津軽から、日本全国へ。生まれ変わったりんご箱が暮らしを彩る。[TSUGARU Le Bon Marché・キープレイス株式会社/青森県北津軽郡]

天日干し中の木箱と姥澤氏。規則的に積まれた木箱のタワーは、りんごの出荷がピークを迎える秋から冬、一帯のおなじみの光景となる。

津軽ボンマルシェ・キープレイス株式会社りんご産業の「脇役」が、畑を飛び出し大変身?

秋から冬にかけてりんごが収穫のピークを迎え、にわかに活気づく津軽。市場に次々と運ばれてくるのは、もぎたてのりんごがぎっしりと詰まった木箱です。収穫後はプラスティック製コンテナに入れられる農作物が多い中、ここ津軽ではまだまだ木箱が主流。理由は、天然木ならではの調湿作用や当たりの柔らかさによる保存性にあります。が、りんご産業になくてはならないものである一方で、流通段階で役目を終えるため、ちょっぴり地味で、目立たない存在なのも確か。その木箱が今、活躍の場を広げているというのです。

訪れたのは、弘前市中心部から車で北へ20分ほどの所にある板柳町。町域の実に3割がりんご畑という津軽の一大りんご生産地です。車で国道を走っていると、パズルゲームのように積み上げられた何かのタワーがあちこちに。そう、それこそ出荷を今か今かと待っているりんご箱だったのです。板柳町で代々りんご用の木箱を生産してきた「青森資材うばさわ」の敷地です。

「青森資材うばさわ」は、一帯の木箱の半分以上のシェア率を誇るトップメーカー。現在代表を務めている3代目・姥澤 大氏は、この「青森資材うばさわ」と同時に、インテリア用品・家具メーカー『キープレイス』の代表も務めています。『キープレイス』のショウルームを訪れると、ローカル色溢れる町の雰囲気とは一変、洗練された雰囲気の家具がずらり。聞けば、どれもりんご用の木箱をベースに作られたものだそうです。さっき見かけたタワーとのギャップに驚きます。

▶詳細は、TSUGARU Le Bon Marché/100年先の地域を創造するために。多彩で奥深い「つながる津軽」発掘プロジェクト!

『キープレイス』からもほど近い「津軽りんご市場」に並ぶのは、収穫したばかりのりんごが詰まった木箱。ほのかな香りが一帯に漂う。

JR「板柳」駅前にあるショウルーム「monoHAUS」。りんご木箱をベースにしたオリジナル家具・什器のサンプルが揃う。

「青森資材うばさわ」の倉庫を改装しショウルームに。以前はショップとして営業していたが、現在はサンプル展示のみ。

津軽ボンマルシェ・キープレイス株式会社身近すぎて気付かなかった木箱の魅力に、スポットライトを当てる。

『キープレイス』の木箱は、インテリア用の収納箱として、また店舗用什器として大人気。津軽の畑を飛び出し、全国各地で堂々たる活躍ぶりを見せています。それまでりんご搬出用の道具でしかなかった木箱にスポットライトを当て、津軽中を驚かせた姥澤氏。その着眼点は、家業を継ぐ前のキャリアにありました。

大学進学のため上京して建築を学び、建材メーカーに就職。もともと起業志向が強かった姥澤氏は、2005年にインテリア雑貨販売の会社を立ち上げます。それが現在の『キープレイス』の前身。「もともと起業したのは、『新しいものを世に出したい』という一心から。4年後に家業を継ぐことになった時も、市場開拓のための部署として、事業を継続することにしました」と姥澤氏は話します。津軽に戻り、木箱に囲まれる日々。姥澤氏はある日、その木箱の美しさに気付きます。「節もあって上等ではないけれど、独特の味がある。業務用だけにしておくにはもったいない、インテリアとしていけるんじゃないかと」と、姥澤氏はその時の思いを語ります。

新しいものを世に出す。そんな姥澤氏が見出したのは、津軽の人々が気付かなかった、りんご木箱の新たな魅力。予想どおり、ほどなく反響が出始めます。個人宅の収納ボックス、マルシェの陳列棚……。温かみのあるカジュアルな雰囲気の木箱は、私たちの日常にすんなり溶け込みました。そして2010年、青森駅周辺の再開発事業の目玉として開業した商業施設「A-FACTORY」の店舗什器にも採用。内装を手がけた国際的デザイナー・片山正通氏直々のオファーでした。

