企業文化を保つためにAirbnbが取り組んだオフィス拡張計画とは?

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スタートアップがひしめく街、サンフランシスコにはユニークなオフィスが多く存在する。 その中でもここ1年で特に大きな注目を浴びているのが、民泊サービスを中心に提供するAirbnbである。今回は彼らが2017年7月にオープンした、14,000ft²(約1,300m²)に及ぶ新社屋の中身をご紹介する。 注目するのは999 Brannanという場所にあるオフィス。その住所からわかる通り、1ブロック離れた888 Brannanに建つ本社ビルの拡張プロジェクトとしてデザインが施された。 これは同社のオフィスを担当する環境チームが取り掛かる最大のプロジェクトで、サンフランシスコのオフィスデザイン事務所、WRNS Studioと行った。

新たなオフィスが必要となったAirbnbの急激な成長スピード

2008年8月の創業以降、Airbnbは10年足らずで192カ国65,000の都市にサービスを展開。昨年の投資ラウンドでも資金調達に成功し、その時の企業価値は310億ドル以上と多くのメディアで取り上げられた。 企業価値の予測を行うTrefisは今年5月に同社価値を最低380億ドル以上としており、今も右肩上がりの様子だ。 そんなAirbnbは社員の約半数に当たる1,500人をサンフランシスコ本社に置いている。今回の新社屋である999 Brannanオフィスは800人から最大1,000人を収容できるスペースとなっており、同社は今後サンフランシスコの社員数を現在の2倍の3,000人にまで増やしていくとのこと。 この新社屋がオープンした翌月8月には、これまでソーシャルゲーム最大手のZynga本社だったオフィスビルを新たにリース契約した。99 Rhode Islandにあるオフィスも含めると、Airbnbは現時点で4つのオフィス、総面積で650,000ft²(約60,390m²、約18,270坪)ものスペースをサンフランシスコ市内で持つことになる。 Airbnbオフィスは今まさに「都市型コーポレートキャンパス」形成の真っ只中にあり、今後も成長が窺える。 関連記事: airbnb-map-fr

すでに立派なAirbnb本社オフィス:888 Brannan

『ブランド戦略 × オフィスデザイン ー 成功事例に見る企業ブランド構築手法』でも紹介したように、888 BrannanにあるAirbnb本社は企業理念である「暮らすように旅しよう」を表現した特徴のあるオフィスデザインが有名である。 下の写真のように、世界中にある掲載物件をイメージした空間づくりを徹底して行っている。このように実際にAirbnbのサービスを利用するユーザーと同じ環境を作ることで、社員に向けて常にユーザー視点に立ったサービス設計を行う姿勢作りを促しているのである。 airbnb-lobby-fr airbnb1-fr airbnb2-fr888 BrannanにあるAirbnb本社(写真はMark Mahaney)

本社拡張でAirbnbが見据えた3つのポイント

先に挙げたようにAirbnbの「都市キャンパス」化を進める上で通過点の1つとなる今回の999 Brannanオフィスだが、オフィスを拡大させていく上で同社が特に注意を払っていたポイントは次の3つだと見ている。

1. 立地は本社の近く

都市型コーポレートキャンパスを形成する上でオフィス間の距離を近くすることは尤もであるが、その背景に「社員の協業をより促すことができる」というポイントがあることは常に覚えておきたいところ。 近年リモートワークを可能にするテクノロジーが増えていく中で、企業がオフィスに求める役割のうち、「社員同士の協業・コラボレーション」が以前にも増して大きくなりつつある。 実際に今回の新社屋は本社から1ブロック離れた立地に存在し、新たに契約したZynga本社ビルもさらに1ブロック離れた地域に存在。オフィスが市内の1箇所に集中する様子は記事冒頭で紹介した地図にある通りだ。 今回の新社屋デザインに際し、Airbnbの環境チームは社員の提案や意見に積極的に耳を傾け、ブートキャンプスペースやヨガスペース、日本の禅をテーマとしたフィットネスセンター等、新たに必要とされたスペースをこの新社屋に導入した。 キャンパス内にいる社員全員にこれらのサービスを提供し、全オフィスを通してワークスペースの機能を高めることができるのも、すべての社屋が徒歩圏に立地しているからならではである。

2. 1人あたりのデスクスペースは縮小

今回の新社屋では、1人あたりのデスクスペースが通常のオフィスよりも小さく、社員1人あたり220ft²(約20.4m²)から150ft²(約14m²)となっている。これは近年成長を見せるテクノロジー企業に共通して見られる特徴である。 つい最近までは社員1人ひとりに幅広いスペースを提供するというのがオフィストレンドの主流であったが、サンフランシスコを中心に高騰を続ける賃貸料は、オフィス拡張を行いたい企業の1番の悩みのタネとなっている。Airbnb広報のMattie Zazueta氏は「オフィススペースの効率利用に最善を尽くしている」と語る。 ともなると、オフィススペースの密度が課題となりそうだが、この新社屋では建物の特徴であるガラスのフレームワークを上手に活用し、開放感のある空間作りに注力している。建物の特徴を活かしたデザインを施すのが西海岸デザインの特徴であるが、この新社屋はその好例の1つでもある。 airbnb-new1 airbnb-new2 airbnb-new3 オフィススペースはビル全体で16の空間に分かれており、それぞれ50人ほど収容できるようになっている。 各空間にはオーダーメイドのテーブルやスタンディングデスク、3つの通話ブース、そしてオープン/クローズ両方に対応可能なガレージ型ドアを備えた最大30人収容可能なミーティングルームを入れている。様々な働き方に対応できるスペースを用意しているのだ。 airbnb-amsterdam-fr airbnb-floormap-fr airbnb-sketch-fr

3. 全オフィス一貫した空間づくり

888 Brannanの本社オフィスの拡張計画として始まったこの999 Brannanオフィスだが、本社同様、各スペースは世界中にある建物空間の特徴を捉えた様相になっている。そのような統一感を複数のオフィスで持たせることが同社環境チームの仕事の1つだ。 日本の京都やアルゼンチンのブエノスアイレス、インドのジャイプルにオランダ・アムステルダムは実際にこの新社屋で取り入れられたテーマだ。その文化や色彩パターンが各フロアにあるカフェに反映されている。 また世界にある空間の再現を行うだけでなく、「社員のためのオフィス作り」や「企業ブランドの統一」を図るための取り組みも同チームは行っている。 Employee Design Experience (EDX) というプログラムを通じて、実際に社員を最後のデザインタッチ作業に巻き込む。そうして、Airbnbという同社ブランドの一貫性を全オフィスで保つように、社員のアイデンテティが刷り込まれた空間作りを行っている。 airbnb-office1-fr airbnb-office2-fr airbnb-office3-fr写真はMariko Reed 実際に同社は2016年に宿泊場所だけでなく、旅行ツアーや体験を提供するサービスも始めていることから、社員がオフィス体験を向上させる取り組みに加わることはユーザー体験を大事にする同社にとって大きな意味を持つのだ。 このような空間で、Airbnb社員は今日も顧客をイメージしたサービス設計に携わっている。

オフィス拡張?コーポレートキャンパス?それとも第2本社?

今回の999 Brannan新社屋はAirbnb本社の拡張案件として完成したが、同社が周辺物件の契約を結んでいることから、都市型コーポレートキャンパスを形成しつつあるのは記事冒頭で触れた通り。 近年大企業になるほどオフィスに求める機能というのは個別化し、オプションは多岐にわたる。コーポレートキャンパスを都市部に作るか、それとも郊外に作るか、はたまた第2本社オフィスを建設するか。オフィスは今まで以上に企業の成長戦略と密接した存在になりつつある。 今後会社が成長するにつれて自分のところではどのようなオフィスを持つべきなのか?本ブログでは、今後も海外事例を取り上げていきたい。 *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。

意外と知られていない会社での飲酒のメリット・デメリット

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夕方に入り、ある程度の疲れを感じてきたところで飲むビール。サンフランシスコ・ベイエリアを中心とした多くのスタートアップでは、以前より社内でのアルコール無料提供が社員に支持されている。大企業とは違った自由な働き方を象徴する要素の1つだ。 日本にも昔から「飲みニケーション」という言葉があるように、お酒は人の交流や会話を促してくれるもの。社員同士や社内外のコラボレーション促進に特に取り組む近年の企業トレンドを考慮すると、ひょっとしたらこれからのオフィスの必需品になるのかもしれない。 しかし「飲まないとコミュニケーションできないのか」という議論もまた挙がるように、ここは賛否分かれるポイントでもある。結局のところ、オフィスでのアルコール提供はアリなのだろうか?近年のスタートアップの動きも入れながら考察すべき点を見ていきたい。

海外で広く飲まれる社内でのアルコール

仕事後の一杯はどこの国でも大昔から行われてきただろうが、「オフィス × アルコール」のイメージを強くしたのは、近年話題のWeWorkではないだろうか。コワーキング業界を牽引する同社の世界各地域のスペースにもビールサーバーが設置されており、これがWeWorkのトレードマークの1つとなっている。 コラボレーションを促進する次世代のワークスペースにビールサーバーが平然と置かれている光景は、多くの人にとって衝撃的なものだっただろう。 wework-beer1 実はこのビールサーバー、カリフォルニア州にあるオフィススペースには現在設置されていない。 スタートアップや企業がオフィス内で社員に対しアルコールを提供する分には問題ないが、WeWorkの場合は入居者に対して形式上「大家、不動産賃貸会社」という立場になり、カリフォルニア州でのアルコール提供には酒類販売のためのライセンスが必要になるのである。 今年2月にサンフランシスコのダウンタウンにあるスペースへの入居を決めたTable Public Relationsの創業者、Anna Roubosも「あのビールサーバーはどこにあるの?」と驚きを隠せない様子だった。彼女のように入居理由にビールサーバーを挙げる人もいるほど、ワークスペースでのアルコールは現在人気なのである。 weworkboston-beer ボストンにあるWeWorkでは、フロアごとにどの生ビールが飲めるかウェブサイトで確認できるようになっている。 実は法的にグレーゾーンだったコワーキングスペースでのアルコール提供だが、ここに挙げたWeWork以外にもサンフランシスコにある様々なコワーキングスペースでは、州からの指摘があるまで必ずと言っていいほどビールやワインの提供が行われていた。 そしてその中でも、以前からライセンスを取得した上でお酒の販売を行っているCovoはそれを武器にして、現在もアメリカ各地への展開を進めている。アルコール提供のカウンターをしっかりと設け、夕方からビールやワインのラインナップを充実させたサービスを提供。 「数々のミートアップやビジネスイベントを開催する上でもアルコール販売は貴重な収入源となっている」と創業者の1人であるJason Panは語ってくれた。 covo-counter サンフランシスコにあるCovoのバーカウンター 関連記事:【2017年最新版】コワーキングスペース 世界の8トレンド 同様にスタートアップにおいても、社内でのアルコール提供は社員にとって人気の福利厚生の一部になっている。TwitterやGlassdoorといった企業を筆頭に多くの企業が豊富な種類のビールやアルコール飲料を提供。 コミュニケーションツールの開発を行うAsanaでは、スコッチとチョコレートという少し洒落た方法で提供している。GithubやYelpでは仕事後に限られたスペースでのみ飲酒が許可され、FacebookやGoogleでもマナーに沿った上での飲酒が認められている。 airbnb-beer1 airbnb-beer3 筆者が訪れたAirbnbのオフィスでも豊富な種類のビールが用意されており、午後4時以降に飲むことができる。 関連記事:Google、Facebook、Airbnbはどのようにしてチームビルディングを行っているのか? またこのような「軽く飲む」企業文化に乗じて、企業向けにアルコールの提供・配達を行うサービスも生まれている。スタートアップのHopsyは、新鮮なローカルビールを企業オフィスに販売・提供。 ビールサーバーの無料提供も行い、社員の通常のハッピーアワー用にサブスクリプションモデルで一定量の供給を行い、またオフィスで開催されるイベント用にも必要なだけデリバリーを行うサービスを提供している。 hopsy1 hopsy2 btraxオフィスにもあるHopsyのビールサーバー。どこにでも設置しやすいように軽量化されており、中身はHopsyから送られてくるビールの入ったペットボトル”Torps”を入れ替えるだけ。

なぜわざわざオフィスでアルコール提供を行うのか

このようにコワーキングスペースやスタートアップ企業がワークスペースでアルコールの提供を行うのには、主に次の2つの理由がある。

1. オフィススペースで社員やユーザーのコラボレーションを促したい

すべての人ではないにしろ、やはり多くの人にとって、お酒は他人との会話や交流時の潤滑油的役割を果たしている。そしてそれは国境を超えた共通認識であり、多種多様なバックグラウンドを持つベイエリアの社員同士の交流にも非常に便利なものである。 また、社員同士のコラボレーションの成果は、他のどこでもなく、オフィスで表れてほしいという企業の願いもここに込もっている。在宅勤務も増える現代の働き方の中で、社員を意識的に集めた「オフィス」という場所のコラボレーション機能を向上させるために、アルコールは利用されている。

2. 優秀な人材獲得に向けて自由な企業文化をアピールしたい

アメリカのミレニアル世代の社員は大企業的な組織よりも自分の活躍の機会を得やすく、自由な企業文化を持つスタートアップのような企業で働くことを好む傾向が強い。 企業や人材にもよるが、ワーク・ライフ・インテグレーションといった言葉もある中で、仕事とプライベートを分けずに自由に飲酒できるような環境を通じて自由な社風を表現する企業が増えている。 このように企業のアルコール提供の背景には、人事的な理由が存在している。しかし、そんな文化が強いスタートアップ業界でもアルコールを明確に禁止する企業が現れ始めている。

一方、SalesforceやUber、Jet.com買収のWalmartで進む禁酒政策

サンフランシスコを代表するテック企業の1つであるSalesforceは、社内でのアルコールを取り締まろうとしている。昨年10月に社内の冷蔵庫にあったビールや生ビール用の小さい樽を見た同社CEOのMarc Benioffは、25,000人いる社員全員に対し、社内での飲酒を認めない旨を伝えるメールを一斉送信。 ”Ohana”(ハワイで「家族」を意味する)という言葉を用いて社員のつながりを大事にしているSalesforceだが、アルコールにその価値を求めていないようだ。同氏はアルコール提供が進むテック業界のパイオニア的CEOの1人として、多くの意味で注目を集めている。 同様に、Eコマース系スタートアップのJet.comでも飲酒が禁止に。その背景には、2016年8月に同社の買収を行った大手小売のWalmartがある。WalmartはJet.comの社内飲酒のみならず、週に1度行っていたハッピーアワーイベントも廃止したとのこと。社内からは不満の声が上がる中で、スタートアップカルチャーの”調整”が行われた。 人事管理ソフトウェア開発を行うZenefitsでも、2017年に新CEOのDavid Sacks体制の下で社内飲酒が禁止された。同社は、創業者兼前CEOのParker Conrad氏が関与した不正を始めに様々な問題が2016年に発覚。 正式な州政府のライセンスを持たない保険外交員を雇用していた問題や、その認可を受けるために必要なオンライントレーニングにおいて不正行為を可能にするソフトウェアの使用、また社内での性行為等、映画『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』並みのカルチャーを一掃する動きにでた。 また、様々な社内問題で騒がれることの多いUberも、前アメリカ司法長官のEric Holder氏の法律事務所推薦の下、会社が定めるコア・ワーキング・アワー内での飲酒を昨年7月に禁止。さらにアフターアワーイベントでのアルコール予算も減らす等の施策が取られている。

なぜ禁酒に戻そうとしているのか

スタートアップ業界を中心に社員から根強い支持のある社内アルコール。提供を続ける企業も多い中で、ここに挙げた企業のトップ達が感じていた懸念点は以下の4つである。
  • アルコール提供分の出費がかさむ
  • 社内でのセクハラ等、悪酔いする人の悪行が増える
  • お酒が苦手な社員にとって、ほろ酔い社員は迷惑な存在
  • 酔った社員がオフィス外で問題を起こした場合、企業の責任が問われる可能性がある
ここに上がったポイントは、社内でのアルコール提供を検討する際に企業が知っておくべき、また気をつけるべき点である。企業はこれらのリスクを踏まえた上で計画的な導入が必要になるだろう。

これらを踏まえた上で

社内でのアルコール提供のポイントや事例を見てみて、読者の方はどのような感想を持っただろうか。これだけのリスクを背負いながら、アルコール提供を進める企業が多くあることに驚きを感じた方もいるだろう。 しかし、このようなスタートアップ的で大胆なワークカルチャーを参考に導入を進める企業は実際に今も増加傾向にある。 自由な働き方を提供するためにアルコール提供を検討する企業は、会社やオフィスの規模にかかわらず今後も増えてくるだろう。そのような時には、本記事で触れたポイントを考慮した上で、自社のワークカルチャーに沿った判断が必要になる。 この記事が読者の働き方変革の一部分に役立てられれば幸いである。 *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。

海外出張をムダに終わらせない3つのポイント

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毎年5月以降は新年度のスタートが落ち着き海外への出張者が増える時期とも言われている。国土交通省観光庁によると2017年5月の海外出張者は39.8千人と同年4月と比較し73%もの増加があるという。 私自身もお客様の出張に合わせて弊社サンフランシスコオフィスの訪問やミーティングの相談を多く頂く時期になったと実感がある。

海外出張に行くこと自体が目的なのか?

