングスペースのように作業をしに訪れる利用客も多く見かける。 クラスルームやワークショップルームも用意しており、定期的に一般向けにファイナンシャルプランの立て方や子供向けに賢いお金の使い方を教える講座等も行っている。 Capital One Cafeの特徴の1つは「アンバサダー」と呼ばれる案内・サポートスタッフの存在である。従来の銀行だとスタッフは窓口にいるが、アンバサダーはアパレル店員のように店内を自由に歩いている。丁寧かつ押しの強くない接客で利用客に圧迫感を与えないようにすることで、ユーザーに銀行との心理的な距離を縮めてもらうのが狙いだ。 capitalone-cafe 彼らは「企業の顔」として、接客から無料のクレジットスコア分析まで幅広くサポートを行う。”Straightforward”、”Advocate”、”Engaging”といったパーソナリティは顧客との人間的な接点で表現できると考え、体験型のブランディングを重視しているのだという。目指すものは新規顧客の獲得から既存顧客のサービス体験向上まで、と一見他の銀行と変わらない目的ではあるが、その方法は独特である。 「お金というのは非常に個人的なもので、それを話しやすいと思わせることはCapital One Cafeが提供できる体験価値の1つです」とアンバサダーの1人は語る。顧客に「個別の体験」を提供することを心がけ、それまで堅いイメージのある業界イメージを払拭しようとする心意気が表現されている。パーソナリティにある人間的な特徴をユニークに表現した事例だ。 従来の”お堅い金融業界”の殻を破り、銀行とカフェを融合させたCapital One Cafeは顧客への提供価値を上げるために単純に面白い試みを行っているのではなく、パーソナリティが背景に強く存在しているのである。このブランディング施策は着実にユーザーniCapital Oneのユニークかつフレンドリーな印象を与えている。

積極的なアプリ開発

2008年の金融危機がもたらした大きな影響の1つとして、アメリカの多くのミレニアル世代がこれまでの伝統的な銀行への信頼を失っていると言われている。この世代は古く堅牢なイメージのある銀行よりも、テクノロジーでお金の管理を求める傾向が強い。実際に最近ではオンラインバンキングが主流になりつつあるほか、DigitやMint、Chimeといった、スタートアップによる口座管理・貯金管理アプリを通じて自身の預貯金管理を行うことが人気になっている。 従来の銀行に逆風が吹く中でCapital Oneは社内で積極的にスタートアップのように新規アプリ開発を行っている。実際にカフェスペースとなる建物1階以外の階では”Capital One Labs”として常に自社アプリやAIの開発場所となっている。実際にインタビューで訪れた時も、開発段階中のクレジットスコア分析を行う「瞑想アプリ」を見せてもらった。従来の銀行としての立場を保ちながら積極的にテクノロジーをサービスに落とし込み顧客に提供している。 col-1 col-2Capital One Labs(写真はOffice Snapshotより引用) 関連記事:スタイリッシュなオフィスが企業に与える5つの価値 – イノベーションはオフィス環境から – もともとアンバサダーの立ち位置も従来の対面での手続き以外に、オンラインバンキングのサポートやこういった新しいテクノロジーサービスを紹介するという意味でも活躍している。顧客とのタッチポイントと近い場所で開発を行い、彼らのニーズに応えるサービスを提供しようとする姿勢が伺える。 Capital Oneがここまでテクノロジーに積極的になれるのは先述した企業の若さもあるが、社員にもその秘訣がある。Vice PresidentはPixar出身、他にもApple出身の社員もいるなどテクノロジー企業での経験豊富なスタッフが在籍しており、テクノロジー好きな人たちが集まるカルチャーができている。テクノロジーを積極的にバンキングに持ち込みたいという社員の気持ちが業界でチャレンジャー精神を持ちたいCapital Oneのパーソナリティを支えているのだ。

