イノベーションが生まれ続けるサンフランシスコの生活とは

イノベーションが生まれ続けるサンフランシスコの生活とは

innovation san francisco
皆さんはサンフランシスコに住む人々の生活を明確に描けるだろうか?どのように生活し、どのように仕事しているか、想像できるだろうか。今回は、我々サンフランシスコで働く人の生活の中に浸透しているテクノロジーを、衣食住(仕事)という切り口で紹介し、サンフランシスコがイノベーションを生み出し続ける街である所以をお伝えしたいと思う。
  • 衣:便利なだけではないオンラインファッションブランドの魅力
  • 食:オンラインサービスを使った方がより便利でお得という価値が確実に広まりつつある
  • 住(働く):サンフランシスコのイノベーションを生む、自分にあった仕事環境と通勤スタイルの選択

サンフランシスコは今もなお最新テクノロジーの発信源

btraxではイノベーションブースタープログラムを提供しているが、参加者には最長2ヶ月間サンフランシスコに滞在していただいている。その滞在のなかではプログラムに参加する以外にも、サンフランシスコの色々な最新サービスを自ら試し、自分たちのサービスアイデアに活かしている。 たとえば同プログラムに参加された日本の大手シンクタンクの社員の方々はサンフランシスコ市内で利用したUberの乗車時に、思いの外ドライバーと会話を楽しんだようで、サンフランシスコに住む人のようにサービスの価値を体験したようだった。 関連記事:日本でイノベーションが生まれにくいと思った3つのポイント サンフランシスコでは生活のあちこちにテクノロジーが浸透している。大手スタートアップの本社があったり、新しいスタートアップが次々と生まれたりする環境ということもあり、最新のサービスのテストマーケットとなることも少なくない。 また、ここで暮らす人の最新サービスに対する関心が高く、アーリーアダプターも多いため、新しいサービスが生活の一部になる速度が早い

サンフランシスコから離れて初めて気付く、テクノロジーと隣り合わせの生活

筆者はサンフランシスコに3年ほど住んでいるが、恥ずかしながら自分の生活にそこまでテクノロジーが浸透しているとは思わず、自分が依存しているとも思っていなかった。しかしその認識が間違っていたことに気付かされたきっかけとなったのは、先日休暇兼リモートワークで訪れたハワイである。 ハワイ、オアフ島は言わずと知れた観光業の盛んな土地であり、特にテクノロジーが盛んなイメージは当然ながらない。とはいってもアメリカ国内なのである程度はサンフランシスコで使ってるサービスも浸透していると思っていた。 しかしながらハワイに2週間ほど滞在して、普段のように生活、仕事ができずに不便を感じることが多かった。そしてその不便の多くはサンフランシスコのテクノロジーによって成り立っていた生活体験ができなかったからである。 一方で、ハワイならではのテクノロジーの使われ方も垣間見ることができたのも事実である。 Hawaii sharing bike (ハワイにあったシェアリング自転車のbiki) そこで今回は筆者のような文系サラリーマンでさえもサンフランシスコではテクノロジーに生活を支えられているという点をあたらめてまとめてみた。 また今回筆者はサンフランシスコを離れて暮らしてみてどれだけサンフランシスコが特別な環境なのかを実感したわけなのだが、特にスタートアップ、新しいビジネスアイデア、サービスを考えている人に、ここにどんな特別な環境があるのかということを知っていただければ幸いである。

衣:便利なだけではないオンラインファッションブランドの魅力

サンフランシスコはデザインやアートが盛んだったり、ヒップスターやヒッピーなど個性的なスタイルが根付いていたり、ファッション感度が比較的高い都市だ。ファッション業界の中でもテクノロジーという切り口でトレンドの勢いを増している。

買い物不要!便利などころか、専属スタイリストがつくサブスクリプションサービス

サンフランシスコの生活の中に浸透してきているファッション業界のスタートアップの中に、サブスクリプションやキュレートボックスなどの形態でおしゃれさと便利さを追求しているブランドがある。 2011年創業のStitch Fixはユーザーの好みやサイズを元に、パーソナライズされたスタイリングをキュレートしてユーザーに届けるサービスだが、2017年にはアメリカで11番目に大きいアパレル・靴のオンライン小売ブランドとまでなった。その成長率はAmazonを超える。 stitch fix (Stitck Fixから届く箱の中身のイメージ。写真は公式サイトより転載) ユーザーに届けられる5セットのスタイリングはStitch Fix独自のアルゴリズムから選ばれたものだが、スタイリストからのコメントもついており、テクノロジーとマニュアルのバランスが取られている。 好みに沿った服が届くのは大前提だが、ユーザーは数日間のうちに試着をしてみてサイズが合わなかったり、好みでなかったりしたら返却することができる。もちろん気に入れば購入ができる。 実店舗が次から次へと閉店して数が少なくなりつつある昨今、オフラインで購入をしようとすると消費者は店舗に行くまでに以前よりも時間をかけ、さらにその中から自分の好きな服、サイズを探さなくてはいけなくなった。 一方Stitch Fixは探すという行為を無くしてくれた。買い物をする時間があまりないけどテキトーな服でいいわけじゃない、もしくは何を着るべきかの助言が欲しかったりする人は、うってつけのサービスなのだ。 またテック企業を中心に女性起業家などの活躍が目立ってきている中、彼女たちの仕事ぶりだけでなくライフスタイルも注目されてきており、特に働く女性にとってファッションは忙しくても妥協したくないという思いが強くなってきているのではないだろうか。

購入だけじゃなく試着から返品までも自宅で完結できるようになる

さらに衣類のオンライン購入で消費者の悩みのポイントのひとつになっているのが、事前に本物の商品をみて試着ができないという点だが、返却サービスの提供、簡易化をすることでこのハードルを下げている。 大手Amazonに至ってはAmazon Prime会員限定で、Amazon Prime Wardroabというサービスを開始した。ユーザーが購入を考えている商品を選択すると、その商品が届き、自宅で購入前に試着ができるという仕組みである。 同封されている返却用の伝票を使えば、無料で返却商品の引き取りをしにきてくれたり、試着した商品の中から購入をすればさらに割引が得られたりと、事前に試着ができないという悩みの解決以上にお得なサービスを提供しているのである。 服だけに限らないアメリカの返品文化というのはオンラインでも同様に存在しているようだ。むしろオンラインでの返品サービスには今までより便利に使い続けられる工夫がみえる。 関連記事:アパレル業界の未来を予測!知っておくべき6つの現象【前編】

食:オンラインサービスを使った方がより便利でお得という価値が確実に広まりつつある

探す・予約・注文・受け取り。あらゆる外食体験がシームレスになりつつある

サンフランシスコは山手線内回り約2個ぶん程の大きさ*でありながら約4,400のレストランがあるという。当然レストランなどの飲食店の口コミサイトというのはサンフランシスコでもよく使われている。 その中でもYelpは有名で、実名による口コミだけではなく持ち帰りやデリバリーのオーダー、席の予約もアプリ内で行うことができる。本来はデリバリーを行っていないレストランの代わりにデリバリーするサービスはGrubHubPostmatesUberEatsなどかなり主流になってきた。 さらに最近ではGoogle Mapsがロケーションと時間に応じてレストランやオススメのアクティビティなどを地図上に表示してくるようになった。自分が検索してから決定までの操作を繰り返すうちに、より個人にあったオススメを表示してくれるようになるのであろう。 関連記事:小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題

オンラインは便利だけどお値段高めなんてことはなくなってきている

また、サンフランシスコの物価の高さはいつも悩みの一つで、外食も例外ではない。平日のランチであっても10〜15ドルかかるのが普通で、お財布に優しいオプションはいつも歓迎される。 そこに目をつけたのがMealPalというサービスである。日々のランチ(もしくはディナー)をサブスクリプション式で購入して、各レストランが1種類ずつ提供しているメニューから好きなものを事前に選び、自分でお店まで取りに行くというもの。 お店側にとっては決まったメニューを決まった量分作りやすいので1食5〜6ドル程度で提供ができるのである。サンフランシスコ界隈で働く人の間で広がりを見せている。 また日々の食材の買い物についてもAmazonFreshInstacartといったオンライングローサリーデリバリーサービスが、便利かつ、店頭販売価格とさほど変わらないお得さをメリットに浸透してきている。 sf food price table (食材価格サンフランシスコとアメリカの比較。こちらのサイトより転載) オンラインの注文は配達までに時間がかかる、店舗の方が安いというような消費者の心配はどんどんなくなってきていると言えるだろう。

住(働く):サンフランシスコのイノベーションを生む、自分にあった仕事環境と通勤スタイルの選択

住宅よりも働く空間によりサンフランシスコらしさが垣間見られると思うのでオフィススペースについても述べておく。

働く場所はどこでも良いけどどこでも同じという訳ではない

まずサンフランシスコではリモートワークは主流であることが街を歩いていてもわかる。日中カフェに入れば仕事をしている人を多く見かけるし、「今日はカフェで仕事してから午後オフィスにちょっと寄る予定」といったようなパターンをよく聞く。 会社のデスク以外で仕事ができるというのは会社の規則によって許可されているということだけでなく、サンフランシスコの多くのカフェなどでWiFiやコンセントなど働くことを前提にした場所がたくさんあるということでもある。 カフェなどの飲食店だけでなく、日本にも進出したWeWorkImpact Hubなどのコワーキングスペースも多くみられる。 利用者が自分の執務スペースだけでなくネットワークの構築やそこから起こりうるコラボレーションの機会を求めていることもこのようなコワーキングスペースが流行る理由であり、そのようなマインドを持つ人が多いこともまたサンフランシスコならではだ。

みんな同じである必要はない、通勤スタイル

また、通勤においてサンフランシスコ界隈で働く人の多くに利用されているのはシェアリングサービスである。 関連記事:【2017年最新版】コワーキングスペース 世界の8トレンド ドライバーの自家用車に相乗りしてライドをシェアをするUberは通勤ではさほど主流ではないものの、特定のルートを走る小型シャトルをシェアするChariotや、通勤者同士で運転手、乗客をマッチングするScoopFord GoBikeJUMP Bikesの提供する自転車もサンフランシスコ市内で展開されており、激戦区となっている。 ちなみに以前フライング気味でサービスが一部始まってしまったBirdLimeBikeSPINといったシェアキックスクーターも、2018年8月現在はサンフランシスコ市交通局の許可待ちの状態ではあるが各社資金調達に成功しており、勢いを増している。 テクノロジーとは少し離れるが、ローラーブレードやスケートボードで出勤をする人も見かけるあたり、サンフランシスコでは通勤においてもダイバーシティが認められ、それぞれが自分にあったスタイルを選択していることがわかる。 こういった姿もサンフランシスコのライフスタイルを形成する重要な要素と言わざるを得ない。 関連記事:サンフランシスコが取り組む通勤イノベーション

サンフランシスコのどういった人がこのような生活をしているのか

ここまで紹介したサービスは何も特別なものではなく、むしろサンフランシスコに長く住んでいる人であれば聞いたこと、使ったことのあるようなものばかりである。 エンジニアでも投資家でも起業家でもない筆者のような文系サラリーマンでも最新テクノロジーの情報が耳に入り、実際に見てその広がりを実感している。 (実際にアメリカ国内でもベイエリアのスタートアップは一番多くの投資を受けて拡大していることがわかるこちらのサイトより転載) これは間違いなくサンフランシスコ唯一無二の特徴だ。そして各サービスの広がりを見ているとサンフランシスコの以下のようなユーザーが、サービス拡大の根源を支えてくれていることがわかった。 まず、サンフランシスコ界隈にいる利用者の最新サービスに対する関心が高いので、新しいサービスへの抵抗が低い。人は得てして今まで使っていたものに慣れているから現状維持を選びがちだが、テック企業で働いている人や投資家などは新しいサービスを聞きつけるのも早いし、まずは使ってみたいという精神が強いアーリーアダプターが比較的多い。 この人たちによって、さらにそのサービスの情報や評判が広まっていく。 そしてさらに、アーリーアダプターを中心に使ってくれるので改善点がより早い段階で出てサービスの改善へと繋がっていくというサイクルがある。サンフランシスコはよく新サービスの試運転対象エリアとなることが多いのもそれが理由であろう。 btraxが日本の大手電機メーカー向けに行ったプロジェクトでも新規ユーザーを探すために、街で開発段階のサービスをテストしてもらえる人を探し、ユーザーインタビューを行った。 全く知らないサービスをテストして見知らぬ我々に協力してくれる人が少なからずいるということ、そして彼らが具体的にそのサービスを使うシーンを想定して共有してくれるフィードバックの質の良さは、やはりサンフランシスコならではでないかと改めて実感した。 関連記事:マジックなんてなかった!スタートアップ企業の初期ユーザー獲得方法

まとめ

今回、サンフランシスコを出てハワイで生活をしている時に感じたことをきっかけに、こういったテクノロジーを中心としたライフスタイルについて振り返ったわけだが、やはりアメリカ国内とはいえサンフランシスコは他の都市とは全く異なる特徴がある。 筆者はテクノロジーを追い求めてサンフランシスコにきたわけではないが、そんな筆者の生活にもあらゆる面でテクノロジーが浸透してきていた。 ハワイでUberを使った際には、サンフランシスコで主流である1台のUberを他のユーザーと相乗りすることで安価に乗車できるUber Poolというプランがなかったため、毎回ひとりでも1台をチャーターしなければならず、非常にお金がかかってしまった。 またハワイ、特にワイキキ周辺は働きにくるような場所ではないので当たり前かもしれないが、WiFiやコンセントのあるカフェがほとんどなく、コワーキングスペースもなかなかの過疎っぷりだった(事実、筆者が訪れたハワイのコワーキングスペースは訪問後数日後にクローズした)。 またサンフランシスコで新サービスの拡大を目の当たりにしたり、btraxプロジェクトで実際にサービス開発のサポートをしたりしたことを振り返ってみると、やはりサンフランシスコがどれだけ特別な場所なのかがわかる。 シリコンバレーを中心に世界トップレベルの技術力を持っているということはサンフランシスコ、ベイエリアの特徴の一部でしかない。 起業家精神のある人や最新サービスに対する感度の高い人が集まり、時には彼らが交わりながらまた新しいアイデアが生まれ育っている。こういった環境の中、ビジネスアイデアを作って育てて行けることがどれほど有効かは、先に紹介したサービスの例からもわかっていただけると思う。 サンフランシスコ、シリコンバレーだけが起業をできる唯一の環境というわけではないが、ここで暮らし、この環境にふれ、ここで試しながらサービスを発展させていくということはどの都市で行うよりも濃いイノベーションが起こせるのではないだろうか。 参考: ・Stitch Fix Proves Again That Data Is The New Hit FashionMealPal gobbles $20M for its restaurant meal subscription serviceShared electric scooters probably won’t return to SF until August *サンフランシスコ面積山手線内回り大きさ

やりたい事が見つからない本当の理由 – そして見つけるための4つの方法

やりたい事が見つからない本当の理由 – そして見つけるための4つの方法

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どうしたら好きなことが見つかりますか?
これまでの経験上、起業を目指している人や、これからの進路を考えている学生に聞かれる質問で一番多いのがおそらくこれだろう。自分自身の場合、子供の頃からの物作りに対する興味と、大学生時代に強烈に好きになった「デザイン」という世界を知ることができたため、そこまで悩む必要がなかった。 それもそのはずで、高校生になる頃には自分が興味のない事を学ぶことに対してエネルギーを注ぐ事を諦めてしまったから。それ故日本の大学に入ることは出来なかったが…。 関連: 文系、理系、オレ何系?

エリートの方が好きな事が見つかりにくい?

その一方で、上記の相談される多くの方々は、世の中では「エリート」のくくりに入る。ということは、学校での成績も良く、受験にも成功しているだろう。おそらく学校での面白くない授業に耐え、上手に得点を取る能力がついてるはず。そうなると、やりたくない事でも我慢出来るように育って来てしまっている可能性が高い。 強烈に好きなことを見つけるために、自分が嫌いな事や、やりたくない事をはっきりとさせ、好きなことだけを抽出する方法がある。 もし、日本の学校教育の中で、好きじゃない事を我慢してやる習慣を作っちゃってるとすれば「なんとなく良いなと」は思う事があっても、「強烈に没頭したくなるもの」が見つかりにくくなってる可能性もあるのではないかと感じた。

好きと言っている割には...

逆に、「これが好きです!」とはっきりと言える人の中にも、実は「本当?」と思ってしまうケースも少なくない。例えば、デザインがめちゃ好きだと言っている割には、これまでに少しもデザイン的なことを一切やっていない場合だったり、スタートアップに興味があるらしいのに、バリュエーションの意味を知らなかったりなどがそうだ。 これはもしかしたら、これまで育ってくるプロセスの中であまり好きではないことでも、本能的に我慢する事を覚えてしまって、逆に強烈に興味の湧く事柄にも反応しにくくなってきている可能性がある。一言で言うと「我慢しすぎ症候群」なのかもしれない。 参考: それは本当に自分が好きな事ですか?

起業はやりたくない事から逃げ出すための一つの手段

これは自分の場合も含め、多くの起業家にありがちなケースなのだが、会社を始める理由自体が、自分のやりたいことの実現、もしくはやりたくない事を避けるための手段だったりもする。しかし、実はビジネスを行う際には、強烈にそれに対して誰にも負けないぐらいの情熱がなければ続かない。 それに関して、スティーブ・ジョブスが下記の様に答えている:

“物事を成功させるには、情熱が必要だと言われているが、これには完全に同意する。なぜならば、強烈な情熱が無ければ、真っ当な人であれば途中で投げ出してしまいたくなるぐらいに、しんどいからである。”

参考: Appleを1兆ドル企業に成長させた6つのデザイン哲学

LikeではなくLoveを見つける

ジョブスが語る通り、もしあなたがこれからビジネスを始めようと思っているのであれば、それに対しての強烈な愛情 (Love) を持つ必要があるだろう。これは、漠然とした好き (Like) では成功するのは非常に難しいだろう。なぜならば、同じ様なビジネスをやっている人がいる場合 (珍しいケースではない) 愛情の強さの差が命運を分ける事が多々あるからだ。

やりたい事を見つける4つの方法

ではどの様にしてLoveを感じる事柄を見つける事ができるのであろうか?実はその方法は1つではない。ついついその内容に注目しがちであるが、実は他の方法を含めると意外な所に”やる気”が隠されていたりする。

1. やっていて楽しいことをやる (What)

好きを仕事にするを実現するための方法。趣味を仕事にするのもこれ。自分自身もこのケースで、元々デザイナーとして働き、大好きなデザインを仕事にするためにデザイン会社を始めた。やる事自体が自分が好きな事であるので、当然の様に仕事にも高い情熱を持って取り組める。と思いがちなのであるが、ここに一つの落とし穴がある。 好きな事を仕事にしたとしても、現実的には好きなことは5%程度で、残りの95%はやりたくない事の連続である事が多い。 例えば、デザインがやりたくてデザイン会社を始めてみたら、好きなデザインをできる時間は5%もなく、ほとんどが経理や人事などの経営に関するタスクに時間が取られ、純粋に好きなことに没頭できる時間は少ない。 それでも、その5%ぐらいの快楽のために、その他の95%の時間が苦にならない状態を維持することは可能である。その一方で、この強烈に好きな5%がなければ、到底続かないだろう。加えて、これだけでは情熱を維持し続けることは至難の技であり、下記のその他の理由もモチベーションになるべきであると感じる。

2. なぜやるかにフォーカスする (Why)

何を仕事にするかよりも、なぜそれをやりたいかに注目することで、やりたい事を見つける方法。そのビジネス、もしくはサービスを通じて自分の周り、そして世の中がどの様に変わるのか、を重要視する事で、手段よりも目的を明確にする事が可能になる。 例えば、先週、サンフランシスコでコオロギを原材料にしたチップスを製造販売するスタートアップのファウンダーに会った。そう、昆虫のコオロギ。通常であれば誰もが一瞬で"ありえない"と思える様なアイディアである。 しかし26歳の彼女は、コオロギに含まれる豊富なタンパク質と、それによる世界的なエネルギー問題の軽減、そして、今後確実に発生すると思われる食糧危機を救うために、そのビジネスに対して誰よりも強い情熱を持っている。 この様に、特にプロダクト自体に強烈な情熱を持っていなくても、それが生み出す世の中に対してのポジティブな影響に強い意識が働けば、それが大きなやる気に繋がり、自分の人生を捧げる価値のある事柄を見つけ出すこともできる。

3. どうやるかにこだわる (How)

意外と盲点なのが、仕事のやり方にこだわることでやりたい事が見つかると言うパターン。これはむしろ見つかると言うよりも、見出すと言った方が正しいかもしれない。どんなに単純な作業や、一般的には退屈だと思われている仕事内容だったとしても、そのサービスレベルやプロセスにこだわりを持つことで、やりがいを感じる方法。 例えば、毎日工場での単純作業だったとしても、どれだけ正確に仕事をこなせるのか。機械にもわからない方どの繊細なズレを認識し、世界最高峰の製品を作り出すことに強い情熱を注ぐ事ができるのであれば、それは天職になるかもしれない。 逆に考えると、仕事が楽しくないのではないく、楽しいやり方をしていないだけなのかもしれない。どんな仕事であったとしても、最高品質を目指す事で、それがいつの間にかやりたいことになるケースもあるだろう。 そして、一つの事をひたむきに続けていれば、周りから声がかかり、大きな仕事に繋がるかもしれない。見ている人は見ているので、チャンスの方からやってくる事もあるだろう。 参考: 日本の技術力が世界的にすごい本当の理由

4. 誰のためにやるかを考えてみる (Who)

そして重要な最後の一つ。それは、誰のためにその仕事をやるかと言うこと。自分以外に助けたい人や、救いたい人、そして、この人とだったらとことん一緒にやっていきたいと思わせる人がいるなどの、”だれ”がモチベーションの根源にあるケース。 例えば、病気がちな家族で育った人が世の中の病気を減らすために医者になったりするものこのタイプ。必ずしも自分自身がやりたいことでなかったとしても、誰かために情熱を傾ける事が可能である。 もう一つの”Who”でやりたい事を見つける方法に、誰と仕事をするかががあるだろう。その例が、本田宗一郎と二人三脚で本田技研 (HONDA) を作り上げた藤沢武夫だろう。本田宗一郎に惚れ込んだ彼は、HONDA共同創業者として経営全般の業務を行なっていた。 そのおかげで、本田宗一郎は工場で自分の好きなことだけに没頭する事ができた。その藤沢が本田の人間性を目の当たりにし「その瞬間、彼は私の人生を支配したのだ。」と語っているほどである。本田宗一郎の存在が藤沢の生きがいとなったのだろう。 たとえ自分が一番やりたい事でなかったとしても、自分の家族を喜ばせたいとか、愛する者たちのために命をかけるのもありかもしれない。

