イノベーションが生まれ続けるサンフランシスコの生活とは

innovation san francisco
皆さんはサンフランシスコに住む人々の生活を明確に描けるだろうか?どのように生活し、どのように仕事しているか、想像できるだろうか。今回は、我々サンフランシスコで働く人の生活の中に浸透しているテクノロジーを、衣食住(仕事)という切り口で紹介し、サンフランシスコがイノベーションを生み出し続ける街である所以をお伝えしたいと思う。
  • 衣:便利なだけではないオンラインファッションブランドの魅力
  • 食:オンラインサービスを使った方がより便利でお得という価値が確実に広まりつつある
  • 住(働く):サンフランシスコのイノベーションを生む、自分にあった仕事環境と通勤スタイルの選択

サンフランシスコは今もなお最新テクノロジーの発信源

btraxではイノベーションブースタープログラムを提供しているが、参加者には最長2ヶ月間サンフランシスコに滞在していただいている。その滞在のなかではプログラムに参加する以外にも、サンフランシスコの色々な最新サービスを自ら試し、自分たちのサービスアイデアに活かしている。 たとえば同プログラムに参加された日本の大手シンクタンクの社員の方々はサンフランシスコ市内で利用したUberの乗車時に、思いの外ドライバーと会話を楽しんだようで、サンフランシスコに住む人のようにサービスの価値を体験したようだった。 関連記事:日本でイノベーションが生まれにくいと思った3つのポイント サンフランシスコでは生活のあちこちにテクノロジーが浸透している。大手スタートアップの本社があったり、新しいスタートアップが次々と生まれたりする環境ということもあり、最新のサービスのテストマーケットとなることも少なくない。 また、ここで暮らす人の最新サービスに対する関心が高く、アーリーアダプターも多いため、新しいサービスが生活の一部になる速度が早い

サンフランシスコから離れて初めて気付く、テクノロジーと隣り合わせの生活

筆者はサンフランシスコに3年ほど住んでいるが、恥ずかしながら自分の生活にそこまでテクノロジーが浸透しているとは思わず、自分が依存しているとも思っていなかった。しかしその認識が間違っていたことに気付かされたきっかけとなったのは、先日休暇兼リモートワークで訪れたハワイである。 ハワイ、オアフ島は言わずと知れた観光業の盛んな土地であり、特にテクノロジーが盛んなイメージは当然ながらない。とはいってもアメリカ国内なのである程度はサンフランシスコで使ってるサービスも浸透していると思っていた。 しかしながらハワイに2週間ほど滞在して、普段のように生活、仕事ができずに不便を感じることが多かった。そしてその不便の多くはサンフランシスコのテクノロジーによって成り立っていた生活体験ができなかったからである。 一方で、ハワイならではのテクノロジーの使われ方も垣間見ることができたのも事実である。 Hawaii sharing bike (ハワイにあったシェアリング自転車のbiki) そこで今回は筆者のような文系サラリーマンでさえもサンフランシスコではテクノロジーに生活を支えられているという点をあたらめてまとめてみた。 また今回筆者はサンフランシスコを離れて暮らしてみてどれだけサンフランシスコが特別な環境なのかを実感したわけなのだが、特にスタートアップ、新しいビジネスアイデア、サービスを考えている人に、ここにどんな特別な環境があるのかということを知っていただければ幸いである。

衣:便利なだけではないオンラインファッションブランドの魅力

サンフランシスコはデザインやアートが盛んだったり、ヒップスターやヒッピーなど個性的なスタイルが根付いていたり、ファッション感度が比較的高い都市だ。ファッション業界の中でもテクノロジーという切り口でトレンドの勢いを増している。

買い物不要!便利などころか、専属スタイリストがつくサブスクリプションサービス

サンフランシスコの生活の中に浸透してきているファッション業界のスタートアップの中に、サブスクリプションやキュレートボックスなどの形態でおしゃれさと便利さを追求しているブランドがある。 2011年創業のStitch Fixはユーザーの好みやサイズを元に、パーソナライズされたスタイリングをキュレートしてユーザーに届けるサービスだが、2017年にはアメリカで11番目に大きいアパレル・靴のオンライン小売ブランドとまでなった。その成長率はAmazonを超える。 stitch fix (Stitck Fixから届く箱の中身のイメージ。写真は公式サイトより転載) ユーザーに届けられる5セットのスタイリングはStitch Fix独自のアルゴリズムから選ばれたものだが、スタイリストからのコメントもついており、テクノロジーとマニュアルのバランスが取られている。 好みに沿った服が届くのは大前提だが、ユーザーは数日間のうちに試着をしてみてサイズが合わなかったり、好みでなかったりしたら返却することができる。もちろん気に入れば購入ができる。 実店舗が次から次へと閉店して数が少なくなりつつある昨今、オフラインで購入をしようとすると消費者は店舗に行くまでに以前よりも時間をかけ、さらにその中から自分の好きな服、サイズを探さなくてはいけなくなった。 一方Stitch Fixは探すという行為を無くしてくれた。買い物をする時間があまりないけどテキトーな服でいいわけじゃない、もしくは何を着るべきかの助言が欲しかったりする人は、うってつけのサービスなのだ。 またテック企業を中心に女性起業家などの活躍が目立ってきている中、彼女たちの仕事ぶりだけでなくライフスタイルも注目されてきており、特に働く女性にとってファッションは忙しくても妥協したくないという思いが強くなってきているのではないだろうか。

購入だけじゃなく試着から返品までも自宅で完結できるようになる

さらに衣類のオンライン購入で消費者の悩みのポイントのひとつになっているのが、事前に本物の商品をみて試着ができないという点だが、返却サービスの提供、簡易化をすることでこのハードルを下げている。 大手Amazonに至ってはAmazon Prime会員限定で、Amazon Prime Wardroabというサービスを開始した。ユーザーが購入を考えている商品を選択すると、その商品が届き、自宅で購入前に試着ができるという仕組みである。 同封されている返却用の伝票を使えば、無料で返却商品の引き取りをしにきてくれたり、試着した商品の中から購入をすればさらに割引が得られたりと、事前に試着ができないという悩みの解決以上にお得なサービスを提供しているのである。 服だけに限らないアメリカの返品文化というのはオンラインでも同様に存在しているようだ。むしろオンラインでの返品サービスには今までより便利に使い続けられる工夫がみえる。 関連記事:アパレル業界の未来を予測!知っておくべき6つの現象【前編】

食:オンラインサービスを使った方がより便利でお得という価値が確実に広まりつつある

探す・予約・注文・受け取り。あらゆる外食体験がシームレスになりつつある

サンフランシスコは山手線内回り約2個ぶん程の大きさ*でありながら約4,400のレストランがあるという。当然レストランなどの飲食店の口コミサイトというのはサンフランシスコでもよく使われている。 その中でもYelpは有名で、実名による口コミだけではなく持ち帰りやデリバリーのオーダー、席の予約もアプリ内で行うことができる。本来はデリバリーを行っていないレストランの代わりにデリバリーするサービスはGrubHubPostmatesUberEatsなどかなり主流になってきた。 さらに最近ではGoogle Mapsがロケーションと時間に応じてレストランやオススメのアクティビティなどを地図上に表示してくるようになった。自分が検索してから決定までの操作を繰り返すうちに、より個人にあったオススメを表示してくれるようになるのであろう。 関連記事:小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題

オンラインは便利だけどお値段高めなんてことはなくなってきている

また、サンフランシスコの物価の高さはいつも悩みの一つで、外食も例外ではない。平日のランチであっても10〜15ドルかかるのが普通で、お財布に優しいオプションはいつも歓迎される。 そこに目をつけたのがMealPalというサービスである。日々のランチ(もしくはディナー)をサブスクリプション式で購入して、各レストランが1種類ずつ提供しているメニューから好きなものを事前に選び、自分でお店まで取りに行くというもの。 お店側にとっては決まったメニューを決まった量分作りやすいので1食5〜6ドル程度で提供ができるのである。サンフランシスコ界隈で働く人の間で広がりを見せている。 また日々の食材の買い物についてもAmazonFreshInstacartといったオンライングローサリーデリバリーサービスが、便利かつ、店頭販売価格とさほど変わらないお得さをメリットに浸透してきている。 sf food price table (食材価格サンフランシスコとアメリカの比較。こちらのサイトより転載) オンラインの注文は配達までに時間がかかる、店舗の方が安いというような消費者の心配はどんどんなくなってきていると言えるだろう。

住(働く):サンフランシスコのイノベーションを生む、自分にあった仕事環境と通勤スタイルの選択

住宅よりも働く空間によりサンフランシスコらしさが垣間見られると思うのでオフィススペースについても述べておく。

働く場所はどこでも良いけどどこでも同じという訳ではない

まずサンフランシスコではリモートワークは主流であることが街を歩いていてもわかる。日中カフェに入れば仕事をしている人を多く見かけるし、「今日はカフェで仕事してから午後オフィスにちょっと寄る予定」といったようなパターンをよく聞く。 会社のデスク以外で仕事ができるというのは会社の規則によって許可されているということだけでなく、サンフランシスコの多くのカフェなどでWiFiやコンセントなど働くことを前提にした場所がたくさんあるということでもある。 カフェなどの飲食店だけでなく、日本にも進出したWeWorkImpact Hubなどのコワーキングスペースも多くみられる。 利用者が自分の執務スペースだけでなくネットワークの構築やそこから起こりうるコラボレーションの機会を求めていることもこのようなコワーキングスペースが流行る理由であり、そのようなマインドを持つ人が多いこともまたサンフランシスコならではだ。

みんな同じである必要はない、通勤スタイル

また、通勤においてサンフランシスコ界隈で働く人の多くに利用されているのはシェアリングサービスである。 関連記事:【2017年最新版】コワーキングスペース 世界の8トレンド ドライバーの自家用車に相乗りしてライドをシェアをするUberは通勤ではさほど主流ではないものの、特定のルートを走る小型シャトルをシェアするChariotや、通勤者同士で運転手、乗客をマッチングするScoopFord GoBikeJUMP Bikesの提供する自転車もサンフランシスコ市内で展開されており、激戦区となっている。 ちなみに以前フライング気味でサービスが一部始まってしまったBirdLimeBikeSPINといったシェアキックスクーターも、2018年8月現在はサンフランシスコ市交通局の許可待ちの状態ではあるが各社資金調達に成功しており、勢いを増している。 テクノロジーとは少し離れるが、ローラーブレードやスケートボードで出勤をする人も見かけるあたり、サンフランシスコでは通勤においてもダイバーシティが認められ、それぞれが自分にあったスタイルを選択していることがわかる。 こういった姿もサンフランシスコのライフスタイルを形成する重要な要素と言わざるを得ない。 関連記事:サンフランシスコが取り組む通勤イノベーション

