沖縄の離島に点在する、日本の住居における歴史的な場所。[うるま市の島々/沖縄県うるま市]

自然の洞穴を囲い込んだ「アマミチューの墓」。比嘉集落のノロ(神を拝む人)が中心になり、多くの島民が参加して五穀豊穣、無病息災、子孫繁栄を祈願する。

うるま市の島々開発の手が及ばない、本島に近い離島の古民家。

沖縄本島の中部に位置するうるま市には、海中道路でつながる4つの離島「平安座島」「浜比嘉島」「宮城島」「伊計島」に、高速艇で15分ほどの所にある「津堅島」があります。沖縄には伝統的な古民家が立ち並ぶ、「竹富島」の重要伝統的建造物群保存地区のように観光地化されている例もありますが、本島に近い所ほどそれらが失われつつあります。ところがこのうるま市の場合、本島の一部と思えるほど近い場所にありながら、沖縄の伝統的な古民家がたくさん残されているのです。

うるま市にある古民家の特徴のひとつは「石の塀」。どの家の前にも必ずあって、悪い気を止める役割があるようです。もうひとつは「シーサー」。それぞれの屋根に取りつけられており、どの家も造りやデザインが違って、それだけでも見る価値はあります。沖縄の古民家は非常に貴重な存在で、うるま市も保存に関心はあるようですが、保存に関する動きは鈍く、空き家が増えているようです。後数年したらなくなってしまうという危機的な状況にあります。

沖縄県うるま市の島々に残る古民家。本島近くに残されているのはまれで、赤瓦の屋根が特徴的。

屋根や門扉の上に取りつけられているシーサー。家ごとにデザインや設置場所が異なる。

うるま市の島々聖地に残された、守るべき沖縄の伝統建築。

離島のひとつ「浜比嘉島」には、琉球王国時代に国家的な祭事が行われ、世界文化遺産に登録された沖縄を代表する大自然の聖地「斎場御嶽(せーふぁうたき)」があります。また、宇比嘉の東海岸にはアマンジと呼ばれる岩屋の小島があり、そこには琉球開びゃく伝説で有名なアマミチューとシルミチューの男女二神を祀った、洞穴を囲い込んだ「アマミチューの墓」もあります。太平洋に面しており、小さいけれど、とても神秘的な霊場です。「浜比嘉島」の集落には沖縄料理の古民家食堂『てぃーらぶい』があり、若い店主が場を盛り上げて賑わいを生み出しています。このように、島にもっともっと若い世代やクリエイターが入ってくれるといいなと思います。減少しているとはいえ、うるま市には幸い古民家が残っています。日本の住居の歴史の中でも大事な場所であり、このままなくなってしまってはあまりに寂しいので、いい状態で残っていってほしいです。そう願ってやみません。

「浜比嘉島」比嘉地区の東海岸に突き出したアマンジと呼ばれる小島にある「アマミチューの墓」。

「浜比嘉島」で親しまれている古民家食堂『てぃーらぶい』。昔ながらの造りをそのままに沖縄料理の店を営む。

住所:沖縄県うるま市

1952 年生まれ。東洋文化研究家。イエール大学で日本学を専攻。東洋文化研究家、作家。現在は京都府亀岡市の矢田天満宮境内に移築された400 年前の尼寺を改修して住居とし、そこを拠点に国内を回り、昔の美しさが残る景観を観光に役立てるためのプロデュースを行っている。著書に『美しき日本の残像』(新潮社)、『犬と鬼』(講談社)など。