魚介フレンチの若きスペシャリスト・目黒浩太郎が挑む、魚介とアートの『DINING OUT』。[DINING OUT AOMORI-ASAMUSHI with LEXUS/青森県青森市]

29歳で独立し、約1年でミシュラン一ツ星を獲得した目黒浩太郎シェフ。

ダイニングアウト青森浅虫北の温泉地を舞台にした東北初開催の『DINING OUT』。

2019年7月6日(土)、7日(日)に開催される『DINING OUT AOMORI-ASAMUSHI with LEXUS』。初の東北開催となる今回の舞台は、青森市浅虫温泉。陸奥湾の海岸線沿いに佇む歴史ある温泉地です。そしてこの地理的特徴が、今回の『DINING OUT』の肝となりました。

そもそも海に囲まれた青森県は、国内でも屈指の魚介天国。西に暖流が北上する日本海、東に寒流の親潮が南下する太平洋、それらが混じり合う津軽海峡に、大型の内湾である陸奥湾。個性の異なる海は豊富な魚種を育み、時化の少ない湾内ではホタテなどの養殖も盛ん。これほど豊かな魚介を、料理に活かさない手はありません。

そしてもうひとつ。青森県、そして浅虫温泉は数々の偉大な芸術家、文豪、アーティストを輩出したアート県でもあります。土地に眠る魅力を発掘し、新たな価値を創出する『DINING OUT』には、この地に受け継がれるアート魂も大切な要素でした。そこで設定されたテーマは「Journey of Aomori Artistic Soul」。料理を通して、青森に息づく芸術精神を紐解くことを目指します。

青森県の魚介を活かし、青森県の芸術を紐解く。そんな『DINING OUT』の新たな挑戦、担当するシェフはもうあの人しかいません。

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ダイニングアウト青森浅虫料理人を目指した少年が、魚介フレンチに目覚めるまで。

魚介とアート。この概要が決まった時点で、目黒浩太郎シェフが選ばれるのはもはや必然でした。自身の店『Abysse』の意味は、深海。日々入れ替わる魚介の本質を見抜き、その魅力を本場仕込みの確かな技で昇華する、魚介フレンチのスペシャリストです。
そしてこだわり抜いた器や繊細な盛り付けはもちろん、インテリアや調光、サービスも含めた空間すべてで表現する料理は、いわばアート。今回のテーマにこれほどふさわしいシェフは少ないでしょう。そこで今回は、そんな目黒シェフのうちに秘めた思いを掘り下げてみます。

青森県に降り立った目黒シェフの風貌は、スマートでハンサムな“今どきのお兄さん”。人当たりも柔らかく、気難しい雰囲気はありません。しかし青森県のアートと食材を見て回るうちに、その視線に、生産者に投げかける質問に、その言葉の端々に、料理人としてのこだわりと矜持が垣間見えました――。

目黒シェフは1985年生まれ。祖父が日本料理の料理人、母親が栄養士だったため、自然な流れで料理人を目指すようになったといいます。料理専門学校を出て、都内のフランス料理店で修業。その後渡仏し、マルセイユの三ツ星店『ル・プティ・ニース』に入ったことが、その後の道を決定づけました。

「実は自分から望んで魚介フレンチを選んだわけではありません。たまたまマルセイユでの修業先が魚介に強い店だったんです。季節どころか日によって、時間によってさえも食材の特徴が変化する魚介の料理にゴールはありません。それを追求し続けるうちに、自然と魚介専門になっていました」と目黒シェフ。ありえないほど高い場所に目標を定め、それをストイックに追求することで、自然と進むべき道が決まったのでしょう。
その後、フランスから帰国し、品川の名店『カンテサンス』の門を叩きます。岸田周三シェフの元でさらに技術を磨きながら「30歳までに独立する」ことを夢見ながら修業を続けます。

『カンテサンス』で2年半を過ごし、若くしてスーシェフまで任されるほどに。そして、兄貴分と慕う川手寛康シェフ(『DINING OUT MIYAZAKI with LEXUS』を担当)の店『フロリレージュ』の移転に伴い、2015年その跡地に『Abysse』を開店。その時、目黒シェフ29歳。かねてからの夢を実現したのです。

しかし目黒シェフにとって開店はゴールではなく、スタート。その後、『Abysse』は開店1年足らずでミシュラン一ツ星を獲得、さらに2019年には店を代官山に移し、新たな挑戦を続けます。進化を止めることのない若きシェフ。その次なるステップが、今回の『DINING OUT AOMORI-ASAMUSHI with LEXUS』にあるのです。

『ル・プティ・ニース』の修行時代、このお店との出合いが現在の「abysse」のテーマに続いている。

料理人だった祖父の背中に憧れたという目黒シェフ。幼い頃からの思いを実現した。

初めて訪れる青森で、名所や旧跡を巡りながら青森の歴史や地域性をインプットした。

視察で巡った美術館などのアートスポットも、シェフのインスピレーションの源泉に。

ダイニングアウト青森浅虫2回目の『DINING OUT』だからわかる難しさと楽しさ。

2016年、広島県尾道市で開催された『DINING OUT ONOMICHI with LEXUS』。その会場の厨房には、目黒シェフの姿がありました。尾道の『DINING OUT』は、レストランプロデューサー・大橋直誉氏の元に6名の気鋭のシェフが集った会。そのとき、チームの一人として挑んだ経験があるからこそ、今回への思いもひとしお。一度体験したからこそ、その素晴らしさと同時に、難しさも感じていたのです。