サンフランシスコのどういった人がこのような生活をしているのか

ここまで紹介したサービスは何も特別なものではなく、むしろサンフランシスコに長く住んでいる人であれば聞いたこと、使ったことのあるようなものばかりである。 エンジニアでも投資家でも起業家でもない筆者のような文系サラリーマンでも最新テクノロジーの情報が耳に入り、実際に見てその広がりを実感している。 (実際にアメリカ国内でもベイエリアのスタートアップは一番多くの投資を受けて拡大していることがわかるこちらのサイトより転載) これは間違いなくサンフランシスコ唯一無二の特徴だ。そして各サービスの広がりを見ているとサンフランシスコの以下のようなユーザーが、サービス拡大の根源を支えてくれていることがわかった。 まず、サンフランシスコ界隈にいる利用者の最新サービスに対する関心が高いので、新しいサービスへの抵抗が低い。人は得てして今まで使っていたものに慣れているから現状維持を選びがちだが、テック企業で働いている人や投資家などは新しいサービスを聞きつけるのも早いし、まずは使ってみたいという精神が強いアーリーアダプターが比較的多い。 この人たちによって、さらにそのサービスの情報や評判が広まっていく。 そしてさらに、アーリーアダプターを中心に使ってくれるので改善点がより早い段階で出てサービスの改善へと繋がっていくというサイクルがある。サンフランシスコはよく新サービスの試運転対象エリアとなることが多いのもそれが理由であろう。 btraxが日本の大手電機メーカー向けに行ったプロジェクトでも新規ユーザーを探すために、街で開発段階のサービスをテストしてもらえる人を探し、ユーザーインタビューを行った。 全く知らないサービスをテストして見知らぬ我々に協力してくれる人が少なからずいるということ、そして彼らが具体的にそのサービスを使うシーンを想定して共有してくれるフィードバックの質の良さは、やはりサンフランシスコならではでないかと改めて実感した。 関連記事:マジックなんてなかった!スタートアップ企業の初期ユーザー獲得方法

まとめ

今回、サンフランシスコを出てハワイで生活をしている時に感じたことをきっかけに、こういったテクノロジーを中心としたライフスタイルについて振り返ったわけだが、やはりアメリカ国内とはいえサンフランシスコは他の都市とは全く異なる特徴がある。 筆者はテクノロジーを追い求めてサンフランシスコにきたわけではないが、そんな筆者の生活にもあらゆる面でテクノロジーが浸透してきていた。 ハワイでUberを使った際には、サンフランシスコで主流である1台のUberを他のユーザーと相乗りすることで安価に乗車できるUber Poolというプランがなかったため、毎回ひとりでも1台をチャーターしなければならず、非常にお金がかかってしまった。 またハワイ、特にワイキキ周辺は働きにくるような場所ではないので当たり前かもしれないが、WiFiやコンセントのあるカフェがほとんどなく、コワーキングスペースもなかなかの過疎っぷりだった(事実、筆者が訪れたハワイのコワーキングスペースは訪問後数日後にクローズした)。 またサンフランシスコで新サービスの拡大を目の当たりにしたり、btraxプロジェクトで実際にサービス開発のサポートをしたりしたことを振り返ってみると、やはりサンフランシスコがどれだけ特別な場所なのかがわかる。 シリコンバレーを中心に世界トップレベルの技術力を持っているということはサンフランシスコ、ベイエリアの特徴の一部でしかない。 起業家精神のある人や最新サービスに対する感度の高い人が集まり、時には彼らが交わりながらまた新しいアイデアが生まれ育っている。こういった環境の中、ビジネスアイデアを作って育てて行けることがどれほど有効かは、先に紹介したサービスの例からもわかっていただけると思う。 サンフランシスコ、シリコンバレーだけが起業をできる唯一の環境というわけではないが、ここで暮らし、この環境にふれ、ここで試しながらサービスを発展させていくということはどの都市で行うよりも濃いイノベーションが起こせるのではないだろうか。 参考: ・Stitch Fix Proves Again That Data Is The New Hit FashionMealPal gobbles $20M for its restaurant meal subscription serviceShared electric scooters probably won’t return to SF until August *サンフランシスコ面積山手線内回り大きさ

イノベーションの力でアメリカを健康に!フード系スタートアップの活躍

food startup
「スタートアップ」という言葉がだいぶ浸透し、日本でもアントレプレナー向けのミートアップや起業家を育成するようなプログラムや施設が増えてきた。そんな今だからこそ改めて触れておきたい点がある。 それは成功している多くのスタートアップは問題を解決するために生まれてきたということだ。ユーザーの理解から始まり、問題を特定をし、新しい価値のあるソリューションを提供し続けることで急成長を成し遂げてきたのである。 関連記事:今さら聞けないリーンスタートアップの基本 こういったスタートアップのなかでも、特に注目したいのがフード系だ。アメリカの食料問題、特に肥満の問題は非常に深刻で、彼らはその解決に取り組んでいる。彼らがすごいのは現在明らかになっている問題の解決だけではない。 サービスを通して、ユーザーの社会問題に対する貢献度や達成感を与えることでユーザーの自己実現欲求を満たし、一つの問題解決以上の価値を提供しているのだ。 日本は世界的に見ても健康意識の高い国だが、それでも食品ロス、中高年を中心として生活習慣病、食品偽装、異物混入(食の透明性)などの問題が根強く残るのも事実。このような社会問題を解決するためにアメリカではどのようなスタートアップが生まれ、それがどのようにユーザーに受け入れられているのかを紹介したい。 関連記事:【農業 × テクノロジー】食の未来を変革する最新アグリテックサービスまとめ5選

アメリカの肥満問題は食品不足が一因だった

アメリカが肥満大国なのは有名な話だが、その問題を調べていくと、アメリカ特有の理由や様々な問題が絡み合っていることが見えてくる。 まず肥満問題の深刻度合いについて簡単に説明すると、アメリカの20歳以上の成人で太っている(オーバーウェイト:一般的にBMI指数が25-29.9)もしくは肥満(オビース:一般的にBMI指数が30以上)の人の割合は全体の約70%にも及ぶ。肥満の増加率は減ってきたという報告こそあるものの、肥満は未だにアメリカで深刻な問題の一つでなのである。 america is fatter than ever (写真はこちらのサイトより転載) また肥満によってもたらされる病気の医療コストは年間1500億ドル、肥満による生産性の損失も何十億ドルとも言われ、経済的な面からも非常に深刻な問題となっている。 アメリカの肥満という問題には様々な背景が関係しているが、「地方」と「低所得」がキーワードとなりそうである。アメリカで太っている人の割合が高いのは、飲食店が多くあるような都市部を擁する州ではなく、実は南部を中心とした地方エリアなのだ。 このようなエリアは農作物や健康的な食べ物を取り扱うスーパーが近くになく、フードデザート(食べ物砂漠)と呼ばれており、実に2300万人がフードデザート地域に住んでいると言われている。 またこのような地域の中でもファストフードやコンビニエンスストアへのアクセスの方が良い地域(フード沼、food swampsとも呼ばれる)も存在し、スーパーがないだけよりも肥満への貢献度が高いとの調査もある。さらに低所得者の世帯は、肥満により患った病気に対する医療費が払えないなど悪循環が続いているのだ。

食品は不足しているのに大量に廃棄されているという問題も

食品が行き届いていない問題がある一方で、皮肉にも大量の食品廃棄が発生している現実もある。実際にアメリカでは毎日約15万トンの食べ物が廃棄されているという。一人当たりにすると約450グラムを捨てているということだ。さらにこれらの食べ物を生産するのに使っている水、土、ガソリンなどのエネルギーも無駄にしていることを考えると、無視できない問題である。 ちなみに2016年には米国農務省と環境保護庁が「2030年までに食品廃棄を50%減らす」という目標を発表した。企業に加え、NPO、個人消費者に対しても協力が求めれれており、各州や市レベルで制度が整えられ始めている。

加工食品ブランドに対する不信感

このような食品不足と食品廃棄が発生しているアメリカの食生活には、さらに悪影響とも言える習慣がある。それは加工食品が日常の食卓に並ぶことだ。 アメリカのフードマスマーケットでは、加工食品の大手ブランドが存在感を放っている。マクドナルドやコカ・コーラやペプシなどの炭酸飲料メーカー、クラフト、キャンベルスープなどの加工食品メーカーがこれまでの広がりを見せることができたのは価格を少しでも下げることを可能にした大量生産システムがあったからこそ。 また、アメリカ全土に商品を行き渡らせることができるだけの流通網、全国的に認知度を上げるための広告資金があったことも関係するだろう。そしてその結果、これらの加工食品は広くアメリカの食卓に浸透していったのだ。 major food brands (写真はこちらのサイトより転載。加工食品を含むコンシューマー商品業界マップ。これら中に健康的と言える食品が果たしてどのくらいあるだろうか) しかし最近になって、これらの加工食品ブランドは消費者からの信頼を失いつつある。実際に消費者からの需要が減ってきたため、一部の大手スーパーでは取り扱う加工食品を少なくするための見直しが行われている。 その一因となっているのが、一部のブランドの遺伝子組み換えや非倫理的な生産方法といったサステイナビリティの問題が明るみに出てきたことだ。さらに大手ブランドがアメリカ全土に食品を行き渡らせているということは、運ぶのにそれだけ排気ガスを使っているというのと、ローカルの農作物を差し置いて売られている可能性があるということ。 このようなサステナブルでない食品加工物が求められなくなってきた現在、支持されるフードブランドのあり方が変わりつつある。 関連記事:ミレニアルにはブランドネームではなく体験を売れ!ー 炭酸飲料大手企業の挑戦

これらの問題に取り組むために始まったスタートアップ

食品不足による肥満、食品廃棄、サステナビリティ。これらの課題に問題意識を持って解決を試みるスタートアップが勢いをつけている。以下に紹介するスタートアップは皆アメリカの食に関する問題に対して様々なアプローチでサービスを提供している。

1. Imperfect Produce:インスタ映えはしないが質が保たれた食材を提供

2015年にベイエリアでスタートした、見た目が不揃いのため廃棄する予定だった食材を買い取り、サブスクリプション式でスーパーよりも安価な食材を販売しているスタートアップ。 彼らの買い取り元は大手からローカルの小さなオーガニックの農家までにわたり、コミュニティーへ大きく貢献している。彼らは創業から約2年で1800トンもの捨てられるはずだった食材を廃棄することなく引き取ったという。 また、彼らはオーガニック食材も扱い、サービスを通して無駄にならなかった水や二酸化炭素の量を計算して、サステイナビリティの状況を把握している。ローカルの農家やフードバンクとも積極的にパートナーシップを組み、持続可能な地域づくりにも貢献している。 imperfect produce_insta (写真はImperfect Produceインスタグラムより転載)

