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新サービスの初期ユーザー獲得に意外と有効なオフライン施策

新サービスの初期ユーザー獲得に意外と有効なオフライン施策

新サービスの初期ユーザー獲得に意外と有効なオフライン施策

user acquisition
freshtrax読者の方ならご存知の通り、ここ10年程でサンフランシスコではサービス開発の手法が大きく変化した。ユーザーを中心に捉え、デザインのプロセスを通して課題解決を図るそのプロセスは数多くのサービス・プロダクトを生み出してきた。 そうして生まれた新たなサービス・プロダクトが必ず通るのが「初期ユーザー獲得」のフェーズだ。いくら問題を解決する革新的なソリューションを生み出したとしても、それを使ってくれる人がいなければ何の意味もない。しかしこうしたスタートアップは資金が潤沢にあるわけではないことから、かなり地道な方法でユーザー獲得に励んでいたのは「マジックなんてなかった!スタートアップ企業の初期ユーザー獲得方法」で紹介した通りだ。 また、このような新サービス・プロダクトを広めるにあたっては、従来のプロモーションのように大規模に予算をつぎ込んで行うという手法ではなく、デザイン思考のプロセスのように仮説⇒実践⇒検証という実験的なサイクルを複数回すことで、最も効果の高い手法を特定していくことが求められる。 btraxでもこれまで新サービス・プロダクトを広めるサポートをオンライン・オフライン問わずに広く行ってきたわけだが、その中でも意外に効果のある手法もあった。そこで、今回は、btraxが実践してきた初期ユーザ―獲得方法から3つご紹介したい。

意外と効果大 ポストに届けるダイレクトメール

まずご紹介したいのはダイレクトメールだ。と言ってもInsagramやeメールのことを言っているのではない。オフラインのダイレクトメール、ポストに届くアレである。 意外かもしれないが、ダイレクトメールを活用しているスタートアップはこの最新テクノロジーで溢れるサンフランシスコ・ベイエリアに結構存在している。頻繁にやっているところでいくと、自動車保険スタートアップのMetromileは筆者の家にも月1回程度のペースでダイレクトメールを送ってくる。封筒にチラシが入っているタイプのものである。 アメリカではUSPS(米国郵政公社)が行っているEDDM(Every Door Direct Mail)という面白いサービスがある。USPSのウェブサイトに行くと、各郵便番号内の細かいエリアごとに、指定した年齢層の割合と、平均所得を見ることができるのだが、このデータを基にターゲットが多く存在する郵便番号を指定し、ダイレクトメールを送れるのだ。

btraxでは高齢者層獲得に活用

実際にbtraxでは、高齢者層をターゲットとしたサービスのダイレクトメールをこのEDDMという仕組みを利用して送ったことがある。高齢者が多く、かつ所得の高い地域を予算の範囲内で複数指定し、クライアントが開発していた新規サービスへのサインナップを促すダイレクトメールを送ったのである。 実際オンライン広告に比べると1通あたりにかかるコストは大きいのだが、一方で高いサインナップ率を獲得することができた。計画段階ではオフラインで受け取ったダイレクトメールに記載されたURLをわざわざパソコンやモバイルに打ち込んでランディングページを訪れ、そこからさらにサインナップをしてくれる人が果たしてどのくらいいるのか不安だったのが、いい意味で裏切られた結果となった。ターゲットが高齢者ということもあったため、よりダイレクトメールに親和性が高かったこともあったのだろう。

スタートアップのためのDMサービスも人気

他にもShare Locial Mediaという、ダイレクトメールの制作・発送を行うスタートアップもある。ポストカードのようなダイレクトメールが、似たような他のビジネスの分と複数で1つの封筒に入って届けられる仕組みで、Blue Apron、Lyft、ThirdLove等のスタートアップがこれまでに利用している。まさにスタートアップのためのスタートアップだ。 Lyft DMShare Local Mediaのウェブサイトより引用) Share Local Mediaがターゲットにするのは大都市部の高所得者層で、年齢は25~49歳が中心。ターゲットは5種類に分けられ、eコマース(ジェンダー共通/男性/女性)と、母親層、そしてその地域に新たに引っ越して来た層である。これらのグループの中から1つ指定し、自社のダイレクトメールを他社のものと共に届けてもらうことができる。 毎日山のように目にし、スルーすることに慣れてしまっているオンライン広告やeメールニュースレターと比べて、ポストに届いたものは1つずつ確認する人が多く、ターゲットにメッセージが届きやすいのだろう。そういう意味では、ターゲットリーチにおいて存在感を出す手段として多くのスタートアップがダイレクトメールを利用するのも納得できる。

