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designsprint
デザインスプリントをご存知だろうか?米国グーグルで生まれたデザインスプリント(以下、スプリントとも表記)は、たった5日間で、デザイン、プロトタイピング、ユーザーへのアイデア検証を行い、ビジネス上の問題に答えを出すためプロセスのことで、オンライン上では「黄金メソッド」などと呼ぶ謳い文句も目にする。 スプリントは、FacebookやAirbnb、Blue Bottle Coffeeをはじめとするサンフランシスコ・ベイエリアの最先端企業から、国際機関、非営利組織、学校などでもすでに採用されており、大きな効果を上げているようだ。 また日本でも、23か国で世界的なベストセラーとなった考案者の1人であるJake Knapp氏の著作『SPRINT』の邦訳が今年出版され、彼自身が来日してイベントも行われた。またネット上ではスプリントに関する日本語記事も多数見つけることができる。 しかし、実際にはどんなものなのか、どんな効果が期待できるのか、あまりピンとこないという人も多いのではないだろうか。筆者は、最近クライアントと共にスプリントを経験したばかりだが、話題のデザインスプリント!という手軽なイメージとは裏腹に、とても泥臭く、想像以上に体力も気力消費するストレスフルな5日間であると感じた。 だが、チームメンバーと共に、限られた時間内でグッと集中して問題の解決に突き進むプロセスからは、言葉では表し難い達成感と普段の業務スタイルでは経験できないような思考回路を経験できたように感じる。間違いなく、スプリントを行うことによって得られるメリットは大きいだろう。 今回はbtraxでも活用しているデザインスプリントを通して感じたことを交えながら、その概要や活用方法について説明したい。

そもそもデザインスプリントとは?

デザインスプリントは、行動科学やデザイン思考などの考え方を体現したプロセスで、月曜日から金曜日のたった5日間で、検証すべきビジネスの問題(例えば、どのようなアプローチで新規事業を始めるべきか、新規顧客の離脱を防止したいなど)に対してデザインの観点から答えを導くプロセスだ。 5日間の基本構成は以下のようなプロセスになっている。 DAY 0 Preparation(調査して準備する) DAY 1 Mapping(自分たちの成し遂げたいことをマップアウトしながら、今回取り組むべき課題を共有する) DAY 2 Sketching & Deciding(解決策を書き出し、決定する) DAY 3 Storyboarding & Prototyping(ストーリーボードを使ってプロトタイプをプランする) DAY 4 Prototyping(プロトタイプをつくる) DAY 5 Test(ユーザーテストをして学ぶ) design sprint 最後にユーザーテストをすることによって、課題解決方法を検証することからもわかるように、あくまでUXに特化したものに有効なフレームワークであるということができる。 また、上記に示したプログラムはとても大まかなものだが、実際には分単位で区切られたフレームに沿って、セットしたタイマーの針とにらめっこしつつ、頭をフル回転させながらそれぞれの課題にに挑んでいくイメージだ。

デザイン思考と何が違うの?

「アイデアを考え、それを元にプロトタイプを作って、ユーザーテストを行い、仮説を検証する。」この大まかな流れだけを聞くと、デザイン思考と何が違うのだろうと感じる人も多いだろう。私もその1人だった。 実は、デザイン思考とデザインスプリントは、言うなれば親子のような関係であり、デザイン思考を実践に移すための方法の1つとして、デザインスプリントが存在する。 つまり、デザイン思考が問題解決のためのマインドセットであることに対し、デザインスプリントは、特定の問題を解決するためのアイデアをチームで共有し、それを試して学びを得るということを5日間という短時間で効率的に成し遂げることに特化したフレームワークであるという違いがある。 また、筆者の体感としては、スプリントはデザイン思考のプロセスの中でも、特にプロトタイプからテストの部分に比重を置いたフレームワークであり、デザイン思考のファーストステップである、ユーザーに共感し本質的な問題を探り定義するというエンパシーのプロセスは割合軽めに通るイメージだった。 そのため、デザインスプリントは、ある程度取り組みたい問題が明確になっている場合に、より効果を発揮するフレームワークであると言えるだろう。 関連記事:デザイン思考の本質とは?—新米ファシリテーターの経験を通して気づいたこと

デザインスプリントの凄さとは?

デザインスプリントは、その5日間という短時間でスピーディーに課題に対する解決策を探索していくということに特化している。そのために、いくつか特徴的な仕組みが存在するのだが、その中でも筆者の体験から特に印象的だった5点を挙げて紹介したい。

1. タイマーが必需品!短い制限時間内で最大限の力を発揮させる

プロトタイプを作成するのが1日だけというのもさることながら、スプリントでは、各日のスケジュールも短く時間で区切られているのが特徴的だ。前半の1日目、2日目では、各メンバーが持つ情報をチーム全体に共有したり、アイデアを練り上げたりする時間があるが、それらも15分から30分と細かく設定されている。 常にタイマーをセットし、メンバーは刻々と近づく制限時間の終了までに今の自分が出せる最大の力を出し切らなくてはと頭をフル回転させる。これを1日中続けるのは、なかなか過酷だったが、その環境こそがスプリントの重要なポイントであり、普段の業務のやり方では成し遂げられないような効率を生み出すように感じた。 そんな短時間では逆に焦って何もできなくなってしまうのではないかと不安に思うかもしれない。しかし、その時間内に最大限貢献するために、「今この中で自分が出せる最高のアイデアは?」「最高の情報は?」とアイデアも情報も直感的に取捨選択し、自分が1番重要だと思うものから順に自然と超効率的に動いていることに気づく。 筆者自身、スプリント中の時間がない中で、ふと思い出した情報をとっさに調べて、周りに共有したことがあったが、そのときの思考回路の回り方はいつになく速く、自分でも驚いたことを覚えている。

2. 部署をまたいだ少人数のチーム編成

スプリントでは、チーム編成がとても重要だ。CEOや財務、マーケティング、カスタマーサービスなど部署や役割をまたいでメンバーを集めるのが良いとされており、デザイナーだけ、エンジニアだけ…という偏ったチーム編成はスプリントではご法度である。 どんなに素晴らしい人でも全てを見ることはできない。様々な役回りのメンバーが集まることで、問題や課題に対して様々な角度からの見方を共有し、把握することができるのである。こうすることで、スプリントを通して社内に共通認識が生まれ、政治的などんでん返しも防ぐことができ、その後もスムースにことが運びやすくなるそうだ。 今回経験したスプリントでも、これまであまり一緒に働いたことのないメンバーが一堂に会し、それぞれ別の角度から意見を共有できたからこそ、生まれた気づきなども多かったように思う。

3. アイディエーションは個人作業で、意思決定は集団で

多様なアイデアを持った様々な人たちと議論することは、思いもよらないイノベーションを生み出す。そういったことを説くスピーチやオンライン記事などを最近よく目にする。しかし、スプリントはそのトレンドとは一見逆行するようなプロセスを踏む。 スプリントは、個人個人が制限時間の中で別々にブレインストームし、それを共有していくというスタイルをとっている。確かに、集団で複数の人が一緒に話し合いながらアイデアを練っていくプロセスは、1人で何かを考えるときにはないものを生み出す可能性が高い。 しかし、「集団でのブレインストーミングはときに機能しないことがある」とKnapp氏が言うように、皆が意見を言い合うことに終始してしまい、何も生まれないことも多々あるだろう。 特に限られた時間で効率的に集団からアイデアを生み出すというときには、それぞれが考え抜いたアイデアを別々に共有するというのは、とても効率的に感じたし、同じ時間を全員でのディスカッションに使っても出てこなかっただろうアイデアがそれぞれから共有されたため、とても新鮮に感じた。 また、スプリントでは最初から最後まで個人ワークというわけではなく、それぞれから出てきたアイデアにみんなで投票し、さらに様々な既存の解決策たちの良いところをミックスさせながら、1つのものに落とし込んでいくプロセスも踏む。そのため、個人ワークの効率性を重視しながらも、チームでのワークの要素も組み入れることで、決して独りよがりではないアウトプットに仕上がっていく。 Sprint Sketching

4. カレンダーは5日間スプリントで完全ブロック!

