あたりまえの風景の中に見つけた地域の宝。4つのホテルから広げていく北海道・層雲峡温泉、上川そばの可能性

神々の遊ぶ庭、原始の雄大な自然に囲まれた層雲峡温泉ならではの「食」を求めて。

このプロジェクトは、令和5年度観光庁が実施する「地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業」の実証事業の一環として、「ONESTORY」が事務局となり地域の方と協同して行う取組です。「温泉その他の地域観光資源」をテーマとする実証先として、北海道上川町の層雲峡温泉が選定されました。

層雲峡温泉は、北海道のほぼ中央、先住民であるアイヌの人々が「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」と呼んでいた原始の雄大な自然が広がる「大雪山国立公園」の中にあります。

日本最大級で約23万ヘクタールの広大な国立公園内には、今もなお活動を続ける活火山を含んだ2,000メートル級の山々が連なり、壮観な景色を作っています。その中の一つ、黒岳の麓にある層雲峡温泉では、大自然が織りなす四季折々の圧倒的な景観を間近に楽しむことができ、夏は登山、秋は美しい紅葉、冬はライトアップされた幻想的な氷のオブジェが立ち並ぶ「氷瀑祭り」を目指して多くの観光客が訪れます。

石狩川を挟み約24kmにわたり断崖絶壁が続く渓谷に大型のホテルが集まり、北海道有数の温泉地として昔から団体のツアー客をはじめ多くの観光客を迎え入れてきた層雲峡温泉。いまも北海道内、道外からの観光客のほか、海外からも多くの人が訪れています。

季節ごと、ここでしか出会うことのできない景観を求め多くの観光客が訪れる一方、紅葉が終わる11月ごろから、「氷瀑祭り」が始まる1月末までの間は閑散期で、年間を通しての集客に大きく波があり閑散期の来訪目的となるようなコンテンツ開発が求められていました。

そのような地域の課題に対して、「層雲峡観光協会」を中心に層雲峡温泉の複数の宿泊施設が連携をとり、「温泉×食」という切り口で、紅葉や氷瀑祭りなどのイベント時に限らずに「食」においても旅の目的地となることを目指し、新たな取組をスタートしました。

外からの視点で再発見する、埋もれていた地域食材。

昔から団体客を多く迎え入れてきた層雲峡温泉では、部屋数が200以上という大型のホテルも多く、食事スタイルはビュッフェが中心です。100種類以上のメニューが並んだり、オープンスタイルのキッチンで出来立ての料理を提供したり、それぞれのホテルが独自に趣向を凝らしたビュッフェメニューを展開。北海道産の食材を使うメニューは各ホテルが特に力を入れており、宿泊客からの満足度が高い部分でもあります。

しかし、層雲峡温泉ならではのキーとなるメニューがなく、道内の他地域と「食」における差別化ができていないこと、「食」を目的とした集客が行えていないことが地域全体としての問題になっていました。

温泉地らしいビュッフェスタイルを生かしたキーディッシュを開発し、温泉街一体で提供することで、イベントのないシーズンにも年間を通じて“層雲峡ならではの食”を目的にこの場所を訪れる人々が継続的に増えること、そして、それによって地域全体の経済効果も高めることが本プロジェクトの目標です。

メニュー開発の心強いアドバイザーとしてお迎えしたのは、管理栄養士、食生活アドバイザー、アンチエイジング料理スペシャリスト、東京・赤坂のレストラン「ルリール」オーナーシェフ、「ちさこ食堂」での商品開発など多岐にわたり活躍する食のプロフェッショナル・知佐子氏。これまでに、アイヌの食文化にも通ずる「発酵と熟成」をテーマとしたレストラン「GINZA 豉 KUKI」のプロデュースや、徳島県の新祖谷温泉にて郷土料理をアレンジした会席料理コースのプロデュースを行うなど、食材や料理についての幅広い知見を持ち、素材を生かした調理アレンジやメニュー開発の経験が豊富であることから、今回のプロジェクトのアドバイザーを依頼することとなりました。堀氏と地域のメンバーが集まり、地域食材の洗い出しを行うところからプロジェクトは始まりました。

堀氏とのディスカッションを通じてメンバーが注目した地域食材は「そば」です。

北海道は実は、日本全国の作付面積の4割弱を占める国内最大のそば生産地(※1)。中でも道北エリアでの生産が盛んで、上川町もその一つ。旭川空港から層雲峡温泉へと向かう道中にはそば畑が広がり、地域メンバーにとってもそば畑のある風景は、幼少期から見慣れた景色でもありました。しかし、それゆえにそばを特別なものとして見たことがなかったと「層雲峡観光協会」の岩本昌樹氏は振り返ります。主に出荷用に生産されていたということもあり、地元産のそばの存在は皆が知っているものの、これまであまり意識されてこなかった食材でした。

堀氏が地域に入り外からの視点によって再発見された、埋もれていた上川の名産品。上川産のそばをキーにしたメニュー開発へと一気にプロジェクトは動き出しました。

上川産そば粉と層雲峡の清らかな水で作る十割そば。

これまでも各ホテルのビュッフェでは、数あるメニューの一つとして北海道産そばはおなじみでしたが、宿泊客からの評判は賛否両論。茹でたてのタイミングで食べた方からは高評価があったものの、時間が経つと乾燥して味が落ちてしまい低評価になることもあったといいます。そこで堀氏が提案したのが、緻密な製粉技術でそば粉100%使用した「そば玉」を作るというアイデア。

地元で採れた上川産のそばを高度な製粉技術で微細分化してそば粉に加工、層雲峡の大雪山系伏流水と合わせてそば玉を作り、そのそば玉を手動式の製麺機に入れて十割そばに仕上げます。そば玉にすることにより鮮度が維持しやすくなるとともに、製麺したての状態で茹でるので出来立てを提供しやすく、また手動で製麺を行うのもエンターテイメント性が高くビュッフェに向きます。

手動式の製麺器として使うのは、お菓子のモンブランを作る際に使ういわゆる「モンブランマシン」。10cmほどの大きさのそば玉を製麺機に通すと、お椀に約一杯分のそばがすぐに製麺されます。つなぎを使わずそば粉と水だけで作る分、ぼそぼそしたり切れてしまうこともある十割そばですが、高度な製粉技術によって加工した上川産そば粉100%のそば玉で作る十割そばは、切れることなく滑らかな仕上がり。

「上川産の十割そばをビュッフェで提供できるのはすごく可能性を感じます。モンブランマシンを使うことで、そばの麺の太さを変えられるのも特徴が出せてメニューの幅が広がります」と各ホテルの料理長も手応えを感じている様子。

単にそばをメニュー化するのではなく、温泉地ならではのビュッフェスタイルの食体験として印象付けるということは、メンバーが特に意識したことでもありました。

さらに今回こだわったのが「つけ汁」です。「層雲峡観光協会」の呼びかけによりプロジェクトに参加することとなったホテル大雪」層雲閣」朝陽亭」朝陽リゾートホテル」の各料理長が主体となり、ホテルオリジナルのつけ汁を開発。

層雲峡温泉にあるホテルはそれぞれに個性があり、訪れる観光客の層も少しずつ異なります。インバウンドのツアー客を多く迎え入れるホテルや、ファミリー層が多いホテル、50-60代のご夫婦が多いホテルなどさまざま。それぞれのホテルが、個性を生かしたオリジナルのつけ汁を考案し、上川産そばの可能性を広げていきます。

地元の人が自信を持って美味しいと思う、地域に愛される「食」を目指す。

12月1日(金)、プロジェクトの第一弾となる実証実験として、地域内の関係者などが集まり、今回開発したそばの実演と各ホテルのつけ汁をお披露目する試食会が開催されました。

モンブランマシンを使って目の前で製麺される上川そばに、参加者のみなさんも興味津々。40秒という短い時間であっという間に茹で上がるのも魅力です。茹でたてのそばとともに、各ホテルのつけ汁を試食します。

ホテル大雪からは温かい「酸辛湯スープ」と、冷たい「肉蕎麦(豚肉トッピング)」の2種類のつけ汁。酢と醤油と塩をベースに鶏ガラで出汁をとったとろみのある「酸辛湯スープ」がそばとよく絡み、そば×中華のハーモニーが面白い一品。ニラと豚肉をトッピングしたピリ辛の冷たい「肉蕎麦」スープは細麺との相性が良く食欲をそそります。

層雲閣からは温かい「かも南蛮」。旨みたっぷりの出汁にゴロリと鴨肉をトッピングさせた温かいつけ汁と、しっかりコシのある十割そばがよく合います。

「朝陽亭」のつけ汁は温かな「エゾシカ肉入り紅葉けんちん蕎麦」。地場産の野菜と北海道産のエゾシカのバラ肉を甘めに炊いた、具沢山のけんちん汁。北海道産メニューに力を入れている朝陽亭ならではの提案です。

「朝陽リゾートホテル」のつけ汁は「煎りおからトッピング塩だれで食べる雪見蕎麦」。利尻昆布でとった出汁のきいたつゆでさっぱりといただけるつけ汁は朝ごはんを意識したメニュー。数種類のトッピングをお好みで加えていただきます。

地域のみなさんや各ホテルの料理長がざっくばらんに話しながら、つけ汁と茹でたての上川そばを試食。「おいしい!」「これが一番好き」「温かいつけ汁には太麺が合うね」など意見が飛び交う賑やかな試食会となりました。

12月6日(水)から各ホテルでの提供が始まることに先駆けて、集まったホテルの皆さんがモンブランマシンでの製麺をどのようなオペレーションで行うかなどを話し合うシーンも。30分に1回、お客様の席にワゴンサービスでモンブランマシンを使った製麺を実演するアイデアなど、具体的なアイデアが交わされていました。

これまでホテルのオーナー同士の交流はあったものの、料理人の方まで含めて一同に集まるという機会はなかなか実現してこなかったとのこと。このプロジェクトをきっかけに、初めて実現した「食」におけるホテル同士の連携。以前よりもスムーズにディスカッションが行われるようになったことで、同じ目的に向かって地域一体での取組も、より動きやすくなっていきます。

会場となったホテル大雪西野目晃正常務は「今回のプロジェクトをきっかけに埋もれていたそばの価値を再発見し、地域が一体となって取組を始めることができた。そば以外にも上川・層雲峡温泉ならではの素材がまだまだあるはず。これからも地域の魅力を広げていきたい」と今回の試食会を締めくくりました。

麺の太さとつけ汁の相性、上川産の素材を活用したつけ汁のバリエーションやトッピング、ホテル同士を行き来してつけ汁を味わえる仕組みや、お土産の物販など、今後も地域一体での様々な展開の可能性が広がりそうな上川そば。なぜこの町にそばがあるのか。そもそもの地域食材の歴史を紐解きながら、その魅力をさらに深掘りし、上川そばブランドをじっくりと醸成していくのはこれから。

「大切なのは私たち自身が自信を持って美味しいと思うこと。インナーマーケティングが大事であると思っています。層雲峡温泉で働く私たちが、上川の町のひとが、みんなが好きになるものだからこそ外に向かって発信をしていけるし、地域の食の価値としても高まっていきます。まずは時間がかかっても、その思いを醸成していき、地域に愛される食を作っていきたい」と、「層雲峡観光協会」の西野目智弘理事はシビックプライドの大切さを強調します。
外からの視点をきっかけに再発見された、地域の方自身が気づいていなかったその土地の魅力。その魅力を一層輝かせ、広げていくのは地域の中からの力です。

層雲峡温泉という大きな地域資源をベースに、地域が一体となり「温泉地×食」を切り口とした「食」の価値向上を検討していくプロジェクトはまだ始まったばかり。それぞれに個性的な地域のホテルが連携を深めていくことで、層雲峡温泉ならではの「食」はより深掘りされるとともに、地域全体としての食体験の豊かさや経済効果も向上し、ますます多様に彩られていくのではないでしょうか。

※1 「農林水産省 - 令和元年度産 耕地面積・主要農作物市町村ランキング」


■開催概要
観光庁では、令和5年度「地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業」において、 地域資源と地域食材の積極活用等により食の価値を高め、宿泊業の付加価値向上を進めると同時に、地域経済への裨益効果を増大させる取組のあり方について検証を実施いたしました。 
これにともない、本事業の取組内容を発表する事業成果報告会を開催することとなりました。 
観光産業関係者の皆様(宿泊事業者、自治体の観光部門担当者、DMO、観光協会、観光事業者)をはじめ、ご関心のあるすべての方のご参加をお待ちしております。
 
■日程
令和6年2月20日(火)15:00-17:00
■参加費
無料
■開催方式
オンライン(Zoom)

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伝統製法「灰干し」が広げる地域の新たな「食」。和歌山県・和歌の浦で目指す記憶に残る絶景ロケーションダイニング

万葉の頃より愛される景勝地、和歌の浦の絶景を舞台に始まった「食」プロジェクト。

このプロジェクトは、令和5年度観光庁が実施する「地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業」の実証事業の一環として、「ONESTORY」が事務局となり地域の方と協同して行う取組です。食の価値向上を目指すにあたり「文化財」「自然の風景地」「温泉その他の地域の観光資源」という3つの地域資源に焦点を当て実証先を検討し、「自然の風景地」をテーマとする実証先として、和歌山県和歌の浦地域が選定されました。

和歌の浦は、古くから和歌の聖地として和歌の神様が祀られ、多くの歌人たちがその美しさを詠ってきた由緒ある景勝地です。大阪から車や電車で1時間半ほど、今でも、穏やかな和歌山湾が目の前に広がる大パノラマの絶景に出会うことができます。平成29年には「絶景の宝庫 和歌の浦〜詠い継がれる、美しき風景として、文化庁が認定する「日本遺産」にも登録されました。

2023年夏、古来より人々の心を動かしてきた和歌の浦の絶景という資源を最大限に生かし、ダイナミックな地形が生み出す景観と地域の食を掛け合わせた、地域一体となるロケーションダイニングを開発するプロジェクトが立ち上がりました。

「和歌浦温泉 萬波MANPA RESORT」代表の坂口宗徳氏を中心に、和歌の浦観光協会、和歌浦漁業協同組合、地域の宿泊施設や飲食店が連携し、目指したのは新たな“和歌の浦ならでは”の食体験、この場所でしか出会うことのできないロケーションダイニングです。

おなじみの地域食材と伝統製法「灰干し」の掛け合わせが拓く、和歌の浦の新しい「食」。

和歌の浦地域は、雑賀崎漁港、和歌浦漁港、田ノ浦漁港という3つの漁港があり、地元では紀州「足赤えび」と呼ばれる希少な「クマエビ」のほか、「和歌しらす」の名で親しまれる和歌の浦で獲れるしらす、雑賀崎漁港名物の鱧や、高級魚のクエなど、地元で水揚げされる新鮮な魚介が豊富です。

漁港から直送される獲れたての新鮮な魚介はお造りなどで提供されることが多く、それはもちろん絶品で和歌の浦の誇る味でもあります。魅力的な旬の食材が豊富にあり、それらを生かしたメニューもあるものの、この地域ならではの「食体験」としての提案ができていないこと、そして、和歌の浦を代表する名物料理として際立ったキーディッシュがないことが、地域の抱える課題でありました。

こうした課題に対して、「絶景×食」という切り口で、食を楽しむシチュエーションも含めた体験的な価値として、“和歌の浦ならでは”の食を探るのが本プロジェクトの目標でした。

メンバーの話し合いの中で、和歌の浦の絶景と「屋外」での調理や食体験は親和性が高く、特にバーベキューのような火を使った調理は和歌の浦のロケーションを生かした工夫をさまざま考えられるのではないかと、「屋外」での取組への可能性が検討されていました。そこで一般的なバーベキューではなく、素材を引き立たせる火入れ技術である薪火・熾火調理に注目し、そのエキスパートである横浜の薪火ダイニング「SMOKE DOOR」に今回のプロジェクトのアドバイザーを依頼することとなりました。ロケーションを生かした調理ができ、さらにそれが素材の良さを引き立てる技術であることが和歌の浦地域の目指す方向性と非常に相性が良く、メニュー開発だけでなく調理技術についてもプロのレクチャーを受けることで、地域に新たな技が根付くことが期待されました。こうした経緯でタッグを組むこととなった「SMOKE DOOR」代表の雨宮 龍氏、シェフのタイラー・バージス氏、小出 浩史氏の強力なサポートのもと、地元の料理人たちとともに新たな“和歌の浦ならでは”のメニュー開発が進められました。

地元の方の協力により地域食材の洗い出しが行われ、それらの食材をより深く知るために「SMOKE DOOR」チームはさまざまな生産者のもとを訪れました。その中で特に注目したのが、地域に伝わる「灰干し」の製法です。和歌の浦に60年以上続く「灰干乾燥製法」による水産物の加工業者「西出水産」を訪れ、その工程を視察した際に大きな可能性を感じたといいます。

灰干しとは、高い吸湿性を持つ火山灰の中で魚を乾燥させる技法のこと。水分を通す特殊なセロファンで魚を包み、灰の中で空気と紫外線に触れさせずに水分を抜いていくため、魚を酸化させずに旨みと良質な脂を閉じ込めた鮮度の高い干物に仕上がります。和歌山県では江戸時代、紀州でさんま漁が盛んだったことから、古くからさんまは地域の食材として根付いており、いまでも「灰干しさんま」が特に親しまれています。そのほかにもアジ、鯖、鯛などいろいろな魚介の灰干し干物があり、地元でもなじみの深い食材です。天日干しされた干物と比べて、焼くと身がふっくらとやわらかく凝縮された良質の脂と旨みが口の中に広がります。

この、地元の人にとってはなじみ深く昔から大切に継承されてきた製法が、新たな和歌の浦の食を考えるキーとなりました。これまでは魚介を扱う技として発展してきた製法ですが、「SMOKE DOOR」チームが発案したのはその製法を肉で実践するというアイデアでした。
「西出水産さんからセロファンと火山灰を提供いただいて、灰の中に入れる時間などいろいろ試行錯誤を繰り返してみたのですが、予想以上の仕上がりになり驚きました。素材のみずみずしさを残したまま熟成を行うことができるので、焼き上げた時に表面はカリカリッと中はジューシーに、お肉の色もキレイに、まさに理想的な完璧な仕上がりでした。全国的に見ても灰干しのお肉を作っているところはあまりないので、これは“和歌の浦ならでは”のメニューになりうるのではないかと可能性を感じました」と「SMOKE DOOR」の雨宮氏は評価しました。

「こんな考え方もあるのかと勉強になった」と和歌の浦のホテルの料理長が振り返るように、“灰干し×肉”という組み合わせは、地域の方にとっても新鮮な視点でした。まだまだ考えられることがある、地元食材と改めて向き合い新しい価値を引き出していこうと、みなさんも大いに刺激を受けたといいます。さらに、和歌の浦の名産でもある高級魚クエを灰干しにしたことも今回の挑戦のひとつです。シェフたちと「西出水産」との協同により、干物を作る時よりも短めの時間で灰干ししたクエを使った一品も開発されました。

地域に元からある食材と製法を、これまでとは視点を変えて掛け合わせることによって、新しい地域の可能性が広がっていく。シェフの斬新な発想で、メニュー開発は加速しました。

