レガシー金融機関がフィンテック企業と上手に付き合う方法 (金融革命 Part 2)

レガシー金融機関がフィンテック企業と上手に付き合う方法 (金融革命 Part 2)

fintech-main
日本国内でフィンテック企業とコラボしているレガシー金融機関はまだわずか30%にすぎない。これは先進国のスタンダードでいうと最低のレベルになっている。他の国の、ドイツが70%, シンガポール62%, アメリカの54%と比較してもかなり低いと言えるだろう。

テクノロジー活用に遅れをとる既存金融機関

セキュリティーとプライバシー、そして法規コンプライアンスを最優先するその特性上、既存の金融機関はどうしても新規テクノロジーの導入に対して慎重にならざるを得ない。スタートアップのような”実験的”な取り組みをすることは容易ではない。

金融機関が注目しているテクノロジー

  • ブロックチェーン
  • 人工知能
  • バイオメトリックによるプライバシー管理
新しいビジネスモデルを模索するスタートアップは、より早いスピードでリスクを取りやすく、革新的なテクノロジーと顧客サービスを短時間で作りやすい。加えて、データの取得と分析、活用の仕方が上手で、既存の金融機関よりもデータから導き出されたロジックでリスクを取りやすいという側面もある。

銀行のライバルはテクノロジー企業

その一方で、もともと”IT企業”や”ネット系サービス”を生業にしてきた企業の金融への進出が目覚ましい。日本国内の例では、楽天、LINE、ヤフー&ソフトバンク、ドコモ、そしてauといった企業が、既存の金融機関を脅かす存在にまでなってきている。 その理由は前回の「銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1)」でも紹介した通り、デジタルを中心とした卓越したユーザー体験の設計だろう。それにく和え、データの収集、人工知能(AI)によるビッグデータ分析と加工、そしてそれをパーソナルな提案やビジネスモデル変革へ進化することのできるテクノロジーの最大活用も重要なファクターである。 gafa-finance 海外テクノロジー企業の金融系サービス一覧

ミレニアルから支持を得ていない既存銀行

この状況はユーザーからの反応を見ても理解できる。例えば、既存の銀行は特にミレニアルを中心とした若者達からの支持はかなり低く、むしろテクノロジー企業による金融サービス参入を望んでるといった声も出ている。
  • 75%: Google, Amazon, PayPalなどのテクノロジー企業の金融サービスの方を支持する
  • 71%: 銀行員の話を聞くぐらいであれば歯医者に行った方がマシだ
  • 60%: スタートアップ企業に銀行業務を改善してほしい
  • 63%: クレジットカードを持っていない
  • 53%: 全ての銀行は同じである
  • 33%: 向こう90日以内に銀行を変える可能性がある
参照元: Time Magazine

危機感を感じている既存の金融機関

もちろんこの動きに対して、既存の金融機関が気づいていない訳はなく、下記の意識調査でもその結果は明らかである。特に日本国外の金融機関での危機意識は非常に高いと言える。

世界の金融機関に対する意識調査結果:

  • 88%: 新規参入サービスによって売り上げが減ると危惧している
  • 82%: 向こう3年から5年以内にフィンテック企業とのコラボを増やそうとしている
  • 77%: 社内でのイノベーション創出への取り組みへの投資を増やしている
  • 77%: 2020年までにブロックチェーンテクノロジーの業務活用を予定している
  • 54%: データ管理とプライバシー保護に関する規制がイノベーションの妨げになっている
  • 30%: AIに関しての投資を行なっている
  • 20%: フィンテックへの投資から期待されているROI
参照元: PwC Global FinTech Survey 2017

キーワードはテクノロジー活用とユーザーとの接点における体験設計

上記のGAFAような企業が今後、デザインとテクノロジーの活用を推し進め、よりユーザーに喜ばれるサービスを追求していくと、近いうちにメガバンクでも太刀打ちできないレベルまで到達すると考えられる。

サービス別顧客維持に重要だと考えられる要素:

  • ペイメント系: 1位: 使いやすさ, 2位: サービスの速さ, 3位: 利用可能時間
  • 銀行業務系: 1位: 使いやすさ, 2位: 利用可能時間, 3位: サービスの速さ
  • 保険系: 1位: 使いやすさ, 2位: カスタマーサービス, 3位: 利用可能時間
  • 資産運用系: 1位: 使いやすさ, 2位: 利用コスト, 3位: 利用可能時間
元々エンドユーザーとの接点、特にデジタルチャンネルにおけるユーザー体験の設計が上手なテクノロジー企業は、今後様々な業界への進出が予測されており、次のターゲットは明らかに金融業である。 これは世界的に見ると、Google, Apple, Facebook, Amazonといった、いわゆるGAFAや、PayPal, Square, Spripeといったメガフィンテックスタートアップが金融サービスにおける主導権を握り始めたことでも明らかである。 逆に考えると、既存の金融機関は、今後顧客とのタッチポイントの設計やノウハウ、戦略が不可欠な要素になってくるのは間違いない。それに加え、フィンテック企業とのコラボも重要なファクターとなるだろう。

レガシー金融機関とフィンテック企業のそれぞれの強み

その一方で、新規参入の企業は認可の問題や、資金的な限界、そして顧客獲得の面でのハンデが存在する。そうなってくると、レガシー金融機関とフィンテック企業がまともにぶつかるよりも、上手に協業する方が得策なのは間違いない。

レガシー金融機関の強み

  • 既存の顧客ベース
  • 広い商品ラインアップ
  • コンプライアンス
  • 金融庁との関係性
  • 融資に対する金利の低さ

フィンテック企業の強み

  • 新たなサービスアイディア
  • アジャイルなプロセス
  • データ収集・分析力
  • デジタルチャンネルにおける顧客獲得
  • 高いユーザー体験クオリティ

金融機関とフィンテックがコラボする際のハードルは?

しかし、既存の金融機関とフィンテック企業のコラボはそこまで簡単ではない。テクノロジー的な側面に加え、企業カルチャーとスピード感の違いが大きな壁になっており、まだまだお互いの歩み寄りが必要である。

レガシー金融機関が感じるコラボに対しての課題:

  • ITセキュリティー: 56%
  • 法規コンプライアンス: 54%
  • 企業カルチャーの違い: 40%
  • ビジネスモデルの違い: 35%
  • IT互換性: 34%

フィンテック企業が感じるコラボに対しての課題:

  • ITセキュリティー: 28%
  • 法規コンプライアンス: 48%
  • 企業カルチャーの違い: 55%
  • ビジネスモデルの違い: 40%
  • IT互換性: 34%

レガシー金融機関がフィンテック企業とコラボするための5つのステップ

では今後フィンテックとのコラボを実現した金融機関は、いったい何から始めれば良いのだろうか?その言葉から「テクノロジー」にフォーカスしがちであるが、実はそれを実現するためには「ヒト (従業員)」の変革から始まり「ヒト (顧客)」へのより良い体験提供につなげていくイメージが必要だと思う。 ちなみに、下記のプロセスは、btraxが提供するプログラムでも採用しているステップなので、参考になれば幸いです。 fintech-process

ステップ1. 人材教育

おそらく現在の金融機関で働く方々は、スタートアップのそれとは対局のマインドセットを持っており、今のままではその意識もコミュニケーション手法も大きく異なっている。相手の立場から物事を理解し、行動に移すためには、まずは既存の考え方から抜け出す必要があるだろう。 そのためには、ちょっとしたITリテラシーから、デザイン思考、サービスデザイン、リーンスタートアップ、マーケティングなどの基礎知識と、フラットな組織でのリーダーシップとチームワークを学ぶと良いと思われる。

ステップ2. カルチャー変革

個々のスタッフのマインドセットがある程度調整できたら、次は組織や会社全体のカルチャーを変革させていく。下記のようなスタートアップではスタンダードとされるカルチャーを導入していくことで、新しいイノベーションが生み出しやすい土壌が整うであろう。
  • クリエイティブな発想
  • 速いスピード
  • リスクをコントロール
  • 仕事を楽しむ
  • ユーザーを最優先に考える
ちなみに、スタートアップと金融系で最もギャップがあることの一つが服装。かたやジーンズ&Tシャツなのに対して、金融はバッチリスーツ。この違いもカルチャー的なギャップを生み出していると考えられる。 参考: シリコンバレーに来るならスーツは着ない事

ステップ3. 組織変革

人材とカルチャーを変革させるには、組織や人事のシステムを見直す必要がある。既存の減点方式の人事評価基準や、属人的なプロセスにメスを入れ、新しい発想、そしてアクションを取ることのできる人材の評価軸を新たに設けたり、本社と切り離した特殊部隊の組織を作るなどの方法もあるだろう。 例えば、アメリカの大手金融機関のCapital Oneは、サンフランシスコにデザインチームだけの専属オフィスを設け、本社業務には一切関わらない環境と、組織づくりを行っている。そうすることで、セキュリティーに関する過剰な規制から解き放たれ、スタートアップ的発想でプロダクトづくりを進めている。 そこで働く友人も以前に「デザイナーとして、金融機関で働くことはあり得ないと思っていたが、ここであれば十分に自分のやりたいことができるし、それが評価の対象になっている」と語っていた。これは、銀行の本社オフィスでは絶対に実現できなかった組織形態である。

ステップ4. テクノロジー活用

そしてここでやっとテクノロジーの活用、および適用のプロセスが始まる。なぜなら、既存の組織やカルチャーだと、活用したくてもできない社内ルールが沢山のあるからだ。 例えば、おそらく現在でもスタートアップの間では標準とされているような、Google Apps, Dropbox, Slackなどのクラウド系サービスが、金融機関のセキュリティールール上はまだ、利用不可能だろう。 通常、スタートアップが外部とコラボする際には、上記のようなツールを最大活用し、効率化の最大化とスピードアップを図るのであるが、それが不可能な場合、コラボどころか、日常のやりとりもままならない。 以前に日本のとある金融機関とやりとりした際に「それでは必要な書類のリストを後日郵送します」と言われ「いや、メールで送っていただければ大丈夫ですよ」と伝えると「いえ、社内規定でメールで送ることはできません」と言われた。なかなか昭和の風情があったが、現代にはふさわしくない仕組みだなとも感じた。 最近流行りのAIやブロックチェーンの活用云々も良いが、レガシー金融機関として、まずは基本的なテクノロジーツールが利用できる状況に整えていく必要があるだろう。それができて初めて、スタートアップとのやり取りをする下準備ができたと言えるだろう。

ステップ5. ユーザー体験改善

そして最後に何よりも大切なユーザー体験の改善。これは、小手先のインターフェース (UI) 改善とかでは顧客ニーズに対応するのは限定的で、プロダクトとサービスの包括的な見直しから行う必要があるだろう。 なにせ、現在の多くの金融系サービスが提供側ありきで設計されており、ユーザー体験の品質が非常に低いケースが後を絶たない。そこに改善の提案をしても「社内規定だ」「自分の範疇ではない」「セキュリティーが犠牲になるのでMacはNG」などの理由でなかなか物事が進まない。 だからこそ、顧客により良い体験を提供したければ、一見遠回りだと思われがちであるが、人材教育からはじめ、カルチャー変革、組織変革、テクノロジー活用、そしてユーザー体験の改善の順番で進める必要があるのである。

参考: フィンテックと金融機関のコラボ事例

それでも、世界レベルで見るとすでにレガシー金融機関とフィンテック企業とのコラボ事例がいくつか存在している。これらの例から日本でも今後どのようなコラボが実現しそうかを考えてみるのも面白いだろう。

BBVA Compass x OnDeck

個人事業主やスモールビジネス向けにP2Pレンディングを通じたローンを提供するノンバンクのOnDeckに対して、BBVA Compassは既存の規定では承認されない顧客の紹介を行っている。 データ活用によってよりリスクをとり、幅広い顧客そうに融資が可能なOnDeckとコラボすることによいr、コンサバな既存の金融機関が顧客ニーズに対応している例。

Fidelity Investment x Betterment

AIを活用したスマート投資サービスを提供するBettermentのサービスを、既存の大手資産運用グループのFedelity Investmentが自社顧客に対して提供している例。 既存の人的サービスと、フィンテック企業のAIサービスを連動させることで、より幅広いサービス提供が可能になっている。

Sandander x Tradeshift

ヨーロッパ地域における大手金融機関のSandanderは、サンフランシスコに本社を置くフィンテック企業のTradeshiftとパートナーシップを結び、全世界にいるおおよそ1,500万の法人顧客に対してのサービス展開を行っている。 Tradeshiftは法人むけにサプライチェーンの管理をクラウドベースのプラットフォームを通じて提供している。このプラットフォームにSandanderの提供する法人むけ金融サービスを連動させることにより、受発注プロセス、在庫管理、進捗管理に加え、運転資金の運用に関するサービスも提供可能にするのが狙い。 また、Sandanderとしても、デジタルチャンネルを通じた法人顧客の獲得にも期待を寄せている。 関連: 銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1)  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

現代女性の健康を支える500億ドル市場フェムテックと注目スタートアップ

現代女性の健康を支える500億ドル市場フェムテックと注目スタートアップ

現代女性の健康を支える500億ドル市場フェムテックと注目スタートアップ

femtech
皆さんは「フェムテック」という言葉を聞いたことがあるだろうか? フェムテックとは、フェミニンとテクノロジーを組み合わせた造語で、不妊治療や生理など、女性の健康に関する問題をテクノロジーを使い解決する分野のことを指す。

急成長するフェムテック市場

Frost&Salivanによると、このフェムテック市場は、2025年までに500億ドル規模にまで成長する可能性があるとされている。すでに投資家も次なる成長市場として注目しており、The Gardianも、過去3年間で10億ドルの投資が集まったと報告している。 また、投資プラットフォームであるPortfoliaがフェムテック専門のファンドを立ち上げるなど、シリコンバレーを中心に急成長を遂げている。

ニッチではなく、未開拓市場

女性に関するデータを集め、AIなどの最新テクノロジーを活用し、女性が抱える問題を解決していくこのフェムテック市場は、歴史的に見てもかなり意義のある市場なのだ。男性のデータに比べ、女性のヘルスデータは圧倒的に不足していると言われている。驚くことにアメリカでは、1993年まで女性のデータは医学的な実験の対象になっていなかった。なぜなら、実験中に女性が妊娠した場合、胎児に悪影響があるとされていたためだ。 そのため、薬や病に関するデータは、全て男性の体への影響を測る実験から得たものであり、この法律がなくなった後も医療現場では男性のデータを使う傾向にある。このような背景を考慮すると、フェムテック分野がいかに未開拓の市場であることがわかる。 Fitbitは、今年2月に、生理周期をトラックするClueアプリとのコラボレーションを発表した。これは、ヘルスケアデータ=男性の体のデータといった、偏ったデータ収集状況を正す第一歩と言えるだろう。 今回はこのように急成長を遂げているフェムテック市場で注目されるスタートアップを4社ご紹介したい。

1. 生理用品界のディスラプター:Cora

皆さんは次の画像を見て、何を思い浮かべるだろう。 Cora Tampon case1 写真はCoraのInstagramオフィシャルアカウントより Cora tampon case2 写真はCoraのInstagramオフィシャルアカウントより 実はこれら、生理用品のサブスクリプションサービスを手がけるCoraの、タンポンを入れるケースなのだ。生理用品のパッケージといったらピンクなどのコーラル系色が使われることが多いが、Coraのデザインは際立ってスタイリッシュだ。 この背景には、生理をもっとポジティブな経験に、というファウンダーMolly Haywardの思いが込められている。女性用の製品はとりあえずピンクにして売ればいい、といった業界の常識を覆した。ケースのデザインをスタイリッシュにするのは、これまで生理用品を袖の下に隠してトイレまで運んでいた女性達が恥じることなく明るい気持ちでいられるようにするためだ。このように女性ならではの視点で考えられたデザインが共感を集めている。

Coraとは?

