- デジタル化で遅れをとるファッション業界にもDXの波が到来
- Stitch Fix: サブスク縛りなしのオンラインスタイリングサービス
- Poshmark: 巨大ユーザーコミュニティを持つ「海外版メルカリ」
- Betabrand: ユーザーはデザイナー 共創型ファッションプラットフォーム
- Bolt Threads: 菌類に蜘蛛の糸 次世代素材を提供するバイオ系スタートアップ
- Provenance: 商品の旅路を見える化 消費者に安心を与えるサプライチェーン管理ツール
DXの流れを受け、「XaaS」と呼ばれるモノのサービス化や、デジタルシフトも同様に注目されていることは誰の目にも明らかだろう。
様々な業界がその波に乗ろうと奮闘する中で、今回はファッション業界に焦点を当ててみたい。
ファッションは経済の動きそのものを表しているように思う。衣食住というように、ファッションは人間の生活の基本であり、密接に絡んでいるからこそ、産業の変化が起こるとその影響も受けやすいと考えている。
それと同時に、デジタル化が遅れている業界だとも言われてきた。しかし、今年のコロナショックを受けてDXにまつわる動きが多く聞かれるようになった状況で、ファッション業界もDXの観点を取り入れていくことがより一層求められている。
この記事では、そんなファッションに関連して、テクノロジーをうまく掛け合わせて新たな価値を提供しているサービスを紹介していきたい。
1. Stitch Fix
Stitch Fixは、オンラインのスタイリングサービスだ。AIとプロのスタイリストによってパーソナライズされたコーディネートを提案してもらえる。
コストは、1回につき20ドル。まず最初にユーザーは希望する価格帯とサイズ、体型の他、普段のライフスタイルやファッションに関する姿勢に関する質問にクイズ形式で回答していく。

簡単なクイズ形式でユーザーの体型や嗜好を絞っていく
そして、その後、ユーザー1人1人のために組まれたコーディネートが自宅に届き、気に入ったものはそのままキープして購入可能、買い取らないものは送り返すという仕組みだ。
このサービスの特徴的なところは、サブスクリプションモデルではないところ。この手のサービスは、サブスク型であることがもはや前提のルールのようになっている印象があるが、1回のみの利用が可能で、サービスを試すハードルが低い。
サブスクにありがちな、うっかりステータスの更新を忘れてずるずるとサービスを継続してしまうというミスの心配もない。
プロのスタイリストによるコーディネートの提案とその他のオペレーションにおいて、人間が担うべき領域と、テクノロジーに任せて効率化を図るべきポイントをうまく両立しているところがStitch Fixの強みであり特徴だ。
同社は、今年の発表で、アクティブユーザー数が350万人、前年度比17%増、純収益に関しては、4億5,510万ドル、前年比22%増と報告している。
同社のCEOは、コロナ禍の外出制限を受けて、オフィス向けの商品よりも、アスレジャー(アスレチックとレジャーを合わせた造語)に焦点を当てたことがこの伸びの1つの要因と考えている。
出社の機会が減った代わりに、家で過ごす時間が増え、ヨガウェアやスポーツウェアをはじめとするカジュアルな商品のニーズが高まったのだ。(参考)
2. Poshmark
Poshmarkは、CtoC型ソーシャルコマースサービスだ。北米に6,000万人のコミュニティメンバーを持ち、1億点ものアイテムを取り扱う巨大なプラットフォームである。
その仕組みは「海外版メルカリ」とでも言えるだろうか。売り手は、商品をプラットフォーム上にアップロードして販売する。
そして買い手は、通常のECサイトのように買い物を楽しみ、場合によっては出品者と値段を交渉したり、コメント欄にてサイズやカラーバリエーションの質問などのやりとりを行ったりできる。
また、Instagramの使い方も秀逸だ。サービスに対するユーザーの口コミや写真を中心に、イベント情報まで、様々なコンテンツを投稿している。ユーザー同士の繋がりでサービスが成立しているからこそ、彼らにフォーカスした内容が多い。
サイトにはソーシャルコマースサービスそのものの機能だけを持たせ、ブランドやサービスのイメージを伝えるのにはSNSを使用するという、コンテンツごとに使用するチャンネルの棲み分けもうまく実現していると思う。
3. Betabrand
Betabrandは、2009年にサンフランシスコ拠点に創業したオンラインファッションプラットフォームを提供するスタートアップだ。
注目すべきはその販売形態。看板商品のパンツに関しては、毎週コミュニティ内のユーザーたちからのフィードバックをもとに商品を改善された新商品を販売している。
“Design Projects”と称し、デザインや色から商品のコンセプトそのものに関することまで様々なプロジェクトを公開している。ユーザーは、オンラインで投票をする形で商品に関するフィードバックを送る。商品に対する反応は、SNSのように、Like / Not for meのボタンを使ったり、コメントしたりといった方法もある。

投票形式の商品へのフィードバックページ
