D2Cブランドに学ぶウェブサイトに必要な3つのUX要素とは

サンフランシスコのUXデザイナーが語る UXの基本とこれからのトレンド【btrax Voice #9 Mimi Yu】

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btrax社員の生の声をお届けする「btrax voice」シリーズ。 今回のインタビューは、btraxのサンフランシスコオフィスで活躍するUXデザイナーのMimi Yuさんです。今回は彼女がデザイナーになるまでの道のりや、彼女の考える最新のデザイントレンド、また彼女が今後どのようにデザインの世界で成長し続けていきたいかについて語ってもらいました。 関連記事:2018年にUXデザインを取り巻く7つの変化

Who is Mimi?

mimi Mimi Yu 役職:UX Designer 所属:btrax カリフォルニア大学デービス校卒業。専攻は社会学、副専攻は哲学。卒業後はマーケティングや営業の仕事に従事するもUXデザインには常に興味を持ち続け、その後本格的にUXデザイナーへとキャリアチェンジをするためにサンフランシスコのGeneral AssemblyにてUXデザインを学ぶ。 コース終了後、btraxにてUXデザイナーとしてのキャリアをスタート。コリアン・アメリカンとしてのバックグラウンドから異文化間の橋渡しをすることを目指している。    

まず、UXデザインに興味を持ったきっかけを教えてください

無意識のうちにUXデザインにはずっと興味を持っていたように思うのですが、振り返ってみると、2つのきっかけがありました。 1つは、私がスタートアップの営業として働いてた時のことです。私がその会社で働き始めたときは、ターゲットカスタマーが複数設定されていて、どのカスタマーも同じくらい重要視されていました。 しかしリサーチを行った結果、私たちはターゲットを自社商品のソフトウェアを導入できるだけの資金力がある層に絞ることを決断したのです。それからはプロダクトデザインも含めた全てにおいて、「このターゲットカスタマーが何を求めているか」を中心に考えるようになりました。この経験は本当に面白いものでした。 プロダクトの変更が決まったとき、プロダクトデザイナーはそれについて私たち営業チームに説明してくれたのですが、プロダクトや会社の方向性に影響するインサイトやデータ、営業としての知識がそこに反映されていくプロセスを目の当たりにするなかで、私は「そっち側に行きたい」と思うようになりました。それは言わばコックピットであり、私もその中心部にいたいという気持ちが強くなったのです。 もう1つのきっかけはプロダクトデザイナーをしている友達のMikeの影響です。彼はとても魅力的な人で、営業というポジションで働く中でキャリアの方向性の岐路に立っていた私は、彼と接するうちに営業よりもMikeのような人になりたいと思うようになったのです。 彼や彼の友達は常にもデザインのことを考えていて、バーにいる時でさえ、いつもデザインの話をしていました。そんなMikeの情熱や、彼らのコミュニティーはとても魅力的で、彼らの姿を見て私はデザインの世界に惹かれていったのです。 mimi-interview-min

「UXデザイナー」と言ってもその内容は会社によって異なるものだと思いますが、btraxではどういう仕事をしているのでしょうか?

ほとんどの会社でUXと言うと、それは1つのプロダクトのデザインプロセスにフォーカスする場合が多いです。しかしbtraxでは、UXに関するあらゆる業務に関わっています。 btraxは大企業ではなくデザインチームも小さいので、私はプロダクトデザインのあらゆる側面に対処できる必要があります。あるプロジェクトでは、リサーチや仮説検証のためのユーザーテストを行う一方で、ユーザーフローやインタラクションデザインについての検討も行います。 日本企業と仕事をする機会が多いこともbtraxならではです。私たちが当たり前だと思うことが、アメリカとは異なる文化にいる彼らにとって必ずしもそうだとは限りません。デザイナーとして、前提が常に疑われるような場所にいることはとても難しいけれど重要なことです。 そしてそれは物事に対する意識を、自分が思う「真実」の限界を超えて広げることに繋がります。これはbtraxにいるからこそ得られる貴重な経験です。 これまでサンフランシスコで働いてきた中でも、人種やジェンダーあるいはセクシャル・アイデンティティの多様性に欠けた企業をたくさん見てきました。しかしbtraxでは同僚やクライアントが持つ多様な価値観に触れることができるのです。

普段のデザインプロセスを教えてください

私はいつもこんな問いからスタートします。
  • ユーザーは誰か?
  • ユーザーが持っている課題は何か?
  • その課題がなぜユーザーにとって重要なのか?
  • ユーザーについて知っていることは何か?
  • 私たちの仮説は何か?
  • 私たちのソリューションはその問題解決において、どれだけユニークあるいは効果的なのか?
このプロセスを実践した事例としては、ある自動車会社のプロジェクトがあります。その会社はカスタマーに関する膨大なデモグラフィックデータを持っていたのに、カスタマーのニーズに関する実際のインサイトはほとんど得られていませんでした。 そこで私たちは上記の6つの問いから始め、フォーカス・グループ・インタビューを実施して、ユーザーのライフスタイルやモチベーション、ニーズに関する仮説検証を行いました。それは現在のカスタマーエクスペリエンスをどのように改善し強化すべきかを明確にすることにも繋がったのです。 これらの質問に答えることは、デザインプロセスにおいて最も難しい部分の1つです。しかし一度知識を身につけてしまえば、企業のビジネスゴールとユーザーのニーズが交わるポイントを簡単に見つけられるようになります。そしてその後どのようにソリューションを展開しユーザーを巻き込んでいくかについても考えられるようになるのです。 私は一度質問に対して答えを出した後も、全プロセスを通して同じ質問を問い続けるようにしています。時にはわざと反対の立場を取ってみることもあります。 よくあるのが、プロジェクトの始まりの段階で、みんなとにかく前に進みたがることです。私ももちろん進みたいのですが、ブレーキを踏んで「ユーザーの何が本当に知りたいのか?」「真実であって欲しいと私たちが望んでいるだけのものは何か?」と問う人も必要なのです。 btraxで部署を超えて色々な立場の人と働く良さはこの部分に出ると思っています。特にイノベーション・ブースターを行うチームのメンバーはいつもあらゆることに質問してくる人たちです。それこそが私がまさに自分のプロセスに取り入れたいと思っている部分です。 mimi

UXは日々変化していますが、Mimiさんはどのように最新のUXを学んでいるのでしょうか?

とにかく本を読んで、人と話すことです。特に影響を受けているのはデザインコミュニティですね。私が入っているのはデザインに関する投稿をしたり質問したりし合うFacebookのグループです。 今何が流行っているのかを知るのにはミートアップがいいですね。特に私が好きなのはDesigners + Geeksというミートアップでフォローしています。 あと、私には幸運にもデザインや人生についてコーチングを行ってくれるメンターがいます。あとは、ただサンフランシスコ・ベイエリアに住んで同じ業界の友達と過ごすだけでも刺激を受けます。この街で得られるアイデアや、イノベーション、情熱はもう本当に面白いです。ここが私がエネルギーを得られる中心なのです。

そんなMimiさんが注目する最近のUXのトレンドを教えてください

私が最近感じている最大のトレンドは、ユーザーエクスペリエンスが実生活に入ってきていることです。たとえば音声アシスタントやスマートウォッチなど、考えられて設計されたUXは今や生活のどこにでも存在しています。 これはトレンドというにはもはや当たり前で、普段これらのUXについて意識することすらなくなっています。このことが何を意味するかというと、ユーザーの行動やライフスタイル、ニーズを知ることが間違いなく今以上に重要になるだろうということです。 また、ゆくゆくはこれらのテクノロジーが私たちの生活と密接に融合していくだろうとも言えます。例えばGoogle HomeやAmazon Echoなどは寝室やリビングに置かれ、私たちのプライベートな会話にアクセスできてしまいます。 私たちはデザイナーである以上、いかにこちらが想定した方法で行動するようユーザーを促していくのかをしっかり考えなくてはいけません。それには、倫理面で問題がないようにする視点も忘れてはならないのです。 また私がbtraxで働く中で経験し感じているトレンドとしてはConversational UIが挙げられます。私はもともと文を書いていた経験があり、btraxでもよくインターフェースにマイクロコピーを書いていますが、それは自ずと画面上での対話やそれがどのようにユーザーエクスペリエンスに関係するかを考えることに繋がります。そうすると、会話(conversation)、つまりインターフェイスが質問を投げかけこちらがそれに答えるというやりとりとしてのフローを考えるようになるのです。 関連記事:今さら聞けないユーザーインターフェイス (UI) の基本

このトレンドはこれからどう進化すると見ていますか?

