豊かな水と無数の巨樹が描く原始の風景。イルカだけではない、美しき自然の島・御蔵島。[東京“真”宝島/東京都 御蔵島]

東京"真"宝島OVERVIEW

三宅島の南約19kmの洋上に浮かぶ、お椀を伏せたような形の丸い島。海辺からすぐに急峻な山が切り立つ独特の地形から、船の就航率は夏で8割、冬で3割強。そのアクセスの難しさから、かつては「月より遠い」とまで言われていました。

そんな御蔵島には近年、年間7000人から8000人の観光客が訪れます。その大半の目的は、イルカ。御蔵島の周辺には150頭ほどのミナミハンドウイルカが生息し、イルカウォッチングやイルカとともに泳ぐドルフィンスイムが楽しめます。だから御蔵島の存在を知る人にとっても、その印象はほぼ“イルカの島”となっています。

1990年代前半から突如始まったイルカブームは、島民の生活を変えました。観光客が増え、活気に包まれ、1970年代には200人以下まで減っていた人口も約320人まで増えました。島民も、基本的にはその状況を歓迎しています。しかし、好況に浮かれ、ただ無計画に観光客を受け入れないのが、御蔵島らしさなのです。
御蔵島にある宿は、村営バンガローを合わせて7軒。島を訪れるにはまず宿を抑えることが先決。ただし予約受付開始とともに満室となり、ようやく部屋を押さえても船が出ない可能性もある。不便な状況ではありますが、結果的にこの“行きにくさ”が自然を守ることに繋がったのも事実。現在は新たな桟橋が建設中で、やがて就航率の問題は改善されるかもしれませんが、この守られてきた自然は、今もこれからも御蔵島の財産です。

海はもちろん、山に目を向けてみても、自然の美しさは同様。あちこちから湧き出す清冽な水、しっとりと湿った森、圧倒的な存在感を誇る巨樹、無数のオオミズナギドリ。そのすべてが御蔵島の人々が守り、未来へと繋げようとする財産なのです。

幸運にも御蔵島に行くチャンスを掴んだ人は、ぜひ考えてみてください。樹齢1000年を越える木が、なぜこれほど生えているのか。オオミズナギドリが、有人島である御蔵島でなぜこれほど繁殖するのか。広い海を泳ぐイルカたちは、なぜ御蔵島周辺にとどまっているのか。その意味を感じ取れたとき、御蔵島の自然や文化はより深く心に刻まれることでしょう。

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世界に目を向けて、改めて問う『DINING OUT』の意義。[DINING OUT RYUKYU-URUMA with LEXUS/沖縄県うるま市]

『DINING OUT RYUKYU-URUMA with LEXUS』に関わった5人の対談が行われた。左から、『料理通信』編集主幹・君島佐和子氏、コラムニスト・中村孝則氏、ハレクラニ沖縄セールス&マーケティング部部長・市川明宏氏、レクサスグローバルブランディングマネージャー・関根美香氏、『DINING OUT』総合プロデューサー・大類知樹氏。

ダイニングアウト琉球うるま沖縄に残る「精神風土」をストーリーとして描く。

2020年1月中旬、通算18回目の開催となった『DINING OUT RYUKYU-URUMA with LEXUS』。『DINING OUT』としては初めての世界遺産・勝連城跡での開催、その舞台で腕を奮った世界から注目されるシェフユニット「GohGan」の圧巻のパフォーマンスなど、見どころも多かった今回。大いに盛り上がったプレミアムな二夜の模様を、5人の関係者で振り返りました。

大類:一昨年の11月に南城市で開催した『DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS』のときから、琉球神話になぞらえて、1回目はアマミキヨが降り立った「南城」で、今回はその後、アマミキヨとシネリキヨというふたりの神様が住んだと言われる「うるま」、と繋げていこうと。さらに今回は、中世の時代にうるまを統治していた「阿麻和利」という人に注目しました。かつては首里に反逆した悪党とされていましたが「おもろさうし」という沖縄の万葉集のような書物のなかで「肝高」(気高い、という意味)と表現されていることを後々発見されてヒーローになっていく。小国の中でポジションを得るのは大変だったはずですが、独自の文化圏をつくり、経済的に繁栄させた彼は相当レベルの高いプロデューサーだった。この人にスポットを当てることでこのエリアの精神性を表現できるんじゃないかと。

中村:一般的にはうるま市に世界遺産「勝連城跡」があるということがあまり知られていないですよね。知られていない魅力を発掘するのが『DINING OUT』の楽しみどころ。史跡としての価値、主人公のまわりを含めた歴史上の物語の面白さ。このふたつを紐解けるというのは、知的好奇心をくすぐられると思うし、あれ以上の場所もストーリー展開もなかったと思います。