まとめ:「やりたい事 = 好きな事」じゃなくても良い

以外にも、やりたい事を見つける方法は複数ある。ついつい”何 (What)”にフォーカスしがちであるが、それ以外にも、なぜやるか、どうやるか、誰のためにやるか、もモチベーションを上げるための重要な要素であり、これらを複合的に見つける事ができれば、強い情熱を持つことも可能かもしれない。 ちなみに、これがスタートアップの創業チームの場合は、その一人一人のモチベーションの根源が下記の様に異なっている事も有りである。 例:ファウンダーたちのモチベーションの根源が違うのもあり
  • CEO (ハスラー) : ビジネスを通じて社会的問題の解決 (Why)
  • エンジニア (ハッカー) : 世界最高レベルのテクノロジーを活用てプロダクトを作ってみたい (How)
  • デザイナー (ヒップスター) : 世の中の多くの人が使ってくれるサービスを提供したい (What)
しかし、彼らファウンダー達には「サービスを通じで世の中を変える」と言う共通のビジョンがあるからこそ、一つのチームとして機能する事が可能になっている。 冒頭のジョブスの言葉にもある通り、高いレベルで何かを成し遂げるには、それに対しての強烈な情熱が必要になる。もしかしたら、それは探すものではなく、自分の中にすでに存在しているのかもしれない。 それを見つけるための方法も一つだけでは無い。何をやりたいかに迷っている場合は、複合的な角度から考えてみるのも一つの方法だと思う。  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

意外と知られていない会社での飲酒のメリット・デメリット

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夕方に入り、ある程度の疲れを感じてきたところで飲むビール。サンフランシスコ・ベイエリアを中心とした多くのスタートアップでは、以前より社内でのアルコール無料提供が社員に支持されている。大企業とは違った自由な働き方を象徴する要素の1つだ。 日本にも昔から「飲みニケーション」という言葉があるように、お酒は人の交流や会話を促してくれるもの。社員同士や社内外のコラボレーション促進に特に取り組む近年の企業トレンドを考慮すると、ひょっとしたらこれからのオフィスの必需品になるのかもしれない。 しかし「飲まないとコミュニケーションできないのか」という議論もまた挙がるように、ここは賛否分かれるポイントでもある。結局のところ、オフィスでのアルコール提供はアリなのだろうか?近年のスタートアップの動きも入れながら考察すべき点を見ていきたい。

海外で広く飲まれる社内でのアルコール

仕事後の一杯はどこの国でも大昔から行われてきただろうが、「オフィス × アルコール」のイメージを強くしたのは、近年話題のWeWorkではないだろうか。コワーキング業界を牽引する同社の世界各地域のスペースにもビールサーバーが設置されており、これがWeWorkのトレードマークの1つとなっている。 コラボレーションを促進する次世代のワークスペースにビールサーバーが平然と置かれている光景は、多くの人にとって衝撃的なものだっただろう。 wework-beer1 実はこのビールサーバー、カリフォルニア州にあるオフィススペースには現在設置されていない。 スタートアップや企業がオフィス内で社員に対しアルコールを提供する分には問題ないが、WeWorkの場合は入居者に対して形式上「大家、不動産賃貸会社」という立場になり、カリフォルニア州でのアルコール提供には酒類販売のためのライセンスが必要になるのである。 今年2月にサンフランシスコのダウンタウンにあるスペースへの入居を決めたTable Public Relationsの創業者、Anna Roubosも「あのビールサーバーはどこにあるの?」と驚きを隠せない様子だった。彼女のように入居理由にビールサーバーを挙げる人もいるほど、ワークスペースでのアルコールは現在人気なのである。 weworkboston-beer ボストンにあるWeWorkでは、フロアごとにどの生ビールが飲めるかウェブサイトで確認できるようになっている。 実は法的にグレーゾーンだったコワーキングスペースでのアルコール提供だが、ここに挙げたWeWork以外にもサンフランシスコにある様々なコワーキングスペースでは、州からの指摘があるまで必ずと言っていいほどビールやワインの提供が行われていた。 そしてその中でも、以前からライセンスを取得した上でお酒の販売を行っているCovoはそれを武器にして、現在もアメリカ各地への展開を進めている。アルコール提供のカウンターをしっかりと設け、夕方からビールやワインのラインナップを充実させたサービスを提供。 「数々のミートアップやビジネスイベントを開催する上でもアルコール販売は貴重な収入源となっている」と創業者の1人であるJason Panは語ってくれた。 covo-counter サンフランシスコにあるCovoのバーカウンター 関連記事:【2017年最新版】コワーキングスペース 世界の8トレンド 同様にスタートアップにおいても、社内でのアルコール提供は社員にとって人気の福利厚生の一部になっている。TwitterやGlassdoorといった企業を筆頭に多くの企業が豊富な種類のビールやアルコール飲料を提供。 コミュニケーションツールの開発を行うAsanaでは、スコッチとチョコレートという少し洒落た方法で提供している。GithubやYelpでは仕事後に限られたスペースでのみ飲酒が許可され、FacebookやGoogleでもマナーに沿った上での飲酒が認められている。 airbnb-beer1 airbnb-beer3 筆者が訪れたAirbnbのオフィスでも豊富な種類のビールが用意されており、午後4時以降に飲むことができる。 関連記事:Google、Facebook、Airbnbはどのようにしてチームビルディングを行っているのか? またこのような「軽く飲む」企業文化に乗じて、企業向けにアルコールの提供・配達を行うサービスも生まれている。スタートアップのHopsyは、新鮮なローカルビールを企業オフィスに販売・提供。 ビールサーバーの無料提供も行い、社員の通常のハッピーアワー用にサブスクリプションモデルで一定量の供給を行い、またオフィスで開催されるイベント用にも必要なだけデリバリーを行うサービスを提供している。 hopsy1 hopsy2 btraxオフィスにもあるHopsyのビールサーバー。どこにでも設置しやすいように軽量化されており、中身はHopsyから送られてくるビールの入ったペットボトル”Torps”を入れ替えるだけ。

なぜわざわざオフィスでアルコール提供を行うのか

このようにコワーキングスペースやスタートアップ企業がワークスペースでアルコールの提供を行うのには、主に次の2つの理由がある。

1. オフィススペースで社員やユーザーのコラボレーションを促したい

すべての人ではないにしろ、やはり多くの人にとって、お酒は他人との会話や交流時の潤滑油的役割を果たしている。そしてそれは国境を超えた共通認識であり、多種多様なバックグラウンドを持つベイエリアの社員同士の交流にも非常に便利なものである。 また、社員同士のコラボレーションの成果は、他のどこでもなく、オフィスで表れてほしいという企業の願いもここに込もっている。在宅勤務も増える現代の働き方の中で、社員を意識的に集めた「オフィス」という場所のコラボレーション機能を向上させるために、アルコールは利用されている。

2. 優秀な人材獲得に向けて自由な企業文化をアピールしたい

アメリカのミレニアル世代の社員は大企業的な組織よりも自分の活躍の機会を得やすく、自由な企業文化を持つスタートアップのような企業で働くことを好む傾向が強い。 企業や人材にもよるが、ワーク・ライフ・インテグレーションといった言葉もある中で、仕事とプライベートを分けずに自由に飲酒できるような環境を通じて自由な社風を表現する企業が増えている。 このように企業のアルコール提供の背景には、人事的な理由が存在している。しかし、そんな文化が強いスタートアップ業界でもアルコールを明確に禁止する企業が現れ始めている。

一方、SalesforceやUber、Jet.com買収のWalmartで進む禁酒政策

サンフランシスコを代表するテック企業の1つであるSalesforceは、社内でのアルコールを取り締まろうとしている。昨年10月に社内の冷蔵庫にあったビールや生ビール用の小さい樽を見た同社CEOのMarc Benioffは、25,000人いる社員全員に対し、社内での飲酒を認めない旨を伝えるメールを一斉送信。 ”Ohana”(ハワイで「家族」を意味する)という言葉を用いて社員のつながりを大事にしているSalesforceだが、アルコールにその価値を求めていないようだ。同氏はアルコール提供が進むテック業界のパイオニア的CEOの1人として、多くの意味で注目を集めている。 同様に、Eコマース系スタートアップのJet.comでも飲酒が禁止に。その背景には、2016年8月に同社の買収を行った大手小売のWalmartがある。WalmartはJet.comの社内飲酒のみならず、週に1度行っていたハッピーアワーイベントも廃止したとのこと。社内からは不満の声が上がる中で、スタートアップカルチャーの”調整”が行われた。 人事管理ソフトウェア開発を行うZenefitsでも、2017年に新CEOのDavid Sacks体制の下で社内飲酒が禁止された。同社は、創業者兼前CEOのParker Conrad氏が関与した不正を始めに様々な問題が2016年に発覚。 正式な州政府のライセンスを持たない保険外交員を雇用していた問題や、その認可を受けるために必要なオンライントレーニングにおいて不正行為を可能にするソフトウェアの使用、また社内での性行為等、映画『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』並みのカルチャーを一掃する動きにでた。 また、様々な社内問題で騒がれることの多いUberも、前アメリカ司法長官のEric Holder氏の法律事務所推薦の下、会社が定めるコア・ワーキング・アワー内での飲酒を昨年7月に禁止。さらにアフターアワーイベントでのアルコール予算も減らす等の施策が取られている。

なぜ禁酒に戻そうとしているのか

スタートアップ業界を中心に社員から根強い支持のある社内アルコール。提供を続ける企業も多い中で、ここに挙げた企業のトップ達が感じていた懸念点は以下の4つである。
  • アルコール提供分の出費がかさむ
  • 社内でのセクハラ等、悪酔いする人の悪行が増える
  • お酒が苦手な社員にとって、ほろ酔い社員は迷惑な存在
  • 酔った社員がオフィス外で問題を起こした場合、企業の責任が問われる可能性がある
ここに上がったポイントは、社内でのアルコール提供を検討する際に企業が知っておくべき、また気をつけるべき点である。企業はこれらのリスクを踏まえた上で計画的な導入が必要になるだろう。

これらを踏まえた上で

社内でのアルコール提供のポイントや事例を見てみて、読者の方はどのような感想を持っただろうか。これだけのリスクを背負いながら、アルコール提供を進める企業が多くあることに驚きを感じた方もいるだろう。 しかし、このようなスタートアップ的で大胆なワークカルチャーを参考に導入を進める企業は実際に今も増加傾向にある。 自由な働き方を提供するためにアルコール提供を検討する企業は、会社やオフィスの規模にかかわらず今後も増えてくるだろう。そのような時には、本記事で触れたポイントを考慮した上で、自社のワークカルチャーに沿った判断が必要になる。 この記事が読者の働き方変革の一部分に役立てられれば幸いである。 *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。

イノベーションの力でアメリカを健康に!フード系スタートアップの活躍

food startup
「スタートアップ」という言葉がだいぶ浸透し、日本でもアントレプレナー向けのミートアップや起業家を育成するようなプログラムや施設が増えてきた。そんな今だからこそ改めて触れておきたい点がある。 それは成功している多くのスタートアップは問題を解決するために生まれてきたということだ。ユーザーの理解から始まり、問題を特定をし、新しい価値のあるソリューションを提供し続けることで急成長を成し遂げてきたのである。 関連記事:今さら聞けないリーンスタートアップの基本 こういったスタートアップのなかでも、特に注目したいのがフード系だ。アメリカの食料問題、特に肥満の問題は非常に深刻で、彼らはその解決に取り組んでいる。彼らがすごいのは現在明らかになっている問題の解決だけではない。 サービスを通して、ユーザーの社会問題に対する貢献度や達成感を与えることでユーザーの自己実現欲求を満たし、一つの問題解決以上の価値を提供しているのだ。 日本は世界的に見ても健康意識の高い国だが、それでも食品ロス、中高年を中心として生活習慣病、食品偽装、異物混入(食の透明性)などの問題が根強く残るのも事実。このような社会問題を解決するためにアメリカではどのようなスタートアップが生まれ、それがどのようにユーザーに受け入れられているのかを紹介したい。 関連記事:【農業 × テクノロジー】食の未来を変革する最新アグリテックサービスまとめ5選

アメリカの肥満問題は食品不足が一因だった

アメリカが肥満大国なのは有名な話だが、その問題を調べていくと、アメリカ特有の理由や様々な問題が絡み合っていることが見えてくる。 まず肥満問題の深刻度合いについて簡単に説明すると、アメリカの20歳以上の成人で太っている(オーバーウェイト:一般的にBMI指数が25-29.9)もしくは肥満(オビース:一般的にBMI指数が30以上)の人の割合は全体の約70%にも及ぶ。肥満の増加率は減ってきたという報告こそあるものの、肥満は未だにアメリカで深刻な問題の一つでなのである。 america is fatter than ever (写真はこちらのサイトより転載) また肥満によってもたらされる病気の医療コストは年間1500億ドル、肥満による生産性の損失も何十億ドルとも言われ、経済的な面からも非常に深刻な問題となっている。 アメリカの肥満という問題には様々な背景が関係しているが、「地方」と「低所得」がキーワードとなりそうである。アメリカで太っている人の割合が高いのは、飲食店が多くあるような都市部を擁する州ではなく、実は南部を中心とした地方エリアなのだ。 このようなエリアは農作物や健康的な食べ物を取り扱うスーパーが近くになく、フードデザート(食べ物砂漠)と呼ばれており、実に2300万人がフードデザート地域に住んでいると言われている。 またこのような地域の中でもファストフードやコンビニエンスストアへのアクセスの方が良い地域(フード沼、food swampsとも呼ばれる)も存在し、スーパーがないだけよりも肥満への貢献度が高いとの調査もある。さらに低所得者の世帯は、肥満により患った病気に対する医療費が払えないなど悪循環が続いているのだ。

食品は不足しているのに大量に廃棄されているという問題も

食品が行き届いていない問題がある一方で、皮肉にも大量の食品廃棄が発生している現実もある。実際にアメリカでは毎日約15万トンの食べ物が廃棄されているという。一人当たりにすると約450グラムを捨てているということだ。さらにこれらの食べ物を生産するのに使っている水、土、ガソリンなどのエネルギーも無駄にしていることを考えると、無視できない問題である。 ちなみに2016年には米国農務省と環境保護庁が「2030年までに食品廃棄を50%減らす」という目標を発表した。企業に加え、NPO、個人消費者に対しても協力が求めれれており、各州や市レベルで制度が整えられ始めている。

加工食品ブランドに対する不信感

このような食品不足と食品廃棄が発生しているアメリカの食生活には、さらに悪影響とも言える習慣がある。それは加工食品が日常の食卓に並ぶことだ。 アメリカのフードマスマーケットでは、加工食品の大手ブランドが存在感を放っている。マクドナルドやコカ・コーラやペプシなどの炭酸飲料メーカー、クラフト、キャンベルスープなどの加工食品メーカーがこれまでの広がりを見せることができたのは価格を少しでも下げることを可能にした大量生産システムがあったからこそ。 また、アメリカ全土に商品を行き渡らせることができるだけの流通網、全国的に認知度を上げるための広告資金があったことも関係するだろう。そしてその結果、これらの加工食品は広くアメリカの食卓に浸透していったのだ。 major food brands (写真はこちらのサイトより転載。加工食品を含むコンシューマー商品業界マップ。これら中に健康的と言える食品が果たしてどのくらいあるだろうか) しかし最近になって、これらの加工食品ブランドは消費者からの信頼を失いつつある。実際に消費者からの需要が減ってきたため、一部の大手スーパーでは取り扱う加工食品を少なくするための見直しが行われている。 その一因となっているのが、一部のブランドの遺伝子組み換えや非倫理的な生産方法といったサステイナビリティの問題が明るみに出てきたことだ。さらに大手ブランドがアメリカ全土に食品を行き渡らせているということは、運ぶのにそれだけ排気ガスを使っているというのと、ローカルの農作物を差し置いて売られている可能性があるということ。 このようなサステナブルでない食品加工物が求められなくなってきた現在、支持されるフードブランドのあり方が変わりつつある。 関連記事:ミレニアルにはブランドネームではなく体験を売れ!ー 炭酸飲料大手企業の挑戦

これらの問題に取り組むために始まったスタートアップ

食品不足による肥満、食品廃棄、サステナビリティ。これらの課題に問題意識を持って解決を試みるスタートアップが勢いをつけている。以下に紹介するスタートアップは皆アメリカの食に関する問題に対して様々なアプローチでサービスを提供している。

1. Imperfect Produce:インスタ映えはしないが質が保たれた食材を提供

2015年にベイエリアでスタートした、見た目が不揃いのため廃棄する予定だった食材を買い取り、サブスクリプション式でスーパーよりも安価な食材を販売しているスタートアップ。 彼らの買い取り元は大手からローカルの小さなオーガニックの農家までにわたり、コミュニティーへ大きく貢献している。彼らは創業から約2年で1800トンもの捨てられるはずだった食材を廃棄することなく引き取ったという。 また、彼らはオーガニック食材も扱い、サービスを通して無駄にならなかった水や二酸化炭素の量を計算して、サステイナビリティの状況を把握している。ローカルの農家やフードバンクとも積極的にパートナーシップを組み、持続可能な地域づくりにも貢献している。 imperfect produce_insta (写真はImperfect Produceインスタグラムより転載)

2. Full Harvest:廃棄食材のマッチングを行う

Full Harvestは農家が持て余した形が不揃いの野菜や果物を、レストランやジュースストアなどが他よりも安く食材を購入することができるB2B向けの廃棄食材マッチングプラットフォームだ。 もともと創業者のChristine Moseleyはオーガニックのコールドプレスジュースストア事業の拡大に従事していたが、高品質の食材を扱っていたため、そのコールドプレスジュースは1本13ドルもしていたという。 彼女がこの価格になってしまう理由を探っていると、コールドプレスジュースに使う食材はプレスされるのに、見た目が綺麗で高品質なフルーツや野菜を使っていたことがわかり、まずはここを変えられないかを検討。さらにサプライチェーンを探っていくと、大量の食材廃棄があることにショックを受けた。 そして彼女は、農家が売れないと判断していた高品質な食材と、実は食材の見た目はそれほど重要ではないが、できるだけ良心的な価格で良いものを売りたいお店側を繋げるというサービスを開始するに至ったのである。

3. Copia:食べ残しを回収して必要な人に寄付する

Copiaは企業ででた余剰食品を、非営利団体に提供しているサービスだ。アメリカ、特にシリコンバレーエリアの企業では企業が社員向けにケータリングの食事を提供したり、福利厚生の一部で無料スナックがオフィスに並んでいたり、食事付きのイベントやカンファレンスがあったりと、食に溢れている一方で、食べ残しも発生している。それらの食べ物をCopiaのドライバーが綺麗に包み、非営利団体まで運ぶという仕組みである。 企業側にとって利点となるのは、Copiaのデータを元にどの食べ物によく余りが出るのか、どのくらいの量が適切なのかがわかるので、次の購入の決定がしやすくなるということだ。 先ほど挙げた通り、連邦政府が食品廃棄問題対策に動き出しているため、企業として食品廃棄を出し続けることは今後コンプライアンス違反にもなりかねない。Copiaの利用はそんな問題を回避できるうえに、社会問題解決に貢献しているという満足感を与えることも企業ユーザーにとってはメリットとなっているようだ。 copia food waste impact (写真はCopiaウェブサイトより転載。無駄にしなかったものの効果の金額シミュレーションを表示)

まとめ:自分が食べている食べ物の本当の価値を見つめ直し、問題解決に多角的に取り組む

肥満、食品不足、食品廃棄などアメリカの食にまつわる問題は誰が見ても明らかである。この問題を多かれ少なかれ実際に体験した人が、問題を突き詰め、解決しなくてはいけない!という信念を持って始めたスタートアップが広まってきている。 さらに今まで大手ブランドが提供してきた加工商品が疑われるようになり、それらの商品を売るためのマーケティングやロジスティックスなどはかつてのように効果がなくなり始めている。 食べているものがどのように作られ、どのように運ばれ、どのように消化されているのかを知り、食べ物の本質に対する認識が高まってきた今だからこそ、このような問題解決に取り組むスタートアップが支持され、ユーザーもそこに貢献することに新しい価値を見出しているのではないだろうか。 フード系スタートアップを調べていくと、実体験や調査などで現状の問題とユーザーを理解し、課題を明らかにし、新しい価値のあるサービス・商品を提供していくことがスタートアップビジネスには欠かせないことが改めてわかる。 また、今回紹介したフード系スタートアップの問題には、一般消費者、一般企業(スーパー、レストラン、ファストフードチェーンなど)、食品会社、農家、低所得者など多くの人が絡んでいることがわかる。彼らユーザーをあらゆる方面からを理解し、問題を見極めて価値を提供できるように取り組むことが重要になっていると言える。 参考:

【デザイン × 経営】ビジネスにおけるデザインの価値を追求する7人の起業家

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私たちの生活の中にはスタートアップによって生み出されたサービスが溢れている。TwitterやAirbnb、YouTubeはその一例だ。これらのサービスを今まで一度も使ったことが無い人が居れば、逆に興味深い。それくらい世の中へと急激に浸透した。 そんな上記の3つのスタートアップに、ある共通点があることをご存知だろうか。それが「創業者がデザインバックグラウンドを持つ」という点である。 「デザイナーがビジネスを興すなんて。」そんな風に思う人も居るかもしれない。しかしデザイナーが起業することはむしろ自然な流れだと言って良いだろう。なぜならスタートアップは「ある問題を解決する」というところから始まる、と同時に私たちbtraxの定義するデザインの意味は「問題解決」であるからだ。 これらのスタートアップの急成長はビジネス的に解く価値のある問題に対してデザインプロセスが大いに有用だということの証明でもあるだろう。 そこで今回の記事では、デザインバックグラウンドを持ちながら起業し、成功した人物を7人紹介したい

Brian Chesky / Joe Gebbia

Airbnb

airbnb founders デザイナーが立ち上げた会社としておそらく一番有名なのが「Airbnb」だろう。「Airbnb」とは世界中の人と部屋の貸し借りが出来るコミュニティー・マーケットプレイスだ。今や旅行を決めたらまず訪れるのはホテル比較サイトではなく「Airbnb」のウェブサイトという方も多いだろう。 創業者のBrian Chesky / Joe Gebbia / Nathan Blecharczyk のうち、Brianと Joe は RISD(リズディ:ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン)出身のデザイナーである。美大のハーバードとも呼ばれる有名校であるRISDで出会った2人に、本家ハーバード大学でコンピュターサイエンスを学んだNathanが加わり、「Airbnb」は生まれたのだ。 「Airbnb」はUberらと共に、近年最も注目されているシェアリングエコノミー市場を確立した。彼らは「信頼関係のデザイン」によって、「現地の人の家に泊まる」という今までに無い体験を実現したのだ。 この体験設計は創業者がデザイナーだったからこそ実現出来たということに疑いは無いだろう。詳しい内容は以前の記事(デザインがビジネスに与える影響 〜収益週200ドルのAirbnbが急成長した秘訣とは〜)に譲りたい。 airbnb UI 関連記事: ロゴのリデザイン ー なぜGapが失敗しAirbnbが受け入れられたのか デザイン最優先のAirbnbがユーザー獲得のために行う3つのマインドセットと4つのコアプロセス