そして、これが最大の特徴とも言えるのだが、5日間のスプリント時間中は、基本的にデジタルデバイスの電源オフ、メールも外出中の自動返信設定、全ての会議などをその週からは外させてもらうという環境設定のもと、スプリントだけに完全コミットするというルールが存在する。 こうすることで、他のことに一切気を取られず、集中して、最大限の力をスプリントに注ぐことができるようになっている。筆者は、このルールに反してスプリント中に別のクライアントとのミーティングに出かけてしまったことがあった。 短期集中的なスプリントの性質上、その間にあまりに重要なことが多く進んでしまったため、状況についていくことができず、そのあとの貢献量が著しく下がってしまったという失敗を経験し、このルールの重要性を痛感した。 普段業務をしていると、様々なプロジェクトが同時進行していたり、横から人に話しかけられたりと、なかなか1つのことを集中して考え抜く機会は少ない。しかし、完全にスプリントにだけ向き合い、ある意味、極限状況に自分たちを追い込んで、課題解決に挑む本気さは、それぞれのメンバーの能力を最大限に発揮させると感じた。また、そこからチームの団結力や信頼関係も強固になると強く実感した。

5. 既存のアイデアから盗め?ゼロからイノベーションは生まれないという発想

最後にもう1つ、スプリントで印象的なのが、既存の解決策から学び盗る「Remix and Improve 」のプロセスである。実はスプリントのアイディエーションでは、全く新しいアイデアを、ゼロの状態から生み出すというわけではない。 スプリントが始まる前に調べた競合や既存の課題解決方法をチームでシェアし、それらをリミックスしていくという方法でプロトタイプするアイデアを決定していく。まさに、「Fake it, until make it!」 の実践である。 これまでに存在しない新しいものを作りたい、イノベーションを生み出したい!と先走りがちな私たちは、既存のアイデアを寄せ集めるなんて…と抵抗を感じるかもしれない。事実、筆者自身、初めてのスプリントでは、そのプロセスを頭で理解しようとしても、なかなか抵抗感がぬぐいきれず、終わってしばらくするまでなんとなく納得できない思いがあった。 しかし、イノベーションはゼロからは生まれない。素晴らしいイノベーションは、既存のアイデアの上に積み重ねられることの方が多いとKnapp氏も言及している。例えば、iPhoneは私たちの生活を大きく変えた発明品として、誰もが疑わないだろうが、携帯電話はそれ以前にも存在していた。それまでの失敗や成功があったからこそ生まれた発明品だったのである。 更に言えば、短時間で最大の効果を生み出そうとするスプリントの性質を考えても、このプロセスはなんとも合理的だ。筆者にとって、これは最も意外に感じたが、他の事例から学び、新たなものに作り上げていくプロセスには発見がとても多かった。 Sprint

最後に

スプリントの最大の凄さは、この超濃密な短期集中決戦を一度のみならず、何度か繰り返しながらビジネスの問題をクリアしていくという点にある。 あまり本文では触れなかったが、スプリントを始める前の準備における、競合や既存アイデアなど検証したい課題に関するリサーチ量は、スプリントの成功を大きく左右すると感じた。それらを踏まえて、限られた時間でチーム全員が本気で取り組むスプリントは、精神的・体力的にもタフである必要がある。 問題発掘のための共感のプロセスより、解決策のプロトタイピングとテストに比重を置くのがスプリントだと感じた。すでに成し遂げたいことが明確であり、チームで効率的にアイデアを共有して、それを試したい!というときには、スプリントを開催することを検討してみても良いかもしれない。 普段の業務や役割の垣根を超えたチームによる短期決戦的なスプリントのプロセスからは、通常では生まれない効果や結果を期待することができるだろう。 btraxでは、デザインスプリントを活用したプロジェクトも行っているので、自社の課題解決にスプリントを活用したいと思われる方は、ぜひお気軽に弊社まで問い合わせ頂きたい。 関連記事:

海外のCINOに学ぶ、組織におけるイノベーション創出の場づくりとは

innovation leader
「我が社で何かイノベーションを起こしたい」こう考える経営者や新規ビジネス担当は少なくないのではないだろうか。まずは新規事業を任せられる積極的な人材を増やそう!と考えるものの、社内を見渡せば、言われた仕事だけを淡々こなす受動的な社員にあふれていて、イノベーションどころか、率先して業務の改善に関わろうとする社員もあまりいない。 最近、クライアントと接するなかで、そんな理想とは程遠い現実にため息をついているマネジメント層の声を直接耳にすることが多い。一方、世界を見渡すと、組織ぐるみでイノベーション創出力の向上に取り組んでいる会社が多く、Chief Innovation Officer (以下CINO)という役職まで一般的になりつつあることもわかってきた。 この記事では、CINOを中心に会社をイノベーション体質に変えていった事例2つを紹介しながら、組織にイノベーティブなマインドセットを浸透させるにはどうしたらいいのかを考えていく。

Chief Innovation Officerの台頭

近年、アメリカをはじめとする海外諸国では、「Chief Innovation Officer(CINO)」や「Director of Innovation」といった肩書きを持ち、社内でのイノベーションを専属で行う役員や管理職が急増している。 CINOは会社全体の経営にも大きく影響を与えうる活動を行う者であることから、CEOやCIO(Chief Information Officer)らと近い距離で仕事を行うことが多い。このような肩書を持つ人々は、’00 年代やそれ以前にもいたようだが、今ほど目立った存在ではなかった。 しかし、2015年以降 Chief Innovation Officer Summitというカンファレンスが、ロンドン、ニューヨーク、シドニー、シンガポール、上海、サンフランシスコなどの世界各都市で年間通して複数回開催されていることからもわかるように、CINOの存在感は高まっているようだ。 このカンファレンスでは、GoogleやHPのようなテック系大企業のみならず、航空会社のAirAsiaや生命保険会社のMetLife、Save the Childrenのような非営利団体やアメリカ国務省の健康推進部門など、ありとあらゆる分野でイノベーションをリードするCINOやそれに準ずる役職の人たちが登壇し、その知見を共有している。 この幅広い企業・団体名からも、幅広い業界で企業や団体が組織一丸となってイノベーション創造のために取り組んでいるということがわかるだろう。

組織をイノベーション体質にする仕掛けとは?

それでは、彼らCINOたちは実際にどのように組織をイノベーション体質にするように仕掛けているのだろうか?

1. どんどんアイデアを出させる環境づくり (PayPalの例)

Paypalはカリフォルニア・サンノゼを拠点とし、電子メールアカウントとインターネットを利用した決済サービスを提供する言わずと知れた大手企業だ。 1998年の創業時に関わったメンバーたちは、YoutubeやTeslaをはじめとする数々の有名企業を立ち上げたことから天才起業家集団(ペイパルマフィア)と呼ばれており、彼らが立ち上げたPaypalの企業文化は世間から注目されることが多い。 そんなPaypalは現在イノベーションの定義を「最低限の人員とコストで、アイデアをスピーディーにプロダクトやサービスの形に落とし込むことで、ユーザーの現在または未来のWantsやNeedsを満たすこと」としているそうだ。 現在Paypalでイノベーションを牽引しているのはDirector of InnovationのMikeTodesco氏だ。彼によると、イノベーションを起こす上で大切なものは、ユーザーのWantsやNeedsを満たすための突破口となるアイデアであるそうだ。 Paypalでは「誰もがイノベーター!」だと考えられおり、Todesco氏も、そのような突破口を見つけることは誰にでも可能であると語る。彼によれば、イノベーションに繋がるアイデアを見つける鍵は「多様性」が握っており、彼自身Director of Innovationとして、多様な人々から多様なアイデアを引き出すことに時間と熱意を注いでいるそうだ。 innovation lab 画像引用元: Paypal Stories そのための代表的な施策が、 世界各地にある数多くのオフィス内に設立されたPaypal Labだ。ここでは社員たちに普段の業務とは別に新しいアイデアやテクノロジーとの接点を与える機会を提供している。 普段は一緒に働く機会がないような社員たちを同じ空間に入れて、新しいサービスやプロダクトを考えさせるアイディエーションなどの取り組みを行っており、外部の技術者や学生を招くことも多いようだ。 また、ここで生まれたアイデアは実用化されることもあるため、参加者たちのモチベーションも高く維持することができる。 ここで大切にされているのは、できるだけ多様なアイデアをどんどん自由にシェアすること。どんなに非現実的で、一見馬鹿げているように見えるアイデアでも、まずは共有することを繰り返して推奨している。また、それを可能にするオープンで楽しい雰囲気を醸成するために、時折バレーボールやアーチェリーなどの催しも行いながら取り組みも行っているそう。 多様なアイデアを最大限に引き出し、尊重することで、組織をイノベーション体質に持ち込もうとしているのが、このPaypalの例だと言えるだろう。 関連記事:人材の多様性が組織を強くする【btrax voice #6 Yoonhwa Park】