記憶に残る食体験を。この場所で味わうからこその価値。

去る11月15日(水)17時30分より、美しい夕陽に照らされた和歌の浦の浜辺で、地域の関係者を招いて絶景ロケーションでのコースディナーをモニター体験する実証実験が行われました。
和歌の浦の海を一望できる高台に建つ「和歌浦温泉 萬波 MANPA RESORT」が旗を振り、建物横の県有地となっている蓬莱ビーチを会場にコーディネート。まずはロビーに和歌の浦地域の宿泊施設や飲食店、漁業関係者など30名ほどが集まりました。

1品目は「足赤エビのトースト」です。「足赤エビ」は正式には「クマエビ」と呼ばれる和歌の浦の名産品で、プリプリとした柔らかな身と甘みが特徴です。サクサク、ジュワ、プリプリ、ねっとり、さまざまな食感が口の中に広がります。足赤えびのトーストに合わせて選ばれたのが、和歌山の蔵元「平和酒造」の「紀土」です。地域の酒と食のペアリングを楽しむこともこのロケーションダイニングの狙いです。

その後、蓬莱ビーチにセッティングされたメイン会場へ移動します。静かな浜辺に焚き火のはぜる音が心地よく響くロケーションで、夕方から夜へと刻々と表情を変える和歌の浦の美しい風景も一緒に味わうダイニングがスタートしました。

2品目の、「梅素麺と灰干しクエ」は、和歌山名産の紀州梅が練り込まれたピンク色の梅素麺と、生食用に軽めに灰干ししたクエを合わせた一品です。梅の酸味がきいた素麺のさっぱりした味わいに、ほのかな塩味と甘みを感じるクエの美味しさが重なりあい美味しさが広がります。こちらのメニューに合わせたのがオリジナルのレモンサワー。15時間かけて香りづけしたスモーキーな木の香りが鼻に抜け、引き締まった灰干しクエの風味とぴったりのマリアージュが楽しめます。

3品目は「布引大根のサラダ 胡瓜、山椒、金山寺味噌」。江戸時代より続く大根の名産地である和歌の浦の布引地域で採れた大根を、生のまま、薪で焼いたもの、1週間薪の上で燻したものの3種類のかたちでサラダにした一皿です。パリパリとした食感や、スモーキーな香り、やわらかな歯応え、大根のさまざまな魅力が引き出されます。サラダに合わせるのはクラフトビール。1品目に合わせた地酒「紀土」を製造する蔵元「平和酒造」による「平和クラフト」のホワイトエール。2022年には、「World Beer Cup」で金賞に輝き世界一にもなったクラフトビールです。

4品目は「アワビの地中焼き、肝のソース」。砂浜に掘った穴の中に昆布締めしたアワビを詰め、その上に載せた鉄板の上で焚き火を燃やし、2時間蒸し焼きにして仕上げました。会場の焚き火の下で、エンターテイメント性を持たせながらメインディッシュが調理できるという工夫は、砂浜を会場にしたロケーションならではの演出です。砂浜から、しかも焚き火の下から、アワビが取り出される様子にゲストのみなさんも興味津々でした。蒸し焼きにしたアワビに濃厚な肝のソースがかかり、磯の香りとアワビの旨みを凝縮した贅沢なメニューにペアリングされたのは熱燗です。夜になり気温も下がってきた浜辺でいただくアワビと熱燗の相性は、言うまでもありません。

つづく5品目は、「灰干しにした紀州和華牛の熾火焼き、梅山椒、山葵、赤柚子胡椒」です。12時間灰干しした和歌の浦の和華牛を熾火焼きで火入れし、表面をカリッと中をジューシーに焼き上げたもの。熾火焼きとは、「SMOKE DOOR」チームが得意とする調理方法で、直火で焼き上げるのではなく、薪を焚いて作った炭の熾火を使い、うちわであおぎ温度調節をしながら火入れをしていく技です。カリカリの表面と、灰干しして乾燥熟成させた牛の旨みと脂がぎゅっと凝縮された柔らかな身のコントラストが格別な美味しさを引き出します。「和歌山湯浅ワイナリー」の赤ワイン「和 メルロー木樽 2022」をペアリングしました。

6品目は、「薪焼きシラス丼、鶏出汁」。和歌の浦名産のシラスを豪快に薪火焼きした香ばしくウッディーな香りのシラス丼は新鮮な味わいです。お好みで鶏の身から丸ごととった濃厚なお出汁をかけていただきます。

7品目はデザート「温州みかんプリン 柿」です。和歌山県はみかん、柿ともに生産量全国一位を誇ります(※1)。旬の果物のデザートでディナーは締めくくりとなりました。

和歌の浦が誇る食材を新鮮な視点で新たに捉え直すメニューと、和歌山のお酒のペアリングしたコースは、地域が育んできた様々な資源の魅力を再発見する食体験の提案となり、地元の方たちも一皿ごと新鮮な驚きを感じた様子でした。使われている食材やお酒について、テーブルの上での会話も弾みました。

和歌の浦湾をバックに夜の砂浜で行われたロケーションダイニングは、静かな波の音と薪のはぜる音を聞きながら、和歌の浦の新しい食体験を提案する試みとなりました。

「とても手応えを感じています。今日がはじまりとして、ひきつづき皆さんと一緒に継続して事業をブラッシュアップできればと思っています」と、プロジェクトを主導する「MANPA」代表の坂口宗徳氏は意欲を語ります。

1月18日(木)はこの日の参加者の方や地域の飲食店や宿泊施設の方が集まり、レシピ講習会が開催され、実際の作り方や食材の加工などをSMORK DOORチームに質問しながら、理解を深めていました。

和歌の浦のプロジェクトはまだ始まったばかり。今回行われたロケーションダイニングで提案されたエッセンスをヒントに、それぞれの施設が主体となり、独自のダイニングやメニューを企画・実践していくことが次なるフェーズです。

この日に提案された7品の料理と食体験を元に、たとえばアワビのソースをヒントにオリジナルのメニューを開発したり、灰干しを使った料理を展開したり、浜辺で行う地中焼きを別の素材に発展させたり……、今回の実証実験をきっかけに、オリジナリティ溢れる新たな和歌の浦の味、ロケーションダイニングが各所から生まれていくことが期待されます。

※1 「和歌山県 - 果実収穫量の全国順位一覧」


■開催概要
観光庁では、令和5年度「地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業」において、 地域資源と地域食材の積極活用等により食の価値を高め、宿泊業の付加価値向上を進めると同時に、地域経済への裨益効果を増大させる取組のあり方について検証を実施いたしました。 
これにともない、本事業の取組内容を発表する事業成果報告会を開催することとなりました。 
観光産業関係者の皆様(宿泊事業者、自治体の観光部門担当者、DMO、観光協会、観光事業者)をはじめ、ご関心のあるすべての方のご参加をお待ちしております。
 
■日程
令和6年2月20日(火)15:00-17:00
■参加費
無料
■開催方式
オンライン(Zoom)

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命を「いただく」意味を考え抜き探し求めること。そこに精進料理の本質がある。[DINING OUT HIEIZAN/滋賀県大津市]

仏教について意見を交わし交流を深めてきた「比叡山金台院」住職・礒村良定氏(右)と翻訳家・ピーター・J・マクミラン氏(左)。

DINING OUT HIEIZAN「比叡山金台院」住職・礒村良定、翻訳家・ピーター・J・マクミランの対話から見えたそれぞれの答え。

「少し疲れが溜まっていたのですが、驚くことに小林さんの料理をいただくとそれが回復したのです」。

「ヴィラ アイーダ」小林寛司氏の料理哲学である「僕の料理を食べてくれる人が健やかでいて欲しい」を聞くと、今回、「ダイニングアウト比叡山」の翻訳を務めたピーター・J・マクミラン氏は感慨深げにそう呟きました。

医学的根拠はないものの、小林氏の料理は、心身に染み渡る何かがあるのかもしれません。

普段は寺社仏閣と縁が遠く、恐らく仏教に馴染みのない外国人ゲストが多く参加した2回目の「ダイニングアウト比叡山」。「仏教施設を初めて訪れる方もいらっしゃるかもしれません。そういった方にも少しでも理解の一助となるように、専門用語は極力使わず、基本的なことからお伝えするよう努めました」と「比叡山金台院」住職・礒村良定氏は言います。

さらに、万全の態勢を整えるために礒村氏と協力するのは、前述、かねてから親交のあるピーター氏。母国・アイルランドで哲学を修め、「万葉集」など和歌や日本の古典文学にも精通し、「比叡山」の歴史や仏教の教えにも造詣が深い人物です。

日本の伝統文化への深い知識と理解、リスペクトが根底にあることが伝わるピーター氏の言葉は、時に外国人としての視点にも寄り添い、礒村氏の解説を絶妙に補足します。結果的には、日本人ゲストにとっても「何となくわかるけれど、正確には理解しきれない」仏教の知見を深める貴重な体験となりました。

「日本人が食事の前に口にする”いただきます”という言葉。これは仏教に基づく宗教行為ですが、”特定の宗教を持たない”と自認している日本人の生活習慣に根付いている現象は興味深いです」とピーター氏。

礒村氏によると、「いただきます」とは「あなたの命を私の命に変えさせていただきます」という意味の短縮語。食事を摂ることで心身を維持するという、自分の使命を果たすための修行のひとつです。

仏教の観点からいうと、教えに基づき植物性の食材だけで調える精進料理は修行のひとつですが、外国人の目線に立つと、「今世界中で注目されているプラントベースの料理である」とピーター氏は言います。

「AIが予測したモデルによると、2024年から世界的にプラントベースへの移行が始まり、2075年までに世界中のほぼすべての人口がヴィーガンになるそうです。日本料理はかつお出汁を使うものもたくさんあるため、プラントベースとはかけ離れていると日本人でも思っている人もいますし、外国人も日本ではヴィーガン料理を見つけるのは難しいと思っている場合も多いです。ところが、日本には世界でプラントベースがトレンドになる1200年以上も前から、脈々と受け継がれてきた精進料理があります。小林氏が創りあげたような感動するほど美味しい精進料理は、これから世界に貢献するコンテンツになるでしょう」と、持論を述べます。

そんなピーター氏の言葉を聞き、「小林氏が精進料理の新しい可能性を開拓してくれた」と言うのは礒村氏です。

「本来の仏様の教えでは、肉や魚を食べてはならぬと禁止されてはいらっしゃらないのです。自分が暮らす土地がもたらす恵みを最低限だけありがたくいただき、あますところなく自身の身体に取り込み、その生命で各自の使命をまっとうするというのが本懐です。仏教の”殺生を禁ずる”という教えが”万物に神が宿る”という日本人独特の宗教観と融合して、現在の戒律ができました」。

食事という行為を修行のひとつとして捉える僧侶は、自身の食事には美味しさを求めないと礒村氏は言います。

「自身が美味しいものを食べたいという欲に流されないことも修行のひとつです。どうやって美味しく食べるかを考えるより、どういただけば生命をもっとも大切にしたことになるかを毎日考えること自体が修行です」。

一方、毎日、最澄様にお供えする食事は、限られた食材を使い切りながらも、可能な限り美味しく作って差し上げたいと自身の持ちうる限りのクリエイティビティを発揮します。これもまた修行のひとつ。これは、自分が美味しさを楽しみたいという利己的な考えではなく、食事を差し上げる方を最大限におもてなししたいという利他的な考えによるものといって良いでしょう。つまり、これもまた、修行。

「例えば私たちが椎茸を手に入れることができたら、まず乾燥させて出汁を取り、その出汁ガラを料理していただきます。今回のメニューの中にも椎茸を使用した料理があったのですが、同じ食材でも小林氏の手にかかるとこうも変わるのかと驚きました」と礒村氏が話したのは、生の椎茸の玄米寿司「薬菜」。

人それぞれが自分の中心に、自身の中に仏様を見い出すための宝石のような種を持っている。それが「一隅を照らす」という考え方。そうであるならば、食事もまたそれぞれが向き合って考え抜いたその先にそれぞれの答えがあってよいのかもしれません。

戒律に従い日々自己と向き合うのが礒村氏の精進料理。

「食べ手の心身を健康的に整えたい」という自然と融合した利他的な料理が、小林氏の精進料理。

そして、仏教の教えや精進料理を十分に理解しながらも「プラントベースを中心に、肉や魚を少量だけいただく”フレキシタリアン”という柔軟な食事を選択している」というマクミラン氏。

「それぞれの食事に、正解も不正解もありません。これが”一隅を照らす”ということです」と礒村氏は総括します。

生命をいただくことの感謝。それは、食材が生きてきた時間や育成から料理に関わるすべての人たちの時間=人生をいただくことでもあるのです。

小林氏の精進料理はもちろん、「滋賀院門跡」、「浄土院」、「根本中堂」、「日吉大社」、「式包丁」など、全ての体験が「ダイニングアウト比叡山」。まだまだその魅力は尽きません。

礒村氏が未来に繋がる精進料理の可能性を感じたという「ヴィラ アイーダ」小林寛司氏の「一隅を照らす」精進料理のひとつ、椎茸の玄米寿司「薬菜」。

主催:比叡山観光再始動協議会
企画・プロデュース:ONESTORY

旅行企画:第一観光

特別協力:天台宗総本山 比叡山延暦寺
協 力:宇佐国東半島を巡る会・文殊仙寺、小嶋商店、中村ローソク、日本航空、日本庖丁道清和四條流、日吉大社


Photographs:JIRO OHTANI
Text:SHIFUMI ETO

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滋賀の食文化の先には、必ず「比叡山」があった。「ひさご寿し」川西豪志が極める「式庖丁」。[DINING OUT HIEIZAN/滋賀県大津市]

神が降臨したような気配さえ感じさせる気迫に満ちた神前の儀式「式庖丁」を披露してくれたひさご寿し」川西豪志氏。

DINING OUT HIEIZAN命と向き合い、聖なるものとつながる、もうひとつの精進料理。

自身の心臓の音すら体内から聞こえるほど、静寂な世界。風や葉の音を除けば、無音。唯一響き渡るのは、刃音。

冬の陽光を映し輝く刀が迷いなく振り下ろされると、その切っ先から溢れる静かな気迫が周囲を圧し、日吉大社「宇佐宮」拝殿は水を打ったように静まり返りました。伝統装束に身を包み、神前で聖なる儀式「式庖丁」を披露したのは、滋賀県近江八幡市「ひさご寿し」料理長の川西豪志氏。寿司職人として、琵琶湖のほとりで寿司を握る意義を問い、滋賀の食文化を掘り下げ、琵琶湖の湖魚と淡水魚を研究し続ける人物です。

「世界において寿司は日本の食文化の象徴のひとつです。私は寿司屋ですから、寿司を通して日本の食文化を若い世代や海外の人たちに伝えたいと考えました。美味しい寿司をお出しする寿司屋は全国にたくさんあると思いますが、それをこの地で私がやっても意味がありません。湖の恵みを受けるこの土地で寿司屋を営む意味、美味しさの先にあるものは何なのか。それを寿司としてどう表現するのか。発信することの難しさに直面していた時に、まさにアウトプットの場としてふさわしい「ダイニングアウト比叡山」とのご縁をいただきました」。

川西氏の哲学は、「ダイニングアウト比叡山」に限らず、「ダイニングアウト」が大事にしていることにも通じています。それは、「食体験」ではなく、「文化体験」であるということです。

一般的に寿司種としてはあまり使われない淡水魚を寿司に落とし込んだ集大成が、1日目のランチとして「滋賀院門跡」で供された「湖魚にぎり8種」です。例えば、琵琶湖だけに生息する固有種の「岩床鯰(イワトコナマズ)」は、新鮮な切り身を握り、煎り酒(日本酒と梅干しを煮込んだ日本最古の調味料)に浸した粒辛子を添えます。同じく琵琶湖固有種の淡水貝「丸だふ貝」は、日本酒・みりん・塩で軽く煮てから握り、醤油とみりんを煮詰めて葛でとろみをつけたタレを塗り、生姜を添えました。

その寿司は、鮮度の良い魚を切りつけて食べさせる、いわゆる「漁港寿司」とは別もの。言わずもがな、一貫ずつに丁寧な仕事が施されていますが、その仕事が寿司の域を超え、一貫の寿司が完成された料理として考え抜かれて構築されていました。

「一つひとつを料理として仕上げて、8貫を組み合わせることで琵琶湖を表現する。「ダイニングアウト比叡山」に挑戦をしたことで、淡水魚をより美味しく調理する技術を高め、自身も成長することができたと思います」。

寿司を構成するのにもうひとつ欠かせない要素が米=シャリです。「ひさご寿し」が伝統的に使ってきたのが、2年間16℃の定温熟成させた滋賀県産「近江米日本晴」の古古米。米についても知見を深めたいと学んでいくと、その歴史は「比叡山」とクロスオーバーしていました。

「米が貨幣としての価値を持っていた江戸時代までの中近世、今で言う「日本銀行(日本の中央銀行)」のような役割を担っていたのが「比叡山 延暦寺」でした。滋賀県は「比叡山」のお膝元。日本料理人として食文化を掘り下げていくと、「比叡山」にたどり着かずにはいられなかったのです」。

20代のころは、少しでも技術を高めて美味しい料理をつくりたいと、目の前の仕事をがむしゃらに取り組んでいたという川西氏。目の前の湖で揚がる魚をきっかけに、川や山の生態系、自然のサイクルから生まれた自然崇拝へと思いは繋がり、まるで導かれるように自然と「比叡山」へと縁が結ばれました。その縁の先にあったのが「式庖丁」との出合い。「自分の中ではゆるやかな流れの中で「式庖丁」へと繋がっていったと感じています」と話すも、これは必然の結実。

精進は、仏道修行のために厳しい戒律が定められていますが、仏陀の教えは「生命を繋ぐために最低限の食物をあますところなくすべていただく」こと。淡水魚である鯉を儀式として神前に捧げます。

人はもちろん、食材にも命があります。その命は、木や花などにおいても、平等に与えられています。

川西氏にとっては、「湖魚にぎり」もまた、聖なるものと繋がる精進なのです。

昼食会場は、川西氏が生まれ育った「滋賀県」の名前の由来ともいわれている「滋賀院門跡」。

琵琶湖の恵みを寿司に落とし込んだ「湖魚にぎり」全8貫。後列左から、岩床鯰(イワトコナマズ)、丸だふ貝、琵琶鱒白子、中列左から、公魚(ワカサギ)、本諸子(ホンモロコ)、前列左から、琵琶鱒(ビワマス)、鰻(ウナギ)、真近(マヂカ)。とりわけ白子は、外国人ゲストは初めて口にした人も多かった。

それぞれの文化風習をバックグラウンドに持つグローバルなゲストたち。各自の文化に照らし合わせながら湖魚を口にするうちに少しずつ打ち解けて空気がほどけていった。

昼食時には日本料理人としての顔を見せた川西氏。「琵琶湖の面積は地球規模から見たら極めて小さいものですが、ここで育つ魚を見つめ続けることは、湖の先にある川、山、海、環境を大局的に理解することに繋がる」と語る。

