生まれ変わった『FARO』のビジョン。知られざる日本を発信することで、次世代の世界基準を目指す。[FARO/東京都中央区]

鮮やかなスカイブルーを基調に、デザインも一新された『FARO』の店内。

ファロ2018年、銀座の名店『ファロ資生堂』が、すべてを一新し『FARO』としてリニューアル。

音楽やアートが世相を反映するように、レストランもまた時代に応じて変わっていくもの。新生『FARO』のリニューアルの報せは、そんな思いを抱かせます。2001年、資生堂パーラーが運営する初のイタリアンレストランとして誕生し、日本におけるイタリアンシーンを牽引してきた『ファロ資生堂』。食の都・銀座で確固たる地位を築いていたその名店が今、あえて変わることを選んだのです。「ここは資生堂パーラーの創業の地。最初は"ソーダファウンテン"、次は洋食。私達はいつでも時代の最先端で、新しいことにチャレンジしてきましたから」資生堂パーラー社長・鈴木真氏は、こともなげにそう語りました。

イタリアから能田耕太郎シェフを招聘した新生『FARO』を端的な言葉で表現するならば、”世界基準”。しかしそれは、均一化されたグローバリズムに向かうのではありません。反対に、日本の知られざる食材、食文化、器、人物に光を当て、食事という体験を通してその魅力を伝えることを目指しているのです。「世界中から人々が訪れる銀座という地で、日本という国のポテンシャルを体感していただく。その濃密な時間を過ごしたゲストがスピーカーとなり、その体験を広める。これから求められるのは、そういう意味での世界基準です」と鈴木氏。

能田氏もその思いに共感して、このオファーを受けることを決めたといいます。「日本には素晴らしいレストランがたくさんあり、同じことをやっては意味がありません。必要なことは挑戦。幸いここは大きなレストランだけに、地方の小さな生産者に目を向けることができます。それは知られざる各地の魅力を、レストランという場を通して伝えることができるということです」と能田シェフ。生産量や流通ルート、あるいは価格の問題から、市場には出回りにくい食材。それらを根気強く探し、世界企業である『資生堂』、そして世界を知る料理人である能田シェフのフィルターを通して発信する。その作業はつまり、日本の魅力を再編集して伝えること。それこそが『FARO』の目指す世界基準の本質なのです。

食材だけにとどまらず、組織や器、空間、そして個性的な料理人から労働環境にいたるまで、生まれ変わった『FARO』のイノベーションを支える要素は、多岐にわたります。そこで、今回から『FARO』のビジョンを紐解き、やがて世界に轟くであろうその魅力に迫ります。

新生『FARO』を象徴するある日のディナーの前菜。ギミックのある器でサプライズとともに届けられる。

ある日のディナーのメインは「小鳩のロースト」。黒にんにくの濃厚なソースが小鳩を引き立てる。

『FARO』の展望と思いを語る資生堂パーラー・鈴木真社長。

ファロまさかの食材を美しきデザートに仕立てる。シェフパティシエ・加藤峰子という個性。

『FARO』のテーブルには、メニューがありません。あるのは使用する食材の名がずらりと書き出された一枚の紙のみ。数えてみれば、その数およそ150種類。能田耕太郎シェフをはじめ、スタッフそれぞれが日本全国津々浦々をめぐり、生産者と話しながら見つけた食材たちです。その膨大な食材表を前に、ゲストの頭にはさまざまな想像が浮かぶことでしょう。そして料理が登場し、リストの中の食材と思わぬ形で対面することで、想像がうれしい驚きに変わるのです。「常に大切にしているのは、サプライズ。おいしいだけではなく、楽しいレストランにしたい」能田シェフのそんな思いを形にしたプレゼンテーションです。

さらに食材リストをつぶさに眺めると、フルーツやチョコレート、無数のハーブなど、スイーツの素材が目に留まることでしょう。そう、食材の視点から『FARO』を紐解くとき、欠かせぬ人物が厨房にいるのです。それはシェフパティシエの加藤峰子氏。食材を通して地域の知られざる魅力を掘り起こす――そんな『FARO』の思いを体現する人物です。