Evan Sharp

Pinterest

evan sharp FacebookにTwitter、最近はInstagramが大流行中。そんなSNS全盛の時代に、特にデザイナーから圧倒的な支持を得るSNSがある。それがここサンフランシスコ発の「Pinterest」だ。 まるで写真をアルバムに貼っていくように、ネットで見つけたお気に入りの写真を保存、分類、共有することの出来る「Pinterest」の魅力は何と言ってもそのデザイン性。ファッション雑誌のようなインターフェイスは多くのデザイナーをユーザーとして獲得してきた。 pinterest UI ↑まるでファッション雑誌のような「Pinterest」のインターフェイス そんな「Pinterest」の共同創業者であるEvan Sharpもデザインバックグラウンドを持ち、「デザイン経営」を実践する1人。コロンビア大学院で建築を学んだ後に、Facebookでデザイナーとして活躍してたEvanは、勤務時間外の空いている時間にあるサービスを仲間と作っていたという。そのサービスが後に「Pinterest」となったのだ。 関連記事: 優れたUXを生み出す鍵はオフィスにある【インタビュー】Pinterest ケイティ・バルセロナ氏

Chad Hurley

YouTube

chad hurley もはや我々の生活に無くてはならないサービスとなった「YouTube」。「YouTuber」と呼ばれる新しい職種をも生み出し、小学生のなりたい職業ランキングで堂々の6位にランクインしたことは記憶にも新しい。また今や大手企業でYouTube上でチャンネルを持っていない企業を探す方が難しくなった。大人から子どもまで、非常に馴染みの深いサービスであることの証明である。 そんな「YouTube」の創業メンバーの1人もデザイナーである。共同創業者のChad Hurley は大学で美術を専攻した後、「YouTube」の立ち上げ前まではPayPal でデザイナーとして活躍していた。Paypalのオリジナルのロゴは彼によるデザインだ。その後、PayPalでの同僚であった、Steve ChenとJawed Karim と共に「YouTube」を立ち上げたのだ。 「YouTube」誕生のきっかけはあるパーティーでの出来事だという。ある日ChadはSteveと共に自宅でパーティーを開いていた。そのパーティーでビデオ撮影をしていChadはそれを参加者全員に送ろうとしたのだが、彼のビデオは高性能だったが故に容量が多く、何度やってもエラーになってしまったという。 そんな問題を解決する為にウェブサイト上で動画をシェア出来るようなサービスを思い付いたのだ。もし彼がそのパーティーで動画撮影をしていなかったらそんな問題にも気付かなかっただろう。 そして仮に同じ問題に気付いたといたしても、彼がデザイナーでなければ、ここまで成長するサービスになっていなかったかもしれない。YouTubeが爆発的に普及した2006年に執筆されたTime誌の記事によると、世の中に受け入れられた理由は「簡単さ」と「格好良さ」のバランスが良かったことだったという。 更に、「必要な動画はそこに存在しており、ユーザーはそれを探すだけ」という体験は、まるで大型スーパーマーケットを訪れる体験を想起させた。これらはデザイナーだからこそ設計出来た体験だと言えるだろう。 余談であるがこの頃のPayPalには今や世界を代表する起業家が多く在籍していた。TeslaやSpace Xの創業者であるElon MuskやLinkedinを作ったReid Hoffmanなど今のスタートアップ業界の重鎮たちが多数。彼らはPayPalマフィアと呼ばれている。もちろん、「YouTube」を立ち上げた3人もそのメンバーだ。 PayPal mafia ↑PayPalマフィアたち。世界を代表する起業家たちであることに気が付く。

Stewart Butterfield

Flicker / Slack

Stewart Butterfield オンライン写真の保存・共有サービスの草分け的な存在である「Flickr」 。すべての写真をクラウド上で管理し、友達同士でフォローし合うことでタイムライン上に表示される仕組みは今でこそ見慣れたものになったが、誕生当初は画期的であった。 競合であったSmugMugに買収されるなど、FacebookやInstagramの勢いに押されて衰退を余儀なくされたが、「Flickr」は写真共有サービスというジャンルを築いた会社であることは間違い無い。 企業向けチャットツールの「Slack」。ベイエリアでは導入していない会社を探す方が難しいほど普及率の高いチャットツールだ。その魅力はなんと言っても「手軽さ」と「便利さ」で、業務効率を上げたければ何をするよりもまず「Slack」を導入しろ、という声があがるほど。最も成長速度の早いスタートアップだと言われており、デイリーでのアクティブユーザーは800万人、課金ユーザーも300万人にも及んでいる。 slack graph 「Flickr」と「Slack」、この一見何の関連性のないサービスの共通点は何か。それはどちらのサービスもStewart Butterfieldという男が創業者であるという点だ。そしてそんな彼もデザインバックグラウンドを持つ経営者である。 特に「Slack」で実現した「ビジネスコラボレーションハブ」としてのチャットツールのデザインは、UXの観点から見ても非常に優れている。メールよりも簡単で、Lineよりもビジネスマンにとっては使いやすいUIと高い機能性は「Slack」を使ったことがある人は誰しもが頷いてくれるのではないだろう。 関連記事: Slack成長物語 〜世界のユーザーに愛されるプロダクト舞台裏〜

David Karp

Tumblr

daivd karp 手軽におしゃれなブログを楽しめると特にアメリカの若者の間で人気なのが「Tumblr」。デザイン性に加えて、リブログというTwitterでいうところのリツート機能をブログにも持ち込んだことで話題となり、一時期はブログもTwitterも「Tumblr」のせいで衰退してしまうのではないかという声も上がったほどのサービスだ。2013年に米Yahoo!に11億ドル(約1200億円)で買収されてからはパッとしないが、未だに根強い固定ファンがサービスを支えている。 tumblr UI ↑直感的にわかりやすい「Tumblr」のインターフェイス。「手軽さ」と「おしゃれさ」を兼ね備えたデザインだ。 そんな「Tumblr」を作ったのがDavid Karpだ。彼の経歴は有名創業者の中でも一際ユニークである。幼い頃からHTMLを学び、なんと11歳でビジネス向けのウェブサイトを立ち上げたのだ。そして14歳時には、ニューヨークを拠点とするアニメーションスタジオでデザイナーインターンとして働き初めている。その後高校を中退し、子育てサイトサービスの責任者になると、同会社が買収されたことをきっかけに独立。 ソフトウェアコンサルティングの会社を経て、「Tumblr」を創業する。デザインだけではなく、ビジネス・テクノロジーの知識も備えたまさに「天才」であると言えるだろう。

Jack Dorsey

Twitter / Square

Jack Dorsey Jack Dorseyはべイエリアで最も著名な起業家の1人だ。SNSサービスの「Twitter」とモバイル決済サービスの「Square」を創業した彼の名前は、たとえ起業やスタートアップに興味が無くとも一度は聞いたことがあるのではだろうか。 今では起業家としての側面が強い彼も、「Twitter」を始めた当初は実はファッションデザイナーになりたかったという。結局ファッション業界へと進むことはなかったが、PradaやDior Hommeのスーツ、そしてRick Owensのレザージャケットを愛する彼のコーディネートから溢れる美意識は、Tシャツにジーンズの多いシリコンバレーの起業家の中で一層際立っている。 Jack Dorsey fashion ↑ 彼のコーディネートはメンズファッション雑誌GQにも取り上げられるほど 厳密にはデザイナーではないJack Dorseyであるが、昔からデザイン思考実践者だったという意味ではビジネスにおけるデザイナーの考え方の重要性を理解していたといえる。デザイン思考の重要性を伝える1つの要素としてあげられるプロトタイプの実用例は彼の作った「Square」を用いて説明されるとわかりやすい。 btraxのSFオフィスから歩いて5分ほどのカフェでナプキンに書かれたこのペーパープロトタイプが「Square」の一番初めのプロトタイプと言われている。1枚のナプキンから、今や40,000店舗以上で導入されることになったサービスは生まれたのだ。 square prototype

まとめ

デザインバックグラウンドを持つ7人の偉大な起業家を紹介した。これらの成功例を知ると、デザイナーが会社を立ち上げることに対して特別な違和感を抱くことも無くなるだろう。近年急激に高まりを見せる、デザイン思考などのデザインをビジネスの文脈で語る場面にも辻褄が合う。 現代のビジネスにおいて、デザインは無視出来ない。それどころか、むしろ必要不可欠な要素なのだ。 参考記事: 10 Co-Founders Of Tech Companies Who Began As Designers The Designers-Turned-Founders Behind 5 Successful Startups Chad Hurley Story The fabulous life of Jack Dorsey, Twitter's billionaire CEO The YouTube Gurus  

ミレニアル世代のマインドセットを捉えて成功したスタートアップ事例

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資産運用会社であるAlliance Bernsteinのアナリストによると、2018年の今年にミレニアル世代(1980-2004年ごろ生まれ)の購買力は、ベビーブーマー世代を超えると見られている。 そのため、ミレニアル世代のマインドセットを理解することが世の中のマインドセットの変化を捉えるために重要だと言える。 特に食習慣は顕著にマインドセットの変化が現れやすく、他の世代とも比較しやすい。現にミレニアル世代の食習慣に関するマインドセットは今のフード業界のトレンドの要因となっている。 この記事ではそんなミレニアル世代の食にまつわるマインドセットの変化と、それらをうまく捉えているスタートアップの事例を紹介したい。

ミレニアル世代は健康意識が高い

米マーケティング会社CBDの行った調査によると、ミレニアル世代の健康意識が他の世代に比べて高いことがわかっている。これ以外にもミレニアル世代に関する調査は多く発表されているが、総じてミレニアル世代の健康意識は高く、ヨガや運動に積極的で、アルコールもあまり摂取しなくなったと言われている。

野菜・オーガニック食品が人気。食品選びも健康を意識

また、食事に対しても健康意識が現れており、米マーケティング会社NPDの行った調査によると、米国の40歳以下の1人あたりの生野菜、冷凍野菜の消費量がともにこの10年で50%以上増加していることがわかっている。NPDのリサーチアナリストによると、今後もミレニアル世代以下による野菜消費量が増えていくとしている。 実際に、北米のオーガニック食品促進団体のOTAの調査によると、米国のオーガニック食品を最も購買している世代がミレニアル世代ということがわかっている。さらに子を持つ親となったミレニアル世代は子どもの健康にも気を遣いオーガニック食品を選ぶ傾向があるということが明らかになった。 同調査によると、アメリカでのオーガニック食品消費は過去最大になっており、売上高では約5兆円規模に拡大しているという。調査ではこれらの主な要因はミレニアル世代だと指摘されている。 これらの傾向から今後もオーガニック食品などの健康意識にマッチした食品ニーズが高まっていくと言える。 現に、アメリカの主なオーガニック系スーパーであるTrader Joe’sWhole Foodsなどは売上を伸ばしている。グローバル市場調査会社のResearch and Marketsの調査によると、従来のスーパーマーケットが2007年以来顧客ベースの年平均成長率で減少傾向にあるにもかかわらず、Trader Joe’sは5.9%、Whole Foodsは4.9%の年平均成長率を達成しており、オーガニック食品への意識の高まりがうかがえる。

Plentyはオーガニック野菜の栽培・流通を効果的に行う

agritech-plenty 上記のようなフードトレンドがある中で、生産性の高い屋内での水耕栽培を実現させたPlentyは、農業スタートアップとして約250億円という過去最高の資金調達を行った。 屋内での水耕栽培のメリットは、何と言ってもクリーンな野菜を効率よく生産できる点だ。Plentyでは独自に設計されたポール状のタワーで栽培を行うことで、従来の農法と比較した場合、同じ面積で350倍の生産を可能にし、95%も少ない水で葉物野菜の他、イチゴなどを栽培している。将来的には、従来生産コストが高く栽培難易度の高い野菜や果物も栽培可能になる見込みだという。 また、赤外線センサーを張り巡らして作物をモニタリングすることで得られたビッグデータから機械学習を行い、アルゴリズムが光、温度、水などを調節することでより美味しい作物の生産が可能になっている。 都市近郊に工場を建設し、オーガニック野菜という価値だけでなく、
  • 物流コストの削減および都市部に供給するためにかかる環境負担の軽減
  • 新鮮
  • ローカルで作られた野菜
という価値を前面に押し出している。 同社はサンフランシスコ以外にも日本や、他の国と比べて農薬が2倍ほど使用されていると言われている中国でも事業拡大を目指している。

たんぱく質も重要視している

米広告マーケティング会社のAcostaの調査によると、ミレニアル世代の約80%が、食品購買時にたんぱく質が含まれているかを非常に重要であると回答していることがわかっている。また、ミレニアル世代より上の世代に上がるにつれて減少していることもわかっている。 健康志向の強いミレニアル世代間で増えているベジタリアンやヴィ―ガンといわれる菜食主義者もたんぱく質を重要視しており、植物性の代用肉からたんぱく質を摂取している。世界的な市場調査・コンサルティング会社であるMarkets and Marketsの調査によると、代用肉市場は今年2018年に約4,700億円に達し、2023年には約6,500億円に拡大すると見ており、急成長する市場の一つとして注目されている

Memphis Meatsは動物を殺さない人工肉を実現する

https://www.youtube.com/watch?v=Y027yLT2QY0 サンフランシスコに拠点を置くMemphis Meatsは、牛からとった幹細胞を培養して牛肉を作っている。Microsoftのビル・ゲイツや世界的な実業家として知られるリチャード・ブランソンら、その他著名な投資家が同社に総額約18.5億円を出資している。 リチャード・ブランソンは、ブルームバーグ・ニュースの取材に対し、
「向こう30年ほどで、私たちは動物を殺す必要がなくなり、(供給される)全ての食肉は現在と同じ味を保ったまま、クリーンな肉、または植物原料の肉になるだろう。それらは同時に、私たちにとってより健康的なものになるはずだ」
と述べている。 持続可能なオーガニック食品として、上記のようなミレニアル世代のマインドセットをうまく捉えつつ、人間の長期的な課題を解決しようと試みている。

ミレニアル世代は外食・デリバリーが好き

アメリカ農務省のレポートによると、ミレニアル世代の外食頻度が他の世代に比べて多いことがわかっている。同調査の分析によると、ミレニアル世代は約2週間に1回の割合で外食をするという。 また、アメリカ合衆国労働省労働当局の調査によると、ミレニアル世代はベビーブーマー世代(団塊の世代)に比べ、総支出が14%下回っているにもかかわらず、ベビーブーマー世代は外食、デリバリーに週平均$47.65支出するのに対し、ミレニアル世代は週平均$50.75と多く支出することがわかっている。 ミレニアル世代の健康志向や、外食・デリバリーが多い傾向からSakara LifeProvenance Mealといったオーガニック食品によるフードデリバリーや菜食主義者のためのフードデリバリーを行うサービスが増えている。

Zume Pizzaは焼き上がりのピザをデリバリーする

https://www.youtube.com/watch?v=VKlvVTgOCEA シリコンバレーにあるZume Pizaは、人が移動中に調理するという法律違反を、移動中に車内でロボットがピザを焼き上げることで解決している。 この一連の「移動中に調理する」という特許により、食べる2分前に焼きあがるピザをデリバリーしている。 多くのピザ屋では、チーズが配達中に溶けた状態になるように保存料などの化学調味料を使用するが、Zume Pizzaでは保存料を使う必要がないため、健康的であるということもアピールしている。 Zume Pizza Pod また、100%リサイクル可能なサトウキビ繊維でできたピザのパッケージは、保湿性が高く、特殊な形状により、残ったピザのサイズに合わせて折りたためるようにもなっている。 こうした画期的なユーザーエクスペリエンスと要所要所にユーザーのマインドセットを反映させることで、他社との差別化を図り、ミレニアル世代の支持を得ることができる。

まとめ

小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題」という記事でも紹介したように、今回の事例でも、世の中の変化に対応するためにはまず、ユーザー中心のマインドセットが必要となることがわかる。 ではそのようなマインドセットはどうしたら身につくのだろうか?btraxでは、スタートアップとデザインの本場サンフランシスコにて、イノベーションブースターというワークショップ型プログラムを通じてそうしたマインドセットを習得する機会を企業向けに提供している。ご興味のある方は是非お問い合わせを。

スタートアップと中小企業との違い

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以前に日本で会社を経営する友人から、 「この前のセミナーを聞いてスタートアップっていうのが理解できたつもりなのですが、ぶっちゃけ自分の会社がスタートアップなのか中小企業なのかイマイチわかってません」 と言われた。これは今年の年初に開催された、第2回Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKAの最終報告会における孫 泰蔵さんとの対談セッションの中で触れられた下記のポイントについての質問であった。

ベンチャー企業だからと言って、スタートアップであるとは限らない。英語では緩やかな成長を目指す場合はスモールビジネス (中小企業), 急激な成長とスケールを目的としてするのがスタートアップと呼ばれており、その2つはその成り立ちとゴールが大きく異なる。

参考: 【対談】孫 泰蔵氏 x Brandon Hill -スタートアップがグローバルに展開するための5つの秘訣-

スタートアップと呼ばれる企業には1つの明確なゴールがある

そもそも”スタートアップ"とは何なのか?”シリコンバレー”と同様、この定義が曖昧な名称を定義する際に一つだけ確実に他の企業と異なる点がある。それは「急成長」である。サービスを作り、会社を作り急激な成長を成し遂げる。それこそがスタートアップの使命であり、そのゴールを達成するために全ての仕組みが生み出されていると言っても良いだろう。 以前の記事「ベンチャー企業とスタートアップの違い」でも下記のように記載されている。
新しいビジネスモデルを開発し、ごく短時間のうちに急激な成長とエクジットを狙う事で一獲千金を狙う人々の一時的な集合体
例えば、一部のハードウェアスタートアップを除き、デジタル化が進む今の時代に、特に大きな工場や立派な設備もないのに多額の資金を調達する。一体なんのためにそのお金を使うのだろう?と疑問に思うケースもあるのだが、その答えは”人”である。この”人”というのは二つの意味が隠されていて、一つめが従業員。そして二つ目がユーザー。 実は、この「短期間で急激な成長」の「成長」という言葉がトリックで、実は売り上げや利益ではないことが多い。では何をもってスタートアップの「成長」と読んでいるのか。その答えはユーザー数であり、従業員数なのである。 なぜ売り上げよりもそっちを優先するのか?その理由は意外と単純で、その二つの数字がM&AやIPOなどの最終的なエクジット額に大きな影響を与えるから。もう少し細かく言うと、それに紐づいた形で、会社の評価額 (バリュエーション)や次の資金調達に影響する。 例え経営が大赤字だったとしても、調達したお金を躊躇なくユーザー獲得施策や従業員獲得に使いまくるのがスタートアップの流儀。この辺は日本の感覚だとちょっと理解しにくいかもしれないが、シリコンバレー界隈のスタートアップで黒字の会社はむしろ珍しい。 短期間で急激な成長を遂げ、一攫千金を達成する。これがスタートアップが持つ大きな命題である。

着実な成長と永続性を重視する中小企業

その一方で、スモールビジネス、いわゆる中小企業はなるべく早い段階での黒字化と着実な成長、そして末長くしっかりと続くための仕組みづくりを行う。そこで重要になるのは、なるべく借入金を少なくして、会社規模も最小限で回せる効率性の高さ。そして、会社も従業員もじっくりと成長できるための戦略である。 これは全ての新規企業を”ベンチャー企業”と呼んでしまっている日本の感覚だと若干ややこしくなってしまうだろう。なぜならば、日本国内には”スタートアップ”っぽいベンチャー企業もあれば、”中小企業"っぽいベンチャー企業もあって、その両方が混在しちゃっているのが現状だから。 そして事をよりややこしくしちゃってるのが、成長の度合いにも限度があるので、日本国内でスタートアップを始めても、ターゲットを国内に絞ってしまっている場合は、どうしても中小企業的動きをせざるを得なくなってしまう。 参考: 日本の企業が海外進出するべき3つの理由 growth

例えるならバケツリレー vs 水道管

この二つの違いは、バケツリレーと水道管に例えるとわかりやすいだろう。同じ”水”を運ぶという目的を果たすにも、2つの大きく異なる方法がある。

手法1: バケツリレー

A地点からB地点に水を運ぶ際に最も確実な方法である。距離が伸びれば人を増やせば良いし、一定のスピードでしっかりと目的を果たすことが可能だ。バケツリレーでは高い確率で水を確実に供給できるし、そのための戦略も立てやすい。リスクも最小限である。 その一方で、距離が伸びるごとに必要となる人員もコストも比例して上がるので、上記のグラフの青い線で見られるような、確実だが地道な成長しか期待するこが難しくなるし、人が欠けると水の供給も途絶えてしまう。

手法2: 水道管

もう一つの方法として、水道管を作ると言うやり方がある。これは、最初にその仕組みを作るために膨大な資金と労働力が必要とされるが、一旦それが完成し、水源に当たれば爆発的な量の水を一気に多くの場所に提供が可能になる。 そして、何が素晴らしいかというと、一度水道管を作ってしまえば、あくせく働かなくても水は流れ続ける。その規模を大きくしたければ水道管を延長すれば良いわけで、拡張性も高い。 その一方で、この方法はリスクがかなり高い。せっかく頑張って水道管を作ったのに、水源がない可能性もある。なので、まずは早いスピードでサクッとパイプを作って見てそこに水源があるかどうかを探ってみる。それがいわゆる"デザイン思考"や”リーンスタートアップ”の手法である。 j

始めるときにどっちにするかを考える

この水を運ぶ際の二つの手法。最初からどちらの作戦でいくかを決めた方が良い。その存在意義も、ゴール設定も全く変わってくるから。そうでもしないと、経営戦略もフラフラしてしまうし、何より従業員が混乱してしまう。バケツリレーする人とパイプを汲み出す人が混在することになってしまうのだ。 堅実な収益を重視した仕組みと動きをするべきなのか、それとも一攫千金狙いのぶっ込み型神風チームを作るのか。これは経営者がしっかりと考え決めなければならない。そして、それぞれに最適化された戦略と組織を作る必要がある。 もしくは、福岡のNulabみたいに、最初はバケツリレーのSI業から始め、余力でプロダクトづくりを進めて、見事に水道管に変換した例もある。これは、平日にパケツリレーしながら、週末にパイプを組んでみるタイプのやり方で、面白い。

