「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」と言う言葉は、教育の世界ではよく出てくる言葉の一つ。
中国語では『授人以魚 不如授人以漁』と言われ、「人に魚を与えると1日で食べてしまう。しかし人に釣りを教えれば生涯食べていく事が出来る」と言う老子が言ったとされる言葉※。
※出典元は様々のようです。老子の言葉という説やユダヤ系という説、東南アジア説などなど。出典はどうであれ、世界中で言われる含蓄深い言葉には違いありません。
翻訳の違いで「人に魚を与えると1日で食べてしまう。しかし人に《魚の獲り方》を教えれば生涯食べていく事が出来る」との訳もあります。「獲り方」を教えようと、それはノウハウ(方法論)なので、実践である「釣り」を教えた方が良いとされたりもするようですが、どちらにせよ伝えたい意味は「何を伝えるのか?」と言う事。
お腹を空かした人が居た場合、魚を与える事は一時的な空腹を満たすためには簡単な方法だけど、それでは、その人は空腹になる度に誰かを頼り、魚をもらい続けなければならないし、もらい続ける癖がついてしまう。どちらが本当にその人のためになるのか?と言うお話です。
本当に大事な教育とは・・
これに対し、釣りの道具を与えて魚の釣り方を教え、実践して身につけて貰えば、空腹になっても自らの力で魚を捕まえて食べられるようになります。勿論、目先の困難を助ける事も時には大事です。しかし「本質的には相手のためになる」とは限りません。本当は「相手のためには何が1番か?」と言う事を考え、教えてあげたり、環境を作ってあげたりする事も大事です。
コーチングの世界では「答えはその人の中にあり」と言われ、教えるのではなく、自分自身で気付く事がとても大切だとされています。
一時的な知識やノウハウの詰め込みもある側面では有りだとは思いますが、学ぶ事の意味や目的、仕事の仕方や考え方までのマインドセットも含めないと、いくら知識やノウハウが増えても通用しません。
出来る限り学んだ事で、「自ら答え(結果)を出せるようになってもらえれば教育者(親、教師、コーチ、上司、会社)としては正解」だと思います。答えを知っている者からすれば、答えを教えるのは簡単ですし、単刀直入に言いたくてモヤっとします。しかしそこをグッと堪えて、相手が自ら気付き、学ぶ機会を奪ってはいけないと言うのも教える立場の人の役目。
子育てでも社員教育でも、自己成長では本質は同じ
子供から「これってなーに?」と聞かれ、簡単に答えを教えてしまうのは、子供の考える力を育む意味で、成長機会を奪う場合もあります。
質問と答えの間には「疑問」があり、「なぜ?」「どうして?」「どうやって?」と言う過程があります。答えを教えてしまう事で、頭を使い考える習慣を飛ばしてしまうのです。答えを簡単に知る習慣を続ける事で思考停止状態になり、思考力、創造力など頭の筋トレが出来ない様になるようです。
なるべく子供が「これってなーに?」と聞いてきたら、「なんだと思う?」と聞き返し、考える習慣を付けさせたいものです。それは社員教育でも、自己成長でも同じものかも知れません。
自分自身にも「なぜ?」「どうして?」「どうやって?」と適切に自問自答する事で、考えるプロセスを学び、周囲にプレゼンする時にも説得力が増します。
Panasonicの創業者・松下幸之助さんやサントリー創業者・鳥井信治郎さんの「やってみなはれ」と言う言葉は挑戦心もさる事ながら、「(自ら考えて)やってみなはれ」と言っているのでは無いかと推測します。自ら考え、結果が出るとビジネス自体が楽しくなってくるものです。
魚(答え)を与えるよりも、魚の獲り方(ノウハウや知識)を教えるよりも、「釣り自体」を教える事が大事なのですす。道具、餌のつけ方、場所の選び方を与えたり、教えたりももちろん大事なのですが、楽しさや目的も含めたことまで教えて実践できる様になるまで見守ることが1番の教育なのでは無いかと、ここ最近再認識している次第です。
知識やノウハウを教えると言うのも「教育」ですが、環境を作り、仕事を作り、ただただ見守り、自ら考え、気付くまで待つのも「教育」です。きちんと知識やノウハウを教え、環境や仕事を与え、成長を見守りましょう。
きっと僕たちも誰か愛情ある人達から、そうやって育てられてきたはずです。