幼い頃から美術や建築、デザインに興味があり、イタリアで大学を卒業した後はファッション誌『VOGUE』の編集に携わっていた加藤氏。しかし憧れだった“ものづくり”への思いが募り、イタリアのケーキショップに転職することを決意します。面接の日、加藤氏は独学で作り上げた6個のお菓子を自作の箱に包み、店を訪れました。思い立ったらまず、行動。「これならどうだ」という熱意が伝わり、未経験の加藤氏は即採用となりました。

やがて経験を積むうちに、今度は洗練された素材の味を追求すべくレストランへの転職を目指した加藤氏。ミラノにあるブルガリホテルのレストランに、思いを綴った手紙を送りました。さらにモデナの「オステリア・フランチェスカ―ナ」の扉をたたく際には、ポスターほどのサイズがある特大の自作履歴書を、同じく特大の封筒に入れて。一事が万事、その調子。破天荒で、行動的で、しかしいつでも真っ直ぐに目標を見据えている。それが加藤峰子という人物の本質であり、パティシエとしての魅力でもあるのです。

その後も名だたる星付き店でペイストリーシェフを勤めた加藤氏。日本への帰国を考えた2018年、もちろん数々のレストランからオファーが届きます。しかしそのすべてを断り、『FARO』への入店を決めたのです。その理由を尋ねると「どんなレストランかではなく、そこでどんな目標を持てるか。土地を知り、食材を知る。そんな私自身の夢と、『FARO』や能田シェフの思いが重なったんです」と加藤氏。日本という地を知り、新たな食材と出会いたい。そんな自身の夢の第一歩を、この『FARO』に託したのです。

シェフパティシエ・加藤峰子氏。繊細な発想と大胆な技で、独自のデザートを生み出す。

加藤氏が「即興で作った」というタマネギのデザート。イタリアの田舎町で食べた焼菓子がモチーフ。

奈良県山口農園から届く40種ものハーブを使ったプティフール。山の風景そのものを思い起こさせる。盛り付けはスタッフ総出で。

ファロ危機に瀕したみかんを買い上げ、一皿のデザートに。

加藤氏の食材への思いは、ある日のディナーデザート「明浜みかんが忘れた色」に象徴されます。愛媛県明浜町狩浜は、昔ながらの段々畑が残り、国の重要文化的景観にも選定される地域。しかし今年の台風被害により、同地区のみかん畑は崩落し、壊滅的な被害を被ってしまったのです。

その状況を知るや否や、加藤氏は規格外の、つまり味は良くとも形が整わず市場に流せないみかんを、まるごと全部引き取ってしまったのです。「だってもったいないじゃないですか」自然体の加藤氏は、淡々と語ります。しかしその言葉の端々から、景観の保護や復興への思いが垣間見えるのです。「あんなにきれいな場所がなくなってしまうのは、日本の損失ですよ」

もちろんただ買い上げるだけではなく、明浜みかんのおいしさとストーリーを広く伝えるまでが、料理人としての加藤氏の仕事。加藤氏はなんと、みかんだけで構成するデザートを作り上げました。下にはみかんと発酵カカオ、カカオとみかんのクランブルを敷き、シチリアの黒オリーブで味に変化を加えます。二酸化炭素を加えたみかん果汁とチョコを合わせたシャーベット、焼いたグラサージュ、みかんとレモンのメレンゲ、バジルとオレガノを加えたみかんのゼリー。香りが媒体となり全体を統一し、食感と甘みのグラデーションで奥行きを加える。言葉にするとシンプルですが、このデザートには加藤氏の技と経験、そして複雑な計算が潜んでいます。

「母乳で育つ人間の脳には、糖分を快楽として感じる機能があります。しかし糖の快楽だけでは思考が平坦になってしまいますので、香りを媒体とすること、味に変化をつけることでさらなる感動を作り出します」そう語る加藤氏。一見、自由奔放にみえる加藤氏ですが、その言葉には食への深い洞察と科学的な視点が潜んでいました。

