【2018年】ストーリー性を重視したブランド構築事例4選

アパレル業界の未来を紐解く6つの最新トレンド 【後編】

fashion
今までの常識が塗り替えられるような「イノベーション」が様々な業界で起こると予想されている時代において、ファッション業界はどのような歴史を刻んでいくことになるのだろうか。 前半の記事ではそれを紐解く手がかりになりそうなトピックとして、「ウェアラブルデバイス」・「実店舗」・「ラグジュアリー」という3つの言葉が再定義されることについて言及した。 後半となるこの記事では、ファッション業界が抱えている問題について注目したい。労働搾取や大量廃棄といったこの業界が長らく解決出来ずに抱え込んでいるものから、Amazonなどのプラットフォーマーとの協業という近年に急速に重要性が高まってきたものまで、3つの問題についてファッションブランドがどのような答えを出し始めているのかをまとめた。

【4. 社会問題解決こそが次世代のブランディング】

ブランドを構築する3つの要素

それがボールペンのような手に触れられるものであれ、アプリのような手では触れられないものであれ、ブランドを構成する要素は3つである。機能性・デザイン性・ストーリー性だ。 機能性とはそれはユーザーに何をもたらすのか、デザイン性とはそれがどれだけカッコいいのかまた使いやすいのか、そしてストーリー性とはそのモノに一体どんなストーリーが隠れているのか。バランスはそれぞれの製品によってまちまちであるが、この3つがいくらかの形で合わさってその商品の価値となる。 これはアパレル製品の制作においても同じである。こちらのNikeのAIR MAX 1 を例にあげれば、機能性はクッション性が高く足に負担が掛からないソール、デザイン性は名前の由来にもなっているミッドソールに搭載されている空気を可視化した「Visible Air」、そしてストーリー性はNikeが掲げてきた「Just Do It」というスローガンを中心に取り組んできた「保守的な社会への対抗心」や「本当の自分の開放」というメッセージだろうか。 Nike Airmax 1 ↑Nikeの代表的な製品となったAIR MAXシリーズの第1モデル。

社会問題を解決しているストーリー

今後は、この3つの要素の中でもストーリー性の性質に大きな変化が見られるようになるだろう。興味を引くようなストーリーだけ不十分になり、そのストーリーが社会問題を解決しているかどうかがより重要となる。そして、ストーリー性の重要性が他の2つを大きく上回る時代が到来するだろう。

サステイナビリティーの欠如

そこにはファッション業界が長い間直面してきたある問題が関係している。それがサステイナビリティー(持続可能性)の欠如である。 サステイナブルな状態とは、簡略に言えば需要と供給がマッチしている状態であるが、ファッション業界は大きく2つの面でサステイナブルな仕組みをデザイン出来ていない。労働のサステイビリティーと環境のサステイナビリティーである。 労働のサステイナビリティーの欠如については、死者が1,000人を超えたファッション業界最悪の事故がそれを象徴している。この根本的な原因は、先進国の生み出した大量生産・大量消費あきりにビジネスモデルが経済的弱者である供給側に限度の超えた負荷を与えていたことだろう。詳しくは以前の記事(いまブランドが捉えるべきは“ユーザーの意識変化” – サステイナビリティーが重要視される理由とは)を参考にして頂きたい。 ranapraza ↑『Rana Praza』崩壊は死者1,000人を超えるファッション業界最悪の事故となった 環境のサステイナビリティーの欠如については、ファッション業界は全産業の中で3番目に環境に悪い産業であるとされているのはご存知だろうか。例えば、衣服の製造には大量の水を消費する必要がある。1つのジーンズを作るだけでも、通常の製法で作るとその量は3,800リットル以上(シャワー53回分)もの水が使われるという。またThe World Bankは世界の20%の海洋汚染が衣服の染料によって引き起こされていると発表している。 reformation eco ↑米ロサンゼルス発のブランドReformationはECサイト上には、環境問題への喚起を促すページがある。同ブランドのキャッチコピーは”Being naked is the #1 most sustainable option. We’re #2. : 一番環境に優しいのは何も着ないこと。私たちは2番目ね ”だ。

購買基準は会社のビジョンが自分と重なるかどうか

今まで見えなかった情報に対する透明性が徐々に高まってきている現代において、以前よりも多くの消費者がこのような社会問題に対して当事者意識を持ち始めている。またミレニアル世代やその次のジェネレーションZ世代は「その会社のビジョンやミッションが自分と重なるかどうか」をモノを買う際の大きな判断軸にしているという。 問題意識が高い消費者に対して、社会問題を解決しているというストーリー性は機能性やデザイン性よりも重要性の高い項目として評価されることになるだろう。

サステイナビリティーによるブランディング

労働のサステイナビリティーがブランド構築の際に大きな役割を果たしたのが米ブランドEverlaneである。“Radical Trasnparency : 徹底的な透明性”という信念のもと、原価だけではなく値段の内訳をすべて公開している。 このような透明性の他、製品そのものの質や優れたマーケティングにより、Everlaneは今やアメリカにおいて最も人気のあるブランドの1つとなっている。先日サンフランシスコに店舗をオープンしたが、オープン日には店に入るだけでも2時間並ぶほどの大行列だった。オンライン上と取り扱っている商品はほとんど同じなのにもかかわらず、行列を作る老若男女達の存在が、Everlaneのブランド力を証明していると言ってよいだろう。 everlane eco ↑Everlaneは自社のEC上に世界各地の工場の様子を公開。誰がどのように製造されているのかを確認することが出来る。 環境のサステイナビリティーに挑戦しているのはドイツのスポーツブランドのアディダスである。海洋環境保護団体「Parley for the Oceans」協力のもと、海に廃棄されたプラスチックゴミを利用して作ったランニングシューズの販売を開始した。更に“Z.N.E ZERO DYE”と呼ばれる、染色をしない素材本来の風合いを生かした新商品を開発。染色をしないことで、出来るだけ水資源を節約することが狙いだという。これらの例に代表されるように、アディダスは自然環境に配慮した製品づくりを推進し、”サステイナビリティーカンパニー”としてのブランドを作りあげつつある。 adidas eco ↑左:Z.N.E ZERO DYE”を使用しているパーカー 右:海に廃棄されたプラスチックゴミを利用して作られたランニングシューズ 21世紀や22世紀において、これらのようなサステイナビリティーに対して強い問題意識を持った消費者の割合は今と比べられない程高くなるだろう。また機能性やデザイン性にも限界が来る。彼らにとって重要なのは、機能性やデザイン性ではなく、社会問題を解決しているというストーリー性だ。