2. 社員から出たアイデアを実走させる仕組みづくり (Accor Hotelsの例)

Accor Hotelsはフランスに本部を構え世界95カ国に展開する多国籍ホテルグループ。従来の物事のあり方を根本から覆すような「ディスラプション」を起こすことを常に考えており、ホテルオペレータでありながら、ファストブッキングやテレビ等のチャネルマネジメントを行うスタートアップであるAvailproなど、デジタル系の企業をどんどん買収していることで注目されている。 またAccor Hotelsは、デジタル分野のみならず、アーバンファーミングの技術をホテルの菜園に導入したり、外食産業における食品ロスを減らすためのシステムを導入したりして、食品廃棄を6割減らすことなどに成功し、従来のホテルにある大量消費廃棄の在り方を少しずつ変革させようとしている。 urban farming 画像引用元: Eco-business そんなAccor Hotelsでは、2016年からChief Disruption OfficerとしてThibault Viort氏が採用された。彼によるイノベーションの定義は「新たな機会を探索すること」。彼は、社内から出たアイデアを実走させてみたり、スタートアップとのコラボレーションをテストしてみたりと、新たな機会に数多く挑戦していく仕組みを作り上げることで、会社をイノベーション体質へと導いている。 その仕組みの1つが社内プラットフォーム「OPEN-IDEAS」だ。ここでは社員が気軽に新たなアイデアが共有し、定期的にそこからアイデアが採用され、いくつかのキーロケーションでテストされている。 彼らは、リーンスタートアップのメソッドに倣い、1、3、6、9か月ごとに、当初のアイデアがどのようにカスタマーに受け入れられているか、検証するサイクルもシステムとしてしっかり組み込んでいるという。これにより、AccorHotelsでは、最新のテクノロジーを組み込んだサービスをどんどん導入することに成功しており、既存のホテルの在り方を変える1歩を踏み出している。 Accor Hotelsは、従来のホテルにはなかったような新しいサービス案を日々テストし、取り入れていくシステムを構築することで、常にイノベーションを生み出そうと前のめりな会社のカルチャーを醸成している良例だ。 関連記事:今さら聞けないリーンスタートアップの基本

組織一丸となってイノベーション創出にコミットすること

Paypal、AccorHotelsどちらにも共通して取り組まれていることは、社員1人1人にイノベーションを起こす当事者である自覚を持たせるための試みだ。社員に新たなアイデアをアウトプットさせる機会を与え、それが会社のサービスとして実際に試作品化、実用化へと進んでいく仕組みがあることも、社員のイノベーション参加へのモチベーションを上げることにつながっているだろう。 イノベーション人材を増やすためには、大きな組織の中の誰か1人、どこか1部署だけが取り組んでも、現実的には難しいことも多い。やはり、重要になってくるのは、会社全体が一丸となってイノベーションを起こそうと努力することだ。会社のイノベーション創出を担当するCINOのような役職が組織に誕生することは、組織全体としてイノベーションに取り組もうという姿勢の現れの一端なのである。 まずは、組織全体としてイノベーションを起こすことにコミットした上で、社員1人1人がイノベーション創出の当事者である自覚を持たせられるような環境を整備することが必要とされている。 関連記事:

デザイン思考の本質とは何か?ー 間違いまくりだった新米ファシリテーターが一人前になるまで

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デザイン思考ワークショップのファシリテーターとして活動し始めて約1年。これまでに、デザイン思考の初心者であるワークショップ参加者の方々から「デザイン思考って失敗を恐れずトライアンドエラーを繰り返すプロセスのことですよね?」とか「この業界ではどのようにデザイン思考を使うべきですか?」と質問されることが度々あった。 実際にこのような質問を受けると、「ワークショップでうまく伝えられていなかったんだな」と反省させられる。失敗を恐れずトライするプロセスがデザイン思考でしょ?は半分正解だし、半分不正解だ。また、デザイン思考を使えばどんなときも何か秀逸なサービスが生まれるなんていうのは他力本願な勘違いである。 デザイン思考はあくまでユーザーを中心にした問題解決のための思考法であり、「使うもの(Tool)」というより「身につけるもの (Mindset/Skill)」であると私は考える。デザイン思考を用いて問題解決を図った結果、イノベーションが起こることは多分にあり得る。しかしそれは、実践を積んでデザイン思考を自分のものにした場合にのみ起こることだ。 大学・大学院を通して、国際社会学を専攻し、非営利分野でのキャリアを考え続けていた私は「デザイン思考は新しい問題解決の方法」とだけ聞き、世界中の問題をイノベーティブに解決しまくることを夢見て、デザイン思考に重きを置くイノベーションデザイン会社btraxでのインターンに参加した。 そんなビジネスもサービスデザインも何にも知らない新卒学生だった私が、インターン、アシスタントの道のりを経て、ファシリテーターになるまでに学び得たデザイン思考の本質をこの場を借りて共有したい。

デザイン思考をおさらい

デザイン思考とは、デザインのプロセスを通して、クリエイティブな問題解決を図る方法だ。具体的には、ユーザーへの共感をもとに問題を設定する、、失敗を恐れずにアイデアをテストして改善を繰り返す、といったデザイナーが用いる手法をそのプロセスとして組み込んでいる。 過去のデータや時には感覚を頼りに意思決定を行ってきた従来的な問題解決のアプローチに対し、デザイン思考は、ユーザーに共感することを通して、彼らが将来的に何を欲しいと思うのか本人たちも気づいていないような潜在的なニーズを探り、それをベースにビジネスの意思決定をサポートする。 そもそもデザイン思考という言葉が有名になったのは、カリフォルニアに本社を構えるデザインスタジオIDEO社の創業者ティム・ブラウン氏が2005年にハーバードビジネスレビュー誌において、「デザイナーの手法と感性はビジネスに応用可能である」と提唱したのがきっかけだ。 ※デザイン思考に関する定義は様々あるが、今回はIDEO社のウェブサイトを参考にした。 Design Thinking Process (Stanford大学 d-school)デザイン思考の基本5プロセスを表した図 関連記事:デザイン思考入門 Part 1 – デザイン思考の4つの基本的な考え方

 新人ファシリテーターが実践から学んだ「デザイン思考の本質」とは

1. ユーザー理解なくしては全く役に立たない

まず先に、デザイン思考はあくまで「人を中心にした問題解決ありきのイノベーションのためのもの」であることをもう一度念押ししておきたい。「人を中心とした」「問題解決ありき」だ。 何を言いたいかというと、「人を中心にした」というのが前提にあるため、ハッピーにしたい対象もわからずにデザイン思考は使えない。さらに、「問題解決ありき」なので、解決したい問題が特にないという場面でのイノベーション創出には向いていない。 「〇〇業界でいいサービスを作りたいので、デザイン思考を教えて欲しい」「××の技術でイノベーティブなことをしたいんです」といった相談はクライアントから度々よせられるが、その度に私は、デザイン思考が少し誤解されているように感じる。 誰を助けたいのか、どんな問題を解決したいのか見当がついていない漠然とした状態で、デザイン思考を使うことは基本的に出来ないからだ。 もちろん、それらの見当がついていないからといって、デザイン思考がビジネスアイデアの創出に全く役立たないというわけではない。忘れてはならないのは、デザイン思考をそのような場合に使うには「誰を救いたいか」を定める必要があるということである。 例えば、〇〇業界での新規サービス作りにデザイン思考を応用したいなら、まずは「ユーザーはどんな人かな?」「その業界ではどんな問題が存在しているんだろう?」と思考を巡らせてみたい。××の技術を使ったイノベーションなら、「××の技術はどんな問題を解決しうるだろう?」「その問題を抱えている人ってどんな人だろう?」といった具合になるだろう。 当たり前のように感じるかもしれないが、助けたい対象のことを深く知って共感すればするほど、デザイン思考は威力を発揮する。そのため、インタビューを通じて得られる一次情報は、デザイン思考における最高の武器だ。 DSC_1012ユーザーインタビューの後、じっくり議論する弊社のイノベーションブースター参加者 btraxのワークショップ内で、サービスアイデアに対してユーザーインタビューを行う前の参加者の様子を見ていると、ユーザーの抱える問題は何か、どこを改善すべきかといった議論がチーム内で白熱し、気づけば問題は机上の空論化、議論が迷宮入り…となってしまうことがよくある。 しかし、彼らが「これだ!!!」と本質的な問題を見つける瞬間は、決まってユーザーとの対話の後である。なぜなら、ユーザーとの直接対話は、ユーザーのリアルな仕草や声のトーン、身なり等たくさんの一次情報の宝庫だからである。それらは、ユーザーに対する共感をより深いレベルで促し、彼らの潜在的な問題を見つけやすくする。 失敗や間違いを極端に恐れがちな日本社会に慣れている参加者らは、完璧な準備を目指してしまい、まだ議論が道半ばだから…とユーザーに会いにいくことを躊躇しがちになってしまうようだ。しかし、ユーザーを理解しなければ、本当の問題を見つけて解決してあげられないのだ。 どんどんユーザーにぶつかって、様々な視点から彼らについて発見していくことがデザイン思考的イノベーションへの近道だと私は考える。