「A-FACTORY」店内で什器として使用されているりんご木箱。マルシェ風の陳列にナチュラルな雰囲気が馴染む。

多彩なサイズ展開も魅力の木箱。直営オンラインショップ「木のはこ屋」には、全国各地から注文が入る。ロゴの焼き印やプリントも可能。

驚くべきことに、木箱の多くは今も手作業で組み立てられている。中には1日に100個作る職人も。こうした作業を、昔は各農家が自分たちで行っていた。

津軽ボンマルシェ・キープレイス株式会社農家仕様だから使いやすい。りんご用木箱が愛される理由。

たかが木箱、されど木箱。今や全国から注文が入る人気の理由は、農作物の出荷用だったことにあります。「昔から使われていたものだから、“尺”寸法で作られているんです。尺は人体寸法に基づいていて、2尺でちょうど肩幅ほどの長さ。一番スタンダードな木箱のサイズが、幅1尺、高さ1尺、奥行き2尺なので、無理なく持てる大きさになっています。それに日本の建築は現在でも尺寸法を基準に考えられているため、建築との親和性が高いし、人間工学がベースになっているから、扱いやすい。他にはない大きさですが、それがいいんです」と姥澤氏。

使いやすいサイズ感だけでなく、スマートな見た目も特徴。横向きに立ててシェルフにすると、奥行きが広く安定感があり、本棚にしても雑貨をディスプレイしても様になります。シンプルだから、北欧風のすっきりしたインテリアにも、インダストリアルで無骨な雰囲気にもマッチ。工夫次第で異なる表情を見せてくれます。
現在では一般的なりんご木箱のサイズ以外に、りんご用段ボールのサイズなど、様々な大きさを展開。素材も通常りんご木箱で使われる赤松や杉の他、青森ヒバや合板バージョンも作製し、よりインテリアに特化したバリエーションが広がっています。農業用資材としてだけでなく、収納・展示用家具へ。りんご木箱はもうひとつの役割を確立させたのです。

「青森資材うばさわ」の倉庫。うず高く積み上げられた木箱の様子は迫力満点だ。新品だけでなく、回収された中古の木箱も。

材木店から届く木箱用の赤松材。木目の整った部分が表面にくるよう計算し、美しい木箱を作るのも職人の腕の見せどころだ。

天然木ならではの、温かな風合いが魅力。調湿作用にも優れているため、湿気の影響を受けやすい本やアナログレコードの収納にも向いている。

津軽ボンマルシェ・キープレイス株式会社地域を支え、支えられる存在に。木箱はこれからも進化する。

りんご木箱の会社の3代目として生まれた後、建築を学び、インテリアの会社を立ち上げた姥澤氏。当初別々のコンテンツだった木箱とインテリアは、歳月を経て自然とつながり、現在の『キープレイス』の形になりました。「ずっとやりたかったことが、今できている。同時に、これからやるべきことも見えてきました。木箱は主役ではなく、あくまで農家さんを手伝う脇役。農家さんありきの地域産業だからこそ、地域に貢献していきたいんです」と姥澤氏は話します。

2018年の春、姥澤氏は地元の若手建築家、家具職人とともに、新たな家具のプロジェクトを立ち上げました。通常は流通後に回収、再利用され、長ければ10年以上継続的に使用することができるりんご木箱。その過程で、表面には卸先の屋号やメモが書かれ、傷がつき、畑と街を行き交った年月が積み重ねられます。そんな痕跡をそのままデザインに取り込んだ家具「又幸 Matasachi」は話題を呼び、世界最大級の国際家具見本市「ミラノサローネ2018」にも展示されました。「木箱の板は薄くて天板向きじゃないし、家具としては掟破り。でもりんご木箱の存在を立たせることで、青森の風土や景色を表現したかった」と姥澤氏。

木箱がつなぐのは、過去と現在、津軽と日本、そして世界。家具として木箱を使う私たちもまた、津軽のりんご産業の歴史の一端に触れ、関わることができるのです。


(supported by 東日本旅客鉄道株式会社

古い木箱に書かれた屋号から命名した「又幸Matasachi」シリーズ。脚にオニグルミを用いて強度を持たせ、組み立てやすいシンプルな構造にこだわった。デザインは「弘前シードル工房 kimori」の設計も手がけた蟻塚 学氏、制作は弘前にある家具工房「イージーリビング」の葛西康人氏。津軽を担う若手たちのタッグが注目を集めている。

住所:青森県北津軽郡板柳町福野田実田30-5 MAP
キープレイス株式会社HP:http://www.keyplace.co.jp/
直営オンラインショップ「木のはこ屋」HP:https://www.kinohakoya.com/

津軽から、日本全国へ。生まれ変わったりんご箱が暮らしを彩る。[TSUGARU Le Bon Marché・キープレイス株式会社/青森県北津軽郡]

天日干し中の木箱と姥澤氏。規則的に積まれた木箱のタワーは、りんごの出荷がピークを迎える秋から冬、一帯のおなじみの光景となる。

津軽ボンマルシェ・キープレイス株式会社りんご産業の「脇役」が、畑を飛び出し大変身?