実際に出張でサンフランシスコに行かれる方にその目的を伺うと、このような回答が多い。 ・新規ビジネス創出の機会を模索する為の商談やミーティング ・現地でのマーケット調査(フィールドリサーチやエキスパートへのヒアリング等) 国内に限らず海外に視野を向けたイノベーション創出を目指す意識が年々高まって来ていることは大変素晴らしいことだと感じる。ただ一方で出張に行くこと自体が目的となってしまい、「スケジュールを埋めることが大変」「実際単なる表敬訪問に終わってしまっている」といった課題もよく耳にする。 現地で得た情報や出張の結果がビジネスやイノベーションという成果に実際繋がっているケースはまだまだ少ない現状で、そこには改善の余地が大いにあるのではないだろうか。

新規事業に繋がるきっかけは意外なところに

弊社ではサンフランシスコ現地でイノベーション創出(新規サービスやプロダクトの開発)及び人材育成を行う『イノベーションブースター』というプログラムを提供し、過去15社を越える日本のクライアントに向けて実施した実績を持つ。 参加者の中にはプログラム終了後日本のクライアント向けに新たなアプリの企画開発をしたり、社内に新規事業創出のチームを作り事業部をまたいだイノベーション作りを継続的に行っている方々もいる。 はたまたプログラムで得た経験やマインドセットを活かし、帰国後にグループ企業を立ち上げ、CTOとして新規ビジネス創出、スタートアップ企業との協業やビジネス拡大の支援を行うなど、サンフランシスコでの経験を成果につなげている方もいらっしゃる。 そんな彼ら彼女らが口を揃えて言うことが、「アポイントやミーティングだけでは得られない現地サンフランシスコでの生の経験やたわいもない些細な出来事の中にこそイノベーションのチャンスが眠っている。」ということだ。出張者ではなく、現地の住人でもなく、短い期間であったとしてもいち生活者としての視点が大切なのだと。 そこで今回はサンフランシスコに実際に足を運ぶ際、有益な情報をどのようにインプットしてマインドセットを変革させるのか、そしてその後どうビジネスへ繋げたらよいのか、そのポイントを簡単にご紹介したいと思う。

1. 自由な時間を作る

出張行程以外のことをしてみる

まず出張スケジュールを組む際、行程をしっかりと埋めるのではなく、あえて自由に使える時間を設けることをおすすめしたい。 例えば散歩をして街の人の行動を観察してみても良いし、またはUberやAirbnb等の現地サービスを使ってみるだけでも良いと思う。サンフランシスコを代表するイノベーティブなサービスも元々はタクシー移動の面倒やホテルの少なさといった生活者の日常の課題感から生まれたサービスだ。 経験や先入観を捨て、日本との違いや現地で生活をしてみて感じる便利さと不便さを自身の視点で感じ、それをどう自社のビジネスに活かせるかを考えられる時間が重要である。 弊社イノベーションブースターを通じてサンフランシスコに滞在したある方は、自由な時間を設けたことで『セレンディピティ』を生むことができたと話す。セレンディピティとは、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけ、結果的に幸運をつかみ取ることである。 プログラム内のサービスアイデアの議論で行き詰まった時、彼は思考をリセットする為に思い切ってヨセミテ国立公園に向かったそうだ。ヨセミテの壮大な自然の中では自分達の議論の小ささを痛感したし、議論を突破するアドバイスをくれた現地の友人も作れた。 philz 何気なく入る街のカフェにもセレンディピティは潜んでいる

常識や恥は捨てる

同時に彼はセレンディピティを生み出せた理由を、『恥をかいてでも自発的に行動したこと』と『まず自らGiveをしたこと』と述べている。実際彼は現地ユーザーの考えを把握する為に、地下鉄に乗った際女性の乗客に声をかけ人狼ゲームに誘ったという。 この行動によってユーザーヒアリングができただけでなく、日本では恥と思える行動がサンフランシスコでは恥ではなく、むしろ恥やみっともないという概念が全く違うものなのだ、という彼自身のマインドセットの変化も起こせたそうだ。 自由時間を設けることで出張の計画性のなさを指摘されたり、社内への報告・報告書作成といったタスクへの懸念が上がりそうだが、出張で得るインサイトやユーザーの生の声がいかに重要なのかをチームや上司に共有することが大切だ。 可能ならば帰国後に自身の成果やインサイトを社内に公開しディスカッションを行えるような場を事前に設計しておくとよいかと思う。

2. 多様性を感じる

サンフランシスコで感じられる多様性

サービス開発やマインドセットの変革に大きく影響を及ぼす要素がこの多様性の理解だ。 サンフランシスコの街はご存知の通り数多くの国・人種や文化の人々が集まる場所である。その中で皆に共通の当たり前は存在しない。そもそも価値観が皆全然違うはずなのに、UberやAirbnbも生活者全体に共通する課題感を解決するサービスとして広く展開できている事自体がすごいと思う。 なぜこのようなことが実現できているかというと、ひとつはデザイン思考にもあるユーザーを深く理解し共感する『Empathize』というプロセスを通じてサービスが開発されている点だと感じる。多様性を理解できれば、当たり前の意識がないので固定概念に囚われることなくユーザーやターゲットの考えの本質を深く理解、共感できるのである。 つまり物事の理解を「そうなんですね。」ではなく「そうですよね!」という深さまで落とし込めるのだ。 design-thinking デザイン思考の基本である5つのプロセスを表した図 関連記事:デザイン思考の本質とは?—新米ファシリテーターの経験を通して気づいたこと

全てを自分のものさしで計らない

出張で短期間の滞在だとしても多様性を感じられる場はたくさんある。 例えば、【コーディング禁止?】非エンジニア大歓迎!サンフランシスコのハッカソンで垣間見るイノベーションの源流でも紹介したようにサンフランシスコでは毎日多くのハッカソンイベントが開かれている。 日本から来られたエンジニアの方が驚いていたのが、ハッカソンなのにエンジニア以外の人が大勢参加していることだった。小学生から主婦まで老若男女・職種問わずにイベント参加者がいることは彼にとって衝撃の多様性だったそうだ。 またその多様性が実現できている理由はITという軸がサンフランシスコの街の文化に根付いているからだと彼自身のマインドセットの変革に繋げる事もできたそうだ。 別の例で言うと、スーパーマーケットでの惣菜売り場のおばちゃんをぜひ見て頂きたい。 日本では考えられないほど無愛想でホスピタリティのかけらもなく(当然、中には親切丁寧で愛想のいいスタッフも沢山いるが)お弁当を取り分けてくれる様子を見る事ができるであろう。この光景は現地サンフランシスコでは当たり前で客は慣れているので気にも止めず、自分の注文を伝えるのだ。 「日本ではありえない」「私はこんなサービスは好きじゃない」と自分主体で物事を考えるのではなく、「なぜサンフランシスコではこのようなサービスが存在しているのか・どのような背景から作られたサービスなのか」「ユーザーはどう感じているのか」と"WHY"から考えてみるべきである。 こうすることで多様性を深く理解することでき、日本では考えもしないような新たな視点を身に付けられる。つまり多様性という言葉本来の意味を理解する為には多様性を体感する必要があり、そこから自社のビジネスに繋がる可能性のある新たなインサイトを得る事ができるのだ。

3. セルフブランディング

とはいえ、出張で得た情報やインサイトを継続的に自社のビジネスに繋げることは至難の技である。 社内でイノベーションを起こす為の協力賛同を得なければならないし、自身の業務やミッションもある中で行動し続ける事は容易なことではない。ただ、前段で挙げたように帰国後に成果に繋げている方々もいる事は事実だ。 最後に、過去イノベーションブースターを通じてサンフランシスコに滞在された方々から頂いた帰国後のアドバイスを紹介したい。 まず、社内の協力を得る為には自身のブランディングが重要だそうだ。イノベーションというカタチがないものを生み出していくためには「良くわからないけどこの人は何か知ってる」「こんな活動をしている人と誰かから聞いた事がある」といった印象を周囲に持ってもらう為の認知活動が必要なのだ。 その彼は帰国後に有志メンバーと共に報告会・勉強会をスタートしノウハウの共有を行ったそうだ。その後の継続的な活動が人事部の耳に入り研修プログラムに発展し組織の設置にまで至ることができた。 発言・アウトプットを重要視し、こんな事を実現したいという意見を種まきのような形で近い存在だけではなく、勉強会等を通じて接する自身の業務に直接関係のない人にも伝えることを意識したそうだ。 そのような活動を経て、セルフブランディングを築き、網を広げられたことで次第に外からも情報が入るようになったという。 study-group 社内認知活動のイメージ もちろん全てが順調に進んだわけではなく、上司の賛同を得ることができなかったり、認知活動が会社の方針からずれているのではないかという周囲の意見もあったそうだ。地道な勉強会等の実績、理解者、そして経営陣への報告を通じた理解の蓄積があったからこそ成し得た成果だという。 このように、当事者となりオーナーシップを持った継続的な行動が重要となるので、簡単なアクション(海外のイノベーションに関する情報をニュースレターとして社内に配信する等)でも構わないので、まずは行動に起こしてみてもらいたい。 帰国後も行動し続けることで社内の理解者や協力者が増え、必ずやイノベーションに繋がると私は信じている。

まとめ

生活者になった方がよりイノベーションのきっかけをつかみやすいという考えを今回共有させて頂いた。 出張時は日本と違う生活者になった方がイノベーションのきっかけをつかみやすい環境なので、些細な違いや変化に敏感でインサイトを得やすいタイミングと言える。ぜひ出張ではイノベーションに繋がる数多くのインサイトを経て現地で会得した新たなマインドセットを帰国後も継続的にサービス開発に活用して頂けたら幸いである。

サンフランシスコのUXデザイナーが語る UXの基本とこれからのトレンド【btrax Voice #9 Mimi Yu】

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btrax社員の生の声をお届けする「btrax voice」シリーズ。 今回のインタビューは、btraxのサンフランシスコオフィスで活躍するUXデザイナーのMimi Yuさんです。今回は彼女がデザイナーになるまでの道のりや、彼女の考える最新のデザイントレンド、また彼女が今後どのようにデザインの世界で成長し続けていきたいかについて語ってもらいました。 関連記事:2018年にUXデザインを取り巻く7つの変化

Who is Mimi?

mimi Mimi Yu 役職:UX Designer 所属:btrax カリフォルニア大学デービス校卒業。専攻は社会学、副専攻は哲学。卒業後はマーケティングや営業の仕事に従事するもUXデザインには常に興味を持ち続け、その後本格的にUXデザイナーへとキャリアチェンジをするためにサンフランシスコのGeneral AssemblyにてUXデザインを学ぶ。 コース終了後、btraxにてUXデザイナーとしてのキャリアをスタート。コリアン・アメリカンとしてのバックグラウンドから異文化間の橋渡しをすることを目指している。    

まず、UXデザインに興味を持ったきっかけを教えてください

無意識のうちにUXデザインにはずっと興味を持っていたように思うのですが、振り返ってみると、2つのきっかけがありました。 1つは、私がスタートアップの営業として働いてた時のことです。私がその会社で働き始めたときは、ターゲットカスタマーが複数設定されていて、どのカスタマーも同じくらい重要視されていました。 しかしリサーチを行った結果、私たちはターゲットを自社商品のソフトウェアを導入できるだけの資金力がある層に絞ることを決断したのです。それからはプロダクトデザインも含めた全てにおいて、「このターゲットカスタマーが何を求めているか」を中心に考えるようになりました。この経験は本当に面白いものでした。 プロダクトの変更が決まったとき、プロダクトデザイナーはそれについて私たち営業チームに説明してくれたのですが、プロダクトや会社の方向性に影響するインサイトやデータ、営業としての知識がそこに反映されていくプロセスを目の当たりにするなかで、私は「そっち側に行きたい」と思うようになりました。それは言わばコックピットであり、私もその中心部にいたいという気持ちが強くなったのです。 もう1つのきっかけはプロダクトデザイナーをしている友達のMikeの影響です。彼はとても魅力的な人で、営業というポジションで働く中でキャリアの方向性の岐路に立っていた私は、彼と接するうちに営業よりもMikeのような人になりたいと思うようになったのです。 彼や彼の友達は常にもデザインのことを考えていて、バーにいる時でさえ、いつもデザインの話をしていました。そんなMikeの情熱や、彼らのコミュニティーはとても魅力的で、彼らの姿を見て私はデザインの世界に惹かれていったのです。 mimi-interview-min

「UXデザイナー」と言ってもその内容は会社によって異なるものだと思いますが、btraxではどういう仕事をしているのでしょうか?

ほとんどの会社でUXと言うと、それは1つのプロダクトのデザインプロセスにフォーカスする場合が多いです。しかしbtraxでは、UXに関するあらゆる業務に関わっています。 btraxは大企業ではなくデザインチームも小さいので、私はプロダクトデザインのあらゆる側面に対処できる必要があります。あるプロジェクトでは、リサーチや仮説検証のためのユーザーテストを行う一方で、ユーザーフローやインタラクションデザインについての検討も行います。 日本企業と仕事をする機会が多いこともbtraxならではです。私たちが当たり前だと思うことが、アメリカとは異なる文化にいる彼らにとって必ずしもそうだとは限りません。デザイナーとして、前提が常に疑われるような場所にいることはとても難しいけれど重要なことです。 そしてそれは物事に対する意識を、自分が思う「真実」の限界を超えて広げることに繋がります。これはbtraxにいるからこそ得られる貴重な経験です。 これまでサンフランシスコで働いてきた中でも、人種やジェンダーあるいはセクシャル・アイデンティティの多様性に欠けた企業をたくさん見てきました。しかしbtraxでは同僚やクライアントが持つ多様な価値観に触れることができるのです。

普段のデザインプロセスを教えてください

私はいつもこんな問いからスタートします。
  • ユーザーは誰か?
  • ユーザーが持っている課題は何か?
  • その課題がなぜユーザーにとって重要なのか?
  • ユーザーについて知っていることは何か?
  • 私たちの仮説は何か?
  • 私たちのソリューションはその問題解決において、どれだけユニークあるいは効果的なのか?
このプロセスを実践した事例としては、ある自動車会社のプロジェクトがあります。その会社はカスタマーに関する膨大なデモグラフィックデータを持っていたのに、カスタマーのニーズに関する実際のインサイトはほとんど得られていませんでした。 そこで私たちは上記の6つの問いから始め、フォーカス・グループ・インタビューを実施して、ユーザーのライフスタイルやモチベーション、ニーズに関する仮説検証を行いました。それは現在のカスタマーエクスペリエンスをどのように改善し強化すべきかを明確にすることにも繋がったのです。 これらの質問に答えることは、デザインプロセスにおいて最も難しい部分の1つです。しかし一度知識を身につけてしまえば、企業のビジネスゴールとユーザーのニーズが交わるポイントを簡単に見つけられるようになります。そしてその後どのようにソリューションを展開しユーザーを巻き込んでいくかについても考えられるようになるのです。 私は一度質問に対して答えを出した後も、全プロセスを通して同じ質問を問い続けるようにしています。時にはわざと反対の立場を取ってみることもあります。 よくあるのが、プロジェクトの始まりの段階で、みんなとにかく前に進みたがることです。私ももちろん進みたいのですが、ブレーキを踏んで「ユーザーの何が本当に知りたいのか?」「真実であって欲しいと私たちが望んでいるだけのものは何か?」と問う人も必要なのです。 btraxで部署を超えて色々な立場の人と働く良さはこの部分に出ると思っています。特にイノベーション・ブースターを行うチームのメンバーはいつもあらゆることに質問してくる人たちです。それこそが私がまさに自分のプロセスに取り入れたいと思っている部分です。 mimi

UXは日々変化していますが、Mimiさんはどのように最新のUXを学んでいるのでしょうか?