「ずっとやりたいと思っていました。でも一昨年の自分にはまだ早かった。去年の自分はできたかもしれませんが、まだ迷いがあったと思います。でも今の自分ならば間違いなくできる。野外でやる意味、地方でやる意味、チームで挑む意味。そういうことも含めて、出し切れる自信があります」

『DINING OUT』を「地域のためではあるけれども、料理人側にも大きな収穫がある」と言い切る目黒シェフ。生産者、スタッフ、さまざまな協力者。数多くの現地の方と力を合わせ、新しい物語を作ること。その意義、そして何よりその楽しさを誰よりも感じていたのです。

2016年の『DINING OUT ONOMICHI』に参加した目黒シェフ。

ダイニングアウト青森浅虫毎年進化を続ける魚介が主役の料理たち。

目黒シェフにはスペシャリテがありません。理由は2つ。ひとつはもちろん、魚介という自然が相手のため年間通して同じ料理を提供することができないから。そして2つ目の理由は、目黒シェフ自身が進化を続けているからです。

「たとえば穴子なら、今までは天火で焼いていました。その良さを残しつつ、もっと香ばしさを出したくなり今年は炭火に変えました。いつでもその時考えうる最高のものを出していますが、やりながら湧いたアイデアや改善点を、同じ魚介の次の旬のときに取り入れてみるのです」

小田原の大イサキは昨年知った素材。イサキの独特な香りに山菜の苦味や旨みを合わせました。山菜に合わせた緑色のソースとピスタチオを添えた一皿は、今年が初めてのお披露目です。

初夏が旬のトリ貝は、昨年は貝のスープとハーブを合わせていましたが、今年はじゅんさいと煎茶のソースで。「トリ貝は見た目に反して淡白な味。すっきりとした煎茶と合わせて、さっぱりとした味と季節感を表現しています」と目黒シェフ。

この季節感の表現もまた、目黒シェフの持ち味のひとつ。「見ただけでどの季節かわかるような料理」、その表現は日本料理と通じるところがあるかもしれません。

昨年出合い「イサキの旨さを再発見した」という小田原産大イサキの一皿。

煎茶、じゅんさいと合わせたトリ貝。統一感のある色彩も、目黒シェフらしい。

進化し続けるからこそ、同じ料理は登場しない。それが『Abysse』の持ち味。

ダイニングアウト青森浅虫器や空間も含めて魅せる魚介のアーティスト。

素材に同系色のソースを合わせるなど、料理の色彩、形も重視する目黒シェフ。もちろん、そのこだわりは器にも及びます。「器は料理の一部というくらい本当に大切です。店では作家さんにイメージを伝えて作ってもらっています」。それは色や形や厚みや手触りだけでなく、サイズも大切な要素。「コースの中で緩急をつけるために、皿のサイズも微妙に変えたい。そうするとやはり既成品では足りなくなります」といいます。その色彩感覚や造形への追求はいわばアーティストの領域です。

さらに目黒シェフの思いは器を越えて広がります。「料理は皿の上にあるだけではありません。テーブルの上にあり、グラスの隣にあり、レストランという空間にある。器が料理の一部であるのと同様、料理はレストランの一部というわけです」そう話す目黒シェフ。レストランという空間を総合的に見て、料理を組み立てるのが目黒シェフのやり方なのです。

ならば『DINING OUT』という野外では、空間をどう捉えるのか。目黒シェフは青森という空間的な広がりに、歴史や伝統という時間的な積み重ねを見つめ、考えます。「もちろん主役は魚介。それは揺らぎません。そこに青森らしさをどう加えていくか。今回初めて青森を訪れ、いろいろな場所を訪れ、いろいろな方と話し、その方法が少しずつ見えてきました」そう目を輝かせた目黒シェフ。魚介を掘り下げ、伝統を取り入れ、色彩を切り取る若き才能。その料理の全貌が明らかになるまであと少しです。

深海を意味する『Abysse』の店内。窓のないこの空間も、料理を味わうための要素。

作家に特注する器は、サイズを細かく指定。卓上での器の存在感まで計算に入れる。

『Abysse』には“深海”のほかに「奥深い」という意味も。魚料理の奥深さを表現している。

1985 年、神奈川県生まれ。祖父は和食の料理人、母は栄養士とい う環境で育つ中で自然と料理人を志す。服部栄養専門学校を卒業後、 都内複数の店で修業後、渡仏。フランス最大の港町マルセイユのミシ ュラン三ツ星店「Le Petit Nice」へ入店し、魚介に特化した素材の 扱いやフランス料理の技術を習得。帰国後には日本を代表する名店 「カンテサンス」にて、ガストロノミーの基礎ともなる、食材の最適 調理や火入れなどさらに研鑽を積んだ。2015 年、「abysse」をオープ ン。日本で獲れる世界トップクラスの魚介類を使用し、魚介に特化し たフランス料理を提供し、ミシュラン東京では一つ星を獲得している。
abysse HP:https://abysse.jp/