Coraは、2015年に誕生した、サンフランシスコ発のスタートアップだ。ナプキンやタンポンといった生理用品のサブスクリプションサービスを手がけ、昨年7月にはシリーズAとして600万ドルを調達している。 ユーザーの生理周期や経血量などに合わせ、最適な量の生理用品が送られてくる。価格は$8から$16で、3カ月ごとに生理用品が自宅まで届くシステム。上記で述べた、スタイリッシュさやデザイン性以外にも、Coraがミレニアル世代を惹きつける理由を深掘りしてみたい。

ミレニアル世代の社会貢献欲求を刺激

Cora founderファウンダーのMolly Haywardとケニアの少女たち(写真はCoraのInstagramオフィシャルアカウントより) Coraのサブスクリプションを1カ月分購入すると、自動的にインドの少女達に1カ月分の生理用品が寄付される。インドの貧困地域では、生理用品が賄えないため、生理を迎えた少女は生理期間中、学校に行くことができない。インドに住む少女のうち、4人に1人が生理によって学校をドロップアウトしているとの報告もある。ファウンダーのMolly Haywordは、Huffpostに対し、この問題を解決するために、Coraを立ち上げたのだと語る。 彼女がケニアで英語を教えている時、少女が生理用品を買えずに授業を休んでいる光景を見て、激しい怒りと共に、使命感を感じたという。この制度は、世界中の全ての女性が清潔で健康な生活を送ることができるようにしたいというファウンダーの思いが現れている。 毎月必ず買う必要のある生理用品で、貧困地域の少女が自立することを助けられるというCoraのコンセプトは、社会に貢献することに生きがいを感じるミレニアル世代に強く響いている。

2. 年齢に左右されない!不妊治療技術の新しい活用法:Prelude fertility

前回『シリコンバレーが注力する女性活用施策の中身とは ー時代は徹底的能力主義へ』でも紹介したように、卵子保存を福利厚生として提供する企業は、経営戦略として行っている。なぜなら、優秀な女性が、自然な妊娠可能年齢に影響を受け、職場を去ることを防ぐことができるためだ。キャリアと出産の両立は、女性にとっては大問題だと言っても過言ではない。 つまり、企業にとっても、重要な労働力である女性の問題をどう支援するかは大きな課題だと言える。そんな問題を解決するために生まれたPrelude fertilityは、現在不妊治療で使われている技術を、妊娠ができる状態だがまだ妊娠をしたくない若い層に使い、女性の自由な選択を応援しているのだ。

Prelude fertilityとは?

体外受精の技術を提供する、2016年に創立されたこの企業。サービスの仕組みは以下の通り。(参照:ビジネスインサイダー)
  1. 20代後半〜30代前半で卵子、精子を冷凍、保存する
  2. 妊娠を希望する場合は卵子、精子を解凍し、Prelude fertilityが胎芽を作る手伝いをする
  3. 着床前スクリーニング(PGS)(正常な受精卵だけを移植する方法、遺伝病の有無などもチェックできる)
  4. Prelude fertilityは、胚芽を母親に戻す

ユニークなターゲットと料金体系

一見すると、一般的な体外受精技術を提供する企業に思えるだろう。しかしPrelude fertilityがユニークなのはそのターゲット層と料金体系にある。従来、体外受精の技術は、妊娠が難しい層に使われていた。しかし、Prelude fertilityは、妊娠ができる状態だがまだ妊娠をしたくない若い層をターゲットにしているのだ。妊娠や出産を年齢に左右されないで、というスローガンで、女性のキャリアと出産の両立を応援する。 アメリカでは、女性が初めての子どもを出産する年齢が、年々上がり続ける傾向にある。2014年の統計では26.3歳で、2000年時の24.9歳から大きく上昇した。この傾向はさらに加速すると言われており、卵子を保存するニーズも増えると考えられる。 体外受精を検討する際、その高いコストが懸念事項にあがるが、Prelude fertilityはそこにもアプローチしている。卵子、または精子を冷凍のために採取してから、毎月199ドルを払うのだが、(最長3年間)この金額には上記のステップ4まで含まれる。 なお、ユーザーは、冷凍卵子、精子の保管料だけ払うことも可能だがその場合ステップ2−4は別途課金となる。一般的にこの工程には5万ドル以上かかるのに対し、このサービスを使うと、採取から10年後に解凍し使用する場合、毎月199ドルを払ったとしても従来の金額の半額以下になる。Preludeのように、コストを抑えたサービスが増えれば、会社の支援がなくても私費で計画的に卵子を保存する女性も増えてくるかもしれない。

3. 妊娠を目指す人のためのウェアラブルデバイス:Ava

不妊治療のグローバル市場規模は、2022年までに20億ドルにまで成長すると見込まれている。次に紹介するAvaは、妊娠を目指す全ての人を応援するウェアラブルデバイスを販売している。また、今年の1月には同社のウェアラブルデバイスを使ったユーザーの内、1000人から出産することができたという報告を受けている。

Avaとは

ava-app 写真はAvaのPresskitより 排卵日を正確に予測するブレスレットを開発したAvaは2014年に創立したスイス発のスタートアップだ。今年5月にはシリーズBとして3000億ドルを調達している。ユーザーは、就寝中にブレスレットを着けるだけで排卵日を確認することができる。 これを身につけることでユーザーは呼吸数、心拍数、睡眠の質、体温など、生殖ホルモンの増加に関連して変化する9つの生理学的パラメーターを監視し、予測することができる。一般的に妊娠可能期間は月のうち6日程度、そのうち高確率なのは3日にすぎないと言われている。実験によると、平均で妊娠可能期間を5.3日予測し、その正確さは89%だった。料金体系は、ブレスレットが249ドルで、毎月のアプリ使用料が5ドルとなっている。

妊活をストレスフリーに

体のデータを記録するアプリはフェムテックの中でも競争が激しい分野だ。例えば、月経周期を記録するアプリであるClueやNatural Cyclesなどが挙げられる。 Avaの特徴を同社CEOはこう話す。「現在、妊活では、排卵検査薬の使用や毎日の基礎体温の測定など、日々生活に負担をかける方法が用いられています。Avaは、そんな女性の生活を少しでも楽にするために生まれ、ハードウェアとテクノロジーを活用することで女性が抱える問題を解決したいと思っています。」 従来の方法に比べ、Avaは、就寝中にブレスレットをつけるという簡単な方法で正確なデータをコンスタントに取ることができる。日本国内でも不妊治療を行う人は年々増え続けているため、カップルの負担を減らし、ストレスフリーな妊活を応援するAvaは、日本でも需要があるのではないだろうか。

4. データ活用でより自然な避妊法を実現:Natural Cycles

最後に紹介したいのは、月経周期、毎日の基礎体温をAIで分析し、避妊が必要かどうかを教えてくれるアプリ、Natural Cyclesだ。一見するとただの月経周期を記録するアプリだが、これは、アメリカの行政機関であるFDA(食品医薬品局)によって正式に避妊具として認められたアプリなのだ。 naturalcycle presskit 付属の基礎体温計とアプリ(写真はNatural Cyclesプレスキットより)

Natural Cyclesとは?

2013年にスウェーデンで設立された同社は、昨年シリーズBとして3000億円を調達した。使用方法は以下の通り。朝一番に体温を測り、アプリに入力する。数週間繰り返すと体のサイクルをアプリが分析し、避妊が必要な時はRed Day, 必要ない時はGreen dayとして表示される。 年間のアプリ使用料は$79.99で付属の小数点2位まで出る基礎体温計($28)がつく。毎月の支払いの場合は月に$9.99で、この場合は基礎体温計が付かないため、ユーザーが自分で用意する必要がある。基礎体温計は、小数点2位まで出るようになっていて、アプリを使うためにはこのタイプの体温計が必要になる。 app UI 避妊が必要な時は赤、必要ない時は緑が表示される(画像はNatural Cyclesのオフィシャルサイトより)

より自然に、安全な避妊を応援する

避妊の正確さについて、同社は以下のデータを発表している。22,785人の女性(平均年齢29歳)の、224,563通りの生理サイクルを研究しており、体温を完璧に測りアプリを利用すると99パーセントの確実性が見込まれる。なお、Natural Cyclesを使うと、一般的には避妊の確率は93%と言われているので、いかに効果的かがわかる。 避妊用ピルが普及している欧米では、「余分な化学製品を体に入れたくない」と思う自然なライフスタイルを求める若者が一定数おり、その層に受け入れられているようだ。その一方で、懐疑派も多い。ストックホルムの病院では、2017年の9月から12月の間の中絶希望者668人のうち37人はこのアプリを使っていたと報告されている。同社CEOは「Natural Cyclesは全員にとって最適な避妊方法ではなく、より自然な方法を好むユーザーに使ってもらいたい」と述べている。 Forbesは、2015年から2018年にかけて100億ドル以上の投資を集めたこのフェムテック市場は、グローバルヘルス市場の次なるディスラプター(市場を混乱させるほど、画期的なビジネスを生み出す企業のこと)になると予測している。世界人口の半分の、およそ35億人がターゲットであるこのフェムテック市場。 女性活用を戦略として捉える企業が増える中、女性社員に働きやすい環境を与えられている企業はどれだけいるのだろうか? 冒頭でも述べたようにキャリアと出産の両立は、女性にとってはシビアな問題だ。まだまだ働きたい、と思っている有望な女性社員達がやむなく会社を去ってしまう状況をそのままにするのではなく、彼女達が抱えている問題に目を向け、サポートすることが大切という姿勢が大事になってくるのではないか。 だからこそ、今回ご紹介したようなスタートアップの躍進が世界の女性達の健康を支え、ゆくゆくは企業の成長にもつながるのかもしれない。

新サービスの初期ユーザー獲得に意外と有効なオフライン施策

新サービスの初期ユーザー獲得に意外と有効なオフライン施策

新サービスの初期ユーザー獲得に意外と有効なオフライン施策

user acquisition
freshtrax読者の方ならご存知の通り、ここ10年程でサンフランシスコではサービス開発の手法が大きく変化した。ユーザーを中心に捉え、デザインのプロセスを通して課題解決を図るそのプロセスは数多くのサービス・プロダクトを生み出してきた。 そうして生まれた新たなサービス・プロダクトが必ず通るのが「初期ユーザー獲得」のフェーズだ。いくら問題を解決する革新的なソリューションを生み出したとしても、それを使ってくれる人がいなければ何の意味もない。しかしこうしたスタートアップは資金が潤沢にあるわけではないことから、かなり地道な方法でユーザー獲得に励んでいたのは「マジックなんてなかった!スタートアップ企業の初期ユーザー獲得方法」で紹介した通りだ。 また、このような新サービス・プロダクトを広めるにあたっては、従来のプロモーションのように大規模に予算をつぎ込んで行うという手法ではなく、デザイン思考のプロセスのように仮説⇒実践⇒検証という実験的なサイクルを複数回すことで、最も効果の高い手法を特定していくことが求められる。 btraxでもこれまで新サービス・プロダクトを広めるサポートをオンライン・オフライン問わずに広く行ってきたわけだが、その中でも意外に効果のある手法もあった。そこで、今回は、btraxが実践してきた初期ユーザ―獲得方法から3つご紹介したい。

意外と効果大 ポストに届けるダイレクトメール

まずご紹介したいのはダイレクトメールだ。と言ってもInsagramやeメールのことを言っているのではない。オフラインのダイレクトメール、ポストに届くアレである。 意外かもしれないが、ダイレクトメールを活用しているスタートアップはこの最新テクノロジーで溢れるサンフランシスコ・ベイエリアに結構存在している。頻繁にやっているところでいくと、自動車保険スタートアップのMetromileは筆者の家にも月1回程度のペースでダイレクトメールを送ってくる。封筒にチラシが入っているタイプのものである。 アメリカではUSPS(米国郵政公社)が行っているEDDM(Every Door Direct Mail)という面白いサービスがある。USPSのウェブサイトに行くと、各郵便番号内の細かいエリアごとに、指定した年齢層の割合と、平均所得を見ることができるのだが、このデータを基にターゲットが多く存在する郵便番号を指定し、ダイレクトメールを送れるのだ。

btraxでは高齢者層獲得に活用

実際にbtraxでは、高齢者層をターゲットとしたサービスのダイレクトメールをこのEDDMという仕組みを利用して送ったことがある。高齢者が多く、かつ所得の高い地域を予算の範囲内で複数指定し、クライアントが開発していた新規サービスへのサインナップを促すダイレクトメールを送ったのである。 実際オンライン広告に比べると1通あたりにかかるコストは大きいのだが、一方で高いサインナップ率を獲得することができた。計画段階ではオフラインで受け取ったダイレクトメールに記載されたURLをわざわざパソコンやモバイルに打ち込んでランディングページを訪れ、そこからさらにサインナップをしてくれる人が果たしてどのくらいいるのか不安だったのが、いい意味で裏切られた結果となった。ターゲットが高齢者ということもあったため、よりダイレクトメールに親和性が高かったこともあったのだろう。

スタートアップのためのDMサービスも人気

他にもShare Locial Mediaという、ダイレクトメールの制作・発送を行うスタートアップもある。ポストカードのようなダイレクトメールが、似たような他のビジネスの分と複数で1つの封筒に入って届けられる仕組みで、Blue Apron、Lyft、ThirdLove等のスタートアップがこれまでに利用している。まさにスタートアップのためのスタートアップだ。 Lyft DMShare Local Mediaのウェブサイトより引用) Share Local Mediaがターゲットにするのは大都市部の高所得者層で、年齢は25~49歳が中心。ターゲットは5種類に分けられ、eコマース(ジェンダー共通/男性/女性)と、母親層、そしてその地域に新たに引っ越して来た層である。これらのグループの中から1つ指定し、自社のダイレクトメールを他社のものと共に届けてもらうことができる。 毎日山のように目にし、スルーすることに慣れてしまっているオンライン広告やeメールニュースレターと比べて、ポストに届いたものは1つずつ確認する人が多く、ターゲットにメッセージが届きやすいのだろう。そういう意味では、ターゲットリーチにおいて存在感を出す手段として多くのスタートアップがダイレクトメールを利用するのも納得できる。

実物を体感してもらう 草の根ポップアップ展示

もし新たなプロダクトのユーザーを獲得したいのなら、ポップアップ展示は非常に有効だ。もちろんb8taのような新プロダクトを展示するスペースに出品できれば大きいが、それ以外にも地道に草の根活動で展示する方法はある。