また、完全に新しい商品を作る時は、クラウドファンディング形式でBetabrandのコミュニティに支持されたアイデアのみを商品化することにしている。
同ブランドの中でクラウドファンディングをするというのは斬新に思えるが、ユーザーの欲しいものを確実に作り、無駄な生産をしない手段としてとても理にかなっている。

クラウドファンディングのページ
また、Betabrandはほぼ毎週、サンフランシスコの店舗にて新商品の発表の様子をライブ配信をしている。ファンとの直接の対話を重要視している姿勢も窺える。
ユーザーは消費者であり、デザイナーであるというコンセプト、ユーザーとインタラクティブな共創モデルをとっているところがBetabrandのユニークなところだろう。
また、ユーザーの声を反映しているという意味で、ユーザーに対して誠実さを示していると同時に、ユーザーも自分たちの声をブランドに聞いてもらい、目に見えて商品が改善されていくことでブランドに対する信頼感やロイヤリティを感じることができるのではないだろうか。
いわばBetabrandは、ずっとユーザーテストができているような仕組みであり、プロダクトの改善にもユーザーの声をダイレクトに反映できる。
プロトタイプ的に商品をリリースして改善を重ねていくという非常にスタートアップ的な方法を、誰にでも見える形でサービスの前面に出し、オープンにしているところが面白い。
4. Bolt Threads
業界柄、環境に関して問題視されがちだからこそ、サステナビリティについても先進的に取り組んでいる企業が増えているファッション業界。
Bolt Threadsもバイオテクノロジーを活用してサステナブルな素材の開発に取り組んでいるスタートアップの1つだ。Bolt Threadsが製造するのは、最近よく聞かれるようになってきたヴィーガン素材。
『Mylo』は、キノコ類も属する菌類の菌糸の集合体である菌糸体を使用したヴィーガンレザーだ。菌糸体は地中で複雑に絡み合うため、密度が高いことから、高い強度としなやかさを両立できているのだそう。
また、着色や加工もしやすく、従来の動物性の革の代替品として、アディダスやルルレモン、ステラマッカートニーなど、名だたるブランドの商品に使用されている。

Myloはステラマッカートニーの代表的なバッグにも使用されている
その他、蜘蛛の糸を加工した『MICROSILK』という糸素材も製造している。蜘蛛の糸はもともと、高い耐久性や柔らかさなどの優れた特性を持っており、Bolt Threadsは、洋服の製造にも使える糸への加工に成功した。
蜘蛛の糸の部分を活用しているため生態系への影響は少ない上に、生分解(微生物によって無機物へと分解)されるため、廃棄するとしても環境への負荷は小さく抑えることができる。
テクノロジーの中でも、バイオテクノロジーにまつわる知識と、それを製品化するための高い技術力が求められるようになってきていることも、昨今のサステナビリティの潮流を受けたファッション業界の大きな動きの1つと言えるだろう。
5. Provenance
最後にご紹介するProvenanceは、BtoB向けのサービスだ。ファッションだけでなく、小売全般をターゲットにしている。
このサービスは、サプライチェーンの透明化をサポートするプラットフォームだ。
具体的には、商品の素材・原材料から、どのように加工・製造され、配送されるのかといった一連の流れを追跡し、サステナビリティや環境に及ぼすインパクトを中心に、商品にまつわるデータを一括管理することができる。

サプライチェーンの他、ECサイトでは商品ページにライセンスを開示する機能もある
昨今、サービスやプロダクトの背景にある経緯やストーリーに関心を寄せる消費者がどんどん増えてきている。
サステナブルであることを謳っている商品とそうでない商品とでは、売り上げの伸びに5.6倍もの違いがあるというデータも出ているほど、サステナブルであることは商品の購入に大きく関わる要素になってきている。
モノ自体での差別化が難しくなりつつある最近では、これまで付加価値として考えられてきたサステナビリティなどの要素も、もはや必須ポイントとして考えられるようになる日もそう遠くないのではないのだ。
そうなってくると、消費者に見える形で適切にデータを示す姿勢がより一層重要になってくるだろう。
最後に
ファッションを中心に、テクノロジーをうまく活用して新たな価値を提供するサービスを5つご紹介した。日本ではまだ類似サービスを見ないものもいくつかあったかと思う。
ユーザーの声をプロダクトに落とし込むための仕組みや、環境・サステナビリティへの配慮などは、ファッションが衣食住の「衣」という人間の生活の基本だからこそ、丁寧にサービス設計されていると考えられる。
ビートラックスでは、グローバル視点を盛り込んだ新たなコンセプトや事業創出のサポートをしている。ご興味のある方はぜひこちらよりお問い合わせいただきたい。
"Hey! My name’s Connor and I’m a 14 year old entrepreneur with a love for thrifting clothing and flipping them for profit on Poshmark.
