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レガシー金融機関がフィンテック企業と上手に付き合う方法 (金融革命 Part 2)

レガシー金融機関がフィンテック企業と上手に付き合う方法 (金融革命 Part 2)

レガシー金融機関がフィンテック企業と上手に付き合う方法 (金融革命 Part 2)

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日本国内でフィンテック企業とコラボしているレガシー金融機関はまだわずか30%にすぎない。これは先進国のスタンダードでいうと最低のレベルになっている。他の国の、ドイツが70%, シンガポール62%, アメリカの54%と比較してもかなり低いと言えるだろう。

テクノロジー活用に遅れをとる既存金融機関

セキュリティーとプライバシー、そして法規コンプライアンスを最優先するその特性上、既存の金融機関はどうしても新規テクノロジーの導入に対して慎重にならざるを得ない。スタートアップのような”実験的”な取り組みをすることは容易ではない。

金融機関が注目しているテクノロジー

  • ブロックチェーン
  • 人工知能
  • バイオメトリックによるプライバシー管理
新しいビジネスモデルを模索するスタートアップは、より早いスピードでリスクを取りやすく、革新的なテクノロジーと顧客サービスを短時間で作りやすい。加えて、データの取得と分析、活用の仕方が上手で、既存の金融機関よりもデータから導き出されたロジックでリスクを取りやすいという側面もある。

銀行のライバルはテクノロジー企業

その一方で、もともと”IT企業”や”ネット系サービス”を生業にしてきた企業の金融への進出が目覚ましい。日本国内の例では、楽天、LINE、ヤフー&ソフトバンク、ドコモ、そしてauといった企業が、既存の金融機関を脅かす存在にまでなってきている。 その理由は前回の「銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1)」でも紹介した通り、デジタルを中心とした卓越したユーザー体験の設計だろう。それにく和え、データの収集、人工知能(AI)によるビッグデータ分析と加工、そしてそれをパーソナルな提案やビジネスモデル変革へ進化することのできるテクノロジーの最大活用も重要なファクターである。 gafa-finance 海外テクノロジー企業の金融系サービス一覧

ミレニアルから支持を得ていない既存銀行

この状況はユーザーからの反応を見ても理解できる。例えば、既存の銀行は特にミレニアルを中心とした若者達からの支持はかなり低く、むしろテクノロジー企業による金融サービス参入を望んでるといった声も出ている。
  • 75%: Google, Amazon, PayPalなどのテクノロジー企業の金融サービスの方を支持する
  • 71%: 銀行員の話を聞くぐらいであれば歯医者に行った方がマシだ
  • 60%: スタートアップ企業に銀行業務を改善してほしい
  • 63%: クレジットカードを持っていない
  • 53%: 全ての銀行は同じである
  • 33%: 向こう90日以内に銀行を変える可能性がある
参照元: Time Magazine

危機感を感じている既存の金融機関

もちろんこの動きに対して、既存の金融機関が気づいていない訳はなく、下記の意識調査でもその結果は明らかである。特に日本国外の金融機関での危機意識は非常に高いと言える。

世界の金融機関に対する意識調査結果:

  • 88%: 新規参入サービスによって売り上げが減ると危惧している
  • 82%: 向こう3年から5年以内にフィンテック企業とのコラボを増やそうとしている
  • 77%: 社内でのイノベーション創出への取り組みへの投資を増やしている
  • 77%: 2020年までにブロックチェーンテクノロジーの業務活用を予定している
  • 54%: データ管理とプライバシー保護に関する規制がイノベーションの妨げになっている
  • 30%: AIに関しての投資を行なっている
  • 20%: フィンテックへの投資から期待されているROI
参照元: PwC Global FinTech Survey 2017

キーワードはテクノロジー活用とユーザーとの接点における体験設計

上記のGAFAような企業が今後、デザインとテクノロジーの活用を推し進め、よりユーザーに喜ばれるサービスを追求していくと、近いうちにメガバンクでも太刀打ちできないレベルまで到達すると考えられる。

サービス別顧客維持に重要だと考えられる要素:

  • ペイメント系: 1位: 使いやすさ, 2位: サービスの速さ, 3位: 利用可能時間
  • 銀行業務系: 1位: 使いやすさ, 2位: 利用可能時間, 3位: サービスの速さ
  • 保険系: 1位: 使いやすさ, 2位: カスタマーサービス, 3位: 利用可能時間
  • 資産運用系: 1位: 使いやすさ, 2位: 利用コスト, 3位: 利用可能時間
元々エンドユーザーとの接点、特にデジタルチャンネルにおけるユーザー体験の設計が上手なテクノロジー企業は、今後様々な業界への進出が予測されており、次のターゲットは明らかに金融業である。 これは世界的に見ると、Google, Apple, Facebook, Amazonといった、いわゆるGAFAや、PayPal, Square, Spripeといったメガフィンテックスタートアップが金融サービスにおける主導権を握り始めたことでも明らかである。 逆に考えると、既存の金融機関は、今後顧客とのタッチポイントの設計やノウハウ、戦略が不可欠な要素になってくるのは間違いない。それに加え、フィンテック企業とのコラボも重要なファクターとなるだろう。

レガシー金融機関とフィンテック企業のそれぞれの強み

その一方で、新規参入の企業は認可の問題や、資金的な限界、そして顧客獲得の面でのハンデが存在する。そうなってくると、レガシー金融機関とフィンテック企業がまともにぶつかるよりも、上手に協業する方が得策なのは間違いない。

レガシー金融機関の強み

  • 既存の顧客ベース
  • 広い商品ラインアップ
  • コンプライアンス
  • 金融庁との関係性
  • 融資に対する金利の低さ

フィンテック企業の強み

  • 新たなサービスアイディア
  • アジャイルなプロセス
  • データ収集・分析力
  • デジタルチャンネルにおける顧客獲得
  • 高いユーザー体験クオリティ

金融機関とフィンテックがコラボする際のハードルは?

しかし、既存の金融機関とフィンテック企業のコラボはそこまで簡単ではない。テクノロジー的な側面に加え、企業カルチャーとスピード感の違いが大きな壁になっており、まだまだお互いの歩み寄りが必要である。

レガシー金融機関が感じるコラボに対しての課題:

  • ITセキュリティー: 56%
  • 法規コンプライアンス: 54%
  • 企業カルチャーの違い: 40%
  • ビジネスモデルの違い: 35%
  • IT互換性: 34%

フィンテック企業が感じるコラボに対しての課題:

  • ITセキュリティー: 28%
  • 法規コンプライアンス: 48%
  • 企業カルチャーの違い: 55%
  • ビジネスモデルの違い: 40%
  • IT互換性: 34%

レガシー金融機関がフィンテック企業とコラボするための5つのステップ

では今後フィンテックとのコラボを実現した金融機関は、いったい何から始めれば良いのだろうか?その言葉から「テクノロジー」にフォーカスしがちであるが、実はそれを実現するためには「ヒト (従業員)」の変革から始まり「ヒト (顧客)」へのより良い体験提供につなげていくイメージが必要だと思う。 ちなみに、下記のプロセスは、btraxが提供するプログラムでも採用しているステップなので、参考になれば幸いです。 fintech-process

ステップ1. 人材教育

おそらく現在の金融機関で働く方々は、スタートアップのそれとは対局のマインドセットを持っており、今のままではその意識もコミュニケーション手法も大きく異なっている。相手の立場から物事を理解し、行動に移すためには、まずは既存の考え方から抜け出す必要があるだろう。 そのためには、ちょっとしたITリテラシーから、デザイン思考、サービスデザイン、リーンスタートアップ、マーケティングなどの基礎知識と、フラットな組織でのリーダーシップとチームワークを学ぶと良いと思われる。

ステップ2. カルチャー変革

個々のスタッフのマインドセットがある程度調整できたら、次は組織や会社全体のカルチャーを変革させていく。下記のようなスタートアップではスタンダードとされるカルチャーを導入していくことで、新しいイノベーションが生み出しやすい土壌が整うであろう。
  • クリエイティブな発想
  • 速いスピード
  • リスクをコントロール
  • 仕事を楽しむ
  • ユーザーを最優先に考える
ちなみに、スタートアップと金融系で最もギャップがあることの一つが服装。かたやジーンズ&Tシャツなのに対して、金融はバッチリスーツ。この違いもカルチャー的なギャップを生み出していると考えられる。 参考: シリコンバレーに来るならスーツは着ない事

ステップ3. 組織変革

人材とカルチャーを変革させるには、組織や人事のシステムを見直す必要がある。既存の減点方式の人事評価基準や、属人的なプロセスにメスを入れ、新しい発想、そしてアクションを取ることのできる人材の評価軸を新たに設けたり、本社と切り離した特殊部隊の組織を作るなどの方法もあるだろう。 例えば、アメリカの大手金融機関のCapital Oneは、サンフランシスコにデザインチームだけの専属オフィスを設け、本社業務には一切関わらない環境と、組織づくりを行っている。そうすることで、セキュリティーに関する過剰な規制から解き放たれ、スタートアップ的発想でプロダクトづくりを進めている。 そこで働く友人も以前に「デザイナーとして、金融機関で働くことはあり得ないと思っていたが、ここであれば十分に自分のやりたいことができるし、それが評価の対象になっている」と語っていた。これは、銀行の本社オフィスでは絶対に実現できなかった組織形態である。

ステップ4. テクノロジー活用

そしてここでやっとテクノロジーの活用、および適用のプロセスが始まる。なぜなら、既存の組織やカルチャーだと、活用したくてもできない社内ルールが沢山のあるからだ。 例えば、おそらく現在でもスタートアップの間では標準とされているような、Google Apps, Dropbox, Slackなどのクラウド系サービスが、金融機関のセキュリティールール上はまだ、利用不可能だろう。 通常、スタートアップが外部とコラボする際には、上記のようなツールを最大活用し、効率化の最大化とスピードアップを図るのであるが、それが不可能な場合、コラボどころか、日常のやりとりもままならない。 以前に日本のとある金融機関とやりとりした際に「それでは必要な書類のリストを後日郵送します」と言われ「いや、メールで送っていただければ大丈夫ですよ」と伝えると「いえ、社内規定でメールで送ることはできません」と言われた。なかなか昭和の風情があったが、現代にはふさわしくない仕組みだなとも感じた。 最近流行りのAIやブロックチェーンの活用云々も良いが、レガシー金融機関として、まずは基本的なテクノロジーツールが利用できる状況に整えていく必要があるだろう。それができて初めて、スタートアップとのやり取りをする下準備ができたと言えるだろう。

ステップ5. ユーザー体験改善

そして最後に何よりも大切なユーザー体験の改善。これは、小手先のインターフェース (UI) 改善とかでは顧客ニーズに対応するのは限定的で、プロダクトとサービスの包括的な見直しから行う必要があるだろう。 なにせ、現在の多くの金融系サービスが提供側ありきで設計されており、ユーザー体験の品質が非常に低いケースが後を絶たない。そこに改善の提案をしても「社内規定だ」「自分の範疇ではない」「セキュリティーが犠牲になるのでMacはNG」などの理由でなかなか物事が進まない。 だからこそ、顧客により良い体験を提供したければ、一見遠回りだと思われがちであるが、人材教育からはじめ、カルチャー変革、組織変革、テクノロジー活用、そしてユーザー体験の改善の順番で進める必要があるのである。

参考: フィンテックと金融機関のコラボ事例

それでも、世界レベルで見るとすでにレガシー金融機関とフィンテック企業とのコラボ事例がいくつか存在している。これらの例から日本でも今後どのようなコラボが実現しそうかを考えてみるのも面白いだろう。

BBVA Compass x OnDeck

個人事業主やスモールビジネス向けにP2Pレンディングを通じたローンを提供するノンバンクのOnDeckに対して、BBVA Compassは既存の規定では承認されない顧客の紹介を行っている。 データ活用によってよりリスクをとり、幅広い顧客そうに融資が可能なOnDeckとコラボすることによいr、コンサバな既存の金融機関が顧客ニーズに対応している例。

Fidelity Investment x Betterment

AIを活用したスマート投資サービスを提供するBettermentのサービスを、既存の大手資産運用グループのFedelity Investmentが自社顧客に対して提供している例。 既存の人的サービスと、フィンテック企業のAIサービスを連動させることで、より幅広いサービス提供が可能になっている。

