先日、パナソニックi-PRO センシングソリューションズ株式会社さま(以下、i-PRO)と共催した「i-PRO Future Design Challenge」の受賞作品が決定した。
これは、今回初開催となった、2021年7月から1ヶ月半ほどの応募期間を設け、世界中からアイディアを募るグローバルデザインコンペだ。
コンペ全体のコンセプトを「未来の課題をデザインで解決する」とし、「テクノロジーが発展しすぎた未来社会の犯罪を解決する」をテーマに設定した。
テーマの決定に際し、テクノロジーは、我々の生活を便利にする一方、リテラシーを欠いたり、使い方を誤ったりすれば、巧妙な犯罪行為に使われる可能性があることを提起。
いわば「諸刃の剣」のようなテクノロジーとこれからいかに付き合っていくべきか、そんな課題感をテーマに込めた。
また、審査員には、全世界からスタートアップや最新のビジネスに精通する4名をお迎えした。
- Bjoern Eichstaedt氏 – Managing Partner & Co-Owner of Storymaker GmbH, Germany
- Brandon Hill – Founder & CEO of btrax, Inc.
- Casey Lau氏 – Co-host of RISE & Web Summit Tokyo
- 西村真理子氏 – HEART CATCH Inc.

左から: Bjoern Eichstaedt氏, Brandon Hill, Casey Lau氏, 西村真理子氏
i-PRO Future Design Challenge開催にかけた想い
本コンペの構想から開催に至るまで、主催であるi-PROには一貫した大きな目的があった。
それは、企業ブランディングである。そしてその中にも、社内に向けた目的と、社外に向けた目的の双方が存在した。
i-PRO社内に対して:自社にデザインマインドセットを持っている自覚を高めること。
社内に対するi-PROの意図は2つあった。まず1つ目は、btraxというデザイン会社とタッグを組んでグローバルデザインコンペを開催することにより、自社の取り組みの一つとして、デザインにスポットライトを当てた事業を行うこと。
そしてもう1つは、自社がビジネスにおけるデザインの価値を理解し、重視しているということをi-PRO社内に浸透させることだった。
i-PRO社外に対して:i-PROというデザインドリブンな会社があると国内外に広めること。
i-PROは、世界的に著名なPanasonicから2019年に分社化した会社である。感知器などを使用して情報を計測・数値化することで、問題を解決したり、未然に防いだりするセンシングソリューション分野におけるパイオニアとして業界を牽引してきている。
そんなi-PROには、国内外で「Panasonicから生まれた会社」というよりも「i-PRO」という個の会社として認知度を上げたいという強い想いがあった。
そのため、i-PROの名前をコンペそのものの名前に掲げ、コンペそのものを認知拡大の機会と捉えた。
デザインコンペ i-PRO Future Design Challengeで得たもの
全世界から集まったハイレベルなアイディア
全世界を対象に作品を募り、世界中から応募を集めることができた。そして、その中から、Gold Award 1作品、Silver Award 2作品を選出した。
Gold Award
PORTALa Myra Bening氏(インドネシア)
スマートホームによって提供される快適さに潜む、我々の危険に対する直感を鈍らせ、周囲の状況や環境の異常に気づかなくさせる危険性に対するソリューション。
ラテン語で「門」を意味する「PORTA」は、スマ ートホームにおける“デジタルゲート”として機能。スマートホームの活動の異常を検知すると、自動的にWi-Fi接続を終了し、バックアップデータを使ってデバイスを動作させることができる。
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Silver Award
Glass – A Future Interface Arnav Nigam(インド)
世界が複雑化し、相互作用やその影響を管理することは困難になっているなか、制御メカニズムとして機能すると同時に、シームレスなデジタル体験を提供するもの。
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QGene QGene Solutions (Vinay Sudhakaran氏、Mohd. Saim Nasim Lari氏、Arun Thangaraj氏)
(インド)
QGeneは、将来のデジタル上のなりすましを防ぐための、DNAをベースにしたデジタルタトゥー。皮膚に貼ることでDNAと主要な行動特性が抽出され、ゲノム配列にもとづいて、独自の「デジタル遺伝子」となるデジタルマトリックスを生成するものだ。
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今回のテーマは「未来」に舞台が置かれていたこともあり、参加者からのアイディアも、すでにある課題を考える以上に想像力を働かせて練られたものが多く、大変興味深かった。
また、コンセプトアイディアのみならず、プロダクトデザインやプレゼンテーションまで高度に作りこまれた作品が多く見受けられた。
デザインコンペを開催するメリット
今回、btraxは運営としてこのコンペに参画した。そこで、実際に運営を行ったことで実感している、本コンペで得た学びをまとめてみたい。
1. 主催者のビジョンやテーマに共感する人を集めるブランディング的効果
先述の通り、今回のコンペには、i-PRO自社内外双方へ向けたブランディングに貢献できるものにする狙いがあった。そしてその結果、今回のテーマに共感した方より、多数の応募を獲得できた。
実際に受賞者からは、今回のテーマで提起した課題感に共感したことで、応募を決めたとの声も上がっている。
日本企業は、自社に誇れる技術や実績を持っていることが多い。i-PROも例に漏れず、センシングソリューションの高い技術力と、それらを落とし込んだ優れたデザインのプロダクトを有している。
テーマを決める際にも、今自社にある強みと、これから目指すべき像を掛け合わせたテーマを設定することが重要だと考えている。
今回の場合、i-PROの強みであるセンシングソリューションより「未来の犯罪を解決する」という要素を、また、目指すべき企業像から、「デザインの力で解決する」という要素を導いた。
その結果、「未来の課題をデザインで解決する」というコンセプトと「テクノロジーが発展しすぎた未来社会の犯罪を解決する」というテーマが誕生した。
自分たちが持つ強みを理解をした上で、それとシナジー効果を最大化できるアイディアを練っていくことが鍵になる。
2.「新規事業立案のきっかけ」としてのデザインコンペの可能性の大きさ
また、主に新規事業の立案など、外部を含め新鮮なアイディアを必要としている際、デザインコンペという手段は非常に大きな力を発揮するということも大きな学びであった。
企業内における新規事業の立案やスタートアップとのオープンイノベーションのようなコラボレーションを行う場合、よく取られる手段はざっくりと次のようなものがあるだろう。
- CVC(Cooperate Venture Capital)を設立する
- オープンイノベーション推進部を設立する
つまり、こういった動きには場合によっては、新規部署を立ち上げたり、それに伴う人事異動があったりと、企業側の組織構造レベルの変化が伴う。
しかし、アイディアが集まる場としてデザインコンペを用意することさえできれば、組織構造を変えずとも、あるいは、スタートアップや新進気鋭のアイディアを見つけることに血眼にならずとも、アイディアを集めることが可能だと感じた。
もちろん、コンペへの応募者を募るためのプロモーションは怠れない。
しかし、新規事業のためのアイディアを募る機会としてのデザインコンペの可能性を感じると同時に、応募したくなるような、鋭く、示唆に富んだテーマを掲げることが改めて非常に重要だと感じた。
今後は、今回の受賞者とともに、実際にi-PROのエンジニアたちと共にプロトタイプ制作を検討する機会を設けていく予定である。
終わりに
今回初開催となった「i-PRO Future Design Challenge」の結果とその過程、また背景をご紹介した。
デザインコンペは、テーマの設定や意味付けによっては、世界に向けたブランディングの機会になったり、アイディアを募る場になったりと、様々なビジネスチャンスを秘めた手段であると考えている。
また、最後に、今回i-PROさまと協業できましたことに改めて感謝申し上げます。
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