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企業文化を保つためにAirbnbが取り組んだオフィス拡張計画とは?

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スタートアップがひしめく街、サンフランシスコにはユニークなオフィスが多く存在する。 その中でもここ1年で特に大きな注目を浴びているのが、民泊サービスを中心に提供するAirbnbである。今回は彼らが2017年7月にオープンした、14,000ft²(約1,300m²)に及ぶ新社屋の中身をご紹介する。 注目するのは999 Brannanという場所にあるオフィス。その住所からわかる通り、1ブロック離れた888 Brannanに建つ本社ビルの拡張プロジェクトとしてデザインが施された。 これは同社のオフィスを担当する環境チームが取り掛かる最大のプロジェクトで、サンフランシスコのオフィスデザイン事務所、WRNS Studioと行った。

新たなオフィスが必要となったAirbnbの急激な成長スピード

2008年8月の創業以降、Airbnbは10年足らずで192カ国65,000の都市にサービスを展開。昨年の投資ラウンドでも資金調達に成功し、その時の企業価値は310億ドル以上と多くのメディアで取り上げられた。 企業価値の予測を行うTrefisは今年5月に同社価値を最低380億ドル以上としており、今も右肩上がりの様子だ。 そんなAirbnbは社員の約半数に当たる1,500人をサンフランシスコ本社に置いている。今回の新社屋である999 Brannanオフィスは800人から最大1,000人を収容できるスペースとなっており、同社は今後サンフランシスコの社員数を現在の2倍の3,000人にまで増やしていくとのこと。 この新社屋がオープンした翌月8月には、これまでソーシャルゲーム最大手のZynga本社だったオフィスビルを新たにリース契約した。99 Rhode Islandにあるオフィスも含めると、Airbnbは現時点で4つのオフィス、総面積で650,000ft²(約60,390m²、約18,270坪)ものスペースをサンフランシスコ市内で持つことになる。 Airbnbオフィスは今まさに「都市型コーポレートキャンパス」形成の真っ只中にあり、今後も成長が窺える。 関連記事: airbnb-map-fr

すでに立派なAirbnb本社オフィス:888 Brannan

『ブランド戦略 × オフィスデザイン ー 成功事例に見る企業ブランド構築手法』でも紹介したように、888 BrannanにあるAirbnb本社は企業理念である「暮らすように旅しよう」を表現した特徴のあるオフィスデザインが有名である。 下の写真のように、世界中にある掲載物件をイメージした空間づくりを徹底して行っている。このように実際にAirbnbのサービスを利用するユーザーと同じ環境を作ることで、社員に向けて常にユーザー視点に立ったサービス設計を行う姿勢作りを促しているのである。 airbnb-lobby-fr airbnb1-fr airbnb2-fr888 BrannanにあるAirbnb本社(写真はMark Mahaney)

本社拡張でAirbnbが見据えた3つのポイント

先に挙げたようにAirbnbの「都市キャンパス」化を進める上で通過点の1つとなる今回の999 Brannanオフィスだが、オフィスを拡大させていく上で同社が特に注意を払っていたポイントは次の3つだと見ている。

1. 立地は本社の近く

都市型コーポレートキャンパスを形成する上でオフィス間の距離を近くすることは尤もであるが、その背景に「社員の協業をより促すことができる」というポイントがあることは常に覚えておきたいところ。 近年リモートワークを可能にするテクノロジーが増えていく中で、企業がオフィスに求める役割のうち、「社員同士の協業・コラボレーション」が以前にも増して大きくなりつつある。 実際に今回の新社屋は本社から1ブロック離れた立地に存在し、新たに契約したZynga本社ビルもさらに1ブロック離れた地域に存在。オフィスが市内の1箇所に集中する様子は記事冒頭で紹介した地図にある通りだ。 今回の新社屋デザインに際し、Airbnbの環境チームは社員の提案や意見に積極的に耳を傾け、ブートキャンプスペースやヨガスペース、日本の禅をテーマとしたフィットネスセンター等、新たに必要とされたスペースをこの新社屋に導入した。 キャンパス内にいる社員全員にこれらのサービスを提供し、全オフィスを通してワークスペースの機能を高めることができるのも、すべての社屋が徒歩圏に立地しているからならではである。