Sandander x Tradeshift

ヨーロッパ地域における大手金融機関のSandanderは、サンフランシスコに本社を置くフィンテック企業のTradeshiftとパートナーシップを結び、全世界にいるおおよそ1,500万の法人顧客に対してのサービス展開を行っている。 Tradeshiftは法人むけにサプライチェーンの管理をクラウドベースのプラットフォームを通じて提供している。このプラットフォームにSandanderの提供する法人むけ金融サービスを連動させることにより、受発注プロセス、在庫管理、進捗管理に加え、運転資金の運用に関するサービスも提供可能にするのが狙い。 また、Sandanderとしても、デジタルチャンネルを通じた法人顧客の獲得にも期待を寄せている。 関連: 銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1)  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

現代女性の健康を支える500億ドル市場フェムテックと注目スタートアップ

現代女性の健康を支える500億ドル市場フェムテックと注目スタートアップ

現代女性の健康を支える500億ドル市場フェムテックと注目スタートアップ

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皆さんは「フェムテック」という言葉を聞いたことがあるだろうか? フェムテックとは、フェミニンとテクノロジーを組み合わせた造語で、不妊治療や生理など、女性の健康に関する問題をテクノロジーを使い解決する分野のことを指す。

急成長するフェムテック市場

Frost&Salivanによると、このフェムテック市場は、2025年までに500億ドル規模にまで成長する可能性があるとされている。すでに投資家も次なる成長市場として注目しており、The Gardianも、過去3年間で10億ドルの投資が集まったと報告している。 また、投資プラットフォームであるPortfoliaがフェムテック専門のファンドを立ち上げるなど、シリコンバレーを中心に急成長を遂げている。

ニッチではなく、未開拓市場

女性に関するデータを集め、AIなどの最新テクノロジーを活用し、女性が抱える問題を解決していくこのフェムテック市場は、歴史的に見てもかなり意義のある市場なのだ。男性のデータに比べ、女性のヘルスデータは圧倒的に不足していると言われている。驚くことにアメリカでは、1993年まで女性のデータは医学的な実験の対象になっていなかった。なぜなら、実験中に女性が妊娠した場合、胎児に悪影響があるとされていたためだ。 そのため、薬や病に関するデータは、全て男性の体への影響を測る実験から得たものであり、この法律がなくなった後も医療現場では男性のデータを使う傾向にある。このような背景を考慮すると、フェムテック分野がいかに未開拓の市場であることがわかる。 Fitbitは、今年2月に、生理周期をトラックするClueアプリとのコラボレーションを発表した。これは、ヘルスケアデータ=男性の体のデータといった、偏ったデータ収集状況を正す第一歩と言えるだろう。 今回はこのように急成長を遂げているフェムテック市場で注目されるスタートアップを4社ご紹介したい。

1. 生理用品界のディスラプター:Cora

皆さんは次の画像を見て、何を思い浮かべるだろう。 Cora Tampon case1 写真はCoraのInstagramオフィシャルアカウントより Cora tampon case2 写真はCoraのInstagramオフィシャルアカウントより 実はこれら、生理用品のサブスクリプションサービスを手がけるCoraの、タンポンを入れるケースなのだ。生理用品のパッケージといったらピンクなどのコーラル系色が使われることが多いが、Coraのデザインは際立ってスタイリッシュだ。 この背景には、生理をもっとポジティブな経験に、というファウンダーMolly Haywardの思いが込められている。女性用の製品はとりあえずピンクにして売ればいい、といった業界の常識を覆した。ケースのデザインをスタイリッシュにするのは、これまで生理用品を袖の下に隠してトイレまで運んでいた女性達が恥じることなく明るい気持ちでいられるようにするためだ。このように女性ならではの視点で考えられたデザインが共感を集めている。

Coraとは?

Coraは、2015年に誕生した、サンフランシスコ発のスタートアップだ。ナプキンやタンポンといった生理用品のサブスクリプションサービスを手がけ、昨年7月にはシリーズAとして600万ドルを調達している。 ユーザーの生理周期や経血量などに合わせ、最適な量の生理用品が送られてくる。価格は$8から$16で、3カ月ごとに生理用品が自宅まで届くシステム。上記で述べた、スタイリッシュさやデザイン性以外にも、Coraがミレニアル世代を惹きつける理由を深掘りしてみたい。

ミレニアル世代の社会貢献欲求を刺激

Cora founderファウンダーのMolly Haywardとケニアの少女たち(写真はCoraのInstagramオフィシャルアカウントより) Coraのサブスクリプションを1カ月分購入すると、自動的にインドの少女達に1カ月分の生理用品が寄付される。インドの貧困地域では、生理用品が賄えないため、生理を迎えた少女は生理期間中、学校に行くことができない。インドに住む少女のうち、4人に1人が生理によって学校をドロップアウトしているとの報告もある。ファウンダーのMolly Haywordは、Huffpostに対し、この問題を解決するために、Coraを立ち上げたのだと語る。 彼女がケニアで英語を教えている時、少女が生理用品を買えずに授業を休んでいる光景を見て、激しい怒りと共に、使命感を感じたという。この制度は、世界中の全ての女性が清潔で健康な生活を送ることができるようにしたいというファウンダーの思いが現れている。 毎月必ず買う必要のある生理用品で、貧困地域の少女が自立することを助けられるというCoraのコンセプトは、社会に貢献することに生きがいを感じるミレニアル世代に強く響いている。

2. 年齢に左右されない!不妊治療技術の新しい活用法:Prelude fertility

前回『シリコンバレーが注力する女性活用施策の中身とは ー時代は徹底的能力主義へ』でも紹介したように、卵子保存を福利厚生として提供する企業は、経営戦略として行っている。なぜなら、優秀な女性が、自然な妊娠可能年齢に影響を受け、職場を去ることを防ぐことができるためだ。キャリアと出産の両立は、女性にとっては大問題だと言っても過言ではない。 つまり、企業にとっても、重要な労働力である女性の問題をどう支援するかは大きな課題だと言える。そんな問題を解決するために生まれたPrelude fertilityは、現在不妊治療で使われている技術を、妊娠ができる状態だがまだ妊娠をしたくない若い層に使い、女性の自由な選択を応援しているのだ。

Prelude fertilityとは?

体外受精の技術を提供する、2016年に創立されたこの企業。サービスの仕組みは以下の通り。(参照:ビジネスインサイダー)
  1. 20代後半〜30代前半で卵子、精子を冷凍、保存する
  2. 妊娠を希望する場合は卵子、精子を解凍し、Prelude fertilityが胎芽を作る手伝いをする
  3. 着床前スクリーニング(PGS)(正常な受精卵だけを移植する方法、遺伝病の有無などもチェックできる)
  4. Prelude fertilityは、胚芽を母親に戻す

ユニークなターゲットと料金体系

一見すると、一般的な体外受精技術を提供する企業に思えるだろう。しかしPrelude fertilityがユニークなのはそのターゲット層と料金体系にある。従来、体外受精の技術は、妊娠が難しい層に使われていた。しかし、Prelude fertilityは、妊娠ができる状態だがまだ妊娠をしたくない若い層をターゲットにしているのだ。妊娠や出産を年齢に左右されないで、というスローガンで、女性のキャリアと出産の両立を応援する。 アメリカでは、女性が初めての子どもを出産する年齢が、年々上がり続ける傾向にある。2014年の統計では26.3歳で、2000年時の24.9歳から大きく上昇した。この傾向はさらに加速すると言われており、卵子を保存するニーズも増えると考えられる。 体外受精を検討する際、その高いコストが懸念事項にあがるが、Prelude fertilityはそこにもアプローチしている。卵子、または精子を冷凍のために採取してから、毎月199ドルを払うのだが、(最長3年間)この金額には上記のステップ4まで含まれる。 なお、ユーザーは、冷凍卵子、精子の保管料だけ払うことも可能だがその場合ステップ2−4は別途課金となる。一般的にこの工程には5万ドル以上かかるのに対し、このサービスを使うと、採取から10年後に解凍し使用する場合、毎月199ドルを払ったとしても従来の金額の半額以下になる。Preludeのように、コストを抑えたサービスが増えれば、会社の支援がなくても私費で計画的に卵子を保存する女性も増えてくるかもしれない。

3. 妊娠を目指す人のためのウェアラブルデバイス:Ava

不妊治療のグローバル市場規模は、2022年までに20億ドルにまで成長すると見込まれている。次に紹介するAvaは、妊娠を目指す全ての人を応援するウェアラブルデバイスを販売している。また、今年の1月には同社のウェアラブルデバイスを使ったユーザーの内、1000人から出産することができたという報告を受けている。

Avaとは

ava-app 写真はAvaのPresskitより 排卵日を正確に予測するブレスレットを開発したAvaは2014年に創立したスイス発のスタートアップだ。今年5月にはシリーズBとして3000億ドルを調達している。ユーザーは、就寝中にブレスレットを着けるだけで排卵日を確認することができる。 これを身につけることでユーザーは呼吸数、心拍数、睡眠の質、体温など、生殖ホルモンの増加に関連して変化する9つの生理学的パラメーターを監視し、予測することができる。一般的に妊娠可能期間は月のうち6日程度、そのうち高確率なのは3日にすぎないと言われている。実験によると、平均で妊娠可能期間を5.3日予測し、その正確さは89%だった。料金体系は、ブレスレットが249ドルで、毎月のアプリ使用料が5ドルとなっている。

妊活をストレスフリーに

体のデータを記録するアプリはフェムテックの中でも競争が激しい分野だ。例えば、月経周期を記録するアプリであるClueやNatural Cyclesなどが挙げられる。 Avaの特徴を同社CEOはこう話す。「現在、妊活では、排卵検査薬の使用や毎日の基礎体温の測定など、日々生活に負担をかける方法が用いられています。Avaは、そんな女性の生活を少しでも楽にするために生まれ、ハードウェアとテクノロジーを活用することで女性が抱える問題を解決したいと思っています。」 従来の方法に比べ、Avaは、就寝中にブレスレットをつけるという簡単な方法で正確なデータをコンスタントに取ることができる。日本国内でも不妊治療を行う人は年々増え続けているため、カップルの負担を減らし、ストレスフリーな妊活を応援するAvaは、日本でも需要があるのではないだろうか。

4. データ活用でより自然な避妊法を実現:Natural Cycles

最後に紹介したいのは、月経周期、毎日の基礎体温をAIで分析し、避妊が必要かどうかを教えてくれるアプリ、Natural Cyclesだ。一見するとただの月経周期を記録するアプリだが、これは、アメリカの行政機関であるFDA(食品医薬品局)によって正式に避妊具として認められたアプリなのだ。 naturalcycle presskit 付属の基礎体温計とアプリ(写真はNatural Cyclesプレスキットより)

Natural Cyclesとは?