実物を体感してもらう 草の根ポップアップ展示

もし新たなプロダクトのユーザーを獲得したいのなら、ポップアップ展示は非常に有効だ。もちろんb8taのような新プロダクトを展示するスペースに出品できれば大きいが、それ以外にも地道に草の根活動で展示する方法はある。

クライアント企業内に昼寝部屋を設置

btraxでは以前海外のマットレスメーカーの日本進出をお手伝いした際、ローンチ前のユーザー獲得活動の一環として、他のクライアント企業に掛け合い、各企業内に昼寝部屋を設置するという試みを行った。 日本の働き盛りのビジネスパーソンの就寝時間が短いことは有名だが、同時に仕事の生産性UPに対する昼寝の効用も認知されつつあったことから、マットレスのプロモーションとしても企業の生産性対策としてもちょうどいい施策となったのである。 実際には企業に会議室の1室をご提供いただき、その部屋を2週間の間「昼寝部屋」とし、マットレスを置いて社員の皆さんに自由にマットレスを体験してもらった。その後同フロアの社員の皆さんにアンケートを送付し、回答者には特別割引コードを差し上げた。 また、ある企業ではホワイトボードがあったため、体験した社員の皆さんに自由にコメントを書いてもらうようにしたのところ、非常に正直な意見を沢山いただくことができた。ちなみにbtraxのクライアント企業のご厚意で場所の使用コストはかからず、発生したのは運搬コストのみであった。

サンフランシスコのランニングイベントで靴下展示

アメリカでも同様の草の根ポップアップを行った事例がある。日本の靴下メーカーのアメリカ進出をサポートした際は、同社のランニングソックスの初期ユーザーを獲得するためにサンフランシスコのランニングイベントでポップアップ展示をした。 pop-up store サンフランシスコは今年アメリカ国内170都市の中で最もヘルシーな都市に選ばれたことからもわかるように、健康意識が非常に高く、ランニングイベントも多数開催されている。そこでランナーたちにリーチし、実際にプロダクトに対するフィードバックをもらうことを実施。 ランナーの中にはサンフランシスコ・ベイエリアの住民が多いため、新サービスやプロダクトへの興味が強く、フィードバックを惜しまない。ローンチ後の今でもランニングイベントの主催団体と提携し、月に1度のイベントで定期的にポップアップ展示を行っている。

究極に地道だが有効 オフラインでユーザーをスカウト

気が遠くなるような作業に思えるかもしれないが、実は結構効果的なのが1人1人に声をかける方法だ。手作り商品のオンラインマーケットプレイスEtsyも創業当初はメンバーが実際のクラフトフェアに赴き1人1人のユーザーに対してピッチしたという成功例もあるが、どのスタートアップも一度は検討した方法なのではないだろうか。 なぜそう考えるかというと、btraxがとあるスタートアップのお手伝いでこの活動をしたときに、声をかけた殆どの人が非常に好意的な反応だったからだ。 ターゲットは小さな子を持つ親世代で、主に公園で活動していたのだが、声をかけると皆小さな子供がいるにもかかわらず、手を止めて非常に熱心に話を聞いてくれた。中には、「今どのステージにいるの?」とスタートアップの資金調達状況に興味を持つ人までいた。