私自身を含めたミレニアル世代は自分たちについて多くの情報を発信しています。私たちは「自分ブランドの発信者」として優れていて、オンラインでもオフラインでも、常にどのように自分たちが映るかを考えて生活しているのです。そのために、あらゆるものが非常にパーソナライズされたものとなってきています。 たとえばiPhoneの登場がいい例です。iPhoneは好みのアプリをダウンロードして、個人のライフスタイルや好みに合わせたアプリのコレクションを作ることを可能にしたパーソナライズド・デバイスです。それはいわば、自分だけのデジタルな領域を作り上げるようなものです。 私たちはもはや日常のどの場面でもテクノロジーが常にあることを期待しているため、今後インターフェイスが音声のようなより形のない経験へと変わっていくことは間違いないでしょう。今後このような期待が高まるにつれて、テクノロジーは、AR/VRに代表されるような「没入型」が中心になっていくだろうと思います。 Conversational UIもまた、そのような期待の高まりを反映したものだと言えます。例えば物理的ボタンからタップできるフラットボタンへの変化は、テクノロジーがより人間に近づいていくことを示しています。 過去には、テクノロジーは切り離されたツールとしてみなされてきました。しかし今では、私たちはインターフェースが個人の要求を満たした個人仕様になっていることを求めています。それはまさに「会話」を使って私たちの言葉でコミュニケーションすることが期待されているアシスタントです。

これからbtraxのUXデザイナーとしてどのように成長していきたいのか、Mimiさんの展望を教えてください

改善したいと思ってることはたくさんあります。自分の専門スキルを磨くとともに他分野からも学んで幅広い知識を身につけていきたいし、それにプロトタイプのスキルも伸ばしたいし、ゆくゆくはインタラクションデザインももっとできるようにもなりたいです。 同時に、デザインの効果やインパクトを測れるようになるために、リサーチをより深く学びたいとも思っています。btraxのサービスチームは分析能力に長けています。私ももっとリサーチスキルをつけて、ユーザーの行動分析の経験をもっと積みたいと思っています。 あと、個人的に可能性を感じていてこれから勉強していきたいと思っているのはARです。UXプロセスを通じてARがどのように実現されてきたかについて今までたくさんの本を読んできましたが、非常に面白いと思っています。ARで解決できる課題にはどのようなものがあるのか興味がありますし、それらの課題の1つに取り組んでみたいと思っています。 また文化を超えたエクスペリエンス・デザインについてももっと知りたいです。これはbtraxで時間を過ごす中で学んでいけるものだとわかっているので、これからがとても楽しみですね。

すべての業界がチャットボットを活用すべき7つの理由とブランド事例

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どの業界のどの会社も、いつかIT企業にならなければいけない。そうでなければ、これからの時代は生き残っていけない
昨年サンフランシスコで開催されたドリームフォースで、アディダスのブースの方が言っていた印象的な言葉である。アディダスはデジタルチャンネルの強化を推し進める一環としてチャットボットを導入し、パーソナライズされたユーザー体験を作り出そうとしている。 日進月歩するAIによって、これまでになかったITと他分野とのコラボレーションも進んでいる。実際に、フィンテックのような「テック」と、スマート家電のような「スマート」がついた言葉がどんどん身の回りに広がってきている。 これにより、これまであまり「テック」や「スマート」と言った言葉と馴染みの薄かった消費財メーカーなどにも、テック化しスマートになっていくことが求められる。スマートなUXがユーザーにとってのディファクトになっていくからである。 一方で、AIがどんどん進化していく中で、逆にどうやってAIを活用していったらいいか、そもそもそんなに必要なものなのか疑問に思っている人も増えているのではないだろうか。 AIとなると、技術の部分が注目されがちだが、見落とされがちなのはUX的観点を持ったデザインをサービスに落とし込めるかということである。これがなければせっかくチャットボットを導入してもカスタマーエクスペリエンスの向上には繋がらない。 この記事では、比較的身近にあるAIの事例としてチャットボットを取り上げ、それを導入している消費財メーカーがどのようにしてカスタマーエクスペリエンスを向上させたかについてご紹介したい。

なぜチャットボットが必要なのか?

チャットボット(以下ボット)はオムニチャンネル化が加速する消費財マーケティングで、今後も需要の成長が見込まれているサービスである。そもそもなぜ近年ボットの需要が高まっているのだろうか。Digital Doughnutではボットが企業にもたらす利点として次の7つをあげている:

1. トレンドである

多くの企業がFacebook MessengerやKikといったメッセージングアプリや自社のアプリにボットを導入し始めている。ボットというチャンネルがユーザーの中でディファクト化すれば、ボットを持っていないことがマイナスになってしまう。

2. カスタマーサービスの向上

営業時間や場所を選ばないので、いつでもどこからでも利用でき、カテゴリーや管轄部署に関係なく、広範囲の質問に瞬時に回答できる。また、担当者の経験値に関係なく、均質なサービスが提供できる。

3. カスタマーエンゲージメントの向上

同サイトが紹介する調査では、ボット導入後、ソーシャルメディアにおけるカスタマーエンゲージメント率が導入前に比べて20%上昇したという。また、プッシュ通知などを通じて、カスタマーに企業側からリーチできるという点も大きい。消費者意思決定プロセスにおいて、消費者が「情報収集」の段階に入る前の段階で、問題提起をして購買意欲を刺激することができるからだ。

4. インサイト情報の取集・分析

ボット上でのやり取りから得たデータをもとにパーソナライズされた内容を表示・提案できるだけでなく、商品に合わせたマーケティング戦略を練り直すこともできる。

5. より良いリードの創出・絞り込み・育成

見込み客に対してパーソナライズされたメッセージとともに、自然な流れで必要な情報を尋ねることができるため、インサイトを得やすい。それにより、リードの創出やリードを次のステージに進めることが容易になる。

6. グローバル市場へのリーチ

ボットなら、24/7で利用できるだけでなく、基本的な質問なら多言語にも対応できる。ただし、商習慣や文化の違いによって、ローカリゼーションが必要になってくることを忘れてはならない。

7. グローバル市場へのリーチ

独自に複数のモバイルプラットフォームに対応したアプリを開発したり、専門の人材を採用するより安い。また、1つのシステムで1対多数のユーザーを同時に24/7で対応できる。

チャットボットで何が提供できるのか

では実際に、ボット活用方法にはどのようなパターンがあるのだろうか。ボットに最終的によってもたらされるのはカスタマーエクスペリエンスの向上だが、その内容は様々だ。企業が提供する一般ユーザー向けのボットサービスを見ていくと、大まかに次の5つに識別できそうだ:

1. 探す(検索)・提案

ユーザーへの質問や過去のデータをもとに、その人の嗜好に適したものを探して提案。商品だけでなく、天気予報の通知や関心のあるニュースなどもピックアップしてくれる。

2. コンシェルジュ / 予約・購入

予約やオンラインショッピング時の面倒な入力作業を必要とせず、簡単なやり取りでボットがレストランの予約やチケットの購入を代行。Google Duplexでは自分の代わりに電話もかけてくれる。他には、Siriに代表されるように、ユーザーの司令に応じてスケジュールを作ったり管理したりしてくれるものもある。

3. カスタマーサービス

簡単な質問やよくある質問に対して、即座に回答または目的のページに誘導。必要であれば、人間のエージェントに繋ぐこともできる。

4. アドバイザー / 講師

健康管理や金融といった専門的な知識を必要とする分野へのアドバイスを提供。学習用のサービスでは、ユーザーの理解を促す手助けをしてくれる。

5. 会話の相手

おもちゃや、Softbankのペッパーのような、コミュニケーションそのものを目的にしているもの。

チャットボットの実用例

上記のパターンはあくまで目安であって、機能をこれらだけに限定する必要はないし、1つに絞る必要もない。実際に企業はどのようにボットを使っているのだろうか。

カバーガール

covergirl_bot <画像引用元:Kik: Kalani Hilliker’s Bot> カバーガールは1950年代から続くコスメティックブランドで、長らくP&Gの傘下に収められていた。数年前に別の企業に売却されたのを機に、ミレニアル世代やそれに続くジェネレーションZを主なターゲットとした新興のライバルに対抗するべく、デジタル化に注力している。 その1つがインスタグラムで480万人のフォロワーがいるカラニ・ヒリカーという2000年生まれの芸能人(ダンサー・女優・モデル)の名を冠したボットだ。言葉遣いや絵文字を通して、彼女のパーソナリティーをボットに反映させることで、より若い世代が関心を抱きやすくなっている。彼女と会話を続けるとクーポンをゲットできるという「おもしろ要素」も組み込まれている。

H&M

h&m_bot <画像引用元:Kik: H&M> ファストファッション・ブランドのH&Mでは、ボットがユーザーとの初めのやりとりにおいて、スタイルの異なる洋服の写真を直感的に選択させることで、各自の好みに合ったスタイルを探っていく。ある程度スタイルが確定すると、ユーザーの好みに適したものを優先的に提案することで、小さなスマホの画面から何度もページを読み込むという面倒な作業が減る。

ジョニーウォーカー

johnnie_walker_bot <画像引用元:Facebook Messenger: Johnnie Walker> 約200年の歴史を誇るウイスキーブランドのジョニーウォーカーは、ブランドの歴史や商品の紹介、ウイスキー全般に関する知識を教えることでブランド・ロイヤリティを高めようとしている。また、サードパーティーと協力することで、ジョニー・ウォーカーを使ったカクテルのレシピや近所で商品が買える場所の紹介など、幅広いサービスを提供している。