2. Quora

先日の記事でも紹介したナレッジ共有プラットフォームを提供するQuoraは著しい成長を遂げるスタートアップだが、彼らもまたブランディングに積極的に取り組んでいる。今回カリフォルニア州マウンテンビューにあるQuora本社にて、海外展開担当のトップであるシュレーヤス・セーシャサイさん、そして日本語コミュニティー担当のトップのフリーデンバーグ・桃紅さんに話を聞いた。 彼らのユーザーとのタッチポイントは何と言ってもユーザー同士が質問を行うプラットフォーム。「世界中の知識を共有し、深める」ことをミッションに掲げるQuoraも既存のQ&Aサービスとの差別化を図るために以下の2つをパーソナリティとして掲げている。
  • クオリティ重視
  • 丁寧さ
これらのパーソナリティーが彼らのサービスにおいてどう体現されているのか見ていこう。 quora1 ↑QuoraのHead of Internationalization シュレーヤスさんとHead of Community Japanese フリーデンバーグ・桃紅さん

クオリティを左右する“実名登録”

Quoraのブランドを語る上で一番重要なのはクオリティ重視の姿勢である。日本進出に伴い、Quoraについて取り上げるメディアは多くあるが、その内容について共通しているのが「質の高い回答が得られること」である。 そのためにQuoraが実施しているのは、他のQ&Aサイトとの差別化として同社が強く推している「実名登録」だ。これは本名の登録だけでなく、プロフィール画面で自身の経歴や背景の記入も求めている。そうすることで、記入者は自分の回答に責任を持ち、クオリティの担保につながるという仕組みだ。 また本名の使用は「丁寧さ」も体現している。相手を傷つけるような発言防止にも役立つため、結果的に様々なユーザーがプレットフォーム上でポジティブな体験を得られるようになっている。そうすることで、Quoraのポリシーでもある「他人へのリスペクト」を体現することができるのだ。他人の心無い回答を撲滅し、害となる情報やユーザーを排除した上で、本当のユーザーが求めている「正確で質の高い情報」を得られるようにしている。 この実名の使用により、政治家のバラク・オバマやヒラリー・クリントン、また業界を変えてスタートアップのCEOやその他各業界の著名な専門家まで回答を行っていることがわかる。このように著名な人物が回答を行っていることを可視化することで、ますますクオリティ重視を体現していることを伝えることができる。 quora2

クオリティ担保のための機能

Quoraではクオリティ担保のためにさまざまな機能が用意されている。その1つが「高評価システム」だ。これは、ある回答について正しいと思えば、それに高評価もしくは同意見(”Vote”)という形で投票することができるというもの。著名な専門家からそれが集まるほど信ぴょう性の高い情報ということになるわけだ。 人によって同じ質問でも違う回答があること、そして多くのユーザーがそういった様々な視点からの回答を期待することは事実である。1つの質問に対し1つの回答を選ぶのではなく信ぴょう性の高い回答を複数並べることで、ユーザーは「多くの考え方を学ぶ」ことが可能になる。同意見システムはそれを実現するために様々なクオリティの高い回答を残すことにおいて重要なシステムになっている。それに加え機械学習を使って情報の正しさや整合性も常に確認している。 また表示される質問のパーソナライズ化を行っているのもクオリティ重視を体現したポイントの1つ。ユーザーの居住地や興味を事前に把握することで、それぞれのユーザーに個別のフィードを表示するようにしている。 ちなみにこういったハイクオリティな情報を共有する姿勢は社内でも行われている。Quora本社では社員同士が集まって情報共有ができるように月曜日と金曜日のランチタイム後にカジュアルな全社ミーティングを行い、CEOにも直接質問ができるようになっている。企業としてのパーソナリティの一貫性が見えるストーリーだ。

遊び心の過ぎないデザイン

「丁寧さ」はプラットフォームのデザインからも見て取れる。信頼性の高い情報を共有することを一貫するために、あまり遊び心の過ぎないようなデザインや構成が施され、ブランドのトーンを統一させている。実際にこのプラットフォームを使うユーザー同士のインタラクションは見知らぬ人同士で行われるため、このようなイメージをビジュアルから演出していくことは実は大事なのだ。 quora-jpQuora日本語版ウェブサイト