実践方法は超シンプル

ちなみにオフラインでユーザーをスカウトする方法は至極シンプルである。用意したものはサービスのコンセプトを書いたチラシとサービスロゴを入れて作った粗品。これらを携え、公園に赴き、親子連れを見かけると「ちょっと今お話ししてもいいですか?」と声をかけ、サービス内容に関するピッチを繰り返した。 また、親をターゲットにしたミートアップイベントにも参加し、隣合わせた人から「何のお仕事をされているんですか?」と聞かれた際に「実はこういうことをしておりまして…」とサービスの説明を行った。 こうして獲得した彼らはテストユーザーとして、サービス改善に関する貴重なインサイトを提供してくれたのだが、この方法はもしかしたらサンフランシスコ・ベイエリアだからこそ成り立つ方法なのかもしれない。ここは街全体でスタートアップに協力的で、住人は新サービスが生まれる場に立ち会うことに慣れていて好奇心旺盛だ。 知らない人に声をかけづらい空気があり、初対面の人にネガティブなフィードバックを出すのを憚る日本では少しハードルが高いかもしれないが、やってみる価値はあるだろう。

まとめ

今回ご紹介した事例はどれも全く新しいものではなく、むしろ非常に古典的な方法だ。しかしオンラインで広告が溢れる時代に、意外と有効であるというのはおわかりいただけたのではないだろうか。btraxでは新サービス・プロダクト開発のみならずその後の初期ユーザー獲得まで一貫してサポートできるのがbtraxの強みだ。ご興味のある方は是非お問い合わせを。

【2018年】マーケティングの未来はITトレンドの先にあり?マーケティング施策7つのまとめ

2018 marketing trends
2017年のマーケティング施策の結果はいかがだっただろうか。反省・改善点を踏まえ、2018年のマーケティングトレンドをキャッチし、新たな戦略へのヒントにしていただきたい。 そこで今回は2018年マーケティングトレンドを様々な分野と関連してまとめた。一見マーケティングには関係ないと思えるような最新技術の活用や、そこにある潜在的なマーケットのチャンスなど、業界関係なく検討すべき把握しておきたいものばかりとなった。 関連記事:【2018年】ITの最新トレンド10大予測

自動車産業、音声認識、iPhoneの技術進歩から見えるトレンド

1. 自動運転車の未来には新しいメディアチャネルの機会があり?

自動運転業の勢いはマーケターもマークしておくべきことがある。まずはその勢いについて例をあげると、自動運転車開発会社であるWaymoは400百マイル(644㎞)もの自動運転車の試運転をアメリカの一般道で実施済みであり、Tesla、Audi、Mercedes-Benz、BMWなど多くの高級車が自動運転機能を持ち始め、大手自動車配給サービス会社Uberは約19億ドル(1900億円)ものVolvoを購入したというのである。 現在市場に出ている機能はクルーズコントロールや自動ブレーキなど部分的な自動機能であるが、先に述べた勢いを踏まえると、今後かなりのスピートで全自動へシフトしていくことなる。そしてこの進歩が進むにつれ、運転手が運転に集中する必要が無くなってくるはずだ。 そうなると、彼らはその代わりに他に何をするのか。何かしらのコンテンツを消費するという選択肢が考えられないだろうか。つまり乗客は自動運転車のカーナビに流れる映像を見たり、スマートフォンをいじったりする時間が増えるということである。UberやLyftなど商用の自動運転車に関しては車内広告などが普及してくるかもしれない。 map of Autonomous Vehicle Industry ↑の写真はリンクより引用。大手メーカーがテクノロジーを強みとした新興企業とタイアップしていることがわかる

2. 音声検索のための最適化がSEOの勝ち組に残る鍵?

Googleによると2016年にあった検索の約20%が音声認識を使ったものだったという。また、アメリカ国内のアンドロイドユーザーに絞ると25%という驚きの数字がある。これは2020年までに50%にまで上昇するとも予測されており、ウェブマーケティング従事者にとって、音声による検索のためのウェブサイト最適化が必要になると言える。 なお、音声による入力はタイピングより簡単なので、1回の検索でたくさんの単語が入ると予想される。つまり、一般的に少数の単語を検索キーワードとするのではなく、より具体的かつ多くの単語に引っ掛けてコンバージョンを稼ぐようなロングテールなキーワード設定が必要になるのではないだろうか。