秋から冬にかけてりんごが収穫のピークを迎え、にわかに活気づく津軽。市場に次々と運ばれてくるのは、もぎたてのりんごがぎっしりと詰まった木箱です。収穫後はプラスティック製コンテナに入れられる農作物が多い中、ここ津軽ではまだまだ木箱が主流。理由は、天然木ならではの調湿作用や当たりの柔らかさによる保存性にあります。が、りんご産業になくてはならないものである一方で、流通段階で役目を終えるため、ちょっぴり地味で、目立たない存在なのも確か。その木箱が今、活躍の場を広げているというのです。

訪れたのは、弘前市中心部から車で北へ20分ほどの所にある板柳町。町域の実に3割がりんご畑という津軽の一大りんご生産地です。車で国道を走っていると、パズルゲームのように積み上げられた何かのタワーがあちこちに。そう、それこそ出荷を今か今かと待っているりんご箱だったのです。板柳町で代々りんご用の木箱を生産してきた「青森資材うばさわ」の敷地です。

「青森資材うばさわ」は、一帯の木箱の半分以上のシェア率を誇るトップメーカー。現在代表を務めている3代目・姥澤 大氏は、この「青森資材うばさわ」と同時に、インテリア用品・家具メーカー『キープレイス』の代表も務めています。『キープレイス』のショウルームを訪れると、ローカル色溢れる町の雰囲気とは一変、洗練された雰囲気の家具がずらり。聞けば、どれもりんご用の木箱をベースに作られたものだそうです。さっき見かけたタワーとのギャップに驚きます。

▶詳細は、TSUGARU Le Bon Marché/100年先の地域を創造するために。多彩で奥深い「つながる津軽」発掘プロジェクト!

『キープレイス』からもほど近い「津軽りんご市場」に並ぶのは、収穫したばかりのりんごが詰まった木箱。ほのかな香りが一帯に漂う。

JR「板柳」駅前にあるショウルーム「monoHAUS」。りんご木箱をベースにしたオリジナル家具・什器のサンプルが揃う。

「青森資材うばさわ」の倉庫を改装しショウルームに。以前はショップとして営業していたが、現在はサンプル展示のみ。

津軽ボンマルシェ・キープレイス株式会社身近すぎて気付かなかった木箱の魅力に、スポットライトを当てる。

『キープレイス』の木箱は、インテリア用の収納箱として、また店舗用什器として大人気。津軽の畑を飛び出し、全国各地で堂々たる活躍ぶりを見せています。それまでりんご搬出用の道具でしかなかった木箱にスポットライトを当て、津軽中を驚かせた姥澤氏。その着眼点は、家業を継ぐ前のキャリアにありました。

大学進学のため上京して建築を学び、建材メーカーに就職。もともと起業志向が強かった姥澤氏は、2005年にインテリア雑貨販売の会社を立ち上げます。それが現在の『キープレイス』の前身。「もともと起業したのは、『新しいものを世に出したい』という一心から。4年後に家業を継ぐことになった時も、市場開拓のための部署として、事業を継続することにしました」と姥澤氏は話します。津軽に戻り、木箱に囲まれる日々。姥澤氏はある日、その木箱の美しさに気付きます。「節もあって上等ではないけれど、独特の味がある。業務用だけにしておくにはもったいない、インテリアとしていけるんじゃないかと」と、姥澤氏はその時の思いを語ります。

新しいものを世に出す。そんな姥澤氏が見出したのは、津軽の人々が気付かなかった、りんご木箱の新たな魅力。予想どおり、ほどなく反響が出始めます。個人宅の収納ボックス、マルシェの陳列棚……。温かみのあるカジュアルな雰囲気の木箱は、私たちの日常にすんなり溶け込みました。そして2010年、青森駅周辺の再開発事業の目玉として開業した商業施設「A-FACTORY」の店舗什器にも採用。内装を手がけた国際的デザイナー・片山正通氏直々のオファーでした。

