佐藤可士和サムライ代表(以下、佐藤):「ユニクロ」は、僕が入る前から、まだそんなにたくさんではなかったけれど、グラフィックTシャツを売っていたんです。(NYの)ソーホーにグローバル旗艦店を出店したとき、「UT」の前身となる「ジャパニーズポップカルチャープロジェクト(JAPANESE POP CULTURE PROJECT)」を立ち上げました。アートだけじゃなく、漫画、アニメ、ゲームなど、Tシャツを通じて日本の文化を紹介するという今の「UT」のベースになるような企画です。それがアメリカでものすごく反響があって、その後、柳井(正)社長から「Tシャツをリブランディングしたい」と「UT」が誕生しました。そこから始まって、NIGO君(2013〜19年)に入ってもらったり河村君(22年〜)に入ってもらったりしながら、かなり幅広く協業できるようになりました。当時を思い返せば、例えば、グローバル旗艦店の近くにあるモマ(MoMA)と協業したいと、早い段階から夢はあったのですが、なかなか実現はしませんでした。そういう意味で、今さまざまなところと協業できるようになったのは、とても素晴らしいことだと思います。一方、広がったことで、いわゆるサブカルチャーのようなディープなカルチャーがメジャーコンテンツに紛れてしまう。河村君が来たことで「UT」らしさを取り戻せるきっかけができ、リスタートを切れました。僕はそんな感覚なんです。
河村:そうですね。この10年で、デジタルで完結することがすごく多くなったと感じます。世界中の買い物がネット上でできるようになった一方で、偶然性は無くなりました。知らないことを知る体験が減ったんですよね。今でも覚えているのが、20代のときに原宿を夜中歩いていると、すごく光っている「ユニクロ」を見つけました。ウインドウ越しに覗くと、流れる赤いLEDの文字と大量のボトル(当初はTシャツをボトルパッケージで販売)が見えて、衝撃を受けたんです。それが07年にできた「UT STORE HARAJUKU.」。後日、気になりお店に行くと、知っているアーティストのTシャツもあるんですけど、知らないアーティストのTシャツもあって、気になってそれを買ったりしました。そのときの体験みたいなものがこの数年、ほとんどない。自分たちの世代はまだ、意識的にそういう体験の仕方をしようとすればできるじゃないですか。でもそれを経験したことのない若い世代の子たちにとっては、未知の体験なわけです。
佐藤:インパクトも違うよね。河村君がそう言ってくれてすごくうれしいんですが、「UT STORE HARAJUKU.」も「ユニクロ原宿店」をリニューアルしたので、ファサードにはLEDを導入したけど、内装はほとんど変えていないんです。全部真っ白に塗っただけ。そこにデザインした什器を並べて、“未来のTシャツコンビニエンスストア”を表現しました。Tシャツをボトルに入れたのは、一つのフォーマットで大量の種類を表現できることはなんだろうと考えて、飲料のペットボトルのデザインからインスピレーションを受けたんです。