すべての業界がチャットボットを活用すべき7つの理由とブランド事例

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どの業界のどの会社も、いつかIT企業にならなければいけない。そうでなければ、これからの時代は生き残っていけない
昨年サンフランシスコで開催されたドリームフォースで、アディダスのブースの方が言っていた印象的な言葉である。アディダスはデジタルチャンネルの強化を推し進める一環としてチャットボットを導入し、パーソナライズされたユーザー体験を作り出そうとしている。 日進月歩するAIによって、これまでになかったITと他分野とのコラボレーションも進んでいる。実際に、フィンテックのような「テック」と、スマート家電のような「スマート」がついた言葉がどんどん身の回りに広がってきている。 これにより、これまであまり「テック」や「スマート」と言った言葉と馴染みの薄かった消費財メーカーなどにも、テック化しスマートになっていくことが求められる。スマートなUXがユーザーにとってのディファクトになっていくからである。 一方で、AIがどんどん進化していく中で、逆にどうやってAIを活用していったらいいか、そもそもそんなに必要なものなのか疑問に思っている人も増えているのではないだろうか。 AIとなると、技術の部分が注目されがちだが、見落とされがちなのはUX的観点を持ったデザインをサービスに落とし込めるかということである。これがなければせっかくチャットボットを導入してもカスタマーエクスペリエンスの向上には繋がらない。 この記事では、比較的身近にあるAIの事例としてチャットボットを取り上げ、それを導入している消費財メーカーがどのようにしてカスタマーエクスペリエンスを向上させたかについてご紹介したい。

なぜチャットボットが必要なのか?

チャットボット(以下ボット)はオムニチャンネル化が加速する消費財マーケティングで、今後も需要の成長が見込まれているサービスである。そもそもなぜ近年ボットの需要が高まっているのだろうか。Digital Doughnutではボットが企業にもたらす利点として次の7つをあげている:

1. トレンドである

多くの企業がFacebook MessengerやKikといったメッセージングアプリや自社のアプリにボットを導入し始めている。ボットというチャンネルがユーザーの中でディファクト化すれば、ボットを持っていないことがマイナスになってしまう。

2. カスタマーサービスの向上

営業時間や場所を選ばないので、いつでもどこからでも利用でき、カテゴリーや管轄部署に関係なく、広範囲の質問に瞬時に回答できる。また、担当者の経験値に関係なく、均質なサービスが提供できる。

3. カスタマーエンゲージメントの向上

同サイトが紹介する調査では、ボット導入後、ソーシャルメディアにおけるカスタマーエンゲージメント率が導入前に比べて20%上昇したという。また、プッシュ通知などを通じて、カスタマーに企業側からリーチできるという点も大きい。消費者意思決定プロセスにおいて、消費者が「情報収集」の段階に入る前の段階で、問題提起をして購買意欲を刺激することができるからだ。

4. インサイト情報の取集・分析

ボット上でのやり取りから得たデータをもとにパーソナライズされた内容を表示・提案できるだけでなく、商品に合わせたマーケティング戦略を練り直すこともできる。

5. より良いリードの創出・絞り込み・育成

見込み客に対してパーソナライズされたメッセージとともに、自然な流れで必要な情報を尋ねることができるため、インサイトを得やすい。それにより、リードの創出やリードを次のステージに進めることが容易になる。

6. グローバル市場へのリーチ

ボットなら、24/7で利用できるだけでなく、基本的な質問なら多言語にも対応できる。ただし、商習慣や文化の違いによって、ローカリゼーションが必要になってくることを忘れてはならない。

7. グローバル市場へのリーチ

独自に複数のモバイルプラットフォームに対応したアプリを開発したり、専門の人材を採用するより安い。また、1つのシステムで1対多数のユーザーを同時に24/7で対応できる。

チャットボットで何が提供できるのか

では実際に、ボット活用方法にはどのようなパターンがあるのだろうか。ボットに最終的によってもたらされるのはカスタマーエクスペリエンスの向上だが、その内容は様々だ。企業が提供する一般ユーザー向けのボットサービスを見ていくと、大まかに次の5つに識別できそうだ:

1. 探す(検索)・提案

ユーザーへの質問や過去のデータをもとに、その人の嗜好に適したものを探して提案。商品だけでなく、天気予報の通知や関心のあるニュースなどもピックアップしてくれる。

2. コンシェルジュ / 予約・購入

予約やオンラインショッピング時の面倒な入力作業を必要とせず、簡単なやり取りでボットがレストランの予約やチケットの購入を代行。Google Duplexでは自分の代わりに電話もかけてくれる。他には、Siriに代表されるように、ユーザーの司令に応じてスケジュールを作ったり管理したりしてくれるものもある。

3. カスタマーサービス

簡単な質問やよくある質問に対して、即座に回答または目的のページに誘導。必要であれば、人間のエージェントに繋ぐこともできる。

4. アドバイザー / 講師

健康管理や金融といった専門的な知識を必要とする分野へのアドバイスを提供。学習用のサービスでは、ユーザーの理解を促す手助けをしてくれる。

5. 会話の相手

おもちゃや、Softbankのペッパーのような、コミュニケーションそのものを目的にしているもの。

チャットボットの実用例

上記のパターンはあくまで目安であって、機能をこれらだけに限定する必要はないし、1つに絞る必要もない。実際に企業はどのようにボットを使っているのだろうか。

カバーガール

covergirl_bot <画像引用元:Kik: Kalani Hilliker’s Bot> カバーガールは1950年代から続くコスメティックブランドで、長らくP&Gの傘下に収められていた。数年前に別の企業に売却されたのを機に、ミレニアル世代やそれに続くジェネレーションZを主なターゲットとした新興のライバルに対抗するべく、デジタル化に注力している。 その1つがインスタグラムで480万人のフォロワーがいるカラニ・ヒリカーという2000年生まれの芸能人(ダンサー・女優・モデル)の名を冠したボットだ。言葉遣いや絵文字を通して、彼女のパーソナリティーをボットに反映させることで、より若い世代が関心を抱きやすくなっている。彼女と会話を続けるとクーポンをゲットできるという「おもしろ要素」も組み込まれている。

H&M

h&m_bot <画像引用元:Kik: H&M> ファストファッション・ブランドのH&Mでは、ボットがユーザーとの初めのやりとりにおいて、スタイルの異なる洋服の写真を直感的に選択させることで、各自の好みに合ったスタイルを探っていく。ある程度スタイルが確定すると、ユーザーの好みに適したものを優先的に提案することで、小さなスマホの画面から何度もページを読み込むという面倒な作業が減る。

ジョニーウォーカー

johnnie_walker_bot <画像引用元:Facebook Messenger: Johnnie Walker> 約200年の歴史を誇るウイスキーブランドのジョニーウォーカーは、ブランドの歴史や商品の紹介、ウイスキー全般に関する知識を教えることでブランド・ロイヤリティを高めようとしている。また、サードパーティーと協力することで、ジョニー・ウォーカーを使ったカクテルのレシピや近所で商品が買える場所の紹介など、幅広いサービスを提供している。

アブソルート

lyft_absolut <画像引用元:Lyft Blog> 同じくリカーメーカーのアブソルート ウォッカは、ボットを通して、ユーザーがバーに行くのを促すキャンペーンを行った。無料でアブソルートウォッカが体験できるバーを告知し、実際に行ってくれた人には、シェアライドサービスのLyftのクーポンを配布して安全に帰ってもらうという一連の流れによって、バーを介したO2O(Online to Offline)体験を作り出した。このキャンペーンでは4.7倍の売上増加に成功した。

ドミノピザ

[embed]https://www.youtube.com/watch?v=aec24EU6MOk[/embed] ドミノピザは、Facebook MessengerだけでなくAmazon EchoやTwitterなど、あらゆるソーシャルメディアやメッセージングプラットフォームからピザの注文を可能にしている。 彼らのボットは、ピザのカスタマイズはもちろん、注文した品が今どの工程にあるのか(トッピングしているのか、焼いているのか、など)、配達までどのくらい時間がかかるのかまで分かるようになっている。これによってユーザーは、ちゃんとオーダーが通っているのか、時間通りに配達されるのか余計な心配をしなくても良い。