【5. ファッション業界もユーザー中心のモノづくり】

大規模セールが象徴する業界の抱える闇

いろいろな分野で毎年行われる初売りセール。その中でも一番の盛り上がりを見せるのがファッションブランドやセレクトショップによるものだ。多くの人が行列を作り、開店と共に店の中に駆け込んでいく様子はもはや年始の恒例行事である。 しかしこの様子こそがファッション業界が抱えている闇を象徴しているといえる。それが、「大量の売れ残りが前提の価格設定」である。大量に売り残る前提で価格設定をし、定価で売れなかったらすぐセールに回す、という負のサイクルが、この業界において常態的に発生してしまっているのだ。 ラグジュアリーブランドの収益モデルからもこれは明らかだと言える。利益率の低いファッション部門はブランドアイデンティティを訴求する為に使われ、そのブランド力を活用し革製品のような定番商品が多い部門で利益を獲得するモデルが一般的である。ラグジュアリーブランドの革製品がセール対象外になることが多いのはその為だ。

「散弾銃商法」

このように「顧客が必要としていないものを作ってしまう」という問題が発生してしまっている本質的な原因は、そもそもの商品製造の仕組み自体にあるのではないだろうか。「流行を生み出す」という目的に対してとっているアプローチが今の時代とマッチしていないように思える。 現在多くのブランドは、消費者の理解を深めることなくとにかく数を撃てば当たると大量の種類の商品を生産するすることでヒット商品を見つけ流行を生み出そうとしているのではないだろうか。アパレルブランドのセールが大規模なのは、そのほとんどの”当たらなかった”商品がそのままセールに回されるからだとすれば辻褄が合う。ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正氏の言葉を借りれば、「散弾銃を色々な方向に振り回しながら撃っている」状態なのではないだろうか。

衣服もユーザー中心のデザインに

しかし現代は様々なデータが蓄積され分析ができる情報化社会であり、この流れはこれからも間違いなく加速する。そんな時代において、そのような「数を撃てば当たる」というやり方はあまりにも時代遅れである。 これからは消費者のデータを商品化することが求められるだろう。消費者に関する情報を集め、分析し、衣服へと変換していくのだ。いかに「データ」を起点に衣服を作れるかどうかが、これからのファッション業界で生き残れるかどうかの分かれ目と言っても過言ではないだろう。 それはつまり、ファッション業界にもユーザー中心のモノづくりの考え方が必要になってくるとも言い換えられるだろう。これから必要になるのは「アイデア」や「テクノロジー」ではなく、あくまでユーザー起点でのデザインである。「ユーザーのニーズを理解し、研ぎ澄ませた商品だけを生産する」というライフルを撃ち抜くような生産体制を敷くことが重要となる。

必要なのはサプライチェーンの再構築

しかしこれは現在のファッションブランドの体制のままで導入することは難しいかもしれない。なぜなら、企画・構想から実際に棚に並ぶまでに時間がかかり過ぎているからだ。通常の工程で服を生産すれば、実際に消費者の手元に届くのに約2年ほどかかってしまうという。これでは消費者のニーズに刺さる商品の製造は難しい。 その為まずはサプライチェーンの再構築を行い、企画者と生産者の距離を近くする必要がある。しかしだからといって企画までもをOEMへ投げてしまうのは本末転倒だ。その結果起こったのが「タグだけ違って他はほぼ一緒」のチェックシャツが様々なセレクトショップで販売されたことである。 あくまで必要なのは、ブランドのアイデンティティを保持しつつより早くスピードで商品を生産出来るサプライチェーンを整えることではないか。

サプライチェーンの再構築に挑むGucci

この重要性を認識し変革に動いているラグジュアリーブランドがある。それがAlessandro Michele体制になってから絶好調のGucciである。Gucciを傘下に収めるKeringのCEOであるJean-Marc Duplaix氏によると、グループとして最も優先順位が高いのはGucciのサプライチェーンの再構築だと話す。 その試みの1つとして、同社はGucci Art Lab を今年中にオープンする予定だ。イタリアに建設予定のこのLabでは、革製品の製造だけではなく、顧客トレンドの調査や新しい素材の開発を行う機関になる。製品開発の上流工程から下流工程までの距離を短くし、発表出来るコレクションの数を多くすることが狙いだという。 Gucci Art Lab ↑イタリアに建設されているGucci Art Lab の様子

セールが無くなりファッションショーのあり方が変わる

この流れがアパレル業界全体に浸透すれば、大量の売れ残りが減るだろう。その結果、「セール前提の価格設定」が見直され、正常なプロパーの価格で売られることになる。それに伴いセールの規模も縮小されていくだろう。 またこの仕組みの変革はファッションショーのあり方をも大きく変えることになるかもしれない。オートクチュールのコレクションは例外的な扱いで継続されるだろうが、より大衆向けのプレタポルテのコレクションは現在と同じ体制でずっと行われるとは考えづらい。2〜3月に来年の秋冬、9〜10月に来年の春夏に店頭に並ぶコレクションを行い続けるのは、21世紀・22世紀においてはあまりにも時代とのすれ違いが大き過ぎるだろう。

【6. プラットフォーマーと協業せざるを得ない時代】

ファッションブランドにとって長らく議論が続いていたのが、「Amazonのようなプラットフォームは協業すべき味方なのか、それとも競争相手になり得る敵なのか」である。 しかしこの議論の論点は今後変わることになるだろう。もはや議論すべきは、プラットフォームと協業するかどうか、ではなく、どのようにプラットフォームを協業するかになる。