アブソルート

lyft_absolut <画像引用元:Lyft Blog> 同じくリカーメーカーのアブソルート ウォッカは、ボットを通して、ユーザーがバーに行くのを促すキャンペーンを行った。無料でアブソルートウォッカが体験できるバーを告知し、実際に行ってくれた人には、シェアライドサービスのLyftのクーポンを配布して安全に帰ってもらうという一連の流れによって、バーを介したO2O(Online to Offline)体験を作り出した。このキャンペーンでは4.7倍の売上増加に成功した。

ドミノピザ

[embed]https://www.youtube.com/watch?v=aec24EU6MOk[/embed] ドミノピザは、Facebook MessengerだけでなくAmazon EchoやTwitterなど、あらゆるソーシャルメディアやメッセージングプラットフォームからピザの注文を可能にしている。 彼らのボットは、ピザのカスタマイズはもちろん、注文した品が今どの工程にあるのか(トッピングしているのか、焼いているのか、など)、配達までどのくらい時間がかかるのかまで分かるようになっている。これによってユーザーは、ちゃんとオーダーが通っているのか、時間通りに配達されるのか余計な心配をしなくても良い。

チャットボットを作るときに注意すること

最後に、チャットボットを導入するにあたって、考える必要があることは何だろうか。チャットボットの開発自体は、作成サービスなどを利用してコーディングなしに行うことも可能だ。 しかし、もっとも重要なのがそれより前の段階におけるUXデザインの設計である。対象は誰で、何の目的のために使ってもらうのか。どのようにその目的を達成するのがユーザーにとって最適なのかといったことからコンセプトを考えていく必要がある。 関連記事:チャットボット (Chatbot) とは? 【ChatBot入門編】 PwCのレポートでは、チャットボットのようなデジタルアシスタントへの認識を調査したところ、「スマートで友好的」に対して「ロボットっぽく(人間味がなく)て限定的」と感じる人がほぼ同率だった。 同じテクノロジーでもユーザーが受け取る印象がポジティブにもネガティブにもになりうるということである。ユーザーが「親切なサービス」と感じるか「どこか違和感があるな」と感じるかは、UXデザインが大切になる理由である。

まとめ

AIから電話がかかってくる時代が来ようとしている。どの業界であっても、テック化していくことがユーザーから当然のように考えられる中で、チャットボットは身近なAIとして、今後も広がっていくことが予想されている。 チャットボットは単なるメッセージングサービスではなく、カスタマーサービスの向上やインサイトの分析に活かせるなど利点も多い。例としてあげたように、あらゆる業界でチャットボットの利用が広がってきている。その使われ方は、用途に応じて様々だ。 しかし、ユーザー視点に立ったUXデザインがなされなければ、せっかくカスタマーエクスペリエンスの向上のために導入したチャットボットも、ユーザーにかえって悪い印象を与えかねないので、注意しなければならない。 参考:

Amazonを成功に導いたユーザーを夢中にさせる4つのUXデザイン要素

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世界を制覇し始めているGAFAの一角であるAmazonの凄さは下記の数字を見ただけでも伝わってくる。
  • 44% - アメリカのeコマース市場におけるAmazonのシェア
  • 1億人 - Amazon Primeのメンバー数
  • 3人に1人 - アメリカの成人でAmazon Primeに加入している割合
  • 95% - Primeメンバーシップを更新したいと思う率
この成功の要因は何であろうか?確かに安さはあるだろう。しかし、見落としがちなのが、デザイン的要因である。

実は私、デザインも凄いんです

Apple製品のデザイン性の高さを語るケースは多いが、Amazonに関してデザインのトピックが取り上げられる事は稀である。Amazonのサイトが”デザイン”的に優れているとは思いにくいし、CEOのJeff Bezosがデザインを語るケースもほとんどないだろう。 しかし、実はAmazonがこれほどまでに消費者を夢中にしているその裏には、優れた顧客体験がデザインされていた。それも目に見えない形で。

“見た目”以外へのデザインのこだわり

“デザイン”と言っても、必ずしも見た目の美しさだけではない。広い意味のデザイン = DESIGNは、機能性や実用性, そして様々な体験を最適に設計する。そう、まさにビジネス的結果に直結させるためのデザインなのである。ちなみにこの辺は、以前の「design, Design, DESIGNの違いを知っていますか?」にも紹介されている。 Amazonは、eコマースにおけるユーザー体験の改善を日々行っており、よりユーザーに喜ばれる、そしてビジネスとして結果が向上するためのUXデザインを施している。そして、その多くが、ユーザーにとっては無意識な部分であり、”こっそり”しかし”しっかり”とデザインされている。

ユーザーを喜ばせビジネス的価値を向上させるAmazonのデザイン戦略

では、Amazonがいかにして顧客の体験を設計しているのか。彼らのUXデザインのポイントをいくつか紹介する。

1. 意外とシンプル: 膨大な選択肢をあえて最初から提示しない

シンプルである事は、デザインのひとつのゴールとなる。「それ以上削ることのない状態= 最も洗練されたデザイン」という考え方。(参考:なぜデザインはシンプルな方が良いのか) そして、そのシンプルなデザインで世界中の人々を夢中にさせ続けているブランドがAppleだろう。 その一方で、Amazonのサイトをイメージしたい際に”シンプル”という言葉が出てくる事はほぼ無いだろう。おそらく、沢山のコンテンツが掲載され、ごちゃごちゃしているのではないかと考えがち。 では、本当にそうなのだろうか?下記の画像を見てみよう。 amazon-top1 これはAmazon.comのトップページであるが、メインナビゲーションに記載されている内容に注目して欲しい。ご存知の通り、膨大な量のプロダクトを販売しているが、メインのナビゲーションには商品カテゴリーの表示はしていない。 あえて"Departments"の中に"隠す"ことでユーザーにいきなりたくさんの選択肢を与えないようにしている。これは、ユーザー心理学における「ユーザーに沢山の選択肢を与え過ぎると何も選ばなくなる」を理解し、上手にユーザー体験を行なった好例であろう。そして、ナビゲーションにマウスオーバーした際には、背景のページをダークアウトさせることで、ユーザーの焦点を絞り、心理的な選択肢を限定している。 amazon-top2

2. 安心感: 常に安定した体験を提供する

マクドナルドがなぜ世界一のハンバーガーチェーンになったのか?もちろんハンバーガーの美味しさではない。その秘密は安定した顧客体験である。毎日同じ時間にオープンし、一貫したサービスを受けることができ、世界中どこに行ってもほぼ同じ品質のメニューが提供される。 単純なことであるが、顧客にとっては最も重要である”安心感”を提供している。どんなにクオリティーが高い商品だったとしても不安定なサービスやプロセスは顧客にストレスを与えてしまう。人間は得ることへの期待感よりも失うことに対しての不安感の方が大きいので、失うことのない安心感は、UXデザインにおいては大きなアドバンテージになる。 これを上手に活用しているのがAmazonである。同じ商品を買うにしても、他のショップよりも、Amazonの方が好まれる理由は、その購入プロセスおよび発送プロセスが安定しているから。新しいサイトで異なる購入方法を試すよりも、Amazonでおなじみのプロセスの方がストレスが少ない。 また、気にいならなければいつでも無料で返品できる安心感も, Amazon体験のクオリティーをアップさせる要因になっている。顧客に対して、”いつ”, “どこで”, “何が”, “どのように” 手に入るかがわかるのが、安心の顧客体験を生み出す需要なポイントになってくる。

3. 信頼性: Amazonのブランド力を最大限活用

手に取って触ることのできない商品をどのようにして買ってもらうのか?Eコマースサイトの永遠のテーマである。どれだけ頑張ったって所詮バーチャルの域を超える事はないし、色とかサイズを厳密に伝える事は非常に難易度が高い。そこで重要になってくるのがサイトが与える信頼性の高さ。 この点は、オープン当初からAmazonの特徴であった”レビュー機能”がユーザーからの信頼性を獲得することに一役買っている。また、送料無料で返品できるシステムも、信頼性に繋がっている。 そして、実はAmazonが売っている商品の約半分はAmazonからの直売であるが、残りの半分は他のストアが出店している。それに気づかない事が多いのは、外部ストアのページをAmazonがあえて”個性的にできない”ようにしているから。 この辺は楽天と大きく異なる考え方で、Amazonはどのストアからどの商品を購入する際にも”Amazonらしさ”を一貫して提供するようにしている。その理由は明白で、冒頭の数字が示す通り、すでにAmazonが膨大なユーザーからの信頼を得ているから。 もちろんAmazon Primeが提供する特典を活用できる外部ストアも多く、ユーザーにとっては直売でも外部からでも全く違和感のない購入体験を得る事で、”やっぱりAmazonで買おう”と思ってしまうのだ。