クライアント企業内に昼寝部屋を設置

btraxでは以前海外のマットレスメーカーの日本進出をお手伝いした際、ローンチ前のユーザー獲得活動の一環として、他のクライアント企業に掛け合い、各企業内に昼寝部屋を設置するという試みを行った。 日本の働き盛りのビジネスパーソンの就寝時間が短いことは有名だが、同時に仕事の生産性UPに対する昼寝の効用も認知されつつあったことから、マットレスのプロモーションとしても企業の生産性対策としてもちょうどいい施策となったのである。 実際には企業に会議室の1室をご提供いただき、その部屋を2週間の間「昼寝部屋」とし、マットレスを置いて社員の皆さんに自由にマットレスを体験してもらった。その後同フロアの社員の皆さんにアンケートを送付し、回答者には特別割引コードを差し上げた。 また、ある企業ではホワイトボードがあったため、体験した社員の皆さんに自由にコメントを書いてもらうようにしたのところ、非常に正直な意見を沢山いただくことができた。ちなみにbtraxのクライアント企業のご厚意で場所の使用コストはかからず、発生したのは運搬コストのみであった。

サンフランシスコのランニングイベントで靴下展示

アメリカでも同様の草の根ポップアップを行った事例がある。日本の靴下メーカーのアメリカ進出をサポートした際は、同社のランニングソックスの初期ユーザーを獲得するためにサンフランシスコのランニングイベントでポップアップ展示をした。 pop-up store サンフランシスコは今年アメリカ国内170都市の中で最もヘルシーな都市に選ばれたことからもわかるように、健康意識が非常に高く、ランニングイベントも多数開催されている。そこでランナーたちにリーチし、実際にプロダクトに対するフィードバックをもらうことを実施。 ランナーの中にはサンフランシスコ・ベイエリアの住民が多いため、新サービスやプロダクトへの興味が強く、フィードバックを惜しまない。ローンチ後の今でもランニングイベントの主催団体と提携し、月に1度のイベントで定期的にポップアップ展示を行っている。

究極に地道だが有効 オフラインでユーザーをスカウト

気が遠くなるような作業に思えるかもしれないが、実は結構効果的なのが1人1人に声をかける方法だ。手作り商品のオンラインマーケットプレイスEtsyも創業当初はメンバーが実際のクラフトフェアに赴き1人1人のユーザーに対してピッチしたという成功例もあるが、どのスタートアップも一度は検討した方法なのではないだろうか。 なぜそう考えるかというと、btraxがとあるスタートアップのお手伝いでこの活動をしたときに、声をかけた殆どの人が非常に好意的な反応だったからだ。 ターゲットは小さな子を持つ親世代で、主に公園で活動していたのだが、声をかけると皆小さな子供がいるにもかかわらず、手を止めて非常に熱心に話を聞いてくれた。中には、「今どのステージにいるの?」とスタートアップの資金調達状況に興味を持つ人までいた。

実践方法は超シンプル

ちなみにオフラインでユーザーをスカウトする方法は至極シンプルである。用意したものはサービスのコンセプトを書いたチラシとサービスロゴを入れて作った粗品。これらを携え、公園に赴き、親子連れを見かけると「ちょっと今お話ししてもいいですか?」と声をかけ、サービス内容に関するピッチを繰り返した。 また、親をターゲットにしたミートアップイベントにも参加し、隣合わせた人から「何のお仕事をされているんですか?」と聞かれた際に「実はこういうことをしておりまして…」とサービスの説明を行った。 こうして獲得した彼らはテストユーザーとして、サービス改善に関する貴重なインサイトを提供してくれたのだが、この方法はもしかしたらサンフランシスコ・ベイエリアだからこそ成り立つ方法なのかもしれない。ここは街全体でスタートアップに協力的で、住人は新サービスが生まれる場に立ち会うことに慣れていて好奇心旺盛だ。 知らない人に声をかけづらい空気があり、初対面の人にネガティブなフィードバックを出すのを憚る日本では少しハードルが高いかもしれないが、やってみる価値はあるだろう。

まとめ

今回ご紹介した事例はどれも全く新しいものではなく、むしろ非常に古典的な方法だ。しかしオンラインで広告が溢れる時代に、意外と有効であるというのはおわかりいただけたのではないだろうか。btraxでは新サービス・プロダクト開発のみならずその後の初期ユーザー獲得まで一貫してサポートできるのがbtraxの強みだ。ご興味のある方は是非お問い合わせを。

店舗はもう不要!? 自宅で試着し放題の新サービストレンド

店舗はもう不要!? 自宅で試着し放題の新サービストレンド

銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1)

銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1)

銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1)

bank-main
銀行での楽しい体験をしたことのある人は一体どのくらいいるであろうか? 様々なビジネスにおけるユーザー体験が改善される現代において、おそらく銀行は最も質の低い体験を提供していると言わざるを得ないだろう。 確かに、入り口にいる紳士が整理券を丁寧に手渡ししてくれるところまでは良い。しかし、そのあとの待ち時間、面倒な書類、短い営業時間、いちいち発生する手数料、融通の利かない担当者など、顧客がそこで体験する時間のクオリティーは非常に低いと感じる人も多いはず。 そして、その訪問が融資目的だったとしたら、上記の体験に加え、たらい回しにされた挙句「断られる」という体験も加わる可能性が高い。そうなって来ると時間の無駄&高いストレスという、なるべくなら経験したくない状態を体験することとなる。これは、UXデザインの概念でいうと、おそらく最低レベルだろう。 参考: UXピラミッド – UXデザインの正しい評価方法 –

日本とは大きく違ったアメリカの銀行での体験

上記のエピソードは日本の銀行でのことであるが、これが自分が住むアメリカだとかなり異なっていた。 今回紹介するのは、法人口座で融資枠を作っておこうと思い店舗に出向いてみた際の経験。すぐに担当者を紹介され、要件を伝えると「10万ドル (約1千万円)までなら店舗じゃなくてオンラインでリクエストできますよ」との事。その場でリクエストを出してくれ、数日以内にNYの融資担当から電話が来て45分ほどの質疑で終了。簡単な書類をメールで提出した数週間後に枠が承認され、プロセスが終了した。 日本と比べ金利は高いものの、体験が非常にスムーズで、ストレスも少ない。そして何よりもスピードが早い。おそらく銀行としても、低額の融資枠の審査プロセスにあまりリソースを割くことをしていないのだろう。そのリスクの分を金利でバランスをとっていると感じる。

個人レベルだと店舗すら必要ない

そして、個人口座に関していうと、店舗に行くことはほとんどない。オンラインバンキングかモバイルアプリで事が済むから。ちなみに、アメリカでは、2014年の時点ですでに店舗やATMよりも、モバイルバンキングを活用しての銀行とのやりとり量が多くなっている。 統計的にも店舗に行くのが年間平均1-2回なのに対して、モバイルバンキングには月平均でも20-30回アクセスしている。単純に考えても、それの方が時間も手間もかからないからである。逆に店舗に行かなければならない状況を作り出している時点でユーザー体験が下がっているとも言える。 例えば、Bank of Americaのモバイルアプリでは、最近"Erica"と呼ばれるチャットボットベースのバーチャルアシスタントが様々な質問やリクエストに答えてくれるようになった。これによって、銀行のサポートに"電話"することすら、ほぼゼロになっている。 Bank of Americaのアプリに実装されているバーチャルアシスタント bofa-erica 参考: 【2018年】金融業界のAI最新動向4選

そして、フィンテックサービスはより進んでいた

この銀行に加えて、ノンバンクのフィンテック系のサービスだとこの体験はどのように違うのか。それを試すために、Funding CircleとOnDeckというサービスを試してみた。この二つはいくつかあるP2Pレンディング (ユーザー同士でお金を貸し合う) サービスを提供している。 もちろん店舗はなく、プロセスは全てオンラインで行われる。そして驚くことに、必要な情報を入力し、送信した数分後次のページに、融資可能な金額と金利手数料が表示された。これは、入力情報を元にAIが融資判断を行い、最終的には人力で確認する仕組み。リスクよりもスピードと効率性を最優先している。 自分はそこでページを閉じてみたが、その後担当者からメールが届き「いつでも借りられますよ」との催促を受けた。店舗に行くこともなく、待ち時間もほぼ数分。銀行よりも、よりスムーズな体験になっている。 参考: フィンテック (FinTech) 10の最新トレンド予測 ~改革は既に始まっている~

フィンテックの一番のメリットは優れたユーザー体験

ここ10年ほどでスマホやシェアリングエコノミー、ソーシャルメディアなどの普及で、日々の生活が著しく変化しているのにも関わらず、いまだに銀行の業務と顧客へのサービス価値は大きな変化をしていない気がする。それに対して、多くの企業、主にスタートアップが、フィンテックと呼ばれる新たな概念で、打開策を生み出そうとしている。 そもそもフィンテックがなぜここに来てそこまで注目されているのであろうか?まず、理解しておくべきは、”フィンテック”の”テック”という言葉。もちろんテクノロジーの意味であるが、それが最も威力を発揮するのが、より良いユーザー体験の実現である。 具体的には、スピードアップや、便利性の向上、そして高い透明性の実現など、これまで銀行の顧客が不安に感じていた要素を大きく改善してくれる。 その顧客体験の改善を達成するために、人工知能、ブロックチェーン、ビッグデータなどのテクノロジーを活用し、 P2Pレンディング、チャットボット、モバイルバンキング、クラウドファンディング、デジタルペイメントなどのそリュ0ションを実現している。 bank-diagram 参考: 2018年にUXデザインを取り巻く7つの変化

そもそもユーザー体験ギャップが大きすぎる

日常生活の中で、現在の銀行ほど顧客が求める体験の期待値と、銀行が提供するそれとの差が大きい業界もない。様々なプロダクトのサービス化が進み、多くの事柄がテクノロジーで解決され始めている現代において、安心、安全、セキュリティー、法令遵守を重んじなければならない金融業界は、どうしてもユーザーにより良い体験を届けにくくなる。 その一方で、スタートアップを中心としたテクノロジー系のサービスを提供している企業は、新たなことへのチャレンジや、既存の概念や規制にとらわれない方法でのサービス提供を行なっている。それにより、消費者側はより良い体験を受け取ることができるようになっている。 例えば、日本から海外に送金するだけでも、既存の銀行のシステムを利用するよりも、Transferwiseなどの、送金に特化したスタートアップのサービスを利用した方がスピードも早く、コストも安く目的が達成できる。同じく、カード決済に関してもSquareやStripeが提供する仕組みを活用しない理由が見つからない。 参考: DESIGN Shift: これからのビジネスはモノより体験が価値になる

既存の銀行の92%は10年以内に消滅する?

そんな状況の中で、Harverd Business Reviewが驚くべきリサーチを発表している。今後新たなサービス構築やイノベーションを起こせない場合、向こう10年間で既存の銀行の92%は消滅するというのだ。(出典: The Future and How to Survive It) イノベーションのスピードがどんどん加速する中で、消費者に対しての価値が提供出来ない金融機関は、フィンテック革命下においては滅びるしか道は無くなってしまうという。 その一番の理由がユーザー体験を主な原因とする顧客満足度の低さである。多くの金融サービスが提供側の目線で提供されており、デザイン思考などで考えられるような、顧客目線でのサービス設計がほとんどされていないのが現状で、世の中の様々な体験が改善される中で、銀行は大きく置いていかれている。 参考: デザイン思考入門 Part 1 – デザイン思考の4つの基本的な考え方

ディスラプトされる4要素をしっかりと兼ね備えた銀行業務

新規参入の企業によって、既存の業態が破壊される事を、スタートアップ界隈では、”ディスラプト”されるという。主にテクノロジーを活用したサービスより、これまでユーザーが感じていた不満を解決する事で一気に市場に大きな変化が生まれる事が増えている。 最近の例だとUberなどのライドシェアサービスによるタクシー業界の変革や、Netflixなどのオンライン動画配信によるビデオレンタル業界の縮小などもそれに当たる。 では、どのような業界がディスラプトされやすいのか?そしてその理由とは。まず理由としては、下記の4つがあげられる。 ディスラプトされる理由
  1. 複雑な体験
  2. 透明性の低さによる不信感
  3. 多すぎる中間業者
  4. アクセス性の悪さ (店舗の数など)
この4つの理由を見てみるだけでも、これまでの銀行が抱える問題と合致するような気がする。では、どのような業界がディスラプトされやすいのかを見てみよう。 ディスラプトされやすい業界ランキング
  1. データ, 情報, コンテンツ
  2. 音楽, メディア, 映画, テレビ, 印刷物
  3. 都市, 交通, 自動車
  4. 店舗, 商業
  5. 金融サービス
  6. 保険
  7. 薬品, 医療
  8. エネルギー, ユーティリティー
  9. 水, 食品
このように、様々な業界の変革・再編が進む中で、金融サービスにもそろそろ大きな変革の波が訪れようとしている。 参考: ディスラプト (破壊) されるサービスに共通する4つの不満要素

銀行がいらないと答えるミレニアル達

アメリカでは、個人の送金はFacebookメッセンジャーやWeChatを使ってサクッと行うことが可能である。難しいテクノロジーやセキュリティーの事はわからなくても、何が便利で使いやすいかは日常生活の中でしっかりと認識している。 このような時代には、資本力や規模よりもユーザーの数や、データ、そして優れたユーザー体験を提供できる企業の方がよっぽど構想力が高い。実際のところ、アメリカ国内の調査では、ミレニアル世代の約3分の1が5年以内に銀行の必要性がなくなるとも答えている。 そして驚くべきに、彼らの71%が銀行員と話すぐらいであれば、歯医者にいく方がマシと答えている。それだけ銀行は若者にとって体験の悪い場所になってしまっているのである。そして、彼らの40%は店舗の無い銀行でも構わないと答えている。 参考: ミレニアル世代に効果的なブランド構築方法

中国では物乞いもキャッシュレス

キャッシュレスが急激に進んでいる中国では、なんと物乞いやホームレスが"お恵み"を貰う際にも、自身のアリペイやWeChat PayのQRコードを記載されたボードを提示して、"集金"している。これは、本来であれば銀行口座を持つことが難しいとされる住所不定無職の人々でも、テクノロジーの恩恵を受けている一つの例であろう。 QRコードとスマホ決済で"集金"を行う中国の物乞い chinese-beggers

銀行の敵はすでに銀行ではない

これはすでに金融関係の人々の間では常識になってきているが、彼らが恐れるのは同業者ではない。GoogleやAmazon, Apple, Facebookといった巨大テクノロジー企業である。 なぜか?理由は簡単で、彼らはユーザーからの信頼と優れたユーザー体験を提供しているから。ちなみにこの4社はすでにペイメント系のサービスを提供しているし、Amazonはローンサービスも始めている。 現にメッセンジャー上で個人間送金を可能にするために、Facebook社はアメリカ国内だけでも金融サービスに関する50以上のライセンスを取得している。ことからもわかるとおり、今の時代は、企業を”業界別”で区切る事自体がナンセンスである。 米国ではFacebook Messenger経由でお金が送れる 8