とにかく本を読んで、人と話すことです。特に影響を受けているのはデザインコミュニティですね。私が入っているのはデザインに関する投稿をしたり質問したりし合うFacebookのグループです。 今何が流行っているのかを知るのにはミートアップがいいですね。特に私が好きなのはDesigners + Geeksというミートアップでフォローしています。 あと、私には幸運にもデザインや人生についてコーチングを行ってくれるメンターがいます。あとは、ただサンフランシスコ・ベイエリアに住んで同じ業界の友達と過ごすだけでも刺激を受けます。この街で得られるアイデアや、イノベーション、情熱はもう本当に面白いです。ここが私がエネルギーを得られる中心なのです。

そんなMimiさんが注目する最近のUXのトレンドを教えてください

私が最近感じている最大のトレンドは、ユーザーエクスペリエンスが実生活に入ってきていることです。たとえば音声アシスタントやスマートウォッチなど、考えられて設計されたUXは今や生活のどこにでも存在しています。 これはトレンドというにはもはや当たり前で、普段これらのUXについて意識することすらなくなっています。このことが何を意味するかというと、ユーザーの行動やライフスタイル、ニーズを知ることが間違いなく今以上に重要になるだろうということです。 また、ゆくゆくはこれらのテクノロジーが私たちの生活と密接に融合していくだろうとも言えます。例えばGoogle HomeやAmazon Echoなどは寝室やリビングに置かれ、私たちのプライベートな会話にアクセスできてしまいます。 私たちはデザイナーである以上、いかにこちらが想定した方法で行動するようユーザーを促していくのかをしっかり考えなくてはいけません。それには、倫理面で問題がないようにする視点も忘れてはならないのです。 また私がbtraxで働く中で経験し感じているトレンドとしてはConversational UIが挙げられます。私はもともと文を書いていた経験があり、btraxでもよくインターフェースにマイクロコピーを書いていますが、それは自ずと画面上での対話やそれがどのようにユーザーエクスペリエンスに関係するかを考えることに繋がります。そうすると、会話(conversation)、つまりインターフェイスが質問を投げかけこちらがそれに答えるというやりとりとしてのフローを考えるようになるのです。 関連記事:今さら聞けないユーザーインターフェイス (UI) の基本

このトレンドはこれからどう進化すると見ていますか?

私自身を含めたミレニアル世代は自分たちについて多くの情報を発信しています。私たちは「自分ブランドの発信者」として優れていて、オンラインでもオフラインでも、常にどのように自分たちが映るかを考えて生活しているのです。そのために、あらゆるものが非常にパーソナライズされたものとなってきています。 たとえばiPhoneの登場がいい例です。iPhoneは好みのアプリをダウンロードして、個人のライフスタイルや好みに合わせたアプリのコレクションを作ることを可能にしたパーソナライズド・デバイスです。それはいわば、自分だけのデジタルな領域を作り上げるようなものです。 私たちはもはや日常のどの場面でもテクノロジーが常にあることを期待しているため、今後インターフェイスが音声のようなより形のない経験へと変わっていくことは間違いないでしょう。今後このような期待が高まるにつれて、テクノロジーは、AR/VRに代表されるような「没入型」が中心になっていくだろうと思います。 Conversational UIもまた、そのような期待の高まりを反映したものだと言えます。例えば物理的ボタンからタップできるフラットボタンへの変化は、テクノロジーがより人間に近づいていくことを示しています。 過去には、テクノロジーは切り離されたツールとしてみなされてきました。しかし今では、私たちはインターフェースが個人の要求を満たした個人仕様になっていることを求めています。それはまさに「会話」を使って私たちの言葉でコミュニケーションすることが期待されているアシスタントです。

これからbtraxのUXデザイナーとしてどのように成長していきたいのか、Mimiさんの展望を教えてください

改善したいと思ってることはたくさんあります。自分の専門スキルを磨くとともに他分野からも学んで幅広い知識を身につけていきたいし、それにプロトタイプのスキルも伸ばしたいし、ゆくゆくはインタラクションデザインももっとできるようにもなりたいです。 同時に、デザインの効果やインパクトを測れるようになるために、リサーチをより深く学びたいとも思っています。btraxのサービスチームは分析能力に長けています。私ももっとリサーチスキルをつけて、ユーザーの行動分析の経験をもっと積みたいと思っています。 あと、個人的に可能性を感じていてこれから勉強していきたいと思っているのはARです。UXプロセスを通じてARがどのように実現されてきたかについて今までたくさんの本を読んできましたが、非常に面白いと思っています。ARで解決できる課題にはどのようなものがあるのか興味がありますし、それらの課題の1つに取り組んでみたいと思っています。 また文化を超えたエクスペリエンス・デザインについてももっと知りたいです。これはbtraxで時間を過ごす中で学んでいけるものだとわかっているので、これからがとても楽しみですね。

スタートアップと中小企業との違い

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以前に日本で会社を経営する友人から、 「この前のセミナーを聞いてスタートアップっていうのが理解できたつもりなのですが、ぶっちゃけ自分の会社がスタートアップなのか中小企業なのかイマイチわかってません」 と言われた。これは今年の年初に開催された、第2回Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKAの最終報告会における孫 泰蔵さんとの対談セッションの中で触れられた下記のポイントについての質問であった。

ベンチャー企業だからと言って、スタートアップであるとは限らない。英語では緩やかな成長を目指す場合はスモールビジネス (中小企業), 急激な成長とスケールを目的としてするのがスタートアップと呼ばれており、その2つはその成り立ちとゴールが大きく異なる。

参考: 【対談】孫 泰蔵氏 x Brandon Hill -スタートアップがグローバルに展開するための5つの秘訣-

スタートアップと呼ばれる企業には1つの明確なゴールがある

そもそも”スタートアップ"とは何なのか?”シリコンバレー”と同様、この定義が曖昧な名称を定義する際に一つだけ確実に他の企業と異なる点がある。それは「急成長」である。サービスを作り、会社を作り急激な成長を成し遂げる。それこそがスタートアップの使命であり、そのゴールを達成するために全ての仕組みが生み出されていると言っても良いだろう。 以前の記事「ベンチャー企業とスタートアップの違い」でも下記のように記載されている。
新しいビジネスモデルを開発し、ごく短時間のうちに急激な成長とエクジットを狙う事で一獲千金を狙う人々の一時的な集合体
例えば、一部のハードウェアスタートアップを除き、デジタル化が進む今の時代に、特に大きな工場や立派な設備もないのに多額の資金を調達する。一体なんのためにそのお金を使うのだろう?と疑問に思うケースもあるのだが、その答えは”人”である。この”人”というのは二つの意味が隠されていて、一つめが従業員。そして二つ目がユーザー。 実は、この「短期間で急激な成長」の「成長」という言葉がトリックで、実は売り上げや利益ではないことが多い。では何をもってスタートアップの「成長」と読んでいるのか。その答えはユーザー数であり、従業員数なのである。 なぜ売り上げよりもそっちを優先するのか?その理由は意外と単純で、その二つの数字がM&AやIPOなどの最終的なエクジット額に大きな影響を与えるから。もう少し細かく言うと、それに紐づいた形で、会社の評価額 (バリュエーション)や次の資金調達に影響する。 例え経営が大赤字だったとしても、調達したお金を躊躇なくユーザー獲得施策や従業員獲得に使いまくるのがスタートアップの流儀。この辺は日本の感覚だとちょっと理解しにくいかもしれないが、シリコンバレー界隈のスタートアップで黒字の会社はむしろ珍しい。 短期間で急激な成長を遂げ、一攫千金を達成する。これがスタートアップが持つ大きな命題である。

着実な成長と永続性を重視する中小企業

その一方で、スモールビジネス、いわゆる中小企業はなるべく早い段階での黒字化と着実な成長、そして末長くしっかりと続くための仕組みづくりを行う。そこで重要になるのは、なるべく借入金を少なくして、会社規模も最小限で回せる効率性の高さ。そして、会社も従業員もじっくりと成長できるための戦略である。 これは全ての新規企業を”ベンチャー企業”と呼んでしまっている日本の感覚だと若干ややこしくなってしまうだろう。なぜならば、日本国内には”スタートアップ”っぽいベンチャー企業もあれば、”中小企業"っぽいベンチャー企業もあって、その両方が混在しちゃっているのが現状だから。 そして事をよりややこしくしちゃってるのが、成長の度合いにも限度があるので、日本国内でスタートアップを始めても、ターゲットを国内に絞ってしまっている場合は、どうしても中小企業的動きをせざるを得なくなってしまう。 参考: 日本の企業が海外進出するべき3つの理由 growth

例えるならバケツリレー vs 水道管

この二つの違いは、バケツリレーと水道管に例えるとわかりやすいだろう。同じ”水”を運ぶという目的を果たすにも、2つの大きく異なる方法がある。

手法1: バケツリレー

A地点からB地点に水を運ぶ際に最も確実な方法である。距離が伸びれば人を増やせば良いし、一定のスピードでしっかりと目的を果たすことが可能だ。バケツリレーでは高い確率で水を確実に供給できるし、そのための戦略も立てやすい。リスクも最小限である。 その一方で、距離が伸びるごとに必要となる人員もコストも比例して上がるので、上記のグラフの青い線で見られるような、確実だが地道な成長しか期待するこが難しくなるし、人が欠けると水の供給も途絶えてしまう。

手法2: 水道管

もう一つの方法として、水道管を作ると言うやり方がある。これは、最初にその仕組みを作るために膨大な資金と労働力が必要とされるが、一旦それが完成し、水源に当たれば爆発的な量の水を一気に多くの場所に提供が可能になる。 そして、何が素晴らしいかというと、一度水道管を作ってしまえば、あくせく働かなくても水は流れ続ける。その規模を大きくしたければ水道管を延長すれば良いわけで、拡張性も高い。 その一方で、この方法はリスクがかなり高い。せっかく頑張って水道管を作ったのに、水源がない可能性もある。なので、まずは早いスピードでサクッとパイプを作って見てそこに水源があるかどうかを探ってみる。それがいわゆる"デザイン思考"や”リーンスタートアップ”の手法である。 j

始めるときにどっちにするかを考える

この水を運ぶ際の二つの手法。最初からどちらの作戦でいくかを決めた方が良い。その存在意義も、ゴール設定も全く変わってくるから。そうでもしないと、経営戦略もフラフラしてしまうし、何より従業員が混乱してしまう。バケツリレーする人とパイプを汲み出す人が混在することになってしまうのだ。 堅実な収益を重視した仕組みと動きをするべきなのか、それとも一攫千金狙いのぶっ込み型神風チームを作るのか。これは経営者がしっかりと考え決めなければならない。そして、それぞれに最適化された戦略と組織を作る必要がある。 もしくは、福岡のNulabみたいに、最初はバケツリレーのSI業から始め、余力でプロダクトづくりを進めて、見事に水道管に変換した例もある。これは、平日にパケツリレーしながら、週末にパイプを組んでみるタイプのやり方で、面白い。

スタートアップの条件は”同じことで100倍の規模になる可能性があるか"

上記の例えでも分かる通り、中小企業は労働集約型になりがちで拡張性 (スケール) が低いケースがほとんど。しかし確実な成長と永続的な存在を期待しやすいメリットがある。一方、スタートアップはリスクを取ってプロダクトを作り、早いスピードで急成長を目指すスケール重視のビジネスなのである。 これは言い換えると、今現在と同じ事をしていても、効率的に100倍の規模にスケールアップできるかどうかにかかっている。 このスケールにこだわったのが、映画「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」でも有名になったフランチャイズの仕組み。もともとマクドナルドは地方に根ざした、品質重視のバーガーショップだった。一度店舗数の拡張を試みてみたのだが、品質に影響が出るという事で、創始者のマクドナルド兄弟の目の届く範囲での堅実な経営を行なっていた。 それに対して、アメリカ全土への爆発的な成長を目指した起業家、レイ・クロックがフランチャイズの仕組みを利用して、オリジナル店の同じ仕組みを多店舗に”複製"する事で、急激なスケールを成し遂げ、世界一のハンバーガーチェーンにした。 これはまさにバケツリレー型経営から水道管型ビジネスモデルに変換した例である。しかし皮肉にもその経営方針の相違から、創始者のマクドナルド兄弟とレイ・クロックが対立し、最終的には規模に勝るレイ・クロックが勝利したというアメリカらしいストーリー。ちなみにこのレイ・クロックは、Amazonの創始者ジェフ・ベゾスが最も尊敬する人物の一人でもある。 これが現代だとユーチューバーになるのか、YouTubeというプラットフォームを作るのか。ブロガーになるのかブログプラットフォームを作るのか。Uberドライバーになるのか、Uberアプリを作るのか。などの差になってくるのであろう。地道に働くのか仕組みを作るのかに近い。

"地方に根ざしたスタートアップ"なんてあり得ない

ここまで読んでわかった方もいるかもしれないが、このスタートアップの使命である急成長=スケールを成し遂げるためには、その市場規模が大きくなければならない。マクドナルドも一号店のあるカリフォルニア内だけでの展開だとスケールに限界があるため、アメリカ全土、そして世界にビジネスを展開した。 したがって、たまに聞くことのある、地元の地域に密着したタイプのスタートアップサービス、なんていうものは実現しようがない。その都市や地域に限定した時点でスケールしないからである。これは日本国内だけで展開する場合でも同じで、やるならメルカリのように最初から世界を狙って始めるべきである。 参考: どんだけ頑張ってもお前がカバーできるのは世界の2%

なぜスケールする必要があるのか

そもそもなぜスタートアップはスケールをそこまで重要視するのか。理由はいくつかあるが、おそらく一番大きいのは、”世の中へのインパクト"であろう。言い換えると、サービスを通じて世界を変えられるかどうか。 サンフランシスコやシリコンバレーなんかでは、社会問題や現在の状況を打破するべくスタートアップを始める事が一般的で、お金儲けよりもどれだけ世の中をよくできるか、世界を変えられるかがスタートアップに関わる人々のモチベーションになる。 そのためには、世界的に受け入れられる仕組みを提供する必要があり、自ずとスケールが重要視される。 さて、あなたのやろうとしているビジネスはバケツリレーなのか水道管なのか?これを機会に、今一度考えて見ても良いかもれしない。  

■ お知らせ:

なお、この辺の違いやスタートアップとしての心得、手法などは、冒頭でも紹介した「Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA」のプログラム内でもどんどん伝授する予定です。 当プログラムは福岡在住の方々、および将来福岡での起業を検討している方々を対象に、福岡市が全面的にサポートし、我々btraxが運営を提供させていただいている、日本でも数少ないグローバル起業家育成プログラムですので、是非ご参加ください。 応募・参加は無料で、アメリカへの渡航滞在費以外の費用はかかりません。締め切りまであと3日です。応募はこちらから

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

世界が憧れるサンフランシスコ・シリコンバレーの3つの魅力

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サンフランシスコ・シリコンバレーには、世界中のスタートアップが集まっている。ここには、 最先端の技術を操るエンジニアや有数のデザイナーがおり、さらにハングリー精神と野心に燃えた人々が常に「自分たちこそが世界を変えてやる」と、革新的なアイデアを出し合っている。 また、この地にはグローバルな視点や起業家マインドを習得できる環境、そしてネットワークを構築するシーンが様々あるので、将来世界を舞台に自身のビジネスを拡大したい方にはうってつけの場所だろう。 現在弊社では福岡市のサンフランシスコ・シリコンバレー研修『Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA』のプログラム設計及び運営に携わっており、まさに上記に述べた環境下で起業家を目指す方々の支援を行なっている。 関連記事:福岡スタートアッププログラムに学ぶ起業家に必要な4つの基本事項  そこで今回は、世界中から人が集まるサンフランシスコ・シリコンバレーの魅力に迫りたいと思う。

1. サンフランシスコが生み出す独自の環境

サンフランシスコに根付いた人々のマインドセットは、サンフランシスコが世界から注目され続ける原動力になっている。そして、それらは様々なかたちで彼らの生活の中に浸透している。 その1つの例が、ハッカソンだ。ハッカソンとは、エンジニアたちが集まり、そのスキルを使って新たなサービスやソフトウェア開発を行い競い合うコンテストのことだ。 しかし、サンフランシスコで開催されるハッカソンの多くでは、非エンジニアたちの参加が少なくない。だからこそ、今までにない角度からのアイデアが生まれ、イノベーションが次から次へと起こっている。 関連記事:【コーディング禁止?】非エンジニア大歓迎!サンフランシスコのハッカソンで垣間見るイノベーションの源流 また、ハッカソンだけではなく彼らのフレキシブルな通勤スタイルも世界から注目を集めている。日本では通勤は非常にストレスフルなものであるが、サンフランシスコでは人々が新たなテクノロジーやサービスを次々にとり入れ、通勤にでさえもイノベーションが起こっているのだ。 ある調査結果によると、サンフランシスコの平均通勤時間は片道で31.7分となり、日本の平均通勤時間は1時間19分(片道39.5分)、東京だと1時間42分(片道51分)まで伸びる。 人口密度が東京よりも高いサンフランシスコでこれだけの時間差があるのは興味深い。それでは、サンフランシスコではどのような方法で東京の半分程度の通勤時間が実現しているのだろうか。 関連記事:サンフランシスコが取り組む通勤イノベーション

2. 成長を遂げるスタートアップ、ユニコーン、そしてデカコーン

サンフランシスコには数多くのスタートアップが存在しているが、同時に多くのユニコーンも生まれ、Airbnb、Uber、DropboxやPinterestなど誰もが知るような数々のユニコーン企業が成長を続けている。 そもそも「ユニコーン」とは、未上場企業の中で、評価額が10億ドルを超えるスタートアップのことであり、いわゆるメガスタートアップである。最近では10億ドル以上どころか、100億ドルを超える企業もある。 これは日本円にして実に1兆円を超える評価額であり、日本だと上場企業の時価総額でもその規模の会社は百数十社程度でしかない。 関連記事:未上場で評価額10億ドル以上のユニコーンTop10 ちなみに、最近ではユニコーンの上をいく「デカコーン」と呼ばれる企業まで生まれている。「デカコーン」とは、未上場にも関わらず、評価額1兆円を超える時価総額のユニコーンのことだ。 驚くことに、実際にこのような企業が世界にいくつも存在している。そしてサンフランシスコには、この「デカコーン」の多くが存在しているのだ。 関連記事:2017年スタートアップトレンド – ユニコーンの次はデカコーン

3. サンフランシスコで浸透する次世代の働き方

サンフランシスコの人々のワークスタイルは、勤務時間だけでなく、在宅勤務や有給まで自由であることが、当たり前となってきている。 彼らの働き方は、驚くほどフレキシブルなのだ。ストレスのない、「遊ぶように働く」事ができる環境を提供することで、優れた人材を確保し、クリエイティブなチームを組織するのだ。 現在日本でもワークライフバランスをキーワードに働き方改革が行われている。しかし、ワークライフバランスのように仕事とプライベートを分けることは実質不可能であり、かえってストレスを生むことも多い。 そこで、サンフランシスコでは「ワークライフインテグレーション」という、仕事とプライベートを分けるのではなく、むしろ仕事と私生活を無理なく連動させるという考え方が浸透しつつあるのだ。 仕事以外の時間の使い方が仕事の結果に繋がるため、プライベートの交友関係が仕事にも繋がることも珍しくない。このようなワークスタイルが、今のサンフランシスコを作り上げているのかもしれない。 関連記事:【ワークライフバランスはもう古い】新しい働き方、ワークライフインテグレーションとは

最後に

いかがだっただろうか?サンフランシスコ・シリコンバレーは、今や世界が注目せざるを得ない、革新的且つ最先端をいく都市である。そして、その理由は街のいたるところに見られるほど、サンフランシスコ・シリコンバレーの人々や生活に浸透している。 今もこの街の文化やテクノロジーは進化を続けており、可能性に溢れている。きっとこれからも世界を牽引する都市であり続けるであろう。

サンフランシスコのデザイン会社まとめ

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スタートアップに加え、サンフランシスコは世界でも有数のデザイン会社が多くある事で有名である。市内の複数の著名デザインスクールが輩出する豊富なデザイナーに加え、世界中から多くの優秀なデザイナーも集まって来ており、ユーザーにとって使いやすく優れたプロダクトづくりの屋台骨を支えている。 古くはAppleのMacintoshのデザインをfrogが、マウスの設計をIDEOが行った。最近ではAirbnbやUberなどのユーザー体験を追求したスタートアップとのコラボも盛んである。また、ここ数年で、サービスデザインやUXデザイン、デザイン思考などの新しいジャンルのデザインを提供する会社も軒並み増えており、現在サンフランシスコは世界でも有数のデザイン都市となっている。 この街では数多くの企業が、テクノロジーとデザインを融合することで新しいイノベーションを創り出している。デザイン会社もそれぞれにユニークな特徴があり、他にはマネのしにくいサービスを提供している。 そして、最近ではサンフランシスコのデザインコミュニティーはスタートアップに引けを取らないくらいに盛り上がっており、毎週の様に交流会イベントやセミナーも開かれている。我が社、btrax社のスタッフも市内の多くのデザイン会社との交流が深い。これまでの交流で形成したコネクションを活用したコラボレーションを行った事のある会社を含め、市内に存在する優れたデザイン会社をカテゴリー別にピックアップしてみた。

提供サービス別デザイン会社の種類

  • Brand Strategy, Experience Design: ブランディングやユーザーへのエクスペリエンスを通じてブランド構築を行う
  • Innovation Design: UXデザインやサービスデザインを中心に新規プロダクトを作り出す
  • Digital Design & Solutions: UIデザインや、Webデザイン中心に次世代のデジタルデザインを提供する
  • Industrial/Product Design: ハードウェアプロダクトのデザイン (I.D.)等を行う
  • Hardware Prototyping & Production: ハードウェアのプロトタイプ等を作成
  • Digital, Advertisements and Experiential Marketing: SEMやオンライン広告運用、キャンペーン、グロースハックなどのデジタルマーケティング、共創マーケティング等
  • Others (Architects, Interior Design, Furniture Design, etc.): 建築設計事務所、インテリアデザイン、家具、パッケージ等、その他のデザイン業種

Brand Strategy, Experience Design

ブランディングやユーザーへのエクスペリエンスを通じてブランド構築を行う 2 des ele ext ind 4 5 6 out pea 7 uen

Innovation Design

UXデザインやサービスデザインを中心に新規プロダクトを作り出す btr 11 12 cot dig 13 exy 14 15 lif 16 17 pro 19 sap syp

Digital Design & Solutions

UIデザインや、Webデザイン中心に次世代のデジタルデザインを提供する 20 21 22 23 fee 24 nar red sp sti tra

Industrial/Product Design

ハードウェアプロダクトのデザイン (I.D.)等を行う ast 26 box 27 28 hug 29 43 30 whi

Digital, Advertisements and Experiential Marketing

SEMやオンライン広告運用、キャンペーン、グロースハックなどのデジタルマーケティング、共創マーケティング等 8 gsp gro 9 10

Others (Architects, Interior Design, Furniture Design, etc.)

建築設計事務所、インテリアデザイン、家具、パッケージ等、その他のデザイン業種 33 34 35 36 37 41 38 39  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

photo by Everlane via Twitter

シェアサイクル事業問題から見るサンフランシスコ市の意思決定の早さ

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サンフランシスコ市では2013年より市交通局を主体として、『ベイエリア・バイクシェア・パイロットプロジェクト』を実施している。 このプロジェクトでは、サンフランシスコ市交通局と民間のシェアサイクル運営会社である「Motivate」が提携し、シェアサイクルの普及・拡大を促進させ、
  • 交通渋滞の緩和
  • 移動効率の改善
  • 市民の健康管理
などを目的としている。 2017年の夏には、「Ford Mortor Company」によるスポンサーシップなどにより、「Ford GoBike」として、320ほどのステーションと4,500台ほどのシェアサイクルが導入されている。 fordgobikestation 「Ford GoBike」のステーションマップ - 公式サイトより こうして現在シェアサイクルはサンフランシスコ市民にとって馴染みのあるものになっているのだが、2018年に入り、
  • どこでも乗り捨て可能なステーションレス型のシェアサイクルである「JUMP Bike」(1月)
  • 同様に乗り捨て可能な電動シェアスクーターの「LimeBike」「Bird」 「Spin」(4月)
が突如として市街地に現れた。 「Ford Gobike」と同様に、「JUMP Bike」はサンフランシスコ市交通局と協力体制を得て実証実験を行っているが、電動シェアスクーターの運営会社である「LimeBike」、「Bird」、「Spin」の3社は市の許可を得ずに運営を始めた。 サンフランシスコ市民は新しいテクノロジーやモノに寛容なため、すぐにサービスを利用するユーザーが多く、それが違法だということにもかかわらず、あたかも電動シェアスクーターが数年前から存在していたように錯覚してしまう。 「さすがはサンフランシスコ。日本とは違ってそういったことには行政も寛容なのだろう。」と思われるかもしれないが、当初サンフランシスコ市は怒っていた。 その後裏側でしっかりとしたプロセスを踏み、驚異的な早さで意思決定と法整備を行った。 では具体的にどういった問題が発生し、市としてどのような問題解決を行っているのだろうか?また、これらの問題からシェアサイクル事業の課題点について言及したい。

ステーションレス型電動シェアスクーター「LimeBike」「Bird」「Spin」とは

limebikes-bird奥からLimeBike、Bird 現在、サンフランシスコ市街では上記の画像のようなステーションレス型の電動シェアスクーターが点在している。乗り方はとてもシンプルで、アプリを起動し、近くのスクーターを探し、QRコードをかざすだけだ。

ステーションレス型は投資評価額が高い

electricscooter-company 引用: CB insights 「LimeBike」「Bird」「Spin」3社はともに投資を受けている。 「LimeBike」はすでに世界各国でシェアサイクル事業を展開しており、投資額が高い。同様に「Bird」も巨額の投資を受けている。ちなみに同社のCEOはTravis VanderZanden氏であり、過去には「Lyft」のCOO、「Uber」ではVP of Global Driver Growthを経験した人物だ。 bike-share-funding引用: CB insights 上記のグラフのように、2017年はシェアサイクル業界への関心が高く、全体の投資額が上昇したことも各社が巨額の投資を受けたの要因となっている。 その中でも、ステーションレス型のシェアサイクルは、コストの削減や、地理的なサービス展開の容易さ、ユーザビリティの観点から特に注目を集めている。「Bird」が2018年に入ってから巨額投資を受けたことからも、この傾向は続くと言えるだろう。 では、実際にユーザビリティが優れているのかを検証するために、一般的なステーション型のシェアサイクルである「Ford GoBike」を利用したことのある筆者が「LimeBike」「 Bird」「Spin」を利用してみた。 limebikes-testdrive アプリをダウンロードしたあと、実際にQRコードをスキャンし、各社の電動シェアスクーターに試乗してみた。最初のひと蹴りのあとに、アクセルとなるハンドル部のレバーを親指で押すだけでスムーズに加速するのは確かに心地が良く、本体も小さく軽いため、とても軽快に感じた。 ステーション型よりもはるかに楽で、ステーションを探す手間や、ステーションの空きがないなどの心配をすることがなく、完全なストレスフリーであった。

「LimeBike」「 Bird」「Spin」の3社の違い

limebikes-bird-spin-uiホーム画面 左からLimeBike, Bird, Spin limebikes-bird-lime-menuメニュー画面 左からLimeBike, Bird, Spin アプリのUI, UXデザインにはすぐに改善できるような違いしかなかった。さらに、3社とも、シェアリング・エコノミー業界を牽引してきたUberのアプリUIデザインに影響を受けていた。 また、料金設定や最高時速の制限も同様に3社ともに、
  • 最高時速 22km毎時
  • 基本料金1ドル + 1分毎に15セント
と設定されていた。さらには、「Bird」「Spin」の2社は「Xiaomi M365」という電動スクーターを流用しているため、スクーター本体の性能は完全に同じであった。

なぜ3社が同時にサンフランシスコ市に現れたのか?