君島:南城の『DINING OUT』が、私に対して与えた影響が大きかったんです。その時には沖縄に残る「精神風土」という書き方をしましたが、気候風土などと同時に、日常的に「拝む」という精神性が沖縄には確実に残っていて、非常に面白いと思いました。その後、仏教の影響が極めて希薄なのが沖縄の独自性だ、と何かに書かれているのを読み、だから神話が未だに生き続けていると理解したんです。

市川:(東京と沖縄とでは)全然人が違います。考え方も感じ方も、神話の世界やユタ信仰なんていうのも。実際カミンチューという方からお話を聞く機会もありましたが、驚くことが多いですね。

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『DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS』ではアマミキヨが降臨したと伝わる久高島にてレセプションを開催。

『DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS』では、女性の神「アマミキヨ」にちなみ、伊勢志摩観光ホテルの総料理長、樋口宏江シェフが担当した。

『DINING OUT RYUKYU-URUMA with LEXUS』のレセプションが行われた浜比嘉島のシルミチュー霊場。なにもない“洞窟”こそが神聖な場所。

世界遺産・勝連城跡を舞台にした『DINING OUT RYUKYU-URUMA with LEXUS』。地元の中高生による『肝高の阿麻和利』の演目は、今回のテーマを直にゲストへ伝えた。

ダイニングアウト琉球うるま味覚を開発し、人を変える。それがレストランの役割。

中村:ガガンシェフって賛否はいろいろ分かれるんですが、4年連続でアジアベストレストラン1位です。なぜそんなに人々を惹き付けるのかというと、ある種原始的に戻ることを彼らはやる。いまフーディといわれている人たちはある種みんな“知識武装”をしていますが、ガガンはそれを壊すんです。皿をなめあげるなんてまさにそう。さっき君島さんが話されたように、沖縄にはまだ原始的な宗教観や自然信仰が残っています。生身の人間くささや食文化が残っていて、だから僕らはそれに感動する。それが「GohGan」にフィットしたんだと思います。本来のおいしさ、根源的な喜びや楽しさを体験したい、という動きの中で彼らは評価されている。

君島:以前孝則さんと、なぜ「傳」の料理長・長谷川さん(『DINNG OUT NIHONDAIRA with LEXUS』を担当)があんなに外国人に支持されるのか話したことがあります。日本料理が積み上げてしまった格式が日本料理を分かりにくくしていますが、それよりも長谷川さんのストレートな、ほら楽しんでよ、っていう方がよほど世界の人々にフィットしたんだと。ガガンもそれと同じことが言えると思います。固有の文化によって、共有している人同士じゃないと分からないものではなく、固有の文化を取り払って感覚で面白いと思うかどうか、というところで支持をされている。
もうひとつ、ガガンの料理をいただいたのは昨日が初めてだったのですが、情報量が多く、五味がぜんぶ詰まっていて削ぎ落すところがなくて、食べていて収容しきれなくなる。それはわたしにとってはあまり快感ではないのですが、一方昨年ずっと考えていたのが、新しい味覚領域の開拓が必要だということ。アートで言えば美しさとはなにか、と絶えず問いかけていくのが役割だと思うんですね。おいしさとはなにかを問いかける役割を担うのがガストロノミー。ガガンがやっているのは、おいしさってなに?と投げかけている行為であることに間違いはなくて、彼が果たしている役割はありますよね。

大類:2013年に徳島県祖谷で開催した『DINING OUT IYA with LEXUS』を担当してくれた米田肇シェフが「レストランの役割というのは味覚を変えること。それが未来の人間を変えることに繋がっている」とまじめに言っていて。口の中に入るものが人を作るから、人間の進化に関わっているんだ、という意識なんです。シェフって料理を提供するだけじゃなくて、もっと大きな存在として成立するんだなと思いました。

市川:ゲストの方とお話をして一番クリアに分かったのは、彼らが求めているのはおいしさだけじゃないということ。ホテルはどうしてもおいしさを追求してしまうのですが、そういうコメントは衝撃だった。味覚を変えることは人類の将来を変えること、とありましたが、そういう部分にホテルとしてどう踏み込んでいくかというのは、『DINING OUT』のようなイベントの存在意義なのかなと。

関根:クルマのデザインも同じで、お客様に支持されていることをレプリケートしていたら進化がない。デザインを大きく変える際には賛否両論、分かれたんですが、そこで新しい方へ行ってみないと進化はない。全然違うアプローチでやってみるというのは、どんなことにも通じますね。
 