「明浜みかんが忘れた色」。みかんを思わせない黒いビジュアルは、ロシアの芸術家・マレーヴィチの絶対主義のオマージュ。

偶然性によりアーティスティックな模様を生み出すのも、芸術にも造詣が深い加藤氏らしさ。

ファロ人を幸せにするデザートを目指す、加藤氏の挑戦。

加藤氏のデザートにはいつも挑戦と研究、イノベーション、そして食材への愛が凝縮されています。
たとえば料理との橋渡しとなる一品目のプレデザートに、タマネギや根セロリなどの食材を取り入れます。これは料理からデザートへの移行が自然になるための工夫。普通はデザートに使用しない食材であっても、まずは試してみることが加藤氏の信条です。

あるいはこの秋にはモミジの葉をそのまま使ったデザートが登場し、ゲストを驚かせました。「モミジが食べられるって、私も知らなかったんです。試食してみたら青い葉は柑橘のような酸味があり、紅葉した赤い葉は紅茶のような香りがありました。だからその驚きをそのままデザートにしました」加藤氏はそう振り返ります。「日常的には食材としての価値を置かれないものでも、多くの可能性を秘めています」との言葉通り、廃棄される予定だった規格外のみかんや、落ち葉となり枯れていくだけのモミジを見事なデザートに変える加藤氏。

「食は人を幸せにするもの」取材の間、加藤氏は繰り返しそう語りました。食べる人はもちろん、食材を作る生産者も、作る料理人も、皆幸せになるようなデザート。これまでデザートに使われなかったような食材を見つけ出し、そのバックグラウンドを理解し、生産者の思いを汲み、エッセンスを抽出し、まったく未知のデザートとして構築する。それは知られざる日本の魅力を拾い集め新たな価値を生み出すこと、つまり日本を再編集することに他なりません。そして、これこそスタッフ全員の思いを象徴する『FARO』の在り方そのものでもあるのです。


(supported by 資生堂パーラー)

バースデーケーキとして作った「ピスタチオのパルフェ」。盆栽のような和風の見た目と、クリームを軸とした味のギャップで驚かせる。

米だけで作ったランチのデザート「米の未来」。米のソース、米のマシュマロなどが重層的な味わいを生む。

紅茶と根セロリ、国産ベルガモットを使うプレデザート「根セロリと紅茶」。

1999年に渡伊。2007年までイタリアの名店で修業を積み、その後、現地でシェフとして活躍。2013年、「ノーマ」(コペンハーゲン)など最高峰の北欧料理店での研修を経て再びイタリアへ。自身が共同経営するローマの「bistrot64」では、ネオビストロのスタイルで人気を支える。2016年11月『ミシュランガイド・イタリア 2017』 にて二度目の一ツ星を獲得。イタリア料理のシェフとして二度の評価を得るに至った初の日本人となる。2017年には「テイスト・ザ・ワールド(アブダビ)」の最終コンペティションにローマ代表として出場し優勝。「ファロ」では、風情や旬を大切にする日本文化の中、イタリアで培ってきたことを東京・銀座で発揮し、自身の感性とチーム力で“お客さまが楽しむレストラン”を創り上げていく。

デザイン、美術、現代アートやモノづくりに興味を持ち、食の分野からパン・お菓子の道を選び進む。約10年間、「イル ルオゴ ディ アイモ エ ナディア」「イル・マルケジーノ」「マンダリンオリエンタルミラノ」(ミラノ)、「オステリア・フランチェスカーナ」(モデナ)など、イタリアの名立たるミシュラン星獲得店にてペイストリーシェフを勤める。「エノテカ・ピンキオーリ」(フィレンツェ)のチョコレート部門を経験。「ファロ」では、"旅するように特別な体験として脳裏に残るようなレストラン”を目指し、日本の自然や和のハーブをリスペクトしたデザートを提案。自家製酵母など原材料からこだわり、メニュー開発に取り組む。

住所:〒104-0061 東京都中央区銀座8丁目8−3 東京銀座資生堂ビル10階 MAP
電話:03-3572-3911
FARO HP:https://faro.shiseido.co.jp/