• I joined Poshmark back in April of 2018, but I didn’t really start taking it *seriously* until the beginning of 2019. Since then, I have sold over 750 items and my business keeps growing every month. • Fun Fact – I haven’t invested a single penny of my own money into my business. I started out selling my sister’s clothes, and once I got my first $100 check, I went sourcing. Ever since then, I’ve been hooked. • Thanks to Poshmark, I’m hopefully going to be able to buy my first car next year, go to college debt free, and be financially stable through retirement! • Shoutout to my mom for being my chauffeur, thrifting buddy, and unpaid intern
• I currently live in a small town in Illinois, but I’m moving to South Carolina in a couple weeks! (If you’re from SC, HMU!!) • Outside of Poshmark, I am a black belt in martial arts, and I was a lead instructor at a martial arts academy for about 2 years! Since I am moving, I’m no longer an instructor, but after we settle down, I will start testing towards getting my second degree black belt!"

↑Nikeの代表的な製品となったAIR MAXシリーズの第1モデル。
↑『Rana Praza』崩壊は死者1,000人を超えるファッション業界最悪の事故となった
環境のサステイナビリティーの欠如については、ファッション業界は全産業の中で3番目に環境に悪い産業であるとされているのはご存知だろうか。例えば、衣服の製造には大量の水を消費する必要がある。1つのジーンズを作るだけでも、通常の製法で作るとその量は3,800リットル以上(シャワー53回分)もの水が使われるという。またThe World Bankは世界の20%の海洋汚染が衣服の染料によって引き起こされていると発表している。
↑米ロサンゼルス発のブランドReformationはECサイト上には、環境問題への喚起を促すページがある。同ブランドのキャッチコピーは”Being naked is the #1 most sustainable option. We’re #2. : 一番環境に優しいのは何も着ないこと。私たちは2番目ね ”だ。
↑Everlaneは自社のEC上に世界各地の工場の様子を公開。誰がどのように製造されているのかを確認することが出来る。
環境のサステイナビリティーに挑戦しているのはドイツのスポーツブランドのアディダスである。海洋環境保護団体「Parley for the Oceans」協力のもと、海に廃棄されたプラスチックゴミを利用して作ったランニングシューズの販売を開始した。更に“Z.N.E ZERO DYE”と呼ばれる、染色をしない素材本来の風合いを生かした新商品を開発。染色をしないことで、出来るだけ水資源を節約することが狙いだという。これらの例に代表されるように、アディダスは自然環境に配慮した製品づくりを推進し、”サステイナビリティーカンパニー”としてのブランドを作りあげつつある。
↑左:Z.N.E ZERO DYE”を使用しているパーカー
右:海に廃棄されたプラスチックゴミを利用して作られたランニングシューズ
21世紀や22世紀において、これらのようなサステイナビリティーに対して強い問題意識を持った消費者の割合は今と比べられない程高くなるだろう。また機能性やデザイン性にも限界が来る。彼らにとって重要なのは、機能性やデザイン性ではなく、社会問題を解決しているというストーリー性だ。