チャットボットを作るときに注意すること

最後に、チャットボットを導入するにあたって、考える必要があることは何だろうか。チャットボットの開発自体は、作成サービスなどを利用してコーディングなしに行うことも可能だ。 しかし、もっとも重要なのがそれより前の段階におけるUXデザインの設計である。対象は誰で、何の目的のために使ってもらうのか。どのようにその目的を達成するのがユーザーにとって最適なのかといったことからコンセプトを考えていく必要がある。 関連記事:チャットボット (Chatbot) とは? 【ChatBot入門編】 PwCのレポートでは、チャットボットのようなデジタルアシスタントへの認識を調査したところ、「スマートで友好的」に対して「ロボットっぽく(人間味がなく)て限定的」と感じる人がほぼ同率だった。 同じテクノロジーでもユーザーが受け取る印象がポジティブにもネガティブにもになりうるということである。ユーザーが「親切なサービス」と感じるか「どこか違和感があるな」と感じるかは、UXデザインが大切になる理由である。

まとめ

AIから電話がかかってくる時代が来ようとしている。どの業界であっても、テック化していくことがユーザーから当然のように考えられる中で、チャットボットは身近なAIとして、今後も広がっていくことが予想されている。 チャットボットは単なるメッセージングサービスではなく、カスタマーサービスの向上やインサイトの分析に活かせるなど利点も多い。例としてあげたように、あらゆる業界でチャットボットの利用が広がってきている。その使われ方は、用途に応じて様々だ。 しかし、ユーザー視点に立ったUXデザインがなされなければ、せっかくカスタマーエクスペリエンスの向上のために導入したチャットボットも、ユーザーにかえって悪い印象を与えかねないので、注意しなければならない。 参考:

【デジタル広告最新トレンド2018】今アメリカで起きている4つの現象

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あらゆる業界でデジタル化が進んでいるように、広告もその例外ではない。むしろテクノロジーの進化とともに、いち早くデジタル化が進んだ業界の内の1つと言っても過言ではないだろう。 昨今、インタラクティブな広告を目にすることが多くなったように思える。インタラクティブとは双方向で情報のやりとりができる状態を指し、このトレンドはSNSやスマートフォンによって急速に推し進められた。そして、ビジネスにおけるソーシャルメディアの活用によって、企業とユーザーがお互い気軽にコミュニケーションがとれる場所ができた。 こうした環境に慣れてしまったユーザーにとっては、一方的な商品やサービスの宣伝を超えた体験が重要になってきている。 また、後から説明する"広告嫌い”の若い世代やネットへの信頼を失っている人にも受け入れられるような新しい広告の在り方が求められてきている。こうした点を踏まえると、今後デジタル広告はユーザーが「違和感を感じない」だけでなく「主体的に楽しめる」ことが求められるのではないだろうか。 今回は、今アメリカで起きている4つの現象に触れながらデジタル広告の最新トレンドをご紹介したい。 関連記事:2018年にUXデザインを取り巻く7つの変化

1. デジタル広告費 > テレビ広告費

デジタル広告の市場は急速に成長しており、アメリカでは昨年の2017年に遂にデジタル広告費がテレビ広告費を上回った。その要因としては、効果的なチャンネルを通して目標とするセグメントにリーチできる、広告の効果を瞬時に測定できる、自動化もできてコストが抑えられるなど、様々な要因はあると思う。 ただ、最も大きかったのはテクノロジーの発達による、人々の生活の変化だろう。人々はテレビを見るよりスマートデバイスを使っている時間が長くなり、動画コンテンツもネットフリックスやユーチューブで見るようになってきている。こうした変化を考えると、日本のデジタル広告費がテレビの広告費を追い越す日も遠くないかもしれない。

2. 新しい広告の出現

Googleが始める"遊べる広告”