3. 新型iPhoneのおかげでARはユーザー、マーケターにとって身近なものになる

まだ記憶にも新しいiOS11には、「ARKit」というAR(拡張現実)アプリ開発フレームワークが搭載されている。ARを使ったアプリやコンテンツ作成のオープンソース化がいよいよAppleからなされたのである。また企業のARコンテンツ開発にも開発の進捗が見られる。例えばメジャーリーグベースボール(MLB)のiPhoneアプリは試合中にiPhoneを通してコートを見ると、画面上に打率や選手の情報が出てくるという。また大手家具小売店、IKEAはスマートフォンを通して、実際に家の中に家具を配置してみた様子がわかるARアプリを開発してる。 iPhoneにAR機能が加わったのはただの新機能ではなくコンテンツマーケティングなどにおいてゲームチェンジャーととらえるべきだろう。もしかしたらインスタ映えではなくAR映えといったコンテンツが人気になることもありえるかもしれない。 AR MLB case ↑の写真はEngadgetより引用

まだマーケティング実務に時間を費やしているの?人工知能によるスマートな処理

4. マシーンラーニングによるマーケティングオートメーション

技術的には目新しくはないが、マシンラーニングはマーケティング分野でも実用レベルで使えるところまできている。使ってから短期間でもその導入効果がわかりやすかったり、最近では低額で始められるプランもあるので気軽さが高くなってきている。代理店に高いお金払う必要なく、マーケターは基本設定だけ登録しておけば良いのでミスや人件費の削減、的確な分析に基づく効果が期待できるためさらに浸透していきそうである。

5. AIによるメッセージ管理

業界全体を通してこの機能のROIはまだないが、期待値は高い。特にオンラインビジネスにおいてメッセージ機能の重要性が高くなっていることは下記に挙げるデータからも言える。   1)世界で使われているアプリ上位10個のうち、6つがメッセージングアプリである 2)消費者の65%は企業に問い合わせをするよりメッセージングアプリを使うことを好む また、AIを使ったチャットボットによる顧客サポートで大幅に業務のコストを減らせるという点や迅速で的確な対応によるサービスの向上ができる点を達成できれば、売上利益に大いに貢献できる要素なのでは。 関連記事:人工知能(AI)や機械に絶対奪われない3つのスキル

ソーシャルメディアマーケティングの重点チャネルを見極めよう

6. インスタグラムの台頭

インスタグラムは2017年9月時点で毎月のアクティブユーザーが8億人に達したと発表した。ソーシャルメディアの重鎮、Fecebookは20億人なので数字的には差はあるものの、インスタグラムの勢いと今後の期待値は高い。2016年下半期に追加となったインスタグラムのストーリー機能は、類似機能の先駆けであったスナップチャットを1年足らずであっさり抜いた。またブランドエンゲージが他のチャネルより高かったり、広告の規制などもよりソーシャルメディアマーケティングに注力をしているブランドを呼び込む要素になっているという。 またEコマースプラットフォームがインスタグラムフィードから商品詳細情報やそのまま買い物ページに飛ぶことができるような機能を始めたり、インスタグラム側もショッピング機能を強化したりと、ビジュアルからブランドの確率と、購買に繋げるルートが確立されていきそうである。 snapchat vs instagram stories ↑の写真はrecodeより引用

7. Twitterは落ち込み気味

Twitterはユーザー獲得に苦しんでいるようだ。2017年の第二四半期にはマンスリーアクティブユーザー数が全く増えなかったという事実もある。そのため2018年はユーザー獲得に手を焼き、広告機能や劇的な新機能の追加などは期待できなさそうである。 関連記事:オンラインブランドのソーシャルメディア活用事例ー成功の秘訣は”ユーザーを巻き込む”こと

まとめ

今回は自動車産業、音声認識、新型iPhone(AR)、人工知能、ソーシャルメディアなど一見マーケティングに関係ないように思える最新技術のトレンドを列挙した。しかし、これらは今後マーケティング活動に大きな影響を与える可能性がある。今までの成功事例や経験を元に作り出すマーケティング施策の実行も大事だが、投資家が最新技術に出資をするようにマーケターも新しい技術を意識したチャレンジングな投資的マーケティングも必要なのかもしれない。 参考:18 Marketing Trends to Watch in 2018

【2017年】社会への問題提起を行ったブランドプロモーション4選

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2017年ももう残りわずか。今年はどんな1年でだっただろうか。今回の記事は、2017年をブランドプロモーションの観点から振り返り、今年注目を集めた4つのプロモーションをご紹介したい。キーワードは”社会への問題提起”だ。

Heineken:飲んで、語って、新しい世界を広げよう

heineken_worldapart 日本で放送されているビールのCMと言えば、芸能人が「ゴクゴク」と音を立てながら美味しそうにビールを飲み干すというのが一般的ではないだろうか。しかし、オランダのビール製造会社であるハイネケンが打ち出した広告は従来のCMとは全く違うアプローチであった。

一緒に作業をしたパートナーが実は自分と全く異なる思想を持っていたら?