プラットフォームとの協業によるデメリット

プラットフォームとの協業は様々な面でデメリットが生じることは事実である。その中でも特に顕著なのは、ブランディングへの影響だろう。ブランドを築くこととは顧客との関係性を築くことに他ならないが、プラットフォームに卸してしまうと、顧客との接点を減らしてしまうことになる。これはブランディングの観点から見ると大きな機会損失に他ならないだろう。 更に顧客データの蓄積という面でも大きなデメリットがある。以前の記事(これからの企業に不可欠な三種の神器とは)でも紹介したように、21世紀における良い企業と素晴らしい企業を分ける一つの指標がデータの取得量と活用方法である。柳井正氏がこれからの産業について「すべての産業は、情報を商品化する新しい業態に変わる」と話すように、ファッション業界も同様にデータの重要性は日に日に増していくだろう。 gafa-graph ↑GAFA (Google, Amazon, Facebook, Apple) は膨大なユーザーデータを武器に従来の産業分類の枠を超えたビジネスを展開し始めている。 プラットフォームに販売を委託するということは、そんな重要な顧客データの取得のいくらかを諦めることになる。裏返せば、Amazon等プラットフォームにとっての大きな武器とはそのデータである。この状況はファッションブランドにとっては、決して歓迎されることではない。

これからはプラットフォームと「どのように」協業するのかという時代

しかし、そのようなデメリットを考慮したとしても、やはりこれからはプラットフォームと”どのように”協業するのかという時代に突入しているように思う。その理由はプラットフォーマー達が築き上げる圧倒的な規模と顧客へのリーチ、そしてただのプラットフォームではなく、ブランディングプラットフォームへと変革しつつあることだ。 プラットフォームの代表格がAmazonである。Whole Foods Marketの買収やAmazon Goのオープン等生鮮食品に力を入れていると思われがちであるが、ファッション分野の成長も著しい。アパレル業界において、売上げトップの座を守り続けてきたのが、大手百貨店チェーンのMacy'sであった。 しかし、2018年にその座はAmazonに明け渡すことが決定的になっている。また成長率に関しても、Amazonのファッション部門が30%近いのに対してMacy’sは-4%が見込まれている等、両者の差はどんどん開いていく一方だろう。 Retail Sales Graph ↑長らく売上1位を維持してきたMacy'sが遂にその座をAmazonに奪われる。ECサイトが百貨店よりも服を売る時代を誰が想像出来ただろうか。

1日で約3兆円の取り引き

アメリカや日本よりも、オンライン上での購入に対して抵抗が無いとされている中国では、プラットフォーマーの影響力は更に大きいと言えるかもしれない。中国版アマゾンとも呼ばれているAlibaba が毎年11/11に行う Single’s Day Sale はたった1日で、約2.7兆円もの取り引きが発生したという。これは2018年現在、世界中で最も大きなオンラインショッピングイベントである。 Alibaba Single's Day ↑Single Day Sale に合わせて開催されたイベントの様子 このようなプラットフォーマー達の圧倒的なサプライチェーンと顧客へのリーチは、単独のブランドだけで築き上げるのは難しい。今後消費者達は何か欲しいものがあるととりあえずAmazonやAlibabaを開くことが増えるだろう。そのようなプラットフォームで自社の商品を扱ってもらうことは、多くのブランドにとって魅力的であることは間違いない。

ラグジュアリーブランド専用のオンラインプラットフォーム

しかしいくら多くの顧客にリーチ出来るとはいえ、多くのラグジュアリーブランドにとっての悩みの種は、プラットフォームで購買可能になることによるブランド力低下である。現在もAmazonで購入出来る洋服は比較的カジュアルで安いものが多い。 そこで生まれたのがラグジュアリーブランド専用のオンラインプラットフォームである。そこで扱われている商品は高級百貨店で扱われているようなブランドばかりであり、近所のモールに入っているブランドと混合されることはない。これならラグジュアリーブランドも、ブランドイメージの低下を気にすることなく扱ってもらえる。 ブランド力の低下どころか、このようなラグジュアリーブランド専用のオンラインプラットフォームとの協業がブランディングの一貫になっているケースもある。例えば、そのようなプラットフォームの代表格であるFafetchはGucciとパートナーシップを結び、「Store to Door in 90 Minutes (90分配送サービス)」を提供している。FarfetchでGucciの商品を購入すると90分でユーザーのもとに届けられるのである。これはGucci単独ではなし得なく、Farfetchのような強力なサプライチェーン網を持つプラットフォームとのパートナーシップでだからこそ実現出来たサービスだと言えるだろう。 Farfetch Gucci 長らく議論になってきたファッションブランドとプラットフォームと関係性であるが、確かにブランディングや顧客データの面でデメリットはある。しかし圧倒的な規模と成長速度、またブランディングプラットフォームとしての役割を担いつつあることを考えると、協業しない手はないだろう。プラットフォーム上に取り上げられないデメリットが協業するデメリットをはるかに凌ぐ時代はすぐそこまで迫ってきている。

【デジタル広告最新トレンド2018】今アメリカで起きている4つの現象

digital ads
あらゆる業界でデジタル化が進んでいるように、広告もその例外ではない。むしろテクノロジーの進化とともに、いち早くデジタル化が進んだ業界の内の1つと言っても過言ではないだろう。 昨今、インタラクティブな広告を目にすることが多くなったように思える。インタラクティブとは双方向で情報のやりとりができる状態を指し、このトレンドはSNSやスマートフォンによって急速に推し進められた。そして、ビジネスにおけるソーシャルメディアの活用によって、企業とユーザーがお互い気軽にコミュニケーションがとれる場所ができた。 こうした環境に慣れてしまったユーザーにとっては、一方的な商品やサービスの宣伝を超えた体験が重要になってきている。 また、後から説明する"広告嫌い”の若い世代やネットへの信頼を失っている人にも受け入れられるような新しい広告の在り方が求められてきている。こうした点を踏まえると、今後デジタル広告はユーザーが「違和感を感じない」だけでなく「主体的に楽しめる」ことが求められるのではないだろうか。 今回は、今アメリカで起きている4つの現象に触れながらデジタル広告の最新トレンドをご紹介したい。 関連記事:2018年にUXデザインを取り巻く7つの変化

1. デジタル広告費 > テレビ広告費

デジタル広告の市場は急速に成長しており、アメリカでは昨年の2017年に遂にデジタル広告費がテレビ広告費を上回った。その要因としては、効果的なチャンネルを通して目標とするセグメントにリーチできる、広告の効果を瞬時に測定できる、自動化もできてコストが抑えられるなど、様々な要因はあると思う。 ただ、最も大きかったのはテクノロジーの発達による、人々の生活の変化だろう。人々はテレビを見るよりスマートデバイスを使っている時間が長くなり、動画コンテンツもネットフリックスやユーチューブで見るようになってきている。こうした変化を考えると、日本のデジタル広告費がテレビの広告費を追い越す日も遠くないかもしれない。

2. 新しい広告の出現

Googleが始める"遊べる広告”

デジタル広告は、ネイティブ広告のような一貫性がありユーザーが違和感を感じないものが増えてきており、冒頭でも述べたように最近はよりインタラクティブなものにシフトしている。 その一例にGoogleのプレイアブル広告(遊べる広告)を挙げたい。Googleがエイプリル・フールの週にマップ上に「ウォーリーを探せ」のキャラクターを出現させたことで話題となったが、このゲームとは内容が少し異なる。 google_find_waldo 画像転載元:Google Japan アプリのゲームをしていたら、動画広告が流れ始めたことはないだろうか?通常の動画広告は、決められた時間の広告動画を観ることで何らかの報酬(ゲーム内でのポイントなど)が得られる。 しかし、プレイアブル広告は、動画を観る代わりに別のゲームのミニゲームをプレイすることができるのだ。Googleはこの広告の時間をただ鑑賞のために使うのではなく、よりインタラクティブなものにしようとしている。実際にプレイしてそのゲームが気に入ればゲームのダウンロード画面に進むことだってできる。 不思議に思うかもしれないが、簡単に言うとあるゲーム上で別のゲームをしていることになる。動画広告と違って、ユーザーの操作に反応するので、自然と広告に対する興味を高めることができるのも特徴だ。フェイスブックも最近テストを始めたようで、今後見かける機会が増えるだろう。 Playable_ads 画像転載元:glispa

コアなファンへのリーチ

NikeはNBAとのパートナーシップ提携に伴い、2016年、2017年のシーズンからNBAのユニフォームの製造もしている。ユニフォームにはNikeのロゴだけでなくNikeConnect(ナイキコネクト)のロゴも付いており、スマートフォンをナイキコネクトのロゴに近づけると、限定コンテンツやレアな商品にアクセスできるようになっている。 これまではユニフォームのみだったが、今年の4月にナイキコネクトを搭載したスニーカーを限定販売した。購入者は今後数ヶ月に亘ってニューヨークで実験的に行われる取り組みに参加することができる。まだその詳細は明かされてないが、月に一度2つの限定モデルから1つだけ購入するスニーカーを選ぶことができるようだ。 このように、限定的な情報を逐一チェックしてくれる熱烈なファンであれば、広告であっても関心を持って見てくれる可能性が高く、インフルエンサーとしてブランドに良い影響を与えてくれる可能性も十分にある。 彼らのようなコアなファンにパーソナライズした広告を届けるためには、電子デバイスだけでなく身の回りのあらゆるものがデジタル広告への入り口として使われるようになるのではないだろうか。 nike-air-force-1-nyc 画像転載元:HYPEBEAST

3. ネット・SNSへの信頼の低下

最近大きな話題となっているのは、ネットにおける信頼性である。フェイスブックの個人情報流出騒動で起きたSNSなどの無料プラットフォームにおける個人情報の取り扱いやフェイクニュースの問題など、こうした危険性は常に騒がれてきた。 PR会社エデルマンの調査によると、メディアやサーチエンジン、SNSプラットフォームへの信頼が昨年に比べて低下している。年代別で見ると、若い世代の方が低下率が高くなっている。 2018_Edelman_Trust_Barometer 画像転載元:2018 Edelman Trust Barometer Global Report こうしたネット全般への信頼性・信憑性への懸念は企業側にもあるようで、P&Gやユニリーバといったこれまで広告の大口クライアントであったグローバル企業は昨年デジタル広告費の削減を発表していた。 こうした問題の原因の一つは、誰もが簡単に情報の発信者になれるようになった(参入コストが下がった)ことで、広告の信憑性だけでなく広告が表示される場所などを含めた統括的な質の担保が難しくなっているからだと考えらえる。 広告収入が9割のGoogleでは、ネット上のユーザー体験を損なわないよう同社が提供するブラウザのGoogleクロームでは勝手にポップアップが表示されるなど著しくユーザー体験を損ねる広告に関してはスクリーニングする取り組みを行い、広告主の自主的な規制を促している。

4. 広告嫌いのミレニアル世代

録画したテレビ番組のCMをボタン一つで飛ばしてしまうように、デジタルではアドブロックという広告を表示させないサービスが増加している。なんとアメリカでは3割以上のインターネットユーザーがアドブロックを使用しているとされている。 これに対応するためにアドブロッカー・ウォールと呼ばれるアドのブロックを無効にしないとページ内容が表示できないサイトもある。一方で、アドブロッカー・ウォールのせいで、ユーザーがサイトから離れてしまう問題もある。 スマートフォン用のアプリなどは、クックパッドのプレミアムサービスのように基本的に無料だがアップグレードにはお金がかかるといったフリーミアム(フリーとプレミアムを合わせた造語)のサービスが半ばデフォルトの状態だ。こうしたサービスは広告収入によって支えられているので、若いユーザーは煩雑な広告の表示や「売り込み」感の強い広告にうんざりしているのかもしれない。 以下、ユーザー体験を損ねるデスクトップ、スマートフォン上の広告の例である。

デスクトップ:

  • ポップアップ広告
  • 音声付きの自動再生広告
  • カウントダウン付きのプリスティシャル広告(コンテンツ表示前に表示される広告)
  • 大きなスティッキー広告(スクロールしてもついてくる広告)
desktop_ads 画像転載元:Coaliation for Better Ads

スマートフォン:

  • ポップアップ広告
  • プリスティシャル広告
  • 画面の30%を占める広告
  • 点滅アニメーション付きの広告
  • 音声付きの自動再生広告
  • カウントダウン付きのポストスティシャル広告(リンクをフォローした後に表示される広告)
  • フルスクリーン・スクロールオーバー広告(スクロールするとコンテンツ上に表示される広告)
  • 大きなスティッキー広告
smartphone_ads 画像転載元:Coaliation for Better Ads

まとめ

デジタル広告の市場は急速に成長し、テレビへの広告費用も上回るほどになった。GoogleやNikeが行なっている取り組みは、常にデジタルな環境に囲まれているユーザーにも訴求できる新しい広告の形なのかもしれない。また、デジタル広告が載せられるプラットフォームへの信頼の低下は問題であるが、インタラクティブな広告のトレンドは、広告を嫌う若い層への対策とも取れる。 このように、これからの時代はユーザー体験を重視し、いかにユーザーに広告を広告と感じさせないか工夫していく必要があるだろう。そしてユーザーが価値を感じる対象がモノから体験にシフトした今、広告一つに取ってもユーザーの思考や行動を分析して体験を設計し、ユーザの反応に対しても様々な視点で潜在的なニーズや抱えている問題を読み取っていくことが求められるのだ。 参考:

【2018年版】ウェブデザインの最新トレンド5選

【2018】最新のウェブデザイントレンド
Windows8が登場した2012年以降、ウェブデザインに関する話題においてフラットデザインという用語をよく耳にするようになった。 AppleもiOS7を発表した2013年からは、従来使われていたスキューモーフィズム、つまり物理的なアイテムに似せたデザインをやめ、フラットデザインを採用している。 iOS6,7

iOS6, 7

これらにより多くのウェブサイトに影響を与えたフラットデザインは、現在多くのウェブサイトで見かけるようになったが、ウェブデザイン界ではこれに限らず毎年クリエイティブなデザインが生まれ続けている。 この記事では、2017年後半に見られたクリエイティブなウェブデザインのうち、2018年も引き続きトレンドとして見られるであろうものを紹介する。

【トレンド①】モバイルファースト

アクセス解析ソフトを提供しているStarCounterによる世界のブラウザ定点観測の調査によると、2016年11月にモバイルブラウザーの利用率がブラウザ利用率の全体の「50.62%」を占め、モバイルの利用率が従来のコンピューター利用率を超えたことが明らかになっている。 弊社、btraxの当ブログであるfreshtraxでも読者のおおよそ半数がモバイルからアクセスしている。 このモバイル利用率増加を背景に、デバイスに依存しないレスポンシブデザインがトレンドとなり、相性の良いフラットデザインも同時によく見かけるようになった。 何年も前から言われていることではあるが、2018年以降はこれまで以上にモバイルファーストを意識しなくてはならない。 モバイルファーストなウェブデザインの特徴としては、アイコンを多用して少ないスペースで効率よくシンプルに情報を見せていることだ。 例えば横線を縦に3つ並べたハンバーガーメニューなどは非常に一般的なアイコンとして浸透しており、今では多くのユーザーにとってその機能が馴染みのあるものとなっている。 RestuarantFinder

Nutrition app design by Masum R.

g-star.growing

Home growing app design by Typelab D

【トレンド②】フラットデザイン2.0

フラットデザインが進化し、シャドウやグラデーションによってより奥行きのあるフラットデザイン2.0とも呼ばれるセミフラットデザインがトレンドとなっている。 scale

scale

fireworks.prayer

Fire Works mobile app by Samuel.Z, Mobile app by M. Tony for Elmurz

bubblewits

Bubblewits

従来のフラットデザインでは余分な装飾やグラフィックを省いたがゆえに、クリックできる箇所がわかりづらいなどといった課題があった。 しかし、フラットデザイン2.0は上記のデザインのようにドロップシャドウやグラデーション、効果的なアニメーションを一部に取り入れることで、従来よりもわかりやすい、つまりユーザビリティの高いデザインを実現している。 ちなみに冒頭で紹介したiOS7のアイコンにもグラデーションが効果的に使用されていることがわかる。

【トレンド③】鮮やかな配色

adobe

Adobe

spotify.egwineco

Spotify, Eg WineCo

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Colorful landing page design by Adam Bagus for Arielle Careers

2018年にはビビッドカラーなどの鮮やかな色合いがトレンドになると言われている。 これはスクリーンやモニターなどの装置の技術的進歩により、豊かな色を再現することが可能になったことで結果的にデザインの可能性が広がったゆえのトレンドだ。 色はブランディングにおいて重要性が高く、色の知覚は感情に結びつくため、効果的にユーザーにアピールすることができる。ターゲットとなるユーザーがどのような感情を欲しているか、国や文化によって色に対するイメージが異なることを理解することが重要である。

【トレンド④】アニメーション

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GiFs – such as this one by Chris Gannon – are back in favour

gifアニメーションが再起しつつある。 gif規格は現在ほとんどのデバイスで読み込むことができ、ロード中に表示するなど効果的に使用することができる。 アニメーションロゴなどは、少ない時間で効果的に情報をユーザーに伝えることが可能で、企業のブランドをさらに強化するために大きな可能性を与えるかもしれない。 zendesk

Zendesk

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Digital Asset

また上記のように、スクロールアニメーションやパララックス、つまり視差を利用した演出によってユーザーの理解を高めたり、効果的なブランディングが可能になる。 alarm_material_ui

dribbble

さらに、クリックやタップ時のアニメーションを効果的に利用し、ユーザビリティを向上させることも可能だ。 上記の例では、タップしたアクションボタンを起点としたアニメーションが、ユーザーに自身が行っている操作と、その結果が結びついていることを理解するために役立たせることができるなど、細かなアニメーションがユーザビリティ向上に役立つことがわかる。 ブラウザの進歩によって様々なアニメーションが実装できる今、シンプルなデザインであっても効果的に印象を与えることができる。

【トレンド⑤】オリジナルイラスト

dropboxbrand

Dropbox.design

craterlabs.zingle

Web page illustrated and designed by SixDesign, Zingle

1960年代後半まで広告の世界を支配していたイラストレーションだが、ウェブの世界で再起しつつある。 イラストは、ウェブサイトに個性を見いだす画期的な方法であり、機能性とシンプルさを損なうことなく企業の目指すブランドのトーンに合わせた性格を表現できる。 形、大きさ、スタイルなど無限の可能性があるイラストは、ユーザーエクスペリエンスという名目で遊び心を失うことなく個性を出すことができるだろう。

まとめ

上に挙げたトレンドに共通するのは、ユーザーファーストでありつつも大胆かつ的確にユーザーに伝えるための手法であるということだ。 2018年は最近のウェブの記憶の中でもっとも楽しい年になりつつあると言えるだろう。

【2018年】btraxが注目する10のスタートアップ

2018-theme
2017年は前年同様、人工知能(AI)やドローン、ヘルスケア分野での最新テクノロジーへの注目が高く、また日本では新たにスマートスピーカーをはじめとしたバーチャルアシスタントも大きな話題を呼んだ。いずれのサービスも私たちの生活を変える実用的なものが増えてきたのではないだろうか。 関連記事:2017年に終わりを告げたスタートアップ5社に学ぶ教訓 btraxでは今年も注目のスタートアップを選出。私たちの生活に変化をもたらすと期待される10のスタートアップを紹介する。

1. Lisnr: 超音波技術を駆使したチケット認証、デバイス間接続、メッセージ

lisnr1 主要投資家: Synchrony Financial, Intel Capital, Progress, Ventures 調達額: $14.35M

サービス概要:

超音波技術を駆使した音声データ通信システムを提供。「音声のインターネット Internet of Sound」とも呼ばれる自社開発の”Smart Tone”技術を使い、スマートフォンを通じて人間には聞こえない超音波を発することで、インターネット接続なしに近距離でのデータ通信を行えるようにする。これをチケットの認証やデバイス間接続、メッセージの送受を含む様々な用途で利用する。 このSmart Tone技術はスマートフォンで利用されるため個人との紐付けが可能。最近アーティストのコンサートやスポーツの試合でのチケットの高額転売やダフ行為が問題視されているが、そういった偽ユーザーの識別から不正なチケットの複製・転売行為まで防ぐと期待されている。またこの認証プロセス自体もシンプルなもので、イベント会場に入るまでの長い行列の解消にも繋がると言われている。

注目の理由:

先述したように、近年チケットの転売行為があまりに多いことからそれに対する対策が各業界、個人で行われている。アメリカのスポーツ観戦チケットでは転売容認の方向に向かい、2次、3次の流通マーケットが拡大している一方で、音楽業界では転売防止対策が積極的に行われている。 特にアーティストが自身のコンサートであらゆる工夫を行っており、例えばビリー・ジョエルのコンサートで最前列の席を通常券購入者にランダムで提供する取り組みや、テイラー・スウィフトの新チケット購入プログラムであるTaylor Swift Tixの導入等が行われている。 これらの取り組みを受けてアーティスト以外にもその動きは広がり、昨年アメリカ大手チケット販売会社のTicketmasterがSmart Tone技術を導入し、それまで使っていたQRコードによる認証を置き換え始めている。今後あらゆるイベントで利用されていきそうだ。 またSmart Toneはイベントのみならず他のセキュリティ認証にも次々と導入されている。Lisnrは昨年、自動車会社のJaguar Land Roverとパートナーシップを締結。同社の自動車のアンロックシステム等に導入される見通しだ。この超音波を使った音声データ通信技術がさらにどのような形で私たちの生活に影響するのか注目だ。

2. Nurx: ピル配送サービス

nurx1 主要投資家: Lowercase Capital, Y Combinator, Union Square Ventures 調達額: $5.42M

サービス概要:

「ピル用ウーバー」。アプリで医師の診察を受けることでクリニックに行かずともピルを受け取れるサービス。ピルは望まない妊娠を予防する以外に生理不順や生理痛を緩和するものとしてアメリカでは一般的に利用されている。 ユーザーはアプリをダウンロードし、複数の質問に答える。あとは州のライセンスを持つ医師がその回答のレビューを行い、ユーザーに合ったピルと使用方法を提供。ピルは自宅もしくは指定する場所に配達され、その費用はかからない。Nurxはピル適用の保険有無にかかわらず対応し、女性がピルを受け取るまでのプロセスの改善を徹底して行う。 またNurxはピル以外にHIV感染予防、PrEPに効果のある医療薬も同様に簡単なプロセスで提供している。

注目の理由:

スタートアップ養成スクールで有名なベンチャーキャピタル、Y Combinatorを卒業し、2015年に設立したばかりのスタートアップだが、カリフォルニア州から着々と活動の幅を広げ今ではアメリカ国内の16の州に展開。この展開スピードから、これまでのピルの受け取りプロセスがユーザーにとっていかに不便だったかがわかる。 またこのサービスに対する高い注目の背景には政治的な理由もある。トランプ政権がオバマケアを変えることで、今まで保険が適用されていたピルがそうでなくなることが懸念されており、ピルを服用する女性へのサポートが縮小されかねない風潮にある。 このように国として女性のピル使用を支持しない方向にあるなかで、Nurxのように女性のピル受け取りを支援するサービスが注目を浴びているのだ。いずれにせよNurxは先に挙げたように保険の有無にかかわらず対応が可能なのでその使いやすさが注目を集めている。 昨年12月の連邦裁判所の判断でトランプ政権の動きにストップがかかったが、依然としてピルを利用する女性の生活が変わりかねない緊張状態が続いている。もしかしたら今後ピルの継続が難しくなる女性も出てきかねない状況のなか、今年このサービスがどこまで女性の生活改善に貢献するか注目だ。

3. Payjoy: スマートフォン用ローンサービス

payjoy 主要投資家: Santander InnoVentures, Union Square Ventures, ITOCHU Corporation 調達額: $29.15M

サービス概要:

「すべての人がスマートフォンを入手可能に」をモットーに掲げる2015年誕生のスタートアップ。通常の通信会社が提供するローンを組めない低所得者層向けにフェイスブックアカウント、国の発行する身分証明書、電話番号の3つだけでスマートフォンを提供する。支払い方法には柔軟に対応しており、支払いが滞った際はPayjoy Lockと呼ばれる専用アプリを通じてスマートフォンを使用できないようにする。 市場には低価格のスマートフォンがあるが、アメリカの低所得者層にはあまり利用されていない。その理由として「故障の多さや動きの遅さでほとんど役に立たず、安いスマホを買うぐらいなら高い方を持つ」という声が多かったことから生まれたサービスである。

注目の理由:

昨年9月に新たに$6Mの資金調達に成功。これまでアメリカとメキシコで展開し、2017年にはアジア諸国、2018年にはラテンアメリカとアフリカに展開、とグローバル進出に勢いを見せている。これまでスマホを持ってこなかった層にどれだけ浸透するかが見所。 このサービス利用者数の増加がスマホの全体利用者数にどう影響するのかも注目ポイントの1つ。シリコンバレーのベンチャーキャピタルであるKPCBでパートナーを務めるメアリー・ミーカー発表の2017年のインターネット・トレンドレポートにおいても、ユーザーのデジタルメディアの利用はデスクトップでは変化がないものの、モバイルでは2011年から2016年の5年間でおよそ4倍増だった。 今ではデスクトップよりもスマホを利用する時間が長く、その利用時間は今後も伸びると予想される。同レポート内ではスマホユーザーの伸び率は急減速しているとも書かれていたが、Payjoyがこの状況にどのような変化をもたらすのか見ていきたい。

4. Citizen: リアルタイム犯罪通知アプリ

citizen 主要投資家: Sequoia Capital, Peter Thiel’s Founders Fund, Slow Ventures, RRE Ventures, Kapor Capital 調達額: $13M

サービス概要:

リアルタイムで近辺の犯罪や事故をユーザー同士で報告・通知するアプリ。もともと”Vigilante(自警団員)”と別名でサービスを展開していたが、その名の通り一般人が犯罪等の問題を警察に伝える前に「自警」し結果的に犠牲者が増加すると議論を呼びアップルストアから削除された。 今回は警察への通報機能を加え、ユーザーには危険を知らせるだけでなく彼らの安全を守るという目的で新たに再スタートを切った。現在ニューヨークとサンフランシスコで展開。

注目の理由:

アメリカでは無差別の銃乱射事件、日本でも通り魔的な犯罪は今日もよく取り上げられ、世界的に見てもテロ行為が後を絶たず私たちの安全は脅かされている。世界テロリズム指数の2017年レポートによると、世界的にテロによる死亡数は2006年から2016年までの10年間で67%上昇した。 こういった犯罪行為の撲滅は必須であるが、同時にそのような事件に巻き込まれないようできるだけ市民の安全を守る取り組みも必要である。Citizenはそれに貢献できると期待されている。

5. Nauto: AI搭載の車載器

nauto 主要投資家: General Motors, Greylock Partners, Softbank, Toyota AI Ventures 調達額: $173.85M

サービス概要:

AIを使った双方向カメラの車載器。前方を見る車外カメラと車内の様子を撮影する車内カメラでドライバーの煽り運転や脇見運転、居眠り運転、その他危険運転を察知し、運転後にフィードバックを行うだけでなく、商業用車両の場合には車両管理側がその様子を確認できるようになっている。また事故時の保険対応も双方向のビデオ映像を使うことでスムーズかつ正確なものになると期待されている。 このようにドライバーの運転データをビッグデータとして蓄積していくことで、将来AIによる事故の分析・予知が可能になる。最終的なゴールとしてNautoは安全な完全自動運転の実現を目指している。

注目の理由:

自動車メーカーによる自動運転技術の開発は今も積極的に進められているが、その技術はまだ限定的であり、今はより多くの実際の運転データ収集が必要な段階である。Nautoの車載器は現在すでに危険運転抑止と事故防止というメリットをユーザーに届けながら、リアルな運転データを集められるサービスとして非常に貴重な存在になっている。未来の自動走行に向けて大きな前進が期待できる。 日本でも昨年煽り運転が特に問題視されドライブレコーダーが売れたが、AIを駆使した車載器はこれまで出ていなかった。運転手にとってより安全な交通社会が作られていく上でNautoは特に大きな貢献が期待されるサービスである。

6. Holberton School: 授業料の用意なしで入学できるコーディングスクール

holbertonschool 主要投資家: Ne-Yo, Jerry Yang, Jerry Murdock, Reach Capital, Daphni 調達額: $4.3M

サービス概要:

今日ではコーディングを勉強できるスクールは身近に存在し、特にサンフランシスコでは気軽に通えるものが多い。その中でもこのHolberton Schoolは独特で、学費を事前に納めることなく授業を受けることができる。「生徒が給料を得られるまで授業料を取らないスタイル」なのだ。 スクールでは2年に及ぶプログラムを提供。9ヶ月のサンフランシスコでのトレーニング、6ヶ月のインターンシップ、さらに最後の9ヶ月でサンフランシスコ、もしくはリモートでの学習、という内容になっている。フォーマルな教授たちが授業を行う形式ではなく、講師側はGoogle、Uber、Facebook、Linkedin、Salesforce等サンフランシスコ・ベイエリアを代表するテクノロジー企業で働くエンジニアたちだ。 コースで扱う内容も生徒側が実際に取り組んでいるプロジェクトや講師が過去に行ってきた案件をベースに学び、実際に現場で使えるスキルや経験を積んでいく。 生徒は卒業後3年間の仕事もしくはインターンシップの給料の17%を授業料として支払うことに同意した上で入学となる。そのため生徒向けに均一な授業料というのは存在しない。

注目の理由:

卒業生たちはすでにGoogleやNASAと行った企業で実際にエンジニアとして働き始めており、成果は着々と表れている。エンジニアは世界的に人材不足、サンフランシスコでも優秀なエンジニアは次々と特定の大企業に引き抜かれ、その他企業が太刀打ちできない実態もあるが、このHolberton Schoolはその問題を解消してくれそうだ。 生徒からしても、今からでも始められるコーディング専門スクールが存在するのは大きなメリットである。実施にHolberton Schoolはテック業界に多様性をもたらすことを1つの目標に掲げており、それを実現しようとする姿勢はすでに高い評価を得ている。 生徒の中には今までエンジニアとは縁のなかった人もいるが、スクールはそんな彼らでもエンジニアの道を選ぶことができるという勇気を与えている。2015年設立とまだまだ若いスクールだが、これからテック業界に大きな変革をもたらすと期待できる。

7. Qadium: IoT向けセキュリティプラットフォーム

qadium-expander 主要投資家: Founders Fund, New Enterprise Association, Susa Ventures, Institutional Venture Partners 調達額: $65.97M

サービス概要:

元CIAエージェントが政府関連のサーバーの脆弱性を発見した経験から立ち上げたスタートアップ。ネットワークに接続されたデバイスをすべて調べ、ハッキングされる恐れのある問題やその他あらゆる脆弱性を検知しユーザーに警告するプラットフォームサービスを提供。 この防御システムを支えるのは”Expander”と呼ばれるソフトウェアプログラムで、IoTシステムのインターネット接続をマッピングした上で調べ上げることから「IoTのグーグルストリートビュー」とも呼ばれる。 顧客にはアメリカサイバー軍やアメリカ海軍といった政府機関や銀行のCapital One、その他金融系の企業が並ぶ。価格が非常に高額な分、導入できる企業や組織は限られてくるが、その信頼性は高く評価されている。

注目の理由:

毎年10月に業界最大手のIT調査機関、Gartnerによって発表されるITトレンドの2017年版でも触れられていたが、IoT製品の急速な普及により、サイバーセキュリティの脆弱性は早急な対策が必要になるほど重要な問題になる。Qadiumはこの深刻な問題に対処できる役割を担っている。

8. Gladly: 一括管理のカスタマーサービスプラットフォーム

gladly 主要投資家: Jerry Chen, GGV Capitals, Greylock Partners 調達額: $63M

サービス概要:

音声通話、メール、チャット、ソーシャルメディア等の複数チャネルでコンタクトのあった同一の顧客を認識するカスタマーサービスシステムを提供。これまでクレーム電話や問い合わせメールはそれぞれ1つの案件として処理されていたが、同社のソフトウェアでは同一人物によるものか認識する。それによって企業側は顧客が過去にどのような内容で連絡を取ってきたか確認でき、それに合わせた顧客対応が可能になる。

注目の理由:

顧客第一を謳う企業はますます増え、顧客の声は改善の何よりの材料として貴重なものになっている。昨年8月にGladlyとのパートナーシップを発表した航空会社のJetblueでも早速導入されたが、飛行機の遅れや荷物紛失等に関するクレームが一定数起きるこの業界において、同社は複数チャネルからの顧客のコンタクトをこのGladlyシステムで全て管理。 それぞれの顧客との会話を全て記録し、また過去の全てのサービス利用履歴も管理して紐付けることで、遅延等によって利用客に迷惑がかかった場合にはその記録から保証内容を決める等、個別のカスタマーサービスを充実させている。 昨年の顧客満足度指数において、Southwest AirlinesやAlaska Airlinesを超え、業界内で一番となったJetblueが行う取り組みの1つという立ち位置から、Gladlyへの今後も注目はさらに高まるだろう。丁寧な個別の顧客対応を追い求める企業こそ必見なサービスになっていくと予想される。

9. Knotel: 中小企業向け本社型コワーキングスペース

knotel 主要投資家: Invest AG, 500 Startups, Bloomberg Beta 調達額: $25M

サービス概要:

ビルオーナーとプロフィットシェアを行う形でコワーキングスペースサービスを提供するスタートアップ。WeWorkの競合として紹介されることも多い。今日のコワーキングサービス市場の成長を支えるスタートアップの1つとして世界中に展開している。 本来オフィスビルの賃貸には長期的な契約期間が必要とされていたが、Knotelはその期間を柔軟に対応。従来のコワーキングスペースは今まで通りフリーランサーやスタートアップ社員向けに、現在コワーキング市場を牽引するWeWorkは大企業社員向けにサービスを展開しているのに対し、Knotelは50−200人程度の中小企業向けに「本社として利用できるコワーキングサービス」を提供。 企業側はオフィスにかける費用を抑えながら、カスタマイズ可能な中規模スペースを利用できるので、クリエイティブな職場と自由な働き方を社員に手軽に提供することが可能だ。

注目の理由:

今では企業の大きさにかかわらずスタートアップ企業の職場環境を参考にするところは多く、手軽に利用できるコワーキングスペースと契約し様々な交流を図れるフリーアドレス制度を社員に提供する企業が増えている。実際に昨年IBMはWeWorkが持つニューヨーク・88 Universityのコワーキングスペースのビル全てのデスク契約を決めた。 今後コワーキングサービスはこれまで利用してこなかった層を取り囲んで利用者数を増やしていくが、その中でもKnotelはまだ穴場とされている中小企業向けのサービスをカバーし成長を遂げていくと予想される。 今や働き方改革においてコワーキングスペースの存在は大きなものになりつつある。東京でもついにコワーキングサービスを開始するWeWorkが世界的に大企業の社員に自由な働き方を提供していく裏で、Knotelも中小企業の社員の働き方を少しずつ変えていきそうだ。

10. Hudl: スポーツ用パフォーマンス分析プラットフォーム

hudl 主要投資家: Accel Partners, Jeff Raikes, Nelnet 調達額: $108.9M

サービス概要:

練習や試合の動画をアップロードし、コーチングポイントを動画上にマークし、コメントを残すことで、オンラインで選手・コーチ間で改善ポイントの共有ができるプラットフォーム。通常の動画編集プラットフォームとは異なり、1つのプレーを様々な角度から見られるようにしたり、プレー毎に動画を区切り瞬時に確認したりできるようにして、あらゆるスポーツにおけるミーティングの効率化を図ってくれる。 さらにこのプラットフォームは選手のリクルーティングの機会の場としても利用されている。選手は自身を売り込む新たなツールとしてパフォーマンス動画を掲載し、高校、大学、そしてプロチームはそれを閲覧して選手獲得に動く。アメリカは国土が広く、リクルーティングチームは選手を直接見に行くことに限界がある。そんな背景から、今まで埋もれていた優秀な選手の発掘するツールとしても利用されている。

注目の理由:

テクノロジーがスポーツ業界全般に導入された良い例の1つとして以前から注目を浴びており、これまで30のスポーツ、キッズからプロまで15万以上のチームに導入されている。最初はアメリカンフットボールから始まったこのサービスだが、2017年末にはバレーボール用のコーチング・分析プラットフォームを提供するスタートアップ、VolleyMetricsを買収。 今後ますますあらゆるスポーツを支えるテクノロジーとして活用されていくと期待。スポーツの世界でもこのようなテクノロジーが活用されていると理解しておくと面白い。何かしらのスポーツをやっているのであれば使ってみると良いだろう。スポーツにおける体験もきっと変わるはずだ。