まとめ

ブランドパーソナリティはこの2つの例のようにブランドと顧客の間に立つ重要な役割を担っている。逆にこのブランドパーソナリティが確立されてされていないと同じ取り組みを行なっていても顧客が受け取るイメージはぞれぞれ変わってきてしまう。 例えばCapital Oneが同じように実直で信頼できるような存在になろうとしても、フレンドリーさの代わりに真面目さをパーソナリティにした場合、顧客に与える印象は一気に変わる。最新テクノロジーを顧客に使いやすい形で提供する優しいイメージの企業になるか、それともそういったテクノロジーの最新性を常に追い求める貪欲なイメージを持つ企業になるか。どちらが正しいという話ではなく、企業が顧客に受け取ってもらいたいパーソナリティはこれだ、という意思表示と行動の軸になるのだ。 ブランドを構築する要素はパーソナリティに限らず他にも存在するし、ブランドガイドラインにはパーソナリティに触れない企業もある。しかし、このブランドパーソナリティはブランディングを考え直す企業にとってぜひ考慮すべき要素の1つだろう。

サンフランシスコが取り組む通勤イノベーション

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長時間に及ぶ通勤時間は誰にとっても疲れるものだが、実際にそれが従業員の健康と生産性に大きな影響を与えていることが明らかになってきた。今回はその影響の大きさと、それに対するサンフランシスコ・ベイエリアでの取り組みに注目してみたい。

長い通勤時間が社員に与える影響とは

今年5月、社員の通勤時間と健康、そして生産性の関係についてイギリスの保険会社VitalityHealth、ケンブリッジ大学、ランド・ヨーロッパ研究所、さらに人事マネジメントコンサルティング会社のマーサーにより興味深い調査結果が発表された。イギリスで働く従業員34000人以上を対象にしたこの研究結果によると、通勤に長時間を費やす人はそうでない人に比べて鬱に苦しむ傾向が33%、金銭的な心配事を持つ傾向が37%、そして仕事関連のストレスが複数あると答える傾向が12%高くなり、精神健康上ネガティブな効果があると発表された。 加えて、欧米で推奨されている7時間睡眠を取れていないと回答する傾向は46%、そして肥満になる傾向は21%高いという結果も出た。最終的に通勤時間を30分以内で収めている従業員は1時間以上かけている人に対し、生産性が年間7日間分高い、と結論づけている。 同様に西イングランド大学でも通勤時間の長さと幸福感の減少についての研究がつい先日発表されたばかり。研究を率いたキロン・チャタジー准教授は、特に自由時間の損失が幸福感減少に影響していると論文内で述べている。 一方、長時間通勤が仕事や自由時間への満足度に影響しているのに対し、生活全般での満足度が下がることがなかったという。これは、仕事や家族のために長時間通勤は必要なものとして従業員が理解しているから、だとされている。 通勤に時間がかかってしまうほど、その悪影響が仕事に返ってくる。この悪循環を解決するためにも対処法が求められている。

地域全体で取り組むサンフランシスコ・ベイエリアの施策

日本ではこれまで住宅手当や最近では在宅勤務等、社員の通勤時間に配慮した取り組みが企業で行われてきた。しかし、満員電車に乗って体力をすり減らしながら出勤する姿は今でも日本のサラリーマンを思い浮かべるときの代表的なものであり、改善はこれからも必要である。 似たような状況はアメリカ、特にサンフランシスコ・ベイエリアでも起きている。サンフランシスコ周辺は最新テクノロジーの中心地として世界中から人が集まり、その人口は年々増加。電車通勤を行う人の数ももちろんだが、車で通勤する人が多いこともあり、朝の通勤時の交通渋滞は以前から問題視されてきた。INRIXによる交通渋滞ランキングにおいて、サンフランシスコはデータを集めた世界の38カ国、計1064都市の中で4位と高い順位にある。 2015年のアメリカ合衆国国勢調査局の調査結果によると、サンフランシスコの平均通勤時間は片道で31.7分。同年のNHK放送文化研究所の調査結果では、日本の平均通勤時間は1時間19分、片道で39.5分となっており、東京だとその数字は1時間42分(片道51分)まで伸びる。 一概に時間を比べるだけの単純な問題ではないが、人口密度が東京よりも高いサンフランシスコでこれだけの時間差があるのは興味深い。サンフランシスコでは一体どのような方法で東京の半分程度の通勤時間が実現しているのだろうか。 commute-timeBusiness Insiderの記事より引用 ちなみにアメリカでは日本のように通勤手当や住宅補助といった福利厚生は基本的に存在しない。一般的にアメリカ企業では、通勤時間は個人的な時間とされているのが理由である。そのような環境で従業員はどのように通勤時間を短縮しているか。サンフランシスコ・ベイエリアで見られる施策をいくつか紹介する。