生まれ変わった『FARO』のビジョン。知られざる日本を発信することで、次世代の世界基準を目指す。[FARO/東京都中央区]

鮮やかなスカイブルーを基調に、デザインも一新された『FARO』の店内。

ファロ2018年、銀座の名店『ファロ資生堂』が、すべてを一新し『FARO』としてリニューアル。

音楽やアートが世相を反映するように、レストランもまた時代に応じて変わっていくもの。新生『FARO』のリニューアルの報せは、そんな思いを抱かせます。2001年、資生堂パーラーが運営する初のイタリアンレストランとして誕生し、日本におけるイタリアンシーンを牽引してきた『ファロ資生堂』。食の都・銀座で確固たる地位を築いていたその名店が今、あえて変わることを選んだのです。「ここは資生堂パーラーの創業の地。最初は"ソーダファウンテン"、次は洋食。私達はいつでも時代の最先端で、新しいことにチャレンジしてきましたから」資生堂パーラー社長・鈴木真氏は、こともなげにそう語りました。

イタリアから能田耕太郎シェフを招聘した新生『FARO』を端的な言葉で表現するならば、”世界基準”。しかしそれは、均一化されたグローバリズムに向かうのではありません。反対に、日本の知られざる食材、食文化、器、人物に光を当て、食事という体験を通してその魅力を伝えることを目指しているのです。「世界中から人々が訪れる銀座という地で、日本という国のポテンシャルを体感していただく。その濃密な時間を過ごしたゲストがスピーカーとなり、その体験を広める。これから求められるのは、そういう意味での世界基準です」と鈴木氏。

能田氏もその思いに共感して、このオファーを受けることを決めたといいます。「日本には素晴らしいレストランがたくさんあり、同じことをやっては意味がありません。必要なことは挑戦。幸いここは大きなレストランだけに、地方の小さな生産者に目を向けることができます。それは知られざる各地の魅力を、レストランという場を通して伝えることができるということです」と能田シェフ。生産量や流通ルート、あるいは価格の問題から、市場には出回りにくい食材。それらを根気強く探し、世界企業である『資生堂』、そして世界を知る料理人である能田シェフのフィルターを通して発信する。その作業はつまり、日本の魅力を再編集して伝えること。それこそが『FARO』の目指す世界基準の本質なのです。

食材だけにとどまらず、組織や器、空間、そして個性的な料理人から労働環境にいたるまで、生まれ変わった『FARO』のイノベーションを支える要素は、多岐にわたります。そこで、今回から『FARO』のビジョンを紐解き、やがて世界に轟くであろうその魅力に迫ります。

新生『FARO』を象徴するある日のディナーの前菜。ギミックのある器でサプライズとともに届けられる。

ある日のディナーのメインは「小鳩のロースト」。黒にんにくの濃厚なソースが小鳩を引き立てる。

『FARO』の展望と思いを語る資生堂パーラー・鈴木真社長。

ファロまさかの食材を美しきデザートに仕立てる。シェフパティシエ・加藤峰子という個性。

『FARO』のテーブルには、メニューがありません。あるのは使用する食材の名がずらりと書き出された一枚の紙のみ。数えてみれば、その数およそ150種類。能田耕太郎シェフをはじめ、スタッフそれぞれが日本全国津々浦々をめぐり、生産者と話しながら見つけた食材たちです。その膨大な食材表を前に、ゲストの頭にはさまざまな想像が浮かぶことでしょう。そして料理が登場し、リストの中の食材と思わぬ形で対面することで、想像がうれしい驚きに変わるのです。「常に大切にしているのは、サプライズ。おいしいだけではなく、楽しいレストランにしたい」能田シェフのそんな思いを形にしたプレゼンテーションです。

さらに食材リストをつぶさに眺めると、フルーツやチョコレート、無数のハーブなど、スイーツの素材が目に留まることでしょう。そう、食材の視点から『FARO』を紐解くとき、欠かせぬ人物が厨房にいるのです。それはシェフパティシエの加藤峰子氏。食材を通して地域の知られざる魅力を掘り起こす――そんな『FARO』の思いを体現する人物です。

