ブランドを構成する要素として挙げられるのは機能性、デザイン性、ストーリー性と言われているが、近年その中でもストーリー性が力を持ち始めている。
機能性やデザイン性に関して良い商品はすでに世の中に溢れていたり、すぐに他社に真似されたりする中で、ストーリー性はそのブランド固有のものである分、カスタマ―が感じる価値も無二のものとして捉えられるからだ。それは情緒価値、すなわち情緒的な付加価値とも言えるものだ。
そこで今回は、2018年にご紹介したブランドのなかで、ストーリーを共有し情緒価値をうまく伝えた事例をおさらいしよう。
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社会問題に取り組むブランド
ブランディングにおけるストーリー性の中でも2018年に特に注目されたのがサステイナビリティだ。サステイナビリティとは持続可能性のことで、労働のサステイナビリティと環境のサステイナビリティに分けられる。
もともと労働におけるサステイナビリティに関する議論は、2013年4月にバングラデシュの首都ダッカ近郊で1,100人以上の衣料労働者が亡くなった「ラナ・プラザ」ビルの崩壊だ。この事件は衣料労働者の劣悪な労働環境が広く認知されるきっかけになった。
今まで見えなかった情報に対する透明性が高まってきている現代において、カスタマーは社会問題に対して当事者意識を持ち始めている。そういった問題意識が高い消費者にとって、社会問題を解決しているというストーリー性はデザイン性や機能性よりも重要度が高く評価されると考えられる。
Everlaneのサステイナビリティへの取り組み
サンフランシスコとニューヨークに店舗を構えるアパレルブランドEverlaneは、「Radical Trasnparency : 徹底的な透明性」という信念のもと、製造工場における労働環境や、衣服の原価だけではなく値段の内訳をすべて公開している。

製造工場で働く従業員の様子(画像はEverlaneのホームページより)
Everlaneは労働のサステイナビリティを重視し、自社のECサイト上に世界各地の工場の様子を公開している。カスタマーは工場内の様子や、製品が誰によってどのような過程を経て製造されているのかを確認することが出来るのだ。
また、商品の原価や内訳もウェブサイト上で開示している。内訳には人件費も含まれており、商品ごとに1着にあたりいくらの人件費が支払われるのかも明確にしている。
Everlaneは今やアメリカの人気ブランドとなっている。サステイナビリティというストーリー性で成功したブランドの1つとと言えるだろう。
なお、ブランドのサステイナビリティについてもっと知りたい方は『アパレル業界の未来を予測!知っておくべき6つの現象【後編】』と『いまブランドが捉えるべきは“ユーザーの意識変化” – サステイナビリティーが重要視される理由とは』をご参照いただきたい。
ブランドそのものをオフラインで体験
2018年にはブランドの世界観をユーザーに体験してもらうことで情緒価値の提供に成功しているブランドも多く見られた。ここではポップアップストアと開封体験についておさらいしよう。
Glossierのポップアップストア
ニューヨークに本社を置くコスメブランドGlossierは、若い女性に爆発的な人気を誇るコスメブランドだ。実店舗がニューヨークにしか存在せずオンラインでの販売が主流なことから、各地で期間限定のポップアップストアを設置し、独自の世界観を再現することに成功した。
Glossierはニューヨークにしか店舗を構えていないため、その世界観やこだわりは普段はオンラインショップやSNSでしか見られない。そこでこのようなオンライン上の世界観をそのままオフラインで再現したものが、期間限定のポップアップストアである。

Glossierプップストアの店内(画像はGlossierのFacebookより)
2018年の3月に1ヶ月間の期間限定でサンフランシスコのカフェ「Rhea Cafe」とコラボレートしオープンしたポップアップカフェでは、Glossierの世界観を体験させる工夫が随所に散りばめられていた。
例えば、お店全体がミレニアルピンクと呼ばれるGlossierのテーマカラーで染められ、外壁一面にはGlossierのコスメのテクスチャを背景に「HAVE A NICE DAY」と書かれている。
スタッフはユニフォームとしてピンクのつなぎを着用しており、いたるところに置いてある鏡には「YOU LOOK GOOD」の文字が書かれており、店内のどこをとってもインスタ映えするものばかりである。
ポップアップストアでは、ブランドやプロダクトのコンセプトが凝縮されたオフラインの場において、消費者の思い出に残るパーソナルな体験を提供することができる。Glossierはオフライン環境だからこそ実現可能な体験を提供し、カスタマ―にブランドの世界観を体験してもらうことを可能にした。
一方、成功とは言い切れない部分があったようである。btraxのスタッフが実際に足を運んで体験した内容は、是非『経験価値マーケティングとは【入門編】消費者の心に響くブランド体験を』をお読みいただきたい。
All birdsが提供する開封体験
サンフランシスコに本社を構え世界的に人気を誇るシューズブランドAllbirdsは環境のサステイナビリティに配慮した商品づくりにこだわっている。
具体的には、靴の素材には合成材料を使わずに比較的環境に優しいウールを使ったり、靴紐にはペットボトルから抽出するポリエステルを使用したりするなどが挙げられる。彼らのこだわりはウェブサイトやソーシャルメディアでも知ることができるが、より伝えるために、彼らは商品を配送する際のボックスを活用している。

箱を開封した様子(画像はAllbirdsのFacebookより)
例えば、Allbirdsの配送用の箱はリサイクルのダンボールを再利用しており、シューズボックスがそのまま配送できるようなデザインで、二重の梱包による資源の無駄を防いでいる。
箱にはブランドのサステイナビリティへの取り組みやブランドのバリュー、パッケージへのこだわりについての説明がプリントされており、その説明によるとプリントにはすべて大豆ベースのインクが使われているというこだわりまで知ることができる。
Dotcom Distributionが2016年に実施したEコマースのパッケージングに関する調査によると、しっかりとブランディングされたプレゼントようなプレミアム感のあるパッケージは、ブランドに対するロイヤリティーを上げ、さらにクチコミを促進するという。
開封体験を通じてブランドの取り組みを示すことで、カスタマーは好感度を持ち、また同じブランドで商品を買いたいと思わせるということだ。Allbirdsの例はまさにこれを体現した事例だと言えるだろう。
他にも開封体験をブランディングに活用した事例については『D2Cブランドに学ぶ!カスタマーと繋がる開封体験デザイン』にてご紹介している。
音声でブランドを伝える
日本では2017年の終わり頃にGoogle HomeやAmazon Echoが発売されたこともあり、今年は音声に注目された方も多かったのではないだろうか。
そんな中でfreshtraxが注目したのはPodcast(ポッドキャスト)の活用だ。実際にPodcast広告市場は対前年85%の伸びを見せ、アメリカで急成長中の分野である。実際に音声でうまくストーリーを伝える企業も多く登場している。
Stitch Fixのポッドキャスト広告活用
Stitch Fixは2011年に設立された、サンフランシスコを拠点にするサブスクリプション型パーソナルスタイリングサービスだ。ユーザーの体型や好み、予算を捉えた上で、AIを用いてスタイリングをし、ユーザーに合った服が5着が届く。気に入らなかった商品は返品することもでき、毎回のフィードバックによってより好みに合う商品が届く。
Stitch Fixが活用したのは、とは女性起業家Sophia Amorusoがパーソナリティを務めるGirlBoss Radioというメディアだ。毎週各業界で活躍する女性をゲストに招き、キャリアやライフスタイルについてSofiaがインタビューを行い対談形式で番組が進む。
番組のメインユーザーはキャリア志向で、自分のビジネスを持っている人、または起業をしたいと思っている女性が多い。女性起業家によって始まったStitch Fixがそのブランドストーリーを伝えるのにこの場を選んだ理由がわかるだろう。
スポンサー企業の紹介は、毎回Sophia本人の言葉でサービス概要のみならず実際に使った感想まで伝えられる。そのためまったく広告のように感じず、リスナーは「彼女がおすすめするなら試してみたい」という気持ちになるのだ。
このように、リスナーが共感し憧れるパーソナリティの個人体験を挟むことで、ブランドのストーリーはより効果的に伝わっていく。ポッドキャスト広告についてもっと知りたい方は『ポッドキャスト広告がブランドの認知度UPに役立つ3つの理由』をお読みいただきたい。
まとめ
2019年以降もストーリー性はブランドにとって重要なパートを占めるだろう。機能や価値だけではすぐに他社が追い付いてくる時代に、固有のストーリーを築き、それをユーザーに体験として提供することが本当にブランドがユーザーとの関係を構築することになるだろう。
その際にやはり重要になるのは、ユーザーを起点とした体験をデザインすることだ。btraxでは2019年もユーザーに重点を置いたサービス開発・マーケティングに力を入れていく予定だ。

↑Nikeの代表的な製品となったAIR MAXシリーズの第1モデル。
↑『Rana Praza』崩壊は死者1,000人を超えるファッション業界最悪の事故となった
環境のサステイナビリティーの欠如については、ファッション業界は全産業の中で3番目に環境に悪い産業であるとされているのはご存知だろうか。例えば、衣服の製造には大量の水を消費する必要がある。1つのジーンズを作るだけでも、通常の製法で作るとその量は3,800リットル以上(シャワー53回分)もの水が使われるという。またThe World Bankは世界の20%の海洋汚染が衣服の染料によって引き起こされていると発表している。
↑米ロサンゼルス発のブランドReformationはECサイト上には、環境問題への喚起を促すページがある。同ブランドのキャッチコピーは”Being naked is the #1 most sustainable option. We’re #2. : 一番環境に優しいのは何も着ないこと。私たちは2番目ね ”だ。
↑Everlaneは自社のEC上に世界各地の工場の様子を公開。誰がどのように製造されているのかを確認することが出来る。
環境のサステイナビリティーに挑戦しているのはドイツのスポーツブランドのアディダスである。海洋環境保護団体「Parley for the Oceans」協力のもと、海に廃棄されたプラスチックゴミを利用して作ったランニングシューズの販売を開始した。更に“Z.N.E ZERO DYE”と呼ばれる、染色をしない素材本来の風合いを生かした新商品を開発。染色をしないことで、出来るだけ水資源を節約することが狙いだという。これらの例に代表されるように、アディダスは自然環境に配慮した製品づくりを推進し、”サステイナビリティーカンパニー”としてのブランドを作りあげつつある。
↑左:Z.N.E ZERO DYE”を使用しているパーカー
右:海に廃棄されたプラスチックゴミを利用して作られたランニングシューズ
21世紀や22世紀において、これらのようなサステイナビリティーに対して強い問題意識を持った消費者の割合は今と比べられない程高くなるだろう。また機能性やデザイン性にも限界が来る。彼らにとって重要なのは、機能性やデザイン性ではなく、社会問題を解決しているというストーリー性だ。
↑イタリアに建設されているGucci Art Lab の様子
↑GAFA (Google, Amazon, Facebook, Apple) は膨大なユーザーデータを武器に従来の産業分類の枠を超えたビジネスを展開し始めている。
プラットフォームに販売を委託するということは、そんな重要な顧客データの取得のいくらかを諦めることになる。裏返せば、Amazon等プラットフォームにとっての大きな武器とはそのデータである。この状況はファッションブランドにとっては、決して歓迎されることではない。
↑長らく売上1位を維持してきたMacy'sが遂にその座をAmazonに奪われる。ECサイトが百貨店よりも服を売る時代を誰が想像出来ただろうか。
↑Single Day Sale に合わせて開催されたイベントの様子
このようなプラットフォーマー達の圧倒的なサプライチェーンと顧客へのリーチは、単独のブランドだけで築き上げるのは難しい。今後消費者達は何か欲しいものがあるととりあえずAmazonやAlibabaを開くことが増えるだろう。そのようなプラットフォームで自社の商品を扱ってもらうことは、多くのブランドにとって魅力的であることは間違いない。
長らく議論になってきたファッションブランドとプラットフォームと関係性であるが、確かにブランディングや顧客データの面でデメリットはある。しかし圧倒的な規模と成長速度、またブランディングプラットフォームとしての役割を担いつつあることを考えると、協業しない手はないだろう。プラットフォーム上に取り上げられないデメリットが協業するデメリットをはるかに凌ぐ時代はすぐそこまで迫ってきている。 
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画像転載元:2018 Edelman Trust Barometer Global Report
こうしたネット全般への信頼性・信憑性への懸念は企業側にもあるようで、P&Gやユニリーバといったこれまで広告の大口クライアントであったグローバル企業は昨年デジタル広告費の削減を発表していた。
こうした問題の原因の一つは、誰もが簡単に情報の発信者になれるようになった(参入コストが下がった)ことで、広告の信憑性だけでなく広告が表示される場所などを含めた統括的な質の担保が難しくなっているからだと考えらえる。
広告収入が9割のGoogleでは、ネット上のユーザー体験を損なわないよう同社が提供するブラウザのGoogleクロームでは勝手にポップアップが表示されるなど著しくユーザー体験を損ねる広告に関してはスクリーニングする取り組みを行い、広告主の自主的な規制を促している。
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主要投資家: Synchrony Financial, Intel Capital, Progress, Ventures
調達額: $14.35M
主要投資家: Lowercase Capital, Y Combinator, Union Square Ventures
調達額: $5.42M
主要投資家: Santander InnoVentures, Union Square Ventures, ITOCHU Corporation
調達額: $29.15M
主要投資家: Sequoia Capital, Peter Thiel’s Founders Fund, Slow Ventures, RRE Ventures, Kapor Capital
調達額: $13M
主要投資家: General Motors, Greylock Partners, Softbank, Toyota AI Ventures
調達額: $173.85M
主要投資家: Ne-Yo, Jerry Yang, Jerry Murdock, Reach Capital, Daphni
調達額: $4.3M
主要投資家: Founders Fund, New Enterprise Association, Susa Ventures, Institutional Venture Partners
調達額: $65.97M
主要投資家: Jerry Chen, GGV Capitals, Greylock Partners
調達額: $63M
主要投資家: Invest AG, 500 Startups, Bloomberg Beta
調達額: $25M
主要投資家: Accel Partners, Jeff Raikes, Nelnet
調達額: $108.9M