1. 通勤車・社員専用バス

これを知っている読者の方は多くいるかもしれないが、Googleの社員専用シャトルバスは有名である。車内ではWiFiを提供し、社員はそれまで運転していた時間をそのまま仕事に回すことができる。普段は渋滞なしでも1時間ほどかかるサンフランシスコ市内ーシリコンバレー区間を運行することで、高給料を得るテック企業の社員がシリコンバレーから離れた地域にも住めるようになった。 結果的にバスが停まる他の地域のアパート賃料が高騰し、4年前には市民による抗議活動が起こる社会問題にまで発展。比較的貧しい層が多く住む地域に、経済的に豊かな人々が流入する人口移動問題(ジェントリフィケーション)だという話にまで膨らんだが、現在は落ち着きを取り戻し、今も特定企業の社員の通勤の足として利用されている。 このように特定の企業だけでなく、一般利用者向けにシャトルバスを提供するサービスもいくつか存在する。Chariotもその内の1つ。バスのようにそれぞれ特定のルートを走る小型シャトルが用意されており、利用者はその中から1つ選びそのルートに沿って自身の乗降場所を決める。チケットは低価格で事前購入でき、あとは当日決められた場所と時間に行くだけ。支払いの手間もなく、席も確保されているのでスムーズな通勤が可能である。
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chariot4Chariotウェブサイトより引用

2. カーシェアリング

世間一般的に知られるようになったカーシェアリングである。サンフランシスコ生まれのUberLyftと呼ばれる配車サービスにはもともとベイエリアの渋滞問題の解決を期待されて誕生した背景があることから、通勤時に利用する客も多い。基本的にタクシー感覚で必要な時にその都度車を呼ぶ、というのが基本的な使い方であるが、事前に行き先と時間を登録した上で通勤用の予約を入れられるサービスも提供している。 出勤時に同じ方向に向かう、全くの他人同士を独自のアルゴリズムでマッチングさせ、効率の良い通勤を実現させた点はサンフランシスコらしさを感じる点だ。 似たような形でScoopと呼ばれる、通勤自動車の乗り合いサービスを提供するアプリも存在する。このアプリでは勤務先の住所やエリア、時間を事前登録することで特定のコミュニティに参加し、それから同乗者のマッチングを行うサービスを提供している。UberやLyftは運転手がドライバーとして収入を得るのに対し、Scoopは運転手自身も通勤に行くところが違いだ。 こういったアプリの他に、「タクシー乗り場」ならぬ「カープール乗り場」という形で、オフラインで同乗者・車を探す方法も存在する。下のように「カープール」と書かれた標識の場所には乗り合わせで通勤したい人が列をなし、そこへ同乗者を必要とする自動車が随時ピックアップに来る、というシステムになっている。 行き先は通常1カ所のみ、オフィス街で市が定めたカープール専用の乗降場所で乗客は降りる。同乗者は運転手に1ドルを渡す、という「暗黙の了解」もあるほど、この制度は市民に浸透している。 carpool1 通勤に向かう運転手にもメリットを与えることで、このカープールシステムは成立している。車で通勤する人が他の同乗者を乗せることで、車は州が定めた同乗者専用レーンの走行が可能。カリフォルニア州では、ひし形のマークが書かれた走行レーンは「カープールレーン」と呼ばれ、2人もしくは3人以上乗せた自動車の専用レーンとなっている。特に渋滞がひどくなる箇所に導入されており、特に平日の通勤時間では1台につき3人以上を乗せた車だけが通れるようになっている。 運転手へのメリットは他にもあり、カープールレーンを走ることでサンフランシスコを繋ぐ2つの橋、オークランド・ベイブリッジとゴールデン・ゲート・ブリッジの通行料金も安くなる。ベイエリアから毎日車で通勤する人にとって時間とお金を節約できるシステムを提供しており、交通渋滞問題も緩和されるようになる、という仕組みだ。