「Bird」はサンフランシスコ市に進出する以前に同カリフォルニア州内のサンタモニカ市でも市の承認なしにサービスを提供していた。現在は和解金(300,000ドル)を支払い、正式にサービスを運営している。 こういった動きは、初期の「Uber」を思い浮かばせる。 「市にも交通緩和などの利点があり、ユーザーにとっても便利であれば、市の承認なしでもサービスが受け入れられるだろう。なおかつこれが一番手っ取り早い」というスタンスは、おそらく、CEOのTravis VanderZanden氏の「Uber」での経験からきたものだろうと筆者はみている。 そうしてサンフランシスコ市にも承認なしで進出し、「LimeBike」「Spin」の2社はこの動きを察知し「Bird」と同時に現れたのではないだろうか。 もしも、「Bird」の1社が市の正式な許可を得てサービスを先行した場合、ユーザー数との適切な電動シェアスクーターの個体数を設置されることで、完全にサンフランシスコ市という市場をコントロールされてしまうためである。 中国のシェアサイクルの廃棄が問題になっていたように、行政が個数を管理しなければ二の舞になりかねないため、おそらくサンフランシスコ市は次の電動シェアスクーター運営会社の承認を出さないか、個体数を制限する可能性があるからだ。 実際にサンフランシスコ市交通局が18ヶ月間のテストプログラムの期間中の現在、「Jump Bikes」以外のステーションレス型のシェアサイクルを認めないとしている。

ステーションレス型電動シェアスクーターの問題

電動シェアスクーターでは、
  • 18歳以上である事
  • 免許証の所持
  • ヘルメットの着用
  • 車道を走る
  • 駐車は歩道の妨げにならないように
などが義務付けられており、乗車する際は必ずアプリ内に注意事項として表示される。 electricscooter-problem路上に横たわる「Spin」- 引用:SF Examiner しかし、実際には「ヘルメットを着用しない、歩道を走っている、歩道の中心に駐車する、二人乗り」などが見られ、市民から苦情が出ている。特に上記の画像のような状態はよくみられ、車椅子の妨げになるなどの問題がある。 「Bird」では安全の呼びかけや、ユーザーに無料でヘルメットを配るなどを行っているが、現段階では問題解決にはつながっていない。

ユーザーのサービス利用意識はシェアリング・エコノミー型サービスの共通の問題

そもそもシェアリング・エコノミーとは個人の所有物を個人間で共有するという意味合いが強く、企業が所有しているシェアサイクルや、電動シェアスクーターをシェアする場合は、レンタルの要素が強い。 レンタルの場合は、貸主個人の顔が見えないために使用者の意識が下がり、いたずらや問題が起きてしまう可能性が高くなる。 例えば実際に時間貸しのカーシェアリングを行っていた「RelayRides」という会社は、2011年当初はオーナーと顔を合わせることなく車に搭載されたカードリーダーに会員証をかざすだけで利用できるという仕組みだったが、当時はオーナーからの損害請求等が多かったという。 しかし、2012年に別の理由でカードリーダーを廃止し、借り手とオーナーが直接キーを渡したり、車両を点検するように変更した。 その結果、オーナーからの損害請求は減り、借り手もオーナーに対し、満足度の高い評価をつけるようになったという。 また、シェアリング・エコノミー業界を牽引する「Lyft」では、乗客に後部座席ではなく、助手席に座ることを推奨していたり、「Airbnb」では、ホストに対してプロフィールに自身が大きく写った写真を載せることを推奨し、必ずゲストと宿泊前にコミュニケーションを取るように求めている。 これらのことから、フェイストゥフェイスでコミュニケーションをとることで、ユーザーに対して「サービスを正しく利用する」という意識を高められることがわかる。 実際に中国のシェアサイクルでは、いたずらや破損の多発が相次いで問題になっていたが、サンフランシスコでも同様に起きており、ステーション型であるFord GoBikeが放置されていたり、電動シェアスクーターが海に投げ捨てられたりしている。 fordgobike-problem放置されている「Ford GoBike」 scooter-problem海に投げ捨てられている「Spin」「LimeBike」 引用: @SRobertsKRON4 こうした問題をサンフランシスコ市と企業が連携し、解決していくことが重要な課題といえる。

電動シェアスクーターに対するサンフランシスコ市の対応

electric-scooter-track回収される電気シェアスクーター 4月中旬にサンフランシスコ市は「LimeBike」「Bird」「Spin」の3社に対し、公共への安全性を配慮していないとした上で法に違反しているとし、一時的に電気シェアスクーターを回収した。 それに対し、「Bird」はユーザーに利用後の電動シェアスクーターの写真を撮るよう求めることを検討しているなど、前向きな解決姿勢を見せていた。 それが4月下旬になり、サンフランシスコ市の関係者が新しいガイドラインを提案し、「電子シェアスクーター5社の運営を許可する。ただし、台数は各社500台までとし、2年間のテストプログラムを行う」と発表した。つまり、サンフランシスコ市内では2500台以下の電子シェアスクーターが許可されることになった。 しかし、いくつか条件があり、
  • ユーザーに安全の配慮を呼びかけ
  • 手数料(5,000ドル + 1年ごとに25,000ドル)の支払い
  • 不適切に駐車された電子シェアスクーターの保管や、公共物の損害などをカバーするためのメンテナンス費用として10,000ドルの支払い
  • 低所得者のための計画を提供する
などの必要があるとしている。 サンフランシスコ市もサンタモニカ市と同様に、サービスの承認に対して前向きな姿勢を見せているが、あくまでテストプログラムであるため、これから市民に受け入れられるかが重要である。

まとめ

ステーションレス型のシェアサイクルは、歩道や駐輪スペースを埋め尽くしてしまうなどしないように配慮する必要があるほか、ステーション型の場合はステーションの密度が重要になるため、行政と協力することは不可欠であると考えられる。 日本では行政と協力となると手が出しづらいイメージがあるが、今回ご紹介したようにサンフランシスコ市は、承認をしていない電動シェアスクーターが現れた同月に一時規制を行い、新たなテストプログラムの提案を行うなど、意思決定が早く、法律に影響を与えるサービスなどでも柔軟に法整備をしていることがわかる。 サンフランシスコ市で新たなサービスが次々と生まれる背景には、このような行政対応もあることがおわかりいただけたのではないだろうか。今後、サンフランシスコ市がどのようにシェアサイクル事業の問題解決を行っていくか動向をチェックしていきたい。

経験価値マーケティング【入門編】消費者の思い出に残るブランド体験を

experiential marketing
経験価値マーケティング(Experiential Marketing)とは、インタラクティブなブランド体験を通して消費者との関係性を構築するマーケティング手法である。 従来のマーケティングが一方的にブランドや商品のベネフィットを幅広いオーディエンスに向けて発信するのに対し、経験価値マーケティングはブランドやプロダクトのコアバリューが凝縮されたオフライン空間の中で、消費者と一対一のパーソナルなコミュニケーションを行うことに焦点を当てている。 そして、忘れられないブランド体験を提供し、消費者と感情的な繋がりを持つことによって、カスタマーロイヤリティーを構築し、顧客生涯価値を上げることを究極的な目的としている。 アプローチ方法の例としては、下記のものが挙げられる。
  • ポップアップストア
  • インスタレーション
  • ブランドの世界観に没入できるVR体験
  • インタラクティブな屋外広告
  • 最新テクノロジーを使った実験的体験
  • アートプロジェクト
  • オフラインのゲーミフィケーション体験
経験価値マーケティングの正攻法というものは存在しない。しかし、成功する経験価値マーケティングは、五感を駆使し、忘れられない体験に消費者に浸らせる仕組みを取り入れている。

なぜ今、経験価値マーケティングなのか?

1) 経験に価値を置くミレニアル世代

イベント・プラットフォームを運営するEventbriteが全米のミレニアルズ世代(1980年から1996年に生まれた、2018年現在で22歳から38歳の層)を対象を行った調査によると、この世代は経験を非常に重視している。さらに、彼らのイベントに対して使うお金と時間は年々増えているという。コンサートから、ネットワーキングイベント、フェス、スポーツイベントに、体験型アート、文化体験など、彼らはありとあらゆるイベントに参加する。 この世代にとって重要な価値観である、「ハッピーで充実した人生を送る」という目的のもと、様々なイベント通して思い出を作り、仲間と共有しているのだ。回答者のうち78%、すなわち4人に3人が欲しいものを買うより理想的なイベントに対してお金をつぎ込むと回答している。また55%のミレニアルズ世代は、イベントや経験に対して今までにない程にお金を使っている。 さらに82%のミレニアルズ世代が、過去1年以上になんらかのイベントに参加しており、その割合は彼らの上の世代よりも12%も高くなっている。にもかかわらず、72%のミレニアルズ世代は、今後イベントに使うお金をもっと増やしたいと思っている。ミレニアルズ世代は、とにかくイベントが大好きなのだ。

2) スルーされ続ける広告

消費者はいまだだかつてないほどの量の広告を浴びている。デジタルマーケティングの専門家による調査によると、平均的なアメリカ人は一日4,000から10,000の広告もの広告に触れているという。多すぎる、と感じるかもしれないが、自分の1日の生活スタイルを一度思い返して欲しい。 朝起きて一番に確認するソーシャルメディア上の広告やインフルエンサーによるスポンサードポスト、通勤途中に見る屋外広告や電車内広告、Eメールの受信箱に送られるブランドやお店からのニュースレター。 そして、仕事上のリサーチに使用するGoogle検索結果(Adwords広告)、ディナーのレストランを探すためにチェックをするレビューサイトの広告、自宅郵便受けに溜まったダイレクトメールの山、癒やしを求めてたどり着いた猫がじゃれるYouTube動画の前に自動再生される動画広告。 最後は、寝る前に再びソーシャルメディアを開き、目にする広告....一日をざっと振り返っただけで、いかに我々の生活が広告に囲まれているかを、再確認することができる。 しかし、消費者はこれらの広告を覚えているだろうか?そもそも、彼・彼女達は本当にこれらの広告を目にしているのだろうか?広告を強制的に非表示にする「アドブロック」機能を使っている人も少なくないし、動画であれば簡単に広告をスキップし、目的のコンテンツだけを消費することも容易だ。 一方的に商品のベネフィットを叫ぶ従来の広告では、消費者から支持を得るどころか、アテンションを得ることすら難しくなっている。従来の広告を使って、ブランドの認知を上げ、商品の魅力を伝えるには、繰り返しかつ継続的なコミュニケーションが必要となる。 その一方で、経験価値マーケティングは消費者と一対一のコミュニケーションを行うとこによって、短時間で効果的にブランドの認知やロイヤリティーを高めることできる。なぜなら、経験価値マーケティングは、五感を使ったブランド体験を提供し、感情を刺激し、長期的な記録として残る思い出の中に自然に入りこむことができるからだ。 学生時代の楽しい思い出は、大人になった今でも詳細を覚えているように、ブランディングされたエキサイティングな体験ができれば、消費者はその記憶をポジティブなブランドイメージとともに記憶する。そして、いざ消費者がブランドのサービスや商品が必要な場面に遭遇した際に、一番にそのブランドのことが記憶のなかで喚起されるのだ。

3) FOMOと#インスタ映え

FOMO(fear of missing out)とは、友達が参加している楽しいイベントに自分が参加しそこなってしまうことを恐れる感情のことである。友達の体験がソーシャルメディアで簡単に覗けるようになった今、多くのミレニアルズ世代がこの感情に振り回されている。 また、FOMOと切っても切り離せない関係にあるのが、インスタ映えである。なぜなら、クールな体験には「証拠写真」が必要だからだ。逆も然りで、友達が羨望するような写真や動画をソーシャルメディアに投稿するために、クールなイベントに参加をする必要がある。 このFOMOとインスタ映えへの執着が、ユニークな体験を提供するイベントへとミレニアルズ世代を呼び込み、新しいことにチャレンジさせ、ソーシャルメディアでのシェアを促すのだ。彼らはフォトブースだけではもはや満足できず、インスタ映えする新しい体験を求め続けている。

Glossierポップアップショップの成功と失敗

経験価値マーケティングの形態は様々であるが、btraxがオフィスを構えるサンフランシスコでは、ポップアップストアが多く登場する。そのなかでも、アメリカのミレニアルズ世代からカルト的な支持を得ているオンライン発D2CコスメブランドのGlossierが、期間限定のポップアップカフェをオープンしたということで、早速足を運んでみた。 glossier1 場所はオシャレなカフェやブティックが立ち並ぶミッションエリアの少し外れ。バターミルク・フライドチキンサンドイッチが人気のカフェ「Rhea Cafe」とコラボレートしたこのポップアップストアは、お店全体がGlossierカラーである「ミレニアルピンク」で染められている。 現在ニューヨークに1店舗ショールームがあるのみで、西海岸でGlossierの商品を試すことができるのは、このポップアップカフェのみということで連日大盛況。筆者が訪れたのは平日であったにもかかわらず20分待ち、週末となれば1時間待ちもざらだという。 Glossierのコスメのテクスチャを背景に「HAVE A NICE DAY」と書かれた外壁一面のペイント、パステルピンクで塗られた店内の壁、スタッフがユニフォームとして着用しているピンクのつなぎ、カウンター席を改造したドレッサー等...どこをとってもインスタ映えするものばかり。そして、その世界観はGlossierのオンラインストアやソーシャルメディアから配信されるもの、そのまま。 心躍るキュートなインテリアを目で楽しみ、普段は試すことができないコスメを試し、スタッフからアドバイスをもらい、新発売の香水の香りを楽しむ。まさに、五感をフル活用したブランド体験である。 glossier2 その一方で、残念な点も少なからずあった。まず、フライドチキンの香りがブランドのイメージに合っていないこと。 コスメと飲食という意外なコラボレーションを賞賛する声もある一方で、店内に漂うチキンの匂いがGlossierのガーリーな世界観と合っていないように思えた。チキンの匂いではなく、新発売の香水の香りが店内に漂うことを期待していた。 glossier4 また、入場制限をしていたにも関わらず、店内は大混雑。コスメを試すだけでなく、店内でイートインをすることも出来るので、メイクをしている人と食事をしている人が混在している状況であった。 経験価値マーケティングは、ブランドやプロダクトのコンセプトが凝縮されたオフラインの場において、消費者の思い出に残るパーソナルな体験を提供することに尽きる。見て、聴いて、嗅いで、触って、感じて、体を動かして、時には頭を使わせる....オフライン環境だからこそ実現可能な五感を活かした体験を提供し、ブランドの世界観を表現することが重要である。 このポップアップの最大の目的は、Glossierの世界観の中でコスメを試すことであるはずなのに、飲食というイベント追加することで、本来の目的を阻害している感が否めなかった。 Uberやairbnbの成功から分かるように、消費者が商品から体験に対して価値を置きつつある今、マーケティング手法としてのみならず、ビジネスにおける全ての側面においてユーザーを起点とした体験をデザインすることが重要となっている。 例えばbtraxが日本のクライアント様のアメリカ展開をお手伝いする際には、まず多角的な視点を持ったユーザー・市場リサーチから始め、対象となるユーザーを徹底的に理解した上で、オンライン・オフライン双方を使ったブランド体験作りを行っている。 今回ご紹介した経験価値マーケティングも、上記で紹介したユーザーの価値観と行動を変化を前提として行うマーケティング手法である。もしあなたのターゲットユーザーがそれらの価値を保有していない、もしくはそのような行動をとらないのであれば、せっかく経験価値マーケティングを行っても、望んだ通りの結果は見込めないだろう。まずは、ユーザーを正しく理解し、彼・彼女たちにとって、最も響く体験を提供することが重要である。

世界の大企業に見る 企業理念を体現した5つの新規事業

corporate innovation
大企業では、イノベーションを起こすのは難しいと言われるが、大企業の持つ潤沢なリソースがあってこそ成せるイノベーションというものもある。 freshtraxではこれまでにも大企業でのイノベーションについて取り上げてきたが、本稿では特にイノベーティブなアイデアだけでなく、大企業がこれまで積み上げてきたものを上手くレバレッジして新しいものを生み出したり、あるいは外部のイノベーションのタネを上手くスケールしたりした例を5つ紹介したい。 これらは、企業が持つビジョンもしくはミッションステートメントとも関連しており、昨今の大企業によるスタートアップとの協業の流れを活かすヒントになるかもしれない。 関連記事:大企業によるイノベーションとは?Amazonなど3社の成功事例