2013年にスウェーデンで設立された同社は、昨年シリーズBとして3000億円を調達した。使用方法は以下の通り。朝一番に体温を測り、アプリに入力する。数週間繰り返すと体のサイクルをアプリが分析し、避妊が必要な時はRed Day, 必要ない時はGreen dayとして表示される。 年間のアプリ使用料は$79.99で付属の小数点2位まで出る基礎体温計($28)がつく。毎月の支払いの場合は月に$9.99で、この場合は基礎体温計が付かないため、ユーザーが自分で用意する必要がある。基礎体温計は、小数点2位まで出るようになっていて、アプリを使うためにはこのタイプの体温計が必要になる。 app UI 避妊が必要な時は赤、必要ない時は緑が表示される(画像はNatural Cyclesのオフィシャルサイトより)

より自然に、安全な避妊を応援する

避妊の正確さについて、同社は以下のデータを発表している。22,785人の女性(平均年齢29歳)の、224,563通りの生理サイクルを研究しており、体温を完璧に測りアプリを利用すると99パーセントの確実性が見込まれる。なお、Natural Cyclesを使うと、一般的には避妊の確率は93%と言われているので、いかに効果的かがわかる。 避妊用ピルが普及している欧米では、「余分な化学製品を体に入れたくない」と思う自然なライフスタイルを求める若者が一定数おり、その層に受け入れられているようだ。その一方で、懐疑派も多い。ストックホルムの病院では、2017年の9月から12月の間の中絶希望者668人のうち37人はこのアプリを使っていたと報告されている。同社CEOは「Natural Cyclesは全員にとって最適な避妊方法ではなく、より自然な方法を好むユーザーに使ってもらいたい」と述べている。 Forbesは、2015年から2018年にかけて100億ドル以上の投資を集めたこのフェムテック市場は、グローバルヘルス市場の次なるディスラプター(市場を混乱させるほど、画期的なビジネスを生み出す企業のこと)になると予測している。世界人口の半分の、およそ35億人がターゲットであるこのフェムテック市場。 女性活用を戦略として捉える企業が増える中、女性社員に働きやすい環境を与えられている企業はどれだけいるのだろうか? 冒頭でも述べたようにキャリアと出産の両立は、女性にとってはシビアな問題だ。まだまだ働きたい、と思っている有望な女性社員達がやむなく会社を去ってしまう状況をそのままにするのではなく、彼女達が抱えている問題に目を向け、サポートすることが大切という姿勢が大事になってくるのではないか。 だからこそ、今回ご紹介したようなスタートアップの躍進が世界の女性達の健康を支え、ゆくゆくは企業の成長にもつながるのかもしれない。

銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1)

銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1)

銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1)

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銀行での楽しい体験をしたことのある人は一体どのくらいいるであろうか? 様々なビジネスにおけるユーザー体験が改善される現代において、おそらく銀行は最も質の低い体験を提供していると言わざるを得ないだろう。 確かに、入り口にいる紳士が整理券を丁寧に手渡ししてくれるところまでは良い。しかし、そのあとの待ち時間、面倒な書類、短い営業時間、いちいち発生する手数料、融通の利かない担当者など、顧客がそこで体験する時間のクオリティーは非常に低いと感じる人も多いはず。 そして、その訪問が融資目的だったとしたら、上記の体験に加え、たらい回しにされた挙句「断られる」という体験も加わる可能性が高い。そうなって来ると時間の無駄&高いストレスという、なるべくなら経験したくない状態を体験することとなる。これは、UXデザインの概念でいうと、おそらく最低レベルだろう。 参考: UXピラミッド – UXデザインの正しい評価方法 –

日本とは大きく違ったアメリカの銀行での体験

上記のエピソードは日本の銀行でのことであるが、これが自分が住むアメリカだとかなり異なっていた。 今回紹介するのは、法人口座で融資枠を作っておこうと思い店舗に出向いてみた際の経験。すぐに担当者を紹介され、要件を伝えると「10万ドル (約1千万円)までなら店舗じゃなくてオンラインでリクエストできますよ」との事。その場でリクエストを出してくれ、数日以内にNYの融資担当から電話が来て45分ほどの質疑で終了。簡単な書類をメールで提出した数週間後に枠が承認され、プロセスが終了した。 日本と比べ金利は高いものの、体験が非常にスムーズで、ストレスも少ない。そして何よりもスピードが早い。おそらく銀行としても、低額の融資枠の審査プロセスにあまりリソースを割くことをしていないのだろう。そのリスクの分を金利でバランスをとっていると感じる。

個人レベルだと店舗すら必要ない

そして、個人口座に関していうと、店舗に行くことはほとんどない。オンラインバンキングかモバイルアプリで事が済むから。ちなみに、アメリカでは、2014年の時点ですでに店舗やATMよりも、モバイルバンキングを活用しての銀行とのやりとり量が多くなっている。 統計的にも店舗に行くのが年間平均1-2回なのに対して、モバイルバンキングには月平均でも20-30回アクセスしている。単純に考えても、それの方が時間も手間もかからないからである。逆に店舗に行かなければならない状況を作り出している時点でユーザー体験が下がっているとも言える。 例えば、Bank of Americaのモバイルアプリでは、最近"Erica"と呼ばれるチャットボットベースのバーチャルアシスタントが様々な質問やリクエストに答えてくれるようになった。これによって、銀行のサポートに"電話"することすら、ほぼゼロになっている。 Bank of Americaのアプリに実装されているバーチャルアシスタント bofa-erica 参考: 【2018年】金融業界のAI最新動向4選

そして、フィンテックサービスはより進んでいた

この銀行に加えて、ノンバンクのフィンテック系のサービスだとこの体験はどのように違うのか。それを試すために、Funding CircleとOnDeckというサービスを試してみた。この二つはいくつかあるP2Pレンディング (ユーザー同士でお金を貸し合う) サービスを提供している。 もちろん店舗はなく、プロセスは全てオンラインで行われる。そして驚くことに、必要な情報を入力し、送信した数分後次のページに、融資可能な金額と金利手数料が表示された。これは、入力情報を元にAIが融資判断を行い、最終的には人力で確認する仕組み。リスクよりもスピードと効率性を最優先している。 自分はそこでページを閉じてみたが、その後担当者からメールが届き「いつでも借りられますよ」との催促を受けた。店舗に行くこともなく、待ち時間もほぼ数分。銀行よりも、よりスムーズな体験になっている。 参考: フィンテック (FinTech) 10の最新トレンド予測 ~改革は既に始まっている~

フィンテックの一番のメリットは優れたユーザー体験

ここ10年ほどでスマホやシェアリングエコノミー、ソーシャルメディアなどの普及で、日々の生活が著しく変化しているのにも関わらず、いまだに銀行の業務と顧客へのサービス価値は大きな変化をしていない気がする。それに対して、多くの企業、主にスタートアップが、フィンテックと呼ばれる新たな概念で、打開策を生み出そうとしている。 そもそもフィンテックがなぜここに来てそこまで注目されているのであろうか?まず、理解しておくべきは、”フィンテック”の”テック”という言葉。もちろんテクノロジーの意味であるが、それが最も威力を発揮するのが、より良いユーザー体験の実現である。 具体的には、スピードアップや、便利性の向上、そして高い透明性の実現など、これまで銀行の顧客が不安に感じていた要素を大きく改善してくれる。 その顧客体験の改善を達成するために、人工知能、ブロックチェーン、ビッグデータなどのテクノロジーを活用し、 P2Pレンディング、チャットボット、モバイルバンキング、クラウドファンディング、デジタルペイメントなどのそリュ0ションを実現している。 bank-diagram 参考: 2018年にUXデザインを取り巻く7つの変化

そもそもユーザー体験ギャップが大きすぎる

日常生活の中で、現在の銀行ほど顧客が求める体験の期待値と、銀行が提供するそれとの差が大きい業界もない。様々なプロダクトのサービス化が進み、多くの事柄がテクノロジーで解決され始めている現代において、安心、安全、セキュリティー、法令遵守を重んじなければならない金融業界は、どうしてもユーザーにより良い体験を届けにくくなる。 その一方で、スタートアップを中心としたテクノロジー系のサービスを提供している企業は、新たなことへのチャレンジや、既存の概念や規制にとらわれない方法でのサービス提供を行なっている。それにより、消費者側はより良い体験を受け取ることができるようになっている。 例えば、日本から海外に送金するだけでも、既存の銀行のシステムを利用するよりも、Transferwiseなどの、送金に特化したスタートアップのサービスを利用した方がスピードも早く、コストも安く目的が達成できる。同じく、カード決済に関してもSquareやStripeが提供する仕組みを活用しない理由が見つからない。 参考: DESIGN Shift: これからのビジネスはモノより体験が価値になる

既存の銀行の92%は10年以内に消滅する?

そんな状況の中で、Harverd Business Reviewが驚くべきリサーチを発表している。今後新たなサービス構築やイノベーションを起こせない場合、向こう10年間で既存の銀行の92%は消滅するというのだ。(出典: The Future and How to Survive It) イノベーションのスピードがどんどん加速する中で、消費者に対しての価値が提供出来ない金融機関は、フィンテック革命下においては滅びるしか道は無くなってしまうという。 その一番の理由がユーザー体験を主な原因とする顧客満足度の低さである。多くの金融サービスが提供側の目線で提供されており、デザイン思考などで考えられるような、顧客目線でのサービス設計がほとんどされていないのが現状で、世の中の様々な体験が改善される中で、銀行は大きく置いていかれている。 参考: デザイン思考入門 Part 1 – デザイン思考の4つの基本的な考え方

ディスラプトされる4要素をしっかりと兼ね備えた銀行業務

新規参入の企業によって、既存の業態が破壊される事を、スタートアップ界隈では、”ディスラプト”されるという。主にテクノロジーを活用したサービスより、これまでユーザーが感じていた不満を解決する事で一気に市場に大きな変化が生まれる事が増えている。 最近の例だとUberなどのライドシェアサービスによるタクシー業界の変革や、Netflixなどのオンライン動画配信によるビデオレンタル業界の縮小などもそれに当たる。 では、どのような業界がディスラプトされやすいのか?そしてその理由とは。まず理由としては、下記の4つがあげられる。 ディスラプトされる理由
  1. 複雑な体験
  2. 透明性の低さによる不信感
  3. 多すぎる中間業者
  4. アクセス性の悪さ (店舗の数など)
この4つの理由を見てみるだけでも、これまでの銀行が抱える問題と合致するような気がする。では、どのような業界がディスラプトされやすいのかを見てみよう。 ディスラプトされやすい業界ランキング
  1. データ, 情報, コンテンツ
  2. 音楽, メディア, 映画, テレビ, 印刷物
  3. 都市, 交通, 自動車
  4. 店舗, 商業
  5. 金融サービス
  6. 保険
  7. 薬品, 医療
  8. エネルギー, ユーティリティー
  9. 水, 食品
このように、様々な業界の変革・再編が進む中で、金融サービスにもそろそろ大きな変革の波が訪れようとしている。 参考: ディスラプト (破壊) されるサービスに共通する4つの不満要素

銀行がいらないと答えるミレニアル達

アメリカでは、個人の送金はFacebookメッセンジャーやWeChatを使ってサクッと行うことが可能である。難しいテクノロジーやセキュリティーの事はわからなくても、何が便利で使いやすいかは日常生活の中でしっかりと認識している。 このような時代には、資本力や規模よりもユーザーの数や、データ、そして優れたユーザー体験を提供できる企業の方がよっぽど構想力が高い。実際のところ、アメリカ国内の調査では、ミレニアル世代の約3分の1が5年以内に銀行の必要性がなくなるとも答えている。 そして驚くべきに、彼らの71%が銀行員と話すぐらいであれば、歯医者にいく方がマシと答えている。それだけ銀行は若者にとって体験の悪い場所になってしまっているのである。そして、彼らの40%は店舗の無い銀行でも構わないと答えている。 参考: ミレニアル世代に効果的なブランド構築方法

中国では物乞いもキャッシュレス

キャッシュレスが急激に進んでいる中国では、なんと物乞いやホームレスが"お恵み"を貰う際にも、自身のアリペイやWeChat PayのQRコードを記載されたボードを提示して、"集金"している。これは、本来であれば銀行口座を持つことが難しいとされる住所不定無職の人々でも、テクノロジーの恩恵を受けている一つの例であろう。 QRコードとスマホ決済で"集金"を行う中国の物乞い chinese-beggers

銀行の敵はすでに銀行ではない

これはすでに金融関係の人々の間では常識になってきているが、彼らが恐れるのは同業者ではない。GoogleやAmazon, Apple, Facebookといった巨大テクノロジー企業である。 なぜか?理由は簡単で、彼らはユーザーからの信頼と優れたユーザー体験を提供しているから。ちなみにこの4社はすでにペイメント系のサービスを提供しているし、Amazonはローンサービスも始めている。 現にメッセンジャー上で個人間送金を可能にするために、Facebook社はアメリカ国内だけでも金融サービスに関する50以上のライセンスを取得している。ことからもわかるとおり、今の時代は、企業を”業界別”で区切る事自体がナンセンスである。 米国ではFacebook Messenger経由でお金が送れる 8