ガガン・アナンド、福山剛両シェフによるユニット「GohGan」。ユニット名は二人の名前を組み合わせたもの。

「傳」料理長の長谷川在佑氏は「DINING OUT NIHONDAIRA with LEXUS」で腕を振るった。

『DINING OUT IYA with LEXUS』を担当した「HAJIME」オーナーシェフの米田肇氏。

ダイニングアウト琉球うるま多様化する“人”へ、いかにアプローチしていくのか。

大類:今回、ハレクラニ沖縄さんと組んで宿泊施設と一体化したラグジュアリーパッケージつくることができたのはよかったです。

君島:いままで何度も参加して、弱いな、と思うのは宿泊ですね。地方には眠っている宝はあるんだけど、宿泊がいまひとつという所が多くて、そこが日本の弱み。だから今回はハレクラニ沖縄から会場へ、レクサスで繋いでいただいたことで、完全にすべてがひとつになりましたね。

関根:地元のドライバーの皆さまにもご協力いただいて、お客様にはショーファー付きのレクサス車両での移動を楽しんでいただきましたが、こうするとロケーションからロケーションに移動すること自体がひとつの体験になりますよね。訪れた場所の余韻を残しながら、車窓からの景色の変化を楽しむことで、旅のクオリティは更に高まると思います。

市川:実はお客様にとって、空港からホテルへ辿り着くまで、が重要なんです。そこであまりいい経験をしないと、ネガティブな状態でチェックインされるので。今回はレクサスさんがスポンサーになられていて、会場までの移動が全てレクサス車であったことも、ぜひ参加したいと思った理由のひとつ。そしてわたしたちは「ハレクラニ沖縄 エスケープ」という、ハレクラニ沖縄に泊まらないと絶対に体験できないユニークなプログラムを提供していますが、まさに今回の『DINING OUT』のコンセプトがばっちりはまりました。特に今回のお客様はお金のことは全く気にしなくて、一体どういう体験ができるのか、というところがポイントでした。ハワイでもモルディブでもバリでもなく、沖縄を選んでいただくために必要なコンテンツです。

中村:「アジアベストレストラン50」でどうすれば選ばれますか、と日本の地方のレストランや自治体の方によく相談されますが、投票者は実際に行ったことのあるレストランにしか投票できない。つまり、レストランだけではなくトータルで動線を考えないとランキングは上がらないんです。海外からのお客さんの数は増えていても金額が伸びていないことが問題で、いかに高級化するかが日本の観光業の大きな課題。それぞれの領域で、ラグジュアリーってなんなのか、なにをもって贅沢とするかを考えなければならないんです。

大類:今回、初めて海外ゲストのみの開催日を設けてみて、これまでの『DINING OUT』でも表現してきた「日本のおもてなしの精神性」は、五感を通して伝えられたと思います。一方で、海外ゲストを相手にする際は言葉や文化的背景の違いなど、難しい問題がたくさんあって。前提条件が違う人にどう日本の地域を表現していくか、というのがこれからの新たな課題ですね。

関根:今回、イギリス人の同僚と参加させていただいたのですが、歴史的な説明は同時通訳で聞いて理解した上で、勝連城跡を舞台にした地元中高生の迫力のある歌と踊りや、地元スタッフによる心のこもったサービスなど、「驚き」や「感動」は、ユニバーサルに心に響くのだと改めて感じました。

大類:『DINING OUT』をプランニングするとき、僕は東京の人間だから常によそ者なんですね。そのギャップがプランニングの起点で、そこにテーマを求めていく。日本の中でもそれが基本なのですが、これが海外のゲストが対象となったとき、そのギャップはさらに大きくなる。世界はグローバルになっていっているけど、表現者としてはどこに起点を求めればいいのかと。

関根:レクサスは90カ国以上に展開するグローバルブランドですが、レクサス独自のテースト(味)やブランドの価値観といった、人で言うとパーソナルな部分を発信し、共感いただいた方がブランドを支持してくださる。そういったものは日本とか海外とか関係なく共感いただける方には伝わるので、レクサスブランドってどういうブランドなのかというメッセージを発信し続けていくことは非常に大事だと思っています。特に今のラグジュアリーのお客様は、どういう価値観をもったブランドなのかといったような部分にものすごく興味関心を持たれている。

大類:今の時代、国別でもなく、個人にダイレクトにネットで繋がってしまえる時代。個人の強い意志や思いが大事で、個を立てていくということがブランド戦略になっていくんでしょうか。