2. 1人あたりのデスクスペースは縮小

今回の新社屋では、1人あたりのデスクスペースが通常のオフィスよりも小さく、社員1人あたり220ft²(約20.4m²)から150ft²(約14m²)となっている。これは近年成長を見せるテクノロジー企業に共通して見られる特徴である。 つい最近までは社員1人ひとりに幅広いスペースを提供するというのがオフィストレンドの主流であったが、サンフランシスコを中心に高騰を続ける賃貸料は、オフィス拡張を行いたい企業の1番の悩みのタネとなっている。Airbnb広報のMattie Zazueta氏は「オフィススペースの効率利用に最善を尽くしている」と語る。 ともなると、オフィススペースの密度が課題となりそうだが、この新社屋では建物の特徴であるガラスのフレームワークを上手に活用し、開放感のある空間作りに注力している。建物の特徴を活かしたデザインを施すのが西海岸デザインの特徴であるが、この新社屋はその好例の1つでもある。 airbnb-new1 airbnb-new2 airbnb-new3 オフィススペースはビル全体で16の空間に分かれており、それぞれ50人ほど収容できるようになっている。 各空間にはオーダーメイドのテーブルやスタンディングデスク、3つの通話ブース、そしてオープン/クローズ両方に対応可能なガレージ型ドアを備えた最大30人収容可能なミーティングルームを入れている。様々な働き方に対応できるスペースを用意しているのだ。 airbnb-amsterdam-fr airbnb-floormap-fr airbnb-sketch-fr

3. 全オフィス一貫した空間づくり

888 Brannanの本社オフィスの拡張計画として始まったこの999 Brannanオフィスだが、本社同様、各スペースは世界中にある建物空間の特徴を捉えた様相になっている。そのような統一感を複数のオフィスで持たせることが同社環境チームの仕事の1つだ。 日本の京都やアルゼンチンのブエノスアイレス、インドのジャイプルにオランダ・アムステルダムは実際にこの新社屋で取り入れられたテーマだ。その文化や色彩パターンが各フロアにあるカフェに反映されている。 また世界にある空間の再現を行うだけでなく、「社員のためのオフィス作り」や「企業ブランドの統一」を図るための取り組みも同チームは行っている。 Employee Design Experience (EDX) というプログラムを通じて、実際に社員を最後のデザインタッチ作業に巻き込む。そうして、Airbnbという同社ブランドの一貫性を全オフィスで保つように、社員のアイデンテティが刷り込まれた空間作りを行っている。 airbnb-office1-fr airbnb-office2-fr airbnb-office3-fr写真はMariko Reed 実際に同社は2016年に宿泊場所だけでなく、旅行ツアーや体験を提供するサービスも始めていることから、社員がオフィス体験を向上させる取り組みに加わることはユーザー体験を大事にする同社にとって大きな意味を持つのだ。 このような空間で、Airbnb社員は今日も顧客をイメージしたサービス設計に携わっている。

オフィス拡張?コーポレートキャンパス?それとも第2本社?

今回の999 Brannan新社屋はAirbnb本社の拡張案件として完成したが、同社が周辺物件の契約を結んでいることから、都市型コーポレートキャンパスを形成しつつあるのは記事冒頭で触れた通り。 近年大企業になるほどオフィスに求める機能というのは個別化し、オプションは多岐にわたる。コーポレートキャンパスを都市部に作るか、それとも郊外に作るか、はたまた第2本社オフィスを建設するか。オフィスは今まで以上に企業の成長戦略と密接した存在になりつつある。 今後会社が成長するにつれて自分のところではどのようなオフィスを持つべきなのか?本ブログでは、今後も海外事例を取り上げていきたい。 *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。

世界4大IT企業“GAFA”に学ぶ次世代の働き方 (前編) -コーポレートキャンパスの実態を探る

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仕事の作業スペースに留まらず、生活に必要なほぼすべての機能を広大な敷地に内包するコーポレートキャンパス。 スポーツ設備や娯楽施設、カフェテリア、ヘルスケア施設に移動手段となる通勤バス等をすべて無料で社員に提供し、カジュアルな格好に自由な就労時間という環境を整えたこの「キャンパス型オフィス」は、今日のワークスペースの中でも最高レベルの施設だろう。 今回はそんなコーポレートキャンパスについて、前後編の2部作にわたってお送りする。世界の大企業が社員の働き方改善のために取り入れたワークプレイスとはどのようなものだろうか。本記事では、コーポレートキャンパスの紹介とその歴史について触れていく。 関連記事:これからの企業に不可欠な三種の神器とは