幼い頃から美術や建築、デザインに興味があり、イタリアで大学を卒業した後はファッション誌『VOGUE』の編集に携わっていた加藤氏。しかし憧れだった“ものづくり”への思いが募り、イタリアのケーキショップに転職することを決意します。面接の日、加藤氏は独学で作り上げた6個のお菓子を自作の箱に包み、店を訪れました。思い立ったらまず、行動。「これならどうだ」という熱意が伝わり、未経験の加藤氏は即採用となりました。

やがて経験を積むうちに、今度は洗練された素材の味を追求すべくレストランへの転職を目指した加藤氏。ミラノにあるブルガリホテルのレストランに、思いを綴った手紙を送りました。さらにモデナの「オステリア・フランチェスカ―ナ」の扉をたたく際には、ポスターほどのサイズがある特大の自作履歴書を、同じく特大の封筒に入れて。一事が万事、その調子。破天荒で、行動的で、しかしいつでも真っ直ぐに目標を見据えている。それが加藤峰子という人物の本質であり、パティシエとしての魅力でもあるのです。

その後も名だたる星付き店でペイストリーシェフを勤めた加藤氏。日本への帰国を考えた2018年、もちろん数々のレストランからオファーが届きます。しかしそのすべてを断り、『FARO』への入店を決めたのです。その理由を尋ねると「どんなレストランかではなく、そこでどんな目標を持てるか。土地を知り、食材を知る。そんな私自身の夢と、『FARO』や能田シェフの思いが重なったんです」と加藤氏。日本という地を知り、新たな食材と出会いたい。そんな自身の夢の第一歩を、この『FARO』に託したのです。

シェフパティシエ・加藤峰子氏。繊細な発想と大胆な技で、独自のデザートを生み出す。

加藤氏が「即興で作った」というタマネギのデザート。イタリアの田舎町で食べた焼菓子がモチーフ。

奈良県山口農園から届く40種ものハーブを使ったプティフール。山の風景そのものを思い起こさせる。盛り付けはスタッフ総出で。

ファロ危機に瀕したみかんを買い上げ、一皿のデザートに。

加藤氏の食材への思いは、ある日のディナーデザート「明浜みかんが忘れた色」に象徴されます。愛媛県明浜町狩浜は、昔ながらの段々畑が残り、国の重要文化的景観にも選定される地域。しかし今年の台風被害により、同地区のみかん畑は崩落し、壊滅的な被害を被ってしまったのです。

その状況を知るや否や、加藤氏は規格外の、つまり味は良くとも形が整わず市場に流せないみかんを、まるごと全部引き取ってしまったのです。「だってもったいないじゃないですか」自然体の加藤氏は、淡々と語ります。しかしその言葉の端々から、景観の保護や復興への思いが垣間見えるのです。「あんなにきれいな場所がなくなってしまうのは、日本の損失ですよ」

もちろんただ買い上げるだけではなく、明浜みかんのおいしさとストーリーを広く伝えるまでが、料理人としての加藤氏の仕事。加藤氏はなんと、みかんだけで構成するデザートを作り上げました。下にはみかんと発酵カカオ、カカオとみかんのクランブルを敷き、シチリアの黒オリーブで味に変化を加えます。二酸化炭素を加えたみかん果汁とチョコを合わせたシャーベット、焼いたグラサージュ、みかんとレモンのメレンゲ、バジルとオレガノを加えたみかんのゼリー。香りが媒体となり全体を統一し、食感と甘みのグラデーションで奥行きを加える。言葉にするとシンプルですが、このデザートには加藤氏の技と経験、そして複雑な計算が潜んでいます。

「母乳で育つ人間の脳には、糖分を快楽として感じる機能があります。しかし糖の快楽だけでは思考が平坦になってしまいますので、香りを媒体とすること、味に変化をつけることでさらなる感動を作り出します」そう語る加藤氏。一見、自由奔放にみえる加藤氏ですが、その言葉には食への深い洞察と科学的な視点が潜んでいました。