初めての銀行口座がGoogleやAmazonになる可能性も

おそらく現在の子供達は最初に口座を持つのは既存の銀行ではなく、FacebookやGoogleになる可能性が非常に高いだろう。明らかに彼らの方がユーザーに対してのタッチポイントを多く持っているし、優れたユーザー体験を提供できているからである。 そして何より、生まれた時からデジタルデバイスとデジタルメディアに触れて育った人たちにしてみると、店舗に行くよりアプリ上で目的を達成する方がナチュラルに感じてもおかしくはない。 ユーザー全体から見ても下手な銀行よりも、例えばGoogleのような企業の方が信頼ができるだろう。なんせ、毎日使っているサービスなのだから。 Facebookに関しても、自分の大切な個人情報を惜しげも無くアップできるぐらいの信頼関係が成り立っている。もちろんAmazonにはクレジットカードの情報を預けっぱなしである。優れたユーザー体験を得られるのが理由で。 現に、TIME Magazineの調査によると、75%のミレニアルが、既存の金融機関よりも、GoogleやAmazon, PayPalといったテクノロジー企業からのサービスを受けたいと答えている。 この点に関しては、金融企業がどれだけセキュリティーを重要視したところで太刀打ちできない。ユーザー体験が悪いし、定期的に浮き彫りになる不祥事で、信頼性も決して高くはないのが理由。これからはデジタル上での体験の方が顧客にとってのスタンダードにもなり得る。 参考: これからの企業に不可欠な三種の神器とは

日本の銀行はこのままだと確実に滅びる

では日本の銀行はどうなのか?おそらく国内の銀行のイノベーションはまだまだ始まってすらいいないだろう。世界規模では、生き残りのために必死になっているこの時代に実に驚くべき状態である。それも、市場の展望が必ずしも良くないのにである。 そして、業界の歴史に裏打ちされた実績に合わせて、しがらみもしっかりと続いており、加えて規制や法的な事情でできない、もしくはできないと思い込んでいることが多すぎる。 ちなみに、日本の金融関係の方々とお話しすると、一番すごいと思うのは、できない理由がサッと出てくるところである。お決まりのフレーズは「わかってるんですけど、金融庁が…」 その割には海外のスタートアップ企業を中心に、できないとされているはずの事をテクノロジーの力や裏技を活用して、成し遂げているケースが後をたたない。そして、その一番の目的は、ユーザーメリットを高めるためである。 参考: アメリカ企業が日本企業に勝っている一つの事

生き残れるとしてもスタートアップ企業の下請け業務

既存の金融機関は、すぐさまユーザー体験を改善しなければ、今後は生き残れるとしても、フィンテック企業の下請けとしてお金の管理をする業務だけしかその価値はなくなるだろう。言い換えると、既存の金融サービスはどんどんコモディティー化が進み、その価値は加速度的に下がっていく。 顧客との接点に関する部分は、スタートアップなどの新規参入の企業か、もしくは既存の大手テクノロジー企業に根こそぎ持っていかれるのは、ほぼ間違いない。それでも、金融庁との関係や、既存の認可の関係で完全になくなる事はないにせよ、その多くが存続の危機にひんしている。 現に、CitiBankは向こう10年以内に現在の行員の1/3が必要なくなると試算している。これが50%だと予測している専門家もいるくらいである。なぜなら、未だに金融業界におけるコスト全体のおおよそ30%がオペレーションとコンプライアンスに関する人件費であるからである。 これは、全世界で13兆円以上のマーケット規模を誇る金融業界で見たとしても非常に大きなインパクトを生み出す。金融ビッグバン以上の衝撃と言っても過言ではないかもしれない。

エリートの定番キャリアから最も将来性の危ぶまれる業種へ

その昔、銀行員になるというのは誰もが羨むエリートのキャリアとされていた。これは、1989年の世界企業時価総額ランキンを見てもわかる。なんせ、Top 5のうち、4社が日本の銀行なのだから。 しかし残念なことに、その4つの銀行もすでに存在していない。もしかしたら、これから銀行に就職するのは、よっぽどの世間知らずに限られてくるかもしれない。それぐらいその存在が危ない。 1989年と2017年での企業時価総額の違い valuation-ranking 参考: 近い将来テクノロジーが葬る10の産業

銀行が真っ先に行うべきはユーザー体験改善のためのテクノロジー活用

では、そうならないためにはどうすれば良いのだろうか? ついついテクノロジー自体にフォーカスがあたりがちであり、フィンテックトレンドを追いかけてしまいがちであるが、重要なのは顧客のニーズを理解する事である事は間違いない。 例えば世界中にはいまだに20億人以上の銀行口座を所有していない人々がいる。この数字は必ずしも発展途上国だけではない。アメリカの国内にもまだまだ口座を持たない人がいる。例えばデトロイトやマイアミといった大都市のおおよそ20%がそうである。彼らは、銀行での預貯金ができないだけではなく、ローンを受けることも不可能だ。銀行との付き合いが全くないのが理由。 今後は、それら人々に対して、例えばモバイルテクノロジーを通じて新しいタイプの金融サービスを提供したりする事で、社会問題の解決と新たな顧客開拓の糸口にもなり得る。すでにその動きは始まっており、世界銀行の発表によると、2011年か2016年の間だけでも、約7億人がテクノロジーの恩恵を受け、銀行口座の開設をしている。 ここでやはり強調したいのは、主役はあくまでユーザーであり、テクノロジーはあくまでその目的を達成するためのツールであるということ。 ユーザーが欲しいのはより改善された体験である。そのためには、銀行員でも、金融に関する知識だけではなく、デザイン思考UXデザインなどの、ユーザー目線でクリエイティブな考えができる人材と、教育が不可欠となるだろう。 それを実現するために、どのように金融におけるユーザー体験をできるのか、我々btraxでも、今後金融業界向けのUXデザインサービスとプログラムを通じて、世の中に貢献したいと考えている。  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

イノベーションが生まれ続けるサンフランシスコの生活とは

イノベーションが生まれ続けるサンフランシスコの生活とは

イノベーションが生まれ続けるサンフランシスコの生活とは

innovation san francisco
皆さんはサンフランシスコに住む人々の生活を明確に描けるだろうか?どのように生活し、どのように仕事しているか、想像できるだろうか。今回は、我々サンフランシスコで働く人の生活の中に浸透しているテクノロジーを、衣食住(仕事)という切り口で紹介し、サンフランシスコがイノベーションを生み出し続ける街である所以をお伝えしたいと思う。
  • 衣:便利なだけではないオンラインファッションブランドの魅力
  • 食:オンラインサービスを使った方がより便利でお得という価値が確実に広まりつつある
  • 住(働く):サンフランシスコのイノベーションを生む、自分にあった仕事環境と通勤スタイルの選択

サンフランシスコは今もなお最新テクノロジーの発信源

btraxではイノベーションブースタープログラムを提供しているが、参加者には最長2ヶ月間サンフランシスコに滞在していただいている。その滞在のなかではプログラムに参加する以外にも、サンフランシスコの色々な最新サービスを自ら試し、自分たちのサービスアイデアに活かしている。 たとえば同プログラムに参加された日本の大手シンクタンクの社員の方々はサンフランシスコ市内で利用したUberの乗車時に、思いの外ドライバーと会話を楽しんだようで、サンフランシスコに住む人のようにサービスの価値を体験したようだった。 関連記事:日本でイノベーションが生まれにくいと思った3つのポイント サンフランシスコでは生活のあちこちにテクノロジーが浸透している。大手スタートアップの本社があったり、新しいスタートアップが次々と生まれたりする環境ということもあり、最新のサービスのテストマーケットとなることも少なくない。 また、ここで暮らす人の最新サービスに対する関心が高く、アーリーアダプターも多いため、新しいサービスが生活の一部になる速度が早い

サンフランシスコから離れて初めて気付く、テクノロジーと隣り合わせの生活

筆者はサンフランシスコに3年ほど住んでいるが、恥ずかしながら自分の生活にそこまでテクノロジーが浸透しているとは思わず、自分が依存しているとも思っていなかった。しかしその認識が間違っていたことに気付かされたきっかけとなったのは、先日休暇兼リモートワークで訪れたハワイである。 ハワイ、オアフ島は言わずと知れた観光業の盛んな土地であり、特にテクノロジーが盛んなイメージは当然ながらない。とはいってもアメリカ国内なのである程度はサンフランシスコで使ってるサービスも浸透していると思っていた。 しかしながらハワイに2週間ほど滞在して、普段のように生活、仕事ができずに不便を感じることが多かった。そしてその不便の多くはサンフランシスコのテクノロジーによって成り立っていた生活体験ができなかったからである。 一方で、ハワイならではのテクノロジーの使われ方も垣間見ることができたのも事実である。 Hawaii sharing bike (ハワイにあったシェアリング自転車のbiki) そこで今回は筆者のような文系サラリーマンでさえもサンフランシスコではテクノロジーに生活を支えられているという点をあたらめてまとめてみた。 また今回筆者はサンフランシスコを離れて暮らしてみてどれだけサンフランシスコが特別な環境なのかを実感したわけなのだが、特にスタートアップ、新しいビジネスアイデア、サービスを考えている人に、ここにどんな特別な環境があるのかということを知っていただければ幸いである。

衣:便利なだけではないオンラインファッションブランドの魅力

サンフランシスコはデザインやアートが盛んだったり、ヒップスターやヒッピーなど個性的なスタイルが根付いていたり、ファッション感度が比較的高い都市だ。ファッション業界の中でもテクノロジーという切り口でトレンドの勢いを増している。

買い物不要!便利などころか、専属スタイリストがつくサブスクリプションサービス

サンフランシスコの生活の中に浸透してきているファッション業界のスタートアップの中に、サブスクリプションやキュレートボックスなどの形態でおしゃれさと便利さを追求しているブランドがある。 2011年創業のStitch Fixはユーザーの好みやサイズを元に、パーソナライズされたスタイリングをキュレートしてユーザーに届けるサービスだが、2017年にはアメリカで11番目に大きいアパレル・靴のオンライン小売ブランドとまでなった。その成長率はAmazonを超える。 stitch fix (Stitck Fixから届く箱の中身のイメージ。写真は公式サイトより転載) ユーザーに届けられる5セットのスタイリングはStitch Fix独自のアルゴリズムから選ばれたものだが、スタイリストからのコメントもついており、テクノロジーとマニュアルのバランスが取られている。 好みに沿った服が届くのは大前提だが、ユーザーは数日間のうちに試着をしてみてサイズが合わなかったり、好みでなかったりしたら返却することができる。もちろん気に入れば購入ができる。 実店舗が次から次へと閉店して数が少なくなりつつある昨今、オフラインで購入をしようとすると消費者は店舗に行くまでに以前よりも時間をかけ、さらにその中から自分の好きな服、サイズを探さなくてはいけなくなった。 一方Stitch Fixは探すという行為を無くしてくれた。買い物をする時間があまりないけどテキトーな服でいいわけじゃない、もしくは何を着るべきかの助言が欲しかったりする人は、うってつけのサービスなのだ。 またテック企業を中心に女性起業家などの活躍が目立ってきている中、彼女たちの仕事ぶりだけでなくライフスタイルも注目されてきており、特に働く女性にとってファッションは忙しくても妥協したくないという思いが強くなってきているのではないだろうか。

購入だけじゃなく試着から返品までも自宅で完結できるようになる

さらに衣類のオンライン購入で消費者の悩みのポイントのひとつになっているのが、事前に本物の商品をみて試着ができないという点だが、返却サービスの提供、簡易化をすることでこのハードルを下げている。 大手Amazonに至ってはAmazon Prime会員限定で、Amazon Prime Wardroabというサービスを開始した。ユーザーが購入を考えている商品を選択すると、その商品が届き、自宅で購入前に試着ができるという仕組みである。 同封されている返却用の伝票を使えば、無料で返却商品の引き取りをしにきてくれたり、試着した商品の中から購入をすればさらに割引が得られたりと、事前に試着ができないという悩みの解決以上にお得なサービスを提供しているのである。 服だけに限らないアメリカの返品文化というのはオンラインでも同様に存在しているようだ。むしろオンラインでの返品サービスには今までより便利に使い続けられる工夫がみえる。 関連記事:アパレル業界の未来を予測!知っておくべき6つの現象【前編】