“World’s Apart”と名付けられたこの動画広告に登場するのは3組の2人組。それぞれフェミニストと反フェミニスト、環境活動家と温暖化懐疑者、そしてトランスジェンダーとトランスフォビアといったというように正反対の思想を持っている者同士。 最初はお互いの思想について一切知らされることなく、2人はスピーカーからの指示に従い共同作業を行っていく。次第に打ち解けていき会話が弾むようになってきた2人であったが、あるタイミングでお互いの思想がVTRによって明かされる。 先ほどまで仲良く作業をしていた相方が自分と正反対の思想を持っていると知り、困惑する2人。そこで最後の司令としてアナウンスされるのが、「この場を退場するか、ビールを飲みながら話し合いをするか、どちらかを選んでください」というもの。最後に彼らが下した決断は話し合いをし、お互いの意見を聞き合うことだった。 [embed]https://youtu.be/8wYXw4K0A3g[/embed] 今年の4月20日に公開されたこの動画は瞬く間に反響を呼び、わずか8日間で3,000,000 view を達成。現在までに14,605,509 回再生されている。

2017年の大ベストセラー:サピエンス全史

このCMを視聴して頭を過ぎったのが、2017年に出版されベストセラーとなった”Sapiens”。日本でも「サピエンス全史」との邦題で発売され、読まれた方も多いではないだろうか。 全編を通して非常に興味深い内容だったのだが、このCMを見て思い出したのが特に、「(ホモ)サピエンスは認知科学以降、遺伝子や環境の変化をまったく必要とせずに新しい行動を後の世代へと伝えていった」という一文。一見当たり前にも聞こえるが、生物学の視点から生物全体の行動を見渡してみると、これがいかに特異な特徴であることに気が付く。 例えば、DNA的に人間と似ているチンパンジーにもこれは起こり得ない。本文の言葉をそのまま借りれば、「一般に、遺伝子の突然変異なしには、社会的行動の重大な変化は起こり得ない。... チンパンジーのメスが、親戚のボノボから教訓を得てフェミニスト革命を起こすことはありえない。 … 行動におけるそのような劇的な変化は、チンパンジーのDNAに変化があったときにしか起こらない。」のである。 sapiens (↑「2017年に読んだおすすめの本は?」と聞かれたらこの本を勧める。まだ読まれていない方は年末年始の休みにぜひ。)

物語を語り、共感し、信頼し合う力

しかし、私たちサピエンスはチンパンジーとは違い、行動を変えるのに環境因子も遺伝子要因も必要としない。では、どのように行動を変化させるのか。本の中でその理由としてあげられているのが「物語を語り、共感し、信頼し合うこと」である。 このCMの最後で映し出される正反対の思想を持つ者同士がビールを飲みながら語り合う姿。その光景に私たち人間だけが実現出来る、DNAでも環境因子でもなく物語を語ることによる行動の変化への期待を抱かずにはいられない。 参考: サピエンス全史 関連記事: ストーリーこそがブランド価値の源泉である

Burger King:AI時代の炎上マーケティング

burgerking_googlehome ”AIの時代が来た”。2017年は何度もこのフレーズを耳にする年になった。多くの会社が投資を加速させる中、データの蓄積量という観点で見れば、先頭を走っているのはGoogleだろう。そんなGoogleのAIを呼ぶ際に使うフレーズといえばもうおなじみの、”Ok, Google”。この魔法の言葉を利用し、AI時代における炎上マーケティングを行った会社がある。それはアメリカのハンバーガーチェーンBurger Kingだ。 問題となっているのはBurger Kingのメイン商品であるワッパーバーガーの宣伝のために作られた15秒のこの動画。 [embed]https://youtu.be/t7Krn-DH3tw?t=19s[/embed] 動画の中でBuerger Kingの従業員は、15秒でこの商品の魅力を伝えるのは短すぎることを語る。そしてカメラを呼び寄せ、「Ok Google, ワッパーバーガーってなに?」と言い放ち、そこで動画は終了する。