2. 今解決されるべき問題を真摯に追求すること

デザイン思考の鍵は問題を定義するDefineのプロセスであると私は強く感じている。つまり、いま見えている問題をいかにリフレーミングするかという点に、問題解決の方法がいかにクリエイティブかつイノベーティブになるかがかかっているのだ。 ここで私自身が落ちた穴についてご紹介したい。新人研修の一環としてまず私に与えられた課題は、「パレスチナの8歳の女の子をユーザーとしたサービスを考える」というデザイン思考ワークショップを受けること。 empathy map「エンパシーマップ」とは、ユーザーが普段「見る」「聞く」「話す」「考える」物事を書き出していき、ユーザーに共感することで、ユーザーがどんなことを潜在的ニーズとして抱えているのかを考えることを助けるフレームワークだ 結果、私は撃沈した。デザイン思考のフレームワークを使っているのに、出てくるアイデアはありきたりだし、なんの問題も解決するように思えなかった。さらに言えば、そんなの本当に女の子が喜んで使うの?というサービスしか思いつかなかった。 何が問題だったのか?当時すぐに思いついたのは、「ユーザーを知らなすぎたこと」。エンパシーマップに書き込んだことは、メディア等を通して報じられる中東から「推測」した情報のみ。「そんなことで彼らに共感することは全く不可能だったんだ、こんなことで彼らの潜在的ニーズを掴むなんてできるわけがない。」そう思った。 しかし、1年以上経って振り返ると、問題は「エンパシーマップを描けば、いいアイデアが湧いてくるはずという甘え」とそれによる「目の付け所の違い」にあったと分析する。 Empathy map sampleデザイン思考歴3日目くらいの私によるエンパシーマップ、共感の対象はパレスチナに住む8歳の女の子 というのも、実は、このエンパシーマップを描いた時、少なからず自分が持つ現地情報をもとに女の子に共感することによって、彼女の潜在的なニーズが浮かび上がりつつあった。例えば、命に関わりうる安全性の欠如により、子どもらしい外の世界に対する好奇心を抑圧しなくてはいけないという閉塞感を取り除くことだ。 しかし、私はそれを無視していた。原因は、当時先行して考えていた「パレスチナとイスラエルの子どもたちが仲良くなるようなサービスを作りたい!」というアイデアに引っ張られ過ぎていたことにあった。女の子が抱えるニーズを様々な角度から分析し、ニーズを満たす可能性を探索しようとするよりも、いかに先行していたアイデアを形にしていくかということにばかり執着していたのである。 実はこのタイプの落とし穴に引っかかるケースは、btraxのワークショップ参加者のなかにも多い。特に先に問題解決策としてのサービスを具体的に考案されていた場合に、それに引っ張られすぎて、どんなに共感してもユーザーの抱える本質的な問題に目を向けられなくなってしまうのである。 関連記事: デザイン思考では、自分の先入観を排除し、できるだけフラットに素直な気持ちでユーザーに向き合い、何が本当に解決されるべき問題なのか真摯に定義していくことが重要になってくる。先で述べたように、どんどんユーザーにぶつかることは大事なのだが、ただプロセスに乗っかるだけでは本質を捉えていない。 そういう意味で、「失敗を恐れずトライするプロセスがデザイン思考でしょ?」は半分正解で半分不正解なのである。

デザイン思考初心者なら「本」で理解しようとしてはいけない

ユーザーが誰なのかはっきりさせて彼らをより深く理解すること、そして何が彼らの本質的な問題なのかできるだけフラットな目線に立って追求すること。この2点が私が1年かけて学び得たデザイン思考の本質だ。 幸いなことに私はファシリテーターになるまで、インターンとして、アシスタントとして、デザイン思考の発祥の地サンフランシスコにあるbtraxで働きながら、たくさんのプロジェクトにおいてデザイン思考のアプローチを実践し、頭を悩ませまくる機会に恵まれた。 また、サンフランシスコ市内で行われる関連イベントやミートアップに参加したり、スタートアップ界隈で働く友人とたくさん関わったりして、理解を深めることが出来たのも大きかったと思う。 どんな本を読んでデザイン思考を学んだのか?とはよく聞かれるが、実質、私が最初から最後まで全部読んだ本は、IDEO社のトム・ケリー氏 著作である「Creative Confidence」のみであり、私はデザイン思考をほぼ実践を通じて学んだと言える。 実際のところ、まだ初心者だった時に関連本を読んでもあまりピンとこなかったのを覚えている。それよりも、実践を何度か通して、改めてその本を読んでみたときに、そこで説明されていることを初めて理解したように感じた。 関連記事:アメリカの大組織に学ぶ デザイン思考の活用事例

最後に:デザイン思考とスポーツは似ている

そして、今もデザイン思考に関してはプロジェクトごとに学ぶことばかりだ。例えば、インタビューではどのように質問をするとより深いインサイトが得られるか、問題定義のときの目の付け所などを少しずつ体得しているように感じている。これらは、必ずしも本で説明されることではないし、デザイン思考のベストな使い方は個人によって異なるように思う。 本を読んでも無駄!とは言わないが、たくさんの本を読破してデザイン思考を理解しようとすると、理論でがんじがらめになって混乱を招いてしまう可能性がある。 スポーツにおいても、トレーニングでコツをつかみながらベストな体の動かし方を覚えていくように、デザイン思考も身近にある実在する問題で繰り返しトライしながら学んでいくのがオススメだ。 デザイン思考を通じたイノベーティブな視点と問題解決スキルを磨くため、私も日々レベルアップに励んでいきたい。 関連記事:今さら聞けないリーンスタートアップの基本

今こそイノベーションラボ設立の時?大企業に学ぶ“失敗から学べる環境づくり”とは

innovation lab capital one
世界的な大企業では、イノベーションラボの設立はもはや当たり前になっているが、あなたの働く企業にはあるだろうか。イノベーションラボとは、そのまま直訳してイノベーション研究室という意味だ。つまり、既存事業に関わらず、新たなサービス、プロダクト、ビジネスモデルの可能性を探り、実験する場のことである。 形態としては実際にイノベーションラボとして物理的に実験室を設けてそこに専属スタッフを配置する場合と、 Googleのように全社員に対して業務時間の20%をラボの活動に使うことを認めるなど制度として設ける場合がある。主な形式としては大きく分けて、企業内でラボを完結させるインハウス型と外部団体や企業と提携するコラボ型の2つある。

なぜ今イノベーションラボ?

イエール大学の調査によると、企業の平均寿命はここ約60年で61年(1958年)から18年(2015年)へ大きく縮んでおり、この傾向はさらに加速傾向にあると予測されている。生活の必需品であるスマートフォンも登場してから10年程度しか経っておらず、いかに短いスパンで人々の生活が変化しているかということを象徴している。 ここ数年を見ても自動車業界では自動運転の普及によって大きな変革を求められているし、AIやブロックチェーンといった新たな技術が金融業界や小売業界をはじめとしたビジネスのあり方や人の生活の仕方を大きく変えていきつつある。 つまり、どの企業もそのような変化に対応しうる柔軟性なくしては生き残れない時代にさしかかっており、これまでの事業領域やあり方にこだわらず、新たなことにどんどん挑戦していくことが必要とされているのだ。 関連記事:近い将来テクノロジーが葬る10の産業

イノベーションラボ設立で狙えることとは?

