【2018年】btraxが注目する10のスタートアップ

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2017年は前年同様、人工知能(AI)やドローン、ヘルスケア分野での最新テクノロジーへの注目が高く、また日本では新たにスマートスピーカーをはじめとしたバーチャルアシスタントも大きな話題を呼んだ。いずれのサービスも私たちの生活を変える実用的なものが増えてきたのではないだろうか。 関連記事:2017年に終わりを告げたスタートアップ5社に学ぶ教訓 btraxでは今年も注目のスタートアップを選出。私たちの生活に変化をもたらすと期待される10のスタートアップを紹介する。

1. Lisnr: 超音波技術を駆使したチケット認証、デバイス間接続、メッセージ

lisnr1 主要投資家: Synchrony Financial, Intel Capital, Progress, Ventures 調達額: $14.35M

サービス概要:

超音波技術を駆使した音声データ通信システムを提供。「音声のインターネット Internet of Sound」とも呼ばれる自社開発の”Smart Tone”技術を使い、スマートフォンを通じて人間には聞こえない超音波を発することで、インターネット接続なしに近距離でのデータ通信を行えるようにする。これをチケットの認証やデバイス間接続、メッセージの送受を含む様々な用途で利用する。 このSmart Tone技術はスマートフォンで利用されるため個人との紐付けが可能。最近アーティストのコンサートやスポーツの試合でのチケットの高額転売やダフ行為が問題視されているが、そういった偽ユーザーの識別から不正なチケットの複製・転売行為まで防ぐと期待されている。またこの認証プロセス自体もシンプルなもので、イベント会場に入るまでの長い行列の解消にも繋がると言われている。

注目の理由:

先述したように、近年チケットの転売行為があまりに多いことからそれに対する対策が各業界、個人で行われている。アメリカのスポーツ観戦チケットでは転売容認の方向に向かい、2次、3次の流通マーケットが拡大している一方で、音楽業界では転売防止対策が積極的に行われている。 特にアーティストが自身のコンサートであらゆる工夫を行っており、例えばビリー・ジョエルのコンサートで最前列の席を通常券購入者にランダムで提供する取り組みや、テイラー・スウィフトの新チケット購入プログラムであるTaylor Swift Tixの導入等が行われている。 これらの取り組みを受けてアーティスト以外にもその動きは広がり、昨年アメリカ大手チケット販売会社のTicketmasterがSmart Tone技術を導入し、それまで使っていたQRコードによる認証を置き換え始めている。今後あらゆるイベントで利用されていきそうだ。 またSmart Toneはイベントのみならず他のセキュリティ認証にも次々と導入されている。Lisnrは昨年、自動車会社のJaguar Land Roverとパートナーシップを締結。同社の自動車のアンロックシステム等に導入される見通しだ。この超音波を使った音声データ通信技術がさらにどのような形で私たちの生活に影響するのか注目だ。

2. Nurx: ピル配送サービス

nurx1 主要投資家: Lowercase Capital, Y Combinator, Union Square Ventures 調達額: $5.42M

サービス概要:

「ピル用ウーバー」。アプリで医師の診察を受けることでクリニックに行かずともピルを受け取れるサービス。ピルは望まない妊娠を予防する以外に生理不順や生理痛を緩和するものとしてアメリカでは一般的に利用されている。 ユーザーはアプリをダウンロードし、複数の質問に答える。あとは州のライセンスを持つ医師がその回答のレビューを行い、ユーザーに合ったピルと使用方法を提供。ピルは自宅もしくは指定する場所に配達され、その費用はかからない。Nurxはピル適用の保険有無にかかわらず対応し、女性がピルを受け取るまでのプロセスの改善を徹底して行う。 またNurxはピル以外にHIV感染予防、PrEPに効果のある医療薬も同様に簡単なプロセスで提供している。

注目の理由:

スタートアップ養成スクールで有名なベンチャーキャピタル、Y Combinatorを卒業し、2015年に設立したばかりのスタートアップだが、カリフォルニア州から着々と活動の幅を広げ今ではアメリカ国内の16の州に展開。この展開スピードから、これまでのピルの受け取りプロセスがユーザーにとっていかに不便だったかがわかる。 またこのサービスに対する高い注目の背景には政治的な理由もある。トランプ政権がオバマケアを変えることで、今まで保険が適用されていたピルがそうでなくなることが懸念されており、ピルを服用する女性へのサポートが縮小されかねない風潮にある。 このように国として女性のピル使用を支持しない方向にあるなかで、Nurxのように女性のピル受け取りを支援するサービスが注目を浴びているのだ。いずれにせよNurxは先に挙げたように保険の有無にかかわらず対応が可能なのでその使いやすさが注目を集めている。 昨年12月の連邦裁判所の判断でトランプ政権の動きにストップがかかったが、依然としてピルを利用する女性の生活が変わりかねない緊張状態が続いている。もしかしたら今後ピルの継続が難しくなる女性も出てきかねない状況のなか、今年このサービスがどこまで女性の生活改善に貢献するか注目だ。

3. Payjoy: スマートフォン用ローンサービス

payjoy 主要投資家: Santander InnoVentures, Union Square Ventures, ITOCHU Corporation 調達額: $29.15M

サービス概要:

「すべての人がスマートフォンを入手可能に」をモットーに掲げる2015年誕生のスタートアップ。通常の通信会社が提供するローンを組めない低所得者層向けにフェイスブックアカウント、国の発行する身分証明書、電話番号の3つだけでスマートフォンを提供する。支払い方法には柔軟に対応しており、支払いが滞った際はPayjoy Lockと呼ばれる専用アプリを通じてスマートフォンを使用できないようにする。 市場には低価格のスマートフォンがあるが、アメリカの低所得者層にはあまり利用されていない。その理由として「故障の多さや動きの遅さでほとんど役に立たず、安いスマホを買うぐらいなら高い方を持つ」という声が多かったことから生まれたサービスである。