2. Full Harvest:廃棄食材のマッチングを行う

Full Harvestは農家が持て余した形が不揃いの野菜や果物を、レストランやジュースストアなどが他よりも安く食材を購入することができるB2B向けの廃棄食材マッチングプラットフォームだ。 もともと創業者のChristine Moseleyはオーガニックのコールドプレスジュースストア事業の拡大に従事していたが、高品質の食材を扱っていたため、そのコールドプレスジュースは1本13ドルもしていたという。 彼女がこの価格になってしまう理由を探っていると、コールドプレスジュースに使う食材はプレスされるのに、見た目が綺麗で高品質なフルーツや野菜を使っていたことがわかり、まずはここを変えられないかを検討。さらにサプライチェーンを探っていくと、大量の食材廃棄があることにショックを受けた。 そして彼女は、農家が売れないと判断していた高品質な食材と、実は食材の見た目はそれほど重要ではないが、できるだけ良心的な価格で良いものを売りたいお店側を繋げるというサービスを開始するに至ったのである。

3. Copia:食べ残しを回収して必要な人に寄付する

Copiaは企業ででた余剰食品を、非営利団体に提供しているサービスだ。アメリカ、特にシリコンバレーエリアの企業では企業が社員向けにケータリングの食事を提供したり、福利厚生の一部で無料スナックがオフィスに並んでいたり、食事付きのイベントやカンファレンスがあったりと、食に溢れている一方で、食べ残しも発生している。それらの食べ物をCopiaのドライバーが綺麗に包み、非営利団体まで運ぶという仕組みである。 企業側にとって利点となるのは、Copiaのデータを元にどの食べ物によく余りが出るのか、どのくらいの量が適切なのかがわかるので、次の購入の決定がしやすくなるということだ。 先ほど挙げた通り、連邦政府が食品廃棄問題対策に動き出しているため、企業として食品廃棄を出し続けることは今後コンプライアンス違反にもなりかねない。Copiaの利用はそんな問題を回避できるうえに、社会問題解決に貢献しているという満足感を与えることも企業ユーザーにとってはメリットとなっているようだ。 copia food waste impact (写真はCopiaウェブサイトより転載。無駄にしなかったものの効果の金額シミュレーションを表示)

まとめ:自分が食べている食べ物の本当の価値を見つめ直し、問題解決に多角的に取り組む

肥満、食品不足、食品廃棄などアメリカの食にまつわる問題は誰が見ても明らかである。この問題を多かれ少なかれ実際に体験した人が、問題を突き詰め、解決しなくてはいけない!という信念を持って始めたスタートアップが広まってきている。 さらに今まで大手ブランドが提供してきた加工商品が疑われるようになり、それらの商品を売るためのマーケティングやロジスティックスなどはかつてのように効果がなくなり始めている。 食べているものがどのように作られ、どのように運ばれ、どのように消化されているのかを知り、食べ物の本質に対する認識が高まってきた今だからこそ、このような問題解決に取り組むスタートアップが支持され、ユーザーもそこに貢献することに新しい価値を見出しているのではないだろうか。 フード系スタートアップを調べていくと、実体験や調査などで現状の問題とユーザーを理解し、課題を明らかにし、新しい価値のあるサービス・商品を提供していくことがスタートアップビジネスには欠かせないことが改めてわかる。 また、今回紹介したフード系スタートアップの問題には、一般消費者、一般企業(スーパー、レストラン、ファストフードチェーンなど)、食品会社、農家、低所得者など多くの人が絡んでいることがわかる。彼らユーザーをあらゆる方面からを理解し、問題を見極めて価値を提供できるように取り組むことが重要になっていると言える。 参考:

ミレニアル世代のマインドセットを捉えて成功したスタートアップ事例

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資産運用会社であるAlliance Bernsteinのアナリストによると、2018年の今年にミレニアル世代(1980-2004年ごろ生まれ)の購買力は、ベビーブーマー世代を超えると見られている。 そのため、ミレニアル世代のマインドセットを理解することが世の中のマインドセットの変化を捉えるために重要だと言える。 特に食習慣は顕著にマインドセットの変化が現れやすく、他の世代とも比較しやすい。現にミレニアル世代の食習慣に関するマインドセットは今のフード業界のトレンドの要因となっている。 この記事ではそんなミレニアル世代の食にまつわるマインドセットの変化と、それらをうまく捉えているスタートアップの事例を紹介したい。

ミレニアル世代は健康意識が高い

米マーケティング会社CBDの行った調査によると、ミレニアル世代の健康意識が他の世代に比べて高いことがわかっている。これ以外にもミレニアル世代に関する調査は多く発表されているが、総じてミレニアル世代の健康意識は高く、ヨガや運動に積極的で、アルコールもあまり摂取しなくなったと言われている。

野菜・オーガニック食品が人気。食品選びも健康を意識

また、食事に対しても健康意識が現れており、米マーケティング会社NPDの行った調査によると、米国の40歳以下の1人あたりの生野菜、冷凍野菜の消費量がともにこの10年で50%以上増加していることがわかっている。NPDのリサーチアナリストによると、今後もミレニアル世代以下による野菜消費量が増えていくとしている。 実際に、北米のオーガニック食品促進団体のOTAの調査によると、米国のオーガニック食品を最も購買している世代がミレニアル世代ということがわかっている。さらに子を持つ親となったミレニアル世代は子どもの健康にも気を遣いオーガニック食品を選ぶ傾向があるということが明らかになった。 同調査によると、アメリカでのオーガニック食品消費は過去最大になっており、売上高では約5兆円規模に拡大しているという。調査ではこれらの主な要因はミレニアル世代だと指摘されている。 これらの傾向から今後もオーガニック食品などの健康意識にマッチした食品ニーズが高まっていくと言える。 現に、アメリカの主なオーガニック系スーパーであるTrader Joe’sWhole Foodsなどは売上を伸ばしている。グローバル市場調査会社のResearch and Marketsの調査によると、従来のスーパーマーケットが2007年以来顧客ベースの年平均成長率で減少傾向にあるにもかかわらず、Trader Joe’sは5.9%、Whole Foodsは4.9%の年平均成長率を達成しており、オーガニック食品への意識の高まりがうかがえる。

Plentyはオーガニック野菜の栽培・流通を効果的に行う

agritech-plenty 上記のようなフードトレンドがある中で、生産性の高い屋内での水耕栽培を実現させたPlentyは、農業スタートアップとして約250億円という過去最高の資金調達を行った。 屋内での水耕栽培のメリットは、何と言ってもクリーンな野菜を効率よく生産できる点だ。Plentyでは独自に設計されたポール状のタワーで栽培を行うことで、従来の農法と比較した場合、同じ面積で350倍の生産を可能にし、95%も少ない水で葉物野菜の他、イチゴなどを栽培している。将来的には、従来生産コストが高く栽培難易度の高い野菜や果物も栽培可能になる見込みだという。 また、赤外線センサーを張り巡らして作物をモニタリングすることで得られたビッグデータから機械学習を行い、アルゴリズムが光、温度、水などを調節することでより美味しい作物の生産が可能になっている。 都市近郊に工場を建設し、オーガニック野菜という価値だけでなく、
  • 物流コストの削減および都市部に供給するためにかかる環境負担の軽減
  • 新鮮
  • ローカルで作られた野菜
という価値を前面に押し出している。 同社はサンフランシスコ以外にも日本や、他の国と比べて農薬が2倍ほど使用されていると言われている中国でも事業拡大を目指している。

たんぱく質も重要視している

米広告マーケティング会社のAcostaの調査によると、ミレニアル世代の約80%が、食品購買時にたんぱく質が含まれているかを非常に重要であると回答していることがわかっている。また、ミレニアル世代より上の世代に上がるにつれて減少していることもわかっている。 健康志向の強いミレニアル世代間で増えているベジタリアンやヴィ―ガンといわれる菜食主義者もたんぱく質を重要視しており、植物性の代用肉からたんぱく質を摂取している。世界的な市場調査・コンサルティング会社であるMarkets and Marketsの調査によると、代用肉市場は今年2018年に約4,700億円に達し、2023年には約6,500億円に拡大すると見ており、急成長する市場の一つとして注目されている

Memphis Meatsは動物を殺さない人工肉を実現する

https://www.youtube.com/watch?v=Y027yLT2QY0 サンフランシスコに拠点を置くMemphis Meatsは、牛からとった幹細胞を培養して牛肉を作っている。Microsoftのビル・ゲイツや世界的な実業家として知られるリチャード・ブランソンら、その他著名な投資家が同社に総額約18.5億円を出資している。 リチャード・ブランソンは、ブルームバーグ・ニュースの取材に対し、
「向こう30年ほどで、私たちは動物を殺す必要がなくなり、(供給される)全ての食肉は現在と同じ味を保ったまま、クリーンな肉、または植物原料の肉になるだろう。それらは同時に、私たちにとってより健康的なものになるはずだ」
と述べている。 持続可能なオーガニック食品として、上記のようなミレニアル世代のマインドセットをうまく捉えつつ、人間の長期的な課題を解決しようと試みている。

ミレニアル世代は外食・デリバリーが好き

アメリカ農務省のレポートによると、ミレニアル世代の外食頻度が他の世代に比べて多いことがわかっている。同調査の分析によると、ミレニアル世代は約2週間に1回の割合で外食をするという。 また、アメリカ合衆国労働省労働当局の調査によると、ミレニアル世代はベビーブーマー世代(団塊の世代)に比べ、総支出が14%下回っているにもかかわらず、ベビーブーマー世代は外食、デリバリーに週平均$47.65支出するのに対し、ミレニアル世代は週平均$50.75と多く支出することがわかっている。 ミレニアル世代の健康志向や、外食・デリバリーが多い傾向からSakara LifeProvenance Mealといったオーガニック食品によるフードデリバリーや菜食主義者のためのフードデリバリーを行うサービスが増えている。