イノベーションラボを設立することによる第一のメリットとしては、専用の部署を構えることにより長期的な視点で新たなアイデアを試すことができる点が挙げられる。新しいアイデアを軌道に乗せるには、時間もかかるし、失敗もつきものだが、通常の業務内ではなかなか許されないのが現状だろう。 しかし、イノベーションラボを創設すれば、トライ&エラーのプロセスがポジティブに受け入れられる環境を社員に提供することができる。それにより、新たなアイデアをオープンに受け入れる空気を会社内に醸成し、実践させて行くことによって、失敗を恐れずどんどんチャレンジしてみるデザイン思考型・アジャイル型のカルチャーを育むことも可能だ。 さらに、新たなモノづくりに携わりたいと考える能動的で優秀な人材を呼び入れ、逃さずに取り込んでいくことにもつながっていくだろう。 以下では、実際にイノベーションラボを取り入れた大企業の事例をインハウス型、コラボ型、複合型に分けて紹介する。 関連記事:デザイン思考入門 Part 1 – デザイン思考の4つの基本的な考え方

1. Capital One  <インハウス型>

Capital Oneはアメリカ・バージニア州に本部を構える銀行で、預金や融資、クレジットカードなどのサービスを提供している。そんなCapital Oneでは、2014年からニューヨーク、サンフランシスコ、ワシントンD.C.の3拠点でCapital One Labを設立した。 Capital One Labでは、「お金は単なる数字じゃない、誰かの食料品、初めての車、家、実家へ帰るための航空券…つまり人生そのものだ」という考えの下、人々の生活向上を目指して既存の枠に収まらないサービス開発・銀行のあり方に挑戦している。彼らは、カスタマーファーストの考えを大切に、デザイン思考をラボでの活動に取り入れている。 また同社は、カフェに銀行の機能を組み合わせたCapital One Cafeも各地にを展開しているが、サンフランシスコのCapital One Labはその上の2フロアに構えられている。新たなサービスのアイデアがあればすぐ下のカフェ利用者を対象に、ユーザーインタビューやテストを行うことが可能だ。 またCapital One Cafeのサービスとして提供されている、無料のファイナンス相談、ワークショップ、キャンペーン等は、ユーザーから生のインサイトを得る上で重要な役割を果たしている。 このようにCapital Oneは、自社の敷地内にユーザーとなる人々を呼び込むことで、これからの金融会社のあり方を模索するインハウス型イノベーションラボを展開している。 Capital One Lab の取り組みの様子Capital One Lab の取り組みの様子(画像転載元:Capital Oneの公式サイトより) 関連記事:アメリカの大組織に学ぶ デザイン思考の活用事例

2. Ford <コラボ型>

1903年創業のFordはアメリカミシガン州に本部を構える、言わずと知れた老舗の自動車企業だ。技術の革新によって、従来の自動車に代わる様々な移動手段が生まれることが予想される中、Fordでは「移動・自動走行車・顧客体験・ビッグデータ」にフォーカスを合わせ、他企業、非営利団体、教育機関とともに、様々な角度から新たな可能性を探る調査研究を行なっている。 また、2015年にはFord Research and Innovation Centerをカリフォルニア・パロアルトに設立し、シリコンバレーのモビリティイノベーションのハブとして、コラボラティブな取り組みを推し進めている。例えばここでは、テクノロジー関連4社や各大学と協力して調査や実験をしている。 この他にも2013年にFordが開発したオープンソース型のデータ収集プラットフォームシステムOpenXCをサンフランシスコ市内を移動する自転車に装着し、タイヤの回転速度やアクセルのタイミング等の走行データを蓄積・解析して利用する研究を行っている。 さらにFordのラボでは、アフリカやインドの開発途上地域において、現地非営利団体等と協力しモーターバイクで医療用品の流通をサポートする活動をしながら、データを集め、現地で必要な都市開発の計画に役立てるためのデータ活用方法も研究しているという。 このラボのほかにもFordは、ideaplaceというオンラインスペースを用意して、Ford社内やパートナー企業に限らずオープンにイノベーションアイデアを受け付け、挑戦する姿勢を示している。 Fordは、各領域の最先端をゆく団体とコラボレーションを図りながら、移動の未来を探る完全コラボ型でイノベーションラボに取り組んでいる。 自転車を活用したデータ解析プロジェクトの様子自転車を活用したデータ解析プロジェクトの様子(画像転載元:Fordの公式サイトより)

3. Accor Hotel <複合型:インハウスラボ+コワーキングラボ>

Accor Hotelは世界95カ国に展開するフランスに本部を構える多国籍ホテルグループ。ホスピタリティの未来を探るべく、社内にDisruption & Growthという部署を設立し、社員にデザイン思考を教育したり、より社内の意見交換がよりオープンになるような仕組みを作ったりして、イノベーションが生まれやすい企業文化を育む努力をしている。 例えば、社内プラットフォーム”OPEN-IDEAS”では、個人的にもチームとしてもアイデアをシェアすることができ、気に入ったものへの投票やコメントや意見の交換ができる場として活用されている。また、そこで出てきたアイデアはHotel Labsと呼ばれるいくつかのキーロケーションで試され、それに対して実際に従業員からフィードバックを集めるという仕組みができている。最近のケースでは、AccorHotelグループのホテル専用のグーグルグラスのようなものを作り、プロトタイプをテストしたという。 またAccor Hotelは、Thecampという巨大イノベーションラボの出資・設立を行っている。Thecampは、コワーキングスペースのような形をとっており、入居企業同士がパートナーシップを結ぶ関係で、イベント開催や意見交換などノベーションのためのコラボレーションが活発に行われている。入居団体もスタートアップ、非営利団体、大企業と幅広い。 他にも、Accor Hotelでは、6 months education programというイノベーションプログラムを社員に提供している。このプログラムでは、 参加者らが、毎回出されるテーマに則ってチームごとにプロジェクトを行い、最終成果として、プロジェクト結果をピッチし、パートナーになっている専門家やスタートアップからのフィードバックを受けている。 Accor Hotelは、企業内での文化づくりに注力しながらも、コワーキングラボのパートナーシップを使い、新たなホスピタリティのあり方に挑戦する複合型のイノベーションラボを推進している。 Accorhotel OpenideaOpenideaのプラットフォーム(画像転載元:Accor Hotelの公式サイトより)

番外編 大手日本企業A社のケース

最後に、弊社クライアントでITコンサルティングを行う大手日本企業のA社の例をご紹介したい。A社は、事業に積極的な若手社員の育成を当初の目的として、弊社のイノベーションブースターを利用され、結果的に実質的なイノベーションラボの設立に漕ぎ着いた。 イノベーションブースターに参加したA社の参加者らは、サンフランシスコ市内のオフィスで10週間のプログラムを通して、デザイン思考を学び、その考え方を基に、新規事業のアイディエーションからプロトタイプ、最終的に地元の投資家らがジャッジとして参加するピッチイベントに登壇された。 参加者らは、トライ&エラーのプロセスを通じて新たなものづくりに挑戦していくマインドセットを身につけ、帰国後プログラム卒業生が自主的にイノベーションラボを設立した。現在は、デザイン思考を軸に新規サービスの創出に関わる立派な一部署として認められている。 A社は、外部のプログラムを利用して社員にお試しラボを体験させ、結果的にインハウス型のイノベーションラボを設立させるに至った複合型の一例と言えるだろう。日本の大企業はアメリカの企業ほど柔軟になれない傾向が強く、イノベーションラボの導入には及び腰になりがちだが、これは一つの好事例として捉えられるのではないだろうか。 btrax Innovation booster Prototypingイノベーションブースターでのプロトタイピングフェーズの様子

まとめ

以上では4社の事例を紹介してきたが、他にもたくさんの大企業たちがそれぞれの方法でイノベーションラボを創設し、新たなものづくり、ことづくりに励んでいる。 特に、大企業では長年培われてきたものがある中、新たなものを作り出すのにはリスクが伴うかもしれない。だからこそ、「失敗することが許される<失敗して学べる」環境=イノベーションラボが重要なのではないだろうか。 物理的なイノベーションラボを作ることへのハードルが高ければ、まずはイノベーションのマインドセットを持った社員の育成から始めてみてはどうだろうか。コワーキングスペースやミートアップ、各種イベントなど、コラボラティブな可能性に触れる機会の多い場所に身を置いてみるのも良いかもしれない。 関連記事: 参考:

非エンジニア大歓迎!サンフランシスコのハッカソンで垣間見るイノベーションの源流

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デジタルテクノロジーが急速に進歩し、プログラミングスキルの重要性が唱えられるようになり、エンジニア人材もどんどん増えている。 ハッカソンはそんなエンジニアたちが集まり、そのスキルを使って新たなソフトウェア開発を行い競い合うコンテストだ。基本的には。 ここで「基本的には」と述べたのには訳がある。少なくとも筆者の住むサンフランシスコで開催されるハッカソンでは、ノンエンジニアたちの参加が少なくない。むしろ、エンジニアの参加者は全体の半数以下なのではと感じる場合もあるほどだ。 そこでは、従来的なエンジニアだらけのハッカソンの在り方を超えて、非テクノロジーの様々な分野とテックシーンにおける溝を埋め、参加者間で新たなコラボレーションが創造されている。つまり、サンフランシスコでは、デジタルテクノロジーを用いた新しいものづくりが、エンジニアだけでなくより広い人々の身近なアクテビティとして存在しているのだ。 そこで今までにない角度からのアイデアが生まれ、それがどんどん形になっていくのが最近のサンフランシスコのハッカソンシーンである。筆者はその流れに、近年日本でバズワード化している”オープンイノベーション”を促進するヒントが隠されているのでは無いかと考える。 ここで紹介するハッカソンの取り組みは、ビジネス業界の人々のみならず、行政や医療関係など非営利分野で活躍する人々にも、新たなモノづくりにおけるコラボレーションの手法として参考にしていただけるだろう。 今回は、新たなコラボレーションを醸成する手段としての側面から、筆者が実際に参加したハッカソンを紹介していきたい。

1. ヘルシーなハッカソン?ユニークな催しを盛り込み、これまでに無いデモグラフィをデジタルテクノロジー開発に呼び込む

筆者が最近参加したのは、メンタルヘルスの問題解決に特化した「Hack Mental Health」。心理学などの研究で有名なCalifornia Institute of Integral Studies (CIIS) で開催され、学生やエンジニア、デザイナーだけでなく、テーマに共感した健康志向の地元の住民、メンタルヘルスの問題を抱えた経験者たちやその家族らを含む350人以上が参加していた。 イベントの冒頭では、アメリカでは成人の5人に1人が年間を通して何かしらの精神的な問題を訴えており、特に1日中パソコンに向かうテクノロジー業界ではさらに深刻であるなどという事実が示された。 DSC_0299 このハッカソンで印象的だったのが、1日のなかにヨガや瞑想、ズンバやアートセラピーのセッションが組まれていたことだ。また、ハッカソンといえば会場に泊まり込み、配布されるレッドブルとピザを燃料に夜通しソフトウェア作りに打ち込むというイメージだが、メンタルヘルスがテーマのこのハッカソンでは、夜間のコーディング禁止ルールが存在、さらに提供される飲食物もGuayakí Yerba Mate(マテ茶)やフルーツチップス、野菜たっぷりのカレーや自然派グラノーラにヨーグルトと超健康的だ。これらは、テーマに共感した企業からの協賛で賄われている。 夕食前には、各界から集まったパネリストらによるメンタルヘルス分野とテクノロジーに関するトークも開催され、 新しい知見を得ることができ、とても有意義だった。これら全ての取り組みは、心と体の健康を忘れずに維持してほしいという啓蒙の意味で行われていたそうだが、会場はまるでメンタルヘルスフェスのようになっていた。 というのも、このハッカソンには、飛行機で5時間以上も離れたニューヨークなど東海岸のメンタルヘルス分野の人々までもが、志の近い人に出会えるはず!と多数参加していたのだ。これには開催側も想定外だったと驚いていた。 このハッカソンでは、ヨガや瞑想のワークショップを組み込み、提供される健康的なフードもイベント情報としてある程度事前に予告。内容もがっつりメンタルヘルスに寄せて、ヘルシーな香りを漂わせる事によって、 これまでハッカソン自体には興味がなかったような人までを参加者として取り込んだ。 結果的にこのハッカソンは、それまで交わることのあまりなかったデジタルテクノロジー開発者と健康志向な人々を一堂に会させ、新たなコミュニティ形成の種を巻くことに成功したと言えるだろう。 hackthon-food 左:提供された飲食物、右:ポストイットを使い、メンタルヘルスにおけるゴールをみんなでシェア(写真転載:HackMentalHealth 2018: “The Movement Has Begun” 関連記事:なぜサンフランシスコでは未来的なサービスが続々と生まれるのか?

2. 医者や活動家とのコラボレーション。より深いインサイトを取り入れ、お門違いなテクノロジー利用とさようなら

サンフランシスコでは、リベラルな気風も影響して、テクノロジーを利用し社会貢献しようというムーブメントが盛んだ。その傾向は、開催されるハッカソンにも色濃く出ている。 例えば、昨年末に筆者が参加した「Tech + Politics + Society + You 2017 Hackathon」は、選挙システムやメディア、ホームレス問題や災害時対応など4つのテーマに分かれて市民生活に関わる課題解決に取り組むハッカソンだった。また女性のエンジニアを増やすことに取り組むHack Bight AcademyGirls in Techが協賛した「Hacking for Humanity」では、主に女性に関係する社会問題の解決がテーマだった。また、プエルトリコにおける課題をみんなで100つのアプリを作って解決する「#100 Hacks Hackathon for Puerto Rico」などというものもあった。 この手のハッカソンで必ずあるのが、専門家や活動家たちのトークセッションやプレゼンテーションだ。これらはイベントの冒頭や期間中に設定され、参加者は関連テーマについての現状や課題についてを直接聞き、ハッカソンで取り組むプロジェクト内容に反映させていく。 「Tech + Politics + Society + You 2017 Hackathon」では、5つのトークセッションがあり、サンフランシスコや近隣都市の災害時緊急対策本部の担当者や実際に市民問題に取り組むスタートアップのメンバーなどが登壇。「Hacking for Humanity」では、DVの被害に遭っている女性をサポートする非営利団体などが活動における課題と現状を会場にシェアした。 DSC_0306 Hacking for Humanity の審査員たち また、専門家たちはトークだけではなく、メンターとしてイベント会場に常駐している場合も多く、参加者は、プロジェクトのコンセプトやアプローチを決める際にいつでも相談することが可能で、現場からのリアルなインサイトを得ることができる。 例えば、「Hack Mental Health」の会場には、精神科医やカウンセラー、心理学者がメンターとして参加していた。元々精神科における医師と患者のコミュニケーションを円滑にするサービスを考えていたチームは、メンターとして参加していた精神科医から、鬱や精神疾患の初期症状が不眠や頭痛、腹部の不快感などを理由に、精神科の前にプライマリーケアを訪れていることが多いという情報を受け、プライマリーケアの待合室でメンタルヘルスの状況を問診し、データを蓄積していくことで早期発見・治療を可能にするシステムの開発にピボットしていた。 医療や行政など、特定の現場で使われるシステムやサービスは、せっかくテクノロジーを駆使して開発されていても、現場の声が届いていないことが原因で、実際には使いづらいということや注目してほしい点がずれているということはよくあるそう。 筆者が参加したハッカソンでは、開発側と各分野の専門家や現場の人々が出会い、今後のシステム・サービス開発における協力関係を組むといった場面に度々遭遇した。 関連記事:【SXSW2017レポート】キーワードは「社会問題解決型」注目の最新テクノロジー5選

3. スキルの有無は問題なし。優秀なイノベーターは学び合いから生まれる

ハッカソンでありながら非エンジニアも気軽に参加できるのは、彼らを受け入れようとする開催側と参加者全体のオープンな雰囲気にある。むしろ初心者向けのコーディングワークショップからiOS・Androidoアプリ開発ワークショップ、チャットボット基礎クラスなどがハッカソン期間中に開催されることも全く珍しくない。 プログラミング経験ゼロの筆者がハッカソンデビューした「VR/AR Hackathon」では、ワークショップは開催されていなかったものの、アイディエーションやデザイン素材の収集といった面でチームメンバーとして参加することができた。 他にも実践的なスキルを持たない人やスキルはあれど今回作りたいプロジェクトにはそのスキルセットでは間に合わないという人は多く見られたが、開発技術以外のバックグラウンドをプロジェクト内容に反映していったり、インターネットを駆使して学びあったりしてそれぞれがプロジェクトに貢献する方法を探っているのが印象的だった。 関連記事:【ユーザー視点で考えるAI】チャットボットのUX設計実験を通してわかったこと さらに、開発中に技術面で困ったことがあれば、マンツーマンでサポートに回ってくれるメンターの存在がある場合もある。筆者のチームでも、「こんなシステムを作りたいのだけれど」という相談をした上でコーディングの指導を期間中みっちり受けながら開発したことがあったが、メンター側も新たなインスピレーションを得る機会としてエンジョイしていると話してくれた。 こういった背景から、ハッカソンを力試しの機会とする人だけでなく、学びの機会として捉えて参加する人もかなり見受けられる。 つまり、もはやハッカソンにおける審査で最も重要視されるのは、どれだけハイスキルでハイクオリティのプロジェクトができるかという技術的能力の高さではないということが、ここからわかるだろう。もちろん、短時間でハイクオリティのものが出来上がるに越したことはない。しかし一番重要視されているのは、グループとして生み出すものの影響力。つまり、そのプロジェクトが人々に与える、与えうる影響は何かというところだと筆者は感じる。 DSC_0303