「明浜みかんが忘れた色」。みかんを思わせない黒いビジュアルは、ロシアの芸術家・マレーヴィチの絶対主義のオマージュ。

偶然性によりアーティスティックな模様を生み出すのも、芸術にも造詣が深い加藤氏らしさ。

ファロ人を幸せにするデザートを目指す、加藤氏の挑戦。

加藤氏のデザートにはいつも挑戦と研究、イノベーション、そして食材への愛が凝縮されています。
たとえば料理との橋渡しとなる一品目のプレデザートに、タマネギや根セロリなどの食材を取り入れます。これは料理からデザートへの移行が自然になるための工夫。普通はデザートに使用しない食材であっても、まずは試してみることが加藤氏の信条です。

あるいはこの秋にはモミジの葉をそのまま使ったデザートが登場し、ゲストを驚かせました。「モミジが食べられるって、私も知らなかったんです。試食してみたら青い葉は柑橘のような酸味があり、紅葉した赤い葉は紅茶のような香りがありました。だからその驚きをそのままデザートにしました」加藤氏はそう振り返ります。「日常的には食材としての価値を置かれないものでも、多くの可能性を秘めています」との言葉通り、廃棄される予定だった規格外のみかんや、落ち葉となり枯れていくだけのモミジを見事なデザートに変える加藤氏。

「食は人を幸せにするもの」取材の間、加藤氏は繰り返しそう語りました。食べる人はもちろん、食材を作る生産者も、作る料理人も、皆幸せになるようなデザート。これまでデザートに使われなかったような食材を見つけ出し、そのバックグラウンドを理解し、生産者の思いを汲み、エッセンスを抽出し、まったく未知のデザートとして構築する。それは知られざる日本の魅力を拾い集め新たな価値を生み出すこと、つまり日本を再編集することに他なりません。そして、これこそスタッフ全員の思いを象徴する『FARO』の在り方そのものでもあるのです。


(supported by 資生堂パーラー)

バースデーケーキとして作った「ピスタチオのパルフェ」。盆栽のような和風の見た目と、クリームを軸とした味のギャップで驚かせる。

米だけで作ったランチのデザート「米の未来」。米のソース、米のマシュマロなどが重層的な味わいを生む。

紅茶と根セロリ、国産ベルガモットを使うプレデザート「根セロリと紅茶」。

1999年に渡伊。2007年までイタリアの名店で修業を積み、その後、現地でシェフとして活躍。2013年、「ノーマ」(コペンハーゲン)など最高峰の北欧料理店での研修を経て再びイタリアへ。自身が共同経営するローマの「bistrot64」では、ネオビストロのスタイルで人気を支える。2016年11月『ミシュランガイド・イタリア 2017』 にて二度目の一ツ星を獲得。イタリア料理のシェフとして二度の評価を得るに至った初の日本人となる。2017年には「テイスト・ザ・ワールド(アブダビ)」の最終コンペティションにローマ代表として出場し優勝。「ファロ」では、風情や旬を大切にする日本文化の中、イタリアで培ってきたことを東京・銀座で発揮し、自身の感性とチーム力で“お客さまが楽しむレストラン”を創り上げていく。

デザイン、美術、現代アートやモノづくりに興味を持ち、食の分野からパン・お菓子の道を選び進む。約10年間、「イル ルオゴ ディ アイモ エ ナディア」「イル・マルケジーノ」「マンダリンオリエンタルミラノ」(ミラノ)、「オステリア・フランチェスカーナ」(モデナ)など、イタリアの名立たるミシュラン星獲得店にてペイストリーシェフを勤める。「エノテカ・ピンキオーリ」(フィレンツェ)のチョコレート部門を経験。「ファロ」では、"旅するように特別な体験として脳裏に残るようなレストラン”を目指し、日本の自然や和のハーブをリスペクトしたデザートを提案。自家製酵母など原材料からこだわり、メニュー開発に取り組む。

住所:〒104-0061 東京都中央区銀座8丁目8−3 東京銀座資生堂ビル10階 MAP
電話:03-3572-3911
FARO HP:https://faro.shiseido.co.jp/