雅楽の調べに合わせて「式庖丁」を行う一行が境内に入ると、まるで祝福を受けるかのように後光が降り注いだ。

「式庖丁」は「比叡山」の麓に佇む「日吉大社」の「宇佐宮」拝殿で執り行われた。

この日「式庖丁」で裁き神前に備えたのは天然の鯉。右手に庖丁刀、左手に俎箸を持ち、魚体に手を触れずに解体する。

導かれるように「式庖丁」と出合い、現在では技術を磨き次世代に継承することに使命を感じていると語る川西氏。彼にとって「式庖丁」と向き合うことが「一隅を照らす」行為。

主催:比叡山観光再始動協議会
企画・プロデュース:ONESTORY

旅行企画:第一観光

特別協力:天台宗総本山 比叡山延暦寺
協 力:宇佐国東半島を巡る会・文殊仙寺、小嶋商店、中村ローソク、日本航空、日本庖丁道清和四條流、日吉大社


Photographs:JIRO OHTANI
Text:SHIFUMI ETO

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己を照らし、料理を照らす。「ヴィラ アイーダ」小林寛司が精進料理と再び向き合う。[DINING OUT HIEIZAN/滋賀県大津市]

二度目の「ダイニングアウト比叡山」に臨む「ヴィラ アイーダ」小林寛司氏。

DINING OUT HIEIZAN第1回目の余韻をそのままに。第2回目は、敢えて「白椀」から始まった。

料理に願いと思いを託すー。

そんな料理哲学を持つ「ヴィラ アイーダ」小林寛司氏が、1回目の余韻をつなぐように供した一品目は、前回同様の「白椀」。寒い冬の山の夜に熱々のお椀で心身を温めてもらいたい。混じりけのないピュアな素材を身体に取り入れることで心身を調和して、健やかに食の喜びを享受して欲しい。言葉数の少ない彼が日ごろから伝えたいそんな願いが、口にした瞬間にくっきりと解像度が上がり、文字通り腑に落ちていきました。

2023年2月に開催された1回目の「ダイニングアウト比叡山」では、「精進料理の基礎を学ぶところから始め、規律を遵守しながらの初挑戦は難しかったですが、既存のイメージとは違う、自分に求められた創造性のある精進料理が完成しました」と語っていた小林氏。終演後、本人も「やりきった、出し切った」と話していましたが、再び挑戦。同年12月に開催された2回目の「ダイニングアウト比叡山」で供された精進料理は、進化したものではなく、深化したもの。技術の向上だけでは表現できない、精神が強化されたようなもの。それは、儚くも静謐で奥深く、穏やかなものでした。

テーマは、「一隅を照らす」。

料理名にも想いが込められた献立。流麗な筆跡は「比叡山金台院」住職・磯村良定氏の手によるもの。

今回のテーマとなった「一隅を照らす」。お品書きには季節の寒椿の葉がひと枝添えられていた。

1品目「白椀」。滋賀の酒蔵「冨田酒造」の名酒「七本鎗」の仕込み水と大津「九重味噌」の白味噌だけで仕上げた椀(右)。柚味噌とハーブを乗せたライスチップ(左)を合わせた。

会場となった「大書院」。刻一刻と日没へ向かうに連れ、創業江戸寛政年間「小嶋商店」の提灯に記された「齋」のインスタレーションが闇に冴え冴えと浮かび上がった。

DINING OUT HIEIZAN深化できた理由。それは、1回目の終了後に養われた旅という名の修行。

1200年以上の歴史を誇る「精進料理」という壮大なテーマを心の一隅に抱きつつ、1回目の終了後、小林氏は、これまでの人生で最も多くの旅を重ねてきました。

アメリカや南米、フランスやオーストリアなどのヨーロッパ、香港やシンガポールといったアジアの身近な国々まで世界中を飛び回り、料理人と知見を交わし、各地の食文化と対峙した時間。日本の食文化を国内外から複眼的に捉え直した体験。前述、技術の向上だけでなく、精神を強化できた理由は、そんな時間が小林氏を養ったのかもしれません。言い換えれば、それは修行とも言うべきか。培った経験は、今回の料理にも存分に発揮されました。

例えば、韓国「白羊寺」の尼僧、チョン・クワンさん手ずからの韓式精進料理との出会いがそのひとつです。

1回目は、伝統ある精進料理らしさに敬意をはらうあまり「今思うと豆腐や湯葉といった大豆の力に頼った部分もあった」と感じていた小林氏をもてなすため、山の味覚を携えて山から降りてきてくれたチョンさんの料理は野菜やハーブ、野草などを自在に使い、優しい味わいで盛り付けも大らかなものでした。

「その時その土地にある一期一会の恵みを、素材本来の持ち味を大切に自由な発想で使い切る。つまり普段から自分がやっていることと基本的には同じ考え方でした」と小林氏。

それが表現されたのが「地下茎」。この季節にはよく用いられる根菜にフォーカスしながらも、ビーツや紅芯大根、紫にんじんといった視覚を楽しませる彩りを揃え、チコリコーヒーのソースで苦味と風味を加えました。地下茎といえばほっこりした料理。そんなステレオタイプのイメージを軽々と超えていく、即興性があり自由で風通しがいい料理。そんな小林氏らしさが色濃く映し出されていたと思います。

また、技術的には、プラントベース宣言をして話題を集めたニューヨーク「イレブン・マディソン・パーク」やコラボイベントを行って厨房で意見を交わしたオーストリア「ティエン」といった世界的に著名なプラントベースのファインダイニングからも学びを得ました。

小林氏自身は植物をメイン食材としながらも「その土地のものをバランスよく食べることが食べ手の心身の調和に繋がる」と考え「ヴィラ アイーダ」では動物性の食材も使っています。そのため100%植物のブロス(出汁)を、スモークしたり発酵させたりと工夫を凝らすことでファインダイニングのクオリティに引き上げる手法に関心を持ったのかもしれません。

ここから生まれたのが、きのことレモングラスのブロス「煎椀」。あまりの馥郁とした芳醇な清らかさに一同がしんと静まり返った名作となりました。

今回、イタリアやアイルランドなどヨーロッパ、アフリカ、中国といった多国籍な外国人ゲストが参加していたのが1回目と2回目が大きく違うところのひとつ。料理の解説においても、有巳さんが英語でスピーチを行い、ゲストへの理解度を深めます。世界各地での人種を超えた交流の中で見つめ直した自身のアイデンティティ。日本古来の文化の美しさと小林氏らしい繊細な表現力が調和したのが、「想いの欠片」でした。

温めた石皿の上にカリフラワーや湯葉、百合根といった白い食材を中心に描いた雪降る里山の風景。水墨画を思わせる静けさに満ちたひと皿は、外国人ゲストに日本らしさを伝えるだけでなく、日本人にとっても日本の自然の尊さを再認識させるものでした。

その「想いの欠片」が供されるころ。夕暮れ時、わずかな明かりに包まれた堂内では、旋律や抑揚をつけて経文を唱える声明が始まりました。宗教的に異なる背景を持つ外国人ゲストにおいても、料理とメロディが聖なるものであることは、伝わったのではないでしょうか。イタリアのナポリや南アフリカ、中国といった「普段は非常に賑やかに音楽と食事と会話を楽しんでいます」と語るゲストも、和やかながらも厳かに晩餐に向き合っていました。

日本文化に親しみ、自分たちなりに理解し、リスペクトしてくれていた外国人ゲストたち。そんな彼らだけでなく、日本人ゲストも感嘆したのが締めくくりのデザート「蕪と柚子」。

カブと柚子といえば冬の定番の組み合わせ。何の変哲もない素材同士のありふれた組み合わせから、目の覚めるような味わいを創り出すのは、小林氏の得意とするところです。儚く繊細な甘さが重なっていて、すぐに消えそうなのに余韻が長い。「アンビリーバブル…」。ひとりの女性がそう囁きました。

「旅先での出会いや体験は、今回取り入れてみたものもあれば、消化するのに時間がかかるものもありますが、すべてこれからの僕の料理に活きてくるはずです」。

これからの小林氏の料理を変える可能性を持つ旅。例えば「人生最高の旅になりました」というペルーでは、インカ帝国時代の農業遺跡のほとりにある「ミル」を訪れ、食と生命と信仰が直結する少数民族の食文化に触れました。

また、「ガーデン(自家菜園)と料理を一体化する世界観を日本でもっとも体現している日本人料理人」として招かれた南仏マントンにある三つ星店「ミラズール」では、地形を生かして美しい風景の一部となっているパーマカルチャーのガーデニングに刺激を受けました。

これらの体験は、まだ小林氏が消化できていないものもあります。時間をかけ、結実された時、小林氏の料理はさらなる高みへと昇るのかもしれません。そんな小林氏が再び精進料理と向き合った時、どんな表現を成すのか。

「かつては季節の野菜をガストロノミーに昇華したいとクリエイティビティを追究した時期もありましたが、今は僕の料理を食べることで自然を感じて心身が整い、食べてくれる人が健やかでいて欲しい。そう願って料理しています」。

そんな願いとアイデンティティが2回目の「ダイニングアウト比叡山」には込められていたのです。

国内外において、イベントなどの出演依頼が引きも切らない現在。「自分が成長して料理をさらに深く向き合う」ことを大切に一つひとつに取り組んできた小林氏。「ダイニングアウト比叡山」では、「自分に求められた役割を考え抜き、期待を上回るをクリエーションを披露することが使命」と話します。

それが今回のテーマである「一隅を照らす」への現時点での小林氏のアンサー。

もし、3回目の「ダイニングアウト比叡山」があったとしたら……。

「僕がやらなければ誰がやるというのでしょう」。

ピュレ、チップス、ソースとさまざまに形を変えるビーツを主役に紅芯大根や紫にんじんといった根菜を合わせた冬らしいひと皿「地下茎」。。チコリコーヒーのソースがさらに土の香りを膨らませていた。

雪景色を思わせる繊細な「時を捉える」。食材の切り方にも独自の世界観を持つ小林氏らしく旬のカブを大ぶりにカットして、白和えをイメージした異国情緒のあるフムスをまとわせ、極薄の干瓢シートをひらひらと遊ばせた美しいひと皿。

特別な晩餐を締め括るのにふさわしい「蕪と柚子」。冬の京都ではごくありふれた見慣れた食材の組み合わせから、小林氏のほかに誰がこの味を創造できるだろうか。

旋律や抑揚をつけながら経文を唱える「声明」は、静かながらも力強く低音が増幅して響き、厳かな雰囲気によく似合っていた。

「ヴィラ アイーダ」でも日ごろから小林氏の想いを代弁しているマダムの有巳さん。会場ではペアリングワインのセレクトと接客で活躍した。

新潟「里山十帖」料理長で2023年に「世界のベスト女性ベジタブルシェフ賞」にも輝いた桑木野恵子さん(左)、京都でミシュランガイド一つ星を持つ「KOKE」オーナーシェフ・中村有作氏(右)のほか青森・北津軽のデスティネーションレストラン「澱と葉」シェフ・藤田潤也氏、淡路島「寿司割烹 源平」三代目・吉田光佑氏と錚々たる料理人たちが小林氏を慕って駆けつけ抜群のチームワークでサポートした。

極限まで色調を抑えて陰影で日本の原風景を描いた「想いの欠片」。百合根、豆腐、小巻ゆば、カリフラワーといった白く淡い食材のグラデーションをふわふわとやわらかく重ねながらケールや柚餅子で苦味や酸味を加えるのが食べ手の予想を常に超える小林氏らしさ。

野菜料理だけでなくスープ(汁もの)にも定評のある小林氏らしさが最も現れていた「煎椀」。たっぷりのきのこから取った出汁にほうじ茶、レモングラス、陳皮で複雑味を加え、キャベツと干し芋のラビオリを浮かべ、揚げたケールの葉を添える。磯村氏と通訳を務めたピーター氏も絶賛したひと品でもある。

「延暦寺」では出汁を取るために乾燥させて干し椎茸として使う椎茸をフレッシュなまま寿司ダネに見立て、くっきりと酸味の立った玄米と合わせた椎茸寿司「薬菜」。ガリをそのままではなく、隠し味に使ったマスタードリーフのサラダと共に。

サポートメンバーの「寿司割烹 源平」三代目・吉田光佑氏と共作の「塩と風」。細めに打った「息吹在来そば」に極細にカットした野菜のかき揚げを乗せ、刻んだ春菊で苦味を加え、オリーブオイルと大根おろしで味わう。一般的にイメージするかき揚げそばとは別次元の世界。

「日吉大社」とのご縁により甦った日本最古の茶園といわれる「日吉茶園」のお茶。ヴィラアイーダ特製のラムネ、柚子の琥珀糖、甘みを抑えてふっくらと炊いた黒豆。

小林氏を中心に厨房でのサポートメンバーから接客を担当したスタッフまでチームワークのよさが見てとれた特別な一夜に、ゲストは惜しみない称賛を送った。

主催:比叡山観光再始動協議会
企画・プロデュース:ONESTORY

旅行企画:第一観光

特別協力:天台宗総本山 比叡山延暦寺
協 力:宇佐国東半島を巡る会・文殊仙寺、小嶋商店、中村ローソク、日本航空、日本庖丁道清和四條流、日吉大社


Photographs:JIRO OHTANI
Text:SHIFUMI ETO

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超絶人気の生ドレッシング。糸島野菜とあまおうの季節限定品。[和光アネックス/東京都中央区]

たっぷりのあまおうに糸島産の玉ねぎをプラス。あまおうの酸味と甘味が感じられる生ドレッシング。

WAKO ANNEX新鮮な糸島野菜をそのまま擦り下ろした生ドレッシング。

福岡の中心地から車でわずか40分ほど。自然溢れる景観が今なお残る糸島。そんな糸島の食材を使用し、無添加の商品を製造しているのが福岡県糸島市「糸島正キ」です。人気のシリーズは、「糸島野菜を食べる生ドレッシング」。

全て手作業で作られる品々は、糸島の野菜を皮ごとたっぷり使い、容器の半分以上は野菜が詰まっています。見た目のインパクトはもちろん、その美味しさにリピーターが続出。糸島だから美味しい、生だから美味しい、だから選ばれる連鎖が生まれています。

今回、ご紹介する品は、季節限定の「あまおうドレッシング」。2023年度第1回「ドレッシング選手権」最高金賞、地域の味ベスト賞を受賞のそれは、苺の王様、博多あまおうの苺の香りとフレッシュな酸味がくせになる美味しさです。

サラダにかけるだけで贅沢料理に。そのほか、生ハムやモッツアレラチーズとも相性抜群。フルーティーな甘さと酸味が食欲をそそる。調味料として使用もお勧め。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

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栃木が誇る新種の苺をたっぷり使用した「とちあいか」ジュース。[和光アネックス/東京都中央区]

ビタミンCを多く含み、ジュースだが健康にも配慮。食事のバランスを保ってくれる品。

WAKO ANNEX1本にとちあいか約1パックの果汁が入った贅沢なジュース。

栃木県小山市。先祖代々、農業と結城紬を営んでいた父の代。結城紬をやめ、現代表の荒井聡氏が就農するとともに露地野菜から苺の栽培に切り替え。以降、農業の新たな収入源として6次産業を考え設立されたのが「新日本農業」です。ゆえに、自社加工所によって、すべての生産から加工、販売までを行います。

今回、ご紹介する品は、栃木の新種の苺とちあいかを使用した「とちあいか」ジュース。

とちあいかは、とちおとめよりも糖度が高く、酸度は低めなのが特徴。香料、砂糖を加えずに、とちあいか本来の香りと甘さを活かしたストレートジュースは、1本にとちあいか約1パックの果汁が入った贅沢な品です。

そのままストレートはもちろん、牛乳や炭酸水、カルピス、甘酒、酒類などで割って飲むのもお勧め。また、通な使い方は、ゼリーなどのお菓子作りにもぜひ。

いちご本来の甘さをと香りを楽しみたい方、甘すぎないお酒を楽しみたい方にはもちろん、添加物が気になる子育て世代の方や低糖質ダイエット中の方にもおすすめです。ビタミンCを多く含み、健康にも配慮しているのも嬉しい品です。

ストレートも美味しいが、牛乳や炭酸水、酒類と割っても楽しめる。自分好みの飲み方を見つける楽しさも。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
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Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

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西洋と日本、江戸と令和が交わる歴史の地で催された、特別なガストロノミーイベントへ。[長崎県平戸市]

歴史的建造物を舞台に大塚瞳が特別コースを!

皆さま、突然ですが問題です。

九州本土の西北端、日本で初めて西洋貿易が行われた場所がどこかご存知でしょうか?ヒントは1609年(慶長14年)に和蘭船が入港し、1641年(寛永18年)長崎出島に移転するまでの約33年間、我が国唯一のオランダ貿易港として賑わった場所です。島の形はタツノオトシゴにも形容され、北は玄界灘、西は東シナ海を望む風光明媚な港町でもあります。小学校の教科書でフランシスコ・ザビエルとともに、この地を覚えた記憶がある方も多いでしょう。

そう、その地こそが今回ご紹介する平戸です。

街の中心・平戸地区は、旧平戸藩松浦氏の城下町で、鎖国が行われる以前、江戸時代初期までは中国、ポルトガル、オランダなどとの国際貿易港として発展。今なお街を歩けば、教会と寺院が隣り合わせ、フランシスコ・ザビエルの史跡や隠れキリシタンの集落、平戸城やオランダ橋、そここそに西洋文化と日本が初めて出会った痕跡が辿れるのです。

そんな歴史ある地区で、歴史的建造物を舞台にしたガストロノミーイベントが開催されました。平戸ガストロノミー2023「Firando Restaurant」と命名されたイベントは、11月に3度に亘り、平戸の食材を使ったスペシャルディナーが振る舞われたのです。

第1回の会場は「平戸城」、第2回の会場は隠れキリシタンの里として知られる春日集落「かたりな」、第3回は「平戸オランダ商館」。様々なジャンルの料理人がそれぞれに描いた平戸のメニューはこの地をよく知る人にも初めてだった人にも大いに喜ばれたという訳です。

今回は、第3回「平戸オランダ商館」×旅する料理家・大塚瞳さんの食事に密着。歴史とともに発展を遂げた平戸ならではの食事の様子をお届けできればと思います。

別名亀岡城と呼ばれ、平戸瀬戸に突出した平山城。現在の平戸城天守閣は、1962年(昭和37年)復元。

地元・志々伎漁協婦人会有志の方々と大塚瞳さん。早朝より続々と届く平戸の魚介類をテキパキと仕込む。地元のホテル厨房にて。

隠れキリシタンがクリスマスを祝った際のイラスト入りの貴重な文献。会場には他にも数多く平戸の食文化資料が展示されている。

イベント開始直前、各々のテーブルを最終チェックしていく大塚さん。三段重の結び目ひとつとっても丁寧に、そして美しく。

30人がひとつのテーブルを囲む晩餐会のようなスタイルで会場を設営。平戸オランダ商館の2階の特別室が会場に。

旅する料理家・大塚瞳による“長崎に近か料理”とは?