4. 透明性: 常に明瞭会計、クリアな配送期間

そもそも数あるEコマースサイトの中で、Amazonがここまで一人勝ちできた要因をご存知だろうか? Webが発達し始めた1990年代には多くのオンラインストアが出現し、Amazonもその一つでしかなかった。(参考: 小さく始める事の重要さ【Amazon, Facebook, YouTube等】大人気サービスの初期バージョンとは) その中で、Amazonで買い物をした場合は消費税がかからなかった。その当時はまだオンラインショッピングに関する法律が整っておらず、アメリカの場合、州外から発送される商品を購入する場合は、原則消費税を払う必要がなかったのだ。 そこに目をつけたAmazonはいち早くその仕組みを取り入れ、Amazonで購入=消費税がかからない、のイメージを構築した。その後、通称「Amazon税法」と呼ばれる法律が導入され、消費税が徴収されるようになった。 現在でもAmazonでの買い物をする際には、税金, 配送料, 手数料など、それぞれいくらになるかがはっきりと明示され、場合によっては曖昧になりがちな購入金額が明確にされている。 また、アメリカだと国が広いため、Eコマースで買い物をする場合はいつ届くかわからないといった不安がつきものであったが、この点もAmazon Primeをはじめ、商品の到着日が購入じにはっきりと明示されている。 このようなユーザーに対してできる限りの情報を明示し、透明性をあげることで、より優れたユーザー体験を演出している。 amazon-checkout

まとめ: Amazonだってデザインを最重要視している

世界レベルで成功している企業のそのほとんどがデザインを重要視しているのは間違いない。 AppleやGoogleといった”目に見えて”デザイン性の高い企業もあれば、今回のように”目に見えない"もしくはビジネスに対してデザインを上手に活用してるケースも多数ある。 Amazonに関しては、生粋のデザイナー的に見るとデザイン性が低いと思ってしまいがちであるが、結果につながるデザインという意味合いで考えると、世界最高レベルであろう。 特に今後はAlexaを始めとした非視覚的UIとそれをベースとしたユーザー体験の設計が重要になる時代であり、デザイナーに必要とされる新しいスキルもどんどん増えていくと考えられる。  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

アテンション・エコノミーの時代に求められるUXデザインとは

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まずは下記のインフォグラフィックをご覧ください。100年の間にトップの座に君臨する企業が大きく変わっているのがわかるかと思います。 1917年の頃は、鋼鉄や石油など「モノ」に価値がある企業がトップにその座を置いていました。それに比べて2017年はと言うと、トップにいる企業は殆どがFacebookやGoogleなど、モノではなく情報を提供しているIT企業です。 関連記事:サービスデザイン入門編【モノからサービスへ】 stat 過去100年間でトップに君臨したアメリカ企業のインフォグラフィック(画像転載元:howmuchより) この事実を踏まえると、過去100年間でモノから人のアテンション(関心)に力が働いているということでしょう。石油を例に挙げると、供給に対して資源が少ない場合(またはその資源の確保が困難な場合)石油の価値が高くなり、ガソリンや航空券の値段も高くなります。 しかし一方で情報を提供するIT企業の場合、情報が有り余る社会の中でその企業の価値を上げる資源とは何でしょうか?それは、私たちのアテンションです。 そして、昨今このアテンションを取り巻く社会「アテンション・エコノミー」がIT企業の中で台頭し初めているのです。今回はその概念やインパクト、そしてアテンション・エコノミーの時代に求められるUXデザインとは何か、事例を交えながらご説明します。

アテンション・エコノミーとは

アテンション・エコノミーとは一説によると、アメリカの経営学者ハーバート・サイモン氏によって提唱され始めたようです。 「情報が有り余る社会で不足する資源とは一体何なのか。それは人々のアテンションである。しかし、情報が豊かなものであればあるほどアテンションの度合いが低下するため、膨大な情報量の中からいかに人々のアテンションを集めるかが大切である」 それでは、人々のアテンションを集めるためにデザインされたテクノロジーはどんなものが挙げられるか見てみましょう。

事例1:Facebook

皆さんも馴染みがあるFacebookですが、普段メールの受信箱に下記のようなメッセージが届くことがあるかと思います。件名には『〇〇さんが写真にあなたをタグ付けしました』とあり、メールの本文にはその写真をすぐ見れるようにリンクボタンが設置されています。 fb このようなメールが届くと、自分がどんな写真にタグ付けされたのかが気になり、無意識についFacebookへのボタンを押してしまうかと思います。そしてFacebookページに飛んだ後に他の写真を見たり、タイムライン上でフィードを確認したりと、気がついたら多くの時間を費やしてしまっていた・・・なんて経験はないでしょうか? このように、Facebookは他の企業が欲しがる私たちのアテンションを掴む力があります。昨今、多くの企業の成功指数が「どれだけ多くのアクティブユーザーを長時間繋ぎとめるか」で計られてる中、Facebookはデザインを通じて私たちのアテンションを上手に引き寄せているのです。

事例2:LinkedIn

Facebookに限らず他のSNSでもアテンション・エコノミーは活用されています。ビジネス特化型SNSのLinkedIn(リンクトイン)を例に挙げましょう。LinkedInは就職や転職、仕事上のコミュニケーションなどを通じて人と仕事を繋げるプラットフォームを提供しています。そのため、友人達との写真を載せるFacebookとは異なり、通知内容はいたってシンプルです。 ユーザーがLinkedInに求める通知は、「〇〇企業から面接のリクエストが来ています」といったビジネスライクな内容でしょう。しかしそれだけではユーザーのアテンションを十分に集めることはできないので、「今日は知り合いの〇〇企業勤続2年目の記念日です!一緒にお祝いしましょう」というような、少し違和感のある通知もしばしばあります。 企業がいかに私たちのアテンションを集めることに注力しているのかが窺える内容かと思います。

事例3:Snapchat

もう一つユーザーを逃さないために画期的なデザインをしている事例として、Snapchat(スナップチャット)をご紹介します。Snapchatには‘Communication Streaks’と呼ばれる、友人同士が何日連続でスナップチャットを利用して会話したかを数値化する機能があります。 こうすることで、友人同士がまるで特別な関係を築いているかのような感覚になり、その関係を示す記録を途切れさせたくないがゆえに特に理由がなくてもメッセージを送る傾向にあるようです。 ここで考えなければいけないのは、友情を深めることが目的だとしたら、実際に友人に会うのではなくアプリ上だけでコミュニケーションを取るのが果たして本人の意思になるのか、それともSnapchatのデザインに自然とコントロールされているだけなのか。 今後私たちはテクノロジーに費やす時間をどれだけ自分たちでコントロールできるのかを考えるべきなのかもしれません。

テクノロジーへの依存がアテンション・エコノミーを加速

現代のミレニアル世代は一昔前と違って、実際に身体を動かすことよりもゲームやスマートフォンといったテクノロジーに依存しがちで、鬱傾向にあるとも言われています。 特にスマートフォンへの依存に関しては以前からメディアでも取り上げられており、その中でも最近よく聞くのはそのデザインがスロットマシンと同様の依存性効果を持つという内容です。 スロットマシンの依存性については「見返りのランダム化」がもたらす効果に着目した研究があります。この研究はスキナー箱とも呼ばれていて、箱の中にネズミと押すと餌がランダムに分配されるボタンを入れ、ネズミがボタンをどう押すのか確認します。ネズミがこのボタンを押すたびに出てくる餌の量が同じだった場合、ネズミは必要に応じてボタンを押します。 しかし、餌の量をランダム化(微量にしたり大量にしたり調節する)した場合、ネズミはもう食べる必要がないのにボタンを押し続ける行為に至った、という研究結果が出ています。つまり、スロットマシンのデザインはスキナー箱の条件付けと同じ効果を果たしているので、多くの人が依存傾向にあるのです。そしてスマートフォンも同様の条件付けのデザインがほどこされているのです。 特に結果のランダム化という面では、GmailやFacebook、その他アプリに導入されているPull-to-Refresh機能(引っ張って更新する機能)がまさにその役割を果たしています。メールやアプリを更新する度に脳がランダム化された見返りを求めて「次は何が表示されるのか」と感じ、同じ行動を続ける行為に走ります。 その結果、たとえ通知が来なくても自然とスマートフォンに手が伸びてしまい、新しいメールが来ていないかを確認したくなってしまうのです。 テクノロジーの普及と共に欲しい情報がいとも簡単に手に入るような時代になっています。しかし、その一方で企業はいかにユーザーの時間やアテンションを得るか、躍起になっているようにも思えます。上記に挙げた事例のようなデザインが多くなればなるほど、ユーザーはテクノロジーにコントロールされることになるので、私たち自身もアテンション・エコノミーについて深い知識を得るべきでしょう。

アテンションエコノミーの台頭によって見えてきた問題

それでは、アテンションエコノミーが広がっていくとどのような問題が起きるのでしょうか。
  • 日々の生活、仕事中における注意散漫
  • 思考時間を奪う、イノベーション創出やクリエイティビティへの妨げ
  • 依存や鬱に繋がる可能性
  • 孤立感
  • 個人の意思で何かを選択するHuman willの侵害