↑イタリアに建設されているGucci Art Lab の様子
↑GAFA (Google, Amazon, Facebook, Apple) は膨大なユーザーデータを武器に従来の産業分類の枠を超えたビジネスを展開し始めている。
プラットフォームに販売を委託するということは、そんな重要な顧客データの取得のいくらかを諦めることになる。裏返せば、Amazon等プラットフォームにとっての大きな武器とはそのデータである。この状況はファッションブランドにとっては、決して歓迎されることではない。
↑長らく売上1位を維持してきたMacy'sが遂にその座をAmazonに奪われる。ECサイトが百貨店よりも服を売る時代を誰が想像出来ただろうか。
↑Single Day Sale に合わせて開催されたイベントの様子
このようなプラットフォーマー達の圧倒的なサプライチェーンと顧客へのリーチは、単独のブランドだけで築き上げるのは難しい。今後消費者達は何か欲しいものがあるととりあえずAmazonやAlibabaを開くことが増えるだろう。そのようなプラットフォームで自社の商品を扱ってもらうことは、多くのブランドにとって魅力的であることは間違いない。
長らく議論になってきたファッションブランドとプラットフォームと関係性であるが、確かにブランディングや顧客データの面でデメリットはある。しかし圧倒的な規模と成長速度、またブランディングプラットフォームとしての役割を担いつつあることを考えると、協業しない手はないだろう。プラットフォーム上に取り上げられないデメリットが協業するデメリットをはるかに凌ぐ時代はすぐそこまで迫ってきている。 
↑ 超一流デザイナーの作り上げたドレスの中でも際立つ”人間とAI”によってデザインされたドレル
↑ファッション業界を中心に消費材業界でD2Cブランド達の勢いが止まらない
↑ Bonobosは自らの実店舗を販売を一切行わない「Guide Shop」として出店。予約すれば担当のスタッフがコーディネートの相談に乗ってくれる。
店舗数の削減を余儀なくされているファッションブランドであるが、もしECサイト売上げの比率の上昇に対応して店舗を減らしているのだとすれば、それは不十分だろう。ただ単純に売上げ比率の比重をECサイトにもってくるだけではなく、戦略的な店舗の役割を再定義をする必要があるのではないだろうか。
それには根本的な仕組みの変革までもが必要になるだろう。確かに、既存ブランドであれ、D2Cブランドであれ、ECサイトのデザインはオシャレでカッコ良い。しかしそれはあくまで表面的でしかなく、一番の違いは仕組みの部分にあるからだ。
このシェアリングエコノミーは空いている部屋や座席だけに留まらず、所有物のレンタルという新しい潮流をも生み出している。今やサンフランシスコでは定番となったGetaroundは所有している車を他人に貸し出せるサービスであり、Armaiumではスタイリストがその人に向けて選んだ洋服やバッグをレンタル出来る。とてもじゃないが購入出来ない憧れの高級車やブランド品も、レンタルであれば気軽に使用することが出来る。この流れは業界を問わずあらゆる分野で加速することになるだろう。
そんな「シェア出来ないもの」の販売に挑戦している例がスタートトゥデイのプライベートブランドである「ゾゾ(ZOZO)」である。大きな話題となった採寸用のボディスーツである「ゾゾスーツ(ZOZOSUIT)」は、着用者の身体の詳細な採寸データを数値化することが出来る。これにより従来のS・M・Lのサイズ展開ではなし得なかった、その人だけの為の洋服を作り上げることが出来るのである。現在はTシャツとデニムだけの展開であるが、その数はどんどん増えていくことになるだろう。
今までラグジュアリーの意味してきたものとは、素材や機能、デザイン性に優れた商品であった。高級車や高級ブランドバッグ等がその例である。しかし、これからは「シェア出来るものはシェアする」時代である。ミレニアル世代やジェネレーションZ世代の「所有しない”贅沢”」という価値感も合わさり、所有することに対する価値はどんどん薄れていくだろう。そんな時代においてのラグジュアリーとは、「決して他人にシェア出来ないもの」になる。まさに、ラグジュアリーの再定義が起ころうとしているのだ。
今回の記事では「ウェアラブルデバイス」・「実店舗」・「ラグジュアリー」という3つの言葉の再定義に注目した。後半では、労働搾取や大量廃棄といった長らく抱えているものから、プラットフォーマーとの協業という近年に急速に重要性が高まってきたものまで、ファッション業界が抱えている問題について注目したい。
参考記事
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