食:オンラインサービスを使った方がより便利でお得という価値が確実に広まりつつある

探す・予約・注文・受け取り。あらゆる外食体験がシームレスになりつつある

サンフランシスコは山手線内回り約2個ぶん程の大きさ*でありながら約4,400のレストランがあるという。当然レストランなどの飲食店の口コミサイトというのはサンフランシスコでもよく使われている。 その中でもYelpは有名で、実名による口コミだけではなく持ち帰りやデリバリーのオーダー、席の予約もアプリ内で行うことができる。本来はデリバリーを行っていないレストランの代わりにデリバリーするサービスはGrubHubPostmatesUberEatsなどかなり主流になってきた。 さらに最近ではGoogle Mapsがロケーションと時間に応じてレストランやオススメのアクティビティなどを地図上に表示してくるようになった。自分が検索してから決定までの操作を繰り返すうちに、より個人にあったオススメを表示してくれるようになるのであろう。 関連記事:小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題

オンラインは便利だけどお値段高めなんてことはなくなってきている

また、サンフランシスコの物価の高さはいつも悩みの一つで、外食も例外ではない。平日のランチであっても10〜15ドルかかるのが普通で、お財布に優しいオプションはいつも歓迎される。 そこに目をつけたのがMealPalというサービスである。日々のランチ(もしくはディナー)をサブスクリプション式で購入して、各レストランが1種類ずつ提供しているメニューから好きなものを事前に選び、自分でお店まで取りに行くというもの。 お店側にとっては決まったメニューを決まった量分作りやすいので1食5〜6ドル程度で提供ができるのである。サンフランシスコ界隈で働く人の間で広がりを見せている。 また日々の食材の買い物についてもAmazonFreshInstacartといったオンライングローサリーデリバリーサービスが、便利かつ、店頭販売価格とさほど変わらないお得さをメリットに浸透してきている。 sf food price table (食材価格サンフランシスコとアメリカの比較。こちらのサイトより転載) オンラインの注文は配達までに時間がかかる、店舗の方が安いというような消費者の心配はどんどんなくなってきていると言えるだろう。

住(働く):サンフランシスコのイノベーションを生む、自分にあった仕事環境と通勤スタイルの選択

住宅よりも働く空間によりサンフランシスコらしさが垣間見られると思うのでオフィススペースについても述べておく。

働く場所はどこでも良いけどどこでも同じという訳ではない

まずサンフランシスコではリモートワークは主流であることが街を歩いていてもわかる。日中カフェに入れば仕事をしている人を多く見かけるし、「今日はカフェで仕事してから午後オフィスにちょっと寄る予定」といったようなパターンをよく聞く。 会社のデスク以外で仕事ができるというのは会社の規則によって許可されているということだけでなく、サンフランシスコの多くのカフェなどでWiFiやコンセントなど働くことを前提にした場所がたくさんあるということでもある。 カフェなどの飲食店だけでなく、日本にも進出したWeWorkImpact Hubなどのコワーキングスペースも多くみられる。 利用者が自分の執務スペースだけでなくネットワークの構築やそこから起こりうるコラボレーションの機会を求めていることもこのようなコワーキングスペースが流行る理由であり、そのようなマインドを持つ人が多いこともまたサンフランシスコならではだ。

みんな同じである必要はない、通勤スタイル

また、通勤においてサンフランシスコ界隈で働く人の多くに利用されているのはシェアリングサービスである。 関連記事:【2017年最新版】コワーキングスペース 世界の8トレンド ドライバーの自家用車に相乗りしてライドをシェアをするUberは通勤ではさほど主流ではないものの、特定のルートを走る小型シャトルをシェアするChariotや、通勤者同士で運転手、乗客をマッチングするScoopFord GoBikeJUMP Bikesの提供する自転車もサンフランシスコ市内で展開されており、激戦区となっている。 ちなみに以前フライング気味でサービスが一部始まってしまったBirdLimeBikeSPINといったシェアキックスクーターも、2018年8月現在はサンフランシスコ市交通局の許可待ちの状態ではあるが各社資金調達に成功しており、勢いを増している。 テクノロジーとは少し離れるが、ローラーブレードやスケートボードで出勤をする人も見かけるあたり、サンフランシスコでは通勤においてもダイバーシティが認められ、それぞれが自分にあったスタイルを選択していることがわかる。 こういった姿もサンフランシスコのライフスタイルを形成する重要な要素と言わざるを得ない。 関連記事:サンフランシスコが取り組む通勤イノベーション

サンフランシスコのどういった人がこのような生活をしているのか

ここまで紹介したサービスは何も特別なものではなく、むしろサンフランシスコに長く住んでいる人であれば聞いたこと、使ったことのあるようなものばかりである。 エンジニアでも投資家でも起業家でもない筆者のような文系サラリーマンでも最新テクノロジーの情報が耳に入り、実際に見てその広がりを実感している。 (実際にアメリカ国内でもベイエリアのスタートアップは一番多くの投資を受けて拡大していることがわかるこちらのサイトより転載) これは間違いなくサンフランシスコ唯一無二の特徴だ。そして各サービスの広がりを見ているとサンフランシスコの以下のようなユーザーが、サービス拡大の根源を支えてくれていることがわかった。 まず、サンフランシスコ界隈にいる利用者の最新サービスに対する関心が高いので、新しいサービスへの抵抗が低い。人は得てして今まで使っていたものに慣れているから現状維持を選びがちだが、テック企業で働いている人や投資家などは新しいサービスを聞きつけるのも早いし、まずは使ってみたいという精神が強いアーリーアダプターが比較的多い。 この人たちによって、さらにそのサービスの情報や評判が広まっていく。 そしてさらに、アーリーアダプターを中心に使ってくれるので改善点がより早い段階で出てサービスの改善へと繋がっていくというサイクルがある。サンフランシスコはよく新サービスの試運転対象エリアとなることが多いのもそれが理由であろう。 btraxが日本の大手電機メーカー向けに行ったプロジェクトでも新規ユーザーを探すために、街で開発段階のサービスをテストしてもらえる人を探し、ユーザーインタビューを行った。 全く知らないサービスをテストして見知らぬ我々に協力してくれる人が少なからずいるということ、そして彼らが具体的にそのサービスを使うシーンを想定して共有してくれるフィードバックの質の良さは、やはりサンフランシスコならではでないかと改めて実感した。 関連記事:マジックなんてなかった!スタートアップ企業の初期ユーザー獲得方法

まとめ

今回、サンフランシスコを出てハワイで生活をしている時に感じたことをきっかけに、こういったテクノロジーを中心としたライフスタイルについて振り返ったわけだが、やはりアメリカ国内とはいえサンフランシスコは他の都市とは全く異なる特徴がある。 筆者はテクノロジーを追い求めてサンフランシスコにきたわけではないが、そんな筆者の生活にもあらゆる面でテクノロジーが浸透してきていた。 ハワイでUberを使った際には、サンフランシスコで主流である1台のUberを他のユーザーと相乗りすることで安価に乗車できるUber Poolというプランがなかったため、毎回ひとりでも1台をチャーターしなければならず、非常にお金がかかってしまった。 またハワイ、特にワイキキ周辺は働きにくるような場所ではないので当たり前かもしれないが、WiFiやコンセントのあるカフェがほとんどなく、コワーキングスペースもなかなかの過疎っぷりだった(事実、筆者が訪れたハワイのコワーキングスペースは訪問後数日後にクローズした)。 またサンフランシスコで新サービスの拡大を目の当たりにしたり、btraxプロジェクトで実際にサービス開発のサポートをしたりしたことを振り返ってみると、やはりサンフランシスコがどれだけ特別な場所なのかがわかる。 シリコンバレーを中心に世界トップレベルの技術力を持っているということはサンフランシスコ、ベイエリアの特徴の一部でしかない。 起業家精神のある人や最新サービスに対する感度の高い人が集まり、時には彼らが交わりながらまた新しいアイデアが生まれ育っている。こういった環境の中、ビジネスアイデアを作って育てて行けることがどれほど有効かは、先に紹介したサービスの例からもわかっていただけると思う。 サンフランシスコ、シリコンバレーだけが起業をできる唯一の環境というわけではないが、ここで暮らし、この環境にふれ、ここで試しながらサービスを発展させていくということはどの都市で行うよりも濃いイノベーションが起こせるのではないだろうか。 参考: ・Stitch Fix Proves Again That Data Is The New Hit FashionMealPal gobbles $20M for its restaurant meal subscription serviceShared electric scooters probably won’t return to SF until August *サンフランシスコ面積山手線内回り大きさ

イノベーションの力でアメリカを健康に!フード系スタートアップの活躍

food startup
「スタートアップ」という言葉がだいぶ浸透し、日本でもアントレプレナー向けのミートアップや起業家を育成するようなプログラムや施設が増えてきた。そんな今だからこそ改めて触れておきたい点がある。 それは成功している多くのスタートアップは問題を解決するために生まれてきたということだ。ユーザーの理解から始まり、問題を特定をし、新しい価値のあるソリューションを提供し続けることで急成長を成し遂げてきたのである。 関連記事:今さら聞けないリーンスタートアップの基本 こういったスタートアップのなかでも、特に注目したいのがフード系だ。アメリカの食料問題、特に肥満の問題は非常に深刻で、彼らはその解決に取り組んでいる。彼らがすごいのは現在明らかになっている問題の解決だけではない。 サービスを通して、ユーザーの社会問題に対する貢献度や達成感を与えることでユーザーの自己実現欲求を満たし、一つの問題解決以上の価値を提供しているのだ。 日本は世界的に見ても健康意識の高い国だが、それでも食品ロス、中高年を中心として生活習慣病、食品偽装、異物混入(食の透明性)などの問題が根強く残るのも事実。このような社会問題を解決するためにアメリカではどのようなスタートアップが生まれ、それがどのようにユーザーに受け入れられているのかを紹介したい。 関連記事:【農業 × テクノロジー】食の未来を変革する最新アグリテックサービスまとめ5選

アメリカの肥満問題は食品不足が一因だった

アメリカが肥満大国なのは有名な話だが、その問題を調べていくと、アメリカ特有の理由や様々な問題が絡み合っていることが見えてくる。 まず肥満問題の深刻度合いについて簡単に説明すると、アメリカの20歳以上の成人で太っている(オーバーウェイト:一般的にBMI指数が25-29.9)もしくは肥満(オビース:一般的にBMI指数が30以上)の人の割合は全体の約70%にも及ぶ。肥満の増加率は減ってきたという報告こそあるものの、肥満は未だにアメリカで深刻な問題の一つでなのである。 america is fatter than ever (写真はこちらのサイトより転載) また肥満によってもたらされる病気の医療コストは年間1500億ドル、肥満による生産性の損失も何十億ドルとも言われ、経済的な面からも非常に深刻な問題となっている。 アメリカの肥満という問題には様々な背景が関係しているが、「地方」と「低所得」がキーワードとなりそうである。アメリカで太っている人の割合が高いのは、飲食店が多くあるような都市部を擁する州ではなく、実は南部を中心とした地方エリアなのだ。 このようなエリアは農作物や健康的な食べ物を取り扱うスーパーが近くになく、フードデザート(食べ物砂漠)と呼ばれており、実に2300万人がフードデザート地域に住んでいると言われている。 またこのような地域の中でもファストフードやコンビニエンスストアへのアクセスの方が良い地域(フード沼、food swampsとも呼ばれる)も存在し、スーパーがないだけよりも肥満への貢献度が高いとの調査もある。さらに低所得者の世帯は、肥満により患った病気に対する医療費が払えないなど悪循環が続いているのだ。

食品は不足しているのに大量に廃棄されているという問題も

食品が行き届いていない問題がある一方で、皮肉にも大量の食品廃棄が発生している現実もある。実際にアメリカでは毎日約15万トンの食べ物が廃棄されているという。一人当たりにすると約450グラムを捨てているということだ。さらにこれらの食べ物を生産するのに使っている水、土、ガソリンなどのエネルギーも無駄にしていることを考えると、無視できない問題である。 ちなみに2016年には米国農務省と環境保護庁が「2030年までに食品廃棄を50%減らす」という目標を発表した。企業に加え、NPO、個人消費者に対しても協力が求めれれており、各州や市レベルで制度が整えられ始めている。