デジタル広告は、ネイティブ広告のような一貫性がありユーザーが違和感を感じないものが増えてきており、冒頭でも述べたように最近はよりインタラクティブなものにシフトしている。 その一例にGoogleのプレイアブル広告(遊べる広告)を挙げたい。Googleがエイプリル・フールの週にマップ上に「ウォーリーを探せ」のキャラクターを出現させたことで話題となったが、このゲームとは内容が少し異なる。 google_find_waldo 画像転載元:Google Japan アプリのゲームをしていたら、動画広告が流れ始めたことはないだろうか?通常の動画広告は、決められた時間の広告動画を観ることで何らかの報酬(ゲーム内でのポイントなど)が得られる。 しかし、プレイアブル広告は、動画を観る代わりに別のゲームのミニゲームをプレイすることができるのだ。Googleはこの広告の時間をただ鑑賞のために使うのではなく、よりインタラクティブなものにしようとしている。実際にプレイしてそのゲームが気に入ればゲームのダウンロード画面に進むことだってできる。 不思議に思うかもしれないが、簡単に言うとあるゲーム上で別のゲームをしていることになる。動画広告と違って、ユーザーの操作に反応するので、自然と広告に対する興味を高めることができるのも特徴だ。フェイスブックも最近テストを始めたようで、今後見かける機会が増えるだろう。 Playable_ads 画像転載元:glispa

コアなファンへのリーチ

NikeはNBAとのパートナーシップ提携に伴い、2016年、2017年のシーズンからNBAのユニフォームの製造もしている。ユニフォームにはNikeのロゴだけでなくNikeConnect(ナイキコネクト)のロゴも付いており、スマートフォンをナイキコネクトのロゴに近づけると、限定コンテンツやレアな商品にアクセスできるようになっている。 これまではユニフォームのみだったが、今年の4月にナイキコネクトを搭載したスニーカーを限定販売した。購入者は今後数ヶ月に亘ってニューヨークで実験的に行われる取り組みに参加することができる。まだその詳細は明かされてないが、月に一度2つの限定モデルから1つだけ購入するスニーカーを選ぶことができるようだ。 このように、限定的な情報を逐一チェックしてくれる熱烈なファンであれば、広告であっても関心を持って見てくれる可能性が高く、インフルエンサーとしてブランドに良い影響を与えてくれる可能性も十分にある。 彼らのようなコアなファンにパーソナライズした広告を届けるためには、電子デバイスだけでなく身の回りのあらゆるものがデジタル広告への入り口として使われるようになるのではないだろうか。 nike-air-force-1-nyc 画像転載元:HYPEBEAST

3. ネット・SNSへの信頼の低下

最近大きな話題となっているのは、ネットにおける信頼性である。フェイスブックの個人情報流出騒動で起きたSNSなどの無料プラットフォームにおける個人情報の取り扱いやフェイクニュースの問題など、こうした危険性は常に騒がれてきた。 PR会社エデルマンの調査によると、メディアやサーチエンジン、SNSプラットフォームへの信頼が昨年に比べて低下している。年代別で見ると、若い世代の方が低下率が高くなっている。 2018_Edelman_Trust_Barometer 画像転載元:2018 Edelman Trust Barometer Global Report こうしたネット全般への信頼性・信憑性への懸念は企業側にもあるようで、P&Gやユニリーバといったこれまで広告の大口クライアントであったグローバル企業は昨年デジタル広告費の削減を発表していた。 こうした問題の原因の一つは、誰もが簡単に情報の発信者になれるようになった(参入コストが下がった)ことで、広告の信憑性だけでなく広告が表示される場所などを含めた統括的な質の担保が難しくなっているからだと考えらえる。 広告収入が9割のGoogleでは、ネット上のユーザー体験を損なわないよう同社が提供するブラウザのGoogleクロームでは勝手にポップアップが表示されるなど著しくユーザー体験を損ねる広告に関してはスクリーニングする取り組みを行い、広告主の自主的な規制を促している。

