芸術家すら敵わない、未完の作品。

石本来の自然な表情を極力残し、機能に必要な最小限の加工のみを施した「ROCK END」。その造形は、まるで山肌のよう。

Re Gallery SCEARN逆転の発想から纏わせた価値。

人が初めて使った道具は石だと言われています。獲物を捕らえるためにはどうしたらいいか。火を起こすためにはどうしたらいいか。その時、人は地にある石に道具としての用途を見出しました。つまり、人類は命を宿した時から石とともに生きてきたと言っても過言ではなく、長い歳月の中、都度、石に役割を与えてきたのです。

「Re Gallery SCEARN」が第2回目に開催する展示は、香川県高松市を拠点に活動する「AJI PROJECT」。

 「AJI PROJECTの特徴は、石という素材の特性に素直に向き合いながら、用途や表現の可能性を広げている点にあります」。そう語るのは、クリエイティブディレクターのイトウケンジ氏です。

ここに並ぶ石は、言わば、現代において役割を与えられた作品たち。表情豊かなそれらは、プロジェクト名の通り、庵治石。庵治石とは、香川県北東部に位置する高松市牟礼町、庵治地方のみで産出される石材であり、様々な時代を経て、地下深くのマグマがゆっくりと冷え固まって形成された火成岩の一種。鉱物は結晶が小さく、粒子の大きさで細目、中細目、中目、そして、鉄分を多く含んだものをサビ石と分類されています。その美しさから、多くの著名な建築物にも使用され、別名、「花崗岩のダイヤモンド」と呼ぶ人も少なくありません。

「石を素材にデザインする魅力は、何千万年という長い時間の積み重ねが生み出した、石そのものがもつ自然な表情にあります。一方で、その魅力をどこまで手を加えずに残すのか、あるいはどのような加工を施すことで、また別の魅力を引き出すことができるのか、その“加減”を見極めることは簡単ではありません。石の持つ存在感を損なわずに人の手を介在させる方法を探ること、その試行錯誤の中にこそ、石を素材にデザインする難しさと同時に、大きな楽しさがあると感じています」。

イトウ氏がデザインをする上で必ず意識していることは、石を単なる表面的なマテリアルとして扱わないこと。その石が持つ性質や特性と真っ直ぐに対峙し、無理のないかたちで役割を与えられているかどうか。この視点は、ディレクションとデザインのいずれにおいても、常に思考の原点となっています。

そんな「AJI PROJECT」の始まりは、庵治石産地の将来に対する危機感を抱いたことがきっかけでした。

「墓石需要の減少や職人の高齢化、後継者不足といった課題に直面する中、“これまでとは異なるかたちで石の価値を示していく必要がある”という想いから、2012年に商工会の支援事業のもと、有志の事業者13社が集まり、製品開発をスタートさせました。従来の用途にとらわれず、暮らしの中で使われるプロダクトを通して庵治石の新たな可能性を探ることが、AJI PROJECTの原点です」。声の主は、「AJI PROJECT」を運営する「蒼島」代表、二宮 力氏です。

「蒼島」は、2021年に「AJI PROJECT」を引き継ぐかたちとして設立。以降、ブランドを再構築し、現在は、イトウ氏をはじめ、クリエイティブアドバイザーにはダビッド・グレットリ氏も迎え、国内外のデザイナーと協働しながら、国内外に庵治石の魅力を発信し続けています。

墓石や石碑のように屋外で何十年も使われるものを作る場合、わずかな傷であっても耐候性に影響するため、無傷に近い部分だけを選んで制作する必要があります。庵治石は、もともと傷の多い地層にあるため、そのような条件を満たすものは、採石される全体のわずか数パーセント。その希少性が、石の性質と合わせて高級石材と言わしめる一方、残りの90%以上の石材は価値が高くないものとみなされ、最終的には砕かれて砂利や埋め立て材として使われてきました。「AJI PROJECT」は、その発想を逆転させ、価値の外に置かれた石を価値化させたのです。

「庵治石という素材そのものだけでなく、産地に受け継がれてきた石工の高い技術や知恵も含めて、次の世代へとつないでいくことも我々の使命だと思っています。このプロジェクトを起点に、国内外を問わず多様で質の高い協業を重ねることで、技術の向上はもちろん、若い職人の意識を高め、新たな担い手を育てていく環境を整えていきたい。ゆるやかに衰退しつつある産地を、もう一度持続的なかたちで活性化させ、次の時代へとつながる確かな土台を築いていくことを大きな目標として掲げています」と二宮氏。