1. フォード:シェアバイク

自動車とモビリティのリーダーシップを通じて、人々の生活をよりよくするために、リーン、グローバル企業として一丸となって働く人
中国でも一大ブームとなったシェア・バイクビジネスだが、今ベイエリアでもシェアバイクが熱を帯びている。その火付け役とも言えるのが、アメリカ車産業のビッグ3の一角を担うフォードである。同社は昨年の2017年に、GoBikeと名付けたシェアバイク事業をスタートさせた。 ベイエリア大気管理局とサンフランシスコ・ベイエリアの都市交通委員会と協力関係にあるMotivateという専門の会社が運営を担当し、フォードがスポンサー役を務める形だ。ベイエリア大気管理局の広報担当によると、これはカリフォルニア州で初めての公共シェアバイク・プログラムであり、アメリカ初の地域的な取り組みであるという。 ford gobike 利用法方法: このフォードバイクは、街中に設置された専用の駐輪場に停められている。利用する際はそこから自転車を借りてまたどこかの駐輪場に返却するという仕組みだ。料金は1回乗り・1Dayパス・年間会員の3プランが用意されていて、年間会員は1回45分・それ以外は1回30分利用できる。支払いは、アプリまたは地域のパスモやスイカのようなICカードを使って行われる。駅から会社までの移動や、観光客が街を見て回るのにはちょうどいいかもしれない。 フォードは今後、モーター付きの電動自転車を含め今年中にベイエリアだけで計7000台の自転車を投入する。さらに、都市部の交通を意識して2016年に買収したスタートアップのシャトルバスのサービスも併せて拡大させるなど、自転車だけでなく、モビリティ事業全般の投資の手を緩めない。都市部の人口増加による交通渋滞の問題や、環境意識の高まりなどから、需要はまだ広がるだろう。 これらは決して社会貢献事業などではなく、営業利益率20%を見込んでおり成熟企業の成長に寄与することを期待されている。そして今回のこのシェアバイクビジネスは、フォードという会社を「クルマ」の会社ではなく、「モビリティ」の会社に変革したいという会社全体としての強い意志の現れとも言えるだろう。 サンフランシスコを含むベイエリアやシリコンバレー地域では、シェアバイクの競争は加速しており、Uber(ウーバー)やLimeBike(ライムバイク)といった会社などもこの動きに追随している。特徴的なのは、UberとLimeBikeの場合、駐輪場所を選ばない「乗り捨て可能」タイプの自電車であり、スマートフォンがあれば、好きな場所から乗って好きな場所に置いていけることだ。ちなみに、フォードバイクが鮮やかなスカイブルーに対して、ウーバーはエッジの効いたレッド、ライムバイクは穏やかなグリーンカラーとなっている。

2. ディズニー:シードアクセラレーター

世界でトップのプロデューサーとエンターテイメントと情報のプロバイダーの一員であること。ブランドポートフォリオにより、コンテンツ、サービス、コンシューマープロダクトを差別化することで、我々は世界で最も創造的、革新的、そして有益なエンターテイメント・エクスペリエンスと関連商品の開発を追求します
スター・ウォーズを製作するルーカスフィルムや21世紀フォックスのテレビ・映画部門の買収、自社ストリーミングサービスの発表など、アグレッシブなニュースが絶えないウォルト・ディズニー・カンパニー。ディズニーの通称で親しまれる同社は、映画やテーマパークだけでなく、メディアや音楽、製作技術などエンターテイメント全体に強い力を持っている。 そのディズニーが2014年から始めているのがディズニー・アクセラレーターだ。いわゆるシードアクセラレーターなのだが、ディズニーにしかできないことが存分に活かされている。このプログラムの選考を勝ち上がったスタートアップは、3ヶ月間ディズニーからメンタリングを受けられるだけでなく、ディズニーグループが保有する膨大なリソースとネットワークへ自由にアクセスできるようになる。具体的には、ロサンゼルスのディズニー社員も使うコワーキングスペースを仕事場として使えたり、投資家や各分野の専門家への紹介を受けたりすることができる。 プログラムを通して得られた知的財産権は、あくまでスタートアップ側に帰属するので会社が縛りを受ける心配はない。大企業ならではの太っ腹である。とは言え、このアクセラレーター発の製品・サービスとのコラボレーションもディズニーから多く発表されている。投資以外の面でしっかりとディズニー側にリターンが還元されている点は、やはりさすがである。 これまでにアクセラレーターから生まれたコラボレーション例をいくつか紹介したい。
  • Sphero (2015): ディズニー買収後のスターウォーズ作品でかなり目立った存在だったオレンジ色の丸いドロイドBB-8のおもちゃ。2015年のディズニーのベストセラーになった。
  • Atom Tickets (2016): 映画チケットのためのスマートフォンアプリ。購入やチケットの表示だけでなく、予告の再生やどの映画を観るか友人と決めることもできる。
  • VOID (2017): VRのヘッドセット装着し、実際の施設内をコンテンツに合わせて進んでいく進化型のアトラクション。本当のバーチャルとリアリティの融合。
[embed]http://www.youtube.com/watch?v=_QIbI4Wtgug[/embed] 関連記事:【オープンイノベーション】 大企業がスタートアップとの協業を成功させる為の3つの方法

3. テスラ:ソーラールーフ

持続可能なエネルギーへ、世界の移行を加速する
テスラはクールなデザインの電気自動車メーカーとして一躍有名になったが、今やテスラが提供するのはクルマだけに止まらない。彼らは太陽光により発電した電気を家のバッテリーに一旦蓄電し、必要に応じて家庭内消費電力及び自動車の充電まで全てまかなうトータルソリューションを提案しようとしている。 2016年にテスラは、ソーラーパネルの製造から設置までを行っていたアメリカのソーラーシティを20億円以上で買収した。これによって、テスラがもともと電気自動車開発で培ってきたリチウムイオンバッテリーの技術と、太陽光発電の技術が組み合わさり、2社の強みを1つのパッケージとして新たな価値を創造することに成功したのだ。 ソーラールーフとは、一般的なソーラーパネルとは異なり、見た目は普通の屋根に見える。テスラの情報によれば、ソーラールーフは一般的な屋根より強度があり、30年間発電できるという。驚くべきことに、Bloombergによれば、ソーラールーフの単価は従来のソーラーパネルに比べて安いという。ただし、同じ発電量をまかうためにより多くのタイルを必要とするため、トータルコストは高くなるかもしれないということだ。 tesla solar roof 画像転載元:Tesla公式サイト

4. アマゾン:2時間で届く新鮮なオーガニック食品

お客様がオンラインで買いたいものがなんでも見つかり、最安値で提供する努力をする、地球上でもっともお客様を大切にする会社であること
アマゾンは今年の2月からアメリカの一部の街において、ホールフーズの商品をプライム会員に向けて2時間以内に配送するサービスを開始した。しかも、35ドル以上の買い物は配送は無料である。有料オプションなら1時間で届けてくれるが、地元の店舗から商品が運ばれるため、利用時間と地域には制限がある。今後は、順次その地域を広めていく考えである。 昨年全米に衝撃を与えたアマゾンによるホールフーズの買収。ホールフーズといえば、テイラー・スウィフトなどのセレブも御用達の高級オーガニック・スーパーマーケットである。買収後は一部の商品の値引きが行われた他は特に大きな変化はなかった。それが今年に入って、ついにこの2大タッグのいいとこ取りが解禁されたと言えるだろう。 とは言え、食品の配送自体はなんら新しいことではない。アマゾンはアマゾン・フレッシュとして食料品の配送をしていたし、それ以前にも2012年にサンフランシスで設立されたInstacart (インスタカート)は提携するスーパーやペットショップの商品を運んでくれるサービスを展開していた。インスタカートの提携先にはホールフーズも含まれている。NBCのテレビ番組TODAYでは、両者を比較するために、同じ商品を同時に購入し同じ場所に届けるという検証を行った。そこで分かったのは、インスタカートの料金には10%ほどサービス料が上乗せされるが、アマゾンには別途料金はかからなかった。 「本ならオンラインで頼んでも、欲しいものと違う商品が届くことはないだろう」ということから始まったアマゾン。アマゾン・ベイシックで家電領域を押さえ、ストリーミングでエンターテインメントにも参入し、今では最も取り扱いが難しいな生鮮食品を高いレベルで提供できるまでに成長した。アマゾンの持つ圧倒的なディストリビューション能力とホールフーズによって担保された品質。これにより、安全で健康的な食品がより、手頃な価格で買えるようになるということである。 whole foods with amazon 画像転載元:Amazon公式サイト

5. マリオット・インターナショナル:若い世代がターゲットのホテル

世界で最も愛されるトラベル・カンパニーであること
マリオット・ホテル&リゾーツやリッツ・カールトンを含む、数々のホテルブランドを世界中で運営するマリオット・インターナショナル。彼らが新たなブランドMoxy(モクシー)を立ち上げるに当たって、コンセプトとなったのがミレニアル世代と呼ばれる20〜30代の若い層である。価格帯や立地などにより連想されるイメージから、見込み客のセグメントが見えてくることはあるかもしれないし、若者向けのマーケティング施策をすることもあるだろう。しかし、ここまでの規模で世代そのものがコンセプトになっていることは、これまでなかったのではないか。 モクシーの雰囲気は、おしゃれなオフィスとクールなナイトクラブを足したような感じである。現在世界に30軒ほど展開されていて、東京と大阪にも進出している。また、新ブランドを確立させていくために、館内でマリオットの赤いロゴを見ることはほぼないという。若者向けにデザインされたものとして、次のようなものがある。
  • 1つ1つの部屋は大きくなく、自然と大きな共有スペースに宿泊客が集まりコミュニケーションをとるデザインになっている。
  • チェックイン・チェックアウトだけでなく、部屋の入退室もスマートフォンで行う。
  • テレビはネットフリックスやユーチューブなどと繋がっていて、無料のハイスピードWi-Fiが楽しめる。
  • 24時間セルフサービスで無料食べ物とドリンクが提供されている。
  • インスタグラムに、#atthemoxyのハッシュタグをつけて写真をアップすると、ホームページも表示される。
moxy hotel 画像転載元:Moxy Hotels公式サイト こういった動きは、シェアリング・エコノミーの波に乗って急成長しているAirbnb(エアービーアンドビー)に対する危機感から来るものもあるだろう。できて10年のエアービーアンドビーは、すでに90年以上の歴史を持つ世界的なホテルカンパニーの10分の1以上の売上を出している。しかも、彼らは、宿泊施設を保有していない。 旅行に関するトレンドとして、宿泊費や移動費にはあまりお金をかけない分、旅先での経験にお金を使いたいと思っている人たちが増えている。特にこの傾向は若い世代には顕著である。加えて、若い世代はデジタル・ネイティブであり新しいいテクノロジーにも寛容でSNSや口コミ評価も重要な要素になっている。これらの特徴は、エアビーアンドビーがターゲットにしているセグメントにも共通している。 マリオット・インターナショナルのグローバルブランドリーダーでバイスプレジデントのトニー・ストークルは、若い世代の顧客体験の創造には、パーソナライズされたのアプローチを取るようにしているそうだ。「インスラグラムに写真をあげないなら、そこにいなかったのと同じ」という時代になったことを踏まえて、これからのホテルに求められることは、「綺麗なシャワーや寝心地の良いベッドだけでなく、特有のライフスタイルに対して体験にまつわる心の繋がりを築くことに真剣に注力しなければならない」と語った。 関連記事:ミレニアルにはブランドネームではなく体験を売れ!ー 炭酸飲料大手企業の挑戦

まとめ

今回紹介した大企業による新規事業の例は、自転車、エンターテイメント、太陽光発電、Eコマース、ホテル、と内容は様々だ。ただ、共通していることとして、大企業だからこそできる資本力、規模、信頼性がこれらの新規事業の成長を助けているのは言うまでもない。オープンなマインドセットはもちろん必要だが、大企業ではイノベーティブなアイデアが出たからと言って、それがすぐに事業化されるのは現状では難しいだろう。 スタートアップやアクセラレーターの、外部の刺激を取り入れながらも、自社のエッセンスを活かした事業にすることで、イノベーションのタネを増やすことができる。上手くいきそうなものは、自社のネットワークや資金を使ってスケールすることもできる。会社のビジョンやミッションから新規事業を模索していくことで、目先の利益を追うのではなく、長期的な視点でイノベーションを起こし続けられる組織に近づくのではないだろうか。 参照:

非エンジニア大歓迎!サンフランシスコのハッカソンで垣間見るイノベーションの源流

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デジタルテクノロジーが急速に進歩し、プログラミングスキルの重要性が唱えられるようになり、エンジニア人材もどんどん増えている。 ハッカソンはそんなエンジニアたちが集まり、そのスキルを使って新たなソフトウェア開発を行い競い合うコンテストだ。基本的には。 ここで「基本的には」と述べたのには訳がある。少なくとも筆者の住むサンフランシスコで開催されるハッカソンでは、ノンエンジニアたちの参加が少なくない。むしろ、エンジニアの参加者は全体の半数以下なのではと感じる場合もあるほどだ。 そこでは、従来的なエンジニアだらけのハッカソンの在り方を超えて、非テクノロジーの様々な分野とテックシーンにおける溝を埋め、参加者間で新たなコラボレーションが創造されている。つまり、サンフランシスコでは、デジタルテクノロジーを用いた新しいものづくりが、エンジニアだけでなくより広い人々の身近なアクテビティとして存在しているのだ。 そこで今までにない角度からのアイデアが生まれ、それがどんどん形になっていくのが最近のサンフランシスコのハッカソンシーンである。筆者はその流れに、近年日本でバズワード化している”オープンイノベーション”を促進するヒントが隠されているのでは無いかと考える。 ここで紹介するハッカソンの取り組みは、ビジネス業界の人々のみならず、行政や医療関係など非営利分野で活躍する人々にも、新たなモノづくりにおけるコラボレーションの手法として参考にしていただけるだろう。 今回は、新たなコラボレーションを醸成する手段としての側面から、筆者が実際に参加したハッカソンを紹介していきたい。

1. ヘルシーなハッカソン?ユニークな催しを盛り込み、これまでに無いデモグラフィをデジタルテクノロジー開発に呼び込む

筆者が最近参加したのは、メンタルヘルスの問題解決に特化した「Hack Mental Health」。心理学などの研究で有名なCalifornia Institute of Integral Studies (CIIS) で開催され、学生やエンジニア、デザイナーだけでなく、テーマに共感した健康志向の地元の住民、メンタルヘルスの問題を抱えた経験者たちやその家族らを含む350人以上が参加していた。 イベントの冒頭では、アメリカでは成人の5人に1人が年間を通して何かしらの精神的な問題を訴えており、特に1日中パソコンに向かうテクノロジー業界ではさらに深刻であるなどという事実が示された。 DSC_0299 このハッカソンで印象的だったのが、1日のなかにヨガや瞑想、ズンバやアートセラピーのセッションが組まれていたことだ。また、ハッカソンといえば会場に泊まり込み、配布されるレッドブルとピザを燃料に夜通しソフトウェア作りに打ち込むというイメージだが、メンタルヘルスがテーマのこのハッカソンでは、夜間のコーディング禁止ルールが存在、さらに提供される飲食物もGuayakí Yerba Mate(マテ茶)やフルーツチップス、野菜たっぷりのカレーや自然派グラノーラにヨーグルトと超健康的だ。これらは、テーマに共感した企業からの協賛で賄われている。 夕食前には、各界から集まったパネリストらによるメンタルヘルス分野とテクノロジーに関するトークも開催され、 新しい知見を得ることができ、とても有意義だった。これら全ての取り組みは、心と体の健康を忘れずに維持してほしいという啓蒙の意味で行われていたそうだが、会場はまるでメンタルヘルスフェスのようになっていた。 というのも、このハッカソンには、飛行機で5時間以上も離れたニューヨークなど東海岸のメンタルヘルス分野の人々までもが、志の近い人に出会えるはず!と多数参加していたのだ。これには開催側も想定外だったと驚いていた。 このハッカソンでは、ヨガや瞑想のワークショップを組み込み、提供される健康的なフードもイベント情報としてある程度事前に予告。内容もがっつりメンタルヘルスに寄せて、ヘルシーな香りを漂わせる事によって、 これまでハッカソン自体には興味がなかったような人までを参加者として取り込んだ。 結果的にこのハッカソンは、それまで交わることのあまりなかったデジタルテクノロジー開発者と健康志向な人々を一堂に会させ、新たなコミュニティ形成の種を巻くことに成功したと言えるだろう。 hackthon-food 左:提供された飲食物、右:ポストイットを使い、メンタルヘルスにおけるゴールをみんなでシェア(写真転載:HackMentalHealth 2018: “The Movement Has Begun” 関連記事:なぜサンフランシスコでは未来的なサービスが続々と生まれるのか?