初めての銀行口座がGoogleやAmazonになる可能性も

おそらく現在の子供達は最初に口座を持つのは既存の銀行ではなく、FacebookやGoogleになる可能性が非常に高いだろう。明らかに彼らの方がユーザーに対してのタッチポイントを多く持っているし、優れたユーザー体験を提供できているからである。 そして何より、生まれた時からデジタルデバイスとデジタルメディアに触れて育った人たちにしてみると、店舗に行くよりアプリ上で目的を達成する方がナチュラルに感じてもおかしくはない。 ユーザー全体から見ても下手な銀行よりも、例えばGoogleのような企業の方が信頼ができるだろう。なんせ、毎日使っているサービスなのだから。 Facebookに関しても、自分の大切な個人情報を惜しげも無くアップできるぐらいの信頼関係が成り立っている。もちろんAmazonにはクレジットカードの情報を預けっぱなしである。優れたユーザー体験を得られるのが理由で。 現に、TIME Magazineの調査によると、75%のミレニアルが、既存の金融機関よりも、GoogleやAmazon, PayPalといったテクノロジー企業からのサービスを受けたいと答えている。 この点に関しては、金融企業がどれだけセキュリティーを重要視したところで太刀打ちできない。ユーザー体験が悪いし、定期的に浮き彫りになる不祥事で、信頼性も決して高くはないのが理由。これからはデジタル上での体験の方が顧客にとってのスタンダードにもなり得る。 参考: これからの企業に不可欠な三種の神器とは

日本の銀行はこのままだと確実に滅びる

では日本の銀行はどうなのか?おそらく国内の銀行のイノベーションはまだまだ始まってすらいいないだろう。世界規模では、生き残りのために必死になっているこの時代に実に驚くべき状態である。それも、市場の展望が必ずしも良くないのにである。 そして、業界の歴史に裏打ちされた実績に合わせて、しがらみもしっかりと続いており、加えて規制や法的な事情でできない、もしくはできないと思い込んでいることが多すぎる。 ちなみに、日本の金融関係の方々とお話しすると、一番すごいと思うのは、できない理由がサッと出てくるところである。お決まりのフレーズは「わかってるんですけど、金融庁が…」 その割には海外のスタートアップ企業を中心に、できないとされているはずの事をテクノロジーの力や裏技を活用して、成し遂げているケースが後をたたない。そして、その一番の目的は、ユーザーメリットを高めるためである。 参考: アメリカ企業が日本企業に勝っている一つの事

生き残れるとしてもスタートアップ企業の下請け業務

既存の金融機関は、すぐさまユーザー体験を改善しなければ、今後は生き残れるとしても、フィンテック企業の下請けとしてお金の管理をする業務だけしかその価値はなくなるだろう。言い換えると、既存の金融サービスはどんどんコモディティー化が進み、その価値は加速度的に下がっていく。 顧客との接点に関する部分は、スタートアップなどの新規参入の企業か、もしくは既存の大手テクノロジー企業に根こそぎ持っていかれるのは、ほぼ間違いない。それでも、金融庁との関係や、既存の認可の関係で完全になくなる事はないにせよ、その多くが存続の危機にひんしている。 現に、CitiBankは向こう10年以内に現在の行員の1/3が必要なくなると試算している。これが50%だと予測している専門家もいるくらいである。なぜなら、未だに金融業界におけるコスト全体のおおよそ30%がオペレーションとコンプライアンスに関する人件費であるからである。 これは、全世界で13兆円以上のマーケット規模を誇る金融業界で見たとしても非常に大きなインパクトを生み出す。金融ビッグバン以上の衝撃と言っても過言ではないかもしれない。

エリートの定番キャリアから最も将来性の危ぶまれる業種へ

その昔、銀行員になるというのは誰もが羨むエリートのキャリアとされていた。これは、1989年の世界企業時価総額ランキンを見てもわかる。なんせ、Top 5のうち、4社が日本の銀行なのだから。 しかし残念なことに、その4つの銀行もすでに存在していない。もしかしたら、これから銀行に就職するのは、よっぽどの世間知らずに限られてくるかもしれない。それぐらいその存在が危ない。 1989年と2017年での企業時価総額の違い valuation-ranking 参考: 近い将来テクノロジーが葬る10の産業

銀行が真っ先に行うべきはユーザー体験改善のためのテクノロジー活用

では、そうならないためにはどうすれば良いのだろうか? ついついテクノロジー自体にフォーカスがあたりがちであり、フィンテックトレンドを追いかけてしまいがちであるが、重要なのは顧客のニーズを理解する事である事は間違いない。 例えば世界中にはいまだに20億人以上の銀行口座を所有していない人々がいる。この数字は必ずしも発展途上国だけではない。アメリカの国内にもまだまだ口座を持たない人がいる。例えばデトロイトやマイアミといった大都市のおおよそ20%がそうである。彼らは、銀行での預貯金ができないだけではなく、ローンを受けることも不可能だ。銀行との付き合いが全くないのが理由。 今後は、それら人々に対して、例えばモバイルテクノロジーを通じて新しいタイプの金融サービスを提供したりする事で、社会問題の解決と新たな顧客開拓の糸口にもなり得る。すでにその動きは始まっており、世界銀行の発表によると、2011年か2016年の間だけでも、約7億人がテクノロジーの恩恵を受け、銀行口座の開設をしている。 ここでやはり強調したいのは、主役はあくまでユーザーであり、テクノロジーはあくまでその目的を達成するためのツールであるということ。 ユーザーが欲しいのはより改善された体験である。そのためには、銀行員でも、金融に関する知識だけではなく、デザイン思考UXデザインなどの、ユーザー目線でクリエイティブな考えができる人材と、教育が不可欠となるだろう。 それを実現するために、どのように金融におけるユーザー体験をできるのか、我々btraxでも、今後金融業界向けのUXデザインサービスとプログラムを通じて、世の中に貢献したいと考えている。  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

意外と知られていない会社での飲酒のメリット・デメリット

work-culture-drinking
夕方に入り、ある程度の疲れを感じてきたところで飲むビール。サンフランシスコ・ベイエリアを中心とした多くのスタートアップでは、以前より社内でのアルコール無料提供が社員に支持されている。大企業とは違った自由な働き方を象徴する要素の1つだ。 日本にも昔から「飲みニケーション」という言葉があるように、お酒は人の交流や会話を促してくれるもの。社員同士や社内外のコラボレーション促進に特に取り組む近年の企業トレンドを考慮すると、ひょっとしたらこれからのオフィスの必需品になるのかもしれない。 しかし「飲まないとコミュニケーションできないのか」という議論もまた挙がるように、ここは賛否分かれるポイントでもある。結局のところ、オフィスでのアルコール提供はアリなのだろうか?近年のスタートアップの動きも入れながら考察すべき点を見ていきたい。

海外で広く飲まれる社内でのアルコール

仕事後の一杯はどこの国でも大昔から行われてきただろうが、「オフィス × アルコール」のイメージを強くしたのは、近年話題のWeWorkではないだろうか。コワーキング業界を牽引する同社の世界各地域のスペースにもビールサーバーが設置されており、これがWeWorkのトレードマークの1つとなっている。 コラボレーションを促進する次世代のワークスペースにビールサーバーが平然と置かれている光景は、多くの人にとって衝撃的なものだっただろう。 wework-beer1 実はこのビールサーバー、カリフォルニア州にあるオフィススペースには現在設置されていない。 スタートアップや企業がオフィス内で社員に対しアルコールを提供する分には問題ないが、WeWorkの場合は入居者に対して形式上「大家、不動産賃貸会社」という立場になり、カリフォルニア州でのアルコール提供には酒類販売のためのライセンスが必要になるのである。 今年2月にサンフランシスコのダウンタウンにあるスペースへの入居を決めたTable Public Relationsの創業者、Anna Roubosも「あのビールサーバーはどこにあるの?」と驚きを隠せない様子だった。彼女のように入居理由にビールサーバーを挙げる人もいるほど、ワークスペースでのアルコールは現在人気なのである。 weworkboston-beer ボストンにあるWeWorkでは、フロアごとにどの生ビールが飲めるかウェブサイトで確認できるようになっている。 実は法的にグレーゾーンだったコワーキングスペースでのアルコール提供だが、ここに挙げたWeWork以外にもサンフランシスコにある様々なコワーキングスペースでは、州からの指摘があるまで必ずと言っていいほどビールやワインの提供が行われていた。 そしてその中でも、以前からライセンスを取得した上でお酒の販売を行っているCovoはそれを武器にして、現在もアメリカ各地への展開を進めている。アルコール提供のカウンターをしっかりと設け、夕方からビールやワインのラインナップを充実させたサービスを提供。 「数々のミートアップやビジネスイベントを開催する上でもアルコール販売は貴重な収入源となっている」と創業者の1人であるJason Panは語ってくれた。 covo-counter サンフランシスコにあるCovoのバーカウンター 関連記事:【2017年最新版】コワーキングスペース 世界の8トレンド 同様にスタートアップにおいても、社内でのアルコール提供は社員にとって人気の福利厚生の一部になっている。TwitterやGlassdoorといった企業を筆頭に多くの企業が豊富な種類のビールやアルコール飲料を提供。 コミュニケーションツールの開発を行うAsanaでは、スコッチとチョコレートという少し洒落た方法で提供している。GithubやYelpでは仕事後に限られたスペースでのみ飲酒が許可され、FacebookやGoogleでもマナーに沿った上での飲酒が認められている。 airbnb-beer1 airbnb-beer3 筆者が訪れたAirbnbのオフィスでも豊富な種類のビールが用意されており、午後4時以降に飲むことができる。 関連記事:Google、Facebook、Airbnbはどのようにしてチームビルディングを行っているのか? またこのような「軽く飲む」企業文化に乗じて、企業向けにアルコールの提供・配達を行うサービスも生まれている。スタートアップのHopsyは、新鮮なローカルビールを企業オフィスに販売・提供。 ビールサーバーの無料提供も行い、社員の通常のハッピーアワー用にサブスクリプションモデルで一定量の供給を行い、またオフィスで開催されるイベント用にも必要なだけデリバリーを行うサービスを提供している。 hopsy1 hopsy2 btraxオフィスにもあるHopsyのビールサーバー。どこにでも設置しやすいように軽量化されており、中身はHopsyから送られてくるビールの入ったペットボトル”Torps”を入れ替えるだけ。

なぜわざわざオフィスでアルコール提供を行うのか

このようにコワーキングスペースやスタートアップ企業がワークスペースでアルコールの提供を行うのには、主に次の2つの理由がある。

1. オフィススペースで社員やユーザーのコラボレーションを促したい

すべての人ではないにしろ、やはり多くの人にとって、お酒は他人との会話や交流時の潤滑油的役割を果たしている。そしてそれは国境を超えた共通認識であり、多種多様なバックグラウンドを持つベイエリアの社員同士の交流にも非常に便利なものである。 また、社員同士のコラボレーションの成果は、他のどこでもなく、オフィスで表れてほしいという企業の願いもここに込もっている。在宅勤務も増える現代の働き方の中で、社員を意識的に集めた「オフィス」という場所のコラボレーション機能を向上させるために、アルコールは利用されている。

2. 優秀な人材獲得に向けて自由な企業文化をアピールしたい

アメリカのミレニアル世代の社員は大企業的な組織よりも自分の活躍の機会を得やすく、自由な企業文化を持つスタートアップのような企業で働くことを好む傾向が強い。 企業や人材にもよるが、ワーク・ライフ・インテグレーションといった言葉もある中で、仕事とプライベートを分けずに自由に飲酒できるような環境を通じて自由な社風を表現する企業が増えている。 このように企業のアルコール提供の背景には、人事的な理由が存在している。しかし、そんな文化が強いスタートアップ業界でもアルコールを明確に禁止する企業が現れ始めている。

一方、SalesforceやUber、Jet.com買収のWalmartで進む禁酒政策

サンフランシスコを代表するテック企業の1つであるSalesforceは、社内でのアルコールを取り締まろうとしている。昨年10月に社内の冷蔵庫にあったビールや生ビール用の小さい樽を見た同社CEOのMarc Benioffは、25,000人いる社員全員に対し、社内での飲酒を認めない旨を伝えるメールを一斉送信。 ”Ohana”(ハワイで「家族」を意味する)という言葉を用いて社員のつながりを大事にしているSalesforceだが、アルコールにその価値を求めていないようだ。同氏はアルコール提供が進むテック業界のパイオニア的CEOの1人として、多くの意味で注目を集めている。 同様に、Eコマース系スタートアップのJet.comでも飲酒が禁止に。その背景には、2016年8月に同社の買収を行った大手小売のWalmartがある。WalmartはJet.comの社内飲酒のみならず、週に1度行っていたハッピーアワーイベントも廃止したとのこと。社内からは不満の声が上がる中で、スタートアップカルチャーの”調整”が行われた。 人事管理ソフトウェア開発を行うZenefitsでも、2017年に新CEOのDavid Sacks体制の下で社内飲酒が禁止された。同社は、創業者兼前CEOのParker Conrad氏が関与した不正を始めに様々な問題が2016年に発覚。 正式な州政府のライセンスを持たない保険外交員を雇用していた問題や、その認可を受けるために必要なオンライントレーニングにおいて不正行為を可能にするソフトウェアの使用、また社内での性行為等、映画『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』並みのカルチャーを一掃する動きにでた。 また、様々な社内問題で騒がれることの多いUberも、前アメリカ司法長官のEric Holder氏の法律事務所推薦の下、会社が定めるコア・ワーキング・アワー内での飲酒を昨年7月に禁止。さらにアフターアワーイベントでのアルコール予算も減らす等の施策が取られている。

なぜ禁酒に戻そうとしているのか

スタートアップ業界を中心に社員から根強い支持のある社内アルコール。提供を続ける企業も多い中で、ここに挙げた企業のトップ達が感じていた懸念点は以下の4つである。
  • アルコール提供分の出費がかさむ
  • 社内でのセクハラ等、悪酔いする人の悪行が増える
  • お酒が苦手な社員にとって、ほろ酔い社員は迷惑な存在
  • 酔った社員がオフィス外で問題を起こした場合、企業の責任が問われる可能性がある
ここに上がったポイントは、社内でのアルコール提供を検討する際に企業が知っておくべき、また気をつけるべき点である。企業はこれらのリスクを踏まえた上で計画的な導入が必要になるだろう。

これらを踏まえた上で

社内でのアルコール提供のポイントや事例を見てみて、読者の方はどのような感想を持っただろうか。これだけのリスクを背負いながら、アルコール提供を進める企業が多くあることに驚きを感じた方もいるだろう。 しかし、このようなスタートアップ的で大胆なワークカルチャーを参考に導入を進める企業は実際に今も増加傾向にある。 自由な働き方を提供するためにアルコール提供を検討する企業は、会社やオフィスの規模にかかわらず今後も増えてくるだろう。そのような時には、本記事で触れたポイントを考慮した上で、自社のワークカルチャーに沿った判断が必要になる。 この記事が読者の働き方変革の一部分に役立てられれば幸いである。 *本記事はフロンティアコンサルティング様のブログ、Worker’s Resortより転載いたしました。

D2Cブランドに学ぶ!カスタマーと繋がる開封体験デザイン

unboxing
人の第一印象は、最初の10秒以内で決まると言われているが、これはブランド体験においても同じである。オフラインの世界に実店舗を持つブランドであれば、店舗空間全体を利用し、カスタマーが店に足を踏み入れた瞬間に彼らをブランドの世界観に浸らせることができる。 一方、店舗を持たないD2Cブランドにとって、オフラインにおけるカスタマーの最初のタッチポイントは、カスタマーサポートに問い合わせる時でも、プロダクトを初めて使う時でもない。それは、配達された箱を開ける瞬間だ。 「どうせ捨てられてしまうものに金など掛けられん!」と思うブランド担当者も多いかもしれない。そんな方にこそ、D2Cブランドの『開封体験作り』への力の入れようを見て欲しい。 店舗を持たない彼らにとって、カスタマーがパッケージを開ける瞬間こそが、カスタマーとの最初の「リアル」なタッチポイントであり、彼らは開封体験をブランドの価値や世界観を伝えるための重要なコミュニケーションの一つとして位置づけているからだ。

ブランドの第一印象を決めるパッケージ

ブランドの第一印象を決定する10秒のカウントダウンは、家に届いた商品を開ける瞬間からスタートする。Dotcom Distributionが2016年に実施したEコマースのパッケージングに関する調査によると、しっかりとブランディングされたプレゼントようなプレミアム感のあるパッケージは、ブランドに対するロイヤリティーを上げ、さらにクチコミを促進するという。 同調査によると:
  • 40%の消費者がプレミアムなパッケージングを提供する会社に対して高いロイヤリティーを抱くと回答。
  • オンラインストアで注文した商品がプレゼントのように包装されていた場合、40%の消費者が「同じショップで再び購入するだろう」と答えている。この数字は、2015年の調査の29%から大きく伸びている。
  • 40%の消費者が、「ブランディングされたパッケージ、もしくはプレゼントのように綺麗に包装されたパッケージは、ブランドに対するイメージに影響を与える」と答えている。
  • 「プレゼントのように綺麗に包装されたパッケージは、ブランドに対するイメージに影響を与える」と答えた人のうち、2/3以上の人が「ブランドに対してラグジュアリーな印象を持つ」と答えたのに加え、60%の人が「商品を受取ったときに、期待感を抱く」と答えている。
  • しっかりブランディングされ、さらにプレゼントの様に包装されたパッケージは、クチコミを促進する。「ブランディングされたパッケージ、もしくはプレゼントのように綺麗に包装されたパッケージは、ブランドに対するイメージにプラス影響を与える」と答えた消費者の50%以上が、「該当ブランドを友人におすすめする」と回答し、その割合は2015年に行った同調査結果の40%から大きく伸長している。

開封動画の流行

開封体験の重要性を押し上げたきっかけとして、英語圏における“Unboxing”と呼ばれる動画コンテンツの流行がある。Unboxing Video(開封動画)とは、購入したばかりの商品を文字通り開封、商品のレビューを行う動画コンテンツのジャンルのことである。 Youtubeを中心に、instagram、Snapchatなど各ソーシャルメディアチャネルで公開され、人気を博している。商品が届いた状態から、箱を開け、商品を取り出し、その場で使ってみて、その感想を述べるというのが、 一般的なUnboxing動画の流れだ。
[embed]https://youtu.be/tybe9qhjQ4E[/embed]
Unboxing動画では、最新デバイスから、コスメ、ファッション、子供用の玩具、食べ物に至るまで、業種問わず多岐に渡る商品が開封されている。 また、インスタグラムで#unboxingと検索すると、人気の動画として、『Omega』や『Louis Vuitton』『GUCCI』など丁寧に包装された高級ブランドのギフトボックスを開封する動画がたくさん紹介されている。つまり、それだけ幅広いオーディエンスがいるということになる。

ブランドがUnboxing動画へ寄せる期待

Google トレンドによると、「Unboxing」というキーワードが使われ始めたのは、2006年で、その検索数は年々増加している。2015年の12月をピークに、最近はややダウントレンドでになりつつあるが、依然としてかなりの検索ボリュームがある。むしろ、コンテンツとして定番化した感がある。 Youtubeで”Unboxing”と検索すると、なんと7600万件、instagramでは、67万件のもの検索結果表示される。(2018年6月現在) unboxing google trend これだけ人気のあるUnboxing動画。今、多くのブランドがPRのチャンスと捉えている。シェアしたくなるような開封体験の提供は、かなりの母数の潜在カスタマーにリーチできる(しかも無料で)大きな可能性を秘めているのだ。 2014年10月に実施されたGoogleの消費者調査によると、回答者の5人に1人が開封動画を見たことがあると答えている。また、開封動画を見たことがある人の62%が、特定の商品について調べる際に開封動画を見ると答えている。 加えて、実店舗に代わるショッピング体験を提供する手段としても、ユーザーがソーシャルメディアに投稿するunboxing 動画にブランドは期待を寄せている。なぜなら、unboxing動画は、オンラインストアの画面では十分に伝えることができない、商品の感触、機能性、使ってみた感じなど、消費者が購入するかどうか決めるのに必要な情報を提供してくれるからだ。 ユーザーが投稿する開封動画は、潜在カスタマーにリーチし、彼らの期待感を高めるのに一役買っているのみならず、商品に関する情報を伝えるための有効な手立てとなっている。そのため、ブランドはますます開封体験を重視するようになってきているというわけだ。

開封体験ベストプラクティス

ブランディングされ、プレゼントのようなプレミア感のあるなパッケージを使用するブランドに対して、消費者はポジティブな印象を抱くことが分かった。また、シェアしたくなる開封体験を提供することは、ユーザーによるunboxing動画の投稿を促す。 その結果として、潜在顧客に対して、オンラインストアでは伝えきれない商品の魅力を発信することが可能になるということも明らかになった。開封体験をデザインすることは、ビジネスにとって良い事ばかりのようであるが、効果的な開封体験とは、一体どういうものなのだろうか? 充実した開封体験を提供するブランドの共通点を見つけるべく、筆者自ら様々なD2Cブランドで商品を購入し、開封体験を検証してみた。その結果、魅力的な開封体験を支える3つの特徴が見えてきた。

(1) パッケージそのものが、ブランドコンセプトを体現

allbirds unboxing エコ・フレンドリーなシューズブランド『Allbirds』は、ボックスで目一杯ブランド価値を表現している。Allbirdsが使用している配送用の箱は、配送の役目を終えたらシューズボックスとして使えるようなデザインとなっているのだ。 かさばるシューズボックスをさらに大きな配送用の箱に詰めるのではなく、シューズボックスそのものを配送用にしてしまうという発想の転換だ。 allbirds unboxing 箱を開けると箱の内側にまず、『WE ARE ALLBIRDS』という自己紹介が。配送中に箱の中でシューズが動き回らないよう固定する仕切りには、ブランドのバリューが記載されている。(写真上)さらに、シューズの中からは、かわいい顔つきのシューズキーパーが入っており、そこにも商品の特徴が書いてある。少しのスペースも無駄にすることなく、ブランディングを行っている。 allbirds unboxing 加えて、発送に使われる箱にはリサイクルダンボールと大豆ベースのインクが使われており、100%リサイクル可能とのこと。パッケージそのものがブランドのコンセプトを体現するものとなっている。

(2) 配送手段としての機能性(商品の保護、返品への配慮)

せっかくブランディングされた素敵なパッケージを用意しても、発送の途中でダメージを受けたり、汚れてしまったりしていては元も子もない。Eコマースビジネスを行う以上、カスタマーの元に商品を万全な状態で届けることは大前提である。 bloomthat uunboxing 花束の配送サービスを提供する『BloomThat』は、花束の形を活かした円錐形のパッケージを採用。花を傷めることなく、商品が配達された瞬間から花束を受取ったときの喜びを体験できるようにしている。そして、円錐型のパッケージを開けると、リサイクル麻布でラッピングされた花束が現れるようになっている。 unboxing_bloomthat2 また、配送で使われる箱の役割は、必ずしもそれで終わりではない。ペットボトルをリサイクルした素材を使ったシューズブランドの『Rothy’s』の配送用の箱には、未使用の両面テープが予めセットされている。カスタマーが商品を気に入らなかった場合、そのまま箱に入れて返送してもらえるようにするためだ。 配送用の箱を返送用に再利用することでゴミを減らせるし、梱包用の箱やテープをカスタマーに用意してもらう手間も省ける。ほんのちょっとした気遣いではあるが、開封の瞬間に留まらず、ショッピング体験全体をより快適なものにする、スマートな仕組みである。

(3) シェアを促す、サプライズ

unboxing barkbox 愛犬用のサブスクリプションサービスの『barkbox』は、思わずシェアをしたくなる仕掛けが豊富だ。 Barkboxを購読すると、毎月テーマに沿った愛犬用のオモチャとおやつが届くのだが、ボックスに同封されている商品を解説する「お品書き」には、毎回クスッと笑ってしまうような(多くが犬に関連したダジャレだ)コピーが採用されている。 例えば、アートがテーマのボックスであれば、「The Academy of Fine Arfs」、(犬の鳴き声を表現する擬音語”Arf”と「Art」を文字ったダジャレ)恐竜がテーマのボックスには「ジュラシック・パーク」を文字った「CHEW RASSIC BARK」(Chewは「噛む」、Barkは「吠える」)というタイトルがつけられている。 シェアを促す仕掛けは、コピーライティングだけではない。ボックスに同封された商品の説明が書かれたお品書きが撮影用の小道具として利用できるようになっているのだ。お品書きの一部を切り取り線に沿ってくり抜くと、アートがテーマのボックスであれば、アートフレームに、プロムがテーマのボックスであれば、首輪に着けることができるリボンが完成する。 barkbox photo unbox barkbox

photo credit:@tobeyandpercy

  さらに、箱の中敷きに使われている紙にすらシェアさせる仕掛けが隠されている。アートがテーマの月なら、塗り絵ができる仕様に、プロムがテーマの月であれば、裏面が壁に貼り付けて撮影をすることのできるバナーとなっていた。 unbox barkbox

phot credit:@happyhuskyhiro

Allbirdsの例とも共通するが、BarkBoxは、パッケージのスペースを上手く活用し、ユーザーがソーシャルメディアに開封体験を共有するのを促す仕掛け作りに力を入れていることがわかる。

まとめ

オンラインで商品を販売する限り、必要となる発送用のパッケージ。「包んで、送って完了」ではなく、「何で」、「どのように」包むか、そして「どのような行動をカスタマーに期待するのか」を考えでデザインを行うことで、カスタマーのショッピング体験、さらにはブランド体験を向上させることができる。 日本では、商品のラッピングサービスは商慣習として根付いているし、素敵なパッケージを使用しているブランドも多い。また、ブランドのオリジナルのハッシュタグを作り、ユーザーにシェアを促すことも、一般的に行われている。その一方で、もし海外展開を行う場合、果たしてその開封体験は、ターゲットとなるユーザーに正しく響くものだろうか? 例えば、商品を保護するために、何重にも梱包することは、一見開封体験の向上に貢献しているように見える。しかし、もしエコフレンドリーが売りの商品を販売するブランドがこのようなパッケージを採用したらどうだろうか?ユーザーにとっては、過剰包装と捉えられてしまい、逆にブランドにネガティブな印象を与えてしまう可能性がある。 また、開封体験のシェアを促すために作成したキャンペーンハッシュタグが、全く別のことを意味するキャンペーンであったら?イギリス発のファッションブランド「Dorothy Perkins」は、リサーチを怠った結果、かなり恥ずかしいキャンペーンハッシュタグを約1年間に渡り使い続けてしまうという大失態を犯してしまった。 ブランドの頭文字を使った#LoveDPいうキャンペーンハッシュタグを作りったものの、「DP」という略語は、なんとハードコアなポルノ用語だったのだ! パッケージから始まる開封体験には、カスタマーと繋がり、ブランドの価値を高める可能性が詰まっている。そのためには、ターゲットとなるユーザーを理解し、彼・彼女たちに響く開封体験をデザインすることが重要だ。btraxでは、アメリカ市場における、ユーザーを起点としたマーケティングサポートを行っている。ご興味のある方は是非お問い合わせを

ディスラプト (破壊) されるサービスに共通する4つの不満要素

disrupt-main
インターネットやスマホに代表されるテクノロジーの出現により、様々な業界においてよりユーザーメリットの高いサービスが生み出され、既存のプレイヤーたちを脅かしている。これを"Disruptive Innovation"と呼ばれれ、日本語では「破壊的イノベーション」と訳される。 たとえこれまで数十年以上も続いているようなサービスであったとしても、大きな変革の波に乗り遅れると、いともたやすく「破壊」されることがある。

新規サービスが原因じゃない。ユーザーが正しい選択をしているだけだ

下記の例を見てもわかる通り、今まで「当たり前」と思われていたサービス内容でも、後発だがイノベーティブなサービスの縮減によりことごとく破壊されているケースが後を経たない。 その主な理由は、ユーザーがより使いやすくお得なサービスを選んでいるから。これに対して政府や既存のプレイヤーたちはなんとかその変化をせき止めようと必死になるが、もはや焼け石に水だろう。なぜなら消費者にとってより優れたサービスに人気が集まるのが当然の流れであるからだ。

誤: Netflixによってビデオレンタルが消滅 正: 延滞料金が高すぎた

誤: Uberによってタクシー業者が倒産 正: 横柄なドライバーと面倒なチップのシステム

誤: iTunesがCD販売を激減 正: お店に出向いてアルバム単位で高いお金を払って買わなければならない

誤: Amazonによって実店舗が大打撃 正: わかりにくいレイアウトと質の低いカスタマーサービス

誤: Airbnbによってホテル業界が大打撃 正: 物件の少なさ、時期によってのぼったくり価格

誤: スマホの出現でガラケーが消滅 正: 金儲け優先のクローズドなエコシステム

参考: 日本の新規サービス規制に思う事

まさに今が時代の変革期

おそらく人類の歴史の中でも、ここ20年ぐらいの世の中の変化は産業革命と同等かそれ以上の社会的変化を生み出し始めている。ざっと考えて見ただけでも下記のような大きなシフトが生まれている。
  • ガラケー → スマホ
  • タクシー → Uber, Lyft
  • 音楽CD → ダウンロード, ストリーミング
  • 店舗 → Amazon, D2C
そしてその変化のスピードはどんどん加速し、向こう数年間で社会の様々な仕組みがガラリと変わる可能性が非常に高い。ただ、日本国内は政府の規制や既得権益プレイヤーからの圧力でその速度は緩みがちではあるが、確実にその変化が訪れるのは間違いない。

[〇〇 x Tech] テクノロジーを活用して社会変革

そのトレンドを裏付けるかのように、最近では「産業名」に「Tech」をくっつけることで、それぞれの業界に大きな変革を生み出そうとしている流れが進んでいる。たとえば、日本でも知名度が上がっている「フィンテック」という言葉は、金融を表す「ファイナンス」に「テックを」掛け合わせた造語。 同じロジックで、他の業界にも「〇〇 x Tech」という呼称を採用している。その目的は既存の産業の仕組みにテクノロジーを掛け合わせ、より社会とユーザーにとってメリットの高いサービスを生み出す事。テクノロジーで社会問題の解決が一番のゴールとなっている。こちらサンフランシスコ・シリコンバレーで最も注目されているコンセプトでもある。 〇〇 x Techの代表例:
  • 金融 x テクノロジー = Fintech
  • 医療 x テクノロジー = Healthtech
  • 教育 x テクノロジー = Edutech
  • 店舗 x テクノロジー = RetailTech
  • 農業 x テクノロジー = Agritech
  • 食品 x テクノロジー = Foodtech
  • 保険 x テクノロジー = Insuratech
  • 音楽 x テクノロジー = Musictech
  • 自動車 x テクノロジー = Autotech

ディスラプト(破壊)される4つの原因:

そして、やっとここからが本題。では、どのような理由で既存のサービスが破壊されるのか? その理由はユーザーが感じている下記の4つに集約されるであろう。

1. 複雑な体験

ややこしい書類に情報を書き込んだり、わざわざ店舗にいかなけらばならなかったりなど、ユーザーにとって煩雑、もしくは時間のかかる体験を提供している場合、その改善策としての新たなサービスが生み出される。より簡単、シンプルでスピーディーなサービスが好まれるのは、既存のサービスが提供するユーザー体験が複雑すぎたから。 例: ヤフオクで物を売っていたが、スマホで写真をサクッと撮って簡単にリストできるメルカリの方がスムーズな体験を提供してくれるので、メルカリを利用する。

2. 不信感を与える

透明性が低かったり、裏でどのような仕組みで動いているかがよくわかりにくので、ユーザーに漠然とした不信感を与えてしまっている。それをよりわかりやすく、簡易化する事で安心感と心地よさを与えられる。 例: 既存の自動車保険は何に対して幾ら払っているのか、カバーされる領域がどのくらいなのか、そもそもほとんど乗らないのに毎月保険料かかかることに対して不満と不信感を感じる。それに対してMetromileのような、走った分しかかからないタイプの保険は、基本料金と走った距離に応じた金額で明瞭会計。そして、いつどこを走行したかも可視化されていて、信頼性が高い。

3. 中間業者が多すぎ

20世紀のビジネスでは商品が消費者の手に届くまでには、製造元と卸売、中継ぎに小売店などいくつかの業者を経ていたのが常識であった。しかし、インターネットなどのテクノロジーの発達で、D2Cに代表されるような、中間業者をほぼ通さずにユーザーに届けることが可能になった。そんな現在、中間業者がいる事の方が不自然でわずらわしくなってきている。 例: 店舗でクレジットカード支払いを導入しているが、チャージごとにかかる費用が高い。その仕組み上、いくつかの中間業者が関わっているので、必然的にレートが上がりがちである。それに対して、Squareは極力中間業者を排除し、低いレートと入金スピードを格段にアップさせた。

4. アクセシビリティが低い

利用したいときになかなか見つからない。それがアクセシビリティの低さの問題である。アメリカだと、タクシーがなかなか捕まらない問題の改善策としてUberが、ホテルが満室の時に利用するためにAirbnbが生み出された。その後、必要な時にちゃんとアクセスできるサービスが続々と人気を集めている。 例: 欲しいCDを買いに行こうと思ったが、CDショップが遠い。なんとかたどり着いたが、売り切れていた。それなら、iTunesでダウンロードすれば自宅で数秒で聴くことができる。むしろストリーミングサービスを使えば、ファイルのダウンロードの必要すらない。

破壊されやすい業界ランキング

ちなみに、テクノロジーを活用した新しいサービスが「破壊」しやすいかどうかはその業界によってその難易度が変わってくる。デジタル化が容易にできるタイプであれば、自ずと入り込みやすいし、逆の場合には時間と労力が求められてくるだろう。

ディスラプトされやすい業界ランキング

  1. データ, 情報, コンテンツ
  2. 音楽, メディア, 映画, テレビ, 印刷物
  3. 都市, 交通, 自動車
  4. 店舗, 商業
  5. 金融サービス
  6. 保険Insurance
  7. 薬品, 医療
  8. エネルギー, ユーティリティー
  9. 水, 食品

全てのプロダクトがサービスに変化されていく時代に

この破壊的イノベーションをより一層加速されているのが、プロダクトのサービス化現象。ミレニアルに代表される若者たちを中心に、これからの時代の消費者は”サービス的”要素を重要視している。「モノより体験」というフレーズを聞いたことがあるかもしれない。 今後は所有という概念が薄れて、全てはサービス化していく。これは、産業革命、情報革命などに続く、サービス革命が始まっている事に他ならない。それに合わせ、日本の大きな産業の一つである、製造業もサービス業に変化する必要がある。そうしないと上記で紹介した4つの不満点を打破することは難しい。その点においても今後はサービスデザインの重要性がどんどん高まっていくだろう。 参考: DESIGN Shift: これからのビジネスはモノより体験が価値になる

まとめ: 変化のスピードはあなたが思うよりよっぽど速い

このように、現在のような時代の大きな変革期においては、どの業界の企業もその大きさや歴史に関係なく、短期間で破壊される可能性がある。下記の写真が象徴的である。 vatican これはバチカン市国にてローマ法王の謁見の際に集まった民衆の姿を撮ったものである。2005年には誰もモバイルを利用していないのに対し、8年後の2013年にはほぼ全ての人々がスマートフォンやタブレットで写真を撮っている。これは、たった8年の間にモバイルが普及した事実を端的に表している。 同じく、2007年にAppleがiPhoneをリリースしてから、スマートフォンの普及が著しく進み、日本国内で今だにガラケーを使っている人の方が珍しくなり、ハードウェア、ソフトウェア、コンテンツ全てがスマホ中心になった。これは同時に、日本国内でのガラケーに関するビジネスモデルがことごとく破壊されたとも言える。 今回紹介した、ユーザーが持つ4つの不満は変革が必要な大きなバロメーターとなるだろう。言い換えると、この要素を持っている業界やサービスがあれば、そこを改善すれば今こそディスラプトするチャンスなのである。新しいサービスを考えるときの参考にすると良いと思われる。  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

ミレニアル世代のマインドセットを捉えて成功したスタートアップ事例

millennials-mindset-startup
資産運用会社であるAlliance Bernsteinのアナリストによると、2018年の今年にミレニアル世代(1980-2004年ごろ生まれ)の購買力は、ベビーブーマー世代を超えると見られている。 そのため、ミレニアル世代のマインドセットを理解することが世の中のマインドセットの変化を捉えるために重要だと言える。 特に食習慣は顕著にマインドセットの変化が現れやすく、他の世代とも比較しやすい。現にミレニアル世代の食習慣に関するマインドセットは今のフード業界のトレンドの要因となっている。 この記事ではそんなミレニアル世代の食にまつわるマインドセットの変化と、それらをうまく捉えているスタートアップの事例を紹介したい。

ミレニアル世代は健康意識が高い

米マーケティング会社CBDの行った調査によると、ミレニアル世代の健康意識が他の世代に比べて高いことがわかっている。これ以外にもミレニアル世代に関する調査は多く発表されているが、総じてミレニアル世代の健康意識は高く、ヨガや運動に積極的で、アルコールもあまり摂取しなくなったと言われている。

野菜・オーガニック食品が人気。食品選びも健康を意識

また、食事に対しても健康意識が現れており、米マーケティング会社NPDの行った調査によると、米国の40歳以下の1人あたりの生野菜、冷凍野菜の消費量がともにこの10年で50%以上増加していることがわかっている。NPDのリサーチアナリストによると、今後もミレニアル世代以下による野菜消費量が増えていくとしている。 実際に、北米のオーガニック食品促進団体のOTAの調査によると、米国のオーガニック食品を最も購買している世代がミレニアル世代ということがわかっている。さらに子を持つ親となったミレニアル世代は子どもの健康にも気を遣いオーガニック食品を選ぶ傾向があるということが明らかになった。 同調査によると、アメリカでのオーガニック食品消費は過去最大になっており、売上高では約5兆円規模に拡大しているという。調査ではこれらの主な要因はミレニアル世代だと指摘されている。 これらの傾向から今後もオーガニック食品などの健康意識にマッチした食品ニーズが高まっていくと言える。 現に、アメリカの主なオーガニック系スーパーであるTrader Joe’sWhole Foodsなどは売上を伸ばしている。グローバル市場調査会社のResearch and Marketsの調査によると、従来のスーパーマーケットが2007年以来顧客ベースの年平均成長率で減少傾向にあるにもかかわらず、Trader Joe’sは5.9%、Whole Foodsは4.9%の年平均成長率を達成しており、オーガニック食品への意識の高まりがうかがえる。

Plentyはオーガニック野菜の栽培・流通を効果的に行う

agritech-plenty 上記のようなフードトレンドがある中で、生産性の高い屋内での水耕栽培を実現させたPlentyは、農業スタートアップとして約250億円という過去最高の資金調達を行った。 屋内での水耕栽培のメリットは、何と言ってもクリーンな野菜を効率よく生産できる点だ。Plentyでは独自に設計されたポール状のタワーで栽培を行うことで、従来の農法と比較した場合、同じ面積で350倍の生産を可能にし、95%も少ない水で葉物野菜の他、イチゴなどを栽培している。将来的には、従来生産コストが高く栽培難易度の高い野菜や果物も栽培可能になる見込みだという。 また、赤外線センサーを張り巡らして作物をモニタリングすることで得られたビッグデータから機械学習を行い、アルゴリズムが光、温度、水などを調節することでより美味しい作物の生産が可能になっている。 都市近郊に工場を建設し、オーガニック野菜という価値だけでなく、
  • 物流コストの削減および都市部に供給するためにかかる環境負担の軽減
  • 新鮮
  • ローカルで作られた野菜
という価値を前面に押し出している。 同社はサンフランシスコ以外にも日本や、他の国と比べて農薬が2倍ほど使用されていると言われている中国でも事業拡大を目指している。

たんぱく質も重要視している

米広告マーケティング会社のAcostaの調査によると、ミレニアル世代の約80%が、食品購買時にたんぱく質が含まれているかを非常に重要であると回答していることがわかっている。また、ミレニアル世代より上の世代に上がるにつれて減少していることもわかっている。 健康志向の強いミレニアル世代間で増えているベジタリアンやヴィ―ガンといわれる菜食主義者もたんぱく質を重要視しており、植物性の代用肉からたんぱく質を摂取している。世界的な市場調査・コンサルティング会社であるMarkets and Marketsの調査によると、代用肉市場は今年2018年に約4,700億円に達し、2023年には約6,500億円に拡大すると見ており、急成長する市場の一つとして注目されている

Memphis Meatsは動物を殺さない人工肉を実現する

https://www.youtube.com/watch?v=Y027yLT2QY0 サンフランシスコに拠点を置くMemphis Meatsは、牛からとった幹細胞を培養して牛肉を作っている。Microsoftのビル・ゲイツや世界的な実業家として知られるリチャード・ブランソンら、その他著名な投資家が同社に総額約18.5億円を出資している。 リチャード・ブランソンは、ブルームバーグ・ニュースの取材に対し、
「向こう30年ほどで、私たちは動物を殺す必要がなくなり、(供給される)全ての食肉は現在と同じ味を保ったまま、クリーンな肉、または植物原料の肉になるだろう。それらは同時に、私たちにとってより健康的なものになるはずだ」
と述べている。 持続可能なオーガニック食品として、上記のようなミレニアル世代のマインドセットをうまく捉えつつ、人間の長期的な課題を解決しようと試みている。

ミレニアル世代は外食・デリバリーが好き

アメリカ農務省のレポートによると、ミレニアル世代の外食頻度が他の世代に比べて多いことがわかっている。同調査の分析によると、ミレニアル世代は約2週間に1回の割合で外食をするという。 また、アメリカ合衆国労働省労働当局の調査によると、ミレニアル世代はベビーブーマー世代(団塊の世代)に比べ、総支出が14%下回っているにもかかわらず、ベビーブーマー世代は外食、デリバリーに週平均$47.65支出するのに対し、ミレニアル世代は週平均$50.75と多く支出することがわかっている。 ミレニアル世代の健康志向や、外食・デリバリーが多い傾向からSakara LifeProvenance Mealといったオーガニック食品によるフードデリバリーや菜食主義者のためのフードデリバリーを行うサービスが増えている。

Zume Pizzaは焼き上がりのピザをデリバリーする

https://www.youtube.com/watch?v=VKlvVTgOCEA シリコンバレーにあるZume Pizaは、人が移動中に調理するという法律違反を、移動中に車内でロボットがピザを焼き上げることで解決している。 この一連の「移動中に調理する」という特許により、食べる2分前に焼きあがるピザをデリバリーしている。 多くのピザ屋では、チーズが配達中に溶けた状態になるように保存料などの化学調味料を使用するが、Zume Pizzaでは保存料を使う必要がないため、健康的であるということもアピールしている。 Zume Pizza Pod また、100%リサイクル可能なサトウキビ繊維でできたピザのパッケージは、保湿性が高く、特殊な形状により、残ったピザのサイズに合わせて折りたためるようにもなっている。 こうした画期的なユーザーエクスペリエンスと要所要所にユーザーのマインドセットを反映させることで、他社との差別化を図り、ミレニアル世代の支持を得ることができる。

まとめ

小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題」という記事でも紹介したように、今回の事例でも、世の中の変化に対応するためにはまず、ユーザー中心のマインドセットが必要となることがわかる。 ではそのようなマインドセットはどうしたら身につくのだろうか?btraxでは、スタートアップとデザインの本場サンフランシスコにて、イノベーションブースターというワークショップ型プログラムを通じてそうしたマインドセットを習得する機会を企業向けに提供している。ご興味のある方は是非お問い合わせを。

海外のCINOに学ぶ、組織におけるイノベーション創出の場づくりとは

innovation leader
「我が社で何かイノベーションを起こしたい」こう考える経営者や新規ビジネス担当は少なくないのではないだろうか。まずは新規事業を任せられる積極的な人材を増やそう!と考えるものの、社内を見渡せば、言われた仕事だけを淡々こなす受動的な社員にあふれていて、イノベーションどころか、率先して業務の改善に関わろうとする社員もあまりいない。 最近、クライアントと接するなかで、そんな理想とは程遠い現実にため息をついているマネジメント層の声を直接耳にすることが多い。一方、世界を見渡すと、組織ぐるみでイノベーション創出力の向上に取り組んでいる会社が多く、Chief Innovation Officer (以下CINO)という役職まで一般的になりつつあることもわかってきた。 この記事では、CINOを中心に会社をイノベーション体質に変えていった事例2つを紹介しながら、組織にイノベーティブなマインドセットを浸透させるにはどうしたらいいのかを考えていく。

Chief Innovation Officerの台頭

近年、アメリカをはじめとする海外諸国では、「Chief Innovation Officer(CINO)」や「Director of Innovation」といった肩書きを持ち、社内でのイノベーションを専属で行う役員や管理職が急増している。 CINOは会社全体の経営にも大きく影響を与えうる活動を行う者であることから、CEOやCIO(Chief Information Officer)らと近い距離で仕事を行うことが多い。このような肩書を持つ人々は、’00 年代やそれ以前にもいたようだが、今ほど目立った存在ではなかった。 しかし、2015年以降 Chief Innovation Officer Summitというカンファレンスが、ロンドン、ニューヨーク、シドニー、シンガポール、上海、サンフランシスコなどの世界各都市で年間通して複数回開催されていることからもわかるように、CINOの存在感は高まっているようだ。 このカンファレンスでは、GoogleやHPのようなテック系大企業のみならず、航空会社のAirAsiaや生命保険会社のMetLife、Save the Childrenのような非営利団体やアメリカ国務省の健康推進部門など、ありとあらゆる分野でイノベーションをリードするCINOやそれに準ずる役職の人たちが登壇し、その知見を共有している。 この幅広い企業・団体名からも、幅広い業界で企業や団体が組織一丸となってイノベーション創造のために取り組んでいるということがわかるだろう。

組織をイノベーション体質にする仕掛けとは?

それでは、彼らCINOたちは実際にどのように組織をイノベーション体質にするように仕掛けているのだろうか?

1. どんどんアイデアを出させる環境づくり (PayPalの例)

Paypalはカリフォルニア・サンノゼを拠点とし、電子メールアカウントとインターネットを利用した決済サービスを提供する言わずと知れた大手企業だ。 1998年の創業時に関わったメンバーたちは、YoutubeやTeslaをはじめとする数々の有名企業を立ち上げたことから天才起業家集団(ペイパルマフィア)と呼ばれており、彼らが立ち上げたPaypalの企業文化は世間から注目されることが多い。 そんなPaypalは現在イノベーションの定義を「最低限の人員とコストで、アイデアをスピーディーにプロダクトやサービスの形に落とし込むことで、ユーザーの現在または未来のWantsやNeedsを満たすこと」としているそうだ。 現在Paypalでイノベーションを牽引しているのはDirector of InnovationのMikeTodesco氏だ。彼によると、イノベーションを起こす上で大切なものは、ユーザーのWantsやNeedsを満たすための突破口となるアイデアであるそうだ。 Paypalでは「誰もがイノベーター!」だと考えられおり、Todesco氏も、そのような突破口を見つけることは誰にでも可能であると語る。彼によれば、イノベーションに繋がるアイデアを見つける鍵は「多様性」が握っており、彼自身Director of Innovationとして、多様な人々から多様なアイデアを引き出すことに時間と熱意を注いでいるそうだ。 innovation lab 画像引用元: Paypal Stories そのための代表的な施策が、 世界各地にある数多くのオフィス内に設立されたPaypal Labだ。ここでは社員たちに普段の業務とは別に新しいアイデアやテクノロジーとの接点を与える機会を提供している。 普段は一緒に働く機会がないような社員たちを同じ空間に入れて、新しいサービスやプロダクトを考えさせるアイディエーションなどの取り組みを行っており、外部の技術者や学生を招くことも多いようだ。 また、ここで生まれたアイデアは実用化されることもあるため、参加者たちのモチベーションも高く維持することができる。 ここで大切にされているのは、できるだけ多様なアイデアをどんどん自由にシェアすること。どんなに非現実的で、一見馬鹿げているように見えるアイデアでも、まずは共有することを繰り返して推奨している。また、それを可能にするオープンで楽しい雰囲気を醸成するために、時折バレーボールやアーチェリーなどの催しも行いながら取り組みも行っているそう。 多様なアイデアを最大限に引き出し、尊重することで、組織をイノベーション体質に持ち込もうとしているのが、このPaypalの例だと言えるだろう。 関連記事:人材の多様性が組織を強くする【btrax voice #6 Yoonhwa Park】

2. 社員から出たアイデアを実走させる仕組みづくり (Accor Hotelsの例)

Accor Hotelsはフランスに本部を構え世界95カ国に展開する多国籍ホテルグループ。従来の物事のあり方を根本から覆すような「ディスラプション」を起こすことを常に考えており、ホテルオペレータでありながら、ファストブッキングやテレビ等のチャネルマネジメントを行うスタートアップであるAvailproなど、デジタル系の企業をどんどん買収していることで注目されている。 またAccor Hotelsは、デジタル分野のみならず、アーバンファーミングの技術をホテルの菜園に導入したり、外食産業における食品ロスを減らすためのシステムを導入したりして、食品廃棄を6割減らすことなどに成功し、従来のホテルにある大量消費廃棄の在り方を少しずつ変革させようとしている。 urban farming 画像引用元: Eco-business そんなAccor Hotelsでは、2016年からChief Disruption OfficerとしてThibault Viort氏が採用された。彼によるイノベーションの定義は「新たな機会を探索すること」。彼は、社内から出たアイデアを実走させてみたり、スタートアップとのコラボレーションをテストしてみたりと、新たな機会に数多く挑戦していく仕組みを作り上げることで、会社をイノベーション体質へと導いている。 その仕組みの1つが社内プラットフォーム「OPEN-IDEAS」だ。ここでは社員が気軽に新たなアイデアが共有し、定期的にそこからアイデアが採用され、いくつかのキーロケーションでテストされている。 彼らは、リーンスタートアップのメソッドに倣い、1、3、6、9か月ごとに、当初のアイデアがどのようにカスタマーに受け入れられているか、検証するサイクルもシステムとしてしっかり組み込んでいるという。これにより、AccorHotelsでは、最新のテクノロジーを組み込んだサービスをどんどん導入することに成功しており、既存のホテルの在り方を変える1歩を踏み出している。 Accor Hotelsは、従来のホテルにはなかったような新しいサービス案を日々テストし、取り入れていくシステムを構築することで、常にイノベーションを生み出そうと前のめりな会社のカルチャーを醸成している良例だ。 関連記事:今さら聞けないリーンスタートアップの基本

組織一丸となってイノベーション創出にコミットすること

Paypal、AccorHotelsどちらにも共通して取り組まれていることは、社員1人1人にイノベーションを起こす当事者である自覚を持たせるための試みだ。社員に新たなアイデアをアウトプットさせる機会を与え、それが会社のサービスとして実際に試作品化、実用化へと進んでいく仕組みがあることも、社員のイノベーション参加へのモチベーションを上げることにつながっているだろう。 イノベーション人材を増やすためには、大きな組織の中の誰か1人、どこか1部署だけが取り組んでも、現実的には難しいことも多い。やはり、重要になってくるのは、会社全体が一丸となってイノベーションを起こそうと努力することだ。会社のイノベーション創出を担当するCINOのような役職が組織に誕生することは、組織全体としてイノベーションに取り組もうという姿勢の現れの一端なのである。 まずは、組織全体としてイノベーションを起こすことにコミットした上で、社員1人1人がイノベーション創出の当事者である自覚を持たせられるような環境を整備することが必要とされている。 関連記事:

【最近アメリカで話題】ブランド認知に効果的なポッドキャスト広告とは

podcast-brand
「Good morning, Google!」筆者の1日は、この一言で始まる。今日のニュースと天気予報、購読中のポッドキャストの最新のエピソードを聞きながら、仕事に行くための身支度をする。そして、オーディオブックを聞きながら、サンフランシスコ市内の職場に向かう。 今、音声メディアが再注目されている。かつては、ラジオがほぼ唯一の音声メディアであったが、今では音楽ストリーミングサービス、ポッドキャスト、オーディオブックなど、様々な選択肢が存在する。

なぜ今、音声メディアが再注目されているのか?

音声メディアの最大の特徴は、他の作業をしながらコンテンツを消費できることだろう。通勤中、家事をする時、またはランニング中など、目は忙しいが、耳が空いている時間は多く存在する。忙しい我々社会人にとって「ながら作業」を可能にする音声メディアは、限られた時間を有効に使うのに打ってつけだ。 近年の音声メディアの盛り上がりには、様々な要因があるが、まず、2014年に登場した『Amazon Eco』や2016年に発売された『Google Home』等のスマートスピーカーの普及があげられるだろう。 米公共ラジオ局『NPR』とリサーチ会社『Edison Research』が2017年に実施したスマート・オーディオに関する調査結果によると、18歳以上のアメリカ人の16%、人数にして約3900万人がスマートスピーカーを保有しているという。2017年のクリスマス商戦では、様々な小売店が挙ってスマートスピーカーのセールを行っていたことは記憶に新しい。 実際にこのホリデーシーズンで、7%のアメリカ人がスマートスピーカー購入またはギフトとして貰い、さらに4%のアメリカ人が初めてのスマートスピーカーを手に入れたという。そしてスマートスピーカーを持っている人の71%が、以前に比べてオーディオコンテンツを頻繁に聞くようになっており、そのうちの28%が以前よりもポッドキャストを聞く機会が増えたと答えている。 2つ目の要因としては、良質なコンテンツの増加が挙げられる。オーディオブックの年間発行タイトル数は、ここ数年で急増しており、大手出版社も続々とオーディオブック市場に参入している。さらに、最近では著名人をオーディオブックの読み手に起用するなど、エンターテイメントとしての幅が広がっている。 アメリカ オーディオブック 発行数 参照元: "US audiobook titles published per year" また、アメリカの主要メディアの多くが独自のポッドキャストチャンネルを保有している点にも注目したい。Web解析サービスを提供する『SimilarWeb』が公開したアメリカのメディアランキング(2017年第4期)にランクインした100のメディアのポッドキャスト運用状況を調査したところ、更新頻度や保有番組数にばらつきはあるものの、合計74のメディアが独自のポッドキャストチャンネルを持っていることが分かった(2018年5月現在)。 以上のような、大手企業の音声メディアへの参入は、コンテンツの多様性を増やし、ユーザーの増加に貢献しているだろう。 最後に、テクノロジーの発展が音声メディアをさらに便利に、より身近なものにしたと言って間違いない。最近の音声コンテンツはオンデマンド配信が主流となっており、いつでもどこでも聞く事ができる。 また、多くのスマートフォンには標準機能として、音声コンテンツを楽しむためのアプリが入っているし、再生速度の調整やスキップ、ブックマークを追加、興味のありそうなコンテンツのリコメンドなど、便利な機能を装備したアプリも多数存在している。 「限られた時間を有効に使いたい」という、"ながら作業”に対する潜在的な需要が、これらの事象によって満たされた結果、音声メディアユーザーが増え、音声メディアが再び注目されているのだ。

前年対比85%増、拡大中のポッドキャスト広告市場

ポッドキャストとは、インターネットからダウンロード可能なオンデマンド音声コンテンツで、通常シリーズとなって定期的に配信されている。 ポッドキャストを「購読」すると、スマートフォンやパソコンなど手持ちのデバイスに、自動的に最新エピソードが自動的にダウンロードされ、いつでも(オフライン環境でも)、どこでも、しかも無料で音声コンテンツを楽しむことができる。 また、テレビやラジオとは違い、誰でもポッドキャストを作成し、世界に向けて発信することができるので、大手メディアのみならず、趣味でポッドキャストの配信を行っている人も多い。その結果、ニュースやスポーツ、カルチャー、トークショーなど様々なジャンルのコンテンツが存在している。 2018年4月に公開されたFastCompanyの記事によると、252,000以上のアクティブなポッドキャスト番組が存在しており、1億8500万本のエピソードを聞くことが可能だという。 リサーチ会社の『Edison Research』が2018年1月から2月にかけて実施した、アメリカにおけるデジタルメディアの消費者行動に関する調査結果『Infinite Dial 2018』によると、ポッドキャストを聞いたことがある人の数は、なんと1億1200万人にのぼる。 日本の人口とほぼ同じ人数のユーザーがいることから、いかに大きな市場であるかが分かる。さらに、ポッドキャストを聞いたことがある人の人口は、2006年度から増加し続けている。 ポッドキャストユーザー数 参照元: "The Podcast Consumer 2018" 同調査結果によると、4,200万人が毎週ポッドキャストを聞いているという。割合に換算すると、アメリカ人口の15%が習慣的にポッドキャストを聞いていることになる。ちなみに、映画を見にいく人はアメリカ人口の3%であることから、ポッドキャストがいかに気軽な娯楽で、かなりの数のポッドキャストリスナーがいることが分かる。 リスナーのなかには何かしらの企業のターゲットカスタマーとなりうる人が当然存在する。ターゲットカスタマーがいる場所に企業が広告を出すのは、実に自然な流れだ。 オンライン広告における技術的標準規格の策定を始め、動向調査や法整備などを行う『IAB』と『PwC』が2017年6月に発表した『IAB Podcast Advertising Revenue Study』によると、2017年のポッドキャスト広告収入は、2.2億ドルに達する見込みで、2016年から85%の増加となる。 広告主がポッドキャストを重要なメディアとして注目し始めたのは、ポッドキャストユーザーが増えているからではない。むしろ、ポッドキャストユーザーの属性とメディアとしてポッドキャストの特徴にある。 ポッドキャスト広告 推移 参照元:"IAB Podcast Advertising Revenue Study"

ポッドキャストが理想的な広告媒体である3つの理由

1) エンゲージメントの高さ

上述のEdison Researchの調査によると、85%のポッドキャストユーザーが番組のほとんど、もしくは最後まで聞くと回答している。また、ポッドキャスト広告ネットワークを運営する『Midroll media』が2015年10月から2016年3月にかけて11,123人のポッドキャストユーザーに対して実施した調査によると、回答者の80%が番組内広告のブランド名を純粋想起することができたそうだ。 さらに、67%の回答者が広告内で取り上げられた商品名を答えることができたという。 別の調査によると、モバイルデバイスにおけるディスプレイ広告の想起率は45%、記事広告に至っては、7.3%だ。この結果から、いかにポッドキャスト広告が効果的であるかが分かる。加えて、Midroll mediaが行った別の調査によると、なんと61%のユーザーがポッドキャスト広告の中で紹介された商品またはサービスを購入したことがあると答えたそうだ。 ポッドキャストユーザーのエンゲージメントが他のメディアに比べ高い理由の一つとして、番組ホストとユーザーの信頼関係が影響する。通常ポッドキャストを聞く時は、ひとりでヘッドフォンを着用した状態だろう。 そんな環境の下、番組ホスト対ユーザーは一対一のコミュニケーションを行い、30分ないし60分、もしくはそれ以上の番組放送時間中、ユーザーはホストの話に集中していることになる。また、ポッドキャストは定期的に配信されるメディアであるため、ホストとユーザーは長い期間に渡って信頼関係を築いていることになる。 さらに、ポッドキャストは、ユーザー自ら購読することを選んでいるので、YouTubeの広告のように強制的に見せられるコンテンツとはわけが違う。ユーザーは能動的にポッドキャストのコンテンツを消費しているのだ。配信される情報に対して消費者がオープンな状態において、信頼しているホストが広告主の商品について番組内で自然に語るポッドキャスト広告は、影響力がないはずがない。

2) 高学歴かつ高収入なユーザー

ポッドキャストを注目すべき広告媒体もするもう一つの理由が、ユーザーの質だ。Edison Researchの調査によると、毎月ポッドキャストを聞くユーザーの45%が収入$75,000以上世帯であり、34%が修士以上の学位を保有している。 なお、アメリカ人口に対するそれぞれの割合は、$75,000以上の世帯収入家庭が全体の35%、修士以上の学位保有者が23%となっている。以上から、ポッドキャストユーザーは、高学歴かつ高収入な傾向にあるこいうことがわかる。

3) ニッチな層にリーチ可能

上述の通り、現在252,000以上のポッドキャスト番組が公開されている。ニュース、ビジネス、教育、コメディー、インタビュー、カルチャー、科学などそのジャンルは多岐に渡り、各ジャンルごとに、さらにニッチなトピックへと枝分かれする。 テレビやラジオの様に巨額の投資やライセンス等を必要とせず、また放送禁止用語などもないので、誰でも気軽に自分の番組を持つことができる。その結果、専門家が自身のプロモーションのために専門領域について解説する番組や、一般人が自分の趣味についてひたすら語るような、非常にニッチなトピックを扱う番組も少なくない。 トピックがニッチになればなる程、そのトピックに興味があるユーザーのみが、コアなリスナーとして残ることになる。その結果、従来のマス広告ではターゲティングしきれなかったニッチなユーザーに対して、ポッドキャストはリーリすることが可能になるというわけだ。

正しい番組選びと、番組ホストの率直な感想が鍵。

『GirlBoss Radio』にみるポッドキャスト広告の活用法

企業が実際にどのようにポッドキャスト広告を利用しているか、またポッドキャスト広告がどのようにユーザーの行動に影響するのかを、筆者の実体験をもとに考察したい。ミレニアルズ世代から支持を得ている女性起業家Sophia Amorusoによるメディア、『GirlBoss』が配信する『GirlBoss Radio』を例に取り上げよう。 GirlBoss Radioは「女性にとっての『成功』を再定義」することをテーマに、毎週各業界で活躍する女性をゲストに招き、キャリアやライフスタイルについてSophiaがインタビューを行う、対談形式の番組だ。約一時間の各エピソードの冒頭と中盤に広告が挟まれ、その配信時間は1、2分程。多くのスポンサー企業が、複数のエピソードにわたって広告を配信しているようである。 例えば、ベッド・バス用品メーカーである『Parachute home』や、サブスクリプション型パーソナルスタイリングサービスの『Stitch Fix』、発送業務サポートサービスの『Ship station』、ワインの定期購読サービス『Wink』、スタイリッシュな電動歯ブラシの『quip』などが過去に広告を配信していた。 ちなみに、これらの企業・サービス名を挙げるのに、筆者は自身の記憶だけに頼り、何も参照していない。これが、ポッドキャスト広告の実力である。消費者向けの商品のみならず、B2B、特にスモールビジネス向けサービスの広告も配信されているのは、番組のメインユーザーがキャリア志向で、自分のビジネスを持っている人、または起業をしたいと思っている人が多く、起業家であるSophiaに憧れたり共感したりしているからであろう。 GirlBoss Radio内で配信される広告の一番の特徴は、広告のように感じない、という点だろう。なぜなら、番組ホストであるSophia Amorusoが自らスポンサー企業の商品やサービスを試し、実際に使ってみた感想を、彼女の言葉で語っているからである。 GirlBossの他のエディターを交えてSophiaと二人でサービスを紹介する場合もあり、まるでオフィスで同僚の話を聞いている感覚で、彼女達がおすすめするなら試してみたい、という気持ちになる。 時たま、企業からもらった情報を棒読みしているように感じる場合があるが、それが逆に彼女が熱を込めて語る商品を引き立たせている。棒読みされてしまったスポンサーには申し訳ないが...これは企業が番組のオーディエンスを正しく理解していなかった結果であるとも言えるだろう。多くの場合、番組リスナー限定で使えるクーポンコードがスポンサー企業のウェブサイトURLとともに口頭で伝えられる。 筆者の場合、1回目の広告配信で企業のウェブサイトを訪問する場合もあれば、何度か広告を聞いた後で改めて企業名を検索してサイトを訪問することもある。多くの場合、広告を聞いた直後、忘れないうちにスマートフォンのブラウザを立ち上げ、サイトのURLを入力している。 番組ホストが語る広告は、オーセンティックで試してみたくなるのである。

まとめ

年々拡大を続ける音声メディア市場。特に、ポッドキャストにおいては、様々なジャンル及び、トピックを扱う良質な番組が存在しており、他のメディアではリーチすることが難しい、ニッチなオーディエンスにもリーチできる可能性が広がった。さらに、ポッドキャスト広告がユーザーの行動に及ぼす影響は、絶大だ。 信頼をおく番組ホストによって、パーソナルでオーゼンテックな視点で語られる商品の魅力は、ユーザーの記憶に残り、試してみたいと思わせる。ただし、ポッドキャスト広告で成功をするには、正しい番組選が非常に重要であることを、忘れてはならない。 参考:

シェアサイクル事業問題から見るサンフランシスコ市の意思決定の早さ

bikeshare-in-sanfrancisco
サンフランシスコ市では2013年より市交通局を主体として、『ベイエリア・バイクシェア・パイロットプロジェクト』を実施している。 このプロジェクトでは、サンフランシスコ市交通局と民間のシェアサイクル運営会社である「Motivate」が提携し、シェアサイクルの普及・拡大を促進させ、
  • 交通渋滞の緩和
  • 移動効率の改善
  • 市民の健康管理
などを目的としている。 2017年の夏には、「Ford Mortor Company」によるスポンサーシップなどにより、「Ford GoBike」として、320ほどのステーションと4,500台ほどのシェアサイクルが導入されている。 fordgobikestation 「Ford GoBike」のステーションマップ - 公式サイトより こうして現在シェアサイクルはサンフランシスコ市民にとって馴染みのあるものになっているのだが、2018年に入り、
  • どこでも乗り捨て可能なステーションレス型のシェアサイクルである「JUMP Bike」(1月)
  • 同様に乗り捨て可能な電動シェアスクーターの「LimeBike」「Bird」 「Spin」(4月)
が突如として市街地に現れた。 「Ford Gobike」と同様に、「JUMP Bike」はサンフランシスコ市交通局と協力体制を得て実証実験を行っているが、電動シェアスクーターの運営会社である「LimeBike」、「Bird」、「Spin」の3社は市の許可を得ずに運営を始めた。 サンフランシスコ市民は新しいテクノロジーやモノに寛容なため、すぐにサービスを利用するユーザーが多く、それが違法だということにもかかわらず、あたかも電動シェアスクーターが数年前から存在していたように錯覚してしまう。 「さすがはサンフランシスコ。日本とは違ってそういったことには行政も寛容なのだろう。」と思われるかもしれないが、当初サンフランシスコ市は怒っていた。 その後裏側でしっかりとしたプロセスを踏み、驚異的な早さで意思決定と法整備を行った。 では具体的にどういった問題が発生し、市としてどのような問題解決を行っているのだろうか?また、これらの問題からシェアサイクル事業の課題点について言及したい。

ステーションレス型電動シェアスクーター「LimeBike」「Bird」「Spin」とは

limebikes-bird奥からLimeBike、Bird 現在、サンフランシスコ市街では上記の画像のようなステーションレス型の電動シェアスクーターが点在している。乗り方はとてもシンプルで、アプリを起動し、近くのスクーターを探し、QRコードをかざすだけだ。

ステーションレス型は投資評価額が高い

electricscooter-company 引用: CB insights 「LimeBike」「Bird」「Spin」3社はともに投資を受けている。 「LimeBike」はすでに世界各国でシェアサイクル事業を展開しており、投資額が高い。同様に「Bird」も巨額の投資を受けている。ちなみに同社のCEOはTravis VanderZanden氏であり、過去には「Lyft」のCOO、「Uber」ではVP of Global Driver Growthを経験した人物だ。 bike-share-funding引用: CB insights 上記のグラフのように、2017年はシェアサイクル業界への関心が高く、全体の投資額が上昇したことも各社が巨額の投資を受けたの要因となっている。 その中でも、ステーションレス型のシェアサイクルは、コストの削減や、地理的なサービス展開の容易さ、ユーザビリティの観点から特に注目を集めている。「Bird」が2018年に入ってから巨額投資を受けたことからも、この傾向は続くと言えるだろう。 では、実際にユーザビリティが優れているのかを検証するために、一般的なステーション型のシェアサイクルである「Ford GoBike」を利用したことのある筆者が「LimeBike」「 Bird」「Spin」を利用してみた。 limebikes-testdrive アプリをダウンロードしたあと、実際にQRコードをスキャンし、各社の電動シェアスクーターに試乗してみた。最初のひと蹴りのあとに、アクセルとなるハンドル部のレバーを親指で押すだけでスムーズに加速するのは確かに心地が良く、本体も小さく軽いため、とても軽快に感じた。 ステーション型よりもはるかに楽で、ステーションを探す手間や、ステーションの空きがないなどの心配をすることがなく、完全なストレスフリーであった。

「LimeBike」「 Bird」「Spin」の3社の違い

limebikes-bird-spin-uiホーム画面 左からLimeBike, Bird, Spin limebikes-bird-lime-menuメニュー画面 左からLimeBike, Bird, Spin アプリのUI, UXデザインにはすぐに改善できるような違いしかなかった。さらに、3社とも、シェアリング・エコノミー業界を牽引してきたUberのアプリUIデザインに影響を受けていた。 また、料金設定や最高時速の制限も同様に3社ともに、
  • 最高時速 22km毎時
  • 基本料金1ドル + 1分毎に15セント
と設定されていた。さらには、「Bird」「Spin」の2社は「Xiaomi M365」という電動スクーターを流用しているため、スクーター本体の性能は完全に同じであった。

なぜ3社が同時にサンフランシスコ市に現れたのか?

「Bird」はサンフランシスコ市に進出する以前に同カリフォルニア州内のサンタモニカ市でも市の承認なしにサービスを提供していた。現在は和解金(300,000ドル)を支払い、正式にサービスを運営している。 こういった動きは、初期の「Uber」を思い浮かばせる。 「市にも交通緩和などの利点があり、ユーザーにとっても便利であれば、市の承認なしでもサービスが受け入れられるだろう。なおかつこれが一番手っ取り早い」というスタンスは、おそらく、CEOのTravis VanderZanden氏の「Uber」での経験からきたものだろうと筆者はみている。 そうしてサンフランシスコ市にも承認なしで進出し、「LimeBike」「Spin」の2社はこの動きを察知し「Bird」と同時に現れたのではないだろうか。 もしも、「Bird」の1社が市の正式な許可を得てサービスを先行した場合、ユーザー数との適切な電動シェアスクーターの個体数を設置されることで、完全にサンフランシスコ市という市場をコントロールされてしまうためである。 中国のシェアサイクルの廃棄が問題になっていたように、行政が個数を管理しなければ二の舞になりかねないため、おそらくサンフランシスコ市は次の電動シェアスクーター運営会社の承認を出さないか、個体数を制限する可能性があるからだ。 実際にサンフランシスコ市交通局が18ヶ月間のテストプログラムの期間中の現在、「Jump Bikes」以外のステーションレス型のシェアサイクルを認めないとしている。

ステーションレス型電動シェアスクーターの問題

電動シェアスクーターでは、
  • 18歳以上である事
  • 免許証の所持
  • ヘルメットの着用
  • 車道を走る
  • 駐車は歩道の妨げにならないように
などが義務付けられており、乗車する際は必ずアプリ内に注意事項として表示される。 electricscooter-problem路上に横たわる「Spin」- 引用:SF Examiner しかし、実際には「ヘルメットを着用しない、歩道を走っている、歩道の中心に駐車する、二人乗り」などが見られ、市民から苦情が出ている。特に上記の画像のような状態はよくみられ、車椅子の妨げになるなどの問題がある。 「Bird」では安全の呼びかけや、ユーザーに無料でヘルメットを配るなどを行っているが、現段階では問題解決にはつながっていない。

ユーザーのサービス利用意識はシェアリング・エコノミー型サービスの共通の問題

そもそもシェアリング・エコノミーとは個人の所有物を個人間で共有するという意味合いが強く、企業が所有しているシェアサイクルや、電動シェアスクーターをシェアする場合は、レンタルの要素が強い。 レンタルの場合は、貸主個人の顔が見えないために使用者の意識が下がり、いたずらや問題が起きてしまう可能性が高くなる。 例えば実際に時間貸しのカーシェアリングを行っていた「RelayRides」という会社は、2011年当初はオーナーと顔を合わせることなく車に搭載されたカードリーダーに会員証をかざすだけで利用できるという仕組みだったが、当時はオーナーからの損害請求等が多かったという。 しかし、2012年に別の理由でカードリーダーを廃止し、借り手とオーナーが直接キーを渡したり、車両を点検するように変更した。 その結果、オーナーからの損害請求は減り、借り手もオーナーに対し、満足度の高い評価をつけるようになったという。 また、シェアリング・エコノミー業界を牽引する「Lyft」では、乗客に後部座席ではなく、助手席に座ることを推奨していたり、「Airbnb」では、ホストに対してプロフィールに自身が大きく写った写真を載せることを推奨し、必ずゲストと宿泊前にコミュニケーションを取るように求めている。 これらのことから、フェイストゥフェイスでコミュニケーションをとることで、ユーザーに対して「サービスを正しく利用する」という意識を高められることがわかる。 実際に中国のシェアサイクルでは、いたずらや破損の多発が相次いで問題になっていたが、サンフランシスコでも同様に起きており、ステーション型であるFord GoBikeが放置されていたり、電動シェアスクーターが海に投げ捨てられたりしている。 fordgobike-problem放置されている「Ford GoBike」 scooter-problem海に投げ捨てられている「Spin」「LimeBike」 引用: @SRobertsKRON4 こうした問題をサンフランシスコ市と企業が連携し、解決していくことが重要な課題といえる。

電動シェアスクーターに対するサンフランシスコ市の対応

electric-scooter-track回収される電気シェアスクーター 4月中旬にサンフランシスコ市は「LimeBike」「Bird」「Spin」の3社に対し、公共への安全性を配慮していないとした上で法に違反しているとし、一時的に電気シェアスクーターを回収した。 それに対し、「Bird」はユーザーに利用後の電動シェアスクーターの写真を撮るよう求めることを検討しているなど、前向きな解決姿勢を見せていた。 それが4月下旬になり、サンフランシスコ市の関係者が新しいガイドラインを提案し、「電子シェアスクーター5社の運営を許可する。ただし、台数は各社500台までとし、2年間のテストプログラムを行う」と発表した。つまり、サンフランシスコ市内では2500台以下の電子シェアスクーターが許可されることになった。 しかし、いくつか条件があり、
  • ユーザーに安全の配慮を呼びかけ
  • 手数料(5,000ドル + 1年ごとに25,000ドル)の支払い
  • 不適切に駐車された電子シェアスクーターの保管や、公共物の損害などをカバーするためのメンテナンス費用として10,000ドルの支払い
  • 低所得者のための計画を提供する
などの必要があるとしている。 サンフランシスコ市もサンタモニカ市と同様に、サービスの承認に対して前向きな姿勢を見せているが、あくまでテストプログラムであるため、これから市民に受け入れられるかが重要である。

まとめ

ステーションレス型のシェアサイクルは、歩道や駐輪スペースを埋め尽くしてしまうなどしないように配慮する必要があるほか、ステーション型の場合はステーションの密度が重要になるため、行政と協力することは不可欠であると考えられる。 日本では行政と協力となると手が出しづらいイメージがあるが、今回ご紹介したようにサンフランシスコ市は、承認をしていない電動シェアスクーターが現れた同月に一時規制を行い、新たなテストプログラムの提案を行うなど、意思決定が早く、法律に影響を与えるサービスなどでも柔軟に法整備をしていることがわかる。 サンフランシスコ市で新たなサービスが次々と生まれる背景には、このような行政対応もあることがおわかりいただけたのではないだろうか。今後、サンフランシスコ市がどのようにシェアサイクル事業の問題解決を行っていくか動向をチェックしていきたい。