注目の理由:

昨年9月に新たに$6Mの資金調達に成功。これまでアメリカとメキシコで展開し、2017年にはアジア諸国、2018年にはラテンアメリカとアフリカに展開、とグローバル進出に勢いを見せている。これまでスマホを持ってこなかった層にどれだけ浸透するかが見所。 このサービス利用者数の増加がスマホの全体利用者数にどう影響するのかも注目ポイントの1つ。シリコンバレーのベンチャーキャピタルであるKPCBでパートナーを務めるメアリー・ミーカー発表の2017年のインターネット・トレンドレポートにおいても、ユーザーのデジタルメディアの利用はデスクトップでは変化がないものの、モバイルでは2011年から2016年の5年間でおよそ4倍増だった。 今ではデスクトップよりもスマホを利用する時間が長く、その利用時間は今後も伸びると予想される。同レポート内ではスマホユーザーの伸び率は急減速しているとも書かれていたが、Payjoyがこの状況にどのような変化をもたらすのか見ていきたい。

4. Citizen: リアルタイム犯罪通知アプリ

citizen 主要投資家: Sequoia Capital, Peter Thiel’s Founders Fund, Slow Ventures, RRE Ventures, Kapor Capital 調達額: $13M

サービス概要:

リアルタイムで近辺の犯罪や事故をユーザー同士で報告・通知するアプリ。もともと”Vigilante(自警団員)”と別名でサービスを展開していたが、その名の通り一般人が犯罪等の問題を警察に伝える前に「自警」し結果的に犠牲者が増加すると議論を呼びアップルストアから削除された。 今回は警察への通報機能を加え、ユーザーには危険を知らせるだけでなく彼らの安全を守るという目的で新たに再スタートを切った。現在ニューヨークとサンフランシスコで展開。

注目の理由:

アメリカでは無差別の銃乱射事件、日本でも通り魔的な犯罪は今日もよく取り上げられ、世界的に見てもテロ行為が後を絶たず私たちの安全は脅かされている。世界テロリズム指数の2017年レポートによると、世界的にテロによる死亡数は2006年から2016年までの10年間で67%上昇した。 こういった犯罪行為の撲滅は必須であるが、同時にそのような事件に巻き込まれないようできるだけ市民の安全を守る取り組みも必要である。Citizenはそれに貢献できると期待されている。

5. Nauto: AI搭載の車載器

nauto 主要投資家: General Motors, Greylock Partners, Softbank, Toyota AI Ventures 調達額: $173.85M

サービス概要:

AIを使った双方向カメラの車載器。前方を見る車外カメラと車内の様子を撮影する車内カメラでドライバーの煽り運転や脇見運転、居眠り運転、その他危険運転を察知し、運転後にフィードバックを行うだけでなく、商業用車両の場合には車両管理側がその様子を確認できるようになっている。また事故時の保険対応も双方向のビデオ映像を使うことでスムーズかつ正確なものになると期待されている。 このようにドライバーの運転データをビッグデータとして蓄積していくことで、将来AIによる事故の分析・予知が可能になる。最終的なゴールとしてNautoは安全な完全自動運転の実現を目指している。

注目の理由:

自動車メーカーによる自動運転技術の開発は今も積極的に進められているが、その技術はまだ限定的であり、今はより多くの実際の運転データ収集が必要な段階である。Nautoの車載器は現在すでに危険運転抑止と事故防止というメリットをユーザーに届けながら、リアルな運転データを集められるサービスとして非常に貴重な存在になっている。未来の自動走行に向けて大きな前進が期待できる。 日本でも昨年煽り運転が特に問題視されドライブレコーダーが売れたが、AIを駆使した車載器はこれまで出ていなかった。運転手にとってより安全な交通社会が作られていく上でNautoは特に大きな貢献が期待されるサービスである。

6. Holberton School: 授業料の用意なしで入学できるコーディングスクール

holbertonschool 主要投資家: Ne-Yo, Jerry Yang, Jerry Murdock, Reach Capital, Daphni 調達額: $4.3M

サービス概要:

今日ではコーディングを勉強できるスクールは身近に存在し、特にサンフランシスコでは気軽に通えるものが多い。その中でもこのHolberton Schoolは独特で、学費を事前に納めることなく授業を受けることができる。「生徒が給料を得られるまで授業料を取らないスタイル」なのだ。 スクールでは2年に及ぶプログラムを提供。9ヶ月のサンフランシスコでのトレーニング、6ヶ月のインターンシップ、さらに最後の9ヶ月でサンフランシスコ、もしくはリモートでの学習、という内容になっている。フォーマルな教授たちが授業を行う形式ではなく、講師側はGoogle、Uber、Facebook、Linkedin、Salesforce等サンフランシスコ・ベイエリアを代表するテクノロジー企業で働くエンジニアたちだ。 コースで扱う内容も生徒側が実際に取り組んでいるプロジェクトや講師が過去に行ってきた案件をベースに学び、実際に現場で使えるスキルや経験を積んでいく。 生徒は卒業後3年間の仕事もしくはインターンシップの給料の17%を授業料として支払うことに同意した上で入学となる。そのため生徒向けに均一な授業料というのは存在しない。

注目の理由:

卒業生たちはすでにGoogleやNASAと行った企業で実際にエンジニアとして働き始めており、成果は着々と表れている。エンジニアは世界的に人材不足、サンフランシスコでも優秀なエンジニアは次々と特定の大企業に引き抜かれ、その他企業が太刀打ちできない実態もあるが、このHolberton Schoolはその問題を解消してくれそうだ。 生徒からしても、今からでも始められるコーディング専門スクールが存在するのは大きなメリットである。実施にHolberton Schoolはテック業界に多様性をもたらすことを1つの目標に掲げており、それを実現しようとする姿勢はすでに高い評価を得ている。 生徒の中には今までエンジニアとは縁のなかった人もいるが、スクールはそんな彼らでもエンジニアの道を選ぶことができるという勇気を与えている。2015年設立とまだまだ若いスクールだが、これからテック業界に大きな変革をもたらすと期待できる。

7. Qadium: IoT向けセキュリティプラットフォーム

qadium-expander 主要投資家: Founders Fund, New Enterprise Association, Susa Ventures, Institutional Venture Partners 調達額: $65.97M

サービス概要:

元CIAエージェントが政府関連のサーバーの脆弱性を発見した経験から立ち上げたスタートアップ。ネットワークに接続されたデバイスをすべて調べ、ハッキングされる恐れのある問題やその他あらゆる脆弱性を検知しユーザーに警告するプラットフォームサービスを提供。 この防御システムを支えるのは”Expander”と呼ばれるソフトウェアプログラムで、IoTシステムのインターネット接続をマッピングした上で調べ上げることから「IoTのグーグルストリートビュー」とも呼ばれる。 顧客にはアメリカサイバー軍やアメリカ海軍といった政府機関や銀行のCapital One、その他金融系の企業が並ぶ。価格が非常に高額な分、導入できる企業や組織は限られてくるが、その信頼性は高く評価されている。

注目の理由:

毎年10月に業界最大手のIT調査機関、Gartnerによって発表されるITトレンドの2017年版でも触れられていたが、IoT製品の急速な普及により、サイバーセキュリティの脆弱性は早急な対策が必要になるほど重要な問題になる。Qadiumはこの深刻な問題に対処できる役割を担っている。

8. Gladly: 一括管理のカスタマーサービスプラットフォーム

gladly 主要投資家: Jerry Chen, GGV Capitals, Greylock Partners 調達額: $63M

サービス概要:

音声通話、メール、チャット、ソーシャルメディア等の複数チャネルでコンタクトのあった同一の顧客を認識するカスタマーサービスシステムを提供。これまでクレーム電話や問い合わせメールはそれぞれ1つの案件として処理されていたが、同社のソフトウェアでは同一人物によるものか認識する。それによって企業側は顧客が過去にどのような内容で連絡を取ってきたか確認でき、それに合わせた顧客対応が可能になる。

注目の理由:

顧客第一を謳う企業はますます増え、顧客の声は改善の何よりの材料として貴重なものになっている。昨年8月にGladlyとのパートナーシップを発表した航空会社のJetblueでも早速導入されたが、飛行機の遅れや荷物紛失等に関するクレームが一定数起きるこの業界において、同社は複数チャネルからの顧客のコンタクトをこのGladlyシステムで全て管理。 それぞれの顧客との会話を全て記録し、また過去の全てのサービス利用履歴も管理して紐付けることで、遅延等によって利用客に迷惑がかかった場合にはその記録から保証内容を決める等、個別のカスタマーサービスを充実させている。 昨年の顧客満足度指数において、Southwest AirlinesやAlaska Airlinesを超え、業界内で一番となったJetblueが行う取り組みの1つという立ち位置から、Gladlyへの今後も注目はさらに高まるだろう。丁寧な個別の顧客対応を追い求める企業こそ必見なサービスになっていくと予想される。

9. Knotel: 中小企業向け本社型コワーキングスペース

knotel 主要投資家: Invest AG, 500 Startups, Bloomberg Beta 調達額: $25M

サービス概要:

ビルオーナーとプロフィットシェアを行う形でコワーキングスペースサービスを提供するスタートアップ。WeWorkの競合として紹介されることも多い。今日のコワーキングサービス市場の成長を支えるスタートアップの1つとして世界中に展開している。 本来オフィスビルの賃貸には長期的な契約期間が必要とされていたが、Knotelはその期間を柔軟に対応。従来のコワーキングスペースは今まで通りフリーランサーやスタートアップ社員向けに、現在コワーキング市場を牽引するWeWorkは大企業社員向けにサービスを展開しているのに対し、Knotelは50−200人程度の中小企業向けに「本社として利用できるコワーキングサービス」を提供。 企業側はオフィスにかける費用を抑えながら、カスタマイズ可能な中規模スペースを利用できるので、クリエイティブな職場と自由な働き方を社員に手軽に提供することが可能だ。

注目の理由:

今では企業の大きさにかかわらずスタートアップ企業の職場環境を参考にするところは多く、手軽に利用できるコワーキングスペースと契約し様々な交流を図れるフリーアドレス制度を社員に提供する企業が増えている。実際に昨年IBMはWeWorkが持つニューヨーク・88 Universityのコワーキングスペースのビル全てのデスク契約を決めた。 今後コワーキングサービスはこれまで利用してこなかった層を取り囲んで利用者数を増やしていくが、その中でもKnotelはまだ穴場とされている中小企業向けのサービスをカバーし成長を遂げていくと予想される。 今や働き方改革においてコワーキングスペースの存在は大きなものになりつつある。東京でもついにコワーキングサービスを開始するWeWorkが世界的に大企業の社員に自由な働き方を提供していく裏で、Knotelも中小企業の社員の働き方を少しずつ変えていきそうだ。