2. 医者や活動家とのコラボレーション。より深いインサイトを取り入れ、お門違いなテクノロジー利用とさようなら

サンフランシスコでは、リベラルな気風も影響して、テクノロジーを利用し社会貢献しようというムーブメントが盛んだ。その傾向は、開催されるハッカソンにも色濃く出ている。 例えば、昨年末に筆者が参加した「Tech + Politics + Society + You 2017 Hackathon」は、選挙システムやメディア、ホームレス問題や災害時対応など4つのテーマに分かれて市民生活に関わる課題解決に取り組むハッカソンだった。また女性のエンジニアを増やすことに取り組むHack Bight AcademyGirls in Techが協賛した「Hacking for Humanity」では、主に女性に関係する社会問題の解決がテーマだった。また、プエルトリコにおける課題をみんなで100つのアプリを作って解決する「#100 Hacks Hackathon for Puerto Rico」などというものもあった。 この手のハッカソンで必ずあるのが、専門家や活動家たちのトークセッションやプレゼンテーションだ。これらはイベントの冒頭や期間中に設定され、参加者は関連テーマについての現状や課題についてを直接聞き、ハッカソンで取り組むプロジェクト内容に反映させていく。 「Tech + Politics + Society + You 2017 Hackathon」では、5つのトークセッションがあり、サンフランシスコや近隣都市の災害時緊急対策本部の担当者や実際に市民問題に取り組むスタートアップのメンバーなどが登壇。「Hacking for Humanity」では、DVの被害に遭っている女性をサポートする非営利団体などが活動における課題と現状を会場にシェアした。 DSC_0306 Hacking for Humanity の審査員たち また、専門家たちはトークだけではなく、メンターとしてイベント会場に常駐している場合も多く、参加者は、プロジェクトのコンセプトやアプローチを決める際にいつでも相談することが可能で、現場からのリアルなインサイトを得ることができる。 例えば、「Hack Mental Health」の会場には、精神科医やカウンセラー、心理学者がメンターとして参加していた。元々精神科における医師と患者のコミュニケーションを円滑にするサービスを考えていたチームは、メンターとして参加していた精神科医から、鬱や精神疾患の初期症状が不眠や頭痛、腹部の不快感などを理由に、精神科の前にプライマリーケアを訪れていることが多いという情報を受け、プライマリーケアの待合室でメンタルヘルスの状況を問診し、データを蓄積していくことで早期発見・治療を可能にするシステムの開発にピボットしていた。 医療や行政など、特定の現場で使われるシステムやサービスは、せっかくテクノロジーを駆使して開発されていても、現場の声が届いていないことが原因で、実際には使いづらいということや注目してほしい点がずれているということはよくあるそう。 筆者が参加したハッカソンでは、開発側と各分野の専門家や現場の人々が出会い、今後のシステム・サービス開発における協力関係を組むといった場面に度々遭遇した。 関連記事:【SXSW2017レポート】キーワードは「社会問題解決型」注目の最新テクノロジー5選

3. スキルの有無は問題なし。優秀なイノベーターは学び合いから生まれる

ハッカソンでありながら非エンジニアも気軽に参加できるのは、彼らを受け入れようとする開催側と参加者全体のオープンな雰囲気にある。むしろ初心者向けのコーディングワークショップからiOS・Androidoアプリ開発ワークショップ、チャットボット基礎クラスなどがハッカソン期間中に開催されることも全く珍しくない。 プログラミング経験ゼロの筆者がハッカソンデビューした「VR/AR Hackathon」では、ワークショップは開催されていなかったものの、アイディエーションやデザイン素材の収集といった面でチームメンバーとして参加することができた。 他にも実践的なスキルを持たない人やスキルはあれど今回作りたいプロジェクトにはそのスキルセットでは間に合わないという人は多く見られたが、開発技術以外のバックグラウンドをプロジェクト内容に反映していったり、インターネットを駆使して学びあったりしてそれぞれがプロジェクトに貢献する方法を探っているのが印象的だった。 関連記事:【ユーザー視点で考えるAI】チャットボットのUX設計実験を通してわかったこと さらに、開発中に技術面で困ったことがあれば、マンツーマンでサポートに回ってくれるメンターの存在がある場合もある。筆者のチームでも、「こんなシステムを作りたいのだけれど」という相談をした上でコーディングの指導を期間中みっちり受けながら開発したことがあったが、メンター側も新たなインスピレーションを得る機会としてエンジョイしていると話してくれた。 こういった背景から、ハッカソンを力試しの機会とする人だけでなく、学びの機会として捉えて参加する人もかなり見受けられる。 つまり、もはやハッカソンにおける審査で最も重要視されるのは、どれだけハイスキルでハイクオリティのプロジェクトができるかという技術的能力の高さではないということが、ここからわかるだろう。もちろん、短時間でハイクオリティのものが出来上がるに越したことはない。しかし一番重要視されているのは、グループとして生み出すものの影響力。つまり、そのプロジェクトが人々に与える、与えうる影響は何かというところだと筆者は感じる。 DSC_0303

まとめ

サンフランシスコでは、従来型の開発コンテストばかりでなく、メンタルヘルスや行政、ホームレスや女性問題など、社会に良いインパクトを与えることをテーマにしたユニークなハッカソンも頻繁に開催されており、各種ワークショップやトークセッションを盛り込むなど内容も単なるコンテストにとどまらない。 このようなハッカソンでは、非テクノロジーの分野とテクノロジーシーンをつなげる橋渡し的な役割を果たし、これまで二分されがちだったこれらの業界間を包括する様なコミュニティ形成の場になっている。 またハッカソン会場では、非エンジニアがプログラミングを学び始めるきっかけになったり、現場をあまり知らない技術者がより深く使い手の状況を理解しようと努める機会になるということが起きている。これまで交わらなかった人々がハッカソンというシーンを利用して、知り合い、刺激を受け、新しい動きを社会に作っていく。 近年、日本では世界から若干遅れを取りながらもオープンイノベーションを促進する動きが広まっているが、異なる世界に生きる人々が力を合わせて何かを作り上げようとするサンフランシスコのハッカソンは、まさにその源流とも言えるのでは無いだろうか。 オープンイノベーションのヒントとして、これからのハッカソンのあり方に注目したい。 関連記事: 参考:HackMrntalHealth (Medium)

企業の「性格」を表すブランドパーソナリティとは?

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ユーザーや顧客との接点を大切にするためにブランディングを強化する企業はますます増えている。顧客が商品1つを選ぶにしても機能面だけを見て決めることは今ではほとんどなく、商品そのものやそれを売り出している企業が持つイメージも顧客の購買意欲に大きく影響している。 関連記事:ブランドをビジネス価値に変換させる5つの構成要素【ブランディングの教科書 Pt.1】 そのブランド力を支える上で、顧客に与えるブランドイメージの根幹となる「ブランドパーソナリティ」はブランディングの中でも重要項目の1つとなっている。実際に多くの企業のブランドガイドラインではそれが明確に記載されている。今回はそのブランドパーソナリティの意味を確認し、筆者が実際にインタビューを行ったアメリカの大手地銀であるCapital Oneと日本に進出したばかりのQuoraという対照的な2社の事例を紹介する。

ブランドパーソナリティとは

ブランドパーソナリティは、パーソナリティ(性格)が含まれているように、企業の人格的な「個性」を表す。優れたブランドを持つ企業こそ印象に強く残る、統一されたブランドイメージを顧客に常に発信している。またその顧客もその商品を買うことでブランドイメージを自分のイメージに繋げ、自分としての個性を表現するものになる。 実際に、エッジの効いたブランドとして名が挙がるオートバイメーカーのHarley-Davidsonのパーソナリティは「荒削りで無骨な男らしさ」。そのバイクに跨がることで「ライダーの男らしさに磨きをかける」というイメージを浸透させた。そのブランドはアメリカ中西部から始まり、次第に世界中で大人気となった。今でもブランドロゴのタトゥーをいれるライダーもいるほど一定層の強い支持者がいる。 harley 「ハーレー好き」のライダーがコミュニティを形成し、お揃いの決まった格好をしてツーリングをする姿は、企業がブランドパーソナリティを巧みに顧客の感情に浸透させていった良い例だ。 そのほかにもユニリーバが持つ製品ブランドの1つであるDoveは「健全さ」「道義的」「純真さ、清潔さ」を商品パッケージから広告、SNS上でのメッセージまで巧みに表現。同社の男性用化粧品ブランドのAXEでは逆に「誘惑」「男らしさ」「常識にとらわれない自由さ」を表し、タバコブランドのMalboroも「男らしさ」に「自由さ」さらに「冒険的」といったパーソナリティが付随している。ここに挙げたブランドは読者の多くが目にしたことあるブランドだと思うが、このような特定のイメージはみなさんの多くが持つ共通イメージとしてあるはずだ。 dove-ad axe-ad malboro-adCMには多くのクレームが入るというAXEだが、ユーザーの「モテたい」というシンプルなニーズにマッチしたブランド・パーソナリティを上手く表現している このようにブランドがパーソナリティを持ち自己表現を行うことで、ユーザーとの関係性に強い影響を与え、顧客に対するブランドの立ち位置を明確に表現するのである。人で考えてみると、どんな振る舞いをするかでその人の性格が分かるように、ブランドとしての活動指針の軸となる性格を表現することがブランドパーソナリティの一番の役目である。 各企業は顧客との様々なタッチポイントにおいて、このようなパーソナリティを基に伝えるメッセージングにも統一性を見せていく。今回はその企業の数あるタッチポイントの1つに焦点を当てて、そこから考えるブランドパーソナリティを見ていく。

従来の銀行のイメージを改革するCapital Oneと日本進出で話題のスタートアップQuoraの事例を紹介

ブランドパーソナリティの実例を紹介するべく、今回Capital OneとQuoraの2社にインタビューを実施。彼らは先述したように堅い業界イメージのある銀行と人気スタートアップという、一見対照的な企業だが、どちらもユニークな形で自社のブランドパーソナリティの表現を巧みに行っている。そんな彼らが掲げるパーソナリティとその表現方法について話を聞いた。

1. Capital One

バージニア州に本社を置く大手地銀のCapital Oneは、堅いイメージが強い傾向にある金融界でも、クリエイティブな環境と新テクノロジーを積極的に駆使したイノベーションが特徴的な銀行である。実際にサンフランシスコには彼らのアクセラレーター・インキュベーター施設として最新テクノロジー開発を行うCapital One Labsが存在。彼らの取り組みは他の歴史ある銀行とは一味違う。 関連記事:【HBRが予測】既存の銀行の92%は10年以内に消滅する そんな彼らがブランドガイドラインで掲げているパーソナリティは以下の4つである。
  • Bold Challenger:勇敢なチャレンジャー
 イノベーティブリーダーとして良い変化をもたらすために業界に挑戦する
  • Straightforward:率直
 真正で、信用・信頼できる存在に
  • Advocate:顧客の代弁者
 自社だけでなく、常に顧客の興味を探し出す。未来に楽観的になり、顧客の成功をサポートする
  • Engaging:魅力的
 示唆に富むユーモア、ウインク、そして笑顔を持った親しみやすさを 1988年創業のCapital Oneは、創業者が未だに現CEOとして活躍しており、業界内でも非常に若い銀行である。その若さを生かし、率直さや親しみやすさといった従来金融界のキーワード以外にも、Bold Challengerといったイノベーション要素を取り入れ、業界の積極的な改革者という立場を貫いている。そんな彼らの独特なパーソナリティを体現した施策を2つ紹介しよう。

Capital One Cafe

capitalone-cafe1 Capital One CafeはCapital One銀行の支店兼カフェとなる施設で、口座を持っていない一般の人向けにもオープンされている。普通にカフェとして利用する客や、外でのミーティングを行う場所として、またコワーキングスペースのように作業をしに訪れる利用客も多く見かける。 クラスルームやワークショップルームも用意しており、定期的に一般向けにファイナンシャルプランの立て方や子供向けに賢いお金の使い方を教える講座等も行っている。 Capital One Cafeの特徴の1つは「アンバサダー」と呼ばれる案内・サポートスタッフの存在である。従来の銀行だとスタッフは窓口にいるが、アンバサダーはアパレル店員のように店内を自由に歩いている。丁寧かつ押しの強くない接客で利用客に圧迫感を与えないようにすることで、ユーザーに銀行との心理的な距離を縮めてもらうのが狙いだ。 capitalone-cafe 彼らは「企業の顔」として、接客から無料のクレジットスコア分析まで幅広くサポートを行う。”Straightforward”、”Advocate”、”Engaging”といったパーソナリティは顧客との人間的な接点で表現できると考え、体験型のブランディングを重視しているのだという。目指すものは新規顧客の獲得から既存顧客のサービス体験向上まで、と一見他の銀行と変わらない目的ではあるが、その方法は独特である。 「お金というのは非常に個人的なもので、それを話しやすいと思わせることはCapital One Cafeが提供できる体験価値の1つです」とアンバサダーの1人は語る。顧客に「個別の体験」を提供することを心がけ、それまで堅いイメージのある業界イメージを払拭しようとする心意気が表現されている。パーソナリティにある人間的な特徴をユニークに表現した事例だ。 従来の”お堅い金融業界”の殻を破り、銀行とカフェを融合させたCapital One Cafeは顧客への提供価値を上げるために単純に面白い試みを行っているのではなく、パーソナリティが背景に強く存在しているのである。このブランディング施策は着実にユーザーniCapital Oneのユニークかつフレンドリーな印象を与えている。

積極的なアプリ開発

2008年の金融危機がもたらした大きな影響の1つとして、アメリカの多くのミレニアル世代がこれまでの伝統的な銀行への信頼を失っていると言われている。この世代は古く堅牢なイメージのある銀行よりも、テクノロジーでお金の管理を求める傾向が強い。実際に最近ではオンラインバンキングが主流になりつつあるほか、DigitやMint、Chimeといった、スタートアップによる口座管理・貯金管理アプリを通じて自身の預貯金管理を行うことが人気になっている。 従来の銀行に逆風が吹く中でCapital Oneは社内で積極的にスタートアップのように新規アプリ開発を行っている。実際にカフェスペースとなる建物1階以外の階では”Capital One Labs”として常に自社アプリやAIの開発場所となっている。実際にインタビューで訪れた時も、開発段階中のクレジットスコア分析を行う「瞑想アプリ」を見せてもらった。従来の銀行としての立場を保ちながら積極的にテクノロジーをサービスに落とし込み顧客に提供している。 col-1 col-2Capital One Labs(写真はOffice Snapshotより引用) 関連記事:スタイリッシュなオフィスが企業に与える5つの価値 – イノベーションはオフィス環境から – もともとアンバサダーの立ち位置も従来の対面での手続き以外に、オンラインバンキングのサポートやこういった新しいテクノロジーサービスを紹介するという意味でも活躍している。顧客とのタッチポイントと近い場所で開発を行い、彼らのニーズに応えるサービスを提供しようとする姿勢が伺える。 Capital Oneがここまでテクノロジーに積極的になれるのは先述した企業の若さもあるが、社員にもその秘訣がある。Vice PresidentはPixar出身、他にもApple出身の社員もいるなどテクノロジー企業での経験豊富なスタッフが在籍しており、テクノロジー好きな人たちが集まるカルチャーができている。テクノロジーを積極的にバンキングに持ち込みたいという社員の気持ちが業界でチャレンジャー精神を持ちたいCapital Oneのパーソナリティを支えているのだ。

2. Quora

先日の記事でも紹介したナレッジ共有プラットフォームを提供するQuoraは著しい成長を遂げるスタートアップだが、彼らもまたブランディングに積極的に取り組んでいる。今回カリフォルニア州マウンテンビューにあるQuora本社にて、海外展開担当のトップであるシュレーヤス・セーシャサイさん、そして日本語コミュニティー担当のトップのフリーデンバーグ・桃紅さんに話を聞いた。 彼らのユーザーとのタッチポイントは何と言ってもユーザー同士が質問を行うプラットフォーム。「世界中の知識を共有し、深める」ことをミッションに掲げるQuoraも既存のQ&Aサービスとの差別化を図るために以下の2つをパーソナリティとして掲げている。
  • クオリティ重視
  • 丁寧さ
これらのパーソナリティーが彼らのサービスにおいてどう体現されているのか見ていこう。 quora1 ↑QuoraのHead of Internationalization シュレーヤスさんとHead of Community Japanese フリーデンバーグ・桃紅さん