「今回は平戸オランダ商館という歴史的な建造物で、初めて料理をお出しするイベントに声をかけていただいたということに感謝しています。事前に平戸に保管されている絵巻や文献などを拝見しました。隠れキリシタンの方々がクリスマスをお祝いした料理の絵付きレシピや、東南アジアから平戸を玄関口に渡ってきた香辛料の資料などから壮大な歴史の流れを感じることができました。あぁ、我々が今普通に口にしている味付けや少し洋風のものは全て平戸から広まったのだと思うと震えました。自分が生きている年月はほんのわずかで、はるか昔に起こった出来事が今この時を作っているのだと思うと感動的です。ご飯を食べるということだけでない空間と物語を味わっていただけたら嬉しいです」

そう切り出した大塚瞳さん。最初の打ち合わせでは、ディナーのみ開催予定でしたが、彼女がたどり着いたのは、昼・夜の2回の開催と別々のコース料理。平戸を解釈するにはそれでも足りないけれどせめてものことだったそうです。この地の食事とは、いわば世界と日本をつなげた窓口であり、現代の料理へつながる橋渡し。そう考えるとさまざまな側面からこの地を表現したいというものでした。昼のコースでは地元・志々伎漁協婦人会有志の方々と平戸の郷土料理をアレンジしてくれました。

「長崎の料理は甘いと一言で表現されることが多いです。これは当時貴重だった砂糖が食文化に深く関係しています。ただ甘いではなく、この味付けは長崎に近か、これは遠かと表現します。せっかくならただ甘いといって不得意なものと認識するのではなく、自分の慣れ親しんだ場所の味を基準にすると長崎に近づいているという、この地ならではの素敵な表現を感じてもらえたら嬉しいです」

料理は二段重の器に盛られた魚介中心の前菜にはじまり、地元の老舗菓子舗のどら焼きの皮に出来立ての平戸豚と無花果を挟んだ酢豚サンド、長崎の肉じゃがは鯨で作られることから着想を得たというおでんは、郷土料理のエソのすり身揚げの中にゆで卵が入っているアルマードと共に。どれもが独創的ながら、すべて地元に根づいた食文化を再構築したもの。会場に訪れたゲストからも自然と「長崎に近かね」「アルマードがこんな素敵な料理になるのね」と次々に驚きと称賛の声が寄せられていきます。知らず知らずのうちに会場が和気あいあいとなるよう、長崎に近かという表現一つで地元の方を親しみやすく導く。そんな気遣いも大塚さんならではなのでしょう。

さらに驚いたのは実は歴史的建造物という会場の規制により、館内での火気の使用は禁止。それでも温かいものは温かいうちに、できたてをすぐに提供したいと、会場から数キロ離れたホテルの厨房で仕込みをした後、平戸オランダ商館の外で炭を起こし、屋外厨房で仕上げを行っていたというダイナミックさ。

火の使えない会場での平戸の郷土料理の再構築。そんな難題も軽々超える味わいに、昼の部は惜しみない拍手に包まれて、無事終了したのです。

牛蒡餅で有名な地元の熊屋謹製のどら焼きの皮を使った酢豚サンド。砂糖と酸味の利いた味わいに「長崎に近か」という表現が続出した。

地元ではそのまま味わうという郷土料理の練り物・アルマードをクジラを使った肉じゃがと共におでんにして提供。出汁もこの地方ならではのアゴで。

会場では杵と臼を使った餅つきも行われ、できたての餅を使って平戸特産の生からすみ餅に。

テーブルにはガラスの装飾かと思いきや、熊屋オリジナルの琥珀糖。この日のための色味は染付の青と白で。1部と2部で色も味も変えた。

会場の進行に合わせて、屋外の調理場では急ピッチで煮る、焼くなどの調理が行われ、火気の使えない会場で熱々の料理を提供。

デザートは、地元・熊屋と佐世保出身の菓子研究家・田中博子さんによる共演。1部、2部で全く装いの違うデザートが振る舞われた。

地元民を巻き込んでこその食イベント。大塚瞳が平戸で表現したかったのは?

昼とは一転、夜の部では“生日前祝”と名付けられたディナーコースが振る舞われました。2024年に生誕400年を迎える鄭成功の“前祝”をテーマに平戸の食材を台湾風にアレンジした創作料理が食膳を彩ったのです。

鄭成功とは、平戸に生まれ、台湾に渡り鄭氏政権の祖となった、いわば台湾の英雄。国際都市であった平戸の持つ国交も魅力の一つであり、またしても平戸の食文化に繋がります。

「大好きな台湾とその料理。中でも台南が一番好きです。今回、鄭成功のことがあり平戸食材を台南料理中心に作る理由ができたことを嬉しく思います。また、夜の部は北松農業高校の生徒達がアシスタントを務めてくれます。先ほど初めて会ったばかりですが、料理のサービスなど即興のチームで行います」と大塚さん。

一日限り、一夜限りの体験であってもできることを精一杯やってもらう。そんな彼女の精神は、最初は引っ込み思案であった学生たちをも動かします。たどたどしいながらもプロの現場を体験することで、自ずと自主的に料理を運び、互いに指示を出し、フォローし合う姿が印象的でした。

地元を巻き込んでこその料理イベント。午前の部の志々伎漁協婦人会も夜の部の北松農業高校の学生も、平戸に根付いた風土や歴史、そして食文化の素晴らしさを自らの体験で再認識できたことでしょう。

日本の地域もまだまだ捨てたもんじゃない。いや、地域の魅力の再発見こそが、これからの日本の力になる。

歴史の街・平戸で行われた1日限りの食イベント。大塚瞳が表現したかったのは、きっと日本の食文化の豊かさであり、脈々と各地で受け継がれてきた郷土の風土や歴史なのです。国際港であった平戸の食文化の深さと、多様性。それを秋の木枯らしが吹き抜けるがごとく、刹那の爽やかな風のように表現した1日は、今後も平戸に語り継がれていくのではないでしょうか。

夜はライトアップされる平戸オランダ商館。通常は国指定史跡「平戸和蘭商館跡」復元建造物として、博物館になっている。

1部と2部ともに長いテーブルを飾ったテーブルクロスは、美術作家・中村眞弥子さんとの協業。高いところから見ると1部は「平戸」2部は「器」という文字をベースにデザインされている。コックコートもこの日のための特別制作。

「得意不得意がありますから、できる人ができることをやろうね」そんな言葉をやさしくかけ、瞬時に学生を導く大塚さん。

縁起良く様々な願いを込めていただく獅子頭鍋を発酵白菜と共に鍋仕立てに。すっかり暗くなり寒さが増しても、お客様のために温かいものをと野外調理は続く。

オランダ人が描かれた屏風の向こうには、家常菜というおかず料理が並ぶ。陣笠と呼ばれる貝の燻製、布豆腐を平戸の野菜で和えたもの、考麩・どんこ・木耳を炊いたもの、エソのすり身揚げなど。平戸と郷土料理と台南の家庭料理のおばんざいビュッフェ。

昼に好評だったどら焼き酢豚を急遽夜にも振る舞うことに。食べ切れるのか、とのお客さまの心配を他所に、目の前に銘々置かれた3段重以外にも次から次へと料理が運ばれる。

今回の空間装飾のテーマの経緯や、歴史文化、料理のことを質問されひとつひとつ説明している大塚さん。「理解して食べると美味しさが増す」とお客様が口々に言う。

平戸牛イチボの味噌漬け・鮑と蕪あえもの肝ソース・炙り平政緑ソースの前菜。

うちわ海老と豆豉がぎっしり詰まった春巻にカボスを絞って。急遽、山から柿の葉をとりあしらう。

餅米に黒米、平戸豚の粽。

下地をつけた九絵を台南から送ってもらった破布子と共に蒸魚。

瞬間瞬間を大切に、その場でチームを作ってしまうのも旅する料理家・大塚瞳さんの真骨頂。

この会を作り上げたチームとともに。中村眞弥子さん・平戸オランダ商館館長 岡山芳治さん・平戸市役所後藤彰文さん、熊屋誠一郎さん・渡邊航一さん、台所ようは 秋山梨砂さん・中野和さん。

Photographs:KENTA YOSHIZAWA
Text:TAKETOSHI ONISHI
(supported by 平戸ガストロノミー実行委員会)

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阿蘇くじゅう国立公園内の大自然と絶景のもと、特別な食体験を味わう2日限りの絶景レストラン「Skyward Party」開催レポート。[DRUM TAO✕ONESTORY/大分県久住町]

阿蘇くじゅう国立公園内の標高1036mに位置する「野外劇場TAOの丘」の舞台が、2日間限りのレストランに!

野外劇場の舞台がレストランに!?

和太鼓で世界中の人々を魅了する「DRUM TAO」。1993年に結成され、1995年には「阿蘇くじゅう国立公園」を有する大分県竹田市久住町に拠点を移し、国内外での活動を展開してきました。2000年には「阿蘇くじゅう国立公園」の中央に位置する4万平米の土地に、音楽制作や舞台制作を行なう複合施設「TAOの里」を建設。そして2020年9月、約5年間の準備期間を経て、阿蘇五岳の絶景をバックに「DRUM TAO」のライブが楽しめる野外劇場「TAOの丘」がオープンしました。

「阿蘇くじゅう国立公園」と「TAOの丘」。この場所を、この舞台を、世界中の人々にもっと知って欲しいという想いから、今回、TAO文化振興財団の森藤麻記さんがホストとなり、2023年11月7日と9日の2日間、「Skyward Party」が開催されました。今回は、その様子をレポートします。

竹田市出身の大久保シェフ(写真中央)にとって、ここは子どもの頃からこの周辺の山に登ったり、ピクニックをしたりしていた思い出の残る場所なのだそう。

2014年に開催された「DINING OUT TAKETA」を受け継ぐ

「絶景レストラン」のシェフを務めたのは、ここ竹田市出身で、現在は「TOMO Clover」(大分市)のオーナーシェフである大久保智尚氏。2014年にここ竹田市で開催された「DINING OUT TAKETA」にもサポートメンバーとして参加した経験の持ち主です。実は、このときの「DINING OUT TAKETA」では、「DRUM TAO」もパフォーマンスを行なっており、「DRUM TAO」とも縁のある方です。

「生まれ育った竹田という土地で、それも素晴らしい絶景が望める「TAOの丘」で開催されるこのような企画にお声掛けいただき、とても光栄でした。今回のチームには、「DINING OUT TAKETA」を経験したメンバーが3人いましたが、それ以外のメンバーは経験していないので、LINEグループを作って数ヶ月に渡り情報や想いを共有しながら準備を進めました」と、大久保さん。

大分は海や山に囲まれており、肉も野菜も魚も豊富に揃う豊かな土地。その食材や生産者を知り尽くした大久保シェフによって、どのようなコースが繰り広げられるか、自ずと期待が高まります。

受付を済ませたゲストたちはTAO HOUSE内のウエルカムスペースに案内され、ウエルカムドリンク&フードを楽しみました。

フィンガーフードは大分産のすっぽんのエキスと白きくらげで作った「コンソメコラーゲンゼリー」、椎茸の旨みが追いかけてくる「しいたけのパイ(産山村のしいたけ)、大久保シェフが営む「TOMO Clover」の定番となっている「グジェール」(竹田の豆・にんにく・トリュフオイル)の3品。ペアリングには八鹿酒造の日本酒スパーリング「虹」を合わせました。

晴天に恵まれ、11月にしては温かい絶好のシチュエーション。TAO HOUSEから、ランチ会場となる野外劇場へと向かいます。

阿蘇五岳を背景にした天空の舞台。

竹田出身のシェフによる地域の食材を味わうコースを堪能

「私たちにとって舞台は神聖な場所。舞台を公演以外の用途で使うことに、当初は心理的なハードルがあったことも事実です。けれど、この『阿蘇くじゅう国立公園』の絶景を皆さんに見て欲しいという想いで舞台にテーブルを置き、食事をしていただくことを決めたんです。調理環境も十分ではない中で、大久保シェフ率いるチームの皆さんがあれだけのクオリティのコースを提供してくださり、ゲストの皆さんも大変満足されていましたし、ここですることを決断してよかったと想いましたね」と、森藤さん。

それでは、そのコースを振り返ってみましょう。

1皿目のスープとして供されたのは「さつまいものスープ」。

「竹田は水がとてもキレイなところ。その名水を使ってつくる豆腐をどこかで使おうと思っていました。一方、フランスでの修行時代、フランスでのさつまいもの認知度がまだ低かったものの、さつまいものスープを作ったら評判が良くて。このスープをメインに、今回、ここに来る直売所で野菜を購入した季節の野菜を使ってさまざまな食感が楽しめる一皿に仕上げました」。

日頃からお付き合いのある阿蘇郡産山村の生産者に用意してもらったエディブルフラワーが華やかな印象を演出。

2皿目の前菜は、「大葉のシート 竹田名水のヤマメ」、「大根の竹田田楽 ゆずの香り 大分の伊勢海老」、「大分冠地どり ラタトゥイユペースト トマトファルシー」の3品。

「大分でヤマメはエノハとも呼ばれます。私自身、子どもの頃から釣って遊んでいましたし、身近な川魚です。竹田のキレイな湧き水で育っているので、生でも食べられるんですよ。数年前、フランス料理で大葉がブームになったことがあって、三ツ星のシェフたちがこぞって使っていたりもしたものです。

2014年に行なわれた「DINING OUT TAKETA」で、シェフを務めた「ESqUISSE(エスキス)」(東京・銀座)のリオネル・ベカ氏も使っていたこともあって、リスペクトを込めてヤマメを使いました。

田楽に使った柚子は父が採ってくれたもの。また、9月から11月にかけて、大分県佐伯市から宮崎県延岡市の街道沿いでは、「伊勢えび祭り」を開催しています。そこで、山や川の食材だけでなく、海の食材も使おうと考えたんです。

また、ラタトゥイユは南フランスの郷土料理。現地では菜津に食べられる料理ではありますが、大分の夏は暑すぎて、ラタトゥイユに使うトマトやナス、ズッキーニは秋に入ってから美味しくなってきます。大分においてラタトゥイユは秋の食べ物なんですよね」

阿蘇くじゅう国立公園は紅葉シーズン真っ只中。その風景を一皿に表現しました。

そして、メインディッシュは「久住高原大地の牛のトリロジー」、「芳醇なコンソメ出汁」、「名水の里 竹田の産山のお米 日本一のサフランライス」です。

トリロジーとは、元々フランス語の“三部作”という意味。産山村で育ったあか牛の頬肉、久住高原牛のカイノミとミスジという3つの部位を使用した一皿です。

「高原の気候は変わりやすく、ときに強風も吹くので、温かい料理をそのまま温かいままにお召し上がりいただくことは難しいと思っていました。また、竹田は日本一のサフランの生産地。今回、スタッフとして参加してくれたメンバーの一人は米農家なのですが、その土地の湧き水で炊いたお米をサフランライスにしました。そこに注ぐコンソメは、SDGsも意識してこの日使った食材の端っこをすべて使って出汁をとったものなんですよ」。

温かい料理を温かいままに提供できるよう、さまざまな工夫が施された一皿です。

阿蘇くじゅう国立公園の絶景を眺めながら、その土地の豊かな食材を存分に楽しめるこの日のコースにゲストの皆さんは大満足! 最後に大久保シェフが登場すると、自然にスタンディングオベーションが起こり、会場は温かな雰囲気に包まれました。

「スタンディングオベーションを受けたのは人生で2回目。1回目はフランス時代でしたから、日本でしていただいたのは初めてでした。生まれ育ったこの土地でこのようなことができたことはとても嬉しかったですし、天候にも恵まれ、正直ホッとしましたね。「DINING OUT TAKETA」のときに言われていたのが、「大人の文化祭」。あのときの「大人の文化祭」を再び!という気持ちで挑みました」。

この後、再び場所を移し、「絶景茶会」を開催。この茶会は竹田市を拠点に活動を展開する美術ユニット「オレクトロニカ」が企画を担当、大分市生まれの尾込真貴子さんが茶亭主を務め、竹田の湧水で淹れた3杯のお茶と茶菓子を提供しました。

「絶景茶会」の会場の背景はくじゅう連山が。この素晴らしい大自然の中で、静寂と自然の調和を楽しみました。

「絶景茶会」を楽しんでいる間に、それまでレストランになっていた舞台が整えられ、最後はDRUM TAOのライブが繰り広げられました。約800名を収容する野外劇場で、たった20名のゲストのためだけに演奏され、そのスペシャルな体験にゲストの皆さんは感動しっぱなし。終演後には、DRUM TAOのメンバーと会話をしたり、記念撮影をしたりといった時間が設けられ、余韻を楽しんでいました。

たった20名のゲストのために演奏をする特別な時間。

終演後、舞台上にてDRUM TAOアーティストの皆さんとのふれあいの時間。感動もひとしおです。

「DRUM TAOは、3〜12月初旬までこの野外劇場「TAOの丘」でライブを開催しています。屋外に劇場が常設しているのは世界的にも珍しいですし、多くの皆さんにお越しいただきたいですね。また、今回のようにライブだけではない特別な体験をしていただけるよう、今後もさまざまな企画をカタチにしながら、地域の皆さんと「阿蘇くじゅう国立公園」を盛り上げていきたいと思っています」と、ホストの森藤さん。

これからのさまざまな活動に、期待が高まります。

Photographs:SAKURA TAKEUCHI、YASUKA FUJISHIMA
Text:AYUKO TERAWAKI
協力:竹田市、産山村、環境省阿蘇くじゅう国立公園管理事務所

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消滅した王朝、焼失した世界遺産。「茶禅華」川田智也がささげる食と祈り。[DINING OUT RYUKYU-SHURI/沖縄県那覇市]

DINING OUT RYUKYU-SHURI王朝の「うとぅいむち」。ガストロノミーの再考と原点回帰。

来る、2024年2月。「DINING OUT RYUKYU-SHURI」を開催。その舞台は、約450年にわたり、日本の南西諸島に存在していた「琉球王国」の中心地として威容を誇った「首里城」です。

海に囲まれた地形を活かした王朝は、古くから貿易の拠点として繁栄。室町時代、15世紀には、日本、中国、朝鮮、東南アジア諸国との交易や外交を通して王制の国として発展してきましたが、17世紀初頭に薩摩藩の武力により制圧。江戸幕府の支配下となり、明治時代には日本に併合され、「琉球王国」は消滅しました。

長い歴史の中、その発展に寄与したひとつとして挙げられるのが「うとぅいむち(おもてなし)」の文化です。国と国とが対峙する場において、舞踊や儀式、酒宴など、来賓へのおもてなしは、人種や宗教などの垣根を超え、人と人との縁を取り持ってきたと言って良いでしょう。

その名残は、「首里城」の王殿へ繋がる門にも表れます。外門には、「守禮門」があり、「守禮之邦」の扁額を提示。城内の第一門「歓会門」には同一名の扁額が掲示され、おもてなしの心を感じ取ることができます。これは、賓客への礼節を重んじ、歓待する心も表しています。

そんな「首里城」が突然の火災という悲報に接したのは、2019年10月。1992年に復元された建物とはいえ、世界遺産の多くを焼失した出来事は、奇しくも同年に起きたパリ「ノートルダム大聖堂」の大規模火災に次ぐ、世界にとって大きな損失となりました。

現在は、正殿をはじめ、北殿、南殿などの復元に向けて着手。2026年の完成を目指します。つまり、「DINING OUT RYUKYU-SHURI」の舞台は、未完の「首里城」。料理を手がけるのは「茶禅華」川田智也シェフです。