4. 広告嫌いのミレニアル世代

録画したテレビ番組のCMをボタン一つで飛ばしてしまうように、デジタルではアドブロックという広告を表示させないサービスが増加している。なんとアメリカでは3割以上のインターネットユーザーがアドブロックを使用しているとされている。 これに対応するためにアドブロッカー・ウォールと呼ばれるアドのブロックを無効にしないとページ内容が表示できないサイトもある。一方で、アドブロッカー・ウォールのせいで、ユーザーがサイトから離れてしまう問題もある。 スマートフォン用のアプリなどは、クックパッドのプレミアムサービスのように基本的に無料だがアップグレードにはお金がかかるといったフリーミアム(フリーとプレミアムを合わせた造語)のサービスが半ばデフォルトの状態だ。こうしたサービスは広告収入によって支えられているので、若いユーザーは煩雑な広告の表示や「売り込み」感の強い広告にうんざりしているのかもしれない。 以下、ユーザー体験を損ねるデスクトップ、スマートフォン上の広告の例である。

デスクトップ:

  • ポップアップ広告
  • 音声付きの自動再生広告
  • カウントダウン付きのプリスティシャル広告(コンテンツ表示前に表示される広告)
  • 大きなスティッキー広告(スクロールしてもついてくる広告)
desktop_ads 画像転載元:Coaliation for Better Ads

スマートフォン:

  • ポップアップ広告
  • プリスティシャル広告
  • 画面の30%を占める広告
  • 点滅アニメーション付きの広告
  • 音声付きの自動再生広告
  • カウントダウン付きのポストスティシャル広告(リンクをフォローした後に表示される広告)
  • フルスクリーン・スクロールオーバー広告(スクロールするとコンテンツ上に表示される広告)
  • 大きなスティッキー広告
smartphone_ads 画像転載元:Coaliation for Better Ads

まとめ

デジタル広告の市場は急速に成長し、テレビへの広告費用も上回るほどになった。GoogleやNikeが行なっている取り組みは、常にデジタルな環境に囲まれているユーザーにも訴求できる新しい広告の形なのかもしれない。また、デジタル広告が載せられるプラットフォームへの信頼の低下は問題であるが、インタラクティブな広告のトレンドは、広告を嫌う若い層への対策とも取れる。 このように、これからの時代はユーザー体験を重視し、いかにユーザーに広告を広告と感じさせないか工夫していく必要があるだろう。そしてユーザーが価値を感じる対象がモノから体験にシフトした今、広告一つに取ってもユーザーの思考や行動を分析して体験を設計し、ユーザの反応に対しても様々な視点で潜在的なニーズや抱えている問題を読み取っていくことが求められるのだ。 参考:

世界の大企業に見る 企業理念を体現した5つの新規事業

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大企業では、イノベーションを起こすのは難しいと言われるが、大企業の持つ潤沢なリソースがあってこそ成せるイノベーションというものもある。 freshtraxではこれまでにも大企業でのイノベーションについて取り上げてきたが、本稿では特にイノベーティブなアイデアだけでなく、大企業がこれまで積み上げてきたものを上手くレバレッジして新しいものを生み出したり、あるいは外部のイノベーションのタネを上手くスケールしたりした例を5つ紹介したい。 これらは、企業が持つビジョンもしくはミッションステートメントとも関連しており、昨今の大企業によるスタートアップとの協業の流れを活かすヒントになるかもしれない。 関連記事:大企業によるイノベーションとは?Amazonなど3社の成功事例