コーポレートキャンパスとは

googleplex 「コーポレートキャンパス」と聞いた時に一番に思い浮かぶのが、カリフォルニア州マウンテンビューにあるGoogle本社のGoogleplexだろう。「キャンパス」という言葉が入っているように、コーポレートキャンパスには大きく次の3つの特徴がある。

1. 広大な敷地と仕事用作業スペース

「キャンパス」と呼ばれる所以は、ある程度の人数がそこで共同作業を行えるというところにあり、実際にここで紹介する企業も1つのキャンパスに数万人単位の作業スペースを充実させている。比較的に大きなワークスペースになるので最低でも数百人単位になる。 郊外にあるキャンパスならばそれを実現しやすいし、都市部にあるものでも高層ビルや近い建物とのツギハギでキャンパス化を行うことができる。この広いスペースはもちろん仕事の作業以外のスペースにも充てられる。

2. 娯楽・生活スペース

次にキャンパス要素として挙げられるのは、生活スペースや、それを通じて人とのつながりを作る社交的な環境だ。大きな企業になればなるほど社員同士のコラボレーションや共働というのは大きな課題となる。 カフェテリアやジム、運動場等が学校キャンパスにあるように、社員が集まってミーティングをする場所だけではなく、予期せぬ場所での社員同士の偶然の出会いが起こるような動線設計も必要だ。またクリニックのように、社員の健康維持をサポートする施設もコーポレートキャンパスに見られる特徴の1つである。

3. 自然豊かな公園施設

他の単なる巨大オフィスには無くてコーポレートオフィスにある特徴は、庭があること。室内や室外にかかわらず、自然豊かな公園スペースを確保し、社員のインスピレーションの源となるような環境があることもコーポレートキャンパスと呼ばれる条件の1つだ。 google-newcampus BIG & Heatherwick StudioによるGoogleの新キャンパスのデザイン こうして他に類を見ない充実した施設とそこでの社員の自由な働き方はこの種のオフィスの最大の特徴だ。そして、先述のGoogleを含めた世界の4大テクノロジー企業と言われているGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の本社はすべてこのコーポレートキャンパスの形態を取っている。 そんなコーポレートキャンパスはどのように成り立ってきたのだろうか?

コーポレートキャンパスの歴史

BL-TransitorTeam Bell Labsのトランジスタチーム(写真はComputer History Museumより) もともとコーポレートキャンパスは、アメリカ国内においてリサーチサイエンティストやエンジニアのための研究開発施設として誕生した。最初に作られたのは、アメリカ最大手の電話会社、AT&Tがニュージャージー州に1942年に建てたとされるBell Labs。 初期のコーポレートキャンパスはアイビーリーグの大学キャンパスのように、草木が生える自然豊かな中庭が存在し、穏やかで安全な場所で研究開発に集中できるように設計されたワークプレイスだった。 当時のコーポレートオフィスは、インダストリアルパーク、リサーチパーク、もしくはテクノロジーパークと呼ばれ、その名が表す通り産業と科学の融合を実現させる先進的な設備であると同時に、自然を享受する場所であった。 このBall Labsに続き、1950年代にはGeneral Motors、General Electric、IBMそしてGeneral Life Insuranceといった企業が、広い敷地が確保できる郊外に同様のコーポレートキャンパスを建設した。 bell-labs Bell Labs(写真はTypology: Corporate campusより) radcllife-quad アイビー・リーグを代表するハーバード大学の中庭、ラドクリフクアッド それまで都市部にオフィスを持っていた大企業が少し離れた郊外にコーポレートキャンパスを建てたことは、当時の人口移動問題に繋がった。1950年代、戦後のアメリカにおいて都市部の人口は溢れ、さらに市民は人種ごとに分かれて暮らし、不安定な治安状態であった。その中で中流・上流階級の白人が、非白人の多い都市部から郊外へ移る、いわゆる「ホワイトフライト」が発生。 コーポレートキャンパスには高学歴の白人研究員が多く集められたこともこのホワイトフライトを起こした要因の1つとなった。