人々の意思を尊重したUXデザイン事例

テクノロジーは素晴らしいものですが、本来人々の生活をより良くするために生み出されたものなので、人々の生活をコントロールするようなことがあってはいけません。それでは人の意思を尊重したデザインとはどんなものがあるでしょうか。事例を2つご紹介します。

事例1:iOS

先日iPhoneを新しいiOSに更新したところ、運転中における新着通知の有無を問われ、これこそユーザーの意思を尊重したデザインだと感じました。なぜなら、私は普段運転中はiPhoneをGPSとして使っているため、今まで電話やテキストが来るたびに画面の1/4がその通知で覆われ、つい通知に促されるままに電話に出たりテキストを読んでしまっていたからです。 近年ドライバー・ディストラクションが大問題となっている中、新しいiOSのデザインは素晴らしいソリューションです。自動で運転していることを感知し、運転中は通知が来ない設定に。また、設定次第では「運転中なのであとで返信します」と自動で返信することも可能です。 apple 画像転載元:Appleより

事例2:Hipmunk

もう一つの事例にトラベルサイトのHipmunkを挙げたいと思います。Hipmunkでは他のフライト検索サイトとは異なり、「価格」と「時間」の上にもう一つ「Agony」フィルターを設けています。 本来Agonyとは肉体的・精神的に感じる激しい苦痛を指しますが、Hipmunkでは「価格、乗り換え数、飛行時間を組み合わせたもの」 であると定義しています。 hipmunk また、検索結果の画面では旅程が一目でわかるようなデザインにしています。確かに、ユーザーが探しているのは「価格か時間」なのではなく「価格と時間」なので、ユーザー観点なデザイン且つとても理にかなっています。 hipmunk2

まとめ

アテンション・エコノミーは新しい概念ではありません。しかし、ネガティブなニュアンスを持つ一方でテクノロジーと人間の関係性を見つめ直すきっかけとなり、昨今バズワードとして注目されています。 そして、欲しい情報がいとも簡単にインターネットで手に入る時代、多くの企業が人のアテンションを得ようと躍起になっています。一時的なユーザー獲得であればその方法でも良いかもしれませんが、やはり人の意思を尊重したUXデザインこそが良いサービスとして存続できるのではないでしょうか。 再度となりますが、今後はアテンションを得るためではなくユーザーが本当に求めていることを実現させるためのUXデザインを設計していく必要があるでしょう。 関連記事:誰にでも分かるUXの基本

ミレニアルにはブランドネームではなく体験を売れ!ー 炭酸飲料大手企業の挑戦

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大手企業の強みの一つにブランド力があげられるが、昨今、それだけでは勢いのある新興ブランドに顧客をどんどん取られていく傾向にある。例えば、老舗ショッピングモールなどはECサイトに取って代わり、自動車メーカーはUberやLyftなどライドシェアサービスの台頭により、車をシェアするという新しい潮流に直面している。 この流れには生活習慣や消費者が求めるものの変化、そして技術の進歩などが大きく関わっており、ブランドにとってその変化に沿った商品やサービスの開発が必要になってくるということだ。すでにブランドバリューのある企業であればその価値を大いに活用し、新しい商品やサービスを生み出して厳しい競争を勝ち抜いていくことも可能だろう。 では果たして大手ブランドは、そのブランドバリューと資金にものを言わせておけば顧客を掴み続けられるのだろうか。答えはNOだろう。 特にアメリカのミレニアル世代にとってはそのブランドが大手なのか否かよりも、そのブランドを使うことによってどんな体験ができるのか、自己形成ができるのかということの方が重視されているように思う。実際にEventbriteのリサーチによると、ミレニアル世代の78%がモノよりも体験を選び、さらに72%が今後もモノより体験にお金をかけたいと思っていることがわかっている。 さらにミレニアル世代が体験を重視することを根拠づける事象として、今回は飲料業界大手のコカコーラとペプシが挑む新たな挑戦と飲料スタートアップを事例に挙げ、ユーザー体験を重視したマーケティング手法をご紹介したい。 関連記事:若者が車を所有しなくなった6つの理由

コカ・コーラとペプシの異変

アメリカで人気のソフトドリンクと言ったらコカ・コーラやペプシコーラ(ペプシ)を想像するのではないだろうか。それもそのはず、コカ・コーラ社とペプシは世界のソフトドリンク市場でマーケットシェア70%(2015年時点)を誇るブランドとして確立し続けてきたまぎれもない大手企業なのである。 しかしながらその事実とはうって変わり、2018年冬に彼らが発売した新商品に込められたメッセージや背景を探ると、危機感を抱いているかのような変化が見られた。その危機感というのも他の新興ブランドに置いてかれないように模索しているようであった。 まずはコカ・コーラとペプシが発売した商品を見ていただきたい。

コカ・コーラ新商品:Diet Coke (新しい味の追加)

Diet Coke 4 new flavors (写真はダイエットコークポートフォリオサイトより転載) ターゲット:ミレニアル フレーバー:ジンジャーライム、チェリー、ブラッドオレンジ、マンゴー デザイン:細身・銀色の缶で従来のDiet Cokeにコンテンポラリーさを加えている。タイポグラフィーも今までのコカ・コーラのブラント感を残しつつ、どこかスタイリッシュでスッキリした部分がある。また、デザインカラーは新しい冒険や体験となる味を思わせるような、目を引く(Boldな)色使いを試みた。 開発秘話:2年の歳月をかけ、1万人ものユーザーによるテストから、味やデザインを決めていったという。また、コカ・コーラ自身がターゲットはミレニアルだと公言し、新しい冒険や体験を求める彼らに寄り添っていきたいと話していた。 常に新しいものを試すことが好きなミレニアルに向けて、従来のDiet Cokeとフルーツ味をミックスした全部で4つの味の提供と、その冒険を助長するアピアランスで発信している。(ちなみに筆者は先日Ginger Limeを飲んでみたところ、”サイゼリアのドリンクバーでコーラにライムを混ぜちゃった感”を覚えた)

ペプシ新商品:bubly

bubly pepsi sparkling water (写真はペプシ公式サイトより転載) ターゲット:ミレニアルを中心とした遊び心溢れる体験を求める人 フレーバー:ライム、グレープフルーツ、ストロベリー、レモン、オレンジ、アップル、マンゴー、チェリー デザイン:明るくてポップな配色。複数のデザインの笑顔マークが缶に描かれ、開け口や缶自体に遊び心のあるメッセージがあしらわれている。 開発秘話:ペプシは”2025年までに健康志向が高まる消費者のニーズに応えるため、グローバルで展開する商品の最低でも3分の2は100キロカロリーもしくはそれ以下にする”ということを企業目標に挙げている。bublyはこの目標へ大きな期待を背負い、誕生した。 また甘味料は含まないけど風味にバラエティーを持たせることで、健康需要を満たし、なおかつ遊び心を書き立てている。健康・楽しさ・親近感のあるスバークリングウォーターブランドという新しい分野にチャンスを見出したのである。

コカコーラ VS ペプシ

どちらの新商品も炭酸系飲料ではあるものの、それぞれの看板商品と比較すると様々な点で変化が見られる(看板商品の対象はコカ・コーラとペプシ)。 ・ターゲット コカ・コーラやペプシは今やビッグブランドであり、そのターゲットは老若男女と言えるだろう。一方、Diet Cokeの新しい味とbublyは開発段階からミレニアルを強く意識し、プロモーションも行なっている。 ・ブランドアイデンティティ コカ・コーラもペプシも100年以上愛され続けているブランドであり、今更味に関するアピールをする必要がないので飲み物の枠を超えて、スポーツ大会等のスポンサーや社会奉仕活動、音楽業界とのコラボなど世界規模で露出をしている。一方、新商品は、ミレニアルを意識したブランド構築の様子が見られる。Diet Cokeの場合、プロモーションビデオにNetflixドラマで人気が出てきた女優を起用した。 これはハリウッド級のセレブを起用するよりは、ミレニアルがより親近感を感じるとされるアイコンを選択したと見られる。また、ビデオの中で「人生短いので(健康的な飲み物とは言えないけど)なんだかんだ飲む!」といったようなある種、開き直りとも取れる正直なメッセージングをしたり、別のビデオでは実際にミレニアルに飲んでもらって正直な感想が取り上げられている。をビデオにしてプロモーションしている。 一方bublyは第90回オスカー授賞式の放送中の30秒のテレビコマーシャル枠で華々しくデビューを飾った。ビデオはポップな仕上がりで、こちらもテレビドラマで人気となっている俳優を起用したGIFアニメもあり、ジョーク混じりの楽しいブランドを演出している。 ちなみにどちらも起用したタレントが映画俳優ではなくテレビドラマで浸透した人であるという部分は、ネームバリューよりも親近感を意識した結果とも思われる。 [embed]https://youtu.be/zVlfWLO-cjM[/embed] ・商品デザイン コカ・コーラやペプシは赤、青、白といった色やロゴを長年にわたり定着差せてきた。もはやそのデザインはシンボルともなっているため、大幅変更の必要もなければ、そうすることはリスクともなる。一方、両社の新商品は浸透しきっているブランドの色・姿かたちからはどちらかというと離れ、どのような感情をもたらせたいかを中心にデザインされたと言える。 スタイリッシュな缶や遊び心、様々な味のラインナップを表す配色でいろんな味に挑戦する冒険を促している。新商品はターゲット(ミレニアル)にどのような感情になって欲しいか、醸し出したい雰囲気を中心によりデザインされているのではないだろうか。

ウィスコンシン州出身、LaCroix(ラクロワ)の台頭と人気の理由

コカコーラとペプシが、新商品に託した狙い・特徴をみると、彼らが意識していると思われる新興ブランドの存在が見えてくる。それはウィスコンシン州生まれのLaCroix(ラクロワ)という飲料ブランドである。

ラクロワとは?