1. フォード:シェアバイク

自動車とモビリティのリーダーシップを通じて、人々の生活をよりよくするために、リーン、グローバル企業として一丸となって働く人
中国でも一大ブームとなったシェア・バイクビジネスだが、今ベイエリアでもシェアバイクが熱を帯びている。その火付け役とも言えるのが、アメリカ車産業のビッグ3の一角を担うフォードである。同社は昨年の2017年に、GoBikeと名付けたシェアバイク事業をスタートさせた。 ベイエリア大気管理局とサンフランシスコ・ベイエリアの都市交通委員会と協力関係にあるMotivateという専門の会社が運営を担当し、フォードがスポンサー役を務める形だ。ベイエリア大気管理局の広報担当によると、これはカリフォルニア州で初めての公共シェアバイク・プログラムであり、アメリカ初の地域的な取り組みであるという。 ford gobike 利用法方法: このフォードバイクは、街中に設置された専用の駐輪場に停められている。利用する際はそこから自転車を借りてまたどこかの駐輪場に返却するという仕組みだ。料金は1回乗り・1Dayパス・年間会員の3プランが用意されていて、年間会員は1回45分・それ以外は1回30分利用できる。支払いは、アプリまたは地域のパスモやスイカのようなICカードを使って行われる。駅から会社までの移動や、観光客が街を見て回るのにはちょうどいいかもしれない。 フォードは今後、モーター付きの電動自転車を含め今年中にベイエリアだけで計7000台の自転車を投入する。さらに、都市部の交通を意識して2016年に買収したスタートアップのシャトルバスのサービスも併せて拡大させるなど、自転車だけでなく、モビリティ事業全般の投資の手を緩めない。都市部の人口増加による交通渋滞の問題や、環境意識の高まりなどから、需要はまだ広がるだろう。 これらは決して社会貢献事業などではなく、営業利益率20%を見込んでおり成熟企業の成長に寄与することを期待されている。そして今回のこのシェアバイクビジネスは、フォードという会社を「クルマ」の会社ではなく、「モビリティ」の会社に変革したいという会社全体としての強い意志の現れとも言えるだろう。 サンフランシスコを含むベイエリアやシリコンバレー地域では、シェアバイクの競争は加速しており、Uber(ウーバー)やLimeBike(ライムバイク)といった会社などもこの動きに追随している。特徴的なのは、UberとLimeBikeの場合、駐輪場所を選ばない「乗り捨て可能」タイプの自電車であり、スマートフォンがあれば、好きな場所から乗って好きな場所に置いていけることだ。ちなみに、フォードバイクが鮮やかなスカイブルーに対して、ウーバーはエッジの効いたレッド、ライムバイクは穏やかなグリーンカラーとなっている。

2. ディズニー:シードアクセラレーター

世界でトップのプロデューサーとエンターテイメントと情報のプロバイダーの一員であること。ブランドポートフォリオにより、コンテンツ、サービス、コンシューマープロダクトを差別化することで、我々は世界で最も創造的、革新的、そして有益なエンターテイメント・エクスペリエンスと関連商品の開発を追求します
スター・ウォーズを製作するルーカスフィルムや21世紀フォックスのテレビ・映画部門の買収、自社ストリーミングサービスの発表など、アグレッシブなニュースが絶えないウォルト・ディズニー・カンパニー。ディズニーの通称で親しまれる同社は、映画やテーマパークだけでなく、メディアや音楽、製作技術などエンターテイメント全体に強い力を持っている。 そのディズニーが2014年から始めているのがディズニー・アクセラレーターだ。いわゆるシードアクセラレーターなのだが、ディズニーにしかできないことが存分に活かされている。このプログラムの選考を勝ち上がったスタートアップは、3ヶ月間ディズニーからメンタリングを受けられるだけでなく、ディズニーグループが保有する膨大なリソースとネットワークへ自由にアクセスできるようになる。具体的には、ロサンゼルスのディズニー社員も使うコワーキングスペースを仕事場として使えたり、投資家や各分野の専門家への紹介を受けたりすることができる。 プログラムを通して得られた知的財産権は、あくまでスタートアップ側に帰属するので会社が縛りを受ける心配はない。大企業ならではの太っ腹である。とは言え、このアクセラレーター発の製品・サービスとのコラボレーションもディズニーから多く発表されている。投資以外の面でしっかりとディズニー側にリターンが還元されている点は、やはりさすがである。 これまでにアクセラレーターから生まれたコラボレーション例をいくつか紹介したい。
  • Sphero (2015): ディズニー買収後のスターウォーズ作品でかなり目立った存在だったオレンジ色の丸いドロイドBB-8のおもちゃ。2015年のディズニーのベストセラーになった。
  • Atom Tickets (2016): 映画チケットのためのスマートフォンアプリ。購入やチケットの表示だけでなく、予告の再生やどの映画を観るか友人と決めることもできる。
  • VOID (2017): VRのヘッドセット装着し、実際の施設内をコンテンツに合わせて進んでいく進化型のアトラクション。本当のバーチャルとリアリティの融合。
[embed]http://www.youtube.com/watch?v=_QIbI4Wtgug[/embed] 関連記事:【オープンイノベーション】 大企業がスタートアップとの協業を成功させる為の3つの方法