まとめ

サンフランシスコでは、従来型の開発コンテストばかりでなく、メンタルヘルスや行政、ホームレスや女性問題など、社会に良いインパクトを与えることをテーマにしたユニークなハッカソンも頻繁に開催されており、各種ワークショップやトークセッションを盛り込むなど内容も単なるコンテストにとどまらない。 このようなハッカソンでは、非テクノロジーの分野とテクノロジーシーンをつなげる橋渡し的な役割を果たし、これまで二分されがちだったこれらの業界間を包括する様なコミュニティ形成の場になっている。 またハッカソン会場では、非エンジニアがプログラミングを学び始めるきっかけになったり、現場をあまり知らない技術者がより深く使い手の状況を理解しようと努める機会になるということが起きている。これまで交わらなかった人々がハッカソンというシーンを利用して、知り合い、刺激を受け、新しい動きを社会に作っていく。 近年、日本では世界から若干遅れを取りながらもオープンイノベーションを促進する動きが広まっているが、異なる世界に生きる人々が力を合わせて何かを作り上げようとするサンフランシスコのハッカソンは、まさにその源流とも言えるのでは無いだろうか。 オープンイノベーションのヒントとして、これからのハッカソンのあり方に注目したい。 関連記事: 参考:HackMrntalHealth (Medium)

2017年に注目されたイノベーティブな米国スタートアップ5選

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2017年ももうすぐ終わり、新たな1年が始まる。アメリカでは、トランプ氏の大統領就任に始まり、社会が大きく動いた1年であった。テクノロジーの分野では、VRや360度カメラの一般普及に始まり、ソーシャルメディアなどでのライブストリーミングや、チャットボット、アレクサのような声を用いてインターラクションを図るサービスが多く登場した。また、APIやAI技術を利用したサービスの開発も昨年同様トレンドだった。 そんな2017年に革新的なアプローチでサービスを展開して話題になったスタートアップとして、freshtraxでは以下の5社に注目した。
  1. Forward:テクノロジーを駆使し、予防医療を浸透させる未来の病院
  2. Lemonade:もう面倒なことはなし!AIと行動科学を利用した住宅保険
  3. Aspiration:最新フィンテックが気になる人は要チェック!金融業界不信を払拭するエシカルなオンライン銀行
  4. Voyage:セルフドライビングカーの普及を加速する無人運転のタクシーサービス
  5. THINX:社会のタブーに挑戦する女性用下着ブランド
各社の詳細を見ていこう。

1. Forward:テクノロジーを駆使し、予防医療を浸透させる未来の病院

年始から各メディアを賑わせたのは、AIなどの最新テクノロジーをふんだんに取り込んだ全く新しい病院Forwardのオープンだった。2016年に設立したForwardは、2017年1月に最初の病院をサンフランシスコにオープンしたのに続き、11月にはロサンゼルスにも進出した。 Forwardは月額$149で、最新医療サービスが受け放題。アメリカでは、保険の制度が少々面倒だが、Forwardの医療システムには保険会社が存在しない。つまり、支払いを含めた全てのサービスがForwardの中で完結しているため、月会費以上にコストが発生しないのである。 forward image1 検査を受けた場合でも、従来の病院のように別の場所に検体を輸送することなくその場で結果が出るし、処方された薬もその場で受け取りが可能だ。またアプリを使って、24時間いつでも医療スタッフと連絡が取れるので、ちょっとした不安もすぐに相談できるのが心強い。 これだけ見ると病気になってから訪れる従来の病院が進化しただけ、というようにも見えがちだが、実はForwardが目指すのは、「治療医療から予防医療へ」の世界。2017年から始まった新政権によりオバマケア(Affordable Care Act)が廃止されようとしているアメリカでは、予防医療は特に注目されるキーワードだ。 例えばForwardはコアサービスの1つとして、アプリやデータを用いたパーソナルなヘルスケアプランを対面でじっくり考え、実行に移すのをサポートしている。平常時のデータを蓄積しておくことにより、体に不調が起こった時にはより効果的に診断や治療が受けられる。さらに医師との面会時間は従来の病院では平均15分のところ、Forwardでは45分だそう。 そんなForwardの”店舗”は、まるでアップルストアのような出で立ち。足を踏み入れると、タッチパネルを取り入れたIoT製品が並び、壁に書かれた「Design Your Helath」という文字が目に飛び込んでくる。 入会してまず最初に対面するのがForwardのボディスキャナーだ。その場に立って指で数秒ボタンに触れるだけで、スキャナーが身長、体重、体温、心拍数、血圧、その他の情報をあっという間に検出し、個人データバンクに送信する。このデータは、AIを併用しながら今後の健康管理や医療サービス、診察、判断のために使用され、病気の早期発見に役立たれていく。 forward image2 また、採血時には血管がどこに走っているかをひと目でわかるようにする赤外線ライトが登場。採血を何度も失敗され、痛い思いをするなんてこともこれで無くなるはず。さらに、Forwardの聴診器なら、洋服の上からでも心音が聞こえるため、もう医師の前でシャツを脱ぐ必要もない。病院を訪れるまでのちょっとした心の障壁も、これらの最新機器が取り払ってくれるようだ。 従来の「病気になってから治療を受ける場所」というこれまでの病院のあり方を「病気になる前にメンテナンスをする場所」という概念に移行させることで医療問題の解決に立ち向かうForward。今後この形態がどこまで浸透するのか、2018年も引き続き注目したい。 関連記事:サンフランシスコのVCも注目! バイオテクノロジー関連のスタートアップ4選 参考: Forward, a $149 per month medical startup, aims to be the Apple Store of doctor’s offices Forward brings its personalized healthcare service to Los Angeles

2. Lemonade もう面倒なことはなし!AIと行動科学を利用した住宅保険

今年トレンドとも言えたのがAPI やAIを利用したサービスだ。日本ではまだこれからだが、アメリカをはじめ、ヨーロッパ諸国、インド、オーストラリア、韓国などでは、政府として銀行や保険、支払いの分野でのAPI利用を推進する動きがすでに広がっている(*1)。 LemonadeはAIを組み込む事でこれまでには存在しなかったような気軽な住宅保険サービスを実現し、自社サービスの仕組みをAPIとして提供したことで2017年、注目を浴びた企業だ。 [embed]https://youtu.be/flSLI2JmWVE[/embed] まず申し込み手続きが非常に簡単で、なんと1分で完了してしまう。 申し込み時に打ち込む、利用者の住所や部屋の階、また犬を飼っているかどうかなどの質問の答えをもとにアルゴリズムが、犯罪に遭う可能性等を計算した上で費用を瞬時に割り出すのだ。 損害が出た場合にはアプリを通してチャットボットに状況を伝えることができ、すぐに支払いを受けることが可能。これまでの面倒な、保険会社とのコミュニケーションはAIによって一切省略化された。 また面白いのが、その損害状況の伝え方だ。Lemonadeでは、ユーザーに損害状況を携帯のビデオで自撮り、つまり自分の顔を入れながら撮影して送信させるという手法を取っている。これは、行動科学で示されている「人は鏡に映った自分に対して嘘をつくことが難しい」という研究結果に基づいたものだそう。 インターフェースもとてもポップで、これまでの保険の概念を覆しながらも、その効率性や信憑性をあげることに成功しているLemonade。日本にはまだ対応していないようだが、ウェブサイトを是非のぞいてみてはどうだろうか。 参考: An Insurance Company That Homeowners Actually Might Love (Seriously) Kleiner Perkins Fintech Trend 2017 (*1)