3. レンタルスクーター・自転車

サンフランシスコを歩いていると同ブランドのスクーターや自転車で通勤している人を多く見かける。これはレンタルのもので、スクーターだとScoot、自転車だとFordのロゴが大きく入ったFord GoBikeをみる。市内に数多くのステーションが設置されており、手軽に利用・返却ができる点が魅力的だ。 rental ちなみにNinebotというサービスでは車や自動車以外の通勤手段としてセグウェイや電動一輪車を提供。市や企業がこういった乗り物での通勤を許容している点も興味深い。 ninebot1Ninebotウェブサイトより引用

4. 総合交通拠点となるSalesforce Transit Centerの建設

欧米では地球環境やエネルギーの節約を考慮した都市計画が進んでおり、社会貢献の意識が強いサンフランシスコではその姿勢が特に見受けられる。現在建設中のSalesforce Transit Centerはサンフランシスコで走っている様々なバスや鉄道路線、上に挙げたカーシェアリングの自動車やその他交通手段が集まる場所としての役割が期待されており、市民が自動車以外でも通勤できるよう整備が進められている。 これまでサンフランシスコーシリコンバレー間を結んでいた高速鉄道、CalTrainのサンフランシスコ側の終着地点はこの施設まで延伸する予定。さらにこれとは別にロサンゼルスーサンフランシスコ間を結ぶ予定のカリフォルニア高速鉄道もこの施設に乗り入れるように開発が進んでいる。 このトランジットセンターでは他にも商業施設やレクリエーション機能を持たせ、市民のコミュニティ形成が活発になるような取り組みが行われている。このように総合的に公共交通の集約を行うことで市民の通勤の効率改善を行い、また国際的都市としての都市機能の見本市にもなろうとしている。 stc3 stc4Salesforce Blogより引用

5. フレキシブルなワークスタイル

ラッシュ時の通勤で受けるストレスを回避する解決策の1つはその時間を避けること。サンフランシスコでフレキシブルなワークスタイルが推奨されている理由の1つは、このように渋滞に巻き込まれて本来仕事ができる時間を無駄にしてしまうことを避けるためである。 ちなみにベイエリアの東、イーストベイと市内を結ぶように鉄道路線が敷かれており通称BARTと呼ばれているが、この鉄道では昨年8月末から今年2月までの半年間試験的に利用者に混雑時の利用を避けてもらう施策、BART Perksを実施。 Clipper Cardと呼ばれる、日本でいうSuicaやPasmoといった電子カードを使い、混雑のピークとなる7時半から8時半の利用を避け、6時半から7時半、もしくは8時半から9時半の利用者にポイントを付与。それを貯めることで抽選に応募でき、キャッシュバックが行われるシステムとなっている。プログラムには約18000人が参加、うち67%がこのプログラムに満足しているというアンケート結果も出ており、市民の通勤姿勢に変化をもたらしている。 bart1 記事冒頭で紹介したVitalityHealthらによる研究結果でも、フレキシブルなワークスタイルの提供はいくつかある通勤ストレス回避の中でも比較的導入のしやすい施策であり、企業としても実践するべきだと述べられている。また、その実施によるストレスの減少と健康的な生活の提供は従業員に提供できる会社としての大きな価値である、としている。

まとめ

アメリカは日本よりも自動車志向型で車通勤も多いことから、日本でも上記全てをそのまま真似できるということはない。しかし、社会全体が一丸がより多くの交通手段を提供し、企業が労働時間の柔軟性を許容して混雑を分散させることで通勤時間問題は改善が見られそうである。すべてが一丸となって取り組まねばならないからこそ、この通勤時間問題は働き方改革の重要な側面の1つであるように思う。 「仕事は私たちが行う活動のことであって、『行く場所』ではない。」イギリスでスマートワークスタイルを推進する非営利組織、Work Wise UKのフィル・フラックトン氏の言葉にもあるように、この記事が働き方を見直す1つのきっかけとなれば幸いだ。 *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。