クオリティを左右する“実名登録”

Quoraのブランドを語る上で一番重要なのはクオリティ重視の姿勢である。日本進出に伴い、Quoraについて取り上げるメディアは多くあるが、その内容について共通しているのが「質の高い回答が得られること」である。 そのためにQuoraが実施しているのは、他のQ&Aサイトとの差別化として同社が強く推している「実名登録」だ。これは本名の登録だけでなく、プロフィール画面で自身の経歴や背景の記入も求めている。そうすることで、記入者は自分の回答に責任を持ち、クオリティの担保につながるという仕組みだ。 また本名の使用は「丁寧さ」も体現している。相手を傷つけるような発言防止にも役立つため、結果的に様々なユーザーがプレットフォーム上でポジティブな体験を得られるようになっている。そうすることで、Quoraのポリシーでもある「他人へのリスペクト」を体現することができるのだ。他人の心無い回答を撲滅し、害となる情報やユーザーを排除した上で、本当のユーザーが求めている「正確で質の高い情報」を得られるようにしている。 この実名の使用により、政治家のバラク・オバマやヒラリー・クリントン、また業界を変えてスタートアップのCEOやその他各業界の著名な専門家まで回答を行っていることがわかる。このように著名な人物が回答を行っていることを可視化することで、ますますクオリティ重視を体現していることを伝えることができる。 quora2

クオリティ担保のための機能

Quoraではクオリティ担保のためにさまざまな機能が用意されている。その1つが「高評価システム」だ。これは、ある回答について正しいと思えば、それに高評価もしくは同意見(”Vote”)という形で投票することができるというもの。著名な専門家からそれが集まるほど信ぴょう性の高い情報ということになるわけだ。 人によって同じ質問でも違う回答があること、そして多くのユーザーがそういった様々な視点からの回答を期待することは事実である。1つの質問に対し1つの回答を選ぶのではなく信ぴょう性の高い回答を複数並べることで、ユーザーは「多くの考え方を学ぶ」ことが可能になる。同意見システムはそれを実現するために様々なクオリティの高い回答を残すことにおいて重要なシステムになっている。それに加え機械学習を使って情報の正しさや整合性も常に確認している。 また表示される質問のパーソナライズ化を行っているのもクオリティ重視を体現したポイントの1つ。ユーザーの居住地や興味を事前に把握することで、それぞれのユーザーに個別のフィードを表示するようにしている。 ちなみにこういったハイクオリティな情報を共有する姿勢は社内でも行われている。Quora本社では社員同士が集まって情報共有ができるように月曜日と金曜日のランチタイム後にカジュアルな全社ミーティングを行い、CEOにも直接質問ができるようになっている。企業としてのパーソナリティの一貫性が見えるストーリーだ。

遊び心の過ぎないデザイン

「丁寧さ」はプラットフォームのデザインからも見て取れる。信頼性の高い情報を共有することを一貫するために、あまり遊び心の過ぎないようなデザインや構成が施され、ブランドのトーンを統一させている。実際にこのプラットフォームを使うユーザー同士のインタラクションは見知らぬ人同士で行われるため、このようなイメージをビジュアルから演出していくことは実は大事なのだ。 quora-jpQuora日本語版ウェブサイト

まとめ

ブランドパーソナリティはこの2つの例のようにブランドと顧客の間に立つ重要な役割を担っている。逆にこのブランドパーソナリティが確立されてされていないと同じ取り組みを行なっていても顧客が受け取るイメージはぞれぞれ変わってきてしまう。 例えばCapital Oneが同じように実直で信頼できるような存在になろうとしても、フレンドリーさの代わりに真面目さをパーソナリティにした場合、顧客に与える印象は一気に変わる。最新テクノロジーを顧客に使いやすい形で提供する優しいイメージの企業になるか、それともそういったテクノロジーの最新性を常に追い求める貪欲なイメージを持つ企業になるか。どちらが正しいという話ではなく、企業が顧客に受け取ってもらいたいパーソナリティはこれだ、という意思表示と行動の軸になるのだ。 ブランドを構築する要素はパーソナリティに限らず他にも存在するし、ブランドガイドラインにはパーソナリティに触れない企業もある。しかし、このブランドパーソナリティはブランディングを考え直す企業にとってぜひ考慮すべき要素の1つだろう。

サンフランシスコが取り組む通勤イノベーション

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長時間に及ぶ通勤時間は誰にとっても疲れるものだが、実際にそれが従業員の健康と生産性に大きな影響を与えていることが明らかになってきた。今回はその影響の大きさと、それに対するサンフランシスコ・ベイエリアでの取り組みに注目してみたい。

長い通勤時間が社員に与える影響とは

今年5月、社員の通勤時間と健康、そして生産性の関係についてイギリスの保険会社VitalityHealth、ケンブリッジ大学、ランド・ヨーロッパ研究所、さらに人事マネジメントコンサルティング会社のマーサーにより興味深い調査結果が発表された。イギリスで働く従業員34000人以上を対象にしたこの研究結果によると、通勤に長時間を費やす人はそうでない人に比べて鬱に苦しむ傾向が33%、金銭的な心配事を持つ傾向が37%、そして仕事関連のストレスが複数あると答える傾向が12%高くなり、精神健康上ネガティブな効果があると発表された。 加えて、欧米で推奨されている7時間睡眠を取れていないと回答する傾向は46%、そして肥満になる傾向は21%高いという結果も出た。最終的に通勤時間を30分以内で収めている従業員は1時間以上かけている人に対し、生産性が年間7日間分高い、と結論づけている。 同様に西イングランド大学でも通勤時間の長さと幸福感の減少についての研究がつい先日発表されたばかり。研究を率いたキロン・チャタジー准教授は、特に自由時間の損失が幸福感減少に影響していると論文内で述べている。 一方、長時間通勤が仕事や自由時間への満足度に影響しているのに対し、生活全般での満足度が下がることがなかったという。これは、仕事や家族のために長時間通勤は必要なものとして従業員が理解しているから、だとされている。 通勤に時間がかかってしまうほど、その悪影響が仕事に返ってくる。この悪循環を解決するためにも対処法が求められている。

地域全体で取り組むサンフランシスコ・ベイエリアの施策

日本ではこれまで住宅手当や最近では在宅勤務等、社員の通勤時間に配慮した取り組みが企業で行われてきた。しかし、満員電車に乗って体力をすり減らしながら出勤する姿は今でも日本のサラリーマンを思い浮かべるときの代表的なものであり、改善はこれからも必要である。 似たような状況はアメリカ、特にサンフランシスコ・ベイエリアでも起きている。サンフランシスコ周辺は最新テクノロジーの中心地として世界中から人が集まり、その人口は年々増加。電車通勤を行う人の数ももちろんだが、車で通勤する人が多いこともあり、朝の通勤時の交通渋滞は以前から問題視されてきた。INRIXによる交通渋滞ランキングにおいて、サンフランシスコはデータを集めた世界の38カ国、計1064都市の中で4位と高い順位にある。 2015年のアメリカ合衆国国勢調査局の調査結果によると、サンフランシスコの平均通勤時間は片道で31.7分。同年のNHK放送文化研究所の調査結果では、日本の平均通勤時間は1時間19分、片道で39.5分となっており、東京だとその数字は1時間42分(片道51分)まで伸びる。 一概に時間を比べるだけの単純な問題ではないが、人口密度が東京よりも高いサンフランシスコでこれだけの時間差があるのは興味深い。サンフランシスコでは一体どのような方法で東京の半分程度の通勤時間が実現しているのだろうか。 commute-timeBusiness Insiderの記事より引用 ちなみにアメリカでは日本のように通勤手当や住宅補助といった福利厚生は基本的に存在しない。一般的にアメリカ企業では、通勤時間は個人的な時間とされているのが理由である。そのような環境で従業員はどのように通勤時間を短縮しているか。サンフランシスコ・ベイエリアで見られる施策をいくつか紹介する。

1. 通勤車・社員専用バス

これを知っている読者の方は多くいるかもしれないが、Googleの社員専用シャトルバスは有名である。車内ではWiFiを提供し、社員はそれまで運転していた時間をそのまま仕事に回すことができる。普段は渋滞なしでも1時間ほどかかるサンフランシスコ市内ーシリコンバレー区間を運行することで、高給料を得るテック企業の社員がシリコンバレーから離れた地域にも住めるようになった。 結果的にバスが停まる他の地域のアパート賃料が高騰し、4年前には市民による抗議活動が起こる社会問題にまで発展。比較的貧しい層が多く住む地域に、経済的に豊かな人々が流入する人口移動問題(ジェントリフィケーション)だという話にまで膨らんだが、現在は落ち着きを取り戻し、今も特定企業の社員の通勤の足として利用されている。 このように特定の企業だけでなく、一般利用者向けにシャトルバスを提供するサービスもいくつか存在する。Chariotもその内の1つ。バスのようにそれぞれ特定のルートを走る小型シャトルが用意されており、利用者はその中から1つ選びそのルートに沿って自身の乗降場所を決める。チケットは低価格で事前購入でき、あとは当日決められた場所と時間に行くだけ。支払いの手間もなく、席も確保されているのでスムーズな通勤が可能である。
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chariot4Chariotウェブサイトより引用

2. カーシェアリング

世間一般的に知られるようになったカーシェアリングである。サンフランシスコ生まれのUberLyftと呼ばれる配車サービスにはもともとベイエリアの渋滞問題の解決を期待されて誕生した背景があることから、通勤時に利用する客も多い。基本的にタクシー感覚で必要な時にその都度車を呼ぶ、というのが基本的な使い方であるが、事前に行き先と時間を登録した上で通勤用の予約を入れられるサービスも提供している。 出勤時に同じ方向に向かう、全くの他人同士を独自のアルゴリズムでマッチングさせ、効率の良い通勤を実現させた点はサンフランシスコらしさを感じる点だ。 似たような形でScoopと呼ばれる、通勤自動車の乗り合いサービスを提供するアプリも存在する。このアプリでは勤務先の住所やエリア、時間を事前登録することで特定のコミュニティに参加し、それから同乗者のマッチングを行うサービスを提供している。UberやLyftは運転手がドライバーとして収入を得るのに対し、Scoopは運転手自身も通勤に行くところが違いだ。 こういったアプリの他に、「タクシー乗り場」ならぬ「カープール乗り場」という形で、オフラインで同乗者・車を探す方法も存在する。下のように「カープール」と書かれた標識の場所には乗り合わせで通勤したい人が列をなし、そこへ同乗者を必要とする自動車が随時ピックアップに来る、というシステムになっている。 行き先は通常1カ所のみ、オフィス街で市が定めたカープール専用の乗降場所で乗客は降りる。同乗者は運転手に1ドルを渡す、という「暗黙の了解」もあるほど、この制度は市民に浸透している。 carpool1 通勤に向かう運転手にもメリットを与えることで、このカープールシステムは成立している。車で通勤する人が他の同乗者を乗せることで、車は州が定めた同乗者専用レーンの走行が可能。カリフォルニア州では、ひし形のマークが書かれた走行レーンは「カープールレーン」と呼ばれ、2人もしくは3人以上乗せた自動車の専用レーンとなっている。特に渋滞がひどくなる箇所に導入されており、特に平日の通勤時間では1台につき3人以上を乗せた車だけが通れるようになっている。 運転手へのメリットは他にもあり、カープールレーンを走ることでサンフランシスコを繋ぐ2つの橋、オークランド・ベイブリッジとゴールデン・ゲート・ブリッジの通行料金も安くなる。ベイエリアから毎日車で通勤する人にとって時間とお金を節約できるシステムを提供しており、交通渋滞問題も緩和されるようになる、という仕組みだ。

3. レンタルスクーター・自転車

サンフランシスコを歩いていると同ブランドのスクーターや自転車で通勤している人を多く見かける。これはレンタルのもので、スクーターだとScoot、自転車だとFordのロゴが大きく入ったFord GoBikeをみる。市内に数多くのステーションが設置されており、手軽に利用・返却ができる点が魅力的だ。 rental ちなみにNinebotというサービスでは車や自動車以外の通勤手段としてセグウェイや電動一輪車を提供。市や企業がこういった乗り物での通勤を許容している点も興味深い。 ninebot1Ninebotウェブサイトより引用

4. 総合交通拠点となるSalesforce Transit Centerの建設

欧米では地球環境やエネルギーの節約を考慮した都市計画が進んでおり、社会貢献の意識が強いサンフランシスコではその姿勢が特に見受けられる。現在建設中のSalesforce Transit Centerはサンフランシスコで走っている様々なバスや鉄道路線、上に挙げたカーシェアリングの自動車やその他交通手段が集まる場所としての役割が期待されており、市民が自動車以外でも通勤できるよう整備が進められている。 これまでサンフランシスコーシリコンバレー間を結んでいた高速鉄道、CalTrainのサンフランシスコ側の終着地点はこの施設まで延伸する予定。さらにこれとは別にロサンゼルスーサンフランシスコ間を結ぶ予定のカリフォルニア高速鉄道もこの施設に乗り入れるように開発が進んでいる。 このトランジットセンターでは他にも商業施設やレクリエーション機能を持たせ、市民のコミュニティ形成が活発になるような取り組みが行われている。このように総合的に公共交通の集約を行うことで市民の通勤の効率改善を行い、また国際的都市としての都市機能の見本市にもなろうとしている。 stc3 stc4Salesforce Blogより引用

5. フレキシブルなワークスタイル

ラッシュ時の通勤で受けるストレスを回避する解決策の1つはその時間を避けること。サンフランシスコでフレキシブルなワークスタイルが推奨されている理由の1つは、このように渋滞に巻き込まれて本来仕事ができる時間を無駄にしてしまうことを避けるためである。 ちなみにベイエリアの東、イーストベイと市内を結ぶように鉄道路線が敷かれており通称BARTと呼ばれているが、この鉄道では昨年8月末から今年2月までの半年間試験的に利用者に混雑時の利用を避けてもらう施策、BART Perksを実施。 Clipper Cardと呼ばれる、日本でいうSuicaやPasmoといった電子カードを使い、混雑のピークとなる7時半から8時半の利用を避け、6時半から7時半、もしくは8時半から9時半の利用者にポイントを付与。それを貯めることで抽選に応募でき、キャッシュバックが行われるシステムとなっている。プログラムには約18000人が参加、うち67%がこのプログラムに満足しているというアンケート結果も出ており、市民の通勤姿勢に変化をもたらしている。 bart1 記事冒頭で紹介したVitalityHealthらによる研究結果でも、フレキシブルなワークスタイルの提供はいくつかある通勤ストレス回避の中でも比較的導入のしやすい施策であり、企業としても実践するべきだと述べられている。また、その実施によるストレスの減少と健康的な生活の提供は従業員に提供できる会社としての大きな価値である、としている。

まとめ

アメリカは日本よりも自動車志向型で車通勤も多いことから、日本でも上記全てをそのまま真似できるということはない。しかし、社会全体が一丸がより多くの交通手段を提供し、企業が労働時間の柔軟性を許容して混雑を分散させることで通勤時間問題は改善が見られそうである。すべてが一丸となって取り組まねばならないからこそ、この通勤時間問題は働き方改革の重要な側面の1つであるように思う。 「仕事は私たちが行う活動のことであって、『行く場所』ではない。」イギリスでスマートワークスタイルを推進する非営利組織、Work Wise UKのフィル・フラックトン氏の言葉にもあるように、この記事が働き方を見直す1つのきっかけとなれば幸いだ。 *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。