キャンパスで育まれる企業文化

その後、コーポレートキャンパスは物理的に設備の整ったワークプレイスであるという点以外にも、「文化的、そして社交的な場所」、つまり社員同士が仕事以外にもつながりを構築できる場所だという認識が形成されていった。 アメリカの大学キャンパスが単に勉学を行うだけの場所ではなく、時には課外活動や、スポーツ、社交的活動を通じて学生生活そのものを豊かにする場所であるように、コーポレートキャンパスもただ仕事をするためだけの場所ではなかった。社員の共同体意識や地域社会的意識を育むには最適で、彼らの生活全般を良くするものだったのである。 関連記事:オフィスデザインの軸となる“企業文化への理解”とは 実はコーポレートキャンパスが持つ文化的な側面は、今日テクノロジー企業が多く集まるサンフランシスコ・ベイエリアの文化と密接な関係があると言われている。それはコーポレートキャンパスの誕生の背景が、1960年代にサンフランシスコで発祥したヒッピー文化の考え方に非常に近いということ。 当時ヒッピー達はすでに文化が出来上がっている先進地域から離れて、自然のある場所で近しいマインドセットをもつ人々と独自の集落を作り、自らのルームを決め、自分を解放した。その姿が、テクノロジー企業が郊外に自らの企業文化で固めたキャンパスを作る姿と重なるというのである。 機能的な部分で評価されることが多いコーポレートキャンパスだが、実は企業のマインドセットを社員に反映させる上でも重要な役割を担うことが時代とともに認識されるようになった。このように社員の包括的なオフィス体験を高め社員の成長を実現させるにつれて、コーポレートキャンパスは進化を遂げながら、研究職以外の一般社員用のオフィスにも適用されていった。 オフィスはそれまであった従来のワークプレイスの常識から抜け出し、レクリエーション施設やカフェテリア、ソーシャルスペース、簡単な買い物やサービス施設を含むところまで拡大。社員がコーヒーを飲んだりテニスをしたりすることはあくまで企業が提供するワークスタイルをこなしているに過ぎない、という考え方が一般的になっていった。

21世紀のキャンパス

そのように少しずつ改善を続けてきたコーポレートキャンパスだったが、1990年代から在宅勤務の考え方や一部作業のオフショアリングが少しずつ広まるようになり、「社員が常にオフィスにいる」こと自体が少なくなった。それに合わせ、コーポレートキャンパスの機能にも変化が見られるようになった。 企業は社員にオフィスに来たいと思わせるような工夫として、上に挙げた施設以外に実際に食事を作れるスペースやリビングルームのような生活空間を漂わせるような空間づくりを行った。 さらに自身で運転する代わりにインターネットに接続可能な企業専用通勤バスも提供し、自宅にいてもオフィスにいても時間を有効に使いながら仕事と生活行動のほぼ全てを行うことが可能になった。そして今日のコーポレートキャンパスは私たちがGoogleplex等で知る仕様になっている。 企業が現代のコーポレートキャンパスに求めるものは、最終的には社員同士の出会いと共働である。今キャンパスに置かれている公園や娯楽施設、生活スペースは自宅にいても同機能を利用することができる。しかし、同僚に会えるのはこのコーポレートキャンパスなのだ。 これこそ今日のコーポレートキャンパスがワークライフインテグレーションを支える理由であり、そのキャンパスがオフィスの仕様を超える目的である。仕事と生活の一体化こそ、コーポレートキャンパスが実現する新たなワーク/ライフスタイルだ。 lego-campus デンマーク・ビルンに2019年完成予定のLEGO Campus ここに現時点で企業のコーポレートキャンパスが提供する施設・スペースを並べてみた。このリストを見てみると、現代のコーポレートキャンパスがもはや単純に「オフィス」とは呼べないほどの施設になっているのがわかる。
  • カフェテリア
  • バー
  • 保育施設
  • 美容室・ヘアスタイリングルーム
  • ランドリールーム・クリーニングサービス
  • 温泉・スパ・サウナ
  • 病院
  • ゲームルーム
  • 仮眠ルーム
  • マッサージルーム
  • ジム
  • スイミングプール
  • バスケットボールコート
  • ハイキング・ジョギングコース
  • 自転車修理
  • 公園
  • 映画館
  • 植物用温室
このような巨大キャンパスを持てるのは世界でも一握りの企業ではあるが、世界的に著名なテクノロジー企業GAFAを中心とした資金力のある企業は次々と建設を進めている。彼らが持つコーポレートキャンパスから見えてくるものは何か?後編で触れていくことにする。 参考: "The New Corporate Campus" "Modernism, Postmodernism, and corporate power: historicizing the architectural typology of the corporate campus" "The rise of the corporate campus" "Upbeat Site Furnishing – A LOOK INSIDE WHAT’S SHAPING THE NEW CORPORATE CAMPUS" *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。