3. Aspiration 最新フィンテックが気になる人は要チェック!金融業界不信を払拭するエシカルなオンライン銀行

金融業界に対する信用度は、各業界の中でも最も低い。2017年のEdelman Trustの調査によると、金融業界を信用すると答えた人は56%で、食品・飲料業界の66%、テック業界の75%と比べても明らかに低いだ。こうした「信用できない」イメージの払拭にアプローチするのが新しいオンライン銀行のAspirationである (*2)。 Aspirationは通常のオンライン銀行同様、預金、借り入れなどの業務や投資サポートを行う金融会社だ。従来銀行との大きな違いの1つは、銀行に対して支払う手数料の設定は消費者に任せられる点($0から可能!)だ。 創設者のAndrei Cherny氏は、会社設立以前、政府の金融部門でキャリアを積んでおり、大手の投資銀行等が必要以上の手数料を取っていることを問題視していた。その経験が、手数料設定を消費者に一任するビジネスモデルを実現させた。 aspiration image また、Aspirationの最大の特徴としてAIM(Aspiration Impact Measurement)スコアが挙げられる。これは、消費者がお金を投じた企業のサステナビリティ度を示すもので、Aspirationの口座の預金を使って商品やサービスを購入するたびに通知される。このスコアは、企業が従業員にどれだけ優しいかを示すPeople score(経営者の収入に対する社員の収入の比率や福利厚生等)と社会や環境にどれだけ優しいかを示すPlanet score(環境への配慮や社会貢献度など)から計算されている。 また、このスコアはそのままサービス利用者のAIMスコアに反映され、利用者はどれだけ自分が社会のサステナビリティに貢献しているかを数値として確認することができる。 「アメリカ人は1日に360億円も消費しているのに、その判断軸は金額、利便性、品質のみだ。これからの時代は、 コンシャスネス(社会への意識)もその判断軸に加わっていく。その判断を簡単にできる方法が必要だ」ーAndrei Cherny氏(Aspiration創設) ミレニアル世代が支持する価値観として、度々あげられるサステイナビリティという概念。筆者の住むベイエリアでも、自分だけではなく社会にもGOODを還元したいという価値観への支持がどんどん高まっているように感じている。こういった考え方を持つオーディエンスのライフスタイルをAspirationはサポートしている。新しい時代を生きる人々の価値観を先取りしてサポートするAspirationのアクションはまさに革新的であると言えるだろう。ちなみにAspirationは連邦預金保険公社(FDIC)にも承認されている信頼できる銀行だ。 [embed]https://youtu.be/TiohWD8jHUo[/embed] 関連記事:【日本はまだまだ遅れている】日米の金融・フィンテック 【対談】マネーフォワード 辻庸介+瀧俊雄×Brandon 参考: Aspiration Taps $47 Million for Conscientious Banking A radical finance firm has an app that'll show you the impact of all of your purchases Kleiner Perkins Fintech Trend 2017 (*2)

4. Voyage セルフドライビングカーの普及を加速する無人運転のタクシーサービス

乗用車の自動走行は2017年に上がった大きな話題の1つ。昨年秋に自動走行トラックの OTTOがコロラド州で世界初の自動走行車の公道走行を成功させたことに続き、2017年は実社会での実用化に向けた動きが大変盛んだった。 Voyageは、無人タクシーサービスの実現に本気で取り組む2017年設立のスタートアップだ。Voyageは、シリコンバレー発のオンライン大学Udacity からスピンアウトした企業で、AppleやGoogle出身のメンバーで構成されている。(現在Udacityでは、プログラミングやデータサイエンスのみならず、自動走行車のエンジニアを育てるための講義も開講している。) 彼らのサービスが野心的であるとされる理由は、セルフドライビングのメカニズムだけではなく、タクシーが客を拾って目的地まで届けるためのシステムも車内の環境設定を乗客が自在に操れるシステムも全て自社で開発しようとしている点だ。 しかしVoyageは、すでにセルフドライビング機能を搭載した乗用車を展開するTeslaとは異なり、既存の乗用車を改造する形でシステムを組み込む。 voyage Voyageでは、乗客のエクスペリエンスに重きを置いているのだ。彼らはボイスコントロール機能の開発に力を注いでおり、目的地の設定から、車内で聴きたい音楽や室温のコントロール、さらに途中停車などの指示までも乗客の声によって行う可能だ。この機能は、視力に障害がある人も簡単に利用することをサポートしている。 彼らは、すでにカリフォルニア州サンノゼ市にある4000人が住むコミュニティ内での無人走行のサービス導入に成功しており、住人たちからの評価も上々だ。コミュニティ内には、図書館やフィットネスジム、商店などもあり、もちろん通常の車も走行している。 彼らは、”Big Things Start Small(大きなものは小さく始まる)”を信じ、Facebookが大学内コミュニティから始まったように、Voyageを小さなコミュニティからどんどん普及させ、街の特区レベルから、市レベル、そして州レベルへと拡大させることを狙っている。 現在、ライドシェアサービスのUberやLyftがタクシー業界を揺るがせているが、彼らが永遠にその地位をキープできると誰が約束できるだろうか。「自動運転のタクシーなら、その価格をぐっと抑えられるはずだ」とCEOのOliver Cameron氏は語る。 関連記事:老舗自動車メーカー VS 自動運転時代 〜メルセデス、BMW、GMが起こす改革とは 参考: Voyage’s First Self-Driving Car Deployment A new self-driving car startup just spun out of Udacity to challenge Uber with its own autonomous taxi service

5. THINX 社会のタブーに挑戦する女性用下着ブランド

最後に、今年を象徴する出来事のひとつとして、1月末のWomen's Marchが挙げられるのではないだろうか。この動きは世界的に拡大し、多くのフェミニストやそれを支持する人々が女性の権利を主張する大きなデモを繰り広げた。 これに続くように、今年注目されたのが画期的な女性用下着ブランドTHINXだ。THINXでは、女性の生理用下着を主に展開するのだが、彼らの下着はタンポン2本分の経血を吸収することが可能だ。つまり、ナプキンやタンポンといった女性用品が実質不要になる。 THINXがイノベーティブな企業だと言えるのは、この便利な製品だけではない。彼らのマーケティングはかなり革新的だ。例えば、ピンクグレープフルーツを半分に割ったものを、女性器と見立てて広告として、駅の構内に大きく張り出したのは大きな話題になったし、「Real Menstruating Human (生理中の人間です)」とプリントされたTシャツやカバンなども製品として販売したりしている。女性の生理は公にすべきものではないというこれまでの全世界に共通するタブーに挑戦するのがTHINXだ。 thinx image2 また、オンラインストアを覗くと起用されているモデルたちも、従来多かったスレンダーの白人女性ではなく、ごく普通の体型の肌の色も人種的バックグラウンドも異なる女性たちだ。 さらに、THINXのオンラインストアへの流入の半数はYoutubeやFacebook、Instagramからである。彼らは映像や画像で、生理中の女性の生活を一見シュールとも言えるほどリアルに取り上げたり、インフルエンサーたちに製品のレビューをYoutubeで語ってもらったりして、消費者からの共感を呼んでいる。 女性の生理は、当たり前であるのにも関わらずタブー視されるテーマであり、だからこそスタートアップとしてスケールの難しさにTHINXはぶつかったのではないかと想像できる。それを、このような形で話題性をあげながら、社会に問題を呈し、サポーターからも共感を得るという、挑戦的なマーケティング戦略によってTHINXはさらなるスケールアップを企んでいる。 [embed]https://youtu.be/c9z2IxJV1lA[/embed] 参考:Thinx Promised a Feminist Utopia to Everyone But Its Employees

終わりに

2017年注目された企業は数多く存在したが、今回freshtraxはこれまでの業界のあり方や産業自体の存続を揺るがしかねないニューフェイスたちであるという点で以上の5社を選出した。 イノベーションは、高い技術力や最先端のテクノロジーによってのみ生まれるのではない。社会の状況、人々の考え方の変化を汲み取り、それらをもとに新しい潮流を作ろうとすることで、イノベーションは生まれていくのだ。 2018年はミレニアル世代の下の世代ジェネレーションZ(1998年以降に生まれた世代)が成人し社会に参加し始める。生まれた時にはすでにインターネットが当たり前に存在した真のデジタルネイティブと言われる彼らは、日常的に膨大な情報、価値観、考え方に触れている。様々なものの中から、最も自分が共感できるものを選び出して支持していくのが、彼らのスタイルなのだ。 これまでの、いわゆるメインストリームと言われる考え方にとらわれたアプローチを取るだけでは、通用しない時代が始まっているのは確かだ。来年は、新しい考え方や社会のあり方を率先するようなイノベーションが日本からもどんどん起きていくことを期待する。 関連記事:【2017年】社会への問題提起を行ったブランドプロモーション4選 参考: The World's Most Innovative Companies The World's 50 Most Innovative Companies 2017 The 17 best new startups that have launched this year The 25 Most Disruptive Companies of the Year