ラクロワは1981年創業のスパークリングウォーターに特化したブランドで、1990年代は打倒ペリエを掲げ、ペリエとは異なるターゲットで独自のブランディング施策を行なってきた。その後、ナショナルビバレッジコーポレーションに買収され、同社の売上は、2010年から2015年の間に6500万ドルから2億2600万ドルまで増加し、2倍以上の利益を上げている

ラクロワが受け入れられた3つの理由

ではなぜ100年以上も多くの人に愛され続けているコカ・コーラやペプシがラクロワをベンチマークするまでになったのか。ラクロワの成功の背景には、アメリカの食に対する意識・生活習慣の変化や消費者(特にミレニアル)が好むもの、ブランドを巻き込んだ環境の構築が絡んでいるようである。

1. アメリカで起きている健康志向の高まり

アメリカ全土で起きている健康志向の上昇が大きく影響したことは明らかである。肥満や生活習慣病といった深刻な問題に対して、現在ニューヨークやシカゴをはじめとする都市ではソーダなどの炭酸飲料を制限する規則の制定が計画されている。 実際、ソーダやカロリーゼロのソーダなどの炭酸飲料の売上はここ12年連続で減少し、一方でボトルウォーターの売上は急上昇しているのである。この健康志向ブームが、砂糖や人工甘味料を一切使わないラクロワにとっても追い風となったのでは。 stat (グラフはNYタイムズより転載)

2. エンゲージメントを中心としたオンラインマーケティングに集中

『ミレニアル世代に効果的なブランド構築方法』でも述べているように、ミレニアルは広告の美辞麗句に敏感で疑い深く、Authenticity(信頼性)を大切にする傾向にある。この点においては、ラクロワはどちらもクリアしたといえるだろう。なぜならラクロワはトラディショナルマーケティングと言われるテレビやプリント広告を一切使わず、インスタグラムを中心としたオンラインマーケティングを重要視したからだ。 具体的には影響力のあるブロガーやフィットネス業界のアイコン的人物にラクロワを飲んでもらい、SNSでポストしてもらうことに投資したのである。テレビや雑誌などのマスメディアでは宣伝されていないため、ミレニアルがインスタグラムやインフルエンサーのポストを通してラクロワを発見した時には、まだ世に知られていないものを発見した!という高揚感と信頼感が湧き、同時にマイナーブランドの支持という特別感も生まれる。 これがさらにインフルエンサーを含む知り合いの間で広がっていくと自分もシェアしたいという感情に繋がっていくのではないだろうか。さらにシェアやポストを啓蒙する働きかけとして、ラクロワはハッシュタグを使った。ラクロワ独自のハッシュタグでフォロワーにラクロワ好きを自由に表現してもらい、ラクロワ自身がリポストするだけでなく、健康意識の高い人たちの中でよく使われているハッシュタグなどとも絡めたエンゲージメントを続けた。 とにかく定番の広告媒体という表玄関ではなく、じわじわとオンラインで根ざし、ユーザーに寄り添って広まっていったのである。 lacroix (写真はラクロワインスタグラムより転載)

3. ユーザーと一緒に作り上げるブランド構築手法

ユーザー(主にミレニアル)とのエンゲージメントに妥協がなかったラクロワだが、このエンゲージメントはブランディング形成にも一役買っている。ラクロワは終始”イケてる”ブランドとしてユーザーと一緒にブランドを作ってきた。時にはユーザーが有機的にコンテンツを作り、広がっていったものさえもある。その結果、ラクロワというもの自体だけでなく、ラクロワを飲むということがステータスシンボルにさえなっているのである。 実際に、ラクロワは”イケてる”ブランドになるべく、カリフォルニア州で毎年行われる音楽イベントのコーチェラのパーティーに商品を出展。同イベントには毎回多くのアーティストやセレブ、モデル、インフルエンサーが集まる。このイベントは音楽だけでなく”ボホチック”と呼ばれるファッションにも注目が集まり、まさに”イケてる”人のみぞ集まるお祭りなのである。このイベントで、ラクロワはインフルエンサーを雇い、彼らがソーシャルメディアにポストする写真に商品をさりげなく写してもらうことを行った。 結果、このインフルエンサーたちは自分たちを”Sparkle Squad”(スパークル軍団)と称して盛り上がり、ラクロワのソーシャルメディアフォロワーは10万人以上増えたという。また、”LaCroix over boys”(男子よりラクロワを選ぶ!)と書かれたTシャツがバズになるになるあたりも、ラクロワがイケてる女子から好かれていることがわかる。 lacroix-tshirt (写真はラクロワインスタグラムより引用) ラクロワのネオンの缶はソーシャルメディア映えし、多くのファンがラクロワと一緒に映るポストを見る。それに加えて、ポートランドやサンフランシスコといったアートやデザインの感度の高いエリアで活躍しているアーティストがアート作品としてラクロワを使っていることも、さらにファンのロイヤリティを助長したと考えられる。 サンフランシスコで人気が出ているストリートアーティストfnnchは、ミレニアルズ版アンディーウォーホルのキャンベルスープ缶とも称された、ラクロワを扱ったアート作品を手がけた。彼のような作品が、ラクロワとそれを取り巻く魅力的でおしゃれなも空間のイメージを作り出し、ファンもアーティスティックなポストをしたり、まるで自分もそのデザインの中に入ると思わせる”イケてる”環境を作ってきたと言えるのではないだろうか。 andy (写真はこちらのサイトより転載)

まとめ

今回アメリカの炭酸飲料業界で起きている変革について紹介させていただいた。ブランドが生き残っていくためには健康志向という表面的な流れだけを掴むのではなく、魅力的な体験が何なのか、感情レベルで察知していく必要があることをおわかり頂けたと思う。 特にミレニアルから支持されるブランドになるには、健康的な飲み物であるという事実だけでなく、それを飲むことで”イケてる”体験を創造できるパッケージを提供していかなくてはいけないということがラクロワの成功事例からわかった。 大手なのかどうかは、特にミレニアルにとっては魅力とはならない。大事なのはそのブランドを通して消費者がどんな体験をするか、そしてそれをイメージできるように伝えていくことである。そのためにはエンゲージメントの量や質を高め、ブランドをユーザーと作るというスタンスで一度ブランディング・マーケティング戦略を見直してみてはいかがだろうか。 参考: Diet Coke's new cans and flavors are Millennial-friendly Bottled Water Continues to Take the Fizz Out of Diet Soda How LaCroix Bear Coke and Pepsi in the Sparkling Water Wars Here's Why It Feels Like You're the Only Millennial Not Drinking La Croix Why LaCriox sparking water is suddenly everywhere MERIDIAN ASSOCIATES INC. Summary List LaCroix Uses This Brilliant Tactic to Win Over Millennials by the Droves Have we reached peak sparkling water? La Croix launches boozy new cocktail menu Sales are exploding for a little-known soda brand with a cult following These ‘9 Cans of LaCroix’ paintings are Warhol’s ‘soup cans for millennials’

2018年にUXデザインを取り巻く7つの変化

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先日リリースした「2017年 UXデザイントレンドまとめ」では、去年一年間でUXデザインがどのように変革してきたかを紹介した。それを踏まえ、2018年はそのトレンドがより加速すると考えられる。 その大きな理由としては、ビジネスにおけるデザインの重要性の拡大テクノロジー面との融合、そしてついにデザインの現場にAIの活用が実現し始めることが挙げられる。 では、具体的にどのような変化が訪れるか、7つのポイントで紹介する。

1. “UXデザイン”の概念が再定義される

ユーザー体験 (UX) を設計 (Design) することを、UX Designと表現される。主にユーザーに商品やサービスを購入してもらい、使ってもらい、使い続けてもらうことを目的により良い体験をデザインすることがゴールとなるが、ユーザーへのタッチポイントの増加やモノよりもコトへのフォーカスのシフトにより、この"体験"と"デザイン"の幅がここ数年で格段に広がってきている。 いわゆる見た目をよくすることから使いやすさの改善に始まり、使っていてなんとなく心地よい、楽しい、面白い、の演出まで、あまりにも多くのシーンで「UXデザイン」が施されるようになってきている。もちろん最終目標はユーザーに満足してもらうこと、そしてビジネスとして利益をアップすることの両立である。 それを考えるとこの「UXデザイン」の重要性は「特定の人々=デザイナーたちだけ」が請け負うには、あまりにも広く深すぎる。かつての「マーケティング」という言葉のカバーする領域があまりにも大きくなりすぎた故に、その単語自体があまり意味をなさなくなったように、UXデザインも、そろそろその定義と役割分担を整理し直すべき時期にきているのかもしれない。 「UXデザイン」という言葉が含む要素を分解すると「リサーチ」「プロダクト」「分析」に分けられるだろう。そしてそれぞれのカテゴリーに含まれる要素は下記になるだろう。