Google Homeが”勝手に”喋り出す

ここからの体験は2つのパターンに別れる。もし視聴者がGoogle Homeを持っていなければここで広告は終了。持っていた場合には驚きの"続き”を楽しむことが出来る。 その続きの広告とはCMの中で彼の”OK, google”に反応して喋りだす自宅のGoogle Homeのこと。「Wikipediaによると、ワッパーバーガーは添加物の入っていない、100%牛肉で作られたパティを直火で焼いたものに、トマト、玉ねぎ、レタス、ピクルスを載せ、ケチャップ、マヨネーズと一緒に、ゴマ付きのバンズでは挟んだバーガーのことです」と、15秒ではとても伝えきれない、細かい情報を自宅のGoogle Homeから聞くことが出来る。

スマートホームIoTの危険性

2017年に普及率が爆発的に高まったものと言えば、Amazon Alexaを始めとするスマートホームIoT。それを上手く利用したユーモアのある面白い広告である。しかし、同時に音声インターフェイスが潜在的に持っていた危険性を顕在化させてしまったとも言えるかもしれない。2018年以降、どのように進化していくのか期待したい。

VETEMENTS:アパレル業界の抱える問題を”衣服の山”で表現

vetements_logo 世界でも有数のブランド街を挙げる上で外せないのがニューヨークの5番街。 マンハッタンのど真ん中に位置するこの通りは世界中の名だたるブランドが店を構えている。その中でも一際目を引くのが、ラグジュアリーデパートSAKS FIFTH AVENUEである。大きなウィンドウディスプレイには季節に応じた、きらびやかな装飾が施され、毎シーズン必ずディスプレイをチェックしに行くというファッション関係者達も多い。 そんな世界中から注目の集まるこのウィンドウで、2017年の7月に常識覆すディスプレイを行ったブランドある。それが今年最も注目を集めたフランス発ブランド、「VETEMENTS」である。彼らがディスプレイすることに決めたのは「無造作に積まれた衣服の山」であった。 vetements_saks_window Photo : Michael Ross

ファッション業界の過剰生産問題に対するアンチテーゼ

ブランドの世界観を全世界に伝えられるこの絶好の機会に、彼らから世界中のファッション関係者達へと放たれたメッセージは「ファッション業界の過剰生産に対する問題提起」だったのだ。↓はディスプレイと同時に投稿されたInstagramの投稿とその内容の日本語訳である。 vetements_instagram (Vetements Official Instagramより) ”ほとんどのブランドがゴミを作っています。在庫の山がアウトレットや倉庫に積み重なり、誰にも購入されないことが多い。偽りの数字を追いかけ、安定した成長の報告の為に、この業界は過剰生産という問題から目をそらしています。Saksはこの問題について話合う機会をこのメインウィンドウを通して提供してくれました。私たちは少ないことが豊かになる場合もあるということに気付く必要があります。

仕掛け人は2017年最注目のデザイナー

Demna GvasaliaPhoto: HYPEBEAST このVETEMENTSを率いているのがDemna Gvasalia (デムナ・ヴァザリア)。2017年最も注目度の高かったファッションデザイナーを1人と教えて欲しいと言われれば、ファッション関係者の多くが彼の名前をあげるだろう。 Alexander WangからBalenciagaのクリエイティブディレクターも受け継いだ彼は、2017年の第三四半期において、Gucciを抜き、同ブランドを最もホットなブランドへと押し上げるのに成功。彼の影響力は徐々に一般の人にも伝わってきており、近年ファストファッションブランドの”コピー”の標的になっているのは彼の作り上げた特徴的なシルエットであることは近くのショップに行ってみれば明らかだ。 参考:Fashion’s Hottest Brands and Top Selling Products in Q3 毎年最先端のトレンドを発表するキラキラした舞台のばかりが取り上げられがちなアパレル業界。しかし、その裏側には”伝統”を振りかざし、時代遅れのシステムが隠れていることも少なくないのが現実である。彼がディスプレイを通して発信した”過剰生産問題”もそのうちの一つ。2018年に彼がどんなアンチテーゼを行うのか、目が離せない。 関連記事:Direct to Consumer (D2C) 躍進の理由と大企業のジレンマ