加工食品ブランドに対する不信感

このような食品不足と食品廃棄が発生しているアメリカの食生活には、さらに悪影響とも言える習慣がある。それは加工食品が日常の食卓に並ぶことだ。 アメリカのフードマスマーケットでは、加工食品の大手ブランドが存在感を放っている。マクドナルドやコカ・コーラやペプシなどの炭酸飲料メーカー、クラフト、キャンベルスープなどの加工食品メーカーがこれまでの広がりを見せることができたのは価格を少しでも下げることを可能にした大量生産システムがあったからこそ。 また、アメリカ全土に商品を行き渡らせることができるだけの流通網、全国的に認知度を上げるための広告資金があったことも関係するだろう。そしてその結果、これらの加工食品は広くアメリカの食卓に浸透していったのだ。 major food brands (写真はこちらのサイトより転載。加工食品を含むコンシューマー商品業界マップ。これら中に健康的と言える食品が果たしてどのくらいあるだろうか) しかし最近になって、これらの加工食品ブランドは消費者からの信頼を失いつつある。実際に消費者からの需要が減ってきたため、一部の大手スーパーでは取り扱う加工食品を少なくするための見直しが行われている。 その一因となっているのが、一部のブランドの遺伝子組み換えや非倫理的な生産方法といったサステイナビリティの問題が明るみに出てきたことだ。さらに大手ブランドがアメリカ全土に食品を行き渡らせているということは、運ぶのにそれだけ排気ガスを使っているというのと、ローカルの農作物を差し置いて売られている可能性があるということ。 このようなサステナブルでない食品加工物が求められなくなってきた現在、支持されるフードブランドのあり方が変わりつつある。 関連記事:ミレニアルにはブランドネームではなく体験を売れ!ー 炭酸飲料大手企業の挑戦

これらの問題に取り組むために始まったスタートアップ

食品不足による肥満、食品廃棄、サステナビリティ。これらの課題に問題意識を持って解決を試みるスタートアップが勢いをつけている。以下に紹介するスタートアップは皆アメリカの食に関する問題に対して様々なアプローチでサービスを提供している。

1. Imperfect Produce:インスタ映えはしないが質が保たれた食材を提供

2015年にベイエリアでスタートした、見た目が不揃いのため廃棄する予定だった食材を買い取り、サブスクリプション式でスーパーよりも安価な食材を販売しているスタートアップ。 彼らの買い取り元は大手からローカルの小さなオーガニックの農家までにわたり、コミュニティーへ大きく貢献している。彼らは創業から約2年で1800トンもの捨てられるはずだった食材を廃棄することなく引き取ったという。 また、彼らはオーガニック食材も扱い、サービスを通して無駄にならなかった水や二酸化炭素の量を計算して、サステイナビリティの状況を把握している。ローカルの農家やフードバンクとも積極的にパートナーシップを組み、持続可能な地域づくりにも貢献している。 imperfect produce_insta (写真はImperfect Produceインスタグラムより転載)

2. Full Harvest:廃棄食材のマッチングを行う

Full Harvestは農家が持て余した形が不揃いの野菜や果物を、レストランやジュースストアなどが他よりも安く食材を購入することができるB2B向けの廃棄食材マッチングプラットフォームだ。 もともと創業者のChristine Moseleyはオーガニックのコールドプレスジュースストア事業の拡大に従事していたが、高品質の食材を扱っていたため、そのコールドプレスジュースは1本13ドルもしていたという。 彼女がこの価格になってしまう理由を探っていると、コールドプレスジュースに使う食材はプレスされるのに、見た目が綺麗で高品質なフルーツや野菜を使っていたことがわかり、まずはここを変えられないかを検討。さらにサプライチェーンを探っていくと、大量の食材廃棄があることにショックを受けた。 そして彼女は、農家が売れないと判断していた高品質な食材と、実は食材の見た目はそれほど重要ではないが、できるだけ良心的な価格で良いものを売りたいお店側を繋げるというサービスを開始するに至ったのである。

3. Copia:食べ残しを回収して必要な人に寄付する

Copiaは企業ででた余剰食品を、非営利団体に提供しているサービスだ。アメリカ、特にシリコンバレーエリアの企業では企業が社員向けにケータリングの食事を提供したり、福利厚生の一部で無料スナックがオフィスに並んでいたり、食事付きのイベントやカンファレンスがあったりと、食に溢れている一方で、食べ残しも発生している。それらの食べ物をCopiaのドライバーが綺麗に包み、非営利団体まで運ぶという仕組みである。 企業側にとって利点となるのは、Copiaのデータを元にどの食べ物によく余りが出るのか、どのくらいの量が適切なのかがわかるので、次の購入の決定がしやすくなるということだ。 先ほど挙げた通り、連邦政府が食品廃棄問題対策に動き出しているため、企業として食品廃棄を出し続けることは今後コンプライアンス違反にもなりかねない。Copiaの利用はそんな問題を回避できるうえに、社会問題解決に貢献しているという満足感を与えることも企業ユーザーにとってはメリットとなっているようだ。 copia food waste impact (写真はCopiaウェブサイトより転載。無駄にしなかったものの効果の金額シミュレーションを表示)

まとめ:自分が食べている食べ物の本当の価値を見つめ直し、問題解決に多角的に取り組む

肥満、食品不足、食品廃棄などアメリカの食にまつわる問題は誰が見ても明らかである。この問題を多かれ少なかれ実際に体験した人が、問題を突き詰め、解決しなくてはいけない!という信念を持って始めたスタートアップが広まってきている。 さらに今まで大手ブランドが提供してきた加工商品が疑われるようになり、それらの商品を売るためのマーケティングやロジスティックスなどはかつてのように効果がなくなり始めている。 食べているものがどのように作られ、どのように運ばれ、どのように消化されているのかを知り、食べ物の本質に対する認識が高まってきた今だからこそ、このような問題解決に取り組むスタートアップが支持され、ユーザーもそこに貢献することに新しい価値を見出しているのではないだろうか。 フード系スタートアップを調べていくと、実体験や調査などで現状の問題とユーザーを理解し、課題を明らかにし、新しい価値のあるサービス・商品を提供していくことがスタートアップビジネスには欠かせないことが改めてわかる。 また、今回紹介したフード系スタートアップの問題には、一般消費者、一般企業(スーパー、レストラン、ファストフードチェーンなど)、食品会社、農家、低所得者など多くの人が絡んでいることがわかる。彼らユーザーをあらゆる方面からを理解し、問題を見極めて価値を提供できるように取り組むことが重要になっていると言える。 参考:

小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題

grocerystore
小売業は現在、変革期に差し掛かっている。おそらくここ数年で大きな変化が訪れる産業の一つである。 その証拠として、実店舗型の小売業者の経営破綻、店舗閉鎖が相次いている。それらはEコマースやデジタルの普及が影響を与えていることは明らかだが、消費者が実店舗よりもAmazonなどのEコマースを選んだとは単純に言い切れないのである。

Eコマースは小売業界の売上高のほんの一部でしかない

実際に、NRF(全米小売協会)が毎年出している全米の小売業界の売上高ランキング2017年版によると、上位10社が
  1. Wal-Mart Stores
  2. The Kroger Co.
  3. Costco
  4. The Home Depot
  5. CVS Caremark
  6. Walgreens Boots Alliance
  7. Amazon.com
  8. Target
  9. Lowe's Companies
  10. Albertsons Companies
  と、Amazon以外は主に実店舗型を展開する企業となっている。また、デジタルマーケティング、商業などに関する市場調査を提供するeMarketerの調査によると、2017年時点でAmazonのEコマース売上高が全米全体のEコマース売上高の44%ほどを占めているにもかかわらず、全米全体のEコマースの売上高は総小売売上高の9%ほどにしか満たないことから、Eコマースがさほど影響を与えているわけではないことがわかる。

デジタルネイティヴの世代も実店舗を好む

さらには、世界最大の商業用不動産サービスや投資を行うCBREのミレニアル世代を対象とした2016年の調査では、世界のミレニアル世代(1980~2000年前後生まれ)の70%が実店舗を好むことがわかっている。また、回答者のほぼ半数が店内で製品を実際に見たり、触ったりして、すぐに購入したいと考えており、店内での体験が重要だということがわかる。 上記の理由から、実店舗の影響力がいまだに強いことがわかる。

Amazonも実店舗への進出を進めている

実際にEコマース大手のAmazonは2017年に米食品スーパーのWhole Foods Marketを137億ドルという、これまでの最高額で買収し、実店舗への展開を進めている。また、店内での買い物体験をよりスムーズにした、レジなしスーパーのAmazon Go1号店をシアトルにオープンしている。また、近々サンフランシスコとシカゴにも出店するとも言われている。 こうした傾向やAmazonの動きから、小売業界全体が次なる変革のためにAIやIoT技術を活用し、業務の効率化や在庫管理による食料廃棄の削減、革新的なユーザー体験の実現を目指している。 この動きに伴い、それらを実現しようとするスタートアップが今注目を浴びている。そのなかでも本記事では、食料品小売ビジネスに注力しているスタートアップを紹介したい。どのような技術で課題解決を行おうとしているかを注目してもらいたい。

食料品小売業界の技術マーケットマップ

食料品小売店技術マーケットマップ引用: CB insights まず紹介したいのは食料品小売業界における技術マーケットマップである。ちなみにこれは各技術カテゴリにおけるすべてのスタートアップを網羅するものではない。また、一部のスタートアップは複数のカテゴリにまたがってサービスを提供している場合もあるが、主要サービスの事例に沿って分類している。 各技術カテゴリは以下のような課題解決を目指している。
  • リアルタイムシェルフ管理 - AI技術とカメラを駆使し、陳列した商品の状態や商品ブランドシェア率、品切れ、一度手に取ったが戻した商品のデータなどの情報を提供。在庫管理プロセスの改善だけでなく、効果的な商品陳列や商品ブランドのパッケージデザインの改善に役立てることができる。
  • ストアロボット&チャットロボット - 店舗にロボットを配置することで、顧客への挨拶や対応、在庫の管理だけでなく陳列の自動化などが期待できる。また、顧客行動などの貴重なデータの蓄積が可能で、顧客からの苦情を減らすなど店舗の最適化が期待できる。
  • AR・VRツール - 拡張現実を利用し、店舗の棚や通路などのレイアウトのシミュレーションを低コストかつ即座に行うことを可能にする。また、実際に拡張現実内でユーザビリティテストを行うことにより、顧客の視点や行動から彼らの心がどこに向いているかなどのデータも提供する。
  • インタラクティブ・ディスプレイ - インタラクティブとは双方向を意味する言葉であり、店舗に配置したディスプレイ上でクーポンやその日のセール情報を表示し、顧客がそこからお買い得情報を取得することを可能にする。それにより顧客に来店を促すなど、エンゲージメント促進を実現している。
  • デジタルラベル - 顧客が商品をスキャンすると詳細な商品情報を表示。商品に対する透明性を高め、顧客に安心と満足度を提供する。
  • ビーコン&ロケーショントラッキング - スマートフォンのアプリとビーコン、センサー、Wi-Fi信号を紐付け、顧客の行動をトラッキングすることによって店舗のレイアウトの最適化や、特定の位置で顧客に応じたイベントを発生させることが可能になる。今後はこの技術を応用し、ユーザーがスマートフォンのアプリのボタンひとつで、店員を自ら探すことなく自身の場所へ呼ぶことも可能になるかもしれない。
  • 店舗管理 - 決済処理や在庫管理などの機能を統合した幅広いソフトウェアプラットフォームを提供。業務の効率化を実現し、特に中小規模の小売食品店に効果が期待できる。
  • クーポン・ポイント・キャッシュバック - 顧客に報酬型のクーポンやポイント、キャッシュバックを提供するプラットフォームを提供。例えば、特定の商品の購入や、アンケートへの回答などの条件を満たした顧客に、クーポンやポイントを付与することで、顧客の商品へのエンゲージメントを促進する。
  • 購買分析 - 商品の売上数や顧客の購入パターンなど店舗レベルで監視、分析するためのソフトウェアプラットフォームを提供。店舗内のデータに基づき、ターゲットを絞ったプロモーシャンや購買分析が可能になる。
  • マーチャンダイジングツール - 顧客の要求に合わせ、適正な商品を適正なタイミングで適正な場所、量、価格で提供するためのツール。マーチャンダイジングの最適化により、コストの削減や増収が見込める。
  • 食料廃棄物管理 - 在庫管理を徹底するツールにより食糧廃棄物を減らす。また、廃棄食料を寄付したり、飼料や肥料に再利用したりするプロセスを提供することでも食料廃棄量削減を実現する。
  • プロモーション最適化 -店舗やブランドのプロモーション戦略を最適化するためのソフトウェアプラットフォームを提供。プロモーションコストの削減・効果の最大化などが期待できる。
  • ストアガーデン - 店舗やレストランの近くに水耕農場を建設することで、地元の食材を安定して提供できるようにする。
こうしてみると、ほとんどのカテゴリで、実店舗の利点であるリアルな顧客の行動データを上手く活用しようとしていることがわかる。 これらの中でも特に注目を浴びているカテゴリにおけるスタートアップ5社を紹介する。