リサーチ

  • フィールドリサーチ
  • ユーザーリサーチ
  • ユーザーインタビュー
  • エスノグラフィーリサーチ
  • ペルソナ作成
  • カスタマージャーニーマップ作成
  • 顧客ヒアリング

プロダクト

  • ユーザビリティ設計
  • タスク分析
  • インフォメーション設計
  • コンセプトデザイン
  • グラフィックデザイン
  • インターフェースデザイン
  • ヴィジュアルデザイン
  • プロトタイピング
  • インタラクションデザイン

分析

  • ユーザープロフィール分析
  • 行動分析
  • 価値観分析
  • タッチポイント分析
  • 利用データ分析
  • ユーザーフィードバック分析
  • ビジネスプレゼンテーション作成
ざっとリストするだけでもこれだけある。これを見てもわかる通り、一人の「UXデザイナー」がこの全てを請け負うのは到底難しい。むしろスタッフの大部分が「UXデザイナー」的考え方と役割を担う必要すら出てくる。したがって、それぞれのフォーカスポイントに合わせ、例えば「UXリサーチャ」「プロダクトUXデザイナー」「UXストラテジスト」など、UXチームにおけるさらなる役割分担が必要になってくると考えられる。

2. 目的ごとにデザインプロセスの見直しが求められる

一つ前のポイントに関連し、これまで定義されていたデザインのプロセスにおいても見直しが必要になってくる可能性が高い。そもそも、デザインの究極の役割とは何か?それは恐らく、「与えられた制限の中で求められる最大の結果を出すためのプロセスの作成」であろう。そして多くのデザイナーの仕事における最終的なゴールは、デザインを通じて世の中の様々な問題を解決することにある。 そして、デザインの重要性がこれまでにないほど注目されている今、例えばデザイン的考え方=デザイン思考をビジネスに活用するトレンドに代表されるように、世の中の様々な問題をデザインが解決する時代に突入してきている。 これは非常に喜ばしいことなのだが、それと同時にそこに求められるプロセスを今一度冷静に考えてみる必要性も出てきている。これはどういうことかというと、プロダクトのサービス化を実現するサービスデザインや、ビジネスにおけるイノベーションを生み出すことを目的としたデザイン思考など、それぞれの役割に合わせてデザインのプロセスが調整されているということ。 これが例えば、よりクリエイティブな発想が生み出される組織にしたい。会議をより効率的なものにしたい。スタッフの遅刻が減るカルチャーの会社にしたい。などのそれぞれの目的に合わせてデザインのプロセスを再定義する必要がある。その点においては「時代の変化でこれから生まれる8のデザイナー職」で紹介されているプロセスデザイナーという役職が今後より注目を集めるかもしれない。

3. ユーザー体験がブランド形成の主軸になる

これは、最近顧客むけにブランディングサービスを提供していて気づいたことなのであるが、企業やブランドが一方的に発信する「ブランディングメッセージ」というものはすでに時代に適合しておらず、過去の異物になり得ると感じた。これまでは、企業のロゴやコーポレートI.D.、広告やマーケティングキャンペーンなどを通じて、消費者やユーザーに対してのブランド形成が一般的であった。 しかし、ふと考えてみると「うちのブランドはこれを強みとしており、貴方にこんな価値を届けます」と表現するだけでは、あまり意味がない。消費者としてはむしろ「では、実際にそれを体験させてみてよ」と言いたくなる。これは、ミレニアル世代をはじめとして、誰もが簡単に体験を受け取ることのできるこの時代に生きる人たちの視点からすると当たり前の価値観だろう。 逆に企業やサービス提供側からしてみると、ユーザーに対する全ての接点=タッチポイントがそのブランドを形成する要素になり得る訳で、そこに一貫した定義と方向付けが不可欠になる。これをうちの会社では「UXビジョン」と定義し、企業のビジョンとUXの方向性をつなぎ、次世代のブランド構築手段として位置付けている。ちなみに、このUXビジョンに関しては近いうちにブログでも紹介しようと考えている。

4. デザイナーには人工知能 (AI) 技術の活用が求められ始める

2017年一年間を振り返ってみると、人工知能 (AI) に関するニュースがあまりにもあふれていた。人工知能 (AI) の出現でどのような仕事が生まれ、そして失われるのか。どこまでが人間が行い、どこからが機械の役割になるのか。スタートアップ業界においては、「人工知能を活用した○○サービス」が羅列し、すでに我々の日常生活においても、人工知能 (AI) の恩恵が広がっている。など。 では、これをUXデザインのフィールドに当てはめていくとどうなるであろうか?実はとても相性が良いと考えられる。理由として、もっとも優れたユーザー体験は、ユーザーが気づかないうちに彼らが求める結果を「そっと」提供することで時間とストレスの軽減を実現することであるからである。日本語で言うところのいわゆる「お・も・て・な・し」がこれに当たる。 これまではサービス提供側が知恵を絞って顧客に対しての最高のサービスを考えてきた。デザイナーであれば、どのように設計すればユーザーにより喜んでくれるデザインになるであろうかを考え、リーンUXなどのプロセスを通じて短いスパンでリリース、データ収集、分析、改善を行ってきた。 もしこのプロセスの一部、もしくは大部分が機械学習などを活用することでよりユーザーに最適な体験を設計することができれば、デザイナーの目的により効率的に近づくことができるようになる。 今年、2018年の段階でどれだけ人工知能の実装が現実的かは定かではないが、対話型のインターフェースや、音声コマンドによる情報のやり取りなどは、近い将来に来るべき「人と機械のハーモニー時代」を見据えてのデザイントレンドだと考えられる。 これをふまえ、デザイナーが今するべきことは、今後「その先」が人工知能になることを想定したデザインを施し、時代が進むにつれ、少しずつ手作業のデザイン部分が人工知能によって置き換わることを想定する。 例えばアプリであれば、バージョンアップするごとに人工知能の実装部分が増えることにより、より精度の高いユーザー体験を提供するイメージでデザインを考えていく必要があるだろう。これはまるで、産業革命時の職人による完全手作業から一部ベルトコンベアによる自動化へのシフトが始まっているに近い考え方だろう。

5. 流動的なインターフェースが広く普及する

上記に関連して、ユーザーにはよりパーソナルな体験と、時間節約を目的とした機能の実装がどんどん加速すると考えられる。それに合わせて、人と機械をつなぐインターフェースの役割にも変化が訪れる。そもそも一つのインターフェースをさまざなタイプのユーザーに当てはめること自体に無理があり、今まではそこに対して、より精度の高いペルソナ設計やカスタマージャーニーマップ作成を通じてできるだけ「最大公約数」を狙って設計を行ってきた。 そかし、もし今後それが異なるユーザーのタイプや利用シーン、そしてコンテンツ内容によってインターフェースを流動的に変化させることができれば、それぞれにとってより良い体験を提供することも可能になる。例えば、自動車であれば、顔認証でそのドライバーに合わせたシートのポジション、ハンドルの位置、ダッシュボードのデザイン、ミラーの角度、そして社内の香りまでが変化する。そんな体験がどんどん増えれば、次世代のユーザー体験の設計もどんどん可能になる。 これからは「これを取るためにこれを切り捨てる」をしなくてもよくなるかもしれない。

6. 多様性を理解することの重要性がアップする

そして、その異なるタイプのユーザーとは、そのニーズの違いや価値観の違いを理解し、それに最適な体験をデザインすることが重要になってくる。そのために我々は、ユーザーリサーチやフォーカスグループ、エスノグラフィーリサーチなどの手法を通じ、ユーザー理解を進めてきた。 その一方で、世の中の多種多様なユーザーの考え方を理解するのにもっとも重要なのは、そのチーム自体に多様性があること。ここは実は日本企業がもっとも苦手とするところで、いわゆる「日本人的価値観」で考えれば一目瞭然な事柄でも、世界のユーザーからは全く理解されないケースも少なくはない。 例えば、クリスマスシーズンになれば、サンタと"Merry Christmans"の文字をあしらったキャンペーンを打つことが当たり前だと考えてしまうが、実はアメリカではこれに対して違和感をもつユーザー (非キリスト教) もいることから、彼らを気遣い、"Merry Christmas"の代わりに"Happy Holidays"を使うことが多くなってきている。このようなアイディアもチーム内にそのような発想を持っているスタッフがいないと気づかなかったりもする。 より良い体験を作りたければ、多様性のあるチーム作りから。これは多くの企業における2018年の一つのテーマとなるかもしれない。