ブランド戦略 × オフィスデザイン ー 成功事例に見る企業ブランド構築手法

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企業・組織の成長に欠かせないとされるブランディング。特にビジネスにおいては企業と顧客の接点を作る上で非常に重要になるものだが、そのブランディングをオフィスでも行う企業は増えている。なぜオフィスがブランディングの舞台となりうるのか。5つのアメリカ企業の例を紹介する。 関連記事:UNIQLOも導入!日本の働き方を変えるアメリカ西海岸のオフィスデザイン

なぜブランディングをオフィスで行うのか?

まず念頭に置いていただきたいのが、本記事で取り上げるブランドとは数あるブランドの中でも「企業ブランド」であること。企業ブランディングとは自社企業に対して顧客に持ってもらいたい感情やイメージを設計することであり、その結果生まれる「企業ブランド」が企業と顧客との感情的な接点となる。 特にオフィスは企業・顧客間の物理的な接点になる場所の1つであるのはもちろんだが、また社員と企業の重要な交流の場でもある。このように様々な接点を生むオフィスは企業のブランドやそのストーリーを伝えるのに最適な場所の1つなのである。 オフィスでブランドを表現する際、それは「ロゴや色だけで完結するもの」だと思いがちだ。しかしこれは大きな間違いで、企業の芯となるオフィスだからこそ、むしろ企業のカルチャーや社員の働き方を的確に表現する必要がある。ときには企業の経営戦略やビジネスにおける包括的なゴールを見据えながら、なりたいと思う将来の像を具現化することで、顧客や社員に魅力を与え続けるブランドを確立することが可能になる。 brand-expression ↑Steelcaseによるレポート”Brand, culture and the workplace”より引用。やはりロゴを散りばめる等でブランドを表現している企業は70%と多くいるが、それで十分なブランディングができているとは言えない オフィスにおいて企業のカルチャーとブランドは混同してしまいがちだが、カルチャーが社員のアイデンティティだとするならば、ブランドは企業のアイデンティティだと捉えられる。オフィスはこの両方をバランスよく表現するべきで、ブランドを通して企業がなりたいと思う理想と近しいカルチャーを構築できる人材を獲得し、そこでできたカルチャーでブランドをさらに強化していくという相互間の関係性が大切になる。 それではそのブランドを上手にオフィスに落とし込んでいる企業5つを紹介しよう。

ブランドを巧みに表現したオフィスを持つ企業5選

1. Airbnb: 暮らすように旅しよう

airbnb-lobby 話題の「民泊」サービスで世界を牽引するスタートアップ、Airbnb。サンフランシスコでも特に名の知れた企業であるが、その本社オフィスは彼らが提供するサービスとそれを実現する企業のビジョンを明確に表現している。 倉庫跡を利用した広々としたスペースのオフィス建物には大小いくつものミーティングスペースが用意されているが、その中で1つとして同じデザインのものはない。それぞれのミーティングルームは実際にAirbnbで掲載されているスペースを再現しているのである。 フロアやエリアごとに「ブエノスアイレス」「京都」「アムステルダム」といった世界の都市をテーマに掲げ、色のパターン、材質等でローカルの雰囲気を表現。社員はオフィスにいながら世界中に登録されている物件を味わうことができる。 airbnb2 このようにAirbnbの本社オフィスは彼らが提供するグローバルスケールなサービスをデザインで表現している一方で、それを利用する社員の「ローカルとしての意見」にも気を配った。同社は今回デザインを決定する前段階で、社員に”Employee Design Exeperience”と呼ばれるプログラムを提供。世界にある実際のスペースを再現しながら、同時に本社にいる社員にデザインの最終的なタッチを手伝ってもらい、彼らのアイデンティティを落とし込んでいった。 「暮らすように旅しよう」という同社のステートメントにあるように、「現地の住民のような生活で得られるリアルな体験」と「ユーザーが持つ独特な視点」の調和で限りない体験価値を提供していくという彼らの姿勢が、オフィス全体で強く伝えたいメッセージとなっている。 airbnb1 今回画像を用意することはできなかったが、社内には人を撮った写真がいくつも飾られており、その被写体は実際にスペースを貸し出しているユーザーだ。Airbnbは彼らあってのサービスであるため、「そのユーザーのためにサービス開発を行っていく」という思いを常に持ち続けるようにしているという。 誰のためにより良いサービスを求めていくのか、社員全員が常にその意識を持って仕事に取り組めるよう、オフィス環境からその風土を整えている。ユーザーとの接点を常に意識する姿勢を表現しているAirbnbオフィス。この場所は訪れる人すべてに、彼らがいかによりよいサービスを追求しているのかを強く伝えている。

2. Ancestry: 科学とテクノロジーで自己発見を

ancestry Ancestryは戸籍制度のないアメリカにおいて、ユーザーに自分の先祖やルーツを調べることができるサービスを提供している。入国記録や移民記録、婚姻記録に兵役記録に至るまで様々なデータを活用し、家系を辿っていく。そうすることで「人のつながり」を見ていくことを可能にしている。 だからこそAncestryがこのオフィスを作る上で重視したのが、彼らが持つテクノロジーを通じていかに人間味を表現できるか、というところだった。その背景から、オフィスの壁には自社サービスを通じて社員自身が見つけた、まだ見ぬはるか遠い親戚の写真と社員自身の写真が2つ並んで掲示されている。 こうして写真を2枚並べることで、扱うものはテクノロジーだが、それを使って提供したいことは「人のつながり」を見つけ出しユーザーの感情に訴えかけるもの、という企業の想いが強く伝わるようになっている。 ancestry2 またオフィス建物の入り口には複数の色、層で作られたグラフィック作品が展示してあり、異なる色が様々な人々のそれぞれの先祖を表現。色を重複して使うことで、世界の歴史は私たちが気づかぬところでも強いつながりを持って構築させていったものであることを表し、企業としてこのように大きなビジョンを持ってサービスを提供してきたことを伝えている。 ancestry3 オフィスの機能面でも「人間のつながり」を意識しているため、休憩用の部屋やファミリールームといった場所は人が集まる場所としてオフィスの中心に存在し、そこで生まれる社員の交流をAncestryは何よりも大切にしている。 このように企業が人間のつながりというものに対しどのような視点で取り組んでいるのかが見えてくると、彼らが提供する価値の重みも自然と感じられるようになる。

3. Instacart: ユーザーの日々の生活改善を行う、人々にとって身近な企業に

instacart1 買い物代行プラットフォームのInstacartはサンフランシスコで急成長を遂げてきたスタートアップの1つ。スーパーやドラッグストアなど複数の小売店と提携し、ユーザーが買いたいものをオンラインで指定すると、ショッパーと呼ばれる個人がユーザーの代わりにそれらを買って即日配達するサービスを実現している。そのオフィスデザインは先日インタビューを行ったSeth Hanley氏によるものだ。 関連記事:オフィスデザインの軸となる“企業文化への理解”とは Instacartの本社は居心地の良いアットホームなデザインが特徴的。これは起業時のスタートが決して派手なものではなかったことと、「人々の生活を改善したい」という想いのもと顧客に寄り添うことを重点に置いた企業ミッションを反映している。 オフィスにあるカフェは同社創業者が起業当時に住んでいたアパート近くのお気に入りのお店から影響を受け、その小売店での体験をオフィス訪問者に与えたいという意志が表現されている。特に6階にあるカフェは受付の隣にあり、オフィスに訪れたその瞬間から創業者が一番伝えたいと考える温かいイメージを来る人すべてに与えるような設計が施されている。 instacart2 instacart4 また、食料品配送ボックスで作られたオーダーメイドのスタンディングデスクや、野菜が一面に広がる壁で買い物の体験シーンを表現。企業が常にユーザーの一般的な生活と隣り合わせでサービスを提供していることを表している。実際に社内ではショッパー向けに食料品のレプリカを並べ、良い野菜や果物の見分け方をレクチャーする空間も用意されている。 ユーザーに寄り添うブランドをもつ企業にこそ参考にしてほしいオフィスだ。

4. adidas: スポーツを通じて人々の生活を変えていく

adidas1 誰もが知るスポーツブランドのadidasだが、ロシア・モスクワにあるこのオフィスは特徴的だ。全6階の建物のうちの3フロアはオフィス、2フロアはフィットネスセンターで、残る1フロアはプロトレーナーが最新トレーニングプログラムを提供する「adidas Academy」用の施設となっている。このように異なる機能と目的を同時にもつ複雑な作りになっており、だからこそここを訪れる人には分かりやすく、伝わりやすいメッセージが必要だった。 このオフィスでadidasは企業としてアクティブなライフスタイルに注目する姿勢とスポーツそのものへの愛情を表現。すべての階でキックボードでの移動を可能にするため専用のトラックと保管場所を用意している。 また天井の照明部分にはサッカーボールを彷彿とさせるデザインを施し、オフィスにあるほとんどの仕切りは透明で広がりを見せることでスポーツ競技場のような広々とした空間を演出。白一面の壁にはアスリートの写真とモチベーションを上げる言葉が書かれている。 adidas2 adidas3 建物中央にある受付ホールは本物のスポーツスタジアムの見た目に近づけている。例えば、大きなメディアスクリーンにテキストが流れる電子掲示板やビデオ映像を流すスクリーンに2つの大きな照明塔がそうだ。受付デスクはこのホールの奥にあり、一般的なオフィスのように一目でわかる場所には置かれていない。 圧倒的な世界観を表現したadidasのモスクワオフィスは、人々がもつ同社へのイメージを一層強化するような仕組みが施されている。スポーツで人々の生活を変え、アスリートの不可能を可能にするという企業理念の実現は環境づくりから徹底して行われている。

5. Zynga: 皆がプレーできるゲームを通じて人をつなぎ、多くの人に愛される企業に

zynga1 ソーシャルゲームの最大手企業として有名なZyngaは、これまで農場管理を他のユーザーと一緒に行うFarmVilleやFacebook上で他のプレーヤーとポーカーが遊べるZynga Pokerといった、誰でも簡単に遊べて人と交流できるゲームの開発を行ってきたスタートアップ。そのゲームを通じて人をつなげることを企業理念に掲げている。創業者のMark Pincus氏はこれを元に創業間もない頃からブランディング戦略を重視していた。 彼が抱くブランドイメージを最も明確に体現したのが、企業名やそのロゴの由来ともなった彼の愛犬、Zingaである。遊ぶのが大好きでありながら忠誠心は強く、皆に愛され、何かをするときには常に中心的存在になりたがった性格が、企業が提供するゲームだけでなく、社員の行動規範としても大事な見本となった。オフィスには今も社員のペットが多く集まり、その光景は「誰にでも愛されながら人の交流を手助けする」環境づくりの大事な要素と一つとなっている。 zynga2 また彼はビジネス分野がソーシャルゲームということもあって社員の社交性を重要視しており、今では無料カフェテリアを置くところが多いスタートアップ業界内でも、特に早いうちから従業員に無料の食事プランの提供を始めた。現在でも昼だけでなく、朝食や夕食まで提供しているところはZynga以外になかなか見られない。また創業時のジムのメンバーシップ制度から始まり、後に社内でフィットネス設備を自前で設置するなど、社員には積極的に手厚いサポートを行ってきた。 「世界をゲームでつなげる」というミッションステートメントを掲げる以上は、まずは社員がつながっていなければいけない。ゲームの世界を表現したオフィスで社員が固まって活気あるミーティングを行う姿はユーザーにも他の社員にもポジティブな印象を与える。 ゲーム業界により多くの人を巻き込んで盛り上げていくZyngaの姿勢の裏には、こういった社内の環境作りがある。「人をつなげる」という理念をどこでも実現させていこうするその努力はブランドに説得力を持たせるのだ。 zynga3 本記事で掲載した写真はOffice snapshot、Office lovinよりダウンロード *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。