1. Trax: リアルタイムシェルフ管理

https://www.youtube.com/watch?v=VsGnru8zxKE 主要投資家: Warburg Pincus, Investec, Broad Peak Investment 調達額: $138.5M サービス概要: 商品陳列用の棚をスマートフォンやタブレット端末で写真を取るだけで、非常に豊富なデータを即時に得ることができるシステムを提供している。それらのデータをクラウドからレポートとして小売業者や商品ブランド会社にリアルタイム配信することができる。 注目の理由: スマートフォンとタブレットを利用することで、導入にかかる初期費用を大幅に削減することができる。実際に同社のツールを導入したCoca-Cola Hellenic社では在庫を63%削減することに成功。他にも、P&GやNestleなどの大手商品ブランド会社を顧客にしている。

2. simbe: ストアロボット&チャットロボット

simbeストアロボット 主要投資家: SOSV, Comet Labs, Anorak Ventures, Presence Capital, Vijay Pradeep, HAX, Cherubic Ventures, Riot Ventures, Greg Castle 調達額: 未公開 サービス概要: 完全自律型の小売用ロボットを開発、提供している。在庫切れや、在庫不足、誤った場所に置かれた商品、価格設定の誤りなどをスキャンにより判別し、従業員の作業を効率化する。通常の営業時間帯でも動作し、顧客が棚を確認している際には避けるようになっている。 注目の理由: 同社は完全自立型ロボットを世界で初めて開発している企業だ。完全自律型のため、人件費の削減や従業員の負担を削減することができる。また、人的ミスをほぼなくすことが可能になる。調達額が公表されていないことや、世界初の試みという意味でも注目を浴びている。

3. InContext Solutions: AR・VRツール

InContext Solutions VR 主要投資家: Intel Capital, Beringea, Plymouth Growth Partners, Hyde Park Angels 調達額: $42.5M サービス概要: VRシミュレーションにより、店頭レイアウトを簡単に変更することができるプラットフォームを提供。ヒートマップなどにより、顧客の反応を分析することができる。また、商品のパッケージデザインなどもVRにより可視化することができる。 注目の理由: VR技術の活用は建築業界を初め注目を浴びているが、InContext Solutionsは小売業界にフォーカスした企業として注目を浴びている。商品ブランドでは商品サンプルデザインの作成にかかるコストをVRにより大幅に削減することを可能にした。また、実際に仮想上の店舗に商品を配置し顧客の反応をあらかじめ分析することもできる。

4. Ksubaka: インタラクティブ・ディスプレイ

ksubaka主要投資家: Fullshare Holdings Limited, Ksubaka (ジョイントベンチャー) 調達額: $15.3M サービス概要: 店舗にディスプレイを設置し、その画面上でゲームを配信して顧客にプレイしてもらうことで、商品を効果的にプロモーションするサービスを行っている。ディスカウントなどを行わずとも、商品の売上を伸ばすことが可能になる。 注目の理由: 同社が注目を浴びたのは中国のネスレとの間で実施した2か月間ほどのキャンペーンだ。このキャンペーンでは、ゲームに対する顧客のインプレッションが7000万ほど、購買エンゲージメントが100万ほどと大きな効果を生んだ。また、このディスプレイを介して行われた調査では、商品ブランドのミニゲームを終えた後で購入意思が81%増加したこともわかり、インタラクティブディスプレイの効果を大きく証明した。

5. Estimote: ビーコン&ロケーショントラッキング

estimoteビーコン主要投資家: Javelin Venture Partners, BoxGroup, Homebrew, Y Combinator 調達額: $13.9M サービス概要: 小売店や博物館、空港などに設置するビーコンを販売している。ビーコンは、電源とチップセット、通信用アンテナを内蔵した小型デバイスであり、Bluetoothのような通信技術よりもあまり電力を使用しないデバイス間通信を可能にする。これらにより、顧客の位置トラッキングによる情報の取得だけでなく、特定の顧客があるディスプレイの前を通過したさいなどに、特定の映像を流すなどのイベントを発生させることができる。 注目の理由: Y Combinatorから出資を受け、2012年以降からセンサネットワークと低電力ソフトウェアを提供している同社は、iBeacon互換のビーコンを初めて取り扱った企業であり、この分野では間違いなく現状トップであるといえる。現実世界で位置情報を使い、特定の個人に向けてパーソナライズされたイベントを発生させることは、スマートフォンが普及したユビキタス社会ならではのサービスといえる。また、ビーコン自体が安価なこと、エンジニア用にSDKがあるため、エンジニアを中心に個人の利用や活用が見出されている。

まとめ

小売業界での最も身近な進歩といえば、セルフレジであったが、他の業界と比較してみると過去数十年にわたって見られた進歩の中では遅れていると言える。しかし、小売業界での実店舗の重要性が見直され、ユーザー体験の向上が求められるようになり、AIやIoT技術により小売業界を変革しようとするスタートアップが増えてきた今、その進歩のスピードは急加速するだろう。 ここで忘れてはならないのは、技術ありきでは進歩は実現しないということだ。実際にユーザー体験を向上させるには、それらの技術を駆使する前にユーザー中心のマインドセットが必要になる。現在のような変革期に対応するためには、テクノロジーや情報に精通するだけでなく、それらを活用するためのマインドセットがより今後重要になるだろう。

すべての業界がチャットボットを活用すべき7つの理由とブランド事例

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どの業界のどの会社も、いつかIT企業にならなければいけない。そうでなければ、これからの時代は生き残っていけない
昨年サンフランシスコで開催されたドリームフォースで、アディダスのブースの方が言っていた印象的な言葉である。アディダスはデジタルチャンネルの強化を推し進める一環としてチャットボットを導入し、パーソナライズされたユーザー体験を作り出そうとしている。 日進月歩するAIによって、これまでになかったITと他分野とのコラボレーションも進んでいる。実際に、フィンテックのような「テック」と、スマート家電のような「スマート」がついた言葉がどんどん身の回りに広がってきている。 これにより、これまであまり「テック」や「スマート」と言った言葉と馴染みの薄かった消費財メーカーなどにも、テック化しスマートになっていくことが求められる。スマートなUXがユーザーにとってのディファクトになっていくからである。 一方で、AIがどんどん進化していく中で、逆にどうやってAIを活用していったらいいか、そもそもそんなに必要なものなのか疑問に思っている人も増えているのではないだろうか。 AIとなると、技術の部分が注目されがちだが、見落とされがちなのはUX的観点を持ったデザインをサービスに落とし込めるかということである。これがなければせっかくチャットボットを導入してもカスタマーエクスペリエンスの向上には繋がらない。 この記事では、比較的身近にあるAIの事例としてチャットボットを取り上げ、それを導入している消費財メーカーがどのようにしてカスタマーエクスペリエンスを向上させたかについてご紹介したい。

なぜチャットボットが必要なのか?

チャットボット(以下ボット)はオムニチャンネル化が加速する消費財マーケティングで、今後も需要の成長が見込まれているサービスである。そもそもなぜ近年ボットの需要が高まっているのだろうか。Digital Doughnutではボットが企業にもたらす利点として次の7つをあげている:

1. トレンドである

多くの企業がFacebook MessengerやKikといったメッセージングアプリや自社のアプリにボットを導入し始めている。ボットというチャンネルがユーザーの中でディファクト化すれば、ボットを持っていないことがマイナスになってしまう。

2. カスタマーサービスの向上

営業時間や場所を選ばないので、いつでもどこからでも利用でき、カテゴリーや管轄部署に関係なく、広範囲の質問に瞬時に回答できる。また、担当者の経験値に関係なく、均質なサービスが提供できる。

3. カスタマーエンゲージメントの向上

同サイトが紹介する調査では、ボット導入後、ソーシャルメディアにおけるカスタマーエンゲージメント率が導入前に比べて20%上昇したという。また、プッシュ通知などを通じて、カスタマーに企業側からリーチできるという点も大きい。消費者意思決定プロセスにおいて、消費者が「情報収集」の段階に入る前の段階で、問題提起をして購買意欲を刺激することができるからだ。

4. インサイト情報の取集・分析

ボット上でのやり取りから得たデータをもとにパーソナライズされた内容を表示・提案できるだけでなく、商品に合わせたマーケティング戦略を練り直すこともできる。

5. より良いリードの創出・絞り込み・育成

見込み客に対してパーソナライズされたメッセージとともに、自然な流れで必要な情報を尋ねることができるため、インサイトを得やすい。それにより、リードの創出やリードを次のステージに進めることが容易になる。

6. グローバル市場へのリーチ

ボットなら、24/7で利用できるだけでなく、基本的な質問なら多言語にも対応できる。ただし、商習慣や文化の違いによって、ローカリゼーションが必要になってくることを忘れてはならない。

7. グローバル市場へのリーチ

独自に複数のモバイルプラットフォームに対応したアプリを開発したり、専門の人材を採用するより安い。また、1つのシステムで1対多数のユーザーを同時に24/7で対応できる。

チャットボットで何が提供できるのか

では実際に、ボット活用方法にはどのようなパターンがあるのだろうか。ボットに最終的によってもたらされるのはカスタマーエクスペリエンスの向上だが、その内容は様々だ。企業が提供する一般ユーザー向けのボットサービスを見ていくと、大まかに次の5つに識別できそうだ:

1. 探す(検索)・提案

ユーザーへの質問や過去のデータをもとに、その人の嗜好に適したものを探して提案。商品だけでなく、天気予報の通知や関心のあるニュースなどもピックアップしてくれる。

2. コンシェルジュ / 予約・購入

予約やオンラインショッピング時の面倒な入力作業を必要とせず、簡単なやり取りでボットがレストランの予約やチケットの購入を代行。Google Duplexでは自分の代わりに電話もかけてくれる。他には、Siriに代表されるように、ユーザーの司令に応じてスケジュールを作ったり管理したりしてくれるものもある。

3. カスタマーサービス

簡単な質問やよくある質問に対して、即座に回答または目的のページに誘導。必要であれば、人間のエージェントに繋ぐこともできる。

4. アドバイザー / 講師

健康管理や金融といった専門的な知識を必要とする分野へのアドバイスを提供。学習用のサービスでは、ユーザーの理解を促す手助けをしてくれる。

5. 会話の相手

おもちゃや、Softbankのペッパーのような、コミュニケーションそのものを目的にしているもの。

チャットボットの実用例

上記のパターンはあくまで目安であって、機能をこれらだけに限定する必要はないし、1つに絞る必要もない。実際に企業はどのようにボットを使っているのだろうか。

カバーガール

covergirl_bot <画像引用元:Kik: Kalani Hilliker’s Bot> カバーガールは1950年代から続くコスメティックブランドで、長らくP&Gの傘下に収められていた。数年前に別の企業に売却されたのを機に、ミレニアル世代やそれに続くジェネレーションZを主なターゲットとした新興のライバルに対抗するべく、デジタル化に注力している。 その1つがインスタグラムで480万人のフォロワーがいるカラニ・ヒリカーという2000年生まれの芸能人(ダンサー・女優・モデル)の名を冠したボットだ。言葉遣いや絵文字を通して、彼女のパーソナリティーをボットに反映させることで、より若い世代が関心を抱きやすくなっている。彼女と会話を続けるとクーポンをゲットできるという「おもしろ要素」も組み込まれている。