中村:シェフもやっぱりパーソナルな、誰が作っているのか顔が見えるというのは戦略として必要な時代かなと思います。発信する方も受け入れる方も、それぞれの人がどういう価値観を持っているのか、見定めなくてはいけないですよね。海外のお客様を迎えるときに金継の器を出すとすごく喜ばれるんです。経年変化に美を求めるのは日本独自かもしれず、まだ自分たちが気づいていなかった日本のブランド価値のようなものがあるかもしれませんね。

関根:レクサス車の細部に至るまでのこだわりは、海外のお客様からは日本的と捉えられるようです。レクサスではヒューマンセンタード(人間中心)、と言っていますが、車に近づいたらウェルカムライトが点灯するなど、人間にとっての心地よさを常に追求しています。

2019年7月に開業したばかりのハレクラニ沖縄が今回のゲストの宿泊先に。

レクサスに乗って海中道路からレセプション会場のシルミチューへ。同じ道を帰ってくるときには日が暮れて、異なる景色を楽しむことができた。

外国人ゲストのみで開催する日を設けるという初の試み。客席のみならず、厨房も国際色豊かな顔ぶれとなった。

ダイニングアウト琉球うるま“サステナブル”を超えた表現が人を刺激する。

君島:ヒューマンセンタードという話がありましたが、この間弊社でSDGsのカンファレンスをやったときに、登壇してくださる方にサステナブルな取り組みをしている人が何人もいまして。農業に取り組むとこの先どうすべきか、よりクリアに見えてくるからサステナブルな方向へ進む。どちらも農業に携わっていて、共にサステナブルを語っているとしても、自然を中心に考えるか、人間を中心に考えるかで求めるものが違ってくることに気付きました。自然を中心に考えると人間なんていない方がサステナブルと言える。一方人間を中心にすると、わたしたちが存続するために地球をどうしなくてはならないか、考えていくことになる。

関根:車も同じですね。自動運転を例にとると、ただ単に人がいなくなって車だけが走っていればいいということでもなく、疲れて運転を任せたいときには自動運転、自分が運転を楽しみたい時は安心して運転できるようサポートしてくれる、というように、新しいテクノロジーは考え方によって全然違う使い方ができる。いまのお話と共通するなと思いました。

大類:日本ではサステナブルという言葉がファッション化しているところがありますが、サステナブルって言葉を使うのは、本質的な意味においては重いことですよね。

君島:いまや原稿にサステナブルって書かない日はないくらいですが、サステナブルであればOK、という雰囲気にだんだん陥ってくる。ガストロノミーと名乗っている人たちでも、確かにサステナブルな生産者の素材をつかったサステナブルな料理だけれども、これってどこにクリエイティビティがあるの?と思うような料理を提供するケースも増えている。サステナブルであればあるほど、あなたの表現はどこにあるのよ、と思えてくる。だから昨日いただいた「GohGan」の料理は、サステナブルを超えた表現として人を刺激してきて、ああ、おいしいってなんだろう、これは好きかなきらいかな、という根源的な問いかけがあったと思うんです。

皿を舐めて食べる「3種芋のリキットアップ」は、おいしさや食べることの本質を問いかけてくる一皿。

沖縄の伝統食、サーターアンダギーをパリブレスト風に飾り付けたデザートの一品。「GohGan」最後のパフォーマンスを祝うかのよう。

2006年6月、クリエイティブフードマガジン『料理通信』を創刊。編集長を経て、17年から現職。「The Cuisine Press」(Web料理通信)では、時代に消費されない本質的な「食の知」を目指して様々なコンテンツを届ける。辻静雄食文化賞専門技術者賞の選考委員。

ホテルオークラ、ハイアット、フォーシーズンズにて国内外のホテル開業を経験し、 2018年ハレクラニ沖縄へ。非日常的な体験を提供する「ハレクラニ沖縄 エスケープ」の開発に従事。

ファッションやカルチャーやグルメ、旅やホテルなどラグジュアリー・ライフをテーマに、雑誌や新聞、TVにて活躍中。2013年からは、世界のレストランの人気ランキングを決める「世界ベストレストラン50」の日本評議委員長も務める。
http://www.dandy-nakamura.com/

2006年トヨタ自動車入社。商品企画、国内営業企画を経て、12年よりLexus International所属。グローバルブランドキャンペーンやデザインイベントなど、グローバルにレクサスを発信する施策に多数関わる。

1993年、博報堂入社。2012年に新事業として『DINING OUT』をスタート。2016年4月に設立された、地域の価値創造を実現する会社『ONESTORY』の代表取締役社長。