Apple:『iPadが示す”コンピューター”の未来』

apple Appleといえば、毎年オシャレでカッコ良い広告を出す会社の一つ。先月iPhone Xの発売を開始し、大きな話題になったことも記憶に新しい。しかし今回はそのスマートフォンではなく、彼らが今年から発表したタブレット端末のCMに注目したい。先日公開されたばかりの iPad ProのCMである。 [embed]https://youtu.be/sQB2NjhJHvY[/embed] 動画の中で切り取られているのはiPad Proを使いこなす少女の日常。特徴的なのは決して机の前には座らないこと。芝生や階段、時には木の上でタブレットを使用する様子が描かれている。 その中でも注目したいのは最後の10秒の間でかわされる親子の会話だ。
What are you doing on your computer?
What’s a computer?
たった10個の単語で構成される会話のキャッチボール。しかし、ここにAppleが考えるコンピューターの未来が隠れているのはないだろうか。

1991年に執筆された論文:”21世紀のコンピューター”

この動画を見た時、頭に過ぎったのは1991年に執筆されたXerox のパロアルト研究所のマーク・ワイザーによる論文、「21世紀のコンピューター」だった。彼はこんな書き出しで読者の心を未来予想の世界へと引き込んでいく。 「最も革新的なテクノロジーとは消滅するものである。日常生活に溶け込こんでいき、次第に生活の一部として当たり前の存在となる 」 この2文で始まる彼の思い描くコンピューターの未来の姿。さらに、彼はその姿を表現する重要な言葉として「ユビキタス・コンピューティング」という言葉を提唱し、このような意味を与えた。 「人間に深く浸透している技術とはもはやその存在を感じさせない。…『筆記』という記憶を凌駕する技術をもはや技術だと思わなくなったように。 … 私の提唱する『ユビキタス・コンピューティング』とはただビーチにノートパソコンを持って行けるようになることではない。… コンピューターの存在を『意識しなくなる』と言っているのだ」 関連記事:今さら聞けないユーザーインターフェイス (UI) の基本

VRでもARでもなく、iPadにだからこそ感じるこれからのコンピューターの未来

彼の未来予想図と現在の世の中を比べてみるとどうだろうか。2017年のテクノロジー業界において、バズワードして飛び交ったVRとAR。しかし、これはマーク・ワイザーが思い描いていた世界とは異なる。特別な道具を装着して初めて体験出来る世界とはユビキタス・コンピューティングとはまさに正反対の場所に位置すると言えるだろう。 では、そんな彼の思い描く世界を実現し得るどんなデバイスなのか。ラップトップにもVRにもARにも抱けない可能性を、このiPad Proからは感じることが出来るのではないだろうか。

コンピューターが人間の生活に”溶け込んだ”世界

「『筆記』という技術」と同じように、やがてコンピューターも人間に深く浸透し、やがて生活に溶け込んでいくだろう。そうなれば、人間はコンピューターの存在を意識することなく、まるで自分の能力が拡張されたかのような錯覚に陥ることになる。 それは丁度、この動画の中少女が草むらの中で見つけた虫を写真に撮りその上に落書きをしていたのと同じような感覚だろうか。カメラではなくiPadで写真を撮り、ボールペンではなくApple Pencilで落書きしている彼女に、コンピューターを使っている意識は全く無いだろう。 iPad_pro 遠くない未来に待っているであろう、コンピューターが私たちの生活に完全に”溶け込んだ”世界。Appleによる未来予想図がこの動画によって表現されているようでならない。少女がiPadを持って街を駆け回る世界。そこでは”コンピューター”なんて言葉は時代遅れになっているかもしれない。だから、この動画のタイトルは”What's a computer”なのである。 参考:The Computer for the 21st Century