スタートアップの条件は”同じことで100倍の規模になる可能性があるか"

上記の例えでも分かる通り、中小企業は労働集約型になりがちで拡張性 (スケール) が低いケースがほとんど。しかし確実な成長と永続的な存在を期待しやすいメリットがある。一方、スタートアップはリスクを取ってプロダクトを作り、早いスピードで急成長を目指すスケール重視のビジネスなのである。 これは言い換えると、今現在と同じ事をしていても、効率的に100倍の規模にスケールアップできるかどうかにかかっている。 このスケールにこだわったのが、映画「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」でも有名になったフランチャイズの仕組み。もともとマクドナルドは地方に根ざした、品質重視のバーガーショップだった。一度店舗数の拡張を試みてみたのだが、品質に影響が出るという事で、創始者のマクドナルド兄弟の目の届く範囲での堅実な経営を行なっていた。 それに対して、アメリカ全土への爆発的な成長を目指した起業家、レイ・クロックがフランチャイズの仕組みを利用して、オリジナル店の同じ仕組みを多店舗に”複製"する事で、急激なスケールを成し遂げ、世界一のハンバーガーチェーンにした。 これはまさにバケツリレー型経営から水道管型ビジネスモデルに変換した例である。しかし皮肉にもその経営方針の相違から、創始者のマクドナルド兄弟とレイ・クロックが対立し、最終的には規模に勝るレイ・クロックが勝利したというアメリカらしいストーリー。ちなみにこのレイ・クロックは、Amazonの創始者ジェフ・ベゾスが最も尊敬する人物の一人でもある。 これが現代だとユーチューバーになるのか、YouTubeというプラットフォームを作るのか。ブロガーになるのかブログプラットフォームを作るのか。Uberドライバーになるのか、Uberアプリを作るのか。などの差になってくるのであろう。地道に働くのか仕組みを作るのかに近い。

"地方に根ざしたスタートアップ"なんてあり得ない

ここまで読んでわかった方もいるかもしれないが、このスタートアップの使命である急成長=スケールを成し遂げるためには、その市場規模が大きくなければならない。マクドナルドも一号店のあるカリフォルニア内だけでの展開だとスケールに限界があるため、アメリカ全土、そして世界にビジネスを展開した。 したがって、たまに聞くことのある、地元の地域に密着したタイプのスタートアップサービス、なんていうものは実現しようがない。その都市や地域に限定した時点でスケールしないからである。これは日本国内だけで展開する場合でも同じで、やるならメルカリのように最初から世界を狙って始めるべきである。 参考: どんだけ頑張ってもお前がカバーできるのは世界の2%

なぜスケールする必要があるのか

そもそもなぜスタートアップはスケールをそこまで重要視するのか。理由はいくつかあるが、おそらく一番大きいのは、”世の中へのインパクト"であろう。言い換えると、サービスを通じて世界を変えられるかどうか。 サンフランシスコやシリコンバレーなんかでは、社会問題や現在の状況を打破するべくスタートアップを始める事が一般的で、お金儲けよりもどれだけ世の中をよくできるか、世界を変えられるかがスタートアップに関わる人々のモチベーションになる。 そのためには、世界的に受け入れられる仕組みを提供する必要があり、自ずとスケールが重要視される。 さて、あなたのやろうとしているビジネスはバケツリレーなのか水道管なのか?これを機会に、今一度考えて見ても良いかもれしない。  

■ お知らせ:

なお、この辺の違いやスタートアップとしての心得、手法などは、冒頭でも紹介した「Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA」のプログラム内でもどんどん伝授する予定です。 当プログラムは福岡在住の方々、および将来福岡での起業を検討している方々を対象に、福岡市が全面的にサポートし、我々btraxが運営を提供させていただいている、日本でも数少ないグローバル起業家育成プログラムですので、是非ご参加ください。 応募・参加は無料で、アメリカへの渡航滞在費以外の費用はかかりません。締め切りまであと3日です。応募はこちらから

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

スタートアップのアイディアを考える際の意外な落とし穴

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ここサンフランシスコでは、常に新たなスタートアップやユニコーン企業が生み出されているのは今や言わずと知れた事実になってきている。日本でも耳にすることの多い、UberAirbnbPinterestSlackなどは、まさにサンフランシスコを代表するユニコーン企業である。最近でも世界の常識を覆すようなサービスがスタートアップ企業から次から次に生まれている。 参考: サンフランシスコの主なユニコーン企と評価額 (2018年現在)
  • Uber: $68b (約7兆円)
  • Airbnb: $29.3b
  • Pinterest: $12.3b
  • Lyft: $11.5b
  • Infor: $10b
  • Stripe: $9.2b
  • Slack Technologies: $5.1b
そんなスタートアップがひしめくサンフランシスコにて、先日もスタートアップや起業家の集まるピッチイベントに参加してきた。ピッチイベントとはスタートアップ企業、または起業家が投資家たちに対してアイデアをプレゼンする場である。イベントの規模にもよるが、一晩で数万ドルから数百万ドルと言うお金が動き、スタートアップ企業はそれだけの資金を調達することも可能である。 日本でのイベントと一味違う、その夢と情熱に満たされた会場にはとても興奮した。このようなイベントはサンフランシスコのいたる所で常に行われており、サンフランシスコのスタートアップを生み出す源になっている。 しかし数多くのスタートアップ企業による自慢のプレゼンを目の前で見て、ふと疑問が浮かんだ。果たしてこれらのアイディアは本当に革新的で、どこにも無いすごいアイディアなのだろうか?このような疑問を持ったことのある人は、おそらく私だけではないはずだ。 実はここには、スタートアップが陥りがちなアイデアに関する大きな2つの間違いが潜んでいるように思われる。

間違い1:すごい「アイディア」に過剰に反応してまう

アイデア(idea)という英単語のニュアンスは実は、日本語での「アイディア」と聞いて持つ感覚とは少し異なるように思う。 と言うのも、日本では「アイディア」という言葉を美化し拡大して解釈してしまいがちなのだ。 試しに英和辞書で「idea」と引いてみると、「心に浮かんだ考え」と書かれている。アイディアとは、単に「考えや案」のことであり、必ずしも「スゴい」「革新的な」ものだけではない。あなたが時として考えたり、感じたりする全てがアイデアなのではないだろうか。 日本人はアイデアと言う言葉を耳にした時に、とにかくスゴいものをイメージしてしまう。そして、自分も何かすごいことを思いつかないといけない!と頭を抱え込んでしまうのだ。これは日本人特有な症状のように感じる。 実はアイディア自体がそこまで凄くなくても、すごい結果を生み出すことも多々あるのだ。 参考: クリエイティブな事がそんなにも凄いのか

超巨大IT企業を生んだ些細なアイディア

アイディアとは決して、私たちがイメージしてしまうほど輝かしいものである必要はない。それどころか、もっと単純で、些細なものであることも多い。 今や世界中で21億人(2018年1月時点)という人が利用する、Facebookはもともとマーク・ザッカーバーグが大学内で女の子と繋がるために作った、face mashと言うアプリから始まった。私たちが毎日音楽を聞いたり、動画を観たりしてるYouTubeも最初は創業者の2人がセクシーな動画を送り合いたいために始めたクラウドサービスのようなものだった。 これらはとても「スゴいアイディア」とは、言えるようなものではないことは確かだ。少し偏った例にはなったかもしれないが、これは紛れもない事実なのである。 参考: 小さく始める事の重要さ【Amazon, Facebook, YouTube等】大人気サービスの初期バージョンとは

間違い2:オリジナルのアイディアを必死に探すこと

ところで、こんな経験をしたことはないだろうか。アイディアや意見などを発言しようとして、他の人に先に言われてしまった!なんて経験だ。 このような経験はきっと学校や職場など、人生の様々な場面で誰にでもある経験だろう。こういった場面では「先に言ったもの勝ち」のような風潮がある。まるで山手線ゲームのようだ。 しかし、ここにスタートアップビジネスで陥りがちな、2つ目の落とし穴が潜んでいる。 と言うのも、これはスタートアップにおいて、全く異なるからだ。スタートアップ企業にとって、ビジネスアイディアは必ずしもオリジナルの、世界でたった1つのものである必要は全くない。言い換えれば、スタートアップのアイディアは「先にやったもの勝ち」ではないのだ。

アイディアの被りは関係ない

そのアイディアが自分だけのものかどうかや、それが今までにないビジネスであるか。実はそれらは決して問題ではない。なぜだろうか。その答えはとてもシンプルだ。この世の中に競合のないビジネスなどないからである。 仮にとても革新的なアイデアがあったとして、果たしてそこに競合がいないだろうか?答えは間違いなく「No」である。そのアイディアが狙う市場には、すでに様々な企業やビジネスが存在している。狙う市場の中だけではない。ターゲットの周りには、数え切れないほどのサービスと企業が存在している。あなたはその数多くの企業の競合になる。 これはそのビジネスがすでに存在していても、していなくても変わらぬ事実だ。 少しばかり特殊な例にはなることを承知で言えば、飲食店は非常にわかりやすい。例えばイタリアンレストランがすでにあるからと言って、イタリアンレストランの出店を諦める人はまずいないだろう。 どのようなターゲットを想定していくら位の価格帯に設定して、どのような質なのか、どのように知ってもらい、来てもらうか。その1つ1つが、そのビジネスを成功に導くのであり、アイディアのユニーク性はそこまで関係ない。

むしろ有利な後出しビジネス

もし、同様のコンセプトのビジネスが既に存在していたならば、むしろそれはチャンスである。 なぜなら、あなたはその企業やビジネスが上手くいかなかった、または上手くいっていない理由を分析し知ることができるからだ。 またそのビジネスが過去に存在し、既にサービスを終了しまっているか、どうかも重要な情報だ。あなた自身がもしくはあなたの友人が今そのサービスや製品を利用していないのはなぜだろうか。そこにはあなたのビジネスを成功に導いてくれる、最大の鍵があるかもしれない。 後出しのビジネス例:
  • Google after Yahoo
  • Facebook after Friendster
  • Sketch after Photoshop

スタートアップでアイディアよりも重要な2つのこと

確かにビジネスアイディアは、スタートアップにおいて大切な要素の1つであるし、先行者利益なるものがあることも事実だろう。しかしそれらは大した問題ではないと述べた。 では何が重要なのだろうか?その答えは2つある。

ユーザーニーズを中心にサービスアイディアを考えよう

誰しもビジネスを展開する際には、必ずマーケットやターゲットのリサーチを行うだろう。しかし、これをアイデアの段階で実行できる人は少ない。どんなスゴいアイディアにしようか思い悩むのではなく、簡単なアイディアをいくつか吟味してみることが重要なのだ。 リサーチのコツは、想定されるターゲットにビジネスアイディアを話すのではなく、自ら足を運び、耳を傾けることだ。ターゲットを知ることができれば、どこに競合がいて、どこにチャンスがあるのかを知ることができるだろう。そうすれば、アイディアが既に存在するかなどは、全く気にならなくなるはずだ。 これはデザイン思考のプロセスであり、btraxが企業に提供するワークショップの中でも多く用いられている。

何をよりも、どうやるか

そして何よりも大事なのは、あなたのアイディアをいかに成功へ導くかである。当然だと言われてしまいそうだが、これは意外とちゃんと理解されていないことも多い。 アイディアは時として、いとも簡単に模倣されてしまう。特に強いブランドを持った大企業などにマネされてしまえば、あっと言う間にビジネスチャンスを奪われてしまうかもしれない。つまりアイディアはアイディアでしかないし、それ自体に大きな価値はない。 これに対し、あなたが行ったやり方、戦略はあなたにしかできないやり方になる。全てはあなたが、どうやったか次第なのである。

最後に

ここで最後に、Dropboxの創業者が実際にピッチイベントで投資家と行ったやりとりを、1つ引用したい。

投:他にも似たような企業がある中で、なぜ私はこの企業に(Dropbox)に投資したらいいのですか? 創:確かに他に似たような企業はたくさんあります。しかしあなたはそれらを使っていますか? 投:いいえ 創:それはなぜですか? 投:良いサービスではないから。 創:OK。それがDropboxが解決する課題です。 (*投資家:投 創業者:創)

そしてご存知であろうようにDropboxは、現在日本を含む世界中の国と地域で、5億人を超える人に利用されるサービスとなっている。このやりとりからDropboxが成功した理由に、アイディア自体がそこまで重要ではないことがわかる。 今回はスタートアップの話を中心に取り上げたが、これらはスタートアップに限った話ではない。アイディアを求められる場面は、ごく頻繁に訪れる。しかしどのような時であれ、アイディアとの向き合い方をもう一度考え直すことは、今までになかった可能性とチャンスを、あなたにもたらすかもしれない。 ちなみに、弊社では昨年、一昨年に引き続き今年も福岡市のスタートアップ育成事業に携わっているので、世界を舞台に新しいことにチャレンジしたい方はぜひウェブサイトをチェックして頂きたい。 参考: Startup Ideas: How do you know if your startup idea already exists? (Quora)

福岡スタートアッププログラムに学ぶ起業家に必要な4つの基本事項

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素晴らしいビジネスアイデアがあっても、「起業など自分にできるのか」と自信が持てなかったり、「そもそも何をしたらいいのかわからない」とそのエネルギーを持て余したりしている人は多いのではないだろうか。リスクを恐れる風潮が根強い日本ではその傾向が尚更強いように感じる。 しかし日本にもスタートアップが次々と生まれている地がある。福岡だ。外国人のためのスタートアップビザの発行や、東アジアや欧州のスタートアップ支援機関との提携など、日本のなかでもスタートアップ誘致を積極的に進めている代表的な都市である。 同時に福岡在住の起業家予備軍とのコラボレーションを進めることで福岡発のグローバル企業を生まれやすくする土壌の創生を積極的に進めている。 この動きに大きく貢献しているのが、グローバルスタートアップ育成事業「Global Challenge!! STARTUP TEAM FUKUOKA」だ。これは福岡市主催で2年前にスタートした起業家を育てるプログラムで、起業を真剣に考える起業家予備軍の発掘や、福岡発のスタートアップの輩出、そして福岡発の起業ムーブメントの醸成という目に見える成果を実際に出している。 btraxでは、福岡市からの委託を受けて、2年前のスタート時点からこの事業の企画・運営を担い、多くの起業家、あるいはその予備軍の方々と関わってきた。この記事では、起業家にとって必要な4つの基本について、福岡スタートアップ事業の事例をご紹介しながらお伝えしたい。 関連記事:開業率日本一! スタートアップ・ムーブメントを生み出す福岡市の取り組み【DFI2017より】

1.自分でも起業できると思う

雲の上のような超有名企業の社長さんの講話を聴くことは、それはそれで一理あるかも知れない。しかしそれよりも実際に自ら起業し成功した経験者から、起業に至るまでのプロセスを聞いて学ぶということが重要だ。 そして、その学びを通じて起業を現実的に捉え、「自分にもできる」という自信を持つことがまずは起業のスタート地点である。 実際に福岡のプログラムでは、地元で成功している起業家はもちろん、東京やサンフランシスコから招聘した起業家によるパネルディスカッションを実施。ノートとペンを持った座学ではなく、起業家と言われる人たちや専門家の人たちと実際に話してもらうため、モデレータによるQ&Aセッションも導入した。 fukuoka global challenge1 ↑国内研修にて行った福岡にゆかりのある起業家の皆さんとのパネルディスカッション。左からbtrax Japanの多田、ドレミングの桑原氏、スカイディスクの橋本氏、しくみデザインの中村氏、ヌーラボの橋本氏 fukuoka global challenge2 ↑市民報告会にて行ったマネーフォワードの瀧氏とBrandonによるパネルディスカッション 結果として、参加者は起業をより身近に感じた、あるいは「自分にもできそうだ」と感じたことがアンケート結果からわかった。また、この段階で得た多くの経験談は今後起業の過程で参考になることも多いだろう。その意味でもできるだけ多くの経験者の話を聞いておくことをおすすめする。

2.短時間でビジネスアイデアを説明できるようになる

せっかく素晴らしいビジネスアイデアを持っていても、それを上手く人に伝えられない人は多い。ビジネスは一人で出来るものではない。手伝ってくれる仲間も必要だし、起業するためには資金も必要だ。いくらアイデアが素晴らしくてもそれをうまく伝えられないのでは起業への道のりはかなり険しくなる。 起業家に不可欠なのは効果的なプレゼンテーション方法の体得だ。ビジネスアイデアをまとめ、短時間でアイデアのエッセンスをどのように伝えるか、そして聞く人の共感をどのように得るか。 これらの習得のため、プログラムではサンフランシスコからbtraxのファシリテーターを呼び、「デザイン思考」を取り入れたセッションを前後2回に亘って実施した。このあたりで、「アイデアが素晴らしければ、起業は簡単だ」と思っている人は最初の挫折感を味わったようだが、案外、最初の挫折がかえって良い効果をもたらすこともある。 workshop ↑プログラム参加者が英語でピッチの練習を行っている様子 ちなみにグローバルを視野に入れているのであればプレゼンテーションでの使用言語はもちろん英語だ。そのため、英語力というよりも、まずは「英語なんて怖くない」という意識を持つことが重要になる。 実際、英語が流暢ではない参加者がプログラムの最後にサンフランシスコでのピッチコンテストで優勝を果たせたのは快挙であった。

3.スタートアップの聖地で度胸とフィードバックを得る

スタートアップの聖地、世界中のVC投資が集まる場所、世界をリードする最先端企業が集まる場所と言えば、サンフランシスコ・シリコンバレーだ。グーグル本社やフェイスブック本社の看板の前でピースサインで記念写真。そして聖地の空気を味わう。そんなことを期待しているのであれば行っても無駄である。 企業を訪問したりイベントに参加したりして、実際にサンフランシスコ・シリコンバレーの起業家や起業家予備軍と話す。また、ピッチイベントに参加して投資家からフィードバックを得る。これらの経験を得ることは自らのスタートアップを始めるうえで何物にも代えがたい財産となる。 ただ、これらを個人で行うのはかなりハードルが高いだろう。実際に個人が企業に訪問しようとしても受け入れてもらえるケースはほとんどない。 btraxにはサンフランシスコでのネットワークがある。プログラムではLinkeIn、Airbnb、Frogなど現地の約16社程度のスタートアップ・ユニコーン企業に協力してもらい、ハードウェア系、アプリケーション系、最新サービス系などを1日に4社程度訪問できる4種類の訪問コースを設定。 訪米研修参加者はあらかじめ行きたいコースを選択し、btraxスタッフアテンドのもと各社を訪問した。大人数で訪問する企業訪問とは違い、それぞれの訪問先で各自が聞きたいことを聞くこともでき、参加者からの評判は非常に良かった。 openhouse-airbnb ↑Airbnbの本社を訪問し、オフィスツアーやAibnb社員との質疑応答を行った さらにサンフランシスコでは頻繁にピッチイベントが開催されているが、btraxもピッチイベントAsianNightを主催している。 現地のスタートアップが参加するイベントだが、ここで訪米研修参加者用の枠を設定した。英語で、ピッチを聞くのに慣れた現地の観客の前でのピッチである。福岡からの参加者にとっては度胸付けという意味でも最高の場だ。 結果として、プログラム参加者のなかからこのAsianNightで準優勝者、翌日に飛び入りで参加したShark Tankという別のピッチイベントで優勝者を出したことは我々運営側にとっても嬉しいことであった。 Asian-night ↑Asian Nightのピッチ登壇者たち

4.起業に必要な事務知識を身につける

ビジネスアイデアとプレゼンテーションスキルだけではまだ起業できない。会社設立のための法務知識や資金集めについての知識が不可欠になる。 もちろん、起業のための法務や資金集めのノウハウについての書籍などは多く出版されているので、自身でコツコツと勉強するのも良いかも知れない。しかしながら、起業というのはスピードとの勝負でもある。 そこで「必要な知識を素早く理解する」ことが重要になってくる。特にスタートアップ支援専門の弁護士や第一線で活躍する投資家に直接質問できる機会は貴重だ。 プログラムではそんなエキスパートを招き、「弁護士への相談シミュレーション」や「投資家の前でのエレベータピッチ」の時間を多く取ることでそのような機会を提供した。 参加者は彼らが弁護士や投資家に対して持っていた、「直接話す機会がない」「知識が無い状況では相談しづらい」「そもそも相談の仕方がわからない」といったハードルを払拭できたようだ。セッション後のネットワーキングでは、彼らの前に名刺交換ための長蛇の列ができていた。

まとめ

一昨年、昨年と企画・運営を担い、福岡には積極的で物怖じしない、そしてフレンドリーな方々が多いと感じた。起業家にはとても重要な気質である。サンフランシスコ・シリコンバレーのスタートアップを知る我々が福岡はすごいと思った2年間であった。 嬉しいことに、引き続き本年度も「Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA 2018」の企画・運営をさせていただくことになった。本年度はさらにパワーアップしたプログラムを企画中である。 すでに本年度の公募が始まっている。スタートアップを興したい方、すでに起業したものの迷走中の方は、是非とも応募してほしい。プログラムの詳細や応募方法などは、ウェブサイトに記載しているので、ご参照いただきたい。

小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題

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小売業は現在、変革期に差し掛かっている。おそらくここ数年で大きな変化が訪れる産業の一つである。 その証拠として、実店舗型の小売業者の経営破綻、店舗閉鎖が相次いている。それらはEコマースやデジタルの普及が影響を与えていることは明らかだが、消費者が実店舗よりもAmazonなどのEコマースを選んだとは単純に言い切れないのである。

Eコマースは小売業界の売上高のほんの一部でしかない

実際に、NRF(全米小売協会)が毎年出している全米の小売業界の売上高ランキング2017年版によると、上位10社が
  1. Wal-Mart Stores
  2. The Kroger Co.
  3. Costco
  4. The Home Depot
  5. CVS Caremark
  6. Walgreens Boots Alliance
  7. Amazon.com
  8. Target
  9. Lowe's Companies
  10. Albertsons Companies
  と、Amazon以外は主に実店舗型を展開する企業となっている。また、デジタルマーケティング、商業などに関する市場調査を提供するeMarketerの調査によると、2017年時点でAmazonのEコマース売上高が全米全体のEコマース売上高の44%ほどを占めているにもかかわらず、全米全体のEコマースの売上高は総小売売上高の9%ほどにしか満たないことから、Eコマースがさほど影響を与えているわけではないことがわかる。

デジタルネイティヴの世代も実店舗を好む

さらには、世界最大の商業用不動産サービスや投資を行うCBREのミレニアル世代を対象とした2016年の調査では、世界のミレニアル世代(1980~2000年前後生まれ)の70%が実店舗を好むことがわかっている。また、回答者のほぼ半数が店内で製品を実際に見たり、触ったりして、すぐに購入したいと考えており、店内での体験が重要だということがわかる。 上記の理由から、実店舗の影響力がいまだに強いことがわかる。