7. デザインでストーリーを届ける時代に

冒頭にデザインの役割は、問題解決におけるプロセスと説明した。が、実はこれも時代が進むにつれ、変わってきているかもしれない。というのも、多くの問題がすでに解決され、どんどん便利になっていく世の中で、問題を解決するよりも、ユーザーを正しい方向に導いたり、心に響く体験を提供したりなど、いわゆる「ストーリー」を通じて体験を提供する事で、ユーザーの満足度と企業の業績をアップさせることも可能であるからだ。 Airbnbのサービスはまさにストーリーテリングをユーザー体験の核としており、新しい機能やサービスを考えるときには必ずストーリーボードを使って説明するようにしているという。Airbnbのアプリを使ってみると綺麗にストーリーが届けられているのがわかる。 日本の例だと星野リゾートの躍進も顧客に対してサービスのストーリーをしっかりと体験として落とし込んでいるところが成功の鍵となっていると思われる。ディズニーランドはその最たるもので、問題解決とは異なるベクトルのデザイン活用方法である。 こう考えてみると、以前に「デザインとアートは全く違う」と説明したこともあったが、これも若干怪しくなる。デザインを通じてストーリーを体験としてユーザーに届ける。そこの裏には多少なりともアートの領域も隠されているかもしれない。今後デザイナーにはより広い視点と、多種多様な文化的背景が求められるかもしれない。  

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

2017年 UXデザイントレンドまとめ

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ユーザー体験が商品やサービスの成功を左右すると言われはじめてから数年がたった。世界中の大部分の人たちがスマホを使い、ミレニアル世代を中心にモノを所有することへの興味が下がり、体験をデザインすることが一つのデザイナーの仕事として成立している。こんな時代にあって、UXデザインはどのような変化を見せてきているのであろうか。2017年を振り返り、UXデザインを取り巻くトレンドをまとめてみた。

1.「使いやすさ」は基本中の基本に

ユーザー体験を設計する上で、もっとも基本となるのが「使いやすさ」。心地よい体験を提供するには、まずは基本的な使いやすさの品質がカバーされている必要がある。専門的に言う所のユーザビリティUXの品質評価をする際に使われるUXピラミッド理論においても、下記の通り根底から3つの部分は使いやすさをカバーする要素になる。

Task – 目的達成可能 (レベル1-3)

  • Task - 目的達成可能 (レベル1-3)
    • Level 1: FUNCTIONAL (USEFUL) - 機能的である
    • Level 2: RELIABLE - 信頼できる
    • Level 3: USABLE - 使いやすい
  • Experience - 心地良い体験 (レベル4-6)
    • Level 4: CONVENIENT - 便利である
    • Level 5: PLEASURABLE - 楽しい・心地よい
    • Level 6: MEANINGFUL - 価値がある
実は数年前まではこの使いやすさをカバーしているだけでもプロダクトは比較的成功しやすかった。しかし、最近では「使いやすい」だけでは十分ではなく、それに加えて心地よい、楽しい、嬉しいなどの付加価値的体験がユーザーに届けられなければ良いプロダクトとは言えなくなってきている。 デザイナーとしては難易度が上がったように思われるが、実は同時に基本的なユーザビリティを確保するためのガイドラインやライブラリの熟成も進んでおり、UXデザインにおける共通認識として提供側も利用する側もある程度の統一がはかれるにようになってもきている。 今まではあれやこれやの施策でテストしていた内容も、GoogleyやApple, Microsoftなどといったビッグプレイヤーが提供するガイドラインにそってデザインすれば、基本的な使いやすさはカバーされる。 また嬉しいことにこのガイドラインやライブラリは、マルチデバイス、マルチプラットフォームをカバーしており、より複雑化するユーザー環境に対応しやすくなってもきている。 したがって、基本的な使いやすさをカバーした上で、プロダクトのミッションやブランドに合わせた体験を設計することが重要になってくる。

2. モバイル対応、モバイルサイト、レスポンシブが死語になりつつある

マルチデバイスに対応したユーザー体験が一般化していく中で、これまでのような特別感がどんどん薄れてきている。数年前までは、PCかモバイルかネイティブかレスポンシブかなどの単語が飛び交っていたかもしれないが、最近はそのような議論があること自体がある意味ナンセンスになってきているのかもしれない。 デザインするサイトがモバイルに対応しているのは当たり前で、よりユーザーの利用シーンに寄り添った形で設計が進められ、PC向けなのかモバイル向けなのかなどは「そんなの両方に決まってるだろ」感がある。 このことはGoogle Trendsでの過去5年での検索数の推移を見てみれば一目瞭然。

"Mobile Friendly"の検索数推移

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"Mobile Site"の検索数推移

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"Responsive Design"の検索数推移

responsive このトレンドは逆に考えると、デザイナーが考えなければならない事柄が他に出てきたということなのかもしれない。例えば音声認証に関するプラットフォームに対してのUXデザインや、AIを活用したデザインプロセスなどが考えられる。

3. 対話型インタラクションがUXの主流に

去年の2016年にはチャットボットが大きな話題となった。そして今年はチャットボットにとどまらず、スマートホーム系のデバイスや、スマホアプリに到るまで、ユーザーと「対話型」でのやり取りを通じて情報のやり取りを行う体験がトレンドになってきている。 気づいてみると、アメリカで多くのユーザーが普段利用しているUberやAirbnbといったアプリも、検索 > 指示型からそれぞれのシーンに対応した一問一答の対話型にその体験がアップデートされていることに気づく。 screen これはアプリが最小限の情報をユーザーに与え、そのインプットに対し、もっとも適した情報を返すことによりユーザーを正しい方向に導いてあげることで、よりスムーズな体験を演出するのが目的。 来たるAI時代を見越した新しいUXデザインのトレンドにもなり得ると感じる。

4.「人間」を理解することの重要さがアップ

ここ数年で、人間が機械に合わせる時代から、機械が人間に合わせる時代に確実にシフトが始まっている。スマホのアンロックはパスワード、スライドジェスチャーから、指紋認証、顔認証に進化し、検索もキーワード入力から音声、ジェスチャー、位置、言語、環境等の情報をスムーズに掛け合わせ、最適な情報を機械が見つけてくれる。 これは全ては、よりユーザーに対して違和感のない体験を提供するため。それを実現するには、これまで以上にユーザーおよび人間を研究することの受容性が高まってきている。既存のユーザーリサーチやフォーカスグループに止まらず、より深いエスノグラフィーリサーチや、行動心理学、認知科学などの観点からユーザーの価値観や動機を把握することが重要になっている。 ユーザーの心理を巧みに操り、求める行動に導くビヘイビアサイエンスを元にしたUXデザインにも注目が集まっている。

5. よりコネクテッドな体験が可能に

これまで細分化されていた異なるアプリやデバイスがユーザーの便意性追求を目的に連動し始めている。例えば、Google MapsやFacebook Messengerのアプリ内からUberを呼べるようになったり、スマホとスマートウォッチの連動がスムーズになったり、家の中で利用している音声コマンドサービスが自動車の中かからも利用できたりする。 fb-uber そして、これらのその多くがGoogle, Apple, Facebook, AmazonといったいわゆるGAFAが牛耳っており、彼らのUXに対するフォーカスレベルの高さを強く感じる。日本企業のサービスではここまで横との連動がはかれているケースはまだまだ珍しく、今後もこのような体験は、より一層シリコンバレーを中心に進んでいくと思われる。

6. デザイナーの仕事が多種多様に

これらのUXデザイントレンドを踏まえて考えてみると、当然のことながら「デザイナー」と言われる人たちの、その仕事内容が一気に広がってきている。ユーザーリサーチから、プランニング、プロトタイピング、テスト、分析、改善、測定といった全てのシーンでデザイナーの重要性が高まり、実際に「どこまでやるのか」がわかりにくくなってきているのも事実。 デザイナーはコーディングもするべきなのか?プロトタイプも作るべきか?データ分析は?など、デザイナーに求められるスキルと役割の範囲の変化が急激に進んでいる>。 それに合わせて下記に見られるような新しいデザイナーの職種
  • Non-UI デザイナー
  • VR デザイナー
  • AI デザイナー
  • ドローンエクスペリエンスデザイナー
  • プロセスデザイナー
  • カスタマーサービスデザイナー
 

より良い体験を生み出すのはロジックと直感

2017年は毎日のようにAIと人工知能に関するニュースであふれていた。我々デザイナー達としても、もどこまでの仕事が今後AIに奪われてしまうのかが気になるところ。おそらく見た目をよくするヴィジュアルデザインや、最適な情報を最適なタイミングで届ける体験に関してはAIが行った方がより良い結果が導き出されることが予想される。これは完全にデータを元にしたロジックの世界だからだ。 その一方で、ユーザーを理解したり、未来の世の中やそこで必要とされるプロダクト、ユーザーのニーズなど、より未来予想的な部分や、感覚的な部分はまだまだインスピレーションが必要とされ、人間で行うことが現実的だろう。今年はまだまだAIのデザインに対する活用ができていないが、その辺は2018年以降に期待が寄せられる。

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

関連記事: 2018年にUXデザインを取り巻く7つの変化