今回は、「食べる」という表現ではなく、「いただく」という表現が正しいかもしれません。「いただく」には、「敬意を表して高くささげる」、「頭上におしいただく」という意味があり、世界的にも稀な器を持って食す日本人にとって「いただく」ことは、「祈り」と同義でもあるからです。

食を通して命を想い、おかげに感謝し、そして「首里城」復興を願い、全てに祈りをささげる。

本来、ガストロノミーとは、「食事と文化の関係を考察すること」にあります。予約が取れないレストラン、星、トック、ラインキングされる美食ではありません。「DINING OUT RYUKYU-SHURI」では、ガストロノミーの再考による原点回帰にも向き合います。


Text:YUICHI KURAMOCHI

日程:2024年2月10日(土)、11日(日)、12日(月)
人数:各日25名
宿泊:ハレクラニ沖縄
会場:首里城
出演:茶禅華 川田智也
主催:沖縄県(観光再始動事業)
企画・運営:ONESTORY

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一度だけでは、真実を知ることはできない。再び比叡山へ。[DINING OUT HIEIZAN/滋賀県大津市]

DINING OUT HIEIZAN前回はプロローグに過ぎなかった。長い物語の第1章は、ここから始まる。

前回、「ダイニングアウト比叡山」が行われたのは、2023年2月。雪舞う極寒の季節、白く染まった山々に色を添えた朱の建物。その厳粛な風景は、今なお目に焼き付いています。

当時、開催するにあたり、その精神性を「光」を「観」ることとしました。これは、現代における表層的な「観光」ではなく、その言語の起源と言われている、中国の古典・易経にある「国の光を観る、もって王に賓たるに利し」の意によるものです。

「比叡山」の「光」とは何か。

体験したゲストは、何かを感じ取ってくれたかもしれませんが、それを言語化できる人はいないでしょう。なぜなら、前述の精神性を綴った言葉の後には、こう続けており、それが解を得ることのできない理由です。

「但し、一度の体験で全てを得られるわけはなく、そう易々と本質を享受できるほど甘くはありません。まるで沼のごとく、知れば知るほど深くなり、底という名の解を求め、人は再訪を誓うのではないでしょうか」。

ゆえに、再び比叡山へ。

唯一、「光」の先にたどり着いたもの。それは「比叡山延暦寺」(天台宗)の開祖、最澄が残した「一隅を照らす」という言葉との出会いでした。

振り返れば、前回はプロローグに過ぎなかったのかもしれません。「ダイニングアウト比叡山」という長い物語の第1章が、今始まります。

前回開催されたのは、2023年2月。凛とした空気の中、雪舞う「比叡山延暦寺」が美しかった。

今回もディナー会場となったのは、一般公開されていない「大書院」。ただ足を踏み入れるだけでも貴重な場に、2日間のみ、「ダイニングアウト比叡山」という奇跡が起こる。


Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI

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一隅を照らす。真の心を開き発こす目覚め。[DINING OUT HIEIZAN/滋賀県大津市]

今回、テーマとなったのは、「比叡山延暦寺」(天台宗)の開祖、最澄が残した「一隅を照らす」という言葉。

DINING OUT HIEIZAN地上を知ることによって、天上を知る。

前回と今回の「ダイニングアウト比叡山」の違いのひとつは、地上の体験です。改めて認識しておきたいことは、延暦寺」とは、約1,700ヘクタールある「比叡山」の境内地に点在する約100の堂宇の総称です。つまり、「延暦寺」という一棟の建造物があるわけではありません。

今回は、その堂宇のひとつ、「滋賀院門跡」を舞台に「ひさご寿し」の料理をいただくところから始まりました。手がけたのは、川西豪志氏です。川西氏は、滋賀の食文化の研究している第一人者でもあります。特に琵琶湖の川魚を探求し続け、この日、供してくれた品は「湖魚のお寿し」。

琵琶湖流域の年間降水量は、約1,700ミリと言われており、「比叡山」をはじめとする約460本の河川から琵琶湖へと流れ込んでいます。山の恵みを持って育った湖魚をいただく体験は、風土のつながりを理解することによって、舌で感じる旨味を超え、天上と地上をつなぐための意識を高める時間になったといえるでしょう。

そこから更に上を目指します。向かう先は、前回訪れた「浄土院」。

「ここは、伝教大師最澄廟がある境内で最も神聖な場所と言われています。この廟の中では最澄が今なお生きているかのように、毎日食事が捧げられ、落ち葉ひとつないほど掃き清められています」。そう話すのは、前回もホストを務めた比叡山金台院住職・礒村良定です。

その後、一般公開されていない修行の場「にない堂」へ。「にない堂」においても「浄土院」同様、前回巡った場所でもあり、このふたつは「比叡山」を体験する上では欠かせません。何度訪れても、無垢のような清らかな初心に還ることができ、ディナー会場「大書院」に足を踏み入れる前の儀式と言っても過言ではありません。

「この常行堂では90日間念仏を唱えながら時計回りに堂内を歩き続けるという修行が行われています。休憩できるのは食事、厠、沐浴の時間のみ。睡眠時間の設定さえなく、ひたすら暗い堂内を歩くという想像を絶する修行です」。

当然、礒村氏もその修行を積んだひとり。

壮絶なノンフィクションは、ゲストの身を引き締めるも、朗らかな語りによって距離を縮めてくれるのは、村氏の心遣いによるもの。
前回、村氏が話した最後の言葉が思いをよぎります。

「延暦寺を好きになっていただき、またいつか遊びにきてください」。

この想いは、今回においても変わることはありません。

まず最初に訪れた「滋賀院門跡」では、「ひさご寿し」の「湖魚のお寿し」を食し、学ぶ。食後は、堂内を回遊。ホストを務めるのは、前回同様、比叡山金台院住職・礒村良定氏。今回は、多くの外国人ゲストも参加。

料理を担う「ひさご寿し」の川西豪志氏。「美味しいだけでは、この土地でなくても良い。歴史や文化の側面からの理解を深め、それを伝えることによって、この土地で食す意義とその価値として伝えられると思っています」。

湖魚のお寿し」。今回は、多くの外国人ゲストが参加したことも大きな特徴。初めて湖魚を食べた人も少なくなく、その体験に驚きを隠せない様子も。同時に、川西氏の解説に真摯に耳を傾ける。

伝教大師最澄廟がある境内で最も神聖な場所「浄土院」では、廟の中に最澄が今なお生きているかのような話を聞く。解説後、「石庭を歩いても良いのか」という外国人らしい質問も。「どうぞ」と村氏が伝えると、その感触を確かめるかのように、ゆっくりと歩いていた風景が印象的だった。

「にない堂」では、修行を疑似体験。薄暗い闇の中、坐禅では出しい組み方を学び、最後は堂内をゆっくりと一周。

DINING OUT HIEIZANもう一度、精進料理と向き合った「ヴィラ アイーダ」小林寛司の挑戦。

シェフは、前回腕を振るった「ヴィラ アイーダ」小林寛司氏。自身のレストラン「ヴィラ アイーダ」では、隣接する畑にて300種以上の野菜を育て、「ファーム・トゥ・テーブル」を体現しています。

「ミシュランガイド京都・大阪・和歌山」二つ星もさることながら、グリーンスターやアジア最高位の「世界ベストベジタブル レストラン」など、野菜に関して多くの賞を受賞。世界から見ても、これほどまでに野菜に精通しているシェフは他に類を見ません。

そんな小林氏を持ってしても、前回はこんな言葉を残しています。

「本当に難しかった」。

そう言わしめたのは、精進料理の制約です。仏教の教えに基づく肉類や魚類を使わない植物性の精進料理と野菜を中心とした料理とは、似て非なるもの。この制約の中、「美味しい」を追求できるシェフは、日本において、もとい、世界において、小林氏以外考えられません。

1回目の開催後、イベントなどのため、精力的に世界各地を巡るも、「頭には常に精進料理があった」と振り返ります。「調理の技法や文化的視点から見た料理の哲学、食材の組み合わせ方など、旅をしながら無意識に精進料理に活かせるものを探していました。そんな中、あるシェフが発酵やスモークさせた野菜から出汁を取る手法を取り入れており、これは自分にはなかった発想でした。視点を変えれば、まだまだ精進料理の可能性はあると感じました」と言葉を続けます。

そして、2回目の開催。1回目の料理との違いは、まず演出に見られました。その好例が1品目「白椀」に添えたひと品です。

ライスチップに柚味噌とハーブを乗せたものを手でいただくそれは、まるで寺から愛でる庭園のよう。苔と石を採用した風景のようなひと皿は、ある意味、小林氏らしくないもの。

その理由は、前回は全て日本人ゲストに対し、今回は多くの外国人ゲストが参加したことにありました。「外国人のお客様が多くいらっしゃっているので、味だけでなく、目でも日本らしさを楽しんでもらいたかった」。

今回、小林氏の料理において、特にフォーカスすべきは、「食材」と言ってよいでしょう。例えば、大根。前回の開催は2月、今回の開催は12月。季節でいえば同じ冬にくくられますが、「冬に向かう食材と春に向かう食材は、別物」。さらにそれを、名残の食材と走りの食材と合わせることによって、情緒が漂い、尊い料理に仕上げます。

今回のテーマは、「一隅を照らす」。

「大根という食材は、既に光り輝く才能を持っています。それにきちんと向き合い、磨き、美しく仕上げる。それがシェフの仕事」。

食べ手は既に光を持った料理を供されるため、光を探す能力は、自身が能動的に働きかけなければ探し当てることはできません。

「小林シェフの料理は、自己を満たすものではなく、利他をもてなすための美味への追求。これは、おもてなしの心です。私たちも仏様に差し出す料理は、どうすれば美味しくなるか、どうすれば限られた食材を活かせるか、華やかにできるかなどを考えています。精進料理の可能性を引き上げてくださいました」と村氏は話します。

シェフ小林ではなく、人間小林の本質を探るような分析力は、小林氏の周囲を取り巻くフーディーにはない視点。

最後に。「本当に難しかった」と応えた前回と同じく、今回の振り返りを聞いてみました。

「成長できました」。

このひと言だけで全てを汲み取ることはできませんが、あえて続きは聞きませんでした。しかし、その表情からわかること。まだまだ伸び代はある。

ディナー会場「大書院」は、通常非公開の場。皇室の方々や内外の賓客をもてなすために建てられた「比叡山延暦寺」の迎賓館的な存在の建物。

1品目「白椀」。奥にあるのは、滋賀の酒蔵「冨田酒造」が醸す「七本鎗」の仕込み水を使用し、大津の「九重味噌」の白味噌を使った椀。手前にあるのは、ライスチップに柚味噌とハーブを乗せたもの。一見、小林寛司氏らしくない演出は、「外国人ゲストを喜ばせるため」。ここは「ヴィラ アイーダ」ではない。そんなメッセージも感じられる料理。

礒村氏と今回通訳として参加した翻訳家のピーター・J・マクミラン氏に、今回特に印象的だった料理は?と聞くと、奇しくもふたりとも同じ料理をあげたのが、4品目「煎椀」。「揚げたケールの苦味がアクセントとなり、徐々に溶け出す油がよりコクを増し、味が進化しているようだった」とピーター氏。

今回のキッチンでは、サプライズが。小林氏(中央)をサポートするために、新潟「里山十帖」料理長・桑木野恵子さん(左)と京都「KOKE」オーナーシェフ・中村有作氏(右)が参画。ドリームキッチンが生まれた。

2日間のみ、ディナー会場と姿を変えた「大書院」。移築後100年近くが経ってもなお色褪せぬ威風堂々たる姿は、ただただ感動。

礒村氏の話のほか、旋律をつけて経文を唱える声楽曲・声明の披露も。重厚な建築の内部に満ちる、荘厳な空気が漂う。

美味しいはもちろん、一連を通した文化体験として、堪能いただいたゲストたち。積極的に村氏に質問している姿も。

蝋や芯など、すべてが植物性原料の京都 伏見 京蝋燭「中村ローソク」。温かなオレンジ色の揺らぐ炎は心も癒す。

風景の主役は、創業江戸寛政年間「小嶋商店」の提灯。「京都南座」の提灯から「フランクミュラー」の装飾まで、幅広く手がける。炎のように常に火を絶やさず、次代に明かりを繋ぎ続ける「不滅の法灯」は、現代社会においても深いメッセージを感じる。

最後の挨拶では、キッチンスタッフが全員登場。キッチンでは小林氏が指揮を取り、会場では有巳さんが指揮を取り、阿吽の呼吸でひとつの世界を生んだ。

DINING OUT HIEIZAN風景や文化は、当たり前のように残らない。

2日目は「根元中堂」へ。ここでは、一般公開されていない、修繕・修復現場を巡ります。現在、「天台宗総本山 比叡山延暦寺」では、国宝の「根元中堂」ならびに重要文化財の廻廊を2016年から約10年をかけ、大改修中。

完成してからでは決して至近距離から見ることはできない木彫の装飾やこれまで建物を支えてきた建材などは、例え小さな部品でさえ、圧倒的な存在感を放っていました。

「修繕するにあたり、建設当時の部材が残っていることがわかり、今回活かせるものは再利用し、未来に残していきたいと思っています」と話す村氏は、実は、根元中堂保存修理事業事務局幹事も担っています。

一方、役目を終えた建材・部材も。法案に沿ったこれらの行き先を知り、国も含め、日本の資産をアーカイブする働きや改正も必要なのでは……と、勘案すると同時に、日本人こそ、こうした現状を知るべきなのかもしれません。

そして、「ダイニングアウト比叡山」を締めくくる最後の儀式へ。

舞台となる「日吉大社」は、「比叡山」の麓に鎮座。約2,100年前、崇神天皇7年に創祀され、全国3800余の日吉・日枝・山王神社の総本宮でもあります。

「宇佐宮」拝殿にて行われるのは、平安時代から宮中で節会等のおめでたい日に行われてきた、食の儀式「式庖丁」です。

これは、大きな俎板に乗せた魚や鳥を、直接手を触れず、庖丁刀と俎箸で切り分け、瑞祥というめでたい形を表すものであり、平安中期、藤原道長の時代に宮家より伝わり、約1,100年の歴史を持つ儀式です。それを務め上げたのは、前日に「湖魚のお寿し」を供してくれた「ひさご寿し」の川西氏。前述、滋賀の食文化の研究を進める中、30歳の時に「式庖丁」に出合い、以降、15年以上、研鑽を積んできました。

「美味しいを伝えるだけでは、海外のお客さまに日本を伝えることはできません。もっと言えば、日本人こそ、日本の文化や歴史、伝統を学ぶべきであり、そう思って造形を深くしていきました」と川西氏。

静寂な空気の中、迷いなく刃を入れる様は、まるで演舞を観劇しているかのよう。そして、命とは何かを無言で訴えてくるようにも思えます。

「仏の教えとして、必要な生を取るために最低限の生物を摂取することは許されています。前日、湖魚のお寿しにおいては、魚類を摂らない精進料理ではありませんが、仏の概念としてはつながった体験となったのではないでしょうか」と川西氏。

形としての建造物、形のない文化。いずれにしても、今を生きる人が継いでいかなければ後世に残すことはできません。現代においてそれらを学べることは、先人たちが残してくれたからこそ。

1日目から2日目まで、全てがひとつにつながる総合体験こそ、「ダイニングアウト比叡山」。それを結実させたものは、「一隅を照らす。」という教えでした。

―――
一隅とは、今、あなたがいる、その場所です。あなたが、あなたの置かれている場所や立場で、ベストを尽くして照らしてください。あなたが光れば、あなたのお隣も光ります。町や社会が光ります。小さな光が集まって、日本を、世界を、やがて地球を照らします。(天台宗 一隅を照らす運動HPより引用)
―――

今回訪れたゲストをはじめ、携わった全ての人々、そこに生きる生物や自然も含め、「ダイニングアウト比叡山」という「一隅」に照らされた光は、決して消えることはないでしょう。

2日目の朝は「根元中堂」へ。通常、「仏様は、高い位置に祀られ、見上げるのが一般的ですが、ここでは参拝者がお参りする床の高さと仏様の高さが同じです」と礒村氏。難しい文脈を通訳するピーター氏は、「比叡山」の造詣が深く、慎重に単語をチョイスし、外国人ゲストに伝える。

現在、国宝の「根元中堂」ならびに重要文化財の廻廊を2016年から約10年をかけ、大改修中。ここもまた一般公開されていない場所であり、屋根などを間近で見る機会は、極めて貴重。

「日吉大社」の「宇佐宮」拝殿にて行われた食の儀式「式庖丁」。平安時代から宮中で節会等のおめでたい日に行われてきたと言われる。

「式庖丁」を務めたのは、「湖魚のお寿し」を供してくれた「ひさご寿し」の川西氏。継ぐ人間がいるからこそ、文化は後世に残る。

DINING OUT HIEIZAN此れ即ち国宝なり。言葉の続きを学び、考え続け、生きる。

「一隅を照らす。」という言葉には続きがあり、それが「此れ即ち国宝なり。」です。

この意味は、「その人こそが、なくてはならない国宝の人である。」と言われています。

これは、2日目に訪れた「根元中堂」に表現されています。通常、仏様は、高い位置に祀られ、見上げるのが一般的ですが、ここでは参拝者がお参りする床の高さと仏様の高さが同じです。

経の文句、「山川草木悉有仏性(さんせんそうもくしつうぶっしょう)」とあるよう、生きているもの全てが仏になる素質を持つことから、「平等」を「同じ高さ」で表現しているのです。ただし、地続きではなく、3mの掘り下げた空間は、仏になるまでの険しい道のりを意味し、真っ暗な世界に輝く法灯は正しい道標となります。

「ダイニングアウト比叡山」を迎えるまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。「一隅を照らす。」のごとく、ベストを尽くして照らしたからこそ、次の言葉、「此れ即ち国宝なり。」にほんのわずか少し近づくことができるのかもしれません。

「もちろん、これを成したからと言って私が国宝になれるわけではありません。この教えを大切にしながら一生をかけて学ぶことこそ、修行」と礒村氏。

では、一般社会に暮らす私たちには何ができるのか。それは、「考え続けること」。

自身に対して、周囲に対して、自然に対して、社会に対して。そして、生きることに対して……。

「人は考える能力を持つ生き物です。歩みを止めず、考え続けた先には、きっと何かが見つかるはずです。それもまた修行」。

「比叡山」では、毎年に発する言葉があります。令和5年の言葉は、「開発真心(かいほつしんしん)」。

―――
真心とは、嘘偽りの無い心。それは私たちの「真実の心」にほかなりません。真心を込めれば相手にも通じます。相手にも通ずるこころ、それは皆に具わっている「仏性」ほとけごころです。お互いの仏性を、開き発こして、目覚めさせましょう。(天台宗総本山 比叡山延暦寺HPより引用)
―――