Amazonも実店舗への進出を進めている

実際にEコマース大手のAmazonは2017年に米食品スーパーのWhole Foods Marketを137億ドルという、これまでの最高額で買収し、実店舗への展開を進めている。また、店内での買い物体験をよりスムーズにした、レジなしスーパーのAmazon Go1号店をシアトルにオープンしている。また、近々サンフランシスコとシカゴにも出店するとも言われている。 こうした傾向やAmazonの動きから、小売業界全体が次なる変革のためにAIやIoT技術を活用し、業務の効率化や在庫管理による食料廃棄の削減、革新的なユーザー体験の実現を目指している。 この動きに伴い、それらを実現しようとするスタートアップが今注目を浴びている。そのなかでも本記事では、食料品小売ビジネスに注力しているスタートアップを紹介したい。どのような技術で課題解決を行おうとしているかを注目してもらいたい。

食料品小売業界の技術マーケットマップ

食料品小売店技術マーケットマップ引用: CB insights まず紹介したいのは食料品小売業界における技術マーケットマップである。ちなみにこれは各技術カテゴリにおけるすべてのスタートアップを網羅するものではない。また、一部のスタートアップは複数のカテゴリにまたがってサービスを提供している場合もあるが、主要サービスの事例に沿って分類している。 各技術カテゴリは以下のような課題解決を目指している。
  • リアルタイムシェルフ管理 - AI技術とカメラを駆使し、陳列した商品の状態や商品ブランドシェア率、品切れ、一度手に取ったが戻した商品のデータなどの情報を提供。在庫管理プロセスの改善だけでなく、効果的な商品陳列や商品ブランドのパッケージデザインの改善に役立てることができる。
  • ストアロボット&チャットロボット - 店舗にロボットを配置することで、顧客への挨拶や対応、在庫の管理だけでなく陳列の自動化などが期待できる。また、顧客行動などの貴重なデータの蓄積が可能で、顧客からの苦情を減らすなど店舗の最適化が期待できる。
  • AR・VRツール - 拡張現実を利用し、店舗の棚や通路などのレイアウトのシミュレーションを低コストかつ即座に行うことを可能にする。また、実際に拡張現実内でユーザビリティテストを行うことにより、顧客の視点や行動から彼らの心がどこに向いているかなどのデータも提供する。
  • インタラクティブ・ディスプレイ - インタラクティブとは双方向を意味する言葉であり、店舗に配置したディスプレイ上でクーポンやその日のセール情報を表示し、顧客がそこからお買い得情報を取得することを可能にする。それにより顧客に来店を促すなど、エンゲージメント促進を実現している。
  • デジタルラベル - 顧客が商品をスキャンすると詳細な商品情報を表示。商品に対する透明性を高め、顧客に安心と満足度を提供する。
  • ビーコン&ロケーショントラッキング - スマートフォンのアプリとビーコン、センサー、Wi-Fi信号を紐付け、顧客の行動をトラッキングすることによって店舗のレイアウトの最適化や、特定の位置で顧客に応じたイベントを発生させることが可能になる。今後はこの技術を応用し、ユーザーがスマートフォンのアプリのボタンひとつで、店員を自ら探すことなく自身の場所へ呼ぶことも可能になるかもしれない。
  • 店舗管理 - 決済処理や在庫管理などの機能を統合した幅広いソフトウェアプラットフォームを提供。業務の効率化を実現し、特に中小規模の小売食品店に効果が期待できる。
  • クーポン・ポイント・キャッシュバック - 顧客に報酬型のクーポンやポイント、キャッシュバックを提供するプラットフォームを提供。例えば、特定の商品の購入や、アンケートへの回答などの条件を満たした顧客に、クーポンやポイントを付与することで、顧客の商品へのエンゲージメントを促進する。
  • 購買分析 - 商品の売上数や顧客の購入パターンなど店舗レベルで監視、分析するためのソフトウェアプラットフォームを提供。店舗内のデータに基づき、ターゲットを絞ったプロモーシャンや購買分析が可能になる。
  • マーチャンダイジングツール - 顧客の要求に合わせ、適正な商品を適正なタイミングで適正な場所、量、価格で提供するためのツール。マーチャンダイジングの最適化により、コストの削減や増収が見込める。
  • 食料廃棄物管理 - 在庫管理を徹底するツールにより食糧廃棄物を減らす。また、廃棄食料を寄付したり、飼料や肥料に再利用したりするプロセスを提供することでも食料廃棄量削減を実現する。
  • プロモーション最適化 -店舗やブランドのプロモーション戦略を最適化するためのソフトウェアプラットフォームを提供。プロモーションコストの削減・効果の最大化などが期待できる。
  • ストアガーデン - 店舗やレストランの近くに水耕農場を建設することで、地元の食材を安定して提供できるようにする。
こうしてみると、ほとんどのカテゴリで、実店舗の利点であるリアルな顧客の行動データを上手く活用しようとしていることがわかる。 これらの中でも特に注目を浴びているカテゴリにおけるスタートアップ5社を紹介する。

1. Trax: リアルタイムシェルフ管理

https://www.youtube.com/watch?v=VsGnru8zxKE 主要投資家: Warburg Pincus, Investec, Broad Peak Investment 調達額: $138.5M サービス概要: 商品陳列用の棚をスマートフォンやタブレット端末で写真を取るだけで、非常に豊富なデータを即時に得ることができるシステムを提供している。それらのデータをクラウドからレポートとして小売業者や商品ブランド会社にリアルタイム配信することができる。 注目の理由: スマートフォンとタブレットを利用することで、導入にかかる初期費用を大幅に削減することができる。実際に同社のツールを導入したCoca-Cola Hellenic社では在庫を63%削減することに成功。他にも、P&GやNestleなどの大手商品ブランド会社を顧客にしている。

2. simbe: ストアロボット&チャットロボット

simbeストアロボット 主要投資家: SOSV, Comet Labs, Anorak Ventures, Presence Capital, Vijay Pradeep, HAX, Cherubic Ventures, Riot Ventures, Greg Castle 調達額: 未公開 サービス概要: 完全自律型の小売用ロボットを開発、提供している。在庫切れや、在庫不足、誤った場所に置かれた商品、価格設定の誤りなどをスキャンにより判別し、従業員の作業を効率化する。通常の営業時間帯でも動作し、顧客が棚を確認している際には避けるようになっている。 注目の理由: 同社は完全自立型ロボットを世界で初めて開発している企業だ。完全自律型のため、人件費の削減や従業員の負担を削減することができる。また、人的ミスをほぼなくすことが可能になる。調達額が公表されていないことや、世界初の試みという意味でも注目を浴びている。

3. InContext Solutions: AR・VRツール

InContext Solutions VR 主要投資家: Intel Capital, Beringea, Plymouth Growth Partners, Hyde Park Angels 調達額: $42.5M サービス概要: VRシミュレーションにより、店頭レイアウトを簡単に変更することができるプラットフォームを提供。ヒートマップなどにより、顧客の反応を分析することができる。また、商品のパッケージデザインなどもVRにより可視化することができる。 注目の理由: VR技術の活用は建築業界を初め注目を浴びているが、InContext Solutionsは小売業界にフォーカスした企業として注目を浴びている。商品ブランドでは商品サンプルデザインの作成にかかるコストをVRにより大幅に削減することを可能にした。また、実際に仮想上の店舗に商品を配置し顧客の反応をあらかじめ分析することもできる。

4. Ksubaka: インタラクティブ・ディスプレイ

ksubaka主要投資家: Fullshare Holdings Limited, Ksubaka (ジョイントベンチャー) 調達額: $15.3M サービス概要: 店舗にディスプレイを設置し、その画面上でゲームを配信して顧客にプレイしてもらうことで、商品を効果的にプロモーションするサービスを行っている。ディスカウントなどを行わずとも、商品の売上を伸ばすことが可能になる。 注目の理由: 同社が注目を浴びたのは中国のネスレとの間で実施した2か月間ほどのキャンペーンだ。このキャンペーンでは、ゲームに対する顧客のインプレッションが7000万ほど、購買エンゲージメントが100万ほどと大きな効果を生んだ。また、このディスプレイを介して行われた調査では、商品ブランドのミニゲームを終えた後で購入意思が81%増加したこともわかり、インタラクティブディスプレイの効果を大きく証明した。

5. Estimote: ビーコン&ロケーショントラッキング

estimoteビーコン主要投資家: Javelin Venture Partners, BoxGroup, Homebrew, Y Combinator 調達額: $13.9M サービス概要: 小売店や博物館、空港などに設置するビーコンを販売している。ビーコンは、電源とチップセット、通信用アンテナを内蔵した小型デバイスであり、Bluetoothのような通信技術よりもあまり電力を使用しないデバイス間通信を可能にする。これらにより、顧客の位置トラッキングによる情報の取得だけでなく、特定の顧客があるディスプレイの前を通過したさいなどに、特定の映像を流すなどのイベントを発生させることができる。 注目の理由: Y Combinatorから出資を受け、2012年以降からセンサネットワークと低電力ソフトウェアを提供している同社は、iBeacon互換のビーコンを初めて取り扱った企業であり、この分野では間違いなく現状トップであるといえる。現実世界で位置情報を使い、特定の個人に向けてパーソナライズされたイベントを発生させることは、スマートフォンが普及したユビキタス社会ならではのサービスといえる。また、ビーコン自体が安価なこと、エンジニア用にSDKがあるため、エンジニアを中心に個人の利用や活用が見出されている。

まとめ

小売業界での最も身近な進歩といえば、セルフレジであったが、他の業界と比較してみると過去数十年にわたって見られた進歩の中では遅れていると言える。しかし、小売業界での実店舗の重要性が見直され、ユーザー体験の向上が求められるようになり、AIやIoT技術により小売業界を変革しようとするスタートアップが増えてきた今、その進歩のスピードは急加速するだろう。 ここで忘れてはならないのは、技術ありきでは進歩は実現しないということだ。実際にユーザー体験を向上させるには、それらの技術を駆使する前にユーザー中心のマインドセットが必要になる。現在のような変革期に対応するためには、テクノロジーや情報に精通するだけでなく、それらを活用するためのマインドセットがより今後重要になるだろう。

シェアサイクル事業問題から見るサンフランシスコ市の意思決定の早さ

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サンフランシスコ市では2013年より市交通局を主体として、『ベイエリア・バイクシェア・パイロットプロジェクト』を実施している。 このプロジェクトでは、サンフランシスコ市交通局と民間のシェアサイクル運営会社である「Motivate」が提携し、シェアサイクルの普及・拡大を促進させ、
  • 交通渋滞の緩和
  • 移動効率の改善
  • 市民の健康管理
などを目的としている。 2017年の夏には、「Ford Mortor Company」によるスポンサーシップなどにより、「Ford GoBike」として、320ほどのステーションと4,500台ほどのシェアサイクルが導入されている。 fordgobikestation 「Ford GoBike」のステーションマップ - 公式サイトより こうして現在シェアサイクルはサンフランシスコ市民にとって馴染みのあるものになっているのだが、2018年に入り、
  • どこでも乗り捨て可能なステーションレス型のシェアサイクルである「JUMP Bike」(1月)
  • 同様に乗り捨て可能な電動シェアスクーターの「LimeBike」「Bird」 「Spin」(4月)
が突如として市街地に現れた。 「Ford Gobike」と同様に、「JUMP Bike」はサンフランシスコ市交通局と協力体制を得て実証実験を行っているが、電動シェアスクーターの運営会社である「LimeBike」、「Bird」、「Spin」の3社は市の許可を得ずに運営を始めた。 サンフランシスコ市民は新しいテクノロジーやモノに寛容なため、すぐにサービスを利用するユーザーが多く、それが違法だということにもかかわらず、あたかも電動シェアスクーターが数年前から存在していたように錯覚してしまう。 「さすがはサンフランシスコ。日本とは違ってそういったことには行政も寛容なのだろう。」と思われるかもしれないが、当初サンフランシスコ市は怒っていた。 その後裏側でしっかりとしたプロセスを踏み、驚異的な早さで意思決定と法整備を行った。 では具体的にどういった問題が発生し、市としてどのような問題解決を行っているのだろうか?また、これらの問題からシェアサイクル事業の課題点について言及したい。

ステーションレス型電動シェアスクーター「LimeBike」「Bird」「Spin」とは

limebikes-bird奥からLimeBike、Bird 現在、サンフランシスコ市街では上記の画像のようなステーションレス型の電動シェアスクーターが点在している。乗り方はとてもシンプルで、アプリを起動し、近くのスクーターを探し、QRコードをかざすだけだ。

ステーションレス型は投資評価額が高い

electricscooter-company 引用: CB insights 「LimeBike」「Bird」「Spin」3社はともに投資を受けている。 「LimeBike」はすでに世界各国でシェアサイクル事業を展開しており、投資額が高い。同様に「Bird」も巨額の投資を受けている。ちなみに同社のCEOはTravis VanderZanden氏であり、過去には「Lyft」のCOO、「Uber」ではVP of Global Driver Growthを経験した人物だ。 bike-share-funding引用: CB insights 上記のグラフのように、2017年はシェアサイクル業界への関心が高く、全体の投資額が上昇したことも各社が巨額の投資を受けたの要因となっている。 その中でも、ステーションレス型のシェアサイクルは、コストの削減や、地理的なサービス展開の容易さ、ユーザビリティの観点から特に注目を集めている。「Bird」が2018年に入ってから巨額投資を受けたことからも、この傾向は続くと言えるだろう。 では、実際にユーザビリティが優れているのかを検証するために、一般的なステーション型のシェアサイクルである「Ford GoBike」を利用したことのある筆者が「LimeBike」「 Bird」「Spin」を利用してみた。 limebikes-testdrive アプリをダウンロードしたあと、実際にQRコードをスキャンし、各社の電動シェアスクーターに試乗してみた。最初のひと蹴りのあとに、アクセルとなるハンドル部のレバーを親指で押すだけでスムーズに加速するのは確かに心地が良く、本体も小さく軽いため、とても軽快に感じた。 ステーション型よりもはるかに楽で、ステーションを探す手間や、ステーションの空きがないなどの心配をすることがなく、完全なストレスフリーであった。

「LimeBike」「 Bird」「Spin」の3社の違い

limebikes-bird-spin-uiホーム画面 左からLimeBike, Bird, Spin limebikes-bird-lime-menuメニュー画面 左からLimeBike, Bird, Spin アプリのUI, UXデザインにはすぐに改善できるような違いしかなかった。さらに、3社とも、シェアリング・エコノミー業界を牽引してきたUberのアプリUIデザインに影響を受けていた。 また、料金設定や最高時速の制限も同様に3社ともに、
  • 最高時速 22km毎時
  • 基本料金1ドル + 1分毎に15セント
と設定されていた。さらには、「Bird」「Spin」の2社は「Xiaomi M365」という電動スクーターを流用しているため、スクーター本体の性能は完全に同じであった。

なぜ3社が同時にサンフランシスコ市に現れたのか?

「Bird」はサンフランシスコ市に進出する以前に同カリフォルニア州内のサンタモニカ市でも市の承認なしにサービスを提供していた。現在は和解金(300,000ドル)を支払い、正式にサービスを運営している。 こういった動きは、初期の「Uber」を思い浮かばせる。 「市にも交通緩和などの利点があり、ユーザーにとっても便利であれば、市の承認なしでもサービスが受け入れられるだろう。なおかつこれが一番手っ取り早い」というスタンスは、おそらく、CEOのTravis VanderZanden氏の「Uber」での経験からきたものだろうと筆者はみている。 そうしてサンフランシスコ市にも承認なしで進出し、「LimeBike」「Spin」の2社はこの動きを察知し「Bird」と同時に現れたのではないだろうか。 もしも、「Bird」の1社が市の正式な許可を得てサービスを先行した場合、ユーザー数との適切な電動シェアスクーターの個体数を設置されることで、完全にサンフランシスコ市という市場をコントロールされてしまうためである。 中国のシェアサイクルの廃棄が問題になっていたように、行政が個数を管理しなければ二の舞になりかねないため、おそらくサンフランシスコ市は次の電動シェアスクーター運営会社の承認を出さないか、個体数を制限する可能性があるからだ。 実際にサンフランシスコ市交通局が18ヶ月間のテストプログラムの期間中の現在、「Jump Bikes」以外のステーションレス型のシェアサイクルを認めないとしている。

ステーションレス型電動シェアスクーターの問題

電動シェアスクーターでは、
  • 18歳以上である事
  • 免許証の所持
  • ヘルメットの着用
  • 車道を走る
  • 駐車は歩道の妨げにならないように
などが義務付けられており、乗車する際は必ずアプリ内に注意事項として表示される。 electricscooter-problem路上に横たわる「Spin」- 引用:SF Examiner しかし、実際には「ヘルメットを着用しない、歩道を走っている、歩道の中心に駐車する、二人乗り」などが見られ、市民から苦情が出ている。特に上記の画像のような状態はよくみられ、車椅子の妨げになるなどの問題がある。 「Bird」では安全の呼びかけや、ユーザーに無料でヘルメットを配るなどを行っているが、現段階では問題解決にはつながっていない。

ユーザーのサービス利用意識はシェアリング・エコノミー型サービスの共通の問題

そもそもシェアリング・エコノミーとは個人の所有物を個人間で共有するという意味合いが強く、企業が所有しているシェアサイクルや、電動シェアスクーターをシェアする場合は、レンタルの要素が強い。 レンタルの場合は、貸主個人の顔が見えないために使用者の意識が下がり、いたずらや問題が起きてしまう可能性が高くなる。 例えば実際に時間貸しのカーシェアリングを行っていた「RelayRides」という会社は、2011年当初はオーナーと顔を合わせることなく車に搭載されたカードリーダーに会員証をかざすだけで利用できるという仕組みだったが、当時はオーナーからの損害請求等が多かったという。 しかし、2012年に別の理由でカードリーダーを廃止し、借り手とオーナーが直接キーを渡したり、車両を点検するように変更した。 その結果、オーナーからの損害請求は減り、借り手もオーナーに対し、満足度の高い評価をつけるようになったという。 また、シェアリング・エコノミー業界を牽引する「Lyft」では、乗客に後部座席ではなく、助手席に座ることを推奨していたり、「Airbnb」では、ホストに対してプロフィールに自身が大きく写った写真を載せることを推奨し、必ずゲストと宿泊前にコミュニケーションを取るように求めている。 これらのことから、フェイストゥフェイスでコミュニケーションをとることで、ユーザーに対して「サービスを正しく利用する」という意識を高められることがわかる。 実際に中国のシェアサイクルでは、いたずらや破損の多発が相次いで問題になっていたが、サンフランシスコでも同様に起きており、ステーション型であるFord GoBikeが放置されていたり、電動シェアスクーターが海に投げ捨てられたりしている。 fordgobike-problem放置されている「Ford GoBike」 scooter-problem海に投げ捨てられている「Spin」「LimeBike」 引用: @SRobertsKRON4 こうした問題をサンフランシスコ市と企業が連携し、解決していくことが重要な課題といえる。

電動シェアスクーターに対するサンフランシスコ市の対応

electric-scooter-track回収される電気シェアスクーター 4月中旬にサンフランシスコ市は「LimeBike」「Bird」「Spin」の3社に対し、公共への安全性を配慮していないとした上で法に違反しているとし、一時的に電気シェアスクーターを回収した。 それに対し、「Bird」はユーザーに利用後の電動シェアスクーターの写真を撮るよう求めることを検討しているなど、前向きな解決姿勢を見せていた。 それが4月下旬になり、サンフランシスコ市の関係者が新しいガイドラインを提案し、「電子シェアスクーター5社の運営を許可する。ただし、台数は各社500台までとし、2年間のテストプログラムを行う」と発表した。つまり、サンフランシスコ市内では2500台以下の電子シェアスクーターが許可されることになった。 しかし、いくつか条件があり、
  • ユーザーに安全の配慮を呼びかけ
  • 手数料(5,000ドル + 1年ごとに25,000ドル)の支払い
  • 不適切に駐車された電子シェアスクーターの保管や、公共物の損害などをカバーするためのメンテナンス費用として10,000ドルの支払い
  • 低所得者のための計画を提供する
などの必要があるとしている。 サンフランシスコ市もサンタモニカ市と同様に、サービスの承認に対して前向きな姿勢を見せているが、あくまでテストプログラムであるため、これから市民に受け入れられるかが重要である。

まとめ

ステーションレス型のシェアサイクルは、歩道や駐輪スペースを埋め尽くしてしまうなどしないように配慮する必要があるほか、ステーション型の場合はステーションの密度が重要になるため、行政と協力することは不可欠であると考えられる。 日本では行政と協力となると手が出しづらいイメージがあるが、今回ご紹介したようにサンフランシスコ市は、承認をしていない電動シェアスクーターが現れた同月に一時規制を行い、新たなテストプログラムの提案を行うなど、意思決定が早く、法律に影響を与えるサービスなどでも柔軟に法整備をしていることがわかる。 サンフランシスコ市で新たなサービスが次々と生まれる背景には、このような行政対応もあることがおわかりいただけたのではないだろうか。今後、サンフランシスコ市がどのようにシェアサイクル事業の問題解決を行っていくか動向をチェックしていきたい。

時代の岐路に立つ自動車業界を大きく変革させる9つのスタートアップ

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ここ数年で最も大きな変化が訪れる産業の一つが自動車業界だろう。btraxでも複数の自動車ブランドに対して次世代のユーザー体験の設計や、新たな事業づくりに関する取り組みを提供させていただいているが、今後数年は自動車産業にとって、今までにない規模でのパラダイムシフトが起こることに確信を得ている。

業界を取り巻く3つの大きな変化

20世紀の代表的な産業とも言える自動車はしばらくリニアな成長が続いていたが、ここにきて下記の3つのファクターにより、かなり大きな変革が訪れようとしている。
  • 自動運転テクノロジーの進化
  • 電気自動車 (EV) の普及
  • シェアリングエコノミーの成長
この3つが発展し、世界のリードをとっているのは間違いなくシリコンバレーだろう。それも、既存の自動車会社よりも新規参入した企業やスタートアップがその主導権を握っていることは間違いない。 参考: シリコンバレーが自動車業界に与える3つのインパクト