3. テスラ:ソーラールーフ

持続可能なエネルギーへ、世界の移行を加速する
テスラはクールなデザインの電気自動車メーカーとして一躍有名になったが、今やテスラが提供するのはクルマだけに止まらない。彼らは太陽光により発電した電気を家のバッテリーに一旦蓄電し、必要に応じて家庭内消費電力及び自動車の充電まで全てまかなうトータルソリューションを提案しようとしている。 2016年にテスラは、ソーラーパネルの製造から設置までを行っていたアメリカのソーラーシティを20億円以上で買収した。これによって、テスラがもともと電気自動車開発で培ってきたリチウムイオンバッテリーの技術と、太陽光発電の技術が組み合わさり、2社の強みを1つのパッケージとして新たな価値を創造することに成功したのだ。 ソーラールーフとは、一般的なソーラーパネルとは異なり、見た目は普通の屋根に見える。テスラの情報によれば、ソーラールーフは一般的な屋根より強度があり、30年間発電できるという。驚くべきことに、Bloombergによれば、ソーラールーフの単価は従来のソーラーパネルに比べて安いという。ただし、同じ発電量をまかうためにより多くのタイルを必要とするため、トータルコストは高くなるかもしれないということだ。 tesla solar roof 画像転載元:Tesla公式サイト

4. アマゾン:2時間で届く新鮮なオーガニック食品

お客様がオンラインで買いたいものがなんでも見つかり、最安値で提供する努力をする、地球上でもっともお客様を大切にする会社であること
アマゾンは今年の2月からアメリカの一部の街において、ホールフーズの商品をプライム会員に向けて2時間以内に配送するサービスを開始した。しかも、35ドル以上の買い物は配送は無料である。有料オプションなら1時間で届けてくれるが、地元の店舗から商品が運ばれるため、利用時間と地域には制限がある。今後は、順次その地域を広めていく考えである。 昨年全米に衝撃を与えたアマゾンによるホールフーズの買収。ホールフーズといえば、テイラー・スウィフトなどのセレブも御用達の高級オーガニック・スーパーマーケットである。買収後は一部の商品の値引きが行われた他は特に大きな変化はなかった。それが今年に入って、ついにこの2大タッグのいいとこ取りが解禁されたと言えるだろう。 とは言え、食品の配送自体はなんら新しいことではない。アマゾンはアマゾン・フレッシュとして食料品の配送をしていたし、それ以前にも2012年にサンフランシスで設立されたInstacart (インスタカート)は提携するスーパーやペットショップの商品を運んでくれるサービスを展開していた。インスタカートの提携先にはホールフーズも含まれている。NBCのテレビ番組TODAYでは、両者を比較するために、同じ商品を同時に購入し同じ場所に届けるという検証を行った。そこで分かったのは、インスタカートの料金には10%ほどサービス料が上乗せされるが、アマゾンには別途料金はかからなかった。 「本ならオンラインで頼んでも、欲しいものと違う商品が届くことはないだろう」ということから始まったアマゾン。アマゾン・ベイシックで家電領域を押さえ、ストリーミングでエンターテインメントにも参入し、今では最も取り扱いが難しいな生鮮食品を高いレベルで提供できるまでに成長した。アマゾンの持つ圧倒的なディストリビューション能力とホールフーズによって担保された品質。これにより、安全で健康的な食品がより、手頃な価格で買えるようになるということである。 whole foods with amazon 画像転載元:Amazon公式サイト