人は考える能力を持つ一方、弱い生き物でもあります。真実の心を持ち続けるという修行もまた、人生と並走し、果てしなく長い道のりになるでしょう。

今回、日本人はもちろん、参加した外国人ゲストは、何を感じ取ってくれたのか。日本人ですら難儀のテーマを、国や人種、文化、宗教の異なる外国人へ伝えることは、より難儀。加えて、英語は意味を明確に持つ単語が多い世界ですが、日本語は趣を持つ単語が多い世界。言葉の壁も大きい。どう伝えれば正しく伝わるのか。分かり易くしても良くない、難しくしても良くない。我々、主催者側が一番熟考した件でもあり、その答えは、今なお得られていません。

答えのない答えを考え続けることもまた、修行。

改めて原点に還ります。

「一隅を照らす。此れ即ち国宝なり。」

「ダイニングアウト比叡山」は、これからもこの言葉と向き合い続けます。


Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI

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見たことがあるようで、ここにしかない絶景と美味。太平洋一望のグランピング場で感じた想い。[高知県芸西村]

 最大限に海と語り合う時間。それこそがこの施設の醍醐味。

眼前には遮るもののない太平洋の大海原。
風はどこまでも穏やかで、聞こえるのは潮騒と鳥のさえずりのみ。
彼方に走る外国船籍まで見える水平線。
きらめく陽光は次第に光を強めて西の海へと沈みゆく。

一度は見たことがある太平洋が、この高台から望むとこんなにもドラマチックに感じるのか。見飽きることのない、絶景とはまさにこんな場所のことを指すのではないか。

11月某日、高知県芸西村で産声を上げた『NAMITERRACE GEISEI (ナミテラス芸西)』は、思う存分、海と会話を楽しむグランピング施設として生まれました。

オープニングレセプションパーティ当日、ONESTORY取材班は、朝の準備から参加し、昼のパーティから、夕景、夜の部まで1日を通して変わりゆく景色を目の当たりにし、冒頭のように感じたという訳です。

全国津々浦々、さまざまな地域で海を見て、撮影してきましたが、時間とともにこれほどまでに表情を変える海はなかなか出合うことがありません。

時に活力を与えてくれ、時に穏やかに寄り添ってくれる。
大海原の力を感じる場所……

「そうなんです。この海とともに大人が集える隠れ家が作れたらなぁと。そんな想いでプロジェクトはスタートしました」とはプロジェクトの共同代表を務める和建設の中澤陽一氏。
「施設のシンボルであるフランス船籍のヨットを購入したのが始まりだったんですよね。いやー、ワクワクしたけど構想から3年以上は長かった」とはもうひとりの共同代表・石川共栄不動産の石川泉氏。

ヨット購入をきっかけに友人であったふたりのひらめきと企ては、いつしか周りを巻き込み大きな夢になっていきます。宿泊用コンテナやサウナを計画し、離れの一軒家も増築するなど次々にアイデアは膨らみ、いつしか穏やかな海沿いの村に海外リゾートを彷彿させる施設の誕生が期待され始めたのです。さらに話は広がり、地元・芸西村までを巻き込み、クラウドファンディングのプロジェクトとしてグランピング場という形に落ち着きます。そうして3年以上の月日をかけて完成したのが、太平洋を望むグランピング施設『NAMITERRACE GEISEI』なのです。

話は膨らむ一方で、プロジェクトの骨子である“雄大な海を望む大人の隠れ家”は代表のお二人の強い希望で、いつも変わらずに守られていきました。

そう、この場所は海と語らう場所。
いよいよオープンした、新たな大人の隠れ家の誕生を、ONESTORYではいち早くお伝えできればと思います。

オープニングパーティは海を望む芝生の広場が舞台。この日のために、旅する料理家・大塚瞳チームが料理を担当した。

コンテナを繋げて構築したとは思えない、ラグジュアリーなデザインの客室。

広大な太平洋を一望する高台に誕生したグランピング施設『NAMITERRACE GEISEI』。

朝昼晩、四季折々、さまざまな表情が移ろう太平洋は目前に。

共同代表の和建設の中澤陽一氏(左)と石川共栄不動産の石川泉氏(右)の挨拶からパーティは幕を開けた。

 この日のための旅する料理家・大塚瞳チームによる一期一会のコース料理

『NAMITERRACE GEISEI』のオープニングパーティには、地元の名士はもちろん、国会議員やアーティスト、全国の食いしん坊など、さまざまな人々が駆けつけました。お目当ては、旅する料理家・大塚瞳さんによるこの日のためだけに用意された特別料理のフルコース。

今までに畑の中や断崖、サーキット、列車に、登り窯跡と、国内外問わず、その土地の料理を数日限りの特別な食空間でもてなしてきた彼女。食空間演出家でもある大塚さんがこの海をどう楽しませるか? 来場者の期待は自ずと高鳴ります。

ゲストがいきなり驚かされたのが、施設の中央に位置する芝生広場を大胆に使ったタープ型の屋外テーブルだったのです。さらに目を凝らすと彼女が用意したのは、海と並行するように伸びる一本になったビッグテーブルだったのです。これはさながら屋外のターブルドット。フランスなどでホテルや宿の主人が、客人を自らの料理でもてなすスタイルで、大きなテーブルを囲みつつ、皆が同じ料理と時間を共有するというもの。海を望むこの空間で、全員が同じテーブルを囲む、ひとつの大きな輪を作り出したのです。

生シラス、土佐の通称“どろめ”を使ったブルスケッタは、ダジャレで“ドロスケッタ”と名付けるほか、季節の野菜やキノコを使った5種類のアペタイザーからスタート。

30名のゲストがひとつのテーブルを囲むスタイルで料理は提供された。この日のために設計された炭台付きテーブル。銘々に置かれた白い球体は料理の盛られた3段重になっており特別に製作されたもの。

食材名だけが記されたメニューを配る大塚さん。このメニューは彼女独自のもの。たまに読み方の難しい漢字などが書かれていて、隣に座った知らない人同士でも質問しあったりして、話すきっかけづくりのひとつになればという。

屋外に作られたキッチン。外の厨房のほとんどがキャンプ用のギアでまかなってしまった。

 絶景までも料理の一部。大塚瞳が高知で表現したかったのは?

世界中を旅して、その地で出会った風土や歴史、そこに根付く食文化を掘り下げてメニューに落とし込む大塚瞳さん。
高知での屋外パーティーでも、やはりこの地で出会った食材とそれを生み出す人達がメニューを彩ってくれました。

「まずいつも思うことですが、この場所でごはんが食べられたら嬉しいかなという空間づくり。今回も海が見える素敵な立地を思う存分味わってほしくて屋外を選びました。料理は高知の皆様が普段食べている食材や郷土料理が中心。それを私流のいつもとは少し違う味付けでご用意しました。いっぱい食べて、絶景とともに楽しんでくださいね」

そう言って始まった酒宴は、昔ながらの製法で作られる堅豆腐を紹興酒漬けにしてチーズのように楽しませたり、四方竹と菊芋のピリ辛炒めだったり、チャンバラ貝を燻製にした前菜からスタート。確かに地元で根付いた食文化を取り入れながらも、食べたことのない味わいばかり。驚いたのは、見知らぬゲスト同士もお互い目で確かめ合いながら食べたことのない美味に驚き、自然と会話に花が咲いている光景でした。

さらに、食事中にドラム缶を使い藁でいぶしたカツオのたたきは麻辣の味付け、うなぎの白焼は水キムチやターサイ、サンチュで巻いて味わう韓国スタイル。締めのご飯は、米の専門家、古田さんとの出会いによって決定したというすきやき丼。こちらは炭火で焼いた土佐のあか牛をすき焼き丼のスタイルで提供してくれたのですが、あか牛のジューシーさもさることながら、会場から上がった声は「ごはんがおいしい!」「卵が濃厚!おかわりしたい」と脇を固める食材たち。
そうなのです。大塚さんはこの日のために、あか牛のすき焼きに合うお米を食べ比べ、ヒノヒカリ、にこまる、コシヒカリの3種類を、精米したて、1週間後、2週間後と選びに選んでいたというのです。食べ合わせが決まるまで、古田さんが惜しみなく協力してくれたと言います。さらには平飼いの土佐ジローの生卵が追い打ちを。すき焼きの甘辛タレとあか牛のエキスが、これでもかとご飯と卵を誘います。

気がつけば焼き芋のデザートまで怒涛の2時間30分。ゲストは大いに食べて語り合い、この絶景と美味を享受したのです。
2日間に亘り開催された『NAMITERRACE GEISEI』のオープニングパーティはこうして無事に幕を閉じました。

最後に感じたのは、絶景までも料理に取り入れる大塚瞳さんの凄みと、旅する料理家を魅了したこのグランピング施設の絶景。おいしい料理と絶景があれば、人は知らずに幸福に包まれているのです。

『NAMITERRACE GEISEI』の今後が益々楽しみに!

テーブルに置かれた陶器の丸い球体は三段重。一の段は、郷土料理と地元に根付く食材を中心の前菜に。

二の段はうなぎの白焼きを、サンチュやアマランサス、ターサイなど高知の野菜と水キムチ、自家製の山椒味噌のペーストで巻いて味わう。

空の状態で提供される三の重。ここに羽釜で炊いたにこまる、炭火で焼き上げたあか牛のヒレとサーロイン、土佐ジローの卵を乗せてすきやき丼に。

大塚さんが地元の福岡から連れてきたスタッフは3名のみ。残りのその他大勢は、地元の学生や主婦、建築業者などが即席でチームを結成。

NAMI TERRACE GEISEI
住所:高知県安芸郡芸西村西分乙59-2
電話:070-4433-2859
営業:2024年1月グランドオープン予定
休日:なし
URL:https://namiterrace-geisei.com
 

Photographs:KENTA YOSHIZAWA
Text:TAKETOSHI ONISHI
(supported by 合同会社芸西プロジェクト)

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2023年、最も売れた「おいしいニッポン」トップ10[和光アネックス/東京都中央区]

日本全国から「おいしいニッポン」を「和光アネックス グルメサロン」から発信し続けてきた「FIND OUT ABOUT NIPPON」。2023年、最も反響のあったベスト10を総まとめ。

WAKO ANNEX手軽に本格料理を。あの名品をもう一度。

一年を通して見つけ出した「おいしいニッポン」。今回は、多くのお客様からご好評をいただいた中から、トップ10を総まとめ。特に人気だったのは、イタリアン。「共栄食糧」の「島のパスタソース」シリーズにおいては、トマト、ジェノベーゼ、ペペロンチーノと3種もランクイン。まとめ買いはもちろん、一度購入したお客様が「他の種類も!」とリピーターが続出した品です。

また、さらに上級者は、麺も同社の「オリーブパスタ」をチョイス。凹凸とした形状の麺は、手延べ製法で作られているため、ソースがよく絡み、存分にその味わいを堪能できます。オリーブオイルも練りこまれているため、風味も豊か。ソースを一番美味しくいただくにはこの麺、麺を一番美味しくいただくにはこのソース。ふたつあってこそ、料理本来の味わいが完成されるのです。

続いては、知る人ぞ知る名店「ピッツァ ストラーダ」のピザ。「水牛モッツァレラのマルゲリータ」と「クアトロフォルマッジ」は、お店でも人気とあって、「あの味を家でも食べられる!」と、ファンはもちろん、新たに知ったお客様も虜に。

10品のうち、イタリアンが6品も占めるという結果になりました。

ごろっとトマト、プチっと刻んだオリーブが美味。かけるだけで本格イタリアン。

大分県産バジルと北海道産チーズを使用した無添加ソース。かけるだけで贅沢な料理に。

国産ニンニクに唐辛子、オリーブを加え、豊かな風味に。リピート率の高い品。

デュラム小麦粉に香川県産小麦粉をブレンド。モチモチした凹凸の麺が新食感。上記3種のパスタは、この麺を使用。

水牛モッツァレラチーズを贅沢に使用し、トマトやバジルを利かせたピザ。

スモークモッツァレラチーズ、ゴルゴンゾーラ、タレッジオ、ペコリーノの4種のチーズを使用したピザ。

WAKO ANNEXまるでシェフが手がけたような料理の味わい。進化し続ける食品群。

そのほか、これからの寒い時期、鍋のお供に最適な「丸正酢醸造元」の「生しぼり橙ぽん酢」や自分好みの割りものが楽しめる「球磨川アーティサンズ」、そして、まるで果物を食べているような「日本総合園芸」の「伊予柑ジュース」もランクイン。

全てに共通していることは、簡単・手軽だということ。働く人や子育てなど、忙しい方々には、ほっとひと息、暮らしに豊かさを。はたまた、パーティーや大切な人との集いには、気の利いた手土産としても最適です。様々なシーンにおいて上質な時間を演出してくれることもまた、10品に共通している人気の秘訣なのかもしれません。

それは、見えない作り手のたゆまぬ努力とより多くの人においしいを届けたいと思う情熱から生まれているのです。

瀬戸内の新鮮な天然真鯛を加工。炊飯器で炊くだけで本格的な愛媛の郷土料理に。

新鮮な橙の果汁をたっぷり使用。鍋はもちろん、様々な料理に合う万能調味料。

熊本県琉磨地方の香り豊かな炭酸割がおすすめ。

まるで食べているような果汁100%ジュース。甘味、酸味、苦味の調和が絶妙。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

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花と木。光と影。食は林業と向き合えるか。

Delicious Journeys in Matsumoto」のフラワーアートを手がけた花人・赤井 勝氏(右)と地元で家具などを手がける「アトリエ・エムフォオ」前田大作氏(左)。

国宝松本城チャリティーガラディナー 語られなかった物語。だが、知るべき真実。

「Delicious Journeys in Matsumoto」の終盤、風景に彩りを添えたのは、花人・赤井 勝氏です。完成した作品は実にダイナミックで華やか。客席側からは、ライトアップされた作品を背景に「国宝 松本城」がそびえ立ち、圧巻の景色を創造しました。しかし、前記事同様、ここにも光と影が存在しており、その影を知る人は少ない。影とは、作品の基礎となったカラマツです。

松本に限らず、信州長野は、多くのカラマツが植林されています。樹齢は約70年。戦後に植えられ、当初は40年ほどで伐採し、その利用目的は土木用の資材でした。しかし、時代は変わり、鉄筋コンクリートの建物の乱立によって木造建築は激減。カラマツは放置。自生したものではなく、人が植林したもののため、人が解決すべき問題。それに約20年向き合い続けているのが、カラマツをはじめとした針葉樹などで家具やプロダクトを作る「アトリエ・エムフォオ」前田大作氏です。

「針葉樹というサステナブルな素材が日本の伝統工藝の文化によってラグジュアリーなプロダクトに変貌することに挑戦を続けてきました。持続可能な世界が決して単調ではなく人の活動で多様に輝けることの魅力を世界へ発信し共有したいと考えています。日本の木工家業を継ぎ、針葉樹を生かす文化を身につけた意味を、その使命と役割を、この数年で強く感じています」。

実は、カラマツは家具には不向きな材。老木であれば、目が詰まり、適用できますが、樹齢サイクルが40年程度になればより理想的。「若いカラマツは家具製作には不向きですが、そこに挑戦し、循環を作っていきたい」と言葉を続けます。

人の都合でもの作りをするのではなく、カラマツの成長に合わせてもの作りをする。それはなぜか。繰り返しですが、人が植えたものだから。足りないものや不便は、人の技術や知恵で補う。それが定め。しかし、カラマツにはちゃんと価値がある。その好例は、「伊勢神宮」に見られます。式年遷宮では20年に1度神殿を新築する営みが1300年もの間繰り返され続けおり、これは、成長の早い針葉樹だから実現できる持続的な営み。

「この地域に生息するカラマツの現状を知って欲しかった」。

そんな話を伺い、カラマツに新たな魂を吹き込んだのは赤井氏です。

「国宝 松本城」と同じく、堂々とそびえるフラワーアート。華やかな装飾はもちろん、その基礎として支えるカラマツこそ、今回の表現には欠かせない重要なファクター。

国宝松本城チャリティーガラディナー 命に関わるもの同士の共鳴。この人が言うことは信じる。

「若いころは、どうすれば美しくなるか。どうすれば面白くなるか。そんな表現をしていました。ですが、年齢も重ね、様々な時代を経て、出会いに重きを置くようになりました」と赤井氏は話します。

出会いとは、花や植物、自然はもちろん、人、地域、もの、こと、食、風景など様々。花材だけでなく、その出会いも見えない材となり、創造力を掻き立てるのかもしれません。

「様々な出会いの中でも人との出会いは特別。なぜなら、声を聞くことができるから。それによって、魅力を感じ、興味が湧く。初めて前田さんにお会いした時、もの作りをしている人だって、すぐにわかりました。いつもであれば、こちらからリクエストすることもあるんですが、今回は、すべてお任せ。前田さんが用意してくれるカラマツなら自分は良い表現ができる、そう思いました」。

長く前田氏はカラマツを見続けているため、「主観的になってしまう自分を危惧している」と話していました。ゆえに、「客観的に見る赤井さんにカラマツがどう映るのか。ここに不安と期待がありました」。前述の赤井氏の言葉を聞き、前田氏は、外の世界との目線合わせも確認できたのではないでしょうか。そして、今回のコラボレーションによって、確認は自信にも繋がったのではないでしょうか。それは、赤井氏がゲストに作品を発表するときに発した一言に表れています。

「今回のメインの花材は、カラマツです」。

Delicious Journeys in Matsumoto」に彩りを添えた作品は、ただ美しいだけではなく、そんなふたりの想いが込められているのです。海がない信州長野においては、「海を守るために山を守る」ではなく、「川を守るために山を守る」。その逆もまた然り。山々の恵みと林業は、運命共同体。カラマツを通して、食は林業と向き合えるか。これは、今を生きる我々にとって、思案すべき重要なテーマなのではないでしょうか。

「カラマツ利用の魅力は、針葉樹を植えてきた日本の民族の魅力だと思っています。それを誇りにしたい」と前田氏。

「前田さんと話していると、この人の言うことを信じれば必ず良い表現ができる。そう思っていました」と赤井氏。それはなぜか。

「“人”の“言”を“信”じる州、信州。そんな前田さんの言葉だから」。

Photographs:YOICHIRO KIKUCHI
Text:YUICHI KURAMOCHI

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地域の光と影。「ルレ・エ・シャトー」9人のシェフが教えてくれたこと。

「本丸庭園」に設えられたレストラン「Delicious Journeys in Matsumoto。「国宝 松本城」にて食のイベントか開催されるのは今回が初。

国宝松本城チャリティーガラディナー 「ルレ・エ・シャトー」だから結実できた幻の2日間。

去る10月16日、17日。長野県松本市を拠点にホテル・宿を運営する「扉ホールディングス」主催のもと、Delicious Journeys in Matsumoto」が開催。

料理を担うのは、「ルレ・エ・シャトー」より厳選された9名のシェフです。日本からは、金沢「日本料理銭屋」の髙木慎一朗シェフ、宇都宮「オトワレストラン」の音羽和紀シェフ、大阪「柏屋」の松尾英明シェフ、松本「扉温泉明神館」「ヒカリヤニシ」の田邉真宏シェフ、大阪「ラ・ベカス」の渋谷圭紀シェフ、京都「要庵 西富家」の美坂昌希シェフ、神戸「神戸北野ホテル」の伊井野昌洋シェフ、沖縄「ジ・ウザテラス ビーチクラブヴィラズ」の喜納正智シェフが招集され、海外からは、フランスより、「オーベルジュ・バスク」のセドリック・ベシャドシェフが来日。この2日間だけのチームが結成されました。

会場となったのは、「国宝 松本城」。まだ空の青が残る静謐な空気の中、一般の入場を終えた時間から会の幕が上がります。合図となったのは、穏やかに鳴り響いてきた神々しい雅楽。その音色は、耳に優しいだけでなく、心身も浄化してくれるような感覚を覚えます。旋律が消えた瞬間、重く大きな「黒門」の扉が開き、ゲストは境界の向こう側へと足を運びます。

一体、どんな世界が待っているのか。いよいよ始まります。

※「Delicious Journeys in Matsumoto」の参加費の一部は、文化財でもある国宝「松本城」の保全、保存、保護のために寄付されます。

「黒門」の前に響き渡る雅楽の音色。澄んだ音色は、まるで空気を辿り、旋律が奏でられ、心の奥底まで響きわたる。

国宝松本城チャリティーガラディナー 文化、歴史、伝統を舞台に、シェフ、サービス、そしてゲストのパッションが交錯。「国宝 松本城」に新たな景色を創造する。

「黒門」をくぐってすぐ。早速、美食の旅が始まります。

まず、アペリティフとして用意されたのは、3品のカナッペ。京都「要庵 西富家」の美坂シェフが手がける「ブラックダイヤと京都丹波栗・信州味噌チーズもなか」と神戸「神戸北野ホテル」の伊井野シェフが手がける「シナノユキマスのコンフィ 松本一本葱の柑橘キャビア」、そして、沖縄「ジ・ウザテラス ビーチクラブヴィラズ」の喜納シェフが手がける「石垣牛とりんご 長野県産野菜のカナッペ 本わさび風味」です。

信州味噌やシナノユキマス、松本一本葱など、地元食材を使用することはもちろん、京都丹栗や石垣牛など、それぞれのシェフがレストランを構える地元食材と掛け合わせている妙は、料理を通した旅そのもの。スタンディング&フィンガーフードスタイルですが、料理のクオリティは、グランメゾン。しかし、本当の舞台はこれから。さらに歩を進めた先にある「本丸庭園」に設えられた舞台が今宵のディスティネーションです。「国宝 松本城」を間近に望む舞台は、すべてがプラチナシートと呼ぶに相応しい特等席。

ゲストが着席するころ、辺りは朱に染まり、マジックアワーに。今回のホストを務める「扉ホールディングス」代表兼「ルレ・エ・シャトー」日本・韓国支部長の齊藤忠政氏がその想いを語ります。

「国宝 松本城は、これまでに数多くの取り壊しの危機があり、都度、先人たちが守り続けてくれたお城です。この宝を残してくれた全ての方に感謝いたします」。

現代において、「国宝 松本城」と邂逅できる奇跡に想いを馳せ、やがて闇の帳が降り、宴が始まります。

まず1品目、もとい、4品目は、大阪「ラ・ベカス」の渋谷シェフの前菜「松本まみれの小鹿」。サヤインゲン、カラフル人参、クリタケ、シイタケ、市田柿、ピオーネ、シナノスイート、鹿、信州味噌、リンゴ酢、豆腐、オニグルミ……。全て松本の食材。黒いソースは鹿の出汁、白いソースはオニグルミ。あえて例えるならば、白和えのような味わいとでも言うべきか。食材を細かく刻み、混ぜ込むことによって、口内で見頃に調和。「ポール・ボキューズ」、「ジョエル・ロブション」、「アラン・シャペル」という3人の巨匠のもと、研鑽を重ねてきた技術は、まさに本物。その料理観が見事に表現され、食材はもちろん、渋谷シェフの人生も大いにまみれたひと皿。「ラ・ベカス」においては、同行したサービスの質も高さも特筆すべき点。渋谷シェフの料理だけでなく、他のシェフの料理においての理解度も高く、決して大きくはないレストランだからこそ結束されたおもてなしは、実に心地良く、その姿においても、堂々と美しい。

5品目は、金沢「日本料理銭屋」の髙木慎一朗シェフの前菜「鯉に上下の隔てなし」。海のない信州長野では、魚といえば川魚の文化。中でも鯉は郷土料理の代表的な食材です。

「信州長野の食材を考えた時、真っ先に考えたのが鯉でした。中国の古事によると、鯉は急流を登る唯一の魚。登りきった鯉は龍になったと伝えられ、幸運な魚としても崇められています」。

昨今の難局を経た激動の時代は、まさに急流のよう。それを登りきり、今回のような体験ができたゲストは、まさに幸運だったに違いない。

特設テントに厨房を設置し、9人のシェフとそれぞれのスタッフが総出で調理する。

アペリティフ、3品のカナッペ。左より、神戸「神戸北野ホテル」の伊井野シェフが手がける「シナノユキマスのコンフィ 松本一本葱の柑橘キャビア」、沖縄「ジ・ウザテラス ビーチクラブヴィラズ」の喜納シェフが手がける「石垣牛とりんご 長野県産野菜のカナッペ 本わさび風味」、京都「要庵 西富家」の美坂シェフが手がける「ブラックダイヤと京都丹波栗・信州味噌チーズもなか」。

左より、神戸「神戸北野ホテル」、沖縄「ジ・ウザテラス ビーチクラブヴィラズ」、京都「要庵 西富家」。

大阪「ラ・ベカス」の渋谷シェフの前菜「松本まみれの小鹿」。

大阪「ラ・ベカス」の渋谷シェフ(左)とサービスの小河友最香さん(右)。料理だけでなくスタッフのサービスも光る。個性豊かなキャラクターも「ラ・ベカス」らしさ!

金沢「日本料理銭屋」の髙木慎一朗シェフの前菜「鯉に上下の隔てなし」。

「今回の料理は、佐久出身のスタッフ・萩原彩音と共に作りました」と話す言葉が印象的だった金沢「日本料理銭屋」の髙木シェフ。食材だけでなく、人の想いも地域に寄り添う。

夕刻から夜にかけ、刻一刻と風景が変わる刹那の感動も野外の醍醐味。多彩に表情を変える「国宝 松本城」の絶景もまた、ゲストの満足を高める。

今回の会場には多くの外国人ゲストが参加したことも特徴すべき点。「素晴らしかった」「こんな経験をしたことはない」「Amazing experience」など多くの感動の声が寄せられた。

国宝松本城チャリティーガラディナー 味だけでは語れない。物語があるからこそ、その料理は人生のひと皿になる。

6品目は、大阪「柏屋」の松尾英明シェフの「ニジマスとホタテと木の実の真蒸 松茸、蕪、銀杏芋、紅葉人参、松葉柚子」の煮物椀。この日、初の温かな品は、野外ゆえ、より格別に舌と身体を喜ばせます。香りもサイズも一級の信州松本の松茸は、まさに贅の極み。

ニジマスや前述の鯉は、「雄大な山々から流れる清らかな水が育んだ食材であり、その恵みによって里山文化が生まれました」とは、ホスト・齊藤氏の言葉。美味に歴史を重ねることによって、料理に奥行きを与えます。

7品目は、フランス「オーベルジュ・バスク」のセドリック・ベシャドシェフの魚料理「マルミタコ 漁夫の帰郷」。マグロのロース(背中)を信州長野の醤油でマリネしたものとマグロの腹部位をタタキにしたもの、2種のマグロマグロをトマトとスパイシーなソースで味わう品。万願寺とうがらしが味に締まりを与えます。

8品目は、宇都宮「オトワレストラン」の音羽和紀シェフの肉料理「信州牛のロティ 長野県産の伝統発酵食品すんきのベアルネーズ 秋の茸と落花生のピティヴィエ」。柚餅子の柑橘や味噌の風味を纏わせた信州和牛には、長野の落花生と伝統発酵食品すんきの酸を活かしたベアルネーズソースで。また、フランスの菓子、ピティヴィエをアレンジした添えものも秀逸。長野県のキノコと鶏肉のムースを合わせ、料理の完成度をより高みへと誘います。音羽氏は「ルレ・エ・シャトー」の「シェフ・トロフィー2019」のほか、「ゴ・エ・ミヨ」や「ディスティネーションレストラン」など、様々な賞を受賞しています。しかし、「オトワレストラン」といえば、家族愛ではないでしょうか。和紀氏をはじめ、厨房には長男の元氏、サービスには料理人でもある次男の創氏、マネージメントなどには長女の香菜さん。この日も、サービスには香奈さんの姿が。

「小さい頃から、両親が料理をする姿を見て育ってきました。歌舞伎と同じように、物心ついた時からレストランに接してきました」と話します。

例えば、フランスのシャトーにおいても、多くの銘酒はあれど、一族経営というと分母は激減。ファミリーで営むことがどれだけ難しいかを物語っている一方、継承し続けることによって生まれるのは確固たる文化。「オトワレストラン」(の家族)には、星や順位、ランキングだけでは計れない、本当に必要とされるファインダイニングとは何かの答えが潜んでいるのではないでしょうか。

9品目は、松本「扉温泉明神館」「ヒカリヤニシ」の田邉真宏シェフのデザート、「小布施栗のモンブラン 洋梨とベルベーヌのスープ 白トリュフ添え」とミニャルディーズ「琥珀糖 最中と小豆のマカロン 豚のレーズンサンドシャインマスカット」です。

唯一の地元のシェフでもあり、「ふんだんに地元食材を起用しました」と田邉シェフ。デザートのモンブランには、シャモの卵と信州長野県のブランデーを使い、モンブランの中にもドライフルーツを使ったヌガーグラッセが。鼻から抜ける栗とトリュフの香りのマリアージュも実に爽快。

9人のシェフと9つの料理。それぞれの個性をまとめ上げるのは、「ルレ・エ・シャトー」のヴィジョン、「料理とおもてなしで世の中に貢献する」の指針にあるのかもしれませんが、この日、さらにそれをひとつの世界に仕上げたのは、「国宝 松本城」の存在かもしれません。

「Delicious Journeys in Matsumoto」の時間、常に側で見守ってくれていたのは「国宝 松本城」です。野外レストランは、ロケーションで決まる。大げさかもしれませんが、圧巻の風景は、それほどまでに説得力に満ち溢れ、力強く、優しく、全てを抱擁した豊かな時間を育んでくれました。

今回、Delicious Journeys in Matsumoto」に携わったメンバーは、総勢80名。この2日間のために、一致団結し、最高の時間を創出した。

大阪「柏屋」の松尾英明シェフの「ニジマスとホタテと木の実の真蒸 松茸、蕪、銀杏芋、紅葉人参、松葉柚子」の煮物椀。

お客様一人ひとりのメニューにサインをする大阪「柏屋」の松尾シェフ。他8名のシェフのサインも綴られたものがテーブルに配される。

フランス「オーベルジュ・バスク」のセドリック・ベシャドシェフの魚料理「マルミタコ 漁夫の帰郷」。

フランス「オーベルジュ・バスク」のセドリックシェフ。「松本の街はコンパクトで自然とのバランスが良い。バスクに似ており、愛着が湧きます。ぜひ、また訪れたい」。

宇都宮「オトワレストラン」の音羽和紀シェフの肉料理「信州牛のロティ 長野県産の伝統発酵食品すんきのベアルネーズ 秋の茸と落花生のピティヴィエ」。

シェフ同士の交流も生んだ「Delicious Journeys in Matsumoto」。松本「扉温泉明神館」「ヒカリヤニシ」の田邉真宏シェフ(左)、右より宇都宮「オトワレストラン」の音羽ファミリー長女の香奈さん、和紀シェフ。

松本「扉温泉明神館」「ヒカリヤニシ」の田邉シェフのデザート、「小布施栗のモンブラン 洋梨とベルベーヌのスープ 白トリュフ添え」とミニャルディーズ「琥珀糖 最中と小豆のマカロン 豚のレーズンサンドシャインマスカット」。

国宝松本城チャリティーガラディナー 地産地消だけではないシェフからのメッセージ。そして、地域と向き合う光と影。

Delicious Journeys in Matsumotoでは、地産地消×シェフだけではない料理の在り方について、いくつか発見がありました。

今回は、松本での開催のため、当然、松本をはじめとした信州長野の食材を起用し、各シェフが自らの技術と感性を活かした料理に仕上げています。そんな中でも、異色を放っていたのが、大阪「柏屋」の松尾シェフとフランス「オーベルジュ・バスク」のセドリックシェフでした。

松尾シェフは、持続可能な食の創出を目指す「リレーションフィッシュ」としての顔も持ち、近畿大学とともに研究を重ね、海洋資源に向き合っています。

「ルレ・エ・シャトーは、SDGsという言葉が世に出る前から海洋資源の問題に向き合ってきました。今回使用した帆立貝は、貝の中に稚貝を入れ、自然に近い環境で育てた養殖です。もうひとつ使用した貝、二枚貝は、海水をろ過し、プランクトンなどを餌とすることによって海水を浄化する役割を果たしてくれます。料理人は環境、海洋資源を考えながら、希少なものを大切に、足りないものは人の知恵をもって補う。そんな考えが大切だと思います」。

松尾シェフの腕の中には、海の生態系も描かれ、地球上にある食材は無限ではなく有限であるという社会問題への強いメッセージも込められているのです。

「お店で魚を提供するとき、“天然の○○です。”と言っても“養殖の○○です。”とは言わず、ただ“○○です。”とだけお伝えするのが現状です。“天然もの”というブランドに頼っています。“天然もの”という看板をおろしたら、今まで通りにお客様の満足は得られるのか? 悩んでしまいます。また、未利用魚についても同じ事が言えます。海洋資源の枯渇は深刻さを増しています。このままでは天然の魚介類は、お店で使えなくなってしまいます。養殖魚を取り入れて行かなければ、続けていけません。気候問題、環境問題、食糧事情、人口増加などを知る必要もあると思います。そしてそれぞれの立場から、私たちは料理人としての何ができるか? 何を伝えていかなければならないのか? こういうことを意識していきたいと考えています」。(リレーションフィッシュ公式HPより一部抜粋)

そして、セドリックシェフ。特筆すべきは、海なし県におけてマグロを起用したことの違和。これについて本人に尋ねると、作為のない実に素直な想いによるものでした。

「16年バスクでシェフをしています。こうしたイベントも含め、私がバスク以外で料理をする時は、バスクの文化を伝えたいと思っており、必ず作る料理が郷土料理のマルミタコなんです。もちろん、信州長野の醤油などを起用して仕上げていますが、あくまでも私は皆さんにバスクを知っていただきたい」。

地域で行われるイベントにおいては、あくまでもその地域の特性(食材、文化、歴史、伝統など)を主軸にシェフがどう表現できるかというのが常ですが、セドリックシェフにおいては真逆。自身の地域の特性を主軸に乗り込んだ先の地域の特性をどう活かせるか。9品ある中、この1品だけは、松本や信州長野ではなく、間違いなくバスクでした。そんな話の流れから、面白いエピソードを話してくれました。

「松本の滞在中、お蕎麦屋さんに行ったんです。そこで七味唐辛子を初めて知ったのですが、素晴らしい調味料ですね! 今回のイベントのために、バスクを代表する香辛料、ピマンデスペレットを持ってきていたのですが、次回は、七味唐辛子を使って作ってみたいです!」。

まず、セドリックシェフが七味唐辛子を知らなかったことに対して驚きを覚えましたが、国や文化が違うため、当然といえば当然のことなのかもしれません。「知らなかった」という点では、「オトワレストラン」の音羽シェフもすんきを知らなかったと話しています。ある人にとっては「当たり前」でも、ある人にとっては「有り難い」。そう考えると、シェフたちにとっても刺激的な発見があったのではないでしょうか。

セドリックシェフに話を戻すと、醤油や七味唐辛子が海を渡り、松本や信州長野の魅力がバスクから広がる可能性を秘めていると視点を変えれば、前述の違和は、意義のあるひと皿へと見解が変わります。

最後に、ホスト・齊藤氏は「Delicious Journeys in Matsumoto」についてこう語ります。

「現在、伝統野菜をはじめ、歴史を紡いできた資産、資源が途絶えてしまいそうなものもあります。どうすれば次の世代に残せるのかを考えなければいけない」。

改めて目を上げると、光と影をまとった「国宝 松本城」がそびえます。華やかな美食、煌びやかなイベントの光だけに目を向けず、影とどう対峙できるか。無言でそう問われているようです。あえて、前回の記事と同じ締めくくりをしたいと思います。

世界中は難局を経て、人は何を学んだのか。食べることとは何か。料理とは何か。レストランとは何か。そして、生きることとは何か。「ルレ・エ・シャトー」のメンバーとともに「松本城」で過ごす時間は、きっと大切な何かに気づかせてくれるに違いないでしょう。

今回は、あくまでもきっかけに過ぎません。美しい日本を守り続けることができるのは、我々、日本人なのです。

今回のホストを務めた「扉ホールディングス」代表兼「ルレ・エ・シャトー」日本・韓国支部長の齊藤忠政氏。「今回をきっかけに、ルレ・エ・シャトーに加盟するレストランの地域でもDelicious Journeysを開催したいと思います」。

Delicious Journeys in Matsumoto」のために集まった9人のシェフと「扉ホールディングス」代表・齊藤氏。

Photographs:YOICHIRO KIKUCHI
Text:YUICHI KURAMOCHI

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最果てのスコッチウイスキー『HIGHLAND PARK』とベトナム料理の出合い。圧巻のペアリングで示された無限の可能性。[HIGHLAND PARK presents WILD HARMONY SESSION in An Di/東京都渋谷区]

 北限の蒸溜所で200年以上続く、伝統のスコッチウイスキー。

スコットランドの北端、北海と大西洋が交わる境界。

ここに浮かぶ大小70の島々からなるオークニー諸島。かつてヴァイキングの拠点であり、今なおその誇り高き魂が受け継がれる島。常に強風が吹き荒れ、木々すらも生き残れないという過酷な島。

そんなオークニー島の蒸溜所で作られるウイスキーが『HIGHLAND PARK』です。厳しい環境が生み出す、最果てのシングルモルト・スコッチウイスキー。200年以上も変わらぬ製法が守られ続ける、ロマンあふれる酒。

ならば変わらぬことこそが『HIGHLAND PARK』の誇りなのかといえば、そうではありません。製法とともに受け継がれる“ヴァイキングの魂”が目指すのは、常に戦い挑戦し続けること。新たな道を切り開き、未知なる栄光を掴むこと。

そんな『HIGHLAND PARK』の可能性を探るイベントが、都内で開催されました。第2回目の開催となる『HIGHLAND PARK presents WILD HARMONY SESSION』。舞台となるのは、モダンベトナム料理の名店・外苑前『An Di』です。コースを通してウイスキーとのペアリングを楽しむ今宵の挑戦。スパイスが香るアジアンフードと、ウイスキーの相性はいかに。

青山の路地裏にひっそりと佇むモダンベトナム料理『An Di』が今回の舞台。

卓上に置かれた冊子には、『HIGHLAND PARK』の歴史と揺るがぬ哲学が記されていた。

当日は満員御礼。開場前から着々とドリンクの準備が行われた。

 まずはテイスティングで味わう『HIGHLAND PARK』の力強いフレーバー。

ベトナム料理とスコッチウイスキーのペアリング。想像もつかない取り合わせですが、心配は無用。何しろこの『An Di』には素材感を活かす巧みなスパイス使いに定評のある内藤千博シェフ、そして日本を代表するドリンクディレクター・大越基裕氏がいるのです。

ソムリエとして知られる大越氏ですが、キャリアのスタートはバーテンダーから。ウイスキーの知見も深く、『HIGHLAND PARK』も古くから親しんでいた酒。そんな大越氏と内藤シェフは、はたしてどんなペアリングを見せてくれるのでしょうか。

さてディナーは、『HIGHLAND PARK』のブランドマネージャーである藤井氏の挨拶で幕を開けました。まず語られる『HIGHLAND PARK』の歴史や誇り。その物語を証明するかのように次に登場したのは、『HIGHLAND PARK』のシニア・ブランドアンバサダーを務めるマーティン・マークバードセン氏です。

「ウイスキーテイスティングのルールは2つだけ。1つは今までに見聞きしたルールをすべて忘れること。もう1つは、ただ楽しむこと」

参加者にそう語りかけるマーティン氏。その穏やかでユーモアに富んだ語り口、そして誇り高き『HIGHLAND PARK』を擬人化したかのような風格ある風貌に、ゲストたちはたちまち惹きつけられます。

そんなマーティン氏が熱く語る物語を聞きながら、最初の料理が登場します。『HIGHLAND PARK』の12年、15年、18年のそれぞれのヴィンテージに合わせる3種類のフィンガーフードから。3種のなかでもっともエレガントで軽やかな12年には柑橘と海苔の香りを添えた牡蠣、香りに深みがありフルーティな15年には発酵茶葉とコリアンダーのクッキー、味わいにコクがある18年には本枯節のジャーキー。

大越氏のロジカルな解説により、味わうべきポイントが明確になった『HIGHLAND PARK』は、漫然と味わうよりもいっそうその個性的なフレーバーと深みを主張します。

風格ある佇まいの『HIGHLAND PARK』シニア・ブランドアンバサダーのマーティン・マークバードセン氏。

マーティン氏と藤井氏のアドバイスに従いながら、まずは色や香り、味わいをテイスティング。

最初に登場した、3種のヴィンテージの『HIGHLAND PARK』に合わせる3つのフィンガーフード。

大越氏のイメージを形にする内藤シェフ。経験に裏付けられた確かな技術が光る。

 さまざまな角度からウイスキーを楽しむ多彩なペアリング。

料理に合わせ、考え抜かれたペアリング。圧巻のメニューが次々と登場します。

炙り秋刀魚を使った揚げ春巻きと、ソーダを加えた12年。アジア料理に多用されるタマリンドの香りが、ウイスキーとの接点となり調和を促します。ソーダとウイスキーを一対一で割ることで、爽快感ではなく香りの広がりを演出。

鯖の味噌煮を巻いた生春巻きには、1年間蜂蜜に漬け込んだ金木犀を加えた18年。これはなんとウイスキーをペアリングのドリンクではなく、料理のソースとして味わうという発想。熟成感ある金木犀とウイスキーが、味噌の風味にいっそうの奥行きを加えます。

魚料理はヒラメ。卵黄を使ったムース状のソース・サバイヨンを添えたヒラメに、バジルティーで割った15年を合わせ、テクスチャをつけたソースとウイスキーの調和を狙います。

次々に繰り出されるアイデアたっぷりのペアリングで、これまでにないウイスキーの側面に光を当てる大越氏。それは悠久の歴史が作り上げた『HIGHLAND PARK』の伝統の先に、まだ新たな可能性が秘められていることを証明するかのようでした。

ソーダで割った『HIGHLAND PARK』12年に合わせた「揚げ春巻き 炙り秋刀魚 燻製じゃがいも タマリンドコーラ 七味」。

熟成した金木犀を加えた18年と「生春巻き 鯖の味噌煮 甘酒」。添えられた甘酒をソースとして味わう。

大越氏がテーブルをまわり、料理やペアリングについて解説した。

「ヒラメ サバイヨン コブミカンオイル ブルーベリー」。テクスチャをつけたソースとバジルの香りを加えた15年が絡み合う。

ペアリングは深淵でも、会場はいたって和やか。こんな空気を醸し出すのも、ウイスキーの魅力。

 ベトナム料理とスコッチウイスキーの驚くべき調和。

メインディッシュの肉料理は、子羊。焦がしパイナップルを添えたこの料理に、大越氏はストレートの15年を合わせました。

「ウイスキーのようにアルコール度数の高いドリンクを料理と合わせる方法は3つ。ひとつは先程の生牡蠣のように味わいをミックスすること、2つ目は魚料理のときのようにテクスチャをつけること、そして3つめが油分と合わせること。その油分の部分がこの子羊です」

と明快に解説する大越氏。

食べ方はしっかりと料理の油分を口に入れた上で、舐めるようにウイスキーを味わうこと。アルコール度数40度のウイスキーでも、こうすることで十分にペアリングを楽しむことができるのです。

「3種類のヴィンテージの中でもっともフルーツ感のある15年と、パイナップルのソースがクロスオーバーするイメージ。味だけでなく、香りも力強い『HIGHLAND PARK』ですので、香りのハーモニーを意識しました」

最後の料理は、おなじみのベトナム料理であるフォー。大越氏が「最初からウイスキーとの相性を感じていた」という鰹節の出汁に、落花生やバニラを加えたクリーミーでコクのあるスープに合わせるのは、『HIGHLAND PARK』18年のお湯割り。18年の深みある味わいをコクのあるスープで受け止めつつ、温度感を合わせて一体感を出す狙いです。

フルコースで大満足の内容でしたが、最後のデザートにもまだ見ぬペアリングが待っていました。ココナッツミルクプリンの中には『HIGHLAND PARK』18年を混ぜ込み、そこに15年を合わせて味わうのです。異なるヴィンテージのウイスキーを同時に味わうという革新的なペアリング。しかしプリンに添えられた甘夏のフルーティな緩衝材となり、それぞれの個性を持つ18年と15年が、見事に絡み合いました。

ベトナム料理とウイスキーのペアリングという未知への挑戦は、こうして大きな拍手とともに幕を下ろしました。

「今回の挑戦のなかで感じたのは『HIGHLAND PARK』の個性、とりわけフレーバーの力強さ。今回のベトナム料理だけでなく、本当に世界のいろいろな料理と合わせられる可能性を秘めていると感じました」

大越氏は、内藤シェフとともに作り上げたコースを振り返りそう語ります。さまざまなペアリングを伝えてきた二人にとっても、今回のウイスキーのみでのペアリングコースは大きな挑戦であり、新たな発見があったのでしょう。

挨拶に立ったマーティン氏も

「35年間ウイスキーに関わってきた中で最高の夜でした」

と、興奮気味に語りました。

こうしてアジア料理との相性も見事に証明した『HIGHLAND PARK presents WILD HARMONY SESSION 』。200年以上におよぶ『HIGHLAND PARK』の歴史は、常に未知への挑戦の歴史。その物語に新たな1ページが加えられた特別な夜でした。

「フォー 落花生 本枯節」。ライスヌードルのフォーにまでウイスキーが合うという驚きの体験。

「ココナッツミルクプリン with Highland Park 18y」をヴィンテージの異なる15年とともに。

「世界中でペアリングイベントをしてきたなかで、最高のディナーでした」とマーティン氏。

内藤シェフ、大越氏、マーティン氏、藤井氏。イベントの仕掛け人たちに、会場から惜しみない拍手が送られた。

住所:東京都渋谷区神宮前3-42-12
電話:03-6447-5447
営業:12:00〜13:30(土曜、日曜のみ)、18:00〜23:00
休日:月曜
URL:http://andivietnamese.com/

Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA
(supported by 三陽物産)

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風土から読み解き、日本の栗を知る。

皇室献上品として名高い熊本県球磨郡山江地方の大きくて甘い栗。※下記にてご紹介する「球磨川アーティサンズ」の「No.04 Chestnut Butter with Honey はちみつ入り栗バター」に使用する栗の産地より

WAKO ANNEX約5千500年前より、人々の暮らしを支えてきた栗。和栗は、飽くなき美味への追求。

まさに旬を迎えている栗。和栗は、西洋、中国、アメリカと並び、世界四大の栗のひとつであり、果実が大きく豊かな風味が特徴です。甘さも品が良く、深みのある黄色い実は、古くから食卓を彩り、愛されてきた食材といって良いでしょう。

一説によれば、栗の歴史は古く、青森県「三内丸山遺跡」など、各地の遺跡から炭化した栗が見つかり、その原始的な形態は、縄文時代から栽培が行われていたと考えられています。それが事実であれば、約5千500年以上も前から人々の暮らしを支え続けていたのです。

現在の日本の栗は、美味を追求した品種改良が重ねられたものであり、その多くはタンニンが強く、渋皮は剥がれにくいですが、逆に食用部分のアクが少なく、水分を多く含んでいるため、上品な味わいが楽しめると言われています。また、栗は果樹の中でも育てやすい部類と言われており、暑さにも寒さにも強く、肥えた土壌と日光を好みます。

現在においては、各地の風土を活かした栗の生産も盛んになり、最も多く収穫されているのは、茨城県。次いで、熊本県、愛媛件、岐阜県などが連ね、この4県が収穫量の約5割を占めています。(2022年農林水産省 作物統計 参照)

しかし、生産量では圏外でも、作り手のこだわりや少量だが高品質なものなどもあるため、煮る、蒸す、焼くなど、目的=料理に適したものかどうかという基準が重要なのかもしれません。

昨今においては、和の域を超え、様々な調理法によって上質な料理も多く供されています。

(文中には諸説ある中の一説もございます)

イガの部分が皮、鬼皮(堅い茶色の皮)の部分が果肉、中身と渋皮の部分が種。普段食べている部分を果肉と思いがちだが、実は違うということはあまり知られていない栗の豆知識。※下記にてご紹介する「球磨川アーティサンズ」の「No.04 Chestnut Butter with Honey はちみつ入り栗バター」に使用する栗の産地より

WAKO ANNEXごはんからデザートまで。様々な栗を進化させた4つのスタイル。

「和光アネックス」地階のグルメサロンにて添加される和栗の品の中から、バリエーションに富んだ品を4つご紹介。どれも栗の旨味と特性を最大限に活かしたものばかりです。

茨城県笠間市「あいきマロン 」の「栗おこわ」は、茨城県笠間市で採れた栗を使い、国産もち米とふっくら炊き上げた品。添加物を使用しない自然な美味しさが心身に染み渡ります。

江戸時代に旅館として創業した兵庫県豊岡市「みなとや 」の「栗羊羹」は、上質な小豆と丹波の栗が絶妙な味わいがリピーター続出。明治時代以降は菓子並びに土産として愛されてきた名品です。

熊本県人吉市「球磨川アーティザンズ」の「Chestnut Butter with Honey はちみつ入り栗バター」の栗は、地元の球磨栗を使用。手作業で皮を剥き、雑味のない味を実現。バターが栗の味を引き立てます。

東京都新宿区「自然栗本舗」の「マロンブランテ」は、熊本県産の和栗を厳選。渋皮栗を紅茶とブランデーに漬けこんだ「マロンブランテ」は、栗の甘みとアールグレイの豊かな香りは、ただ美味しいだけでなく、心身も癒されます。お茶はもちろん、お酒とも好相性な品です。

そのほか、2階ティーサロン及び1階ケーキ&チョコレートショップにて、マロンパイやマロンパフェも展開。ぜひ併せてお楽しみください。

「あいきマロン」の「栗おこわ」(左上)、「みなとや」の「栗羊羹」(右上)、「球磨川アーティザンズ」の「Chestnut Butter with Honey はちみつ入り栗バター」(左下)、「自然栗本舗 」の「マロンブランテ」(右下)。今が一番美味しい旬の時季にぜひお召が上がりを。

そのままで美味しい「みなとや」の「栗羊羹」(上)、「球磨川アーティザンズ」の「Chestnut Butter with Honey はちみつ入り栗バター」(右上)は、パンに塗って朝食やブランチにいただけば、上質な時間を演出。「自然栗本舗 」の「マロンブランテ」(右下)は、ギフトにも最適。「あいきマロン 」の「栗おこわ」(左下)は、ほくほくした栗がたっぷり。食べれば口いっぱいに旬が広がる。

2階ティーサロン及び1階ケーキ&チョコレートショップでは、大きな渋皮栗をふんだんに包み、細かく刻んだ黄栗と栗ペーストをぎっしり詰めた「マロンパイ」(右)や細かく砕いた栗、マロンクリーム、マロンアイスクリームをカシスソースやアールグレイゼリーと合わせた「マロンパフェ」(左)も展開。
 

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
 

Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

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美と健康を食卓から変えていく。ちさこ食堂の食選力。

「ニューノーマルという生活習慣の中、欲しいものを適切にあてがえる食の提案と提供が必要です。食べたもので身体は作られているという現実と何をどう食べれば良いのかを伝え続けることが私の役割と思っています」と堀 知佐子さん。

WAKO ANNEX大事なことは、食選力(しょくせんりょく)。それは、食を選ぶ力。

管理栄養士、食生活アドバイザー、アンチエイジング料理スペシャリスト。京都の老舗料亭「菊乃井」常務取締役、デパート向けの惣菜開発、東京・赤坂「ルリール」オーナーシェフ……。

ひと言で言い当てるのは非常に難しいその人物は、堀 知佐子さんです。

生まれは、群馬県桐生市。実家は染色業で工場の中に住まいがあり、忙しい両親の元に育った堀さんの食事は、祖母の手料理だったと言います。

食の道に歩み始めたきっかけは、そんな体験を経た高校卒業の頃。父から言われたひと言でした。

「特に料理が嫌いじゃないのだから、お母さんがなりたかった栄養士になってあげれば?」。

その後、食品メーカー、調理師学校の助手、京都での修行、さらには「吉野家」から「菊乃井」まで、幅広い食の世界を経験。

2007年には、「食べ物が身体を作る」をコンセプトにしたアンチエイジングレストランを東京・、三田に開業し、フードロス問題の解決や食の大切さを世間に広めるようになりました。
「ちさこ食堂」が開業したのは、2021年のこと。食堂と謳うも、飲食店の営業はほぼせず、「美と健康を食卓から変えていく」をテーマに商品を開発しています。

今回は、そんな「ちさこ食堂」の逸品が、「和光アネックス」地階のグルメサロンに初展開。

「新型コロナウイルスという感染症で、私たちの生活が大きく変わった今日、消費行動も大きく変わりました。食べたもので身体は作られているという現実を広く伝え、何をどう食べれば良いかを伝え続けていくのが、私の役割と思っています。ニューノーマルという新習慣の中で、食の楽しさ、喜びを感じてもらえるよう発信し続けたいと思います」。

「自分で勉強する気がないとどこに行っても会得できない。誰かに何かを教わりたいだけで行くのなら行かないほうがいい」、「自分でやらなかったら何もやったことにならない」とは堀さんの父の教え。「人としての考え方についても父の教えが救いになったことは間違いありません」。

「料理のことはあの人に聞いたら大体のことは答えてくれる。そんな人になりたい“だけ”」と堀さん。

WAKO ANNEX自分の健康を自分でジャッジメントできるような食の提案。

これは、堀さんの言葉です。

「モノがたくさんのこの時代に、自分の健康を自分でジャッジメントできるようになることはとても大切。 食を通してお伝えしたい。 食べたものが明日のカラダになるからこそ、 食選力(しょくせんりょく)=食を選ぶ力がとても大事。 選ぶ道を間違えると行きたいところに辿り着けないのです」。

今回、展開されるものは、パエリヤ、アクアパッツァ、ブイヤベースの3品。いずれも「ちさこ食堂」の人気メニューであり、簡単にフライパンひとつで美味しくできるというのが特徴です。

「フライパンでできる海の幸パエリア」は、アサリやエビ、ムール貝、イカなど、瀬戸内の海鮮をたっぷり盛り込んだパエリアの素。白身魚のアラをメインに香味野菜と一緒に煮込み、凝縮された魚介の旨味が食欲をそそります。

「フライパンでできる瀬戸内真鯛のアクアパッツァ」は、瀬戸内の天然真鯛とドライトマト、オリーブ、ケッパーで仕上げたセット。市場に出にくい小サイズの魚を有効活用し、フードロスを無くす取り組みの一環ながら、豪華な味わいが魅力です。

「フライパンで煮込み海の幸ブイヤベース」のベースの味は、ハーブを利かせた魚ダシ。メインのタラをはじめ、たっぷりのトマトとネギ、玉ねぎだけで味を整えたお品。あっさりとした風味は、素材の旨味を存分に堪能できます。

「さぁ、自分を俯瞰で見てみませんか?生産者さんから食を通じてつながる、明日のカラダへ。やさしくおいしい料理をどうぞ」。

堀さんが全て監修した3品。「フライパンでできる瀬戸内真鯛のアクアパッツァ」(左)、「フライパンで煮込み海の幸ブイヤベース」(中)、「フライパンで煮込み海の幸ブイヤベース」(右)。どれもフライパンひとつで簡単に美味しく調理できるのが特徴。

健康と美容を食卓から変えていく「ちさこ食堂」。「食べる前にいただきますと言うのは、食材となった様々な生物の命をいただくという考えが原点。だからこそ食べ物に対して、プロである私たちは愛情を持たなければいけません。ちさこ食堂では食材を無駄にしないようフードロス削減に力を入れています。できる限り手作りにこだわりました」と堀さん。

※今回、ご紹介した商品は、『和光アネックス』地階のグルメサロンにて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、全国各地からセレクトした商品をご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
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Photographs:JIRO OHTANI
(Supported by WAKO)

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箱根に新たな名物を。そんな想いで動きだした、ある酒づくりの物語。

OVERVIEW

箱根はその全国的な知名度に対して、揺るぎない名物が少ないのではないか――。

ある人物のそんな思いから、この物語は動き始めます。

その人物の名は、貴島健太郎。

自身も神奈川で生まれ育ち、現在は箱根・仙石原の温泉ホテル『箱根リトリート före』を手掛ける『温故知新』で働くホテリエです。

「箱根に来たお客様が、箱根らしさを感じられる新たな名物を」

貴島氏の熱い想いは徐々に協力者を集め、そして夢は少しずつ形になり始めます。

心強い味方のひとりは、茅ヶ崎市で地元神奈川らしい酒造りを追求する『熊澤酒造』の杜氏・五十嵐哲朗氏。もうひとりの味方は、箱根の伝統的工芸品である箱根寄木細工に新たな風を吹き込む職人・清水勇太氏。ふたりの強力な助っ人とともに、挑むのは、箱根らしさを感じる何かしらの酒をつくること。

しかしこの物語は、まだ動き始めたばかり。

現在決まっているのは、何かしらの酒をつくるということだけ。

2024年春頃の完成を目指し、今まさにさまざまな可能性を追求している最中です。

ONESTORY編集部は、この工程に密着。いまだどうなるかわからない酒造りを追いかけます。

皆様もぜひこのチャレンジに注目し、まるで一緒に酒造りをするかのように物語の行く末を見守ってみてください。

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