10. Hudl: スポーツ用パフォーマンス分析プラットフォーム

hudl 主要投資家: Accel Partners, Jeff Raikes, Nelnet 調達額: $108.9M

サービス概要:

練習や試合の動画をアップロードし、コーチングポイントを動画上にマークし、コメントを残すことで、オンラインで選手・コーチ間で改善ポイントの共有ができるプラットフォーム。通常の動画編集プラットフォームとは異なり、1つのプレーを様々な角度から見られるようにしたり、プレー毎に動画を区切り瞬時に確認したりできるようにして、あらゆるスポーツにおけるミーティングの効率化を図ってくれる。 さらにこのプラットフォームは選手のリクルーティングの機会の場としても利用されている。選手は自身を売り込む新たなツールとしてパフォーマンス動画を掲載し、高校、大学、そしてプロチームはそれを閲覧して選手獲得に動く。アメリカは国土が広く、リクルーティングチームは選手を直接見に行くことに限界がある。そんな背景から、今まで埋もれていた優秀な選手の発掘するツールとしても利用されている。

注目の理由:

テクノロジーがスポーツ業界全般に導入された良い例の1つとして以前から注目を浴びており、これまで30のスポーツ、キッズからプロまで15万以上のチームに導入されている。最初はアメリカンフットボールから始まったこのサービスだが、2017年末にはバレーボール用のコーチング・分析プラットフォームを提供するスタートアップ、VolleyMetricsを買収。 今後ますますあらゆるスポーツを支えるテクノロジーとして活用されていくと期待。スポーツの世界でもこのようなテクノロジーが活用されていると理解しておくと面白い。何かしらのスポーツをやっているのであれば使ってみると良いだろう。スポーツにおける体験もきっと変わるはずだ。

2017年に終わりを告げたスタートアップ5社に学ぶ教訓

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早いものでもう2017年を振り返る時期となった。年々スタートアップの勢いが増していく中、大手企業はスタートアップへの投資や共創、そして買収に力を注いでいる。それだけスタートアップの存在が大きいということなのかもしれない。 弊社CEO Brandon K. Hillが2017年スタートアップトレンド – ユニコーンの次はデカコーンでも述べているように、未上場で評価額が10億ドルを超えるスタートアップは”ユニコーン”、10億ドルどころか100億ドルを超える評価額を持つスタートアップは”デカコーン”と呼ばれ、大成功を収めている。 しかしここで忘れてはいけないのが、その一方で急成長を遂げたが何らかの要因によって終了したスタートアップも数多くあるということ。 今回は、資金調達に成功したのにもかかわらず残念ながら2017年に終わりを告げたスタートアップ5社と彼らから学ぶべき教訓を紹介したい。 関連記事:ベンチャー企業とスタートアップの違い

成長企業の70%が失敗に終わる

まず念頭に置いてほしいのがスタートアップの消滅率。サービスの終了に追い込まれた理由は様々だが、リサーチ会社CB Insightsは成長スタートアップの70%が失敗するというデータを公表している。たとえばB2Cのハードウェアスタートアップについてシードレベルのクラウドファンディングキャンペーンを見てみると、その97%が失敗に終わるようだ。 この事実を考えるとむしろ失敗するのは当たり前のようにも思える。Statistaによるとスタートアップが失敗する理由は20ほどあるが、最大の要因はNo market need、つまり「もうマーケットにニーズがない」(42%)となっている。 Infographic: The Top Reasons Startups Fail | Statista↑上記のグラフは、Statistaより引用 それではこの事実を踏まえ、実際に今年終了することになったスタートアップの事例を見ていこう。

1. Jawbone

サービス概要:フィットネス・トラッキング・デバイス 投資家:DST Global、SV Angel、Wells Fargo & Companyなど 資金調達額:$590.8M 1999年に創業しかつてはBluetoothスピーカーのメーカーとして人気を集め、2011年にウェアブル市場に進出して注目を集めたJawboneが2017年7月にその幕を閉じた。 最大の要因としてはウェアラブル市場規模の縮少と言っても過言ではないだろう。2013年から2014年にピークを迎えたウェアラブル系ビジネスだったが、当時話題となったGoogle Glassはそのわずか2年後の2015年に消費者向けの提供を終了し、クラウドファンディングの王者PebbleはFitbitに買収されてしまったのだ。 ウェアラブル市場が縮小してしまった原因は、フィットネスバンドの必要性を感じるユーザーがあまりにも少なかったからだ。そこに拍車をかけたのがApple Watchで、トラッキングシステムを搭載したスマートウォッチの進出によりユーザーはフィットネスバンドを買うことに疑問を抱き始めたのだ。 そしてAppleの美しいデザインも大きな魅力となりウェアラブル市場のシェアを一気に獲得した。 ちなみに、Jawbone Co-founder兼CEOのHosain Rahmanは現在新たな会社Jawbone Health Hubの立ち上げ準備をしている。サービスモデルの領域をフィットネスからヘルステックに移行し、糖尿病や高血圧の改善、不整脈の発見、そしてストレスマネージメントなどを目的としたアプリケーションを開発中。まだ確定はしていないが、2018年の上旬頃にはソフトローンチが予定されている。