Zume Pizzaは焼き上がりのピザをデリバリーする

https://www.youtube.com/watch?v=VKlvVTgOCEA シリコンバレーにあるZume Pizaは、人が移動中に調理するという法律違反を、移動中に車内でロボットがピザを焼き上げることで解決している。 この一連の「移動中に調理する」という特許により、食べる2分前に焼きあがるピザをデリバリーしている。 多くのピザ屋では、チーズが配達中に溶けた状態になるように保存料などの化学調味料を使用するが、Zume Pizzaでは保存料を使う必要がないため、健康的であるということもアピールしている。 Zume Pizza Pod また、100%リサイクル可能なサトウキビ繊維でできたピザのパッケージは、保湿性が高く、特殊な形状により、残ったピザのサイズに合わせて折りたためるようにもなっている。 こうした画期的なユーザーエクスペリエンスと要所要所にユーザーのマインドセットを反映させることで、他社との差別化を図り、ミレニアル世代の支持を得ることができる。

まとめ

小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題」という記事でも紹介したように、今回の事例でも、世の中の変化に対応するためにはまず、ユーザー中心のマインドセットが必要となることがわかる。 ではそのようなマインドセットはどうしたら身につくのだろうか?btraxでは、スタートアップとデザインの本場サンフランシスコにて、イノベーションブースターというワークショップ型プログラムを通じてそうしたマインドセットを習得する機会を企業向けに提供している。ご興味のある方は是非お問い合わせを。

小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題

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小売業は現在、変革期に差し掛かっている。おそらくここ数年で大きな変化が訪れる産業の一つである。 その証拠として、実店舗型の小売業者の経営破綻、店舗閉鎖が相次いている。それらはEコマースやデジタルの普及が影響を与えていることは明らかだが、消費者が実店舗よりもAmazonなどのEコマースを選んだとは単純に言い切れないのである。

Eコマースは小売業界の売上高のほんの一部でしかない

実際に、NRF(全米小売協会)が毎年出している全米の小売業界の売上高ランキング2017年版によると、上位10社が
  1. Wal-Mart Stores
  2. The Kroger Co.
  3. Costco
  4. The Home Depot
  5. CVS Caremark
  6. Walgreens Boots Alliance
  7. Amazon.com
  8. Target
  9. Lowe's Companies
  10. Albertsons Companies
  と、Amazon以外は主に実店舗型を展開する企業となっている。また、デジタルマーケティング、商業などに関する市場調査を提供するeMarketerの調査によると、2017年時点でAmazonのEコマース売上高が全米全体のEコマース売上高の44%ほどを占めているにもかかわらず、全米全体のEコマースの売上高は総小売売上高の9%ほどにしか満たないことから、Eコマースがさほど影響を与えているわけではないことがわかる。

デジタルネイティヴの世代も実店舗を好む

さらには、世界最大の商業用不動産サービスや投資を行うCBREのミレニアル世代を対象とした2016年の調査では、世界のミレニアル世代(1980~2000年前後生まれ)の70%が実店舗を好むことがわかっている。また、回答者のほぼ半数が店内で製品を実際に見たり、触ったりして、すぐに購入したいと考えており、店内での体験が重要だということがわかる。 上記の理由から、実店舗の影響力がいまだに強いことがわかる。

Amazonも実店舗への進出を進めている

実際にEコマース大手のAmazonは2017年に米食品スーパーのWhole Foods Marketを137億ドルという、これまでの最高額で買収し、実店舗への展開を進めている。また、店内での買い物体験をよりスムーズにした、レジなしスーパーのAmazon Go1号店をシアトルにオープンしている。また、近々サンフランシスコとシカゴにも出店するとも言われている。 こうした傾向やAmazonの動きから、小売業界全体が次なる変革のためにAIやIoT技術を活用し、業務の効率化や在庫管理による食料廃棄の削減、革新的なユーザー体験の実現を目指している。 この動きに伴い、それらを実現しようとするスタートアップが今注目を浴びている。そのなかでも本記事では、食料品小売ビジネスに注力しているスタートアップを紹介したい。どのような技術で課題解決を行おうとしているかを注目してもらいたい。

食料品小売業界の技術マーケットマップ

食料品小売店技術マーケットマップ引用: CB insights まず紹介したいのは食料品小売業界における技術マーケットマップである。ちなみにこれは各技術カテゴリにおけるすべてのスタートアップを網羅するものではない。また、一部のスタートアップは複数のカテゴリにまたがってサービスを提供している場合もあるが、主要サービスの事例に沿って分類している。 各技術カテゴリは以下のような課題解決を目指している。
  • リアルタイムシェルフ管理 - AI技術とカメラを駆使し、陳列した商品の状態や商品ブランドシェア率、品切れ、一度手に取ったが戻した商品のデータなどの情報を提供。在庫管理プロセスの改善だけでなく、効果的な商品陳列や商品ブランドのパッケージデザインの改善に役立てることができる。
  • ストアロボット&チャットロボット - 店舗にロボットを配置することで、顧客への挨拶や対応、在庫の管理だけでなく陳列の自動化などが期待できる。また、顧客行動などの貴重なデータの蓄積が可能で、顧客からの苦情を減らすなど店舗の最適化が期待できる。
  • AR・VRツール - 拡張現実を利用し、店舗の棚や通路などのレイアウトのシミュレーションを低コストかつ即座に行うことを可能にする。また、実際に拡張現実内でユーザビリティテストを行うことにより、顧客の視点や行動から彼らの心がどこに向いているかなどのデータも提供する。
  • インタラクティブ・ディスプレイ - インタラクティブとは双方向を意味する言葉であり、店舗に配置したディスプレイ上でクーポンやその日のセール情報を表示し、顧客がそこからお買い得情報を取得することを可能にする。それにより顧客に来店を促すなど、エンゲージメント促進を実現している。
  • デジタルラベル - 顧客が商品をスキャンすると詳細な商品情報を表示。商品に対する透明性を高め、顧客に安心と満足度を提供する。
  • ビーコン&ロケーショントラッキング - スマートフォンのアプリとビーコン、センサー、Wi-Fi信号を紐付け、顧客の行動をトラッキングすることによって店舗のレイアウトの最適化や、特定の位置で顧客に応じたイベントを発生させることが可能になる。今後はこの技術を応用し、ユーザーがスマートフォンのアプリのボタンひとつで、店員を自ら探すことなく自身の場所へ呼ぶことも可能になるかもしれない。
  • 店舗管理 - 決済処理や在庫管理などの機能を統合した幅広いソフトウェアプラットフォームを提供。業務の効率化を実現し、特に中小規模の小売食品店に効果が期待できる。
  • クーポン・ポイント・キャッシュバック - 顧客に報酬型のクーポンやポイント、キャッシュバックを提供するプラットフォームを提供。例えば、特定の商品の購入や、アンケートへの回答などの条件を満たした顧客に、クーポンやポイントを付与することで、顧客の商品へのエンゲージメントを促進する。
  • 購買分析 - 商品の売上数や顧客の購入パターンなど店舗レベルで監視、分析するためのソフトウェアプラットフォームを提供。店舗内のデータに基づき、ターゲットを絞ったプロモーシャンや購買分析が可能になる。
  • マーチャンダイジングツール - 顧客の要求に合わせ、適正な商品を適正なタイミングで適正な場所、量、価格で提供するためのツール。マーチャンダイジングの最適化により、コストの削減や増収が見込める。
  • 食料廃棄物管理 - 在庫管理を徹底するツールにより食糧廃棄物を減らす。また、廃棄食料を寄付したり、飼料や肥料に再利用したりするプロセスを提供することでも食料廃棄量削減を実現する。
  • プロモーション最適化 -店舗やブランドのプロモーション戦略を最適化するためのソフトウェアプラットフォームを提供。プロモーションコストの削減・効果の最大化などが期待できる。
  • ストアガーデン - 店舗やレストランの近くに水耕農場を建設することで、地元の食材を安定して提供できるようにする。
こうしてみると、ほとんどのカテゴリで、実店舗の利点であるリアルな顧客の行動データを上手く活用しようとしていることがわかる。 これらの中でも特に注目を浴びているカテゴリにおけるスタートアップ5社を紹介する。

1. Trax: リアルタイムシェルフ管理

https://www.youtube.com/watch?v=VsGnru8zxKE 主要投資家: Warburg Pincus, Investec, Broad Peak Investment 調達額: $138.5M サービス概要: 商品陳列用の棚をスマートフォンやタブレット端末で写真を取るだけで、非常に豊富なデータを即時に得ることができるシステムを提供している。それらのデータをクラウドからレポートとして小売業者や商品ブランド会社にリアルタイム配信することができる。 注目の理由: スマートフォンとタブレットを利用することで、導入にかかる初期費用を大幅に削減することができる。実際に同社のツールを導入したCoca-Cola Hellenic社では在庫を63%削減することに成功。他にも、P&GやNestleなどの大手商品ブランド会社を顧客にしている。

2. simbe: ストアロボット&チャットロボット

simbeストアロボット 主要投資家: SOSV, Comet Labs, Anorak Ventures, Presence Capital, Vijay Pradeep, HAX, Cherubic Ventures, Riot Ventures, Greg Castle 調達額: 未公開 サービス概要: 完全自律型の小売用ロボットを開発、提供している。在庫切れや、在庫不足、誤った場所に置かれた商品、価格設定の誤りなどをスキャンにより判別し、従業員の作業を効率化する。通常の営業時間帯でも動作し、顧客が棚を確認している際には避けるようになっている。 注目の理由: 同社は完全自立型ロボットを世界で初めて開発している企業だ。完全自律型のため、人件費の削減や従業員の負担を削減することができる。また、人的ミスをほぼなくすことが可能になる。調達額が公表されていないことや、世界初の試みという意味でも注目を浴びている。

3. InContext Solutions: AR・VRツール

InContext Solutions VR 主要投資家: Intel Capital, Beringea, Plymouth Growth Partners, Hyde Park Angels 調達額: $42.5M サービス概要: VRシミュレーションにより、店頭レイアウトを簡単に変更することができるプラットフォームを提供。ヒートマップなどにより、顧客の反応を分析することができる。また、商品のパッケージデザインなどもVRにより可視化することができる。 注目の理由: VR技術の活用は建築業界を初め注目を浴びているが、InContext Solutionsは小売業界にフォーカスした企業として注目を浴びている。商品ブランドでは商品サンプルデザインの作成にかかるコストをVRにより大幅に削減することを可能にした。また、実際に仮想上の店舗に商品を配置し顧客の反応をあらかじめ分析することもできる。

4. Ksubaka: インタラクティブ・ディスプレイ

ksubaka主要投資家: Fullshare Holdings Limited, Ksubaka (ジョイントベンチャー) 調達額: $15.3M サービス概要: 店舗にディスプレイを設置し、その画面上でゲームを配信して顧客にプレイしてもらうことで、商品を効果的にプロモーションするサービスを行っている。ディスカウントなどを行わずとも、商品の売上を伸ばすことが可能になる。 注目の理由: 同社が注目を浴びたのは中国のネスレとの間で実施した2か月間ほどのキャンペーンだ。このキャンペーンでは、ゲームに対する顧客のインプレッションが7000万ほど、購買エンゲージメントが100万ほどと大きな効果を生んだ。また、このディスプレイを介して行われた調査では、商品ブランドのミニゲームを終えた後で購入意思が81%増加したこともわかり、インタラクティブディスプレイの効果を大きく証明した。

5. Estimote: ビーコン&ロケーショントラッキング

estimoteビーコン主要投資家: Javelin Venture Partners, BoxGroup, Homebrew, Y Combinator 調達額: $13.9M サービス概要: 小売店や博物館、空港などに設置するビーコンを販売している。ビーコンは、電源とチップセット、通信用アンテナを内蔵した小型デバイスであり、Bluetoothのような通信技術よりもあまり電力を使用しないデバイス間通信を可能にする。これらにより、顧客の位置トラッキングによる情報の取得だけでなく、特定の顧客があるディスプレイの前を通過したさいなどに、特定の映像を流すなどのイベントを発生させることができる。 注目の理由: Y Combinatorから出資を受け、2012年以降からセンサネットワークと低電力ソフトウェアを提供している同社は、iBeacon互換のビーコンを初めて取り扱った企業であり、この分野では間違いなく現状トップであるといえる。現実世界で位置情報を使い、特定の個人に向けてパーソナライズされたイベントを発生させることは、スマートフォンが普及したユビキタス社会ならではのサービスといえる。また、ビーコン自体が安価なこと、エンジニア用にSDKがあるため、エンジニアを中心に個人の利用や活用が見出されている。

まとめ

小売業界での最も身近な進歩といえば、セルフレジであったが、他の業界と比較してみると過去数十年にわたって見られた進歩の中では遅れていると言える。しかし、小売業界での実店舗の重要性が見直され、ユーザー体験の向上が求められるようになり、AIやIoT技術により小売業界を変革しようとするスタートアップが増えてきた今、その進歩のスピードは急加速するだろう。 ここで忘れてはならないのは、技術ありきでは進歩は実現しないということだ。実際にユーザー体験を向上させるには、それらの技術を駆使する前にユーザー中心のマインドセットが必要になる。現在のような変革期に対応するためには、テクノロジーや情報に精通するだけでなく、それらを活用するためのマインドセットがより今後重要になるだろう。

シェアサイクル事業問題から見るサンフランシスコ市の意思決定の早さ

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サンフランシスコ市では2013年より市交通局を主体として、『ベイエリア・バイクシェア・パイロットプロジェクト』を実施している。 このプロジェクトでは、サンフランシスコ市交通局と民間のシェアサイクル運営会社である「Motivate」が提携し、シェアサイクルの普及・拡大を促進させ、
  • 交通渋滞の緩和
  • 移動効率の改善
  • 市民の健康管理
などを目的としている。 2017年の夏には、「Ford Mortor Company」によるスポンサーシップなどにより、「Ford GoBike」として、320ほどのステーションと4,500台ほどのシェアサイクルが導入されている。 fordgobikestation 「Ford GoBike」のステーションマップ - 公式サイトより こうして現在シェアサイクルはサンフランシスコ市民にとって馴染みのあるものになっているのだが、2018年に入り、
  • どこでも乗り捨て可能なステーションレス型のシェアサイクルである「JUMP Bike」(1月)
  • 同様に乗り捨て可能な電動シェアスクーターの「LimeBike」「Bird」 「Spin」(4月)
が突如として市街地に現れた。 「Ford Gobike」と同様に、「JUMP Bike」はサンフランシスコ市交通局と協力体制を得て実証実験を行っているが、電動シェアスクーターの運営会社である「LimeBike」、「Bird」、「Spin」の3社は市の許可を得ずに運営を始めた。 サンフランシスコ市民は新しいテクノロジーやモノに寛容なため、すぐにサービスを利用するユーザーが多く、それが違法だということにもかかわらず、あたかも電動シェアスクーターが数年前から存在していたように錯覚してしまう。 「さすがはサンフランシスコ。日本とは違ってそういったことには行政も寛容なのだろう。」と思われるかもしれないが、当初サンフランシスコ市は怒っていた。 その後裏側でしっかりとしたプロセスを踏み、驚異的な早さで意思決定と法整備を行った。 では具体的にどういった問題が発生し、市としてどのような問題解決を行っているのだろうか?また、これらの問題からシェアサイクル事業の課題点について言及したい。

ステーションレス型電動シェアスクーター「LimeBike」「Bird」「Spin」とは

limebikes-bird奥からLimeBike、Bird 現在、サンフランシスコ市街では上記の画像のようなステーションレス型の電動シェアスクーターが点在している。乗り方はとてもシンプルで、アプリを起動し、近くのスクーターを探し、QRコードをかざすだけだ。

ステーションレス型は投資評価額が高い

electricscooter-company 引用: CB insights 「LimeBike」「Bird」「Spin」3社はともに投資を受けている。 「LimeBike」はすでに世界各国でシェアサイクル事業を展開しており、投資額が高い。同様に「Bird」も巨額の投資を受けている。ちなみに同社のCEOはTravis VanderZanden氏であり、過去には「Lyft」のCOO、「Uber」ではVP of Global Driver Growthを経験した人物だ。 bike-share-funding引用: CB insights 上記のグラフのように、2017年はシェアサイクル業界への関心が高く、全体の投資額が上昇したことも各社が巨額の投資を受けたの要因となっている。 その中でも、ステーションレス型のシェアサイクルは、コストの削減や、地理的なサービス展開の容易さ、ユーザビリティの観点から特に注目を集めている。「Bird」が2018年に入ってから巨額投資を受けたことからも、この傾向は続くと言えるだろう。 では、実際にユーザビリティが優れているのかを検証するために、一般的なステーション型のシェアサイクルである「Ford GoBike」を利用したことのある筆者が「LimeBike」「 Bird」「Spin」を利用してみた。 limebikes-testdrive アプリをダウンロードしたあと、実際にQRコードをスキャンし、各社の電動シェアスクーターに試乗してみた。最初のひと蹴りのあとに、アクセルとなるハンドル部のレバーを親指で押すだけでスムーズに加速するのは確かに心地が良く、本体も小さく軽いため、とても軽快に感じた。 ステーション型よりもはるかに楽で、ステーションを探す手間や、ステーションの空きがないなどの心配をすることがなく、完全なストレスフリーであった。

「LimeBike」「 Bird」「Spin」の3社の違い

limebikes-bird-spin-uiホーム画面 左からLimeBike, Bird, Spin limebikes-bird-lime-menuメニュー画面 左からLimeBike, Bird, Spin アプリのUI, UXデザインにはすぐに改善できるような違いしかなかった。さらに、3社とも、シェアリング・エコノミー業界を牽引してきたUberのアプリUIデザインに影響を受けていた。 また、料金設定や最高時速の制限も同様に3社ともに、
  • 最高時速 22km毎時
  • 基本料金1ドル + 1分毎に15セント
と設定されていた。さらには、「Bird」「Spin」の2社は「Xiaomi M365」という電動スクーターを流用しているため、スクーター本体の性能は完全に同じであった。

なぜ3社が同時にサンフランシスコ市に現れたのか?

「Bird」はサンフランシスコ市に進出する以前に同カリフォルニア州内のサンタモニカ市でも市の承認なしにサービスを提供していた。現在は和解金(300,000ドル)を支払い、正式にサービスを運営している。 こういった動きは、初期の「Uber」を思い浮かばせる。 「市にも交通緩和などの利点があり、ユーザーにとっても便利であれば、市の承認なしでもサービスが受け入れられるだろう。なおかつこれが一番手っ取り早い」というスタンスは、おそらく、CEOのTravis VanderZanden氏の「Uber」での経験からきたものだろうと筆者はみている。 そうしてサンフランシスコ市にも承認なしで進出し、「LimeBike」「Spin」の2社はこの動きを察知し「Bird」と同時に現れたのではないだろうか。 もしも、「Bird」の1社が市の正式な許可を得てサービスを先行した場合、ユーザー数との適切な電動シェアスクーターの個体数を設置されることで、完全にサンフランシスコ市という市場をコントロールされてしまうためである。 中国のシェアサイクルの廃棄が問題になっていたように、行政が個数を管理しなければ二の舞になりかねないため、おそらくサンフランシスコ市は次の電動シェアスクーター運営会社の承認を出さないか、個体数を制限する可能性があるからだ。 実際にサンフランシスコ市交通局が18ヶ月間のテストプログラムの期間中の現在、「Jump Bikes」以外のステーションレス型のシェアサイクルを認めないとしている。

ステーションレス型電動シェアスクーターの問題

電動シェアスクーターでは、
  • 18歳以上である事
  • 免許証の所持
  • ヘルメットの着用
  • 車道を走る
  • 駐車は歩道の妨げにならないように
などが義務付けられており、乗車する際は必ずアプリ内に注意事項として表示される。 electricscooter-problem路上に横たわる「Spin」- 引用:SF Examiner しかし、実際には「ヘルメットを着用しない、歩道を走っている、歩道の中心に駐車する、二人乗り」などが見られ、市民から苦情が出ている。特に上記の画像のような状態はよくみられ、車椅子の妨げになるなどの問題がある。 「Bird」では安全の呼びかけや、ユーザーに無料でヘルメットを配るなどを行っているが、現段階では問題解決にはつながっていない。

ユーザーのサービス利用意識はシェアリング・エコノミー型サービスの共通の問題

そもそもシェアリング・エコノミーとは個人の所有物を個人間で共有するという意味合いが強く、企業が所有しているシェアサイクルや、電動シェアスクーターをシェアする場合は、レンタルの要素が強い。 レンタルの場合は、貸主個人の顔が見えないために使用者の意識が下がり、いたずらや問題が起きてしまう可能性が高くなる。 例えば実際に時間貸しのカーシェアリングを行っていた「RelayRides」という会社は、2011年当初はオーナーと顔を合わせることなく車に搭載されたカードリーダーに会員証をかざすだけで利用できるという仕組みだったが、当時はオーナーからの損害請求等が多かったという。 しかし、2012年に別の理由でカードリーダーを廃止し、借り手とオーナーが直接キーを渡したり、車両を点検するように変更した。 その結果、オーナーからの損害請求は減り、借り手もオーナーに対し、満足度の高い評価をつけるようになったという。 また、シェアリング・エコノミー業界を牽引する「Lyft」では、乗客に後部座席ではなく、助手席に座ることを推奨していたり、「Airbnb」では、ホストに対してプロフィールに自身が大きく写った写真を載せることを推奨し、必ずゲストと宿泊前にコミュニケーションを取るように求めている。 これらのことから、フェイストゥフェイスでコミュニケーションをとることで、ユーザーに対して「サービスを正しく利用する」という意識を高められることがわかる。 実際に中国のシェアサイクルでは、いたずらや破損の多発が相次いで問題になっていたが、サンフランシスコでも同様に起きており、ステーション型であるFord GoBikeが放置されていたり、電動シェアスクーターが海に投げ捨てられたりしている。 fordgobike-problem放置されている「Ford GoBike」 scooter-problem海に投げ捨てられている「Spin」「LimeBike」 引用: @SRobertsKRON4 こうした問題をサンフランシスコ市と企業が連携し、解決していくことが重要な課題といえる。

電動シェアスクーターに対するサンフランシスコ市の対応

electric-scooter-track回収される電気シェアスクーター 4月中旬にサンフランシスコ市は「LimeBike」「Bird」「Spin」の3社に対し、公共への安全性を配慮していないとした上で法に違反しているとし、一時的に電気シェアスクーターを回収した。 それに対し、「Bird」はユーザーに利用後の電動シェアスクーターの写真を撮るよう求めることを検討しているなど、前向きな解決姿勢を見せていた。 それが4月下旬になり、サンフランシスコ市の関係者が新しいガイドラインを提案し、「電子シェアスクーター5社の運営を許可する。ただし、台数は各社500台までとし、2年間のテストプログラムを行う」と発表した。つまり、サンフランシスコ市内では2500台以下の電子シェアスクーターが許可されることになった。 しかし、いくつか条件があり、
  • ユーザーに安全の配慮を呼びかけ
  • 手数料(5,000ドル + 1年ごとに25,000ドル)の支払い
  • 不適切に駐車された電子シェアスクーターの保管や、公共物の損害などをカバーするためのメンテナンス費用として10,000ドルの支払い
  • 低所得者のための計画を提供する
などの必要があるとしている。 サンフランシスコ市もサンタモニカ市と同様に、サービスの承認に対して前向きな姿勢を見せているが、あくまでテストプログラムであるため、これから市民に受け入れられるかが重要である。

まとめ

ステーションレス型のシェアサイクルは、歩道や駐輪スペースを埋め尽くしてしまうなどしないように配慮する必要があるほか、ステーション型の場合はステーションの密度が重要になるため、行政と協力することは不可欠であると考えられる。 日本では行政と協力となると手が出しづらいイメージがあるが、今回ご紹介したようにサンフランシスコ市は、承認をしていない電動シェアスクーターが現れた同月に一時規制を行い、新たなテストプログラムの提案を行うなど、意思決定が早く、法律に影響を与えるサービスなどでも柔軟に法整備をしていることがわかる。 サンフランシスコ市で新たなサービスが次々と生まれる背景には、このような行政対応もあることがおわかりいただけたのではないだろうか。今後、サンフランシスコ市がどのようにシェアサイクル事業の問題解決を行っていくか動向をチェックしていきたい。

時代の岐路に立つ自動車業界を大きく変革させる9つのスタートアップ

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ここ数年で最も大きな変化が訪れる産業の一つが自動車業界だろう。btraxでも複数の自動車ブランドに対して次世代のユーザー体験の設計や、新たな事業づくりに関する取り組みを提供させていただいているが、今後数年は自動車産業にとって、今までにない規模でのパラダイムシフトが起こることに確信を得ている。

業界を取り巻く3つの大きな変化

20世紀の代表的な産業とも言える自動車はしばらくリニアな成長が続いていたが、ここにきて下記の3つのファクターにより、かなり大きな変革が訪れようとしている。
  • 自動運転テクノロジーの進化
  • 電気自動車 (EV) の普及
  • シェアリングエコノミーの成長
この3つが発展し、世界のリードをとっているのは間違いなくシリコンバレーだろう。それも、既存の自動車会社よりも新規参入した企業やスタートアップがその主導権を握っていることは間違いない。 参考: シリコンバレーが自動車業界に与える3つのインパクト

なぜスタートアップが自動車産業に有利なのか

大きな時代の変化が訪れる時、必ずと言って良いほど大企業は不利な立場になる。動きが遅く、無駄なしがらみが多いエンタープライズはまるで、気候の変化に素早く対応できない恐竜のように、身動きが取りにくくなる。 特に自動車業界では、これまで数十年間の歴史の中で熟成されたサプライ・チェーンの仕組みや製造工程が逆に足かせとなり、動きが遅くなる。そして最も危険なのが、特に日本の企業のその多くが、地方都市の有力企業として鎮座し、その危機に鈍感になっている点だろう。 その一方で、世界で最も変化が激しく、日々激しい競争が行われているこちらシリコンバレー地域では、昨日は存在していなかった新しいコンセプトやプロセスが日々実験、検証され、最先端のテクノロジーを活用し、ユーザーに最も適した商品やサービスが生み出されている。それが次のイノベーションに繋がっており、これに対して業界の壁は全くないと言って良いだろう。 参考: 日本がシリコンバレーに100倍の差を付けられている1つの事 そのような環境で生まれたのがTeslaであり、その他多くの自動車業界に変革をもたらすスタートアップであろう。彼らのミッションは既存の概念を打ち砕くことであり、しがらみが全くない状況で、心置き無くやるべきことを進めている。このような状況下では今後自動車関連のサプライヤーがどんどん打ち砕かれてもなんら不思議ではないだろう。 参考: シリコンバレーが自動車業界に与える3つのインパクト

ユーザーが自動車に求める体験も大きく変化してきている

ここで自動車というプロダクトを考える際に、考えなければいけないのが、現代のユーザーにとって”それ"はどのような存在であるかということ。特にミレニアル世代をはじめとした、若者たちにとっては、これまでの自動車、および自動車を所有することに対しての概念が大きく変化してきている。 参考: 若者が車を所有しなくなった6つの理由 当然のことであるが、消費者が魅力的と感じるプロダクト体験も大きく変化し始めてきており、”性能が良い=良いプロダクト” と言った単純な方程式が通用しなくなり始めているのも事実。実はこの辺に気づいている自動車メーカーは意外と少なかったりする。 参考: 変化する自動車に関する5つのユーザー体験

自動車業界注目のスタートアップ

これから紹介するのは自動車産業を大きく変革させると思われれるスタートアップ。B2Bという特性上派手さはないが、おそらく世界中の自動車メーカーが注目するべき対象となり、既存のサプライヤーを脅かす存在にもなり得ると考えられる。

1. Nuro

Eコマースの配送におけるラストワンマイルのニーズに合わせた自動運転車両を製造する。物流サービスに特化させ、ヒトではなくモノの移動にフォーカスさせることで、小型車両にプロダクトを収納し、購入者の家まで届けるのがコンセプト。プロトタイプのdubbed R1は見た目も可愛い。 nuro_web_usecases-715

2. Neteera

セキュリティーやヘルスケア領域でも活用されているセンサリングテクノロジーを自動車に適応することで、これまで以上の制度での物体検知が可能になり、自動運転車両の安全性をよりアップさせるテクノロジーを提供している。

3. GhostWave

自動運転を実現させるために最も重要なテクノロジーの一つであるレーダーを提供している。より高度なセンサリング技術で車両の周りにある物体を感知し、事故を未然に防ぐ。

4. Clear Motion

ソフトウェアとハードウェアのテクノロジーを融合させることで、極端なでこぼこ道などでも車両が揺れないようにする自動車のサスペンションを開発製造している。今後の自動運転時代には、車内がリビングルームのような存在になる可能性もあり、乗り心地は最優先事項の一つとなる。また、乗り心地が格段に改善されるだけでなく、旋回時やブレーキング時の性能のアップにも繋がる。 https://youtu.be/mdlpRAB0Guc

5. Mighty AI

画像認識と機械学習によるデータ分析テクノロジーを通じ、自動運転用ソフトウェア開発者向けプラットフォームを提供。車両が感知した画像データに対してメタ情報を付随させることで、物体の属性を定め、より深いレベルでの物体認識を可能にする。

6. Nauto

主に商業用車両を対象に、既存の車両に装着可能なデバイスとAIを活用したソフトウェアプラットフォームにより、車両の周りの状況と運転手の動きをリアルタイムで感知し、事前の事故防止を実現する。 AIを使った双方向カメラの車載器。前方を見る車外カメラと車内の様子を撮影する車内カメラでドライバーの煽り運転や脇見運転、居眠り運転、その他危険運転を察知し、運転後にフィードバックを行うだけでなく、商業用車両の場合には車両管理側がその様子を確認できるようになっている。 また、複数の車両管理にも対応しており、より効率的なオペレーションを実現する。日本市場進出に対してはbtraxがサービスを提供している。 nauto

7. Cognata

ディープラーニングとマッピングのテクノロジーを活用することで、既存の都市をヴァーチャルにCG化する。これにより、自動運転車両が実際の走行実験をする前にソフトウェアレベルでの走行実験に役立てることができる。

8. WayRay

AR技術を活用したフロントガラスに投影される形のナビゲーションデバイスを提供。リアルタイムで車両の周りの環境データを取り入れ、レンダリングすることで、情報の精度をアップさせ、より安全な運転と快適なドライビング体験を実現する。 https://youtu.be/7JWjesx7TZA

9. EV Safe Charge

EV車両を自宅やオフィスにてより効率的に充電するためのデバイスを製造している。既存の建物に後付けできる形になっているため、手軽にチャージングステーションを増やすことが可能になる。  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

【農業 × テクノロジー】食の未来を変革する最新アグリテックサービスまとめ5選

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2050年に我々は何を食べているだろうか?世界人口は現在の1.3倍となる96億人を超えると予想され、国連はカロリーベースで少なくとも70%以上の食料増産が必要であると発表した。農地や水、化石エネルギーなど食料生産に必要な資源には限界があり、アメリカをはじめ各国で農業スタートアップがたくさん生まれている。 インドア・ファーミングは次世代のオーガニック農法とも言われ、ソフトウェアやLED、ロボティクス技術やAIを活用した室内農場である。葉物野菜の生産量は、今後10年ほどでインドア・ファーミングが露地栽培のものと同じ生産量になると言われており、その規模は420億ドル(約4.5兆円)にもなると言われている。 また、インドア・ファーミングは都市近郊にもつくることができるため、物流コストや都市部への供給によってこれまでかかっていた環境負荷も下げられると期待されており、ビル自体を農場にするバーティカル・ファーミングともよばれている。日本では植物工場とも呼ばれ、京都に本社を置くSpreadが開発する全自動植物工場Techno Farmも世界的に注目されている。 過去5年ほどアメリカでは倒産するインドア・ファーミング企業が相次ぎ、なかなかビジネス化が難しいとされてきたが、2017年にはインドア・ファーミングのスタートアップPlentyが過去最大規模の資金調達に成功し転換点を迎えたのではないかと注目されている。 本記事では食の未来を担う可能性に満ちたスタートアップをいくつかご紹介したい。 関連記事:

1. Plenty 農業スタートアップとして過去最高の資金調達を実施

agritech-plenty 主要投資家:SoftBank Vision Fund, Innovation Endeavors, Bezos Expeditions, Chinese VC DCM, Data Collective, and Finistere Ventures 調達額:$226M サービス概要: 生産性の高い水耕栽培を実現させたバーティカル・ファーミングのスタートアップ。多くのバーティカル・ファーミングの取り組みでは、水平に設置されたトレーを使用して栽培を行うが、Plentyでは独自に設計されたポール状のタワーで栽培を行う。 各タワーは約10cm間隔で設置され、植物はそこから水平に成長し、さながら植物の壁のようになる。こうすることでこれまでの農法と比較して同じ面積で350倍の生産を可能にした。現在は葉物野菜の他、イチゴが栽培されており、将来的には根菜や木になるフルーツを除く多種多様な野菜・果物が栽培可能になる計画である。 都市近郊に工場を設置し、オーガニックのみならずローカルでつくられた野菜であるという価値を前面に押し出しながら事業展開を行っている。現在はサンフランシスコ市南部につくられた工場が稼働しており、2018年にはシアトルで新工場が予定されている。 注目の理由: これまで収量不足・流通量不足やテクノロジーコストが高いことから多くのバーティカルファーミングのスタートアップが倒産してきた。そんな中、2017年に農業関連スタートアップとしては過去最高となる200億円を調達し、この新しい食料生産方法を一般化する可能性がある企業として注目されている。 また、調達した資金を活用して今後数年間で世界展開を実施することが計画されており、最終的には100万人以上の人口を持つ500の都市に展開する目標が発表されている。

2. Freshbox Farms 短期間に黒字化したインドア・ファーミング

agritech-freshbox 主要投資家:Band of Angels, SQN Venture Partners, Chalsys LLP 調達額:$12.7M サービス概要: ボストン郊外のmillesという街で創業された、コンテナで展開するバーティカル・ファーミングのスタートアップ。使われている栽培技術はコンテナの中に水平に設置されたトレーによる水耕栽培。 現在はコンテナ12台と1台の"Mod"(9台のコンテナで構成されるFreshbox Farmsが独自開発したモデュラーシステム)で12種の野菜を育て、ボストン市内の37のスーパーマーケットに商品を提供している。通常の農法で7.7ヘクタール必要になる生産量をわずか約30m2のスペースで生産している。 今後5年間でアメリカ国内25カ所に展開し、それぞれ1〜3トンの生産量を目指す。 注目の理由: 野菜を育てるための独自テクノロジー開発に集中するスタートアップが多い中、Freshbox Farmではコンテナを活用したモデュラーシステムの改善に経営資源を振り向けている。 コンテナを利用するため大型工場による集中生産よりも短期間に事業開始が可能であるほか、他の同業スタートアップに比べ投資回収サイクルが非常に早い。2015年の創業から23ヶ月で黒字化を達成し、ビジネスの持続性の高さが注目されている。

3. Iron Ox ロボットで生産コストの50%を削減

agritech-ironox 主要投資家:Y Combinator, Eniac Ventures, Amplify Partners 調達額:$5M サービス概要: ロボットアームを活用して完全自動化を目指すインハウス・ファーミングのスタートアップ。野菜の生育段階にあわせて用意された各トレイに対して、ロボットアームが播種、散水の他、野菜の大きさに合わせた植え替え、収穫まで行う。 また、ロボットアームに組み込まれた高精度のカメラで野菜の状態を確認し、病気にかかったものがあれば間引く作業を行い、マシンラーニングで野菜の理想的な生育状態を学習していく。2018年にはサンフランシスコ・ベイエリアに約750m2の工場が完成予定されている。 注目の理由: バーティカル・ファーミングやインドア・ファーミングで最大の事業リスクとされるのが生産にかかるコストがある。多くのスタートアップが、主にLEDのコスト削減等に取り組む中、同社は野菜生産コストの50%にあたると言われる人件費の削減にロボットを活用して取り組み、他社とは一線を画すアプローチを取っている。 アメリカの農業界では労働力の高齢化と人手不足が予測されており、それにかかるコスト増が見込まれるが、同社の技術で農作業をロボットが代行することでその課題解決に取り組みより持続可能な農業の実現を目指している。 ちなみに共同創業者の1人、Brandon Alexanderは過去にGoogle Xでドローン・デリバリー・プログラムに携わっており、もう1人のJon Binneyはホテルで使われるルームサービスロボットの開発に携わっていた経験を持つ。

4. Square Roots 未来の食をつくるスタートアップ・インキュベーター

agritech-squarerobot 主要投資家:Powerplant Ventures, GroundUp, Lightbank, FoodTech Angels 調達額:不明 サービス概要: 2016年にニューヨーク、ブルックリンで始まった都市農業と起業家育成のためのプラットフォーム。未来の食に関連する起業家を育成する場となることを目的としている。 同社はファイザーの工場跡地の駐車場に設置された10台のインドア・ファーミング用コンテナで構成するアーバン・ファーミング・キャンパス、各コンテナを起業家に提供するレジデント・アントレプレナー・プログラム、近隣レストランとの連携やファーマーズマーケットとのコネクションを提供するコミュニティ・ネットワークで構成されている。 起業家たちはこのキャンパスにおいて13ヶ月間のレジデント・アントレプレナー・プログラムを通して農法、ビジネス、コミュニティ、リーダーシップに関して学習。さらに農業関連の企業やレストランオーナー、エネルギー専門家など多様なメンターたちとのネットワークや、主催するファーマーズマーケットやニューヨーク市内のレストランとのパートナーシップなど広く深いネットワークを得ることができる。 注目の理由: 共同創業者の1人であるKimbal Musk(Eron Muskの弟)はFarm to TableをテーマにしたレストランチェーンThe KitchenやNext Door、学校に「食べられる校庭」をつくるNPO・Big Greenなどを手がけており、フード業界で成功した起業家として影響力をもっている。 バーティカル・ファーミングという新しい食料生産方法が利用者に受け入れられるためには、それをいちはやく取り入れ、トレンドを作っていくアーリアダプターが重要になるが、創業者やメンターなど、Squarerootsの創業に関わる多くの人々自身がそういったアーリーアダプターであることが、その他の多くの取り組みと比較してSqaure Rootsをユニークなものにしている。

5. Row 7 Seed Company 有名シェフと種苗家がつくる未来の野菜

agritech-row7 主要投資家:Walter Robb, Richard Schnieders 調達額:不明 サービス概要: ニューヨークの著名なレストレランBlue HillのシェフであるDan Barberと種苗家であるMichael Mazourekによって設立された種苗スタートアップ。モンサントのような種苗企業が遺伝子組み換え種子などで高収量、鮮度保持性能を目指すのに対して、同社は美味しさを重視して品種交配を行う。 Mazourekが開発したハニーナッツ・スカッシュという新しい野菜は、一般的なバターナッツ・スカッシュよりも小さいが栄養価が高く、砂糖などを加えなくても十分に甘い。Barberと出会いさらに工夫を重ねてBlue Hillでメニュー化したところ、多くのレストランでも取り入れられた。現在はWhole FoodsやCostcoなどでも買うことができる。 なお2017年秋には食材宅配サービスのBlue Apronが950トンも購入し、ユーザーへの提供を開始。Row 7では多くのシェフ、種苗学者が協働してさらに多様な野菜の開発に挑戦しており、それぞれの自然環境にあった食物生産と食文化が結びつく地域主義的な食環境の実現を目指している。 将来的にはウォールマートでの販売でも視野に入れており、ホールフーズ前共同CEOであるWalter Robb、食料サービス企業であるSysco Foodsの前CEO、Richard Schniedersからの出資を得て、事業の拡大を計画している。 注目の理由: 近現代の農業が目指した野菜の均一化に一石を投じる新しい試み。アメリカのレストラン業界では、生産の現場から食卓までを近づけることで、より健康で正しく美味しい食事を実現しようとするFarm to Tableが大きな流れになっている。 Row 7の取り組みは、これまで市場性を得られなかった商品作物が、有名レストランのシェフというインフルエンサーを介して商品開発とマーケティングを実施し顧客獲得した事例であり、新しい食料生産の可能性を感じさせるものである。

まとめ

今回紹介したインドア・ファーミングの企業は都市内あるいは都市近郊での野菜生産を目指しており、地元でつくられた食材を食べることを推奨するFarm to Tableと世界観を多分に共有している。 近現代の大規模農業では食料生産とその消費の場所は遠く離れていることが多く、保存方法や流通、卸や小売などもその遠距離輸送に適応してつくられているが、今後は今回紹介したようなスタートアップによって食料生産に変革が起き、結果的に食・農業をとりまくより広い領域のビジネスがディスラプトしていく可能性がある。

ブランド戦略 × オフィスデザイン ー 成功事例に見る企業ブランド構築手法

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企業・組織の成長に欠かせないとされるブランディング。特にビジネスにおいては企業と顧客の接点を作る上で非常に重要になるものだが、そのブランディングをオフィスでも行う企業は増えている。なぜオフィスがブランディングの舞台となりうるのか。5つのアメリカ企業の例を紹介する。 関連記事:UNIQLOも導入!日本の働き方を変えるアメリカ西海岸のオフィスデザイン

なぜブランディングをオフィスで行うのか?