H&M

h&m_bot <画像引用元:Kik: H&M> ファストファッション・ブランドのH&Mでは、ボットがユーザーとの初めのやりとりにおいて、スタイルの異なる洋服の写真を直感的に選択させることで、各自の好みに合ったスタイルを探っていく。ある程度スタイルが確定すると、ユーザーの好みに適したものを優先的に提案することで、小さなスマホの画面から何度もページを読み込むという面倒な作業が減る。

ジョニーウォーカー

johnnie_walker_bot <画像引用元:Facebook Messenger: Johnnie Walker> 約200年の歴史を誇るウイスキーブランドのジョニーウォーカーは、ブランドの歴史や商品の紹介、ウイスキー全般に関する知識を教えることでブランド・ロイヤリティを高めようとしている。また、サードパーティーと協力することで、ジョニー・ウォーカーを使ったカクテルのレシピや近所で商品が買える場所の紹介など、幅広いサービスを提供している。

アブソルート

lyft_absolut <画像引用元:Lyft Blog> 同じくリカーメーカーのアブソルート ウォッカは、ボットを通して、ユーザーがバーに行くのを促すキャンペーンを行った。無料でアブソルートウォッカが体験できるバーを告知し、実際に行ってくれた人には、シェアライドサービスのLyftのクーポンを配布して安全に帰ってもらうという一連の流れによって、バーを介したO2O(Online to Offline)体験を作り出した。このキャンペーンでは4.7倍の売上増加に成功した。

ドミノピザ

[embed]https://www.youtube.com/watch?v=aec24EU6MOk[/embed] ドミノピザは、Facebook MessengerだけでなくAmazon EchoやTwitterなど、あらゆるソーシャルメディアやメッセージングプラットフォームからピザの注文を可能にしている。 彼らのボットは、ピザのカスタマイズはもちろん、注文した品が今どの工程にあるのか(トッピングしているのか、焼いているのか、など)、配達までどのくらい時間がかかるのかまで分かるようになっている。これによってユーザーは、ちゃんとオーダーが通っているのか、時間通りに配達されるのか余計な心配をしなくても良い。

チャットボットを作るときに注意すること

最後に、チャットボットを導入するにあたって、考える必要があることは何だろうか。チャットボットの開発自体は、作成サービスなどを利用してコーディングなしに行うことも可能だ。 しかし、もっとも重要なのがそれより前の段階におけるUXデザインの設計である。対象は誰で、何の目的のために使ってもらうのか。どのようにその目的を達成するのがユーザーにとって最適なのかといったことからコンセプトを考えていく必要がある。 関連記事:チャットボット (Chatbot) とは? 【ChatBot入門編】 PwCのレポートでは、チャットボットのようなデジタルアシスタントへの認識を調査したところ、「スマートで友好的」に対して「ロボットっぽく(人間味がなく)て限定的」と感じる人がほぼ同率だった。 同じテクノロジーでもユーザーが受け取る印象がポジティブにもネガティブにもになりうるということである。ユーザーが「親切なサービス」と感じるか「どこか違和感があるな」と感じるかは、UXデザインが大切になる理由である。

まとめ

AIから電話がかかってくる時代が来ようとしている。どの業界であっても、テック化していくことがユーザーから当然のように考えられる中で、チャットボットは身近なAIとして、今後も広がっていくことが予想されている。 チャットボットは単なるメッセージングサービスではなく、カスタマーサービスの向上やインサイトの分析に活かせるなど利点も多い。例としてあげたように、あらゆる業界でチャットボットの利用が広がってきている。その使われ方は、用途に応じて様々だ。 しかし、ユーザー視点に立ったUXデザインがなされなければ、せっかくカスタマーエクスペリエンスの向上のために導入したチャットボットも、ユーザーにかえって悪い印象を与えかねないので、注意しなければならない。 参考:

シリコンバレー的マインドセットの裏にはアジア的思想が隠されていた

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私は現在サンフランシスコのダウンタウンに近いテックハウスに住んでいる。テックハウスとは、その名から想像できるかもしれないが、プログラマーなどのエンジニアが10人ほどで共同生活を送っているシェアハウスである。 全く異なる国籍やバックグラウンドを持つ人たちが、日中はそれぞれ全く異なる企業で働き、帰宅するとみんなで談笑したり、時には激しい議論をすることもある。そして、驚くことにお互いの会社のプロジェクトや開発について議論し始めるのだ。お互いの会社のプログラムコードを見せあい、知識をシェアしあうのだ。 実はこれは決して私の住む家の中でのみ起こっていることではない。

エンジニア達が会社の枠を超えて繋がる文化

エンジニアに向けたミートアップに足を運ぶと、様々な企業で様々な開発を行なっている人たちが自社のラップトップを広げてお互いの開発について語り合い、議論をしている。時には、参加している企業の採用担当者に会社でのプロジェクトで自分を売り込んでいる人さえいる。 会社のパソコンは会社内でのみ使用し、持ち出すことを禁止していることも多い日本ではとても考えられないことだろうが、これはサンフランシスコで当然のように行われていることだ。 そこには、会社や利益などの概念を超えた、協力し、知識をシェアすることでより良いものを作りたいという、共通した概念があるように思われる。そして私はここにアジア的なマインドセットがあると考える。

アジア的マインドセットとは

そもそもアジア的なマインドセットとはどういったものだろうか。 私の感じた「アジア的マインドセット」とは、組織や個人を超えて、お互いの知識や技術をシェアし、より良いものを作ろうとする価値観だ。 枠組みを越えて協力し、シェアするような人々の姿やマインドは、アジア、特に長屋や隣組制度に代表されるような、日本文化に共通するところがあるように思う。もったいないとモノを大切にし、他者と助け合い、シェアする昔ながらの日本人に根付いた感覚と非常に似ているからだ。 私のルームメイトの1人に、家でハッカソンをよくしている理由を訊ねてみた。すると、シェアすることでより良いものを、より簡単に、より楽しく作れるのに何故しないのかと逆に質問されてしまった。 彼らにとってそのマインドセットは、組織のプロフィットなどよりもっと人間の本質的な考えや情熱、モチベーションでできているようだ。 繰り返すようではあるが、こう言ったマインドセットは、個人主義に象徴されるアメリカや西欧諸国より、アジアで古くから大切に受け継がれてきたはずだ。 アジアであるはずの日本よりも、西洋を代表するアメリカのサンフランシスコで、アジア的なマインドセットに基づいた動きや考えがあるというのは、少し皮肉めいた話である。

アジア的マインドセットのメリット

このような考え方は、今までになかった価値を生む可能性を存分に秘めていると考える。 なぜこのような考え方が価値を生むのだろうか。1つには、開発のスピードをあげることで、組織などの枠組みを超えた、社会全体のより早い発展や進歩を促すことができるためだろう。また、共により大きい優れた市場を作り上げることもだって可能だ。この考え方は、Githubが考える哲学にも共通している。

オープンイノベーションは日常茶飯事

日本でも度々、業務提携や事業提携といった動きは見られるが、もっとフランクで気軽でスピーディーな、このような動きはそれらよりはるかに可能性を秘めている。その上、同じ市場や分野内での提携という話に限ってではなく、他業種とのコラボも現場のスタッフレベルからスタートし、企業規模でのオープンイノベーションに繋がるきっかけになっている。むしろ、これが出来ていれば、わざわざ"オープンイノベーションプログラム"などを組む必要もないのだ。

事例: Microsoftを変革に導いたアジア的マインドセット

ここでアジア的マインドセットを活用した好例としてMicrosoftをあげたい。 2014年にMicrosoftのCEOに就任した、サティア・ナデラをご存知だろうか。サティア・ナデラは、インド出身のMicrosoft社で初のサラリーマン社長になった人物だ。 彼がCEOに就任した時、Microsoftの業績はかなり落ち込んでいた。世間や投資家の中では、「Microsoftは死んだ」とまで言われていた程だった。しかし、2018年4月時点でMicrosoftは世界の時価総額ランキングでAppleとAmazonに継ぐ、第3位に上っている。 こちらでは、最近のMicrosoftはApple, Amazonに並ぶ「イケてる」会社の一つとして捉えられ始めている。絶頂期にはダサダサなイメージと、既得権益ガチガチのイメージだった会社がである。実は、MicrosoftのこのV字復活の背景には、サティアナデラが行なったMicrosoft改革にある。 microsoft-charts 下記で紹介する、彼の行う企業戦略にはアジア的マインドセットがよく表れていると感じる。

1. Amazonとの大規模提携

Microsoftは昨年の8月にAmazonが開発する音声Alexaとの連携を発表した。具体的には、それぞれが所有するAI (cortanaとAlexa) 連携させるというものだ。 これはスマートスピーカーという形で日常に浸透しているデバイスをもつAmazonと、逆にデバイスは持たないがoffice365の大量のデータや、bingのサーチエンジンなどを保有するMicrosoftのcortanaの連携となる。 ライバルとも言える企業どうしが、互いの強みをシェアすることでさらなるサービスや技術の向上を目指す、その姿勢には、和の精神を重んじる、「アジア的なマインドセット」が表れていると思う。 もちろん、このような発表は度々ニュースに上がる提携の話の1つではあるが、今回の大規模な提携はとても世間を驚かせた。先日両社はデモを公開し、Amazonの販売するスマートスピーカー (Amazon echo) で交互に呼び出される、cortanaとAlexaの様子を見ることができた。

2. Linuxへの早い対応

またMicrosoftの提供するクラウドサービスAzureは、競合であるGoogle Cloud PlatformやAWSにかなり遅れをとってスタートした。にも関わらず、四半期決算で前期比の約90%と非常に高い成長率となっている。 その理由の1つが、自社の持つOSのWindowsだけではなく、その競合であるはずのLinuxユーザーへの対応を急いだことがある。実際に、Azureユーザーの40%以上 (2017年時点) がLinuxで占められている。 Amazonの例でもそうだったが、Windowsを保有するMicrosoftにとって、Linuxはより直接的な競合であることは間違いない。しかし、そのLinuxとただ競合としてではなく、ビジネスパートナーとして関わることができたのは、組織の枠にとらわれない「アジア的マインドセット」があったのではないだろうか。

3. ライバルと協力するマインド

彼が行った戦略の根底にあるのは、まさに私の感じている「アジア的マインドセット」の実践だ。 最近のMicrosoftのサービスは、その他にも拡張機能や互換性が非常に多く見られ、支持される理由の1つになっている。十数年前では考えられない状態である。 極め付けには、サティア・ナデラはAmazonのCEOであるジョフ・ベソスと共に、AppleやGoogleとの連携も申し入れがあれば、喜んで受けたいとまで発表しているほどだ。競合であるはずの企業(やサービス)と技術をシェアするマインドにより、互いの企業のサービス、それどころか社会そのものをより良いものを生む可能性を感じる。 これは今まで日本企業を含む、多くの企業が行なってきた既得権益を守ることを最優先するビジネス戦略とは大きく異なる。 このような「アジア的なマインドセット」に基づいた戦略よって、Microsoftは劇的な復活を遂げたのではないだろうか。

最後に

もちろん全ての会社で、前述したことが起こっているわけではない。特に最先端をいく企業は、そのサービスや製品の情報や発表が市場に及ぼす影響が非常に大きく、情報に関してはかなり厳しく管理されている。 しかしその最先端テクノロジーなどにより、ずっとスピード感の増している企業を取り巻く環境を生き抜くために、こういったアジア的なマインドセットは欠かせないものの1つになっていることは間違いないと思われる。 そして、これからさらにこのようなマインドセットに基づいた動きは多く見られるようになるだろう。競合他社との協力を進める企業がこれからますます現れれば、全てを自社内で補おうとしている企業に、勝ち目は次第となくなってくるかもしれない。 このような考え方は、これからの時代を企業が生き抜くために大変重要なマインドセットになっていくだろう。そして、そのマインドの広がりは、自社の利益だけを追求するのではなく、競合と協力してまで、心から社会を良くしようとする企業の方が評価されるようになる、もうワンランク上の資本主義社会さえも、もたらすかもしれない。 関連記事: 日本がシリコンバレーに100倍の差を付けられている1つの事