2. Beepi

サービス概要:中古車マーケットプレイス・サービス 投資家:DST Global、SAIC Capital、Sherpa Capitalなど 資金調達額:$150M 2013年に創業した車の所有者と中古車の販売人を繋げるプラットフォーム、Beepiは2017年2月に終了した。Beepiの大きな特徴は、売り手と買い手の間に入ることでフェアな取引を実現したこと。これにより、中古車業者の不透明な価格提示を回避することできるため、当初は大きなマーケットになることが予測された。 倒産の要因はお金の使い方がスマートではなかったこと。当時従業員の給料が異様に高かったこと、多くの残業代が支払われていたこと、そしてミーティングルームのソファに$10,000費やすなど金遣いが荒かったことが挙げられる。最終的にBeepiは約200人の従業員をレイオフすることになった。 また、ファウンダー達の気が変わりやすく将来の方向性が見えづらかったことも要因にあるそうだ。Fair.comと中古車ディーラーDGDGによる買収の話も一時上がったが、最終的には帳消しになった。 [embed]https://www.youtube.com/watch?v=eMbwUEzPB7Q[/embed]

3. Yik Yak

サービス概要:匿名のソーシャルメディア・サービス 投資家:Sequoia Capital、Draper Associates、DCM Venturesなど 資金調達額:$73M Yik Yakは特定の地域内で匿名のユーザーがチャットを楽しめるソーシャルメディアアプリを展開していた会社だ。こちらも2013年の創業だったが、4月にサービスを終了した。 失敗の要因はユーザーの行動を予測しきれなかったことにある。サービスをローンチした当初はターゲットである大学生達にうけたのだが、次第に”匿名を逆手にとった”オンライン上でのイジメが多発したことから、多くの学校でYik Yakの利用が禁じられたのだ。これを機に2016年のアプリのダウンロード数が2015年同時期比で76%も落ち込み、最終的には従業員を一時解雇せざるを得ない事態となった。 また、同年にニューヨーク大学と提携したセキュリティ・リサーチャー達が、アプリ上の個人情報がハッキング可能な状態だということを突き止め、Yik YakのCTOが会社を去ることになった。

4. Sprig

サービス概要:フードデリバリー・サービス 投資家:Accel Partners、Greylock Partners、CAA Venturesなど 資金調達額:$57M 2013年に創業し、フードデリバリーサービスを展開していたSprigも今年5月にサービスを終了した。実は昨年寄稿したこちらの記事でSprigをとりあげていたこともあり、まさかの急展開にスタートアップの生き残りがいかに大変かを実感した。 サンフランシスコにはフードデリバリーサービスが数多くある中、Sprigは「クリーンでシンプルな食事を通して健康に」というミッションのもと、ユーザーの健康に対する意識を変えるために、専属シェフによって生み出されたヘルシー料理を提供していた。そして特殊なデータサイエンスを活用して、なんとオーダー後およそ30分以内に配達を開始するという仕組みも構築したのだった。 しかし、健康志向のユーザー達は配達の時間よりも食材の質にこだわりを持つことを知り、新しいメニューを開発したり、カフェを開設したりと軌道修正に取り掛かった。試行錯誤を繰り返したが、ユーザーが求める食のクオリティに到達することはできなかったようだ。 Founder兼CEOのGagan Biyaniは「ユーザーが求めるクオリティが非常に高く、その期待に応えるためのクオリティを維持しながら大量生産をするのがとても難しかった」というコメントを残している。

5. Hello

サービス概要:睡眠トラッキング・デバイス 投資家:Temasek Holdings、Horizons Ventures、Acequia Capital 資金調達額:$40.5M 2012年創業、睡眠時間をトラッキングできるデバイスを開発したHelloが2017年6月に終わりを告げた。Helloのデバイスは腕に装着するのではなく部屋に置くだけで睡眠習慣を改善できるというもの。Kickstarterで資金調達に成功した後TargetやBest Buy等リテールでも陳列されていたほど話題となった。 今年の1月には25歳のFounder兼CEOJames ProudがForbes 30 Under 30の表紙を飾り、ネット上では様々なメディアがJamesを取り上げた。少し余談にはなるが、彼は9歳の頃独学でHTMLを学び、12歳の頃にはプロ顔負けのウェブサイトを制作していたという天才少年であった。 会社の閉鎖に追い込まれた要因は明確に公表されていないが、恐らくハードウェアをビジネスにする難しさにあるのではないだろうか。睡眠習慣の改善を図るデバイスはHello以外にも数多くあり、FitbitやApple WatchなどのウェアラブルデバイスやiPhoneのiOS上にさえ搭載されはじめた。これにより睡眠改善ツールがコモディティ化し、Helloの付加価値を生み出すことができなかったと思われる。 hello ↑上記画像はKickstarterのページより引用

スタートアップ5社から学ぶ教訓とは?

教訓① ピボットで軌道修正(Jawbone)

Jawboneから学べること、それは失敗を糧にプロダクトをフィットネス・トラッキング・デバイスからヘルステック・デバイスに変えてサービスをピボットさせたこと。 例として、フードレビューサイトのYelpの原点はEメールレコメンドサービス、SNSプラットフォームのTwitterの原点はブログサイトと当初は全く違うサービスを提供していたのだ。しかし、ユーザーのニーズやマーケットの変化に合わせてピボットさせたことで現在大きな成功を遂げている。このようにマーケットに合わせた軌道修正も時には必要となる。

教訓② 未来の消費者ニーズを見据えた思考(Hello, Yik Yak)