5. マリオット・インターナショナル:若い世代がターゲットのホテル

世界で最も愛されるトラベル・カンパニーであること
マリオット・ホテル&リゾーツやリッツ・カールトンを含む、数々のホテルブランドを世界中で運営するマリオット・インターナショナル。彼らが新たなブランドMoxy(モクシー)を立ち上げるに当たって、コンセプトとなったのがミレニアル世代と呼ばれる20〜30代の若い層である。価格帯や立地などにより連想されるイメージから、見込み客のセグメントが見えてくることはあるかもしれないし、若者向けのマーケティング施策をすることもあるだろう。しかし、ここまでの規模で世代そのものがコンセプトになっていることは、これまでなかったのではないか。 モクシーの雰囲気は、おしゃれなオフィスとクールなナイトクラブを足したような感じである。現在世界に30軒ほど展開されていて、東京と大阪にも進出している。また、新ブランドを確立させていくために、館内でマリオットの赤いロゴを見ることはほぼないという。若者向けにデザインされたものとして、次のようなものがある。
  • 1つ1つの部屋は大きくなく、自然と大きな共有スペースに宿泊客が集まりコミュニケーションをとるデザインになっている。
  • チェックイン・チェックアウトだけでなく、部屋の入退室もスマートフォンで行う。
  • テレビはネットフリックスやユーチューブなどと繋がっていて、無料のハイスピードWi-Fiが楽しめる。
  • 24時間セルフサービスで無料食べ物とドリンクが提供されている。
  • インスタグラムに、#atthemoxyのハッシュタグをつけて写真をアップすると、ホームページも表示される。
moxy hotel 画像転載元:Moxy Hotels公式サイト こういった動きは、シェアリング・エコノミーの波に乗って急成長しているAirbnb(エアービーアンドビー)に対する危機感から来るものもあるだろう。できて10年のエアービーアンドビーは、すでに90年以上の歴史を持つ世界的なホテルカンパニーの10分の1以上の売上を出している。しかも、彼らは、宿泊施設を保有していない。 旅行に関するトレンドとして、宿泊費や移動費にはあまりお金をかけない分、旅先での経験にお金を使いたいと思っている人たちが増えている。特にこの傾向は若い世代には顕著である。加えて、若い世代はデジタル・ネイティブであり新しいいテクノロジーにも寛容でSNSや口コミ評価も重要な要素になっている。これらの特徴は、エアビーアンドビーがターゲットにしているセグメントにも共通している。 マリオット・インターナショナルのグローバルブランドリーダーでバイスプレジデントのトニー・ストークルは、若い世代の顧客体験の創造には、パーソナライズされたのアプローチを取るようにしているそうだ。「インスラグラムに写真をあげないなら、そこにいなかったのと同じ」という時代になったことを踏まえて、これからのホテルに求められることは、「綺麗なシャワーや寝心地の良いベッドだけでなく、特有のライフスタイルに対して体験にまつわる心の繋がりを築くことに真剣に注力しなければならない」と語った。 関連記事:ミレニアルにはブランドネームではなく体験を売れ!ー 炭酸飲料大手企業の挑戦

まとめ

今回紹介した大企業による新規事業の例は、自転車、エンターテイメント、太陽光発電、Eコマース、ホテル、と内容は様々だ。ただ、共通していることとして、大企業だからこそできる資本力、規模、信頼性がこれらの新規事業の成長を助けているのは言うまでもない。オープンなマインドセットはもちろん必要だが、大企業ではイノベーティブなアイデアが出たからと言って、それがすぐに事業化されるのは現状では難しいだろう。 スタートアップやアクセラレーターの、外部の刺激を取り入れながらも、自社のエッセンスを活かした事業にすることで、イノベーションのタネを増やすことができる。上手くいきそうなものは、自社のネットワークや資金を使ってスケールすることもできる。会社のビジョンやミッションから新規事業を模索していくことで、目先の利益を追うのではなく、長期的な視点でイノベーションを起こし続けられる組織に近づくのではないだろうか。 参照: