近年急速なNFTやDeFi領域の成長によりWeb3が注目されています。Web3は、ブロックチェーンを使用し、分散化されたデジタル資産の管理運用を目指しています。
Web3の台頭以前、Web2は、GAFAMなどの大手IT系企業がインターネット上のデータを独占する、いわば中央集権型でした。それゆえ、サイバー攻撃などのセキュリティリスクとプライバシーの侵害が大きな懸念でした。
それに対してWeb3は、(公に公開されるデータとは別に)データが個人に属し、個人に最終決定権があることが大きな強みです。
Web3はブロックチェーンを使用しているため暗号資産とも深く関係しています。そして暗号資産の中でも、送金処理がビットコインやイーサリアムなどの他の暗号資産と比較して非常に高速”XRP”が注目されています。
XRP Legderとは

公式サイトより
XRP Ledger(以下、XRPL)はオープンソースの分散型台帳です。資産の高速かつ安全な取引を実現するために設計されています。
XRPLはXRP以外の通貨、米ドル・ユーロ・石油・金・リワードポイントなどの任意の資産をトークン化できるように構築されており、どんな通貨でもXRPL上で発行することができます。
XRPLの特徴は、世界中の様々な金融機関や決済サービスプロバイダーによって、国境を越えた決済や送金のために利用されていることです。
XRPLの大きな特徴は以下の2点です。
1: 消費エネルギーが少ない
ビットコインが採用しているPOW[1]のように、エネルギーを消費しにくいコンセンサス・メカニズム[2]でトランザクションを承認する形式をとっている点
[1]POW:Proof of Workの略語。ネットワーク上のコンピューターが、膨大な計算力を使って、特定の問題を解決する。POWには高い計算能力が必要になり、エネルギー消費が大きいことが課題とされている。
[2]コンセンサス・メカニズム:一定の信頼性のあるノード(ブロックチェーンのデータを管理するコンピュータ)がネットワーク上のトランザクションを承認するために協力すること。トランザクションはネット上の多数決の結果に基づいて承認される。
2: 環境に優しくサステナブル
カーボン・オフセットを活用したカーボンニュートラルなブロックチェーンで、サステナブルである点
XRPLの詳細は以下のリンク先ページをご覧ください。
https://xrpl.org/ja/
XRPLの活用サービス支援プログラム “XRPL Grants”とは
XRPL Grantsは、XRPL上で動く新しいソフトウェアプロジェクトの開発を資金面も含めて支援することで、XRPL開発者コミュニティの育成を目指すプログラムです。2021年5月に設立されました。
XRPL Grantsでは、XRPL上に構築されXRPLコミュニティに利益をもたらす様々なタイプのプロジェクトのエントリーができます。
エントリー可能なプロジェクトの種類は、インフラ・セキュリティ・NFT・サイドチェーン・ソーシャルインパクト・持続可能性・ユーザビリティ・開発者ツールなど幅広いです。
XRPL Grantsにエントリーするには
アイディアだけのプロジェクトではエントリーできず、短期間のハッカソンで作成するような最低限のレベルで動くプロトタイプ(コード)を提出する必要があります。
そして、応募にはプロジェクトのGithubリポジトリ(作成したファイルやディレクトリ等の開発状態を保存・記録しておく場所のこと)も必要です。
そのため、チームメンバーのエンジニアには、XRPLへの理解及びコーディングレベルが中級から上級レベルの知識を保有している方が望ましいといえます。
受賞で得られるメリット
審査によりXRPLコミュニティに貢献が期待されるとみなされたオープンソースプロジェクトには、応募時の申請額に応じて$10,000から$200,000の資金が提供されます。
今回は北米発、資金提供額が高いGrant獲得プロジェクトを7つまとめてご紹介します。
XRPL Grants受賞サービス紹介
1: Carbonland Trust
提供資金: $200,000
国: アメリカ
プロジェクトタイプ: DAO, NFT, Sustainability

公式サイトより
地球の自然を守り、カーボンニュートラルを目指す
Carbonland Trustは、ESG[3]デジタル資産(資産として価値のあるESGのデジタルデータ。具体的には、炭素会計の取引データを指す)とWeb3 ReFi[4]プラットフォームです。
2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指す、ネットゼロを宣言した企業が、オフセット(企業の経済活動におけるCO2の排出削減への取り組みを、違った形で埋め合わせしようという考え方)のために購入するクレジットを提供します。
Carbonland Trustの炭素クレジット[5]はトークン化され、デジタル台帳技術によって取引が記録されるため、本サービス利用者は炭素会計の取り組みを簡単に開示できます。ブロックチェーン技術の透明性や信頼性を活かし、地球温暖化防止のための新しい支援モデルを提供しています。
なお、Carbonland TrustをはじめとしたさまざまなCarbon credit NFTは、基本的に「ボランタリーカーボンクレジット市場」(国連・政府ではなく、企業やNGOなどの民間が主導するカーボン・クレジットのこと)を対象としています。
[3]ESG: Environment: 環境、Social: 社会、Governance:統治の頭文字を取った言葉。
企業の持続的成長において重要な要素、投資家が投資先を選定する際に重視すべき要素のこと。
[4]ReFi : Regenerative Financeの略語。
ブロックチェーンの仕組みを利用し、世界の環境問題や社会問題の解決を目指すアプローチのこと。
[5]炭素クレジット:排出権として取引可能な証明書。温室効果ガス排出量を削減するプロジェクトによって発行される。
2: Ledger City
提供資金: $200,000
国: アメリカ
プロジェクトタイプ: Gaming, DAO, NFT Sustainability

公式サイトより
XRPL3D空間内で可視化。まちづくりを通してXRPLをより身近に
Ledger Cityは、XRPLを3D空間で可視化したゲームです。XRPLを3D都市の建物として表現し、ゲーム内の仮想空間では、暗号通貨の保有残高に応じた大きさの建物を所有できます。
NFTを開発元のDev Null Productionsから購入することで、仮想空間内の建物に銅像、ガーゴイル、旗竿、ビルボード、噴水、電波塔などを配置して、建物の外観を自由にカスタマイズできます。
このゲームのユーザーは、イノベーター理論の5つのタイプでいうところの、クリプトに対して初期から非常に興味を持っているイノベーター層だと推測できます。
XRPLが建物の大きさという指標で表現されることで、プレイヤーは遊び感覚で自分が建物や街を作っている手触り感が味わえるだけでなく、ビジュアルで可視化しづらいデータが街の大きさという分かりやすい指標で示されることにこのゲームの魅力があると筆者は考えています。
3: Chimoney
提供資金: $150,000
国: カナダ
プロジェクトタイプ: E-Commerce/Finance, Infrastructure/Security

公式サイトより
XRP支払いで、現実世界で使えるギフトカード、通話、モバイルマネー等が購入可能
Chimoneyは、ユーザーが保有するXRP及びXRPL発行トークンでギフトカード、通話、モバイルマネーを購入できるアプリケーションです。
APIも提供しており、サードパーティのアプリケーション、ウェブサイト、ウォレットは、ユーザーが既に使用しているサービスに対してトークンを即座に使用できるようになります。
Chimoneyを利用することで、XRPとXRPLトークンの需要の増加、XRPが利用できることによるグローバルな商取引、現実世界での実際の商品の取引が増えることが期待されます。
4: Anifie
提供資金: $100,000
国: アメリカ
プロジェクトタイプ: NFT
アメリカ在住の日本人起業家による、NFTメタバース
Anifieは、日本人の岩崎洋平氏が代表を務めるアメリカ発のNFTメタバース(NFTを活用して構築された仮想空間)を手掛けるスタートアップです。
企業が独自の世界観をメタバース空間で十分に表現できるようにホワイトレーベル型(ブランド名やロゴなどを使用して、他社が提供する商品やサービスを販売できるようにすること)でNFTやメタバースを用いた新しいマネタイズの機会を提供しています。
仮想空間上に自分達のコミュニティをつくりたいという企業やクリエイターに開発リソースを提供しており、主催者はイベント会場を仮想空間に作ることができます。
そして、イベント参加者は自身のアバターで主催されたイベントなどに参加して楽しめます。
コミュニティを盛り上げるためのオプションとして、参加者のアバター用のウエアラブルなどが用意されています。これらのアクセサリーもNFTで取引が可能です。
5: Neefty
提供資金: $100,000
国: アメリカ
プロジェクトタイプ: NFT

公式サイトより
NFTランキングサービス
Neeftyは、XRPLのみならず、その他のブロックチェーンであるSongbirdやFlare networksも対象としているNFTのランキングサービスです。NFTの希少性、統計、市場認知度を分析するための検索ツールをユーザーに提供します。
ランキングは、Trait normalizationとStatisticalの2種類のRarity Scoreを採用しています。Rarity Scoreは、NFTコミュニティで人気のあるランキングアルゴリズムです。NFTの価値を決定する際に使用される指標で、レア度を算出してNFTのRarity Scoreを決定します。
Trait normalizationは、一言で言うと、それぞれの特徴をより理解するために、同じ環境で比較することです。各トレイト(NFTの属性や特性のことを指します)の珍しさを比較するプロセスです。これにより、トレイトの相対的な重要性を評価し、最終的なRarity Scoreの算出に反映されます。
Statistical rarityは、各トレイトの属性の相対的な珍しさを評価するために使用される方法です。この方法では、各属性の珍しさをデータベースから収集し、統計的解析を行って、それらの属性の相対的な希少性を算出します。
6: Feeturre
提供資金: $100,000
国: アメリカ
プロジェクトタイプ:NFT, Social Impact
音楽とエンターテイメントのマーケットプレイスプラットフォーム
Feeturreは、XRPLを通じた音楽とエンターテイメントのマーケットプレイスです。
アーティスト、プロデューサー、インフルエンサーが、ユーザーに音楽や自身の出版物を購入してもらったり、アーティスト同士がこのサービス上でコラボレーションして新たな音楽を生み出せたりできます。
アーティスト、プロデューサー、インフルエンサーとのコラボレーションは、音楽業界のコネクションを持つ人でない限り機会が限られる実情があります。また、クリエイティブの才能に見合った報酬を得るための機会も限られています。
Feeturreは、アーティスト同士がプラットフォームを通じて直接繋がり、コラボレーションや商取引を行う機会を提供しているだけでなく、XRPベースの取引で安全で確実な取引ができることが特徴です。
2019年の会社設立以来、Feeturreはカニエ・ウェスト氏の共同マネージャーであるジョン・モノポリー氏などの著名なアーティストを惹きつけています。
カニエ・ウェスト氏がFeeturreに注目している理由は、プラットフォーム上のNFT作品のクオリティの高さです。中には限定版などの希少なものも含まれており、クリエイターたちにとって非常に魅力的なプラットフォームとなっています。
7: XRPhone
提供資金: $100,000
国: アメリカ
プロジェクトタイプ: E-commerce/Finance
XRPLのための請求書会計プラットフォーム
XRPhoneは、一言で言うと、決済方法/手段の1つとしてXRPを使えるようにするための決済サービスです。小売店が、顧客からの支払いをスマートフォンからXRPで支払うことを可能にします。
XRPhoneは自動化されたコンシェルジュサービスのようなもので、電話越しに自動的に支払いリクエストを発信者(顧客)のXumm[6]ウォレットに送信します。発信者(顧客)はXummでそのリクエストをスワイプし、店舗側は顧客からの支払いのXRPを受け取ります。
[6]Xumm:XRPL Labs社で開発された XRPL上で動作するウォレット。スマートフォンアプリとしてiOS/Androidで利用可能。XRPを安全に保管できる設計。
まとめ
今回はXRPL Grantsを獲得したWeb3サービスをご紹介しました。
XRPLは、カーボンニュートラルへの取り組み、ゲーム、NFTメタバース、現実世界への支払いなどさまざまな分野に活用され始めています。
XRPL Grantsは定期的に開催されており、本記事を読んで実際にXRPL Grantにエントリーしてみたいとモチベーションが高まった方は、次のXRPL Grantsへエントリーしてぜひチャレンジしてみてください。この記事がきっかけとなりGrantsへ採択されたサービスが出てきたら筆者も光栄です。
また、今回ご紹介したXRPLは、Ripple社が開発に長年寄与しているブロックチェーンです。Ripple社はXRPLを活用し、次世代の国際送金の仕組みを金融機関に提供しています。
なお、XRPLはRipple社が”管理している”中央集権型台帳であると誤解されることもまれにありますが、XRPLはビットコインやイーサリアムと同様に、中央の管理者が存在しないパブリックブロックチェーンに該当することをここで改めて強調しておきたいと思います。
btraxでは、日本企業に対するグローバル市場向けWeb3事業の活性化を目的に「Web3 Design Lab」を2022年に設立しました。
そんなWeb3 Design Labでは、この記事でもご紹介したRipple社と戦略パートナーとして提携しており、シリコンバレーで、XR、メタバース、NFTsなどの領域を活用したビジネス変革を推進するデザインサービスを提供しています。
Web3 Design Labサービスについて詳しくはこちら:
https://blog.btrax.com/jp/web3-design-lab