Yik YakやHelloからはどんなことが学べるだろうか。この2社に共通すること、それは未来のユーザー行動を予測できなかったことだと思う。 Yik Yakは大学生をターゲットにした匿名ソーシャルメディアを提供し当初は話題となったが、使い方を間違えると悪用されてしまうことまで思いつかなかった。そしてHelloは睡眠習慣の改善デバイスの重要が膨らんだ時にどう差別化を図るか想定できなかった。 変化し続けるユーザー行動やマーケットを読み解くカギとなるのは未来予測(Future forcasting)だと考える。未来予測とはただ未来を予知するのではなく、未来を生きる人たちの苦痛や問題を感じとり、何が必要となるかを予測するUXを起点とした思考プロセスである。 「データから予測される変化」と「人々のコアとなる価値観」を見出し、交差する部分をプロダクトやサービスに転換させる。こうすることで現在進行形のマーケットに依存することなく、常に未来を見据えたプロダクトやサービスを生み出していけるのだ。 現に、Teslaの生みの親Elon Muskは、無人運転車が当たり前になることを予測して自動運転車を作り、Airbnbのファウンダー達は宿泊施設・民宿のシェアの次に体験のシェアをはじめている。成功している起業家達は常に未来を見据えながらユーザーのニーズを模索し、自ら未来を切り開いているのだ。

教訓③ 資金管理はスマートに(Beepi)

Beepiから学べることは資金管理の仕方そのものだろう。おそらく良い人材を雇うためにありえないような額の給料を支払っていたのだと思うが、従業員の給料や経費は本来セールス状況を把握できる人間がきちんと管理すべきである。 当たり前のように思えるが、CFO(Chief Financial Officer)などの資金調達・運用・財務・経理の分野に特化した人材をしっかり確保することが大切だ。

教訓④ ユーザー視点を忘れない(Sprig)

Sprigに学ぶこと、それはサービスやプロダクトのクオリティとユーザーが求めるニーズを合致させること。そのためには技術ファーストではなく必ず顧客ファーストで物事を考える必要がある。 Sprigはオーダー後30分以内に配達を開始するという画期的な技術を生み出したが、ユーザーが求めていたのは「時間」ではなく「料理の質」であったことを見逃していた。フォーカスインタビューやユーザーテストなどを通して顧客が求めていることを常に探り、サービスの改善をしていくことが最も重要となる。 参考: ・"10 of the most-funded startups to fail in 2017""7 startups that were massively funded that died in the first half of 2017"

企業の「性格」を表すブランドパーソナリティとは?

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ユーザーや顧客との接点を大切にするためにブランディングを強化する企業はますます増えている。顧客が商品1つを選ぶにしても機能面だけを見て決めることは今ではほとんどなく、商品そのものやそれを売り出している企業が持つイメージも顧客の購買意欲に大きく影響している。 関連記事:ブランドをビジネス価値に変換させる5つの構成要素【ブランディングの教科書 Pt.1】 そのブランド力を支える上で、顧客に与えるブランドイメージの根幹となる「ブランドパーソナリティ」はブランディングの中でも重要項目の1つとなっている。実際に多くの企業のブランドガイドラインではそれが明確に記載されている。今回はそのブランドパーソナリティの意味を確認し、筆者が実際にインタビューを行ったアメリカの大手地銀であるCapital Oneと日本に進出したばかりのQuoraという対照的な2社の事例を紹介する。

ブランドパーソナリティとは

ブランドパーソナリティは、パーソナリティ(性格)が含まれているように、企業の人格的な「個性」を表す。優れたブランドを持つ企業こそ印象に強く残る、統一されたブランドイメージを顧客に常に発信している。またその顧客もその商品を買うことでブランドイメージを自分のイメージに繋げ、自分としての個性を表現するものになる。 実際に、エッジの効いたブランドとして名が挙がるオートバイメーカーのHarley-Davidsonのパーソナリティは「荒削りで無骨な男らしさ」。そのバイクに跨がることで「ライダーの男らしさに磨きをかける」というイメージを浸透させた。そのブランドはアメリカ中西部から始まり、次第に世界中で大人気となった。今でもブランドロゴのタトゥーをいれるライダーもいるほど一定層の強い支持者がいる。 harley 「ハーレー好き」のライダーがコミュニティを形成し、お揃いの決まった格好をしてツーリングをする姿は、企業がブランドパーソナリティを巧みに顧客の感情に浸透させていった良い例だ。 そのほかにもユニリーバが持つ製品ブランドの1つであるDoveは「健全さ」「道義的」「純真さ、清潔さ」を商品パッケージから広告、SNS上でのメッセージまで巧みに表現。同社の男性用化粧品ブランドのAXEでは逆に「誘惑」「男らしさ」「常識にとらわれない自由さ」を表し、タバコブランドのMalboroも「男らしさ」に「自由さ」さらに「冒険的」といったパーソナリティが付随している。ここに挙げたブランドは読者の多くが目にしたことあるブランドだと思うが、このような特定のイメージはみなさんの多くが持つ共通イメージとしてあるはずだ。 dove-ad axe-ad malboro-adCMには多くのクレームが入るというAXEだが、ユーザーの「モテたい」というシンプルなニーズにマッチしたブランド・パーソナリティを上手く表現している このようにブランドがパーソナリティを持ち自己表現を行うことで、ユーザーとの関係性に強い影響を与え、顧客に対するブランドの立ち位置を明確に表現するのである。人で考えてみると、どんな振る舞いをするかでその人の性格が分かるように、ブランドとしての活動指針の軸となる性格を表現することがブランドパーソナリティの一番の役目である。 各企業は顧客との様々なタッチポイントにおいて、このようなパーソナリティを基に伝えるメッセージングにも統一性を見せていく。今回はその企業の数あるタッチポイントの1つに焦点を当てて、そこから考えるブランドパーソナリティを見ていく。

従来の銀行のイメージを改革するCapital Oneと日本進出で話題のスタートアップQuoraの事例を紹介

ブランドパーソナリティの実例を紹介するべく、今回Capital OneとQuoraの2社にインタビューを実施。彼らは先述したように堅い業界イメージのある銀行と人気スタートアップという、一見対照的な企業だが、どちらもユニークな形で自社のブランドパーソナリティの表現を巧みに行っている。そんな彼らが掲げるパーソナリティとその表現方法について話を聞いた。

1. Capital One

バージニア州に本社を置く大手地銀のCapital Oneは、堅いイメージが強い傾向にある金融界でも、クリエイティブな環境と新テクノロジーを積極的に駆使したイノベーションが特徴的な銀行である。実際にサンフランシスコには彼らのアクセラレーター・インキュベーター施設として最新テクノロジー開発を行うCapital One Labsが存在。彼らの取り組みは他の歴史ある銀行とは一味違う。 関連記事:【HBRが予測】既存の銀行の92%は10年以内に消滅する そんな彼らがブランドガイドラインで掲げているパーソナリティは以下の4つである。
  • Bold Challenger:勇敢なチャレンジャー
 イノベーティブリーダーとして良い変化をもたらすために業界に挑戦する
  • Straightforward:率直
 真正で、信用・信頼できる存在に
  • Advocate:顧客の代弁者
 自社だけでなく、常に顧客の興味を探し出す。未来に楽観的になり、顧客の成功をサポートする
  • Engaging:魅力的
 示唆に富むユーモア、ウインク、そして笑顔を持った親しみやすさを 1988年創業のCapital Oneは、創業者が未だに現CEOとして活躍しており、業界内でも非常に若い銀行である。その若さを生かし、率直さや親しみやすさといった従来金融界のキーワード以外にも、Bold Challengerといったイノベーション要素を取り入れ、業界の積極的な改革者という立場を貫いている。そんな彼らの独特なパーソナリティを体現した施策を2つ紹介しよう。

Capital One Cafe

capitalone-cafe1 Capital One CafeはCapital One銀行の支店兼カフェとなる施設で、口座を持っていない一般の人向けにもオープンされている。普通にカフェとして利用する客や、外でのミーティングを行う場所として、またコワーキングスペースのように作業をしに訪れる利用客も多く見かける。 クラスルームやワークショップルームも用意しており、定期的に一般向けにファイナンシャルプランの立て方や子供向けに賢いお金の使い方を教える講座等も行っている。 Capital One Cafeの特徴の1つは「アンバサダー」と呼ばれる案内・サポートスタッフの存在である。従来の銀行だとスタッフは窓口にいるが、アンバサダーはアパレル店員のように店内を自由に歩いている。丁寧かつ押しの強くない接客で利用客に圧迫感を与えないようにすることで、ユーザーに銀行との心理的な距離を縮めてもらうのが狙いだ。 capitalone-cafe 彼らは「企業の顔」として、接客から無料のクレジットスコア分析まで幅広くサポートを行う。”Straightforward”、”Advocate”、”Engaging”といったパーソナリティは顧客との人間的な接点で表現できると考え、体験型のブランディングを重視しているのだという。目指すものは新規顧客の獲得から既存顧客のサービス体験向上まで、と一見他の銀行と変わらない目的ではあるが、その方法は独特である。 「お金というのは非常に個人的なもので、それを話しやすいと思わせることはCapital One Cafeが提供できる体験価値の1つです」とアンバサダーの1人は語る。顧客に「個別の体験」を提供することを心がけ、それまで堅いイメージのある業界イメージを払拭しようとする心意気が表現されている。パーソナリティにある人間的な特徴をユニークに表現した事例だ。 従来の”お堅い金融業界”の殻を破り、銀行とカフェを融合させたCapital One Cafeは顧客への提供価値を上げるために単純に面白い試みを行っているのではなく、パーソナリティが背景に強く存在しているのである。このブランディング施策は着実にユーザーniCapital Oneのユニークかつフレンドリーな印象を与えている。

積極的なアプリ開発

2008年の金融危機がもたらした大きな影響の1つとして、アメリカの多くのミレニアル世代がこれまでの伝統的な銀行への信頼を失っていると言われている。この世代は古く堅牢なイメージのある銀行よりも、テクノロジーでお金の管理を求める傾向が強い。実際に最近ではオンラインバンキングが主流になりつつあるほか、DigitやMint、Chimeといった、スタートアップによる口座管理・貯金管理アプリを通じて自身の預貯金管理を行うことが人気になっている。 従来の銀行に逆風が吹く中でCapital Oneは社内で積極的にスタートアップのように新規アプリ開発を行っている。実際にカフェスペースとなる建物1階以外の階では”Capital One Labs”として常に自社アプリやAIの開発場所となっている。実際にインタビューで訪れた時も、開発段階中のクレジットスコア分析を行う「瞑想アプリ」を見せてもらった。従来の銀行としての立場を保ちながら積極的にテクノロジーをサービスに落とし込み顧客に提供している。 col-1 col-2Capital One Labs(写真はOffice Snapshotより引用) 関連記事:スタイリッシュなオフィスが企業に与える5つの価値 – イノベーションはオフィス環境から – もともとアンバサダーの立ち位置も従来の対面での手続き以外に、オンラインバンキングのサポートやこういった新しいテクノロジーサービスを紹介するという意味でも活躍している。顧客とのタッチポイントと近い場所で開発を行い、彼らのニーズに応えるサービスを提供しようとする姿勢が伺える。 Capital Oneがここまでテクノロジーに積極的になれるのは先述した企業の若さもあるが、社員にもその秘訣がある。Vice PresidentはPixar出身、他にもApple出身の社員もいるなどテクノロジー企業での経験豊富なスタッフが在籍しており、テクノロジー好きな人たちが集まるカルチャーができている。テクノロジーを積極的にバンキングに持ち込みたいという社員の気持ちが業界でチャレンジャー精神を持ちたいCapital Oneのパーソナリティを支えているのだ。

2. Quora

先日の記事でも紹介したナレッジ共有プラットフォームを提供するQuoraは著しい成長を遂げるスタートアップだが、彼らもまたブランディングに積極的に取り組んでいる。今回カリフォルニア州マウンテンビューにあるQuora本社にて、海外展開担当のトップであるシュレーヤス・セーシャサイさん、そして日本語コミュニティー担当のトップのフリーデンバーグ・桃紅さんに話を聞いた。 彼らのユーザーとのタッチポイントは何と言ってもユーザー同士が質問を行うプラットフォーム。「世界中の知識を共有し、深める」ことをミッションに掲げるQuoraも既存のQ&Aサービスとの差別化を図るために以下の2つをパーソナリティとして掲げている。
  • クオリティ重視
  • 丁寧さ
これらのパーソナリティーが彼らのサービスにおいてどう体現されているのか見ていこう。 quora1 ↑QuoraのHead of Internationalization シュレーヤスさんとHead of Community Japanese フリーデンバーグ・桃紅さん

クオリティを左右する“実名登録”

Quoraのブランドを語る上で一番重要なのはクオリティ重視の姿勢である。日本進出に伴い、Quoraについて取り上げるメディアは多くあるが、その内容について共通しているのが「質の高い回答が得られること」である。 そのためにQuoraが実施しているのは、他のQ&Aサイトとの差別化として同社が強く推している「実名登録」だ。これは本名の登録だけでなく、プロフィール画面で自身の経歴や背景の記入も求めている。そうすることで、記入者は自分の回答に責任を持ち、クオリティの担保につながるという仕組みだ。 また本名の使用は「丁寧さ」も体現している。相手を傷つけるような発言防止にも役立つため、結果的に様々なユーザーがプレットフォーム上でポジティブな体験を得られるようになっている。そうすることで、Quoraのポリシーでもある「他人へのリスペクト」を体現することができるのだ。他人の心無い回答を撲滅し、害となる情報やユーザーを排除した上で、本当のユーザーが求めている「正確で質の高い情報」を得られるようにしている。 この実名の使用により、政治家のバラク・オバマやヒラリー・クリントン、また業界を変えてスタートアップのCEOやその他各業界の著名な専門家まで回答を行っていることがわかる。このように著名な人物が回答を行っていることを可視化することで、ますますクオリティ重視を体現していることを伝えることができる。 quora2

クオリティ担保のための機能

Quoraではクオリティ担保のためにさまざまな機能が用意されている。その1つが「高評価システム」だ。これは、ある回答について正しいと思えば、それに高評価もしくは同意見(”Vote”)という形で投票することができるというもの。著名な専門家からそれが集まるほど信ぴょう性の高い情報ということになるわけだ。 人によって同じ質問でも違う回答があること、そして多くのユーザーがそういった様々な視点からの回答を期待することは事実である。1つの質問に対し1つの回答を選ぶのではなく信ぴょう性の高い回答を複数並べることで、ユーザーは「多くの考え方を学ぶ」ことが可能になる。同意見システムはそれを実現するために様々なクオリティの高い回答を残すことにおいて重要なシステムになっている。それに加え機械学習を使って情報の正しさや整合性も常に確認している。 また表示される質問のパーソナライズ化を行っているのもクオリティ重視を体現したポイントの1つ。ユーザーの居住地や興味を事前に把握することで、それぞれのユーザーに個別のフィードを表示するようにしている。 ちなみにこういったハイクオリティな情報を共有する姿勢は社内でも行われている。Quora本社では社員同士が集まって情報共有ができるように月曜日と金曜日のランチタイム後にカジュアルな全社ミーティングを行い、CEOにも直接質問ができるようになっている。企業としてのパーソナリティの一貫性が見えるストーリーだ。

遊び心の過ぎないデザイン

「丁寧さ」はプラットフォームのデザインからも見て取れる。信頼性の高い情報を共有することを一貫するために、あまり遊び心の過ぎないようなデザインや構成が施され、ブランドのトーンを統一させている。実際にこのプラットフォームを使うユーザー同士のインタラクションは見知らぬ人同士で行われるため、このようなイメージをビジュアルから演出していくことは実は大事なのだ。 quora-jpQuora日本語版ウェブサイト

まとめ

ブランドパーソナリティはこの2つの例のようにブランドと顧客の間に立つ重要な役割を担っている。逆にこのブランドパーソナリティが確立されてされていないと同じ取り組みを行なっていても顧客が受け取るイメージはぞれぞれ変わってきてしまう。 例えばCapital Oneが同じように実直で信頼できるような存在になろうとしても、フレンドリーさの代わりに真面目さをパーソナリティにした場合、顧客に与える印象は一気に変わる。最新テクノロジーを顧客に使いやすい形で提供する優しいイメージの企業になるか、それともそういったテクノロジーの最新性を常に追い求める貪欲なイメージを持つ企業になるか。どちらが正しいという話ではなく、企業が顧客に受け取ってもらいたいパーソナリティはこれだ、という意思表示と行動の軸になるのだ。 ブランドを構築する要素はパーソナリティに限らず他にも存在するし、ブランドガイドラインにはパーソナリティに触れない企業もある。しかし、このブランドパーソナリティはブランディングを考え直す企業にとってぜひ考慮すべき要素の1つだろう。