「A-FACTORY」店内で什器として使用されているりんご木箱。マルシェ風の陳列にナチュラルな雰囲気が馴染む。

多彩なサイズ展開も魅力の木箱。直営オンラインショップ「木のはこ屋」には、全国各地から注文が入る。ロゴの焼き印やプリントも可能。

驚くべきことに、木箱の多くは今も手作業で組み立てられている。中には1日に100個作る職人も。こうした作業を、昔は各農家が自分たちで行っていた。

津軽ボンマルシェ・キープレイス株式会社農家仕様だから使いやすい。りんご用木箱が愛される理由。

たかが木箱、されど木箱。今や全国から注文が入る人気の理由は、農作物の出荷用だったことにあります。「昔から使われていたものだから、“尺”寸法で作られているんです。尺は人体寸法に基づいていて、2尺でちょうど肩幅ほどの長さ。一番スタンダードな木箱のサイズが、幅1尺、高さ1尺、奥行き2尺なので、無理なく持てる大きさになっています。それに日本の建築は現在でも尺寸法を基準に考えられているため、建築との親和性が高いし、人間工学がベースになっているから、扱いやすい。他にはない大きさですが、それがいいんです」と姥澤氏。

使いやすいサイズ感だけでなく、スマートな見た目も特徴。横向きに立ててシェルフにすると、奥行きが広く安定感があり、本棚にしても雑貨をディスプレイしても様になります。シンプルだから、北欧風のすっきりしたインテリアにも、インダストリアルで無骨な雰囲気にもマッチ。工夫次第で異なる表情を見せてくれます。
現在では一般的なりんご木箱のサイズ以外に、りんご用段ボールのサイズなど、様々な大きさを展開。素材も通常りんご木箱で使われる赤松や杉の他、青森ヒバや合板バージョンも作製し、よりインテリアに特化したバリエーションが広がっています。農業用資材としてだけでなく、収納・展示用家具へ。りんご木箱はもうひとつの役割を確立させたのです。

「青森資材うばさわ」の倉庫。うず高く積み上げられた木箱の様子は迫力満点だ。新品だけでなく、回収された中古の木箱も。

材木店から届く木箱用の赤松材。木目の整った部分が表面にくるよう計算し、美しい木箱を作るのも職人の腕の見せどころだ。

天然木ならではの、温かな風合いが魅力。調湿作用にも優れているため、湿気の影響を受けやすい本やアナログレコードの収納にも向いている。

津軽ボンマルシェ・キープレイス株式会社地域を支え、支えられる存在に。木箱はこれからも進化する。

りんご木箱の会社の3代目として生まれた後、建築を学び、インテリアの会社を立ち上げた姥澤氏。当初別々のコンテンツだった木箱とインテリアは、歳月を経て自然とつながり、現在の『キープレイス』の形になりました。「ずっとやりたかったことが、今できている。同時に、これからやるべきことも見えてきました。木箱は主役ではなく、あくまで農家さんを手伝う脇役。農家さんありきの地域産業だからこそ、地域に貢献していきたいんです」と姥澤氏は話します。

2018年の春、姥澤氏は地元の若手建築家、家具職人とともに、新たな家具のプロジェクトを立ち上げました。通常は流通後に回収、再利用され、長ければ10年以上継続的に使用することができるりんご木箱。その過程で、表面には卸先の屋号やメモが書かれ、傷がつき、畑と街を行き交った年月が積み重ねられます。そんな痕跡をそのままデザインに取り込んだ家具「又幸 Matasachi」は話題を呼び、世界最大級の国際家具見本市「ミラノサローネ2018」にも展示されました。「木箱の板は薄くて天板向きじゃないし、家具としては掟破り。でもりんご木箱の存在を立たせることで、青森の風土や景色を表現したかった」と姥澤氏。

木箱がつなぐのは、過去と現在、津軽と日本、そして世界。家具として木箱を使う私たちもまた、津軽のりんご産業の歴史の一端に触れ、関わることができるのです。


(supported by 東日本旅客鉄道株式会社

古い木箱に書かれた屋号から命名した「又幸Matasachi」シリーズ。脚にオニグルミを用いて強度を持たせ、組み立てやすいシンプルな構造にこだわった。デザインは「弘前シードル工房 kimori」の設計も手がけた蟻塚 学氏、制作は弘前にある家具工房「イージーリビング」の葛西康人氏。津軽を担う若手たちのタッグが注目を集めている。

住所:青森県北津軽郡板柳町福野田実田30-5 MAP
キープレイス株式会社HP:http://www.keyplace.co.jp/
直営オンラインショップ「木のはこ屋」HP:https://www.kinohakoya.com/