そんな香川の石を語る上で避けて通れないことがあります。世界的著名な人物、イサム・ノグチ氏です。ノグチ氏もまた、庵治石の虜になったひとりであり、“石は地球の骨だ”という言葉を残しています。そのほか、流 政之氏やジョージ・ナカシマ氏の家具で知られる桜製作所、そして、猪熊弦一郎氏など、多くの芸術家や作家が香川を拠点に活動していたのは、偶然か必然か。二宮氏はこう分析します。

「世界的なアーティストたちが香川に制作拠点を置いた理由は、戦後復興期に知事となった“デザイン知事”と呼ばれた金子正則氏が、本物の芸術や建築などで香川県民の心を豊かにしたいと、自らが陣頭指揮をして働きかけた過去があるからだと思います。当時、香川の職人の高い技術力を、世界に通用するものにするために、アーティストたちと結びつけ、新しいもの作りを始めました。瀬戸内の穏やかで美しい風景だけでなく、名前は出なくとも妥協のない仕事をする職人の技も、知られざる香川の魅力のひとつではないかと思っています」。

そして、イトウ氏もまた、「ノグチ氏や流氏は、単純に石を愛したわけではないと思います。当時、熱心に香川の紹介をしてくれた金子知事や猪熊氏を信頼し、彼らに紹介された若い職人(和泉正敏)らの真摯な仕事にほれ込んで、この地を制作の場に決めたと聞いています」と加えます。

今回、「Re Gallery SCEARN」では、数ある「AJI PROJECT」の作品より、「ROCK END」を中心に展示販売。一口に庵治石と言っても、その表情はさまざまであり、代表的な細目やサビ石の中にも、色味や形状が異なり、どれ一つとして同じものはありません。

「ROCK ENDの特徴は、石本来の自然な表情をできるだけ残しながら、機能に必要な最小限の加工のみを施して製品化している点にあります。AJI PROJECTを立ち上げた最初の年に生まれたプロダクトであり、良い形や表情をもつ石を山で探すところから製作が始まることから、石そのものに対する職人の深い敬意が強く感じられる作品です。一見すると大胆な加工に見えますが、実際には細部に至るまで職人の手による丁寧な仕事が施されています。共に作り上げた職人はすでに他界されていますが、その想いは現在、息子さんによって受け継がれ、制作が続けられています」とイトウ氏。

ROCKとは、岩や石を意味しますが、それ以外にもさまざまを含み、心の支えと比喩表現されることもあります。硬い塊にどこか優しさを感じるのは、そんなせいなのかもしれません。

「すべてが一点物であるROCK ENDが数多く並ぶこの機会は極めて稀有です。ぜひ会場で実物をご覧いただき、それぞれに異なる庵治石の表情に触れていただければと思います」と二宮氏。

人が生むものは、完璧を求めますが、自然が生むものは、作意なく、言わば未完。「ROCK END」は、芸術家すら敵わない作品と言っても過言ではありません。そして、それらが連なる様は、まるで山脈のよう。そんな作品との邂逅は、遥か彼方より生き抜いた庵治石の記憶との邂逅と同義だと考えます。

山頂ならぬ、石頂からは、何が見えるのか。ぜひ、その絶景をお楽しみいただきたい。

今回の展示では、「ROCK END」にフォーカス。サイズの異なる3種をkomameとsabiの2種で展開。※写真の石の種類は、komame

「石の硬さや重さ、加工方法を制約として捉えるのではなく、発想の起点として扱い、石に最もふさわしい役割を探っています」とイトウ氏。石という素材自体が持つ個性にデザイナーのアイデアが掛け合わさることで、他にはないユニークなプロダクトやコレクションを創出する。※写真の石の種類は、sabi

Photographs:KENJI KAGAWA
Text:YUICHI KURAMOCHI

「Re Gallery SCEARN」
TEL:03-6433-5201
住所:東京都北青山3-13-7 2F
営業時間:11:00〜19:00
定休日:月曜(祝日の場合は営業)
※1Fは、「SCEARN」ウェアを展開
公式HP:https://scearn.com/
 

[ギャラリーのご案内]
展示内容:石頂 AJI PROJECT
期間:2026年2月11日(水・祝)〜