なぜスタートアップが自動車産業に有利なのか

大きな時代の変化が訪れる時、必ずと言って良いほど大企業は不利な立場になる。動きが遅く、無駄なしがらみが多いエンタープライズはまるで、気候の変化に素早く対応できない恐竜のように、身動きが取りにくくなる。 特に自動車業界では、これまで数十年間の歴史の中で熟成されたサプライ・チェーンの仕組みや製造工程が逆に足かせとなり、動きが遅くなる。そして最も危険なのが、特に日本の企業のその多くが、地方都市の有力企業として鎮座し、その危機に鈍感になっている点だろう。 その一方で、世界で最も変化が激しく、日々激しい競争が行われているこちらシリコンバレー地域では、昨日は存在していなかった新しいコンセプトやプロセスが日々実験、検証され、最先端のテクノロジーを活用し、ユーザーに最も適した商品やサービスが生み出されている。それが次のイノベーションに繋がっており、これに対して業界の壁は全くないと言って良いだろう。 参考: 日本がシリコンバレーに100倍の差を付けられている1つの事 そのような環境で生まれたのがTeslaであり、その他多くの自動車業界に変革をもたらすスタートアップであろう。彼らのミッションは既存の概念を打ち砕くことであり、しがらみが全くない状況で、心置き無くやるべきことを進めている。このような状況下では今後自動車関連のサプライヤーがどんどん打ち砕かれてもなんら不思議ではないだろう。 参考: シリコンバレーが自動車業界に与える3つのインパクト

ユーザーが自動車に求める体験も大きく変化してきている

ここで自動車というプロダクトを考える際に、考えなければいけないのが、現代のユーザーにとって”それ"はどのような存在であるかということ。特にミレニアル世代をはじめとした、若者たちにとっては、これまでの自動車、および自動車を所有することに対しての概念が大きく変化してきている。 参考: 若者が車を所有しなくなった6つの理由 当然のことであるが、消費者が魅力的と感じるプロダクト体験も大きく変化し始めてきており、”性能が良い=良いプロダクト” と言った単純な方程式が通用しなくなり始めているのも事実。実はこの辺に気づいている自動車メーカーは意外と少なかったりする。 参考: 変化する自動車に関する5つのユーザー体験

自動車業界注目のスタートアップ

これから紹介するのは自動車産業を大きく変革させると思われれるスタートアップ。B2Bという特性上派手さはないが、おそらく世界中の自動車メーカーが注目するべき対象となり、既存のサプライヤーを脅かす存在にもなり得ると考えられる。

1. Nuro

Eコマースの配送におけるラストワンマイルのニーズに合わせた自動運転車両を製造する。物流サービスに特化させ、ヒトではなくモノの移動にフォーカスさせることで、小型車両にプロダクトを収納し、購入者の家まで届けるのがコンセプト。プロトタイプのdubbed R1は見た目も可愛い。 nuro_web_usecases-715

2. Neteera

セキュリティーやヘルスケア領域でも活用されているセンサリングテクノロジーを自動車に適応することで、これまで以上の制度での物体検知が可能になり、自動運転車両の安全性をよりアップさせるテクノロジーを提供している。

3. GhostWave

自動運転を実現させるために最も重要なテクノロジーの一つであるレーダーを提供している。より高度なセンサリング技術で車両の周りにある物体を感知し、事故を未然に防ぐ。

4. Clear Motion

ソフトウェアとハードウェアのテクノロジーを融合させることで、極端なでこぼこ道などでも車両が揺れないようにする自動車のサスペンションを開発製造している。今後の自動運転時代には、車内がリビングルームのような存在になる可能性もあり、乗り心地は最優先事項の一つとなる。また、乗り心地が格段に改善されるだけでなく、旋回時やブレーキング時の性能のアップにも繋がる。 https://youtu.be/mdlpRAB0Guc

5. Mighty AI

画像認識と機械学習によるデータ分析テクノロジーを通じ、自動運転用ソフトウェア開発者向けプラットフォームを提供。車両が感知した画像データに対してメタ情報を付随させることで、物体の属性を定め、より深いレベルでの物体認識を可能にする。

6. Nauto

主に商業用車両を対象に、既存の車両に装着可能なデバイスとAIを活用したソフトウェアプラットフォームにより、車両の周りの状況と運転手の動きをリアルタイムで感知し、事前の事故防止を実現する。 AIを使った双方向カメラの車載器。前方を見る車外カメラと車内の様子を撮影する車内カメラでドライバーの煽り運転や脇見運転、居眠り運転、その他危険運転を察知し、運転後にフィードバックを行うだけでなく、商業用車両の場合には車両管理側がその様子を確認できるようになっている。 また、複数の車両管理にも対応しており、より効率的なオペレーションを実現する。日本市場進出に対してはbtraxがサービスを提供している。 nauto

7. Cognata

ディープラーニングとマッピングのテクノロジーを活用することで、既存の都市をヴァーチャルにCG化する。これにより、自動運転車両が実際の走行実験をする前にソフトウェアレベルでの走行実験に役立てることができる。

8. WayRay

AR技術を活用したフロントガラスに投影される形のナビゲーションデバイスを提供。リアルタイムで車両の周りの環境データを取り入れ、レンダリングすることで、情報の精度をアップさせ、より安全な運転と快適なドライビング体験を実現する。 https://youtu.be/7JWjesx7TZA

9. EV Safe Charge

EV車両を自宅やオフィスにてより効率的に充電するためのデバイスを製造している。既存の建物に後付けできる形になっているため、手軽にチャージングステーションを増やすことが可能になる。  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

今さら聞けないリーンスタートアップの基本

lean startup
書籍『リーンスタートアップ』が出版されて、7年近くが経つ。起業家エリック・リースによる、全く新しいスタートアップ論を示したこの本は、シリコンバレーを含め全米で一大ブームを巻き起こした。起業家や経営者の方はもちろん、デザイナーやエンジニア、マーケターの方も一度は耳にしたことがあることだろう。 しかし「リーンスタートアップとはなにか」と改めて聞かれると、言葉できちんと説明することが意外と難しいことに気が付く。「MVP」「Lean Canvas」等、単語こそ知っていたとしても、それらを体系化的にに説明するのは中々出来ないのではないだろうか。 そこでこの記事では、名前は聞いたことあるけどよくわからない・本は読んだことあるけどイマイチわからなかった・はたまたリーンスタートアップなんてよくある流行語でしょ、という人々に向け、リーンスタートアップの基本について紹介したい。

【リーンスタートアップの定義】

基本の基本から理解をする為に、まずは「リーンスタートアップ」という言葉の自体の意味から始めたい。この言葉は「リーン」という形容詞と、「スタートアップ」という名詞の2つの単語によって構成されている。まずはそれぞれの意味を軽く説明したい。

そもそもスタートアップとは?

そもそもスタートアップという言葉の定義でさえ曖昧になってしまっていないだろうか?その典型的な例が、ベンチャー企業との混同である。会社の規模感等が似ているからか同じ文脈で語られがちであるが、ベンチャー企業とスタートアップは似て非なるものだ。故に「起業する=スタートアップを興す」という等式は成り立たない。 では、スタートアップとは何か。彼らは数ある会社の中でもごく一部の特殊タイプである。簡単に一文で定義すると、「新しいビジネスモデルを開発し、ごく短時間のうちに急激な成長とエクジットを狙う事で一獲千金を狙う人々の一時的な集合体」と表現出来るだろう。詳しくはこちらの記事(ベンチャー企業とスタートアップの違い)を参考にして頂きたい。 startup_venture ↑ スタートアップとベンチャー企業を利益と時間の軸で比較した図。ベンチャー企業と違い、スタートアップはビジネスモデルが確定されていない為、最初は収益の目処が立たない。IPOやバイアウト等を通じ、最終的に大きなリターンを狙う収益モデルであるといえる。

そもそもリーンとは?

それではもう1つの言葉の説明に移ろう。リーンスタートアップという言葉の1番の特徴である「リーン」である。 英英辞典でのLeanの定義は以下になっている。 Lean: thin, especially healthily so; having no superfluous fat. 日本語に訳すと、「痩せ型の」や「脂身のない」といったところだろうか。 ではこの「リーン」という言葉はビジネスの世界でどのように使われてきたのだろうか。この言葉を初めてビジネスを語る文脈で使用したのが、マサチューセッツ工科大学のJohn F. Krafcikによる論文「Triumph of the Lean Production System」である。

トヨタとリーンの関係

この論文では、トヨタが編み出した生産管理システム(トヨタ生産方式)を体系化し、「リーン生産方式」という呼び名で紹介されている。「リーンスタートアップ」の中でも触れられているが、「リーン」という言葉とトヨタには深い関係があるのだ。 トヨタ生産方式の根底に流れる思想は「ムダの徹底的排除」である。これは欧米各国にはセンセーショナルな考えとして受け入れられ、日本企業が世界の自動車業界を席巻することを予感させた。その目標は「生産性の向上」であるが、当時資本主義経済の象徴的な企業であったフォードの目指した、大量生産によるスケールメリットによるアプローチとは全く異なるものだったのだ。フォードが力を入れたのが「量」なら、トヨタは「質」にとことんこだわった。 トヨタ生産方式は2つの考え方を柱として確立されている。
  • 「ジャスト・イン・タイム」:「各工程が必要なものだけを、小ロットで流れるように停滞なく生産する」というコンセプトによって実現される「生産効率性の向上」(ツール: かんばん方式)
  • 「自働化」:「異常が発生したら機械がただちに停止して、不良品を造らない」というコンセプトによってもたらされる、「問題の顕在化・見える化」(ツール:アンドン)
このトヨタ生産方式は、後にMITによってリーン生産方式という形で体系化されることになる。つまり、リーンの意味を噛み砕くと、「生産効率性の向上」と「問題の顕在化」によってもたらされる「ムダの徹底的排除」であると言えるだろう。 lean_manufactory ↑MITがトヨタ生産方式を体系化した結果生まれた「リーン生産方式」。ジャストインタイムと自働化を2つの柱とし、”Heijunka”や”Kaizen”等、日本人にも馴染みのある言葉が並んでいる。

リーンスタートアップとは?

これをスタートアップに応用したのが、「リーンスタートアップ」というわけである。無理やり一文で表すとすると「新しいビジネスモデルの開発」を「生産効率性の向上」と「問題の顕在化」による「ムダの徹底的排除」というアプローチで目指すマネジメント論であると説明出来るだろうか。 リーンスタートアップの記事を読んでいると、「MVP」「Lean Canvs」等いろいろな用語が飛び交う。しかしそれらはあくまで(非常に強力であるが)ツールでしかない。上記した本質をわかっていない状態では、ツールに振り回されてしまい、それを使うこと自体が目的になってしまうことが少なくない。 本質の理解が無いと、想定外のことが発生した際の意思決定が浅い思考に基づいた表面的になものになってしまいがちである。ツールやプロセスに固執し過ぎることなく、その状況において最適な意思決定を下していく為には、それらの使い方をただ知っているだけでは不十分であることは間違いない。 更に、スタートアップとは個人ではなく組織である。その為、自分がリーンだと思っていたことが相手にとっては違った、ということも起こり得る。その結果、「このプロジェクトはリーンかリーンではないか」という議論が平行線を辿ってしまうこともあるだろう。 このような状況の一番の処方箋は、ツールの使い方やプロセスの進め方のおさらいではなく、本質の理解と共有ではないだろうか。付け焼き刃にならない為にも、まずは「リーンスタートアップ」とは何かを理解することから始めることが大切である。 lean startup ↑書籍『リーンスタートアップ』の副題は「ムダのない起業プロセスでイノベーションを生み出す」となっている。

【リーンスタートアップは◯◯◯ではない】

リーンスタートアップとはアイデアを生む手段ではない

ここでよくある誤解が「リーンスタートアップ」とは、それさえ実行すれば誰でもイノベーションが起こせるようになる魔法の杖のように思えてしまうことだ。 しかし、ここでポイントとなるのは「リーンスタートアップ」とはあくまでマネジメントの方法論であるということである。もう少し噛み砕くと、「リーンスタートアップ」とはアイデアを事業化する際のプロセスをマネジメントするものである。つまり、「リーンスタートアップ」とはアイデア自体を生み出す手段ではない。 アイデアを生み出す、いわゆる「0→1」フェーズは「デザイン思考」が得意とするフェーズだ。誤解を恐れずにわかりやすく説明するとすれば、デザイン思考等で生み出された「0→1」を「1→10→100」へと大きくしていくマネジメント方法が「リーンスタートアップ」であると言っても大きく差し支えはないだろう。 designthinking_leanstartup

リーンスタートアップとは「とにかくやってみよう」ではない

また「リーンスタートアップ」と聞くと、計画云々は置いておいて「とにかくやってみよう」論を語っているものだと捉える人もいるかもしれない。しかし既に上記した通り、リーンスタートアップとはプロセスのマネジメント論である。つまり、「無秩序に数を打てばあたるだろう」を推奨しているものでは決して無い。 確かに、従来のように戦略を立てきっちりとしたタイムラインを引くのは不可能だろう。誰が顧客なのかやどのようなプロダクトを作るのかさえも確定していないのがスタートアップである。そのようなあらゆる不確実性が大きい環境において、きっちりとしたタイムラインはもちろん戦略でさえも陳腐化してしまう可能性が高い。ある程度明確なものがあり、それをベースに戦略やタイムラインを引く大企業のプロジェクトと同じ方法では通用しないのは明らかである。 しかしだからといって、「無計画」を良しとするものでもない。スタートアップのゴールは上記した通り「新しいビジネスモデルを成功させ、その結果世界を変える」である。であれば、情熱だけに従ってプロダクトを作るのだけでは不十分であることは明らかだ。 その情熱をムダにしない為の「リーンスタートアップ」である。スタートアップのように情熱的で混沌とした組織を管理する方法を示し、自己満足で終わらない新規事業開発を行えるようにする方法論である。本文の言葉を借りれば、「マネジメントの第2世紀」なのだ。 map_compass ↑ MITメディアラボの伊藤穰一氏の言葉を借りれば、"地図を捨ててコンパスを頼りに進め"である

【リーンスタートアップの特徴】

「仮説構築 → 実験 → 学び → 意思決定」

リーンスタートアップとはアイデアを事業化させる際のマネジメント論だと述べた。ではどのようにそのプロセスを管理するのか。その答えは、「仮説構築→実験→学び→意思決定」のプロセスを回し続け、立証された仮説を積み重ねていくことにある。 仮説構築_実験_学び_意思決定 このプロセス自体は目新しいものではないだろう。リーンスタートアップだけの専売特許でもない。多くの人が聞いたことがある形で訳すといわゆるPDCAサイクルである。デザイン思考のプロセスに当てはめるとすると「Empathize → Ideation → Define → Prototype → Validate」となるだろうか。 どの思考法を使おうともこのプロセスは避けられないのには理由がある。それは、アイデアとはその時点では思いつき・もしくは仮説でしか無いからである。それらは立証されて初めて価値を持つのだ。その為、アイデアを定性・定量どちらかの形で検証できる仮説に落とし込むことが必要となる。立証された仮説を積み重ねて行くことで、曖昧なものを確かなものに変え、進むべき道を決めていくのである。 リーンスタートアップにおいてもこれ例外ではない。それどころかむしろスタートアップを興すこと以上に「曖昧なものが溢れている状態」など無いだろう。スタートアップの目的が、既存マーケットにおける新規事業開発ではなく、ゼロからビジネスモデルを作り上げることである以上、「全ては仮説」として捉えることから始めることが求められる。 このような不確実性が高い状況では、仮説を細かく分解し、検証のサイクルを小さく多く回す方がムダが少なくなるだろう。サイクルを大きく少なく回すことのリスクが高いからである。小さな仮説を積み上げていく方が、結果的に効率的なプロセスになっている場合が多い。 更に、スタートアップはその性質柄、人・金・時間といったリソースが限られていることが常である。つまり、ムダなリソース消費は死を意味すると言っても過言ではない。その為、使用したリソースを意思決定出来た決断で割り算をした、意思決定のコストパフォーマンスが非常に重要であることは感覚的にわかるだろう。 つまり、「仮説構築 → 実験 → 学び → 意思決定」のサイクルをそのコストパフォーマンスが高い状態で回し、「ムダの無い意思決定」を下し続けることが、スタートアップをリーンな状態をキープする上で必要不可欠なことであると言えるだろう。 意思決定のコストパフォーマンス

意思決定を下すまでが1サイクル

ここで大切なのが、学びで終わらず意思決定までを行うということである。定性的な情報を必要とする仮説は学びは沢山得られるが、仮説が検証出来たかどうかがわかりづらい場合が多い。それに加えて、仮に検証出来たとしても100%の確実性を得られるケースは稀である。いくら前もって数値化出来たとしても、特にグロース前のフェーズではその数値の根拠が不明瞭なことが多い為、「まぁたぶん合ってる」くらいの結果になるケースが多いように思う。 しかし上記でも述べた通り、重要なのは意思決定のコストパフォーマンスである。仮説の検証を抜きにするのは論外であるが、だからといって100%の確実性を得られるまでやり続けるのも最適だとは言えない。学びを踏まえて、ある程度不明瞭なものがあっても、意思決定を下して進んで行くことが大切である。

顧客開発モデル

ところで、そもそもスタートアップにとっての1番のムダとはいったい何なのであろうか。トヨタが注目したムダの一つは、在庫を抱えることのムダであった。しかし、それはあくまで「顧客が欲しいものが作れている」という前提があってのものである。 一方、スタートアップの場合はそれすらも確約されていない。つまり、スタートアップにとっての1番のムダとは、「顧客から必要とされないものを作ること」であると言えるだろう。そんな問題を解決すべく生まれたのが、顧客開発モデルだ。 顧客開発モデルとは、顧客と対話を重ねながらプロダクトやビジネスモデルを作りあげていくメソッドである。提唱者のSteve Blank氏はスタンフォード大学などで教鞭を取り、ハーバード・ビジネス・レビューに”Master of Innovation”の1人として紹介されている、シリコンバレーの起業家の中で知らない人は居ないと言われている人物だ。 customer_development 顧客開発モデルは、彼の著書である「The Startup Owner's Manual」の中で提唱したことをきっかけに世の中に広く知られるようになる。その名前の通り、まるで辞書のような本である。その為すべてを詳しく説明することは避けるが、内容を概括すると「多大な時間とコストをかけて作った商品が実は『全く顧客から必要とされていなかった』という悲劇を免れる為に、会社の進捗管理を顧客ベースで行うこと」を提唱していると言えるだろうか。 このモデルによると、会社とは大まかに4つのフェーズにわけることが出来る。その4つが「Cusotmer Discovery・Customer Validation ・ Customer Creation ・Company Building」である。
  • Customer Discovery: 「顧客と話をし、必要とされるかどうか」の検証を行うフェーズ
  • Customer Validation: 「実際に市場に受け入れられるのか」の検証を行うフェーズ
  • Customer Creation:「グロース」の検証を行うフェーズ
  • Company Building: 組織を構築し、生産体制を整える段階
この中で、創業間もないスタートアップが当分の目標として据えるべきなのは、前半2つのフェーズを乗り越えることである。Steve氏は次のフェーズに移行して良いかどうか判断するチェックポイントとして、Problem Solution Fit (PSF) と Product Market Fit (PMF) を提唱している。
  • Problem Solution Fit (PSF):「Customer」の抱える「Problem」が明確で、それに対する「Solution」が提供出来ている状態
  • Product Market Fit (PMF) : 「Solution」が落とし込まれた「Product」が「Market」に受け入れられている状態
スタートアップの約80%近くがPMFを達成出来ずに潰れてしまうと言われている。その為、PMFが達成出来たらそのスタートアップはある程度の成功をおさめたと言ってよいだろう。 その証拠に、Netscapeの創始者で、FacebookやeBayのボードメンバーでもあるマーク・アンドリーセン氏は悩めるスタートアップのファウンダーに対して、「The only thing that matters is getting to product/market fit.(PMFを達成することだけがスタートアップにとって大切なことだ)」とのアドバイスを送っている。

顧客開発とは顧客の御用聞きではない

ここでのポイントは、顧客開発とは顧客の御用聞きのように振る舞うことを推奨している訳ではないということである。顧客の声を聞くとは、必要だと言われたFeatureをすべて足していくことでは決してない。亡きスティーブジョブズが言ったように、「You can’t just ask customers what they want and then try to give that to them. (顧客に何が欲しいかを聞き、それを与えようとするだけではいけない)」のである。 御用聞きにならない為には、発言の深掘りをする必要がある。簡略化すると、「OOOという機能が欲しいと言ったということは、XXXという問題がありそうだ。ということは△△△というソリューションで解決出来るかもしれない。」というようになるだろうか。その発言そのものよりもそこからどういうことが読み取れるかが大切である。顧客に耳を傾けることと顧客の声を鵜呑みにするのは全く違うのだ

リーンスタートアップの特徴

上記をまとめると、リーンスタートアップの特徴とは、「仮説構築 → 実験 → 学び → 意思決定」のサイクルを「顧客」に対して回し続けることが大切だということになる。ではそれを一体どのように行えば良いのだろうか。最後にこれらを実行する上で強力なツールとなるものを2つ紹介したい。

【リーンスタートアップ実行の上でのツール】

MVP

MVP_ピラミッド リーンスタートアップの1番の特徴としてあげられることが多いのがこのMVPである。MVPとはMinimum Viable Product の略称であり、実験を実行するのに最低限必要な機能を備えた製品のことである。噛み砕いて説明すると「構築した仮説に対してそれを検証するのに必要なものだけを備えた製品」となる。まさに、冒頭で述べた「生産効率性の向上」と「問題の顕在化」によってもたらされる「ムダの徹底的排除」というリーンな状態を体現したツールだと言えるだろう。 MVP_Car By Henril Kniberg 「問題の顕在化」を実現するには、そのMVPによって届けたい価値を意識してデザインすることが必要である。例えば、車のMVPは車輪ではなくスケートボードであるべきだ。車輪は車輪だけではユーザーにとって何の価値も持たないが、移動手段となって初めて価値を持つからである。検証したい価値を実現したMVPを使って初めて問題を顕在化させることが出来るのだ。「生産効率性の向上」を意識するあまり、「問題の顕在化」を果たせなければ、MVPとしての価値は0に近い。

Dropboxの例

DropboxはMVPを上手く使ったスタートアップとしてあげられることが多い。Dropboxといえば、先日IPOを行い「1兆円上場」を達成した企業である。そんな文句無しの”成功”を勝ち取ったスタートアップは、製品開発前にどのようにMVPを利用して、仮説を検証したのだろうか。 Dropboxは立ち上げ当時、複数のデバイスやチーム間での共有や同期が行えるクラウドストレージサービスを作り上げれば、利用する人が大勢居ると仮説を立てた。 しかし、実際に利用する人が居るかどうかはまだわからない。そこで、この仮説を検証する為に彼らがMVPとしてリリースしたのが3分間のデモ動画である。その動画では、Dropboxを実際にどのように利用するのかの大まかな流れが説明されている。 [embed]https://www.youtube.com/watch?v=vY3OtMBCEKY[/embed] 結果を測定すると、なんと一晩で75,000人もの人がE-mailを登録した。これにより上記の仮説は立証出来たとし、アイデアにある程度の確信を持って開発に踏み切ることが出来たのだ。 dropbox_slides ↑ 2007年、Dropboxがシード期だった頃のピッチスライドの一部。10年経った今もほとんど変わっていないことがわかる。MVP以外にも、スタートアップのお手本として参考にすべきところが多い。

MVPとはデモ版・β版ではない

MVPとは製品のデザインや技術的なことを検証する為だけのプロトタイプやデモ版とは似て非なるものである。MVPとは、出来の悪いプロダクトをリリースするというものでは決して無い。 例えば、リリースされたばかりのiOSは不具合が多いというのはAppleのお決まりパターンとなってきている。「Apple 人柱」と検索すると、「人柱覚悟でアップデートしてみました」というようなブログ記事が散見される。これは何かの仮説を検証する為にこのようにあえて設計している、ということが無い限りはMVPではない。 Appleを否定する訳では決して無いが、MVPがどうかと聞かれれば答えはNoである。

MVPとは「学びの為の道具」

MVPの制作において大切なのは、仮説ありきで作られる「学びの為の道具」であるということである。APPであれ、ビデオであれ、目的仮説の検証が出来れば何でも構わない。逆に言えば、かなり作り込まれたAPPであっても、目的仮説が検証可能になるように制作されていなければ、それはMVPとしては質が高くないとも言えるだろう。

Lean Canvas

leancanvas 仮説は基本的にMVPによって検証される。では、一体どのような要素について仮説立てを行う必要があるのか。それを図式化したのがビジネスモデルキャンバスであり、スタートアップ用に修正を加えたのがリーンキャンバスである。 ここで大切なのは、スタートアップが開発しているのはプロダクトでは無くビジネスモデルであるということである。そこでリーンキャンバスではビジネスモデルを構成する要素を9つに分解してある。これによりビジネスモデル全体から俯瞰してみた時に、どこまでの検証が進んでいるのかを確認することが出来るのだ。それぞれの要素についての簡単な説明は下記である。
  1. Problem: 抱えている課題は何か。
  2. Customer Segment: どのような人がターゲットなのか。
  3. Unique Value Proposition: 競合に対してどのような独自性があるか。
  4. Solution: 課題を解決する方法は何か。
  5. Channel: 顧客に対してどのようにアプローチするのか。
  6. Revenue Streams: どのような収益モデルか。
  7. Cost Structure: どれだけのコストが発生するか。
  8. Key Metrics: このビジネスモデルを評価する上で大切になる指標は何か。
  9. Unfair Advantage: 競合に対しての参入障壁は何か。
どのような要素の仮説が立証出来ているのか、はたまたまだ仮説立ても出来ていないのかが客観的に理解出来るのに加え、共通のフォーマットで管理することでチーム内での認識合わせにもおいても役に立つだろう。 また、それぞれの要素をリスクの高さを基準にすることで、優先順位を付けられるようになる。その為、マイルストーンを決める際にも役に立つ。スタートアップ発足時に作成し、学びがある度に更新し続けるのが1つの正しい使い方だろう。

【まとめ】

「今さら聞けないリーンスタートアップの基本」と題し、その言葉の定義から特徴、ツールまで紹介した。 読む前に感じていた、名前は聞いたことあるけどよくわからない・本は読んだことあるけどイマイチわからなかった・はたまたリーンスタートアップなんてよくある流行語でしょ、という印象が、少しでも良い方向に変われば幸いである。 参考: John F. Krafcik (1988) 『Triumph of the Lean Production System』 Eric Ries (2011)『Lean Startup』 Ash Maruya  (2012)『Running Lean』 Steve Blank and Bob Dorf (2012)『The Startup Owner's Manual』 Jeff Gothelf (2013) 『Lean UX』 伊藤賢次 (2012) 「トヨタ生産方式(「TPS」)の評価に関する一考察」 トヨタ生産方式 THE PMARCA GUIDE TO STARTUPS Part 4: The only thing that matters How DropBox Started As A Minimal Viable Product

【農業 × テクノロジー】食の未来を変革する最新アグリテックサービスまとめ5選

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2050年に我々は何を食べているだろうか?世界人口は現在の1.3倍となる96億人を超えると予想され、国連はカロリーベースで少なくとも70%以上の食料増産が必要であると発表した。農地や水、化石エネルギーなど食料生産に必要な資源には限界があり、アメリカをはじめ各国で農業スタートアップがたくさん生まれている。 インドア・ファーミングは次世代のオーガニック農法とも言われ、ソフトウェアやLED、ロボティクス技術やAIを活用した室内農場である。葉物野菜の生産量は、今後10年ほどでインドア・ファーミングが露地栽培のものと同じ生産量になると言われており、その規模は420億ドル(約4.5兆円)にもなると言われている。 また、インドア・ファーミングは都市近郊にもつくることができるため、物流コストや都市部への供給によってこれまでかかっていた環境負荷も下げられると期待されており、ビル自体を農場にするバーティカル・ファーミングともよばれている。日本では植物工場とも呼ばれ、京都に本社を置くSpreadが開発する全自動植物工場Techno Farmも世界的に注目されている。 過去5年ほどアメリカでは倒産するインドア・ファーミング企業が相次ぎ、なかなかビジネス化が難しいとされてきたが、2017年にはインドア・ファーミングのスタートアップPlentyが過去最大規模の資金調達に成功し転換点を迎えたのではないかと注目されている。 本記事では食の未来を担う可能性に満ちたスタートアップをいくつかご紹介したい。 関連記事:

1. Plenty 農業スタートアップとして過去最高の資金調達を実施

agritech-plenty 主要投資家:SoftBank Vision Fund, Innovation Endeavors, Bezos Expeditions, Chinese VC DCM, Data Collective, and Finistere Ventures 調達額:$226M サービス概要: 生産性の高い水耕栽培を実現させたバーティカル・ファーミングのスタートアップ。多くのバーティカル・ファーミングの取り組みでは、水平に設置されたトレーを使用して栽培を行うが、Plentyでは独自に設計されたポール状のタワーで栽培を行う。 各タワーは約10cm間隔で設置され、植物はそこから水平に成長し、さながら植物の壁のようになる。こうすることでこれまでの農法と比較して同じ面積で350倍の生産を可能にした。現在は葉物野菜の他、イチゴが栽培されており、将来的には根菜や木になるフルーツを除く多種多様な野菜・果物が栽培可能になる計画である。 都市近郊に工場を設置し、オーガニックのみならずローカルでつくられた野菜であるという価値を前面に押し出しながら事業展開を行っている。現在はサンフランシスコ市南部につくられた工場が稼働しており、2018年にはシアトルで新工場が予定されている。 注目の理由: これまで収量不足・流通量不足やテクノロジーコストが高いことから多くのバーティカルファーミングのスタートアップが倒産してきた。そんな中、2017年に農業関連スタートアップとしては過去最高となる200億円を調達し、この新しい食料生産方法を一般化する可能性がある企業として注目されている。 また、調達した資金を活用して今後数年間で世界展開を実施することが計画されており、最終的には100万人以上の人口を持つ500の都市に展開する目標が発表されている。

2. Freshbox Farms 短期間に黒字化したインドア・ファーミング

agritech-freshbox 主要投資家:Band of Angels, SQN Venture Partners, Chalsys LLP 調達額:$12.7M サービス概要: ボストン郊外のmillesという街で創業された、コンテナで展開するバーティカル・ファーミングのスタートアップ。使われている栽培技術はコンテナの中に水平に設置されたトレーによる水耕栽培。 現在はコンテナ12台と1台の"Mod"(9台のコンテナで構成されるFreshbox Farmsが独自開発したモデュラーシステム)で12種の野菜を育て、ボストン市内の37のスーパーマーケットに商品を提供している。通常の農法で7.7ヘクタール必要になる生産量をわずか約30m2のスペースで生産している。 今後5年間でアメリカ国内25カ所に展開し、それぞれ1〜3トンの生産量を目指す。 注目の理由: 野菜を育てるための独自テクノロジー開発に集中するスタートアップが多い中、Freshbox Farmではコンテナを活用したモデュラーシステムの改善に経営資源を振り向けている。 コンテナを利用するため大型工場による集中生産よりも短期間に事業開始が可能であるほか、他の同業スタートアップに比べ投資回収サイクルが非常に早い。2015年の創業から23ヶ月で黒字化を達成し、ビジネスの持続性の高さが注目されている。

3. Iron Ox ロボットで生産コストの50%を削減

agritech-ironox 主要投資家:Y Combinator, Eniac Ventures, Amplify Partners 調達額:$5M サービス概要: ロボットアームを活用して完全自動化を目指すインハウス・ファーミングのスタートアップ。野菜の生育段階にあわせて用意された各トレイに対して、ロボットアームが播種、散水の他、野菜の大きさに合わせた植え替え、収穫まで行う。 また、ロボットアームに組み込まれた高精度のカメラで野菜の状態を確認し、病気にかかったものがあれば間引く作業を行い、マシンラーニングで野菜の理想的な生育状態を学習していく。2018年にはサンフランシスコ・ベイエリアに約750m2の工場が完成予定されている。 注目の理由: バーティカル・ファーミングやインドア・ファーミングで最大の事業リスクとされるのが生産にかかるコストがある。多くのスタートアップが、主にLEDのコスト削減等に取り組む中、同社は野菜生産コストの50%にあたると言われる人件費の削減にロボットを活用して取り組み、他社とは一線を画すアプローチを取っている。 アメリカの農業界では労働力の高齢化と人手不足が予測されており、それにかかるコスト増が見込まれるが、同社の技術で農作業をロボットが代行することでその課題解決に取り組みより持続可能な農業の実現を目指している。 ちなみに共同創業者の1人、Brandon Alexanderは過去にGoogle Xでドローン・デリバリー・プログラムに携わっており、もう1人のJon Binneyはホテルで使われるルームサービスロボットの開発に携わっていた経験を持つ。

4. Square Roots 未来の食をつくるスタートアップ・インキュベーター

agritech-squarerobot 主要投資家:Powerplant Ventures, GroundUp, Lightbank, FoodTech Angels 調達額:不明 サービス概要: 2016年にニューヨーク、ブルックリンで始まった都市農業と起業家育成のためのプラットフォーム。未来の食に関連する起業家を育成する場となることを目的としている。 同社はファイザーの工場跡地の駐車場に設置された10台のインドア・ファーミング用コンテナで構成するアーバン・ファーミング・キャンパス、各コンテナを起業家に提供するレジデント・アントレプレナー・プログラム、近隣レストランとの連携やファーマーズマーケットとのコネクションを提供するコミュニティ・ネットワークで構成されている。 起業家たちはこのキャンパスにおいて13ヶ月間のレジデント・アントレプレナー・プログラムを通して農法、ビジネス、コミュニティ、リーダーシップに関して学習。さらに農業関連の企業やレストランオーナー、エネルギー専門家など多様なメンターたちとのネットワークや、主催するファーマーズマーケットやニューヨーク市内のレストランとのパートナーシップなど広く深いネットワークを得ることができる。 注目の理由: 共同創業者の1人であるKimbal Musk(Eron Muskの弟)はFarm to TableをテーマにしたレストランチェーンThe KitchenやNext Door、学校に「食べられる校庭」をつくるNPO・Big Greenなどを手がけており、フード業界で成功した起業家として影響力をもっている。 バーティカル・ファーミングという新しい食料生産方法が利用者に受け入れられるためには、それをいちはやく取り入れ、トレンドを作っていくアーリアダプターが重要になるが、創業者やメンターなど、Squarerootsの創業に関わる多くの人々自身がそういったアーリーアダプターであることが、その他の多くの取り組みと比較してSqaure Rootsをユニークなものにしている。

5. Row 7 Seed Company 有名シェフと種苗家がつくる未来の野菜

agritech-row7 主要投資家:Walter Robb, Richard Schnieders 調達額:不明 サービス概要: ニューヨークの著名なレストレランBlue HillのシェフであるDan Barberと種苗家であるMichael Mazourekによって設立された種苗スタートアップ。モンサントのような種苗企業が遺伝子組み換え種子などで高収量、鮮度保持性能を目指すのに対して、同社は美味しさを重視して品種交配を行う。 Mazourekが開発したハニーナッツ・スカッシュという新しい野菜は、一般的なバターナッツ・スカッシュよりも小さいが栄養価が高く、砂糖などを加えなくても十分に甘い。Barberと出会いさらに工夫を重ねてBlue Hillでメニュー化したところ、多くのレストランでも取り入れられた。現在はWhole FoodsやCostcoなどでも買うことができる。 なお2017年秋には食材宅配サービスのBlue Apronが950トンも購入し、ユーザーへの提供を開始。Row 7では多くのシェフ、種苗学者が協働してさらに多様な野菜の開発に挑戦しており、それぞれの自然環境にあった食物生産と食文化が結びつく地域主義的な食環境の実現を目指している。 将来的にはウォールマートでの販売でも視野に入れており、ホールフーズ前共同CEOであるWalter Robb、食料サービス企業であるSysco Foodsの前CEO、Richard Schniedersからの出資を得て、事業の拡大を計画している。 注目の理由: 近現代の農業が目指した野菜の均一化に一石を投じる新しい試み。アメリカのレストラン業界では、生産の現場から食卓までを近づけることで、より健康で正しく美味しい食事を実現しようとするFarm to Tableが大きな流れになっている。 Row 7の取り組みは、これまで市場性を得られなかった商品作物が、有名レストランのシェフというインフルエンサーを介して商品開発とマーケティングを実施し顧客獲得した事例であり、新しい食料生産の可能性を感じさせるものである。

まとめ

今回紹介したインドア・ファーミングの企業は都市内あるいは都市近郊での野菜生産を目指しており、地元でつくられた食材を食べることを推奨するFarm to Tableと世界観を多分に共有している。 近現代の大規模農業では食料生産とその消費の場所は遠く離れていることが多く、保存方法や流通、卸や小売などもその遠距離輸送に適応してつくられているが、今後は今回紹介したようなスタートアップによって食料生産に変革が起き、結果的に食・農業をとりまくより広い領域のビジネスがディスラプトしていく可能性がある。

最近のスタートアップのロゴのスタイルが似通ってきている問題について

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お気に入りのスタートアップやサービスのロゴがいつの間にか変わっている。このような事が最近増えている。少し前までであれば、「ロゴのリデザイン ー なぜGapが失敗しAirbnbが受け入れられたのか」でも見られるように、ロゴの変更やリブランディングは一つのトピックとして、多くの人たちからの反響が得られていた。 しかし、最近ではなぜか”しれっと"変わっているケースが後を絶たない。それも新しいロゴのデザインが”ある一定の”共通パターンをなぞっていて、特にロゴタイプの部分はどのロゴもかなり似通ってきている。

スタートアップのビジョンをロゴで表現

スタートアップを始めた当初には一体何があるであろうか?ファウンダー達の理想的な未来へのビジョン、名前、そしてロゴぐらいだろう。プロダクトもほぼ無い状態の場合、見た人の印象に残るのはその名前とロゴぐらいしか無い。そのために、自分たちのビジョンをロゴに込めて表現するケースは珍しく無い。

会社のフェーズによってロゴの役割が変化する

スタートアップは、急激に成長することをゴールとしていることから、短期間のうちに会社のフェーズがどんどん変化する。最初は、既存の常識に囚われたくない反逆精神を持った若者たちの社会への挑戦から、ユーザーを獲得。大きな資金を調達し、多くの人が関わることで、バランスのとれた”まじめにな”企業へと成長する。 ユーザーのターゲットも特定の考えを持ったアーリーアダプター獲得から、世間一般の人々へのサービスの浸透を目指すためのゴールのシフトする。知名度が低いうちはロゴも他とは異なる奇抜なデザインで目立つことで覚えてもらう事を目的としていたのが、徐々に市民権を得て、一般ウケするものへと変貌を遂げる。まるでこれはデビュー当時は奇抜なメイクで目立っていたビジュアル系バンドが売れてくるにつれて、地味な服装とスッピンになっていくのに近い感覚だろう。 logo-before-after もちろんこの変化には、当初は自分たちで未熟なデザインをしていた時代から、徐々に専属のデザイナーやデザインチームを要するようになった事も大きいだろう。そうなってくると、ロゴもセオリーに合ったデザインが施される事となる。 このロゴの変革は、既存の概念を破壊するユニークなサービスから、日々使いたくなるシンプルで使いやすく分かりやすいサービス体験をビジュアルとして表現しているのである。スターアップの存在としても、ユニークなサービスを通じて世の中に変革をもたら役割から、ユーザーの生活の一部に欠かせない存在になる事に変貌をとげ、それを具現化する方法の一つとしてロゴが存在している。

実はロゴタイプよりもアイコンの方が重要な時代に

ちなみに、スタートアップの"ロゴ"と言った場合、最近ではその多くが"アイコン"をイメージする事が多いだろう。その理由は単純で、アプリのアイコンそのものがロゴの役割をしているから。厳密に言うと、ロゴはアイコン部分のロゴシンボルと文字の部分のロゴタイプに分けられるのであるが、現代においてはとりあえず"アイコン = ロゴ"の認識が一般的になりつつある。 logo-body この辺の変化は、経験豊富なベテランデザイナーなどからすると"邪道だ!"と叱責されるかもしれないが、これも時代の変化によるもので、それに順応できない方がデザイナーとしての能力が低いと言わざるを得ない。

トレンドはサンセリフ書体を使ったシンプルスタイル

では最近のロゴ共通するパターンとは何なのか?ロゴタイプの部分が丸みを帯びたサンセリフの書体を利用し、余計なエフェクトやアクセントを廃し、全体的にシンプルにまとめ上げられている。まるで社名をデザインソフトで”サクッと"タイプしただけのように見える。 ちなみに”サンセリフ”とは、文字の書体の一つの種類。「サン」とは、フランス語で「〜のない」という意味で文字にとめ、はね、はらい、などのが無いタイプのもの。日本語だと”ゴシック"と呼ばれるものに近い。代表的なフォントとしてHelveticaやFuturaがあげられる。 fonts 参考: タイポグラフィーとブランディングの密接な関係 もちろん文字と文字との間のカーニングの調整や、全体的なバランスも考慮されているが、どれも同じようなパターンを踏襲しているようにも見える。

一番の原因はスマホなどのデジタルデバイス

アメリカのデザインスクールでは、原則的にセリフ書体は印刷媒体、サンセリフ書体はデジタル表示用に使い分けろと教えられる。これは、人間の目の性質と解像度との関係が理由。 新聞などの紙媒体では、メリハリの多いセリフ書体の方が文字を識別しやすいが、解像度の低いデジタル画面では、セリフの細い線が見えにくくなってしまう特性があるため、サンセリフを使う事がセオリーとされている。 参考: 米国のデザイン教育から学んだこと それに加えてWebやスマホアプリなどのデジタル系のサービスを提供することの多いスタートアップの場合、ロゴを見られる場所が圧倒的にデジタルになるため、おのずとセリフ書体を利用する事が多くなる。特にスマホなどの小さい画面の場合、セリフの細い線は画面が小さくなると表示に限界が生じるので、デザインの幅が限られてしまう。 様々な大きさやスペックのデジタルデバイスに対応するには、小手先の装飾は通用しない。よりシンプルでわかりやすいデザインが必要とされてくる。フラットデザインやマテリアルデザインなどが普及したのにはそのような背景もある。ロゴにおいても、GoogleのようにCSSでも書き出せる仕組みにしたのもまさにデジタル化の流れの一つだろう。

メルカリもアメリカでリブランディング

日本発のユニコーン企業として注目されているメルカリであるが、実は先日アメリカ版のロゴを一新した。それもかなり大きな変更を行った。メルカリのこのリブランディング施策は、実は上記のトレンドとは全くをもって逆行する形である。 mercari-redesign もともとメルカリのロゴは、可愛いアイコンと丸みを帯びた整ったサンセリフ書体のロゴタイプで、最近のトレンドに沿ったデザインだったのが、まるで立ち上げ期のワンパクなスタートアップっぽいロゴに変化したのだ。もしかしたら彼らはアメリカではまだまだ"とんがった"存在でいたいという事なのだろうか?