まず念頭に置いていただきたいのが、本記事で取り上げるブランドとは数あるブランドの中でも「企業ブランド」であること。企業ブランディングとは自社企業に対して顧客に持ってもらいたい感情やイメージを設計することであり、その結果生まれる「企業ブランド」が企業と顧客との感情的な接点となる。 特にオフィスは企業・顧客間の物理的な接点になる場所の1つであるのはもちろんだが、また社員と企業の重要な交流の場でもある。このように様々な接点を生むオフィスは企業のブランドやそのストーリーを伝えるのに最適な場所の1つなのである。 オフィスでブランドを表現する際、それは「ロゴや色だけで完結するもの」だと思いがちだ。しかしこれは大きな間違いで、企業の芯となるオフィスだからこそ、むしろ企業のカルチャーや社員の働き方を的確に表現する必要がある。ときには企業の経営戦略やビジネスにおける包括的なゴールを見据えながら、なりたいと思う将来の像を具現化することで、顧客や社員に魅力を与え続けるブランドを確立することが可能になる。 brand-expression ↑Steelcaseによるレポート”Brand, culture and the workplace”より引用。やはりロゴを散りばめる等でブランドを表現している企業は70%と多くいるが、それで十分なブランディングができているとは言えない オフィスにおいて企業のカルチャーとブランドは混同してしまいがちだが、カルチャーが社員のアイデンティティだとするならば、ブランドは企業のアイデンティティだと捉えられる。オフィスはこの両方をバランスよく表現するべきで、ブランドを通して企業がなりたいと思う理想と近しいカルチャーを構築できる人材を獲得し、そこでできたカルチャーでブランドをさらに強化していくという相互間の関係性が大切になる。 それではそのブランドを上手にオフィスに落とし込んでいる企業5つを紹介しよう。

ブランドを巧みに表現したオフィスを持つ企業5選

1. Airbnb: 暮らすように旅しよう

airbnb-lobby 話題の「民泊」サービスで世界を牽引するスタートアップ、Airbnb。サンフランシスコでも特に名の知れた企業であるが、その本社オフィスは彼らが提供するサービスとそれを実現する企業のビジョンを明確に表現している。 倉庫跡を利用した広々としたスペースのオフィス建物には大小いくつものミーティングスペースが用意されているが、その中で1つとして同じデザインのものはない。それぞれのミーティングルームは実際にAirbnbで掲載されているスペースを再現しているのである。 フロアやエリアごとに「ブエノスアイレス」「京都」「アムステルダム」といった世界の都市をテーマに掲げ、色のパターン、材質等でローカルの雰囲気を表現。社員はオフィスにいながら世界中に登録されている物件を味わうことができる。 airbnb2 このようにAirbnbの本社オフィスは彼らが提供するグローバルスケールなサービスをデザインで表現している一方で、それを利用する社員の「ローカルとしての意見」にも気を配った。同社は今回デザインを決定する前段階で、社員に”Employee Design Exeperience”と呼ばれるプログラムを提供。世界にある実際のスペースを再現しながら、同時に本社にいる社員にデザインの最終的なタッチを手伝ってもらい、彼らのアイデンティティを落とし込んでいった。 「暮らすように旅しよう」という同社のステートメントにあるように、「現地の住民のような生活で得られるリアルな体験」と「ユーザーが持つ独特な視点」の調和で限りない体験価値を提供していくという彼らの姿勢が、オフィス全体で強く伝えたいメッセージとなっている。 airbnb1 今回画像を用意することはできなかったが、社内には人を撮った写真がいくつも飾られており、その被写体は実際にスペースを貸し出しているユーザーだ。Airbnbは彼らあってのサービスであるため、「そのユーザーのためにサービス開発を行っていく」という思いを常に持ち続けるようにしているという。 誰のためにより良いサービスを求めていくのか、社員全員が常にその意識を持って仕事に取り組めるよう、オフィス環境からその風土を整えている。ユーザーとの接点を常に意識する姿勢を表現しているAirbnbオフィス。この場所は訪れる人すべてに、彼らがいかによりよいサービスを追求しているのかを強く伝えている。

2. Ancestry: 科学とテクノロジーで自己発見を

ancestry Ancestryは戸籍制度のないアメリカにおいて、ユーザーに自分の先祖やルーツを調べることができるサービスを提供している。入国記録や移民記録、婚姻記録に兵役記録に至るまで様々なデータを活用し、家系を辿っていく。そうすることで「人のつながり」を見ていくことを可能にしている。 だからこそAncestryがこのオフィスを作る上で重視したのが、彼らが持つテクノロジーを通じていかに人間味を表現できるか、というところだった。その背景から、オフィスの壁には自社サービスを通じて社員自身が見つけた、まだ見ぬはるか遠い親戚の写真と社員自身の写真が2つ並んで掲示されている。 こうして写真を2枚並べることで、扱うものはテクノロジーだが、それを使って提供したいことは「人のつながり」を見つけ出しユーザーの感情に訴えかけるもの、という企業の想いが強く伝わるようになっている。 ancestry2 またオフィス建物の入り口には複数の色、層で作られたグラフィック作品が展示してあり、異なる色が様々な人々のそれぞれの先祖を表現。色を重複して使うことで、世界の歴史は私たちが気づかぬところでも強いつながりを持って構築させていったものであることを表し、企業としてこのように大きなビジョンを持ってサービスを提供してきたことを伝えている。 ancestry3 オフィスの機能面でも「人間のつながり」を意識しているため、休憩用の部屋やファミリールームといった場所は人が集まる場所としてオフィスの中心に存在し、そこで生まれる社員の交流をAncestryは何よりも大切にしている。 このように企業が人間のつながりというものに対しどのような視点で取り組んでいるのかが見えてくると、彼らが提供する価値の重みも自然と感じられるようになる。

3. Instacart: ユーザーの日々の生活改善を行う、人々にとって身近な企業に

instacart1 買い物代行プラットフォームのInstacartはサンフランシスコで急成長を遂げてきたスタートアップの1つ。スーパーやドラッグストアなど複数の小売店と提携し、ユーザーが買いたいものをオンラインで指定すると、ショッパーと呼ばれる個人がユーザーの代わりにそれらを買って即日配達するサービスを実現している。そのオフィスデザインは先日インタビューを行ったSeth Hanley氏によるものだ。 関連記事:オフィスデザインの軸となる“企業文化への理解”とは Instacartの本社は居心地の良いアットホームなデザインが特徴的。これは起業時のスタートが決して派手なものではなかったことと、「人々の生活を改善したい」という想いのもと顧客に寄り添うことを重点に置いた企業ミッションを反映している。 オフィスにあるカフェは同社創業者が起業当時に住んでいたアパート近くのお気に入りのお店から影響を受け、その小売店での体験をオフィス訪問者に与えたいという意志が表現されている。特に6階にあるカフェは受付の隣にあり、オフィスに訪れたその瞬間から創業者が一番伝えたいと考える温かいイメージを来る人すべてに与えるような設計が施されている。 instacart2 instacart4 また、食料品配送ボックスで作られたオーダーメイドのスタンディングデスクや、野菜が一面に広がる壁で買い物の体験シーンを表現。企業が常にユーザーの一般的な生活と隣り合わせでサービスを提供していることを表している。実際に社内ではショッパー向けに食料品のレプリカを並べ、良い野菜や果物の見分け方をレクチャーする空間も用意されている。 ユーザーに寄り添うブランドをもつ企業にこそ参考にしてほしいオフィスだ。

4. adidas: スポーツを通じて人々の生活を変えていく

adidas1 誰もが知るスポーツブランドのadidasだが、ロシア・モスクワにあるこのオフィスは特徴的だ。全6階の建物のうちの3フロアはオフィス、2フロアはフィットネスセンターで、残る1フロアはプロトレーナーが最新トレーニングプログラムを提供する「adidas Academy」用の施設となっている。このように異なる機能と目的を同時にもつ複雑な作りになっており、だからこそここを訪れる人には分かりやすく、伝わりやすいメッセージが必要だった。 このオフィスでadidasは企業としてアクティブなライフスタイルに注目する姿勢とスポーツそのものへの愛情を表現。すべての階でキックボードでの移動を可能にするため専用のトラックと保管場所を用意している。 また天井の照明部分にはサッカーボールを彷彿とさせるデザインを施し、オフィスにあるほとんどの仕切りは透明で広がりを見せることでスポーツ競技場のような広々とした空間を演出。白一面の壁にはアスリートの写真とモチベーションを上げる言葉が書かれている。 adidas2 adidas3 建物中央にある受付ホールは本物のスポーツスタジアムの見た目に近づけている。例えば、大きなメディアスクリーンにテキストが流れる電子掲示板やビデオ映像を流すスクリーンに2つの大きな照明塔がそうだ。受付デスクはこのホールの奥にあり、一般的なオフィスのように一目でわかる場所には置かれていない。 圧倒的な世界観を表現したadidasのモスクワオフィスは、人々がもつ同社へのイメージを一層強化するような仕組みが施されている。スポーツで人々の生活を変え、アスリートの不可能を可能にするという企業理念の実現は環境づくりから徹底して行われている。

5. Zynga: 皆がプレーできるゲームを通じて人をつなぎ、多くの人に愛される企業に

zynga1 ソーシャルゲームの最大手企業として有名なZyngaは、これまで農場管理を他のユーザーと一緒に行うFarmVilleやFacebook上で他のプレーヤーとポーカーが遊べるZynga Pokerといった、誰でも簡単に遊べて人と交流できるゲームの開発を行ってきたスタートアップ。そのゲームを通じて人をつなげることを企業理念に掲げている。創業者のMark Pincus氏はこれを元に創業間もない頃からブランディング戦略を重視していた。 彼が抱くブランドイメージを最も明確に体現したのが、企業名やそのロゴの由来ともなった彼の愛犬、Zingaである。遊ぶのが大好きでありながら忠誠心は強く、皆に愛され、何かをするときには常に中心的存在になりたがった性格が、企業が提供するゲームだけでなく、社員の行動規範としても大事な見本となった。オフィスには今も社員のペットが多く集まり、その光景は「誰にでも愛されながら人の交流を手助けする」環境づくりの大事な要素と一つとなっている。 zynga2 また彼はビジネス分野がソーシャルゲームということもあって社員の社交性を重要視しており、今では無料カフェテリアを置くところが多いスタートアップ業界内でも、特に早いうちから従業員に無料の食事プランの提供を始めた。現在でも昼だけでなく、朝食や夕食まで提供しているところはZynga以外になかなか見られない。また創業時のジムのメンバーシップ制度から始まり、後に社内でフィットネス設備を自前で設置するなど、社員には積極的に手厚いサポートを行ってきた。 「世界をゲームでつなげる」というミッションステートメントを掲げる以上は、まずは社員がつながっていなければいけない。ゲームの世界を表現したオフィスで社員が固まって活気あるミーティングを行う姿はユーザーにも他の社員にもポジティブな印象を与える。 ゲーム業界により多くの人を巻き込んで盛り上げていくZyngaの姿勢の裏には、こういった社内の環境作りがある。「人をつなげる」という理念をどこでも実現させていこうするその努力はブランドに説得力を持たせるのだ。 zynga3 本記事で掲載した写真はOffice snapshot、Office lovinよりダウンロード *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。