これからはロゴもユーザー体験の一部になる

ここまで説明してきた"ロゴ"であるが、一般的にブランディング要素の一つとして考えられる事が多い。しかし、デジタルサービスが主流になった現代では、それに加えてサービスにおける体験をはじめとして、複数のタッチポイントでのUXがブランド構築の役割を担うようになってくる。そうなると、ロゴ単体での役割は限定的になるだろう。言い方を変えると、ユニークな体験が提供し続けることができれば、ロゴはコンサバティブになっても問題はないのである。 加えて、最近話題のスマートスピーカーをはじめとする音声認識型サービスなどにおいては、まさに"音声"がそのサービスのアイデンティとなるわけで、"ロゴ"の概念が大きく変わってきてる。現に、AlexaやSiriといったサービスにはロゴはほぼ無いと言っても良い。"音"を通じたユーザー体験が価値となっているので、ビジュアル要素が極力少なくなっているのも理解できる。 ちなみにComScoreの調査によると、2020年までには検索のおおよそ50%は音声によるものになるとのことで、ロゴに合わせて社名自体もユーザー体験において重要な役割を果たすようになるだろう。発音のしやすさや覚えやすさから始まり、下記のように"動詞"として定着するかが勝負となる。
  • Google it - 検索する
  • Tweet it - ツイートする
  • Instagram it - インスタでシェアする
参考: スタートアップやプロダクト名を考える際に重要な6のポイント

ユーザー体験がブランド構築のコアになる

このように、ロゴをはじめとして、企業やブランドが一方的に発信する「ブランディングメッセージ」というものはすでに時代に適合しておらず、過去の異物になり得る。これまでは、企業のロゴやコーポレートI.D.、広告やマーケティングキャンペーンなどを通じて、消費者やユーザーに対してのブランド形成が一般的であった。 しかし、ふと考えてみると「うちのブランドはこれを強みとしており、貴方にこんな価値を届けます」と表現するだけでは、あまり意味がない。 消費者としてはむしろ「では、実際にそれを体験させてみてよ」と言いたくなる。これは、ミレニアル世代をはじめとして、誰もが簡単に体験を受け取ることのできるこの時代に生きる人たちの視点からすると当たり前の価値観だろう。 ブランド構築の側面を考えてみても、UXデザインのプロセスをしっかりと取り入れることで次世代の企業やサービスの価値を向上させる事ができると考えている。 参考: UXピラミッド – UXデザインの正しい評価方法 –  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

非エンジニア大歓迎!サンフランシスコのハッカソンで垣間見るイノベーションの源流

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デジタルテクノロジーが急速に進歩し、プログラミングスキルの重要性が唱えられるようになり、エンジニア人材もどんどん増えている。 ハッカソンはそんなエンジニアたちが集まり、そのスキルを使って新たなソフトウェア開発を行い競い合うコンテストだ。基本的には。 ここで「基本的には」と述べたのには訳がある。少なくとも筆者の住むサンフランシスコで開催されるハッカソンでは、ノンエンジニアたちの参加が少なくない。むしろ、エンジニアの参加者は全体の半数以下なのではと感じる場合もあるほどだ。 そこでは、従来的なエンジニアだらけのハッカソンの在り方を超えて、非テクノロジーの様々な分野とテックシーンにおける溝を埋め、参加者間で新たなコラボレーションが創造されている。つまり、サンフランシスコでは、デジタルテクノロジーを用いた新しいものづくりが、エンジニアだけでなくより広い人々の身近なアクテビティとして存在しているのだ。 そこで今までにない角度からのアイデアが生まれ、それがどんどん形になっていくのが最近のサンフランシスコのハッカソンシーンである。筆者はその流れに、近年日本でバズワード化している”オープンイノベーション”を促進するヒントが隠されているのでは無いかと考える。 ここで紹介するハッカソンの取り組みは、ビジネス業界の人々のみならず、行政や医療関係など非営利分野で活躍する人々にも、新たなモノづくりにおけるコラボレーションの手法として参考にしていただけるだろう。 今回は、新たなコラボレーションを醸成する手段としての側面から、筆者が実際に参加したハッカソンを紹介していきたい。

1. ヘルシーなハッカソン?ユニークな催しを盛り込み、これまでに無いデモグラフィをデジタルテクノロジー開発に呼び込む

筆者が最近参加したのは、メンタルヘルスの問題解決に特化した「Hack Mental Health」。心理学などの研究で有名なCalifornia Institute of Integral Studies (CIIS) で開催され、学生やエンジニア、デザイナーだけでなく、テーマに共感した健康志向の地元の住民、メンタルヘルスの問題を抱えた経験者たちやその家族らを含む350人以上が参加していた。 イベントの冒頭では、アメリカでは成人の5人に1人が年間を通して何かしらの精神的な問題を訴えており、特に1日中パソコンに向かうテクノロジー業界ではさらに深刻であるなどという事実が示された。 DSC_0299 このハッカソンで印象的だったのが、1日のなかにヨガや瞑想、ズンバやアートセラピーのセッションが組まれていたことだ。また、ハッカソンといえば会場に泊まり込み、配布されるレッドブルとピザを燃料に夜通しソフトウェア作りに打ち込むというイメージだが、メンタルヘルスがテーマのこのハッカソンでは、夜間のコーディング禁止ルールが存在、さらに提供される飲食物もGuayakí Yerba Mate(マテ茶)やフルーツチップス、野菜たっぷりのカレーや自然派グラノーラにヨーグルトと超健康的だ。これらは、テーマに共感した企業からの協賛で賄われている。 夕食前には、各界から集まったパネリストらによるメンタルヘルス分野とテクノロジーに関するトークも開催され、 新しい知見を得ることができ、とても有意義だった。これら全ての取り組みは、心と体の健康を忘れずに維持してほしいという啓蒙の意味で行われていたそうだが、会場はまるでメンタルヘルスフェスのようになっていた。 というのも、このハッカソンには、飛行機で5時間以上も離れたニューヨークなど東海岸のメンタルヘルス分野の人々までもが、志の近い人に出会えるはず!と多数参加していたのだ。これには開催側も想定外だったと驚いていた。 このハッカソンでは、ヨガや瞑想のワークショップを組み込み、提供される健康的なフードもイベント情報としてある程度事前に予告。内容もがっつりメンタルヘルスに寄せて、ヘルシーな香りを漂わせる事によって、 これまでハッカソン自体には興味がなかったような人までを参加者として取り込んだ。 結果的にこのハッカソンは、それまで交わることのあまりなかったデジタルテクノロジー開発者と健康志向な人々を一堂に会させ、新たなコミュニティ形成の種を巻くことに成功したと言えるだろう。 hackthon-food 左:提供された飲食物、右:ポストイットを使い、メンタルヘルスにおけるゴールをみんなでシェア(写真転載:HackMentalHealth 2018: “The Movement Has Begun” 関連記事:なぜサンフランシスコでは未来的なサービスが続々と生まれるのか?

2. 医者や活動家とのコラボレーション。より深いインサイトを取り入れ、お門違いなテクノロジー利用とさようなら

サンフランシスコでは、リベラルな気風も影響して、テクノロジーを利用し社会貢献しようというムーブメントが盛んだ。その傾向は、開催されるハッカソンにも色濃く出ている。 例えば、昨年末に筆者が参加した「Tech + Politics + Society + You 2017 Hackathon」は、選挙システムやメディア、ホームレス問題や災害時対応など4つのテーマに分かれて市民生活に関わる課題解決に取り組むハッカソンだった。また女性のエンジニアを増やすことに取り組むHack Bight AcademyGirls in Techが協賛した「Hacking for Humanity」では、主に女性に関係する社会問題の解決がテーマだった。また、プエルトリコにおける課題をみんなで100つのアプリを作って解決する「#100 Hacks Hackathon for Puerto Rico」などというものもあった。 この手のハッカソンで必ずあるのが、専門家や活動家たちのトークセッションやプレゼンテーションだ。これらはイベントの冒頭や期間中に設定され、参加者は関連テーマについての現状や課題についてを直接聞き、ハッカソンで取り組むプロジェクト内容に反映させていく。 「Tech + Politics + Society + You 2017 Hackathon」では、5つのトークセッションがあり、サンフランシスコや近隣都市の災害時緊急対策本部の担当者や実際に市民問題に取り組むスタートアップのメンバーなどが登壇。「Hacking for Humanity」では、DVの被害に遭っている女性をサポートする非営利団体などが活動における課題と現状を会場にシェアした。 DSC_0306 Hacking for Humanity の審査員たち また、専門家たちはトークだけではなく、メンターとしてイベント会場に常駐している場合も多く、参加者は、プロジェクトのコンセプトやアプローチを決める際にいつでも相談することが可能で、現場からのリアルなインサイトを得ることができる。 例えば、「Hack Mental Health」の会場には、精神科医やカウンセラー、心理学者がメンターとして参加していた。元々精神科における医師と患者のコミュニケーションを円滑にするサービスを考えていたチームは、メンターとして参加していた精神科医から、鬱や精神疾患の初期症状が不眠や頭痛、腹部の不快感などを理由に、精神科の前にプライマリーケアを訪れていることが多いという情報を受け、プライマリーケアの待合室でメンタルヘルスの状況を問診し、データを蓄積していくことで早期発見・治療を可能にするシステムの開発にピボットしていた。 医療や行政など、特定の現場で使われるシステムやサービスは、せっかくテクノロジーを駆使して開発されていても、現場の声が届いていないことが原因で、実際には使いづらいということや注目してほしい点がずれているということはよくあるそう。 筆者が参加したハッカソンでは、開発側と各分野の専門家や現場の人々が出会い、今後のシステム・サービス開発における協力関係を組むといった場面に度々遭遇した。 関連記事:【SXSW2017レポート】キーワードは「社会問題解決型」注目の最新テクノロジー5選

3. スキルの有無は問題なし。優秀なイノベーターは学び合いから生まれる

ハッカソンでありながら非エンジニアも気軽に参加できるのは、彼らを受け入れようとする開催側と参加者全体のオープンな雰囲気にある。むしろ初心者向けのコーディングワークショップからiOS・Androidoアプリ開発ワークショップ、チャットボット基礎クラスなどがハッカソン期間中に開催されることも全く珍しくない。 プログラミング経験ゼロの筆者がハッカソンデビューした「VR/AR Hackathon」では、ワークショップは開催されていなかったものの、アイディエーションやデザイン素材の収集といった面でチームメンバーとして参加することができた。 他にも実践的なスキルを持たない人やスキルはあれど今回作りたいプロジェクトにはそのスキルセットでは間に合わないという人は多く見られたが、開発技術以外のバックグラウンドをプロジェクト内容に反映していったり、インターネットを駆使して学びあったりしてそれぞれがプロジェクトに貢献する方法を探っているのが印象的だった。 関連記事:【ユーザー視点で考えるAI】チャットボットのUX設計実験を通してわかったこと さらに、開発中に技術面で困ったことがあれば、マンツーマンでサポートに回ってくれるメンターの存在がある場合もある。筆者のチームでも、「こんなシステムを作りたいのだけれど」という相談をした上でコーディングの指導を期間中みっちり受けながら開発したことがあったが、メンター側も新たなインスピレーションを得る機会としてエンジョイしていると話してくれた。 こういった背景から、ハッカソンを力試しの機会とする人だけでなく、学びの機会として捉えて参加する人もかなり見受けられる。 つまり、もはやハッカソンにおける審査で最も重要視されるのは、どれだけハイスキルでハイクオリティのプロジェクトができるかという技術的能力の高さではないということが、ここからわかるだろう。もちろん、短時間でハイクオリティのものが出来上がるに越したことはない。しかし一番重要視されているのは、グループとして生み出すものの影響力。つまり、そのプロジェクトが人々に与える、与えうる影響は何かというところだと筆者は感じる。 DSC_0303

まとめ

サンフランシスコでは、従来型の開発コンテストばかりでなく、メンタルヘルスや行政、ホームレスや女性問題など、社会に良いインパクトを与えることをテーマにしたユニークなハッカソンも頻繁に開催されており、各種ワークショップやトークセッションを盛り込むなど内容も単なるコンテストにとどまらない。 このようなハッカソンでは、非テクノロジーの分野とテクノロジーシーンをつなげる橋渡し的な役割を果たし、これまで二分されがちだったこれらの業界間を包括する様なコミュニティ形成の場になっている。 またハッカソン会場では、非エンジニアがプログラミングを学び始めるきっかけになったり、現場をあまり知らない技術者がより深く使い手の状況を理解しようと努める機会になるということが起きている。これまで交わらなかった人々がハッカソンというシーンを利用して、知り合い、刺激を受け、新しい動きを社会に作っていく。 近年、日本では世界から若干遅れを取りながらもオープンイノベーションを促進する動きが広まっているが、異なる世界に生きる人々が力を合わせて何かを作り上げようとするサンフランシスコのハッカソンは、まさにその源流とも言えるのでは無いだろうか。 オープンイノベーションのヒントとして、これからのハッカソンのあり方に注目したい。 関連記事: 参考:HackMrntalHealth (Medium)

走った分だけ払う自動車保険 – Metromile (メトロマイル) を試してみた

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自動車は95%の時間使われていない
この稼働率は例えばスマホと比べてみると非常に低いことがわかる。なのに駐車場や保険などの維持費は異常にかかる。もしかしたら、自動車というプロダクトが現代の社会の常識から考えると非常に非効率な存在になって来ているのかもしれない。ネットやスマホに触れて育ってきた世代から考えると、自動車を所有することが”非合理的”であると感じる事もうなずける。 参考: 若者が車を所有しなくなった6つの理由

自動車の平均稼働率は10%以下

車社会と言われているアメリカでも、自家用車の平均的な稼働率は10%以下だと言われている。例えば一日24時間のうち、通勤で平均片道30分、往復で1時間使った場合、その稼働率は4.17%. 週末に合計で10時間利用したとしても、ギリ10%程度である。 これが日本の場合、通勤で自動車を使わないケースも多いため、その稼働率の低さは容易に想像ができる。これがセカンドカーなどになるとその稼働率は数パーセントまで落ち込む。自分の場合も、バイク通勤であるため、車は月に1-2度しか乗らない。 それなのに、自動車は購入価格に加えて、維持費がかなりかさむ。"若者の自動車離れ"の背景にはこのような理由があるのかもしれない。その一方で、自動車は所有する喜びや、走る、操る際のワクワク感は何にも代え難い魅力を持っているのも事実。アメリカの都心部ではUberやLyftなどのライドシェアの普及が進んでいるが、自動車の所有率は下がってはいない。 米国における自動車の販売台数の推移: US cars

乗ってないのに保険料だけがかかる問題を解消

"ほとんど乗らないのに保険料が掛かるのがバカらしい。" そんな貴方に最適なのが、"走った分だけ保険"のMetromile. 三井物産も出資をしたこのスタートアップは、既存の保険会社を買収し、固定費プラス走行距離分の利用した分だけしかチャージされない、”Pay-per-Mile"というコンセプトの従量制自動車保険を提供している。 普段からあまり自動車に乗らない or 短い距離しか走らないユーザーをターゲットに、都心部を中心にそのサービスを提供している。これは、最近流行り始めている"オンデマンド型"サービスの一つである。 走っってない時には課金されない保険: 1

実際に利用してみた

申し込みは全てオンライン。登録すると数週間以内に専用デバイスの"Metromile Pulse"が送られてくる。手のひらサイズのこのOBD2型デバイスを車両のヒューズボックス付近に取り付ける。 このデバイスは自動的に車両の情報を獲得し、Metromileのクラウドのコネクトする。このデバイスはGPS機能も装備しており、その車両の走行距離だけではなく、車両の現在地、走った日時、ルート、そして移動した際のスピードなどの走行履歴のデータまでが細かく記録される。これにより、ユーザーの走行データがリアルタイムで記録される仕組み。そして、そのデータはWebやアプリを通じてユーザーに届もけられる。 オンラインで申し込めばデバイスが無料で送られてくる: pulse

古い車がコネクテッドカーに

このデバイスを装着することで、車両の場所や移動データに加え、車体に異常がある際のエラーコードも読み取り表示してくれるので、古い車でもちょっとしたコネクテッドカーになったような感覚になる。その安心感もありがたい。 古い車でもデバイスを簡単に装着: 3

見やすく使ってて楽しいWebダッシュボード&アプリ

そして、このサービスの最も優れているのがWebアプリとモバイルアプリのユーザー体験であろう。料金や走行データが一目でわかるだけではなく、今までの走行データがマップとルートを視覚的に表示し、移動スピードやエンジンのエラーコードも表示される。また、現在の車両の存在場所もマップ上に表示されるため、セキュリティー的なメリットも得られる。 アプリのUIのクオリティは非常に高い: 4

ユーザーとビジネスの双方のメリットを達成するUX

以前の記事「誰にでも分かるUXの基本」にて、UXの大きな役割の一つは、ビジネスとユーザーとのメリットを両立させることだと説明した。今回のMetromileもそのUX部分が秀逸である。例えば、過去の走行データをアプリのダッシュボードから見ることのできる。再生ボタンを押すとその動きが動画のように再生されて、見ているだけで面白い。これだけでも高いユーザーメリットを実現している。 この機実はこのダッシュボード、ルートに加えて走行スピードも表示されるため、いつどこでどのくらいのスピードを出していたかが一目瞭然。別にこれでスピード違反で捕まることはないが、運転しているときに「あ、これもデータとして記録されるんだ」という意識が働き、自ずと安全運転になる。 これにより、事故の可能性を下げ、保険提供側のメリットにも繋げている。 走行履歴が可視化されて表示: 5

スマホライクな課金方法

Metromileの料金は基本料金+利用した分で算出され、毎月クレジットカードに課金される。まるでこれは固定費用+データ利用量で課金されるスマホの料金体系に非常に近い。むしろこの方式の方が最近では一般的な感覚であり、しっくりくる。これまでの年間走行距離に合わせて年に1-2回のサイクルで支払っていたのが不思議なくらい。 ダッシュボードで確認できる月々の利用明細: 2

サポートリクエストもアプリ経由

既存の自動車保険と比べてこのサービスの良いもう一つが、もし何かあった時のサポートもアプリ経由で簡単にできるところ。まだ実際には使ってはいないが、UIを見る限り、ワンタップでロードサイドサービスや保険の申請ができる仕組みになっている。この辺もスマホを最大限活用した優れたユーザー体験だと感じる。 もしもの時にもアプリ経由: 5

Uberとパートナーシップを組み、ライドシェア向けの保険としても活用されている

走行距離に合わせて保険を提供するというコンセプトはライドシェアとも相性が良い。むしろドライバーの走行パターンに合わせて保険料を変える方がむしろ自然だとも言えるだろう。それもあって、MetromileはUberとパートナーシップを結んでいる。個人として申し込む際にも、車両の利用方法の選択肢に"Ride Share"があるぐらい。走った分だけ、は現代のニーズにマッチした保険スタイルなのかもしれない。

ユーザーの走行データを獲得するビジネスモデル

このMetromile, 肝心な料金はどうなのか? その走行距離にもよるが、自分の場合は保険料がかなり安くなった。比率で言うと既存の保険の約半額。これで実際にビジネスが成り立つのかとも思いがちであるが、おそらく彼らの狙いはユーザーの走行データの獲得であろう。AmazonがスマートスピーカーのEchoをかなり安価でバラまいているのと同じく、一番のゴールはデータの獲得である。 GoogleやAmazon, Uberなど、最近台頭している企業に共通しているのが、多くのユーザーと、そこから得られる膨大なデータ、そしてそのデータを活用してユーザーに最適なユーザー体験を元にしたビジネスモデルの構築である。Metromileもデータビシネスを狙っているのは間違いない。 参考: これからの企業に不可欠な三種の神器とは バス停に掲げられたMetromileの広告 6

三井物産も出資、オフィスはbtraxの数ブロック先

Metromileは現在までに2億ドル強の投資を受けており、日本の三井物産もシリーズDで出資をしている。ちなみにMetromileのオフィスは、btraxから徒歩で5分ほどの場所。彼らのオフィスはサンフランシスコの都心部にオシャレなビルを構えている。 めっちゃオシャレなMetromile本社ビル: 7

既存の自動車保険を解約してみたところ...

今回自動車保険をMetromileに切り替えるために、既存の保険会社に解約の手続きを行った。先方のサポート係の方が電話口で「なぜ解約するかお知らせいただけませんか?」と聞くので「あまり車に乗らないのでMetromileに切り替えることにしました」と伝えると「That makes sense (そりゃそうですよね)」と言われた。所有しないライフスタイルへの変化。保険業界にも大きなパラダイムシフトが訪れているのかもしれない。 関連記事: 変化する自動車に関する5つのユーザー体験  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

やりたいことが見つからない人にセルフ鎖国のススメ

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「自分の本当にやりたいことが見つからない」おそらく今まで相談された中で最も多い質問。相手が起業家であれば、「このビジネスモデル、グローバルで通用すると思いますか?」というのも多い。 実はこの二つの質問に共通する第一のアドバイスとしては「とことん自分と向き合うこと」 結構意外かもしれないが、何をするべきかに迷ったときは、外からの情報を遮断して自分との対話をする必要がある。あまりにも多くの情報が縦横無尽に手に入ってしまう現代においては、自分の人生にとって価値よりもノイズになるものの方が多いような気がする。 自分が本当に好きなことは何か, 自分が今やるべきことは何か、そして過度に周りの評価を気にしすぎていないかを定期的に見直す必要があるだろう。

君、明日死んでもやりますか?

以前に孫 泰蔵が起業家に最初に聞く質問は「そのビジネス、君が明日死ぬとなってもやり続けたいですか?」である。投資家が起業家にもっとも求める資質の一つが「やり切る覚悟があるか」これは、裏を返すとそこまで情熱があるかということ。世界中で同じビジネスを始めても、生き残るかどうかは情熱の強さ = 好き度の差である。

価値観も発言も誰かの使い回し

ソーシャルメディアがこれほどまでに発達した現代、主要ニュースメディアだけではなく、個々の人たちが発する情報も容易に手に入れることができるようになった。その一方で、知らず知らずのうちに周りの情報に影響されていることも多いだろう。自分が気づかないうちに、いつの間にか誰かの発言の使い回しをし、考えたビジネスモデルもどこかで聞いたことのある内容になってしまうことも少なくはない。

無意識のうちに行動も左右される

周りからの情報が手に入りやすいということは、自分からの情報発信も容易にでき、その反響も即座に得られるわけで、それが行動指針の一つの軸になってしまう危険性もある。周りからの評価が無駄に気になりすぎて、オーディエンスウケする行動を最優先してしまう。そして、周りの動きが気になりすぎて本当に自分がやりたいことが見つからないというケースも意外と少なくない。

インスタ映えを最優先した行動パターンになっていないか?

日々の行動に影響を与えるのは受け取る情報だけではない。自分の言動が周りからどのような反応を得られるかを意識し、場合によっては優先してしまうこともある。行く場所、会う人、食べる物など、インスタ映えを大切にしすぎると、世の中に注目させることが目的になってしまい、いつの間にか他人のための人生になる危険性もある。なんちゃってリア充感至上主義の弊害であろう。

日本特有のユニークさを生み出した鎖国制度

そんな現代の状況で注目したいと思っているのが、日本が17世紀中頃から約200年間行っていた鎖国制度。江戸時代に醸成された文化や風習は、現在も非常にユニークなものとして世界中から注目されている。その一番の理由が、海外 (外部) からの影響が極力少なかったこと。ある意味、日本としてもっとも自分たちらしい文化を作り上げた貴重な期間だったような気がする。

必要なのは自分と向き合う時間

この鎖国制度から学べることとしては、外侮からの情報にあまり気を取られない、周りからの評価を気にしない考え方とその環境づくり。自分自身と向き合う時間を定期的に作り、自分らしさを追求するプロセスを設けることで、ユニークなアイディアや本当にやりたいことが見つかる気がする。 外部と触れることでインスパイアされるのも非常に重要であるが、自分を知ることも同じく大切。常にインプットし続けるのは息を吸い続けるぐらいに苦しい。そして、アウトプットをする前に自分というフィルター作りをする必要がある。

周りからの批判にエネルギーを無駄にしない

メディアで叩かれる。ソーシャルでディスられる。批判的なコメントが気になる。目立つ行動をすると必ずぶつかる精神的なハードルだろう。しかし、批判する人の8割以上はコンテキストをしっかりと理解していない。残りの2割は状況が全くわかっていない。おそらくそれが現状だとおもう。そんなことに大切な自分の時間も意識も費やす必要はない。

本当の自由とは他人と比べないこと

以前読んだ本にこんなフレーズを見つけた。 「人間は生まれた時が一番自由で、育っていくうちにどんどん不自由になっていく」 人生の最終的な目標が自由になることであるとすれば、それはいったいどうゆう状態なのだろうか。おそらく好きなことをして、周りからどう思われるか気にならない。そして、他人と比べることがない状態なんだと思う。周りを気にせずに好きなことをとことん追求する能力が備われば、どんな状態にあったとしても、精神的に自由と呼べるのかもしれない。

自分のユニークさは自分でしか作れない

これはごく当たり前のことであるが、意外と見落としがちである。外への探究心は内なる自分を知ることから始める必要がある。そのためには自分自身ととことん向き合う必要がる。一週間に1日でもセルフ鎖国する期間を設けることをおすすめする。本当にやりたいことは自分の中にある。
何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことである。あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。ほかのことは二の次で構わない。 And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary - Steve Jobs
 

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.